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長めのお話

1 :CPヲタ :2006/05/22(月) 22:37

注意
・りしゃみや痛い系
・全編通して甘さ控えめ
・りしゃみやが主役、桃キャプが準主役。
・ももちが勝手に目立つ。
・ゆりちなその他は登場未定。



そんな話を載せるので生暖かく見守ってやってください。
2 :CPヲタ :2006/05/22(月) 22:37





3 :痛みの向こうで :2006/05/22(月) 22:39


「あ、たしはみやが、居るだけで、良かったのに……。」
「ごめん、ごめんね。梨沙子。」

雅の涙が梨沙子の頬に落ちた。
梨沙子の目にはもう雅の顔と薄暗く光る街頭しか見えない。
どくん、どくんと熱を伴って鼓動するわき腹に手をやり、そのまま雅の頬へと手を伸ばす。
赤い指先が雅の頬に線を作った。
今の梨沙子にも見えるほど鮮やかに紅く雅の頬に自分の色が移る。
だがそれも直ぐに雅の涙によって流されてしまい、梨沙子はそれを残念に思った。
手を上げていることさえ億劫になってきて梨沙子は傷に構わず雅を引き寄る。
すとんと落ちてくるように目の前に広がった雅の顔。
梨沙子の大好きな雅の顔。


「――――――――――。」


眠いなかで呟く。
暗くなる中で梨沙子は雅に囁いた。
熱い、痛い、嬉しい。
梨沙子の中で感情が混ざり合い極彩色を作り出す。
それが頭の中を塗りつぶし、梨沙子の意識はそこで途切れた。


++++

4 :痛みの向こうで :2006/05/22(月) 22:41


あたしは―――。


あたしはどうしたの?
あの夜、ううん夕方?
あたしは道を歩いていて、歩いてて、どうしたんだっけ?
いきなり後ろからなんか当たって、気づいたらみやが居て……。
みや?そうだ、みやと遊ぶ約束しててその途中であたし刺された?
そう、そうだよ。わき腹が痛くて、熱くて。
たまたま前から歩いて来たみやがあたしの後ろを見て叫んで。
その瞬間にあたしは前に思いっきり突き飛ばされて、でもみやが支えてくれて。



それで―――――。
それで、あたしどうしたんだっけ?


5 :痛みの向こうで :2006/05/22(月) 22:42


「……み、や?」

眩しい。
白の光が反射して梨沙子はまともに目を開けることが出来ない。
うっすらと細めで見た景色は、それでも天国なんかではなく。
普通の病室だった。

―ここ、どこ?

梨沙子は道に居たはずだ。
雅の家へと向かう道の途中。
だがここは見慣れない白の空間。
と慣れてきた目に見慣れたものが入ってきた。

「みや?」

6 :痛みの向こうで :2006/05/22(月) 22:44


身体を起こそうとしてベッドが軋む、それと同時に梨沙子も声が漏れた。

―痛い。痛い、痛い、痛い。

涙が出そうだ。
あの時は痛くなかったのに、なんで今こんなに痛みが走るのか。
それでも梨沙子は身体を起こした。
痛くても、死にそうでも確認したい。
そっと手を伸ばし、身体を揺する。

「みや?起きてよ、みや。」

右手で雅の身体を動かすたびに右のわき腹が痛む。
連続的に来る痛みに梨沙子が半泣きになったところでやっと雅は目を覚ました。

ごしごしと目を擦り、前髪を払う。
雅の長い髪が後ろに流れ梨沙子は久しぶりに雅の顔を見た気がした。
その頬には残念ながらあの紅はない。
みやともう一度呟いた梨沙子の声に雅はやっと意識を覚醒させる。

7 :痛みの向こうで :2006/05/22(月) 22:45


「……梨、沙子?よかったぁ、やっと意識戻ったんだ。梨沙子ずっと眠りっぱなしで……。」

ぼろぼろと梨沙子の前で雅が泣き出した。
梨沙子は何も出来ずに見ていることしか出来ない。
せめて涙ぐらい拭いてあげようと手を伸ばす。
するとさっきよりさらに強い痛みが梨沙子の襲い、梨沙子は硬直してしまった。
自然半泣きで止まっていた涙も溢れ、雅に負けないくらいの泣きっぷりとなった。

「いっつぅー。みやぁ、なんか痛いんだけど。」
「って梨沙子、起きてちゃ駄目だよ!梨沙子は絶対安静なんだって言ってたよ。」

雅が出来る限り優しく梨沙子をベッドに寝かせる。
白い世界に一つだけ見慣れたもの。
それだけでも梨沙子はとても安心することが出来る。
雅の涙もいつの間にか止まっていた。

8 :痛みの向こうで :2006/05/22(月) 22:47


「ね、あたしってどうしたの?」
「どうしたのって、梨沙子覚えてないの?」
「うーんとね、みやの家に行こうとして刺されて、みやに支えてもらったとこまでは覚えてる。」

梨沙子がベッドの上から雅を見つめた。
宙をさまよう視線は何かを必死に思い出そうとしている。
雅はそんな梨沙子の肩を押さえ、言い聞かせるように言った。

「それが全部だよ。梨沙子は襲われて、そこに梨沙子を迎えにいったあたしがたまたま居た。
梨沙子を刺した犯人の人はあたしを見て逃げてったよ。今捜査中。」



―違う、ちがうチガウチガウ。


雅の声が梨沙子の頭の中で反響する。
それはやがて誰のものかも分からない声になり、梨沙子は頭を振った。
あの時あの現場に居たのは雅と梨沙子と犯人。
それであっているはずなのに梨沙子は間違っているような気がしてならなかった。

9 :痛みの向こうで :2006/05/22(月) 22:49

「あたしっ、……あたし、何か言ってなかった?」
「何を?梨沙子は直ぐに気を失って今まで一回も起きてないよ。」


雅がいつもの調子で軽く梨沙子に返した。
ベッドの上の梨沙子を見て変なのと首を傾げる。
だがその目は鋭く梨沙子のことを見つめていた。
思考に没頭している梨沙子はそんな雅に気づかない。


10 :痛みの向こうで :2006/05/22(月) 22:50


「…………の?」
「え?」

梨沙子が視線を雅に移す。

――――ドクン。


「みや?何か言った?」


―――――ドクン。

視界に極彩色が混じり始める。
それはまるで二つの全く違うぱらぱら漫画を見ているような感じだ。
朝の光と夜の街頭。
白い部屋と自分の赤い指先。
そして雅の顔と雅の涙。
あの時自分はなんと言ったのだろう。
梨沙子は自問自答する。

11 :痛みの向こうで :2006/05/22(月) 22:51


「……みや?」

すっと音も無く雅がベッドへと近づく。
元から無かった距離はそれにより三十センチも無くなる。

―――――――ドクン。

雅に顔を覗き込まれた刹那、極彩色が梨沙子の視界を埋め尽くす。
雅の髪が動きにあわせて揺れる。
熱い、痛い、嬉しい。

「覚えてるの?」

雅の目と梨沙子の目がかち合った。
熱い、熱い、熱い。
痛い、痛い、痛い。
けど嬉しい。
梨沙子は無意識のうちに胸元を握り締めていた。

12 :痛みの向こうで :2006/05/22(月) 22:53



「―――――――――――――。」


するりとこぼれ出た言葉は梨沙子が自覚しないまま雅へと伝わる。
効果は劇的だった。
梨沙子が漏らした一言は雅の表情を瓦解させた。
くしゃっと泣き笑い。
雅はそれを見せまいと直ぐに後ろを向いてしまったが、梨沙子には見えていた。
初めて見る雅の顔だった。

「あたし、桃に電話してくる。皆心配してたから。起きたって連絡しないと。」

雅が一度もこっちを見ない。
それだけで妙に梨沙子は悲しくなった。
でも連絡してくると言う雅を止めることなどできるわけもなくて、
梨沙子は雅をそのままの状態で見送った。


++++

13 :CPヲタ :2006/05/22(月) 22:53





14 :CPヲタ :2006/05/22(月) 22:54







15 :CPヲタ :2006/05/22(月) 22:57

とここまでで一段落。

痛いのか?これは果たして痛い系と言っていいいのか?

と疑問を持ちながらのうぷでした。


続きは二週間後くらい?
16 :イケメン ◆IKEMENyusE :2006/05/24(水) 16:58
犯人がわかった
17 :CPヲタ :2006/06/14(水) 19:25

久しぶりで、ごめんなさい!
二週間後とか言っていたのは誰だよって感じです。
これからも不定期な感じですが、適当に見てやってください。


16<<イケメン ◆IKEMENyusEさん
感想ありがとっす。
分かったとしても心の中にとめておいてくださいw
謎な感じでいきたかったんすが、稚拙な文章力のせいでむりっした。


では続き。

18 :CPヲタ :2006/06/14(水) 19:26







19 :痛みの向こうで :2006/06/14(水) 19:27


「りーちゃん、傷大丈夫?」
「うん、もう大分良くなったんだよ。結構寝てる間に良くなってたみたい。」

桃子がそっかと言いながら梨沙子に笑いかける。
今日雅は来ていなくて、病室には桃子と梨沙子だけ。
他のメンバーも都合が付かなかったのかいない。
部屋は夕日で赤く染まり始めた所だった。
赤と言うよりはオレンジの光が桃子の顔を染め上げていく。
それはそれで綺麗だったけれど梨沙子にはすこし物足りなかった。

「そういえばさ、みーやんに聞いたんだけどりーちゃん記憶が混乱してるんだって?」
「んー、混乱って言うか、…忘れてるんだよね、何かを。」


20 :痛みの向こうで :2006/06/14(水) 19:28


桃子が調整してくれた背もたれに凭れ掛かりながら梨沙子はそう呟いた。
眉はしかめられていて、そこにはいつもの天然気味な梨沙子は居ない。
桃子はそんな梨沙子を不思議そうに見る。
梨沙子が物を忘れることは多々あったがこんな表情をするのは見たことがない。
ふーんと軽い相槌を打ながら桃子は梨沙子と雅について考えていた。

梨沙子が刺されたのを見たのは事実雅だけだ。
梨沙子本人さえも後ろから刺されたため自分が刺されるところを見ていない。
雅が梨沙子を助け、救急車を呼んだ。
それは至って普通のことであるしそのおかげで梨沙子は助かったのである。
だが桃子は違和感も覚えていた。
なんで雅はその場に居たのだろう。
おかしい。
迎えにいくなら迎えにいくと一言断るのが普通である。
でないとすれ違う可能性のほうが圧倒的に高くなってしまう。
まさかと桃子は思った。
雅がそんなことするはずがないと。
しかし桃子は自分の中に生まれた思いを消すことも出来ず、部屋は一時沈黙に包まれた。

21 :痛みの向こうで :2006/06/14(水) 19:28


「……みやね、あたしが起きてから来てくれてない。」
「そうなの?」
「うん。」

まるで無人島に漂着してしまったような表情。
途方にくれているような、悲観にくれているようなそんな表情。
まだ半月もたっていないというのに。

―相変わらずみーやんのことになると敏感だなぁ。

たった一人のことでこんなに落ち込むなんて。
桃子は俯いてしまった梨沙子の頭に手を乗せなだめるように撫でる。
雅は梨沙子を大切にしている。
桃子はそれを知っていたし、だからこそ気づいてない梨沙子に苦笑した。
梨沙子は間違いなく雅の心を占めている。

22 :痛みの向こうで :2006/06/14(水) 19:29


「もう少ししたら、来るんじゃない?みやのことだし。」
「……そうかな。」
「来る、来る!絶対来るよ。みやがりーちゃんのこと放っておくわけないじゃん。」

―よっぽどのことがない限り。

桃子は心の中でそう続けた。
雅が梨沙子に会いに来ない。
それは梨沙子が雅に何かした事を表している。
雅に大きな影響を与えられるもの―しかも梨沙子に関して―など僅かだ。
つまり梨沙子本人と、後は桃子たちも多少は何か出来るかもしれない。
その中で桃子たちは何もしていない。
むしろこの件に関して桃子たちは完全なる部外者であった。
となると残るのは梨沙子である。
23 :痛みの向こうで :2006/06/14(水) 19:30

桃子は静かに梨沙子を見た。
ベッドの上で顔をしかめて雅が来ない理由を考えている。
何か忘れていると梨沙子は言った。
桃子は絶対的な直感でそこに理由があるんだろうなと考える。
雅に、下手すると梨沙子にも大きな影響を及ぼした何かが。

夢と現の狭間で見たもの。
それが現実なのか幻なのか梨沙子には分からないのだ。
だから梨沙子は忘れているのか、覚えているのか、忘れたいのかが判断できない。
梨沙子を刺したのが誰なのか梨沙子は知っているのかもしれなかったし、知らないのかもしれなかった。


++++
24 :痛みの向こうで :2006/06/14(水) 19:31


「ねぇ、佐紀ー?」
「何、桃?」

桃子が寝そべって天井を見ながら言う。
佐紀はいつもと違う桃子の様子に違和感を覚えつつもあえて普通に返す。
そうすると桃子はゴロンと一回転し、佐紀に目を向ける。
滅多にない暗さを佐紀は桃子の目に見た。

「あの二人、どうなるんだろうね。」
「……何も変わらないでしょ。」

25 :痛みの向こうで :2006/06/14(水) 19:32


雅が梨沙子を助ける。
それは常であったし、だからこそあの二人の関係は成り立っているともいえる。
梨沙子が雅から離れていくことなんてないように感じられたし、
雅も雅で放っておくことはあっても梨沙子を離すことはないように思われた。

「りーちゃんは何があってもみやから離れないと思う。」

佐紀の言葉に桃子は少し首を傾げると、先を促すような視線を向けてきた。
その視線を受け止め、頭の中を整理するかのように暫し沈黙する。
俯いた顔が真剣になるのを桃子は見た。

26 :痛みの向こうで :2006/06/14(水) 19:33


「りーちゃんって、頑固なとこあるじゃん。しかも一箇所だけ。」

すっと顔を上げて佐紀が言う。
その疑問文なのか肯定文なのか分からない呼びかけを桃子は怪訝に思いながらも聞いていた。

「みやのことだけ。みやのことだけ、りーちゃんって凄く頑固になると思わない?」
「あー。」

確かにと桃子は頷いた。
梨沙子は雅のことだけは譲らない。
というか雅を否定するようなことは微塵も言わないし、言わせない。
それが唯一我を張る場面である。
27 :痛みの向こうで :2006/06/14(水) 19:34


「だから、絶対りーちゃんがみやから離れることだけはないって。」

何されても、何してても最後には雅のとこに行き着く梨沙子だから。

「あえて私は断言する。あの二人は何があっても一緒。」

桃子はその言葉にふわっと嬉しそうに笑うとそっかと相槌を打った。
その笑顔は作られた笑顔ではなく、本当に素の桃子からでた微笑だった。


++++

28 :CPヲタ :2006/06/14(水) 19:34








29 :CPヲタ :2006/06/14(水) 19:34








30 :CPヲタ :2006/06/14(水) 19:41

こんな感じで続きでした。

ストックがどんどん減っていく〜。

これからはせめて二週間で更新できるようにがんがりやす。


31 :ななしいくさん :2006/06/18(日) 18:34
楽しみです
32 :CPヲタ :2006/08/10(木) 00:53

31>>ななしいくさん
ありがとうございます。
のろいペースなスレですが覗いてやってください。



ではいつの間にか八月で、焦っての更新です。
遅くなってしまいすみません。

亀な速さでやっていくのでのんびり見てくださると良いかと…。

では今日の分更新。
33 :痛みの向こうで :2006/08/10(木) 00:54



++++




34 :痛みの向こうで :2006/08/10(木) 00:55


血が跳ねて広がる。
それは見たこともない映像だった。
それは見たことがないくらい綺麗だった。
白と赤とのコントラスト。

雅は一瞬、何もかも忘れてそれに見入っていた。



梨沙子に刺さったナイフは本当に深々と彼女のわき腹を貫いていた。
夜というにはまだ早い黄昏時。
町は夕焼けに染まり、赤の光が横行する。
雅はその中に別の紅を見つけてしまった。

―みやが好き。

そう言って笑っていた梨沙子の顔をハッキリと思い出せる。
だけど雅と梨沙子の想いは似ているようで違った。
だからすれ違って、だからこんなことが起こっているのだと雅は思う。

「………梨沙子。」

滲む血は服を染め、刃を伝う。
地に落ちる雫は夕日の色で嫌に光った。

35 :痛みの向こうで :2006/08/10(木) 00:56


「梨沙子?」

梨沙子の力が抜け、雅に梨沙子の重みがかかる。
自身にかかった重みはいつもより重い気がして。
それが梨沙子の意識がないことを証明しているようで嫌だった。
まるで自分が二人いるような感覚に雅は囚われる。
冷静に救急車を呼ばなくてはとか梨沙子を助けなければと考える自分。
そして何も見えず、何も聞こえず、何も考えられない自分。
手に滑り過ぎる液体が付着する。
だがそれでも雅は動けなくて、完全に止まってしまっていた。

「みや…?」
「り、さこ。しゃべっちゃ駄目だよ。」

声にまで力が入らない。
自分は電話をしただろうか。まだしていないのだろうか。
梨沙子を助けなければならない。死なないで欲しい。
だがこのままだと梨沙子は確実に死んでしまう。
ドラマでしか見たことのなかったような場面。
ドラマでよく聞くセリフ。


「――――――――――――――-。」

36 :痛みの向こうで :2006/08/10(木) 00:57


何故そんな事を言うのだろう。
今、この場面で。

「あたしもだし。」

ポツリと漏れた言葉だけが雅の真実であった。
何処か遠くから救急車のお馴染みの音が聞こえてくる。
それにより段々と頭の中で冷静な自分が勝ってきて、雅は自分を半分取り戻す。
梨沙子の面倒を見るのは自分。
その思いが妙に雅を奮い立たせたのであった。
そして誰が呼んだのかさえ分からない救急車に乗って雅は梨沙子の命を守っていたのだ。


37 :痛みの向こうで :2006/08/10(木) 00:58


「みや。」

自分にかけられた声にはっとして顔を上げる。
そこにいたのは見慣れた仲間。
桃子であった。
後ろには佐紀や友理奈、千奈美といつものメンバーが揃っている。
一瞬自分が何処にいるのか把握できなくなって雅は寝ぼけたように周りを見渡した。

「…もも?」

桃子は頷いた。
その目には何だかいろいろなものが込められていて、雅は泣きそうになる。
肩に置かれた手とその感触がここは間違いなく現実であることを雅に知らせる。
カチコチと時計の秒針が静かに音を立てる。
桃子が隣に座り、何人も座れる横長の椅子が少し軋んだ気がした。
目を上げると赤いランプ。
異様に静かな廊下。
自分達以外全てが無機物であるかの様な感覚。
それのどれもが雅には気に食わなかった。
嫌で、嫌で、仕方がなかった。
次にあの扉が開いたとき梨沙子の運命は決まってしまっている。
それはとても理不尽な気がしたし、何も出来ない自分が悲しかった。
何も出来ない。
それはとてつもなく深い絶望だった。

38 :痛みの向こうで :2006/08/10(木) 00:59


「……梨沙子が、あの中にいる。」
「うん。」
「そう考えただけで、凄く怖い。あたしには手の届かない場所で梨沙子がいなくなるのが怖い。」
「………うん。」

するりと桃子の左手が雅の右手を握った。
泣きそうなはずなのに涙が出ない。
泣きたいはずなのに泣きたいなんて思わない。
雅の涙はあの忌々しい赤いランプに吸い取られてしまったかのようだった。
今はただ梨沙子が生きてくれることを願って。
雅は扉の前でひたすらに祈った。

39 :痛みの向こうで :2006/08/10(木) 00:59




40 :CPヲタ :2006/08/10(木) 00:59





41 :CPヲタ :2006/08/10(木) 01:02

ありえないくらい少なくて、すんません。

どんよりと暗い話ですがそのうち明るくなる……かな?

