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foreseasonz

1 :さるぶん :2007/05/25(金) 18:44

Berryz工房のおはなしです。
2 :さるぶん :2007/05/25(金) 18:46


女の子が、歩いています/とても背がたかく、ながい髪をゆらせて歩く
すがたは大人びていますが、まだ13才です/手には、一枚の紙が
にぎられていて、汗でクシャクシャになっています/そこに描かれた
地図と、あたりとを、しきりに見くらべるようすは、どこか不安げで、
もともと、あまり広くない肩幅が、なくなりそうなまでに小さくなっていま
す/ですが、それはけっして道がせまいためではありませんでした/
このあぜ道は、車がたっぷり2台はすれちがえるだけの幅はありますし、
ここを行くひとは、ほかにいないのですから/もうだいぶ歩きましたが、
この一本道のずっと、ずーっと向こうで会った農家のおじさんによると、
めざすコンビニへは、すでに着いていてもおかしくないはずでした/
だって、「あー、あすこのクンビヌならば、こごの道さ、まっすぐいった
とごにあるヨ」、といわれたのですから/そのようすからいって、だれが
おじさんを地元のひとでないと疑うでしょう/風呂あがりのお父さんが
ビールを飲みながら、奥歯にはさまったスルメを、舌のさきっぽで器用
にそうじしているときのようなしゃべり方や、ブルーのサロペットパンツ
――ほんとうは、おじさんがワークマンで購入したときの名前は「農業
用作業着(青)」にすぎませんでしたが、友理奈にとって、洋服の名前
はファッション誌にのっていなければ存在しないもおなじなのです――
についた土汚れも、いま自分が着ているアースカラーのコーディネート
とはちがい”本物のアースカラー”でしたから、おじさんがこのあたりの
道にくわしいのは明白ですし、そのおじさんが”ちょっと”といった以上、
すでに40分も歩きとおしでいるだなんて、なにか重大なミスがあったに
ちがいありません/友理奈はおじさんのことばに従っただけですから、
よってそのミスは、自分以外の誰かがしでかしたのに、ちがいないの
です/
3 :さるぶん :2007/05/25(金) 18:46

そう考えると、なんだが腹が立ってきましたが、本当にそう思っている
わけでもありません/とはいえ、いけどもいけども景色が変わらないと
いう事実は、やはり否めないのですが/「もうっ、どうしてなにもないの
ーっ!」/それに答えてくれそうなひとは、残念ながらいません/可能
性があったとしても、サロペットのおじさんぐらいのものですから、その
”どうして”に答えてもらうためには、また40分は歩かなくてならないで
しょう/友理奈は、ちょっと空しくなりました/そこで、「いや、『どうして?』
っていっても、本当に答えがしりたかったわけじゃなくって…」と、ひとり
ごちてみます/友理奈は、なんでも正しくいわないと気がすまない性格
でしたから、だれかに指摘されるまえに、自分のいったことのまちがい
を訂正したかったのです/もちろん、これを聞いているひともありません
から、友理奈は、もっと空しくなってしまいました/ポケットに手を当て
て、すぐに思い直します/15分ほどまえにも試したのですが、やっぱり
圏外でしたから/かわりに、ポケットの生地へ汗ばんだ手のひらを
こすりつけますが、そのとたんに今度はおでこから汗がすべり落ちて、
口の中へと入ります/舌がじん、となって、友理奈はへこたれそうに
なりました/土のにおいが混じって、おじさんのサロペットパンツを
食べたような気分になったからです/せっかくの夏休みだというのに、
こんな田舎へと連れてこられて、あげくのはてが、”太陽さんと道草さん”
との楽しいおしゃべりタイムです/こんなことならばと、すっかり後悔して
いました/すこしはなれた街へ買い物にいきたいといい出したママが、
ふんぞりかえって運転させるパパの車に、素直に乗っていけよかったの
です/いまこんな道を歩いているのは、最近、すっかりナマイキになった
弟と口ゲンカしたのがきっかけで、友理奈は、あんなやつ顔もみたくない
と思い、友達と遊ぶほうを選びました/
4 :さるぶん :2007/05/25(金) 18:47

この地図に書かれた場所で、おちあう約束をしていたのです/しかし、
その原因すらすっかり覚えていないことからもわかるとおり、意地なんて
張るだけ損だったのです/たしかに、あんなに憎たらしいやつと車で
となりになるのはうんざりすることですし、それが二人もいるのですから、
がまんは並大抵のものではありませんが、せめて目的地まで送って
もらうぐらいの妥協はすべきだったでしょう/いまごろクーラーに当たり、
ショッピングセンターのソフトクリームでもなめている瓜二つの顔を思うと、
うらやましいやら悔しいやら、いろんな気持ちがこみ上げてきます/気づ
けば影が短くなっていて、汗だくになっていました/さきほどまでは、
こんな田舎道にあるはずのない電柱が、どうしてここに、と思うほど長か
ったのですが、いまや暑すぎて、自分のからだが溶けてしまったのかと
思うほどにまで縮んでいます/色もすっかり濃くなって、それはおひさま
が高くなった証拠なのでした/そして建物らしきものが、ちらほらとみえ
てきたのは、そのシャツがそれよりずっと重たくなってからのことでした/
友理奈は、いっぺんにテンションが高くなって、かけだします/大きな山
を背にしているので、ところどころ日陰でよくみえませんが、たしかにひと
の気配はするのです/かけ足をしつつ地図と比べてみますが、《山の
そば》や《T字路の交差してるところ》というふうに、目的地の条件をみた
していることがわかります/うれしさがとたんにあふれてきて、友理奈は
夢中で足をうごかしましたが、それでも、まだだいぶ距離がありました/
でも、あせる気持ちとは裏腹に、直せばもっとはやくなるよ、と体育の
先生からいわれた、両手をぶらんぶらんさせる斬新なランニングフォーム
について、本気で検討してみようかと考える余裕まで、いまとなっては
生まれていました/
5 :さるぶん :2007/05/25(金) 18:48
やったー、コンビニでアイス!ジュースにソフトクリーム!…あ、いや、
アイスとソフトクリームは、おんなじみたいなものか…/そんなことを思い
ながら、地図を確認することもおこたりません/だっていまの友理奈は、
サロペットのおじさんをうらみつつ、道草に話かけていた、あのみじめった
らしい友理奈とは、まるで別人なのですから/「すいませーん!!」/
汗が目に入るのもわすれて、いきおいよく店にとびこみました/都会で
なら、まず、声に出すことはしませんが、このさいはべつです/友理奈は
まっさきに、アイスクリームの売り場をさがします/そしてできることなら、
お行儀は悪いけれど、ソフトクリームの出てくる口のところに直接、顔を
もっていって食べてしまいたい、そうしたら、そこはまるでソフトクリーム
ランドじゃないかと思いました/はたして、アイスの冷蔵庫はみつかり
ました/しかしソフトクリームの機械はみつかりません/そこで友理奈
は、いけない、と思いました/どのコンビニにもソフトクリームがおいて
あるとは限らないことを、ようやく思い出したのです/しかし、そこはコン
ビニです、車一台走っていない田舎町でも、その安心感はきっと裏切ら
ないはずでした/しかし、コンビニにはかならずあるものが、ここには
ありません/ひとつは、ドアです/入り口をさえぎるものはなにもなく、
なかに入ったことさえ、いっしゅん、気づかないほどでした/そして二つ
めは、クーラーがきいていないことでした/だからこそ店内に入った実感
がなかったのです/冷静になってみると、店のすみっこにはレジスター
にうつぶせている、おばあさんらしき人がいます/友理奈は、だんだん
不安になってきました/店内をみわたすと、日の光以外に、照明らしい
照明がありません/あわてて外へ出てみます/いま歩いてきた道が、
すぐ目の前にあらわれましたが、それはともかくとして裏手にまわって
みました/そこには、なにもありませんでした/
6 :さるぶん :2007/05/25(金) 18:49

いえ、ものごとは正確にいわなければいけません/そこにはあったの
です、山が/世界のすべてをおおいつくすように立ちふさがった、大き
な山が/コンビニのまわりがすべて山という町を、友理奈は歩いたこと
がありませんから、あちこちを見てまわりましたが、ほかに建物らしき
建物は見当たりませんでした/進めば進むほど、山の奥ふかくに入っ
ていきそうでしたし、T字路をもどれば家がちらほらとみえていますが、
なんだか「日本昔ばなし」に出てきそうな家ばかりなのです/正面へ
もどると、地図に書かれた名前と、看板の名前をあわせてみます/
みごとに一致しました/そもそも、悪い予感はしていたのです/コン
ビニの名前に「ひらがな+屋」なんて聞いたことありませんでしたから
/サロペットのおじさんと会話したとき、たまたまケータイがつながる
場所にいたので、パパに訊いてみました/すると、個人経営のフラン
チャイズだってあるからね、きっとそういうところなんだろうといっていた
ので、意味も分からないまま、すっかり信じていたのです/もういちど
店内にもどり、友理奈はおばあさんを起こしてみることにしました/
きもちよさそうに眠っているところ、本当にかわいそうだったのですが、
背に腹はかえられません/「すいません、ここってコンビニですか…」
/「うんにゃ、このあたりじゃコンビニみたいに便利な駄菓子屋だと、
いわれちょるねぇ」/そういって、おばあさんはまた夢の世界にもどっ
ていきました/ふらふらと店の外にでていくと、裏手にある山をにらみ
つけます/それが、さっきのサロペットのおじさんに見えてしかたあり
ません/どうやら、とんでもないところにきてしまったようです。
7 :さるぶん :2007/05/25(金) 18:49


(まちの”ほっ”とステーション/了)
8 :さるぶん :2007/05/25(金) 18:52
すみません、最初と最後の行空けがぐだぐだに…(汗
4コマ漫画っぽいレイアウトにするための試行錯誤でした

初回ということで、2話目も投下しておきます
9 :さるぶん :2007/05/25(金) 18:54

クーラーもないし、ドアもない店内では、汗が引いていく気配も、またあり
ませんでした/はじめは、ここが目的地であることを認めたくなくて、
なんども地図を確認したのですが、現実は甘くありません/ここは確か
に、待ち合わせの場所なのです/まぶたの裏で、サロペットのおじさん
が舌をだしています/しかたなしに、友理奈は足を止めて、立ち読みを
はじめました/へたに歩きまわって、迷子になってはいけませんから、
そうするよりほかないと思ったのです/さびついたラックには、いちおう
最新の雑誌が並んでいます/すきまだらけのなかから、友理奈が手に
とったのは、ウォーカー系の雑誌でした/ほんとうは横のファッション誌
がよかったのですが、ひもで縛られていて、開けないようになっていたの
です/月刊誌なぶんだけ、ちょっと値段が高いせいだろうと思いました
/友理奈は、今月の占いを地元でチェックしてこなかった自分をうらみ
つつ、ページをめくることに集中します/右から左へと、一枚一枚、
慎重な手つきを心がけます/これといって読みたいページはないの
ですが、ならば、どうしてそんなに集中するかというと、ファッション誌の
ことが頭にあったからです/お店のひとは、雑誌を立ち読みでめちゃ
くちゃにされるのが嫌なんじゃないだろうかと、そう思ったのです/
こういう週刊誌はページがうすっぺらいですから、めくるとき、簡単に
曲がってあとがついてしまいます/ましてや、長いあいだ歩いてきたの
で、手は汗で湿っています/めくりやすいぶん、ページをハンカチがわり
に使ってるみたいな気がして、だんだんと罪悪感をおぼえてきました/
肩ごしにふり返ると、おばあさんはレジスターでお昼寝をつづけていま
すが、友理奈は、いつしかページをめくる気がうせてしまいました/
10 :さるぶん :2007/05/25(金) 18:55

そこで、そのときたまたま開いていた”今週のライブ情報”を読むことに
します/なんだか今日は、妥協ばかりしている気がますが、うしろ向き
にばかりも考えていられません/気持ちを切りかえて熱心に読んで
いくと、たくさんの写真が目にとびこんできます/あまりに華やかなの
で、どこの外国かと思いますが、よくみると”赤坂BLITZ”とか”渋谷AX”
とかのキャプションがついています/横には、”帰りに行きたい お勧め
のデートスポット”なんてコーナーまであります/それをみて、友理奈は、
なんだか自分がいる場所と、その写真の場所とが、あまりにも遠く
はなれているような気がしてしまい、ページを閉じようとしました/雑誌
が、とても重たく感じられたからです/「あー、ついたー!」/いきなり
声がしました/その大声は、どうやら入り口に立っている女の子のもの
のようです/「おばさん、アイスちょうだい!」/いきなり現れたことにも
おどろきですが、そのことばが、冷蔵庫に手をつっこんだ後のものだっ
たことに、友理奈は二度、おどろきました/銀紙をめくると、まっしろな
バニラアイスが顔をだします/それをみて友理奈は、自分がさっきまで
おぼえていたのどの渇きを思い出しました/ですが、女の子がアイス
をくわえながら、器用に片手で財布を、そして、そこから小銭をとりだす
のをみていたら、また忘れてしまいました/そのまま自分の手に目を
やって、また女の子をみます/「あ、ちがうんだ…」/思わずそう口に
してしまったのは、自分の目をうたがったからです/雑誌で華やかな
デートスポットをみていたので、この店のなかが実際よりも暗くみえて
いたのだと思いましたが、ちがいました/その女の子が、あまりに黒か
っただけなのです/女の子は、おばあさんが受けとろうとするよりはやく、
小銭をカウンターにおくと、その足で友理奈のとなりへやってきました/
11 :さるぶん :2007/05/25(金) 18:55

