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続・愛するトメっち

1 :雪ぐま :2004/05/24(月) 06:14
またまた、お話の途中で引っ越しとあいなりました。
(うっかりしてて、1000レス埋める前に容量がいっぱいになったようです)
また雪版でお世話になります。

前々スレ、こちらです↓。
『記憶より彼方で』『かわいいあの子』『ジェラシー』『愛するトメっち』
http://mseek.nendo.net/snow/1070181553.html

前スレ、こちらです。
『続・愛するトメっち〜溺れて人魚〜』
http://m-seek.on.arena.ne.jp/cgi-bin/test/read.cgi/mirage/1074691719/

初めてご覧になっていただいた方、前々スレ>>406からお読みくださいませ。

それでは『続・愛するトメっち〜溺れて人魚〜』、続きでございます。
2 :溺れて人魚 :2004/05/24(月) 06:16

すこし弱ってる私をあなたはちゃんと感じて、
胸に抱き寄せて、ゆっくりと背中を撫でてくれた。
円を描くように動く、あたたかな手のひら。
また、涙があふれ出した。
胸の中にずっとしまい込んでた澱が溶けて流れ出るように。

「よし、泣け、泣け」
「……うう……く、悔しい……」
「はぁ? 何がぁ?」

あなたに夢中すぎて、悔しいな。
こんな一方的に慰められたりしちゃってさ。

ひとみちゃんの浴衣を無理やりエイエイとはだけさせて、
絹のような素肌に直接、頬を押しつけた。
あたたかな腕にしっかり囲まれたこの場所は、私が一番安心する楽園。
どんな理由でも、私を離さないで。他の誰も、入れちゃだめだよ?
3 :溺れて人魚 :2004/05/24(月) 06:17

「トメっちこそ」
「ん、なに?」
「……ここだけってことで」

あなたの腕の中で、私は吹き出した。
額がコツンと鎖骨に当たった。
かわいいな。私の機嫌を直すには、ひとみちゃんのヤキモチが一番みたい。
そう呟いたあたしに、ひとみちゃんはむっつりと黙り込んで、
それから息ができなくなるくらいギュウギュウと私を楽園に閉じこめた。

4 :雪ぐま :2004/05/24(月) 06:19


本日はここまでといたします。
5 :雪ぐま :2004/05/24(月) 06:31
痛恨のミス。
前スレにエラーメッセージが出て、こちらへの誘導のURLも貼れません……。
紫板の連載のほうにも貼りますが、
もしも身近にこのスレが見つけられずお困りの方がいらっしゃったら
どうぞ教えてあげてくださいませ……。
6 :名無飼育さん :2004/05/24(月) 11:49
見つけましたw

更新乙です!
紫の方と合わせて、お疲れ様です。
雪ぐまさんと同じく昨日の卒業ニュースで
眠れぬまま朝を迎えたのですが、更新のおかげで
なんとか癒されました。( ´D`)ノ<テヘ
7 :名無しp. :2004/05/24(月) 12:06
石川さんの卒業ニュースは、ショックで血の気がひきました。
旅立つ石川さんへのはなむけに、雪ぐまさんの素敵な小説はぴったりだと思います。
これからも頑張ってください。応援しています。
8 :オレンヂ :2004/05/24(月) 13:04
更新お疲れ様です。紫から飛んできました。
梨華ちゃんの卒業の発表のタイミングに驚きましたが、
これからまた大きく成長していってくれることに期待しています。
よっすぃ〜もサブリーダーになるということで
大きく成長してくれると思うので、見守っていきたいと思います。
それに、卒業しても4期は家族ですから。
これからも更新楽しみにしています。
9 :名無飼育さん :2004/05/24(月) 21:09
石川さん卒業のニュースを知り激しくショックでした。
仕事中もふと思い出しては落ち込んでしまって ( ^ ^
でも雪ぐまさんの小説で楽になりました。
これからもずっと応援してます。



10 :よっすぃファン :2004/05/24(月) 22:56
更新お疲れ様です。ついに梨華ちゃん卒業・・・。
よっすぃはどう感じているんでしょうね(;△;)
娘の卒業はおめでたいけどやっぱ悲しいです・・・。
11 :名無し23。 :2004/05/25(火) 16:30
新スレおめ&更新乙でございます。
いつかは・・と覚悟はしていましたが、実際それに直面するとやっぱり頭が真っ白になるものですね。
身近にいる人はどんな想いでいるのかと考えると、せつない過ぎます・・
新しい道を進む彼女たちにどうか幸あれと願ってます。
こちらのふたりは、大切なモノをしっかりとその手に抱き締めているようですね。
その手を離さないで欲しいです。
12 :雪ぐま :2004/05/26(水) 00:02
こんばんは、雪ぐまです。本日は、お知らせのために現れました。

====================
☆お知らせ☆
雪ぐまの小説倉庫サイトを開設いたしました。
これまでにM-seekでUPさせていただいた小説をまとめてあります。
新作とかはありませんが、よろしければ、ぜひのぞきにきてください。

『snow flakes』
http://yukiguma.s45.xrea.com/index.htm
====================

石川さん卒業ショック、およびよりによってこんな時に痛恨のミス!というショックで
リングに倒れたボクサー並みに冴えない気分に陥った雪ぐまでございましたが、
でも、また皆さまのあたたかいレスに励まされました。
ええ、一緒にいしよしを見守りましょうとも!
また気持ちが落ち着いた頃、こちらも元気に更新しますのでマターリお待ちくださいませ。

思いのほか長く続いている愛トメシリーズ、
この機にぜひ一度、読み返してみられてはいかがでしょう?なんてw
雪ぐまはエロシーンを読み返してウギャー!という気分になりましたw
13 :達吉 :2004/05/28(金) 19:04
『続・愛するトメっち』のスレたってたんですね!
今日気づきました^^;
石川さんの卒業はオイラもかなりのショックを受けました・・・
でも卒業は来年の春らしいので、それまでは今までどおり精一杯応援していきたいなーと思っております^^
14 :ななしくん :2004/06/09(水) 01:40
更新ありがとうです!
次回も楽しみにまってます。
15 :ピクシー :2004/06/11(金) 01:10
初レスします。

遅れ馳せながら、新スレおめでとうございます。
次回更新も楽しみにまってます。
16 :名無飼育さん :2004/06/20(日) 13:52
銀板のも読みました!面白かったッス!
こちらの更新もお待ちしていますね
17 :雪ぐま :2004/06/23(水) 14:48
ほぼ一ヶ月ぶりですね。お久しぶりでございます。

6> 名無飼育さん様
ああもう、この更新をした日の夜はキツかったですねぇ……。新しい旅立ちなのに、
喜ばしいことなのに眠れなくって。でも、前向きに連載を続けていこうと思います。

7> 名無しp. 様
なによりもうれしいお言葉、ありがとうございます。感激です。
石川さん頑張ってるし、よっちぃ輝いてるし、新しい時代の幕開けですね。

8> オレンヂ様
そうですね。離れてもつながってるから家族ですもんね。
でも、辻ちゃん加護ちゃんの卒業コンサートは泣いちゃうかもなぁ。うぅ。

9> 名無飼育さん様
うれしいお言葉、ありがとうございます。雪ぐまも、皆さまのレスに励まされました。
娘。を卒業しても同じハロプロメンバー。それぞれの場所で輝いていく姿を楽しみにしています。

10> よっすぃファン様
おめでたいけど、悲しいんですよねー。あるものがなくなるのは寂しい、そういうことでしょう。
最近のよっすぃーはとても前向きに見えますね、雪ぐまには。いいことだなあと。

11> 名無し23。様
思いがけないタイミングの卒業で、すでに書いてた話はすべてボツ。うーん、読みが甘かったなぁw
なにもリアルをなぞることはないんですが気持ち的にね。でも、ちょっと復活してきましたよ〜。
18 :雪ぐま :2004/06/23(水) 14:50
13> 達吉様
うまく次スレ誘導できなくってごめんなさい。やっぱりあの時はかなり心乱れていたw
生き馬の目を抜く芸能界で、1年は長いのかな短いのかな。うまく飛び立ってほしいですね。

14> ななしくん様
お待たせいたしました。いやはや、心苦しい限りです。

15> ピクシー様
はじめまして♪ お待ちいただいてしまって恐縮です。しばらくこの調子ですが、どうぞご容赦を。

16> 名無飼育さん様
銀板の癒しのメソッドいしよし外伝『夜の迷路』、あれは珍しくかなり悶絶しましたw
でも、なんかちょっとふっきれたかな。ぼちぼちこちらも進めていこうと思います。

それでは、ひさびさの更新にまいります。
19 :溺れて人魚 :2004/06/23(水) 14:51


ひとみちゃんの腕の中で泣くだけ泣いて、すこし落ち着いた私。
うん、いつまでも不安がってても仕方ないね。
神様に誓うことはできない私たちの恋。
だけど、信じて、立ち上がって、歩いていかなくっちゃあ。
しっかりと手をつないでね。

「ヤだよ、恥ずかしいだろぉ?」
「えー、なによぉ」

もう、さっきまではあんなにやさしかったのにぃ。
さびれた温泉街を散策しながら、私は盛大にふくれていた。
ひとみちゃんって、ふたりっきりの時と、世間様の前とで見せる顔が違いすぎるわよ。

「当たり前でしょ? もういい歳なんだからさぁ」
「なによぉ、隠すのメンドくさいって言ってたじゃん」
「そーだけど、別に言いふらして歩くことでもないでしょ」

まあね。
でも、旅先なんだから、いいじゃん。
20 :溺れて人魚 :2004/06/23(水) 14:51

「ばっか、どこで誰が見てるかわかんないだろぉ?」

そう言って、ほら、とチラリ目配せしたひとみちゃん。
え? さりげなく首をめぐらせて、私は驚く。
温泉街に似合わないぴかぴかしたコンビニの前でかたまってた女子高生達が、
なにやらきゃあきゃあ騒ぎながら、お土産物屋さんの前に立ってる私たちを見ていた。
ああ、また“yossy”だって気づかれてる、ひとみちゃん。
こんな鄙びた町でも……って、雑誌は全国に流通してるのよねえ。