本当は明るくてラブってるのが好きなんですけどねー。
書けばこうなる。
自分でも不思議です。

では次こそ速く更新するぞと自分に気合を入れて。
またの日まで。

42 :CPヲタ :2006/09/17(日) 20:45







43 :痛みの向こうで :2006/09/17(日) 20:46

++++


―彼女が自分以外に微笑むのはいやだ。

なんて子供じみた想いに囚われるようになったのは何時からだろう。
笑いかけてくれるだけでよかったのに。
それだけじゃ物足りなくなってしまっていた。

「どうかしたぁ?」
「……桃ち。」

肩に手が置かれその手をなぞるように視線を上げる。
そこには得意の笑顔を浮かべた桃子が立っていた。
座っているためいつもは少し下に見える桃子の顔を自分のはるか上に見る。

44 :痛みの向こうで :2006/09/17(日) 20:47


「見すぎだよ?いくらなんでも。」

そう?と首を傾げるとそうだよと苦笑と共に返された。
そんな意識は少しもしていなかったし、桃子が気づくとも思わなかった。

「あのさ。」

ここは相談してみるのがいいかもしれない。
桃子は自分より年上だ。
それに桃子はこういう類の感情について自分よりはるかに詳しそうだと思ったから。
実際今も聞く準備ができている。

「うん、何?」
「独占欲って、大人?子供?」

「………うん?」

桃子は聞き返すようにもう一度首をかしげた。
その姿に少し後悔する。

45 :痛みの向こうで :2006/09/17(日) 20:47


「独占欲を持つって事は子供じみたことなのかな?」

桃子は納得したかのように頷く。

やはり子供じみた思いなのだろうか。

「あー、違うよ。別に子供じみてるとか言う気はないよ。」
「じゃあ……?」

表情で分かったのか桃子は即座に否定してきた。
ざわざわとしている中で二人だけが違う。
まるで別の世界にいるようだ。

違う。

実際に別の世界になってしまったのだ。
彼女を好きになったときから、自分と桃子たちは隔てられてしまった。

46 :痛みの向こうで :2006/09/17(日) 20:48


「桃はね、好きになったんならしょうがないと思う。」
「大人でも、子供でもないってこと?」
「っていうか、大人でも子供でもすることなんて変わんないよ。」

付き合って、嫉妬して、でも好きで。
それが好きって感情なんだと思うと桃子は言う。
好きになったらずっと見ていたいのは当然で、独占欲が沸くのも当たり前。
桃子はそう言う。

「桃もそうなの?」

すると桃子は驚いたような顔をして、困ったように笑うのだ。
聞いてはいけなかったかもしれないと思いながらも聞かずにはいれない。
やはり自分より大人だった桃子。
彼女のことを聞いてみたかった。

47 :痛みの向こうで :2006/09/17(日) 20:49


「あたし?……どう思う?」
「え、そうなんじゃないの?」

自分の経験から出た言葉だと思っていた。
だから酷く桃子の反応に困惑する。
聞き返してみても桃子ははぐらかすだけだ。

「桃もね、嫉妬できるような人ができればいいんだけど。」

ぽつんと最後に呟かれた言葉に謝りたくなった。
その時の桃子の顔は見た事がないくらい悲しそうで。
踏み込んでは駄目だった。
そういう後悔を胸に抱きながら、桃子の言葉に確かに救われていた。


それはいつのことだったろうか。


++++

48 :痛みの向こうで :2006/09/17(日) 20:50


―みやが好き。

そう言ってくれたのは確かにあなただったのに。
覚えていないなんて悲しすぎる。


「……みや、元気ないね。やっぱり、梨沙子が気になる?」

まるで、今目が覚めたように起き上がり佐紀を見る。
雅の様子に佐紀は心配そうに眉を顰める。

「佐紀ちゃん……。そりゃあ、気になるよ。」

だって、半分あたしのせいだし。
と雅は苦笑しながら微笑んだ。
佐紀はその顔を見て、自分も苦笑し前に回りこむと雅の隣に座った。

49 :痛みの向こうで :2006/09/17(日) 20:51


「みやの家に行く途中に、刺されたんだっけか?」

その言葉に雅は俯き、そのせいで佐紀から雅の顔は見えなくなる。
元が陽気な性格の雅だから、ますます今の暗さが目立つ。

―梨沙子のこと、本当に大切にしてるんだなぁ。

雅は照れ屋で、恥ずかしがり屋だ。
年下の梨沙子からからかわれるほどの。
だから目に見えて何かするという事は少なかったが、梨沙子のことを大切にしていた。
それは佐紀も桃子も誰でも知っていることだ。
いや、見ればわかってしまうと言ったほうが良い。
本人達以外は誰もが分かっていた。

梨沙子がからかい、雅は顔を真っ赤にして恥ずかしがる。
梨沙子はそれが見たくて何回もからかう。
佐紀も桃子もそれを微笑ましく見ていた。
そんな平和な時間が確かに流れていたのに。
今はその痕跡すら残っていない。
佐紀はそれを悲しく思った。

50 :痛みの向こうで :2006/09/17(日) 20:53


「ねぇ、顔は見えなかったの?梨沙子を刺した相手の。」

そうだ。
雅は見ているはずだ。
梨沙子を後ろから刺したその人物を。
雅は梨沙子の前に立っていたはずだし、犯人は梨沙子を後ろから刺したはずである。
少しの期待をこめて佐紀は雅を見つめた。
雅はその言葉に少しびくっと肩をすくめたかと思うと、顔を挙げ佐紀を見る。
弱弱しく首を振ると泣きそうな顔で佐紀に言った。

「あたしは、見なかった。逆光だったし、それに……梨沙子にばかり目がいったてたから。」
「そっかぁ。ごめんね、変なこと聞いて。」
「ううん、警察の人にも同じこと聞かれたし。誰だって思うことだから。」

51 :痛みの向こうで :2006/09/17(日) 20:54


謝る佐紀を見つめる目はやはり力がなかった。
梨沙子のことがよっぽどショックだったのだろう。
佐紀はそう思い、もう一度雅の肩をぽんと叩くと元気出してねと小声で伝えた。
うんと小さいながらも返してくれた雅は、しかしどこかぼうっとしていた。
俯いたままの体勢で、うわ言を言うときのように微かに雅の口が動く。
佐紀が読み取ったそれは余りに意味深で、決定的なものだった。


『梨沙子、ごめんね。』


見てしまった佐紀は何もできなかった。
佐紀は悲しいことだが、今回の事件においてなにも関われないからである。
桃子が梨沙子の様子を気にしていることや、二人の心配をしていることは知っていた。
佐紀も何回かそういう類のことをしていったし、桃子からも相談を受けていた。
もちろん雅と梨沙子のことについてであるが。

佐紀はこの間桃子に相談されたことを思い出し、嘆息する。
あの時はああも自信たっぷり言い切ったが今そうできる自信はほとんどない。
佐紀は桃子のことを思い出しながら、静かに目を瞑った。


++++

52 :CPヲタ :2006/09/17(日) 20:55





53 :CPヲタ :2006/09/17(日) 20:55







54 :CPヲタ :2006/09/17(日) 20:57

自分的には多めの更新。
思ってたよりも長くなりそうで心配。

いつになったら、自分はラブラブの短編がかけるのだろうか。

55 :ななしいくさん :2006/09/18(月) 01:07
作者さんのラブラブの短編も読んでみたくて仕方がない自分はどうすれば・・・。
56 :CPヲタ :2006/10/02(月) 00:00

55>>ななしいくさん
しばらくお待ち下さい、としか言えない自分。
ベリーズの夏夏DVDが発売されたら何とかなるかも、かも?
長編と同じように気長にお待ち下さい。

57 :CPヲタ :2006/10/02(月) 00:00




58 :CPヲタ :2006/10/02(月) 00:01


++++


「ももち、聞いてー。あたし、やっと退院できるんだよ!」
「良かったじゃん、梨沙子。おめでとう。」
「ありがとう。」

病室に入って開口一番に、桃子は梨沙子からそう言われた。
少し面食らったものの、その内容は桃子にとって嬉しいものでしかなく素直に喜んであげることが出来た。
そして出来た定型文的な会話。
桃子は何故かそれがおかしかった。

59 :CPヲタ :2006/10/02(月) 00:02


「みやがね、あ、みやから連絡があったんだけど。
あたしが退院したら今度はあたしの家で遊ぼうって。」

その勢いのまま桃子に告げられた喜びが多分に含まれた言葉。
桃子はそれを聞き、最初の勢いもこれが原因なのだろうと少し苦笑した。
とりあえず、梨沙子の側まで歩くと椅子を引っ張り出してそこに座る。
頬を赤くして桃子に報告する梨沙子の姿はとても可愛かったが、
余り興奮しては傷に触るのではないかと桃子は少し心配した。

「はいはい、りーちゃん。少し落ち着いてね。傷が開いたら、退院延期決定だよ。」

それは困ると梨沙子は小さく呟き、ゆっくりとベッドに寄りかかった。
桃子が来るまでよっぽど暇だったのか梨沙子の周りには雑誌が散乱している。
ここは病院であるから携帯電話は使えない。
となると出来ることはテレビと雑誌を読むことくらいだった。

60 :CPヲタ :2006/10/02(月) 00:03


「で、みやから連絡があったの?」
「うん!!家に電話がかかってきたんだってお母さんが言ってた。」

椅子に座る桃子とベッドに上半身を起こしている状態の梨沙子ではかすかに梨沙子のほうが視線が高く、
桃子は首を傾げると梨沙子を少し覗き込むようにして見た。
先ほどよりは落ち着いたものの梨沙子が桃子に注意されたくらいで大人しくなるはずはない。
余り見ないくらいに全ての動作に力が入っていた。
桃子の言葉に頷くにしても、話すにしても。


61 :CPヲタ :2006/10/02(月) 00:04


「そっかぁ〜。……お見舞いには?」

梨沙子は一瞬言葉に詰まると俯き顔をふるふると横に振る。
しょんぼりとした梨沙子に桃子は少し慌て、
もう少し考えてから聞けばよかったと少なからず後悔した。

梨沙子が入院して一ヶ月と少し。

梨沙子の言葉が本当なら、その間雅は一回もお見舞いに来ていないということになる。
真面目な性格の雅にしてはおかしいし、ましてや梨沙子のことだ。
一回も来ないなんて天変地異の前触れだと桃子は思った。


62 :CPヲタ :2006/10/02(月) 00:05


桃子は梨沙子が運ばれたときのことを回想する。
梨沙子は知らないがあの時の雅は見ていられなかった。
励ますことさえためらう様な雰囲気。
あの時の雅は何かの弾みで壊れてしまいそうだった。


―みやの様子からして絶対に最低週一ペースで来ると思ったんだけどなぁ。


だからこそ桃子は不思議がる。
もしかしたらと雅に疑問を持つ桃子だが、
基本的に雅が梨沙子を傷つけるなんて塵ほどにも思っていない。
目を瞑り自然と浮かんでくるのは、
雅が心配そうに病室に入ってくるところや
少々照れながらも病室を訪れる所。
どちらも来るのがデフォルトだ。
来ない雅などありえなかった。

63 :CPヲタ :2006/10/02(月) 00:06


桃子はそう思いながら、梨沙子に目を向ける。
雅のことになると騒がしい梨沙子。
桃子はそんな梨沙子を見つめながら、どうしても心配でならなかった。


―そのまま、済めばいいのに。



そう思いながらも、桃子はそのままでは終わらない気がどこかでしていた。



++++

64 :CPヲタ :2006/10/02(月) 00:06






65 :CPヲタ :2006/10/02(月) 00:09

名前の欄を間違ったことに今気づく……。
大したことはないですけど皆さん頭の中で変換願います…。

メッチャ短いけどきりがいいんでここまで。
次から微妙に話が展開する予感。

66 :ななしいくさん :2006/10/08(日) 13:09
雅ちゃんの真相がわからなくて気になります。
話が展開するのを楽しみにしています。
67 :吉よしメン後 :2006/10/29(日) 15:15

この頃変に忙しいっす……。

夏夏のDVDが見たくてしょうがないのに、金がない。
悲しいことです(爆


66>>ななしいくさん
実を言うと自分にも余り分かってなかったり・・・・。
でも現実よりはりーちゃんのことを表面的に気遣っています。
たぶんそういう子です。
変化に乏しい連載ですので、ゆっくり読んでください。


では遅くなりましたが更新します。
68 :CPヲタ :2006/10/29(日) 15:16




雨が降った。
ついこの間まで五月晴れの模様を表していた空はどんよりと曇り、雫を落としている。
いつの間にか梅雨に入っていた。

地面を小さな水流となり、雨が流れていく。
ぽつぽつと傘を叩く音はしかしそのような勢いではなく、ザーザーと言った方が良いくらいだ。
なかなかに激しい雨の中、一人雅は傘を差し歩いていた。
目的地はそんなに遠いわけではない。
だがたどり着いたことは一度もなかった。


69 :CPヲタ :2006/10/29(日) 15:17


雅は俯き加減に歩く。
すると自分の足元を流れていく水が少しうっとおしかった。
ここは坂道で、雅は今登っている。
ちょっとした山のような場所に建てられた目的地は登りきったことはあっても,
辿りついたことはない。
できるはずもない。
雅はまだ迷っていた。

―……どうしよう。

今日も着いてしまった。
雅は少し傘を傾けその白い建物を見上げる。
遠めに見ても部屋に廊下に人が沢山動いていることが分かった。
活動的な場所、であるが、消極的な場所。
傘の取っ手を握り締め、何度目か分からないが病院に足を踏み入れた。

70 :CPヲタ :2006/10/29(日) 15:18


梨沙子の部屋番号は分かっていた。
何度も着ているのだから間違えるはずもない。
雅は迷わずエレベーターに乗り梨沙子のいる階のボタンを押す。
少しの音と共に重力が雅の身体に圧し掛かった。
一人で乗るエレベーターを雅は余り好きになれない。

余り大きい病院でもない。
ここに梨沙子が運ばれたのはただ雅の家から近かっただけなのだが、今となっては幸いだった。
町に必ず一つはあるような総合病院。
目立つわけもなく梨沙子がここにいることもばれていない。
だからこそ雅がこうも頻繁に通うことが出来た。

71 :CPヲタ :2006/10/29(日) 15:19


高めの電子音がなり、着いたことを雅に知らせる。
目の前で扉がスムーズに開いた。
俯いていた雅に乗り込む誰かの足が見える。
その人が乗り込んできてから降りようと雅は顔を挙げタイミングを計ろうとした。
一人の自分と同い年くらいの少女と目が合う。
時が止まった。

「みーやん、お見舞い?」

にっこりと笑いかけてくる桃子を見ながら今日こそ梨沙子の病室に入れるような気がした。




72 :CPヲタ :2006/10/29(日) 15:20



雨の屋上。
そこは思っていたよりも綺麗で、見通しが良くて、でも空に近い場所だった。


桃子に促され屋上へと足を踏み入れた雅はちょっとした庇の下に傘も差さずに立っていた。
隣には桃子がいて雨が降る空を見つめている。
コンクリートを跳ねる雨は人工物のようで好きになれない。
土の上の水溜りは好きでも塗られた壁の水溜りは嫌いだった。

「みーやんさぁ、……ずっと来てたでしょ?」
「………。」

その鋭い問いに少しどきりとした。
だが雅はただ側に傘を置き、空を眺めているだけだ。
桃子はこういう時とても鋭い。
だから雅がここで一番会いたくなかったのは桃子だった。
ずっと沈黙を保っていると桃子が呆れたようにため息をつき、しかし雅のほうは見ずに続ける。

73 :CPヲタ :2006/10/29(日) 15:20

「みーやんが来ないはずないもん。病院までは来るのに梨沙子には会わなかったんでしょう?」
「何で…。」
「目立つってこと自覚したほうがいいよ?看護師さんに聞けばすぐだよ。」

尤もなことを言われ雅は言葉に詰まる。
確かに病室までは行けなくても病院に入ったことは何回かあった。
その時、誰かに見られていたとしても何も不思議ではない。

「あのさぁ、もう何があったかは聞かない。」
「え?」
「あの時何があったかはもう聞かない。りーちゃんを刺したのが誰とか、もういい。」

もう直ぐ退院だしと桃子が小声で付け足すのを雅は聞いた。
ちらりと盗み見るようにして桃子の横顔を見つめる。
そこにあるのはほぼ無表情に近い顔。
桃子が時々する顔ではあるが雅はそこから何かを読み取れたことはない。

74 :CPヲタ :2006/10/29(日) 15:21

あの時のことを知っているのは今では雅だけだ。
誰もが何があったか知りたがったし、
マスコミなどは各々予想を勝手に垂れ流している。
そんな中での桃子の宣言は不思議で仕方なかった。


「ただ、桃は……ただね、笑っていて欲しいだけ。二人に。」


激しく落ちていく雨粒が雅と桃子を世界から遮断した。
桃子が無表情を崩し、寂しそうな影を浮かべたとき確かに雅の世界には二人しか存在しなかった。
桃子の作る異質な空気に取り込まれてしまっていたのだから。


++++



75 :CPヲタ :2006/10/29(日) 15:22








76 :CPヲタ :2006/10/29(日) 15:25


ありえないミスをしてしまいましたが、さらっと流しましょう。
気づいた方は(笑


書くたび思うんだけど桃子って本当に良いキャラしてますよねー。
自分りしゃみやヲタなのに話動かしてるの桃子ですもん。
いやー、書きやすい。

ではんなどうでも良いことを書いて、またの日まで。

77 :ななしいくさん :2006/11/26(日) 23:18
一気に読んでしまいました!!
面白いです〜!次の更新、待ってます。
78 :CPヲタ :2007/02/09(金) 11:19


更新しまーす。

長時間の放置すんませんでした(汗

レス返しは後で。


79 :CPヲタ :2007/02/09(金) 11:20


その日の夜、友理奈は千奈美の家に泊まりに来ていた。
結局止むことのなかった雨は、今も友理奈の耳に雨音を響かせている。

むくりと起き上がり友理奈は隣のベッドを見つめる。
一段高い所にあるベッドに寝ている千奈美と布団に座る友理奈の目線はほぼ同じくらいだ。
若干友理奈のほうが高いが、いつもの差に比べたらないに等しいものだった。

「ちー?」

そっと呼んでみる。
寝ているなら起きないだろうし、起きているなら辛うじて聞こえるくらいの大きさだった。

「ん〜、何?熊井ちゃん。」
「ちーは、今回の事件どう考えてるの?」

布が擦れる音がして千奈美がこちらに振り返った。
その顔は少し寝かけていたようであった。
友理奈はまだ起きていた事に安堵しながら問いかけた。
目が覚めてきた千奈美が悪戯に笑う。


80 :CPヲタ :2007/02/09(金) 11:21


「どうって?」

わかってるくせに。
友理奈は微かに顔をしかめた。
千奈美は時々意地悪になる。
何故だかは友理奈にはわからないが。

「りーちゃんのことはうちには分からないよ。」

千奈美が体を起こした。
自然と目線が少し高くなる。
見上げるという行動が新鮮に感じた。
千奈美の身体から掛け布団が滑り落ちていく。
暗がりの中で千奈美が苦笑したのが友理奈には分かった。

81 :CPヲタ :2007/02/09(金) 11:23


「みやはショック受けてるみたいだし、キャプテンはそんな二人の子と心配してる。
桃のことはわかんないけど、多分うちが出来ることなんてないよ。」

すらすらと千奈美の口から出てきたセリフに友理奈は少し驚く。
事件の後梨沙子を除いた全員で会うこと事態減っていて、
千奈美がその少ない時間の中でそこまで人を見ていたことに友理奈は驚いたのだった。

「そう、なのかなぁ……。」
「そうだよ。もう寝よ?明日も一杯遊ばないといけないんだから。」

お姉さんっぽい表情を浮かべた千奈美が諭すように言う。
千奈美の目も声音も優しくて友理奈は反論することが出来なくなる。

「ほら、早く。」

再度千奈美に促される。
それでも友理奈は布団に入って寝る気になれず、座ったまま黙っていた。
かちこちと何処からか時計の音が聞こえてくる。
無言だが感じる視線。
それらは確かに友理奈に寝ることを強制していた。
嫌な時間が過ぎる。
しかし友理奈にはどうすることも出来なくてただ彫刻のように固まっていた。

82 :CPヲタ :2007/02/09(金) 11:23


「しょうがないなぁ〜………。」

ふうーと千奈美が嘆息したかのように息を吐き出した。
千奈美はするりと自分のベッドを抜け出すと友理奈の隣に座る。
そしてそのまま、まだ下のほうに綺麗にたたまれていた掛け布団を両手で握ると一気に友理奈を押し倒した。
ただ千奈美の行動を目で追っていただけの友理奈は抵抗などできずに布団に寝転がる。
ひどく驚いたはずだが、驚きすぎて落ち着いてしまった。
それに千奈美ならいいかという思いも確かにあった。

「これで寝れるでしょ。」
「ちー?」

あたし一人で寝られるんだけど。
出て行こうとした言葉は千奈美の視線に閉じ込められて胸の中に戻っていく。
心地いい体温に友理奈は眠りの国へと急速に落ちていった。



++++

83 :CPヲタ :2007/02/09(金) 11:25


「うん……うん。うん、そうだね。……わかった、伝えておく。」

がちゃっと重そうに受話器が降りる。
ピーピーという甲高い音と一緒にテレホンカードが排出された。
佐紀は重いため息をつきつつ、それを受けとる。
今の電話は茉麻からであった。
元々佐紀が、用事があって病院の公衆電話から電話したのだが結局有耶無耶になってしまった。

梨沙子が怪我してからどうにもごたごたしていた。
犯人が捕まっていないことがその原因の一つだったのかもしれない。
しかしそれだけではない何かもやもやしたものがグループを覆っているように感じられた。

84 :CPヲタ :2007/02/09(金) 11:26


「どうしよう、かな……。」

どうもできないというのが素直な気持ちだった。
桃子は元より佐紀がどうにかできる人ではないし、雅も我を曲げるような人ではない。
千奈美と友理奈は千奈美が首を突っ込もうとしなければ大丈夫だろう。
で茉麻と舞波だ。
茉麻はとにかく梨沙子が可愛いらしい。
それが面倒くさいことを引き起こす気が佐紀にはした。
忘れがちだが茉麻と雅は同い年である。
同じという事は上に見せるような遠慮も下に見せるような寛容もなくなる。
衝突が激しくなるのは避けられない。

「舞波は……大丈夫かな?」

85 :CPヲタ :2007/02/09(金) 11:26


わざわざこの世界を抜けた舞波を連れ戻す必要もないだろう。
桃子が連れて来るようであればまた別であるが。
佐紀はそこまで考えてから梨沙子の病室に帰る道を辿る。
そう佐紀は梨沙子のお見舞いに来ていたのだ。
梨沙子はさびしいのが苦手な子であるからなるべく多く来るようにしている。
もっとも一人で来るという事は少なく、また一人で来たとしても病室で鉢合わせになることは結構あった。

―雅の姿を一度も見ていないことは異常だと思うが。

時々通る看護師さんなどに目礼をしつつ進む。
すると、同じ階なのから当然だが、すぐに部屋へと着いた。
扉の前で一度止まり、息を吸う。
難しい顔など見せたらお見舞いに来た意味がない。
パッと表情を切り替える。
こういう時、この世界に入ってよかったなと佐紀は思う。
でなければこんなに気持ちの切り替えや、笑顔が作れるようにはならなかっただろうから。

86 :CPヲタ :2007/02/09(金) 11:27


「りーちゃん、お見舞いに来たよ〜。」

さほど音もしない引き戸を開き、明るい声で佐紀は言い放った。
普通ならここで梨沙子の声か、または別の誰かの声で迎えられる。
しかし、誰の声も、音さえも佐紀を迎えてはくれなかった。
ここだけおかしいほどの静寂に包まれていたのだ。
佐紀は少し首を傾げると僅かな不安と大幅な疑問を胸にベッドへと近寄る。

「……りーちゃん?」

カーテンを開けてみれば確かに梨沙子はそこにいた。
ベッドの上でぼーっとカーテンの引かれていない外のほうを見ている。
佐紀に気づいて様子はない。
とりあえず倒れたりしていないことには安心したが、どうにも様子が変である。
目の焦点が、合っていない。
そして無表情すぎる。

87 :CPヲタ :2007/02/09(金) 11:27


「……梨沙子?」

ゆっくりと近づき、そっと梨沙子の肩に触れる。
小さく梨沙子の肩がゆれ、スローモーションのようにこちらに振り向く。
佐紀にはコマ送りのようにその顔の全てが見えていた。
喜びと落胆の変化を。

「なんだ、佐紀ちゃんか……。」

吐き出された言葉に佐紀は唐突に全てを理解し、苦笑を浮かべる。
つまり梨沙子は彼女を待っていて。
佐紀が“梨沙子”と呼んだから間違えたのだ。
彼女と。

88 :CPヲタ :2007/02/09(金) 11:28


ここでごめんと謝るのは違うように思われた。
謝った所で雅は来ないのだから。
その結果、黙ってしまった佐紀に梨沙子はしっとりと笑いかける。
無邪気ないつもの笑顔ではない微笑みというような笑み。

