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続・愛するトメっち

1 :雪ぐま :2004/05/24(月) 06:14
またまた、お話の途中で引っ越しとあいなりました。
(うっかりしてて、1000レス埋める前に容量がいっぱいになったようです)
また雪版でお世話になります。

前々スレ、こちらです↓。
『記憶より彼方で』『かわいいあの子』『ジェラシー』『愛するトメっち』
http://mseek.nendo.net/snow/1070181553.html

前スレ、こちらです。
『続・愛するトメっち〜溺れて人魚〜』
http://m-seek.on.arena.ne.jp/cgi-bin/test/read.cgi/mirage/1074691719/

初めてご覧になっていただいた方、前々スレ>>406からお読みくださいませ。

それでは『続・愛するトメっち〜溺れて人魚〜』、続きでございます。
101 :ななしくん :2004/08/31(火) 08:05
更新乙です。
いろんな事情が絡み合ってどきどきしてます!
ハワイ行ってきました。ハワイ旅行にきた頑固夫婦のコントありましたよ^^
トメ子がそれ以上黒くなったら父ちゃん悲しいぞ!
だそうですw
102 :名無飼育さん :2004/09/13(月) 23:42
このまま気付けば倉庫逝きになってました。
なんてことになりそうな予感

ガンガレ
103 :名無飼育さん :2004/09/13(月) 23:56
>>102
まだ2週間しか経ってないのに…
104 :雪ぐま :2004/09/16(木) 19:49
97> 名無飼育さん様
あはは、テレビドラマ、いいですね〜w
そう言っていただけてうれしいです。( ^▽^)<女優開眼♪

98> オレンヂ様
あはは、あっちのスレはタイトルのわりに癒されませんしねぇw
人情派の運転手さん、雪ぐまのお気に入りのキャラです実はw

99> ピクシー様
あんまり彼女は登場しないんですが、こう、ピリッと脇でねw
雪ぐまもトメっちたちみたいに東京観光したい。(●´ー`)<道わかんねーべ。

100> 名無飼育さん様
はい、まこっちゃんを救ってくれた、あの運転手さんですw
どうやらリムジンにくら替えしたみたいですね。(●´ー`)<稼げるべ。

101> ななしくん様
わあっ!すばらしい情報、ありがとうございますっ!(感涙
それにしてもうらやましい、目の前でいしよし夫婦……。( ^▽^)人(^〜^0)

102> 名無飼育さん様
ははは……。そうならないように気をつけます。

103> 名無飼育さん様
お気遣いありがとうございます。マイペースで頑張ります。

それでは、更新にまいります。
105 :溺れて人魚 :2004/09/16(木) 19:50


ピンク色のド派手なポルシェが店の前にスウッと止まって、とっても嫌な予感がした。
なにあれ、変な車。って、ちょっとちょっとぉー、まさかまさか……

「よいしょー! 石川さん、元気ィー?」

キャアッ! やっぱりーーー!!!(泣

「て、寺田さんっ!」
「おっ、割烹着もカワイーねー。梨華ちゃん、イイワー」
「り、梨華ちゃんとかやめてくださいっ!」

なんやー、冷たいワー。傷つくワー。
なんて、ちっともへこんでなさそうにニカニカ笑った金髪男。
なによ、何しに来たのよっ。もう諦めたんじゃなかったのっ?
口をぱくぱくさせて、割烹着の裾をぎゅっと握りしめた私。
週あけてすぐ現れるなんて、反則よぉー!
106 :溺れて人魚 :2004/09/16(木) 19:51

そんな私の動揺なんてまるで気にするふうもなく、
寺田さんはスタスタとカウンターに歩み寄ってきて、
なれなれしい感じに肘をつき、私の顔をヒョイとのぞき込んだ。

「あんた、ゴッツイ女やなあ」
「な、何の話ですか?」
「シータクのチケット。請求書見てビビったわー」

やってくれるやん、あんた。
クックッと寺田さんはおかしそうに肩を揺すった。
ヤダ、さすがにちょっとやり過ぎたかしら?
私は、思わず顔をしかめる。
あれから皇居行って、国会議事堂行って、巣鴨行って、サンシャイン60行って、
都庁行って、六本木ヒルズ行って、東京タワー行って……ほんとに東京観光しまくった私たち。
いくらかかったかなんて知らないわ。
かわいい運転手さんは、「おまけしとくべー」なんて言ってくれてたけど。

「東京中まわっていいって、おっしゃったじゃないですか」
「ゆうたけど、フツーはようせんやろ?」
「それは失礼しました」

慇懃に頭を下げる。内心は、冷や汗タラ〜リ。
くうっ、さっそく文句言いに来たってわけね?
なによ、かっこつけたアンタが悪いくせにっ。
思わず身構えた私だけど、寺田さんの用件はどうやらそのことじゃないみたいだった。
107 :溺れて人魚 :2004/09/16(木) 19:51

「ま、ええわ。おたく、何がおすすめなのん?」
「は?」
「僕、お客さん」

寺田さんは、人さし指でツンと自分の鼻を指した。
ええっ、お客さん? お客さんですって?
絶句した私に、寺田さんは人懐っこい笑顔でニコニコッと笑った。
キョロッと目を見開いたその顔は、
思わず笑っちゃいそうなほど茶目っ気たっぷり。
思わずいつものクセでニコッと微笑み返しそうになって、ハッと口元をひきしめた。

ダ、ダメッ! 油断しちゃダメよ、梨華ッ!
あんたに売るものなんて何もないわよっ。
このくらいの感じでいかないと、この男、油断ならないわよっ。
……とは思うんだけどねぇ。私は小さくため息をつく。
お客さんと言われちゃうと、そうムゲにもできないのが商売人の哀しさなのよねぇ……

「……何になさいますか」
「だから、おすすめの教えてって」
「好評なのは……コロッケとか」
「じゃ、それ。今、いくつあるん?」
「え、20……27個ですね」
「じゃ、全部つつんで」

全部ぅ?
そんなに買ってどうすんの?
108 :溺れて人魚 :2004/09/16(木) 19:52

「うちの会社の子らに配るんよー。ほんとはもっと欲しいけど」
「はぁ、そうなんですか」

会社で食べるんならと、手づかみできる小さな袋も同じ数だけいれたら、
寺田さんはまあるく目を見開いて、大げさに褒めまくった。
ヘェー、石川さん気がきくねー。うちの若い子らにも見習わせたいわぁー。

調子いい。こんな気遣い、どこの店だってするわよ。
そう思いながらも、褒められると悪い気はしない自分がイヤだわ。
ほんとノセられやすいっていうか何ていうか。
ヤダヤダ、もしかして思うツボってやつじゃない?
なんかこの人、私のこと諦めてない気がする。
うわぁ、気をつけなくっちゃ……

きゅっと唇を引き締めて、無愛想にお釣りを渡した私。
寺田さんはそんな私を、またおかしそうに見た。

「あんた、ほんとオモロいよ」
「え?」
「じゃね」

ひらっと手をふって。
バルバルと個性的なエンジン音を響かせながら走り去ったピンクのポルシェ。
つむじ風みたいな去り際に呆気にとられながら、私はかなり憂鬱な気分になった。
109 :溺れて人魚 :2004/09/16(木) 19:53

どうしよう、あの人、絶対また買いにくるわ。
だけど、これじゃあ断れない。
おかしなことでも言われたら怒れるけど、
ただ、コロッケをたくさん買ってくれて、
ついでに私のことちょっとからかったり褒めたりして帰るだけだったら。

眉間に手をあてて、やれやれとため息をついた。
どうやら撃退しきれてなかったらしいと思うと、軽く目まいがしてくる。
でも、大丈夫。落ち込んだ時だって、私にはお守りがあるんだから!
割烹着のポケットからケイタイを取り出して、そっと開く。

ディスプレーがパッと明るくなって、
ビシッとキメキメのひとみちゃんが現れた。
きゃっ、カッコいいっ!
やっぱり待ち受けはひとみちゃんに限るわね。ふふっ。

ひとみちゃん、安心して。
私、あんな金髪男になんか、ぜったいに笑ったりしないからねっ。
ああ、それにしてもひとみちゃんって、どうしてこんなにきれいなんだろう?
私の恋人、なのよねぇ〜。
ほんとに恋人、なのよねぇ〜。
ほんと世界のよっすぃ〜ファンの皆さん、ごめんなさいって感じ。
でも安心して。ひとみちゃんのことは私が幸せにしますからねっ♪
110 :溺れて人魚 :2004/09/16(木) 19:53

ひとしきりデレデレして気分を変えたところで、さあ、仕事、仕事。
くるりと踵を返してキッチンへと入る。
一気に品切れしたコロッケを補充しなくっちゃ。
あと1時間もしたら、夕食にコロッケを買いにきてくれるお客さんたちがやってくる頃。
売れたのはうれしいけど、忙しくなっちゃうなぁ。

