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foreseasonz

1 :さるぶん :2007/05/25(金) 18:44

Berryz工房のおはなしです。
2 :さるぶん :2007/05/25(金) 18:46


女の子が、歩いています/とても背がたかく、ながい髪をゆらせて歩く
すがたは大人びていますが、まだ13才です/手には、一枚の紙が
にぎられていて、汗でクシャクシャになっています/そこに描かれた
地図と、あたりとを、しきりに見くらべるようすは、どこか不安げで、
もともと、あまり広くない肩幅が、なくなりそうなまでに小さくなっていま
す/ですが、それはけっして道がせまいためではありませんでした/
このあぜ道は、車がたっぷり2台はすれちがえるだけの幅はありますし、
ここを行くひとは、ほかにいないのですから/もうだいぶ歩きましたが、
この一本道のずっと、ずーっと向こうで会った農家のおじさんによると、
めざすコンビニへは、すでに着いていてもおかしくないはずでした/
だって、「あー、あすこのクンビヌならば、こごの道さ、まっすぐいった
とごにあるヨ」、といわれたのですから/そのようすからいって、だれが
おじさんを地元のひとでないと疑うでしょう/風呂あがりのお父さんが
ビールを飲みながら、奥歯にはさまったスルメを、舌のさきっぽで器用
にそうじしているときのようなしゃべり方や、ブルーのサロペットパンツ
――ほんとうは、おじさんがワークマンで購入したときの名前は「農業
用作業着(青)」にすぎませんでしたが、友理奈にとって、洋服の名前
はファッション誌にのっていなければ存在しないもおなじなのです――
についた土汚れも、いま自分が着ているアースカラーのコーディネート
とはちがい”本物のアースカラー”でしたから、おじさんがこのあたりの
道にくわしいのは明白ですし、そのおじさんが”ちょっと”といった以上、
すでに40分も歩きとおしでいるだなんて、なにか重大なミスがあったに
ちがいありません/友理奈はおじさんのことばに従っただけですから、
よってそのミスは、自分以外の誰かがしでかしたのに、ちがいないの
です/
3 :さるぶん :2007/05/25(金) 18:46

そう考えると、なんだが腹が立ってきましたが、本当にそう思っている
わけでもありません/とはいえ、いけどもいけども景色が変わらないと
いう事実は、やはり否めないのですが/「もうっ、どうしてなにもないの
ーっ!」/それに答えてくれそうなひとは、残念ながらいません/可能
性があったとしても、サロペットのおじさんぐらいのものですから、その
”どうして”に答えてもらうためには、また40分は歩かなくてならないで
しょう/友理奈は、ちょっと空しくなりました/そこで、「いや、『どうして?』
っていっても、本当に答えがしりたかったわけじゃなくって…」と、ひとり
ごちてみます/友理奈は、なんでも正しくいわないと気がすまない性格
でしたから、だれかに指摘されるまえに、自分のいったことのまちがい
を訂正したかったのです/もちろん、これを聞いているひともありません
から、友理奈は、もっと空しくなってしまいました/ポケットに手を当て
て、すぐに思い直します/15分ほどまえにも試したのですが、やっぱり
圏外でしたから/かわりに、ポケットの生地へ汗ばんだ手のひらを
こすりつけますが、そのとたんに今度はおでこから汗がすべり落ちて、
口の中へと入ります/舌がじん、となって、友理奈はへこたれそうに
なりました/土のにおいが混じって、おじさんのサロペットパンツを
食べたような気分になったからです/せっかくの夏休みだというのに、
こんな田舎へと連れてこられて、あげくのはてが、”太陽さんと道草さん”
との楽しいおしゃべりタイムです/こんなことならばと、すっかり後悔して
いました/すこしはなれた街へ買い物にいきたいといい出したママが、
ふんぞりかえって運転させるパパの車に、素直に乗っていけよかったの
です/いまこんな道を歩いているのは、最近、すっかりナマイキになった
弟と口ゲンカしたのがきっかけで、友理奈は、あんなやつ顔もみたくない
と思い、友達と遊ぶほうを選びました/
4 :さるぶん :2007/05/25(金) 18:47

この地図に書かれた場所で、おちあう約束をしていたのです/しかし、
その原因すらすっかり覚えていないことからもわかるとおり、意地なんて
張るだけ損だったのです/たしかに、あんなに憎たらしいやつと車で
となりになるのはうんざりすることですし、それが二人もいるのですから、
がまんは並大抵のものではありませんが、せめて目的地まで送って
もらうぐらいの妥協はすべきだったでしょう/いまごろクーラーに当たり、
ショッピングセンターのソフトクリームでもなめている瓜二つの顔を思うと、
うらやましいやら悔しいやら、いろんな気持ちがこみ上げてきます/気づ
けば影が短くなっていて、汗だくになっていました/さきほどまでは、
こんな田舎道にあるはずのない電柱が、どうしてここに、と思うほど長か
ったのですが、いまや暑すぎて、自分のからだが溶けてしまったのかと
思うほどにまで縮んでいます/色もすっかり濃くなって、それはおひさま
が高くなった証拠なのでした/そして建物らしきものが、ちらほらとみえ
てきたのは、そのシャツがそれよりずっと重たくなってからのことでした/
友理奈は、いっぺんにテンションが高くなって、かけだします/大きな山
を背にしているので、ところどころ日陰でよくみえませんが、たしかにひと
の気配はするのです/かけ足をしつつ地図と比べてみますが、《山の
そば》や《T字路の交差してるところ》というふうに、目的地の条件をみた
していることがわかります/うれしさがとたんにあふれてきて、友理奈は
夢中で足をうごかしましたが、それでも、まだだいぶ距離がありました/
でも、あせる気持ちとは裏腹に、直せばもっとはやくなるよ、と体育の
先生からいわれた、両手をぶらんぶらんさせる斬新なランニングフォーム
について、本気で検討してみようかと考える余裕まで、いまとなっては
生まれていました/
5 :さるぶん :2007/05/25(金) 18:48
やったー、コンビニでアイス!ジュースにソフトクリーム!…あ、いや、
アイスとソフトクリームは、おんなじみたいなものか…/そんなことを思い
ながら、地図を確認することもおこたりません/だっていまの友理奈は、
サロペットのおじさんをうらみつつ、道草に話かけていた、あのみじめった
らしい友理奈とは、まるで別人なのですから/「すいませーん!!」/
汗が目に入るのもわすれて、いきおいよく店にとびこみました/都会で
なら、まず、声に出すことはしませんが、このさいはべつです/友理奈は
まっさきに、アイスクリームの売り場をさがします/そしてできることなら、
お行儀は悪いけれど、ソフトクリームの出てくる口のところに直接、顔を
もっていって食べてしまいたい、そうしたら、そこはまるでソフトクリーム
ランドじゃないかと思いました/はたして、アイスの冷蔵庫はみつかり
ました/しかしソフトクリームの機械はみつかりません/そこで友理奈
は、いけない、と思いました/どのコンビニにもソフトクリームがおいて
あるとは限らないことを、ようやく思い出したのです/しかし、そこはコン
ビニです、車一台走っていない田舎町でも、その安心感はきっと裏切ら
ないはずでした/しかし、コンビニにはかならずあるものが、ここには
ありません/ひとつは、ドアです/入り口をさえぎるものはなにもなく、
なかに入ったことさえ、いっしゅん、気づかないほどでした/そして二つ
めは、クーラーがきいていないことでした/だからこそ店内に入った実感
がなかったのです/冷静になってみると、店のすみっこにはレジスター
にうつぶせている、おばあさんらしき人がいます/友理奈は、だんだん
不安になってきました/店内をみわたすと、日の光以外に、照明らしい
照明がありません/あわてて外へ出てみます/いま歩いてきた道が、
すぐ目の前にあらわれましたが、それはともかくとして裏手にまわって
みました/そこには、なにもありませんでした/
6 :さるぶん :2007/05/25(金) 18:49

いえ、ものごとは正確にいわなければいけません/そこにはあったの
です、山が/世界のすべてをおおいつくすように立ちふさがった、大き
な山が/コンビニのまわりがすべて山という町を、友理奈は歩いたこと
がありませんから、あちこちを見てまわりましたが、ほかに建物らしき
建物は見当たりませんでした/進めば進むほど、山の奥ふかくに入っ
ていきそうでしたし、T字路をもどれば家がちらほらとみえていますが、
なんだか「日本昔ばなし」に出てきそうな家ばかりなのです/正面へ
もどると、地図に書かれた名前と、看板の名前をあわせてみます/
みごとに一致しました/そもそも、悪い予感はしていたのです/コン
ビニの名前に「ひらがな+屋」なんて聞いたことありませんでしたから
/サロペットのおじさんと会話したとき、たまたまケータイがつながる
場所にいたので、パパに訊いてみました/すると、個人経営のフラン
チャイズだってあるからね、きっとそういうところなんだろうといっていた
ので、意味も分からないまま、すっかり信じていたのです/もういちど
店内にもどり、友理奈はおばあさんを起こしてみることにしました/
きもちよさそうに眠っているところ、本当にかわいそうだったのですが、
背に腹はかえられません/「すいません、ここってコンビニですか…」
/「うんにゃ、このあたりじゃコンビニみたいに便利な駄菓子屋だと、
いわれちょるねぇ」/そういって、おばあさんはまた夢の世界にもどっ
ていきました/ふらふらと店の外にでていくと、裏手にある山をにらみ
つけます/それが、さっきのサロペットのおじさんに見えてしかたあり
ません/どうやら、とんでもないところにきてしまったようです。
7 :さるぶん :2007/05/25(金) 18:49


(まちの”ほっ”とステーション/了)
8 :さるぶん :2007/05/25(金) 18:52
すみません、最初と最後の行空けがぐだぐだに…(汗
4コマ漫画っぽいレイアウトにするための試行錯誤でした

初回ということで、2話目も投下しておきます
9 :さるぶん :2007/05/25(金) 18:54

クーラーもないし、ドアもない店内では、汗が引いていく気配も、またあり
ませんでした/はじめは、ここが目的地であることを認めたくなくて、
なんども地図を確認したのですが、現実は甘くありません/ここは確か
に、待ち合わせの場所なのです/まぶたの裏で、サロペットのおじさん
が舌をだしています/しかたなしに、友理奈は足を止めて、立ち読みを
はじめました/へたに歩きまわって、迷子になってはいけませんから、
そうするよりほかないと思ったのです/さびついたラックには、いちおう
最新の雑誌が並んでいます/すきまだらけのなかから、友理奈が手に
とったのは、ウォーカー系の雑誌でした/ほんとうは横のファッション誌
がよかったのですが、ひもで縛られていて、開けないようになっていたの
です/月刊誌なぶんだけ、ちょっと値段が高いせいだろうと思いました
/友理奈は、今月の占いを地元でチェックしてこなかった自分をうらみ
つつ、ページをめくることに集中します/右から左へと、一枚一枚、
慎重な手つきを心がけます/これといって読みたいページはないの
ですが、ならば、どうしてそんなに集中するかというと、ファッション誌の
ことが頭にあったからです/お店のひとは、雑誌を立ち読みでめちゃ
くちゃにされるのが嫌なんじゃないだろうかと、そう思ったのです/
こういう週刊誌はページがうすっぺらいですから、めくるとき、簡単に
曲がってあとがついてしまいます/ましてや、長いあいだ歩いてきたの
で、手は汗で湿っています/めくりやすいぶん、ページをハンカチがわり
に使ってるみたいな気がして、だんだんと罪悪感をおぼえてきました/
肩ごしにふり返ると、おばあさんはレジスターでお昼寝をつづけていま
すが、友理奈は、いつしかページをめくる気がうせてしまいました/
10 :さるぶん :2007/05/25(金) 18:55

そこで、そのときたまたま開いていた”今週のライブ情報”を読むことに
します/なんだか今日は、妥協ばかりしている気がますが、うしろ向き
にばかりも考えていられません/気持ちを切りかえて熱心に読んで
いくと、たくさんの写真が目にとびこんできます/あまりに華やかなの
で、どこの外国かと思いますが、よくみると”赤坂BLITZ”とか”渋谷AX”
とかのキャプションがついています/横には、”帰りに行きたい お勧め
のデートスポット”なんてコーナーまであります/それをみて、友理奈は、
なんだか自分がいる場所と、その写真の場所とが、あまりにも遠く
はなれているような気がしてしまい、ページを閉じようとしました/雑誌
が、とても重たく感じられたからです/「あー、ついたー!」/いきなり
声がしました/その大声は、どうやら入り口に立っている女の子のもの
のようです/「おばさん、アイスちょうだい!」/いきなり現れたことにも
おどろきですが、そのことばが、冷蔵庫に手をつっこんだ後のものだっ
たことに、友理奈は二度、おどろきました/銀紙をめくると、まっしろな
バニラアイスが顔をだします/それをみて友理奈は、自分がさっきまで
おぼえていたのどの渇きを思い出しました/ですが、女の子がアイス
をくわえながら、器用に片手で財布を、そして、そこから小銭をとりだす
のをみていたら、また忘れてしまいました/そのまま自分の手に目を
やって、また女の子をみます/「あ、ちがうんだ…」/思わずそう口に
してしまったのは、自分の目をうたがったからです/雑誌で華やかな
デートスポットをみていたので、この店のなかが実際よりも暗くみえて
いたのだと思いましたが、ちがいました/その女の子が、あまりに黒か
っただけなのです/女の子は、おばあさんが受けとろうとするよりはやく、
小銭をカウンターにおくと、その足で友理奈のとなりへやってきました/
11 :さるぶん :2007/05/25(金) 18:55

「あー、これまだ見てないんだよねー」/いっしゅん、自分にいったのか
と思いましたが、友理奈がずっとガン見しているにも関わらず、女の子
は気にもとめません/それどころか、ファッション誌を手にとると、おも
むろに縛ってあったひもを、はずしはじめたのです/「えーっ!」/おもわ
ず声にでていました/そこで、はじめて女の子は友理奈をみました/
「は、ほへ?はいほぉーふ、ほんははほほへはひーひ」/ひもを外すの
に、さっきからアイスを口にくわえているので、とても聞き取りにくいの
ですが、友理奈には、なんとなく分かりました/――大丈夫、読んだら
戻せばいいし/それは、いけないと知りつつも、友理奈だって考えてい
たとだったのです/そして女の子は、本をラックのうえにおくと、片手に
アイスを持ち、もう片方の手でページをめくりはじめました/友理奈は、
この子って地元の子なのかなぁ、だって、この日焼けははんぱじゃな
いし、あーでも、アイス食べたいの忘れてた、っていうか、その雑誌
読みたかったのに、もうっ!――と、いっぺんにたくさんのことが頭を
かけめぐったので、かっとなって、雑誌をにぎりつぶしそうになりました
/「あっ、いけない!」/ページにあとがついていないか、手でアイロン
をかけていると、女の子がいってきました/「あー、あたし、そのライブ
ちょう行きたいんだよねー」/語尾がだらしなく伸びていますが、べつに
ギャルというわけではありません/それに窓のそばに立ってはじめて
わかったことですが、色黒も、どうやら生まれつきのようです/「ほら、
このアーティストさん、DVDとか持ってて、最近よくみてるんだよね」/
のぞき込んでくるので、見る?という意味をこめて、目くばせします/
すると、あ、じゃあ、こっち読む?と、ファッション誌をわたしてきました/
念願の占いがチェックできるとあって、もう少しよろこびそうなものです
が、友理奈は、女の子から目がはなせませんでした/
12 :さるぶん :2007/05/25(金) 18:55

だって、です/「おわー、この遊園地、いきたい!」/女の子は雑誌を
受けとるなり、さっき気になるといっていたアーティストの情報など目も
くれず、つぎつぎとページをめくり出したのです/しかもページのまん
中らへんを、ばりばりと平気でつかんでいます/女の子は、友理奈の
ように汗をかいていなかったようですが、読み終わるころになると、
最初とくらべて、雑誌がすこし厚くなったようでした/もう、占いもノドの
乾きも、どうでもよくなっていました/この子が、待ち合わせていた子
かもしれないと思ったからです/知り合いもくるのですが、紹介したい
子がいるからといわれていたのです/「あのぉ…」/友理奈は思いきっ
て、切りだしました/名前さえ聞いていなかったので、なんとなく、
もじもじしてしまいます/「もも…じゃなくって、嗣永さんの知り合いの
ひとですか?」/「…え、そうだよ」/女の子は、なんとなく嫌そうな顔
をしました/「なんで桃のこと知ってんの?」/ページをめくる手が
ぴたりと止まると、無言のままアイスを食べきって、それからいいました
/「桃に頼まれごとしたんだよね、っていうか、だれ?」/「…あ、わた
し、熊井友理奈ともうします」/なぜか敬語になってしまいますが、
頭まではさげません/「桃子ちゃんと、ここで待ち合わせしてるんです」
/「そうなんだ、じゃあ熊井ちゃんだね」/いきなりのあだ名でしたが、
さきほどからの彼女を見ていれば、べつだん、おどろくことではありま
せんでした/「あたしのことは、千奈美でいいよ」/「あ、はい」/友理
奈は、じゃあ、ちーちゃんだね、などといおうか迷いましたが、ノドのおく
をむずむずさせているうちに、もうひとつの影が、出入り口にみえました
/「おくれてごめーん!」/そういってひらひらさせる手には、思いっ
きり小指が立っていました/
13 :さるぶん :2007/05/25(金) 18:56


(千奈美、あらわる/了)

14 :さるぶん :2007/05/25(金) 19:00
レイアウトですが、上一行、下二行というかたちがよさそうです…(汗

さて、更新のほうですが、週一ぐらいをめざしています
よろしくどうぞ
15 :さるぶん :2007/05/25(金) 23:17
つづきが書けたので投下します
いきなりの約束やぶりですがw
16 :foreseasonz :2007/05/25(金) 23:19

友理奈は、とても背の高い女の子でしたが、桃子は、それを抜きにした
としても、とびきり小さな女の子でした/歩き方もかわっていて、お尻を
きゅっと上げて、まるでペンギンのようなのです/そのようすで、ひょこ、
ひょこと、千奈美のもとへむかいます/「あ、このヒモ、とっちゃったの?」
/ひとさし指は雑誌へと向いているのですが、ぴんと立った小指はと
いうと、てんでまちがった方向をさしています/それをみて友理奈は、
すこしだけ目が泳ぎます/「壊れちゃったんだよ、古かったから」/
首のうしろをかいている千奈美をみて、つぎに、あらためてヒモをみると、
友理奈は、それにも一理あると思いました/たしかに、古っちいのです
/それも、はじめからそんな色だったなんて、どれだけじょうずに説明
されたって信用できないほど、おかしな黄ばみかたをしているのです
/「徳さんてば、買うお金ないもんね」/「う、うるさいなぁ…」/桃子は、
小指の立った両手を、胸のまえでるんるんとゆすっています/さっき
までの元気はどうしたのと友理奈は思いましたが、ひもをとってしまった
ことを、桃子がたしなめてくれたのだと思い、やりすごすことにします/
友理奈とは、今朝ケータイではなしていたので、再会をよろこびあう話
もそこそこに、そのまま、立ち読みが再開されました/ですが、どこか
落ちつかないようすの千奈美は、ページをめくる手がおそくなっています
/「これってさー、こないだ徳さんがいきたいっていってたライブでしょ?」
/ふたりのあいだにはさまって、きょろきょろしていた桃子がいいました
/友理奈からすると、日陰になってよくみえないのですが、さっき千奈
美がいっていたアーティストだろうと思いました/そこは、とっくにすぎ
ていたはずですから、どうやら千奈美はページを逆さまにめくっていた
ようです/「もーのおかげで見にいけるんだから、おみやげたのむよ」/
17 :foreseasonz :2007/05/25(金) 23:19

うふふ、このこのぅ、みたいな感じで肩をぶつける桃子に、リアクション
に困ったようすの千奈美/このふたりがいったいどういう関係なのか、
はかりかねている部分が友理奈にはありましたので、なんとなく、みょう
な”間”を感じてしまいます/そこで、話題をふってみることにします/
「ねぇ、みて、あたしの星占い、恋愛運が最高だって!」/どれどれと
桃子がのぞき込みます/あっちをみて、こっちをみてと、まったく忙しい
なぁとおもう友理奈ですが、千奈美のほうをみると、ページをめくる
スピードが元にもどったので、ま、いっかと思います/「でもさ、それって
意味なくない?」/千奈美がいいます/「え、なんで、なんで」/友理
奈は、頬をふくらませます/だって、ここへきて、はじめてラッキーと
思えるような出来事だったのですから/「それって今月号でしょ」/
「そうだよ」/「発売って3週間ぐらいまえでしょ」/「…そうだけど?」
/友理奈は、本当にいっている意味がわかりません/「徳さんがいい
たいのはさ」/桃子です/「もうすぐ星占いの効果なくなっちゃうんじゃ
ない?ってことだよ、たぶん」/「…あ、そっか」/それで友理奈は
しゅんとしてしまいます/「それにさ、ほら、ここじゃ男の子なんて、
カッコイイ子いなさそうだし…ね」/友理奈がしゅんとしたのも、まさに
それが理由ともいえます/だって、こんな田舎町に、あと二週間も
いなくてはならないのですから/「そういえば、ももちって何の用事で
きたの?」/ここに自分が呼ばれた理由もふくめて、友理奈はまだ
なにも聞かされていないのでした/「カテキョだよ」/桃子にしかでき
ない、舌っ足らずないいかたでした/そのつづきによると、親戚の子
の勉強を、夏休みのあいだじゅう、みてあげればいいのだそうです/
18 :foreseasonz :2007/05/25(金) 23:20
「へー、そうなんだ、それでバイト代って、どれくらい?」/「あー、うん、
…それ、あとでね」/なんだか歯切れのわるい感じでした/「あたし、
ちょー欲しいポロシャツがあるの」/友理奈は身ぶり手ぶりでアピり
ます/「茶色のやつなんだけどね、白とピンクの刺繍がしてあって、
それで襟がちっちゃくて、もーすごくカワ…」/そこまでいって、またも
や千奈美の手が止まっていることに気づきます/「そうなんだ、ふーん、
まー、似合うと思うよ、だって、くまいちょー茶色すきだもんね」/桃子
は、友理奈のまえのファッション誌を勝手にめくりながら、千奈美のほう
をみています/「ね、徳さんもそう思うでしょ?」/「うん、おもう、おもう
よ、熊井ちゃん」/千奈美も、桃子がめくるファッション誌をみながら、
自分の手はウォーカー誌をめくっています/とても奇妙な光景でした
が、それで、なんとなくはぐらかされてしまい、友理奈はなにもいえ
なくなりました/相変わらずきょろきょろとやりながら、二冊の雑誌を
みている桃子/友理奈と千奈美は、桃子が口出ししてきたらページを
とめて、なにごとか会話の糸口をさがしました/そんなことをしている
と、それはそれで楽しくなって、キャッキャ!とさわぎはじめてしまいま
す/「そもそも、どうしておいてあるんだろうね」/桃子は、ファッション
誌についていっているのです/「いくら田舎でも、オシャレに興味のある
ひとぐらい、いるでしょ」/これは千奈美です/「え、だって、こんな場所
なのに?」/友理奈は、目の前にひろがる景色をみながらいいました
/そよ風が、ここちよく吹いてきます/いつだったか”窓際”といいまし
たが、そこにガラス窓がはめこんであるなんて、だれもいっていません
よね?/「だれが、どこから?」/友理奈の追求は止みません/「うしろ
の山をずっといったとこに、町があるんだよ」/
19 :foreseasonz :2007/05/25(金) 23:21
「それにしたって、遠くない?だれも、ここまで買いにこないよ、こんな
場所に」/友理奈は、いかにこの店がへんぴな場所にあるかを、切々
と訴えました/このころには、すっかり忘れていたはずのサロペットの
おじさんが頭の中によみがえっていたので、熱が入ってしまうのです/
こんな場所に、こんな田舎に――そういう意味のことを、もうなんべん
いったかわかりませんでした/すると、いきなりでした/「こんな場所で、
わるかっただよ」/さびた自転車のような音がしました/ふりかえると、
レジにいたおばあさんが、のそっと立っていました/うわぁー!!!/
三人でいっせいに飛びのきます/「どれだけ田舎でもな、雑誌の値打
ちは、変わらねーだよ」/だれをみるともなく向けられていたおばあさん
の目が、ぬっと落ちました/それを追いかけると、三人は、自分たちが
雑誌を踏みつけていることに気づきます/おどろいた拍子に落とした
のでした/おばあさんは、そのまま雑誌をひろいあげると、なにもいわ
ずにレジに向かいます/「…え、なに?」/「買いとれ…ってことじゃな
い?」/はじめのは千奈美で、応えたのは友理奈でした/さっきから
三人で好き放題にめくっていたので、極めつけにふんづけられた雑誌
は、いまやめちゃくちゃになっていました/「徳さん、ほら…」/桃子が
はやしたてます/このこのぅ、のときとは、ずいぶん迫力がちがうよう
です/友理奈は、さっきアイスを買った千奈美を思いだし、右ポケットに
入っているはずの、彼女の財布に注意を向けています/床に落ちた
ヒモは、たしかに黄ばんでいるのですが、思えば、千奈美がむりやり
に取ってしまったのだということを、友理奈は、いまこそはっきり意識
していたからです/その千奈美が、あたしヤダよ、と小声でいいだした
ので、だれがいくかで、モメはじめます/
20 :foreseasonz :2007/05/25(金) 23:21
「だれでもええから、はよしんしゃい!」/自転車が、がたん!といいま
した/「徳さんが…」/桃子に背中をおされた千奈美が、一歩まえに
進み出ます/おばあさんにみられた千奈美は、いっしゅんたじろぎます
が、さっきアイス買ったので最後だったといって、お手上げのポーズです
/次におばあさんがみたのは、千奈美のとなりにいる桃子ですが、
「あたしは、ヒモが外れたとき、いませんでしたよ」/さらっと、いって
のけます/もちろん、それは、まっとうな主張でしょう/つまり、おばあ
さんは自然のなりゆきから、友理奈へとたどりついたのです/「あんた、
物欲しげにみとったじゃろう」/ファッション誌を手でたたくおばあさん/
それはとんだ濡れ衣だとおもう友理奈ですが、ことばになりません/
だって、おばあさんは、さっきまで寝ていたのに、いつのまにうしろに
立っていたのだろうと、ほんとうに、おどろいていたからです/「…あ、
あた、あたし…」/気づけば、ふたりは友理奈の背中に隠れています
/こんなときなのです、友理奈が自分の背の高さを呪うのは/「…くま
いちょー、ファイト」「…かっこいいよ、熊井ちゃん」/雑誌をめちゃくちゃ
にしたのは、ほとんど自分たちの責任なのに、ふたりは、友理奈の
背中から好き勝手いっています/「770円だーよ」/友理奈は、いわ
れたぶんだけ、財布を軽くするしかないのでした。
21 :foreseasonz :2007/05/25(金) 23:23


(桃子、あらわる/了)

22 :さるぶん :2007/05/25(金) 23:31
ストックを3つ用意するやり方なので、それ以上書けたら
随時投下していくことにします。ふだんは>>14でいきます。

あとレイアウトの件ですが、《ヘッドライン》と《レスを全部
読む》では表示が微妙に異なるということを知りませんで、
お見苦しい感じになりました(汗 (上1/下1で統一します)

いろいろややこしくて、すみません。
23 :さるぶん :2007/05/25(金) 23:36
いやちがった、レイアウトは”上下なし”で統一でした
なんか、ひとり相撲とってるな…(汗

飼育はじめてなんで、勘弁してください。
24 :さるぶん :2007/05/26(土) 00:57
もうひとつ書けましたw
25 :foreseasonz :2007/05/26(土) 00:58
コンビニを出ると、日差しがまともに落ちてきました/友理奈は、小脇に
二冊の雑誌をかかえたまま、うなだれて、自分の影ばかりみています
/うしろから、千奈美がやってきます/戸口をくぐったところで、いきな
り大声をあげます/「あー、なんか、ドンッ!てくる」/うしろをふりかえ
って、友理奈は首をかしげました/「どん…って?」/「なんか、太陽
がドンッ!って感じじゃん?」/こんどは身ぶりをまじえていますが、
友理奈は、自分の影をふんづけている千奈美の靴ばかりみていまし
た/千奈美のする動きは、3人の真上にある太陽から、あたまのうえ
にめがけて、なにかが落ちてくるようなジェスチャーでした/「千奈美
ちゃんってさ…」/「呼び捨てでいいよ、あるいは”ちー”とか」/友理
奈は、そこでやっと顔を上げました/「うん…、ちーってさ…」/はじめ
てあだ名で呼んだので、友理奈はすこし口のまわりがフガフガします
/「なんか、ヘンな擬音つかうよね」/「そうかな」/「そうだよ」/そう
いって、友理奈は、雑誌をにぎりしめました/この二冊のお会計をする
とき、横にいた千奈美を思いだしていたからです/雑誌がくしゃくしゃ
になったのは、いったい誰の責任だったのか、それが曖昧にされたまま
お金を払わされることに納得のいっていなかった友理奈は、レジスター
をうつおばあさんの前に立たされながら、くさくさしていました/なんだ
か、学校の先生にお説教されているような気分になっていたのです/
すると、千奈美はよこにきて、こうささやいてきたのです/「…がたぴし」
/友理奈はさいしょ、この子はなにをしているんだろうと頭にきました/
友理奈は、もうぜったいにリアクションなんてしてやるもんか、この千奈
美という子も、弟たちと同じで、わたしにむちゃくちゃなことを要求する
悪い子なんだ、
26 :foreseasonz :2007/05/26(土) 00:59
だってうちの弟なんて、あめ玉の最後のひとつを誰が食べるのか、
じゃんけんで決めようっていったのに、いざ負けると、泣いてダダを
こねたりして、けっきょくママに怒られるのは、いつだってわたしなんだ
から…と、不満がぐるぐるとうずをまいていたので、無視をきめこんで
いたのです/ですが、それでも千奈美は、…がたぴし…がたぴし…と、
くりかえすのです/あんまりしつこいので、なんだろうと思っていると、
千奈美がささやくのとおなじ音が、どこからか聞こえてくるのです/
しばらく聞いていると、正体がわかりました/それは、おばあさんの
打つレジスターのたてる音でした/あんまりおんぼろなので、ひとつ
ボタンを押すたびに、がたぴし、がたぴし、といっているのです/しか
も、おばあさんは目がわるいのか、腰がわるいのか、あるいは、その
両方なのか、まるで、なめるようにしてレジスターに顔をちかづけて
います/そして、何度も何度も打ちまちがえては、また一から、がた
ぴし、がたぴし、とやるのです/それを何度かくりかえすと、おばあさん
は頭にきて、レジスターをひっぱたきます/その音も千奈美は、がしゃ
ん!とか、しゃばん!とか、モノマネをするのです/おばあさんの格好
や、レジスターが自分のサイズには似つかわしくない大きな音をたてる
こと、あるいは、おばあさんが、ほかの動きからは予想のできないすば
やさでレジスターをひっぱたく様子に、友理奈はおかしくてたまらなくな
ってきました/…がたぴし…まつがえた…バンッ!…がたぴし…あん
れぇ、また、まつがえた…バンッ!…がたぴし…あんれぇ…/千奈美
の実況を聞いているうちに、つい、声をたてて笑ってしまいます/する
と、おばあさんは、ぬるりと目をまわしてこちらをみたので、笑いがノド
のおくにひっかかって、友理奈は、ひーひー苦しみながら、お会計を
済ませたのでした/
27 :foreseasonz :2007/05/26(土) 00:59
「うーん、たしかに暑いかも」/そういって友理奈は、空を見あげると
目を細めますが、そこでハッとしました/小脇にかかえた雑誌をもち
あげて、影をつくります/「サン・バイ・ザー!」/そういって、千奈美の
ほうをみますが、無言でした/「いや、こうすると、涼しいかな…って」
/なにかいおうとする千奈美をまたずに、おくれてやってきた桃子が
いいました/「じゃあさ、もーがいちばん小っちゃいんだから、いっぱい
落ちてくるぶんだけ暑くない?」/桃子はちいさな身体をいっぱいに
伸ばして、天を仰いでいます/そうすれば、すこしでも落差がちいさく
なるぶん、暑さがやわらぐとでもいいたげでした/その様子はむしろ、
太陽を歓迎しているようにもみえましたが、目はしばしばさせています
/それを気の毒におもった友理奈は、もう一冊の雑誌をもちあげて、
桃子に渡そうとしますが、タイミングわるく千奈美がさえぎります/
「とにかく、ドンッ!って、くるよね」/「え、でもさ…」/雑誌をちゅう
ぶらりんにしたまま、バツのわるい友理奈は、控えめにいいます/
「あたしがいちばん背高いじゃん、だから太陽に近いぶん、いちばん暑い
気がする」/すると千奈美が、「うーん、それわかんないかな」と、さり
げなく否定しました/「えー、なんで、なんで!」/「くまいちょー、それ
はちがうよ」/桃子はさっきといってることがちがうのですが、それきり
話題は終了してしまいます/友理奈は、なんだかおもしろくないなと
思いますが、雑誌をひっこめて、「…サン・バイ・ザー」と、つぶやきま
した/「まー遅いね」/千奈美がいいました/「…え、”まー”って?」
/友理奈は、またうなだれてしましたが、知らない名前に顔をあげま
す/「カテキョたのまれた子だよ」/フルネームは、須藤茉麻です/
「まーさんの親戚の子が、2週間お留守番することになったんだって、
だからお泊りして面倒みるんだって、うちらは、その手伝い」/
28 :foreseasonz :2007/05/26(土) 00:59
「…え、カテキョって、ももちの親戚の子じゃないの?」/「そうだけど、
まー似たようなものじゃん、テキトーだよ、テキトー、うふふっ」/また、
このこのぅ、の感じです/桃子に腰のあたりを小突かれながら、この
二人にくわえて、またヘンな子が増えるのかもしれないと思い、友理奈
はちょっと憂鬱になりました/「はやくきてくんないと、うちら溶けてなく
なっちゃうよ」/そういって千奈美は、どろどろ、とか、ぐちゃんぐちゃん、
とかいっています/いえ、それだけならまだしも、桃子がそこへのっか
ってきたものですから、身体が溶けても、骨がのこってるんだから、
ばしゃんばしゃん!だよ、とか、ちがう、ぶちょんぶちょん!だよ、とか
いいだす始末です/それをみた友理奈は、やっぱヘンだよ…とつぶや
いて、サンバイザーにした雑誌を、ふたつ重ねるのでした。
29 :foreseasonz :2007/05/26(土) 01:00


(サン・バイ・ザー!/了)