「今日はキャップかぶってないからなあ」

油断した。
ひとみちゃんは、そう言いながらもたいした問題でもなさそうに温泉まんじゅうなんて眺めてる。
そうよね、あんまり意識するのも変だし。
そう思って私も土産物に意識を向けた瞬間。

「あの………」

たちまち集団の女の子たちに取り囲まれていた。
わっ!と驚いた私に対し、ひとみちゃんはハイハイと言わんばかりの余裕の表情。

「はい、yossyです」
「キャーー、やっぱりーー!」

ひとみちゃんは、求められるままに笑顔で握手を交わす。
写真は編集部に怒られるんで勘弁してくださいとか言いながら。
ポツンと取り残された私。えっと、どうしよ?
なんとなく気まずく思いながら輪を離れかけたんだけど。
21 :溺れて人魚 :2004/06/23(水) 14:52

「あれ?」

女子高生のひとりが、私の姿に目を止めて小さく声をあげた。

「もしかして、Rica☆さん?」

わっ!
私はたちまちドギマギとなって、ひとみちゃんを見上げた。
私が載ってる新創刊の雑誌は発売されたばかり。
なのに、もう名前とか知られちゃってるの?
ひとみちゃんが笑って、私を輪に招き入れた。

「そう、Rica☆ちゃん。もう新しい雑誌、見てくれたんだ?」
「そりゃあ、チェックしてますよーぉ! yossyさんもそっちに移ったしぃ」
「うれしいな、これからもヨロシクね」

すらすらと余裕のトーク。
女の子あしらいのうまさは昔から。
私はただぎこちなく笑って、次々に差し出される手をおずおずと握ってゆく。
なんとなく、いつもお客さんに接してる時のクセでペコペコしながら。
22 :溺れて人魚 :2004/06/23(水) 14:53

「Rica☆ちゃんって、案外ちいちゃーい。うちらと変わんないね」
「う、うん」

だって、ひとみちゃんの友達だからモデルに選ばれてるだけだもん。
なんだか申し訳ない気持ちになっちゃう。私みたいな平凡な子が……

「でも、ほっそーい。かわいいー」
「え?」
「こんなとこで会えるなんてカンゲキー。実物もすっごい美人だねー」
「笑顔がさあ、すっごくいいなって思ってたんだー」
「あ、ありがとうございます」

えー? ええーーー???
私はオンボロなお弁当屋のおねえちゃんで、美人だなんて誰からも。
そう、ひとみちゃんが時々囁いてくれる以外、こんなふうに持ち上げられたことはなくて。
初めて出会った女の子たちが、今コンビニで買ったらしいお菓子やらジュースやらを取り出して
これあげる、これも食べてと、一生懸命、好意を向けてくれる。
そして、またこの町に遊びに来てねなんて、にこにこと手を振りながらいつまでも見送ってくれて。

「わぁ、びっくりした」
「イイコたちだったね」

当たりだ。
そんなふうにひとみちゃんはフフッと肩をすくめ、
たまに変なヤツもいるから気をつけろよなんて先輩風を吹かした。
23 :溺れて人魚 :2004/06/23(水) 14:54

「いまに、トメっちのお弁当屋さんにファンが押しかけてくるようになる」
「ええっ?」
「そういうこと、始めたんだよ」

そう呟いたひとみちゃんの横顔は、どことなく大人びていた。
遠い空にふと目を細めながら、ひとみちゃんは、
これまでに話してくれたことがないことを話しはじめる。

「あたしもさ、最初はちょっとびっくりしたんだ」

 テキトーな気持ちではじめたんだよ、モデルなんて。
 軽いノリでさ、ちょっとおいしいバイトって感覚でさ。
 なんかカッコいいし、いいかなって。

「やってみたら、ものすごい可能性が広がってる世界だって思った」
「…………………………」
「やる気になりゃ超稼げるし、もっと有名になることだってきっとできるし」
「有名に、なりたいの?」
「んー、いや、あたしはもしかしたら向いてないかも」

 いろんな人と会えるのは楽しいけどね。
 大学卒業したら辞めるかも。
 アヤカさんみたいに編集部に入ったりするほうが向いてるかもな。
24 :溺れて人魚 :2004/06/23(水) 14:54

「アヤカさんって、モデル出身なの? どうりでキレイだと思った」
「あの人もいろいろ可能性確かめてから選んだ道だからさ、すげー頑張ってるよね仕事」

店先の変な木彫りの人形なんていじくってるくせに、
ひとみちゃんの口から出てくる言葉は、いつものバカっぽさとはまるで違っていて。
私はあっけにとられて、その薄いピンク色の唇を見つめていた。
ひとみちゃんが、ちょっと照れたように笑う。

「トメっちもいろいろやってみたらいいかなって」
「わ、私はお弁当屋さんが好きだよぉ。お母さん、心配だし」
「わかってるけど」

 案外、派手な世界が向いてるかもしれないし。
 すごいいいとこまで、行きそうな気がしないでもない。

そんなことないよ。
私はすぐにひとみちゃんの言葉を打ち消しながらも、うれしいなあって思ってた。
ひとみちゃんが私の可能性を考えてくれてることについて。
私の魅力、そんなものがあるとすればだけど、
誰よりも好きな人が、私の魅力をとても高く評価してくれていること。
そして、その眩しい瞳をやさしく細めて、ぐいぐいと手を引いて、
私をたくさんの人が見つめてくれる大きな舞台に引っ張り出してくれたこと。
25 :溺れて人魚 :2004/06/23(水) 14:55

「ひとみちゃん……」

目をうるうるさせながら、人目も気にせずに抱きつきかけた私に、
ひとみちゃんは、変な銀色ギラギラのビニールのイカキーホルダーをひょいと差し出した。

「ところで、これ、お揃いに」

はあっ?!
いきなり、なんの話よ?

「約束したじゃん、クリスマスの時。お揃いのキーホルダー買おうって」
「これは絶対イヤ!」
「じゃあ、これは? 温泉キティちゃん」
「ちょっとぉ。もっと真剣に考えてよっ!」

だいたいお土産物屋さんでお揃いを探そうっていうのが間違ってるのよ!
あーあ、もう、さっきまでの感激も台なしっ!
プンスカ怒りはじめた私に、ひとみちゃんはのんきに返事を返す。
26 :溺れて人魚 :2004/06/23(水) 14:56

「松浦とミキティは、土産物屋で買ったマリモ頭のモンチッチ財布、お揃いにしてるけどぉ?」
「あのふたりのセンスに流されちゃダメッ!」
「あっ、ミキティが聞いたら怒るよ〜?」

 トメっちにだけはセンスのこと言われたくない、とかって。

ひとみちゃんは、いつものようににやにや笑う。
何よ、それじゃまるで私がセンス悪いみたいじゃないのっ。

「くやしいっ! これから、すっごいオシャレになるんだから!」
「あー、楽しみ楽しみ」
「ちょっとぉ! 馬鹿にしないでよねっ!」

くっくっと笑う大きな背中をドンと叩いて、私もプッと吹き出した。
大好きよ。照れ屋さんのひとみちゃん。
ちょっとデリカシーないけど、時々ヘタレだけど、女タラシなとこもあるけど、
きっと私にしか見せない、そんな素顔を大切にしてる人。

「ねぇ、私のこと、超好きでしょ?」
「はぁ? 何いってんの?」

振り返った時、くにゃくにゃっと緩んだ口元。
私はもう飛びっきりの笑顔で、惚れ直させちゃうぞ?ってな笑顔で、
青い空をしょったひとみちゃんを見つめた。

27 :雪ぐま :2004/06/23(水) 14:56


本日はここまでといたします。
28 :オレンヂ :2004/06/23(水) 17:17
更新お疲れ様です。
思わずキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!と一人叫んでおりましたw
最近、よっすぃがどんどんキレイになっていってて
ほんとにファッション雑誌に登場してほしいなぁと思ったり。
ここのよっすぃみたいにもっと女の子に人気でると思うんですよね。

愛トメ復活してくれて本当にうれしいです。
これからもマイペースでがんばってください。
29 :ななしくん :2004/06/26(土) 02:14
これからも楽しみにしてます(´∀`)
すごく好きな二人です。
30 :ピクシー :2004/06/26(土) 10:27
更新お疲れ様です。

う〜ん、まったりラブラブ・・・
あ゛ぁ゛〜!温泉街行きたい(w

次回も楽しみに待ってます。
31 :名無し募集中。。。 :2004/06/27(日) 22:41
久々にキテタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!!!
あーやっぱ面白いっすねー
32 :雪ぐま :2004/07/25(日) 22:33
28> オレンヂ様
最近のよっすぃ〜、かっこ良すぎですねぇ〜。髪型も好きです、雪ぐまは。
ちょいシリアスな映画のお仕事とかくるといいのにね。きっと映えると思います。

29> ななしくん様
どうもありがとうございます。雪ぐまもこの二人が大好きです。
お待たせしちゃっていて心苦しいですが、どうぞこれからもお付き合いくださいまし。

30> ピクシー様
雪ぐまも温泉行きたい〜〜!w ちょっと遅かったふたりのラブラブ新婚旅行、
どうやらしっかりと絆を深められたみたいです。

31> 名無し募集中。。。様
ハイ、キマシタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!!!
ありがとうございます。これからもそう言っていただけるように頑張ります。


それでは、ひさびさの更新にまいります。
33 :溺れて人魚 :2004/07/25(日) 22:34


「でねっ、おかげさまで温泉旅行はとーーーっても楽しかったの!」
「それはよかったです」
「すっごい素敵なお部屋でねぇ、ああ、もう真希ちゃんにお礼言っといてねホント!」
「はい、お伝えしておきます」

ラブラブ温泉旅行から帰ってきた次の日、私はお土産をもってさっそく綾小路家へ。
残念ながら真希ちゃんは大学に行ってて留守だったんだけど、
応接室に招き入れてくれて紅茶をすすめてくれた紺ちゃんを相手に、
さっそくノロケモード、全開でスタート! ご機嫌でスタート!