「あー、これまだ見てないんだよねー」/いっしゅん、自分にいったのか
と思いましたが、友理奈がずっとガン見しているにも関わらず、女の子
は気にもとめません/それどころか、ファッション誌を手にとると、おも
むろに縛ってあったひもを、はずしはじめたのです/「えーっ!」/おもわ
ず声にでていました/そこで、はじめて女の子は友理奈をみました/
「は、ほへ?はいほぉーふ、ほんははほほへはひーひ」/ひもを外すの
に、さっきからアイスを口にくわえているので、とても聞き取りにくいの
ですが、友理奈には、なんとなく分かりました/――大丈夫、読んだら
戻せばいいし/それは、いけないと知りつつも、友理奈だって考えてい
たとだったのです/そして女の子は、本をラックのうえにおくと、片手に
アイスを持ち、もう片方の手でページをめくりはじめました/友理奈は、
この子って地元の子なのかなぁ、だって、この日焼けははんぱじゃな
いし、あーでも、アイス食べたいの忘れてた、っていうか、その雑誌
読みたかったのに、もうっ!――と、いっぺんにたくさんのことが頭を
かけめぐったので、かっとなって、雑誌をにぎりつぶしそうになりました
/「あっ、いけない!」/ページにあとがついていないか、手でアイロン
をかけていると、女の子がいってきました/「あー、あたし、そのライブ
ちょう行きたいんだよねー」/語尾がだらしなく伸びていますが、べつに
ギャルというわけではありません/それに窓のそばに立ってはじめて
わかったことですが、色黒も、どうやら生まれつきのようです/「ほら、
このアーティストさん、DVDとか持ってて、最近よくみてるんだよね」/
のぞき込んでくるので、見る?という意味をこめて、目くばせします/
すると、あ、じゃあ、こっち読む?と、ファッション誌をわたしてきました/
念願の占いがチェックできるとあって、もう少しよろこびそうなものです
が、友理奈は、女の子から目がはなせませんでした/
12 :さるぶん :2007/05/25(金) 18:55

だって、です/「おわー、この遊園地、いきたい!」/女の子は雑誌を
受けとるなり、さっき気になるといっていたアーティストの情報など目も
くれず、つぎつぎとページをめくり出したのです/しかもページのまん
中らへんを、ばりばりと平気でつかんでいます/女の子は、友理奈の
ように汗をかいていなかったようですが、読み終わるころになると、
最初とくらべて、雑誌がすこし厚くなったようでした/もう、占いもノドの
乾きも、どうでもよくなっていました/この子が、待ち合わせていた子
かもしれないと思ったからです/知り合いもくるのですが、紹介したい
子がいるからといわれていたのです/「あのぉ…」/友理奈は思いきっ
て、切りだしました/名前さえ聞いていなかったので、なんとなく、
もじもじしてしまいます/「もも…じゃなくって、嗣永さんの知り合いの
ひとですか?」/「…え、そうだよ」/女の子は、なんとなく嫌そうな顔
をしました/「なんで桃のこと知ってんの?」/ページをめくる手が
ぴたりと止まると、無言のままアイスを食べきって、それからいいました
/「桃に頼まれごとしたんだよね、っていうか、だれ?」/「…あ、わた
し、熊井友理奈ともうします」/なぜか敬語になってしまいますが、
頭まではさげません/「桃子ちゃんと、ここで待ち合わせしてるんです」
/「そうなんだ、じゃあ熊井ちゃんだね」/いきなりのあだ名でしたが、
さきほどからの彼女を見ていれば、べつだん、おどろくことではありま
せんでした/「あたしのことは、千奈美でいいよ」/「あ、はい」/友理
奈は、じゃあ、ちーちゃんだね、などといおうか迷いましたが、ノドのおく
をむずむずさせているうちに、もうひとつの影が、出入り口にみえました
/「おくれてごめーん!」/そういってひらひらさせる手には、思いっ
きり小指が立っていました/
13 :さるぶん :2007/05/25(金) 18:56


(千奈美、あらわる/了)

14 :さるぶん :2007/05/25(金) 19:00
レイアウトですが、上一行、下二行というかたちがよさそうです…(汗

さて、更新のほうですが、週一ぐらいをめざしています
よろしくどうぞ
15 :さるぶん :2007/05/25(金) 23:17
つづきが書けたので投下します
いきなりの約束やぶりですがw
16 :foreseasonz :2007/05/25(金) 23:19

友理奈は、とても背の高い女の子でしたが、桃子は、それを抜きにした
としても、とびきり小さな女の子でした/歩き方もかわっていて、お尻を
きゅっと上げて、まるでペンギンのようなのです/そのようすで、ひょこ、
ひょこと、千奈美のもとへむかいます/「あ、このヒモ、とっちゃったの?」
/ひとさし指は雑誌へと向いているのですが、ぴんと立った小指はと
いうと、てんでまちがった方向をさしています/それをみて友理奈は、
すこしだけ目が泳ぎます/「壊れちゃったんだよ、古かったから」/
首のうしろをかいている千奈美をみて、つぎに、あらためてヒモをみると、
友理奈は、それにも一理あると思いました/たしかに、古っちいのです
/それも、はじめからそんな色だったなんて、どれだけじょうずに説明
されたって信用できないほど、おかしな黄ばみかたをしているのです
/「徳さんてば、買うお金ないもんね」/「う、うるさいなぁ…」/桃子は、
小指の立った両手を、胸のまえでるんるんとゆすっています/さっき
までの元気はどうしたのと友理奈は思いましたが、ひもをとってしまった
ことを、桃子がたしなめてくれたのだと思い、やりすごすことにします/
友理奈とは、今朝ケータイではなしていたので、再会をよろこびあう話
もそこそこに、そのまま、立ち読みが再開されました/ですが、どこか
落ちつかないようすの千奈美は、ページをめくる手がおそくなっています
/「これってさー、こないだ徳さんがいきたいっていってたライブでしょ?」
/ふたりのあいだにはさまって、きょろきょろしていた桃子がいいました
/友理奈からすると、日陰になってよくみえないのですが、さっき千奈
美がいっていたアーティストだろうと思いました/そこは、とっくにすぎ
ていたはずですから、どうやら千奈美はページを逆さまにめくっていた
ようです/「もーのおかげで見にいけるんだから、おみやげたのむよ」/
17 :foreseasonz :2007/05/25(金) 23:19

うふふ、このこのぅ、みたいな感じで肩をぶつける桃子に、リアクション
に困ったようすの千奈美/このふたりがいったいどういう関係なのか、
はかりかねている部分が友理奈にはありましたので、なんとなく、みょう
な”間”を感じてしまいます/そこで、話題をふってみることにします/
「ねぇ、みて、あたしの星占い、恋愛運が最高だって!」/どれどれと
桃子がのぞき込みます/あっちをみて、こっちをみてと、まったく忙しい
なぁとおもう友理奈ですが、千奈美のほうをみると、ページをめくる
スピードが元にもどったので、ま、いっかと思います/「でもさ、それって
意味なくない?」/千奈美がいいます/「え、なんで、なんで」/友理
奈は、頬をふくらませます/だって、ここへきて、はじめてラッキーと
思えるような出来事だったのですから/「それって今月号でしょ」/
「そうだよ」/「発売って3週間ぐらいまえでしょ」/「…そうだけど?」
/友理奈は、本当にいっている意味がわかりません/「徳さんがいい
たいのはさ」/桃子です/「もうすぐ星占いの効果なくなっちゃうんじゃ
ない?ってことだよ、たぶん」/「…あ、そっか」/それで友理奈は
しゅんとしてしまいます/「それにさ、ほら、ここじゃ男の子なんて、
カッコイイ子いなさそうだし…ね」/友理奈がしゅんとしたのも、まさに
それが理由ともいえます/だって、こんな田舎町に、あと二週間も
いなくてはならないのですから/「そういえば、ももちって何の用事で
きたの?」/ここに自分が呼ばれた理由もふくめて、友理奈はまだ
なにも聞かされていないのでした/「カテキョだよ」/桃子にしかでき
ない、舌っ足らずないいかたでした/そのつづきによると、親戚の子
の勉強を、夏休みのあいだじゅう、みてあげればいいのだそうです/
18 :foreseasonz :2007/05/25(金) 23:20
「へー、そうなんだ、それでバイト代って、どれくらい?」/「あー、うん、
…それ、あとでね」/なんだか歯切れのわるい感じでした/「あたし、
ちょー欲しいポロシャツがあるの」/友理奈は身ぶり手ぶりでアピり
ます/「茶色のやつなんだけどね、白とピンクの刺繍がしてあって、
それで襟がちっちゃくて、もーすごくカワ…」/そこまでいって、またも
や千奈美の手が止まっていることに気づきます/「そうなんだ、ふーん、
まー、似合うと思うよ、だって、くまいちょー茶色すきだもんね」/桃子
は、友理奈のまえのファッション誌を勝手にめくりながら、千奈美のほう
をみています/「ね、徳さんもそう思うでしょ?」/「うん、おもう、おもう
よ、熊井ちゃん」/千奈美も、桃子がめくるファッション誌をみながら、
自分の手はウォーカー誌をめくっています/とても奇妙な光景でした
が、それで、なんとなくはぐらかされてしまい、友理奈はなにもいえ
なくなりました/相変わらずきょろきょろとやりながら、二冊の雑誌を
みている桃子/友理奈と千奈美は、桃子が口出ししてきたらページを
とめて、なにごとか会話の糸口をさがしました/そんなことをしている
と、それはそれで楽しくなって、キャッキャ!とさわぎはじめてしまいま
す/「そもそも、どうしておいてあるんだろうね」/桃子は、ファッション
誌についていっているのです/「いくら田舎でも、オシャレに興味のある
ひとぐらい、いるでしょ」/これは千奈美です/「え、だって、こんな場所
なのに?」/友理奈は、目の前にひろがる景色をみながらいいました
/そよ風が、ここちよく吹いてきます/いつだったか”窓際”といいまし
たが、そこにガラス窓がはめこんであるなんて、だれもいっていません
よね?/「だれが、どこから?」/友理奈の追求は止みません/「うしろ
の山をずっといったとこに、町があるんだよ」/
19 :foreseasonz :2007/05/25(金) 23:21
「それにしたって、遠くない?だれも、ここまで買いにこないよ、こんな
場所に」/友理奈は、いかにこの店がへんぴな場所にあるかを、切々
と訴えました/このころには、すっかり忘れていたはずのサロペットの
おじさんが頭の中によみがえっていたので、熱が入ってしまうのです/
こんな場所に、こんな田舎に――そういう意味のことを、もうなんべん
いったかわかりませんでした/すると、いきなりでした/「こんな場所で、
わるかっただよ」/さびた自転車のような音がしました/ふりかえると、
レジにいたおばあさんが、のそっと立っていました/うわぁー!!!/
三人でいっせいに飛びのきます/「どれだけ田舎でもな、雑誌の値打
ちは、変わらねーだよ」/だれをみるともなく向けられていたおばあさん
の目が、ぬっと落ちました/それを追いかけると、三人は、自分たちが
雑誌を踏みつけていることに気づきます/おどろいた拍子に落とした
のでした/おばあさんは、そのまま雑誌をひろいあげると、なにもいわ
ずにレジに向かいます/「…え、なに?」/「買いとれ…ってことじゃな
い?」/はじめのは千奈美で、応えたのは友理奈でした/さっきから
三人で好き放題にめくっていたので、極めつけにふんづけられた雑誌
は、いまやめちゃくちゃになっていました/「徳さん、ほら…」/桃子が
はやしたてます/このこのぅ、のときとは、ずいぶん迫力がちがうよう
です/友理奈は、さっきアイスを買った千奈美を思いだし、右ポケットに
入っているはずの、彼女の財布に注意を向けています/床に落ちた
ヒモは、たしかに黄ばんでいるのですが、思えば、千奈美がむりやり
に取ってしまったのだということを、友理奈は、いまこそはっきり意識
していたからです/その千奈美が、あたしヤダよ、と小声でいいだした
ので、だれがいくかで、モメはじめます/
20 :foreseasonz :2007/05/25(金) 23:21
「だれでもええから、はよしんしゃい!」/自転車が、がたん!といいま
した/「徳さんが…」/桃子に背中をおされた千奈美が、一歩まえに
進み出ます/おばあさんにみられた千奈美は、いっしゅんたじろぎます
が、さっきアイス買ったので最後だったといって、お手上げのポーズです
/次におばあさんがみたのは、千奈美のとなりにいる桃子ですが、
「あたしは、ヒモが外れたとき、いませんでしたよ」/さらっと、いって
のけます/もちろん、それは、まっとうな主張でしょう/つまり、おばあ
さんは自然のなりゆきから、友理奈へとたどりついたのです/「あんた、
物欲しげにみとったじゃろう」/ファッション誌を手でたたくおばあさん/
それはとんだ濡れ衣だとおもう友理奈ですが、ことばになりません/
だって、おばあさんは、さっきまで寝ていたのに、いつのまにうしろに
立っていたのだろうと、ほんとうに、おどろいていたからです/「…あ、
あた、あたし…」/気づけば、ふたりは友理奈の背中に隠れています
/こんなときなのです、友理奈が自分の背の高さを呪うのは/「…くま
いちょー、ファイト」「…かっこいいよ、熊井ちゃん」/雑誌をめちゃくちゃ
にしたのは、ほとんど自分たちの責任なのに、ふたりは、友理奈の
背中から好き勝手いっています/「770円だーよ」/友理奈は、いわ
れたぶんだけ、財布を軽くするしかないのでした。
21 :foreseasonz :2007/05/25(金) 23:23