「ねえ、佐紀ちゃん。みやはいつになったら来てくれるのかな。」
「……ちょっと、わからないな。」

佐紀は困ったような笑みを浮かべ答えた。
この梨沙子を佐紀は知らない。
だから対応に困る。

89 :CPヲタ :2007/02/09(金) 11:29


―こんなに待ってるのに。

そう小声で言う梨沙子を佐紀はただ見ているしか出来なかった。
雅が何時来るかは知らなかったし、来るなんて適当なことは言える雰囲気ではなかった。
二人とも静かになり、また音がなくなる。
梨沙子は再び窓の外を見つめ始めた。

さて、どうしよう。
することがない。

佐紀は梨沙子の様子から話しかけても無駄だと思い、近くにあった椅子に腰掛ける。
くるりと部屋を見回してみても、特に面白いものがあるわけでもない。
病室であるからそれは仕方ないのであるが。
手持ち無沙汰になった佐紀は梨沙子の観察をすることにする。
この事態に対応するために。
この状況の見極めをするために。

結局、当事者は二人なのだから。


++++

90 :CPヲタ :2007/02/09(金) 11:29




91 :CPヲタ :2007/02/09(金) 11:29






92 :CPヲタ :2007/02/09(金) 11:34


77>>ななしいくさん
かなーり久しぶりの更新になってしまい申しわけありません(汗
気に入ってもらえたなら良かったです!!
キッズでこの内容ってどうなのかと自問自答していましたから……w


ではまたの日まで。
これからはもう少し早く更新します(汗

93 :CPヲタ :2007/04/14(土) 16:59






94 :CPヲタ :2007/04/14(土) 17:00


帰る道すがら、桃子の言ったことを考える。
やはり雅には理解できない。
あそこまできっぱりと割り切れることが。
割り切れたように見せられることが。
未だに降り続ける雨を見上げ、雅は唐突にここに来た目的を思い出した。

―あ、梨沙子の病室結局行ってない。

今日こそは入れると思った。
他のメンバーがいないときを狙って来るのにも疲れていた。
だが最初は二人きりで会わないといけないだろう。
雅はそう決めていた。
自分のためにも、梨沙子のためにも。

95 :CPヲタ :2007/04/14(土) 17:00


足を止めて思わず振り返る。
白い建物はいやに威圧的に見えた。
戻ろうかとも思ったが、そろそろ面会時間も終わりなはずだ。
戻った所で会えないかも知ない。

ふうと一つため息をついて雅は前を向く。

―今度にしよう。

どっちみち梨沙子が退院したら最初に会う約束は取り付けた。
確実に会うことは出来る。
問題は梨沙子が拗ねることくらいだ。
雅は雨の中を歩き出す。
そしてまた桃子のことに思考は飛んだ。

96 :CPヲタ :2007/04/14(土) 17:01


―桃はああ言ったけど……。

他のメンバーはそうは思っていない。
ましてや他の人たちだって思うはずがない。
自分の仲間を刺した人物が誰か知りたいはずだし、捕まることを願っている。
事件において一番注目されるのは傷つけた犯人だ。
なぜなら自分も傷つけられる可能性があるから。
その可能性が消えない限り、事件は収まらない。

―でも。

この事件の犯人は捕まらないだろう。
雅はそのことを知っていた。
犯人は捕まらない。
だが事件には終わってもらわなければならい。
雅は頭を抱えたい気分になった。
誰も彼もが桃子のように割り切れるわけではない。
むしろあれこそが特殊な例だ。

97 :CPヲタ :2007/04/14(土) 17:02


―それに。

桃子の中では犯人が誰かなんてもう分かってしまっているのかもしれない。
そうでなくても、自分に危険が及ばないことが分かっているのかもしれない。
人の機微に聡い子だから。
そのうえで、桃子はこの事件にはもう触れないことを宣言した。
大人の対応だと雅は思った。
好奇心に駆られるまま何もかも暴くことが正義ではないと知っている、そんな大人の。
1個しか違わないのに感じる圧倒的な差。
それは一年で埋まるとも思えなかった。
普段は差があるとは思えない、だがこういう時に見え隠れする桃子は少し怖かった。
何が桃子をそうさせたのか分からないことが怖かった。
大人の怖さだと雅は思った。
そして梨沙子の一途さは小さい子供の怖さだと思った。
一途だからこそ残酷になる怖さ。


雅にはどちらも分からない。


何もかも分かっているように対応する大人も一つのことだけを見続けられる子供も。
雅はその狭間に今いるのだから。
桃子のようには振舞えない。
かといって梨沙子のような真っ直ぐさも雅には持てない。

98 :CPヲタ :2007/04/14(土) 17:02


―こんがらがる。

何をすべきか、何をしたいか。
そして何が一番梨沙子のためになるか。
雅の頭の中でそれぞれが混ざって絡まった。
今もまだ鬱陶しく降る雨が更に雅の気持ちを重くする。

さて覚悟を決めなければならない。
真実を知っているのは雅だけ。
梨沙子でさえ覚えていない。
なら雅だけで乗り越える覚悟を。

雅は傘の柄を強く握った。




99 :CPヲタ :2007/04/14(土) 17:03


++++


100 :CPヲタ :2007/04/14(土) 17:03





101 :名無し読者。 :2007/05/18(金) 00:06
更新キテター
102 :CPヲタ :2007/08/20(月) 22:13

コソーリ


更新に来ました。
色々あって四ヶ月ぶりですが、頑張りまっす!


101>>名無し読者。さん
更新シテター
地味に更新するのが好きなんです(爆


では本当に久しぶりの更新です。

103 :CPヲタ :2007/08/20(月) 22:13





104 :痛みの向こうで :2007/08/20(月) 22:14


桃子と佐紀が会ったのは病院の玄関であった。
別に約束していただけではなく、本当に偶然である。
屋上から階段で降りてきた桃子と結局何も話せず帰ってきてしまった佐紀。
どうせ帰る方向も一緒だしと一緒に帰ることにしたのだ。

「佐紀はお見舞い、だよね?」
「それ以外でここに来ないでしょ。桃こそ何してたの?」

病院の前で駅に向かうバスを待つ。
暗い空から降る雨を二人揃って並んで見上げていた。
言葉少なに待つ。
同い年で一番長くいろんな仕事をしたおかげか別に沈黙は苦しくなかった。


105 :痛みの向こうで :2007/08/20(月) 22:15

「あたし?あたしはお見舞いしてからみーやんとお話。」
「…………みや、来てたんだ。」

桃子の答えに驚きと戸惑いが混ざったような声で佐紀が言う。
だが雅は病室には来ていない。
少なくとも佐紀がいる時には。
それに梨沙子の様子からして佐紀より前に来ていたとも思えかった。

「エレベーターのとこで会ってそのまま屋上で話してたの。」

病室、行かなかった?と尋ねる桃子に佐紀はゆっくりと首を振った。
そっかと桃子がそっけなく返した。

「りーちゃん、結構切羽詰ってるよ。」
「そう。」

106 :痛みの向こうで :2007/08/20(月) 22:15

またもやそっけなく返される。
いつもの桃子にしたらありえないことだったので佐紀は訝しげに桃子を見る。
そこには滅多に見ないくらい真顔の桃子がいた。

「桃?」
「佐紀、あのさ……もう止めにしない?」

「え?」

佐紀は耳を疑った。
止める?
何を?
――梨沙子の事件の捜査を?
佐紀はもう一度桃子を見る。

107 :痛みの向こうで :2007/08/20(月) 22:16

「たぶん、もうあたしたちに出来ることは何もないよ。」
「……桃。」
「りーちゃんも、みやも限界なんだよ。きっと。」
「それは、そうだけど。」

しどろもどろになる佐紀に桃子は苦笑する。
きっと自分はとても困った顔をしているんだろうなと佐紀は思った。
桃子が言葉を捜すようにもう一度雨の降る空を見上げる。

「なんて言うか、あの二人の間にあたし達が入ることは出来ないと思わない?」
「うん。思う。」

108 :痛みの向こうで :2007/08/20(月) 22:16

雅と佐紀はグループの中でも仲が良い。
だがそういった雰囲気とは別に雅と梨沙子の距離は近かった。
着かず離れず独特な距離感。
桃子はそれのことを言っているのだろう。

「みやはみやなりに頑張ってるから、そっとしといてあげようよ。」
「……うん。」

静かに頷いた佐紀は前にもこんなことが合ったなぁと頭の片隅でぼんやりと考えていた。



++++


109 :痛みの向こうで :2007/08/20(月) 22:17




110 :痛みの向こうで :2007/08/20(月) 22:17




赤い光。
赤い液体。
暗い道。
白い光。
冷たい風。
温かい彼女の手。



―あたしが見たのはドレなんだろう。



111 :痛みの向こうで :2007/08/20(月) 22:17

「……さこ、梨沙子、梨沙子ってば。」
「え、あぁ。ごめん、みや。」
「ぼーっとし過ぎ。」

雅が梨沙子の肩に手を置いたまま苦笑した。
今日を楽しみにしていたのは誰よりも梨沙子本人なのに身が入らなかった。

―あたし、なんか変。

結局記憶は戻らなかった。
戻らないと言うのは適切ではないかもしれない。
元々失くしたわけではないのだから。
でも胸の中の靄は少しも晴れていない。
だから梨沙子は一番信じている人に尋ねる。

112 :痛みの向こうで :2007/08/20(月) 22:18

「ねぇ、あたし本当に何も忘れてないの?」
「またその話?何にも忘れてないってば、もう。」

隣を見れば呆れたように言われた。
そう言われれば梨沙子は黙るしかない。
珍しく雅から繋いでくれた手は先ほど解かれてしまった。
仄かに残る温もりが逆に悲しい。

「とりあえず早く行こ。……ここにあんま居たくないから。」

雅が一歩先に進んだ。
ちょっと眉根を寄せた泣きそうな顔。
いつもは見ない表情に梨沙子は周りをそっと見渡す。

113 :痛みの向こうで :2007/08/20(月) 22:18

―ここ、あたしが刺された所?

フラッシュバック。
あの日の夕暮れが今の情景に重なる。
そうあの時も雅は一歩先にいた。
夕暮れに染まる泣きそうな顔。
それが今の雅に重なる。

梨沙子は額に手を当てた。

「あ……れ?ここ……。」
「っ大丈夫?だから、早く行こうって言ったんだよ。」

雅が梨沙子の顔を覗き込み、手をとる。
そしてすぐに歩き始めた。
そこには普段マイペースな雅に感じられない焦りが見えた。
雅に引き摺られながら梨沙子は言葉を続ける。

114 :痛みの向こうで :2007/08/20(月) 22:19

「ここ、あたしが刺された場所?」
「…………。」

梨沙子は雅を伺うように見るが彼女は答えてくれない。
ズンズンと梨沙子を連れて先に進んでしまう。
梨沙子は繋がっている手に少し力を込める。
答えてくれという合図だ。
いつもならこんなことしなくても雅は答えてくれるのだが。
雅にとってもここは嫌な場所なのだろうか。
それは目の前で梨沙子が刺された場所だから?
だとしたら。

―嬉しい。

梨沙子は人事のように、自分が刺されたことなどなかったようにそう思った。

115 :痛みの向こうで :2007/08/20(月) 22:19

「家、家に着いたらゆっくり話すから。ここで止まりたくないの、お願い。」

雅は振り返らない。
ただ一心に前へ、雅の家へと進む。
梨沙子の欲しい答えではない。
だけど梨沙子が雅のお願いを、弱い声を振り切って再度聞けるはずもなかった。

そんなに長い時間をかけずに雅の家へと着いた。
こんなに短い距離しかなかったんだなと梨沙子は驚く。
雅の家に行くのは勿論初めてではない。
初めてではないのだが何か変な感じがしたのだ。


116 :痛みの向こうで :2007/08/20(月) 22:20






―いい、りーちゃん。





突然頭の中に桃子の声が響いた。
梨沙子はぼんやりとその場面を思い出す。


117 :痛みの向こうで :2007/08/20(月) 22:20

―何も疑問に思っちゃ駄目だよ。

退院する前の日に真剣な顔の桃が言ったんだ。
あたしは桃が何を言っているのか分からなくて『何を?』って聞き返した。
そしたら桃はちょっと苦笑いになって、でも真剣な声はそのままで教えてくれた。

―みやと一緒にいて変だなって思っても、何も突っ込んじゃ駄目。

きゅっと一歩あたしの方に踏み込んで、聞かれちゃいけない事の様に声を低くした。
それでもまだ理解できていなかったあたしに桃は更に念を押すように言った。

118 :痛みの向こうで :2007/08/20(月) 22:21

―それがきっと一番平和に楽しく過ごせるから。

その顔に、その表情にあたしは頷くしかできなかった。
桃の真剣な顔は怖いくらい空気があって、雰囲気に呑まれていたから。
それに桃があたしの為を思って言ってくれていることも何となく分かったから。

きっとその言葉はこの場面を言っていたんだなと思った。

「……桃のばか。」

だからこれは自分に甘すぎる桃子が可哀想になったから出たのだ。
梨沙子はそう思った。




++++


119 :CPヲタ :2007/08/20(月) 22:21





120 :CPヲタ :2007/08/20(月) 22:24


物語りも佳境に入ってきとります。
もう少しですのでお付き合い下さい。


ではまた会う日まで。
今回の紺がりしゃみやが多くて嬉しかったCPヲタでした。


121 :CPヲタ :2007/08/20(月) 22:24


隠しアゲ
122 :な菜氏 :2007/08/21(火) 02:34
素敵なお話です!
りしゃみやぁああああああああああぁ(*´Д`)
123 :CPヲタ :2007/08/31(金) 20:04


妄想がバカのように進むので早い更新ですw
かなり遅れたけど雅ちゃん誕生日おめでとう!!
でも今回の更新に雅ちゃんは出てきませんw

CPヲタはりしゃみやヲタであり、ゆえに雅ちゃんヲタでもあります。


122>>な菜氏さん
素敵ですかw
ありがとうございます!
りしゃみや、万歳ですっ!!


では更新です。



124 :CPヲタ :2007/08/31(金) 20:04








125 :痛みの向こうで :2007/08/31(金) 20:05


友理奈が泊まりに来てから二週間。
梨沙子が退院してから一週間。
大きな仕事はまだ入っていないが、そろそろ新曲の練習が始まると聞かされていた。
そんな時だった。
桃子から電話がかかってきたのは。

『ねぇ、徳さん?』
「……何?」

桃子特有の絡みつくような甘い声。
電話が来ることはそう珍しくはない。
曲について相談することや全然関係ない話だってあった。
だがこの時、桃子の用事はあの事件のことだとほぼ確信していた。


126 :痛みの向こうで :2007/08/31(金) 20:06


『勘の良い徳さんなら分かってると思うけど、今回のことはシーだよ。』
「何言ってんの、桃。梨沙子のことはあたしには分からないよ。」

やっぱりという気持ちと共にじわりと嫌な気持ちが滲む。
今の自分は随分と険しい顔をしているんだろうなと千奈美は思う。

『梨沙子のことって分かるだけで十分だよ。徳さん。』

冷たい声。
ひんやりとした汗が背中を伝う。
ただ名前を呼ばれただけなのに威圧感が漂う。


127 :痛みの向こうで :2007/08/31(金) 20:07

―やっちゃたぁ〜……。

梨沙子の名前を安易に出すべきではなかった。
ただ事件と言えば良かったと千奈美は心の中で頭を抱える。
しかし言ってしまったものはどうにもならない。
千奈美は小さく息を吐き、口を開く。

「相変わらず、“りーちゃん”には甘いね。桃。」
『…そうだね、自分でも結構驚いてるよ。でもさ…。』
「分かってる、りーちゃんにはそれくらいが丁度いいんだよ。」

桃子の言葉を遮るように言う。
二個下の甘えん坊で繊細なメンバーには桃子の対応は適切だ。
自分でも無意識のうちにしてしまう名前の呼び別け。
“梨沙子”と“りーちゃん”
それが大人な梨沙子と子供な梨沙子の違いを理解してしまっているようで嫌だ。
『大人な梨沙子』
大人と梨沙子。
しっくりこない二つの言葉。
千奈美は常にそう思っていた。
顔立ちは確かに大人っぽい。
だけど雅を追いかける姿は歳相応に幼くて、千奈美はそっちの梨沙子のほうが好きだ。

128 :痛みの向こうで :2007/08/31(金) 20:07

『よろしくね、梨沙子のことに気づいてるのは多分徳さんだけだと思うから。』
「うん、それはいいけどさ……実際どうなの、りーちゃん。」
『今のところ大丈夫、みやが下手に刺激しなきゃ平気だよ。』

みや、雅、夏焼雅。
梨沙子の大好きな雅。
唯一真相を知っている人物。
そして梨沙子を誰よりも守るだろう人物。
だから千奈美は今回の事件で何もすることが無い。

「それこそ心配しなくていいんじゃない。みやだし。」
『何だかんだ言ってりーちゃんに甘いもんね。みーやんは。』
「素直じゃないから、みやは。」

受話器の向こう側とこちら側で笑い声が揃う。
一笑いしたところで苦笑いに変わった桃子の声が聞こえてきた。

129 :痛みの向こうで :2007/08/31(金) 20:08

『……素直だったらこんな事にならなかったのにね。』
「そうだね、きっと、そうなんだろうね。」
『梨沙子が思い込んだら一筋っていう性格、みーやんが知らないわけないし。』

雅は知っていても表現できなかったのだ。
それはきっと雅が素直じゃないからで。
だからこの事件の原因は何より雅が知っているはず。
千奈美と桃子にはそれが分かっていた。
桃子が気づいているだろう事も千奈美は知っていた。
同時に桃子も千奈美が気づいているのを知っていたに違いない。
その為にわざわざこうして口止めの電話なんてものを掛けてきたのだ。

130 :痛みの向こうで :2007/08/31(金) 20:08

「どっちにしろ、あたしは何もしないよ?みやがいるし、桃だって色々手回してるんでしょ。」
『まぁね、念には念を入れてってとこ。そういう徳さんも、熊井ちょーを抑えてくれてありがとう。』
「ううん、あたしに出来るのはそん位だし……。」

佐紀やら茉麻やらが何も言わないようにした桃子からお礼を言われても変な感じがした。
しかも友理奈のことは別に礼を言われることではないのだ。
それをしたのは梨沙子のためでも雅のためでも、ましてやクループのためでもないから。

「あたしは熊井ちゃんに知って欲しくなかっただけだから。」

そうそれこそ本音。
友理奈は下手すると梨沙子より幼い精神を持っている。
今回のごたごたを教えたくなかった。

131 :痛みの向こうで :2007/08/31(金) 20:09

『それでもありがとう。』

聞こえてきた声は優しくて。
見えないのに余り見せない優しい笑顔をしているんだろうなと想像できてしまった。

切れた電話片手にそろそろこの事件が終わると千奈美は思った。
世間的には終わらなくても、グループ内では完全に終わるだろう。
早く元に戻るといい。
梨沙子も雅も、桃子も千奈美自身も。
こんなごちゃごちゃと考えるのは性に合わなかった。
しかもこんな電話があると桃子と自分が裏で手を引いているようで嫌だ。

―皆、早く終わって欲しいに決まってるよね。

そう心で呟いてから、千奈美はいつもの、自分が思う徳永千奈美に戻った。



++++
132 :痛みの向こうで :2007/08/31(金) 20:10





133 :痛みの向こうで :2007/08/31(金) 20:10

「ねぇー、ゆりは好きな人に何でもしたいって思う?」
「え?突然どうしたの、りーちゃん。」

千奈美の家に泊まった日から二日後、友理奈はお見舞いに来ていた。
誰かいるかと思った病室は珍しく誰もいなくて。
扉を開けたときに少しびっくりした。
よっぽど退屈だったのか梨沙子は友理奈を見ると満面の笑顔になり手招きした。
素直な友理奈はそのままベッドの側に行くと椅子に腰掛ける。
そして嬉しそうな顔で退院が決まったことを教えてくれたのだ。
その後唐突にこの質問。
友理奈でなくても戸惑う。

134 :痛みの向こうで :2007/08/31(金) 20:10

「んー、なんかね、どうなんだろうって。」
「桃ちにでも言われたの?」
「まぁ、そうなんだけど。で、答えてくれる?」

きらきらとした目で見られる。
答えてあげたい。
唯一の年下だし、友理奈だって梨沙子は可愛いのだから。
だが納得させるような答えを友理奈は持っていなかった。
梨沙子にとっての雅のように好きだと確信できる人などまだいないのだ。
一緒にいて楽しい人は多々いるが。

135 :痛みの向こうで :2007/08/31(金) 20:11

「……はっきりとはわかんないけど、できることはしてあげたいと思うと思う。」

そんな友理奈は曖昧に答えるしかできない。
だけど梨沙子にはそれで十分だったようで。
いつもに比べたらとても低いトーンの口調に友理奈を覗き込むようにして見る。

「そっかぁ、じゃあ、その人には何されてもいい?」

友理奈はさらに困った。
自分が何でもしてあげたいと思うことと何をされてもいいはイコールで繋がらない。
それは何となくわかる。
だから梨沙子の問いに頷くことはできない。

136 :痛みの向こうで :2007/08/31(金) 20:11

「わかんない。」

素直にそういうことしか友理奈には出来なかった。
すると梨沙子はその答えが分かっていたかのように微笑んだ。
そして友理奈から視線を外して窓の外を見ると呟くように言う。

「そっかぁ……あたしはね、何されても平気なんだ。」

―りーちゃん?