「なんてったって、畳っていうのが新鮮よね〜」
「えっ? は、はぁ……」
「紺ちゃんも、ドキドキしなかった?」
「え? あ、何がですか?」
「も〜〜〜、しらばっくれちゃって〜〜〜〜」

コノコノッ!
つんつんとメイド服の肩先をつっつくと、
紺ちゃんはかすかに薄気味悪そうな目で私を見た。
あっ、引かれちゃった? やだ、どうしよ。
あたしって、やっぱりキショい? ねぇ、キショいかなぁ?
34 :溺れて人魚 :2004/07/25(日) 22:34

たちまちどよんと落ち込んだ私を見て、紺ちゃんは目を丸くし、
そしてこらえきれないというようにうつむいて、くすくすと笑いはじめた。

「石川さんって、見た目とちょっと違いますね」
「そぉ?」
「ええ、もっと……」

紺ちゃんは何か言いかけて、ええっと、というように目を泳がせる。
なるほど、失礼のない言い方を探してるってわけね。
私はツンと唇を尖らせる。

「いいよ、別に気をつかわなくっても」
「え?」
「キショキャラで通ってるから、もともと」
「キショキャラ、ですか?」
「そう」

いつ頃からかな。そうだ中学校くらいからだ。
自分では変なことしてるつもりも言ってるつもりもないんだけど、
ギャグが寒いとか、自分で笑うなとか、ブリッコだとか、
そうよ、まりっぺとかはともかく、ひとみちゃんが超ひどくってさー。
あの頃は、つらかったわー。ほんと口が悪いんだもん。

まあ、口の悪さは、今もあんまり変わらないんだけど。
温泉旅行の時が、大サービスでやさしすぎたくらいだもんね。
35 :溺れて人魚 :2004/07/25(日) 22:35

「キショキャラで有名なのよ、私」
「文麿様……いえ、真希様はそんなふうにはおっしゃっていませんでしたが」
「だってー、文麿さんの前では気取ってたもーん」

今はひとみちゃんもそれなりに褒めてくれるけどさ、
あの頃は、私のこと褒めてくれるのは文麿さんだけだったんだもん。
ああ、すっごくうれしかったなぁ。
上品だわ〜、紳士的だわ〜、さすがだわ〜なんて、いっつも感心してた。
それに比べてひとみちゃんときたら、まったくもう!

「紺ちゃんがうらやましいよー、あんなやさしい人が恋人だなんてー」
「え? ええ……」
「上品だし、何やってもスマートだしさぁ」
「そ、そうですね……」
「それに、なんかすっごいロマンチストっぽくない? ねぇ?」
「……だめですよ?」
「へ?」
「い、いえ、何でもありません」

なぜか、真っ赤になってプイッとそっぽを向いてしまった紺ちゃん。
あれ? 褒めたつもりなのになんでかしら? まあ、いいわ。
36 :溺れて人魚 :2004/07/25(日) 22:36

私はいつの間にかノロケモードから愚痴モードにシフト変換。
ちょっと、聞いてよ紺ちゃん、ひとみちゃんったらひどいんだよー?

「何がですか?」
「温泉キティのキーホルダーお揃いにしようとかさー、どうよ?」
「………私たちはお揃いでドラちゃんの携帯ストラップをつけていますが」
「ええっ?!」

ド、ドラちゃん?
ちょ、ちょっと待って。ドラちゃんって、あれ?
ほんわかっぱっぱー、ほんわかぱっぱーのドラちゃん?

「うっそぉ!」
「ホントですよ。ホラ」

紺ちゃんはさっそく、メイド服のエプロンから携帯を取り出した。
そして恥ずかしそうに、でもどことなく得意げに見せてくれる。
ドラちゃんが片手をあげてウインクしてる、超オマヌケな携帯ストラップを。

「真希様がくださったんです」
「ちょっとぉー、真希ちゃんってそういう趣味なのぉ?!」
「お好きなんですって、ドラちゃん」

ふふふっと、紺ちゃんは白桃みたいな頬っぺたをうれしげに緩めた。
かわいいですよねぇ?みたいに。
37 :溺れて人魚 :2004/07/25(日) 22:37

ガーーーン……
私はなんか、打ちのめされた気分。
ああ、もしかしたらこれがホントの愛ってやつかもしれないわ。
そ、そうよね。好きな人が好きなものは、愛おしく感じるものよね。
ああ、そうだわ! 私も拒否しちゃいけなかったわ!
ひとみちゃんが好きならギラギラのイカのキーホルダーだってなんだって!!
……まあ、ひとみちゃんの場合、私をからかってるって可能性があるんだけど。

「……紺ちゃんってエライわ〜」
「ええ? そ、そうですか?」
「私ならきっとつけられない、ドラちゃんは……」
「そうですかねぇ?」

とってもうれしかったですけど、うん。
紺ちゃんは、目の高さに携帯を持ち上げ、ちょっと寄り目になりながらストラップをジッと見た。
そして、ふと思い立ったようにポソポソと話しはじめた。
まるで、ぷらぷらしてるドラちゃんに話しかけるみたいに。

「私の場合、真希様とおつきあいできていることが奇跡なので」
「奇跡?」
「はい、雲の上の方ですから」
「そんな……」
「ほんとにそうなんですよ?」

残念ですけれど、ね。
すっと携帯を膝におろし、紺ちゃんは私にニコッと微笑んだ。
それは卑屈な笑顔じゃない。
むしろ、なにか潔ささえあるような。
38 :溺れて人魚 :2004/07/25(日) 22:38

「だから、真希様が与えてくださることは、すべてうれしいんです」

私はとっさになんとも答えられず、
ただ黙って紺ちゃんの顔を見ているしかなかった。
ああ、どうしよ。これ、何か言わなきゃ、気まずいよねぇ?
でも、なんて? なんて……?

そう思った瞬間だった。
それまで静かだったエントランスの方から、
悲鳴のような怒鳴り声がかすかに聞こえてきた。

「………だから、イヤだって言ってるでしょ!」

紺ちゃんが、ハッと応接室のドアのほうに顔を向ける。

「あ、真希様、お帰りになってるみたいですね」

慌てて立ち上がり、パタパタと駆けていく紺ちゃん。
ああ、良かった。あたしはちょっとホッとしながら、その背を追って立ち上がる。
紺ちゃんが応接室のやたら重厚なドアを大きく開けた瞬間、
これまでまるで聞こえなかった声が、うわっと耳に飛び込んできた。
それは真希ちゃんと誰かが、激しく言い争う声。

「もう、いいかげんにしてよ! あたしはもうパパのいいなりにはならない!」
「真希、落ち着いて聞きなさい」
「嫌だっ! あたしは誰とも結婚しない! 許嫁なんてしらな……」
39 :溺れて人魚 :2004/07/25(日) 22:39

コトン。

紺ちゃんが立ちすくみ、その手から携帯を取り落とした。
ハッとしたような真希ちゃんの声が聞こえてくる。

「こ、紺野……、そこにいたの?」
「あ、し、失礼しました」

お話のお邪魔をして申し訳ございません。
そう言って、あわてて紺ちゃんは落としてしまった携帯を拾った。
そして胸元で手のひらが白くなるほどギュッと握りしめた。
ドラちゃんの携帯ストラップを隠すように。

「お、お帰りなさいませ。旦那様、お嬢様」
「うむ。ああ、紺野、今日の夕食はいらないとシェフに伝えてくれ」
「はい。お出かけでございますか? お召し物は?」

私は、いまさら真希ちゃんたちの前に出ていくこともできず、
応接室の中で息をひそめ、ただ紺ちゃんの横顔をじっと見つめていた。
奇妙に淡々と進んでいく浮世離れした会話を呆然と聞きながら、
私の耳にはさっき聞いた気になる言葉がリフレインする。

許嫁? いいなずけって、言ってたよね、真希ちゃん。
あたしは誰とも結婚しないって? どういうこと?
40 :溺れて人魚 :2004/07/25(日) 22:40

「私はこのままでいい。真希にはドレスを」
「パパ! あたしは行かないって言ってるでしょ!」
「用意しなさい、紺野。今夜は、この子の許嫁に会うことになった。一番似合うものを」

ええっ?!
私は思わず腰を抜かしそうになった。
紺ちゃんの横顔が、わずかにスッと白くなる。

「……はい、すぐにご用意いたします」

それはとても平坦な声。
声が震えてしまわないように、ゆっくりと低く、ていねいに。
静かに頭を下げて、紺ちゃんは応接室を出ていく。
真希ちゃんの悲痛な声が、その姿を追いかけた。

「紺野、待って!」
「真希、話が終わっていないぞ」
「ちょっ、離してよっ……」
「……どうして、そんなにあの子のことを気にするんだ?」

旦那さんの低い声に、真希ちゃんはそれ以上何も言えなくなったようだった。
私は、たまらずに応接室を飛び出して、紺ちゃんの背を追いかけた。
41 :溺れて人魚 :2004/07/25(日) 22:41

「紺ちゃんっ!」

突然、応接室から飛び出してきた私に、
真希ちゃんも恰幅のいい旦那さんもギョッとしたように目を丸くした。

「ト、トメちゃん!」
「だ、誰だね、君は!」
「そこのお弁当屋の石川です、 真希ちゃんと紺ちゃんのお友達ですっ」

あいさつもそこそこに紺ちゃんを追いかける。
速足でドレスルームに消えた紺ちゃんを追いかけて、そのドアをバッと開けて室内に飛び込んだ。
後ろ手にバンとドアを閉めて、驚きのままにあわあわと声を挙げる。