30 :さるぶん :2007/05/26(土) 01:02
今日は、もう終わりにしておきます。
31 :foreseasonz :2007/05/26(土) 14:47
どれだけ待っても、茉麻はやってきません/「このままだと、お肌に悪い
わ」/小指をたてて、桃子がいいます/友理奈はもういちどだけと思い、
雑誌をわたしますが、聞き入れません/もう、なかに入ろうの一点ばり
なのです/そこで、みんなして駄菓子屋へもどることにします/恐る恐る
なかをのぞきますが、桃子はちゃっかりとしんがりにいて、先頭はもち
ろん友理奈でした/背中をおされ、ながい首をのばしてみると、おばあ
さんは、なにごともなかったかのようにレジスターでうとうとしていました
/おもわず、ため息がでます/いちばんになって、どかどかと入っていく
千奈美は、おもむろにケータイを取り出しました/「このへん、つなが
る?」/友理奈は、つらく、きびしかった田舎道を思い出しながらいい
ました/どうせ圏外だろうと思ったのです/「大丈夫、この先に中継局
があるから、たまにつながるんだよ」/ボタンを押すと、ツーツーいうの
が聞こえてきます/「このあたりって、静かなんだね」/友理奈はつぶ
やきながら、桃子といっしょに、千奈美の様子をうかがっています/
「ふふっ…もう、そんな見ないでよ」/手をひらひらさせて、千奈美は
おどけてみせますが、ケータイは、おなじ音をくりかえすばかりで、いっ
こうに働いてくれません/それでも、しばらくのあいだコールを聞いてる
と、どこからか騒がしい音が聞こえてきます/「これって…」/友理奈は、
電子音に目をかがやかせました/ようやく、この店から開放されると
思ったのです/くりかえしますが、あたりにはセミの泣き声しか聞こえ
ません/そのため、だんだんと近づいてくる音はまだ遠いのですが、
その代わりに、ヘンな音がまじっている様子も、よく聴きとれました/
すると、いきなりです/がたぴしのレジスターでうたた寝をしていたおば
あさんが身をおこしました/
32 :foreseasonz :2007/05/26(土) 14:48
顔には、7とか4とかいう値段を打ちこむボタンのあとがついています
/首をひねって、なにかうめきました/それを友理奈は不思議そうに
みていますが、ひねるといっても、納得いかないときにするような、あの
動きではありません/うしろをふり返って、どこか空中の一点をみつめ
ているのです/しばらくすると、どうやら音は、店のぐるりを周るように
移動していることがわかりました/それに合わせて全員のふたつ目
が、おんぼろの壁をなめるように移動していきます/「店のまわりを、
道がはしってるんだよ」/友理奈は、ここに着いたばかりのとき、
あたりを歩いたことを思い出していました/どうやら音は、その道を
移動しているらしいのです/ぐるりを半分ほど回ったところでしょうか、
ふと、がしゃん!という音がして、つづいて、ひゃあ!という声が聞こえ
ました/「おあっ!切っちゃった」/おどろいた千奈美がヘンなところを
押してしまったらしく、音がとぎれました/やはり、それは着信音だった
ようです/それが消えるとこんどは、あばばばばばばばば!という音
が聞こえてきました/「なんの音?」/「ちがうよ、ひとの声だよ!」/
ふたりを静止して、桃子はまくしたてます/「ヤンキーだよ、田舎の子
って自転車からヘンな音だすし!」/とても興奮したようすです/さっ
きから着信音に混じっていたのは、これだったんだと友理奈が思って
いると、その、あばばば!が大きくなっていきます/みんなの目線は
駄菓子屋の壁をすっかり一周して、玄関にむけられていました/むこ
うにある坂道から、自転車がつっこんできます/「なんか、すごい勢い
だよ…」/「ひとが、ひとが乗ってる!」/それをみた友理奈は、小さな
パニックを起こしてしまいます/「これ、あぶっ…あぶないよ!」/そう
いうと、よくわからないまま、手近にあった「うまい棒」を数本手にとり、
にぎりつぶしてしまいました/
33 :foreseasonz :2007/05/26(土) 14:48
「あ、これ、なにすんだ!」/おばあさんがいいますが、こっちくるよ!
と千奈美がさけんだことで、駄菓子屋は大パニックです/友理奈は、
うまい棒の”めんたい味”と”チーズ味”を交互に持ちかえていますし、
千奈美は、天井にぶらさががったアニメのお面をかぶろうと奮闘して
います/かけずりまわる桃子にいたっては、びんびんに立った小指が
おばあさんの前かけに引っかかっているので、半径30センチのあいだ
をいったりきたりしていることに気づきません/ですが幸いなことに、
自転車の軌道はそれました/あばばばばばば!を発したまま、店の
よこっ面に激突します/だゆーん!/なにかが大きく壊れる音がしま
した/みんなは、いったいぜんたいなにが起きたのかと思い、あわて
て外に出ようとしますが、駄菓子屋の入り口がせまいので、しばらく、
おしくらまんじゅうしてしまいます/出たり入ったりをくりかえす桃子の
頭を、友理奈がさり気なくわしづかみにし、交通整理をしていなかった
としたら、五分でも十分でも、そうしていたかもしれません/ことばが
そうであるように、出入り口だって、正しく使いたいのが友理奈なの
です/ようやく抜けでてみると、自販機のよこで女の子がひっくりかえ
っています/「あばばばぁ、また怒られちゃう…」/かなり動揺した
ようすですが、おしりを太陽にむけて、両足のあいだから顔をだすと
いうきゅうくつな姿勢をとっていることを考えると、おおむね上々でしょう
/「これで5台めだゆん…」/みょうちきりんな口調はさておき、あたり
をみてみると、自転車のものと思われる部品が、散乱しています/
4台も壊したんだ…と友理奈はつぶやきましたが、だれも聞いていま
せん/あんれまぁ、またやったのかえ、とおばあさんがいったたため
です/
34 :foreseasonz :2007/05/26(土) 14:48
友理奈は、なんとなく千奈美をさがしましたが、ケータイを耳に当てた
ままという、マヌケなかっこうをしています/桃子は桃子で、まだ小指
をおばあさんに引っかけていました/「いつも、ごめん…」/女の子が、
ほんとうに申し訳なさそうにしています/よくみると、あたりに転がった
パーツは、一台分にしては多すぎるようです/友理奈は、いつもなん
だ…ということばといっしょに、なんか、田舎のひとってヘン…という
ことばを飲み込みました/もちろん、この女の子が地元の子だとは、
まだ決まっていないのですが、この状況自体が、真剣に向きあうこと
を放棄させるたぐいのものでした/「そんなことはいいから、さっさと
起きあがらんかぇ」/おばあさんにうながされ、女の子の地面とお日
さまは、ようやくもとどおりになります/その日常的なやりとりから思う
に、どうやら4台のうち、ほとんどがここで、しかもおなじようにして
壊れたのは明白な事実のようです/もっとも、自動販売機のよこっ
ちょという場所が、なにごともない自転車をとつぜんバラバラにする
ミステリースポットだというのなら、はなしはべつですけどね。
35 :foreseasonz :2007/05/26(土) 14:49


(りさ子、あばばる/了)

36 :foreseasonz :2007/05/26(土) 14:49
とりあえず、女の子を休ませようということになって、なかにつれていき
ます/「ほんとうに、ごめんだゆん…」/店のおくには座敷があって、
上がりかまちに座らされた女の子は、しきりにあやまっています/お茶
を入れながら、おばあさんはなにかいっていますが、おそらく気にするな
ということでしょう/「だいじょうぶ?」/友理奈が、めちゃくちゃに散乱
した自転車をみて、あれ片付けないのかな…と思っていると、いつの
まにか、となりへ腰かけていた桃子がいいました/「…うん…あ、はい」
/女の子は、ケガはなさそうでしたが、どこか不安げです/「でもさー、
ホント、びっくりしたよねー」/おもしろそうにいうのは、千奈美です/
女の子は順番に、千奈美、桃子、友理奈をみると、うつむいてしまいま
す/「熊井ちゃんがでっかいから、怖がってんじゃない?」/千奈美が
いいます/「…そ、そんなこと」/口では否定しましたが、友理奈は、
たしかに自分がみられたとき、女の子がびっくりしていたのに気づいて
いました/「…あ、あの、うちら、ここでまちあわせしてるんだ」/あわ
てて、いいますが、それでも暗い店のなかでは、入り口からさしてくる
光を背にした友理奈は、じっさい以上におおきくみえたので、女の子は
相変わらずおびえていました/「そうだよ、あたしは嗣永桃子、こっちが
徳さんで、この子がくまいちょー」/桃子があだ名で紹介したので、
それじゃわかんないよ、と千奈美がフルネームをおしえます/つづいて、
友理奈もそうします/「…あたしは」/女の子は、それですこし安心した
のか、顔をあげて、自己紹介しました/「すかーいさこです」/「は?」
/全員が、いっせいに聞き返しました/「スカイ・ザ・コップ?」/いった
のは友理奈でした/「…だからっ、すかーいさこです」/女の子は、
少しむっとした様子ですが、それで、はじめて友理奈と目が合いました/
37 :foreseasonz :2007/05/26(土) 14:50
桃子が、ゆっくりでいいから、もういちどいってごらん、といいますが、
やはり頬をふくらませたまま、”すかーいさこ”というのです/そこで紙
に書かせてみて、ようやく女の子が、”菅谷りさ子”という名前だと分か
りました/りさ子は、とても滑舌がわるかったのです/「おあがんなさ
い」/おばあさんが、淹れたてのお茶を出してくれました/声をそろえ
て、いただきまーす!といいますが、友理奈は、悲鳴をあげました/
「熱い!」/友理奈は、冷たいお茶だとおもって口をつけたのです/
なにせ都っ子の友理奈の家では、だれも熱いお茶なんて淹れません
でしたから/それにしたって、手に持った時点でわかりそうなものです
が、ばらばらになった自転車のパーツに気をとられていたのです/
友理奈の性格をかんがえれば、不可抗力といえそうです/「たしかに
熱いね、冷たいほうがいいのに」/遠慮のない千奈美ですが、おばあ
さんは笑っています/「暑いときにこそ、熱々のを飲むものなんだよ」/
そういうものかなと思って、みんなでちびちびとやりますが、りさ子だけ
はちがいました/「おかわり!」/舌がひりひりしている友理奈をのぞ
いても、みんなまだ半分しか飲んでいません/はいよといって、おば
あさんは、二杯目を渡します/さきほどからのやり取りをみていると、
りさ子とおばあさんは知り合いのようでしたが、なにか、とても奇妙な
ことである気がして、みんな顔を見合わせます/ですが、いったい何
がどう奇妙なのか、てんでことばになりません/すると、二杯目の底
を確認して、りさ子が口をひらきました/「ママ…じゃなくて、まあさが、
様子をみてこいって」/またもや、なにをいいだすのか、あっけにとられ
ていた三人ですが、桃子にむかってりさ子が、「桃子ちゃんでしょ?
高校生の」といったので、すこし事情が飲み込めました/
38 :foreseasonz :2007/05/26(土) 14:50
「まーさんの親戚の子!」/桃子は、自分でいって、うんうんとうなづい
ています/どうやら、りさ子は、茉麻といっしょにいたのですが、約束
の時間におくれそうだったので、ひとり自転車に乗せられて、さきに
こさせられたようでした/「でも、よくももちのこと分かったね」/友理奈
は、ふしぎそうにいいました/「そうだよ、りさ子は、桃のこと知らない
はずだよ」/「だって、これ…」/りさ子は、ゆび指します/「お茶?」/
「…じゃなくて」/りさ子が指さしている先をよくみると、湯飲みをもった
桃子の手でした/「いけばわかる、小指ててるのが桃子だからって」
/「あー!!」/千奈美と友理奈は、おもわず声がそろいます/「なに
よー!」/べつに、けなされているわけではないのですが、複雑そうな
桃子です/「りさ子ちゃんて、観察力があるっていうか、なんかすごい
ね、いくつ?」/かえってきた答えに、友理奈おどろきました/「うそ、
あたしと、ひとつしかちがわないんだ」/「なんかさ、さいしょ会ったとき
は、へんな子って思ったけど、いまこうしてみると、すっごい落ち着いて
るよね」/またもや、さらっと毒のあることをいう千奈美ですが、おおむね
うなづけてしまうだけに、二人は注意はできません/「まるで別人みた
いだね」/友理奈は、感心したようにいいます/「大人に変身しちゃっ
たみたいだよ」/みんなが、あんまりいうので、りさ子はもじもじしはじ
めます/「ママ…じゃなくって、まあさは、もうすぐくると思います」/
そのいいかたも、照れかくしにぶっきらぼうな感じでした/「ところでさ、
その”ママ”ってなあに?」/桃子がいいました/それは気になっていた
ことなので、千奈美と友理奈は、身をのりだしました/
39 :foreseasonz :2007/05/26(土) 14:50
「えっと、まあさは、ママみたいにやさしくて、でも、ちゃんと怒るとこは
怒ってくれて、それで、えっと…」/茉麻について話だすと、りさ子は
表情がこどもっぽくなります/それをみた友理奈は、たのしそうにいい
ました/「あたし、まだ会ったことないけど、きっとやさしい子なんだね、
茉麻ちゃんって」/「うんうん、もーもそう思うよ、友達が塾でいっしょで、
たまに会うんだけどね、すっごく、おもしろい子なの」/「おかしなこと
ばっかりしてるんだけど、すごい癒されるよね」/千奈美も、茉麻とは
知り合いのようです/目を輝かせ、あるいは小指をそそり立たせて、
つぎつぎと褒めことばを口にする二人をみて、友理奈はいいました/
「あー、はやく会ってみたいなぁ、きっとたのしいとおもう!」/すると、
とつぜんケータイが鳴りました/「まーさんかな」/着信があったのは、
桃子のケータイでした/「たぶん、心配になってかけてきたんだよ」/
友理奈がいうと、「ちゃんと着いたかどうか、心配なんだね」/千奈美
までが、めずらしく殊勝なことをいっています/そこで桃子はケータイ
を、りさ子にわたしました/受け取って、通話をはじめると、りさ子の
表情がくもりました/「あば…」/耳に当てたケータイが、ふるえまし
たが、バイブ機能ではありません/「あばば…」/「どうしたの?」/
ようすがおかしいと思った友理奈が、声をかけます/「あばばば…」/
りさ子の手のふるえがはげしくなると同時に、地響きのような音がしま
した/そばで居眠りをしていたおばあさんが、がばっと顔をあげます
/「なんまんだぶなんまんだぶ…」/店のぐるりをまわっていく音は、
次第におおきくなっていきます/それを追いかける視線が正面へと
むかうと、むこうから何かがやってきます/「り〜さ〜こ〜!!」/
それは人影のようでした/
40 :foreseasonz :2007/05/26(土) 14:51
「あばばばばばばばばっ!!」/どこかでみた光景に三人がテンパる
ヒマもなく、その人影はまっすぐ駄菓子屋のなかに突進してきました/
「あなた、また壊したのねっ!!」/その人影は少女で、りさ子に掴み
かかると、ぐいっと持ち上げて、おしりをぺんぺんしはじめました/
「これで何台め!?もう、許さないんだからっ!」/「ママごめんっ!
ごめんだゆんっ!」/バズーカ砲のような状態でかかえられたりさ子
は、無防備なおしりをすき放題に打たれていて、ぺしんっ!ぺしんっ!
という、痛々しい音が店じゅうにひびきわたります/あまりの光景に、
まるで自分のおしりまでひりひりした気分になった友理奈は、目を
そむけて、となりの桃子にききました/「…あの子、だれ?」/おなじ
気持ちなのか、おしりをキュッとすぼめた桃子はいいました/「…あれ
が、まーさんだよ」/ぺしんぺしんいう音と、おばあさんのお経とを聞き
ながら、さっきいったことを撤回したくなって友理奈はつぶやきました/
「…まるで別人じゃん」。
41 :foreseasonz :2007/05/26(土) 14:51


(茉麻のときめき☆アックスボンバー!/了)

42 :さるぶん :2007/05/26(土) 14:52
なんか、やたら書けたので投下しておきますw
43 :foreseasonz :2007/05/26(土) 18:00
「…そ、それくらいにしてあげようよ!」/あんまりぶたれているので、
みるにみかねた千奈美が、止めにはいります/「とめないで、この子は
わるい子なの、だから、だから…」/そこへ友理奈が加わり、ふたり
ががりになって、ようやく茉麻は止まりました/ほとんど、はがいじめの
状態です/「まーってば、やりすぎ」/二人が止めていたとき、うしろで
意味なくドタバタしていた桃子がしゃしゃりました/「…だって、だって」
/茉麻は、泣く泣く事情をはなそうとしました/ですが、ストップがかか
りました/「ちょっとまって!」/友理奈でした/「さっきは気づかなかっ
たけど、やっぱり、りさ子ちゃんケガしてるよ」/友理奈は、ひざ小僧の
あたりを指しています/「おばあさん、マキロンは?」/りさ子のケガは
日常茶飯事なので、よく貸してもらうのだそうです/茉麻のことばに、
おばあさんは、意外とすばやく立ち上がり、おくに引っこみましたが、
渋い顔をしてもどってきました/「あんれぇ、切れちまっただぁよ」/
そこで、だれがいい出すでもなく、いまから買いにいこうという話になっ
たのですが、自転車は壊れて使えません/「りさ子をのぞくとしても、
薬局の場所を知っているのはまーさんだけだよね」/桃子がはしこそう
にいいましたが、茉麻は否定します/「ごめん、あたし、たまにしか帰っ
てこないから、このあたりのこと、よく知らないんだ」/「あたし、知ってる
よ!」/りさ子が、手をあげました/「ケガ人が手あげて、どうすんの」/
「だって、ぜんぜん痛くないないんだもん」/たしかに、いますぐにでも
歩けそうな傷でしたが、どことなく、みんな気が引けてしまうのは、この
中で、りさ子がいちばん小さいからでした/そこで、”ママ”というだけの
ことはあって、みんなの目は自然と、茉麻にむけられていました/
44 :foreseasonz :2007/05/26(土) 18:01
「ケガが痛まないようにすれば、大丈夫でしょ」/堂々といい張る茉麻に、
うしろから、だいじょうぶだぁ、と、おばあさんの声がかかります/鶴の
一声によって、けっきょく、りさ子を連れて、薬局へむかうことになりまし
た/しかし、それに乗り気でないのは、友理奈でした/「ちょっとまって、
町まで歩くってこと?」/「そうだよ?」/9時25分に、9時25分の電車
がきたよ、とでもいいたげな顔で、千奈美がいいました/「何十分も歩く
んだよ!?」/友理奈は、つい忘れがちになっていた、あの午前中の
できごとを思い出していました/「くまいちょーなにいってんの」/桃子
が、あきれた声でいいます/「そんな、ももちだって知ってるでしょ、ここ
まで歩いてくるのが、どんなに大変か!」/友理奈に地図をわたしたの
は、なにを隠そう桃子だったのです/「…大変って、ねぇ?」/桃子は、
みんなに同意をもとめました/それは、友理奈のいっていることのおか
しさをあばくための投票でしたが、賛成多数により、可決されました/
「そんなぁ…」/友理奈は、泣く泣くついていくしかありません/小さな
傷とはいえ、ケガ人がいるため、恨みごとをいうわけにもいかず、ぶすっ
とした表情さえつくれずにいた友理奈は、その代わり、めいっぱい驚く
ことになります/そして、すぐに赤面するのです/「まって、みんなどこ
いくの?」/友理奈は、とうぜん今朝きた道をもどろうとしたのですが、
みんな山のなかに入っていこうとします/「薬局だよ?」/茉麻がこたえ
ます/「どこの?」/友理奈がぶつけます/「すぐそこの」/「え!?」
/「山を越えてすこしいったところに、小さい薬局があるんだよ」/りさ子
がこたえます/友理奈は、頭がこんがらがってきました/「町って、あっち
にあるんじゃ…」/友理奈がゆびさしたほうをみて、みんな笑いました/
「なんで、わざわざとなり町までいくの、こっちなら5分で着くのに」/
45 :foreseasonz :2007/05/26(土) 18:02
どうやら今朝の友理奈は、スタート地点をまちがえたために、あの地獄
をあじわったようでした/「…そんなぁ」/すたすたと歩いていくみんな
のうしろを、うなだれた友理奈は、遠慮がちについていくしかないのでし
た。
46 :foreseasonz :2007/05/26(土) 18:02


(あかんべぇサロペット/了)

47 :foreseasonz :2007/05/26(土) 19:18
山にはいっていくと、それはいわゆる”けもの道”というやつでしたが、
ふつうに歩けるようになっていました/地元のひとびとにとっては、生活
をささえる道なのです/今朝足をふみいれたとき、あたふたしていた
友理奈には気づけなかったことですが、この道では太陽がこまぎれに、
まるで小鳥のついばみのようにして差しこむだけなので、とても涼しく、
汗がいっぺんに引いていくようでした/だれともなく、さっき尻ぎれ
とんぼになっていたはなしへと、興味をもどします/「りさ子は、ドジの
チャンピオンなの」/茉麻のはなしによると、さきほど、りさ子が壊して
しまった自転車はたしかに5台めで、それのうち4台までが、茉麻の
おこづかいによってまかなわれたものだそうです/「りさ子は、この裏山
で遊ぶのが好きなんだけど、いくら注意してもやめないの」/ふつうに
遊ぶならまだしも、自転車に乗っているとなると、スピードのだしすぎに
よるケガが心配になります/「たとえば、ほら、こういうところ」/茉麻
は、いまちょうど歩いている道を示しました/でこぼこしていて、おまけ
に両側が小さながけのようになっています/「ここに、いっかい落っこ
ちたこともあったっけ」/「どうなったの?」/桃子がききました/「その
ときは無事だったんだけど、すごく、あぶないよね」/りさ子は、すこし
しゅんとしています/ですから、それは両親によって禁止されていたの
ですが、それでも、りさ子は自転車にのりたい、のりたいと、泣きついて
きました/「ちょうど、このあたりだったよね」/思い出したようにわらう
茉麻は、りさ子に顔をちかづけました/そこには小川が、といっても、
ほんとうに小さな流れがあって、そのかたわらには、だれかが計算づく
でおいたかのように、腰かけるのにちょうどいい大きさの石がありました
/「ここに座ってさ、鼻をずるずるやりながら、自転車、自転車ってバカ
みたいにくりかえして」/
48 :foreseasonz :2007/05/26(土) 19:18
わざとらしく、りさ子の目をのぞきこみます/「…な、泣いてなんかない
もん」/りさ子は、ぷうっとふくれます/「…え、べつに泣いたとか、
茉麻ちゃんいってないよね」/友理奈がツッコミをいれると、茉麻が舌
をだしました/もうーっ!といって、りさ子はすねてしまいます/それで
茉麻は、こっそりと買いあたえるようになったのです/「町はずれにね、
ちいさなリサイクルショップがあるの」/田舎ということもあって、その
店では、あちこちにある放置自転車をひろってきては、修理してならべ
ていました/「スピードをださないって約束をして、内緒だよってゆび
きりまでして買ったの」/最初にそうしたときのうれしそうな顔といった
ら、忘れられないと、茉麻は、つぶやきます/「でも、りさ子ってば、
すぐに忘れてちゃってさ」/おなじ相手と、4回もゆびきりしたひとなん
て、あたしぐらいじゃない?と、茉麻はわらいます/「でも、けっきょく
壊しちゃうんだね」/桃子が、あとをつぎます/千奈美も、りさ子をみて、
それなら、怒られてもしょうがないね、といいます/「だって!だって!」
/りさ子は、手足をじたばたさせますが、ほら、あばれないのと、茉麻
に叱られてしまいます/そのまま5人が裏山をぬけていきますと、
たしかに町がひろがっていました/「…ほんとだ」/友理奈は、心底
おどろいたという声をだします/「ね?もーが、ウソつくわけないじゃん」
/ふんぞりかえっていう桃子ですが、じゃあ、これは?と友理奈は、
ポケットから、例の地図をとりだしました/「あれ、これあたしのとちが
うよ」/千奈美が、ポケットをまさぐって、地図をだしました/それには、
友理奈のとはちがった絵が描いてあって、いま抜けてきた山をとおる
ルートが示されていました/「え、地図が2種類あるってこと?」/首
をひねっている二人に、茉麻がいいました/
49 :foreseasonz :2007/05/26(土) 19:19
「これってさ、あたしがボツにしてっていったやつだよね」/「えっ、どう
いうこと?」/「この地図、あたしが描いたんだけどさ、2パターン用意
したのよ」/それは駅から直行の、お金がかからない代わりに時間が
かかるというルートと、その逆で、バスを乗りついで裏山へ入っていく、
つまり、いま歩いてるルートを逆に進むものとの、ふたつです/「だれか
さんみたいに、一円でもお金を使いたくないってひとがいるかと思って、
どっちも用意してみたわけ」/茉麻は、だれを見るともなくしゃべって
いますが、ぎくっと肩をふるわせたのは桃子でした/「でもさ、いろいろ
考えると、歩きとおしのやつは、時間がかかりすぎるなってことになっ
たの、それで電話して、捨てて欲しいって頼んだよね」/茉麻は、ぼう
ぜんと友理奈の顔をみていましたが、そのことばが桃子にむけられて
いることは明白でした/「…え、だ、だってさ、ファックスの使い方が
ややこしかったんだもん」/二枚の地図は、あきらかに、どちらもコピー
されたものでした/「あたしも、桃からもらったんだけど、熊井ちゃんの
ところには、まちがった地図がいってたってこと?その犯人が、桃だっ
たの?」/ふんぞりかえっていた桃子が、目にみえて小さくなっていき
ます/「…それで、ちーはぜんぜん汗かいてなかったんだ…」/友理
奈は、しぼり出すような声でいいました/「そーいえば、くまいちょー
汗だくだったよね」/「そーいえば、じゃない!」/「…く、くまいちょー
ってば、目がこわい…」/「もーもーちぃぃぃっ!」/友理奈は、地図を
にぎりつぶすと、自分ですら持っていることを忘れていた二冊の雑誌を
ふりかざしました/「あ、あたしわるくないもんーっ!!」/桃子は、
いちもくさんに逃げだしました/「まてーっ!!」/友理奈は、きょう
一日の不満をばくはつさせて、声の限りにさけぶのでした。
50 :foreseasonz :2007/05/26(土) 19:19


(ももいろサロペット/了)

51 :名無飼育さん :2007/05/27(日) 18:24
改行いれてくれるとうれしい。
52 :さるぶん :2007/05/27(日) 20:55
やっぱ読みづらいですか、どうしよう…。
53 :名無飼育さん :2007/05/28(月) 10:03
もしかして携帯からですか?
たぶんなんですが、句読点?の部分が全角スラッシュで表示されています。
54 :さるぶん :2007/05/28(月) 11:11
いえ、PCです。

>>8にもありますけど、4コマを意識して書いてるんです。マンガの吹き出しって
句読点つかいませんよね、あれを極力再現したかったんです。
55 :foreseasonz :2007/05/29(火) 01:27
みるみるうちに消えていった桃子と友理奈をおいかけて、茉麻たちは
歩くしかありませんでした。

なぜかというと、ケガ人のりさ子をつれていたからです。

よって、あまりはやく移動できない三人が、ようやく二人をみつけたの
は、しばらく経ってからでした。

そこは住宅地でして、そうはいっても、車なんかぜんぜん走っていま
せん。

そのなかほどにある空き地に、ふたりはいました。
土管がみっつ重ねてあって、その上に桃子、下に友理奈がいます。

「おそいーっ!」

桃子は、ぷくーっとフグになっていますが、友理奈はよほど暴れたのか、
土管にそっくりかえって、肩で息をしていました。

そのようすから、勝敗はあきらかでした。

「おまえがいうな、って感じだよ」
茉麻がいさめます。

「そもそも、桃がまちがった地図わたすから、こんなことになるんでしょ」

「えー、それはしょーがないじゃん、もうすんだことだよ」
うふふっ、とわらう桃子。
56 :foreseasonz :2007/05/29(火) 01:27
友理奈はなにかいおうとしますが、ぜぇぜぇ、とばかりやって声になり
ません。

「なんかー、狭いところをくぐってたら、いつのまにかくまいちょーがいな
くなってて、もーがずっとここに座ってたのに、なかなかこないじゃない?
そしたら、くまいちょーってば、町内一周しちゃったみたい」

そしてまた、うふふっ、とやります。
友理奈は、くやしそうに雑誌をばんばん叩いています。

「まぁ、熊井ちゃんも気がすんだんじゃない?」
千奈美がいいます。
友理奈は、汗だくになっているので、まるで干したばかりの洗濯物のよう
でした。

「そうそう、次からはさ、ややこしくならないように、ここを待ちあわせ場所
にしない?」

桃子が、両手をいっぱいにひろげます。
「なんか、きもちいいよ、ここ」

茉麻は、それにうなづきます。
「そうだね、ここからなら、りさ子の家にもちかいし…」
と、そこまでいって、べつの声をあげました。

「りさ子のこと!まだ、ちゃんと紹介してなかったよね」
57 :foreseasonz :2007/05/29(火) 01:28
「そういえば、忘れてたね」
千奈美が、にが笑いします。

「自己紹介しな」
茉麻に、うながされますが、りさ子は首をふりました。
「さっきしたよ」
「だめ、勉強おしえてもらうんだから、ちゃんとしなさい」

それを聞いても、みんな、うすうすりさ子が家庭教師の相手なのだろうと
気づいていたので、おどろきません。

その様子をみてから、りさ子は、思いつめたような顔になると、リズムを
とるようにいいました。

「す〜が〜や〜り〜さ〜こ〜です、よ〜ろ〜し〜く〜お〜ね〜が〜い〜
し〜ま〜す」

いきなりのことに、みんな、あっけにとられています。
へばっていた友理奈までが、おきあがってきました。

「なにそれ」
「だって、スカイ・ザ・なんとかって、いうんだもん」

りさ子は、駄菓子屋で、なかなか名前を聞きとってもらえなかったことを、
いっているのです。

「スカイ…?」
首をかしげる茉麻に、くまいちょーが聞きまちがえたのと、桃子がフォロー
を入れます。
58 :foreseasonz :2007/05/29(火) 01:28
「え、だって、ほんとうになんていってるのか、わからなかったんだよ?」
「ちゃんと、いったもん!」
りさ子は、ほんとうに心外だといったような様子です。

「だからって、なにもメロディつけることないよね」
これは、千奈美です

「…スカイ・ザップじゃないもん」
「ちがうよ、スカイ・ザ・コップって、いったんだよ」
友理奈が、いらない訂正をします。

りさ子は、うつむいてしまいました。
この空気を開放したのは、やっぱり桃子でした。

「まーまー、そうカリカリしないで、ここはひとつ、あれでもやっちゃいま
しょうかなー」

桃子は、ひとりごちるようにいうと、なにかたくらむような目で、みんなを
舐めまわしました。

それをみて、ぎょっとしたのは、茉麻と千奈美でした。
その、いっしゅんだけ顔を出す、卑屈そうな猫背に、見おぼえがあった
からです。

桃子は、おもむろに土管のうえに立ちあがると、人さし指で天をさし、
こう宣言しました。

「嗣永憲法第19条、きょうこの瞬間から、英語をつかったひとは罰金
にショする!」
59 :foreseasonz :2007/05/29(火) 01:29
勝ちほこった顔でした。
これに対し、まっさきに訴えをおこしたのも、やはり千奈美と茉麻です。

「えーっ!!」
りさ子と友理奈は、意味がわからず、なにもいえません。

「補足!その金額は、ひとことにつき300円とする!」

こんどは、ぶー!ぶー!と口までならす始末です。
女の子として、それはとてもはしたないのですが、相当な不可抗力が
はたらいて、彼女たちにそうさせているようです。

「…憲法?…罰金?…ももちに払うの?」
「そうだよ、こーなったときの桃は、はら黒い!」
千奈美が、口をとがらせます。
それはまるで、巨人軍の選手に野次る阪神ファンのような横顔でした。

「いーから、聞いて、聞いて!」
桃子によると、これにはちゃんと意味があるそうです。

「りさ子が、こんなにも落ちこんでいるのは、そもそもなにが原因ですか?
はい、くまいちょー」

桃子は、エアマイクをむけます。
「…あ、はい、それは…自転車を壊してしまったからです」
「ごめーとー!」

さすがくまいちょー!と、桃子は土管のうえで飛びはねて、ころげ落ちそう
になります。
60 :foreseasonz :2007/05/29(火) 01:29
「それが、どうしたー!」
野党席から、野次がとびます。
「せーしゅくに!」
桃子は、友理奈がもっていた雑誌を手にとって、ばんばん!と叩きました。

ひろいあげるのに、いったん土管をおりたので間延びしてしまった空気
が、それでぴんと張りつめます。

「つまーり!」
りさ子のほうを指して、
「その罰金で、りさ子に自転車を買ってあげようということなのです!」

そういって、はいっ、もーってば、ちょうてんさーい!と笑います。

「それと、もうひとつ、嗣永憲法第20条、待ち合わせは、この空き地ね」

「あっ、でも、それは賛成かな」
挙手をして、友理奈がいいました。
「ここなら電波もだいじょうぶみたいだしね」
そういって、桃子はケータイとりだします。

「ほんとだ」
千奈美と友理奈も、じぶんので確認します。
「たしかに、あっちだと、通じないことが多いね」
茉麻は、駄菓子屋のほうを指差していいます。

「え、でも、さっき通じたよ」
「たまにはね。基地局と基地局のあいだなんだけど、通じることもある
みたいよ」
61 :foreseasonz :2007/05/29(火) 01:29
「…そういえば、さっき基地局がちかくにあるって、ももちいってなかった?」
と友理奈。
「え、いやー、あれはテキトーっていうか、まぁ、そんな感じで…」

「…はぁ…なんか、もうよくわかんないよ」
心底つかれたといったようすで、友理奈は、また土管にたおれこみました。

「じゃ、嗣永憲法は可決とゆーことで」

友理奈はもはや、あたま数に入っていませんし、千奈美は、よーは英語
つかわなきゃいいんでしょ?といっています。

茉麻に関しても、不承不承ではありますが、目をかがやかせているりさ子
をみると、むげにもできないようです。

そして、この日は、顔見せということで、家庭教師のアルバイトは、また
明日からということになりました。

おもいがけず自転車が手に入るかもしれないりさ子は、手足をばたばた
させて、はしゃいでいますが、また茉麻に叱られます。

「あんたは、勉強をちゃんとするのよ」
「はいだゆん…」
ぴしゃり!とやられて、また、しょんぼりとします。

「わかれば、いいのよ」
そういって、茉麻はりさ子のあたまをなでなでします。
62 :foreseasonz :2007/05/29(火) 01:30
ひとしきり笑いあう二人ですが、満をじしたように、りさ子がいいました。

「ところでね…」
「なに?」
「いいかげん、おろしてほしいだゆん」

そうです、りさ子は、おしりペンペンされたときからずっと、茉麻にかつがれて
いたのです。

「もう、キズは痛くないの?」
「はじめから、大丈夫だっていってるゆん」
茉麻がかがむと、りさ子の足は、1時間ぶりに地面とあいさつしました。

りさ子のケガが痛まないように配慮していた、まーさママの愛は、とっても
偉大なのでした。

63 :foreseasonz :2007/05/29(火) 01:30


(空き地の大統領/了)

64 :さるぶん :2007/05/29(火) 01:31
とりあえず改行してみました
感想プリーズ
65 :ななしいくさん :2007/05/29(火) 02:09
読みやすくなりました、
面白そうなので改行前も頑張って読んでみます。
66 :ななしいくさん :2007/05/29(火) 04:42

ホント読みやすいです。面白い!。がんばってね。
67 :さるぶん :2007/05/29(火) 12:33
ありがとう
はじめて内容についてのレスをもらいましたw

読みづらかったことの証拠ですね
すべて改行して投稿しなおしたほうがいいんでしょうか?<ALL
68 :65 :2007/05/29(火) 17:49
可能なら全修正も良いと思います、何せ最初は一目でスルーしましたから。
最初から読みましたよ、
正直ベリは顔もキャラも殆ど知らないのですがそれでも面白く読めました。
楽しそうな話で先が楽しみです。
69 :さるぶん :2007/05/29(火) 22:53
では、修正版を投稿します。
投稿済みのものを順番に、プラス新作がひとつです。
70 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:02





女の子が、歩いています。

とても背がたかく、ながい髪をゆらせて歩くすがたは大人びていますが、
まだ13才です。

手には、一枚の紙がにぎられていて、汗でクシャクシャになっています。

そこに描かれた地図と、あたりとを、しきりに見くらべるようすは、どこか
不安げで、もともと、あまり広くない肩幅が、なくなりそうなまでに小さく
なっています。

ですが、それはけっして道がせまいためではありませんでした。

このあぜ道は、車がたっぷり2台はすれちがえるだけの幅はありますし、
ここを行くひとは、ほかにいないのですから。

もうだいぶ歩きましたが、この一本道のずっと、ずーっと向こうで会った
農家のおじさんによると、めざすコンビニへは、すでに着いていてもおか
しくないはずでした。

だって、「あー、あすこのクンビヌならば、こごの道さ、まっすぐいったとご
にあるヨ」、といわれたのですから。
71 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:03
そのようすからいって、だれがおじさんを地元のひとでないと疑うでしょう。

風呂あがりのお父さんがビールを飲みながら、奥歯にはさまったスルメを、
舌のさきっぽで器用にそうじしているときのようなしゃべり方や、ブルーの
サロペットパンツ

――ほんとうは、おじさんがワークマンで購入したときの名前は「農業
用作業着(青)」にすぎませんでしたが、友理奈にとって、洋服の名前
はファッション誌にのっていなければ存在しないもおなじなのです――

についた土汚れも、いま自分が着ているアースカラーのコーディネート
とはちがい”本物のアースカラー”でしたから、おじさんがこのあたりの
道にくわしいのは明白です。

それに、そのおじさんが”ちょっと”といった以上、すでに40分も歩きとおし
でいるだなんて、なにか重大なミスがあったにちがいありません。

友理奈はおじさんのことばに従っただけですから、よってそのミスは、
自分以外の誰かがしでかしたのに、ちがいないのです。

そう考えると、なんだが腹が立ってきましたが、本当にそう思っている
わけでもありません。

とはいえ、いけどもいけども景色が変わらないという事実は、やはり
否めないのですが。

「もうっ、どうしてなにもないのーっ!」

それに答えてくれそうなひとは、残念ながらいません。
72 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:03
可能性があったとしても、サロペットのおじさんぐらいのものですから、
その”どうして”に答えてもらうためには、また40分は歩かなくてならない
でしょう。

友理奈は、ちょっと空しくなりました。

そこで、
「いや、『どうして?』っていっても、本当に答えがしりたかったわけじゃ
なくって…」
と、ひとりごちてみます。

友理奈は、なんでも正しくいわないと気がすまない性格でしたから、
だれかに指摘されるまえに、自分のいったことのまちがいを訂正したか
ったのです。

もちろん、これを聞いているひともありませんから、友理奈は、もっと空しく
なってしまいました。

ポケットに手を当てて、すぐに思い直します。
15分ほどまえにも試したのですが、やっぱり圏外でしたから。

かわりに、ポケットの生地へ汗ばんだ手のひらをこすりつけますが、その
とたんに今度はおでこから汗がすべり落ちて、口の中へと入ります。

舌がじん、となって、友理奈はへこたれそうになりました。
土のにおいが混じって、おじさんのサロペットパンツを食べたような気分
になったからです。
73 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:03
せっかくの夏休みだというのに、こんな田舎へと連れてこられて、あげく
のはてが、”太陽さんと道草さん”との楽しいおしゃべりタイムです。

こんなことならばと、すっかり後悔していました。

すこしはなれた街へ買い物にいきたいといい出したママが、ふんぞりかえ
って運転させるパパの車に、素直に乗っていけよかったのです。

いまこんな道を歩いているのは、最近、すっかりナマイキになった弟と
口ゲンカしたのがきっかけで、友理奈は、あんなやつ顔もみたくないと思い、
友達と遊ぶほうを選びました。

この地図に書かれた場所で、おちあう約束をしていたのです。

しかし、その原因すらすっかり覚えていないことからもわかるとおり、意地
なんて張るだけ損だったのです。

たしかに、あんなに憎たらしいやつと車でとなりになるのはうんざりすること
ですし、それが二人もいるのですから、がまんは並大抵のものではありま
せんが、せめて目的地まで送ってもらうぐらいの妥協はすべきだったでしょう。

いまごろクーラーに当たり、ショッピングセンターのソフトクリームでもなめて
いる瓜二つの顔を思うと、うらやましいやら悔しいやら、いろんな気持ちが
こみ上げてきます。