「そうだ、真希ちゃんにも、後で持ってってあげよう」

ひとみちゃんに身を寄せることになった真希ちゃん。
最初は落ち着かなさそうに小さくなってたけど、一晩泊まったら慣れたみたいで、
昨日の夜は、ひとみちゃんと一緒にゲームをしてはしゃいでた。
お嬢様の家出に大パニックに違いない綾小路家のことを思うとはらはらするけど、
妙に平然としてる真希ちゃんの様子を見てると、
なんかただ遊びに来てるだけみたいな気もするから不思議。

「なんか、かわいいのよねー」

ふにゃあっとしてて。
時々、窓の外を眺めてボーッとしてて。
その様子は、やっぱり毛並みのいい家猫みたい。
何を考えてるかわからなくって、でもどことなく物憂げな瞳にちょっと切なくなる。
かわいくて、でも迂闊に触れられない、気位の高そうな寂しい横顔。
あれはやっぱ紺ちゃんのことを考えてるのかしらね……
そんなことを思いながら、グツグツとじゃがいもを茹でていたら。
111 :溺れて人魚 :2004/09/16(木) 19:54

「あ、あの……」
「はい、いらっしゃいませぇっ」

笑顔でカウンターを振り返って、心の底からギョッとした。
お客さんは、なんとメイド服姿の紺ちゃん。
寺田さんとは違った意味で、背中にサーッと冷や汗が流れた。

「あ、こ、紺ちゃん、いらっしゃ〜い。珍しいね〜?」

しまった。噛んだわ……
焦りながらも、頬に特上の笑顔を貼りつけた私。
紺ちゃんは、潤んだ上目遣いで私のことをジッとうかがった。

「あの、ごめんなさい、お買い物じゃなくて」
「なあにぃ?」
「………真希様のことなんですけど」

きたっ!
私はニッコリ笑ったまま、軽ぅく小首をかしげた。
うーん、我ながら演技派だわ。
112 :溺れて人魚 :2004/09/16(木) 19:55

「真希ちゃんがどうかしたのぉ?」

アカデミー主演女優賞ものね、このさりげなさ。
やだ、私ったら女優もいけるかもしれな………

「………やっぱり、なにかご存知ですね」

ちょっとぉー、なんでソッコーバレるのよぉーー!!!(涙

「石川さんっ、真希様はどこにいるんですかっ!」
「え、なにぃ?なんのことぉー?(滝汗」

紺ちゃんだけには居場所を連絡したら?と言った私たちに、
真希ちゃんは悲しげに首を振った。
あの子はきっとパパたちに伝えてしまうから、って。
よくわからない、真希ちゃんと紺ちゃんの微妙な関係。
友達から恋人になったんじゃない二人。

「石川さん、お願いです! どんな小さなことでもいいんです!」

カウンターから身を乗り出してくる、必死な色の紺ちゃんの瞳。
教えてあげたいと思うけど、真希ちゃんがそう言う以上、しらばっくれるしかない。
ちょうど、じゃがいもの茹で上がりを知らせるアラームが鳴って、
私はこれ幸いとキッチンへと駆け込んだ。
だけど背中からさらに、紺ちゃんの声が追いかけてきて。
113 :溺れて人魚 :2004/09/16(木) 19:57

「あのハイヤーに乗ってたでしょう? 石川さん!」

パチンと火を止めて、ざっとお湯をあける。
せっせと手を動かしながら、思わず眉間に皺が寄ってしまった。
あの時、車窓から身を乗り出しかけた私。
顔を見られたかもしれないって可能性は、最初から考えてた。
でも、なんの問い合わせもこなかったから、
やっぱり見られてなかったんだって安心してたのに。
ううん、わからない。紺ちゃん、カマをかけてるのかもしれないし………

「石川さん、私、誰にも言いません! 旦那様にも!」
「………………………」
「お願い、無事かどうかだけでも、教えてくだ……」

急に途切れた言葉に、フッと顔をあげた。
ほくほくと茹で上がったじゃがいもの湯気の向こうに見えたのは、
両手で顔を覆ってしまった女の子の姿。
小刻みに震える、細い肩。
114 :溺れて人魚 :2004/09/16(木) 19:58

「………ま、真希様、現金を、ほ、ほとんどお持ちじゃないはず、なんです…」

 なのに、カードを使われた形跡がなくて………
 都内のホテルにもいらっしゃらない………
 私、私、心配で………ど、どうしたらいいか………

「お願いです。誰にも言いません……誰にも………」

胸をきゅうっとつかまれて、私まで泣いちゃいそうになった。
行方の知れない恋人の身を案じて、こらえ切れずに溢れてる、その涙。
綾小路家に仕える忠実なメイドさんの、哀しく引き裂かれた心。

真希ちゃん、だめだよ。こんなに、紺ちゃんのこと泣かせちゃ。
すぐにでも、ひとみちゃんちに連れていきたくなる。
ほら、ここにいるよって。

だけど、判断がつかずに、私は苦しくうつむいた。
紺ちゃんの言葉、信じたい。
だけど、あんなに頑固に、紺野には連絡しないと首を振った真希ちゃん……
115 :溺れて人魚 :2004/09/16(木) 19:58

道行く人が、お弁当屋さんの前で泣き出したメイド服姿の女の子を物珍しげに見ていった。
その視線に弾かれたみたいに、私は紺ちゃんに声をかけていた。
やっぱり放っとけない、って思ったんだ。

「とりあえず、なか入って」
「………え?」
「ほら、泣かないで。顔、ふいて」

おずおずと店脇のドアから入ってきた紺ちゃんをキッチンの丸イスに座らせ、
棚からタオルを取り出して渡してあげた。
紺ちゃんは、堰が切れちゃったみたいに涙が止まらなくて、
でも、一生懸命、涙をこらえようと頬っぺたを真っ赤にしながらタオルを握りしめて。

あーあ。
素知らぬ顔でじゃがいもを潰しながら、どこまでだったら話せるかなと考える。
東京駅で降りてったよ、じゃあ心配事はなくならないだろうしねぇ………
でも、勝手にひとみちゃんちにいるよって教えちゃうのもなあ………

「………コロッケを、つくってらっしゃるんですか?」
「え? あ、うん。品切れしちゃって」

思いがけない言葉に顔をあげると、
紺ちゃんはタオルで鼻のあたりを押さえたまま、
私の手元をジッと見ていた。
116 :溺れて人魚 :2004/09/16(木) 19:59

「………真希様は、石川さんのコロッケが大好きで」
「ああ、うん。そうみたいねー」
「………見てて、いいですか?」
「え?」

つくり方、見てていいですか?
落っこちちゃいそうな大きな瞳から、また一粒、涙がこぼれ落ちた。

「つくってあげたいんです、私も、真希様に」

ちょっとおぉぉーーー。
なんてけなげなの、紺ちゃんってーー!
いまどき、こんなのアリなのーーーー?!
ドラちゃんストラップ以上の感激が、津波のごとくドドッと胸に押し寄せてくる。
うるうるっときた目元を見られないように、私はあわててソッポを向いた。
真希ちゃんさぁ、もう今すぐ帰りなさいよぉ!って気分。
でも、そうも言えないこの状況。ああ、なんてもどかしい。
いやんなっちゃうな、ほんと。

「じゃあ、一緒につくる?」
「………え、そんな」
「一緒につくろ。簡単だよ」

こうやって潰すんだよ。
バターはこのくらい、塩はこんな感じ。
紺ちゃんは、私の説明を頭のなかにインプットするみたいに熱心に聞いていた。
真希ちゃんのことは、もう聞いてこなかった。
私の様子から、とにかく無事みたいだと感じたみたいだった。
しつこく居場所を問いただして困らせちゃいけないと思って、こらえているふうだった。
117 :溺れて人魚 :2004/09/16(木) 20:00

だからつい、余計なことをしゃべってしまう。
心配になって、真希ちゃんの言葉を伝えてしまう。

「真希ちゃん、絶対結婚しないって」
「………………………」
「紺ちゃんのこと、すごく好きみたいよ?」

じゅわじゅわとコロッケを揚げながら、紺ちゃんは目を伏せた。

「真希様は、血統書付きの猫みたいな方です」
「ねぇ、紺ちゃん、雲の上とかそういうのは」
「違います、そうじゃなくて」

 真希様は、華やかな世界でしか生きられない人。
 贅沢も贅沢と気づかないほど、潤沢な環境の中で育ってきた人。
 だから、あんなふうに美しくて、優雅で。

「これからも、苦労とか、してほしくないです」
「紺ちゃん………」
「結婚されたってかまわない。私は、そばに置いてもらえればそれで」
「………………………」
「旦那様も、いじわるでお話を進めてるわけじゃないんです」

 真希様は今、綾小路の籍を離れてるから、
 また同クラスの家に入れてあげたいと、そういうお気持ちみたいです。

「家、家ってさァー。いいじゃん、そんなのどうでも」
「そういう世界もあるんですよ」
「えー、真希ちゃんは紺ちゃんと駆け落ちしたいって言ってたよぉ?」
118 :溺れて人魚 :2004/09/16(木) 20:01