「ちょ、ちょ、ちょっと紺ちゃん、許嫁って!」
「石川さん、困ります、落ち着いて!」

旦那様に、私たちのことが疑われたら!
囁くように小さく、でも鋭い矢のような声が鼓膜に突き刺さった。
あっ……。私はハッと我に返って、よろりとドアに寄りかかる。

「あ、ご、ごめん、つい……」
「いえ……」
42 :溺れて人魚 :2004/07/25(日) 22:42

数えきれないほどの色とりどりのドレスのなかで、
地味なメイド服を身にまとった紺ちゃんは、静かに微笑んでいた。
信じられないほど、穏やかな顔で。

そして、ゆっくりと、そのぽってりとしたかわいらしい唇を開く。

「申し訳ありませんが、今日はお引き取りください」
「紺ちゃん……」
「私は大丈夫です。……わかっていたことです」

思ってたよりも、すこし、はやかったですが。
そう言って紺ちゃんは一瞬、一瞬だけ、泣きそうな瞳になってうつむいた。
けれどもすぐに彼女はぐっと顔を上げ、ガサガサとドレスの束を掻きわけはじめた。

私はそれ以上何も言えずに、ただ黙って紺ちゃんの姿を見つめていた。
山のようなドレスのなかから、紺ちゃんがサッと選び出したのは、
いかにも真希ちゃんに似合いそうな深紅のドレスだった。
真希ちゃんをスカーレットのように凛々しく、神々しく、美しく見せるに違いない、
燃えるような色彩のうっとりするほど高貴なドレスだった。
43 :溺れて人魚 :2004/07/25(日) 22:43

ああ、どうしよう、どうしよう。
馬車でも走り出てきそうな大きな門を出て、トボトボ歩く帰り道。
夕陽を背に長く伸びる自分の影を見ながら、私はただ無力を感じていた。

真希ちゃんはびっくりするほどお金持ちのうちの子で、私たちとは違う世界の人。
親が決めた許嫁なんて信じらんないよ、この21世紀に。
だけど。

ポケットから携帯を取り出し、ひとみちゃんに電話をかけようとして、やめる。
ひとみちゃんの声聞いたら、絶対、私、すごく泣いちゃう。
真希ちゃん可哀想、紺ちゃん可哀想って。

電話口で大泣きされても、ひとみちゃんは困るよね。
今夜、会った時に話そう……。

私は、一度取り出した携帯を、再びポケットにしまい込んだ。
あとで思い返せば、このことは暗示的だったかもしれない。
ひとみちゃんへの小さな秘密を、この胸に隠し持つ予兆として。
44 :溺れて人魚 :2004/07/25(日) 22:44

重い足取りで店に戻ると、なぜかお母さんが店じまいの準備をしていた。
あれぇ? あわてて駆け寄る。
まだ7時前だよ? 今日はもうおしまいにするの?

「トメ子と一徹さんが来てるのよ」
「だからって」
「大事な話があるんだって。梨華、あんたに」

なにか、嫌な予感がした。
そして、その予感は、すぐに的中した。

「ヤダよ! 冗談じゃないわよ、お見合いなんて!」

差し出された写真をリビングのテーブルに放り出してわめいた私に、
トメ子姉ちゃんとお母さんは、やっぱりね、という顔をした。
あったり前でしょ?! そんな話、お断りに決まってる!

「いいお話よ。若社長さんよ、ほら、ハンサムで」
「いーーーやっ!」
「一度、会ってくれるだけでもいいんだけど……」

どうしてだか、トメ子姉ちゃんはひどく弱り果てた声。
どんな義理があるのか知らないけど、かまってられないわよ、そんなの!
私は、頑として首をふった。

「イヤよ。 私、まだ19よ?」
「わかってるわよ。だから先方だって、今すぐどうこうってお話じゃないの」
「ぜったいに、イヤです」
45 :溺れて人魚 :2004/07/25(日) 22:46

はあっとため息をついて、チラと一徹さんをうかがったトメ子姉さん。
一徹さんは苦虫を噛みつぶしたような顔でジッと目を閉じ、腕を組んだまま。
シーンとなったリビングで、仕方ないわねというようにお母さんがため息をつき、
事の経緯をボソボソと話しはじめた。

「お相手の方はね、一徹さんの会社の、一番大切なお取引先様なのよ」
「………だっ、だからなによ」
「その方、お前の載ってる雑誌を見たんですって」

思いがけない理由に、私はギョッと目を丸くした。
お母さんはため息まじりに話し続ける。

 社長さん、会社のOLさんが読んでた雑誌を見て、
 えらくあんたのこと気に入ったんですって。
 そのOLさん、あんたが一徹さんの義理の妹だって知ってたのよ。
 一徹さんの会社の誰かから聞いてたんでしょうね。
 それで、今日、一徹さん、社長さんに呼び出されて……
46 :溺れて人魚 :2004/07/25(日) 22:47

「そ、そんな……」

思わず、絶句する。
温泉旅行で聞いた、ひとみちゃんの言葉が耳に蘇った。

 『やってみたら、ものすごい可能性が広がってる世界だって思った』

それは、こんな可能性の話じゃないはずだった。
たくさんの人に愛され、応援されて、
華やかな世界へと飛び込んでいく入り口だったはずなのに。
なのにまさか、まさかこんな卑怯なルートで狙い撃ちされる可能性があったなんて……

「……い、や、だよ」

震える声を押し出した。
私、真希ちゃんみたいって思った。
ねえ、住んでる世界が全然違うのに、私たちなんだか同じ目にあってるよ。
どうして? 誰も悲しませたくない。困らせたくない。
ただ……、ただ、好きな人がいるだけなのに!
47 :溺れて人魚 :2004/07/25(日) 22:48

「いやだよぉ!!」

ワッと泣き出したあたしに、お母さんはギョッと驚き、
「みっともない、こんなことで泣かないの!」と叱った。

そりゃあ、そうだよね。
まだはやいと嫌がるかもしれないとは思っても、
まさか泣くほど嫌がられるとは思ってたかっただろうから。
19歳の女の子。彼氏がいる気配、ナシ……

「なによ、誰か心に決めた人でもいるの?」

ちょっとだけ迷って私は、仕方なくウウンと首を横に振った。
じゃあ、いいじゃないの、会うくらい。
トメ子姉ちゃんたちと私との板挟みになったお母さんが、なだめすかすようにそう言う。

「やだもん……」
「どうして? いいお話よ。真面目な方じゃないの。ちゃんと結婚を前提におつきあいしたいからって」
「それが嫌なのっ!」
「どうして?」
「け、け、結婚くらい好きな人とさせてよぉ!」
「好きになるかもしれないじゃないの、その人のこと」

ならない。
私は、手の甲で頬っぺたの涙をぬぐいながら断言する。
ならない、ならない、ならない、ならないったらならないモン!
48 :溺れて人魚 :2004/07/25(日) 22:49

「どうして?」
「どうしてもーーっ!」
「梨華、あなたねぇ……」
「嫌なのーー!!」

たいした断りの理由もなさそうなのに、どうしてもウンと言わない私を、
ちょっとあきれた顔でお母さんは見た。
被害妄想かもしれないけど、冷たい子だねぇっていうような顔にも見えた。
ちょっと会ってやればいいのに、ただそれだけのことなのに、って。

私は目をそらしてうつむく。
ふくれっ面で、うつむく。
ぬぐってもぬぐっても、あとからあとから涙が溢れた。

真希ちゃんは今ごろ、許嫁とかいう人と会わせられてるのかな?
紺ちゃんは何してるの? もしかして付添いをさせられてるかもしれない。
可哀想な真希ちゃん、可哀想な紺ちゃん………
49 :溺れて人魚 :2004/07/25(日) 22:50

シーンとなったリビングは、なんだか根比べみたいな感じになってきた。
私は大げさにため息をついて、ポケットから携帯を取り出し、ピッと電源を切る。
そろそろひとみちゃんから電話がかかってきそうな時間。
とても出られない、こんな状況で。こんな涙声で。

不機嫌を隠さず、ガタッとテーブルに携帯を放り出す。
その音に反応したように、一徹さんがいきなりカッと目を見開いた。

怒られる!
とっさにビクッと身をすくめた私が次に見たのは、予想外の反応だった。
あの手のはやい一徹さんが、テーブルに手をついて、私にバッと頭を下げたんだ。

「わかった。すまなかった、梨華。私が迂闊だった」
「………………………」
「帰るぞ、トメ子」
「でも、あなた………」

すっくと立ち上がった一徹さんの背中はすごく意地っ張りな感じで、
なぜかひとみちゃんの背中を思い出した。
オロオロと寄りそうトメ子姉さんの瞳が、半泣きになってる。
見送るお母さんが、深々とため息をついた。
50 :溺れて人魚 :2004/07/25(日) 22:51

私は唇を噛んだ。
断ったら、どのくらい困るのよ、実際?
はっきり言ってよ、ねえ、こんなつまんないことで、どのくらい困るっていうわけ?!
私が雑誌のモデルになった。
そのことが一徹さんを、そんなに困らせちゃうわけ?!

ガタンとイスを蹴って、私は立ち上がった。

「あ、会うだけだよ……」

自分の声が震えているのがわかった。
一徹さんは、振り返らなかった。

頑固な職人さん。
嫌だったでしょう、私にこんなこと頼みにくるの。
一徹さんの職場が、会社とも言えないくらい小さな作業所だってこと、私はよく知ってた。
オンボロなうちのお弁当屋さんに負けないくらい小さな。
そして、困らせたくない仲間が何人もいる、きっと。

「梨華……」

一徹さんの代わりにトメ子姉ちゃんが、ホッとしたように振り返った。
私と瓜二つのその顔を見ながら、私は念を押すように言う。
51 :溺れて人魚 :2004/07/25(日) 22:52

「会うだけよ。断るわよ」
「うん、いいのよ、それはいいの。一度会ってくれれば、一徹さんの顔が立つから」

ほんとね? もう一度、念をおす。
そして、この発言はとても危険だと意識しながら、
それでもこの義理を果たす、たった一つの条件を慎重に口にした。

だってそれは、何よりも大切なことだから。
私たちの秘密の恋がお母さんたちに知れてしまうよりも、怖いことだから。

「お願い。このこと誰にも言わないで。ひとみちゃんにも、絶対に」


52 :雪ぐま :2004/07/25(日) 22:53


本日はここまでといたします。
53 :名無しぽき :2004/07/25(日) 23:15
( ´ Д `)<んあーーーーーー!