気づけば影が短くなっていて、汗だくになっていました。
74 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:05
さきほどまでは、こんな田舎道にあるはずのない電柱が、どうしてここ
に、と思うほど長かったのですが、いまや暑すぎて、自分のからだが
溶けてしまったのかと思うほどにまで縮んでいます。

色もすっかり濃くなって、それはおひさまが高くなった証拠なのでした。

そして建物らしきものが、ちらほらとみえてきたのは、そのシャツがそれ
よりずっと重たくなってからのことでした。

友理奈は、いっぺんにテンションが高くなって、かけだします。

大きな山を背にしているので、ところどころ日陰でよくみえませんが、
たしかにひとの気配はするのです。

かけ足をしつつ地図と比べてみますが、《山のそば》や《T字路の交差
してるところ》というふうに、目的地の条件をみたしていることがわかり
ます。

うれしさがとたんにあふれてきて、友理奈は夢中で足をうごかしました
が、それでも、まだだいぶ距離がありました。

でも、あせる気持ちとは裏腹に、直せばもっとはやくなるよ、と体育の
先生からいわれた、両手をぶらんぶらんさせる斬新なランニングフォーム
について、本気で検討してみようかと考える余裕まで、いまとなっては
生まれていました。

やったー、コンビニでアイス!ジュースにソフトクリーム!…あ、いや、
アイスとソフトクリームは、おんなじみたいなものか…。

そんなことを思いながら、地図を確認することもおこたりません。
75 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:05
だっていまの友理奈は、サロペットのおじさんをうらみつつ、道草に
話かけていた、あのみじめったらしい友理奈とは、まるで別人なのです
から。

「すいませーん!!」

汗が目に入るのもわすれて、いきおいよく店にとびこみました。
都会でなら、まず、声に出すことはしませんが、このさいはべつです。

友理奈は、まっさきに、アイスクリームの売り場をさがします。

そしてできることなら、お行儀は悪いけれど、ソフトクリームの出てくる
口のところに直接、顔をもっていって食べてしまいたい、そうしたら、
そこはまるでソフトクリームランドじゃないかと思いました。

はたして、アイスの冷蔵庫はみつかりました。
しかし、ソフトクリームの機械はみつかりません。

そこで友理奈は、いけない、と思いました。

どのコンビニにもソフトクリームがおいてあるとは限らないことを、ようやく
思い出したのです。

しかし、そこはコンビニです、車一台走っていない田舎町でも、その安心感
はきっと裏切らないはずでした。

しかし、コンビニにはかならずあるものが、ここにはありません。

ひとつは、ドアです。
入り口をさえぎるものはなにもなく、なかに入ったことさえ、いっしゅん、
気づかないほどでした。
76 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:06
そして二つめは、クーラーがきいていないことでした。
だからこそ店内に入った実感がなかったのです。

冷静になってみると、店のすみっこにはレジスターにうつぶせている、
おばあさんらしき人がいます。

友理奈は、だんだん不安になってきました。
店内をみわたすと、日の光以外に、照明らしい照明がありません。
あわてて外へ出てみます。

いま歩いてきた道が、すぐ目の前にあらわれましたが、それはともかくと
して、裏手にまわってみました。

そこには、なにもありませんでした。

いえ、ものごとは正確にいわなければいけません。
そこにはあったのです、山が。
世界のすべてをおおいつくすように立ちふさがった、大きな山が。

コンビニのまわりがすべて山という町を、友理奈は歩いたことがありま
せんから、あちこちを見てまわりましたが、ほかに建物らしき建物は
見当たりませんでした。

進めば進むほど、山の奥ふかくに入っていきそうでしたし、T字路を
もどれば家がちらほらとみえていますが、なんだか「日本昔ばなし」に
出てきそうな家ばかりなのです。

正面へもどると、地図に書かれた名前と、看板の名前をあわせて
みます。みごとに一致しました。
77 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:06
そもそも、悪い予感はしていたのです。
コンビニの名前に「ひらがな+屋」なんて聞いたことありませんでした
から。

サロペットのおじさんと会話したとき、たまたまケータイがつながる場所
にいたので、パパに訊いてみました。

すると、個人経営のフランチャイズだってあるからね、きっとそういうところ
なんだろうといっていたので、意味も分からないまま、すっかり信じていた
のです。

もういちど店内にもどり、友理奈はおばあさんを起こしてみることにしま
した。

きもちよさそうに眠っているところ、本当にかわいそうだったのですが、
背に腹はかえられません。

「すいません、ここってコンビニですか…」
「うんにゃ、このあたりじゃコンビニみたいに便利な駄菓子屋だと、いわれ
ちょるねぇ」

そういって、おばあさんはまた夢の世界にもどっていきました。
ふらふらと店の外にでていくと、裏手にある山をにらみつけます。
それが、さっきのサロペットのおじさんに見えてしかたありません。

どうやら、とんでもないところにきてしまったようです。
78 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:07


(まちの”ほっ”とステーション/了)

79 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:09
クーラーもないし、ドアもない店内では、汗が引いていく気配も、また
ありませんでした。

はじめは、ここが目的地であることを認めたくなくて、なんども地図を
確認したのですが、現実は甘くありません。

ここは確かに、待ち合わせの場所なのです。
まぶたの裏で、サロペットのおじさんが舌をだしています。

しかたなしに、友理奈は足を止めて、立ち読みをはじめました。

へたに歩きまわって、迷子になってはいけませんから、そうするより
ほかないと思ったのです。

さびついたラックには、いちおう最新の雑誌が並んでいます。
すきまだらけのなかから、友理奈が手にとったのは、ウォーカー系の
雑誌でした。

ほんとうは横のファッション誌がよかったのですが、ひもで縛られていて、
開けないようになっていたのです。

月刊誌なぶんだけ、ちょっと値段が高いせいだろうと思いました。

友理奈は、今月の占いを地元でチェックしてこなかった自分をうらみ
つつ、ページをめくることに集中します。

右から左へと、一枚一枚、慎重な手つきを心がけます。

これといって読みたいページはないのですが、ならば、どうしてそんなに
集中するかというと、ファッション誌のことが頭にあったからです。
80 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:09
お店のひとは、雑誌を立ち読みでめちゃくちゃにされるのが嫌なんじゃ
ないだろうかと、そう思ったのです。

こういう週刊誌はページがうすっぺらいですから、めくるとき、簡単に
曲がってあとがついてしまいます。

ましてや、長いあいだ歩いてきたので、手は汗で湿っています。

めくりやすいぶん、ページをハンカチがわりに使ってるみたいな気が
して、だんだんと罪悪感をおぼえてきました。

肩ごしにふり返ると、おばあさんはレジスターでお昼寝をつづけていま
すが、友理奈は、いつしかページをめくる気がうせてしまいました。

そこで、そのときたまたま開いていた”今週のライブ情報”を読むことに
します。

なんだか今日は、妥協ばかりしている気がますが、うしろ向きにばかり
も考えていられません。

気持ちを切りかえて熱心に読んでいくと、たくさんの写真が目にとび
こんできます。

あまりに華やかなので、どこの外国かと思いますが、よくみると”赤坂
BLITZ”とか”渋谷AX”とかのキャプションがついています。

横には、”帰りに行きたい お勧めのデートスポット”なんてコーナーまで
あります。
81 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:10
それをみて、友理奈は、なんだか自分がいる場所と、その写真の場所
とが、あまりにも遠くはなれているような気がしてしまい、ページを閉じ
ようとしました。

雑誌が、とても重たく感じられたからです。

「あー、ついたー!」

いきなり声がしました。
その大声は、どうやら入り口に立っている女の子のもののようです。

「おばさん、アイスちょうだい!」

いきなり現れたことにもおどろきですが、そのことばが、冷蔵庫に手を
つっこんだ後のものだったことに、友理奈は二度、おどろきました。

銀紙をめくると、まっしろなバニラアイスが顔をだします。

それをみて友理奈は、自分がさっきまでおぼえていたのどの渇きを
思い出しました。

ですが、女の子がアイスをくわえながら、器用に片手で財布を、そして、
そこから小銭をとりだすのをみていたら、また忘れてしまいました。

そのまま自分の手に目をやって、また女の子をみます。

「あ、ちがうんだ…」

思わずそう口にしてしまったのは、自分の目をうたがったからです。

雑誌で華やかなデートスポットをみていたので、この店のなかが実際
よりも暗くみえていたのだと思いましたが、ちがいました。

その女の子が、あまりに黒かっただけなのです。

女の子は、おばあさんが受けとろうとするよりはやく、小銭をカウンター
におくと、その足で友理奈のとなりへやってきました。
82 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:11
「あー、これまだ見てないんだよねー」

いっしゅん、自分にいったのかと思いましたが、友理奈がずっとガン見
しているにも関わらず、女の子は気にもとめません。

それどころか、ファッション誌を手にとると、おもむろに縛ってあったひも
を、はずしはじめたのです。

「えーっ!」

おもわず声にでていました。
そこで、はじめて女の子は友理奈をみました。

「は、ほへ?はいほぉーふ、ほんははほほへはひーひ」

ひもを外すのに、さっきからアイスを口にくわえているので、とても聞き
取りにくいのですが、友理奈には、なんとなく分かりました。

――大丈夫、読んだら戻せばいいし。

それは、いけないと知りつつも、友理奈だって考えていたことだったの
です。

そして女の子は、本をラックのうえにおくと、片手にアイスを持ち、もう
片方の手でページをめくりはじめました。

友理奈は、この子って地元の子なのかなぁ、だって、この日焼けは
はんぱじゃないし、あーでも、アイス食べたいの忘れてた、っていうか、
その雑誌読みたかったのに、もうっ!――
83 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:12
と、いっぺんにたくさんのことが頭をかけめぐったので、かっとなって、
雑誌をにぎりつぶしそうになりました。

「あっ、いけない!」

ページにあとがついていないか、手でアイロンをかけていると、女の子
がいってきました。

「あー、あたし、そのライブちょう行きたいんだよねー」

語尾がだらしなく伸びていますが、べつにギャルというわけではありま
せん。

それに窓のそばに立ってはじめてわかったことですが、色黒も、どうやら
生まれつきのようです。

「ほら、このアーティストさん、DVDとか持ってて、最近よくみてるんだ
よね」

のぞき込んでくるので、見る?という意味をこめて、目くばせします。
すると、あ、じゃあ、こっち読む?と、ファッション誌をわたしてきました。

念願の占いがチェックできるとあって、もう少しよろこびそうなものです
が、友理奈は、女の子から目がはなせませんでした。

だって、です。

「おわー、この遊園地、いきたい!」
84 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:13
女の子は雑誌を受けとるなり、さっき気になるといっていたアーティスト
の情報など目もくれず、つぎつぎとページをめくり出したのです。

しかもページのまん中らへんを、ばりばりと平気でつかんでいます。

女の子は、友理奈のように汗をかいていなかったようですが、読み終わ
るころになると、最初とくらべて、雑誌がすこし厚くなったようでした。

もう、占いもノドの乾きも、どうでもよくなっていました。
この子が、待ち合わせていた子かもしれないと思ったからです。
知り合いもくるのですが、紹介したい子がいるからといわれていたの
です。

「あのぉ…」

友理奈は思いきって、切りだしました。
名前さえ聞いていなかったので、なんとなく、もじもじしてしまいます。

「もも…じゃなくって、嗣永さんの知り合いのひとですか?」
「…え、そうだよ」
女の子は、なんとなく嫌そうな顔をしました。

「なんで桃のこと知ってんの?」
ページをめくる手がぴたりと止まると、無言のままアイスを食べきって、
それからいいました。

「桃に頼まれごとしたんだよね、っていうか、だれ?」
「…あ、わたし、熊井友理奈ともうします」
なぜか敬語になってしまいますが、頭まではさげません。
85 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:13
「桃子ちゃんと、ここで待ち合わせしてるんです」
「そうなんだ、じゃあ熊井ちゃんだね」
いきなりのあだ名でしたが、さきほどからの彼女を見ていれば、べつ
だん、おどろくことではありませんでした。

「あたしのことは、千奈美でいいよ」
「あ、はい」
友理奈は、じゃあ、ちーちゃんだね、などといおうか迷いましたが、ノド
のおくをむずむずさせているうちに、もうひとつの影が、出入り口にみえ
ました。

「おくれてごめーん!」

そういってひらひらさせる手には、思いっきり小指が立っていました。
86 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:14


(千奈美、あらわる/了)

87 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:16
友理奈は、とても背の高い女の子でしたが、桃子は、それを抜きにした
としても、とびきり小さな女の子でした。

歩き方もかわっていて、お尻をきゅっと上げて、まるでペンギンのような
のです。

そのようすで、ひょこ、ひょこと、千奈美のもとへむかいます。

「あ、このヒモ、とっちゃったの?」

ひとさし指は雑誌へと向いているのですが、ぴんと立った小指はという
と、てんでまちがった方向をさしています。

それをみて友理奈は、すこしだけ目が泳ぎます。

「壊れちゃったんだよ、古かったから」

首のうしろをかいている千奈美をみて、つぎに、あらためてヒモをみる
と、友理奈は、それにも一理あると思いました。

たしかに、古っちいのです。

それも、はじめからそんな色だったなんて、どれだけじょうずに説明され
たって信用できないほど、おかしな黄ばみかたをしているのです。

徳さんてば、買うお金ないもんね」
「う、うるさいなぁ…」
桃子は、小指の立った両手を、胸のまえでるんるんとゆすっています。
88 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:17
さっきまでの元気はどうしたのと友理奈は思いましたが、ひもをとって
しまったことを、桃子がたしなめてくれたのだと思い、やりすごすことに
します。

友理奈とは、今朝ケータイではなしていたので、再会をよろこびあう話
もそこそこに、そのまま、立ち読みが再開されました。

ですが、どこか落ちつかないようすの千奈美は、ページをめくる手が
おそくなっています。

「これってさー、こないだ徳さんがいきたいっていってたライブでしょ?」

ふたりのあいだにはさまって、きょろきょろしていた桃子がいいました。

友理奈からすると、日陰になってよくみえないのですが、さっき千奈美が
いっていたアーティストだろうと思いました。

そこは、とっくにすぎていたはずですから、どうやら千奈美はページを
逆さまにめくっていたようです。

「もーのおかげで見にいけるんだから、おみやげたのむよ」

うふふ、このこのぅ、みたいな感じで肩をぶつける桃子に、リアクション
に困ったようすの千奈美。

このふたりがいったいどういう関係なのか、はかりかねている部分が
友理奈にはありましたので、なんとなく、みょうな”間”を感じてしまいま
す。

そこで、話題をふってみることにします。
89 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:17
「ねぇ、みて、あたしの星占い、恋愛運が最高だって!」
どれどれと桃子がのぞき込みます。

あっちをみて、こっちをみてと、まったく忙しいなぁとおもう友理奈です
が、千奈美のほうをみると、ページをめくるスピードが元にもどったので、
ま、いっかと思います。

「でもさ、それって意味なくない?」
千奈美がいいます。
「え、なんで、なんで」
友理奈は、頬をふくらませます。
だって、ここへきて、はじめてラッキーと思えるような出来事だったの
ですから。

「それって今月号でしょ」
「そうだよ」
「発売って3週間ぐらいまえでしょ」
「…そうだけど?」
友理奈は、本当にいっている意味がわかりません。

「徳さんがいいたいのはさ」
桃子です。
「もうすぐ星占いの効果なくなっちゃうんじゃない?ってことだよ、たぶん」
「…あ、そっか」
それで友理奈は、しゅんとしてしまいます。

「それにさ、ほら、ここじゃ男の子なんて、カッコイイ子いなさそうだし…」
90 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:18
友理奈がしゅんとしたのも、まさにそれが理由ともいえます。
だって、こんな田舎町に、あと二週間もいなくてはならないのですから。

「そういえば、ももちって何の用事できたの?」
ここに自分が呼ばれた理由もふくめて、友理奈はまだなにも聞かされて
いないのでした。

「カテキョだよ」

桃子にしかできない、舌っ足らずないいかたでした。

そのつづきによると、親戚の子の勉強を、夏休みのあいだじゅう、みて
あげればいいのだそうです。

「へー、そうなんだ、それでバイト代って、どれくらい?」
「あー、うん、…それ、あとでね」
なんだか歯切れのわるい感じでした。

「あたし、ちょー欲しいポロシャツがあるの」
友理奈は身ぶり手ぶりでアピります。
「茶色のやつなんだけどね、白とピンクの刺繍がしてあって、それで
襟がちっちゃくて、もーすごくカワ…」

そこまでいって、またもや千奈美の手が止まっていることに気づきます。

「そうなんだ、ふーん、まー、似合うと思うよ、だって、くまいちょー茶色
すきだもんね」

桃子は、友理奈のまえのファッション誌を勝手にめくりながら、千奈美
のほうをみています。
91 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:19
「ね、徳さんもそう思うでしょ?」
「うん、おもう、おもうよ、熊井ちゃん」

千奈美も、桃子がめくるファッション誌をみながら、自分の手はウォーカー
誌をめくっています。

とても奇妙な光景でしたが、それで、なんとなくはぐらかされてしまい、
友理奈はなにもいえなくなりました。

相変わらずきょろきょろとやりながら、二冊の雑誌をみている桃子。

友理奈と千奈美は、桃子が口出ししてきたらページをとめて、なにごとか
会話の糸口をさがしました。

そんなことをしていると、それはそれで楽しくなって、キャッキャ!とさわぎ
はじめてしまいます。

「そもそも、どうしておいてあるんだろうね」
桃子は、ファッション誌についていっているのです。
「いくら田舎でも、オシャレに興味のあるひとぐらい、いるでしょ」
これは千奈美です。

「え、だって、こんな場所なのに?」
友理奈は、目の前にひろがる景色をみながらいいました。
そよ風が、ここちよく吹いてきます。

いつだったか”窓際”といいましたが、そこにガラス窓がはめこんである
なんて、だれもいっていませんよね?
92 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:19
「だれが、どこから?」
友理奈の追求は止みません。

「うしろの山をずっといったとこに、町があるんだよ」
「それにしたって、遠くない?だれも、ここまで買いにこないよ、こんな
場所に」

友理奈は、いかにこの店がへんぴな場所にあるかを、切々と訴えまし
た。

このころには、すっかり忘れていたはずのサロペットのおじさんが頭の
中によみがえっていたので、熱が入ってしまうのです。

こんな場所に、こんな田舎に――そういう意味のことを、もうなんべん
いったかわかりませんでした。

すると、いきなりでした。
「こんな場所で、わるかっただよ」
さびた自転車のような声がしました。
ふりかえると、レジにいたおばあさんが、のそっと立っていました。

『うわぁー!!!』
三人でいっせいに飛びのきます。

「どれだけ田舎でもな、雑誌の値打ちは、変わらねーだよ」
だれをみるともなく向けられていたおばあさんの目が、ぬっと落ちました。

それを追いかけると、三人は、自分たちが雑誌を踏みつけていることに
気づきます。
おどろいた拍子に落としたのでした。
93 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:20
おばあさんは、そのまま雑誌をひろいあげると、なにもいわずにレジに
向かいます。

「…え、なに?」
「買いとれ…ってことじゃない?」
はじめのは千奈美で、応えたのは友理奈でした。

さっきから三人で好き放題にめくっていたので、極めつけにふんづけられ
た雑誌は、いまやめちゃくちゃになっていました。

「徳さん、ほら…」
桃子がはやしたてます。
このこのぅ、のときとは、ずいぶん迫力がちがうようです。

友理奈は、さっきアイスを買った千奈美を思いだし、右ポケットに入って
いるはずの、彼女の財布に注意を向けています。

床に落ちたヒモは、たしかに黄ばんでいるのですが、思えば、千奈美が
むりやりに取ってしまったのだということを、友理奈は、いまこそはっきり
意識していたからです。

その千奈美が、あたしヤダよ、と小声でいいだしたので、だれがいくかで、
モメはじめます。

「だれでもええから、はよしんしゃい!」
自転車が、がたん!といいました。
「徳さんが…」
桃子に背中をおされた千奈美が、一歩まえに進み出ます。
94 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:20
おばあさんにみられた千奈美は、いっしゅんたじろぎますが、さっき
アイスを買ったので最後だったといって、お手上げのポーズです。

次におばあさんがみたのは、千奈美のとなりにいる桃子ですが、
「あたしは、ヒモが外れたとき、いませんでしたよ」

さらっと、いってのけます。
もちろん、それは、まっとうな主張でしょう。
つまり、おばあさんは自然のなりゆきから、友理奈へとたどりついたの
です。

「あんた、物欲しげにみとったじゃろう」
ファッション誌を手でたたくおばあさん。
それはとんだ濡れ衣だとおもう友理奈ですが、ことばになりません。

だって、おばあさんは、さっきまで寝ていたのに、いつのまにうしろに
立って
いたのだろうと、ほんとうに、おどろいていたからです。

「…あ、あた、あたし…」
気づけば、ふたりは友理奈の背中に隠れています。
こんなときなのです、友理奈が自分の背の高さを呪うのは。

「…くまいちょー、ファイト」
「…かっこいいよ、熊井ちゃん」

雑誌をめちゃくちゃにしたのは、ほとんど自分たちの責任なのに、
ふたりは、友理奈の背中から好き勝手いっています。
95 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:20
「770円だーよ」

友理奈は、いわれたぶんだけ、財布を軽くするしかないのでした。
96 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:21


(桃子、あらわる/了)

97 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:22
コンビニを出ると、日差しがまともに落ちてきました。

友理奈は、小脇に二冊の雑誌をかかえたまま、うなだれて、自分の影
ばかりみています。

うしろから、千奈美がやってきます。
戸口をくぐったところで、いきなり大声をあげました。

「あー、なんか、ドンッ!てくる」

うしろをふりかえって、友理奈は首をかしげました。
「どん…って?」
「なんか、太陽がドンッ!って感じじゃん?」

こんどは身ぶりをまじえていますが、友理奈は、自分の影をふんづけて
いる千奈美の靴ばかりみていました。

千奈美のする動きは、3人の真上にある太陽から、あたまのうえにめが
けて、なにかが落ちてくるようなジェスチャーでした。

「千奈美ちゃんってさ…」
「呼び捨てでいいよ、あるいは”ちー”とか」
友理奈は、そこでやっと顔を上げました。
「うん…、ちーってさ…」
はじめてあだ名で呼んだので、友理奈はすこし口のまわりがフガフガ
します。
98 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:23
「なんか、ヘンな擬音つかうよね」
「そうかな」
「そうだよ」
そういって、友理奈は、雑誌をにぎりしめました。

この二冊のお会計をするとき、横にいた千奈美のことを思いだしていた
からです。

雑誌がくしゃくしゃになったのは、いったい誰の責任だったのか、それ
が曖昧にされたままお金を払わされることに納得のいっていなかった
友理奈は、レジスターをうつおばあさんの前に立たされながら、くさくさ
していました。

なんだか、学校の先生にお説教されているような気分になっていたの
です。

すると、千奈美はよこにきて、こうささやいてきたのです。

「…がたぴし」

友理奈はさいしょ、この子はなにをしているんだろうと頭にきました。

友理奈は、もうぜったいにリアクションなんてしてやるもんか、この
千奈美という子も、弟たちと同じで、わたしにむちゃくちゃなことを要求
する悪い子なんだ、

だってうちの弟なんて、あめ玉の最後のひとつを誰が食べるのか、
じゃんけんで決めようっていったのに、いざ負けると、泣いてダダを
こねたりして、けっきょくママに怒られるのは、いつだってわたしなん
だから…
99 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:23
と、不満がぐるぐるとうずをまいていたので、無視をきめこんでいたの
です。

ですが、それでも千奈美は、…がたぴし…がたぴし…と、くりかえすの
です。

あんまりしつこいので、なんだろうと思っていると、千奈美がささやくの
とおなじ音が、どこからか聞こえてくるのです。

しばらく聞いていると、正体がわかりました。
それは、おばあさんの打つレジスターのたてる音でした。
あんまりおんぼろなので、ひとつボタンを押すたびに、がたぴし、
がたぴし、といっているのです。

しかも、おばあさんは目がわるいのか、腰がわるいのか、あるいは、
その両方なのか、まるで、なめるようにしてレジスターに顔をちかづけ
ています。

そして、何度も何度も打ちまちがえては、また一から、がたぴし、がた
ぴし、とやるのです。

それを何度かくりかえすと、おばあさんは頭にきて、レジスターを
ひっぱたきます。

その音も千奈美は、がしゃん!とか、しゃばん!とか、モノマネをする
のです。

おばあさんの格好や、レジスターが自分のサイズには似つかわしく
ない大きな音をたてること、あるいは、おばあさんが、ほかの動きから
は予想のできないすばやさでレジスターをひっぱたく様子に、友理奈
はおかしくてたまらなくなってきました。
100 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:24
…がたぴし…まつがえた…バンッ!…がたぴし…あんれぇ、また、
まつがえた…バンッ!…がたぴし…あんれぇ…

千奈美の実況を聞いているうちに、つい、声をたてて笑ってしまいます。

すると、おばあさんは、ぬるりと目をまわしてこちらをみたので、笑いが
ノドのおくにひっかかって、友理奈は、ひーひー苦しみながら、お会計を
すませたのでした。

「うーん、たしかに暑いかも」
そういって友理奈は、空を見あげると目を細めますが、そこでハッとしま
した。

小脇にかかえた雑誌をもちあげて、影をつくります。

「サン・バイ・ザー!」

そういって、千奈美のほうをみますが、無言でした。

「いや、こうすると、涼しいかな…って」
なにかいおうとする千奈美をまたずに、おくれてやってきた桃子がいい
ました。

「じゃあさ、もーがいちばん小っちゃいんだから、いっぱい落ちてくるぶん
だけ暑くない?」

桃子はちいさな身体をいっぱいにのばして、天をあおいでいます。
そうすれば、すこしでも落差がちいさくなるぶん、暑さがやわらぐとでも
いいたげでした。
101 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:25
その様子はむしろ、太陽を歓迎しているようにもみえましたが、目はしば
しばさせています。

それを気の毒におもった友理奈は、もう一冊の雑誌をもちあげて、桃子
に渡そうとしますが、タイミングわるく千奈美がさえぎります。

「とにかく、ドンッ!って、くるよね」
「え、でもさ…」
雑誌をちゅうぶらりんにしたまま、バツのわるい友理奈は、控えめにいい
ます。

「あたしがいちばん背高いじゃん、だから太陽に近いぶん、いちばん暑い
気がする」

すると千奈美が、
「うーん、それわかんないかな」
と、さりげなく否定しました。

「えー、なんで、なんで!」
「くまいちょー、それはちがうよ」
桃子はさっきといってることがちがうのですが、それきり話題は終了して
しまいます。

友理奈は、なんだかおもしろくないなと思いますが、雑誌をひっこめて、
「…サン・バイ・ザー」と、つぶやきました。

「まー遅いね」
千奈美がいいました。
「…え、”まー”って?」
友理奈は、またうなだれてしましたが、知らない名前に顔をあげます。
102 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:25
「カテキョたのまれた子だよ」
フルネームは、須藤茉麻です。
「まーさんの親戚の子が、2週間お留守番することになったんだって、
だからお泊りして面倒みるんだって、うちらは、その手伝い」

「…え、カテキョって、ももちの親戚の子じゃないの?」
「そうだけど、まー似たようなものじゃん、テキトーだよ、テキトー、うふ
ふっ」

また、このこのぅ、の感じです。
桃子に腰のあたりを小突かれながら、この二人にくわえて、またヘンな
子が増えるのかもしれないと思い、友理奈はちょっと憂鬱になりました。

「はやくきてくんないと、うちら溶けてなくなっちゃうよ」

そういって千奈美は、どろどろ、とか、ぐちゃんぐちゃん、とかいっていま
す。

いえ、それだけならまだしも、桃子がそこへのっかってきたものですから、
身体が溶けても、骨がのこってるんだから、ばしゃんばしゃん!だよ、
とか、ちがう、ぶちょんぶちょん!だよ、とかいいだす始末です。

それをみた友理奈は、やっぱヘンだよ…とつぶやいて、サンバイザーに
した雑誌を、ふたつ重ねるのでした。
103 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:25


(サン・バイ・ザー!/了)

104 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:26
どれだけ待っても、茉麻はやってきません。

「このままだと、お肌に悪いわ」
小指をたてて、桃子がいいます。

友理奈はもういちどだけと思い、雑誌をわたしますが、聞き入れません。
もう、なかに入ろうの一点ばりなのです。
そこで、みんなして駄菓子屋へもどることにします。

恐る恐るなかをのぞきますが、桃子はちゃっかりとしんがりにいて、
先頭はもちろん友理奈でした。

背中をおされ、ながい首をのばしてみると、おばあさんは、なにごとも
なかったかのようにレジスターでうとうとしていました。

おもわず、ため息がでます。
いちばんになって、どかどかと入っていく千奈美は、おもむろにケータイ
を取り出しました。

「このへん、つながる?」
友理奈は、つらく、きびしかった田舎道を思い出しながらいいました。
どうせ圏外だろうと思ったのです。

「大丈夫、この先に中継局があるから、たまにつながるんだよ」
答えたのは、桃子でした。

ボタンを押すと、ツーツーいうのが聞こえてきます。
105 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:26
「このあたりって、静かなんだね」
友理奈はつぶやきながら、桃子といっしょに、千奈美の様子をうかが
っています。

「ふふっ…もう、そんな見ないでよ」

手をひらひらさせて、千奈美はおどけてみせますが、ケータイは、おなじ
音をくりかえすばかりで、いっこうに働いてくれません。

それでも、しばらくのあいだコールを聞いてると、どこからか騒がしい音
が聞こえてきます。

「これって…」

友理奈は、電子音に目をかがやかせました。
ようやく、この店から開放されると思ったのです。

くりかえしますが、あたりにはセミの泣き声しか聞こえません。

そのため、だんだんと近づいてくる音はまだ遠いのですが、その代わり
に、ヘンな音がまじっている様子も、よく聴きとれました。

すると、いきなりです/がたぴしのレジスターでうたた寝をしていた
おばあさんが身をおこしました。

顔には、7とか4とかいう値段を打ちこむボタンのあとがついています。

首をひねって、なにかうめきました。
それを友理奈は不思議そうにみていますが、ひねるといっても、納得
いかないときにするような、あの動きではありません。
106 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:27
うしろをふり返って、どこか空中の一点をみつめているのです。
しばらくすると、どうやら音は、店のぐるりを周るように移動していること
がわかりました。

それに合わせて全員のふたつ目が、おんぼろの壁をなめるように移動
していきます。

「店のまわりを、道がはしってるんだよ」

友理奈は、ここに着いたばかりのとき、あたりを歩いたことを思い出して
いました。

どうやら音は、その道を移動しているらしいのです。

ぐるりを半分ほど回ったところでしょうか、ふと、がしゃん!という音が
して、つづいて、ひゃあ!という声が聞こえました。

「おあっ!切っちゃった」
おどろいた千奈美がヘンなところを押してしまったらしく、音がとぎれま
した。

やはり、それは着信音だったようです。
それが消えるとこんどは、あばばばばばばばば!という音が聞こえて
きました。

「なんの音?」
「ちがうよ、ひとの声だよ!」
ふたりを静止して、桃子はまくしたてます。
「ヤンキーだよ、田舎の子って自転車からヘンな音だすし!」
とても興奮したようすです。
107 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:27
さっきから着信音に混じっていたのは、これだったんだと友理奈が
思っていると、その、あばばば!が大きくなっていきます。

みんなの目線は駄菓子屋の壁をすっかり一周して、玄関にむけられ
ていました。

むこうにある坂道から、自転車がつっこんできます。

「なんか、すごい勢いだよ…」
「ひとが、ひとが乗ってる!」
それをみた友理奈は、小さなパニックを起こしてしまいます。

「これ、あぶっ…あぶないよ!」

そういうと、よくわからないまま、手近にあった「うまい棒」を数本手に
とり、にぎりつぶしてしまいました。

「あ、これ、なにすんだ!」

おばあさんがいいますが、こっちくるよ!と千奈美がさけんだことで、
駄菓子屋は大パニックです。

友理奈は、うまい棒の”めんたい味”と”チーズ味”を交互に持ちかえ
ていますし、千奈美は、天井にぶらさががったアニメのお面をかぶろう
と奮闘しています。
108 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:28
かけずりまわる桃子にいたっては、びんびんに立った小指がおばあ
さんの前かけに引っかかっているので、半径30センチのあいだを
いったりきたりしていることに気づきません。

ですが幸いなことに、自転車の軌道はそれました。
あばばばばばば!を発したまま、店のよこっ面に激突します。

――だゆーん!
なにかが大きく壊れる音がしました。

みんなは、いったいぜんたいなにが起きたのかと思い、あわてて外に
出ようとしますが、駄菓子屋の入り口がせまいので、しばらく、おしくら
まんじゅうしてしまいます。

出たり入ったりをくりかえす桃子の頭を、友理奈がさり気なくわしづかみ
にし、交通整理をしていなかったとしたら、五分でも十分でも、そうして
いたかもしれません。

ことばがそうであるように、出入り口だって、正しく使いたいのが友理奈
なのです。

ようやく抜けでてみると、自販機のよこで女の子がひっくりかえってい
ます。

「あばばばぁ、また怒られちゃう…」

かなり動揺したようすですが、おしりを太陽にむけて、両足のあいだ
から顔をだすというきゅうくつな姿勢をとっていることを考えると、おお
むね上々でしょう。
109 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:28
「これで5台めだゆん…」

みょうちきりんな口調はさておき、あたりをみてみると、自転車のもの
と思われる部品が、散乱しています。

4台も壊したんだ…と友理奈はつぶやきましたが、だれも聞いていま
せん。

あんれまぁ、またやったのかえ、とおばあさんがいったたためです。

「いつも、ごめん…」

女の子が、ほんとうに申し訳なさそうにしています。

よくみると、あたりに転がったパーツは、一台分にしては多すぎるよう
です。

友理奈は、いつもなんだ…ということばといっしょに、なんか、田舎の
ひとってヘン…ということばを飲みこみました。

もちろん、この女の子が地元の子だとは、まだ決まっていないのです
が、この状況自体が、真剣に向きあうことを放棄させるたぐいのもの
でした。

「そんなことはいいから、さっさと起きあがらんかぇ」

おばあさんにうながされ、女の子の地面とお日さまは、ようやくもと
どおりになります。

その日常的なやりとりからして、どうやら4台のうち、ほとんどがここ
で、しかもおなじようにして壊れたのは明白な事実のようです。
110 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:29
もっとも、自動販売機のよこっちょという場所が、なにごともない自転車
をとつぜんバラバラにするミステリースポットだというのなら、はなしは
べつですけどね。
111 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:29


(りさ子、あばばる/了)

112 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:30
とりあえず、女の子を休ませようということになって、なかにつれていく
ことにしました。

「ほんとうに、ごめんだゆん…」

店のおくには座敷があって、上がりかまちに座らされた女の子は、
しきりにあやまっています。

お茶を入れながら、おばあさんはなにかいっていますが、おそらく気に
するなということでしょう。

「だいじょうぶ?」

友理奈が、めちゃくちゃに散乱した自転車をみて、あれ片付けないの
かな…と思っていると、いつのまにか、となりへ腰かけていた桃子が
いいました。

「…うん…あ、はい」
女の子は、ケガはなさそうでしたが、どこか不安げです。
「でもさー、ホント、びっくりしたよねー」
おもしろそうにいうのは、千奈美です。

女の子は順番に、千奈美、桃子、友理奈をみると、うつむいてしまいま
す。

「熊井ちゃんがでっかいから、怖がってんじゃない?」
千奈美がいいます。
「…そ、そんなこと」
口では否定しましたが、友理奈は、たしかに自分がみられたとき、
女の子がびっくりしていたのに気づいていました。
113 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:31
「…あ、あの、うちら、ここでまちあわせしてるんだ」

あわてて、いいますが、それでも暗い店のなかでは、入り口からさして
くる光を背にした友理奈は、じっさい以上におおきくみえたので、女の子
は相変わらずおびえていました。

「そうだよ、あたしは嗣永桃子、こっちが徳さんで、この子がくまいちょー」

桃子があだ名で紹介したので、それじゃわかんないよ、と千奈美が
フルネームをおしえます。

つづいて、友理奈もそうします。
「…あたしは」
女の子は、それですこし安心したのか、顔をあげて、自己紹介しました。

「すかーいさこです」
「は?」
全員が、いっせいに聞き返しました。

「スカイ・ザ・コップ?」
いったのは友理奈でした。
「…だからっ、すかーいさこです」

女の子は、少しむっとした様子ですが、それで、はじめて友理奈と目が
合いました。

桃子が、ゆっくりでいいから、もういちどいってごらん、といいますが、
やはり頬をふくらませたまま、”すかーいさこ”というのです。
114 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:31
そこで紙に書かせてみて、ようやく女の子が、”菅谷りさ子”という名前
だと分かりました。

りさ子は、とても滑舌がわるかったのです。

「おあがんなさい」
おばあさんが、淹れたてのお茶を出してくれました。

声をそろえて、いただきまーす!といいますが、友理奈は、悲鳴をあげ
ました。

「熱い!」
友理奈は、冷たいお茶だとおもって口をつけたのです。
なにせ都っ子の友理奈の家では、だれも熱いお茶なんて淹れませんで
したから。

それにしたって、手に持った時点でわかりそうなものですが、ばらばらに
なった自転車のパーツに気をとられていたのです。

友理奈の性格をかんがえれば、不可抗力といえそうです。

「たしかに熱いね、冷たいほうがいいのに」
遠慮のない千奈美ですが、おばあさんは笑っています。
「暑いときにこそ、熱々のを飲むものなんだよ」

そういうものかなと思って、みんなでちびちびとやりますが、りさ子だけ
はちがいました。
115 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:32
「おかわり!」