いや、そこまではっきりとは言ってなかったかもしれないけどさっ。
でもさ、そういう気持ちだと思うよ?
家柄とかなんとか、むしろすっごく嫌がってるよ。

「そうですね。フツーの暮らしがしたいって、よくおっしゃいますね」

なぜか紺ちゃんは、クスクスと笑って目を細めた。
フツーのコロッケが好きで、コンビニが好きで、ゲーセンに入ってみたくて仕方なくて。
お行儀の悪いことが大好きなんですよね。

「だけど、コンビニで何万円って使っちゃうんですよ」
「ええっ?!」
「プリクラも気に入っちゃって、何百枚って撮るし」
「えええっ?!」
「全然、フツーじゃない」

紺ちゃんは、それ以上、何も言わなかった。
苦労とか、してほしくないです。もう一度、そう言っただけで。
119 :溺れて人魚 :2004/09/16(木) 20:02

「やっぱり、私がつくったコロッケは形が歪んでますね」
「初めてにしては上出来だよ」
「また、練習してみます」

長々とお邪魔しました。
そういって紺ちゃんは深々と頭を下げた。
どうしても真希ちゃんの居場所を知りたいだろうに、
くるりと背を向ける控えめで口下手な女の子の背中に
私は、思わず声をかけた。

「紺ちゃん、私もね、お見合いさせられちゃって」

驚いたように紺ちゃんが振り返った。

「……吉澤さんは、ご存知なんですか?」
「ううん。言ってない」

言えないんだ。
ああ見えて、すごく傷つきやすい人だから、ひとみちゃんって。
私がお見合いしたとか知ったら、また痩せちゃうと思う。
120 :溺れて人魚 :2004/09/16(木) 20:02

「……どうされるんですか?」
「えー、もう断っちゃったよ。私、結婚とか興味ないしぃ」

 それに結婚するなら、ひとみちゃんがいいもーん♪

わざと明るくおちゃらけた私の言葉。
紺ちゃんは一瞬、また泣きそうな顔をしたけど、
ちゃんと笑ってくれた。そうですね、なんて。

そうだよ、紺ちゃん、そーゆーものだよ。
どーしても好きな人とじゃなきゃヤだなんて、子供っぽい考えかもしれないけどさ。
まわりに心配とか迷惑をかけちゃう、とんでもなく身勝手な恋なのかもしれないけれど。

帰っていくどこか頼りなげな後ろ姿に、私は思った。
ねぇ、紺ちゃんさぁ、私たちやっかいなことになっちゃってるけど、がんばろーよ。
だって、ほんとに幸せになりたいじゃん?
めちゃくちゃ貧乏になっちゃったって、人から馬鹿だなあって笑われたって、
別にいいんだもーんって笑ってたいじゃん?
本当に愛した人の隣で、どうにもこうにも大好きな人のそばで心から笑おう。

私は、そう思うんだ。
何があっても、いつまでもひとみちゃんと一緒にいようって。
ううん、いてやるんだー!って。キャッ!

121 :雪ぐま :2004/09/16(木) 20:03


本日はここまでといたします。
122 :名無飼育さん :2004/09/16(木) 20:18
更新乙です。待ちわびておりました。
月並みな感想で申し訳ありませんが
皆さんが幸せになれたらいいなぁと思いまつ。。。
123 :オレンヂ :2004/09/17(金) 00:49
更新お疲れ様です。
好きです。やっぱり雪ぐまさんの小説も登場人物も好きです。
これからも楽しみに待ってますね〜。
124 :ピクシー :2004/09/17(金) 01:32
更新お疲れ様です。

コンビニで何万円かぁ・・・一度でいいからやってみたい(苦笑)
各自の問題も、まだまだ無事解決には遠いようですね。

次回更新も楽しみに待ってます。
125 :名無飼育さん :2004/09/18(土) 10:54
本当に後藤さんのことを大切に思ってる紺野さんがとても可愛いです。
126 :sage :2004/09/25(土) 07:38
こんこんの健気な姿にじーんときました(T_T)
更新ありがとうございます!雪ぐまさんのペースでがんばってくださいね!
127 :名無飼育さん :2004/09/25(土) 16:45
>>126
sageはメール欄に
128 :作家見習い :2004/10/09(土) 23:38
いつか紫板の作品でレスさせてもらった者です。
いつ読んでも雪ぐまさんの作品には敬服させられます。
自分もいつかは雪ぐまさんみたいに
皆に親しまれる作品を書けるような作家になりたいと思います。
(一応、デビューはしたが我ながらチープな文章で恥ずかしい作品・・・)
話は大きくズレましたが
(作者様、読者様、自分ことばかりですみませんでした・・・。)
次回更新、楽しみに待ってます。
頑張ってください。
129 :アポロ :2004/10/11(月) 01:11
↑作家見習いさんの作品ってどこにあるんですか?
(話がズレてしまった)
いつもここは楽しく読ませていただいてます。
作者様、更新がんばって(?)ください。
130 :作家見習い :2004/10/11(月) 05:39
>130
別のHNで書いているので見付からないと思います。

書きなおすことも考えてますのでタイトルもここでは言いません。
と言うより、恥ずかしくて見せられないって言うのが本音ですね。
それにしても、クォリティが本当に高いっスね。
内容と言い、表現力と言い。はあ・・・、ため息が出る・・・。
131 :名無飼育さん :2004/10/27(水) 16:40
今日見直して気づいたのですが安倍さんは
カメラマンとタクシードライバーを兼業してるのですか?
132 :どくしゃ :2004/10/29(金) 01:13
>>131さん   おーい…。
133 :名無飼育さん :2004/10/30(土) 13:13
愛するトメっち>>>本当よかった!!
頑張ってくださいね!★
134 :名無飼育さん :2004/10/30(土) 14:57
>>133さん あげないように
135 :名無飼育さん :2004/11/06(土) 01:52
気付いたときには落ちてる予感と言ったが
この世には保全なんて便利なものがあるのか

完結まで頑張りんしゃい
136 :雪ぐま :2004/11/09(火) 22:54
皆さま、お久しぶりです。お待たせいたしました。

122> 名無飼育さん様
またまた長くお待ちいただいて恐縮でした。
みんなが幸せになろうと奮闘しています。見守ってやってくださいませ。

123> オレンヂ様
いつも励ましのお言葉をありがとうございます。
リアルの娘。さんたちの頑張りに負けないように書いていきたいと思います。

124> ピクシー様
雪ぐまは、コンビニでは最高8000円ちょっとですね〜。
何万も何を買うのか作者も謎ですw ( ´ Д `)<んあ?

125> 名無飼育さん様
川*o・-・)ノ<ありがとうございます。
紺ちゃんの健気さにはトメっちも脱帽のようですw

126> sage様
川*o・-・)ノ<またまたありがとうございます。
紺ちゃん、大人気ですw こちらこそ、お読みいただいてありがとうございます。

127、132、134> 名無飼育さん様、どくしゃ様
お気遣いをありがとうございました。
137 :雪ぐま :2004/11/09(火) 22:55
128、130> 作家見習い様
過分にお褒めいただいて照れくさいです…w 飼育にはたくさんの才能が
溢れていると思います。ぜひいつか、作家見習いさんの作品を教えてくださいね。

129> アポロ様
いつもお読みいただいてありがとうございます。
更新、できるかぎりはやめに頑張りたいと思っています。

131> 名無飼育さん様
安倍さんは文麿外伝のすじ子姉ちゃんとしても登場していますよ〜。
ギャラなしで一人何役もこなしてもらっていますw (●´ー`)<困るべ。

133> 名無飼育さん様
ありがとうございます。読者様に励まされて書いております。
またぜひ、読みにいらしてくださいね。

135> 名無飼育さん様
はい、頑張りますw ご心配をおかけしていて面目ないです。
愛トメは、雪ぐまにとって大切なストーリーですからどうぞご安心を。

それでは、更新にまいります。
138 :溺れて人魚 :2004/11/09(火) 22:56



 ♪愛〜してま〜すか〜? 言〜い切れま・す・か〜?
 ♪な〜んちゅ〜か〜、一生二人で眠りましょーか?
 ♪天〜国で〜すか〜? 地〜獄で・す・か〜?
 ♪さ〜、いっぱ〜い、私を抱いたら、おとなし〜くおとなし〜くおとなし〜く

139 :溺れて人魚 :2004/11/09(火) 22:56

「いい子でねっ!」

バッと部屋のドアを開けてビシーッと指さした私に、
ひとみちゃんは呆れた顔で、メロンさんかよ……と呟いた。

「メロンさん、いいじゃーん。サイリウム振っちゃうよ、私」
「や、いーけどさ。道歩きながら大声で歌うなっつーの」
「あはっ、ずーっと聞こえてたよ〜、トメちゃんの歌」

そう言って、真希ちゃんはひとみちゃんのベッドからむくっと起き上がった。
ちょっとーぉ、ひとみちゃんのベッドでごろごろしないでよぉ!
むきーッとなりかけて私は、部屋にまだお客さんがいるのに気がついた。

「「お邪魔してま〜す」」

あーっ、亜弥ちゃん、そして、み、み、美貴ちゃんっ!!!
動揺を顔に出さないようにしつつ、チラッとひとみちゃんを睨めつける。
ちょっとぉー、美貴ちゃんはもう二度と部屋にあげないって約束でしょっ?
140 :溺れて人魚 :2004/11/09(火) 22:57

床に座ってベットにもたれてたひとみちゃんは、
私の視線の意味をわかっていながら素知らぬ顔をした。
べっつにいーだろ、非常事態なんだし。それにもう友達じゃんか。
そんな感じの横顔。

むうっ。
まあ、いいけどね。亜弥ちゃんも一緒だし。
でも、忘れたわけじゃないからね、私。
ひとみちゃんが美貴ちゃんと、いいかげんなことしてたってこと。
さあ い〜った〜い! もいちどやったら知りませんよ〜?知りませんよ〜?知りませんよ〜?