久々更新、お疲れ様です。
大変だ、あっちもこっちも…
54 :ピクシー :2004/07/26(月) 03:10
更新お疲れ様です。

う〜・・・やっぱ幸せの後には苦難あり・・・
綾小路家の方も、石川家の方も・・・大変ですね。
果たして・・・動向はいかに?

次回の更新も楽しみに待ってます。
55 :ななしくん :2004/07/26(月) 20:37
更新ありがとうございます!
どうなっちゃうんでしょう。。
雪ぐまさん暑い中大変ですが無理せずお体には気を付けてくださいね。
次回楽しみにしてます!
56 :名無飼育さん :2004/07/27(火) 11:55
うへー。どうなっちゃうんだー。
57 :名無飼育さん :2004/07/27(火) 23:54
楽しみな展開になってきましたな(ニヤリ ←オニ
58 :雪ぐま :2004/08/04(水) 21:03
53> 名無しぽき様
確かにぽきさんお気に入りのカプが、あっちもこっちも……。
ハラハラさせちゃってすみませんw どうぞ見守ってやってくださいまし〜。

54> ピクシー様
はい、人生、山あり谷ありでございます。お家の事情に翻弄される娘たち。
さてさて、内緒の恋の行方やいかに……?

55> ななしくん様
こちらこそ、お気遣いありがとうございます!
夏の暑さのなか、うちの娘。たち大ピンチ。なんとか乗りきってほしいものです。

56> 名無飼育さん様
どうなっちゃうんでしょーねー?w

57> 名無飼育さん様
オニ〜w でも、お楽しみいただけてるなら何よりです(ニヤリ。

それでは、更新にまいります。
59 :溺れて人魚 :2004/08/04(水) 21:05


あいかわらずトメ子姉ちゃんのオトコを見る目は謎だわ。
写真を見るのも嫌だったから、当日までどんな人が現れるか知らなかった。
目の前でニコニコしてるのは、悪趣味な白いスーツの小柄な男。

なーにがハンサムな若社長よっ!
上沼恵美子そっくりじゃないのよぉ!

しかもこの人、30超えてるわよ、絶対ーーー!
トメ子姉ちゃんたちにとっては若社長さんかもしれませんけどね、
花の乙女の私には、30過ぎなんてオッサンなのよオッサン!!!

「いや、かわえーわー。写真より実物のほうが断然エエワー」

寺田さんは、恥ずかしげもなくそんなおべっかを言ってご機嫌。
フン、写真よりいいわけないじゃないの。
ノーメークに、わざわざ喪服みたいなダッサいワンピース着てるんだからっ。
60 :溺れて人魚 :2004/08/04(水) 21:06

「もうね、アンタ……ああ、失礼。梨華さん見た時、ピーンときたんよ、ピーンと!」

なにがピーンだか、このスケベオヤジ。
私はむっつりと黙ったまま、興味なさそうにフイッと窓の外を眺めた。
今日は笑わない。そう決めていた。
愛想の悪い、いけすかない女だと思われなきゃいけない。
私の反応を見て、あわてたように、トメ子姉さんがとりつくろう。

「申し訳ありません。ほんとにこの子ったら、まだ子供で……」
「いやあ、全然かましまへんよ。僕も19の頃はシャイなもんでしたわ」

シャイなんじゃないわよっ!
イヤなの、あんたのことがっ!
気づきなさいよ、もうっ!
61 :溺れて人魚 :2004/08/04(水) 21:07

会うのは午前中じゃなきゃ、絶対イヤ。
陽が高いうちじゃなきゃイヤ。
食事するのもイヤ、お茶だけにして。
あと、2時間限定ね。

そんな私の失礼きわまりない要望は思いがけないほどするりと通って、
さんさんと陽が差し込む都内の高級ホテルのティールームに私は座っている。

ロクに返事もしない私に寺田さんは驚いたみたいだけど、
たいして気を悪くするふうでもなく、付添いのトメ子姉さんとお母さんを相手に談笑している。
なかなかの人情派なのか、ただ口がうまいのか、
女手一つで二人の娘を育てたお母さんをねぎらったりなんかして。

「僕もね、母ひとり子ひとりで」
「まあ、そうなんですか」
「ええ、ホンマ、おかんには頭あがりまへんわ」
「まあー、じゃあ会社のほうは、もしかしてご自分で?」
「いやもう成り上がりですわ、お恥ずかしい」

ご苦労されたんですのねぇ。
トメ子姉ちゃんとお母さんが、しみじみとうなずく。
ちょっとぉーー。私は二人をチラと睨んだ。なに同情してんのよおっ。
62 :溺れて人魚 :2004/08/04(水) 21:08

「そろそろ、梨華さんと二人でお話をしてみたいんですが」

きたわね。私は身構える。
さすがにトメ子姉さんとお母さんも、ちょっと心配そうに目を見合わせた。
もう19歳だけど、なんてったって末娘。
初対面の男の人と二人きりにして大丈夫かしら?って感じ。

「ご安心ください。あと……ホラ、1時間ないですわ」

寺田さんはにこやかに笑うと、
ギラギラの派手な腕時計をホラと差し出してみせた。

「今日は2時間だけ。約束、ちゃんと守りますよってに」
「じゃあ、……よろしくお願いします」

ぺこりと頭を下げて、お母さんたちが帰っていく。
さて、これからが勝負なのよね。
緊張を悟られないように私は、再びフイッと窓の外に目をやった。
寺田さんはテーブルに肘をついて手を組むと、珍しい動物でも見るような目で私を見た。

「ずいぶん気が強いね、ジブン」
「……いけませんか?」
「あかんことないよ。ますます気に入ったなあと思ただけで」

なに、この人。
きゅっと眉をしかめた私に、寺田さんは思いのほかやさしく首をかしげた。
63 :溺れて人魚 :2004/08/04(水) 21:08

「ね、何がそんなに気に入らんの?」
「お話をいただいたルートが気に入りません」

ズバッと言ってやった。
そして、またツンとそっぽを向いてやる。
だって卑怯だもの、一徹さんの弱みにつけ込んで。
私じゃなくても軽蔑するわよ、そんな人。

私の横顔からそんなニュアンスをちゃあんと読み取ったらしく、
寺田さんは驚いたように目を丸くし、いけしゃあしゃあとこう言った。

「ツテをたどっただけやがなー」

なんですってぇーー?!
キッと彼を睨む。

「ツテって!」
「ツテやんかー」
「ただのツテじゃないわ! だって、断れないじゃない、私」
「なんでー? どしても嫌やったら断ったらええやん」
「こ、断ったらっ………」

それ以上ははっきり言いかねて、私は黙り込んだ。
膝の上でコブシをギュッと握りしめる。
64 :溺れて人魚 :2004/08/04(水) 21:09

真希ちゃんのことを「雲の上の人です」と言い切った紺ちゃんのことを思い出した。
色とりどりのドレスのなかに佇んでた、メイド服姿の悲しげな笑顔を思い出した。
貧乏なんて、ちっとも怖くない。
きっと紺ちゃんだって、一徹さんだってトメ子姉ちゃんだってそう思ってる。
だけど、立場が弱いのがイヤ……悲しい……

「なーんや、何考えてんのやろ?」

とぼけたように寺田さんはヒョイと首をすくめた。

「ショックやわー。ただ、お願いやから会わせてってゆうただけよ?」
「………………………」
「軽い気持ちやない。なんなら結婚前提でって、僕なりの誠意やけど」
「………………………」
「それ以上、何もヘンなこと言うてないで、マジで」

ズルイ男。私は唇を噛みしめた。
寺田さんはそこそこ大きな会社の社長さんで、一徹さんの会社の大切なお取引先で。
なにも言わなくても、プレッシャーがあるのは当たり前じゃないの。

むっつりと黙り込んだ私を見て、
寺田さんはイヤまいったなーとでもいうように、つるりと顎を撫でた。
65 :溺れて人魚 :2004/08/04(水) 21:10

「なんや、ヤキまわったなー、そんなふうに思われとったんかー」
「あ、当たり前じゃないですかっ!」
「あほらし。この21世紀に」

 仕事とプライベート、ごっちゃにしてもろたら困るわァ。

しゃあしゃあと言ってのけるそのふてぶてしさにカーッときた。
きたきたきたわ、石川梨華!
久々にアドレナリン大噴出の予感よっ!!!

「に、21世紀だから何よっ!」

 人づきあいに今も昔もないわよっ!!
 取引先の社長さんからなんかお願いされたら、
 そんな簡単に断れるわけないでしょーーー!!!
 私だって断れないわよ、お義兄さんのこと困らせたくないものーーーっ!! 
 
イスから立ち上がらんばかりの勢いでギャンギャン怒鳴った私。
怒鳴りつけられた寺田さんはまんまるに目を見開き、
そして、なぜかうれしそうに、ヒューと口笛を吹いた。

「……石川さん、義理堅いねー。いーオンナやわぁー」

だめだ、この人。
私は頭が痛くなってきた。
何を言っても暖簾に腕押し。そういうタイプだわ。
66 :溺れて人魚 :2004/08/04(水) 21:11

とにかくっ。
そっちがその気なら、仕事とプライベート関係ないってゆーなら、
こっちももう遠慮しませんからねっ!