舌がひりひりしている友理奈をのぞいても、みんなまだ半分しか飲んで
いません。

はいよといって、おばあさんは、二杯目を渡します。

さきほどからのやり取りをみていると、りさ子とおばあさんは知り合いの
ようでしたが、なにか、とても奇妙なことである気がして、みんな顔を
見合わせます。

ですが、いったい何がどう奇妙なのか、てんでことばになりません。
すると、二杯目の底を確認して、りさ子が口をひらきました。

「ママ…じゃなくて、まあさが、様子をみてこいって」

またもや、なにをいいだすのか、あっけにとられていた三人ですが、
桃子にむかってりさ子が、「桃子ちゃんでしょ?高校生の」といったので、
すこし事情が飲み込めました。

「まーさんの親戚の子!」
桃子は、自分でいって、うんうんとうなづいています。

どうやら、りさ子は、茉麻といっしょにいたのですが、約束の時間に
おくれそうだったので、ひとり自転車に乗せられて、さきにこさせられた
ようでした。

「でも、よくももちのこと分かったね」
友理奈は、ふしぎそうにいいました。
「そうだよ、りさ子は、桃のこと知らないはずだよ」
116 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:32
「だって、これ…」
りさ子は、ゆび指します。
「お茶?」
「…じゃなくて」
りさ子が指さしている先をよくみると、湯飲みをもった桃子の手でした。

「いけばわかる、小指ててるのが桃子だからって」
「あー!!」
千奈美と友理奈は、おもわず声がそろいます。
「なによー!」
べつに、けなされているわけではないのですが、複雑そうな桃子です。

「りさ子ちゃんて、観察力があるっていうか、なんかすごいね、いくつ?」
かえってきた答えに、友理奈おどろきました。
「うそ、あたしと、ひとつしかちがわないんだ」

「なんかさ、さいしょ会ったときは、へんな子って思ったけど、いまこうして
みると、すっごい落ち着いてるよね」

またもや、さらっと毒のあることをいう千奈美ですが、おおむねうなづけて
しまうだけに、二人は注意はできません。

「まるで別人みたいだね」
友理奈は、感心したようにいいます。
「大人に変身しちゃったみたいだよ」

みんなが、あんまりいうので、りさ子はもじもじしはじめます。

「ママ…じゃなくって、まあさは、もうすぐくると思います」
そのいいかたも、照れかくしにぶっきらぼうな感じでした。
117 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:33
「ところでさ、その”ママ”ってなあに?」
桃子がいいました。
それは気になっていたことなので、千奈美と友理奈は、身をのりだし
ました。

「えっと、まあさは、ママみたいにやさしくて、でも、ちゃんと怒るとこは
怒ってくれて、それで、えっと…」

茉麻について話だすと、りさ子は表情がこどもっぽくなります。

それをみた友理奈は、たのしそうにいいました。
「あたし、まだ会ったことないけど、きっとやさしい子なんだね、茉麻
ちゃんって」

「うんうん、もーもそう思うよ、友達が塾でいっしょで、たまに会うんだけ
どね、すっごく、おもしろい子なの」

「おかしなことばっかりしてるんだけど、すごい癒されるよね」
千奈美も、茉麻とは知り合いのようです。

目を輝かせ、あるいは小指をそそり立たせて、つぎつぎと褒めことば
を口にする二人をみて、友理奈はいいました。

「あー、はやく会ってみたいなぁ、きっとたのしいとおもう!」

すると、とつぜんケータイが鳴りました。
「まーさんかな」
着信があったのは、桃子のケータイでした。
「たぶん、心配になってかけてきたんだよ」
118 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:33
友理奈がいうと、
「ちゃんと着いたかどうか、心配なんだね」
千奈美までが、めずらしく殊勝なことをいっています。

そこで桃子はケータイを、りさ子にわたしました。
受け取って、通話をはじめると、りさ子の表情がくもりました。
「あば…」
耳に当てたケータイが、ふるえましたが、バイブ機能ではありません。

「あばば…」
「どうしたの?」
ようすがおかしいと思った友理奈が、声をかけます。

「あばばば…」
りさ子の手のふるえがはげしくなると同時に、地響きのような音がしま
した。

そばで居眠りをしていたおばあさんが、がばっと顔をあげます。
「なんまんだぶなんまんだぶ…」
店のぐるりをまわっていく音は、次第におおきくなっていきます。

それを追いかける視線が正面へとむかうと、むこうから何かがやって
きます。

「り〜さ〜こ〜!!」
それは人影のようでした。

「あばばばばばばばばっ!!」
どこかでみた光景に三人がテンパるヒマもなく、その人影はまっすぐ
駄菓子屋のなかに突進してきました。
119 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:33
「あなた、また壊したのねっ!!」
その人影は少女で、りさ子につかみかかると、ぐいっと持ち上げて、
おしりをぺんぺんしはじめました。

「これで何台め!?もう、許さないんだからっ!」
「ママごめんっ!ごめんだゆんっ!」

バズーカ砲のような状態でかかえられたりさ子は、無防備なおしりを
すき放題に打たれていて、ぺしんっ!ぺしんっ!という、痛々しい音が
店じゅうにひびきわたります。

あまりの光景に、まるで自分のおしりまでひりひりした気分になった
友理奈は、目をそむけて、となりの桃子にききました。

「…あの子、だれ?」
おなじ気持ちなのか、おしりをキュッとすぼめた桃子はいいました。
「…あれが、まーさんだよ」

ぺしんぺしんいう音と、おばあさんのお経とを聞きながら、さっきいった
ことを撤回したくなって友理奈はつぶやきました。

「…まるで別人じゃん」。
120 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:33


(茉麻のときめき☆アックスボンバー!/了)

121 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:34
「…そ、それくらいにしてあげようよ!」

あんまりぶたれているので、みるにみかねた千奈美が、止めにはいり
ます。

「とめないで、この子はわるい子なの、だから、だから…」

そこへ友理奈が加わり、ふたりががりになって、ようやく茉麻は止まり
ました。
ほとんど、はがいじめの状態です。

「まーってば、やりすぎ」
二人が止めていたとき、うしろで意味なくドタバタしていた桃子がしゃ
しゃりました。

「…だって、だって」
茉麻は、泣く泣く事情をはなそうとしました。
ですが、ストップがかかりました。

「ちょっとまって!」
友理奈でした。
「さっきは気づかなかったけど、やっぱり、りさ子ちゃんケガしてるよ」
友理奈は、ひざ小僧のあたりを指しています。

「おばあさん、マキロンは?」
りさ子のケガは日常茶飯事なので、よく貸してもらうのだそうです。

茉麻のことばに、おばあさんは、意外とすばやく立ち上がり、おくに
引っこみましたが、渋い顔をしてもどってきました。
122 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:35
「あんれぇ、切れちまっただぁよ」

そこで、だれがいい出すでもなく、いまから買いにいこうという話に
なったのですが、自転車は壊れて使えません。

「りさ子をのぞくとしても、薬局の場所を知っているのはまーさんだけ
だよね」

桃子がはしこそうにいいましたが、茉麻は否定します。

「ごめん、あたし、たまにしか帰ってこないから、このあたりのこと、
よく知らないんだ」

「あたし、知ってるよ!」
りさ子が、手をあげました。
「ケガ人が手あげて、どうすんの」
「だって、ぜんぜん痛くないないんだもん」

たしかに、いますぐにでも歩けそうな傷でしたが、どことなく、みんな気
が引けてしまうのは、この中で、りさ子がいちばん小さいからでした。

そこで、”ママ”というだけのことはあって、みんなの目は自然と、茉麻
にむけられていました。

「ケガが痛まないようにすれば、大丈夫でしょ」

堂々といい張る茉麻に、うしろから、だいじょうぶだぁ、と、おばあさんの
声がかかります。
123 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:35
鶴の一声によって、けっきょく、りさ子を連れて、薬局へむかうことになり
ました。

しかし、それに乗り気でないのは、友理奈です。
「ちょっとまって、町まで歩くってこと?」
「そうだよ?」
9時25分に、9時25分の電車がきたよ、とでもいいたげな顔で、
千奈美がいいました。

「何十分も歩くんだよ!?」
友理奈は、つい忘れがちになっていた、あの午前中のできごとを思い
だしていました。

「くまいちょーなにいってんの」
桃子が、あきれた声でいいます。

「そんな、ももちだって知ってるでしょ、ここまで歩いてくるのが、どんな
に大変か!」

友理奈に地図をわたしたのは、なにを隠そう桃子だったのです。

「…大変って、ねぇ?」
桃子は、みんなに同意をもとめました。
それは、友理奈のいっていることのおかしさをあばくための投票でした
が、賛成多数により、可決されました。

「そんなぁ…」
友理奈は、泣く泣くついていくしかありません。
124 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:35
小さな傷とはいえ、ケガ人がいるため、恨みごとをいうわけにもいかず、
ぶすっとした表情さえつくれずにいた友理奈は、その代わり、めいっぱい
驚くことになります。

そして、すぐに赤面するのです。

「まって、みんなどこいくの?」

友理奈は、とうぜん今朝きた道をもどろうとしたのですが、みんな山の
なかに入っていこうとします。

「薬局だよ?」
茉麻がこたえます。
「どこの?」
友理奈がぶつけます。
「すぐそこの」
「え!?」

「山を越えてすこしいったところに、小さい薬局があるんだよ」
りさ子がこたえます。

友理奈は、頭がこんがらがってきました。
「町って、あっちにあるんじゃ…」
友理奈がゆびさしたほうをみて、みんな笑いました。

「なんで、わざわざとなり町までいくの、こっちなら5分で着くのに」
125 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:36
どうやら今朝の友理奈は、スタート地点をまちがえたために、あの地獄
をあじわったようでした。

「…そんなぁ」

すたすたと歩いていくみんなのうしろを、うなだれた友理奈は、遠慮がち
についていくしかないのでした。
126 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:36


(あかんべぇサロペット/了)


127 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:37
山にはいっていくと、それはいわゆる”けもの道”というやつでしたが、
ふつうに歩けるようになっていました。

地元のひとびとにとって、これは生活をささえる道なのです。

今朝足をふみいれたとき、あたふたしていた友理奈には気づけなかっ
たことですが、この道では太陽がこまぎれに、まるで小鳥のついばみ
のようにして差しこむだけなので、とても涼しく、汗がいっぺんに引いて
いくようでした。

だれともなく、さっき尻ぎれとんぼになっていたはなしへと、興味を
もどします。

「りさ子は、ドジのチャンピオンなの」

茉麻のはなしによると、さきほど、りさ子が壊してしまった自転車は
たしかに5台めで、それのうち4台までが、茉麻のおこづかいによって
まかなわれたものだそうです。

「りさ子は、この裏山で遊ぶのが好きなんだけど、いくら注意しても
やめないの」

ふつうに遊ぶならまだしも、自転車に乗っているとなると、スピードの
だしすぎによるケガが心配になります。

「たとえば、ほら、こういうところ」
茉麻は、いまちょうど歩いている道を示しました。
でこぼこしていて、おまけに両側が小さながけのようになっています。
128 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:37
「ここに、いっかい落っこちたこともあったっけ」
「どうなったの?」
桃子がききました。
「そのときは無事だったんだけど、すごく、あぶないよね」
りさ子は、すこししゅんとしています。

ですから、それは両親によって禁止されていたのですが、それでも、
りさ子は自転車にのりたい、のりたいと、泣きついてきました。

「ちょうど、このあたりだったよね」
思い出したようにわらう茉麻は、りさ子に顔をちかづけました。

そこには小川が、といっても、ほんとうに小さな流れがあって、その
かたわらには、だれかが計算づくでおいたかのように、腰かけるのに
ちょうどいい大きさの石がありました。

「ここに座ってさ、鼻をずるずるやりながら、自転車、自転車ってバカ
みたいにくりかえして」

わざとらしく、りさ子の目をのぞきこみます。

「…な、泣いてなんかないもん」
りさ子は、ぷうっとふくれます。
「…え、べつに泣いたとか、茉麻ちゃんいってないよね」

友理奈がツッコミをいれると、茉麻が舌をだしました。

もうーっ!といって、りさ子はすねてしまいます。
129 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:37
それで茉麻は、こっそりと買いあたえるようになったのです。

「町はずれにね、ちいさなリサイクルショップがあるの」

田舎ということもあって、その店では、あちこちにある放置自転車を
ひろってきては、修理してならべていました。

「スピードをださないって約束をして、内緒だよってゆびきりまでして
買ったの」

最初にそうしたときのうれしそうな顔といったら、忘れられないと、
茉麻は、つぶやきます。

「でも、りさ子ってば、すぐに忘れてちゃってさ」

おなじ相手と、4回もゆびきりしたひとなんて、あたしぐらいじゃない?
と、茉麻はわらいます。

「で、けっきょく壊しちゃうんだね」
桃子が、あとをつぎます。
千奈美も、りさ子をみて、それなら、怒られてもしょうがないね、といい
ます。

「だって!だって!」
りさ子は、手足をじたばたさせますが、ほら、あばれないのと、茉麻に
叱られてしまいます。
130 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:38
そのまま5人が裏山をぬけていきますと、たしかに町がひろがっていま
した。

「…ほんとだ」
友理奈は、心底おどろいたという声をだします。
「ね?もーが、ウソつくわけないじゃん」

ふんぞりかえっていう桃子ですが、じゃあ、これは?と友理奈は、ポケット
から、例の地図をとりだしました。

「あれ、これあたしのとちがうよ」
千奈美が、ポケットをまさぐって、地図をだしました。

それには、友理奈のとはちがった絵が描いてあって、いま抜けてきた
山をとおるルートが示されていました。

「え、地図が2種類あるってこと?」
首をひねっている二人に、茉麻がいいました。

「これってさ、あたしがボツにしてっていったやつだよね」
「えっ、どういうこと?」
「この地図、あたしが描いたんだけどさ、2パターン用意したのよ」

それは駅から直行の、お金がかからない代わりに時間がかかるという
ルートと、その逆で、バスを乗りついで裏山へ入っていく、つまり、いま
歩いてるルートを逆に進むものとの、ふたつです。

「だれかさんみたいに、一円でもお金を使いたくないってひとがいるか
と思って、どっちも用意してみたわけ」
131 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:38
茉麻は、だれを見るともなくしゃべっていますが、ぎくっと肩をふるわ
せたのは桃子でした。

「でもさ、いろいろ考えると、歩きとおしのやつは、時間がかかりすぎる
なってことになったの、それで電話して、捨てて欲しいって頼んだよね」

茉麻は、ぼうぜんと友理奈の顔をみていましたが、そのことばが桃子
にむけられていることは明白でした。

「…え、だ、だってさ、ファックスの使い方がややこしかったんだもん」

二枚の地図は、あきらかに、どちらもコピーされたものでした。

「あたしも、桃からもらったんだけど、熊井ちゃんのところには、まちが
った地図がいってたってこと?その犯人が、桃だったの?」

ふんぞりかえっていた桃子が、目にみえて小さくなっていきます。

「…それで、ちーはぜんぜん汗かいてなかったんだ…」
友理奈は、しぼり出すような声でいいました。

「そーいえば、くまいちょー汗だくだったよね」
「そーいえば、じゃない!」

「…く、くまいちょーってば、目がこわい…」
「もーもーちぃぃぃっ!」

友理奈は、地図をにぎりつぶすと、自分ですら持っていることを忘れて
いた二冊の雑誌をふりかざしました。
132 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:38
「あ、あたしわるくないもんーっ!!」
桃子は、いちもくさんに逃げだしました。
「まてーっ!!」

友理奈は、きょう一日の不満をばくはつさせて、声の限りにさけぶの
でした。
133 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:38


(ももいろサロペット/了)

134 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:39
みるみるうちに消えていった桃子と友理奈をおいかけて、茉麻たちは
歩くしかありませんでした。

なぜかというと、ケガ人のりさ子をつれていたからです。

よって、あまりはやく移動できない三人が、ようやく二人をみつけたの
は、しばらく経ってからでした。

そこは住宅地でして、そうはいっても、車なんかぜんぜん走っていま
せん。

そのなかほどにある空き地に、ふたりはいました。
土管がみっつ重ねてあって、その上に桃子、下に友理奈がいます。

「おそいーっ!」

桃子は、ぷくーっとフグになっていますが、友理奈はよほど暴れたのか、
土管にそっくりかえって、肩で息をしていました。

そのようすから、勝敗はあきらかでした。

「おまえがいうな、って感じだよ」
茉麻がいさめます。

「そもそも、桃がまちがった地図わたすから、こんなことになるんでしょ」

「えー、それはしょーがないじゃん、もうすんだことだよ」
うふふっ、とわらう桃子。
135 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:39
友理奈はなにかいおうとしますが、ぜぇぜぇ、とばかりやって声になり
ません。

「なんかー、狭いところをくぐってたら、いつのまにかくまいちょーがいな
くなってて、もーがずっとここに座ってたのに、なかなかこないじゃない?
そしたら、くまいちょーってば、町内一周しちゃったみたい」

そしてまた、うふふっ、とやります。
友理奈は、くやしそうに雑誌をばんばん叩いています。

「まぁ、熊井ちゃんも気がすんだんじゃない?」
千奈美がいいます。
友理奈は、汗だくになっているので、まるで干したばかりの洗濯物のよう
でした。

「そうそう、次からはさ、ややこしくならないように、ここを待ちあわせ場所
にしない?」

桃子が、両手をいっぱいにひろげます。
「なんか、きもちいいよ、ここ」

茉麻は、それにうなづきます。
「そうだね、ここからなら、りさ子の家にもちかいし…」
と、そこまでいって、べつの声をあげました。

「りさ子のこと!まだ、ちゃんと紹介してなかったよね」
136 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:39
「そういえば、忘れてたね」
千奈美が、にが笑いします。

「自己紹介しな」
茉麻に、うながされますが、りさ子は首をふりました。
「さっきしたよ」
「だめ、勉強おしえてもらうんだから、ちゃんとしなさい」

それを聞いても、みんな、うすうすりさ子が家庭教師の相手なのだろうと
気づいていたので、おどろきません。

その様子をみてから、りさ子は、思いつめたような顔になると、リズムを
とるようにいいました。

「す〜が〜や〜り〜さ〜こ〜です、よ〜ろ〜し〜く〜お〜ね〜が〜い〜
し〜ま〜す」

いきなりのことに、みんな、あっけにとられています。
へばっていた友理奈までが、おきあがってきました。

「なにそれ」
「だって、スカイ・ザ・なんとかって、いうんだもん」

りさ子は、駄菓子屋で、なかなか名前を聞きとってもらえなかったことを、
いっているのです。

「スカイ…?」
首をかしげる茉麻に、くまいちょーが聞きまちがえたのと、桃子がフォロー
を入れます。
137 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:40
「え、だって、ほんとうになんていってるのか、わからなかったんだよ?」
「ちゃんと、いったもん!」
りさ子は、ほんとうに心外だといったような様子です。

「だからって、なにもメロディつけることないよね」
これは、千奈美です

「…スカイ・ザップじゃないもん」
「ちがうよ、スカイ・ザ・コップって、いったんだよ」
友理奈が、いらない訂正をします。

りさ子は、うつむいてしまいました。
この空気を開放したのは、やっぱり桃子でした。

「まーまー、そうカリカリしないで、ここはひとつ、あれでもやっちゃいま
しょうかなー」

桃子は、ひとりごちるようにいうと、なにかたくらむような目で、みんなを
舐めまわしました。

それをみて、ぎょっとしたのは、茉麻と千奈美でした。
その、いっしゅんだけ顔を出す、卑屈そうな猫背に、見おぼえがあった
からです。

桃子は、おもむろに土管のうえに立ちあがると、人さし指で天をさし、
こう宣言しました。

「嗣永憲法第19条、きょうこの瞬間から、英語をつかったひとは罰金
にショする!」
138 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:40
勝ちほこった顔でした。
これに対し、まっさきに訴えをおこしたのも、やはり千奈美と茉麻です。

「えーっ!!」
りさ子と友理奈は、意味がわからず、なにもいえません。

「補足!その金額は、ひとことにつき300円とする!」

こんどは、ぶー!ぶー!と口までならす始末です。
女の子として、それはとてもはしたないのですが、相当な不可抗力が
はたらいて、彼女たちにそうさせているようです。

「…憲法?…罰金?…ももちに払うの?」
「そうだよ、こーなったときの桃は、はら黒い!」
千奈美が、口をとがらせます。
それはまるで、巨人軍の選手に野次る阪神ファンのような横顔でした。

「いーから、聞いて、聞いて!」
桃子によると、これにはちゃんと意味があるそうです。

「りさ子が、こんなにも落ちこんでいるのは、そもそもなにが原因ですか?
はい、くまいちょー」

桃子は、エアマイクをむけます。
「…あ、はい、それは…自転車を壊してしまったからです」
「ごめーとー!」

さすがくまいちょー!と、桃子は土管のうえで飛びはねて、ころげ落ちそう
になります。
139 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:40
「それが、どうしたー!」
野党席から、野次がとびます。
「せーしゅくに!」
桃子は、友理奈がもっていた雑誌を手にとって、ばんばん!と叩きました。

ひろいあげるのに、いったん土管をおりたので間延びしてしまった空気
が、それでぴんと張りつめます。

「つまーり!」
りさ子のほうを指して、
「その罰金で、りさ子に自転車を買ってあげようということなのです!」

そういって、はいっ、もーってば、ちょうてんさーい!と笑います。

「それと、もうひとつ、嗣永憲法第20条、待ち合わせは、この空き地ね」

「あっ、でも、それは賛成かな」
挙手をして、友理奈がいいました。
「ここなら電波もだいじょうぶみたいだしね」
そういって、桃子はケータイとりだします。

「ほんとだ」
千奈美と友理奈も、じぶんので確認します。
「たしかに、あっちだと、通じないことが多いね」
茉麻は、駄菓子屋のほうを指差していいます。

「え、でも、さっき通じたよ」
「たまにはね。基地局と基地局のあいだなんだけど、通じることもある
みたいよ」
140 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:41
「…そういえば、さっき基地局がちかくにあるって、ももちいってなかった?」
と友理奈。
「え、いやー、あれはテキトーっていうか、まぁ、そんな感じで…」

「…はぁ…なんか、もうよくわかんないよ」
心底つかれたといったようすで、友理奈は、また土管にたおれこみました。

「じゃ、嗣永憲法は可決とゆーことで」

友理奈はもはや、あたま数に入っていませんし、千奈美は、よーは英語
つかわなきゃいいんでしょ?といっています。

茉麻に関しても、不承不承ではありますが、目をかがやかせているりさ子
をみると、むげにもできないようです。

そして、この日は、顔見せということで、家庭教師のアルバイトは、また
明日からということになりました。

おもいがけず自転車が手に入るかもしれないりさ子は、手足をばたばた
させて、はしゃいでいますが、また茉麻に叱られます。

「あんたは、勉強をちゃんとするのよ」
「はいだゆん…」
ぴしゃり!とやられて、また、しょんぼりとします。

「わかれば、いいのよ」
そういって、茉麻はりさ子のあたまをなでなでします。
141 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:41
ひとしきり笑いあう二人ですが、満をじしたように、りさ子がいいました。

「ところでね…」
「なに?」
「いいかげん、おろしてほしいだゆん」

そうです、りさ子は、おしりペンペンされたときからずっと、茉麻にかつがれて
いたのです。

「もう、キズは痛くないの?」
「はじめから、大丈夫だっていってるゆん」
茉麻がかがむと、りさ子の足は、1時間ぶりに地面とあいさつしました。

りさ子のケガが痛まないように配慮していた、まーさママの愛は、とっても
偉大なのでした。
142 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:41


(空き地の大統領/了)

143 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:41
そろそろ食べようかと、みやびがいうので、佐紀は、うんと、うなづきま
した。

ひざの上にのせていたお弁当を、せーので、ひらきます。

「部活の方は、どう?」
小さなしょうゆのボトルを手にして、佐紀がいいました。

「うん、それなりって感じかな」

みやびは、おかずをつっついていますが、食べているわけではありません。
配置が気に入らないので、直しているのです。

「でも、試合したいんじゃない?」
「しょうがないよ相手がいないんじゃ」

佐紀が、シュウマイを口に入れたころ、ようやく、みやびはお茶をひとくち
飲みました。
缶は、すっかり汗をかいています。

「でも、紅白戦ばっかじゃ緊張感ないし、しばらくユニフォームも着てない
でしょ」

「たしかに、そうだけど、おなじ無人のゴールをねらうなら、シュート練習
のほうがまし。キャプテンこそ、バスケやめちゃって、さみしいんじゃない?」

「うん、ちょっとね」
佐紀は、箸をとめて、お茶をのみました。
144 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:42
「でも、勉強のほう、頑張らないといけないし」
ごくっと、大きな音がしました。
「それはお互いさまだね」
みやびがいって、ふたりして笑います。

「勉強といえばさ、まーの話したっけ?」
三角食べを順調にこなしながら、みやびが声をはずませました。
「ううん、たぶん知らない」

「じゃあ話すけど、こないだね、塾の帰りに、まーが、いきなりケータイを
だすわけ、じゃーん!とかいって」

みやびは、話し始めると、箸をおきました。

「うんうん」
「そしたら、アンテナがびーんって、すっごい伸びるの」
みぶりを使って、そのときの様子を伝えます。
「のびるって、どのくらい?」
「それがね、もう、すごいの、2メートルぐらい」
「へぇ、そんなに?」

「そうなの、で、それをみた男子が、おなじ塾に通ってる子なんだけどね、
すげーなぁ、須藤のケータイはちょー電波ひろうから、とおくにいても悪口
いえねーなぁ、とかいうわけ」

「え、ひどくない?」
「そう、だから、あたしいってやったの、じゃあ、いっつもまーのこと考えてる
んだねって」
145 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:42
「それ、ちょっとドキっとするね」
佐紀は、箸をくわえたまま、固唾をのんでいます。

「うん、そしたらそいつ、バッ、バカいうなよデコちんって、あたしに悪態つく
んだけど、目はずっとまーのことみてるの」

「…え、それって」
「そうだよね、ぜったい好きなんだよねー!」

それでふたりは、きゃあきゃあはしゃぎましたが、次の駅について、数人
の客が乗ってきたので、だまりました。

声のトーンが、すこし落ちます。

「まーってさ、すっごく落ちついてるっていうか、今日カテキョにいく親戚の
子から、”ママ”っていわれてるんだって」

「まだ14才なのに?どんな子なの、すっごい興味ある」
「そっか、キャプテンって、まだ、まーに会ったことなかったよね、あたしと
いっしょで、おでこ出してるの」

みやびが、三角食べを再開しました。

「そういえば、みやが、おでこ出すようになったの、その子の影響だって
いってたね」

「そうなの、それにまーって、さっきのアンテナみたいな、ちょっとおバカな
こともするんだけど、礼儀正しいから、女の子に人気があるんだよ」
146 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:43
「どういう意味?」
「べつに、ヘンな意味じゃないけど、なんか安心できるっていうの?だから、
その親戚の子の気もちが、よくわかる」
「あー、なるほどね」

それから、ふたりは、食べおえた弁当を、きれいにまとめはじめました。

みやびは、ビニールぶくろの口をしばって、自分の足元におきます。
佐紀は、さいしょ自分の横におこうとしましたが、みやびをみならって、
足元におくことにします。

そして、みやびが窓の外をながめている横顔をみながら、茉麻って
どんな子なんだろうと考えていました。

そうした考えは、いつしか透明になっていき、二人は、窓から吹きこん
でくる風に、目をほそめていました。

いつのまにか、景色が変わっています。
コンクリートの色よりも、茶色やみどりが目につくようになっていました。

佐紀は窓にちかづくと、すこし身をのりだして空気をいっぱいに吸い
こみます。

ですが、それはみやびのため息で中断されました。

「どうしたの?」
佐紀が心配そうにたずねます。
「みて、あれ…」
147 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:43
みやびが注意をうながした先には、女子高生がたむろしていました。
床にすわりこんで、がやがやとしています。

「あたし、ルーズソックスなんて、ひさしぶりに見た」
「たしかに、あんまりみないね、最近」

ふたりは、さっきよりもずっと小声でしたが、きゃあきゃあやっていたとき
の声量でも、女子高生たちには届かなかったでしょう。

みやびは、なにもいいませんでしたが、佐紀は気づいていました。

みやびは、女子高生たちが食べ散らかしたおかしの袋などと、自分の
足元においたゴミ袋とを、交互にみています。

その視線が往復するたびに、表情はどんどんと険しくなっていきました。

「みやって、マナーにきびしいよね」
「きびしいっていうか、あたりまえじゃん」
こちらに視線をもどしながら、いいました。

「歩きタバコとか、もうサイテー、だって400度だよ?」
「あぁ、たしか先っぽの部分って、高温であぶないんだよね」

「そうだよ、ちっちゃい子とかもそうだし、女のひとの肌なんかに当たった
ら、いっしょう台無しだよ」

みやびは、しゃべりながら、身をかたくしています。
佐紀は、その思いつめたような顔をみて、なにか口にしなくてはとおもい、
昔のことを話しました。
148 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:44
「みやってさ、よくバックのなか、いじってたよね」
みやびが顔をあげます。
「えー、そりゃ、あのころはひどかったけどさ、最近は、すこし直ったん
だよ」

「そう?それに、部活のロッカーだって、みんな女子しかいないから
テキトーなのに、ひとりだけキレイだったよね」

「あれだって、ほんとうは、みんなに注意とかしたかったんだよ?でも、
さすがにそこまではねぇ…」

「いっつも、うちにグチってたもんね、となりのロッカーの子が、タオル
とかシャツとか洗わないから、くさくてしょうがないって」

「そうそう、それで、テレビのはなししてるときに、部活おわりの女の子
が消臭剤使ってるCMとかみて、あ、これウソだって思ったんだよね」

ふたりして、ケタケタとわらいます。
ですが、あまり大きな声はでませんでした。

「…ねぇ、キャプテン」
「なに?」
「みやも、女子高生になったら、あんなふうになっちゃうのかな」

みやびの目線は落ちていましたが、佐紀は、すぐ首をふりました。

「そんなことないよ、みやはしっかりしてるし」
「ちがうよ、みやがしっかりしてても、友達のなかにそういう子がいたら
困るじゃん」
149 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:44
「そっか、そうだよね、シカトするわけにもいかないしね」
みやびはため息をつきます。

「あー、おない年の子が、みんなキャプテンとかまーみたいな子ばっか
りだったらいいのになぁ…」

みやびは、それっきりため息をつきませんでした。
150 :foreseasonz :2007/05/29(火) 23:44


(ため息のみやび/了)

151 :さるぶん :2007/05/29(火) 23:53
投稿済みの9話、プラス新作一本の更新おわりました。
いちおうアンカーつけときます。

 ・昨日のまで読んだという方は>>143から
 ・はじめての方は>>70から

ややこしくて、すみません。
あと容量のムダづかいしてしまって、ごめんなさい。

それと相談に乗ってくださった方、ありがとうございました。
つづきも、よろしくお願いします。
152 :foreseasonz :2007/05/31(木) 01:31



「やっぱり、まーって、すごくしっかりしてると思う」

うつむいていたみやびが、顔をあげ、毅然とした態度でいったのは、
改札をぬけたときでした。

「きのうね、集合場所がかわったからって、まーから連絡があったの」

駅をでると、みやびは、こっちだよといって、あるきはじめました。

「タクシーひろわないの?」

佐紀は、黄色い車のならびに、うしろ髪をひかれる思いでした。

目的地がかわったことは、佐紀もきいていましたが、あまり距離は
かわらないということでしたから、移動手段もおなじだと思っていた
のです。

「地図のうえではね」
みやびは、いいます。

直線距離で考えるならば、変わったあとのほうと、大差はありません
から、みやびがタクシーを使おうといったのは、山を迂回していく必要
があるぶん、あるくのが大変だろうといった理由からでした。

「こんどのは、ほんとに直線だから、すぐだよ」
153 :foreseasonz :2007/05/31(木) 01:32
駅前商店街といったようすの通りをすすんでいきますが、ひとよりも、
カラスばかり目にするありさまでした。

「でね、みやは昨日、ずっとケータイにでられなかったの」

ずらりと並ぶシャッターに気をとられていた佐紀は、いっしゅん、
なんの話かと思いましたが、すぐに茉麻のことだったと思いあたり
ます。

「集合場所がかわったのは、きのうのお昼ごろだったらしいんだけど、
そのときは、みや、ケータイにでられないじゃない」
「そうだね」
「かといって、家電にも入れられないわけよ」

みやびは、はっきりといいませんが、佐紀は、みやびの両親が
共働きで、平日はおろか、土日ですら、家にだれもいないことを
知っていました。

ですから、佐紀は、うんと、うなづきます。

「まーもそれを知ってるから、夜にかけてきてくれたわけ」
それは、9時ちょっと前のことでした。

いちばん忙しい夕方でもなくって、食べてるときでもない、それで
いて、食べ終わってくつろいでるときでもない。

そろそろ腹ごなしに散歩や買い物にでもいこうか、なんてことになる、
9時ちょっとまえとは、そんな時間です。
154 :foreseasonz :2007/05/31(木) 01:32
「それに、メールだってすぐに入れてくれたし、家の留守電にも入って
たの。そういうのが、わかる子なんだよ、まーは」

佐紀は、茉麻のことをぜんぜん知りませんでしたし、そんなの考え
たこともありませんでしたから、曖昧にうなづくことしかできません。

9時ちょっと前といわれても、せいぜいが、火サスがはじまっちゃう!
といって、母親が、いそいで皿洗いをする姿ぐらいしか、浮かびま
せんでした。

「みやは、デリカシーがないひとって、大キライ」

さきほどから、みやびが、チラチラうしろをふり返っていることに、
佐紀はきづいていました。

「なにしてるの?」
「自転車」
ぽつりと、いいました。
「自転車?いないじゃん」
「いるよ、ほらあそこ」
みやびが指さしたのは、ふたりのずっとうしろでした。
そこには、たしかに一台の自転車がはしっているのです。

「どうして、そんな気にするの?200メートルぐらいはなれてるじゃん」
どことなくおかしいなと思い、問いつめます。

「なんか、いつものみやとちがうよ?」
「うん…」
みやびは、ふさぎ込みますが、それでも静かに語りだしました。
155 :foreseasonz :2007/05/31(木) 01:32
「もう、これはクセっていうか、しょうがないんだよね」

みやびは、デリカシーのないひとが大キライでしたが、自転車の
ベルを鳴らされることも、おなじくらい大キライでした。

「ねぇ、キャプテン、そもそも自転車のベルって、なんのためにあると
おもう?」

「…え、それは、ぶつからないようにするため…でしょ?」
「そうだよ、それがふつうだよね。でもね、世の中には、そう考え
ないひとたちもいるの」

みやびの家では、年にいちど、青森のおばあちゃん家に帰ります。

「そこで、いつも思うのはね、とっても静かだってこと。こことおんなじ
ぐらいね」

みやびのおばあちゃんは、リンゴ農家をしていました。
その辺りの広大な土地では、すれちがうひとはみんな顔なじみで、
あいさつをかかしません。

「そのぶん、みやが髪染めてたときは、ヘンな目でみられたんだよ」

そんな土地がらですから、自転車のベルなんか、めったに鳴らさない
のです。

「みんな、口でいうの」
「え、チリン、チリンって?」
みやびはふき出します。
「まさか〜」
佐紀は、赤くなります。
156 :foreseasonz :2007/05/31(木) 01:32
「それでも、たまには聞くんだけどね、都会で聞くより、ずっと音が
おおきくきこえるの」

それはもう、心臓がとび出るほどに、大きく聞こえるのです。

「だからね、都会にかえってきて思ったことは、自転車のベルに
かぎらず、うちらがあたりまえに使ってるもののなかには、使わず
にすませたほうがいいものって、いっぱいあるんじゃないかなって
ことなの」

たとえば、といって、みやびが示したさきには、おじさんが歩いて
います。

おじさんは、道路のむこう側にわたろうとしているのですが、すぐ
そばに、押しボタン式の信号があります。

「みてて、押すよ」

みやびがいったとおり、おじさんは信号を変えて、ゆうゆうとわた
っていきます。

「…ね?」
みやびは、すっかりため息まじりでした。
「いまのって、押す必要あった?」
佐紀は、いっている意味がわからずに、うろたえてしまいます。

「みてよ、おじさんが押したボタンで止められた車の数」
157 :foreseasonz :2007/05/31(木) 01:33
そこには、駅へむかって、のぼりの赤信号で一台、くだりの赤信号
にも一台の車しかいません。

ほかには、見わたすかぎり、一台の車もはしっていませんでした。

「あの2台がとおりすぎるのをまってれば、ボタンを押す必要って
なかったんじゃない」
「…たしかに、そうだね」
「こういうことって、よくあるんだよ」

佐紀は、考えもしなかったことをみやびがズバズバいうので、ただ
ただ感心するばかりです。

「自転車のベルもね、いっしょなの」
みやびは、すこし興奮したようすでした。

自転車を気にするのも、うしろから追いこされるとき、ベルを鳴ら
されたくないからだといいます。

「さっきから、みやがはしっこ歩いてるの、気づいてた?」
そういえば、と、佐紀は目を丸くします。

「これもね、クセなんだけど、みやが、どれだけはしっこをあるいてて
も、鳴らすひとは、ベルを鳴らすんだよ」

そんな毎日に嫌気がさしたみやびは、もう、いっそのこと、追い
こされるまえに、ふり返って、目を合わせてやろうと、おもったのです。

「目があえば、あぁ、鳴らす必要ないなって、おもうじゃない」
「…そうだね」
158 :foreseasonz :2007/05/31(木) 01:33
「でも、だめなのっ!自転車の気配を感じたら、すぐにふりかえって、
みやは、あなたのこと、気づいてますよっ、だから、チリンチリンって、
鳴らさないでくださいっ!ってうったえるの、でも、いくらがんばっても、
鳴らすひとは、鳴らすのっ!」

みやびは、すっかり取り乱して、身ぶり手ぶりでうったえます。

「もう、いやっ!こんなのって、ひどすぎるっ!みやが、どれだけ
自転車のこと考えてるかわかるっ!?それはもう、朝起きて、
スクールゾーンでビクビクして、学校ついてからも、窓からみえる
景色に自転車をさがして、帰ったら、こんどはドラマのなかにも、
ずっとキコキコいってる自転車をさがしてるっ!それなのに、
むくわれないなんて、ひどいっ!だから、みやは意味もなくベルを
鳴らすひとなんか、きらいっ!きらいっ!だいっきらい!!!!」

そう叫んだときでした。

…チリンチリン

「おじょーちゃん、あぶねーだぁよ」

さっきの自転車が、追いこしていきました。
みやびは、道のどまん中につっ立っていたのです。

その顔からは、表情という表情がぬけ落ちていて、土まみれの
サロペットジーンズをはいたおじさんを、目だけで追っています。

佐紀は、この状況にぴったりあいそうなことわざをさがしましたが、
ひとつも出てきませんでした。
159 :foreseasonz :2007/05/31(木) 01:33


(自転車と少女とデリカシー/了)

160 :さるぶん :2007/05/31(木) 01:35
「MIYABI」発売記念でした。
というか、こんなみやびちゃん誰も期待してないですよね…。
161 :foreseasonz :2007/06/01(金) 19:15



みやびから地図をひったくると、佐紀はその手をとりました。
引きずるようにして、目的地へとむかいます。

あのあと、けっきょく一台の車もとおることのなかった道路に沿いながら、
駅を背にしてすすんでいきます。

佐紀にとっては、はじめての土地ですから、地図をひんぱんに確認し
なければなりません。

めじるしと東西南北との関係をたしかめるため、地図をみて、あたりを
みてと、いそがしくしていますが、顔をあげるたびに、景色がどんどん
さみしくなっていきます。

「…ねぇ、みや、ほんとうに、ここであってるの?」

ふり返ってたずねますが、みやびは、「うん」とか、「すん」とか、
「キコキコ」とかを、くりかえすばかりです。

佐紀は、とても背がちっちゃいですから、このようすをだれかが見て
いたとしたら、きっと女の子が、うでの取れかけたクマのぬいぐるみを
引きずっているのだと思ったことでしょう。

それから、しばらく歩きますと、目的地がみつかりました。

めじるしといっても、地図に書かれているのは、《佐藤さんち》とか、
《前川さんち》とか、そんなテキトウなものばかりです。
162 :foreseasonz :2007/06/01(金) 19:16
とはいえ、都会とはちがって、ほとんどの家に表札がありますから、
たしかにめじるしにはなりますが、まっしぐらというわけにもいきません。

みや、ついたよ!とよろこぶ佐紀が、いま一度ふり返ったときには、
すっかり意識をとりもどしたみやびが、そこにはいました。

おそらくですが、ずっと引きずられていましたから、摩擦で、おしりから
火を吹きそうになっていたのでしょうね。

「みて、だれかいるよ」

あたりには何もありません。
ですから、はなれたところにいても、なかの様子はわかりました。

空き地になったひろいスペースのまん中に、土管がみっつ積まれて
いて、そのひとつから、だれかのおしりが出ているのです。

そっと近づいていくと、…ゆん…ゆん…という声が、土管にひびいて
いるのが聞こえます。

すぐそばには、バットが落ちていまして、それとおしりとを交互にみて
いていたふたりが顔をあわせたとたん、どこからか、大声がしました。

――また、おまえらかっ!!