「わかるよね?」
「なにが?」

ゴゴゴ…と、斉藤さん化しかけた私に、きょとんとした亜弥ちゃんの声。
はっ、いけない。亜弥ちゃんは知らないんだったわ、ひとみちゃんと美貴ちゃんのカンケイ。
冷静に、冷静にならなきゃ………ふうぅ。
うん、一生知らないにこしたことないわよ、あんなこと。
この微妙な雰囲気を、すかさず察したらしい美貴ちゃんが
慌てたように明るい声を張り上げた。

「トメちゃん、お疲れーっ! 毎日、遅くまで大変だね〜」

珍しくにこにこと愛想をふりまいてみたりして、これまた憎めないのよね。
141 :溺れて人魚 :2004/11/09(火) 22:58

私は苦笑しながら二人の横に座り、差し入れらしいペットボトルからお茶をもらう。
と、真希ちゃんがベッドからノソノソ降りてきて、うれしそうに私の隣にぴったりと座ってきた。
やだー、かわいー! ゴロゴロ懐いてくる猫みたい!
ごっちん、かーわいー!

「コロッケの匂いがする………」

そこなの!(ガクッ
まったく、鼻がきくのねぇ。
私は苦笑しながら、紙袋から差し入れのお総菜を取り出した。
おにぎりでしょ? ひじきの煮物でしょ? 塩鮭でしょ? 煮豆でしょ?
コールスローでしょ? 筑前煮でしょ? 鶏カラアゲでしょ?
それからコロッケ………は、1個だけだけど。
せっせと並べる私の横で、ひとみちゃんがエラそうにふんぞり返った。

「まあ、遠慮しないで食べてよ」
「ちょっとぉ、なんでひとみちゃんが言うのよっ」

ま、悪い気はしないけどね、夫婦みたいで(キャッ!
奥さんの手料理をお友達にすすめてるって感じよね〜っ。
お料理上手な奥さんで、うれしいよねっ?ねっ?ねっ?ねーっ?
142 :溺れて人魚 :2004/11/09(火) 22:59


「……割り箸、足りない分、取ってくるわ」

私を無視して、ひとみちゃんは階下に割り箸を取りにいってしまった。
何よぉーと膨れたあたしにかまわず、あやみきコンビは目がキラーン。

「ね、あたしたちも食べていいの〜?」
「いいよ、もちろん」
「やったぁ!トメちゃん最高!」
「よっ、美人妻!」
「良妻賢母!」

やだもう、やめてよそんなホントのこと〜。ふふふっ。
来るって教えてくれてれば、もっとたくさん持ってきたんだけどなっ。
ウキウキ気分でそう言うと、美貴ちゃんが「敵を欺くにはまず味方からだよ」と、
わけのわからないことを得意げに言い出した。

「実は今日、うちら、偵察に行ってきたんだよね」
「偵察?」
「綾小路家に決まってんじゃん」

ほんとに?
びっくり顔をした私に、階下から戻ってきたひとみちゃんが
せっせと箸を配りながら説明をしてくれた

「あたしとトメっちは、ホラ、顔バレしてんじゃんか?」
「ああ、うん。舞踏会とか行ってるもんね」
「だから二人にちょっと様子を見てきてもらったわけ」
143 :溺れて人魚 :2004/11/09(火) 22:59

ああ、なるほどね。
だけど、偵察っていっても、あの馬車でも出てきそうな重厚な門。
かなり警備も厳しそうだけど。

「とりあえず門の前まで行ってみたんだけど、中は覗けなくてさー」と、美貴ちゃん。
「うん、なんもわかんなかったねー」と、亜弥ちゃん。

だめじゃん。
でも、いつもと変わりなかったんだったら、
警察とかはきてないってことなのかなあ?

「うーん、たぶんね」

緊張感のカケラもなく筑前煮をモゴモゴと食べながら美貴ちゃんが話す。
壁でもよじのぼってみようかと思ったんだけど、
ウロウロしてたら、なんか急にメイドさんがきて、
「なにかご用ですか?」とか声かけられちゃってさぁー。

その言葉に、真希ちゃんが「え?」と反応して身を乗り出した。

「メイドさん? 誰だろう? どんな感じだった?」
「んーと、なんか下膨れの……」
「紺野だ。泣きそーなタレ目じゃなかった?」
「あー、そうそう、なんか妙に声が上ずっててさー」
「紺野紺野。間違いない」

美貴ちゃんもひどいけど、真希ちゃんもそうとうなものね……
ま、まあ、いいわ、それも愛よね(たぶん)。
なるほどね、うちの店から帰ってった紺ちゃんと遭遇したわけだ、美貴ちゃんたちは。
144 :溺れて人魚 :2004/11/09(火) 23:00

「……紺野、元気だった?」

真希ちゃんが俯きかげんに、ボソッと呟いた。
どことなく、複雑なニュアンス。

「んー、なんかおどおどしてたよ。うちら振り返ったら超ビビってた」
「それはいつもだよ。なんかほら、顔色とかさ」
「あー、どうだっただろ? 紺野サンだって気づかなかったから」
「わかってたら、ちゃんと観察したんだけどねー」
「ねー、うちらも慌てて逃げちゃったからー」

全然だめじゃん。あわてて逃げたら、よけい怪しいじゃん。
まったく、あやみきコンビはいるだけで目立つんだから、
もうちょっと変装するとか何か考えて行かなきゃだめだよ。
そんなパンツ見えそうなミニスカートでさぁ。

「ごめんね、うちら、かわいくってー」
「ほんと、かわいすぎて、ごめんなさーい」

……なんとか反省って言葉を教えたいわね、この二人には。
ま、いいわ、そんなことよりも。
145 :溺れて人魚 :2004/11/09(火) 23:01

うーん、どうやって話そうかな、うちの店に紺ちゃんが探りを入れに来たこと。
とりあえず私は、たった1コのコロッケを真希ちゃんに手渡した。
ひとみちゃんも食べたかったらしくて不服気な顔をしたけど、今日は我慢して。
これはね、真希ちゃんのものなの。だって……

「全部、あたしが食べていいの?」
「うん、どうぞ」

わーい!と満面の笑みで一口ほおばった真希ちゃん。
そして、案の定、すぐに「ん?」と首をかしげた。
かすかに困ったような顔をして、へらっと私に微笑んでみせる。

「今日のコロッケ、ちょっと固いねー?」

そうね。初めてつくったみたいだったもん、売り物にはならないの。
だけど、風味は悪くても、愛情がいっぱい詰まってる。

「そうね、そのうち上手になるんじゃないかな」
「え? そのうち?」
「それね、紺ちゃんがつくったの」

真希ちゃんの目がギョッと見開かれた。
ひとみちゃんや、美貴ちゃんたちの目も。

「ど、どういうこと?」
146 :溺れて人魚 :2004/11/09(火) 23:01

一部始終を話すと、部屋はしんみりと静かになった。
ロクにお金も持たずに行方をくらませた真希ちゃんが心配で、
ただ心配で、心配で、心配で、肩を震わせてボロボロ泣いていた紺ちゃん。

「やっぱり、紺ちゃんには居場所を教えてあげたほうがいいと思うんだ」

私の言葉に、真希ちゃんは手の中の不格好なコロッケをジッと見つめる。
必死で閉じこめてる紺ちゃんの気持ちみたいに、
じゃがいもがギュウギュウに詰まりすぎたコロッケ。
それって、おいしくないかもね。口当たりが悪いかも。
だけど、愛情がいっぱい詰まってる。
浮世離れしてる真希ちゃんに、これからも苦労なんかしてほしくないと呟いた紺ちゃん。

「……でも、絶対、結婚なんてヤだ」
「わかってるよ。結婚しなよって言ってるんじゃなくて」

うーん、むずかしいなあ。
ふうっと、ため息をつく。
紺ちゃんは、誰にも言わない、旦那様にも言わないって言ってた。
八の字まゆ毛の、泣きそうな瞳でそう言ってた。
だから、それを信じてあげたいし、真希ちゃんにも信じてほしいけど。

だけど大人たちの前に、愛してるなんて言葉はシャボン玉みたいに弾けてしまう。
たくさんの笑顔も、熱い夜も、やわらかな朝の光も、全部パチンと弾けてしまう。
二人だけで生きてはいけない。
世界は、二人のために回ってなんかいない。
147 :溺れて人魚 :2004/11/09(火) 23:02

『私の場合、真希様とおつきあいできていることが奇跡なので』
『結婚されたってかまわない。私は、そばに置いてもらえればそれで』

紺ちゃんの言葉が、耳に蘇る。
彼女なりにずっと考えてた、最善の方法。
それはなんて悲しい覚悟。生涯、陰の存在になる決意。
だけど、真希ちゃんはきっと悔しかったね。
閉じこめられたペルシャ猫みたいに、ただ無力なことが悔しくて、
紺ちゃんのこと、たぶんめちゃくちゃに引っ掻いた。
そして、豪奢な窓からひらりと逃げて見せた。あてもなく。
野良猫になる気だったのかな?