大人っぽい表情だった。
ライブでバラードを歌っているときより更に大人っぽい顔。
今の自分にあんな顔は出来ないなぁと友理奈は思う。
年下なのに時々見せる顔は誰よりも大人っぽいことがあると知っていた。
友理奈自身大人っぽいねとメンバーから言われることは多い。
だけど梨沙子には及ばないと思っている。

137 :痛みの向こうで :2007/08/31(金) 20:12

―りーちゃんがその顔する時はみやのこと、考えてるんだよね。

知っていた。
梨沙子の表情の原因くらいは。
それ故に尚更、友理奈は羨ましい。

「いいなー、りーちゃんは。そんな風に思える人がいて。」
「そんなことないよ、ゆりにもきっとできるよ。」

無邪気に微笑む梨沙子に友理奈も頬が緩む。
病室は明るい雰囲気に包まれる。
友理奈以外へこの質問をしたらきっと全員が苦笑いになっただろう。
だが梨沙子と友理奈という幼い二人しかいない病室で誰もそれに気づく者はいない。
その時、看護師さんが入ってきた。
丁度良く昼ごはんの配達の時間だったらしい。

138 :痛みの向こうで :2007/08/31(金) 20:13

「あ、お昼ご飯みたいだし帰ったほうがいいね。」
「えーっ、もっと居てよぉ。」
「退院も決まったし、いいじゃん。あんまり長く居られなくてごめんね。」
「うー……。」

少し拗ねる梨沙子に友理奈は宥める様に笑いかける。
そしてそのまま病室を出る。
ぺこりとすれ違った人に会釈するのも忘れない。
最後にちらりと見た梨沙子は変わらずふくれ顔だった。
だが気にしない。
梨沙子が感情を引き摺るのは雅に対してだけで、友理奈に対しては違う。
ご飯を食べ終えたら機嫌は戻っているだろう。


可愛くて甘えん坊な梨沙子。
雅に対してだけ甘え方が倍になる梨沙子。
それが友理奈の知っている菅谷梨沙子だった。

139 :痛みの向こうで :2007/08/31(金) 20:14



++++


140 :CPヲタ :2007/08/31(金) 20:14





141 :CPヲタ :2007/08/31(金) 20:16

じわじわと話を動かしたいと思います。
ではもうしばらく妄想爆発が続くことを祈りつつw

CPヲタっした〜。

142 :mi-yan :2007/09/06(木) 00:39
全部読みました
続きが気になります
待ってます
143 :CPヲタ :2007/09/27(木) 17:59


142>>mi-yanさん
呼んでくださり、あっとうございます!
中々進まない話でお待たせしてすみません。
のんびり見ていてください。


一ヶ月ぶり、更新です。



144 :CPヲタ :2007/09/27(木) 17:59




145 :痛みの向こうで :2007/09/27(木) 18:00




夢を見た。
こんなややこしいことになる前の夢。
それはなんでもない日常の映像で。
だけど今の雅には何より遠く感じられるものだった。






146 :痛みの向こうで :2007/09/27(木) 18:00

『みやぁ〜、これ見て!』
『何、梨沙子。』

手元に渡される雑誌。
開かれたページには梨沙子が居た。
またかと呆れ気味に思いつつ視線を雑誌から梨沙子に向ける。

『で?』
『これどう思う?』
『……梨沙子だね、よく撮れてるんじゃない。』

褒めて欲しいことなど勿論分かっていた。
―可愛いね。
―大人っぽいじゃん。
こんな風なことを言えば良い事も知っていた。
でも言えない。
年下の梨沙子を大人っぽいと言うことに照れがあった。
可愛いと言うことに抵抗があった。
一言言ったらそのまま止まらなくなるかもしれなかった。


147 :痛みの向こうで :2007/09/27(木) 18:01

―梨沙子は可愛いよ。

そう思っている心があったから、逆に言えなかった。
今思えば素直になれない自分が全ての原因。

『そういうことじゃなくてっ。』
『他になんかあるの?』
『もういい!ママに見せてくるもん。』

わざと梨沙子の言葉が続かないように言った。
するとやっぱり梨沙子はいじけた様な表情で茉麻たちの元に向かう。
茉麻や友理奈だったら自分とは違い素直に褒めてくれるだろう。
ちらりと横目で頭を撫でられて嬉しそうな梨沙子を見つつ雅は携帯電話を弄る。


148 :痛みの向こうで :2007/09/27(木) 18:02

『もう、素直じゃないなぁー、みーやんは。』
『……桃。』

目の前に桃子が来た。
にやにやとした笑い。
眉間にしわが寄ったのが分かった。

『そんな嫌そうな顔しないでよぉ、いくら愛しのりーちゃんがあっちに行っちゃったからって。』
『桃っ!』

強い声で制止する。
あぁ、いつもの楽屋だと雅は焦っている自分を感じて思う。
夢らしい夢だった。
視点は自分自身。
だからはっきり言って見えるものに違いはない。
違和感は思考する自分と喋る自分が全く異なるから。
自分の映画を見ている気分だった。
ありありと自分というものを見せ付けられた。


149 :痛みの向こうで :2007/09/27(木) 18:02

『怒んないでよー、冗談、冗談。』
『怒らせてるのは桃でしょうっ。』

肩をすくめて笑う桃子に文句をつける自分。
桃子の言葉は正しかった。
確かにこの場面の自分は梨沙子が茉麻の側に行ったことにイライラしていた。
すぐに茉麻の元に走った梨沙子に。
そしてそれをさせた自分に。
雅は自分の我侭さ加減にため息をつきたくなった。

150 :痛みの向こうで :2007/09/27(木) 18:02

―褒めるのは恥ずかしいからイヤ。

―でも梨沙子には行って欲しくない。

―梨沙子は自分の側にいるべきだ。

なんて勝手なんだろう。
梨沙子が自分にくっついてくるのが自然になりすぎて。
放っておいても向かってくるのが普通すぎて。
雅は梨沙子にあげるべき言葉をなくしていた。

151 :痛みの向こうで :2007/09/27(木) 18:03

『でもさ、みーやん。本当に少しは褒めてあげなよ、りーちゃんのこと。』
『褒めてるじゃん、良く撮れてるって。』
『そういうことじゃなくって……全く、分かってるくせに誤魔化すんだから。』

収録では見せない苦笑い。
この時の雅にだって何を言えばよかったのか位分かっている。
ただ口から出ないだけ。

『りーちゃんは繊細なんだから、そのうち爆発するよ。』
『………。』

桃子の言葉に雅はぐっと押し黙る。
―梨沙子が怒る。
それは雅が想像できなかった映像。
今まで梨沙子が拗ねたり、ふくれたりした事はかなり頻繁にある。
だが本気で梨沙子が怒ったことはないのだ。
当然、雅も梨沙子相手に本気で怒ったことはない。

152 :痛みの向こうで :2007/09/27(木) 18:04

―バカだなぁ、あたし。

雅は黙ってしまった自分に苦笑する。
黙ってしまったことが全てだった。
それは雅が恐れていることの証。
なのに、この時自分は気づいていない。
胸に広がる嫌な気持ちが何なのか。
下手すると泣きたくなるこの気持ちが何なのか。
この時の雅は知らなかったのだ。

153 :痛みの向こうで :2007/09/27(木) 18:04

―こんな前から、こんなに好きなんじゃん。

梨沙子の方が好きだと思っていた。
梨沙子の方が自分から離れられないと思っていた。
でも本当は。
本当は雅の方が梨沙子に縛られる時間が多かった。
雅の方が梨沙子の行動にヤキモキする事が多かった。

「嫌われるのがそんなにイヤなら素直になりなよ。」

―それだけなのに。

響いた声を最後に雅の意識は急速に自分から離れる。
その声が、今自分が言ったものなのか、桃子が言ったものなのか分からなかった。
ただ、あぁ、目が覚めるんだと雅は人事のように思った。

154 :痛みの向こうで :2007/09/27(木) 18:04




++++



155 :痛みの向こうで :2007/09/27(木) 18:05

「まぁ。りーちゃんが元気になってよかったね。」
「うん、梨沙子は元気が一番だよ。」

ぽんと肩を叩かれて茉麻は後ろを振り返った。
そこにいたのは佐紀で、茉麻はにこりと笑顔を作る。
二人の視線の先には楽しそうに雅にくっつく梨沙子がいた。
それはいつもの光景で、やっと戻ってきた日常に茉麻は安堵する。

「梨沙子が刺されたって聞いた時は本当にどうなるかと思ったけど。」
「犯人は捕まってないけど、あの二人は気にしてないみたいだしいいんじゃないかな。」

佐紀が苦笑交じりに言った言葉に茉麻は隣の席を進めつつ答えた。
佐紀には悪いが茉麻は犯人のことは余り気にしていない。
刺された本人である梨沙子がどうでもいいと思っているのを茉麻は知っていた。
それに梨沙子が楽しそうならそれでいいとも思っていた。

156 :痛みの向こうで :2007/09/27(木) 18:05

「……あの二人はのん気すぎるけどね。」

佐紀が茉麻の隣に座りながら言う。
まるで何もなかったかのような二人。
茉麻とてそれは分かっていた。
自然すぎて逆に不自然に感じるほどに。
梨沙子と雅の様子は自然すぎたのだった。
そんな二人を目の端に収めつつ茉麻は佐紀に向かって笑う。

157 :痛みの向こうで :2007/09/27(木) 18:06

「でも、梨沙子はちょっと変わった。」
「そうかな?気づかなかったよ。」
「なんとなくだから、佐紀ちゃんが分からなくてもしょうがないと思う。」
「流石梨沙子のママだねー。」
「……ありがと。」

笑顔で告げられた言葉に茉麻は礼を言うしかできなかった。
茉麻は梨沙子の面倒を見てきた。
だから雅の次に梨沙子から懐かれている自信が有る。
だが今回の事件で出来ることなど欠片も見つけられなかった。
梨沙子が甘えてくれば甘えさせられる。
しかしそれだけで。
茉麻は梨沙子を変えることはできない。
ベリーズの中でそれが出来るのは雅だけだと知っていた。

158 :痛みの向こうで :2007/09/27(木) 18:06

「……思いつめてた感じが抜けてる。」
「ん?」

ぽつりと呟いた言葉をしっかりと聞き取る佐紀。
聞こえないと油断していた茉麻は困ったように笑う。

「梨沙子記憶抜けてる所あるでしょ?」
「そうだね。」
「そのおかげか、悩んでたことも忘れてるみたい。」

茉麻の言葉に今度は佐紀が逆に困惑した表情をする。
佐紀の表情の意味がわからず、首を傾げる茉麻。
すると佐紀が言いにくそうに話し出す。

159 :痛みの向こうで :2007/09/27(木) 18:07

「でもさ、梨沙子の記憶が抜けてるのなんてほんの一瞬じゃん?しかも本当になくしたのかも分からない。」
「んー、でも雰囲気が変わったのは間違いないよ。」

梨沙子のママとしてそれは自信を持って言える。
どこがと問われてもはっきりとは分からない。
だが変わったのは確かで。
それが雅に関わることだとも理解していた。

「佐紀ちゃんだって気づいてるんじゃない?梨沙子じゃなくてみやのことなら。」
「みや?」
「優しくなったじゃん、梨沙子に。というか一緒にいる時間が多くなった。」

160 :痛みの向こうで :2007/09/27(木) 18:08

わかるでしょ?という風に茉麻が首を傾げる。
雅が梨沙子と一緒にいる時間を意識的に増やしていることは。
一緒にいるときの態度は昔、事件前と変わらない。
二人の時の雅は梨沙子に皆でいるときの倍は優しかった。
ただ誰とも仲の良い雅はいつも誰かしらといて。
梨沙子と二人きりという時間はそんなに無かったのだ。

「心配なんでしょ、傷だって残っちゃったわけだし。」
「傷……かぁ。」

わき腹を貫通した傷は当然消えるわけもなく。
梨沙子のお腹と背中には5p大の傷跡が残ってしまった。
アイドルとしては致命的といえるそれ。
これから梨沙子は臍出しの衣装は着られないだろうし、写真集にしたって厳しくなった。
水着もワンピースくらいしか着られない。
白い肌にはあまりにも目立つその傷。
佐紀が苦笑交じりのため息をつく。

161 :痛みの向こうで :2007/09/27(木) 18:08

「みや、責任、感じてるんだろうね。」
「自分の家に来るときだからね、責任感強いし、仕方ないよ。」

茉麻の視界で梨沙子と雅の二人が連れ立って席を立った。
何処に行くのかは分からないが、雅と一緒なら大丈夫だろうと茉麻はそのまま見送る。

―責任感だけじゃないよね……負い目、みたいな。

ぽっと茉麻の心に浮かんだ思いは果たして真実に近いものだったのだろうか。

162 :痛みの向こうで :2007/09/27(木) 18:09




++++



163 :CPヲタ :2007/09/27(木) 18:09





164 :CPヲタ :2007/09/27(木) 18:12


これで現メンバーは全員出ましたー。

……やっとかorz

せめて月一ペースを崩さないように頑張ろうと思います。



165 :CPヲタ :2007/09/27(木) 18:12






166 :ななしいくさん :2007/09/28(金) 01:19
更新乙です
マイペースで書いてください
楽しみに待ってます
167 :ななしいくさん :2007/11/20(火) 16:45
面白いですね!
更新楽しみに待ってます!
頑張ってください!
168 :CPヲタ :2007/11/22(木) 23:03

いやいや、雪が降りました。
もうそんな季節なんだなとしみじみです。


……更新遅くてすみませんorz

166>>ななしいくさん
本当にマイペースで申し訳ないです。
こんなスレですがこれからも待ってやってください。

167>>ななしいくさん
面白いですかw
ありがとうございます!!
はい、頑張ります。


では今日の更新です。



169 :CPヲタ :2007/11/22(木) 23:03




170 :痛みの向こうで :2007/11/22(木) 23:04




あたし、菅谷梨沙子はみやこと夏焼雅に告白したらしかった。
そしてみやはその告白を受けてくれて。
二人は恋人同士になった、みたい。
それがあたしの忘れた記憶らしい。



171 :痛みの向こうで :2007/11/22(木) 23:04





172 :痛みの向こうで :2007/11/22(木) 23:05


「告白かぁ。」

した覚えが無かった。
雅が好きという気持ちは確かにある。
それは今も昔も変わらず、ずっと気づいたら持っていたものだった。
だが恋とか愛とか言われてもピンと来ない。
ぽっかりと穴が開いたかのように、その情熱だけなかった。

「本当にそうだったかなんて聞けないし……。」

―どうしよう。

途方にくれた。
雅の言葉を信じたい。
大好きな人の言葉なのだから。
でも今の自分の気持ちでは雅と付き合っていたとは思えない。
余りにも梨沙子の中にその事実が残っていなかった。
まるで刺されたときの血と一緒に外に出てしまったように。
欠片もないのだ。
だから確かめたい、と梨沙子は思った。

173 :痛みの向こうで :2007/11/22(木) 23:05

「桃にでも聞けば一発なんだろうけどなぁ〜。」

ぼんやりと浮かんだのは人の機微に聡い桃子。
何だかんだで全員をきっちりと観察していそうなのだ。
付き合い出せば何か変化があるに決まっている。
桃子なら分かるだろう変化が。
そこまで考えて問題になることを思い出す。
雅との交際は秘密だったらしい。
ということは幾ら桃子でも完全には把握できないだろう。

174 :痛みの向こうで :2007/11/22(木) 23:06

―ていうか、事件直後の記憶じゃないよね。それ。

事件当日は雅の家で遊ぶと見せかけてのデートだったようだ。
梨沙子の中では今でも雅の“家”に遊びに行った記憶しかない。
しかしそれは記憶違いで。
待ち合わせしていたのが事件のあった場所。
わざと何もない、雅の家への途中にしたのは分かりにくくするため。
目立つ場所で待ち合わせをすると、それこそばれてしまう。
「みやの家まで行けばいいじゃん。」と梨沙子が言ったら「恥ずかしいしっ。」と返された。
親にわざわざ二人で何処かに出かけるのを見られたくないというのが雅の主張だった。

―恥ずかしいかなぁ?

梨沙子には良く分からない。
でもそうだからこそ雅は面倒くさい方法を取ったのだ。
そして事件のときデートだったという事は既に付き合っていたということで。
事件直後の記憶しか抜けてないという説明と食い違っている。

175 :痛みの向こうで :2007/11/22(木) 23:06

「もう、わけわかんない……。」

はぁとため息をつく。
雅が言うには告白は梨沙子からだったらしい。
言われれば納得はできる。
雅を好きなのは変わっていないから。
「あぁ、したんだろうな。」位には思える。
だけど今できるかと言われれば首を傾げてしまう。
それは付き合うというのが思考に無いからで。
告白したのは理解できる。
付き合っていたのは理解できない。

176 :痛みの向こうで :2007/11/22(木) 23:06

―みや、みや、みや。

そっと瞑った瞼に呟いた名前と共に移ろう数々の表情。
温かい気持ちになる。
怒った顔も。
笑った顔も。
ちょっと珍しい泣き顔も。
小さい頃から側で見てきた。
その全てが梨沙子を心地よくさせる。
雅にしか抱けない感覚。
それは忘れた、なくしたものがある現在でも変わらない特別だ。

177 :痛みの向こうで :2007/11/22(木) 23:07

「みやが好きなのは、変わんないのになぁ。」

ゆっくりと目を開け青空を目に映す。
結びつかない告白と感情。
何故なのだろう。
梨沙子は自分が失くしたのは記憶じゃなくて、感情なのじゃないかと思った。
何か得体の知れないものが付き合うというものと梨沙子を隔てていた。
足踏みしているのだ。
きっと自分は心の奥底では雅と付き合いたいと思っている。
だけど事件のせいか踏み出せない。
すっきりと抜け落ちてしまった何かが梨沙子に興味を抱かせないようにしている。
そんな気がしてしょうがなかった。

178 :痛みの向こうで :2007/11/22(木) 23:07

「いい加減思い出してよ〜……あたしの頭。」

額に手をあて前髪ごとぐしぐしとかき混ぜる。
そんなことでは当然記憶は戻らない。
何かがすっぽり抜けている。
梨沙子の感情であり、記憶。
その原因はやはり事件のような気がするのだ。
あの日、自分に起こったこと。
それが分かれば全てが思い出せる気が梨沙子はした。

―みやは何もないって言ってたけど。

何かあったのだ、間違いなく。
梨沙子が雅と付き合っていたことを忘れるほどのことが。
そうでなければ自分が雅と付き合っていたことを忘れるはずがないと梨沙子は思った。
無くしたその一欠けら。
見つけたところで良い記憶がよみがえるわけでもない。
もしかしたら思い出したくないような記憶しかないかもしれない。
それでも梨沙子は全てを知りたいと思った。

179 :痛みの向こうで :2007/11/22(木) 23:07




++++



180 :CPヲタ :2007/11/22(木) 23:08




181 :CPヲタ :2007/11/22(木) 23:08





182 :CPヲタ :2007/11/22(木) 23:11


少量更新、すんません。
次の話が長くなりそうなのでここしか切れませんっした。
では、また。



183 :ななしいくさん :2007/11/23(金) 09:03
更新やったぁぁぁぁぁぁヾ(≧∇≦)〃
184 :mi-yan :2007/11/26(月) 21:14
更新お疲れ様デス
次が楽しみですv(。・c_,・。)v
185 :ななしいくさん :2007/11/28(水) 00:09
嗣永さんの対応は正しい。

どんな終末になるのか楽しみです。
186 :ななしいくさん :2007/12/09(日) 14:36
楽しみに待ってます。
お忙しいと思いますが、頑張ってください。
187 :CPヲタ :2007/12/13(木) 21:07

いやー、楽しいツアーだったw
ってことで早めの更新です。


183>>ななしいくさん
更新しましたーw
そしてこれから更新しますw
のんびりスレですんません!

184>>mi-yanさん
あっとうございます!
期待に答えられる続きだと良いのですが……w

185>>ななしいくさん
嗣永さんは色々考えている子です。
終末はまだ見えませんw
もう少しお付き合い下さい。

186>>ななしいくさん
お待ち頂きすみませんw
やっとの更新です!


では続きです。


188 :CPヲタ :2007/12/13(木) 21:07





189 :痛みの向こうで :2007/12/13(木) 21:08

「ねぇ、みーやん。」

「……何?」

静かな楽屋。
運の悪いことに今ここには桃子と雅しかいなかった。
梨沙子は茉麻と一緒に休憩に行っている。
友理奈と千奈美、佐紀はまだ撮影していた。

―梨沙子と一緒に行けば良かったかな?

そんな思いが雅の頭を過ぎるが既に遅い。
実際雅はこの楽屋に桃子と二人きりなのだから。
雅は呼んでいた雑誌を下ろし桃子のほうを見る。
真ん中のソファに座っている雅に対して桃子は鏡台の前に座っている。

190 :痛みの向こうで :2007/12/13(木) 21:09

「あたし、りーちゃんに何があったか分かったよ。」
「は?」

びくりと体が竦んだ。
それは予想もしていなかった言葉。
冷たい汗が雅の背中を伝う。

―まさか……。

分かるはずがない。
雅は自分にそう言い聞かせて、軽く深呼吸をする。
あの時、あの場で起こった事は雅以外知りえない。
ましてや桃子が知っている訳がなかった。
雅はふっと笑いを作り、できる限り自然に桃子に尋ねる。

191 :痛みの向こうで :2007/12/13(木) 21:09

「何言ってんの、桃。」
「だから分かったの。みーやんがりーちゃんに何をしたか。」

椅子に座りブラブラと足を遊ばせる桃子。
その顔はいつもと変わらず、掴みどころの無いものだった。
桃子の言葉に固まった雅を尻目に桃子が椅子から立ち上がる。
軽やかに進む桃子の足取り。
しかしそれは雅にとって死神の足取りのように暗く見える。

―桃に、分かるはずないのに。

不安が拭えないのは桃子だから。
人間を良く見ていて、梨沙子のことも非常に可愛がっている桃子。
もしかすると桃子なら梨沙子の悩みを理解していたかもしれなかった。
雅が見逃してしまったその悩みを。
桃子は手近にあった割り箸を取るとすっと雅に向けた。

192 :痛みの向こうで :2007/12/13(木) 21:09

「これがナイフだとするじゃん。」
「……っ。」

向けられた何でもない木の切っ先にぞくりと悪寒が走る。
それは思い出してしまったから。
あの鈍く光る銀色を。
何より梨沙子にそれを向けられた時の絶望に似た感情を。
雅はまるで周囲に空気がないように息苦しくなった。

「だけどりーちゃんに、梨沙子にみーやんが刺せる訳がないよね?だから、これはむしろ……。」
「桃っ、止めて!」

ソファから立ち上がり、桃子の言葉を雅は遮る。
だが桃子は気にした様子もなくクルクルと手元で割り箸を回す。
そして細くなっている方、ナイフの先端と見立てた方を自身に向けた。
細められた桃子の瞳が雅に突き刺さる。
今、雅の罪が裁かれようとしていた。

193 :痛みの向こうで :2007/12/13(木) 21:10

「……梨沙子がみーやんに殺されたくて向けた刃だよね。」

トンと軽く桃子自身の身体、丁度、わき腹の辺りに割り箸を当てる。
桃子の目が見えた。
悲しみが多分に混ざった色をしていた。
苦笑いの表情は何よりも愛惜を表していて。
桃子がいかに今回の事件を気にしていたかが分かった。
グループをとても大切に思っている桃子。
だからその表情はきっと壊れそうになった関係に向けられたもの。
そこまで追い詰められた梨沙子を助けられなかった事に対するものなのだろう。

「違う!そんなこと、ない。」

声が震えた。
それが曝される事は梨沙子にも自分にも非常に悪い。
雅はぎゅっと己の手を握った。
まるで何かの感触を消すかのように。

194 :痛みの向こうで :2007/12/13(木) 21:10

「そうだろうね、みーやんが梨沙子を刺せるとも思わないもん。」

そんな雅を見て桃子はくすりと薄い笑みを浮かべた。
一瞬雰囲気が凍る。
二人しかいない楽屋はまるで時が止まったようだった。

―からかわれた……?