(桃子、あらわる/了)

22 :さるぶん :2007/05/25(金) 23:31
ストックを3つ用意するやり方なので、それ以上書けたら
随時投下していくことにします。ふだんは>>14でいきます。

あとレイアウトの件ですが、《ヘッドライン》と《レスを全部
読む》では表示が微妙に異なるということを知りませんで、
お見苦しい感じになりました(汗 (上1/下1で統一します)

いろいろややこしくて、すみません。
23 :さるぶん :2007/05/25(金) 23:36
いやちがった、レイアウトは”上下なし”で統一でした
なんか、ひとり相撲とってるな…(汗

飼育はじめてなんで、勘弁してください。
24 :さるぶん :2007/05/26(土) 00:57
もうひとつ書けましたw
25 :foreseasonz :2007/05/26(土) 00:58
コンビニを出ると、日差しがまともに落ちてきました/友理奈は、小脇に
二冊の雑誌をかかえたまま、うなだれて、自分の影ばかりみています
/うしろから、千奈美がやってきます/戸口をくぐったところで、いきな
り大声をあげます/「あー、なんか、ドンッ!てくる」/うしろをふりかえ
って、友理奈は首をかしげました/「どん…って?」/「なんか、太陽
がドンッ!って感じじゃん?」/こんどは身ぶりをまじえていますが、
友理奈は、自分の影をふんづけている千奈美の靴ばかりみていまし
た/千奈美のする動きは、3人の真上にある太陽から、あたまのうえ
にめがけて、なにかが落ちてくるようなジェスチャーでした/「千奈美
ちゃんってさ…」/「呼び捨てでいいよ、あるいは”ちー”とか」/友理
奈は、そこでやっと顔を上げました/「うん…、ちーってさ…」/はじめ
てあだ名で呼んだので、友理奈はすこし口のまわりがフガフガします
/「なんか、ヘンな擬音つかうよね」/「そうかな」/「そうだよ」/そう
いって、友理奈は、雑誌をにぎりしめました/この二冊のお会計をする
とき、横にいた千奈美を思いだしていたからです/雑誌がくしゃくしゃ
になったのは、いったい誰の責任だったのか、それが曖昧にされたまま
お金を払わされることに納得のいっていなかった友理奈は、レジスター
をうつおばあさんの前に立たされながら、くさくさしていました/なんだ
か、学校の先生にお説教されているような気分になっていたのです/
すると、千奈美はよこにきて、こうささやいてきたのです/「…がたぴし」
/友理奈はさいしょ、この子はなにをしているんだろうと頭にきました/
友理奈は、もうぜったいにリアクションなんてしてやるもんか、この千奈
美という子も、弟たちと同じで、わたしにむちゃくちゃなことを要求する
悪い子なんだ、
26 :foreseasonz :2007/05/26(土) 00:59
だってうちの弟なんて、あめ玉の最後のひとつを誰が食べるのか、
じゃんけんで決めようっていったのに、いざ負けると、泣いてダダを
こねたりして、けっきょくママに怒られるのは、いつだってわたしなんだ
から…と、不満がぐるぐるとうずをまいていたので、無視をきめこんで
いたのです/ですが、それでも千奈美は、…がたぴし…がたぴし…と、
くりかえすのです/あんまりしつこいので、なんだろうと思っていると、
千奈美がささやくのとおなじ音が、どこからか聞こえてくるのです/
しばらく聞いていると、正体がわかりました/それは、おばあさんの
打つレジスターのたてる音でした/あんまりおんぼろなので、ひとつ
ボタンを押すたびに、がたぴし、がたぴし、といっているのです/しか
も、おばあさんは目がわるいのか、腰がわるいのか、あるいは、その
両方なのか、まるで、なめるようにしてレジスターに顔をちかづけて
います/そして、何度も何度も打ちまちがえては、また一から、がた
ぴし、がたぴし、とやるのです/それを何度かくりかえすと、おばあさん
は頭にきて、レジスターをひっぱたきます/その音も千奈美は、がしゃ
ん!とか、しゃばん!とか、モノマネをするのです/おばあさんの格好
や、レジスターが自分のサイズには似つかわしくない大きな音をたてる
こと、あるいは、おばあさんが、ほかの動きからは予想のできないすば
やさでレジスターをひっぱたく様子に、友理奈はおかしくてたまらなくな
ってきました/…がたぴし…まつがえた…バンッ!…がたぴし…あん
れぇ、また、まつがえた…バンッ!…がたぴし…あんれぇ…/千奈美
の実況を聞いているうちに、つい、声をたてて笑ってしまいます/する
と、おばあさんは、ぬるりと目をまわしてこちらをみたので、笑いがノド
のおくにひっかかって、友理奈は、ひーひー苦しみながら、お会計を
済ませたのでした/
27 :foreseasonz :2007/05/26(土) 00:59
「うーん、たしかに暑いかも」/そういって友理奈は、空を見あげると
目を細めますが、そこでハッとしました/小脇にかかえた雑誌をもち
あげて、影をつくります/「サン・バイ・ザー!」/そういって、千奈美の
ほうをみますが、無言でした/「いや、こうすると、涼しいかな…って」
/なにかいおうとする千奈美をまたずに、おくれてやってきた桃子が
いいました/「じゃあさ、もーがいちばん小っちゃいんだから、いっぱい
落ちてくるぶんだけ暑くない?」/桃子はちいさな身体をいっぱいに
伸ばして、天を仰いでいます/そうすれば、すこしでも落差がちいさく
なるぶん、暑さがやわらぐとでもいいたげでした/その様子はむしろ、
太陽を歓迎しているようにもみえましたが、目はしばしばさせています
/それを気の毒におもった友理奈は、もう一冊の雑誌をもちあげて、
桃子に渡そうとしますが、タイミングわるく千奈美がさえぎります/
「とにかく、ドンッ!って、くるよね」/「え、でもさ…」/雑誌をちゅう
ぶらりんにしたまま、バツのわるい友理奈は、控えめにいいます/
「あたしがいちばん背高いじゃん、だから太陽に近いぶん、いちばん暑い
気がする」/すると千奈美が、「うーん、それわかんないかな」と、さり
げなく否定しました/「えー、なんで、なんで!」/「くまいちょー、それ
はちがうよ」/桃子はさっきといってることがちがうのですが、それきり
話題は終了してしまいます/友理奈は、なんだかおもしろくないなと
思いますが、雑誌をひっこめて、「…サン・バイ・ザー」と、つぶやきま
した/「まー遅いね」/千奈美がいいました/「…え、”まー”って?」
/友理奈は、またうなだれてしましたが、知らない名前に顔をあげま
す/「カテキョたのまれた子だよ」/フルネームは、須藤茉麻です/
「まーさんの親戚の子が、2週間お留守番することになったんだって、
だからお泊りして面倒みるんだって、うちらは、その手伝い」/
28 :foreseasonz :2007/05/26(土) 00:59
「…え、カテキョって、ももちの親戚の子じゃないの?」/「そうだけど、
まー似たようなものじゃん、テキトーだよ、テキトー、うふふっ」/また、
このこのぅ、の感じです/桃子に腰のあたりを小突かれながら、この
二人にくわえて、またヘンな子が増えるのかもしれないと思い、友理奈
はちょっと憂鬱になりました/「はやくきてくんないと、うちら溶けてなく
なっちゃうよ」/そういって千奈美は、どろどろ、とか、ぐちゃんぐちゃん、
とかいっています/いえ、それだけならまだしも、桃子がそこへのっか
ってきたものですから、身体が溶けても、骨がのこってるんだから、
ばしゃんばしゃん!だよ、とか、ちがう、ぶちょんぶちょん!だよ、とか
いいだす始末です/それをみた友理奈は、やっぱヘンだよ…とつぶや
いて、サンバイザーにした雑誌を、ふたつ重ねるのでした。
29 :foreseasonz :2007/05/26(土) 01:00


(サン・バイ・ザー!/了)