「もう、いい」

しばしの沈黙のあと、何を思ったか真希ちゃんは、
食べかけのコロッケを皿に放り出してしまった。
口のまわりに揚げカスをつけたまま、またむっつりと黙り込む。

「じゃ、もーらい」
「みーーきたんっ!」
「へ? なんで? もったいないじゃん」

もごもご。
美貴ちゃんが、きょとんと亜弥ちゃんを見る。
見た目よりもずっと察しのいい亜弥ちゃんは、サバサバしすぎの恋人に苦笑した。
みきたん?そう他人事でもないんだよ?みたいな感じに。
148 :溺れて人魚 :2004/11/09(火) 23:03

私も、チラと大好きな恋人のことをうかがう。
ひとみちゃんは、うつむく真希ちゃんから目をそらして窓の外を眺めていた。
素っ気ない感じだけど、私にはすぐわかる。
その大きな瞳が、ひどく悲しげな色に染まってること。
ミテランネーヨ……

見てらんないね。
私は、そっとひとみちゃんに身を寄せて、その肩にコツンとこめかみをあてた。
ひとみちゃんは、何も言わずに私の肩を抱き寄せてくれた。
その確かな熱に、かすかに目頭が熱くなる。
肩を抱かれるなんてこと、もう慣れちゃったけど、
それは永遠に、私だけに与えられる特権だって思っちゃうけど。

亜弥ちゃんが美貴ちゃんを後ろからぎゅうっと抱っこして、そのうなじに鼻先をうずめた。
美貴ちゃんはくすぐったそうに笑い声をあげかけて、でも、さすがにぐっとこらえた。

真希ちゃんだけが、ポツンと部屋の中央に座っていた。
煌々と照らされる味気ない蛍光灯の明かりの下で、
もうコロッケがのってない皿をじっと見つめたまま、きゅっと唇を結んでいた。
どことなく寒そうに、頼りなさ気に三角座りの膝をかかえて。

149 :雪ぐま :2004/11/09(火) 23:03


本日はここまでといたします。
150 :名無飼育さん :2004/11/10(水) 00:06
かなり遅めの夕食をとって、お腹の辺りが締め付けられるのを感じながら、
今夜の更新分を読ませてもらいました。
どうやら今度は胸が締め付けられてしまったようです。

二人がきちんと納得できるような形の幸せは、いつか訪れるのでしょうか。
とりあえず大人しく見守ろうと思います。更新お疲れ様でした。
151 :ピクシー :2004/11/10(水) 01:54
更新お疲れ様です。

ごっちん、確かにネコっぽい所ありますよね。
まだまだ複雑な展開は続きそうですねぇ。
いしよし、あやみきは微妙に自分達の世界に入りかけているような・・・

次回更新も楽しみに待ってます。
152 :作者見習い :2004/11/12(金) 01:29
更新、お疲れ様です。

>137 飼育にはたくさんの才能が溢れている
本当ですよね。レベルが高すぎちゃって参っちゃいます。
自分も自信を持って、この作品の作者だ!って言える物が書けるように
頑張りたいです。(一体、いつになることやら・・・orz)


話は本編に戻りまして、"いしよし"や"あやみき”、
それぞれのキャラクターが生かされているので
リアルに想像できます。
(確かにミキティだったら、こんな行動しそうだ・・・)

名無飼育さんと同じように、自分も胸が締め付けられて・・・。
(でも久しくなかった事なんで、なんか気分はいいっす)

なんか良いすね、この感じ。パワーを貰った感じです。
今から次回が楽しみです。
153 :名無飼育さん :2004/11/19(金) 02:27

154 :名無飼育さん :2004/11/19(金) 10:23
止めるな、トメ子!!
いいえ、トメ子は止めます!!
155 :雪ぐま :2004/11/29(月) 20:56
150> 名無飼育さん様
この21世紀にロミオとジュリエットのごときごっちんと紺ちゃん。
トメっちたちも胸中複雑。どうぞ見守ってあげてください。

151> ピクシー様
あやみきはいつでも、リアルでさえも二人の世界をばく進中ですw
箱入り娘のごっちん、飛び出してきたはいいけれど、どうなることやら……

152> 作家見習い様
雪ぐまの趣味は、娘。さん観察w ハロモニが大好物です。
リアルの娘。さんたちの魅力がちょっとでも描けていたらうれしいです。

154> 名無し飼育さん様
ochiてたからお気遣いいただいたのかな? トメ子、ありがとう!

それでは、更新にまいります。
156 :溺れて人魚 :2004/11/29(月) 20:57


「マジで?」
「だめ?」
「いや、いーけど……」

唇を寄せた私に、ひとみちゃんは戸惑い顔。
そりゃそうかも。私が彼女を連れ込んだのはご近所のカラオケボックス。
なのに、歌う以外のことをしようとしてるわけで。

「ね、トメっち……」
「梨華って呼んで」
「……や、あの、やっぱマズくね?」
「ヘーキ。ここカメラとかないもん」

いつになく大胆な私に、マシュマロみたいなひとみちゃんの頬がポッと桃色に染まる。
それは私の好きな色。指先でその輪郭を確かめる。好きよ。
あなたのことが大好き。
157 :溺れて人魚 :2004/11/29(月) 20:58

もっと名前を呼んで。
つかまえて。つかまえてて。
怖い人がいるの。毎日現れる。愛想のいい笑顔で。
ライオンみたいな金髪をご機嫌に揺らしながら。

『よっしゃー! 石川さん、元気ー?』

たった3日で、もう耐えられないよ。
だって、あの人はなにも嫌なことをしない。
コロッケをたくさん買ってくれて、私に笑いかけ、
それからトメ子姉さんとお母さんにあいさつをする。
ヒョコッと頭を下げて人懐っこく、しかも礼儀正しく。
それで天気の話とか、テレビドラマの話。
面白おかしく、ちょっとしたおべっか。

『いやー、うちのOLの子たちが石川さんちのコロッケのファンになってしもて』
『まあ、それで社長さんがわざわざ?』
『ご機嫌取りですわー。とっと買うてこい言われますねん』
『あらまあ、ご冗談ばっかり』
『ははっ。パシリですわ、パシリー』
158 :溺れて人魚 :2004/11/29(月) 20:58

人畜無害なふりをしないで。
お母さんとトメ子姉さんが、あの人に打ち解けていくのがイヤ。
私はむっつりと俯いて、コロッケを袋に詰めてハイと渡すだけだけど。

『じゃあね』

その一瞬の、ひらりと手をふる仕草がさりげなくて、
何を考えてるかまるで読めなくて怖いの。
すたすたと立ち去ってく背中は、あまりにも未練を感じさせない。
だけど、それならどうして通ってくるの?
ああ、こんなこと考えさせられちゃうのが、すごく嫌だから。

だから、ひとみちゃんにギュウッて抱きしめてほしかった。
頭の中が真っ白になっちゃうくらい、特別なキスをしてほしかった。
だけど、うちのお母さんは全然出かけそうもないし、
ひとみちゃんちには、真希ちゃんいるし。
何の説明もせずに、いきなりカラオケ行こって呼び出しちゃったから、
ひとみちゃんはフツーに唄うつもりでいたみたいだけど。
159 :溺れて人魚 :2004/11/29(月) 20:59

びっくりさせちゃって、ごめんね。
ソファに座ったひとみちゃんのヒザに乗っかって、すんなりした首に腕をまわす。
横抱きにされると、なんとなく人魚姫になった気分。
片思いの頃、夢だったな。ひとみちゃんにこうやって抱っこされるの。
今はもう、いつだってこうしてもらえるんだ。権利だもんね。
大きな瞳をジイッと見つめると、
ひとみちゃんはなんだよぉ急に…なんて照れくさそうに呟いて、
それでも背中にまわした腕で、ぐうっと抱き寄せてくれて。

「そんなにシたかったの?」
「バカ、違うよ。ギュッってしたかったのっ」
「うっそー、ヤる気まんまんって感じじゃん?」
「もう、そういうこと言わないでよぉ」

いたずらな囁きの合間から、やわらかな唇が降ってくる。
息をふさがれて、たちまち鼓動が暴れ出す。
ニットセーターの下にするりともぐりこんできた、少しひんやりとした手のひら。
ゾクッとして、思わずあなたの髪をつかんだ。
なんかもしかして、けっこう久しぶりかも?
ああん、ひとみちゃん、ドキドキするよぉ………

………なのに。
160 :溺れて人魚 :2004/11/29(月) 21:00


 プルルルルルルルルルルルルルルーーーーー


キャアッ!!!!!!
わああっ!!!!!!
ボックスの内線電話が突然けたたましく鳴り響いて、私たちは飛び上がった。
慌ててひとみちゃんのヒザから飛び降りる。
ひとみちゃんが手の甲でぐいと唇をぬぐいながら、やべーよと視線を送ってきた。
ちょっとぉ、ここ、カメラとかないはずだよねぇ?!