刹那そう思うもすぐに違うと気づく。
桃子は確かに人を食ったような性格をしている。
だがこういう悪ふざけはしない人だった。

「りーちゃんだってみーやんのそういう性格は知っていた。だってりーちゃんだから。」
「それはっ。」

ちらりと向けられた視線。
その言葉の意味を雅は誰よりも理解していた。
否定できない。
ぐっと押し黙ってしまった雅に桃子が悲しそうな表情を見せた。

195 :痛みの向こうで :2007/12/13(木) 21:11

「だからりーちゃんはまずみーやんにナイフを向ける。」

くるりと桃子の手の中のナイフがもう一度回転して雅に向いた。
再び自分へと割り箸が突きつけられる。
そして桃子は腹の前で割り箸を固定したまま雅の元へとにじり寄る。
後一歩。
もう少しで切っ先が雅の体に触れると言う所で桃子は止まった。
最早自分がどんな顔をしているかも雅には分からない。
桃子の言葉だけがしんとした部屋に流れていた。

「そうしたらみーやんだって刺されたくないから手を、こう、止めるよね。」

桃子は柄を握る手をそのまま、もう片手で包み込むように握って見せた。
そうすると雅に向いていた刃は上に上がる。
そして二人の間でナイフは均衡状態を保つ、はずだったのだ。
あの時梨沙子が力を抜かなければ。

196 :痛みの向こうで :2007/12/13(木) 21:11

―なんで、あの時だけ、梨沙子は動けたんだろう。

ふっと力を抜いた梨沙子の手から滑り落ちようとしたナイフ。
それは丁度、下にあった雅の手に綺麗に収まって。
誘導されるように梨沙子のわき腹へと突き刺さっていった。
わき腹へとずれたのは体を雅の方に倒してきた梨沙子を避けて。
しかし避けきれなかった結果がそこだったのだ。
雅は一度目を瞑り、ふーっと長く息を吐く。
そうやってまだマシになっただろう顔で桃子を見つめる。

「でも梨沙子は後ろから刺されたじゃん。ももの説明だとおかしくない?」
「りーちゃんの傷、前の方が大きいよね?ってことは前から刺されたんでしょ。」

197 :痛みの向こうで :2007/12/13(木) 21:11

―相変わらず、目が早い。

まさかそこまで確認されているとは思わなかった。
桃子の言うとおり梨沙子の傷は背面より腹面の方が大きい。
雅も一度見せて貰っただけだが1cmは大きさが違った。
当然警察も気づいているだろう。
梨沙子の意見とその傷の食い違い。
雅の証言とその食い違い。
二人とも後ろから刺されたと言っているのに傷は前から。
それが示すのは二人の発言は嘘ということで。
梨沙子は記憶が混乱しているからそこまで深くは突っ込まれない。
だが雅は違う。
現場にいた、ただ一人の確りとした記憶を持っている人物。
追求されるはずだった。

198 :痛みの向こうで :2007/12/13(木) 21:12

―運が良かったとしか、言えないのかな。

警察は都合よく解釈してくれた。
梨沙子が後ろに振り返った瞬間に刺されたのだと。
そのおかげで雅は今もここにいれる。
過ごせなかった時間を梨沙子と過ごすことができる。
それは雅にできる罪滅ぼし。
あの結果を導いたのは自分で。
だからこそ雅は今からでもその時を取り戻したかった。
忘れてしまった梨沙子。
そのせいで苦しかったとしても雅は梨沙子の側を離れる気はないのだ。

199 :痛みの向こうで :2007/12/13(木) 21:12



++++


200 :CPヲタ :2007/12/13(木) 21:13





201 :CPヲタ :2007/12/13(木) 21:17


次は長くなるとか言ったのに、こんな長さでスマソw
でも何ていうかまだ話は終わらないのに、ネタバレしてしまった気分!!w


どうか見捨てないで読み続けてやってください。
お願いしますorz




202 :CPヲタ :2007/12/13(木) 21:17




203 :ななしいくさん :2007/12/13(木) 23:31
おぉぉぉぉぉ!
更新あざーっす!!
次回も楽しみにしてます!!
あぁ早く続きが読みたいぃぃ!!(>_<)
204 :ななしいくさん :2007/12/14(金) 00:43
まだまだ奥が深そう
梨沙子は何故?ですね
205 :CPヲタ :2007/12/26(水) 18:11


ちょびちょびと小出しに更新します。
でも今年最後の更新w
次は年明けになります。


203>>ななしいくさん
いえいえ、読んで下さってありがとうございます。
期待に応えられるといいんですがw
これからも頑張りたいと思います!

204>>ななしいくさん
梨沙子は主人公ですのでw
書いている方も完全に理解しているとは言えません(エ
でも最後まで書ききればきっと分かると思います。
どぞ、お付き合い下さい。


では更新です。




206 :CPヲタ :2007/12/26(水) 18:11





207 :痛みの向こうで :2007/12/26(水) 18:12

まるで黙想のように固まった雅を桃子はただ見つめていた。
壊してはいけない雰囲気。
梨沙子の事を考える雅は時々こうなるのを桃子は知っている。
事件の後から増えた徴候は、だが桃子に嫌な予感を覚えさせる。

「……みーやん、あんまり考えすぎるのも良くないよ?」
「桃はなんで、分かったの?詮索しないんじゃなかったっけ?」

険を隠さない言葉。
鋭く探るような目が桃子に刺さった。
手負いの獣が見せる保護の威嚇。
守るのは自分か、梨沙子か、桃子には分からない。
ただ守りたいのはきっと桃子も一緒で。
だからこそこうやってお節介を焼いている。

桃子は一度目を閉じ、心を落ち着かせる。
桃子だってわざわざ蒸し返したくなどなかった。
だが梨沙子を見て気が変ったのだ。

208 :痛みの向こうで :2007/12/26(水) 18:13

―りーちゃんは知りたがってる。

ならばそれを教えられるのは雅のみだ。
桃子や佐紀ではお門違いも良い所である。

―それに……。

今の梨沙子はどこか不自然だ。
表面上は何も変わらない。
雅に対する態度も、性格も。
ただ梨沙子の何かが欠けているのはよく分かる。
気持ちというか、情熱というか。
そういう漠然とした曖昧なもの。
そしてそんな自分に梨沙子が違和感を覚えていることも。
桃子は今度こそ梨沙子を助けたい。
その為には雅から梨沙子への説明が必要なのだ。

209 :痛みの向こうで :2007/12/26(水) 18:13

「りーちゃんは、失くした記憶を知りたがってるよ?」
「でもっ……それは!」
「うん、いらない記憶かもしれない。思い出さないほうが良いかもしれない。」

雅は梨沙子があの時のことを思い出さないように様々なことをしている。
また梨沙子が思いつめないように一緒にいることも。
全て知っていて、だが今の状態を保てないことも桃子にはよく分かっていた。

「だけどりーちゃんは思い出したいの。みーやんとの時間は少しでも忘れたくないんだよ。」
「そんなわけ、ない。」

あんな事は思い出さなくて良いという風に雅が首を振る。
小さく頭を振る様子は何かを恐れているようで。
桃子はまたもそれを分かっていながら雅の背を押す。
雅には酷な事だ。
しかしここで雅に頑張って貰わないといけない。
梨沙子は非常に微妙なバランスの上にいる。
それこそ下手したらもう二度と梨沙子は帰ってこないかもしれない。
そんな状況の梨沙子を救えるのは雅だけなのだ。

210 :痛みの向こうで :2007/12/26(水) 18:14

「あるよ。それに今の状態じゃ、みーやんも辛いでしょ。」
「そんなことない!」

必死に否定する雅。
だが桃子はその瞳の中に寂しい感情を見つけた。
ほぼ同じといっても雅にしてみたらその差は大きいのだろうか。
そこまでは流石に分からない。
だけど雅が辛そうなのは見て取れることで。
その姿はまるで罪人が刑罰を受けているようだ。

―みーやんに対するりーちゃんもだけど……。

目の前の雅を見る。
何だかんだで好き合っている二人なのだと桃子は思う。
それは全員が知っている事実で。
付き合っているとまで分からなくても特別なのは皆知っていたことだった。

211 :痛みの向こうで :2007/12/26(水) 18:14

―……りーちゃんに対するみーやんも、敏感だよね。

ちょっとしたことで浮き沈みが激しくて。
楽しいことも悲しいことも倍になってしまう。
雅のそれは分かりにくいが、確かに存在していて。
表面に出ないのは梨沙子が常に雅の側にいたからに他ならない。
今回の事件でその関係に綻びが出てきて、だから見えてきただけ。

「梨沙子は……。」
「うん?」

ぼそりと零れた一言に桃子は雅を見つめる。
俯いた顔は長い髪に隠れて見えづらい。
しかし伝わる雰囲気は悲しみに溢れていて。
泣いているのかと桃子は思った。

212 :痛みの向こうで :2007/12/26(水) 18:14

「梨沙子も、こんなに辛かったのかな。」
「みーやん……。」

ゆっくりと上げられた顔には涙は無い。
ただ悲しそうに、切なそうにくしゃりと歪んだ表情。
そこにはいつもの雅はいなかった。

「好きなのに、何も返してもらえなくて。」

「好きなのに、梨沙子はもうあたしのこと好きじゃなくて。」

「なのに梨沙子は何も変わってなくて。」

辛い。
それこそが自分に対する罰なのだと雅は言った。
付き合っていたのに構ってやれなかった自分の。
それどころか他の人より接する時間が少なかった自分の。
罪で、罰なのだと雅は桃子に言った。

213 :痛みの向こうで :2007/12/26(水) 18:15

―でも、それなら……やっぱり。

言うべきだと桃子は思う。
梨沙子に対して何があったか、何をしたかを。
それで梨沙子が雅を嫌うなど有りえないことだった。
雅が梨沙子を好きならばこそ、もう一度今度は雅から告白すべきなのだ。

「りーちゃんはきっとまだみーやんが好きだよ。」
「え?」

視界を地面に移し、桃子は呟く。
梨沙子が雅を好きなこと。
それは桃子が一番確信していることで。
その事実だけは何があっても変わらないと桃子は思っている。
変わらないと信じている。

214 :痛みの向こうで :2007/12/26(水) 18:15

「でも梨沙子は忘れてるんだよ?」
「みーやんのこと、好きだから、好き過ぎるから忘れてるんだよ。」

好きじゃなきゃ、忘れない。
好きという感情が大きすぎて忘れなければならなかったのだ、梨沙子は。
そうしなければ日常に支障が出るほどに雅のことを好きなのだ。

「……そうなのかな?」
「そうだよ、だから言ってあげて。」

―ずっと、待ってるんだから。

梨沙子は入院してからも、ずっと雅を待っていた。
雅が来るのを待っていた。
そして雅から“好き”という言葉を貰えるのを待っていた。

「言わなくて、失敗したんだから。だから今度はダメモトくらいで言ってみるといいよ。」

実際に失敗するとは思ってない。
雅が素直に全てを話せば梨沙子は全てを受け入れるだろう。
それが桃子の知る“みや大好き”な菅谷梨沙子なのだから。

215 :痛みの向こうで :2007/12/26(水) 18:15

―りーちゃんはみーやんが好き過ぎるんだよね。

桃子は再び確認するように心の中で呟いた。
盲目的に梨沙子は雅のことを慕っている。
そんなのは一緒に仕事をしていれば自然に分かる。
雅のことでコロコロと表情を変える梨沙子を何度も見てきた。
そんな梨沙子を見る度に思ってきたこと。

―羨ましいなぁ。

一途に、一直線に、ただひたすら好きな人を見つめられる。
そのひた向きさが桃子は羨ましい。
桃子にはできないこと。
こくりと小さく頷いた雅を視界の端に映しながら桃子はそっと目を閉じた。

216 :痛みの向こうで :2007/12/26(水) 18:16




++++




217 :CPヲタ :2007/12/26(水) 18:16





218 :CPヲタ :2007/12/26(水) 18:20


桃子って面白い子ですよね。
この話はりーちゃん主役(というかりしゃみや主役)の話なんですが。
影の主役的に桃子が活躍していますw
いつの間にか前に桃子が。
謎ですw

では皆さん、良いお年を。



219 :CPヲタ :2007/12/26(水) 18:20




220 :ななしいくさん :2007/12/27(木) 02:31
さすが裏キャプですw
来年も待っております
221 :ななしいくさん :2008/01/03(木) 20:10
全部読ませてもらいましたがとてもおもしろいです
やっぱりしゃみやはいいですね
作者さんがんばってください
222 :CPヲタ :2008/01/12(土) 13:36

遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。
相も変わらず暗い話ではありますがどうぞ今年もよろしくお願いします!


220<<ななしいくさん
裏キャプw
この話は佐紀ちゃんもある程度活躍させてるはずなのに。
何故か印象に残るのは桃子ですw
今年もどうぞ見てやってください。

221<<ななしいくさん
あっとうございます!!
そう言ってもらうと嬉しいです。
りしゃみやはいいですよw
が、頑張ります。


では今年初めの更新です。
短いですが、お許し下さいw
223 :CPヲタ :2008/01/12(土) 13:36




224 :痛みの向こうで :2008/01/12(土) 13:36

「梨沙子?……どうかしたの、こんな所で。」
「あ、佐紀ちゃん。うん、ちょっとね。」

佐紀を見つけた目がすっと細められる。
自動販売機とソファが備え付けられている廊下。
梨沙子は一人ぽつんと座っていた。
その様子が珍しくて、特に事件の後は、佐紀は隣に腰掛けた。

「傷の具合はもう大丈夫?」
「うん、全然平気。ただ……。」
「ただ?」

伸びた髪が梨沙子の表情を隠す。
佐紀は梨沙子の隣で覗き込むようなことはせずにただ首を傾げる。
この頃すごく梨沙子は安定したと佐紀は思う。
雅が常に一緒にいるおかげなのか、それとも本人が成長したのか。
そこは佐紀には分からない。
だが梨沙子が大人っぽくなったことは良く分かっている。
アイドルとして、良くなった。

225 :痛みの向こうで :2008/01/12(土) 13:37

―切り離すことは、できないよね。

梨沙子から雅を切り離して考えることは難しい。
梨沙子は昔から雅が好きで。
それこそ刷り込みのような感じさえあった。
雅一人で大きく左右される梨沙子。
その影響が良くも悪くも作用している。

「あたしが忘れた記憶って、何なのかなぁって。」
「っ。」

思わず息を呑んだ。
もう気にしていないかと思っていた。
梨沙子にとって忘れた記憶は重要でなくて。
大切なのは雅といることだと思っていた。

226 :痛みの向こうで :2008/01/12(土) 13:37

―流石は、梨沙子のママってことなのかな。

茉麻は見抜いていた。
梨沙子が変わったのは雅のためだけでなく、その記憶によるものがあると。
その話を聞いた時佐紀は否定した。
ただ雅とずっと一緒にいれるから機嫌がいいのだと思っていた。
いや、むしろそこに梨沙子の記憶という要素が加わることが嫌なのだ。
あの病室で見た梨沙子を佐紀は覚えている。
儚くて、危うくて。
ちょっと触れたらなくなってしまうんじゃないかと本気で感じた。
そんな梨沙子を佐紀は見ていられない。

―結局、あたしも梨沙子に甘いよね。

桃のこと言えないじゃん。と佐紀は一人心の中で呟いた。
二人しかいない廊下。
一つ角を曲がれば人がいるのだろう。
ざわざわとした喧騒が伝わってくる。
しかし今ここにいるのは梨沙子と佐紀だけで。
佐紀は磨かれて光る廊下に視線を落とした。

227 :痛みの向こうで :2008/01/12(土) 13:38

「あたしね。」
「うん。」
「みやが、好きなんだと思う。」
「……知ってるよ。」

ゆっくりとした口調で告げられた言葉。
それは皆が知っていることで。
わざわざ確かめるようなことではない。

「でも、“今”のあたしはみやが好きじゃない。ううん、好きだけど……。」

今を強調するように梨沙子が言った。
矛盾して、ぐるぐると回り始めた話に佐紀は眉をしかめる。
梨沙子が雅を好き。
これは事実だ。
たとえ否定したとしても梨沙子の様子はそうとしか見えない。

228 :痛みの向こうで :2008/01/12(土) 13:40

「好きだけど、好きじゃないっていうか。なんか、こう、ちょっと違うんだよね。」
「違う?」

何が、と佐紀は思った。
前と後、佐紀の目には何の変化も見えない。
だけどそう言われてみれば。
思い当たらない節がないこともなかった。
それは例えばこういった状況。
今までだったら一人になる時間があれば、梨沙子は欠かさず雅の所へ言っていた。
それは例えば目に篭る熱の違い。
雅と一緒にいても梨沙子の瞳にはどこか戸惑いがあって。
吹っ切れていないのだ。

「前、あたしがみやを好きって思った気持ちはきっと記憶に残ってるんだと思う。」
「……だから思い出したいの?」
「うん。」

梨沙子が顔を上げた。
にこやかな表情だった。
何も分からないはずなのに、それだけは確かなものとして持っているような。
そんな疑いの無い表情をしていた。

229 :痛みの向こうで :2008/01/12(土) 13:41

「嫌な記憶かもしれないんだよ。」

むしろ十中八九嫌な記憶だろう。
自分が刺された記憶など。
佐紀は自分だったら絶対嫌だなと思いつつ梨沙子を見る。
それでも梨沙子の表情は変化していなくて。
相変わらずこういう所で頑固だなぁと佐紀は思った。

「いいよ、別に。」
「何で?」

きっぱりはっきり、迷い無く。
そう言う梨沙子に疑問が湧いた。
佐紀にはそこまで断言できるものなどないから。
またいつもは優柔不断な梨沙子がこうなるのはとても珍しいから。
すると梨沙子はにっこりと笑って佐紀を見た。
答えを知っている顔だった。

230 :痛みの向こうで :2008/01/12(土) 13:41

「分かんないけど、みやを好きな気持ちはきっとあたしの一番大切なものだから。」

だからそれが忘れた記憶の中にあるなら取り戻したい。
忘れていても、忘れていて問題が無くても。
梨沙子にとってはそれが一番大切なことで。
しかもそれを感じられない今の梨沙子でさえ、その気持ちが大事なものだと分かっているのだ。

―すごいね、りーちゃん。

思わず感嘆してしまう。
記憶が無くても、感情が無くても。
自分にとって一番大切なものを見失わない。
それはとても凄いことだと佐紀は思った。

231 :痛みの向こうで :2008/01/12(土) 13:42




++++



232 :CPヲタ :2008/01/12(土) 13:43




233 :CPヲタ :2008/01/12(土) 13:48


りーちゃんって何が何でも雅ちゃんが好きだと思うんですよねw
そこからこんな話が生まれました。

佐紀ちゃんもお姉さんとして頑張ってほしいものです(ナニ

ではまた、早めに更新できたらいいなぁと思いつつw


234 :CPヲタ :2008/01/12(土) 13:48




235 :ななしいくさん :2008/01/13(日) 02:26
明けましておめでとうございます
今年も森板共々楽しみにしています
236 :CPヲタ :2008/02/03(日) 21:22


いつの間にか2月ですw
あれ〜、一月中にもう一度更新するつもりだったのに。
おかしいですねー・・・・。
ってことで遅ればせながらの更新です。


235<<ななしいくさん
あけましておめでとうございますw
二月になっちゃいましたorz
森版共々頑張りますんで、よろしくお願いします。


では今日の更新です。
相も変わらず短いですが、お許し下さいw






237 :CPヲタ :2008/02/03(日) 21:23




238 :痛みの向こうで :2008/02/03(日) 21:24

「ちー、ちょっと質問していい?」
「どうかしたの?熊井ちゃん。」

それはちょっとした空き時間での出来事だった。
撮影の順番の問題で偶々千奈美は友理奈と楽屋に二人きりになった。
することも特に無いので携帯を弄っていると目の前に友理奈が来て。
もう自分より随分と高くなってしまった目線から尋ねてきたのだ。

―質問、ね。

実を言うとこの瞬間から嫌な予感はしていた。
友理奈は無邪気に物を訊ねる人物だったが、この時は違っていて。
ちょっと困惑したような雰囲気が纏わり付いていたのだ。

「この間、っていってもりーちゃんがまだ入院していたときだけど。」
「うん。」

小さく頷くも自分がどういう顔をしていたか千奈美には自信が無かった。
笑えていたのだろうか。
いや、おそらく苦笑いになっていたのだろうと千奈美は思う。

239 :痛みの向こうで :2008/02/03(日) 21:24

―梨沙子と話しているときのなら……。

多かれ少なかれ彼女に関係してくるのだろう。
梨沙子の大好きな雅に。
まるで刷り込みのように小さいときから雅の後を追いかけていた梨沙子。
だから千奈美は自分の考えに自信を持っていた。
最早梨沙子自身気づいていない所まで雅に影響されているのだ。
逆に雅にもそういう所があって。
それこそがあの二人の関係だと千奈美は思っている。

「あたし、答えられなくて。でもりーちゃんは自分の答えを持ってて。」
「うん。」

友理奈の言葉に千奈美は相槌を打つ。
ゆっくりと目を見て、話しを聞く。
それは友理奈の不安を取り除くためでもあったが、千奈美が落ち着くためでもあった。

240 :痛みの向こうで :2008/02/03(日) 21:24

すうっと友理奈が一度息を溜める。
あ、来るなと千奈美は思った。
友理奈の疑問。
梨沙子の答え。
そして千奈美の答えも紡がなければならない。

「好きな人に何されてもいいって思うことと何でもしてあげたいって思うのって違うよね?」
「……それが熊井ちゃんの質問?」
「うん。」

素直に頷く友理奈を見て何故だか泣きそうになった。
だけどここで泣くなんて勿論できなくて。
千奈美は無理やりにも笑顔を作って、持ちこたえる。
嫌な予感ほど当たってしまうもので。
その質問をあの梨沙子がしたのかと思うと。
雅の家に行く途中で刺された梨沙子がしたのかと思うと。
千奈美はぞっとした。
もしかしたら記憶はもう戻っているのではないのかと思った。