30 :さるぶん :2007/05/26(土) 01:02
今日は、もう終わりにしておきます。
31 :foreseasonz :2007/05/26(土) 14:47
どれだけ待っても、茉麻はやってきません/「このままだと、お肌に悪い
わ」/小指をたてて、桃子がいいます/友理奈はもういちどだけと思い、
雑誌をわたしますが、聞き入れません/もう、なかに入ろうの一点ばり
なのです/そこで、みんなして駄菓子屋へもどることにします/恐る恐る
なかをのぞきますが、桃子はちゃっかりとしんがりにいて、先頭はもち
ろん友理奈でした/背中をおされ、ながい首をのばしてみると、おばあ
さんは、なにごともなかったかのようにレジスターでうとうとしていました
/おもわず、ため息がでます/いちばんになって、どかどかと入っていく
千奈美は、おもむろにケータイを取り出しました/「このへん、つなが
る?」/友理奈は、つらく、きびしかった田舎道を思い出しながらいい
ました/どうせ圏外だろうと思ったのです/「大丈夫、この先に中継局
があるから、たまにつながるんだよ」/ボタンを押すと、ツーツーいうの
が聞こえてきます/「このあたりって、静かなんだね」/友理奈はつぶ
やきながら、桃子といっしょに、千奈美の様子をうかがっています/
「ふふっ…もう、そんな見ないでよ」/手をひらひらさせて、千奈美は
おどけてみせますが、ケータイは、おなじ音をくりかえすばかりで、いっ
こうに働いてくれません/それでも、しばらくのあいだコールを聞いてる
と、どこからか騒がしい音が聞こえてきます/「これって…」/友理奈は、
電子音に目をかがやかせました/ようやく、この店から開放されると
思ったのです/くりかえしますが、あたりにはセミの泣き声しか聞こえ
ません/そのため、だんだんと近づいてくる音はまだ遠いのですが、
その代わりに、ヘンな音がまじっている様子も、よく聴きとれました/
すると、いきなりです/がたぴしのレジスターでうたた寝をしていたおば
あさんが身をおこしました/
32 :foreseasonz :2007/05/26(土) 14:48
顔には、7とか4とかいう値段を打ちこむボタンのあとがついています
/首をひねって、なにかうめきました/それを友理奈は不思議そうに
みていますが、ひねるといっても、納得いかないときにするような、あの
動きではありません/うしろをふり返って、どこか空中の一点をみつめ
ているのです/しばらくすると、どうやら音は、店のぐるりを周るように
移動していることがわかりました/それに合わせて全員のふたつ目
が、おんぼろの壁をなめるように移動していきます/「店のまわりを、
道がはしってるんだよ」/友理奈は、ここに着いたばかりのとき、
あたりを歩いたことを思い出していました/どうやら音は、その道を
移動しているらしいのです/ぐるりを半分ほど回ったところでしょうか、
ふと、がしゃん!という音がして、つづいて、ひゃあ!という声が聞こえ
ました/「おあっ!切っちゃった」/おどろいた千奈美がヘンなところを
押してしまったらしく、音がとぎれました/やはり、それは着信音だった
ようです/それが消えるとこんどは、あばばばばばばばば!という音
が聞こえてきました/「なんの音?」/「ちがうよ、ひとの声だよ!」/
ふたりを静止して、桃子はまくしたてます/「ヤンキーだよ、田舎の子
って自転車からヘンな音だすし!」/とても興奮したようすです/さっ
きから着信音に混じっていたのは、これだったんだと友理奈が思って
いると、その、あばばば!が大きくなっていきます/みんなの目線は
駄菓子屋の壁をすっかり一周して、玄関にむけられていました/むこ
うにある坂道から、自転車がつっこんできます/「なんか、すごい勢い
だよ…」/「ひとが、ひとが乗ってる!」/それをみた友理奈は、小さな
パニックを起こしてしまいます/「これ、あぶっ…あぶないよ!」/そう
いうと、よくわからないまま、手近にあった「うまい棒」を数本手にとり、
にぎりつぶしてしまいました/
33 :foreseasonz :2007/05/26(土) 14:48
「あ、これ、なにすんだ!」/おばあさんがいいますが、こっちくるよ!
と千奈美がさけんだことで、駄菓子屋は大パニックです/友理奈は、
うまい棒の”めんたい味”と”チーズ味”を交互に持ちかえていますし、
千奈美は、天井にぶらさががったアニメのお面をかぶろうと奮闘して
います/かけずりまわる桃子にいたっては、びんびんに立った小指が
おばあさんの前かけに引っかかっているので、半径30センチのあいだ
をいったりきたりしていることに気づきません/ですが幸いなことに、
自転車の軌道はそれました/あばばばばばば!を発したまま、店の
よこっ面に激突します/だゆーん!/なにかが大きく壊れる音がしま
した/みんなは、いったいぜんたいなにが起きたのかと思い、あわて
て外に出ようとしますが、駄菓子屋の入り口がせまいので、しばらく、
おしくらまんじゅうしてしまいます/出たり入ったりをくりかえす桃子の
頭を、友理奈がさり気なくわしづかみにし、交通整理をしていなかった
としたら、五分でも十分でも、そうしていたかもしれません/ことばが
そうであるように、出入り口だって、正しく使いたいのが友理奈なの
です/ようやく抜けでてみると、自販機のよこで女の子がひっくりかえ
っています/「あばばばぁ、また怒られちゃう…」/かなり動揺した
ようすですが、おしりを太陽にむけて、両足のあいだから顔をだすと
いうきゅうくつな姿勢をとっていることを考えると、おおむね上々でしょう
/「これで5台めだゆん…」/みょうちきりんな口調はさておき、あたり
をみてみると、自転車のものと思われる部品が、散乱しています/
4台も壊したんだ…と友理奈はつぶやきましたが、だれも聞いていま
せん/あんれまぁ、またやったのかえ、とおばあさんがいったたため
です/
34 :foreseasonz :2007/05/26(土) 14:48
友理奈は、なんとなく千奈美をさがしましたが、ケータイを耳に当てた
ままという、マヌケなかっこうをしています/桃子は桃子で、まだ小指
をおばあさんに引っかけていました/「いつも、ごめん…」/女の子が、
ほんとうに申し訳なさそうにしています/よくみると、あたりに転がった
パーツは、一台分にしては多すぎるようです/友理奈は、いつもなん
だ…ということばといっしょに、なんか、田舎のひとってヘン…という
ことばを飲み込みました/もちろん、この女の子が地元の子だとは、
まだ決まっていないのですが、この状況自体が、真剣に向きあうこと
を放棄させるたぐいのものでした/「そんなことはいいから、さっさと
起きあがらんかぇ」/おばあさんにうながされ、女の子の地面とお日
さまは、ようやくもとどおりになります/その日常的なやりとりから思う
に、どうやら4台のうち、ほとんどがここで、しかもおなじようにして
壊れたのは明白な事実のようです/もっとも、自動販売機のよこっ
ちょという場所が、なにごともない自転車をとつぜんバラバラにする
ミステリースポットだというのなら、はなしはべつですけどね。
35 :foreseasonz :2007/05/26(土) 14:49


(りさ子、あばばる/了)

36 :foreseasonz :2007/05/26(土) 14:49
とりあえず、女の子を休ませようということになって、なかにつれていき
ます/「ほんとうに、ごめんだゆん…」/店のおくには座敷があって、
上がりかまちに座らされた女の子は、しきりにあやまっています/お茶
を入れながら、おばあさんはなにかいっていますが、おそらく気にするな
ということでしょう/「だいじょうぶ?」/友理奈が、めちゃくちゃに散乱
した自転車をみて、あれ片付けないのかな…と思っていると、いつの
まにか、となりへ腰かけていた桃子がいいました/「…うん…あ、はい」
/女の子は、ケガはなさそうでしたが、どこか不安げです/「でもさー、
ホント、びっくりしたよねー」/おもしろそうにいうのは、千奈美です/
女の子は順番に、千奈美、桃子、友理奈をみると、うつむいてしまいま
す/「熊井ちゃんがでっかいから、怖がってんじゃない?」/千奈美が
いいます/「…そ、そんなこと」/口では否定しましたが、友理奈は、
たしかに自分がみられたとき、女の子がびっくりしていたのに気づいて
いました/「…あ、あの、うちら、ここでまちあわせしてるんだ」/あわ
てて、いいますが、それでも暗い店のなかでは、入り口からさしてくる
光を背にした友理奈は、じっさい以上におおきくみえたので、女の子は
相変わらずおびえていました/「そうだよ、あたしは嗣永桃子、こっちが
徳さんで、この子がくまいちょー」/桃子があだ名で紹介したので、
それじゃわかんないよ、と千奈美がフルネームをおしえます/つづいて、
友理奈もそうします/「…あたしは」/女の子は、それですこし安心した
のか、顔をあげて、自己紹介しました/「すかーいさこです」/「は?」
/全員が、いっせいに聞き返しました/「スカイ・ザ・コップ?」/いった
のは友理奈でした/「…だからっ、すかーいさこです」/女の子は、
少しむっとした様子ですが、それで、はじめて友理奈と目が合いました/
37 :foreseasonz :2007/05/26(土) 14:50
桃子が、ゆっくりでいいから、もういちどいってごらん、といいますが、
やはり頬をふくらませたまま、”すかーいさこ”というのです/そこで紙
に書かせてみて、ようやく女の子が、”菅谷りさ子”という名前だと分か
りました/りさ子は、とても滑舌がわるかったのです/「おあがんなさ
い」/おばあさんが、淹れたてのお茶を出してくれました/声をそろえ
て、いただきまーす!といいますが、友理奈は、悲鳴をあげました/
「熱い!」/友理奈は、冷たいお茶だとおもって口をつけたのです/
なにせ都っ子の友理奈の家では、だれも熱いお茶なんて淹れません
でしたから/それにしたって、手に持った時点でわかりそうなものです
が、ばらばらになった自転車のパーツに気をとられていたのです/
友理奈の性格をかんがえれば、不可抗力といえそうです/「たしかに
熱いね、冷たいほうがいいのに」/遠慮のない千奈美ですが、おばあ
さんは笑っています/「暑いときにこそ、熱々のを飲むものなんだよ」/
そういうものかなと思って、みんなでちびちびとやりますが、りさ子だけ
はちがいました/「おかわり!」/舌がひりひりしている友理奈をのぞ
いても、みんなまだ半分しか飲んでいません/はいよといって、おば
あさんは、二杯目を渡します/さきほどからのやり取りをみていると、
りさ子とおばあさんは知り合いのようでしたが、なにか、とても奇妙な
ことである気がして、みんな顔を見合わせます/ですが、いったい何
がどう奇妙なのか、てんでことばになりません/すると、二杯目の底
を確認して、りさ子が口をひらきました/「ママ…じゃなくて、まあさが、
様子をみてこいって」/またもや、なにをいいだすのか、あっけにとられ
ていた三人ですが、桃子にむかってりさ子が、「桃子ちゃんでしょ?
高校生の」といったので、すこし事情が飲み込めました/
38 :foreseasonz :2007/05/26(土) 14:50
「まーさんの親戚の子!」/桃子は、自分でいって、うんうんとうなづい
ています/どうやら、りさ子は、茉麻といっしょにいたのですが、約束
の時間におくれそうだったので、ひとり自転車に乗せられて、さきに
こさせられたようでした/「でも、よくももちのこと分かったね」/友理奈
は、ふしぎそうにいいました/「そうだよ、りさ子は、桃のこと知らない
はずだよ」/「だって、これ…」/りさ子は、ゆび指します/「お茶?」/
「…じゃなくて」/りさ子が指さしている先をよくみると、湯飲みをもった
桃子の手でした/「いけばわかる、小指ててるのが桃子だからって」
/「あー!!」/千奈美と友理奈は、おもわず声がそろいます/「なに
よー!」/べつに、けなされているわけではないのですが、複雑そうな
桃子です/「りさ子ちゃんて、観察力があるっていうか、なんかすごい
ね、いくつ?」/かえってきた答えに、友理奈おどろきました/「うそ、
あたしと、ひとつしかちがわないんだ」/「なんかさ、さいしょ会ったとき
は、へんな子って思ったけど、いまこうしてみると、すっごい落ち着いて
るよね」/またもや、さらっと毒のあることをいう千奈美ですが、おおむね
うなづけてしまうだけに、二人は注意はできません/「まるで別人みた
いだね」/友理奈は、感心したようにいいます/「大人に変身しちゃっ
たみたいだよ」/みんなが、あんまりいうので、りさ子はもじもじしはじ
めます/「ママ…じゃなくって、まあさは、もうすぐくると思います」/
そのいいかたも、照れかくしにぶっきらぼうな感じでした/「ところでさ、
その”ママ”ってなあに?」/桃子がいいました/それは気になっていた
ことなので、千奈美と友理奈は、身をのりだしました/
39 :foreseasonz :2007/05/26(土) 14:50
「えっと、まあさは、ママみたいにやさしくて、でも、ちゃんと怒るとこは
怒ってくれて、それで、えっと…」/茉麻について話だすと、りさ子は
表情がこどもっぽくなります/それをみた友理奈は、たのしそうにいい
ました/「あたし、まだ会ったことないけど、きっとやさしい子なんだね、
茉麻ちゃんって」/「うんうん、もーもそう思うよ、友達が塾でいっしょで、
たまに会うんだけどね、すっごく、おもしろい子なの」/「おかしなこと
ばっかりしてるんだけど、すごい癒されるよね」/千奈美も、茉麻とは
知り合いのようです/目を輝かせ、あるいは小指をそそり立たせて、
つぎつぎと褒めことばを口にする二人をみて、友理奈はいいました/
「あー、はやく会ってみたいなぁ、きっとたのしいとおもう!」/すると、
とつぜんケータイが鳴りました/「まーさんかな」/着信があったのは、
桃子のケータイでした/「たぶん、心配になってかけてきたんだよ」/
友理奈がいうと、「ちゃんと着いたかどうか、心配なんだね」/千奈美
までが、めずらしく殊勝なことをいっています/そこで桃子はケータイ
を、りさ子にわたしました/受け取って、通話をはじめると、りさ子の
表情がくもりました/「あば…」/耳に当てたケータイが、ふるえまし
たが、バイブ機能ではありません/「あばば…」/「どうしたの?」/
ようすがおかしいと思った友理奈が、声をかけます/「あばばば…」/
りさ子の手のふるえがはげしくなると同時に、地響きのような音がしま
した/そばで居眠りをしていたおばあさんが、がばっと顔をあげます
/「なんまんだぶなんまんだぶ…」/店のぐるりをまわっていく音は、
次第におおきくなっていきます/それを追いかける視線が正面へと
むかうと、むこうから何かがやってきます/「り〜さ〜こ〜!!」/
それは人影のようでした/
40 :foreseasonz :2007/05/26(土) 14:51
「あばばばばばばばばっ!!」/どこかでみた光景に三人がテンパる
ヒマもなく、その人影はまっすぐ駄菓子屋のなかに突進してきました/
「あなた、また壊したのねっ!!」/その人影は少女で、りさ子に掴み
かかると、ぐいっと持ち上げて、おしりをぺんぺんしはじめました/
「これで何台め!?もう、許さないんだからっ!」/「ママごめんっ!
ごめんだゆんっ!」/バズーカ砲のような状態でかかえられたりさ子
は、無防備なおしりをすき放題に打たれていて、ぺしんっ!ぺしんっ!
という、痛々しい音が店じゅうにひびきわたります/あまりの光景に、
まるで自分のおしりまでひりひりした気分になった友理奈は、目を
そむけて、となりの桃子にききました/「…あの子、だれ?」/おなじ
気持ちなのか、おしりをキュッとすぼめた桃子はいいました/「…あれ
が、まーさんだよ」/ぺしんぺしんいう音と、おばあさんのお経とを聞き
ながら、さっきいったことを撤回したくなって友理奈はつぶやきました/
「…まるで別人じゃん」。
41 :foreseasonz :2007/05/26(土) 14:51


(茉麻のときめき☆アックスボンバー!/了)