カミナリでも落ちたような、すごい声でした。
どうやら、空き地のとなりにある家から聞こえてきたようです。

その音に反応して、土管のなかから、ごんっ!という音がきこえました。
163 :foreseasonz :2007/06/01(金) 19:16
そのとき、おしりもいっしょに、ぶるぶるっ!と震えていましたから、
頭でもぶつけたのでしょう。

それからしばらく、なにか会話する声がきこえていましたが、勝手口の
ようなところから女の子が出てきました。

「まー!!」
みやびが手をふります。

姿がみえたとき、茉麻は肩をおとしていましたが、みやびの顔をみた
とたん、ぱっと顔が明るくなりました。

「みやっ、ひさしぶり!!」

再会のよろこびもそこそこに、みやびが佐紀を紹介すると、「よろしく」と
いって、ふたりはあいさつしました。

「ところで、いまのは?」
「…あぁ、ガラス、割っちゃったの」
その手には、野球のボールがにぎられています。

それをみてはっとしたみやびは、ふりかえりました。
土管のそばに落ちている、バットをみたのです。

「打ったのは?」
なにもいわず、茉麻はぶるぶる震えているおしりに向っていいました。
「りさ子、もうだいじょうぶだよ」

生まれてはじめて太陽をみたカンガルーの赤ちゃんといったようすで、
りさ子が出てきました。
164 :foreseasonz :2007/06/01(金) 19:16
「おもいっきり振っちゃだめっていっても、この子ったら、きかないの」
やさしい声でしたが、茉麻の目は、じっとりさ子をとらえてはなしません。

「…だから、ごめんっていってるゆん」
りさ子は、口をとがらせています。
「この子がカテキョする子?」
みやびがいいました。

「そうだよ、りさ子、あいさつなさい」
「はい」
りさ子は、みやびと佐紀を、交互にみながらいいました。
「す・が・や・り・さ・こ・で・す」

昨日のしっぱいを、自分なりにいかしたつもりなのです。

よろしくね、といって、みやびと佐紀は、それに応えますが、りさ子から
目がはなせません。
「よ・ろ・し・く・お・ね・が・い・し・ま・す」
「…なんで、ロボットみたいなの?」

みやびがいうと、りさ子は目をむきました。
「え、なに!?」
りさ子は、いった!いった!と茉麻のうでにしがみ付きます。

みやびと佐紀は、意味がわかりません。
ほら、りさ子、やめなさいと、茉麻はたしなめますが、りさ子は不服そう
です。

「…なんか、ナイーブな子なの…かな?」
みやびが、遠まわしに表現します。
165 :foreseasonz :2007/06/01(金) 19:17
「ほら、またっ!」
茉麻のうでは、りさ子につかまれて、ぶらんぶらんと揺れています。

「…あ、でも、ほら、みやとは仲良くなれるんじゃない?」
「なんで?」
「りさ子ちゃんって繊細そうじゃない?みやが苦手な、デリカシーのない
子にはみえないから」

みやびが、なるほど、というよりはやく、りさ子は、ほらーっ!とさわいで
います。

ますます、意味がわからない二人は、首をかしげるほかありません。

…キャプテン、なんかいった?…え、しらないよ、いってる意味がわかん
なかったんじゃない?…あー、”デリカシー”のこと?なら、ナイーブだって、
わかんないよね…じゃあ、なんていえばいい?…気むずかしい子なん
じゃない?…コミュニケーションとれないってこと?…まさか…

ひそひそとやっている二人の会話がはずむほど、茉麻のうではちぎれ
そうになるのです。
166 :foreseasonz :2007/06/01(金) 19:17


(りさ子の主張/了)

167 :foreseasonz :2007/06/12(火) 00:32





りさ子は、茉麻のうでをあまりにも揺さぶりましたし、みやびと佐紀は、
あまりにも英語をつかいました。

ですから、桃子がやってくるのが、あと少しでも遅かったなら、茉麻は
うでがなくなっていたでしょうし、みやびと佐紀はイギリス人にでもなっ
て、フランス人を皮肉ったジョークでも語りだしていたかもしれません。

そんな救世主さまであるところのモモコ・ツグナガは、今日も今日とで
小指をたてていました。

「はい、そこ罰金ねー!」

桃子は、自作の貯金箱をもっていました。
大きな文字で、《ツグナガモモコ》と書いてあります。

食べおわった駅弁の入れ物に、穴をあけて、ひもをつけたやつを、
首からぶらさげているのですが、あまりよくできているとはいえない
ズワイガニのかたちが、どことなく哀愁をさそいます。

あっけにとられているのは、みやびと佐紀でした。

「なにいってんの桃?」
これは佐紀です。
「だっていま、キャプテンってば、英語つかったでしょ?」
佐紀は意味がわからないという顔をしています。
168 :foreseasonz :2007/06/12(火) 00:32
「なんの話してたのかしらないけど、ズペペルガーとか、ザーボンとか、
ふたりして英語つかってたじゃない」

「…それは」

とんだ大まちがいです。

佐紀とみやびは、ふたりにとっては挙動不審にみえるりさ子について、
…え、この子って、自閉症?…アスペルガー症候群っていったっけ?…
ちがうよ、サヴァン症候群じゃなかった?…と、すこしかしこい話題に
ついてやりとりをしていたのです。

さすがは高校一年生と、らい年の高校一年生ですね。

「はい、300円」
もうひとりの高校一年生は、ズワイガニをさしだします。

「ごめん、みや、いいそびれちゃったけど、うちら英語つかっちゃいけな
いんだ…」

茉麻がいいました。

りさ子に自転車を買ってあげるためという、立派な目標にかんしても
説明しようとおもった茉麻ですが、そこは、桃子にもっていかれます。

「だから、とってもエライ、エラ〜イ募金なんだよ」
「え、でも、うちら聞いてないよ!」

「ほら、ほら、はやくぅぅぅ!」
桃子は、おしりをふりふりさせています。
169 :foreseasonz :2007/06/12(火) 00:32
その”ふしぎなおどり”に負けたふたりは、いわれるがままに300円
ずつ出してしまいます。

目をあわせ、財布をとりだし、ゆびをつっこんで100円玉を3枚とりだす
までのあいだに、ふたりがなんど首をかしげたかはわかりませんが、
とにかく、だしてしまったものはしょうがありません。

しゅとんっ!という音をたてて、ズワイガニが100円玉を飲みこんで
いきます。

「まいどありー!」

ちょっとズレた合いの手をいれると、桃子は土管をかけのぼります。

「えー、では、本日もツグナガ通常国会をはじめたいとおもいます!」

茉麻は、身うごきのできないふたりを気にしているようすですが、
りさ子は、さっさと土管の最前列へいき、体育ずわりをしています。

鼻唄まじりに、自転車、自転車と、くりかえしています。

「本日の議題は、りさ子のカテキョをひきうけるにあたって、いったい
どのようなカリキュラムを組むべきか、それを話しあいたいとおもいます」

おもったより、まともな議題だったもので、茉麻は、ふたりを気にしつつ
も、りさ子のとなりに座ってしまいます。

のこされたのは、みやびと佐紀ですが、納得いかないようすです。
170 :foreseasonz :2007/06/12(火) 00:33
「ちょっとまって!」
「はい、せーしゅくに!」
ズワイガニを、ばんばんっ!と叩きます。

「発言は挙手にてねがいます」

みょうに威厳のあることばに、みやびはしたがってしまいます。

「はい、どうぞ」

指されたみやびは、まだ罰金には納得してないんですけどと前おきして、
いいました。

「…英語を禁止するのが、このりさ子ちゃんのためになるってことです
けど、むしろ逆じゃないですか?」

そのことばに、場内がざわめきました。

とくにりさ子は、背中のすじを痛めないか心配になるほどの勢いで
ふりかえると、鼻の穴をふくらませています。

「…そ、そんな目でみないでよ」

みやびは、たじろいで佐紀をみますが、うん、とうなづいてくれたので、
いうべきことはいっておかないとねとつぶやきました。
171 :foreseasonz :2007/06/12(火) 00:33
「りさ子ちゃんは、いま何年生ですか?」
「小六だよ」
茉麻がこたえます。

「なら、ここらへんの学校でも、らい年から英語の授業がはじまります
よね、それまでに、ふだんから英語をつかっておいたほうが、ずっと
りさ子ちゃんのためになると思います」

毅然とした態度でした。

「…うっ、そ、それは」

またぞろ、場内がどよめきます。

「そもそも」

みやびがいいます。

「あなたは先ほど、”キャプテン”とおっしゃいましたが、それだって
立派な英語だとおもいます!」

「…だ、だって、それはあだ名だから、例外っていうか、その…」

「異議あり!例外はないとおもいます」

みやびは、裁判長!とさけび、茉麻のほうをみました。
すると、茉麻はおもむろに立ち上がり、りさ子のそばをはなれます。
172 :foreseasonz :2007/06/12(火) 00:33
「異議をみとめます」
「ちょ、ちょっと、まーさん?」

桃子は土管から身を乗りだしています。
りさ子はというと、ママぁ…と不安げに振りかえっています。

そんなようすをみながら、みやびは続けます。

「英語の使い方や発音を、明らかにまちがえたひとが、罰金を払えば
いいのです!そうすれば、りさ子ちゃんの自転車は買えます!」

りさ子は、みやびと茉麻を交互にみながら、ねえ、本当?本当に?と、
くりかえしています。

「本当だよ」
茉麻がいうと、りさ子は立ち上がりました。

「ちょっと、りさ子ぉ…!」

もはや座っているひとは、だれもいません。

「あなたの悪巧みは、まるっとお見通しなのです。その貯金箱だって、
どうしてみんなのものなのに、自分の名前が書いてあるのですか?」

みやびは、ビシィィィッ!と指をさしました。

「ほんとだ、なんで!?」

「それは、みんなから集めたお金を、自分のものにしようとしていたから
では、ありませんか?」
173 :foreseasonz :2007/06/12(火) 00:33
「被告人、答えなさい」

りさ子の肩を抱き、尊厳を込めた口調で、茉麻裁判長がいいました。

「…そ、それは」

いまや被告人となった桃子は、なにもいい返せません。

「ということで、この法廷は、わたくしこと、原告および、その代理人で
ある夏焼雅の勝訴となりました。よって、これは無効です」

みやびは軽やかに土管をのぼると、桃子の首からズワイガニをひった
くりました。

「え〜ん!みーやんのばかぁ…」

「ここは法廷です、気やすく、”ニックネーム”で呼ばないでください」

桃子はそのまま、へなへなぺたんと、土管のうえに座り込んでしまう
のでした。
174 :foreseasonz :2007/06/12(火) 00:34


(みやびの逆転裁判/了)

175 :さるぶん :2007/06/12(火) 00:41
更新です。
遅れてしまって、ごめんなさい。

それと、投稿しなおした件で「キャラクター小説の世界」さん
にも気を使わせてしまったみたいで、申し訳ないです。

いちおう、毎回アンカーをつけておくことにします。

 【注意】はじめての方は>>70からお読みください
176 :foreseasonz :2007/06/15(金) 23:21





冷蔵庫に手をのばして、すぐ引っこめます。

物音がしたのですが、あわてて振りかえると、がたぴしのレジスターで
お昼寝のおばあさんが、寝ぼけていただけのようです。

「…だいじょうぶ」

そう、つぶやいて、友理奈は、つばを飲みます。

全体がびっしりと汗をかいているので、ラベルこそ読めませんでしたが、
透明なケースのなかには、なつかしい感じのするガラス瓶を満たした、
色とりどりの液体が並んでいます。

「これは、コー…じゃない、なんていうんだろ」

そのうちのひとつ、黒い瓶をみつめながら、味を想像してみますと、
しゅわしゅわのじーん!が口いっぱいに広がって、友理奈は、また、
つばを飲みこみます。

「こっちのオレ…じゃなくって、みかん色のも、おいしそう…」

ひとりごちながら、おばあさんを見やりますが、いっぽう空中では、
右手をしゅっ!しゅっ!とうごかしています。
177 :foreseasonz :2007/06/15(金) 23:21
「…開けて、取って、閉める」

もういちど、手を動かし、

「…開けて、取って、閉める」

そして、
「よし!」
と意を決し、手を伸ばしたときでした。

「なにやってんの」

ふり返ると千奈美が立っていました。

「…なんで、ちーがいるの?」

友理奈は、冷蔵庫と格闘をする、カマキリのような格好でした。

「なんでって、コンビニでまちあわせってメール、きのう送ったじゃん」

ずかずかと友理奈を追い越すと、千奈美は、おばさん、コーラちょーだい
といいますが、それは、やはり瓶をつかんだあとでした。

それに今度は、冷蔵庫のわきにぶらさがった栓抜きをつかって、フタを
開けはじめてさえいます。

「あー!」
友理奈が大声をあげます。
178 :foreseasonz :2007/06/15(金) 23:22
「…な、なに」

おどろいた千奈美は、ほそい目が左右でつながりそうなほど、深いしわ
を眉間に刻んでいます。

「だって、英語使っちゃいけなんだよ」
「あー、そうだったね、でもコーラって英語?」

口をつけ、ぐいっと傾けながら、財布をとりだし、小銭をつまんで、カウ
ンターに押しつけますが、またもや、おばあさんの手は空振りです。

「熊井ちゃんこそ、なんで冷蔵庫とにらめっこ?」

「…いや、だって」

友理奈は、店のはしっこへと千奈美を引っぱっていきます。

「うわっ!こぼれるっ!こぼれるよ、熊井ちゃん!」

おばあさんをチラ見してから、友理奈はささやきました。

「ここって、暑いじゃん」
「そうだね」
「でも、ふつうはクー…じゃなくて、冷房がきいてるよね、コンビ…じゃ
なくって、えーっと…とにかく、そういう店なら」

まー、ここコンビニじゃないけどね…と、つぶやく千奈美ですが、目を
ギラギラさせた友理奈は聞いていません。
179 :foreseasonz :2007/06/15(金) 23:23
「ところが、あるんだよ、冷房」

そういって友理奈は、背中を丸めました。
ふり返って、冷蔵庫を指さします。
ふっふっふと笑う、そのあごは、なぜかしゃくれていました。

「…熊井ちゃん、なんか桃みたいだよ」

それも耳に入ったのか、入らなかったのか、友理奈は肩を落とします。

「…でもなんか、うち、あのおばあさん苦手でさ、そんなことしたら、
めっちゃ怒られそうじゃん…」

「このまえ、すっごい怒られてたもんね」

「だって、それはちーとももちが…!」

興奮して声を荒げると、おばあさんが寝返りを打って、がたぴし、といい
ました。友理奈は、あわてて口をふさぎます。

「まー、いいたいことはわかるよ」

千奈美は冷蔵庫へと近づいて、扉を開けました。
そして、中へ顔をつっこんで、あー!すずしいー!といいます。

(ちょっと!ちー、怒られるよ!)

友理奈は、おばあさんを起さないよう小声ですが、千奈美は、よゆう
で冷蔵庫――いえ、クーラーを満喫しています。
180 :foreseasonz :2007/06/15(金) 23:24
(雑誌の立ち読みだって、あんなにうるさかったんだよ?こんな電気の
ムダづかい、だめだって!)

『だいじょーぶだよ、寝てるから』

おばあさんは、おきる気配がありません。

ガラスケースにひびく千奈美の声は、ブーンというモーターの音と
重なって、ふしぎな感じがしました。

(…なんで、ちーのときだけ、そうなるの)

顔を出すと千奈美は、さっきからあごに垂れていたコーラを指ですくっ
て、ぺろりとなめました。

「コーラ、おいしいよ、熊井ちゃんも飲めば?」

「だから、英語は使っちゃだめなの!」

そのまま、友理奈は店を出ていきます。
あわてて千奈美は追いかけます。

「どうしたの」
「…だって、ちーが」

友理奈は、肩幅に足をひらき、ぐーにした両手を地面にむかってつき
出すようにしています。

「なんとなく…怒ってる?」

背中にむかって、千奈美は投げかけます。
181 :foreseasonz :2007/06/15(金) 23:24
「そうだよ、怒ってる」

背中から、返ってきました。

「冷蔵庫だって、おばあさんが怖いから、いっしゅんでもはやく開け
閉めしようとしてたのに、ちーがあんなじゃ、うち無意味じゃん」

「…わかったよ、もう英語つかわないから、キゲンなおそう、ね?」

「ほんとに?」

背中が、そっぽを向きました。

「ほんとだよ」
「じゃあ、英語はなしだよ?」
「うん、約束する」

千奈美は、友理奈の笑顔と、こんにちわしました。

「じゃあ、メー…じゃなくって、ケータイ電話で文字を送るやつのこと、
日本語でなんていうか、考えようよ」

「えー、メールはメールでいいじゃん」
「ほらまたっ!」

またそっぽを向きそうな友理奈に、困った千奈美は、考えこんで
しまいます。
182 :foreseasonz :2007/06/15(金) 23:24
「ふつうに日本語でいえば?」
「でも、”ケータイ電話で文字を送るやつ”って長すぎるよ」
「べつの言い方は?」
「ないって、ちーわかる?」
「あたし英語と国語、どっちも苦手だし…」
「得意なのは?」
「音楽と体育かな…?」

そこで、そうだ!と千奈美がさけびました。

「じゃんじゃか!」

なにごとか言って、得意げに、友理奈をみています。

「…?」
「だから擬音!擬音だよ、熊井ちゃん」
「そっか、それなら英語使ったことにならないね!」

「そー、それでメー…じゃなくって、とにかく、それの音が、じゃんじゃか!
なの。なんとなく、いい知らせが入ったって、感じするじゃん」

「うおー、ちー頭いいねー!」

それでテンションのあがった二人は、ここからの会話に出てくる英語を
すべて、擬音に置きかえてみようということになりました。

「じゃあ、まず、これは?」

友理奈は、いま自分が着ている《Tシャツ》を示しました。
183 :foreseasonz :2007/06/15(金) 23:25
「うーんこれは、もともと大きかった生地を、はさみで切り取ったって感じ
だからぁ…」

目を合わせて、せーの!で、いいました。

――じょきーん!
――じょき!じょき!

「あー、惜しいねー!」
「でも、《じょ》つながりじゃん?」
「そうだね!」

つぎは千奈美がお題を考えました。
自動販売機から出てくるもの、つまりは、《ジュース》のことでしたが、
答えは?

――ごとん!
――ごとん!

「やったー!」
「すごーい、なんか落ちてくる音を連想するよねー!」
「わかるー!」

この調子で、合計して10個の問題にとりくんだ結果、完全な一致が
3問と、ニュアンスのちがいにすぎないもの、あるいは一字ちがいが
6問というふうに、こうしたお題にしては、かなりいい結果が出たといえ
そうでした。
184 :foreseasonz :2007/06/15(金) 23:25
「なんかうちら、すごくない!?」
「相性いいんだよ!」
「肌の色も、ちょっと似てるしね!」
「”ブラック・ガールズ”って感じだね!」
「徳永の”とく”に、熊井の”くま”で、”とっくま”だ!」

――《とっくま・ブラック・ガールズ》だ!!

そこからの二人は、テンションあげあげでした。

あんまりおなじツボで笑ったので、自分のおなかをかかえているのか、
相手のおなかをかかえているのか、わからなくなったほどです。

そのテンションで、ころがりこむようにして空き地へたどり着いたふたり
をむかえたのは、さきに来ていた、ほかのメンバーでした。

「ねぇねぇ聞いて、うちら絶対に英語なんかつかわないよ!」
「ひみつの特訓したもんね!」

笑いすぎて痛くなったおなかから、けんめいに陽気な声をひねり出し
ましたが、どうにも場の空気はしずんでいます。

いくらハイテンションになって、まわりが見えない今のふたりでも、
その雰囲気にはきづきます。

なぜなら、

――ユー(あなた)は、このバイボー(聖書)にスウェア(誓う)しますか?
185 :foreseasonz :2007/06/15(金) 23:25
とか、

――ジャッジ(裁判長)!ウィトネス(証人)へのエグザミネーション(尋問)
をアプリケーション(申請)します!

とか、いっていたからです。

茉麻が”聖書”と呼ぶのは、きのう友理奈がおいていった雑誌でした。

それに、いちいちケータイをいじっては、英単語の確認しているので、
若干のもたつきはありましたが、、あるでアメリカの法廷映画のような
活気に、満ちあふれていたのです。

「なんで?」
「りさ子のためにやってるんじゃないの、ねぇ?」

と千奈美は、ふり返ります。

そのりさ子は、茉麻のケータイを借りて、なにかむずかしい顔で打ち
こんでいますが、しばらくすると笑顔になって、こちらへ走ってきます。

そして、立ち止まり、ふたりを指さして、こういいました。

「ゆーあー、とぅーれいと!(you're too late!/遅すぎ)」

満面の笑みに、まわりから歓声があがります。

ふたりは、ぐうの音も出ませんでした。
186 :foreseasonz :2007/06/15(金) 23:26


(結成!とっくま・ブラック・ガールズ/了)

187 :さるぶん :2007/06/15(金) 23:29
更新です。

【お願い】はじめての方は>>70からお読みください
188 :foreseasonz :2007/06/22(金) 17:58






あっけに取られている二人に、満足したようすのりさ子は、茉麻のよこへ
戻っていきました。

ケータイとにらめっこで、だれもが英語をさけんでいる空き地では、茉麻
だけが、黙っていました。

「どうしたの?これ…」

その横では、「ばいしくる!」とか、「りみてっど!」とか、りさ子がさけん
でいます。

「ちょっと待ってて」

茉麻が黙っていたのは、きらきらした目でみやびをみたまま、《自転車》
って、なんていうの?《限定品》は?とたずねてくるりさ子に、ケータイで
翻訳してやっていたためでした。

いまも急かされているため、茉麻の袖は、もはやでろんでろんです。

「…あ」

茉麻を待つあいだ、待ちきれない友理奈が声をあげました。
189 :foreseasonz :2007/06/22(金) 17:58
「というか、いまの『どうしたの』には、いろんな意味があって、英語に
ついてのことと、あとは、あの子たちが…」

いい終わるより先に、「わかってるよ」といって、茉麻は苦笑いします。

みやびと佐紀について、それからツグナガ国会(裁判)についての事情
を聞かされて肩を落としたのは友理奈ですが、すこし様子がちがって
いるのは千奈美でした。

みんながやり合うのをみて、なんとなくテンションがあがってしまい、
自分もケータイをとりだします。

「スカイ・ザ・コップ!」
千奈美がさけびます。
「あー、それあたしの!」

怒った友理奈は、自分でもケータイをとりだし、茉麻から翻訳サイトへの
行きかたを教わります。

まずはメモ帳をだして、思いついたことばを打ちこんでいきます。

さいしょに出てきたのは《サンバイザー》でしたが、友理奈は、おもわず
顔をしかめます。

つづけて指を動かしたら、《エンジョイ!》と打ちこんでいました。

そのまま、
「エンジョイ!」
と、さけびます。
190 :foreseasonz :2007/06/22(金) 17:58
そのことばは、ほかの子たちのと混ざりあって、青空にひびきます。

「うわっ、気持ちいい!これ、気持ちいいよー!」

「さっき英語つかうなっていってたのは、誰よー!」

きらきらした顔の友理奈を、千奈美は笑って見ていましたが、あんまり
《エンジョイ》ばかり連発するので、熊井ちゃん、エンジョイしか言って
ない!と怒ります。

それで、しょんぼりした友理奈は、《サンバイザー》と《エンジョイ》が
並んだメモ帳を保存して閉じました。

いっぽう、桃子だけは英語を使いません。

英語をつかうなという意味のことばを、類義語辞典でしらべては、手を
変え品を変え、むずかしい日本語に言い変えていたのです。

「ちょっと待って!」

みんなの中で、いちばん声がおおきかったのは桃子で、そういって、
さいしょにケータイから顔をあげたのも桃子でした。

調べ調べやってるので、みんなの発表は、すこしだけ時間が空いて
しまいます。

そこを縫って、桃子はしゃべります。

「すごい大発見!」
191 :foreseasonz :2007/06/22(金) 17:59
みんなが、ケータイから顔をあげました。

「りさ子ってばわかってる?英語をつかえる状況のほうが、一教科多い
ぶん、勉強が大変になるんだよ?」

そーだよ!と友理奈が賛同しました。
みんなの視線は、自然とりさ子にあつまっていきます。

りさ子は、いきなりのことに慌てて、立ったり座ったりをくりかえしてい
ます。

「賛成?反対?どっちなの?」
みやびに詰め寄られてしまいます。

「ほら、りさ子が着席すれば、さっきの600円も帰ってくるんだよ?」
桃子は、勢いづきます。

600円をかえせー!という桃子のひとりシュプレヒコールにつづいて、
りさ子は、「…そ、そーだ!そーだ!」といいますが、体は立ったまま
です。

「いってることと、やってることがあべこべだよ」
と友理奈。

「うー、よくわかんないゆー!」

そういって、髪をかきむしったりさ子は、土管のなかにひっこんでしまい
ます。
192 :foreseasonz :2007/06/22(金) 17:59
茉麻が土管の反対側にしゃがんで、おいでおいでしますが、なかなか
出てきません。

なかでは、しゃかしゃか音がしていますから、きっと頭をかきむしりつづ
けているのでしょう。

「客観的に考えて、桃にまかせたら、どうなるかわかんないよね」

りさ子を見ながらいうので、土管にひびく茉麻の声です。

「なんでよー」

うえから首をだした桃子は、ほっぺたを膨らませています。

「だって、みやのいうとおり、あの600円は桃がひとり占めしようとして
たんでしょ?」

「そっ、そうだゆー!」
りさ子が、ひょこっと顔をだします。

つづけて発言したのは、みやびでした。

「りさ子ちゃんは、ただプレゼントされるだけじゃない、それは当たり前だ
よ。でもね」

みやびの話しかたは、声も大きく、よどみないものでした。
193 :foreseasonz :2007/06/22(金) 17:59
「いい子にして勉強をがんばれば、思う存分あそんでいいし、はやく
勉強が終われば、うちらも遊びに付き合ってあげられる。そうすれば
自転車で遊んでもいいと思う」

「でも危ないじゃん」
友理奈がいいます。

「うちらがいれば、だいじょうぶだよ」

みやびはほかにも、《ひとりにつき、新しい英単語を一日5個づつ使う》
とか、《りさ子があたらしい単語をひとつ覚えたら、みんなで10円ずつ
カンパする》といったルールを提案しました。

「でっ、でもでもー、りさ子は勉強なんかしたくないよね?」

桃子が落ちそうなほど身を乗りだすと、みやびも、りさ子に迫ります。

「どっちが正しいと思う?」

茉麻のことばに、桃子をみあげて、うなづきたそうなりさ子ですが、横目
では、みやびにも注意しています。

そのまま、しばらく動きがありませんでした。

「じゃあさ、もうひとりの高校生である、キャプテンの意見を聞こうよ」

じれたようにいったのは桃子でした。

「そうだね、さっきからずっと黙ってるし」
194 :foreseasonz :2007/06/22(金) 18:00
みやびがいって、全員の視線があつまります。

「え、あたし!?」

とつぜんのことに、佐紀はあとずさりました。

「べつに、あたしは…」

眉毛のはしっこをうんと下げて、手をふっています。

「キャプテンってば、クラスメイトのもーと、みーやんと、どっちが大切な
の?」

ふぐみたいに、ぷんぷんする桃子です。

「だからっ、初対面なのに、なれなれしくしないでください」

みやびも腕組みで、ふぐになります。
ふたりがふくらんだだけ、佐紀はやせ細っていくようでした。

「…え、ちょっとまって」

口をはさんだのは、茉麻です。

「みやと桃って、知り合いじゃなかったの?」
「そうだよ?」
「《みーやん》って呼んでたのは?」
「さっき名前いってたから」
195 :foreseasonz :2007/06/22(金) 18:00
「じゃあ、《キャプテン》ってゆうのは?」
「もーとキャプテンは、高校がいっしょなんだよ」

それに対し、みやびがフォローを入れます。

「あたしとキャプテンは、おんなじ中学のバスケ部だったの。佐紀ちゃん
は、キャプテンだったから、みんなキャプテンって呼んでたんだよ」

「そういう意味だったんだ」

茉麻はうなづいていますが、つづけたのはみやびでした。

「でも、佐紀ちゃんは、高校いってバスケ止めちゃったのに」

「なら、どうして、高校でクラスメイトの桃が《キャプテン》って呼んでる
の?」

茉麻が首をかしげます。

「もーの学校はバスケ部が強かったから、キャプテンは有名人だったん
だよ。あそこの中学には、一番ちっちゃいのにキャプテンやってる子が
いるって」

「…ちょっと待って、頭こんがらがってきた」

そういって、頭がナナメになっているのは千奈美でした。
横にいるりさ子は、口をふがふがさせています。

「でも、うちのバスケ部では、キャプテンとおなじ高校へいったひとなんて
いないよ」
196 :foreseasonz :2007/06/22(金) 18:00
「うちとみやみたいに、塾で知りあったとか?」

これは茉麻です。

「桃が塾なんかいくわけないじゃん」
「えー、徳さんにいわれたくない!」

桃子は口をとがらせます。

「あーでも、ちっちゃいキャプテンのはなしなら、聞いたことあるかも」

これは友理奈でした。

「ともだちにいわれたの、友理のおへそぐらいまでしかないんだよって」

それを聞いて、佐紀のまゆ毛がつり上がりました。

じっさい、横にいて友理奈を見上げている佐紀は、もうすこし首が楽そう
でしたから、怒りは正当なものといえそうです。

「そういえば聞いたことがある、ゴール下では勝てないから、3点シュート
ばっか練習してたって」

「うちの学校では、ちっちゃすぎてゴールにとどかなかったって聞いた」
「成功率は高かったんじゃないの?」
「ちがうよ、だってちっちゃいんだよ?」

もはや議論は脱線しかけていましたが、みやびだけは軌道修正をがん
ばっています。
197 :foreseasonz :2007/06/22(金) 18:00
「ちょっとみんな、背とシュートの決定率って関係ないじゃん」

「《ちっちゃい》って、英語でなんていうんだゆー?」

ふがふがしていたりさ子が、茉麻のケータイをのぞきこみましたが、
こら!と叱られてしまいます。

ところが、あきらめのつかないりさ子は、みやびの元へかけ寄ると、
おなじ質問をしました。

議論に夢中のみやびは、つい教えてしまいます。

そして、
「リトル!リトル!」
と、さけびはじめました。

「これで10円だゆー!」
「こらっ、りさ子!」

「そもそも、ボールにさわれなくない?」
「なんで?」
「ボールを高いとこでパスされたら終わりじゃん」
「いくらちっちゃくても、それは…」
「リトル!リトル!」
「やめなさい!」

かけずり回るりさ子に、追いかける茉麻、ほかの4人は、土管の上と下で
やり合っていますが、佐紀はすみっこで震えていました。
198 :foreseasonz :2007/06/22(金) 18:01
そして、ゆで上げたように顔を真っ赤にすると、

「ちっちゃい、ちっちゃいって、うるさーい!!」

と爆発したのです。
場内がしずまり返りました。

「裁判長!」

天高く、雲を刺すような挙手でした。

「…はい、清水くん。どちらに投票するのですか?」

茉麻裁判長に指された佐紀は、みやびの首からズワイガニをうばいとる
といいました。

「どっちも無効!」

みやびは裁判長をみて、不服申し立てをしましたが、桃子は、ただ騒ぐ
しかできませんでした。

「りさ子ちゃんには、英語をふつうに勉強してもらいます!」

佐紀のつまさきは、全体重をささえて、ぷるぷると震えていました。
それを見た茉麻裁判長は、うんと、うなづくしかありませんでした。

「以上で、本日の国会を終了します!」

佐紀は、ぷんすかやりながら、空き地を出ていきましたが、途中でふり
向いて、捨てゼリフを残していきました。
199 :foreseasonz :2007/06/22(金) 18:01
「いっとくけど、届くから!」

りさ子は、《届く》ってなぁに?とみやびに訊きましたが、応答はありませ
んでした。
200 :foreseasonz :2007/06/22(金) 18:01


(3点シュートみたいな/了)

201 :さるぶん :2007/06/22(金) 18:03
更新です。

【お願い】はじめての方は>>70からお読みください
202 :ななしいくさん :2007/06/23(土) 03:10
更新乙です。みやvsもも、ももの逆襲が?楽しみ…。
203 :foreseasonz :2007/06/30(土) 00:45





りさ子のお家は、とても広く、キレイでした。

カギを開け、まっさきに上がりこんだのは茉麻でしたが、りさ子の部屋
は2階だから、といい残し、その足で台所へひっこんでしまいます。

氷足りるかな?といっていたので、きっと飲み物でもとりにいったので
しょう。

まるで、自分の家みたいだねと、だれかが感心しましたが、千奈美だけ
はちがいました。

「うわーっ!」

靴も脱がないうちに、さけび出したのです。

毛足のながい、立派そうな玄関マットなど、見るものすべてに目をうば
われているのです。

「ひとん家くると、なんか、テンションあがるよね!」

「えー、うちは緊張する」

そういって、みやびは靴をそろえていました。
204 :foreseasonz :2007/06/30(土) 00:45
「でも、じっさい家にきてみると、カテキョしてるなーって気分になるじゃん」

「ちーってば、まだ、なんにもしてないよ」

いったのは友理奈です。

というより、みやびの靴の横にじぶんの靴をならべているのが友理奈で
したが、そのさらにとなりでは佐紀がじぶんの靴をならべていました。

ですが、そのさらにさらにとなりでは、じぶんの靴をならべる桃子がズワ
イガニにちょっかいをだしてくるので、佐紀は守りぬかなければと必死に
なるあまり、じぶんの靴をならべるのに苦労していました。

茉麻のいいつけにしたがっていたりさ子は、すでに靴をならべ終えて
いましたので、階段の踊り場から、みんなを見ています。

とっちらかったまま靴を放置しているのは千奈美だけでしたが、まだ
興味のつきないようすです。

まっしろな階段の手すりを、夢中でぺたぺたとさわって、なんども声を
あげていました。

「ちー、靴は?」

友理奈がそう呼びかけたときには、スプリンクラーのようにくるくる動く
首のまま、すでに階段をのぼりはじめていました。

ですから、友理奈は、もうーっ!とせめてもの意思表示をして、千奈美
の代わりに靴をそろえるほかなかったのです。
205 :foreseasonz :2007/06/30(土) 00:45
みんなが二階へあがると、りさ子は先に立って、廊下をすすんでいき
ます。