「あのっ」
「なに?」
「私、母たちには言ってませんが、おつきあいしてる人がいるんです」
「フーン、どんな男?」
「あなたには関係ないと思います」

そら確かに!
寺田さんは、そういってライオンみたいな金髪を揺らして笑った。
そして、ふいに茶目っ気たっぷりに私の顔をのぞきこんできた。
何よっ。睨みつけてやろうと思って、ゾッとする。
そこにあったのは、ギラリと凄みのある、どう猛な瞳。

やだ、この人、なんか怖いかも……
私は慌ててパッと目をそらした。

「なんや、怖がらんといて」
「こ、怖がってなんかいませんっ」
「梨華ちゃ〜ん、こっちむいてぇ〜」
「へ、変な言い方するの、やめてくださいっ」
「あははっ、あーオモロ」
67 :溺れて人魚 :2004/08/04(水) 21:11

きいいっ、くやしいいいっ!!!
勇気を出して再び睨みつけた、その先にあったのは、
今度はびっくりするほど人懐っこい柔和な笑顔。
え……? 拍子抜けして絶句する。

「まあ、そう怒らんと。怒ってる顔も素敵やけどね」
「お、怒らせてるのはあなたでしょう?」
「なんでそんなに怒るんかなあ?」
「……私のことからかって面白いですか?」
「からかってませんよ。ほんと、マジでおつきあいしてもらえませんか?」

ちょっとぉっ!
人の話ぜんぜん聞いてないじゃん、この人っ!

「だっから恋人がいるって……」
「別にすぐに乗り換えてくれって話やないですよ」
「はあっ?」
「まずはお友達から。とにかく僕のこと知ってもらいたいんですわ」

 きっと、面白いことになると思います。
 損はさせませんよ。

なにそれ?
頭痛のあまり、歯まで浮いてきた。
私はむっつりと黙り込んで頬杖をつく。
このわけのわからない自信は何? 
わざとらしくチラッと時計を見てやる。タイムリミットまであと20分。
はやく過ぎ去れ、悪夢の時間。
68 :溺れて人魚 :2004/08/04(水) 21:12

寺田さんはそんな私の様子を見て、なぜかウンウンとうなずいた。

「わかるわー、うん、そりゃ嫌ですよね石川さん」
「は?」
「そりゃ嫌やと思うんですよ僕みたいなチャライ男、トシも離れてるしね」
「え?」
「でも、最初だけですわ、石川さん。嫌やなあ思っても、そのうち慣れる」
「は?」
「僕ね、これだけ自慢なんですけどマメですよー。どうです? ええでしょ?」
「なにが?」
「好きでしょ、女のヒトってマメな男」

知らないわよそんなの。
お行儀悪くネイルをいじくった私に、寺田さんはいじわるげに目を細めた。

「石川さんも好きやと思いますよ、マメな男」

 イイヨイイヨ梨華ちゃんイイヨーって甘えさせてくれるタイプ。

ムカッ!
私は、キッと目を上げた。
何言ってんの? 悪いけど私は世話女房タイプよ?
尽くすわよっすぃ〜って女なのよ?
ビバ、糟糠の妻!ひとみちゃんのためならちょっとHな写真集だって全然OKよ!
いいのあの人遊んでても私が稼ぐからって女なのよぉっ?!
69 :溺れて人魚 :2004/08/04(水) 21:13

「申し訳ありませんが、寺田さんとはお友達にもなりたくありません」

思いっきり呆れた声で、慇懃にそう言ってやる。
なんでー? 寺田さんが大げさに声をあげた。

「あなたの話を聞いてると頭が痛くなります」
「それそれ! それがええんですわー。そのうちクセになる!」
「なんないわよっ!!」
「なりますよー。僕、それなりに実績あって、そう言ってるんですよ?」

何の実績よ。
げんなりした私に、寺田さんはまだ言い募る。
ホンマですって、女のヒトって最初ヤダーって言っててもそのうちね。
口説かれるうちにその気になるんですよ。
順応性があるんやね、男よりきっと。

「あ、あなたの女性観は間違ってます!」
「そう?」
「ええ、少なくともどんなふうに口説かれても、私はあなたを好きにならない」
「なんで?」
「だから、恋人がいるっていってるでしょっ! もうすっごく好きなのその人のことっ!」

わーー、すっげぇオモローー。
くっくっくっと、寺田さんはうつむいて肩を揺すった。
もうなんなのよこの人、ほんっと感じ悪っ!
70 :溺れて人魚 :2004/08/04(水) 21:14

「なんで笑うんですかっ!」
「わかった、石川さん。アンタのゆーこと、よーわかったよ」

寺田さんは、ひょいと姿勢を正すと、
ちょっと悲しげな顔をして小さくため息をついた。

「僕、あきらめますよ、石川さんのこと」
「ほ、ほんとですか?!」
「ええ、一徹さんにもそう言いますわ、フラレましたわ〜って」

がっくりと肩を落とす寺田さん。
それはかなりわざとらしいけど、あーあ、残念やなって思ってる気持ちは伝わってくる。
その言葉、ほんとに信じていいのかな?
黙り込んでじっと見た私に、寺田さんは顔を上げてニカッと笑った。

「心配せんといて。仕事のトラブルにはせえへんさかい」
「………ありがとうございます」

なんでお礼言わなきゃいけないの?って気もするけど、私はぺこりと頭を下げた。
仕方ないわ。諦めてもらえればそれでいい。
下手に怒らせたくはないもの。

「ほんま義理がたい……。ええオンナやわー」

ちょ、ちょっとあきらめたんじゃなかったのっ?!
ギョッと顎を引いた私に、寺田さんは笑ってブンブンと手を振った。
71 :溺れて人魚 :2004/08/04(水) 21:15

「あきらめたってー」
「はぁ……」
「じゃあね。今日は楽しかったわ」

タイムリミット10分前。
ピッと伝票をつかんで、寺田さんは立ち上がった。
それから、ああそうや、と言って、胸元からなにやらチケットを取り出す。

「これ、タクシー券。使ったって」
「えっ、いいです、そんなの」
「使うたってや。ほんまは送ってくのが筋やと思うけど」

 僕の車のるの、嫌でしょ? だから、代わり。
 ムシャクシャしてたら、東京中まわってもええよ。

そう言って、寺田さんは、またニカッと笑った。
気さくなナニワのアンちゃんって感じで。

「使い方、わかるー?」
「えっ、いえ……」
「ここにサインして運ちゃんに渡すだけー。簡単やからね」
「あ、ハイ……」
「ほなね」

 バイバイ、石川さん。
 ほんま、今日は来てくれて、ありがと。

72 :溺れて人魚 :2004/08/04(水) 21:15

くるっと踵を返した悪趣味な白いスーツ。
めちゃくちゃなトークとは裏腹なあまりにスカッとしたその去り際に、
私はえっ?なんて思ってジッと後ろ姿を見つめてしまう。
終了、でいいのよね? これで、一安心……でいいのよね?

「……悪い人じゃあ、ないのかな?」

ひとり呟いて首をかしげた。
うん、悪い人じゃあ、ないのかも。
ちょっと失礼すぎたかしら、さすがに悪かったかな……
そんなふうに思ってたら、白いスーツは何か言い忘れたみたいにいきなりくるっと振り返った。

「あっ、石川さん」
「は、はいっ、な、なんですか?」
「カレシって、ハンサムー?」

はぁ?
不意打ちの質問に、また警戒心がむくむくと頭をもたげてきた。
なによ、もうあたしのこと諦めたんだから関係ないでしょっ?
私は、ぐいっと自慢の顎をあげて、キッパリはっきりと言ってやった。

「ええ、もう、すっごく!」
「あっ、そおなの?」
「超かっこいいです!」
「あっ、そぉ」

それってほんとのことよ。
私はグッと胸を張る。
ほんとはカレシじゃないけど、超超ハンサム。
街中の、ううん日本中の女の子が振り返るんだから!
73 :溺れて人魚 :2004/08/04(水) 21:16

それを聞いた寺田さんは、何を思ったかツカツカと舞い戻ってきて、
スッと腰をかがめて、あたしの耳元にボソッと囁いた。

「じゃあ、僕、勝っちゃうかも、そのカレシに」
「はあっ?!?!」

のけぞるように飛び退く。
ななな何言ってんの?この人っ!!!

「ハンサムって、芸ないもーん」
「な、何の話ですかっ!」
「女心なんて、ちっともわかりよらんよ。僕みたいなブサイクと違って苦労してへんから」

じゃね。
ひらひらと手を振って、今度こそ寺田さんは去っていった。
ははははは〜なんて、ご機嫌に高笑いしながら。

なにあの男ーーーーーー!!!!!
む、むかつくぅーーーーーー!!!!!!
飄々とした後ろ姿を睨みつけながら、私はタクシーチケットをぐしゃっと握りしめた。

あの男、こうやって女心を揺さぶったつもりでいるんだわ。
おあいにくさま。私はそのへんの女とは違うの。
なんてったって筋金入りの男嫌いなのよっ!
74 :溺れて人魚 :2004/08/04(水) 21:16

「ムシャクシャしてたら東京中まわってもええよ……ですってぇ?」

その言葉、後悔させてやるわよ、寺田ァ!
私はバッグから携帯を取り出すと、すぐさまひとみちゃんに電話をかけた。
もうすぐお昼になる時刻。
だけど、電話に出たひとみちゃんは、ふわーんとねぼけた声だった。

「起きて、ひとみちゃん!」
「あーーー?」
「これから、東京観光よっ!」
「はーーー?」

いいから、すぐシャワー浴びて出かける準備してっ!
これから家まで迎えに行くからっ。すぐに行くからっ!

わめきながらなんだか鼻の奥がツンと熱くなった。
ひとみちゃん、お見合いなんてしちゃってごめんね。
でも、私、頑張ったから。頑張って撃退したから。

だから許して、一生、内緒にすること。
あなたに余計な心配かけたくないの。
ただ、それだけだから……

75 :雪ぐま :2004/08/04(水) 21:17


本日はここまでといたします。
76 :名無飼育さん :2004/08/05(木) 14:06
更新お疲れ様です。
見合い相手、ワロタ
77 :ななしくん :2004/08/06(金) 00:26
更新ありがとうございます!
あぁ〜どうなっちゃうんでしょうか。。。

ドキドキしながら読んじゃいました。
お見合い相手が意外すぎてびっくりしましたw
78 :ピクシー :2004/08/06(金) 01:27
更新お疲れ様です。

見合い相手、自分もワロタ
さて・・・もう一方の御家はどうなっているのやら?