42 :さるぶん :2007/05/26(土) 14:52
なんか、やたら書けたので投下しておきますw
43 :foreseasonz :2007/05/26(土) 18:00
「…そ、それくらいにしてあげようよ!」/あんまりぶたれているので、
みるにみかねた千奈美が、止めにはいります/「とめないで、この子は
わるい子なの、だから、だから…」/そこへ友理奈が加わり、ふたり
ががりになって、ようやく茉麻は止まりました/ほとんど、はがいじめの
状態です/「まーってば、やりすぎ」/二人が止めていたとき、うしろで
意味なくドタバタしていた桃子がしゃしゃりました/「…だって、だって」
/茉麻は、泣く泣く事情をはなそうとしました/ですが、ストップがかか
りました/「ちょっとまって!」/友理奈でした/「さっきは気づかなかっ
たけど、やっぱり、りさ子ちゃんケガしてるよ」/友理奈は、ひざ小僧の
あたりを指しています/「おばあさん、マキロンは?」/りさ子のケガは
日常茶飯事なので、よく貸してもらうのだそうです/茉麻のことばに、
おばあさんは、意外とすばやく立ち上がり、おくに引っこみましたが、
渋い顔をしてもどってきました/「あんれぇ、切れちまっただぁよ」/
そこで、だれがいい出すでもなく、いまから買いにいこうという話になっ
たのですが、自転車は壊れて使えません/「りさ子をのぞくとしても、
薬局の場所を知っているのはまーさんだけだよね」/桃子がはしこそう
にいいましたが、茉麻は否定します/「ごめん、あたし、たまにしか帰っ
てこないから、このあたりのこと、よく知らないんだ」/「あたし、知ってる
よ!」/りさ子が、手をあげました/「ケガ人が手あげて、どうすんの」/
「だって、ぜんぜん痛くないないんだもん」/たしかに、いますぐにでも
歩けそうな傷でしたが、どことなく、みんな気が引けてしまうのは、この
中で、りさ子がいちばん小さいからでした/そこで、”ママ”というだけの
ことはあって、みんなの目は自然と、茉麻にむけられていました/
44 :foreseasonz :2007/05/26(土) 18:01
「ケガが痛まないようにすれば、大丈夫でしょ」/堂々といい張る茉麻に、
うしろから、だいじょうぶだぁ、と、おばあさんの声がかかります/鶴の
一声によって、けっきょく、りさ子を連れて、薬局へむかうことになりまし
た/しかし、それに乗り気でないのは、友理奈でした/「ちょっとまって、
町まで歩くってこと?」/「そうだよ?」/9時25分に、9時25分の電車
がきたよ、とでもいいたげな顔で、千奈美がいいました/「何十分も歩く
んだよ!?」/友理奈は、つい忘れがちになっていた、あの午前中の
できごとを思い出していました/「くまいちょーなにいってんの」/桃子
が、あきれた声でいいます/「そんな、ももちだって知ってるでしょ、ここ
まで歩いてくるのが、どんなに大変か!」/友理奈に地図をわたしたの
は、なにを隠そう桃子だったのです/「…大変って、ねぇ?」/桃子は、
みんなに同意をもとめました/それは、友理奈のいっていることのおか
しさをあばくための投票でしたが、賛成多数により、可決されました/
「そんなぁ…」/友理奈は、泣く泣くついていくしかありません/小さな
傷とはいえ、ケガ人がいるため、恨みごとをいうわけにもいかず、ぶすっ
とした表情さえつくれずにいた友理奈は、その代わり、めいっぱい驚く
ことになります/そして、すぐに赤面するのです/「まって、みんなどこ
いくの?」/友理奈は、とうぜん今朝きた道をもどろうとしたのですが、
みんな山のなかに入っていこうとします/「薬局だよ?」/茉麻がこたえ
ます/「どこの?」/友理奈がぶつけます/「すぐそこの」/「え!?」
/「山を越えてすこしいったところに、小さい薬局があるんだよ」/りさ子
がこたえます/友理奈は、頭がこんがらがってきました/「町って、あっち
にあるんじゃ…」/友理奈がゆびさしたほうをみて、みんな笑いました/
「なんで、わざわざとなり町までいくの、こっちなら5分で着くのに」/
45 :foreseasonz :2007/05/26(土) 18:02
どうやら今朝の友理奈は、スタート地点をまちがえたために、あの地獄
をあじわったようでした/「…そんなぁ」/すたすたと歩いていくみんな
のうしろを、うなだれた友理奈は、遠慮がちについていくしかないのでし
た。
46 :foreseasonz :2007/05/26(土) 18:02


(あかんべぇサロペット/了)

47 :foreseasonz :2007/05/26(土) 19:18
山にはいっていくと、それはいわゆる”けもの道”というやつでしたが、
ふつうに歩けるようになっていました/地元のひとびとにとっては、生活
をささえる道なのです/今朝足をふみいれたとき、あたふたしていた
友理奈には気づけなかったことですが、この道では太陽がこまぎれに、
まるで小鳥のついばみのようにして差しこむだけなので、とても涼しく、
汗がいっぺんに引いていくようでした/だれともなく、さっき尻ぎれ
とんぼになっていたはなしへと、興味をもどします/「りさ子は、ドジの
チャンピオンなの」/茉麻のはなしによると、さきほど、りさ子が壊して
しまった自転車はたしかに5台めで、それのうち4台までが、茉麻の
おこづかいによってまかなわれたものだそうです/「りさ子は、この裏山
で遊ぶのが好きなんだけど、いくら注意してもやめないの」/ふつうに
遊ぶならまだしも、自転車に乗っているとなると、スピードのだしすぎに
よるケガが心配になります/「たとえば、ほら、こういうところ」/茉麻
は、いまちょうど歩いている道を示しました/でこぼこしていて、おまけ
に両側が小さながけのようになっています/「ここに、いっかい落っこ
ちたこともあったっけ」/「どうなったの?」/桃子がききました/「その
ときは無事だったんだけど、すごく、あぶないよね」/りさ子は、すこし
しゅんとしています/ですから、それは両親によって禁止されていたの
ですが、それでも、りさ子は自転車にのりたい、のりたいと、泣きついて
きました/「ちょうど、このあたりだったよね」/思い出したようにわらう
茉麻は、りさ子に顔をちかづけました/そこには小川が、といっても、
ほんとうに小さな流れがあって、そのかたわらには、だれかが計算づく
でおいたかのように、腰かけるのにちょうどいい大きさの石がありました
/「ここに座ってさ、鼻をずるずるやりながら、自転車、自転車ってバカ
みたいにくりかえして」/
48 :foreseasonz :2007/05/26(土) 19:18
わざとらしく、りさ子の目をのぞきこみます/「…な、泣いてなんかない
もん」/りさ子は、ぷうっとふくれます/「…え、べつに泣いたとか、
茉麻ちゃんいってないよね」/友理奈がツッコミをいれると、茉麻が舌
をだしました/もうーっ!といって、りさ子はすねてしまいます/それで
茉麻は、こっそりと買いあたえるようになったのです/「町はずれにね、
ちいさなリサイクルショップがあるの」/田舎ということもあって、その
店では、あちこちにある放置自転車をひろってきては、修理してならべ
ていました/「スピードをださないって約束をして、内緒だよってゆび
きりまでして買ったの」/最初にそうしたときのうれしそうな顔といった
ら、忘れられないと、茉麻は、つぶやきます/「でも、りさ子ってば、
すぐに忘れてちゃってさ」/おなじ相手と、4回もゆびきりしたひとなん
て、あたしぐらいじゃない?と、茉麻はわらいます/「でも、けっきょく
壊しちゃうんだね」/桃子が、あとをつぎます/千奈美も、りさ子をみて、
それなら、怒られてもしょうがないね、といいます/「だって!だって!」
/りさ子は、手足をじたばたさせますが、ほら、あばれないのと、茉麻
に叱られてしまいます/そのまま5人が裏山をぬけていきますと、
たしかに町がひろがっていました/「…ほんとだ」/友理奈は、心底
おどろいたという声をだします/「ね?もーが、ウソつくわけないじゃん」
/ふんぞりかえっていう桃子ですが、じゃあ、これは?と友理奈は、
ポケットから、例の地図をとりだしました/「あれ、これあたしのとちが
うよ」/千奈美が、ポケットをまさぐって、地図をだしました/それには、
友理奈のとはちがった絵が描いてあって、いま抜けてきた山をとおる
ルートが示されていました/「え、地図が2種類あるってこと?」/首
をひねっている二人に、茉麻がいいました/
49 :foreseasonz :2007/05/26(土) 19:19
「これってさ、あたしがボツにしてっていったやつだよね」/「えっ、どう
いうこと?」/「この地図、あたしが描いたんだけどさ、2パターン用意
したのよ」/それは駅から直行の、お金がかからない代わりに時間が
かかるというルートと、その逆で、バスを乗りついで裏山へ入っていく、
つまり、いま歩いてるルートを逆に進むものとの、ふたつです/「だれか
さんみたいに、一円でもお金を使いたくないってひとがいるかと思って、
どっちも用意してみたわけ」/茉麻は、だれを見るともなくしゃべって
いますが、ぎくっと肩をふるわせたのは桃子でした/「でもさ、いろいろ
考えると、歩きとおしのやつは、時間がかかりすぎるなってことになっ
たの、それで電話して、捨てて欲しいって頼んだよね」/茉麻は、ぼう
ぜんと友理奈の顔をみていましたが、そのことばが桃子にむけられて
いることは明白でした/「…え、だ、だってさ、ファックスの使い方が
ややこしかったんだもん」/二枚の地図は、あきらかに、どちらもコピー
されたものでした/「あたしも、桃からもらったんだけど、熊井ちゃんの
ところには、まちがった地図がいってたってこと?その犯人が、桃だっ
たの?」/ふんぞりかえっていた桃子が、目にみえて小さくなっていき
ます/「…それで、ちーはぜんぜん汗かいてなかったんだ…」/友理
奈は、しぼり出すような声でいいました/「そーいえば、くまいちょー
汗だくだったよね」/「そーいえば、じゃない!」/「…く、くまいちょー
ってば、目がこわい…」/「もーもーちぃぃぃっ!」/友理奈は、地図を
にぎりつぶすと、自分ですら持っていることを忘れていた二冊の雑誌を
ふりかざしました/「あ、あたしわるくないもんーっ!!」/桃子は、
いちもくさんに逃げだしました/「まてーっ!!」/友理奈は、きょう
一日の不満をばくはつさせて、声の限りにさけぶのでした。
50 :foreseasonz :2007/05/26(土) 19:19


(ももいろサロペット/了)

51 :名無飼育さん :2007/05/27(日) 18:24
改行いれてくれるとうれしい。
52 :さるぶん :2007/05/27(日) 20:55
やっぱ読みづらいですか、どうしよう…。
53 :名無飼育さん :2007/05/28(月) 10:03
もしかして携帯からですか?
たぶんなんですが、句読点?の部分が全角スラッシュで表示されています。
54 :さるぶん :2007/05/28(月) 11:11
いえ、PCです。

>>8にもありますけど、4コマを意識して書いてるんです。マンガの吹き出しって
句読点つかいませんよね、あれを極力再現したかったんです。
55 :foreseasonz :2007/05/29(火) 01:27
みるみるうちに消えていった桃子と友理奈をおいかけて、茉麻たちは
歩くしかありませんでした。

なぜかというと、ケガ人のりさ子をつれていたからです。

よって、あまりはやく移動できない三人が、ようやく二人をみつけたの
は、しばらく経ってからでした。

そこは住宅地でして、そうはいっても、車なんかぜんぜん走っていま
せん。

そのなかほどにある空き地に、ふたりはいました。
土管がみっつ重ねてあって、その上に桃子、下に友理奈がいます。

「おそいーっ!」

桃子は、ぷくーっとフグになっていますが、友理奈はよほど暴れたのか、
土管にそっくりかえって、肩で息をしていました。

そのようすから、勝敗はあきらかでした。

「おまえがいうな、って感じだよ」
茉麻がいさめます。

「そもそも、桃がまちがった地図わたすから、こんなことになるんでしょ」

「えー、それはしょーがないじゃん、もうすんだことだよ」
うふふっ、とわらう桃子。
56 :foreseasonz :2007/05/29(火) 01:27
友理奈はなにかいおうとしますが、ぜぇぜぇ、とばかりやって声になり
ません。

「なんかー、狭いところをくぐってたら、いつのまにかくまいちょーがいな
くなってて、もーがずっとここに座ってたのに、なかなかこないじゃない?
そしたら、くまいちょーってば、町内一周しちゃったみたい」