せっかちそうに、みんなとの距離をあけてしまったかと思うと、時折ふり
返って、追いつくのを待ちます。

そして、またすたすたと先へいっては、うしろをふり返る、というのを、
なんどもくりかえしました。

部屋の前につくと、りさ子は、みんなが到着するのをまって、ドアをあけ
ました。

しかし、さきに入るがはやいか、ゆー!と大声をあげて、すぐさま閉め
ようとします。

「ぁ痛っ!」

すげーすげーいいながらよそ見をしていた千奈美が、ドアに挟まれて
しまいます。

「どうしたの?」

おくれてきた友理奈が、いいました。

千奈美の靴をそろえていたので、一番しんがりになっていたのです。

よって、桃子の魔の手とたたかっていた佐紀は、千奈美の悲鳴におどろ
いててズワイガニを落としそうになっていたのですが、頭上から友理奈
の首がぬっと伸びてきたので、ちょっとしたパニックに陥ってしまいます。
206 :foreseasonz :2007/06/30(土) 00:46
そんななか、ひとり涼しい顔をして、みやびがいいました。

「ひょっとして、恥ずかしいんじゃない?」

「そっか、知らないひとに、自分の部屋をみられるのって、すごくはずか
しいかもね」

友理奈のことばに、桃子が反論します。

「恥ずかしくなんかない!だって、こんなにステキな部屋なんだよ?」

桃子は、ドアのすき間から中をのぞきこんでいました。

「みっ、見たら、ダメゆー!!」

りさ子はのぞかれまいとして、ドアをきつく閉めようとするのですが、
千奈美が悲鳴をあげるので、たいした効果はあがりません。

その犠牲によって確保されたすき間から、みんな、よってかって部屋
をのぞきました。

まず、正面に見えたのはカーテンです。

裾から白いレースの重ねがのぞいているピンクのカーテンはとても
女の子らしく、そのまま同系統の色づかいがなされたベッドへと目が
自然にうつります。
207 :foreseasonz :2007/06/30(土) 00:46
そこには、さりげないアクセントになるようにと、黒いぬいぐるみがおい
ていました。

「あのぬいぐるみ、カワイイ!」

目を輝かせたのは、みやびでした。

「見ていい?」

りさ子は、自分をまっすぐにみつめるそのようすに戸惑い、もじもじと
おしりを動かしています。

「ねぇ!なに?ぬいぐるみって?痛いし!みえないんだけど!?」

しばらく、なにごとかをぶつくさ言っていたりさ子ですが、千奈美が
あまりにうるさいことに根負けしたのか、やがて扉を開きました。

なかへ入ると、みやびはまっさきにベッドへ腰かけました。

「うちのベッドにも、いっぱい置いてあるんだよ」

ぬいぐるみを抱きしめると、毛並みにそって、ていねいに手ぐしを入れて
いきます。

そのやさしげなようすに、りさ子は、自然とみやびの横へ腰かけていま
した。

それが合図だったかのように、みんなもベッドにあつまってきました。
208 :foreseasonz :2007/06/30(土) 00:46
これは、なかに入ってはじめてわかったことですが、りさ子の部屋には、
おとなしい色使いながら、カラフルな水玉模様のちらばった壁紙が一面
に貼られていました。

それは、とても品のよい感じで、部屋全体の印象をやさしくしています。

ふと友理奈が立ちあがって、カーテンを開けました。
すると、窓のむこうには例の空き地が見おろせました。

「なんか、ここだけ別世界みたいだね」

そのずっと先には山があって、がたぴしのおばあさんが営む駄菓子屋
は、そこを超えたところにあるはずでした。

「それにしても、ぬいぐるみが好きなんて、意外だったな」

ふり返って、友理奈はいいました。

「そう?女の子らしいし、りさ子ちゃんらしいと思うけど」

みやびがいうと、友理奈はあわてて首をふりました。
ですが、次のことばがでてきません。

「ちがうよ、その…みーやん?…それとも、夏焼さん?…えっと…」

「ふつうに、”みや”でいいよ」
209 :foreseasonz :2007/06/30(土) 00:47
みやびは、友理奈をみながらいいましたが、そのあとに、「みんなも
ね」とつけ加えると、ぎくっ!と肩をふるわせたのは桃子でした。

友理奈は、じゃあ、みやって呼ぶねといいながら、あとをつづけます。

「みやって、なんか颯爽としてるというか、さっき聞いたんだけど、
空き地でももちをやっつけたんでしょ?だから、なんかかっこいい
イメージがあったの」

やっつけるって、それじゃ、もーが悪者みたいじゃない!!と騒いだ
のは、もちろん桃子でしたが、だれも聞いていません。

「それなのに、ぬいぐるみが好きって、なんか意外」

友理奈のことばに、みやびをはさんで向こう側のりさ子は、うなづきな
がら、

「…みや、かっこいい」
といいました。

「あれ?はじめてしゃべってもらったかも」

そういって笑うみやびに、
「…そ、そんなこと、ないゆー!」
と、りさ子は顔を赤らめています。
210 :foreseasonz :2007/06/30(土) 00:49
「でも、やっぱり、ロボットみたいな言い方なんだね」

みやびは、すかさずツッコみます。

それで、いっそう顔を赤くしたりさ子は、「ロボットじゃないゆー!」と
いってみやびを突きはなしますが、けっきょく、また抱きついてしまう
のでした。
211 :foreseasonz :2007/06/30(土) 00:49


(りさ子の部屋/了)

212 :さるぶん :2007/06/30(土) 00:55
更新です。

>>202
残念。
ももみやは、次の次くらいに展開する予定なので、お楽しみに。
213 :foreseasonz :2007/07/06(金) 23:27





「だれか、開けて!」

ドアのむこうで声がしました。

そのときだれもが廊下へと注意をむけたのですが、唯一、おかまいなし
だったのは、りさ子です。

なぜかといえば、みやびにべったりでしたからね。

この部屋はりさ子のものですから、本当は、りさ子が開けにいくべきで
したが、本人は気にもとめていないようすです。

よって、ここは、ドアにいちばん近い千奈美が、その役目をはたすべき
でした。

じっさい、ドアを開けたのは友理奈です。

千奈美は、さっきはさまれた頭を、ぎゃーぎゃーわめきながら押さえて
いましたから。

「…もう、うんざり」

重い腰をあげながら、そうつぶやいた友理奈でしたが、その声はもち
ろん千奈美にとどきません。
214 :foreseasonz :2007/07/06(金) 23:28
ドアが開くと、茉麻が立っていました。

抱えるようにして持ったトレーの上には、山とつまれたお菓子とジュース
が乗っています。

とりあえず、それを床に置いてしまうと、茉麻は、部屋の隅からテーブル
を引っぱり出してきました。

そして、持ち合わせた台ふきんで表面をさっと拭いてしまいます。

その手ぎわのよさに見とれてしまったみんなが何もせずにいるあいだ
に、トレーの上のものは、そっくりテーブルの上に移し変わっていました。

「ごめんね、手伝えばよかった」

申し訳なさそうに、みやびがいいます。

りさ子が腕にからみついてくるので、すこし困ったようすでした。

そんなふたりを、部屋に入ってきたときからチラ見していた茉麻でした
が、

「…いっそ親ばなれしてくれると助かるわ」

といって、笑います。

おなじように笑いながら、みんな、テーブルにつきました。

和やかムードに、みんなの手は止まりません。
215 :foreseasonz :2007/07/06(金) 23:28
そして、女の子が3人あつまれば自然なことですが、ささやかな――
でも、すこし辛口な――出されたお菓子についての品評会がはじまり
ました。

「これ、変わった味だね」

自分で口へ放りこんだのにも関わらず、それがなんであるか、判断つけ
かねる様子で、友理奈がいいました。

「地方限定品なの。りさ子が旅行先で大量に買ってきたから、うちにも
あるよ」

気に入ったなら、送ろうか?――と、茉麻はいいますが、げー!といった
のは千奈美です。

その前には、おなじものが食べかけのまま、残されていました。

「ほかにないの?」

というので、茉麻は、お菓子の山からなにか引っぱり出してきます。

「りさ子のパパのやつ、勝手にもってきちゃった」

それは、鮭とばや、イカのくん製といった、おつまみ類でした。

おー、いいね!と飛びついたのは、千奈美と佐紀でした。

ふたりは初対面ですが、おつまみをきっかけにして盛りあがります。
216 :foreseasonz :2007/07/06(金) 23:28
これおいしいよねー!とか、ナッツはピーに限るよねー!とかいって、
自分流のおつまみ論について話しあっているのです。

そんな興奮をよそに、茉麻が切りだしました。

「りさ子ってば、へんなコレクションしてるの」

「へー、どんな?」

抜け目なくあいづちをうちながら、みやびは、おつまみ同好会のふたりを
うらやましそうに見ています。

その前には、千奈美が食べ残したのとおなじお菓子が、やはりおなじよう
に、食べきれずに置かれていたのです。

「地方へ旅行にいくとさ、ポッキーとか、ふつうに売ってるお菓子の限定
品ってあるでしょ?名産の味とかするやつ。あれの空き箱をあつめてる
の」

「そうなの?変わってるね」

そう口ではいいながらも、みやびのこころは、とばを口に運ぶ佐紀のよう
すに奪われていた――と、そのときでした。

りさ子がきゅうに立ち上がり、はじかれたようないきおいで、となりの部屋
へ消えていったのです。

「なに? あたしまた、ヘンなこといった?」
217 :foreseasonz :2007/07/06(金) 23:29
みやびをはじめ、だれもが、ぽかんとしていましたが、茉麻は首をふり
ます。

「見せたいものがあるんだとおもう」

ふたつの部屋は、廊下をとおすことなく、ドアで直接つながっていました。

そのドアを、りさ子が開けっ放しにしていったため、となりのようすは手に
取るようにわかりました。

がさごそと、なにかをひっくり返すような音が聞こえてきます。

「りさ子ったら、あつめた箱をスクラップブックにしてるの。たぶん、それ
を探してるんだよ」

「…ていうか…もぐもぐ…」

口いっぱいにお菓子をつめこみながら、桃子がいいました。

「…となりの部屋も…もぐもぐ…りさ子の部屋なの?…もぐもぐ…」

「そうだよ」

茉麻が答えます。

「…りさ子ってば…もぐもぐ…お嬢さまなんだね…もぐ…ぅっぐ!…水っ…
水っ!!…」
218 :foreseasonz :2007/07/06(金) 23:30

口をぱくぱくさせ、青ざめる桃子に、あわてて食べるからだよと、ジュース
を差しだすみやび。

「あぁぁぁ、死ぬかとおもった…ありがと、みーやん?」

やさしいんだね?といって、しなをつくる桃子ですが、みやびは、

「べっ、べつに…大変そうだなーって、思っただけ。勘違いしないで」

と、そっぽを向いてしまいます。

そのときの桃子は、右手でジュースを受けとりつつも、もう片方の手で、
自分のポケットにお菓子をつめこみまくっていました。

それはテーブルの下でおこなわれていたので、みやびは気づきません。

「あっ!キャプテンってば、ちゃんと残しといてよ?」

そういって、鮭とばを指さすと、のこったお菓子を口に放りこみます。

そのようすを桃子は、ニヤニヤみつめているのでした。






219 :foreseasonz :2007/07/06(金) 23:30


(お菓子な関係/了)

220 :さるぶん :2007/07/06(金) 23:34
更新です。

【お願い】はじめての方は>>70からお読みください
221 :ななしいくさん :2007/07/09(月) 01:39
敵対しているようで桃に優しい雅が良いね。
222 :foreseasonz :2007/07/14(土) 00:13





「ところで、バイト代って、どうなってるの?」

桃子が、切りだしました。

となりの部屋で大さわぎのりさ子を、はしこくいちべつしてからの一言
でした。

「あたしも気になる!」

これは千奈美です。

「いわゆるひとつの前金とか、そーいうものは、ないんですかね?」

手をもみながら、桃子は身をのりだしますが、ポケットをお菓子でパン
パンにふくらましているので、うしろに倒れそうになります。

茉麻は、うーんと、うなって腕組みします。

そして、それを「前金」ってゆうのかわからないけど――と前置きして、
いいました。

「りさ子のパパとママから、いちおう預かってる…」
223 :foreseasonz :2007/07/14(土) 00:14
はなしかけた茉麻に対し、お金のはなしなんてやめよう、と訴えるの
はみやびです。

そうなれば、さすがの桃子も、いくら?とまでは聞きませんが、茉麻の
ようすから、相当な金額であることは、想像がついてしまいます。

「ていうか、信頼されてるんだね」

友理奈は、ほんとうに感心したというようすです。

「あたしは、3つも年上だし、りさ子の家には、ちっちゃい頃から遊びに
きてたからね」

「そういえば、パパとママは?」

みやびは思い出したように、耳をすませました。

なんとなく宙に目を泳がせているようすは、部屋を観察しているようでも
ありましたが、焦点はどこにもあっていません。

この家の生活音を聞きとろうとしていたのです。

みんなも同じように耳をすませますが、聞こえてくるのはりさ子のドタバタ
だけでした。

「病院にいってるの」

茉麻がいうには、このような事情があるらしいのです。

そもそも須藤、菅谷の両家が親しくしているのは、とても近しい血縁関係
にあるからでした。
224 :foreseasonz :2007/07/14(土) 00:14
茉麻のお母さんと、りさ子のお父さんが、兄妹にあたるのです。

親せきの中でも、とくに仲良くしていた二つの家庭には、なにも問題など
なかったのですが、先日、りさ子のおばあさんが入院してしまいました。

それは大きな病気で、しばらく入院しなければならない状態だったので
すが、りさ子と茉麻のそれぞれの両親は、交代で通いながらの看病を
しました。

茉麻の両親は、平日は半分ずつになるようにしよう、土日は、できるだ
けみんなで集まれるようにしようと提案しましたが、

都会に暮らす茉麻の家庭を気づかったりさ子の両親は、なにかと理由
をつけては、近くに住んでいる自分たちのほうが、病院に通う回数を増や
してしまったのです。

そして、こんどは、りさ子のお母さんがダウンしてしまいました。

「じゃあ、大変じゃん!」

友理奈は、はなしに聞き入るあまり、胸のまえで、両手をにぎりしめて
いました。

茉麻はいいます。

「おばあちゃんの病気は、たしかに大きいんだけど、命に別状があるよう
なものじゃないんだって」
225 :foreseasonz :2007/07/14(土) 00:14
りさ子とふたりで見舞いにいくと、よく遊びにきたねといって、おこづかい
をくれるような余裕さえ、あるのだそうです。

「それにね、りさ子のお母さんだって、大事をとって入院してるだけで、
ぴんぴんしてるんだよ」

りさ子のお母さんは、ほんのすこしだけ腸を切ったのですが、このくらい
なんてことないわ、昔ならともかく、いまの技術はすごいんだから、傷口
だって、ほら、もうぜんぜんわからないでしょ?

そういって、その足で、おばあさんの病室へ向かおうとしたところ、たの
むから、せめて二週間は寝ていてくれと、お医者さんに泣きつかれてしま
ったのだそうです。

「よかった…」

まっさきに胸をなでおろしたのは友理奈ですが、みんなも、それぞれに
安心したようすでした。

けれど、この話をしているときの茉麻は、複雑そうでした。

ときおり、となりの部屋を気にしながら、早口になる部分と、つっかえ
つっかえしゃべる部分とが、交互にやってきました。

そして、もっとむずかしい顔になって、いいました。

「いま話したことだって、ほんとうは口止めされてたの」

こどもたちには余計な心配だからと、茉麻はことづかっていたのです。
226 :foreseasonz :2007/07/14(土) 00:15
もちろん、みんなのご両親の許可は、りさ子のパパが差配済みでした
が。

「うちのパパとママは、いま病院にいってるけど、泊まりはこの家だから、
夜には帰ってくる」

「うちらは、そのあいだ、りさ子ちゃんの面倒をみればいいんだね」

先回りするようにいったのは、みやびでした。

「そう。あずかったお金も、受験があるだろうから、これで上等な参考書
でも買いなさいって、りさ子のパパがくれたの。それに…」

ほかに欲しいものがあったら、みんなで使っていいからといって、茉麻
に片目をつぶってみせたというのです。

「それって、自由に使っていいってことじゃない?」

抜け目なくいったのは、桃子でした。

「そう、かなり大目にもらっちゃって、なんか悪い気がしたから…」

茉麻のことばに、友理奈や佐紀、千奈美がふしぎそうな顔をしています。

「――だから」

フォローを入れたのはみやびです。

「お金が多いなと思っても、返すのは失礼になるでしょ、りさ子ちゃんの
パパは好意でくれたんだから。かといって、ふつうに使いきれるような
金額じゃない。」
227 :foreseasonz :2007/07/14(土) 00:15
「それに、りさ子の勉強をみるなら、中3のうちがひとりより、同学年の
みやがいてくれたほうが、はかどるんじゃないかと思って」

それを聞いて、みんな納得したようすでした。

「だから、うちらが呼ばれたんだね」

「みやだって勉強大変だろうけど、おなじ塾だし、頼れるのはみやだけ
だなって…」

「大丈夫、それは気にしないで」

みやびは、笑ってみせます。

「まず最初に、うちがまーから電話もらったの。キャプテンにメール打った
のは、そのすぐ後だったかな」

「あたしは学校で補修受けてたんだけど、みやからメールが来て、かくれ
て見てたの、こうやって、机の下でね。『いいバイトがあるよ』って書いて
あって、迷ってるうちに、いつのまにか桃がのぞきこんでて…」

「すごい嗅覚だね、授業中でしょ?」

「桃なら地球の反対がわにいても分かるよ」

「ちょっと!ひとをハイエナみたいにいわないで」

みんなで笑うと、こんどは友理奈がつづけます。
228 :foreseasonz :2007/07/14(土) 00:16
「うちは、いちばん最後かな。ももちのメールが届いたのは、コンビニに
集まった前の日だったから。ちーは?」

「あたし?」

話題をふられますが、千奈美は、すぐに話したがりません。

「あたしはいいよ…」

「なんで?」

問いつめますが、いいって、ほんとに…と、あいまいな態度を決めこん
でいます。

ときおり、ちらっと桃子のほうを気にするのですが、それを見とがめた
のは友理奈でした。

「そういえばちーって、はじめて会ったときも、ももちと訳ありっぽかった
よね?」

「…そ、それは」

とても動揺したようすの千奈美は、桃子のほうをチラ見しつつ、あぶら
汗を流しています。

「へー、そうだったっけ、徳さん?」

いっぽうの桃子は、涼しげな顔をしていますが、みんなから見えない
テーブルの下で、千奈美の足をつっついています。
229 :foreseasonz :2007/07/14(土) 00:17
「ちがう!ちがうよ、熊井ちゃーん!!」

そうさけぶと、千奈美はとなりの部屋へと消えていきました。

2人のようすに、4人は顔を見合わせるしかないのでした。




230 :foreseasonz :2007/07/14(土) 00:17


(金は天下の…/了)

231 :さるぶん :2007/07/14(土) 00:22
更新です。

>>212の予告ですが、もう少し佐紀になりそうです

>>221
ごちゃごちゃした作品ですが、
みどころを発見してもらえてうれしいとゆいたいです

【お願い】はじめての方は>>70からお読みください
232 :ななしいくさん :2007/07/15(日) 02:53
更新乙です、リクのつもりじゃなかったんだけど…、
レスは気にせず御自身の構想で書いてくださいね。
233 :foreseasonz :2007/07/20(金) 22:07





となりの部屋へ消えていった千奈美を見送ると、桃子がいいました。

「けっきょく、バイト代はどうなるの?」

「また、お金のはなし?」

みやびが顔をしかめると、横から割りこんだひとがいます。

「お金って大事だよ?」

友理奈でした。

うらめしそうに桃子と、むこうの部屋の千奈美とをみています。

「…でも」

「たくさん入ったひとは、そのぶんバイト代も多いんでしょ?」

「そのつもり」

茉麻が答えました。

この点にはみやびも反対がないようでしたから、とりあえず、スケジュ
ールの調整をしておくことになりました。
234 :foreseasonz :2007/07/20(金) 22:07
書記になった佐紀が、りさ子の机からみつけてきた画用紙に線をひっ
ぱっていきます。

日付を入れて、いつ、だれの予定が空いているかを聞いて、記入して
いくのです。

「…ももち、ぜんぶ入れるの?」

できあがった表をみて、友理奈がいいました。

「あ、いま、くまいちょーってば、もーのこと『ヒマ人?』とか、おもったで
しょう!?」

「おもってない、おもってないってば!」

あわてた友理奈は、くわえていたストローを落とします。

「まぁ、気持ちはうれしいけど、ぜんぶだとムリかな」

茉麻は、友理奈の落としたストローのしぶきを拭いています。

「どうして?」

「りさ子はともかく、うちはパパとママの都合に合わせてお見舞いに
いかなきゃいけないから、その日だけ、お休みしようと思って」

「えっ、でも!でも!」

桃子は、食い下がります。
235 :foreseasonz :2007/07/20(金) 22:08
「もーは、しっかりお留守番できるよ?」

「でも、もしなにかあったら、どうするの?大人っていうか、この家にくわ
しい人がいないと…」

前のめりになっていたところへ、水を差すようなことをいわれた桃子が
ちくりといいます。

「みーやんってば、みんなで花火するとき、大人がいなからダメ!って
怒るタイプ?」

つづけざまにいったのは、友理奈です。

「学級委員長?」

それを聞いて、佐紀が、ぷっ!と吹きだしました。

「ちょっと、キャプテン?」

「ごめん、そっくりな部活のエピソードおもいだしちゃったから…」

どんな話なの?と友理奈はたずねますが、みやびからの強い反発が
あって、けっきょく教えてもらえません。

それからも佐紀はくつくつと笑いをこらえるのに必死でしたから、その
横でみやびは、恥ずかしそうにストローの袋を折りたたんでいます。

「うーん」

茉麻は、さっきから腕組みして考えこんでいました。
236 :foreseasonz :2007/07/20(金) 22:08
「たしかに、火をつかったり危険なことするわけじゃないし…桃の好意
もムダにできないし…」

「じゃあ、あとはもう、りさ子との相性の問題だと思うんですけど」

と桃子。

それには明らかな反対がなかったので、本人に決めさせようということ
になりました。

「りさ子、おいで!」

茉麻がとなりの部屋を呼んでみますが、千奈美のドタバタがうるさい
せいか、反応はありません。

見かねたみやびが、りさ子ちゃん?と呼んでみます。

すると、どうでしょう。

トコトコと、もどってくるではありませんか。

「どうしたゆー?」

そこには茉麻の横と、みやびの横と、ふたつスペースがあったのです
が、りさ子は当たり前のように、みやびの横へ座りました。

「すっかり、みやになついてるね」

これは友理奈です。
237 :foreseasonz :2007/07/20(金) 22:09
みやびは、茉麻のほうをチラチラ見ながら、…こ、これが食べたかった
の?と、りさ子にお菓子をさしだします。

りさ子は、首をかしげていて、それをみた茉麻は、

「…ふだん、きびしく叱りすぎたかな」

といいました。

「そんなことないよ、うちだったら、つい甘やかしちゃうだけで、ダメな
ママだと思うし」

「…そう?ありがと」

そう答える茉麻ですが、氷なくなっちゃったね、といって、部屋を出て
いきました。

ドアの閉まったあと、部屋はしずかになってしまいます。

すると、となりの部屋からは、千奈美の声が聞こえてきました。

――うわー!すげー!なんだこれー!

そちらが気になって仕方ないようすのりさ子は、席を立ったり、みやび
の腕にしがみついたり、いっこうに落ちつきませんでした。


238 :foreseasonz :2007/07/20(金) 22:10


(マザー/了)

239 :さるぶん :2007/07/20(金) 22:11
更新です。

>>232
いえ、みやももの進展は以前から決めてたんですよ
それが延び延びになってるという

必ず応えられるとは限りませんが、リクもうれしいです

【お願い】はじめての方は>>70からお読みください
240 :ななしいくさん :2007/07/21(土) 00:04
こないだ初めてまとめて読んだんですが、とても可愛らしい雰囲気のお話ですね。
それぞれ特徴も良く出ていて、ほのぼのしてて、おもしろいです。
続きが楽しみです。
241 :foreseasonz :2007/07/28(土) 00:40





茉麻が出ていったあと、みんな黙ってしまいました。

なにか言おうとして、だれもが口を開きかけましたが、顔を見合わせる
ぐらいしかできません。

「なんの用だゆー?」

そんな中、りさ子が明るい声を出したものですから、この部屋には
お似合いのテンションが必要となります。

すると、みんなの視線は、自然とみやびに集まっていました。

「…ちょっと、みや?」

みやびは、うんともすんともいいません。

佐紀が肩をゆすってみても、おなじです。

みやびは、…あたし、ヘンな言い方した? とつぶやきながら、ストロー
の袋をたたんで、もどして――という反復作業に閉じこもっています。

「…どうする?」

佐紀、友理奈、桃子の3人は、またもや顔を見合わせます。




茉麻が出ていったあと、みんな黙ってしまいました。

なにか言おうとして、だれもが口を開きかけましたが、顔を見合わせる
ぐらいしかできません。

「なんの用だゆー?」

そんな中、りさ子が明るい声を出したものですから、この部屋には
お似合いのテンションが必要となります。

すると、みんなの視線は、自然とみやびに集まっていました。

「…ちょっと、みや?」

みやびは、うんともすんともいいません。

佐紀が肩をゆすってみても、おなじです。

みやびは、…あたし、ヘンな言い方した? とつぶやきながら、ストロー
の袋をたたんで、もどして――という反復作業に閉じこもっています。

「…どうする?」

佐紀、友理奈、桃子の3人は、またもや顔を見合わせます。
242 :foreseasonz :2007/07/28(土) 00:40
そして何となくですが、こんどは佐紀のところへ視線があつまったのです。

「…えっ、あたし!?」

「だって、キャプテンってば、”キャプテン”じゃない」

桃子がそういってズワイガニをチラ見したので、佐紀は、ハッとしてそれ
を抱きしめました。

「すぐ終わるゆー?」

りさ子は、トイレにでも行きたがるように、もじもじしています。

「…うん、すぐ済むよ」

みやびは、うわの空になりながらも、つくり笑いを浮かべています。

そのようすをみて、佐紀は、まゆ毛をキリッ!とさせました。

「ごめん、時間かかるかも」

「どっちなんだゆー!」

りさ子は、ぷんすかします。

「ごめんね。でも、りさ子ちゃんの勉強について、ちょっと聞きたいこと
があるの」
243 :foreseasonz :2007/07/28(土) 00:40
「勉強?…じゃあ、あとにしてほしいゆん」

「どうして?」

先ほどから、りさ子の目は、なにか物音がするたび、となりの部屋へと
引っぱられていました。

――ねー!このタンス開けていいー!?

むこうでは、千奈美が大騒ぎしています。

聞こえてくるのは、りさ子の探し物(スクラップブック)を手伝っている
ために立った物音のはずでしたが、なぜか金属音やバリバリいう音、
ガラスのぶつかる音まで聞こえてきます。

「ちょっとだけ、がまんできない?」

「ダメだゆー!」

りさ子は、体をゆすって落ち着きません。

「ムリだよ、徳さんってば、なにか壊しそうだもん」

ね、くまいちょー?といって、桃子は友理奈をみました。

友理奈は、遠い目になります。

「…そういえば、ちーって会ったばかりの時も、コンビニにでなにか壊し
てたっけ…」
244 :foreseasonz :2007/07/28(土) 00:41
「やっぱり!」

りさ子が立ち上がってしまったので、佐紀は、けんめいに足へすがり
つきます。

ですが、体格差ではりさ子の足元にも及びませんから、ほとんど新種
のスニーカーかというぐらい、引きずられていきます。

テーブルの足に自分の足を絡ませて、佐紀は必死にふんばります。

「あーなると、徳さんは止まらないから」

「たしかに、ちーって、言うこと聞いてくんない時とかあるかも…」

友理奈は苦笑しますが、

――ねー熊井ちゃん!みて、これーっ!

という呼びかけに、重い腰を上げました。

「はいはい、いま行きますよぅ…」

入れ替わりで茉麻がもどってきます。

とたんに、いままで自分の中に閉じこもっていたみやびが、ぱちん!と
目を覚ましました。
245 :foreseasonz :2007/07/28(土) 00:41
茉麻はトレーを抱えていて、今回もさまざまなものが乗せられていまし
たが、ひときわ目につくのは封筒です。

それに、いち早く気づいたのは桃子でした。

「あぁ、これ? りさ子のパパから預かったお金だよ」

佐紀は、りさ子と揉みくちゃになっていましたし、みやびは、茉麻の顔
を遠慮がちにのぞきこんでいましたから、おおー!と歓声をあげたのも、
また桃子ひとりでした。

「どうしたの」

茉麻の問いかけに、みやびは、ううん、なんでもない、と返します。

そして今度は自分も手伝って――というより率先して、トレーのうえの
ものをテーブルへ移しかえています。

「ねぇ、ちょっと、どうにかしてっ!」

佐紀は、格闘をつづけていました。

りさ子が足をもちあげるたび、大なわとびのように振り回された佐紀は、
お腹をしたたか打ちつけるのです。

みかねたみやびが、茉麻の顔をうかがいますが、なにもいわないのを
見てとると、ベッドの上からクッションを取りました。

「りさ子ちゃん、ここ、座って」
246 :foreseasonz :2007/07/28(土) 00:41
みやびは、自分と茉麻のあいだにそれをおくと、軽くたたきました。

「…うぅ…わかったゆ」

りさ子は、みやびに見つめられたとたん、歯を食いしばって席につきま
した。

ようやく解放された佐紀はというと、すみの方でヘロヘロになっていま
す。

「キャプテンなりに、がんばったと思うよ」

桃子は、うんうんと自分でうなづいて、佐紀の肩をたたきます。

「さて――キャプテンはお話にならないとして、もーと みーやんのどっち
がお留守番係になるか…、それを決めるんだよね?」

桃子のいうとおり、いまテーブルについているりさ子以外のメンバーは、
みやび、桃子、茉麻の3人だけでした。

茉麻がいない日のことを決めるわけですから、彼女を外して考えること
になっています。

「ということは、もーで、決まりだと思うんですけど?」

「異議ありっ!!」

みやびは、すぐに手をあげました。
247 :foreseasonz :2007/07/28(土) 00:42
「じゃあ、どうするの?みーやんがやる?」

「…それは」

みやびは、うつむいてしまいます。

「…りさ子だって、もうすぐ中学生だし、そういう経験をするのもありかな
って思う」

茉麻が、いいました。

となりでは、りさ子がお菓子を食べていましたが、その食べこぼしを、
じっと見つめています。

「じゃあ、もーで決定だね」

「それは!」

「だって、みーやんは自信ないんでしょう?」

「そうだけど…」

「もーじゃいけない?大人じゃないから?もーは、大人だよ」

そのあと会話がつづかなくなると、静かになったむこう側から、とつぜん
大きな声がしました。

――あったー!!
248 :foreseasonz :2007/07/28(土) 00:42
ドタバタと大きな足音をさせて駆けこんできたのは千奈美で、その手に
は、一冊のノートがにぎられています。

「りさ子、これでしょ!?」

「そうだゆー!」

りさ子は、千奈美の手からそれを奪いとると、テーブルのうえに広げて
みせます。

持ちぬしである りさ子はもちろんのこと、みつけてきた千奈美、おくれて
きた友理奈の3人は、スクラップブックに顔をよせました。

りさ子は、それを一ページずつめくってみせる一方で、あまりに鼻先を
近づけすぎた千奈美から、ちょっとずつ遠ざけていきます。

みやびは、そのようすを目のはしへと追いやるよう、つとめていました。

そこへ茉麻の顔が入ると、うちは、いつも見せられてるから…と苦笑い
が返ってきます。

動かされたノートは、いつのまにかみやびの前に来ていました。

そこには、《ポッキー めんたいこ味》や、《森永ミルクキャラメル ジンギ
スカン味》――という商品のパッケージのうち、《限定品》とか、《博多
限定》とかいう文字がプリントされた部分だけ、スクラップされています。

みんな口々に感想をいい合っているので、へばっていた佐紀まで起き
あがってきました。
249 :foreseasonz :2007/07/28(土) 00:42
しかし、どれだけページをめくっても、それしか出てきません。

めくれどめくれど、《地方限定》《沖縄名物》《宮崎県のソウルフード》と
いった文字ばかりで、商品の写真とか、かんじんの中身を想像させる
部分がまったく出てこないのです。

「…なにこれ」

友理奈のひとことで、その場のテンションが下がってしまいました。

「…つまんない」

千奈美が追い打ちをかけます。

りさ子は、ものすごい勢いでみやびをふり返ると、食べ残したお菓子で
「げー!」といったときの千奈美と、おなじような顔をしました。

あのとき、みやびも同じお菓子を食べていましたが、表情には出しま
せんでした。

りさ子に見られたみやびは、あの時と同じような顔をしてみせたのです。

それから、書記という立場を思い出した佐紀がスケジュールを確認し
なおし、当番表が完成しました。

そこには、空白にしておいたところが二箇所あって、茉麻がお見舞い
にいく日でした。
250 :foreseasonz :2007/07/28(土) 00:42
そのうちの一つが明日で、名前が入ったのはみやびと桃子です。

その時の部屋はみょうな空気になっていたため、だれもが言ったひと
を忘れてしまいましたが、内容はみんな覚えていました。

完成した当番表をみて、だれかがこういったのです。

――りさ子の教育係をかけた決勝戦だね。





251 :foreseasonz :2007/07/28(土) 00:43


(マザー2/了)

252 :さるぶん :2007/07/28(土) 00:52
更新です。

書いてるうちにとっちらかってきました…
すでに中盤をすぎてる予定だったプロットを、今練り直してます
ちょっとピンチな感じです

>>240
ありがとうございます
”ほのぼの”は意識して書いてるので、
なるべくこのトーンは維持したいと思ってます
(といってる尻からギスギス気味ですが…)

【お願い】はじめての方は>>70からお読みください
253 :ななしいくさん :2007/07/28(土) 23:30
素敵です。所々の小ネタに思わずニヤニヤしてしまうw
これから三人どうなるんでしょうか、気になります。
254 :ななしいくさん :2007/07/29(日) 02:10
熊井ちゃんとちーちゃんは、もう仲良しになってたんですねぇ。
ちーっとももの訳ありも気になる!、
まだまだ楽しめそうですジックリ構想を練ってください。
255 :foreseasonz :2007/08/03(金) 23:27





「いま着いたところ」

ケータイを耳にあて、駄菓子屋の玄関にたたずんでいるのは、みやび
でした。

――はやくない? まだ9時だよ。

通話口のむこうで、おどろきの声をあげたのは佐紀です。

みやびは表情をどこかにおき忘れたまま、建物をながめていました。

――ねえ、聞いてる?

「…聞いてるよ」

みやびの手には、一枚の紙がにぎられていました。

そこには地図が描かれていて、いちばん上のところに、【平成ゲーム
センターあらし/幻の筐体をさがせ!】というタイトルが打たれています。

「…まちがいない」

みやびは、口のはしからこぼすようにいいました。
256 :foreseasonz :2007/08/03(金) 23:28
「…キャプテン。みやは、ついにみつけました」

――なんの話?ぜんぜん、わかんないよ。

地図をにぎりつぶすことも恐れず、みやびは、きつく結んだこぶしを持ち
あげました。

「いくよ」

――どこへ?

みやびは、建物のなかへ一歩足をふみ入れると、ごくりとのどを鳴らし
ます。

背中に感じていた日差しをわすれ、暗がりのようすが次第にピントを
あわせていくにしたがって、勇気に満ちあふれたまなこが、はげしく動き
ました。

はじめに見つけたのは、だれもいないレジでした。

つづいて、汗っかきの冷蔵庫、まん中に並んだいくつもの棚――お菓子
と日用品が、ゆとりをもって並べられています――というふうに目をうつし
ていくと、一周したところで、それは止まりました。

「…ない!」

みやびは、店中をかきまわすように歩きました。
257 :foreseasonz :2007/08/03(金) 23:28
「…どこにも、ないよ!」

くまなく見てまわりましたが、ほかにあるものといえば、背のひくい
アイスの冷蔵庫と、ヤンキーの虫歯みたいなスカスカの本棚ぐらいです。

みやびは、もういちど地図を確認しました。

かなり大雑把でしたが、そこに描かれているのは、この店へのルートで
まちがいありません。

――みや?落ちついて。

「…そんなはずはないの。このサイトの管理人さんとも掲示板でやりとり
したんだから」

――サイトって?

「…うろ覚えで描いた地図だから、わかりにくいかもしれないけど、たしか
にあるって、いってたのに」

みやびはガラスのない窓から、しばらく向こうをながめていましたが、
思いついたように外へ出ると、店のぐるりを歩きはじめました。

――ていうか、どこにいるの?りさ子ちゃんの家じゃないの?

「ちがうよ」
258 :foreseasonz :2007/08/03(金) 23:28
――じゃあどこ?カテキョは午後からでしょ?