 プルルルルルルルルルルルルルルーーーーー
 プルルルルルルルルルルルルルルーーーーー


警告みたいに鳴り響く無粋な機械音。
私たちは情けない顔で、トホホと目を見合わせた。

「………トメっち、出てよ」
「ヤだ、お願い、ひとみちゃん、出て!」
「んだよぉー、おめーが誘ったくせによぉー」
「だってぇ、カメラとかないと思ったんだもん」

はあっ、と大きくひとつ息をついて、ひとみちゃんが立ち上がった。
ひとみちゃん、ありがとう! 感謝します!
だけど彼女は、鳴り響く電話の前で再びためらって手を泳がせた。
161 :溺れて人魚 :2004/11/29(月) 21:02

「やっぱムリ。トメっち出てよ〜〜〜」

もおおおお!!!
わかったわよ、出るわよ!出ればいいんでしょぉ!
やけっぱちに立ち上がる。
しょうがないわ、私が誘ったんだし。
ううっ、怒られたら、なんて言い訳しようかしら?
お芝居の練習してたんですとか、うーん、ムリがあるよねぇ………

カチャッ。

「……………………はい」
『あ、フロントでーす。すいません、ワンオーダー制なんでー』

ガクッ。
なーんだ、ドリンクオーダーの催促かぁ。
ホ〜ッとして、へにゃへにゃ〜っと気が抜けた。
振り返ると、ひとみちゃんもふわああっとなってソファにひっくり返ったとこだった。

「………ひとみちゃん、ドリンクだって」
「………もぉ、なんでもいいっス」
「じゃあ、ウーロン茶ふたつ」
『ありがとうございましたぁー!』

ガチャッ。
162 :溺れて人魚 :2004/11/29(月) 21:03

あーあ。
もう雰囲気だいなしじゃん。
苦笑しながらソファに戻る。
ひとみちゃんも同じことを考えてたみたいで、
バツが悪そうにニヤつきながらヒョイと起き上がり、ブツブツと文句を言った。

「あー、まいったまいった」
「びっくりしたねー」
「やっぱムリだって、こういうとこは」
「だあって、ずっと二人だけになれなかったから〜」

ううん、真希ちゃんのことかくまってるのはいいんだけどさ。
時々ね、やっぱりイチャイチャしたいんだよね。
不安なことがあるから、ますます気持ちは募る。
ひとみちゃんって人前だと素っ気ないし、だからますます。

「トメっちの部屋でヤったらいいじゃん」
「お母さんいるからダメだってば」
「ちぇ。素っ気ないのはどっちだよ」
163 :溺れて人魚 :2004/11/29(月) 21:03

店員さんが飲みたくもないウーロン茶を運んできて、
私たちは慌てて歌本をめくるふり。歌う気もないのにね。
なんだか可笑しい。カラオケボックスで間抜けな二人。

「せっかくだから歌う〜?」と、ひとみちゃん。
「そうだね、2時間でとっちゃったし」
「2時間もなにする気だったんだか」
「もう、そういうこと言わないでったら!」

ふくれて肩をボカボカすると、
ひとみちゃんが弾けたように笑って、大げさに痛がった。
えへっ、こんなことでご機嫌になっちゃうなんて、私も単純だけど。
だけど、ひとみちゃんもなんとなくうれしそうにしてるから、いっか。
164 :溺れて人魚 :2004/11/29(月) 21:04

たいへんなことになってる真希ちゃんと紺ちゃんのことを思うと、胸が痛む。
だけど、ごめんね。2時間、私たちに二人きりの時間をください。
悲しい恋を目の当たりにしてるから、なんだか不安になるの。
私たちは、さりげなくつないだ指を強く握りあう。
離れないで。離れないよね?
言葉にならない確認を指先で。

「トメっち、あれ歌ってよ、あれ」

ええとぉ。
片手でパラパラと歌本をめくって、ひとみちゃんが指さしたのは、ちょっと意外な選曲。
私は驚いて、それからすんごく嬉しくなって、照れくさくなって、
思いっきり憎まれ口をたたいた。

「なによ、昔歌ったげたら、さんざんキショいって騒いだくせに〜〜」
「久々にキショいの聞きたくなったんだよ」
「なによ、それ」

流れてきたメルヘンチックな前奏に、私はウキウキとマイクをかまえた。
ひとみちゃんは、はやくも「キショ〜」なんて呟きながら、
それでもなんとも照れくさそうな表情で唇をきゅっと閉じて、
歌詞が流れ始めた画面にジッと見入った。
165 :溺れて人魚 :2004/11/29(月) 21:05


 ♪王子様みたいな人、優しくて
  見た目はへなちょこりん、だけど

  王子様みたいな人、って思ってること
  …は、言わないでおこう 
 

歌ってるそばから、ひとみちゃんはキモイキモイと笑い出しちゃって、
だけど、つないだ指を握ったままでいてくれたから許してあげる。
そりゃ、私だってキショいって思ってるよ、こんな歌詞。
でも、ニコニコ笑いながら、大まじめに歌ってみるの。
だって、うれしい。冗談に紛らせて伝えられる、大好きってキモチ。
足をバタバタさせて笑うあなたの頬が赤く染まって、超ラブラブな感じ。


 ♪王子様と雪の夜 
  手作りのお料理持って お家 行くわ
   
  私の王子様……
  私の王子様……
  

ねぇ、ひとみちゃん、もうすぐクリスマスだね?
今年はちょっと観覧車には乗りに行けそうもない状況。
だから、七面鳥を焼いて、みんなで食べよう。
紺ちゃんも、呼んであげられるといいな……

166 :雪ぐま :2004/11/29(月) 21:05


本日はここまでといたします。
167 :名無飼育さん :2004/11/29(月) 22:45
あは
168 :名無飼育さん :2004/11/30(火) 02:11
更新お疲れ様です。
トメっち大胆っスねぇ〜
大変そうだけど、がんばってもらいたいものです。
169 :ピクシー :2004/11/30(火) 04:51
更新お疲れ様です。

いしよしワールド炸裂ですね。
さて・・・クリスマスの頃には如何に?

次回更新も楽しみに待ってます。
170 :名無飼育さん :2004/11/30(火) 10:32
更新お疲れ様でした!

いしよし最高!!

雪ぐまさんも最高!(>V<)

がんばれ〜がんばれ〜
171 :ましろ :2004/12/01(水) 03:00
更新お疲れ様です。
って書き込みするのもご無沙汰しまくりです。
やっぱり、こういういしよしの雰囲気いいなぁ〜と思って。
172 :作者見習い :2004/12/04(土) 13:25
更新、お疲れ様です。

考えてみたら、もう12月。
今年はハロプロにとってはそれ程、明るい話題は無かったけど
(フットサルと、まあ、あえて言えば新グループ誕生かな)
来年こそは良い話題があるようにと願わずにはいられない。

そう思った1年でした。
(俺もハロモニは大好物です)
173 :ななし :2004/12/27(月) 01:19
保全
174 :名無飼育さん :2004/12/28(火) 18:45
アゲルナぼけ!
175 :雪ぐま :2004/12/30(木) 22:55
えーっと……なんか微妙ですねぇw
今回は、お一人ずつのお返事は見送らせてくださいませ。
まったりまったりとよろしくお願いします。

自治F&Qにもありますが、レスは基本的にsageでお願いします。
これはレスによってスレがあがると、
多くの読者様に「おっ、更新してる!」という印象を与えてしまい、
なにかと紛らわしいからです。よろしくお願いします。
メール欄に半角英数で「sage」と書き込んでおけば大丈夫です。

また、マナー違反を指摘する際は、
なるべくやわらかい言葉で、どうかひとつお願いします。


それでは、更新にまいります。
176 :溺れて人魚 :2004/12/30(木) 22:57


真希ちゃんがフッといなくなったのは、クリスマスの夜だった。
その日は雑誌の撮影が入ってて、帰ってきたら、いきなり。
机の上には、短いメモ。

“うちに帰ります。いろいろ、ありがとう”。

私とひとみちゃんは、あっけにとられて顔を見合わせた。
帰るって真希ちゃん……、大丈夫なの?