そしてまた、うふふっ、とやります。
友理奈は、くやしそうに雑誌をばんばん叩いています。

「まぁ、熊井ちゃんも気がすんだんじゃない?」
千奈美がいいます。
友理奈は、汗だくになっているので、まるで干したばかりの洗濯物のよう
でした。

「そうそう、次からはさ、ややこしくならないように、ここを待ちあわせ場所
にしない?」

桃子が、両手をいっぱいにひろげます。
「なんか、きもちいいよ、ここ」

茉麻は、それにうなづきます。
「そうだね、ここからなら、りさ子の家にもちかいし…」
と、そこまでいって、べつの声をあげました。

「りさ子のこと!まだ、ちゃんと紹介してなかったよね」
57 :foreseasonz :2007/05/29(火) 01:28
「そういえば、忘れてたね」
千奈美が、にが笑いします。

「自己紹介しな」
茉麻に、うながされますが、りさ子は首をふりました。
「さっきしたよ」
「だめ、勉強おしえてもらうんだから、ちゃんとしなさい」

それを聞いても、みんな、うすうすりさ子が家庭教師の相手なのだろうと
気づいていたので、おどろきません。

その様子をみてから、りさ子は、思いつめたような顔になると、リズムを
とるようにいいました。

「す〜が〜や〜り〜さ〜こ〜です、よ〜ろ〜し〜く〜お〜ね〜が〜い〜
し〜ま〜す」

いきなりのことに、みんな、あっけにとられています。
へばっていた友理奈までが、おきあがってきました。

「なにそれ」
「だって、スカイ・ザ・なんとかって、いうんだもん」

りさ子は、駄菓子屋で、なかなか名前を聞きとってもらえなかったことを、
いっているのです。

「スカイ…?」
首をかしげる茉麻に、くまいちょーが聞きまちがえたのと、桃子がフォロー
を入れます。
58 :foreseasonz :2007/05/29(火) 01:28
「え、だって、ほんとうになんていってるのか、わからなかったんだよ?」
「ちゃんと、いったもん!」
りさ子は、ほんとうに心外だといったような様子です。

「だからって、なにもメロディつけることないよね」
これは、千奈美です

「…スカイ・ザップじゃないもん」
「ちがうよ、スカイ・ザ・コップって、いったんだよ」
友理奈が、いらない訂正をします。

りさ子は、うつむいてしまいました。
この空気を開放したのは、やっぱり桃子でした。

「まーまー、そうカリカリしないで、ここはひとつ、あれでもやっちゃいま
しょうかなー」

桃子は、ひとりごちるようにいうと、なにかたくらむような目で、みんなを
舐めまわしました。

それをみて、ぎょっとしたのは、茉麻と千奈美でした。
その、いっしゅんだけ顔を出す、卑屈そうな猫背に、見おぼえがあった
からです。

桃子は、おもむろに土管のうえに立ちあがると、人さし指で天をさし、
こう宣言しました。

「嗣永憲法第19条、きょうこの瞬間から、英語をつかったひとは罰金
にショする!」
59 :foreseasonz :2007/05/29(火) 01:29
勝ちほこった顔でした。
これに対し、まっさきに訴えをおこしたのも、やはり千奈美と茉麻です。

「えーっ!!」
りさ子と友理奈は、意味がわからず、なにもいえません。

「補足!その金額は、ひとことにつき300円とする!」

こんどは、ぶー!ぶー!と口までならす始末です。
女の子として、それはとてもはしたないのですが、相当な不可抗力が
はたらいて、彼女たちにそうさせているようです。

「…憲法?…罰金?…ももちに払うの?」
「そうだよ、こーなったときの桃は、はら黒い!」
千奈美が、口をとがらせます。
それはまるで、巨人軍の選手に野次る阪神ファンのような横顔でした。

「いーから、聞いて、聞いて!」
桃子によると、これにはちゃんと意味があるそうです。

「りさ子が、こんなにも落ちこんでいるのは、そもそもなにが原因ですか?
はい、くまいちょー」

桃子は、エアマイクをむけます。
「…あ、はい、それは…自転車を壊してしまったからです」
「ごめーとー!」

さすがくまいちょー!と、桃子は土管のうえで飛びはねて、ころげ落ちそう
になります。
60 :foreseasonz :2007/05/29(火) 01:29
「それが、どうしたー!」
野党席から、野次がとびます。
「せーしゅくに!」
桃子は、友理奈がもっていた雑誌を手にとって、ばんばん!と叩きました。

ひろいあげるのに、いったん土管をおりたので間延びしてしまった空気
が、それでぴんと張りつめます。

「つまーり!」
りさ子のほうを指して、
「その罰金で、りさ子に自転車を買ってあげようということなのです!」

そういって、はいっ、もーってば、ちょうてんさーい!と笑います。

「それと、もうひとつ、嗣永憲法第20条、待ち合わせは、この空き地ね」

「あっ、でも、それは賛成かな」
挙手をして、友理奈がいいました。
「ここなら電波もだいじょうぶみたいだしね」
そういって、桃子はケータイとりだします。

「ほんとだ」
千奈美と友理奈も、じぶんので確認します。
「たしかに、あっちだと、通じないことが多いね」
茉麻は、駄菓子屋のほうを指差していいます。

「え、でも、さっき通じたよ」
「たまにはね。基地局と基地局のあいだなんだけど、通じることもある
みたいよ」
61 :foreseasonz :2007/05/29(火) 01:29
「…そういえば、さっき基地局がちかくにあるって、ももちいってなかった?」
と友理奈。
「え、いやー、あれはテキトーっていうか、まぁ、そんな感じで…」

「…はぁ…なんか、もうよくわかんないよ」
心底つかれたといったようすで、友理奈は、また土管にたおれこみました。

「じゃ、嗣永憲法は可決とゆーことで」

友理奈はもはや、あたま数に入っていませんし、千奈美は、よーは英語
つかわなきゃいいんでしょ?といっています。

茉麻に関しても、不承不承ではありますが、目をかがやかせているりさ子
をみると、むげにもできないようです。

そして、この日は、顔見せということで、家庭教師のアルバイトは、また
明日からということになりました。

おもいがけず自転車が手に入るかもしれないりさ子は、手足をばたばた
させて、はしゃいでいますが、また茉麻に叱られます。

「あんたは、勉強をちゃんとするのよ」
「はいだゆん…」
ぴしゃり!とやられて、また、しょんぼりとします。

「わかれば、いいのよ」
そういって、茉麻はりさ子のあたまをなでなでします。
62 :foreseasonz :2007/05/29(火) 01:30
ひとしきり笑いあう二人ですが、満をじしたように、りさ子がいいました。

「ところでね…」
「なに?」
「いいかげん、おろしてほしいだゆん」

そうです、りさ子は、おしりペンペンされたときからずっと、茉麻にかつがれて
いたのです。

「もう、キズは痛くないの?」
「はじめから、大丈夫だっていってるゆん」
茉麻がかがむと、りさ子の足は、1時間ぶりに地面とあいさつしました。

りさ子のケガが痛まないように配慮していた、まーさママの愛は、とっても
偉大なのでした。

63 :foreseasonz :2007/05/29(火) 01:30


(空き地の大統領/了)

64 :さるぶん :2007/05/29(火) 01:31
とりあえず改行してみました
感想プリーズ
65 :ななしいくさん :2007/05/29(火) 02:09
読みやすくなりました、
面白そうなので改行前も頑張って読んでみます。
66 :ななしいくさん :2007/05/29(火) 04:42

ホント読みやすいです。面白い!。がんばってね。
67 :さるぶん :2007/05/29(火) 12:33
ありがとう
はじめて内容についてのレスをもらいましたw

読みづらかったことの証拠ですね
すべて改行して投稿しなおしたほうがいいんでしょうか?<ALL
68 :65 :2007/05/29(火) 17:49
可能なら全修正も良いと思います、何せ最初は一目でスルーしましたから。
最初から読みましたよ、
正直ベリは顔もキャラも殆ど知らないのですがそれでも面白く読めました。
楽しそうな話で先が楽しみです。
69 :さるぶん :2007/05/29(火) 22:53
では、修正版を投稿します。
投稿済みのものを順番に、プラス新作がひとつです。
70 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:02





女の子が、歩いています。

とても背がたかく、ながい髪をゆらせて歩くすがたは大人びていますが、
まだ13才です。

手には、一枚の紙がにぎられていて、汗でクシャクシャになっています。

そこに描かれた地図と、あたりとを、しきりに見くらべるようすは、どこか
不安げで、もともと、あまり広くない肩幅が、なくなりそうなまでに小さく
なっています。

ですが、それはけっして道がせまいためではありませんでした。

このあぜ道は、車がたっぷり2台はすれちがえるだけの幅はありますし、
ここを行くひとは、ほかにいないのですから。

もうだいぶ歩きましたが、この一本道のずっと、ずーっと向こうで会った
農家のおじさんによると、めざすコンビニへは、すでに着いていてもおか
しくないはずでした。

だって、「あー、あすこのクンビヌならば、こごの道さ、まっすぐいったとご
にあるヨ」、といわれたのですから。
71 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:03
そのようすからいって、だれがおじさんを地元のひとでないと疑うでしょう。

風呂あがりのお父さんがビールを飲みながら、奥歯にはさまったスルメを、
舌のさきっぽで器用にそうじしているときのようなしゃべり方や、ブルーの
サロペットパンツ

――ほんとうは、おじさんがワークマンで購入したときの名前は「農業
用作業着(青)」にすぎませんでしたが、友理奈にとって、洋服の名前
はファッション誌にのっていなければ存在しないもおなじなのです――

についた土汚れも、いま自分が着ているアースカラーのコーディネート
とはちがい”本物のアースカラー”でしたから、おじさんがこのあたりの
道にくわしいのは明白です。

それに、そのおじさんが”ちょっと”といった以上、すでに40分も歩きとおし
でいるだなんて、なにか重大なミスがあったにちがいありません。

友理奈はおじさんのことばに従っただけですから、よってそのミスは、
自分以外の誰かがしでかしたのに、ちがいないのです。

そう考えると、なんだが腹が立ってきましたが、本当にそう思っている
わけでもありません。

とはいえ、いけどもいけども景色が変わらないという事実は、やはり
否めないのですが。

「もうっ、どうしてなにもないのーっ!」

それに答えてくれそうなひとは、残念ながらいません。
72 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:03
可能性があったとしても、サロペットのおじさんぐらいのものですから、
その”どうして”に答えてもらうためには、また40分は歩かなくてならない
でしょう。

友理奈は、ちょっと空しくなりました。

そこで、
「いや、『どうして?』っていっても、本当に答えがしりたかったわけじゃ
なくって…」
と、ひとりごちてみます。

友理奈は、なんでも正しくいわないと気がすまない性格でしたから、
だれかに指摘されるまえに、自分のいったことのまちがいを訂正したか
ったのです。

もちろん、これを聞いているひともありませんから、友理奈は、もっと空しく
なってしまいました。

ポケットに手を当てて、すぐに思い直します。
15分ほどまえにも試したのですが、やっぱり圏外でしたから。

かわりに、ポケットの生地へ汗ばんだ手のひらをこすりつけますが、その
とたんに今度はおでこから汗がすべり落ちて、口の中へと入ります。

舌がじん、となって、友理奈はへこたれそうになりました。
土のにおいが混じって、おじさんのサロペットパンツを食べたような気分
になったからです。
73 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:03
せっかくの夏休みだというのに、こんな田舎へと連れてこられて、あげく
のはてが、”太陽さんと道草さん”との楽しいおしゃべりタイムです。

こんなことならばと、すっかり後悔していました。

すこしはなれた街へ買い物にいきたいといい出したママが、ふんぞりかえ
って運転させるパパの車に、素直に乗っていけよかったのです。

いまこんな道を歩いているのは、最近、すっかりナマイキになった弟と
口ゲンカしたのがきっかけで、友理奈は、あんなやつ顔もみたくないと思い、
友達と遊ぶほうを選びました。

この地図に書かれた場所で、おちあう約束をしていたのです。

しかし、その原因すらすっかり覚えていないことからもわかるとおり、意地
なんて張るだけ損だったのです。

たしかに、あんなに憎たらしいやつと車でとなりになるのはうんざりすること
ですし、それが二人もいるのですから、がまんは並大抵のものではありま
せんが、せめて目的地まで送ってもらうぐらいの妥協はすべきだったでしょう。

いまごろクーラーに当たり、ショッピングセンターのソフトクリームでもなめて
いる瓜二つの顔を思うと、うらやましいやら悔しいやら、いろんな気持ちが
こみ上げてきます。

気づけば影が短くなっていて、汗だくになっていました。
74 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:05
さきほどまでは、こんな田舎道にあるはずのない電柱が、どうしてここ
に、と思うほど長かったのですが、いまや暑すぎて、自分のからだが
溶けてしまったのかと思うほどにまで縮んでいます。