「そうだよ」

みやびは裏山へ入ったり、田んぼの道をもどったりしながら、最後、店の
裏手にまわってみましたが、そこに広がっているのはふつうの景色だけ
でした。

それきり、みやびの足は止まってしまいます。

――ねぇ、みや。落ち着いて、事情を話してみてよ。

佐紀は、ほとんど頼みこむ口調になっていました。

みやびは、たまたまそばにあったプラスティックの空き箱へ腰をおろす
と、逆の手にケータイを持ちかえました。

汗ばんだ手をパンツへこすりつけます。

「…うち、りさ子ちゃん苦手でさ」

――苦手って、そんな…。

「…まぁ、苦手っていうと、ちょっとちがうけど、まーにどんな顔して会った
らいいのか、わかんなくって」

――それは…うん、分かるかも。
259 :foreseasonz :2007/08/03(金) 23:29
「午後までに時間あったから、なんか気晴らしたいなと思ってネットして
たんだ――」

――そういえば、ごめん。うちも今日だけは委員会の用事が外せなくっ
て。

「いいの、気にしないで――それで、よく見てたゲームのサイトがあるん
だけど、久しぶりに読み返したら、おもしろいゲームセンターの情報が
載ってたの」

――そういえば、中学の頃、ゲーセンめぐりにつき合わされたっけね。

「うん――それでね、サイトには手書きのへたくそな地図しかなかった
んだけど、ちゃんとした地図と照らしあわせてみたら、りさ子ちゃん家の
すぐ近くだったわけ。

これって、ちょうどいいじゃんって思って、地図をプリントアウトしてきた
の。そしたら…」

――見つからないね。

佐紀は、まるで、いまそこにいるかのようにいいました。

そして、ふふっ…と笑います。

「…なに?」

――ううん。そういうとこは、まえと変わんないなと思って。
260 :foreseasonz :2007/08/03(金) 23:29
「なにが?」

――すごく行動的なとこ。

「うん。…っていうか、変わったとこなんてある?」

――まぁね…。

「なに?はっきりいってよ」

――うん。

佐紀は、ひと呼吸だけ間をおきました。

――きっと、バスケができなくて、打ち込めるものがなくなったせいだと
思うんだけど、最近のみやって、色んなことに熱くなりすぎかな…って。

「そんなこと…」

空き箱に描かれたコカ・コーラの文字を指でなぞりながら、みやびは
口ごもります。

――こないだも、駅前で自転車にひかれそうになってたし。

「…あ、あれは」

ケータイごしにも関わらず、みやびは赤い顔をかくす仕草をしました。
261 :foreseasonz :2007/08/03(金) 23:29
――それにさ、空き地でも桃とやりあっちゃって。

「…あ、キャプテン、もしかして根に持ってる?」

みやびは青空にむかって上目づかいになりました。

――…う、ううん、ぜんぜん!

佐紀は、すこしあわてたようすでしたが、みやびは、ほっと息を吐いて
立ち上がりました。

「よかった…。みやは、いつもキャプテンに助けられてて、感謝してるん
だよ?」

――うん。

それから、しばらく二人は黙っていました。

みやびは立ち上がったぶん、空をすこし高い位置から見ていますから、
表情が晴れやかでした。

「ありがとう、キャプテン。あとはべつのとこで時間つぶすよ。そっちの
時間、だいじょうぶ?」

そういって、みやびは歩き出します。

――うん、そろそろだから切るけど、桃とのカテキョがんばってね。

「…そ、そうだね」
262 :foreseasonz :2007/08/03(金) 23:29
佐紀の口調は、ほんとにこれで切るよ――という感じのものでしたが、
みやびの歯切れがひじょうに悪かったため、通話はつづきました。

――なんで、桃とは仲がいいじゃない。

「…は? 仲がいい? みやと嗣永さんが?」

――そうだよ、いつまでも強情はってないで、すこしは素直になったら?

「強情なんか、はってないもん!」

通話口に頭から入っていきそうないきおいのみやびが、身ぶり手ぶり
で反論をはじめた、そのときでした。

裏山から、サロペットジーンズのおじさんが下りてきたのです。

今日は自転車に乗っていませんでしたが、その代わり、奇妙な行動を
とっていました。

右の手に何かがにぎられていて、それをジャラジャラともてあそんでい
るのです。

口をぱくぱくさせているみやびに見つめられたおじさんは、それを空気
みたいにやりすごすと、駄菓子屋へむかっていきました。

そして歩道に面した玄関をとおりすぎると、さっきみやびが腰かけて
いた店の裏手へと消えていったのです。
263 :foreseasonz :2007/08/03(金) 23:30
「…あ」

みやびは、ようやく声をあげました。

――どうしたの?

「…キャプテン?」

――なに?

「…みやは、ほんとうに見つけたかもしれません」

半笑いになったみやびは、おじさんを追って駆け出しました。

「みや、いくよっ!」

――どこへ!?

佐紀は、悲鳴にも似た声をあげました。

――なに!?ほんと、わかんないってば!!




264 :foreseasonz :2007/08/03(金) 23:30


(サロペットに導かれて/了)

265 :さるぶん :2007/08/03(金) 23:37
更新です。

>>253
オリジナルも含めて、筋と関係ないネタが多すぎるかな?
と心配だったのですが、楽しんでもらえてるようでひと安心です。

>>254
とっくまがメインにくる話って、なかなか思いつかないんです。
自分でも好きなCPなんですけどねえ。

ふぉーえばーずは…長い目で見守っていてほしいです。

【お願い】

はじめての方は>>70からお読みください
266 :ななしいくさん :2007/08/04(土) 00:20
やっぱり!みやが気になってる人は…だったんですね、素直じゃない所も良いな。
267 :foreseasonz :2007/08/11(土) 00:01





サロペットのおじさんは、店の裏手へと入っていきました。

それを追いかけていったみやびは、物陰からちょこんと鼻先を出して、
ようすをうかがっています。

すると、おじさんは、一見してなにもない場所に立ち止まると、ひょいと
手をかざして、なにかさけびました。

内容は聞きとれませんでしたが、カミナリのような声がひびいて、建物
がゆれたようでした。

みやびは、そのようすを息を飲んで見守っています。

――どうしたの!?

(…しずかにして!キャプテン)

通話口に手をあてて、みやびが背を向けようとしたそのときでした。

駄菓子屋の背中のトタン板に、すっと亀裂がはしったのです。

その亀裂は、やがて暗闇となって広がり、奥から、がたぴしのおばあ
さんがあらわれました。
268 :foreseasonz :2007/08/11(土) 00:02
ふたこと、みこと会話をすると、おじさんを中へまねき入れます。

「…魔法使いみたい」

みやびは、ため息をつきました。

――みや、教えて、なにがあったの?

「この奥に、あるんだ…」

みやびは、入り口が開きっぱなしなのを見てとると、かけ出しました。

入り口の壁にいちど背をあずけ、中をのぞき込みやすいようにケータイ
を持ちかえます。

「なんにも見えないよ…」

強い日ざしが外から追いかけてくるので、中のようすをうかがおうとす
る試みは、うまくいきません。

おじさんたちの立てる音は、足音から話し声から、すっかり聞きとれな
くなっていましたから、みやびは一歩、ふみ出すことにします。

暗闇のなか、ひんやりとした空気を泳ぐようにして進んでいくと、とつ
ぜん、ぱちぱちっ!という音とともに、光がとび散りました。

「…きゃっ!」
269 :foreseasonz :2007/08/11(土) 00:02
みやびは、思わずしゃがみこみました。

――どうしたのっ!?みやっ!だいじょ…

佐紀のひび割れた声が、通話口に押しこまれたみたく、とぎれます。

みやびは手で顔をおおったまま、低くうなるブーン…という音にふるえ
ていました。

「…ケータイ、ケータイ」

けんめいに左手を動かすみやびですが、右手には、しっかりとケータイ
をにぎりしめています。

しゃがんだ拍子に落としたと思ったものは、じつは、カチューシャだった
のです。

ふり乱した髪は、”すだれ”のようになって、みやびの視界をさえぎります。

「…よぐ来だな」

頭のうえから、声がしました。

イモ虫でもはうように、すこしずつ声のした方へ視線をうごかすと、サロ
ペットジーンズの足が伸びています。

その土汚れを通りすぎ、日に焼けた顔へさしかかろうとしたとき、こんど
は、ごう音が鳴りひびいたのです。
270 :foreseasonz :2007/08/11(土) 00:02
「…ひゃあっ!!!」

みやびは、完全に尻モチをついてしまいます。

「ひさしぶりに来でみれば…」

おじさんは、手のひらに乗せた小銭をジャラジャラともて遊びながら、
堂々たる足どりで、部屋を移動していきます。

みやびは、あちこちへ首をまわしますが、四方に置かれたゲーム機の
けん騒は、いっしゅんで外の世界を消し去るほどでした。

「…めんこい挑戦者がいだもんだ」

ひとつのゲーム機にすえられたパイプ椅子へ、おじさんは、どかっと腰
を落とします。

その反対がわには、”チェリーコーク”と書かれた空き箱があって、そこ
をいちべつしたおじさんの行動を、みやびは見のがしませんでした。

うん、と、うなづくと、そこへ腰かけます。

――1プレイ 10円

その激安価格に、みやびは目を丸くします。
271 :foreseasonz :2007/08/11(土) 00:03
小銭をとり出すため、ポケットから財布を引っぱった拍子に、みやびは
地図を落としました。

しわくちゃになった地図には、ここへの道順のほかに、こう書かれてい
たのです。

――ここにしかない激レアな筐体を目当てに、謎のオヤジゲーマーが
おとずれる、ひみつのスポット。…テクニックと小銭は、いくらあっても
足りないぜ!?

「おじょうちゃん」

…しゅぼぅ!!という音がすると、機体のむこうで煙が立ちました。

「…そのかわいい顔ば涙で汚しだぐなげれば、お家で、ママのお手伝い
でもすでればいいさ…」

もし、このとき、みやびがわきから顔を出したとしても、おじさんの表情
は読みとれなかったでしょう。

なぜなら、ショートホープのたゆたう煙が、おじさんを取り囲んでいたから
です。

「…ぜったいに、負けない」

みやびは、歯を食いしばると、コインを投入しました。
272 :foreseasonz :2007/08/11(土) 00:03
――【スベランカー?】

タイトルがあらわれると、まっくらな画面を、あらすじがスクロールして
いきます。

――いまから 4000ねん まえ さばくに かこまれた くにで クーデター
がおこった。

おう の いちぞく が うけつぐ という せかい を しはいする まほうの
ちから 【クマールのひほう】 を うばうことが もくてきだった。

れっせいに たたされた おう は いちぞくのはか として つかわれていた
ピラミッドに じぶん の たましい を ねむらせ ひほうを まもりぬいたとい
う。

…そして いま。

【チト と チコ】 という ふたりの 【ダジャレーハンター】が あらわれた。

いちぞく の いきのこり として ひほうのありか を しるとされる 【ユリー
ネひめ】 が あくのそしき によって さらわれ ゆうへい されている のだ。

はたして 【チト と チコ】は ひめをすくいだし あくのそしきから せかい
を まもることが できるのか?

画面が暗くなると、みやびのおでこを、つつ…っと、汗がすべり落ちま
した。

明るさをとりもどすと、上下二段に分かれた画面のそれぞれに、キャラ
クターが立っていました。
273 :foreseasonz :2007/08/11(土) 00:03
おじさんのあやつる【チト】は上の段、下のリボンをつけたキャラが【チコ】
で、みやびのキャラでした。

――START!!

ふたりは、いっせいにレバーをたおしました。

チトとチコは、同時にかけ出します。

せわしなく動くドット絵のキャラクターには胴体がなく、まるで頭から直接
手足がはえているようでした。

画面が横へスクロールしていくと、宝箱があらわれます。

「操作がわかんないよ、キャプテン!」

みやびは、にぎりしめたままだったケータイを無意識のうちに耳へ当て
ましたが、ハッとして、下ろします。

「…だめっ、ひとりで、がんばらなきゃ!」

ぶんぶんと首をふって、チコをその前に立たせると、迷ったあげく、いく
つもあるボタンの中から、赤をえらびました。

すると、【いいっしょ?】と書かれた、マンガの”ふきだし”によく似たもの
が飛びでてきて、画面上におさまりました。
274 :foreseasonz :2007/08/11(土) 00:03
すぐさまべつのボタンを押すと、画面はしに、新たな”ふきだし”がいくつ
も出現します。

みやびは、そうかっ!とさけぶと、すばやく目をはしらせ、【この衣装】を
えらびました。

チコの頭上に、電球のマークが、ピコーン!!と光ります。

画面右から、敵キャラクターがやってきたのを見てとったみやびは、もう
いちど赤のボタンを押しました。

すると、チコはいったん、ふんぞり返ったかと思うと、大きく開けた口から、
なにかを吐きだしました。

――この衣装、いいっしょ!!!!!!!!!!???????

ずどーん!という音とともに、チコの体の2倍はありそうな文字が、敵を
めがけて飛んでいきます。

包帯でぐるぐる巻きになった敵キャラは、その直撃を受けると、ケタケタ
ケタ!…という音を発し、お腹をかかえて転げまわると、やがて消えまし
た。

画面右上に、【100ボケー】という表示があらわれました。

「…すごいっ!攻撃がダジャレなんて、ざんしん!」

みやびは、とても、こうふんしていました。
275 :foreseasonz :2007/08/11(土) 00:04
そのままピラミッドの奥へすすんでいき、手に入れたフレーズを使って
敵をたおしていると、段差があるところから、チコが落っこちてしまいまし
た。

「あー!やられた!」

そうです、このゲームのキャラは、ひざぐらいの高さから落ちただけで
死んでしまうという、貧弱選手権の世界チャンピョンだったのです。

もういちど、はじめからやり直しです。

1ゲーム10円ですから、コインを入れなおさなければいけません。

すると、今度は、さいしょの宝箱で出てきたフレーズが、【カニ】という
ものでした。

しかし、ダジャレになることばが、”ふきだし”の中にみつかりません。

「…チコ!ボキャブラリーが足りないよ!」

みやびは、イライラしてレバーをいじります。

こうしてるあいだにも、画面上段のおじさんは、すいすいと先へすすん
でいたからです。

しかたなく、敵をよけてすすみます。

みやびは、持ちまえのテクニックを駆使し、おじさんにも負けないスピ
ードですすんでいるはずでしたが、いつまで経っても、おじさんとおなじ
ステージにたどりつきません。
276 :foreseasonz :2007/08/11(土) 00:04
それも、そのはずでした。

おじさんの画面をよく見てみると、さきほど、みやびが落っこちて死ん
だような段差へむけて、おじさんは、わざわざキャラクターを落として
いるのです。

そして、そのままキャラクターは消えて、とつぜん、べつのステージに
あらわれるのです。

「…ワープ? そんなのズルい!!」

おじさんは、すべてのワープポイントを記憶しているようすでした。

みやびも、見よう見マネで落ちてみますが、うまくいきません。

それどころか、お財布はどんどん軽くなっていき、コンテニュー画面が
カウントダウンを終えてしまわないうちに、両替機とのあいだを、なんど
も行き来しました。

気づけば、5000円札を1枚残すだけ、という状態になっていました。

「…あれ?」

みやびは、あせる気持ちをおさえ、お札を両替機に入れるのですが、
なんどやっても戻ってきてしまいます。

うら表を変えても、いくらキレイに伸ばしてみても、おなじ結果です。

そう、この両替機は、1000札と小銭しかつかえなかったのです。
277 :foreseasonz :2007/08/11(土) 00:04
「そうだ、おばあさん!」

みやびはあわてて、部屋中を見わたしました。

すると奥のほうに座敷があって、そのさらに向こうがわで、レジスター
にうつぶせているおばあさんを発見しました。

「…ばあさんなら、起こしたってムダだで。地震が来でもイビキかいとっ
たいうて、こごらじゃ有名なんだがら」

おじさんが、華麗なゆびさばきで、ボタンをパチパチやりながら、いい
ました。

「…そんな」

みやびは、両替機にうなだれかかると、歯を食いしばりました。

こうしてるあいだにも、おじさんは、どんどんと先のステージへめがけ、
ワープをくりかえしています。

すると、そのときでした。

「…小銭〜、小銭はいらんかね〜」

入り口のほうから、調子のよい、甘ったるい果実のような声がしたのです。

みやびは、神様でもみるような顔でふり返ると、そこに、そそり立つ小指
をみつけたのでした。



278 :foreseasonz :2007/08/11(土) 00:04


(伝説の筐体 「スベランカー?」/了)

279 :foreseasonz :2007/08/11(土) 00:07
更新です。

元ネタが、古すぎますねw

いちおう書いておくと、「スペランカー」「ルドラの秘宝」
「スーパーマリオ」それに「ワギャンランド」です。

>>266
この状況でどうなるか…次回をおたのしみに。

【お願い】はじめての方は>>70からお読みください
280 :foreseasonz :2007/08/18(土) 02:27





「…小銭〜、小銭はいらんかね〜」

桃子の首には、また弁当箱がぶらさがっていました。

こんどは、タラバガニです。

「…1円、10円、5円に、100円。 50円だってあるよ〜」

「くっ!くださいっ!」

みやびの声は、上ずっていました。

どんどん先へすすんでしまうおじさんと、それから桃子とを見比べて
いるみやびですが、画面では、ゲームオーバーへのカウントダウンが
はじまっていました。

10…9…8…7…と減っていく数字が「0」になってしまわないうちに、
コインを投入しなければいけません。

でないと、1からやり直しという寸法でしたから。

「…あ、まいどありー」
281 :foreseasonz :2007/08/18(土) 02:27
桃子は、たったいま気づいたという顔をします。

「…と、とりあえず、10円玉を 100まい!」

「おー、お客さん、けーきがいいねー」

桃子はタラバガニのおなかを、めりめりっ!とひらくと、なかから10円
玉を とり出しました。

そして、中ゆびと親ゆびをつかって、目にもとまらぬスピードで数えあげ
ていくのです。

スマイルはおまけしとくよーと、にやにや笑う桃子から、それを引ったく
ったみやびは、穴へほうり込もうとしました。

「…トイチだよ」

桃子が、ぼそっといいました。

「…え?」

「だから、トイチですよ、トイチ」

みやびが固まっていると、おじさんが助け舟をだしました。

「…トイチってのは、10日で1割の利子がつくというこどだ。まー、ぼっ
たくりみたいなもんか」
282 :foreseasonz :2007/08/18(土) 02:27
みやびは、あやうくコインを入れてしまうところだった手を、ひっこめまし
た。

「ひっ、ひどいっ!!」

「イヤならいいんだよ?」

そういって、桃子は画面をちらっとみました。

数字がひとつ減るたびに、画面の右はしから伸びてきた黒板消しが、
チコのからだを、ちょっとずつ消しているところでした。

――ちがう、なんでこんなやったの、ひど〜い!!

画面では、もはや半分のからだしか残っていないチコが、ひめいをあげ
ていました。

「…でも」

はっきりしないみやびに、桃子はすごみます。

「…お客さん、ツグナガ商会をなめてもらっちゃぁ、こまりますね〜」

チンピラのように、おう?おう?と舌を鳴らしながら、みやびのまわりを
ぐるぐる回っています。

「こちとら、ガキの使いで来てんとん、ちがうんでっせがな〜!?」
283 :foreseasonz :2007/08/18(土) 02:28
みょうな関西弁でした。

「でも…」

みやびは、くちびるを噛みしめています。

力みすぎて、青白くなってさえいました。

それを見た桃子は、きゅうに声色を変えます。

「じゃあ、もーのこと、『プリンセス☆ピーチッチ』って呼んでくれる?」

「…ハァ?」

うふ!と、しなをつくる桃子ですが、みやびは、ないない…というふうに
首をふっています。

「じゃあ、『桃姫』は?そしたら、利子はチャラでもいいよ」

「…うぅ」

みやびは、涙目になっていました。

桃子への怒りなのか、おじさんのショートホープのせいなのか、それは
分かりません。

「…ほら、ほら、終わっちゃうよ?」

みやびは、まじまじとした顔で桃子をみていますが、画面の数字が「1」
なのをみてとると、あわててコインを投入しました。
284 :foreseasonz :2007/08/18(土) 02:28
「もうっ、どうにでもなれ!」

レバーをにぎると、ふっ活したチコをあやつって、ふたたびワープじごく
にむかっていきます。

いっぽう、おじさんはラストステージに入っていました。

台のむこうから、デロデロデロ…とおどろおどろしい音楽が聞こえてきま
す。

「…やばい、もうラス面!?」

ジャンジャカ〜!と、ごう音が鳴りひびくと、ピラミッドの奥にある【ひほう
のま】が開きました。

――ゆん、ゆん、ゆ〜ん、ゆんゆゆ〜ん、ゆんゆゆ〜ん♪

どこかで聞いたような音がして、おじさんの画面には、黒いかげがあら
われます。

――だい 3 かい DDT ちゃんぴょん の ざ は、わたさない ゆー!!

ぱっと光がさし、黒いかげが、おおきな女の子に変わりました。

――なんと あくのそしき は 4000ねん もの ねむり に よって このピラ
ミッド を まもりつづけてきた 【リーシャ じょおう】 を ふっかつ させた!!
285 :foreseasonz :2007/08/18(土) 03:05
「ラスボスだっ!」

みやびは、覚悟していたように、さけびました。

――【リーシャ じょおう】 は はか を あらされたことに いかりくるい われ
を わすれている もはや これは ありしひ の うるわしき 【リーシャ じょお
う】では なかった。

空中にふわり浮かびあがった【リーシャ女王】――いえ、リーシャの
亡霊は、強力なダジャレをつかって、はげしい攻撃をくりだしてきます。

おじさんのチコは、ワープをくりかえして手に入れたボキャブラリーに
よって、すこしずつリーシャの体力をけずり取っていきます。

しかし、ゲージが3分の1まで減ってしまうと、リーシャはまったくダメー
ジを受けなくなりました。

「くそーっ、ダジャレだけではダミかっ!?」

「いまのうちだよっ!」

みやびは、おでこに汗しながらレバーを傾けています。

その横では、桃子による、小指をふっての大応援がくりひろげられてい
ました。

「…あぁ、もうっ!小ゆびが気になるぅ!」
286 :foreseasonz :2007/08/18(土) 03:05
そういって、ふと、目をそらしたときでした。

レバーそうさに失敗して、敵キャラにふれてしまったのです。

ところが、それは奇妙な形の穴のなかのことでして、チコは見たことの
ないステージへ飛ばされてしまいました。

「こっ!これは、まぼろしのボーナスステージでねが!?」

おじさんが、さけびました。

チコは、まっ青な画面の奥からながれてきた 【ながしおーどん】 を獲得
しました。

するとボキャブラリーのステータスが変化して、【ぎおん】の能力を手に
入れたのです。

これは、おじさんのチトが、入手していない能力でした。

コンティニューをくりかえしたり、コースをもどったりしていたのですが、
けっきょく、みつけることができなかったのです。

みやびの手元にあったコインが、あと3まいを残すのみとなると、ようや
く、おじさんに追いつく時がきました。

――だい 3 かい DDT ちゃんぽ(ry

――のーにゅっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
287 :foreseasonz :2007/08/18(土) 03:06
みやびは、リーシャが登場するとすぐさま、【ぎおん】をはなちました。

ライフゲージは、あっというまに減っていき、残りわずかとなったとたん、
画面がぱっと変化しました。

50音順にひらがなが並んでいて、それが左右にひとつずつあります。

――レバー を うごかして リーシャ より はやく ダジャレ を かんせい
させろ!

画面には、【うし】というお題がでました。

「…牛でダジャレ?」

まん中には時計がカチカチと動いていて、制限時間を示しています。

みやびのためらうあいだにも、針は確実にすすんでいました。

――うし が うし になった

リーシャは、意味不明のダジャレを完成させましたが、ブー!と鳴らさ
れてしまいます。

「…意味がとおらないとダメなんだ」

みやびは頭を抱えて、うし…うし…うし…と何度もつぶやいています。
288 :foreseasonz :2007/08/18(土) 03:06
桃子が、さけびました。

「ぜんぜん倒せないんだけどー!?」

桃子は、いつのまにか、べつのゲーム台に座っていました。

そのてっぺんには、【ストリートファイターproject ♂】と書かれたPOP
がのっていて、技の出し方がずらりと並んでいます。

「ちょっと!うちが真剣に悩んでるのに!!」

みやびが立ち上がって、桃子につめよります。

「だって!マイミスライム速すぎるんだもん!」

桃子のあやつる【桃デーモン】は、敵キャラにダメージをあたえることが
できないようでした。

「格ゲーなんて、やってないで…」

「…あ、うしろ、いいの?」

画面では、リーシャが、つぎつぎとダジャレをくりだしています。

もちろん、【うしがうま】とか、【とらがとーってなってらいおんになった】
とか、あいかわらずのクオリティでしたが、みやびは、はっとした表情に
なりました。
289 :foreseasonz :2007/08/18(土) 03:06
「…うしろ!?」

すぐさま席にもどると、目にも止まらぬはやさで、こう入力しました。

――うしろ に いる うし。

画面が、まっくらになりました。

すると、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…とゆれるピラミッドが映しだされ、光を
放ったかと思うと、こんどは真っ白になりました。

あらわれた画面には、チコと、そして、ふたりの女性が立っていました。

――ありがとう チコ あなた が たすけて くれたのですね?

それは、まぎれもなく 【ユリーネ姫】 でした。

チコのもとへかけよった姫は、抱きついて、キスをしました。

――こうして チコ は 【クマールおうこく】 を すくい 【ユリーネひめ】 と
けっこん した。

あくのそしき に あやつられていた 【リーシャじょおう】 は チコに れい
を いって やすらかなねむり へと ふたたび ついた。

せかい の へいわ は たもたれ 【クマールおうこく】は えいえんに はん
えい を おうか したのだった。

                                   【END】
290 :foreseasonz :2007/08/18(土) 03:07
「やったー!!」

みやびが飛び上がってよろこぶと、桃子は、落ちこんだようすでした。

「…どうしたの?」

「マ、マイミスライムが…」

桃子は、みやびに訴えます。

「…せっかくとどめ刺したと思ったら、パルプンテつかわれてさ、そした
ら梅パットが乱入してきて、『…でもウソなんだよ』とか、いうじゃない?
気づけば体力ゲージが全快してたの。そんなのって、そんなのって…」

桃子は、ふえーん!と泣きだすと、両手で顔をおおってしまいました。

「…ちょ、ちょっと泣かないでよ」

みやびは、肩にふれようと手をのばしました。

「…つ、嗣永さんのおかげで、さいごのダジャレ思いついたんだよ。
みや、すごくうれしかった…だから…元気だして…」

しかし、おっかなびっくりになって、その手をひっこめてしまいます。

「…ひっぐ…えっぐ…ほんと?」

「…ほ、ほんとだよ」
291 :foreseasonz :2007/08/18(土) 03:07
みやびは、顔が赤くなっていました。

「…じゃあ、『桃姫』って呼んでくれる?」

桃子は、小指のあいだから、ようすをうかがっています。

「…そ、それは」

「な〜んだ」

桃子は、いっしゅんで泣き顔を吹きとばすと、ケロリ元どおりになりまし
た。

「…う、ウソ泣き?」

「嘘じゃないよ。 『もも』って呼ぶ約束はホントだよ?」

桃子は、ずんずんと、みやびに迫っていきます。

みやびは、床にちらばったイスや空き箱をけとばしながら後ずさると、
すみっこに追いつめられてしまいました。

「…あの、えっと、その」

助けをもとめるようにおじさんを見ると、観念しろ…と、いわれてしまい
ます。
292 :foreseasonz :2007/08/18(土) 03:07
となりには、いつのまにか、おばあさんも来ていました。

「…わしらが、仲人になってやるから」

まるで結婚式みたいなことをいうのです。

「…て、ていうか、なんでここにいるって、わかったの」

「キャプテンに電話したからだよ?」

「…じゃあ小銭は?」

「みーやんのことは、地球の反対にいても、わかるよ?だって、もーは
――」

顔をのぞきこみ、桃子はいいました。

「みーやんの応援団なんだから」

鼻と鼻がくっつきそうな距離でした。

「ほら、ピーチッチ?って」

「それは、ダメ!」

「じゃあ…ほら」

「…う、うん」
293 :foreseasonz :2007/08/18(土) 03:08
みやびは茹で上げたばかりのように赤らめた顔をそらすと、なにごとか
つぶやきました。

「…ぉ…も」

「うん?聞こえない」

「…もも」

「もういっかい」

「…ももっ」

「おっきい声で」

「ももーっ!!」

みやびは、声のかぎりにさけんでいました。

「はい、よくできましたー!」

祝福するように、サロペットとがたぴしは、惜しみない拍手をおくりまし
た。

このあと、おじさんとの健闘をたたえ合ったみやびは、佐紀宛てに、
こんなメールを送りました。
294 :foreseasonz :2007/08/18(土) 03:09


――キャプテンへ。

さっきは電波切れちゃって、ごめん。でもゲームセンターは発見できま
した。りさ子ちゃん家の近くにあるなんて、ちょっとびっくり。途中、ピン
チになったりもしたけど、ももに助けられてなんとかクリアーできたよ。

エンディング画面、キャプテンにも見せたかったな。

                                    みやび

295 :foreseasonz :2007/08/18(土) 03:09
このメールを打つとき、みやびは、とりたてていつもと変わらないようす
でした。

そのことをもし桃子が知ったとしたら、いったいどんな顔をしたのでしょう
ね。
296 :foreseasonz :2007/08/18(土) 03:09


(桃色の応援団/了)

297 :さるぶん :2007/08/18(土) 03:14
更新です。

ごめんなさい、だいぶ遅れてしまいました。
ネタにはしると、長くなりすぎるのでいけません。

【お願い】はじめての方は>>70からお読みください
298 :ななしいくさん :2007/08/19(日) 01:43
みやもも凄い可愛い(ノ∀`)
299 :ななしいくさん :2007/08/19(日) 03:36
もも優しいじゃん
300 :foreseasonz :2007/08/25(土) 00:44





コンビニには、5人が集まっていました。

座敷のあがり口に腰かけたみんなは、すっかりおばあさんと知り合い
になっていたので、まるで、自分の家みたいにくつろいでいます。

「――で、ここはどうするの?」

畳のうえには、当番表がひろげられていました。

ペン先で、佐紀がトントンとたたいた部分には、【茉麻→お見舞い】と
ある以外、なにも記されていません。

「まぁ、昨日の結果しだいだね」

座敷に上がってしまった千奈美は、お茶をすすっています。

「桃とみやで、どっちがりさ子のハートをつかむか。それで留守番係が
決まるっていう話だったよ」

「そうだよ、けっきょく、どうだったの?」

前のめりになったのは、友理奈です。
301 :foreseasonz :2007/08/25(土) 00:44
「このあいだの話では、一度ためしてみて、なにか問題があったら、そ
の日はカテキョをしない。そういう約束だったね」

佐紀は、みんなの顔を、ぐるりと確認するようにみました。

それは、とても生き生きとしたようすでしたから、つまりは、話題の中心
にみやびがいないことを意味していました。

「たしか、留守番するなら、大人じゃなきゃダメだ――みたいなことを、
みやは言ってた」

これも千奈美でした。

「もーは大人だよ。ね、みーやん?」

にやにやした顔でようかんを食べていた桃子が、いいました。

つま楊枝どころか、受け皿を持つほうの手まで、小ゆびが立っています。

「あれ?…怒らないなんて、めずらしいね」

友理奈でした。

「いつもなら、『気やすく呼ばないでっ!』って、目くじら立てるのに」

みやびは、桃子に、なにか言ってやりたいことがあるような顔をしていま
した。
302 :foreseasonz :2007/08/25(土) 00:44
ですが、そうする以外に使い方をわすれてしまったみたく、口をぱくぱく
させるばかりでした。

「お待たせ」

茉麻がやってきました。

「りさ子が、服をとっかえひっかえするから、時間かかっちゃった」

りさ子は、茉麻に隠れるようにして、入り口に立っていました。

「なんで?」

そういったのは千奈美ですが、よこから友理奈につつかれます。

「みやとデートだからだよ」

「デート? 絵日記を書くだけじゃん。しかも、駄菓子屋で」

日記帳をにぎりしめたまま、りさ子は、もじもじってばかりしています。

すずしげな胸元を、ピンクのリボンでしぼりあげた白のワンピースに、
麦わらぼうしを、ちょこんと頭へのせています。

「でも、みやと、はじめてのお出かけってことは、変わらないじゃん」

友理奈は、まるで自分の気分を害されたみたいに、くちびるをとがら
せます。
303 :foreseasonz :2007/08/25(土) 00:45
みやびは、デートだといわれて、注目されました。

「すごく、かわいいと思う」

のぞきこまれて、つばに隠れてしまうりさ子の目。

その角度は、みやびにしか分からないものでしたが、りさ子が内また
になっていることは、光にすけたワンピースのシルエットが、みんなに
教えていました。

「お姫さまの休日ってかんじ。デートにぴったりだね」

友理奈がいうと、おもむろに、桃子が立ちあがりました。

「デートっていうなら、もーの勝ちだよ?」

こんどは、桃子が注目されるばんでした。

「だって、あの日…みーやんともーは、こえてはいけない一線を、こえて
しまったのです…」

とおい目をする桃子。

「…あ、あれは、ももが!」

みやびが、ようやく口をききました。

それを聞いたりさ子が、ぼうしを落としました。
304 :foreseasonz :2007/08/25(土) 00:45
「あれ?」

友理奈が、すっとんきょうな声をあげます。

「みやってももちのこと、”もも”って呼びつけにしてたっけ?」

なにかあったの?とつめよられ、桃子は顔を赤らめます。

「みーやんってばね…」

桃子は、ゲームセンターでのできごとを、話してきかせます。

ツグナガ国会での演説のように、聞くものをぐっと引きこむその話術は
今日も健在でした。

「みーやんってば、大胆なの…みんなのいる前で…」

「…ちょっとまって、それじゃ、うちが自分から”もも”って呼びたがって
たみたいじゃん! あれには事情があって…」

「きっかけなんか、どーでもいいと思うんですけど」

しらんふりの桃子を、りさ子は、ものすごい顔でみています。

「昨日のカテキョで、気づかなかったの?」

友理奈に聞かれて、うなづくりさ子。
305 :foreseasonz :2007/08/25(土) 00:45
そのあいだも、桃子に視線をつき刺さしたままでした。

「…え、よくわかんないんだけど」

千奈美が、いいました。

「…いまの話の、どこに、りさ子は怒ったの?」

「だからぁ…」

友理奈はいいました。

「みやが、ももちのことを”もも”って呼びつけにしてたから、りさ子ちゃん、
まるで振られちゃったみたいで、ショックだねってはなし!

それに、カテキョのときは、”もも”って呼びつけにしてなかったわけだか
ら、なんか影でこそこそされてたみたいで、ダブルでショックってはなし
なの!」

もう、ちーってば!と友理奈は、肩をいからせますが、それを聞いたりさ
子は、頭をなぐられたみたいにして、しゃがみこんでしまいます。

「ちがう、あれは!」

みやびは身ぶり手ぶり、ことのはじまりと終わりを、もういちど話して
聞かせようとしますが、そのたびに桃子が邪魔をします。

その騒ぎのなか、佐紀は、ケータイをとりだして、
306 :foreseasonz :2007/08/25(土) 00:46
「あの!…昨日きたメールで…みやは…その自分から、”もも”って!」

と、ぴょんぴょん飛びはねますが、まるっきり”かやの外”でした。

それでも、ひとしきり騒いでしまうと、みんな疲れて静かになります。

「まー、とりあえず、もーが大人ってことで決まりだね?」

「だからなんで!?」

「だってぇ」

桃子は、どこに隠し持っていたのか、タラバガニの貯金箱をとりだしま
した。

「大人は、1回10円のゲームを、なん百回もやらないと思います」

「…そ、それは」

みやびは、言い返すことばがありません。

みんなは口々に――たしかに、みやのイメージじゃないよねヒソヒソ…と
いい合っています。

「で、でも!大人は、小ゆびなんか立てないよ!」

「…こ、これは」
307 :foreseasonz :2007/08/25(土) 00:46
いま、まさに立っていた小ゆびを引っこめると、桃子は、バツの悪そうな
顔をしました。

「…こ、これは大人なしょーこなの」

「えー、なんで!?」

「だって、これが”おとうさんゆび”でしょ?」

そういって、桃子は、親ゆびを立てました。

「いちばん太いから、おとうさん。ってことは、反対がわにあるのが、
おかあさんでしょ。だから、小ゆびは”おかあさんゆび”で、これが立っ
てるもーは、大人なんだよ」

えっへん!とやる桃子。

「まって、おかしいよ。《こゆび》って、いちばん小さいから、子どもって
意味でしょ?」

「みーやんは、わかってないなー。くまいちょーってば、おかあさんより
大きいよ?」

みんなから見られて、もじもじする友理奈。

たしかに、中ゆびのような存在感でした。

「”おとうさんゆび”と”おかあさんゆび”がはしっこにあって、そのあいだ
で、3人のこどもが平和に暮らしています。めでたし、めでたし――って
ことなんだよ」
308 :foreseasonz :2007/08/25(土) 00:46
「…”めでたし”の意味がわかんないけど」

みやびは、そうつぶやくしかありません。

「みーやんより大人なもーは、りさ子にとって、”おかあさんゆび”って
ことでしょ?だから、まーさんがいなくても、お留守番はできるんだよ!」

「…なんか、大人ってズルい…」

みやびが肩を落とすと、千奈美がぼそりといいました。

「たしかに、大人って、お金に汚いよね…」

それで、桃子に、じろり…とやられ、あわてて友理奈の背中に逃げこみ
ます。

それから、桃子の提案で、”サクマドロップ”を買うことになりました。

みんなでちがう色を出せば、絵日記がカラフルになるだろうということ
です。

それぞれが、レモンやグレープを当てて、よろこびの声をあげるなか、
ひとり沈んでいたのはりさ子です。

「薄荷、たべれないの?」

りさ子は、うん、とうなづきます。
309 :foreseasonz :2007/08/25(土) 00:48
りさ子ってば、こどもなんだから――という桃子から逃げるように、りさ
子は、手のひらにのったそれを、じっと見つめています。

みやびは、交換してあげようか?と申し出ますが、ううん、と首をふって
こたえます。

けっきょく、りさ子は、それを食べられませんでした。

白く、粉を吹いたあめ玉を、おばあさんは、ティッシュペーパーに包ん
でくれました。

みやびは、それを受けとり、りさ子の麦わらぼうしをひろいあげました。

「いつか、食べられるようになるよ」

そういって、そっと、リボンの中へ押しこんだのです。

りさ子は、麦わらぼうしを頭へのせると、にぎった手を持ちあげます。

そして、小ゆびを伸ばして、みや…とつぶやきました。

その横にいた茉麻は、りさ子が親ゆびに名前をつけなかったことを、
しずかに見ていました。





310 :foreseasonz :2007/08/25(土) 00:48


(薄荷キャンディー/了)

311 :さるぶん :2007/08/25(土) 00:56
更新です。

>>298
ちょっと複雑なみやももですが、見守っていてください

>>299
桃子のばあい、優しさなのかどうか、作者にもよくわからない
ところがあります(^^;)

【お願い】はじめての方は>>70からお読みください
312 :foreseasonz :2007/09/01(土) 01:10





(これなんかいいんじゃない?)