次回更新も楽しみに待ってます。
79 :雪ぐま :2004/08/10(火) 14:39

☆お知らせ☆

自サイトbbsに、「美勇伝」結成記念小説、UPしました。
お時間のあるときにぜひ。
http://yukiguma.s45.xrea.com/index.htm
80 :雪ぐま :2004/08/28(土) 13:28
76> 名無飼育さん様
満を持して(?)、あの方、登場ですw
書いてて、妙に楽しかったですね。

77> ななしくん様
手ごわい相手ですよ〜。なんてったって考えてることがわかりませんw
とりあえず撃退してみたけど、さてさて……

78> ピクシー様
もう一方の御家のほうがマズそうですね。家柄がオカタイだけに。
どっちもなんとかピンチを切り抜けてほしいものです。

それでは、更新にまいります。
81 :溺れて人魚 :2004/08/28(土) 13:29


「今日のトメっちのカッコ、なんかいいね」
「ええっ?! こんな喪服みたいなのがっ?!」
「んー、シックでいいよ」

がーーーーーん。
なんでぇ? とびっきりのピンクのワンピとかのほうが、絶対かわいいじゃないの!
ひとみちゃんの言葉に絶句する私に、美貴ちゃんと亜弥ちゃんが追い討ちをかける。

「うん、なんかー清楚って感じぃ? こっちのがいーよ」
「全身ピンクとかさー、もうそういうトシじゃないから」

がああーーーーーん。
ちょっと待ってよ。お見合いで印象悪くするために
わざわざ好きでもない黒ワンピなんて選んだのよおっ!
印象、良くなってどうすんのよっ!

でっかいリムジンに乗って東京観光。
ホテルの前にずらっと並んでたなかから、一番でっかいのを選んでやったわ。
後ろにシートが2つも並んでたから、美貴ちゃんと亜弥ちゃんも誘ってみたの。
みんなでパーッと遊んじゃおう!
感じ悪い彼のことは忘れて、ねっ?
82 :溺れて人魚 :2004/08/28(土) 13:30

「でも、なんでトメっち、急に東京観光ー?」
「なんか、この車、すっごくない?」
「気にしないで。お母さんが商店街の福引きで当てたの、タクシー券」
「フーン」

いいかげんな私の言い訳を、さほど気にする様子もなくひとみちゃんは大あくび。
そうよね、まさかお見合い相手からもらったタクシーチケットなんて思わないもんね。
嘘ついてごめんね、ひとみちゃん。

「で、どこ行くべ?」

なぜか北海道なまりのかわいい運転手さんがニコニコと訊いてくる。
お任せしますと言ったら、なっち東京はあんま詳しくないべーと
ちょっと困ったような声が返ってきた。

「とりあえず、雷門でも行くっしょ」
「あ、はい。そうですね」
「浅草行ったら、天ぷら食べよー!」
「美貴、焼き肉がいい」
「またー?」

きゃあきゃあと騒ぎながら、憂鬱な土曜日を浮かれモードに転換する。
そうよ、はしゃがなくっちゃ! ほら、ひとみちゃんもちゃんと起きて!
眠がる肩をビシビシと叩いて、天使のような横顔に微笑みかけた瞬間、
車窓から、もんのすごい浮世離れした光景が飛び込んできた。
83 :溺れて人魚 :2004/08/28(土) 13:31

それは、大きな洋館みたいなホテルのエントランスから飛び出してきた青いドレスの女の人。
ドレスの裾を持って駆ける、その足元はなんと素足。
結った髪に髪飾りをキラキラさせて、彼女はアスファルトを全速力で駆け出した。
なにあれ? 映画の撮影かなんか?
その顔を見て、私はさらにビックリする。

「真希ちゃんっ!!!」
「え?うわ、マジ?」

シネマスターのような彼女の姿に、ねぼすけのひとみちゃんも
さすがに目をパチクリさせて車窓に張りついた。
大通りまでひたすら走って真希ちゃんは、
タクシーでも探すみたいにあたりをきょろきょろしている。
どうしたの、一体? 慌てて彼女の近くに車を止めてもらい、窓を開けた。

「ちょっと真希ちゃんどうしたの、そのカッコ」
「ああっ、トメちゃん!天の助け!」
「なに?なんなの?」
「乗せて!お願いっ!」
84 :溺れて人魚 :2004/08/28(土) 13:32

答えを聞くよりも前に、シートに転がり込んできた青いドレス。
仮装大会みたいなロココスタイルに、
美貴ちゃんと亜弥ちゃんの目が、うわーっと見開かれる。

「キてるねー」
「キてるよー」
「あ、あたしだって好きでこんなカッコしてるわけじゃっ……」

バンッと車のドアを閉めた時、
真希ちゃんが走ってきたほうから震える声が追いかけてきた。

「真希様っ!お戻りください!」

振り返ると、ホテルの前から黒いメイド服がパタパタと駆け寄ってくるのが見えた。
あっ、紺ちゃ〜ん。窓から身を乗り出して手を振ろうとした私を、
なぜか真希ちゃんは、グイと車のなかに引っ張り戻して叫んだ。

「逃げてっ!」
「えっ、紺ちゃんは?」
「連れてけない!! はやく!!」
「ええっ、なんでよ?!」
「とにかく車出してーーー!!」
「雷門でいいべか?」

運転手さんが、のんびりとそう言ってアクセルを踏んだ。

    ◇    ◇    ◇
85 :溺れて人魚 :2004/08/28(土) 13:32

ごま油の香り漂う天ぷら屋さんで、シャクシャクとエビなんて齧りつつ。
私たちのテーブルは、店で一番、シーンとなっていた。
それぞれに真希ちゃんのヘビーな話を頭のなかで反芻して。

「天ぷらって、ごま油で揚げたほうがおいしいんだねぇ」

日頃、どんな上品な天ぷらを食べてるのか知らないけど、
真希ちゃんは下町らしいクドめの天丼が妙に気に入ったらしい。
ひとりご機嫌な様子で、にこにこもぐもぐしている。
もちろんドレスは脱いで、そのへんで買ったTシャツにジーンズに着替えてて。
なにげないカッコがさらっと決まっててニクイわ……なんてことはどうでもよくー。

「ねぇ、逃げてきてヤバくない?」

亜弥ちゃんが、おそるおそる声をかける。
美貴ちゃんが、食欲も失せたって顔でウンウンうなずく。
真希ちゃんとは初対面の美貴ちゃんと亜弥ちゃんでさえ、マズいと直感するこの状況。

真希ちゃんはなんと、結納ってやつをブッちぎって逃げてきていた。
お相手はもちろん、親族縁者もろもろ揃ったその席からの大脱走……

「だって、ヤなんだもん」
「そりゃ、ヤだろうけどさぁ……」
「結婚式で逃げるよっか、いいでしょ?」
86 :溺れて人魚 :2004/08/28(土) 13:33

正直、おんなじくらいマズいと思う。
相手方のお家柄がまたすごくて、私たちは気が遠くなる。
超・超・面目丸つぶれってやつじゃない?
いまごろ、真希ちゃんのお父さんはきっと大変な目にあってる。

「いい気味だよ。いつまでもあたしに言うこときかせようったって」

ガツガツと真希ちゃんは、つねにない荒っぽさで天丼をかきこんだ。
ひとみちゃんが、口の端にごはん粒をくっつけたまま、カッケーと呟く。
ちょっと、そんなにノンキな話でもないでしょっ!

「だってそれ、ぜってーごっちんのほうが正しくない?」
「だよね? そー思うでしょ?」
「……でも、これからどーすんの?」

あんがい現実的な亜弥ちゃんが、ボソッと呟く。
とたんにテーブルはまた、シーンとなった。
そうだよね。逃げてきたはいいけど、これからどうするんだろう?
真希ちゃんが逃げたことでどのくらい大変なことが起こるのかよくわからないし、
真希ちゃんがどのくらい怒られるのかもわからないし、
運良く今回の結婚話はダメになったとしても、きっとまた次が……
87 :溺れて人魚 :2004/08/28(土) 13:33

「何回でも逃げるよ。だって、ヤだもん」

真希ちゃんは、飄々とそう言い放った。
ひとみちゃんが再び、カッケーと呟く。
私は、やれやれ、なんて小さく肩をすくめた。
自分もさっき、お見合い話をものすごく感じ悪く蹴っとばしてきたばかり。
だけど、人の話を聞くと、乱暴なやり方だなあって心配になっちゃうのよね。
うん、気持ちはよくわかるんだけどね。
わかるからますます、その想いが心配っていうか……。

「何回でも逃げるよ。もうヤダ」

真希ちゃんは天丼を全部たいらげると、紙ナプキンでちょんちょんと口のまわりをぬぐった。
そんな仕草でさえ品があって、お嬢様なんだなあと思う。
涼やかな瞳には、どんなことにも動じなさそうな風格。
そんな彼女がはっきりと口にした言葉に、私はすこし赤くなってみたりして。
何回でも逃げるよ、だって。すごい情熱。イイナ……

「紺ちゃんのこと、すごく好きなんだね、ごっちん」

思わず胸の前で手を組んでうるうるした私。
なのに、返ってきたのは、「ああ、紺野?」っていう素っ気ない声だった。
あれ? ちょっと、どうしちゃったの真希ちゃん?
88 :溺れて人魚 :2004/08/28(土) 13:34

「……紺野とはもー、ダメかもしんない」
「えええええっ!!」
「おとなしく結婚してくれって、一点張りなんだもん、あの子」

真希ちゃんは、悲しげに目を伏せた。
そ、それはアレよっ!真希ちゃんっ!違うのよっ!
私は、あわててフォローの言葉を探す。

「紺ちゃんは遠慮してるのよ。真希ちゃんの立場がっていうか、あのっ……」

真希ちゃんのことを「雲の上の人です」と言い切った紺ちゃんのことを知ってる。
色とりどりのドレスのなかに佇んでた、メイド服姿の悲しげな笑顔を知ってる。
いつかこうなると覚悟してたって言ってた。
真希ちゃんのことが好きだから、身を引こうと思ってる紺ちゃん。