色もすっかり濃くなって、それはおひさまが高くなった証拠なのでした。

そして建物らしきものが、ちらほらとみえてきたのは、そのシャツがそれ
よりずっと重たくなってからのことでした。

友理奈は、いっぺんにテンションが高くなって、かけだします。

大きな山を背にしているので、ところどころ日陰でよくみえませんが、
たしかにひとの気配はするのです。

かけ足をしつつ地図と比べてみますが、《山のそば》や《T字路の交差
してるところ》というふうに、目的地の条件をみたしていることがわかり
ます。

うれしさがとたんにあふれてきて、友理奈は夢中で足をうごかしました
が、それでも、まだだいぶ距離がありました。

でも、あせる気持ちとは裏腹に、直せばもっとはやくなるよ、と体育の
先生からいわれた、両手をぶらんぶらんさせる斬新なランニングフォーム
について、本気で検討してみようかと考える余裕まで、いまとなっては
生まれていました。

やったー、コンビニでアイス!ジュースにソフトクリーム!…あ、いや、
アイスとソフトクリームは、おんなじみたいなものか…。

そんなことを思いながら、地図を確認することもおこたりません。
75 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:05
だっていまの友理奈は、サロペットのおじさんをうらみつつ、道草に
話かけていた、あのみじめったらしい友理奈とは、まるで別人なのです
から。

「すいませーん!!」

汗が目に入るのもわすれて、いきおいよく店にとびこみました。
都会でなら、まず、声に出すことはしませんが、このさいはべつです。

友理奈は、まっさきに、アイスクリームの売り場をさがします。

そしてできることなら、お行儀は悪いけれど、ソフトクリームの出てくる
口のところに直接、顔をもっていって食べてしまいたい、そうしたら、
そこはまるでソフトクリームランドじゃないかと思いました。

はたして、アイスの冷蔵庫はみつかりました。
しかし、ソフトクリームの機械はみつかりません。

そこで友理奈は、いけない、と思いました。

どのコンビニにもソフトクリームがおいてあるとは限らないことを、ようやく
思い出したのです。

しかし、そこはコンビニです、車一台走っていない田舎町でも、その安心感
はきっと裏切らないはずでした。

しかし、コンビニにはかならずあるものが、ここにはありません。

ひとつは、ドアです。
入り口をさえぎるものはなにもなく、なかに入ったことさえ、いっしゅん、
気づかないほどでした。
76 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:06
そして二つめは、クーラーがきいていないことでした。
だからこそ店内に入った実感がなかったのです。

冷静になってみると、店のすみっこにはレジスターにうつぶせている、
おばあさんらしき人がいます。

友理奈は、だんだん不安になってきました。
店内をみわたすと、日の光以外に、照明らしい照明がありません。
あわてて外へ出てみます。

いま歩いてきた道が、すぐ目の前にあらわれましたが、それはともかくと
して、裏手にまわってみました。

そこには、なにもありませんでした。

いえ、ものごとは正確にいわなければいけません。
そこにはあったのです、山が。
世界のすべてをおおいつくすように立ちふさがった、大きな山が。

コンビニのまわりがすべて山という町を、友理奈は歩いたことがありま
せんから、あちこちを見てまわりましたが、ほかに建物らしき建物は
見当たりませんでした。

進めば進むほど、山の奥ふかくに入っていきそうでしたし、T字路を
もどれば家がちらほらとみえていますが、なんだか「日本昔ばなし」に
出てきそうな家ばかりなのです。

正面へもどると、地図に書かれた名前と、看板の名前をあわせて
みます。みごとに一致しました。
77 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:06
そもそも、悪い予感はしていたのです。
コンビニの名前に「ひらがな+屋」なんて聞いたことありませんでした
から。

サロペットのおじさんと会話したとき、たまたまケータイがつながる場所
にいたので、パパに訊いてみました。

すると、個人経営のフランチャイズだってあるからね、きっとそういうところ
なんだろうといっていたので、意味も分からないまま、すっかり信じていた
のです。

もういちど店内にもどり、友理奈はおばあさんを起こしてみることにしま
した。

きもちよさそうに眠っているところ、本当にかわいそうだったのですが、
背に腹はかえられません。

「すいません、ここってコンビニですか…」
「うんにゃ、このあたりじゃコンビニみたいに便利な駄菓子屋だと、いわれ
ちょるねぇ」

そういって、おばあさんはまた夢の世界にもどっていきました。
ふらふらと店の外にでていくと、裏手にある山をにらみつけます。
それが、さっきのサロペットのおじさんに見えてしかたありません。

どうやら、とんでもないところにきてしまったようです。
78 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:07


(まちの”ほっ”とステーション/了)

79 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:09
クーラーもないし、ドアもない店内では、汗が引いていく気配も、また
ありませんでした。

はじめは、ここが目的地であることを認めたくなくて、なんども地図を
確認したのですが、現実は甘くありません。

ここは確かに、待ち合わせの場所なのです。
まぶたの裏で、サロペットのおじさんが舌をだしています。

しかたなしに、友理奈は足を止めて、立ち読みをはじめました。

へたに歩きまわって、迷子になってはいけませんから、そうするより
ほかないと思ったのです。

さびついたラックには、いちおう最新の雑誌が並んでいます。
すきまだらけのなかから、友理奈が手にとったのは、ウォーカー系の
雑誌でした。

ほんとうは横のファッション誌がよかったのですが、ひもで縛られていて、
開けないようになっていたのです。

月刊誌なぶんだけ、ちょっと値段が高いせいだろうと思いました。

友理奈は、今月の占いを地元でチェックしてこなかった自分をうらみ
つつ、ページをめくることに集中します。

右から左へと、一枚一枚、慎重な手つきを心がけます。

これといって読みたいページはないのですが、ならば、どうしてそんなに
集中するかというと、ファッション誌のことが頭にあったからです。
80 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:09
お店のひとは、雑誌を立ち読みでめちゃくちゃにされるのが嫌なんじゃ
ないだろうかと、そう思ったのです。

こういう週刊誌はページがうすっぺらいですから、めくるとき、簡単に
曲がってあとがついてしまいます。

ましてや、長いあいだ歩いてきたので、手は汗で湿っています。

めくりやすいぶん、ページをハンカチがわりに使ってるみたいな気が
して、だんだんと罪悪感をおぼえてきました。

肩ごしにふり返ると、おばあさんはレジスターでお昼寝をつづけていま
すが、友理奈は、いつしかページをめくる気がうせてしまいました。

そこで、そのときたまたま開いていた”今週のライブ情報”を読むことに
します。

なんだか今日は、妥協ばかりしている気がますが、うしろ向きにばかり
も考えていられません。

気持ちを切りかえて熱心に読んでいくと、たくさんの写真が目にとび
こんできます。

あまりに華やかなので、どこの外国かと思いますが、よくみると”赤坂
BLITZ”とか”渋谷AX”とかのキャプションがついています。

横には、”帰りに行きたい お勧めのデートスポット”なんてコーナーまで
あります。
81 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:10
それをみて、友理奈は、なんだか自分がいる場所と、その写真の場所
とが、あまりにも遠くはなれているような気がしてしまい、ページを閉じ
ようとしました。

雑誌が、とても重たく感じられたからです。

「あー、ついたー!」

いきなり声がしました。
その大声は、どうやら入り口に立っている女の子のもののようです。

「おばさん、アイスちょうだい!」

いきなり現れたことにもおどろきですが、そのことばが、冷蔵庫に手を
つっこんだ後のものだったことに、友理奈は二度、おどろきました。

銀紙をめくると、まっしろなバニラアイスが顔をだします。

それをみて友理奈は、自分がさっきまでおぼえていたのどの渇きを
思い出しました。

ですが、女の子がアイスをくわえながら、器用に片手で財布を、そして、
そこから小銭をとりだすのをみていたら、また忘れてしまいました。

そのまま自分の手に目をやって、また女の子をみます。

「あ、ちがうんだ…」

思わずそう口にしてしまったのは、自分の目をうたがったからです。

雑誌で華やかなデートスポットをみていたので、この店のなかが実際
よりも暗くみえていたのだと思いましたが、ちがいました。

その女の子が、あまりに黒かっただけなのです。

女の子は、おばあさんが受けとろうとするよりはやく、小銭をカウンター
におくと、その足で友理奈のとなりへやってきました。
82 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:11
「あー、これまだ見てないんだよねー」

いっしゅん、自分にいったのかと思いましたが、友理奈がずっとガン見
しているにも関わらず、女の子は気にもとめません。

それどころか、ファッション誌を手にとると、おもむろに縛ってあったひも
を、はずしはじめたのです。

「えーっ!」

おもわず声にでていました。
そこで、はじめて女の子は友理奈をみました。

「は、ほへ?はいほぉーふ、ほんははほほへはひーひ」

ひもを外すのに、さっきからアイスを口にくわえているので、とても聞き
取りにくいのですが、友理奈には、なんとなく分かりました。

――大丈夫、読んだら戻せばいいし。

それは、いけないと知りつつも、友理奈だって考えていたことだったの
です。

そして女の子は、本をラックのうえにおくと、片手にアイスを持ち、もう
片方の手でページをめくりはじめました。

友理奈は、この子って地元の子なのかなぁ、だって、この日焼けは
はんぱじゃないし、あーでも、アイス食べたいの忘れてた、っていうか、
その雑誌読みたかったのに、もうっ!――
83 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:12
と、いっぺんにたくさんのことが頭をかけめぐったので、かっとなって、
雑誌をにぎりつぶしそうになりました。

「あっ、いけない!」

ページにあとがついていないか、手でアイロンをかけていると、女の子
がいってきました。

「あー、あたし、そのライブちょう行きたいんだよねー」

語尾がだらしなく伸びていますが、べつにギャルというわけではありま
せん。

それに窓のそばに立ってはじめてわかったことですが、色黒も、どうやら
生まれつきのようです。

「ほら、このアーティストさん、DVDとか持ってて、最近よくみてるんだ
よね」

のぞき込んでくるので、見る?という意味をこめて、目くばせします。
すると、あ、じゃあ、こっち読む?と、ファッション誌をわたしてきました。

念願の占いがチェックできるとあって、もう少しよろこびそうなものです
が、友理奈は、女の子から目がはなせませんでした。

だって、です。

「おわー、この遊園地、いきたい!」
84 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:13
女の子は雑誌を受けとるなり、さっき気になるといっていたアーティスト
の情報など目もくれず、つぎつぎとページをめくり出したのです。

しかもページのまん中らへんを、ばりばりと平気でつかんでいます。

女の子は、友理奈のように汗をかいていなかったようですが、読み終わ
るころになると、最初とくらべて、雑誌がすこし厚くなったようでした。

もう、占いもノドの乾きも、どうでもよくなっていました。
この子が、待ち合わせていた子かもしれないと思ったからです。
知り合いもくるのですが、紹介したい子がいるからといわれていたの
です。

「あのぉ…」

友理奈は思いきって、切りだしました。
名前さえ聞いていなかったので、なんとなく、もじもじしてしまいます。

「もも…じゃなくって、嗣永さんの知り合いのひとですか?」
「…え、そうだよ」
女の子は、なんとなく嫌そうな顔をしました。

「なんで桃のこと知ってんの?」
ページをめくる手がぴたりと止まると、無言のままアイスを食べきって、
それからいいました。

「桃に頼まれごとしたんだよね、っていうか、だれ?」
「…あ、わたし、熊井友理奈ともうします」
なぜか敬語になってしまいますが、頭まではさげません。
85 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:13
「桃子ちゃんと、ここで待ち合わせしてるんです」
「そうなんだ、じゃあ熊井ちゃんだね」
いきなりのあだ名でしたが、さきほどからの彼女を見ていれば、べつ
だん、おどろくことではありませんでした。

「あたしのことは、千奈美でいいよ」
「あ、はい」
友理奈は、じゃあ、ちーちゃんだね、などといおうか迷いましたが、ノド
のおくをむずむずさせているうちに、もうひとつの影が、出入り口にみえ
ました。

「おくれてごめーん!」

そういってひらひらさせる手には、思いっきり小指が立っていました。
86 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:14


(千奈美、あらわる/了)

87 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:16
友理奈は、とても背の高い女の子でしたが、桃子は、それを抜きにした
としても、とびきり小さな女の子でした。

歩き方もかわっていて、お尻をきゅっと上げて、まるでペンギンのような
のです。

そのようすで、ひょこ、ひょこと、千奈美のもとへむかいます。

「あ、このヒモ、とっちゃったの?」

ひとさし指は雑誌へと向いているのですが、ぴんと立った小指はという
と、てんでまちがった方向をさしています。

それをみて友理奈は、すこしだけ目が泳ぎます。

「壊れちゃったんだよ、古かったから」

首のうしろをかいている千奈美をみて、つぎに、あらためてヒモをみる
と、友理奈は、それにも一理あると思いました。

たしかに、古っちいのです。

それも、はじめからそんな色だったなんて、どれだけじょうずに説明され
たって信用できないほど、おかしな黄ばみかたをしているのです。

徳さんてば、買うお金ないもんね」
「う、うるさいなぁ…」
桃子は、小指の立った両手を、胸のまえでるんるんとゆすっています。
88 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:17
さっきまでの元気はどうしたのと友理奈は思いましたが、ひもをとって
しまったことを、桃子がたしなめてくれたのだと思い、やりすごすことに
します。