241 :痛みの向こうで :2008/02/03(日) 21:25

―梨沙子らしい質問だよ、本当に。

きっと友理奈以外だったらそんな質問がされることはなかったのだろう。
自分と一番歳が近くて無邪気な友理奈だからこそ、梨沙子は聞いたのだ。

「梨沙子は何されてもいいって答えたんでしょ?」

一つ肩をすくめてから千奈美は言う。
質問からはちょっと外れた答えだが梨沙子ならたぶんこう言ったのだろう。
あの子は何でもしてあげたいし、何をされてもいいと思っていそうだから。
そしてその場合より難しいのは何をされてもいい方だった。

「そうだけど、よく分かったね。」
「分かるよぉ、梨沙子分かりやすいもん。」

友理奈がちょっとびっくりした顔で千奈美を見た。
梨沙子がそう訊いて、答えるとしたら。
その答えが雅に対するものだとしたら。
答えは一つしかない。

242 :痛みの向こうで :2008/02/03(日) 21:25

―梨沙子がみやにされて許せないことなんて1個だけだよ。

千奈美は苦く笑う。
それこそ、それ以外だったら何でも許せるくらい。
梨沙子にとっての禁忌。
いや、むしろ雅にとってのタブー。

―……構われないことだよね、梨沙子。

自分に向かってくることなら梨沙子はきっと何もかも許すのだろう。
許せないのは雅の感情が自分に向かわないこと。
雅が自分の存在を忘れることなのだ。
だからそれは梨沙子ではなく雅が注意しなければならないこと。

243 :痛みの向こうで :2008/02/03(日) 21:26

「熊井ちゃんはなんて答えたの?」
「あたしは……何でもしてあげたいとは思うって。答えた。」
「そっか。」

それも友理奈らしい答えだと千奈美は思う。
何をされてもいいと何でもしてあげたいは似ているようで全然違う。
突き詰めれば、命をかけてと言う所までなれば。
根本的にその二つは同じものになるが、表層的には異なる。
少なくとも千奈美はそう思っていた。

隣に座った友理奈のほうをゆっくりと向いて。
千奈美は自分自身の答えを素直に言おうと向き合う。
一度ゆっくりと呼吸してから、笑顔を作った。

244 :痛みの向こうで :2008/02/03(日) 21:26

「あたしは、違うと思うよ。」
「え?」
「何でもしてあげたいと、何をされてもいい。」

動きを止めた友理奈にもう一度繰り返して。
千奈美は視線を上に向ける。
そしてそれが質問でしょと言うように首を傾げる。

「あたしは何をされてもいい、なんて思ったことないし。」
「やっぱり?ちーも?」
「そりゃ、そうだよ。何されてもいいって中々思えないし、言えないよ。」

何をされても許せる。
それは究極のような気がする一方で、正しいとも言い切れない。
何でもかんでも受け入れる事が好きな人にとって良い事になるとは限らないのだから。

245 :痛みの向こうで :2008/02/03(日) 21:27

―もっとも、りーちゃんの場合は。

それすら越えている感じがした。
梨沙子は雅の何もかもを受け入れて。
雅はそんな梨沙子との関係を拠り所にしている観があった。
つまりは二人の暗黙の了解。
支え支えられる関係。
複雑怪奇で理解しにくいその根本。

「梨沙子だから言えたセリフだよ、それ。」
「みやの事大好きだもんね、りーちゃん。」

知らず笑顔は苦笑になった。
友理奈の言うことは紛れもない事実で。
千奈美は大げさに肩をすくめて見せる。

「好き過ぎだけどね。」

246 :痛みの向こうで :2008/02/03(日) 21:27


真っ直ぐに。
純粋に。
梨沙子は雅のことを好き過ぎる。


千奈美は友理奈を見つめて、目が合って。
今浮かんだ感情もきっと好きに入るんだろうなぁとぼんやり千奈美は思ったのだ。




++++

247 :CPヲタ :2008/02/03(日) 21:32





248 :CPヲタ :2008/02/03(日) 21:33


ゆりちな?って感じの更新でしたw
何だかんだでこの二人は書きやすい組み合わせです。

傍目から好意が分かりやすい梨沙子と千奈美。
でも千奈美の好きと梨沙子の好きは違うと思うんですよねー。
何かがw

と、意味の分からないことを書いて終わります。
CPヲタでした。



249 :CPヲタ :2008/02/03(日) 21:33




250 :ななしいくさん :2008/02/04(月) 01:36
うん 陰と陽
千奈美は表面的には影を感じさせない
梨沙子はなんとなく切な苦しいイメージがあるなぁ

って妄想w
251 :ななしいくさん :2008/02/04(月) 19:37
梨沙子の記憶は戻るのかな。めっちゃ続きが気になる。
252 :YOU :2008/02/05(火) 19:40
どうも〜YOUですッ!!!
今日見つけて一気に読ましていただきました。
梨沙子の今後がどうなるのかとても気になります。
253 :CPヲタ :2008/02/18(月) 21:24


雪がわんさか降りました、CPヲタですw
この話の季節は始まってからほぼ進んでおりません。
その為未だに夏らへんという曖昧模糊極まりないものになっとります(エ

250<<ななしいくさん
おお、自分の戯言に応えていただいてすみませんw
確かに千奈美は陰って感じしませんよねー。
梨沙子は切ないのが似合う顔してるし(爆
自分と感性が一緒のようでw
どうぞその方向性で見てやってください。

251<<ななしいくさん
どーなんでしょうねー(ヒトゴト
戻っても戻らなくても雅ちゃんは苦労しそうですがw
今は自分にも分かりません(エ
続き楽しみにしてくださると嬉しいです。

252<<YOUさん
ありゃ、色んなとこで書いている奴ですみませんw
一気に読むと暗い気分になる話だと思いますがあっとうございます!
自分も梨沙子がどうなるか気になってますw
まったり、お待ち下さい。


では今日の更新です。
変わらず少量ですが、お許し下さいw


254 :CPヲタ :2008/02/18(月) 21:24




255 :痛みの向こうで :2008/02/18(月) 21:25


「ねぇ、梨沙……。」

呼びかけようとした声は再び戻っていく。
扉を開けたその先に梨沙子はいた。
窓際に座ってただぼんやりと空を見つめている。

―梨沙子?

真っ直ぐに上を見ている視線はしかし張り詰めていて。
誰もいない部屋にぴんと緊張に酷似した空気が流れていた。
こんな梨沙子は初めて見る。
静かで悲しそうで。
そして何より儚くて、消えてしまいそうで。
何故か背筋が凍るような感覚が雅を襲った。

空ろに動いた目が扉から動いていない雅を捉える。
その瞬間ぱっとまさに花が咲いたように梨沙子は笑う。
静から動へ。
よく言われる言葉だが雅はそれをこれほど実感し時はなかった。


256 :痛みの向こうで :2008/02/18(月) 21:26

「みや!」

椅子から立ち上がって足早に雅へと近づいてくる。
その様子はいつも雅が見ている梨沙子そのもの。
段々近づいてくる梨沙子に雅の肩もゆっくりと力が抜けて。
梨沙子が雅に抱きついたとき、雅はほっと胸を撫で下ろした。

「一人でいるなんて珍しいじゃん。どうかしたの?」
「ん、何か出てきそうな感じだったから一人にさせてもらったの。」
「出てきそう?」

何がと予想がつかなくて、雅は首を傾げる。
すると梨沙子は一端困ったように笑い俯いて。
しかしすぐに元のにやけた笑顔に戻るとはっきりとした声で言った。

257 :痛みの向こうで :2008/02/18(月) 21:27

「あたしの記憶。」

雅の耳元で発せられた言葉を聞き間違えるなどできるわけがなく。
耳から神経を通り、脳に伝達された刺激は雅の動きを止めるには十分だった。
酷い顔をしているのだろう。
雅の前で梨沙子はまた困ったように笑い、心配そうな視線を雅に送る。

―なんで……?

ざわりと雅の心が蠢いた。
蘇るのはあの時の光景。
梨沙子が忘れてしまった全てを確かに雅は覚えていて。
梨沙子と付き合いだしてからの楽しい時間も。
梨沙子と付き合いだしてから知った寂しい時間も。
そしてあの事件の時の赤い夕日も、紅い血液も、鈍く緋く光る刃も。
梨沙子を刺した感覚もその時の感情も。
全部が全部、雅の中には仕舞ってある。


258 :痛みの向こうで :2008/02/18(月) 21:28

「やっぱり、ただの事件じゃないんだ。」
「違うっ、あれは、あれは……っ。」

失望のように呟かれた声。
必死に否定しようとするも、声が出ない。
何か言おうとする度に目の前の梨沙子があの時の梨沙子と重なって邪魔をする。
そうあの時の梨沙子もこういう失望したような、絶望したような、熱望したような顔をしていた。

―違うの、梨沙子!

心の中で叫んだ。
今雅の中にあるのは圧倒的な否定と不安。
あまりに訳が分からなくなって涙さえ出ようとしていた。

259 :痛みの向こうで :2008/02/18(月) 21:28

「みや……ねぇ、ゆっくり話して?」

ぎゅっと抱きしめられて、慣れ親しんだ体温が伝わって。
雅は初めて梨沙子に抱きしめられていることに気づいた。
ただただ強くぎゅっと抱きしめられているだけの幼い抱擁。
それなのに雅はその感触に何より安心していた。

「あたしは聞きたいの。みやと付き合ってたあたしがどんなだったか。」
「そう、なの?」
「ほんとは事件の話、して欲しかったけど。みやが辛そうだからいいや。」

僅かに力が緩んで梨沙子の顔が見える。
そこにいたのは苦笑する梨沙子。
眉根を寄せて心配そうに。
だけど雅に笑って欲しいからその顔は半笑いで。
いつも見ていた表情だった。

260 :痛みの向こうで :2008/02/18(月) 21:29

「なに…それっ。」

笑おうとして失敗した。
余りにも変わらない梨沙子に。
忘れているはずなのに相変わらず底抜けに優しい梨沙子に。
涙が溢れた。

―梨沙子は、梨沙子だったよ。

付き合っているときも、梨沙子は文句の一つも言わなかった。
雅が疲れた時はさり気無く隣にいて。
雅が眠たい時は遠慮なく寝かせてくれて、たまに一緒に寝ちゃって。
雅が落ち込んだ時は延々と愚痴を聞いてくれて。
タイミングを見て可愛い我侭言って。
それは今の忘れている梨沙子もほぼ同じ。

261 :痛みの向こうで :2008/02/18(月) 21:29

「みや、泣かないでよー。みやが泣くとあたしも泣きたくなっちゃうじゃん。」

おろおろする梨沙子を前に雅の涙は途切れることなく落ちていく。
ぼやける視界の中、見えたその様子に雅の心に想いが溢れた。
それは付き合っているときでも言えなかった言葉。
失うまで意識しなかった想い。

―好きだよ、梨沙子。

前は返せなかった想い。
今なら真っ直ぐに返せる気がした。
少なくとも二人きりの時位は。
だけどもう遅いのだ。
今梨沙子に好きと言ったところで梨沙子は困惑するだけ。
きっと見ることができた嬉しそうな満面の笑みも。
勢いよく抱きついてくることも。
全ては存在しないのだ。

262 :痛みの向こうで :2008/02/18(月) 21:30

「っく……梨沙子は、どこから聞きたいの?」

だから今はできることをしよう。
雅を好きな梨沙子がいないなら、もう一度好きになってもらおう。
雅は今でも梨沙子が好きなのだから。

「みや、いいの?」
「いいよ、あたし意外教えられる人、いないし。」

意地で涙を止める。
何も絶望などしなくていいのだ。
梨沙子は今でも雅を慕っていてくれる。
それはつまり前の関係になることも大いにありうるということだ。
まずは梨沙子が聞きたがっている昔話から始めよう。

263 :痛みの向こうで :2008/02/18(月) 21:30

「……あたし、きっと思い出すから。」
「え?」

真剣な顔をして梨沙子が言った。
雅が虚を突かれて呆気にとられたような声を出すと今度はにっと笑って。
梨沙子は背中に回していた手を滑らせて雅の両手を握った。

「みやが泣くのは心がざわざわするの。だからみやが泣かないように思い出す。」

純粋な一点の曇りも無い目で雅を見て。
梨沙子はそう力強く断言したのだ。


264 :痛みの向こうで :2008/02/18(月) 21:31

「思い出さなくていいんだよ?むしろ思い出さないほうが。」
「いい。」

梨沙子の為だと思う、という言葉は遮られる。
きっぱりと首を横に振る梨沙子によって。
その仕草を見て、すぐに梨沙子の頑固な面が出たと気づいた。
大体が優柔不断な梨沙子はしかし時々即決するときがある。
それはこういう絶対に自分の中で譲れないことの時だけで。
今回はそれに当てはまったらしい。

「あたしは思い出したいし、みやが泣くのはヤ。」
「梨沙子……。」

265 :痛みの向こうで :2008/02/18(月) 21:31

―ばか、そんなこと言われたら。

逆に泣いちゃうじゃんと雅は思った。
思った瞬間にまた涙は溢れ出していて。
雅は顔を伏せる。
だがそんなことしても目の前にいる梨沙子には雅が泣いていることは丸分かりで。
覗き込むようにして心配された。
再びおろおろする梨沙子に慰められながら雅は心の中で笑っていた。
桃子の言葉を信じられる気がした。

―きっと梨沙子はまだあたしを好きなんだよね。

今はその希望だけで進める気がした。

266 :痛みの向こうで :2008/02/18(月) 21:32



++++



267 :CPヲタ :2008/02/18(月) 21:32




268 :CPヲタ :2008/02/18(月) 21:40


りーちゃんは雅ちゃんが好きなんだと思います。
何があっても、どうなってもw
そしてそんなりーちゃんが根本にあるからこそ、りしゃみやは萌えるんだと。
胸を張って言いたいCPヲタですw

ではまた早めに更新ができることを願って。
CPヲタでした。

269 :CPヲタ :2008/02/18(月) 21:40




270 :ななしいくさん :2008/02/20(水) 19:09
更新ありがとうございます。切なくてやばい〜。やっぱりしゃみやだなっ!

ところどころの雅ちゃんの想いが素敵すぎて感動しました。

次の更新も心待ちにしております。
271 :CPヲタ :2008/03/04(火) 21:26


一日遅れだけどベリーズ工房4周年おめでとうございます。
言いたいことは様々ありますが、ただ一言だけ。
これからも妄想させてくださいw


270<<ななしいくさん
感想あっとうございます。やっぱりしゃみやですw
切ないとりしゃみやは酷く似合う言葉だと思います。
雅ちゃんには自分もびっくりです(エ
そんな事思ってるなら素直になってくれよと思うんですが。
うちの雅ちゃんは中々無理なようですw


ではお待たせしました、更新です。

272 :CPヲタ :2008/03/04(火) 21:26




273 :痛みの向こうで :2008/03/04(火) 21:27

楽屋のソファの上。
背もたれから顔を出すようにして桃子が佐紀を見つめていた。
佐紀は我関せずといった風に椅子に座り雑誌を読んでいる。

「梨沙子ってさぁ……。」
「ん?」

佐紀の視線は変わらない。
桃子はすいっと視線を動かし、とりとめなく楽屋を見渡す。
二人しかいない楽屋は静かだった。

「なんで、あんなに好きなんだろうね。」

桃子が不思議そうに言った一言に佐紀が顔を上げる。
そして桃子のほうを見ると僅かに目を細めた。
その様子は桃子の言いたいことがわからない様が見てとれた。

274 :痛みの向こうで :2008/03/04(火) 21:27

―梨沙子がああなのは、性格だけど。

桃子が聞きたいことはそこではない気がした。
それはただ単なる勘。
長年の付き合いから思っただけのことだが、しかし否定することもできなくて。
佐紀はもう一度尋ねた。

「何が?」

すると桃子は視線を佐紀に戻して、くしゃりと笑った。
余り見ることのない種の笑い。
泣き笑いというのか笑い泣きというのか。
そういった色々なものが混じった表情。

「……なんであんなに真っ直ぐでいられるんだろう。」
「それは。」

思わず声に出して、佐紀は一度言葉を飲み込んだ。
梨沙子が真っ直ぐな理由。
同じ環境で、しかも優しいとは言えないこの芸能界(せかい)。
梨沙子とは遠い世界。

275 :痛みの向こうで :2008/03/04(火) 21:28

―梨沙子が、羨ましいの?

桃子はきっと梨沙子がそのままでいられる理由が知りたいのだ。
桃子にしたら梨沙子のような性格でいるのは信じられないから。
佐紀はその表情に、声に、瞳にそう感じた。

「梨沙子は頑固だから。」

ぽつりと、零れ出た。
佐紀の中に存在する答えはそれしかない。
好きで、雅が好きで。
梨沙子はそれを曲げることなどできなかった。

「みやを好きなことを止めれなかったんだよ。」

それこそが梨沙子の真っ直ぐな理由。
真っ直ぐに好き、ではなくて。
好きだからこそ真っ直ぐ。
桃子にも佐紀にも真似のできない芸当。

276 :痛みの向こうで :2008/03/04(火) 21:28

「ほんと、りーちゃんって凄いや。呆れちゃう、くらい。」

すごいなぁとソファでくぐもった声がもう一度聞こえた。
ぐりぐりと髪が乱れるのも構わずに桃子がソファに顔を埋める。
佐紀はそれを見て雑誌を置くとすっと立ち、桃子のいるソファに歩き始める。
そんなに広くない楽屋では直ぐに桃子の側まで行くことができて。
佐紀は桃子の隣に静かに腰掛けた。

―桃……。

こんな桃子を見るのは年に一、二回といった所だろうか。
ぽんぽんと佐紀は桃子の頭を優しく撫でる。
桃子を励ますというのこそ実は初めてではないかと佐紀は思った。

277 :痛みの向こうで :2008/03/04(火) 21:29

「桃は桃で凄いよ。」

告げた言葉は佐紀の本心に違いない。
梨沙子は確かに真似のできない性質を持っている子だった。
だけど桃子だって佐紀からすれば十分に凄いと思える人物なのだ。
小さい頃から色んな仕事を共にしてきた。
その上で培われてきた実感。
梨沙子とは違った面で、桃子はまた真似できない。

「……そう?」
「そうだよ。」

不思議そうな顔で自分を見上げる桃子に頷いた。
その子供のような表情に顔が緩んだ。
あどけない顔は言っては悪いが違和感があった。
桃子の本質が大人びているからなのだろうか。

278 :痛みの向こうで :2008/03/04(火) 21:29

「梨沙子は梨沙子で。桃は桃で……凄いよ。」
「そっか、まぁ、そうだよね。」

その口調に、浮かべた明るい表情に。
佐紀は復活したなと一人思う。
そしてやはり桃子はこうでないとと思った。
弱さは桃子に似合わない。

「……決めた。」
「何を?」
「あたしは何があってもりーちゃんとみーやんを見守るよ。」
「へ?」

晴れ晴れと言った桃子に佐紀は首を傾げる。
わざわざ今そんな宣言をしなくても。
佐紀の目で宣誓しなくても。
そんなことは既に知っていた。

279 :痛みの向こうで :2008/03/04(火) 21:30

―っていうか今までは見守ってなかったの?

もしそうだとしたら。
桃子にとって今までしたことは“見守る”に入っていなかったら。
だとしたら桃子は過保護としかいえない。

「桃って、りーちゃんには甘いよね。」

呆れたように息を吐いて。
佐紀は桃子を見つめた。
すると桃子は「うふふ。」といつもの笑顔を見せた。
それは桃子自身もそれを自覚しているということに佐紀には見えた。

―でも……不思議だよね〜。

もう完全にいつもの桃子に戻った姿を横目に見つつ。
佐紀はぼんやりと考える。
桃子は基本的に優しい。
優しいが梨沙子には更に優しい。
それこそ甘いと言い切れてしまうほどに。
世話好きで面倒見の良い桃子でも、ちょっと変なほどに。
桃子は梨沙子に甘い。

280 :痛みの向こうで :2008/03/04(火) 21:30

―何でなのかな?