「わかってる」

真希ちゃんは、ふてくされたようにそう言った。

「わかってるけど……なんか……最初から諦めちゃうってのも……」
「真希ちゃん……」
「別に、一緒に駆け落ちとかしてほしいってわけでもないけど……」

だんだん小さくなる真希ちゃんの声。
うつむいてしまった、その尖った唇。
ああ、そうか、真希ちゃんは悲しくて。
生まれの違いを気にする紺ちゃんが悲しくて。
生まれの違いを気にさせてしまう自分が悔しくて。
その状況を全部ブチ壊したくて、とにかく逃げ出してきた……
89 :溺れて人魚 :2004/08/28(土) 13:35

「「ちょっとーー」」

しんみりとした席を、あやみきの能天気な声がブチ破った。

「話ミエナイ。紺ちゃんって誰?」
「ああ、ごめん。さっき追いかけてきた子だよ」
「えっ、あのメイドさん?!恋人なの? マージでぇ〜〜?」
「なに、お嬢様がメイドさんとできてんの? ベタだね〜〜〜」

なにやら容赦ないあやみき攻撃。
真希ちゃんはあり得ないほど真っ赤になってソッポを向き、
だってかわいいんだもん……と呟いた。

「だってかわいいんだもん、だってー」
「ヒュー、やるぅ〜。でも、世界一かわいいのはみきたんだよ?」
「もー、やめてよ、亜弥ちゃん、こんなとこで〜〜〜」
「だって、ほんとのことだも〜〜〜ん」
「亜弥ちゃんには負けるよもぉ〜〜〜」
「ハイハイ、キミら、そのへんでね」

桃色に盛り上がった場を締めたのは、ひとみちゃんだった。
真希ちゃんの苦しげな声のなかでガツガツ食べてた天丼のどんぶりをカタンとテーブルに置いて、
ふうっ喰った!喰った!とお腹を撫でて、息をつく。
そして、パッと目をあげて、ニヤッと笑った。
90 :溺れて人魚 :2004/08/28(土) 13:36

「とりあえず、ごっちん、うちくれば?」

えっ?
真希ちゃんだけでなく、私も目を見開いた。
ちょっと、ひとみちゃん、何言い出すの急に?!

「今日は帰れないでしょ、どっちにしても。あたしの部屋に隠れてれば?」
「でも、あたしなんかかくまったら迷惑……」
「ヘーキヘーキ。うちの親も気づきゃしないって。放任だから」

ひとみちゃんの声は、ほんとになんてことなくて、
まるで一緒にコンビニ行こうぜ?みたいな気楽な感じで。
私の自慢の恋人は、さりげない微笑みで困ってる友達にスッと手をさしのべる。
深刻な問題を深刻にせずに、とりあえずいいじゃんって平気な顔をしてみせる。

ああ、そんなとこ、好きだな。
ガラス越しの午後の陽射しに透ける白い頬を、眩しく見つめた。
ヘタレっぽいとこもあるけど、こんな時はなんだか頼りになる人。
思いがけない申し出に驚いてた真希ちゃんも、ありがと、と呟いて頬を染めた。
それから、うつむく。滲んできた涙を隠すみたいに。
91 :溺れて人魚 :2004/08/28(土) 13:36

「ちょっと心配させてやりゃーいんだよ、そんな親」
「うん。家出ってしたことないし」

なんか、ちょっとわくわくしてきたかも。
そんなふうに真希ちゃんは言って、ホッとしたように笑った。
その表情は、溶けかけの綿菓子みたい。やわらかくて、でも泣いちゃいそうな。
きっと、ずっと張りつめてたんだろうな。
結婚話はトントンと進んでくし、
紺ちゃんとはきっとヒリヒリするような喧嘩しちゃったんだろうし。
うん、ひとみちゃんちで少し休むといいよ……

「あ、よっすぃ〜、ごはん粒ついてるよ?」

って、ちょっとぉーーーー!!!
私は思わず、ガタンと立ち上がった。
真希ちゃんが、ふいにひとみちゃんの口元に手を伸ばしてヒョイとごはん粒をとって、
それをそのまま自分の口に入れたから!

「ままま真希ちゃんっ!」
「へ? え? どしたのトメちゃん」
「そーゆーことしちゃダメッ!」
「出たっ!ヤキモチ大魔王!」

とたんに気色ばんだ私の剣幕に、亜弥ちゃんと美貴ちゃんはなぜかギャハハと大ウケ。
ひとみちゃんはオイオイと頬を染めて、私の手を引いて椅子に座らせた。
なのに、肝心の真希ちゃんはきょとんとした顔で。
92 :溺れて人魚 :2004/08/28(土) 13:37

ちょっとおっ! この子、ひとみちゃんと同じ部屋で寝かせても大丈夫?!
こんなにかわいくって、無邪気で、浮世離れしててっ!
なによ、文麿さんだった頃と、全然キャラが違うじゃないのーっ!

「真希ちゃん、この際、はっきり言っとくけどっ!」
「あ、うん」
「ひとみちゃんは私のひとみちゃんでっ」

 ひとみちゃんがさわったものとか、
 ひとみちゃんが持ってるものとか、
 とにかくひとみちゃんに関するありとあらゆるものは、
 全部全部、私のものってことだからっ!!!

「だから勝手に、ひとみちゃんにさわったりとかしちゃダメーッ!」

はあはあ、ゼエゼエ。
ちょっとこのくらいね、最初にはっきり釘さしとかないとっ。
ひとみちゃんのこと信じてないわけじゃないけど、
なんかこう、かわいい女の子に弱いとこあるから、この人っ。
自慢の顎をぐいっと持ち上げた私に、ひとみちゃんは「勘弁してよ」とますます赤くなった。

「アドレナリン出過ぎなんだよ、オメーは」
「なによっ、このくらい、いいでしょ? 私、ひとみちゃんの彼女なんだから」
「バッカ、人が見てんだろぉ?」
「人が見てるから何よ?!」

とたんにギャアギャアやりあいはじめたあたしたち。
真希ちゃんが、あはっと楽しげに笑った。
93 :溺れて人魚 :2004/08/28(土) 13:38

「ジャイアンみたいだねー、トメちゃん」
「なんですってー!」
「あはっ、ごめんごめん。うん、わかったよ」
「気をつけて、ごっちん。トメちゃん、怒ると超コワイらしいよー」
「亜弥ちゃんには負けるけどねー……」

ひとみちゃんが弾けたように笑う。
真希ちゃんがふにゃふにゃっと笑う。
亜弥ちゃんが拗ねたように笑う。
美貴ちゃんが小さく舌を出して笑う。

みんなが笑うから、私も「ま、いっか」って楽しくなってきた。
つやつやした毛並みのペルシャ猫みたいな真希ちゃん。
閉じこめられた豪奢な部屋のなかから逃げてきた。
ひとみちゃんがかくまうんなら、私も一緒にかくまうってこと。
かなり困った状況だけど、みんなでなんとかできるといいな。
本当に助けてあげられるといいな。
94 :溺れて人魚 :2004/08/28(土) 13:38

ほとんど現金を持ってなかった真希ちゃんのために、
みんなでお金を出しあって、天丼はご馳走してあげた。
カードなら持ってるよと主張した彼女を、美貴ちゃんが得意げな表情で諭す。

「ほんとに行方くらます気ならカードはまずいって。足がつくよ」

刑事ドラマの見過ぎみたいな、ちょっと大げさな身振りつき。
だけど、その言葉がさほど的外れじゃなかったってこと、私たちはすぐに気がついた。

「さっき、無線であんたのこと、聞かれたべー」

リムジンに戻るとすぐ、かわいい運転手さんが真希ちゃんを振り返ってそう言った。
ギョッとして緊張する。もうここまで探されてるの?
そうか、紺ちゃんが車のナンバーを覚えてたんだ……

「あ、あのっ……」
「……東京駅で降ろしたって言っといたべ」

なんかワケアリっしょ? お譲ちゃんたちが誘拐犯にも見えないし。
運転手さんは、それだけ言うとブルンとアクセルを踏んだ。
ありがとう!助かりました! 口々にそう言われて、照れた顔をした運転手さん。
まー、若いうちはいろいろあるっしょ、なんて。
95 :溺れて人魚 :2004/08/28(土) 13:39

「今日一日遊んだら帰るんだよ? あんまり親に心配かけたらダメだべさ」
「……はい」

どうかな? 1日では帰らないと思うけど。
でも、あったかい運転手さんの言葉は、真希ちゃんの胸に響いたみたいだった。
そっとケイタイを取り出し、ドラちゃんの携帯ストラップを見つめた彼女。
真希ちゃんが心配してるのはきっと、ご両親よりも紺ちゃんだね。
……なんて、しみじみしてたのも束の間。

「あれっ、なんだこれ?」

ふいにひとみちゃんがシートから拾い上げた紙切れに、私はギョッとなった。
タクシーチケット! やだ、ポケットから落ちてたみたい!

「(株)寺田エージェンシー……?」
「あっ、商店街のね、会長さんが寺田さんっていうの!」

ふうん?
首をかしげながら私にチケットを返してくれたひとみちゃん。
背中に冷や汗がドドッと出た。
ああ、もうなんであの人の会社名なんて書かれてるのよっ。
いや、当たり前なんだけど……ハァ、マズったなあ……

96 :雪ぐま :2004/08/28(土) 13:39


本日はここまでといたします。
97 :名無飼育さん :2004/08/28(土) 13:54
更新乙です
読んでいて映像が目に浮かびました
ぜひテレビドラマでみたいなぁ
98 :オレンヂ :2004/08/28(土) 16:20
更新おつかれさまです。
なんかこのスレの空気に癒されますw
運転手さんかっけーっすね
99 :ピクシー :2004/08/29(日) 04:27
更新お疲れ様です。

運転手に持ってきましたか・・・
いいなぁ、こんな運転手がいたら・・・癒し系運転手?

次回更新も楽しみに待ってます。
100 :名無飼育さん :2004/08/30(月) 21:28
更新お疲れ様です。
この運転手さん、向こうでも出てましたよねw
なんかさりげない登場が嬉しいです。
次回も楽しみにしています。

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