佐紀が、小声でいいました。

その手には1冊の本がにぎられていて、表紙には、「ハワス名作劇場」
とかかれていました。

(さっきチェックしたんだけど、本棚にはなかったよ)

ここでいう”本棚”とは、りさ子の部屋の本棚です。

(とっても似合いそうだね)

友理奈が、いいます。

あたりをきょろきょろうかがって、声といっしょに、首までちぢこめていま
す。

というのも、ここは図書館でしたから、あまり大きな声で話せないのは
とうぜんとしても、首までちぢめるなんておかしいですね。

(いいと思う。あの子、世界の名作とか大好きだから)
313 :foreseasonz :2007/09/01(土) 01:10
茉麻がこたえます。

表紙には、【ユリーネ物語】というタイトルのほかに、絵が描かれてい
ました。

もうもうと煙をあげる工場の前には、メイド服すがたの女の子が立って
いて、目の見えない老人の手をひいています。

まえに読んで感動した――という佐紀が説明するところによると、こん
なおはなしだそうです。

主人公は、”みなしごのユリーネ”です。

おじいさんと再会を果たしたのもつかのま、自分の経営する工場を立て
直せず苦しんでいたおじいさんは、自分の息子――つまり、ユリーネの
お父さんを勘当していたことがわかります。

”勘当”とは親子の縁を切るということですから、おじいさんは大変なこと
をしたと後悔し、弱りはてたすえに病気で視力をうしなってしまいます。

そんなおじいさんに、両親の死をつたえられなかったユリーネは身分を
いつわり、おじいさんの世話をする下働きのメイドとして住みこみはじめ
ます。

ときには彼とぶつかりながら、文字どおり目となって、つぶれかけた
工場を立てなおしていくユリーネは、やがて、おじいさんから、他人と
して信頼されるようになります。
314 :foreseasonz :2007/09/01(土) 01:10
そして、ものがたりの最後、お父さんとお母さんの死が明るみに出るや
いなや、ほんとうの身分が明かされたユリーネは、おじいさんから家族
として受け入れられるのです。

(――最後、おじいさんは目の手術をするんだけど、はじめてユリーネ
のすがたを見てよろこぶシーン。…あぁ、すごく感動したなぁ)

小声ですが、佐紀は、とても興奮したようすです。

そもそも、ここへふたりを連れてきたのは、佐紀でした。

カテキョを終えたあと、りさ子をふくめた4人でどこかへ出かけようと提案
したのです。

しかし、りさ子は、まっさきに本棚からお気に入りの本を抜きとると、とな
りの部屋へ引っこんでしまいました。

――最近、本ばっかり読んでるの。

茉麻は、目が悪くならなきゃいいけど、といいました。

――じゃあ、3人でいく?

佐紀はいいましたが、メールばかりしている友理奈は、ここでいいじゃ
ん、涼しいよ?といいます。

――あ、いや、まーさんは、いっつもここにいるから、たまには気ばらし
が必要かな?…とおもって。
315 :foreseasonz :2007/09/01(土) 01:11
じゃあ、駄菓子屋は?という佐紀ですが、友理奈は、ダメ!ぜったい!
と、苦いものを口へほうりこんだような顔をして、一向にゆずりません。

――あそこは、気ばらしになんか、ならない!

それならばと、佐紀は、りさ子ちゃんに読ませる本をさがそうという理由
をつけて、ここへふたりを引っぱってきたのでした。

(まーさんも読んでね)

ぜったいにと念をおしながら、まっすぐに茉麻を見つめる佐紀。

おもわず目をそらしてしまいまう茉麻ですが、佐紀は、ほかにも見てくる
といって、どこかへ消えていきました。

(おもしろそうだね)

そういってのぞきこむのは友理奈ですが、なにかまぶしいものでも見た
顔になっていいます。

(…ぜ、全30巻?)

口あんぐりの友理奈をみて、茉麻は、笑ってしまいます。

しかし、すぐに真顔になって、ぼそっと言いました。

(…これだけあれば、デートなんてしてるヒマないね)
316 :foreseasonz :2007/09/01(土) 01:11
(ん、なに?)

友理奈は、ふり返りますが、茉麻は、なんでもないというだけでした。

そのあと、三人は食堂へいき、お昼をすませました。

ケータイを手にした友理奈は、電波をもとめてどこかへいってしまいま
す。

ひとり中庭へ出た茉麻は、木陰のベンチへ座りました。

ガラスごしに見える館内では、引きつづき、りさ子に読ませる本をさが
すとはりきっていた佐紀がみえます。

「…あと、一週間か」

茉麻はつぶやいて、目をつぶりました。

それから、しばらく、なにか小声でつぶやいていましたが、あごを上げ
て、まぶたのひなたぼっこをはじめます。

ベンチには、葉と葉のあいだから、光がまばらに射していたのです。

「ねぇ、聞いて、ちーってば、ひどいんだよ」

友理奈が、もどってきました。

茉麻のとなりへ、腰かけます。
317 :foreseasonz :2007/09/01(土) 01:11
「いま、メールしてたんだけど、ちーが、うちのことバカにするの」

茉麻は、友理奈のケータイをのぞきこみました。

「昨日、コンビニで、みやが”もも”って呼んでたでしょ?」

「そうだね。ももの呼び方が変わってた」

「メールでそのことを打ってたら、ちーが、熊井ちゃんって、呼び方にこだ
わるよねっていうの」

茉麻は、たのしそうな顔でうなづいています。

「そこまではいいんだけど、うちが――だって、呼びかたって大事だよ、
呼びかたと仲のよさって、なんか、いっしょな感じするじゃんっていった
の、そしたら、ちーってば、”呼びつけ”じゃなくて、”呼び捨て”だとか
いうの。話がズレるよね?」

茉麻は、ちょっと首をかしげました。

「――あ、うちが昨日、”もも”って呼びかたのことを、”呼びつけ”って
いったのね。それを、正確には”呼び捨て”だって、ちーがいうの」

「でも、事実じゃない」

「そうだけど…、ちーだって、コンビニのおばあさんのこと、ぜったいに
”おばさん”っていうんだよ。あれは、どうみても”おばあさん”でしょ?」
318 :foreseasonz :2007/09/01(土) 01:12
茉麻は、ななめ上をみて、想像をふくらませるような顔をしました。

「たしかに、おばさんって感じじゃないね」

「でしょー!?だから、ちーだってテキトーすぎる!って、いってやった
の」

そしたら、千奈美は、熊井ちゃんはこまかすぎる!と、ただそれだけの
メールを返信してきたのだそうです。

「ひどくない?」

それから、友理奈はメールを見せて、これとこれ、ね、ひどいでしょ?と
茉麻裁判長に、判決をあおいでいます。

「でも、とっくまはコンビ名までついてるじゃない」

茉麻は、当番表のことをいっているのです。

千奈美と友理奈が当番の日にかぎっては、”名前がふたつ”ではなく、
”とっくま・ブラック・ガールズ”と書きこまれていたのは、みんなが知っ
ていました。

そんな特べつな記しかたをしたひとは、ふたり以外にいないのです。

「…まぁ、そうだけどさ」

おもしろくなさそうな友理奈です。
319 :foreseasonz :2007/09/01(土) 01:12
「ケンカ、しちゃったんだね」

茉麻は、つづけて口をひらきかけましたが、けっきょく何もいいません
でした。

友理奈は、茉麻の肩におでこをあずけると、そっと目をつぶりました。

「…はじめてだよ」

二人のうえには、やさしい木漏れ日が、そっとふりそそいでいました。




320 :foreseasonz :2007/09/01(土) 01:12


(こもれ日のくまぁず/了)

321 :さるぶん :2007/09/01(土) 01:15
更新です。

まだ5日目だったんですね、自分でおどろきましたw
ストーリー的には、前回がおりかえし地点です。

リアル夏休みも、もう終わり。
うちの夏休みネタは、まだまだこれからなのですが、
あ、そんなの関係ねぇー!ってことで。

【お願い】はじめての方は>>70からお読みください
322 :ななしいくさん :2007/09/02(日) 22:58
このくまぁずのやさしい感じが好きです
323 :foreseasonz :2007/09/08(土) 01:54





「…なんか、わかるなぁ」

友理奈が、いいました。

「…りさ子ちゃんって、まあさのこと、ママっていうでしょ…あれ、なんか
わかる」

目をあけると、茉麻は、ぱくぱくと口をうごかしますが、ことばになりま
せん。

うとうとしていたせいで、のどがすっかりお休み中だったのです。

友理奈は、いまや、まるく厚ぼったい茉麻の肩に、ほっぺたをうずめて
いるじょうたいでしたから、おしりがずり落ちそうになっています。

「…なんか、うちのベッドにいるみたい」

茉麻は、あたまの位置を変えないようにして、それをひっぱりあげまし
た。

友理奈は、あけている時間より、つぶってる時間のほうが長くなってき
た目を、けんめいに持ちあげようとしています。
324 :foreseasonz :2007/09/08(土) 01:55
それをみて、茉麻は、くすっと笑いました。

そのとき、中庭の反対がわで、ドアがひらきます。

出てきたのは、佐紀でした。

本をかかえて、しのび足でベンチに近づいていきますが、足音をたてな
い理由は、本をどろぼうするためではないようです。

めいっぱいに首を伸ばし、しゃくれさせたあごで押さえつけないといけ
ないほど、大量の本をかかえていたのです。

そのかっこうのまま、足もとをさぐるようにして歩く佐紀をみて、友理奈
はこういいました。

「…ちっちゃい、きりんがいるよ」

ほとんど目を閉じていますから、それは寝ごとでした。

いっしゅん、友理奈と目が合った佐紀は、ぴく!とまゆ毛をうごかしまし
た。

つづけざまに、水のみ場の段差につまづきます。

足もとが不安定になった佐紀は、けんめいにバランスをとりますが、
ベンチまで、あとちょっとのところで、ぶちまけてしまいました。
325 :foreseasonz :2007/09/08(土) 01:55
「いててっ!」

あたまのうえに本がふってきた友理奈は、あわてて飛びおきました。

「…ちっちゃいきりんが!いっぱい!おちてくるっ!」

しばらくのあいだ、じたばたしていた友理奈ですが、自分がたくさんの
本にうもれていることに気づくと、ぽかんとした表情になりました。

佐紀は、その顔でじっと見られます。

「ちっちゃいとか、よけいだから!」

そのあとも、友理奈は、《あごがつりそうなちっちゃいきりんについての
2〜3のこと》と名づけたくなるような夢のはなしを、えんえんと10分に
わたってふたりに聞かせました。

そのあいだずっとふぐになっていた佐紀は、話のキリがよくなったところ
で、ポケットをまさぐりはじめます。

「はい、これ」

とりだしたのは、図書カードでした。

まる文字で、”菅谷りさ子”と書かれています。
326 :foreseasonz :2007/09/08(土) 01:55
「うん、ありがと」

それを茉麻が受けとると、佐紀は、またポケットからなにか出してきま
した。

「はやく完成させなきゃ」

当番表でした。

「佐紀ちゃん、いつも持ってるの?」

「うん。なんかクセになっちゃった。学校でも、生徒会――と、あと委員
会で書記やってるし」

「へぇ…そうなん…だ…」

友理奈は、元気なくいいました。

そのまま黙りこんでしまいます。

「どうしたの」

「…うん、いまね、ぱっと思いついたの。佐紀ちゃんが書記だから、
佐紀書記でしょ。”サキショキ”って、なんかひびきがおもしろいなぁ…
って。でも、言おうとしたら、きゅうに、ちーの顔が浮かんできて…」

「『熊井ちゃんは、呼びかたにうるさい!』…って?」
327 :foreseasonz :2007/09/08(土) 01:55
引きついだのは、茉麻でした。

「そう。いわれそうな気がして…」

ふしぎな顔で聞いている佐紀に、茉麻が事情を説明しました。

「へぇ…とっくまでもケンカするんだ。いっつも、なんだかんだで、千奈
美ちゃんに合わせてたから、てっきり不満なんてないと思ってた」

ひざの上に当番表をひろげた佐紀は、”とっくま”のところを、指でなぞ
っていました。

「…あ」

また、友理奈は口ごもります。

「なに、また?」

「うん。ちーに『千奈美ちゃん』っていったら、『ちーでいいよ』って言われ
るよ…って、いおうと思った」

「そうなの?」

「うん、ぜったいだよ!ちーのことなら、ぜんぶわかるもん!」

佐紀の問いかけに、自信たっぷりで答えます。

「まあさも、気をつけなよ?まだ、ちーのこと呼んでないでしょ」
328 :foreseasonz :2007/09/08(土) 01:56
「てゆうか熊井ちゃん。だれがなんて呼んだか、全部おぼえてるの?」

「そうだよ」

友理奈は、さも、あたりまえみたいにしてうなづきます。

それで、茉麻と佐紀は、超能力者をみつけたら、ひとはこんなふうに
なるにちがいないといった顔になりました。

「え、でもさ。それこそ、熊井ちゃんって、まーさんのこと、”まあさ”って
呼んでた?」

ふたりの視線が、友理奈にあつまります。

「…あ」

小さくなる友理奈。

「無意識だったんだね」

「だって、なんか、落ちつくっていうか、えっと…その…」

「いいんだよ、恥ずかしがらなくても」

佐紀は、あわてていいます。

「好きなら好きって、素直になれるのがいちばんなんだから」

当番表の”桃子×みやび”と書かれた部分を、佐紀は、じっとみつめて
いました。
329 :foreseasonz :2007/09/08(土) 01:56
「すくなくとも、素直になれなくて暴走して、ひとに心配かけるよりは、
ずっといい」

きっぱりとした、いいかたでした。

「…うん。いつもは、呼んでいい?ってきかないと呼びつけとかできな
いけど、まあさは、自然にいえた」

「わかる。じつは、あたしもいま、はじめて”まーさん”って呼んだし」

と笑う佐紀に、友理奈もつられます。

「なんか、よくわからないけど、うれしい」

茉麻が、いいます。

それで、しばらくのあいだ、3人してぽかぽかの芝生をながめていまし
た。

「そういえばさ」

友理奈が、いいました。

「さっき、”素直になれないで迷惑かけて”っていってたけど、だれのこと
いってたの?」

だれにともつかない問いかけでしたが、答えたのは佐紀でした。

「みやのこと」
330 :foreseasonz :2007/09/08(土) 01:56
「もしかして、りさ子ちゃん?」

友理奈が、背もたれから体をおこしてきました。

「…うん、まぁ、それもあるけどね」

佐紀は、茉麻のほうをチラチラうかがいますが、まぶたのひなたぼっこ
中でした。

もういちどポケットに手をつっこんで、ケータイをとりだしますが、すぐに
引っこめてしまいます。

「みやって、けっこう暴走するから、止めるの大変なんだ」

「へー、そうなんだ、意外。みやとちーって、暴走つながりなんだね!」

それから友理奈は興奮したようすで芝生のほうへはしっていくと、夢中
になってひとり遊びをしていました。

「なんか、なごむねぇ…」

ベンチから足を投げだして、佐紀が、いいました。

すると、ぴょんぴょんと跳びはねるバッタを追いかけていた友理奈が、
ふりかえります。

「…また、ちーに怒られるかも」
331 :foreseasonz :2007/09/08(土) 01:57
「なに思いついたの」

茉麻が、目をあけます。

「この3人の名前」

「そっか、とっくまみたいに」

「うん」

友理奈は、バッタを逃がしてやると、ベンチのところへもどってきます。

そして、いいました。

「なごみストッパーズ!」

首をかしげているふたりに、友理奈は説明しました。

「この3人は、みんな、だれかの暴走をストップさせてるでしょ?佐紀
ちゃんはみや、うちはちー、まあさはりさ子ちゃん。そんな平和を愛する
3人は、《なごみストッパーズ》 なの!」

これには、ふたりともうなづきました。

「すごい。熊井ちゃんにしか出てこない発想だね」

うんうんうなづきながら、佐紀は、あわてて当番表をひらきます。
332 :foreseasonz :2007/09/08(土) 01:57
そして、今日のところを指でさがしあてると、ここっ!といって、ペンを
とりだしました。

「書きかえなきゃ」

佐紀は、”茉麻×佐紀×友理奈”とかかれたところに、上から線をひっ
ぱりました。

そして、友理奈の提案で、代わりに”なごみ”と書きこむことになった
のです。

「名前を気にするのって、熊井ちゃんらしくて、いいとおもう」

茉麻が、いいました。

「ほんとに?」

佐紀も、うなづいています。

「とっくまでいるときは、ちーにツッコまれるかもしれないけど、うちらで
いるときは、いっぱい気にすればいいと思うよ」

茉麻のそのことばに、友理奈は、目をうるうるさせていました。

「とっくまは、とっくま。なごみは、なごみ。くまぁずは、くまぁずってこと
だね」

「ちょっとまって」
333 :foreseasonz :2007/09/08(土) 01:58
そっか、それでいいんだ…とひとりごとをくりかえす友理奈に、佐紀が
ききました。

「”くまぁず”って?」

「うちと、まあさのコンビ名。熊井の”くま”に、茉麻の”まぁ”で、”くまぁ
ず”」

「え、じゃあ、あたしは?」

佐紀にまじまじと見られ、友理奈は、…あ!といいました。

「…わすれてた」

「そんなっ!」

佐紀は、ひどいよ!といいながら、茉麻に泣きつきました。

茉麻は、ただ笑って友理奈をみています。

けっきょく、友理奈の暴走は、だれにも止められないのでした。




334 :foreseasonz :2007/09/08(土) 01:58


(なごみストッパーズ/了)

335 :さるぶん :2007/09/08(土) 02:01
更新です。

>>322
ありがとう。ついにぎやかにしてしまうクセがあるので、
こういうシーンをもっと書きたいなと思います。

【お願い】はじめての方は>>70からお読みください
336 :ななしいくさん :2007/09/09(日) 01:57
大人っぽいのに子供っぽい熊井ちゃんカワイイ!
写真集発売おめでとう
337 :さるぶん :2007/09/15(土) 00:11
ごめんなさい、今夜中に更新できないかもしれません。

すくなくとも本日中には完成すると思いますが、
とり急ぎお伝えしておきます。
338 :さるぶん :2007/09/16(日) 03:23
ほんとうに申し訳ないです、書けませんでした。
なるべく早く更新するつもりですが、いまは寝させてください。
339 :ななしいくさん :2007/09/17(月) 02:12
マイペースでね
340 :ななしいくさん :2007/11/20(火) 00:05
待ってます
341 :ななしいくさん :2008/05/03(土) 21:01
更新しないのかな・・?
342 :ななしいくさん :2009/02/02(月) 20:14
興味あり
343 :ななしいくさん :2009/02/05(木) 03:29
まとめて全部読んじゃいました(>_<)

なごみストッパーズ、いいですねとゆいたい。

茉麻が幸せになれるといいなぁ。
344 :さるぶん :2009/03/25(水) 10:13
おひさしぶりです、作者です

まず、長い間ご無沙汰してしまったことを、お詫びさせてください
いろいろと試してはみたのですが、うまくはかどりませんでした

いまちょっと追い詰められてて、
水板で新作をはじめたのも精神衛生のために、という感じです
また、このスレが更新できないのも恐らくおなじ理由です

自分なりに理由を考えてみたのですが、1つだけわかったことが
あります

あっちはグループの枠を超えたもので、こちらはベリ縛り、
縛りがあると、ABCDEFGの7人がいたら全員を書き分けなけ
ればいけませんが、枠がないとA A’A”B B’B”C C’という
ふうに書き方が変わるので、それで書けてしまうんだと思います
(これがいわゆる”オールスターもの”というやつなんでしょう)

とにかく、このスレを放棄するつもりはありませんので、
あちらともども見守っていただけたらうれしいと思います
345 :さるぶん :2009/03/25(水) 10:22
ちなみに上で”追い詰められてる”と書いたのは家庭の事情です

>>339
ありがとう、かなりのスローペースですが頑張ります(汗
>>340
待ってくれているひとがいるということが、再開の励みになっています
>>341
なんとか近いうちにしたいのですが…
>>342
”更新あり”という報告をできるよう、頑張ります
>>343
なごみを気に入ってもらえて、うれしいですとゆいたいです
346 :ななしいくさん :2009/03/25(水) 14:55
マイペースでも更新していただけると嬉しい限りです
頑張ってください
347 :ななしいくさん :2009/03/26(木) 00:11
生存報告だけでも作者さんが来てくれて良かった

マッタリ待ってます
348 :ななしいくさん :2009/07/03(金) 23:57

【前回までのあらすじ】

中学生のみやび、千奈美、友理奈の3人と、
桃子、佐紀という高校生の2人は、
知り合いの茉麻にたのまれて、
らい年から中学校へあがるりさ子のカテキョをするため、
とある田舎町へやってきました。

仲良くなったり、ケンカしたり。
7人はカテキョの当番表に書かれたコンビには
どれも問題がいっぱい

彼女たちは、いったいどうなってしまうのでしょうか…?
349 :ななしいくさん :2009/07/03(金) 23:57



 カテキョも、6日目。

 きょうは、お泊り会の日でした。

 やってくる時間も、バッグの大きさもバラバラな4人が、玄関へとあつ
まっています。

 朝の9時だというのにハイテンションの桃子は、みやびにちょっかい
を出しては、距離をおかれています。

 そのようすを2階からみているりさ子は、カーテンをきつくにぎりしめて
いました。

 駅のほうから、茉麻がやってきます。

「いちばんはしゃいでるのは、高校生みたいね」

 あいさつ代わりに、スーパーのふくろをもちあげます。

「よそに泊るなんて、部活やってたころ以来だもん。テンションあがっ
ちゃうな!」
350 :ななしいくさん :2009/07/03(金) 23:58
 ぴょんぴょん飛びはねている佐紀は、だれよりも大きなバッグをかか
えていました。

「おくれたー!!」

 千奈美が、走ってきます。

「ちー、遅刻だよ!?」

 ごめん、ごめん、という千奈美。

 友理奈は、もうっ!とふぐになってさけびます。

「なごみストッパーズ集合!」

 佐紀と茉麻があつまってくると、友理奈のもとに、円陣がうまれます。

(…きょうは、はじめてのお泊り会。大暴走が予想されますので、各自、
ゆだんのないように)

 3人は、小声でなにかいっています。

 友理奈は千奈美を、佐紀はみやびを、そして茉麻は、2階のりさ子の
部屋をみました。

「…なに?」
351 :ななしいくさん :2009/07/03(金) 23:58
「なんでもない、こっちのこと」

 ふにふに…と、まゆ毛をうごかしてばかりいる佐紀に、みやびは首を
かしげていました。

 家にあがると、テーブルはすぐさまお菓子でいっぱいになります。

 みんなで食べる用にと、自分の好みでそれぞれが買ってきたのでし
た。

 いつだったかのように、それを食べながら、みんなで品ぴょう会をひら
いていると、桃子がいいました。

「あぁー、どきどきするなぁ…」

 両手で、胸をおさえています。

「どうして?」

 みやびが、スナックを口へ入れました。

「だってぇ、みーやんと、はじめての”お・と・ま・り”だもん。やさしくして
ね…?」

「…ほんぐ!」
352 :ななしいくさん :2009/07/03(金) 23:58
 みやびは、舌を噛みました。

「いま、ごり!っていったよ」

 友理奈は、ほんとうに気の毒そうな顔をしています。


「…べ、べつり、ふたりらけってわけりゃ、らいれしょ!」

 目くじらを立てながら、みやびは、あごをおさえています。

「二人きりだったら、みとめるんだ?」

 佐紀が、いいました。

 まゆ毛が、きりっ!としています。

「もちろんだよね、みーやんはもーとラブラブなんだから」

 そういって、桃子はベッドのうえに乗っかりました。

「きょうの夜は、ドキドキして眠れないかも…」

 あやしい手つきでベッドをなでる桃子に、みんなは一瞬、ことばを失い
ますが、りさ子だけはちがいました。
353 :ななしいくさん :2009/07/03(金) 23:59
 ゆー!とさけびながら、けんめいに、桃子をひきずり下ろそうとします。

 そんな中、佐紀は、ポケットからケータイをとりだすと、これみて!と、
みんなの注意を画面にあつめました。

「このあいだ、”もも”って呼び方については、ムリヤリ言わされてるん
だって、みやいってたでしょ?」

 ゆびをうごかしながら説明します。

「でもね、見て、このメール…」

 みんなにケータイを向けました。

「あ、”もも”って書いてある!」

 友理奈がさけぶと、りさ子も画面にかじりつきました。

「佐紀ちゃんへのメールにまで、”もも”ってつかう約束はしてないはず
だよね」

 友理奈が顔をあげると、ほとんどのひとがうなづいていました。

「もう、みーやんってば、素直じゃないんだからぁ」

 桃子は、ベッドのうえからカモ〜ン!しています。
354 :ななしいくさん :2009/07/03(金) 23:59
「…ち、ちがうよ、これは…約束したから…お金で…その…書かなきゃ
とおもって…えっと…」

「まだいってる!」

「だって、本当にお金で…」

 どんどんと小さくなっていくみやび。

「ひどい!」

 友理奈がつめ寄ります。

「りさ子ちゃん、かわいそうだなって思ってたけど、みやのことは信じて
た!でも、ももちが本命だったなら、りさ子ちゃんは、もっとかわいそう!」

 ね、りさ子ちゃん?――といって友理奈はふりかえりますが、りさ子は
口をふがふがさせていました。

「…意味わかってないんじゃない?」

 と千奈美。

「ていうか、ちーは、わかってるの?」

「あんま」
355 :ななしいくさん :2009/07/03(金) 23:59
「じゃあ、ダメじゃん」

「でも、りさ子がわかってないことだけは、わかる」

 みょうに自信たっぷりな言いかたに、友理奈はにが笑いしてしまいま
すが、

「ふいんきだけで、あばれてたの…?」

 と念を押してみると、りさ子はきょとんとしています。

 それをみて、友理奈はへたりこんでしまいますが、りさ子は、…かっ、
かわいそうだゆー!とさけびます。

「…メールが…約束で、ももが…呼びすての…えっと、ほんとうは、お金
で、好きだから………あぁぁぁ、わかんないゆー!」

 そのあと、りさ子がベッドにもぐりこんでしまったため、なんとなくしらけ
てしまいました。
 
 
 
356 :ななしいくさん :2009/07/03(金) 23:59
 
357 :ななしいくさん :2009/07/04(土) 00:00



 その夜のことです。

 エアコンが切れた室内は暑く、みやびは、なんどか寝返りをうったあと、
布団からおきあがってきました。

 パジャマのおなかをパタパタさせて、おもむろに立ちあがります。

 みんなで一つの部屋に布団を敷いていたので、だれかの足をふんづ
けてしまわないよう、ゆっくり廊下へむかいます。

 ですが、すぐに引きかえしました。

 みんなの寝ぞうが悪すぎて、その場で、タップダンスを踏んでしまった
からです。

 しかたなく、カーテンの裏へもぐりこんで、ベランダへ出ます。

「…すずしい」

 気温はけっして低くありません。

 けれども、わずかに風が吹いています。

 お月さまが明るい空へむかって、おおきく伸びをしました。
358 :ななしいくさん :2009/07/04(土) 00:00
 しばらくして、流れ星がひとつ、落ちました。

「…あ」

 みやびは、くやしそうな顔をして、忘れた…とつぶやきました。

「「ねがいごと」」

 ふりかえると、桃子が並んでいました。

「…いつのまに?」

「みーやんのことなら、寝ててもわかるよ?」

 桃子は、しなをつくります。

「…さっきは、ごめん」

 小さい声でいうと、みやびは、うつむいてしまいます。

「お金、お金って、いっちゃって…」

「うん…」

 それきり、ふたりとも黙ってしまいます。
359 :ななしいくさん :2009/07/04(土) 00:00
 部屋からは、のにゅ…のにゅ…という、だれかの鼻が鳴る音がきこえ
ています。

 そして、髪が風にゆれるようす、月がすこしずつ傾いていくようす、そう
いったものだけが時間のすすんでいることを教えていました。

 ふいに横目になったみやびは、桃子がすこし口をとがらせていることに
気づきます。

「当ててみて」

 その口が、ひらきました。

「さっきの流れ星、もーは、みてたんだよ」

 これは、ねがいごとを当ててみろと、言っているのです。

 みやびは、まじまじと桃子の目をのぞきましたが、しばらくすると、
いきなり手をにぎりました。

「…え、ちょっと」

 おどろく桃子をよそに、エアコンの室外機に足をかけて、屋根まで
のぼっていこうとするのです。
360 :ななしいくさん :2009/07/04(土) 00:00
「あぶないよ!」

「だいじょうぶ!」

 なんども足をすべらせながら、それでも、ふたりは手をはなしませんで
した。

 まっしろくて、あたりにぼうっと浮かんでいるような屋根のてっぺんに
腰をおろすと、すっかり息があがってしまいました。

「…これが、答え?」

「わかんない。テキトウ」

 そういって、ちょっと笑うみやび。

 つられたように笑って、桃子はいいました。

「お金で買えないものはあるかもしれない。でもね…」

 桃子は、つづけます。

「ふだんはお金で買えないものが、お金で買えるときだってあるかも
しれないよ?」

「それ、このあいだのこといってる?」
361 :ななしいくさん :2009/07/04(土) 00:01
 みやびはレバーをたおしながら、ボタンを連打するしぐさをしました。

 ゲームセンターでのことです。

 みやびは桃子にゲームの代金を立て替えてもらったいきおいで、顔
が赤くなるようなことをさけんでしまったのでした。

 桃子は、うふ…と、うすくわらうだけです。

「お金で、ひとのこころは買えないよ」

「うん。みーやんがそういうなら、きっとそうなんだね。でも…、もーは、
みーやんになら売られてもいいよ…」

 まともに目が合って、みやびは、顔をそらしました。

「どうしたの?」

「わ…わかんないよ!」

「なにが?」

「ももの考えかたが…それに、どうして顔が熱いのかも」

 もしも、お月さまがもうすこし照れ屋さんでなければ、みやびの顔は
もっと熱くなっていたでしょうね。
362 :ななしいくさん :2009/07/04(土) 00:01
「あ…叶った」

「なに」

「ねがいごと。 いまのは、自然に呼んでくれてた」

 目をまるくする桃子。

 みやびは、いっしゅん、頭のうえにはてなマークを浮かべましたが、
桃子のいっている意味に気づくと、すぐそっぽをむいてしまいます。

「…ち、ちがうよ…約束だから」

「またまたー。素直じゃないなぁ、みーやんは」

 そういって、このこのぅ!をする桃子。

 みやびは、くすぐったそうにしながらも、そのひじを、いつまでもいつま
でも受けとめていたのでした。
 
 
 
363 :ななしいくさん :2009/07/04(土) 00:01
 
364 :ななしいくさん :2009/07/04(土) 00:01



 つぎの朝のことです。

「…おはよ…ぅ…ふわぁ…ぁ…」

 あくびをしながら洗面所へとやってきたみやびは、出入り口のところ
で友理奈とすれちがいました。

「おはよう、みや。お先に…って、おととととっ!」

 友理奈が、あわてて戻ってきます。

「どうしたの?それ」

 ゆびさしたのは、ほっぺたです。

「…ん、ヨダレでも、ついてる?」

「それもあるけど…って、そういえば、眠そうだね」

「ううん…ちょっと、ねるぐしかっただけ」

 口元をこすっているみやびに、友理奈は、ふきだしました。

「え、いまなんて?」
365 :ななしいくさん :2009/07/04(土) 00:02
「だから、ねるぐしい…って、ん? ねるぐるしい…あれ?…」

「やっぱ、寝ぼけてるじゃん。夜ふかしでもしてた?」

「…べ、べつにしてないよ!」

 きゅうに大きい声になって、みやびは、背すじがしゃんとします。

「なに、あわててるの?」

 友理奈はふしぎそうな顔をします。

「じゃあ、さっき言いかけたんだけど、これは?」

 ゆびさしたのは、またもや、ほっぺでした。

「だから、ヨダレはふいたって…」

 そういいながら、みやびは、鏡にうつった自分を見ておどろきました。

「なにこれ!?」

 みやびの顔には、まっしろい粉のようなものが、いっぱいついていた
のです。

「ほこり…みたいだね」
366 :ななしいくさん :2009/07/04(土) 00:02
 友理奈はゆびさきでそれをすくい取ると、においをかいだりしています。

「おはよう、みーやん?」

 声のしたほうには、桃子が立っていました。

「ねぼすけのみーやんも、かわいい!」

 エプロンをまいて、おたまをふりまわしていますが、見たこともない色
の液体が付いています。

 一体、台所でなにをしていたのでしょう。

「どうしたの? そのかっこう」

「これ? きまってるじゃない。愛するみーやんのために、朝ごはんをつく
ってたの!」

 おたまを使って、赤くなったみやびのほっぺたを、ぺちぺちとやってい
る桃子。

「すごいラブラブだね」

「そうなの。みーやんってば、寝ごとで『もも…』って呼んでくれて、ほん
と感動したのー!」

 みやびは、ちがう!ちがう!といいますが、友理奈は、おかまいなし
につづけます。
367 :ななしいくさん :2009/07/04(土) 00:04
「ていうか ももち、ひと晩じゅう、みやのこと見てたの?」

「そうだよ?」

「そ、そうなんだ…」

 友理奈は、あたりまえだよ?みたいな顔を桃子がするので、なに
か苦いものでも食べたような顔をしました。

「それよりさ、みやのほっぺについてるこれ、なんだと思う?」

「ん…、どれどれ?」

 友理奈にきかれて、桃子はみやびの顔にぎりぎりまで近づいていき
ます。

「近い!近い!」

 洗面所がにぎやかなので、ほかのメンバーもあつまってきました。

「それって、ほこりじゃない?」

 おねえさんズとして、桃子といっしょに台所へたっていた佐紀が、
エプロンで手をふきながらやってきていいました。

「どこでついたんだろうね?」
368 :ななしいくさん :2009/07/04(土) 00:04
「もー、知ってるよ?」

「えー、どこ?」

「知りたい? そんなに? どうしよっかなぁ…?」

 桃子がもったいぶるので、みやびを囲んでいた輪っかが、ぐっと小さく
なりました。

「じつはね、夕べ、みーやんとデートしたの」

 その発言で、みんなは大さわぎになりました。

 いつのまに?とか、どこで?とか、プロポーズのことばは?とか――
これはまぁ冗談ですが、とにかくみんな興味津々なのです。

「し、してないってば! みんなダマされないでよ!」

 みやびは説得をこころみますが、みんな話を聞いていません。

「このほこりはね、夕べ、みーやんが屋根の上に連れてってくれたん
だけど、そのときにエアコンの室外機からついたものなの」

「そうだったの?」

 みやびは素直におどろいたようすです。
369 :ななしいくさん :2009/07/04(土) 00:04
「どうして言ってくれなかったの? よごれてるよって」

「えー、だってぇ、みーやんとデートしたっていうこと、みんなにいっても
信じてもらえなかったら悲しいじゃない? それでだよ」

 桃子はとくい気にいいますが、みんな首をかしげています。

「どういうこと? 意味がわかんない」

「だって、またみーやんが嘘ついて、もーとラブラブなことを否定しようと
するかもしれないでしょ? だから そのときのために 嗣永国会で裁判を
したら、”物的しょーこ”にしようと思ったの」

 うふふ!としなを作ると、みんなが呆れた顔をしています。

 桃子はおかまいなしのようすで、みやびの腕をとると台所へつれてい
きます。

「もーね、みーやんに特製のおみそ汁つくったの、食べて!食べて!」

 みやびはフタをあけて、中から出てきた液体にひめいをあげました。

「た、たすけてー!」

 どこまでも抜け目ない桃子なのでした。
 
 
370 :さるぶん :2009/07/04(土) 00:06
おひさしぶりの更新です。

今日だけでいったい
なんど「書き込む」をクリックしたことか…

こちらも黒板同様、不定期になってしまいそうな感じです
371 :ななしいくさん :2009/07/04(土) 00:31
更新乙です
不定期でも待ってますよ
372 :ななしいくさん :2009/07/07(火) 00:45
更新乙です
みやももいいなw次回も楽しみ♪
373 :さるぶん :2009/07/07(火) 18:15
…タイトル忘れてました。


(流れ星/了)

【お願い】はじめての方は>>70からお読みください
374 :ななしいくさん :2009/11/14(土) 22:02
待ってます

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