「真希ちゃん、やっぱり淋しかったのかなあ?」
「うーん……」

クリスマスイブは、まさか真希ちゃんを置いてデートってわけにもいかないから、
亜弥ちゃんと美貴ちゃんも呼んで、ひとみちゃんの部屋でお泊まりパーティーをした。
私は張りきって七面鳥とか焼いて、亜弥ちゃんと美貴ちゃんはケーキとお菓子担当。
ひとみちゃんが用意した飲み物がシャンメリーだけで、私たちは超ウケて。

『やっぱクリスマスは、シャンメリーだろぉ?』
『やーん、懐かしいぃ!』
『つーか、もうシャンパンでいいじゃん、大学生なんだからさぁ』
『バッカ、お前らシャンメリーは今だけなんだよ? 旬の味覚だべ?』
『そんな旬の味、ヤダー!』

はしゃぎまくる私たちを、真希ちゃんはニコニコ見てたけど。
七面鳥をガシガシ食べて、シャンメリーもしこたま飲んでたけど。
だけど、酔いもしない頭で、ものすごく淋しかったのかもしれないな。
ひとりだけ、恋人と一緒にいられないイブだったから。
177 :溺れて人魚 :2004/12/30(木) 22:58

「やっぱシャンパンにしたらよかったのに」
「そこかよ」

あーあ。
私は、ごろんとベッドに横になった。
みんなで明け方近くまで騒いで、ごろごろと雑魚寝して、昼近くにやっと起きて。
眠い目をこすりながら、クリスマスに撮影って何よなんて
ギャアギャア騒ぎながら4人で出かけた。
だけど、文句を言ってても、私たちはみんな笑顔だった。
だって一番好きな人と一緒だもん、バイトだってヤじゃないよ。
特別なイベントがなくても、それはやっぱり大切な思い出。

何日も何日も、紺ちゃんに会えなかった真希ちゃん。
私とか、もしひとみちゃんと2日も会話ができなかったら「そんなのありえない」って感じ。
真希ちゃんはどうなんだろ? 紺ちゃんは?
うーん、やっぱきっと同じだよねえ……
とうとう我慢できなくなったってことかなぁ?

「大丈夫かなあ真希ちゃん、すっごい怒られてるよねぇ?」
「んーー、でも親もちっとは反省してんじゃん?」
「だといいけど」

釈然としない思いで、ひとみちゃんの匂いのする枕に鼻先を押しつける。
あ、なんか久しぶりかも、この香り。
ずっと真希ちゃんがいたから、
こんなふうにひとみちゃんのベッドに横になったりしなかった。
横になったまま、ひとみちゃんを見上げる。
ひとみちゃんは、もう一度真希ちゃんのメモを読み、かすかにため息をついた。
178 :溺れて人魚 :2004/12/30(木) 22:59

「うちら、ハシャぎすぎたかな?」

夕方の薄い光に輪郭を縁取られた、不安げなその横顔。
おおらかな人だけど、その実、とても細やかで心配性な。
私は、ゆっくりと指先を伸ばした。

「ひとみちゃん、こっち来て」

ひとみちゃんは、すこし照れたみたい。
だけど、おとなしく私の元にやってきた。
考えすぎのその頭を胸にギュッと抱きしめると、彼女は静かに目を閉じた。

「……トメっちは、どう思う?」
「うーん、でもいつかは帰らなきゃいけなかったんだし、ね」
「うん」

そうね、私たち聖夜にに浮かれすぎたかもしれないけれど、
彼女が前に進むきっかけになったって、そう思いたい。
だって、クリスマスのうちに、紺ちゃんの元に帰る気になったんだもの。
まあるいひとみちゃんのオデコに、そっとキスをする。
すこし眠ろうか? ねぇ、このまま寄り添って。
179 :溺れて人魚 :2004/12/30(木) 22:59

それなりに騒がしかったクリスマスが通りすぎていく静かな夕刻。
こなれたシーツのなかで二人丸くなったまま目を閉じていると、
まるで路地裏で仲良く生きてる二匹の猫みたいな気分。
傷ついて迷いこんだペルシャ猫は帰っていった。
また、二匹になった。

寝不足で動いたから、なんだかだるいね。
なんとなくずっと気が張ってたから、すこし疲れてたね。
眠ろう、眠ろう。久しぶりの二人きりの場所で。
あなたの体温で、お布団のなか、なんだかとっても温かい……

180 :溺れて人魚 :2004/12/30(木) 23:00


…………………………………………………
…………………………………………………
…………………………………………………
…………………………………………………
…………………………………………………


181 :溺れて人魚 :2004/12/30(木) 23:00

穏やかな深い眠りに吸い込まれて、どのくらい眠っただろう。
私たちを起こしたのは、窓ガラスに何かが当たったような“コツン”という物音だった。

ん? 
ハッとして、寝ぼけ眼を見交わす私たち。
なんか音がしたよねぇ。今。 うん、したよねぇ? てゆうか、何時ぃ?
ごにょごにょ言いあいながら窓に目をやると、すっかり真っ暗。
ベッドサイドの時計を見て、あれっ?と首をかしげた。

「5時? あれ、そんなに寝てない?」
「いや、けっこう寝たと思うよ」
「え、まさかまさか、朝の5時ぃ!?」

うっそぉ!
即座にケイタイに手を伸ばして時刻を確認して、
私は「あぁ〜」と情けない声をあげた。
デジタル表示は、05:12。17時じゃない。
夕方じゃなくて、朝だ。
182 :溺れて人魚 :2004/12/30(木) 23:01

「どうしよ。無断外泊しちゃったじゃん……」
「平気だよ。どうせおばさん、あたしんちにいるって思ってるよ」
「それはそうだけど〜〜」

それもなんだかねぇ。
あーあ、やっちゃったと額に手をあてたその時。
もう一度、窓になにかが当たり、“コツン”と乾いた音が部屋に響いた。

「……やっぱり誰かいるね、下に」
「……ごっちん? また逃げてきたとか?」

ありうるかも。
私たちは示し合わせたようにガバッと起き上がり、
寝癖がついたモシャモシャ頭のまま、ガラリと窓を開けて階下を覗き込んだ。
そこにいたのは予測とは違う、でも渦中の人。

「紺ちゃん!……てゆうか、雪降ってる!」

二重の驚き。
外は、暗闇にきらきらと舞い散る初雪の景色。
桜の花びらのような雪のなか、傘もささずに歩道に立っていたのは、
その名の通り、紺色のコートを着た女の子。

「どうしたの? こんな朝はやく!」

目を丸くした私たちに、紺ちゃんは軽く頭を下げた。
メイド服じゃない彼女は、
なぜか普通の17歳の女の子よりも、すこし大人びて見えた。
183 :溺れて人魚 :2004/12/30(木) 23:02

どうしたんだろう?
上がっておいでよと声をかけたのに彼女が首を振るばかりだから、
二人揃って、あわてて階下に降りた。
玄関を開けて、キンキンに冷えた空気に思わず身を竦める。
なにこれ、すっごい寒いじゃん!雪が降るはずよ。

「いつからいたの? 寒くない?」
「今来たばかりです。よかった、気づいていただけて」

石川さんもご一緒だったんですね。助かりました。
紺ちゃんはそう言ってかすかにほほ笑み、
このたびは真希様を助けてくださってありがとうございました、と深々と頭を下げた。
そんな……。私たちは慌てて手を振る。

「ごめんね、あの、ここにいること黙ってて」
「ごっちんが教えるなって言うからさぁ……」
「ええ、わかっています」

紺ちゃんはなぜか一瞬、何かを言い淀むように睫毛を伏せ、
それから思い直したように、グッと顔をあげた。
184 :溺れて人魚 :2004/12/30(木) 23:03

「あの、真希様のこと、これからもよろしくお願いします」
「え? ああ、うん」
「ずっと……お友達でいてあげてくださいね」

へ?
私とひとみちゃんは顔を見合わせた。
どうしちゃったの、紺ちゃんいきなり?
不可解な顔をした私たちに、紺ちゃんが突然とんでもないことを言い出した。

「私、北海道に帰るんです」
「ええっ?!?!?!」
「お暇を出されまして……その、つまりクビということですけれど」

うええええええっ?!?!?!
思いっ切りのけぞる。なんでなんでよ、ちょっと待ってっ!!!!
パニクりまくる私たちに、紺ちゃんはそっと微笑んで、
不思議なほど淡々と話を続けた。
185 :溺れて人魚 :2004/12/30(木) 23:03

 クビになって当然なんです。 
 ずっと真希様についているように命じられていたのに、
 大切な結納の場で、真希様を逃がしてしまった。
 旦那様はあえてお叱りにはなりませんでしたが、私の責任なんです。
 だって…………