そこの繋がりが見えなくて。
佐紀は心の中で首を傾げた。
桃子の気に仕方は他人に対するものではなくて。
まるで自分と梨沙子を重ねているようだった。
そしてそれが本当に事実そうなのかは佐紀には推し量れない。
ただ桃子の様子が梨沙子に対してだけ少し違うこと。
それだけが佐紀の中で引っ掛かっていたのだ。




++++



281 :CPヲタ :2008/03/04(火) 21:31




282 :CPヲタ :2008/03/04(火) 21:34


なんか予定より全然終わりませんw
こんなに長引いて書いてるほうもびっくりです。

閑話休題。
ももさき、お姉さんズは実は大好きです。
桃子と佐紀ちゃんは何だかんだで合う組み合わせだと思います。
その理由の一つにこういう場面がかけるというのがあるのかも知れません。
が自分にもよく分かりませんw

ってことでまた意味が分からないまま終わります。
CPヲタでした。

283 :CPヲタ :2008/03/04(火) 21:35




284 :ななしいくさん :2008/03/05(水) 00:50
ももは本当に小さい子の面倒見が良さそうだな
ちょっと舐められてる気もするがw
285 :ななしいくさん :2008/03/05(水) 11:16
お姉さんズいいですね。
なんか、年下たちのことを温かく見守ってる感じがw

めっちゃ続きが気になる〜!
286 :ななしいくさん :2008/03/09(日) 01:52
お姉さんズ良いなあ
この小説の二人もリアルでの二人もw
287 :CPヲタ :2008/03/31(月) 20:28


切りのいい場面を待ってるといつ更新できるかわからなくなりそうなんでw
一ヶ月ぶりですが、更新しときます。
ほんと亀な更新ですんませんorz


284<<ななしいくさん
ももちは基本面倒見の良い人物だと思います。
ただ大半の人に気づいてもらえないか、舐められてるだけでw
そんな思いの出たシーンでした。

285<<ななしいくさん
お姉さんずいいっすよねぇ。
容姿と年齢が逆転しているのが楽しくてなりませんw
これからも色々頑張ってもらう予定です。
やっと続ききました!待たせてすんません。

286<<ななしいくさん
あ、気に入ってもらえたようで安心しましたw
お姉さんズさり気に好きなんで。
こういう雰囲気がさせるのはももさきならではだと思います。


つーことで久しぶりの更新です。

288 :CPヲタ :2008/03/31(月) 20:28




289 :痛みの向こうで :2008/03/31(月) 20:29

「ベイビー。」
「ママ。」

響いてきた穏やかな声に梨沙子は顔を上げた。
グループの中でも耳に馴染んだ声。
この声を聞くと落ち着けて安心できて、楽しくて。
それはこの声の持ち主、茉麻が自分を受け入れてくれると分かっているからだ。

顔を上げた梨沙子に茉麻はニコリと微笑んで。
ちょいちょいと手招きする姿に梨沙子は迷うことなく駆け寄った。
勢いを殺すこともせず、まるで何かの技のように体ごとぶつかる。
人一人分+勢いとなれば結構な負担なはずなのに。
茉麻は少し体を揺らしただけで、倒れることもなく梨沙子を受け止めた。

290 :痛みの向こうで :2008/03/31(月) 20:29

「もう、危ないから。みやとかにはしちゃ駄目だからね。」
「分かってるもん。ママにしかしないもん。」

唇を尖らせて、静かに笑う茉麻に言う。
茉麻といると幼くなってしまう自分に梨沙子自身気づいていた。
だけど直す気にはならないし、なれない。
これが茉麻との一番適切な形だ。
そして一番安心できる関係だと梨沙子は思っている。

「全く、外見は大人っぽくなったのにねぇ。」

「中身は全然そのままじゃん。」と拗ねたような梨沙子の姿に茉麻が言って。
その口調がまるで本当の親のようで梨沙子は可笑しくなってきてしまった。
笑いがこみ上げて、んふふふーと変な笑いが漏れる。

291 :痛みの向こうで :2008/03/31(月) 20:30

「あたしはずーっとママよりは年下だよ?」
「そりゃそうだけどさ……。」

諦めたように大きく息を吐いて、茉麻は梨沙子の頭を撫でる。
梨沙子もそのまま茉麻の手を受け入れた。
頭を撫でられるのは実は余り好きではない。
何だか自分が子ども扱いされている気がするから。
事実ベリーズには梨沙子より年上しかいないのだから、それも仕方ないのだけれど。
だけどそれでも子ども扱いされるのはやはり嫌なのだ。

―でも。

茉麻と、雅は別だ。
理由なんて知らない。
ただ梨沙子自身が嫌ではないというだけ。
感情が否定しないから、むしろ喜ぶから。
梨沙子は素直にそれを受け取ることにした。
きっと本当は頭を撫でられるのを自分は待っている。
誰からのでも。
桃子でも佐紀でも千奈美でも友理奈でも。
だけど捻くれている自分が真っ直ぐに嬉しいと思えるのが、その二人だけなのだ。
まるで言い訳をするように梨沙子は自分の中でそう理由付けた。

292 :痛みの向こうで :2008/03/31(月) 20:30

「ねえ、梨沙子?」
「うん?何、ママ?」

茉麻が梨沙子の名前を呼んで。
頭を撫でられた状態のまま梨沙子は再び茉麻の方を見上げた。
そこにいたのは苦虫を噛み潰したような顔をした茉麻。
困ったような苦しそうな視線に見られて梨沙子は動きを止めた。
何故そんな顔をするのか分からない。

「みやのこと……大丈夫なの?」
「みやの、こと?」

意味が分からなくて梨沙子はそのまま茉麻が言った言葉を復唱した。
みやのこと。
梨沙子の大好きな雅のこと。
梨沙子が忘れている雅のこと。
茉麻がどれを指しているのか分からない。

293 :痛みの向こうで :2008/03/31(月) 20:30

その梨沙子の戸惑いが伝わったのか茉麻は梨沙子から一瞬視線を外す。
適切な言葉を当てはめるように、茉麻は自分の言いたいことを書き換えていた。
どうすれば梨沙子に一番分かりやすく伝わるか、それだけを茉麻は考える。

「……記憶、戻ったの?」

結果茉麻の言いたかったことはその一文に翻訳された。
そしてそれは茉麻の意図通り梨沙子に明確な答えを表させた。
茉麻の言葉に暗い表情で首を振る梨沙子。
記憶が戻っていないことは明らかだった。

「まだ、思い出せないの。ほんと、あたし何で忘れてるんだろ。」

梨沙子はぽかと軽く自分の頭を突く。
思い出したい。
けれど今の梨沙子には前のような焦りは余り存在しない。
なぜなら雅が約束してくれたから。
ゆっくりでも少しずつでも梨沙子が忘れている時間の記憶を話してくれると。
その約束のおかげで以前より梨沙子は安定していた。

294 :痛みの向こうで :2008/03/31(月) 20:31

「無理はしなくていいからね?」
「え?」
「忘れてても梨沙子は梨沙子。あたしにとっては可愛いベイビーだからさ。」
「……まぁ。」

茉麻が梨沙子の前に立つ。
静かに伸びてきた手は優しく梨沙子の頭を撫でる。
その感触が心地よくて梨沙子は目を細めた。

―ありがと。

心の中で呟く。
それでも足りなくて、梨沙子は茉麻の胸に顔を埋める。
ゆっくりと息を吐いてから、茉麻に聞こえるか微妙な大きさでもう一度言った。
ありがとう。
たった二つしか違わないのに。
今回の事件でいっぱい、いっぱい迷惑をかけたのに。
それでもそう言ってくれる茉麻の存在はとてもありがたかった。

295 :痛みの向こうで :2008/03/31(月) 20:31

「大丈夫、だよ。」
「ん?」
「きっと大丈夫、あたしもみやも全部。」

何があっても、何が起こっても。
きっと自分は、自分たちは大丈夫だと確信を持って梨沙子は言った。
なぜなら梨沙子は一人じゃないから。
雅がいて、茉麻がいて、桃子がいて。
友理奈がいて、佐紀がいて、千奈美がいて。
梨沙子の周りにはたくさんの人がいて助けてくれる。
もし事件の時の記憶によって、ショックを受けても、思い出したくなかったと思っても。
その事実は変わらないのだ。
だから、きっと大丈夫。
梨沙子はそう思った。

296 :痛みの向こうで :2008/03/31(月) 20:31

「そっか。」
「うん。」

茉麻が微笑んで。
梨沙子も小さく茉麻の顔を見上げて、それから微笑んだ。
胸が温かかった。

―みや。

思い出すのは雅のこと。
変わらない慣れた行為。
違ったのはそこに今までに無い何かがあったこと。
何かが溢れそうになっている気が梨沙子にはした。
無くした記憶を取り戻す日も遠くない。
そんな漠然とした感覚があった。

297 :痛みの向こうで :2008/03/31(月) 20:32


それは小さな一歩だったかもしれない。
だけど雅しか存在していなかった今までの梨沙子にとっては大きな一歩。
今、梨沙子はしっかりとした支えを手に入れたのだった。




++++



298 :CPヲタ :2008/03/31(月) 20:32




299 :CPヲタ :2008/03/31(月) 20:35


うん、この二人も中々に好きなんです。
というか好きカプ多すぎだろ自分w
ってことで短いですが今日の更新でした。

いつの間にか300、思えば遠くに来たもんだ(エ
二年近く経ってるなんてちょっと信じられない気持ちですw
まだだらだらと続きますが、どぞよろしくお願いします。

300 :CPヲタ :2008/03/31(月) 20:35





301 :ななしいくさん :2008/04/03(木) 22:42
ママベビかわいいよママベビ
302 :ななしいくさん :2008/05/24(土) 23:43
楽しみに待ってますw
303 :CPヲタ :2008/06/08(日) 22:04




304 :CPヲタ :2008/06/08(日) 22:09


コソーリ

二ヶ月放置しといて何ですが、更新します。
長いのはやっぱ難しいと実感する今日この頃です。


301<<ななしいくさん
ママベビ可愛いっスママベビ
ほんと、この二人にはほのぼのさせられます。

302<<ななしいくさん
随分お待たせしました。
やっとの更新ですw
場面は動いてるようでそんな動いてないかも知れません(エ


この二人だけを書いたのは実は初めてかもしれませんw
リアルでは良く見るだけにちょっと意外。
そんな二人です。

ではどぞ。


305 :CPヲタ :2008/06/08(日) 22:09




306 :痛みの向こうで :2008/06/08(日) 22:09


楽屋のソファに一人座る後姿。
長い髪に、すらりとした肢体。
雑誌を静かに読む様子も何だか様になっていた。
ちょっとその絵を壊すのが勿体無くて千奈美は声をかけるのを躊躇う。
ほんの一瞬。
すぐに千奈美は元気良く声をかけた。

「みーや!」

ぽんと後ろから雅の肩に手を置く。
ぴくりと雅の手が動いて、顔だけが千奈美を振り返る。
前と変わらない明るい笑顔だった。

「あ、ちー。どうかした?」

あははと能天気そうに笑う様子に無理は見られない。
膝においていた雑誌をぱたりと閉じられる。
雅がソファの端にそれを置くのを千奈美は雅の前に移動しながら見ていた。

307 :痛みの向こうで :2008/06/08(日) 22:10

「んーん、こうやって話すの久しぶりじゃない?」

首を大きく横に振る。
顔は笑って、何でもない話を装った。
そしてそうしている自分に千奈美自身気づいていた。
千奈美がこれから踏み出す領域は何でもない、なんてとんでもない。
雅が一番触れられたくない、触られたくない場所。
千奈美が物事の核心だと思っている部分。
つまりとても重要で、重大でデリケートな話なのだ。

いつ、話し出そうか。
いつ、雅は気づくのだろうか。
そんな事ばかりが千奈美の頭を巡って。
千奈美の心臓は段々に早いリズムを刻むようになっていく。

「んー、バタバタしてたからねぇ。」

まだ雅は気づかない。
ニコニコと日常の延長線上で会話する。
気づいているのかもしれないが、自分から踏み込もうとはしていないように千奈美には見えた。

308 :痛みの向こうで :2008/06/08(日) 22:10

「りーちゃんは、どうなの?その後。」
「何も変わんないよ。っていうかちーも会ってるでしょ?」

「変なの。」という雅に千奈美はへへと照れ隠しのように笑うしかできない。
嫌な予感はした。
桃子から雅と話したことを聞いて、予想が当たっていたときから。
千奈美にはこういう時が来る様な気がしていたのだ。
今の言葉に千奈美はわかってしまった。
雅はやはり直視できていないのだ。
梨沙子に刺されそうになったことも。
自分が梨沙子を刺してしまったことも。
そして、今現在の梨沙子の状態も。

309 :痛みの向こうで :2008/06/08(日) 22:11

―梨沙子が何も変わってない?

そんなわけはない。
事件後、一番変わっているのは梨沙子だ。
大小あるかもしれにあがそれはメンバー全員が理解していること。
ましてや雅が分かっていないはずがない。
梨沙子は強くなった。
いや、迷いがなくなったと言うべきなのかもしれない。
あの事件で梨沙子の悩みは全て解消されて、代わりに雅がそれを背負った。
そんな雰囲気が漂っていた。

―ううん、元からりーちゃんはみやの事には凄く強かったよね。

我慢して、耐えて、押し込めて。
梨沙子はずっと、何があっても雅を見ていた。
それはある意味何よりも強い想いを秘めていた証拠。
だけどだからこそ、強さを保てなくなった梨沙子はとても弱い子なのだ。
梨沙子の元来の性格は、雅のこと以外は繊細であるのだから。

310 :痛みの向こうで :2008/06/08(日) 22:11

「難しいねー……みや。」

強い梨沙子と、弱い梨沙子。
両方の鍵を握るのはやはり雅しかいない。
ふと頭に浮かんだのはいつかの桃子との会話。
大人な梨沙子と子供な梨沙子。
重なる二つの梨沙子。
当事者ではない千奈美でも複雑だとため息をついてしまいたくなる。

「ん?何が?」
「あー……りーちゃん。」

言っていいのか、迷った。
しかし言わないことには話は進まない。
それに自分の目的はその先にあるのははっきりしていた。

311 :痛みの向こうで :2008/06/08(日) 22:11

「そっかなぁ、梨沙子は単純だし分かりやすいけど。」
「違うよ、みや。」

きょとんとした表情で千奈美の言葉に首を傾げる雅。
その様子に知らず言葉が飛び出していた。
誰もそういう表面上の話をしているのではない。関わる気も口を出す気もなかった。
なかったはずなのに、今こうしているのは他でもない千奈美自身が知ってしまったからなのだ。

―気づかなきゃ、良かった。

梨沙子が死にたくなるほど悩んでいたことなんて。
事件がその表れだったなんて。
ましてやそれについて桃子と考えが一致してしまうなんて。
千奈美は変に鋭い自分を恨みたくなった。
わかってもどうしようもないのだ。
場の空気がわかって、何を求められるかわかって。
その上で千奈美はその通りに事を運ぶのが苦手だった。

312 :痛みの向こうで :2008/06/08(日) 22:12

―ももなら……。

何とかできたかもしれない。
桃子は千奈美とは違って、場を上手に作ることができたから。
空気が作れない自分と空気を作ってしまう桃子。
その違いは空気を読んだ後の一コマ。
たったそれだけなのに千奈美にはその一コマが作れない。

「ちー……?」
「違うよ……みや。」

弱弱しく首を振る。
しかし手だけはきつく力が込められていた。
ぎゅっと爪が食い込み痛みが生じるほど千奈美は手を握りしめた。
言わなければ、ならない。
というか千奈美の中で雅に対する言葉が溢れそうになった。
それは八つ当たりにも似たもので。
知っていながら梨沙子に何もできなかったという憤りが雅に向かってしまったものなのだ。

313 :痛みの向こうで :2008/06/08(日) 22:12

「みやは、自分が梨沙子にどう影響するのか……本当は気づいてたんでしょ?」

―ああ、駄目だなぁ。あたし。

桃子ならもっと雅を傷つけずに言えたに違いない。
だけど千奈美にはこの方法以外できなくて。
え、と動きを止めた雅を見る。
千奈美は桃子になれないし、梨沙子は雅になりたいわけではない。
だから千奈美は雅を傷つけるとわかっていながら言葉を発する。

「梨沙子が落ち込む易い子だって知ってたでしょ?」
「梨沙子がみやしか見てないの、わかってたんでしょ?」
「梨沙子が甘えたがりなのも感じてたんでしょ?」

一気呵成に、雅が口を挟む隙間もなく言い切る。
全部思っていたこと、雅に言いたかったこと。
そして全て同時に千奈美を傷つけていった。
千奈美の視界が歪む。
泣きそうなのはさっきからだ。
だから止めることも拭うこともせず、最後の一言を放つ。

314 :痛みの向こうで :2008/06/08(日) 22:12

「なんで、応えてあげなかったのさ。」

ぐさりと言葉が突き刺さった。
止めの一撃は千奈美の堤防を決壊させる。
ぶわりと視界が識別できないほどになった。

―なんで、応えてあげられなかったのさ……。

それは千奈美自身にも言えることで。
またメンバー全員にも言えることであった。
分かっていながら何もしなかったのは罪。
しかしきっと何も出来なかっただろうことも事実。
人が人にして上げられることなんて、実はとっても小さいに違いない。

千奈美の言葉を最後に、楽屋を沈黙が覆う。
俯く雅が千奈美の視界に入った。
震えていた背は見間違いじゃない。
千奈美は友を傷つけたという新たな傷を背に負い、そっと静かに目を閉じた。

315 :痛みの向こうで :2008/06/08(日) 22:13




++++



316 :CPヲタ :2008/06/08(日) 22:13




317 :CPヲタ :2008/06/08(日) 22:16


この話を書き出してからはや二年ですかw
色々変わったことはありますが未だベリヲタしてます。

つーか、りしゃヲタになってる自分に吃驚w

では変わらず小出しのスレですが。
もう少しお付き合い下さい。
CPヲタしたっ。

318 :CPヲタ :2008/06/08(日) 22:16




319 :510-16 :2008/06/10(火) 00:00
更新されてる!!
そして続きが気になる!!!

続きを楽しみにしています。
320 :麻人 :2008/06/12(木) 10:36
悩める雅ちゃんいいですね!りーちゃんはどうなるんだろ?めちゃ続き気になりますw
321 :ななしいくさん :2008/07/05(土) 00:26
更新待ってます
322 :CPヲタ :2008/07/13(日) 14:54




323 :CPヲタ :2008/07/13(日) 14:59


暑くて死にそうっすorz
東北人に猛暑は無いと思われ。
早く秋になれー……


319>>510-16さん
更新お待たせしましたー。
そしてまたもや一ヶ月開いての更新です。
更新も展開も遅いスレですんませんw

320>>麻人さん
たまには夏焼さんに悩んで欲しいっすw
もうちょっともうちょっとと言いつつ中々終わらない罠。
期待に応えられていれば幸いです。

321>>ななしいくさん
更新お待たせしました。
やっとの更新ですw


では続き。
相も変わらずみやちなです。

324 :CPヲタ :2008/07/13(日) 14:59




325 :痛みの向こうで :2008/07/13(日) 15:00

ぽたりと涙が零れて、雅は自分が泣いていることを悟った。
地に落ちた水分はすぐにカーペットに吸い込まれていき。
そこの部分だけを色濃く変色させた。

―……情けないなぁ。

泣きたくなどなかった。
千奈美が言ったのは事実そのものであるのだから。
それを言われただけで泣いてしまう自分が、酷く弱く感じる。
目の前の千奈美も今は涙を流している。
泣いても良い場面、コンサートの幕引きなどでも絶対に泣かない千奈美。
「泣き顔なんてヤじゃん!」という強い一言は、しかし言うだけとは違う難しさを持っている。
泣き顔が嫌だからというだけで、笑顔を保てるのは強さだと雅は思った。

326 :痛みの向こうで :2008/07/13(日) 15:01

「知ってたよ。」

梨沙子が落ち込み易い子だってことも。
梨沙子が自分だけを見ていてくれたことも。
梨沙子がそれでも甘えん坊な子であるということも。
全て雅は知っていた。
千奈美に言われたとおり、雅は全部分かっていたのだ。

ぽつりと呟くような大きさの言葉は、二人しかいない楽屋に染み渡った。
千奈美は泣いていたのを隠すかのようにゴシゴシと強く目を擦る。
服の袖で拭く、荒っぽいその動作は千奈美らしかった。

「でも、知らなかった。」

梨沙子にどう応えればいいのかも。
自分の気持ちをどう表したらいいのかも。
素直になる方法さえも、雅は知らなかったのだ。

327 :痛みの向こうで :2008/07/13(日) 15:01

沈黙が楽屋を覆う。
そこにはただ鼻を啜る音だけが響いていた。
これ以上涙を零さないように上を向く。
歪む天井を見ながら雅は思っていたことを口に出した。

「……あたしさ、きっと凄い梨沙子に甘えてたんだと思うんだよね。」

それでも雅たちの関係が成り立っていたのは。
きっと雅のおかげではなく、梨沙子の我慢によるもの。
梨沙子が我慢して、耐えて、笑顔で居てくれたから続いていたに違いない。
その関係は梨沙子の限界を超えたことで脆くも決壊した。

「梨沙子ってガキで、甘えたで泣き虫で。ほんっと手間のかかる奴だけど。」

ふふと漏れた声は微笑むとも苦笑とも言えないものが混じっている。
頭の中を流れるのは今まで何度も見てきた映像。
拗ねる梨沙子に、くっついてくる梨沙子に、泣きべそをかく梨沙子だった。

328 :痛みの向こうで :2008/07/13(日) 15:01

―本当に、手のかかる奴だけど。

それでも雅は梨沙子が好きなのだ。
いないと変な感じがするくらいには。
すでに梨沙子が隣にいる事に馴染んでいた。

「なんでか安心感だけは人一倍持ってるんだよね。」

梨沙子が隣にいるだけで安心できる。
話しているだけで心が軽くなる。
恥ずかしいけど泣いてしまった時には一緒におろおろしてくれて。
いつもは情けないときが多い子なのに。
梨沙子は雅のことになるとしっかりと受け止めてくれるのだ。
受け止めてくれていたのだ。

そんな梨沙子が好きだった。
支えられてた、愛してた。
分かりづらかったかもしれないけれど。
きっと梨沙子に負けないくらい。
雅は梨沙子のことが好きなのだ。

329 :痛みの向こうで :2008/07/13(日) 15:02

「結局バカップルなんじゃん。やっぱ。」

雅の独白に千奈美が呆れたように呟く。
その一言に雅の顔は赤く染まった。
そう、どうしようもないほど自分たちは好き合っていた。
その事実に雅は梨沙子を失ってから気づいたのだった。

「でも、きっとそっちの方がみやたちらしいよ。」
「そうかな?」

呆れたような顔から一変して穏やかな表情になる。
これも余り見ない千奈美だと雅は思った。
いつも元気な千奈美しか見ないから。
泣いている千奈美も珍しかったが、穏やかな千奈美も十分珍しい。
ちょっと視線を上にして千奈美が言葉を続ける。

330 :痛みの向こうで :2008/07/13(日) 15:02

「バカップルで、アフォで。でも自覚してない。」
「ちょ、それ、酷くない?」

褒め言葉とは取り難い物が並ぶ。
思わず突っ込んだ雅に、千奈美はそれでも続けた。

「そんな方がきっとみやとりーちゃんらしい。」

にっこりと微笑んだ千奈美に雅はぐっと押し黙った。
それが千奈美の本音だと分かったから。
褒め言葉に聞こえなくても、その状態を一番望んでいると思えたから。
雅は何も言えなくなったのだった。

「ありがと、ちー。」

だからただ感謝する。
すると千奈美はにこりと笑って「いいよ、別に。」と言ってくれた。
何でもないその一言が、しかし雅には嬉しくてしょうがなかった。

331 :痛みの向こうで :2008/07/13(日) 15:03




++++



332 :CPヲタ :2008/07/13(日) 15:03




333 :CPヲタ :2008/07/13(日) 15:06


短けっw

ですが一応更新です。
次もきっと一ヵ月後になりそうな気がしますがw
終わりそうで終わらない話に吃驚し取ります(エ


(終わる)切欠がほしいゆー……


334 :CPヲタ :2008/07/13(日) 15:06




335 :麻人 :2008/07/18(金) 22:34
更新お疲れさまです!
実際、りーちゃんって雅ちゃんのすべてを受け止めそうですよねw
かなりキュンキュンしちゃいました。
次回も、楽しみにしています。
336 :CPヲタ :2008/08/28(木) 00:52




337 :CPヲタ :2008/08/28(木) 00:56

更新せずに早一ヵ月半。
皆さんどうお過ごしでしょうw
夏も終わりに近づき、やっと楽になってまいりました。
つーことで、更新です。

335<<麻人さん
レスあっとうございます!
りーちゃんは雅ちゃんに何も言えませんw
キュンキュンしてもらえたら幸いです。
では遅い更新すみません。



338 :CPヲタ :2008/08/28(木) 00:56




339 :痛みの向こうで :2008/08/28(木) 00:57

「ねぇ、ゆり。」
「うん?どうかした、りーちゃん?」

掛けられた言葉に振り向く。
そこにはぽつりと梨沙子だけが立っていた。
寂しげとも儚げとも言えない独特な雰囲気。
友理奈はそれが分からなくて僅かに首を傾げる。
しかし梨沙子を放っておくことなど当然できなくて。
隣の椅子の座面を叩きここに座るよう促す。

―また、どうかしたのかな?