友理奈とは、今朝ケータイではなしていたので、再会をよろこびあう話
もそこそこに、そのまま、立ち読みが再開されました。

ですが、どこか落ちつかないようすの千奈美は、ページをめくる手が
おそくなっています。

「これってさー、こないだ徳さんがいきたいっていってたライブでしょ?」

ふたりのあいだにはさまって、きょろきょろしていた桃子がいいました。

友理奈からすると、日陰になってよくみえないのですが、さっき千奈美が
いっていたアーティストだろうと思いました。

そこは、とっくにすぎていたはずですから、どうやら千奈美はページを
逆さまにめくっていたようです。

「もーのおかげで見にいけるんだから、おみやげたのむよ」

うふふ、このこのぅ、みたいな感じで肩をぶつける桃子に、リアクション
に困ったようすの千奈美。

このふたりがいったいどういう関係なのか、はかりかねている部分が
友理奈にはありましたので、なんとなく、みょうな”間”を感じてしまいま
す。

そこで、話題をふってみることにします。
89 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:17
「ねぇ、みて、あたしの星占い、恋愛運が最高だって!」
どれどれと桃子がのぞき込みます。

あっちをみて、こっちをみてと、まったく忙しいなぁとおもう友理奈です
が、千奈美のほうをみると、ページをめくるスピードが元にもどったので、
ま、いっかと思います。

「でもさ、それって意味なくない?」
千奈美がいいます。
「え、なんで、なんで」
友理奈は、頬をふくらませます。
だって、ここへきて、はじめてラッキーと思えるような出来事だったの
ですから。

「それって今月号でしょ」
「そうだよ」
「発売って3週間ぐらいまえでしょ」
「…そうだけど?」
友理奈は、本当にいっている意味がわかりません。

「徳さんがいいたいのはさ」
桃子です。
「もうすぐ星占いの効果なくなっちゃうんじゃない?ってことだよ、たぶん」
「…あ、そっか」
それで友理奈は、しゅんとしてしまいます。

「それにさ、ほら、ここじゃ男の子なんて、カッコイイ子いなさそうだし…」
90 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:18
友理奈がしゅんとしたのも、まさにそれが理由ともいえます。
だって、こんな田舎町に、あと二週間もいなくてはならないのですから。

「そういえば、ももちって何の用事できたの?」
ここに自分が呼ばれた理由もふくめて、友理奈はまだなにも聞かされて
いないのでした。

「カテキョだよ」

桃子にしかできない、舌っ足らずないいかたでした。

そのつづきによると、親戚の子の勉強を、夏休みのあいだじゅう、みて
あげればいいのだそうです。

「へー、そうなんだ、それでバイト代って、どれくらい?」
「あー、うん、…それ、あとでね」
なんだか歯切れのわるい感じでした。

「あたし、ちょー欲しいポロシャツがあるの」
友理奈は身ぶり手ぶりでアピります。
「茶色のやつなんだけどね、白とピンクの刺繍がしてあって、それで
襟がちっちゃくて、もーすごくカワ…」

そこまでいって、またもや千奈美の手が止まっていることに気づきます。

「そうなんだ、ふーん、まー、似合うと思うよ、だって、くまいちょー茶色
すきだもんね」

桃子は、友理奈のまえのファッション誌を勝手にめくりながら、千奈美
のほうをみています。
91 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:19
「ね、徳さんもそう思うでしょ?」
「うん、おもう、おもうよ、熊井ちゃん」

千奈美も、桃子がめくるファッション誌をみながら、自分の手はウォーカー
誌をめくっています。

とても奇妙な光景でしたが、それで、なんとなくはぐらかされてしまい、
友理奈はなにもいえなくなりました。

相変わらずきょろきょろとやりながら、二冊の雑誌をみている桃子。

友理奈と千奈美は、桃子が口出ししてきたらページをとめて、なにごとか
会話の糸口をさがしました。

そんなことをしていると、それはそれで楽しくなって、キャッキャ!とさわぎ
はじめてしまいます。

「そもそも、どうしておいてあるんだろうね」
桃子は、ファッション誌についていっているのです。
「いくら田舎でも、オシャレに興味のあるひとぐらい、いるでしょ」
これは千奈美です。

「え、だって、こんな場所なのに?」
友理奈は、目の前にひろがる景色をみながらいいました。
そよ風が、ここちよく吹いてきます。

いつだったか”窓際”といいましたが、そこにガラス窓がはめこんである
なんて、だれもいっていませんよね?
92 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:19
「だれが、どこから?」
友理奈の追求は止みません。

「うしろの山をずっといったとこに、町があるんだよ」
「それにしたって、遠くない?だれも、ここまで買いにこないよ、こんな
場所に」

友理奈は、いかにこの店がへんぴな場所にあるかを、切々と訴えまし
た。

このころには、すっかり忘れていたはずのサロペットのおじさんが頭の
中によみがえっていたので、熱が入ってしまうのです。

こんな場所に、こんな田舎に――そういう意味のことを、もうなんべん
いったかわかりませんでした。

すると、いきなりでした。
「こんな場所で、わるかっただよ」
さびた自転車のような声がしました。
ふりかえると、レジにいたおばあさんが、のそっと立っていました。

『うわぁー!!!』
三人でいっせいに飛びのきます。

「どれだけ田舎でもな、雑誌の値打ちは、変わらねーだよ」
だれをみるともなく向けられていたおばあさんの目が、ぬっと落ちました。

それを追いかけると、三人は、自分たちが雑誌を踏みつけていることに
気づきます。
おどろいた拍子に落としたのでした。
93 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:20
おばあさんは、そのまま雑誌をひろいあげると、なにもいわずにレジに
向かいます。

「…え、なに?」
「買いとれ…ってことじゃない?」
はじめのは千奈美で、応えたのは友理奈でした。

さっきから三人で好き放題にめくっていたので、極めつけにふんづけられ
た雑誌は、いまやめちゃくちゃになっていました。

「徳さん、ほら…」
桃子がはやしたてます。
このこのぅ、のときとは、ずいぶん迫力がちがうようです。

友理奈は、さっきアイスを買った千奈美を思いだし、右ポケットに入って
いるはずの、彼女の財布に注意を向けています。

床に落ちたヒモは、たしかに黄ばんでいるのですが、思えば、千奈美が
むりやりに取ってしまったのだということを、友理奈は、いまこそはっきり
意識していたからです。

その千奈美が、あたしヤダよ、と小声でいいだしたので、だれがいくかで、
モメはじめます。

「だれでもええから、はよしんしゃい!」
自転車が、がたん!といいました。
「徳さんが…」
桃子に背中をおされた千奈美が、一歩まえに進み出ます。
94 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:20
おばあさんにみられた千奈美は、いっしゅんたじろぎますが、さっき
アイスを買ったので最後だったといって、お手上げのポーズです。

次におばあさんがみたのは、千奈美のとなりにいる桃子ですが、
「あたしは、ヒモが外れたとき、いませんでしたよ」

さらっと、いってのけます。
もちろん、それは、まっとうな主張でしょう。
つまり、おばあさんは自然のなりゆきから、友理奈へとたどりついたの
です。

「あんた、物欲しげにみとったじゃろう」
ファッション誌を手でたたくおばあさん。
それはとんだ濡れ衣だとおもう友理奈ですが、ことばになりません。

だって、おばあさんは、さっきまで寝ていたのに、いつのまにうしろに
立って
いたのだろうと、ほんとうに、おどろいていたからです。

「…あ、あた、あたし…」
気づけば、ふたりは友理奈の背中に隠れています。
こんなときなのです、友理奈が自分の背の高さを呪うのは。

「…くまいちょー、ファイト」
「…かっこいいよ、熊井ちゃん」

雑誌をめちゃくちゃにしたのは、ほとんど自分たちの責任なのに、
ふたりは、友理奈の背中から好き勝手いっています。
95 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:20
「770円だーよ」

友理奈は、いわれたぶんだけ、財布を軽くするしかないのでした。
96 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:21


(桃子、あらわる/了)

97 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:22
コンビニを出ると、日差しがまともに落ちてきました。

友理奈は、小脇に二冊の雑誌をかかえたまま、うなだれて、自分の影
ばかりみています。

うしろから、千奈美がやってきます。
戸口をくぐったところで、いきなり大声をあげました。

「あー、なんか、ドンッ!てくる」

うしろをふりかえって、友理奈は首をかしげました。
「どん…って?」
「なんか、太陽がドンッ!って感じじゃん?」

こんどは身ぶりをまじえていますが、友理奈は、自分の影をふんづけて
いる千奈美の靴ばかりみていました。

千奈美のする動きは、3人の真上にある太陽から、あたまのうえにめが
けて、なにかが落ちてくるようなジェスチャーでした。

「千奈美ちゃんってさ…」
「呼び捨てでいいよ、あるいは”ちー”とか」
友理奈は、そこでやっと顔を上げました。
「うん…、ちーってさ…」
はじめてあだ名で呼んだので、友理奈はすこし口のまわりがフガフガ
します。
98 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:23
「なんか、ヘンな擬音つかうよね」
「そうかな」
「そうだよ」
そういって、友理奈は、雑誌をにぎりしめました。

この二冊のお会計をするとき、横にいた千奈美のことを思いだしていた
からです。

雑誌がくしゃくしゃになったのは、いったい誰の責任だったのか、それ
が曖昧にされたままお金を払わされることに納得のいっていなかった
友理奈は、レジスターをうつおばあさんの前に立たされながら、くさくさ
していました。

なんだか、学校の先生にお説教されているような気分になっていたの
です。

すると、千奈美はよこにきて、こうささやいてきたのです。

「…がたぴし」

友理奈はさいしょ、この子はなにをしているんだろうと頭にきました。

友理奈は、もうぜったいにリアクションなんてしてやるもんか、この
千奈美という子も、弟たちと同じで、わたしにむちゃくちゃなことを要求
する悪い子なんだ、

だってうちの弟なんて、あめ玉の最後のひとつを誰が食べるのか、
じゃんけんで決めようっていったのに、いざ負けると、泣いてダダを
こねたりして、けっきょくママに怒られるのは、いつだってわたしなん
だから…
99 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:23
と、不満がぐるぐるとうずをまいていたので、無視をきめこんでいたの
です。

ですが、それでも千奈美は、…がたぴし…がたぴし…と、くりかえすの
です。

あんまりしつこいので、なんだろうと思っていると、千奈美がささやくの
とおなじ音が、どこからか聞こえてくるのです。

しばらく聞いていると、正体がわかりました。
それは、おばあさんの打つレジスターのたてる音でした。
あんまりおんぼろなので、ひとつボタンを押すたびに、がたぴし、
がたぴし、といっているのです。

しかも、おばあさんは目がわるいのか、腰がわるいのか、あるいは、
その両方なのか、まるで、なめるようにしてレジスターに顔をちかづけ
ています。

そして、何度も何度も打ちまちがえては、また一から、がたぴし、がた
ぴし、とやるのです。

それを何度かくりかえすと、おばあさんは頭にきて、レジスターを
ひっぱたきます。

その音も千奈美は、がしゃん!とか、しゃばん!とか、モノマネをする
のです。

おばあさんの格好や、レジスターが自分のサイズには似つかわしく
ない大きな音をたてること、あるいは、おばあさんが、ほかの動きから
は予想のできないすばやさでレジスターをひっぱたく様子に、友理奈
はおかしくてたまらなくなってきました。
100 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:24
…がたぴし…まつがえた…バンッ!…がたぴし…あんれぇ、また、
まつがえた…バンッ!…がたぴし…あんれぇ…

千奈美の実況を聞いているうちに、つい、声をたてて笑ってしまいます。

すると、おばあさんは、ぬるりと目をまわしてこちらをみたので、笑いが
ノドのおくにひっかかって、友理奈は、ひーひー苦しみながら、お会計を
すませたのでした。

「うーん、たしかに暑いかも」
そういって友理奈は、空を見あげると目を細めますが、そこでハッとしま
した。

小脇にかかえた雑誌をもちあげて、影をつくります。

「サン・バイ・ザー!」

そういって、千奈美のほうをみますが、無言でした。

「いや、こうすると、涼しいかな…って」
なにかいおうとする千奈美をまたずに、おくれてやってきた桃子がいい
ました。

「じゃあさ、もーがいちばん小っちゃいんだから、いっぱい落ちてくるぶん
だけ暑くない?」

桃子はちいさな身体をいっぱいにのばして、天をあおいでいます。
そうすれば、すこしでも落差がちいさくなるぶん、暑さがやわらぐとでも
いいたげでした。

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