「私、わざと真希様を控室にひとりにしたんです」

紺ちゃんの大きな瞳が、満ち充ちた水面のように震えた。

 私、わざと真希様を控室にひとりにしたんです。
 決して逃げられてはいけなかった。
 だけど、逃げてほしいと心のどこかで思っていた。
 お時間が迫ってくるなかで、真希様はずっと鏡台の前に突っ伏しておられて、
 私はその沈黙が耐えられないというように、控室を出たんです。
 そう、まるで沈黙が耐えられないというように、
 自分に都合のいい言い訳をして。
 
「だけど、ほんとは」

 逃げてほしいと、確かに思っていた。
 この隙に逃げてしまってほしいと。
 そして、次にドアを開けたとき、真希様は本当に窓から消えていて。
186 :溺れて人魚 :2004/12/30(木) 23:04

艶やかなまあるい頬に流れる涙は、後悔なのか悲しみなのか。
そのあとの大騒動。行方も生死もわからない不安。
美術館みたいなあの大きなお屋敷のなかで、
一体、何があったのかわからないけれど。

「クビなんて……ひどいじゃん、逃げたのは真希ちゃんなのに」
「でも逃がしたのは、私ですから」

 はっきりとはおっしゃいませんが、
 旦那様はきっと気づかれているんです、真希様が逃げた本当の理由。
 あれからほどなく、荷物をまとめるように言われましたから。

「そんな……だって……ひどいよ……」
「違う、誤解なさらないでください」

 旦那様は私に、……私なんかに頭を下げておっしゃったのです。
 申し訳ないが北海道に帰ってほしい、悪いようにはしないと。
 次の就職先まで、手配してくださったんですよ。
 私の最後のわがままも聞いてくださいました。
 真希様の無事が確認できるまでは、どうか綾小路家に置いてほしいという。
 …………感謝しています。
 
「そんな……」
「真希様は、しばらく留学されることになるでしょう」

 結納をスッぽかしての脱走劇、社交界はその噂でもちきりですからね。
 先方もたいへんお怒りですし、ほとぼりが冷めるまでは。
187 :溺れて人魚 :2004/12/30(木) 23:05

なんてことなの………
とっさにひとみちゃんを見上げると、彼女もショックを隠しきれない蒼白の頬。
そんな私たちを見て、紺ちゃんはひどく申し訳なさそうに眉を八の字にした。

「……では、失礼します。きっともうご連絡はいたしませんが……」
「ちょっ、紺ちゃん!紺ちゃんはホントにそれでいいの?!」
「…………………………」 

ほんとはこんなこと訊かなくったってわかってる。
頬に流れる紺ちゃんの涙を見たら、全部わかる。
傍にいたい、ほんとはずっと傍にいたい、
なにを諦めても傍にいたかった、だけど、だけどもうそれさえ………

ふいに頬にひとみちゃんの袖が押しつけられて、私は自分も泣いてるのに気づいた。
悔しい、無力な自分。真希ちゃんをかくまって、
ただかくまっただけで、何も…………

「……それでは、失礼します。車を待たせていますので」

目を上げると、少し離れて黒塗りの車が止まっていた。

「最後に、ご挨拶ができてよかったです」
「そんな、最後だなんて……」

紺ちゃんはエヘヘと笑うと、ポケットからハンカチを取り出して涙を拭いた。
そして、もう一度深々と頭を下げると、では……と踵を返した。
ああ、行っちゃう行っちゃう、どうしようと思った時、
それまでずっと黙っていたひとみちゃんが、たまりかねたように「コンコン!」と声をかけた。
188 :溺れて人魚 :2004/12/30(木) 23:06

紺ちゃんが、振り返って軽く首をかしげる。

「はい」
「……その、あれだ、ごっちんは知ってるの? コンコンが北海道に帰ること」
「……いえ、目が覚めたら気づくと思います。手紙を置いてきましたし」

 あの人は寝ぼすけだから、お昼頃まで眠っているかもしれませんね。
 その頃、私はもう、北海道です。

いたずらっぽく笑おうとして失敗し、紺ちゃんは再び目を伏せた。
そして立ち去る間際に、握りしめている指を開いて想いをさらさらと風に零すように、
二人の秘密を、美しかった夜を、そっと私たちに打ち明けた。

「さっきまで、一緒に眠ってたんです」
「…………………………」 
「今年のクリスマス、ちょっと遅れて来ましたけど」

 でも、一生忘れません。

雪のなか去っていくその後ろ姿、車に乗り込む横顔。
どうしよう、私たちこそ、一生忘れられないよ。
寒さも忘れて私はひとみちゃんにすがりついてわんわん泣き、
ひとみちゃんは拳を握りしめたまま、ずっとずっと天を見上げていた。

渦を巻くように初雪が振ってくる、暗い暗い空を。
これから朝が来るなんて信じられない空を。

189 :雪ぐま :2004/12/30(木) 23:07


本日はここまでといたします。
次の更新は、年が明けてからです。
今年1年、おつきあいいただき、ありがとうございました。
190 :名無飼育さん :2004/12/30(木) 23:48
更新乙です。
情景が浮かびます。

来年も娘。さんたちの活躍と雪ぐまさんのお話を楽しみにしています。
191 :オレンヂ :2004/12/31(金) 00:36
更新お疲れ様です。
胸が締め付けられますね。

今年1年、素晴らしい作品をありがとうございました。
来年も雪ぐまさんのステキな小説を読めることを楽しみにしています♪
192 :名無飼育さん :2004/12/31(金) 03:26
更新お疲れさまです。
美しくも切ない情景に、胸が締めつけられるような感じです。

娘。さんたちや小説の世界とは少し距離ができかけていたのですが、
今年雪ぐまさんの素晴らしい作品の数々に出会えたことで、
またヲタに逆戻りしちゃいましたーw
これからも陰ながら応援しております。では、よいお年をお迎えください。
193 :作者見習い :2004/12/31(金) 13:15
更新、お疲れ様です。
そして、今年一年、お疲れ様でした。

来年以降も楽しみに拝見させて頂きますので
よろしくお願いします。
194 :名無飼育さん :2004/12/31(金) 16:20
更新お疲れ様です。
なんかホントに涙がこぼれてきちゃいました。
切なすぎます…
今年は雪ぐまさんの作品と出会い、感動や切なさ、嬉しさを
たくさんもらいました。
来年も楽しみにしていますので無理なさらぬよう頑張ってください。
ではよいお年を。
195 :ピクシー :2005/01/03(月) 08:56
更新お疲れ様です。
そして、あけましておめでとうございます。
今年も楽しく読ませていただきます。

コンコン・・・
情景が目に浮かぶ・・・(涙)

次回更新も楽しみに待ってます。
196 :名無飼育さん :2005/02/06(日) 00:41
更新待ってます。
凄く感動しました〜。紺ちゃん頑張れ!
197 :名無飼育さん :2005/02/09(水) 15:14
面白いです☆
更新待ってます。
198 :名無飼育さん :2005/02/17(木) 00:21
切ないなぁ…。ほんと、切ない。
最初から読み直してみたけど、やっぱり切なかったw

雪ぐまさんの書く景色は、色がついています。
だから胸がキューてなったりポワワてなったりしすぎるんです。
なんとかしてくださいw
199 :雪ぐま :2005/02/21(月) 20:35
190> 名無飼育さん
ありがとうございます。昨年ほど頻繁に更新はできなさそうなのですが、
まったりと続けていきたいと思っています。どうぞよろしく♪

191> オレンヂさん
うちのこんごまはどうも悲恋めいてしまう傾向が……。
今年もぼちぼち書き続けていこうと思っています。どうぞよろしく♪

192> 名無飼育さん
うれしいお言葉、ありがとうございますーw 今年もお楽しみいただけると
いいなあと思っています。頑張ります〜♪

193> 作家見習いさん
ありがとうございます。昨年は娘。小説に始まり、娘。小説に終わった
1年でした。今年もスローペースながら、そうなりそうな予感ですw

194> 名無飼育さん
すごくうれしいです。雪ぐまも194さんをはじめたくさんの読者様から
感動や励ましをたくさんいただきました。感謝しています。

195> ピクシーさん
大切な思い出のある初雪の日に去って行ったコンコン。切ない決意です。
更新お待たせして恐縮ですが、今年もお楽しみいただけることを祈っています。

196> 名無飼育さん
レス、ありがとうございます。
北海道に帰った紺ちゃん、今ごろ何をしているのでしょうか……
200 :雪ぐま :2005/02/21(月) 20:35
197> 名無飼育さん
レス、ありがとうございます。
さくさく更新できずに恐縮ですが、頑張ります。

198> 名無飼育さん
最初から……けっこう長かったのでは? 大切に読んでいただけて
すごくうれしいです。これからもキューてなってもらわなくっちゃですねw

それでは久々の更新にまいります。

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