素直な梨沙子はそのまま椅子に座って、一瞬黙り込む。
その様子は言うことを躊躇っているようである。
友理奈はそれが分かったからこそただ待つしかできなかった。

340 :痛みの向こうで :2008/08/28(木) 01:00

「あたしって、そんなにみやのこと好きだったのかな。」
「え?」

それこそ友理奈には思いもつかなかった質問。
梨沙子がどれだけ雅を好いていたか。
そんな事知らない者はいない。
それが恋であったにしろ友情であったにしろ憧憬であったにしろ。
友理奈はあれ程までの好意を他に見たことがない。

「好きだったと思うよ。」

だからだろう。
友理奈は迷うことなくそう答えていた。
梨沙子の言う“そんなに”がどんなにか友理奈には見当もつかない。
けれど梨沙子の“そんなに”がどんなに大きくても。
友理奈にとって、梨沙子は“そんなに”雅のことが好きだったとしか言えない。
なぜならあれ以上を見たことがないから、友理奈はそう言うしか他ないのだ。
341 :痛みの向こうで :2008/08/28(木) 01:01

「あたしさ、思うんだ。」

ゆっくりと梨沙子が顔を上げる。
それはまるで断罪を待つ死刑囚のように友理奈には見えた。
暗くて、確信に満ちている光が梨沙子の瞳にあった。

「ゆりが言うみたいにあたしはみやが好きで好きで好きで好きで。きっと殺したいほど好きで。」

「でもあたしにはみやが殺せなくて。」

「だからきっとあたしはみやに殺して貰いたかったんじゃないかって。」

―りー……ちゃん?
342 :痛みの向こうで :2008/08/28(木) 01:01

艶やかな笑み。
それはきっと“梨沙子”のもので“りーちゃん”のものではない。
友理奈の背筋を冷たいものが伝わる。
友理奈はこういう梨沙子を前にも見たことがあった。
いや、前はこうだったと言うべきなのだろうか。
事件が起こる前の梨沙子は。
病室で質問してきた梨沙子は。
いつも同じような雰囲気を纏っていた。
冷たくて、儚くて、艶やかで。
壊れそうで、壊しそうで、突き抜けている。
そういう友理奈には理解できないものを持っていた。
それが友理奈の目には大人っぽく映ったし、
雅が関係している時しか見られないものだとも知っていた。

343 :痛みの向こうで :2008/08/28(木) 01:02

―久しぶりだね、りーちゃん。

この感じ。
事件が終わってから梨沙子の雰囲気はそれこそ憑き物が抜け落ちたように一変した。
独特な感じを受ける梨沙子は出なくなって。
その代わり年相応の可愛らしい、元気な梨沙子が出るようになった。
いつだか茉麻にそう言ったら「悩みがなくなったからだよ。」と一言で答えられた。
その時、友理奈は違うと言うことができなかった。
梨沙子についてどうこう言えるほど梨沙子を知っている自信がなかったのだ。

「殺して貰いたかったんじゃないかと、思うんだ。」

自分に言い聞かせるように梨沙子が言う。
少し俯いたその顔は長い髪に隠されて友理奈からは見えなくなっていた。
その姿に先ほどまで友理奈に冷や汗を掻かせたものはない。
また普通の梨沙子に戻っていた。
その極端な振り戻しは友理奈に一つのことを疑問に思わせる。
344 :痛みの向こうで :2008/08/28(木) 01:02

「……記憶、戻ったの?」

「殺したいほど好き。」なんて絶対記憶がない梨沙子が言うとは思えなかった。
忘れた梨沙子は、事件後の梨沙子はそういう素振りを見せなかったから。
前の梨沙子と雅を好きという質が違うように見えたから。
だから友理奈にとってそんな事を言う梨沙子は思い出した梨沙子に他ならない。

「ううん、戻ってない。」

ふるふると首を振って梨沙子が否定する。
無に近い顔はすぐにくしゃりと悲しそうに歪んだ。
まっすぐに友理奈を見る梨沙子の顔に嘘は一欠けらもない。
345 :痛みの向こうで :2008/08/28(木) 01:02

「戻ってないけど、けど……たぶんそうなんだよ。そうなんだと思うんだ。」

言い聞かせるかのように梨沙子が繰りかえし呟く。
そうであって欲しいという願望が滲み出ている様に友理奈には感じた。
そしてきっと梨沙子の記憶は戻り始めている。
前の梨沙子と今の梨沙子が融合を始めている。
そんな風な気が友理奈にはした。

「りーちゃんは、死にたかったの?」
「え?」

ぽんと友理奈の口から出た言葉は梨沙子を揺さぶる。
友理奈自身そんな事言う気はなかった。
きょとんとした顔で梨沙子が友理奈を見上げる。
内容を汲み取っていないその表情に友理奈はもう一度同じ言葉を放つ。
346 :痛みの向こうで :2008/08/28(木) 01:03

「りーちゃんはあのまま死にたかったの?」

雅にかなんて知らない。
だが梨沙子が刺されたのは真の事で。
今の言葉は梨沙子が死にたかったかの様にしか友理奈には聞こえなかった。

―みやだったら、死にたかったの?

友理奈は未だその事実を知らなかった。
梨沙子が雅に刺されたという事はある一部を除いて秘匿されている。
特に友理奈にはその情報がいかないように口裏が合わされていた。
それが千奈美の一番の願いだから。
桃子も千奈美も、当然雅も。
誰も友理奈にその情報を渡すことをしなかった。
347 :痛みの向こうで :2008/08/28(木) 01:03

「ううん……それは違う、違うよ。」

友理奈の言葉に俯いて、梨沙子がぽつりと零す。
その一言に思ったより安堵している自分が居て。
ああ、怒ってたんだと今更ながらに納得した。
友理奈は死にたかったと発言しているような梨沙子にイラついていたのだ。
友理奈はメンバーに死んでなど欲しくなかったから。

「あたしは、たぶん、みやに構って欲しかった。応えて欲しかった。」
「うん。」
「それだけだと、思う。」

「そっか。」と打った相槌は空気に消えて行く。
俯いたままの梨沙子の言葉はしかし酷く納得できるものだった。
応えて欲しかった。
恋人なんだと確り思いたかった。
348 :痛みの向こうで :2008/08/28(木) 01:04

―みやだなぁ。

そう言われてしまえば友理奈にできることなど無くなってしまう。
だって梨沙子のその願いを叶えられるのは雅以外いないのだから。
俯いたまま顔を上げない梨沙子の隣で友理奈はぼんやりと考える。
友理奈にもうっすらと梨沙子と雅の関係が見えてきた気がした。

―りーちゃんはもう大丈夫。

あとは雅がどう動くか。
それに全てが懸かっていると友理奈は思った。
結局、梨沙子の鍵は雅でしかないのだから。
そんな二人の関係に思わず苦笑した。




++++
349 :CPヲタ :2008/08/28(木) 01:04




350 :CPヲタ :2008/08/28(木) 01:08


ま、こんな感じの二人です。
この二人は二人だけになるとまたいつもと全然違う感じがします。

つーか面白いのはあれよね。
りーちゃん、何だかんだで年下として可愛がられてるとこよねw
あのグループ自由に奔放過ぎますけど。
りーちゃんを一番年下として可愛がってるのが共通してるのが面白い。

ではぐだぐだとりしゃヲタっぽいことを言って終わります。
CPヲタっした。
351 :CPヲタ :2008/08/28(木) 01:08




352 :名無し :2008/09/25(木) 18:57
一気に読ませてもらいました。

深いですねぇ
すごくおもしろいです

応援してます!
353 :CPヲタ :2008/10/13(月) 16:28




354 :CPヲタ :2008/10/13(月) 16:34


毎回遅い更新スマソ。
ちょっといよいよ決心しました。
話が進みます。

352<<名無しさん
暗い話をお疲れさまです。
そしてあっとうございます!!
りしゃみやでしか表現できないものがあるんじゃないかと。
そう思って書き始めたものなので。
深いとか言われると嬉しくなりますw
ではもうしばらくお付き合い下さい。


355 :CPヲタ :2008/10/13(月) 16:34




356 :痛みの向こうで :2008/10/13(月) 16:35


『梨沙子。』
『梨沙子?』
『……梨沙子。』

―笑ってるみや。
―首をかしげるみや。
―泣きそうなみや。

梨沙子の中に埋まっている億万の雅の姿。
あの日まで、梨沙子の全ては雅だった。
雅が全てだった。

―みや、好きなんだよ。みや。

呟く。
暗い闇の中に落とされた言葉は波紋となり梨沙子を揺らす。
雅にこの声は届かない。
届けようとも梨沙子は思っていなかった。

357 :痛みの向こうで :2008/10/13(月) 16:35

目の前の雅はただ楽しそうに皆と言葉を交わしている。
あははと声高く笑う雅が好きだった。
笑顔を溢れさせる雅が好きだった。
楽しそうに過ごす雅を見ているのが好きだった。
否、今でも好きだ。
好きだけどその想いに黒いものが混ざるようになったのはいつからだろう。

雅の肩に誰かの手が触れる。
―触らないで。
雅が誰かに微笑みかける。
―やめて。
雅の視線が自分を通り過ぎる。
―なんで。

渦巻く。
雅の一挙一動に梨沙子の中の全てがかき混ぜられる。
嫉妬だとも独占欲だとも知っていた。
そして雅が恥かしがりやで照れ屋なのも知っていた。
恋人の自分と皆の前で話すのを避けているのも知っていた。
だから梨沙子はひたすら耐える。
雅の幸せを壊さないように。
雅の笑顔を壊さないように。
ただ我慢して、暗い気持ちなんて押し込めて蓋をした。

358 :痛みの向こうで :2008/10/13(月) 16:36

―みや、こっち向いてよ……。

その度に増すのは暗さを深くした闇の感情。
どうすれば雅を手に入れられるか。
雅を自分だけのものにできるか。
雅が自分だけを見てくれるか。
そればかりが梨沙子の頭を過ぎるようになって久しい。

「梨沙子。」と一言呼んでくれるだけで良い。
目が合った時笑いかけてくれるだけで良い。
帰り道そっと手を握ってくれるだけで良い。
そのどれか一つでも満たされたれら、梨沙子はまた暗い感情を押し込められる。
雅との幸せを感受していられる。
自分さえ我慢できたら。
その仮定さえ梨沙子には厳しくなっていた。

359 :痛みの向こうで :2008/10/13(月) 16:36

―もう少し。

あとちょっとでいい。
この苦しいけど幸せな時間を続けたい。
日々積もっていく感情。
それを無視してただ雅を好きなだけの梨沙子でいられる。

『我慢のしすぎは駄目だよ。』

そう言われたのは誰からだっただろうか。
桃子か茉麻か友理奈か。
もうそれさえもあやふやになっている。

360 :痛みの向こうで :2008/10/13(月) 16:37

―みや、みや、みや。

助けてと小さく零れた声は喧騒に消えていく。
最後の求めに答えはない。
天秤は残酷なまでに正確だ。
たった一欠けらでも多くなってしまうとそちらに傾く。
梨沙子の心の中、日々揺れていた天秤は呆気なく傾く。
梨沙子が幾ら頑張ったとしても。
梨沙子が幾ら我慢したとしても。
傾き始めた天秤を戻すことなどできやしない。

雅に伸ばした手は届かず。
力なく落ちていくのみ。
その手にナイフが握られたのも最早必然だったのかもしれない。

361 :痛みの向こうで :2008/10/13(月) 16:37

―ねぇ、みや。
―あたしはみやがいるだけで、良かったんだよ。

それさえ許してくれなくなったのは酷すぎる。
恥かしいのだって。
照れてるのだって。
あたしは知ってたのに。

―そばにいさせてくれたっていいでしょ。

みやのいない世界に意味はないし。
みや以外の世界に興味もない。
ミヤノイナイセカイニトリノコサレタアタシニイミハナイ。

―……みやさえいればそれでいいのに。

そうして凶刃は振るわれる。
それは後悔に塗れた刃に他ならなかった。



++++

362 :痛みの向こうで :2008/10/13(月) 16:38


夢を見た。
どろっとしてて、暗くて、頭が痛くなるような。
そんな夢だった。

「……最悪。」

思わずそう呟いてしまう。
それ程梨沙子にとって夢見の悪い目覚めだった。
寝汗ですっかり濡れてしまったパジャマの胸元を掴む。
強く激しく胸は鼓動していた。

「みや。」

脱力して呟く。結局は雅だ。
ベッドから一歩動く気力も無い。
そんな時でさえ雅は梨沙子の安定剤になる。
上半身だけ起こした体に毛布がぱさりと落ちた。

363 :痛みの向こうで :2008/10/13(月) 16:38

「なにしてるだろ、あたし。」

ズキリとわき腹の傷が痛んだ気がした。
今見た夢が信じられない。
あんなに暗い感情があった事が信じられない。
そしてそこまで雅を好きだったことが分からない。
一度体験した感情は梨沙子の中に焼き付いてしまった。

夢は夢だ。夢は幻に過ぎない。
起きてしまえば全ては淡く消えてしまう。
そういう類のもの。
しかし梨沙子には今の夢が虚構だと言い切れなかった。

―ねぇ、今のはあたしの記憶?

唇をかみ締める。
誰もいない部屋で梨沙子は誰かに尋ねるように思う。
梨沙子には夢が現実かわからない。
それは抜けた記憶のせいであり。
また生々しすぎる感覚のせいでもあった。

364 :痛みの向こうで :2008/10/13(月) 16:39

「っ……ふ。」

なんだか涙が出てきて、梨沙子は自分の膝に顔を埋める。
柔らかいタオル地の毛布が音もなく涙を吸い取る。
怖かった。
梨沙子の涙の理由を説明すれば恐らくそうなる。
梨沙子は自分が抱いた黒い感情が怖くて仕方なかった。
夢の最後に振り下ろしたナイフの感覚が忘れられない。
好きという純粋な想いがここまで純粋な狂気に変わるのかと思うと怖くて仕方ない。
まるで唐突に違う世界に来てしまったような感覚に梨沙子は襲われた。

―みやが、すき。

それがきっと梨沙子の中の真実。
記憶をなくしてからも結局消えない感情。
熱情じゃなくなっても感情は存在した。
接している内に雅を好きになっていく自分に梨沙子は気づいていた。
気づいていたのに知らない振りを通したのは我侭。
その裏に怖いという想いがあったのは否定できない。
皮肉なことに今の最悪な夢によって、梨沙子は様々なことに気づいてしまった。

365 :痛みの向こうで :2008/10/13(月) 16:39

「みやが、好き。」

言葉に出せなかったのは、前のようにならない自信が無かったから。
あんな思いをするのはもう嫌だった。
好きの裏側に潜む何かを梨沙子は体験してしまった。
夢で見ただけなのにこの有様だ。現実になったらどうなるか予想もつかない。
それでも菅谷梨沙子は雅を求めたのだ。

「みやが、好きなの……・。」

―でも怖い。

ぎゅっと膝を抱きしめる。
小さく丸まっているとまだ安心できるような気がした。
瞑った瞼の裏に夢が流れ始める。
断片的に残るそれは、しかし今の梨沙子の恐怖を煽るには十分だった。
怖い、怖い、怖い。

366 :痛みの向こうで :2008/10/13(月) 16:40

―ブーブーブー

唐突に振動が伝わる。光る画面が暗闇に眩しい。
一拍後に流れ出したのは梨沙子の耳に馴染んだ歌だった。
ぼんやりと携帯電話に手を伸ばす。

―みや。

ディスプレイに映る名前は梨沙子が一番求めていたものだ。
嬉しくて、悲しくて、怖くて。
ごちゃまぜになった感情のまま梨沙子は数秒画面を見つめる。
雅は時々こういう奇跡のようなタイミングで行動を起こす。
ピンチになったら颯爽と現れるヒーローのように。
基本的に素っ気無いけど、梨沙子のピンチには必ず現れてくれる。
そんな思いが梨沙子の根本にあった。

367 :痛みの向こうで :2008/10/13(月) 16:40

「……みや?」
『あ、梨沙子?ごめんね、こんなに遅く。』

求めていた声が耳朶をくすぐる。
ふっと体が軽くなったような気さえした。
大切な宝物を掴むように携帯を握る。
今の梨沙子にとってそれは命と等価だった。

「ううん、大丈夫だよ。」

―みやのおかげで。
なんて言えない。
だけど伝わればいいと思いながら、梨沙子は答えた。

368 :痛みの向こうで :2008/10/13(月) 16:40

『良かったぁ、なんか妙に目が冴えちゃってさ。』
「そうなんだ。あたしもちょうどさっき起きたんだ。」

電話口を通して雅の息遣いが伝わる。
それにさえ安心している自分に梨沙子は気づいていた。
雅を求めていた。
知らないうちに、忘れていたはずなのに。
結局、夏焼雅という人がいないと梨沙子は成り立たない。
それがあんな夢の結果を招いたのに。
進歩の無い自分に涙が出そうになる。

「みや?」
『なぁに、梨沙子?』
「あたしね、分かったんだよ。」
『……何が?』

尋ねる声が震えていたのは梨沙子の聞き間違いじゃない。
ワントーン、下手するとそれよりも雅の声は下がっていた。
感じ取ったのだ。
梨沙子がこれから言う事が、二人の関係をまた揺らすことを。

369 :痛みの向こうで :2008/10/13(月) 16:41

「あたし、みやが好きなんだね。」
『梨沙子。』
「バカみたいに、好きなんだね。」

ふふっと自嘲以外の何者でもない笑いが漏れる。
バカみたいに雅が好きだ。
もういっそ、死んでしまいたいくらい好きだ。
それ位梨沙子の好きという感情は煮詰まって。
煮詰まりすぎて違う感情に近くなっていたのだ。
以前友理奈に言った言葉は正しかった。

膝を立てる。
するりと毛布が肌を滑っていく。
月明かりが先まで暗かった部屋を照らした。
温かさの無い光だった。

370 :痛みの向こうで :2008/10/13(月) 16:41

『梨沙子っ、それは違うよ。』
「なにが?」

反論の声は思ったより冷たく出た。
忘れる前も忘れてからも、雅相手に使ったことのない色だった。
雅が好きだ。
でもだからこそ好き過ぎて冷える感情もある。
聞いた事のない声に雅が刹那息を呑む。

『……バカみたい、なんて言わないでよ。』

弱弱しい声が響く。
こんな雅の声聞いたことがない。
いや、一度だけ、そう一度だけこんな声を聞いたことがある。
あれはいつだっただろうか。
ぼんやりと焦点の合わない瞳を動かす。

371 :痛みの向こうで :2008/10/13(月) 16:42

「だって、バカみたいじゃん。」

いつだってあたしはみやに必死で。
いつだってあたしはみやを追いかけて。
いつだってあたしはみやの側にいて。
馬鹿みたい。

「ほんと、バカ…っ…みたい。」

ひっくと一度大きく肩が揺れた。
それからはあっという間だった。
涙腺が壊れてしまったように、あふれ出す。
止まらない嗚咽。
なんで側にいないんだろうと勝手に思った。

―あたしはみやがいて欲しい時はいつもいたつもりなのに。
―みやはいつもいてくれない。

372 :痛みの向こうで :2008/10/13(月) 16:42

『梨沙子。』

困惑した声が伝わってくる。
どんな顔をしているかも想像できた。
想像できてしまった。

―あぁ、あたし、みやを困らせている。

そう思った。
そう思っただけで梨沙子の思考は雅を困らせないほうに動こうとする。
どこまでも雅に合わせて作られた回路だ。
梨沙子の全てが雅だったのだからそれも仕方ない。
仕方ないがそれじゃダメだとわかっていた。

373 :痛みの向こうで :2008/10/13(月) 16:43

『泣かないで、梨沙子。』

ふわりと抱きしめられた気がした。
雅の優しい声。
たまにしか掛けられないそれは最大限の効果を梨沙子に発揮する。
雅の声は際限なく優しい。
梨沙子を甘やかして、宥めて、慰める。

『明日、っていうか今日だけど。始発でそっち行くから。』
「ひっ…ふ……え?」
『だって梨沙子泣いてるし、ちょうど休みだし。』


『話、しよ。』


穏やかな声だった。
いつも梨沙子が守られていた声だった。
それを最後に雅の電話は切れる。
出た声は「うん。」だけだ。
雅の言葉が意外すぎて、優しすぎて。
何より涙が邪魔して声が出なかった。

374 :痛みの向こうで :2008/10/13(月) 16:43


もう雅に繋がっていない電話。
それを月明かりの下で眺めて。
梨沙子はゆっくりとかみ締めるように瞳を閉じる。
色々なものが迫ってきていた。
きっと次に目を開けたとき、全てを思い出している。そんな気がした。
そしてそれは良くも悪くも梨沙子と雅の間で延長してきた何かが終わることを意味していた。
明日、全てが変わる。




++++

375 :CPヲタ :2008/10/13(月) 16:44




376 :CPヲタ :2008/10/13(月) 16:47


りしゃみや、自覚。

これからが自分にとっての難所になりそうですw
それでもりしゃみや。
だからこそりしゃみや。
甘さだけになってくれません(エ

ベリコンに行って何だかんだでりしゃみやの良さを再認識してしました。
ではではもうしばらく、お付き合い下さい。


377 :CPヲタ :2008/10/13(月) 16:47




378 :麻人 :2008/10/13(月) 21:58
更新お疲れ様です!!
やー、梨沙子と一緒に泣きましたw

りーちゃんはもちろんですが、雅ちゃんも辛いですよね・・・・
そんな切ないりしゃみやが大好きですww

始発で来ちゃう雅ちゃん、好きすぎてバカみたいなりーちゃん。
もう自分の中でベストカップルです。
379 :CPヲタ :2008/12/13(土) 09:17


話が進みますといっておきながら進まないw
というか更新遅すぎですんません。
今日はちょっと甘めのお話です。


378>>麻人さん
レスあっとうございます。
泣くなんて最高の褒め言葉っす!
りしゃみやは本当に切ないのが似合いすぎて困ります。
でも時々甘目が見たくなるのは人の業というものでしょうかw
自分の中でも殿堂入りする勢いでベストカップルです(エ


では今日の更新。
上でも言ったとおり甘め。
しかし短めで。


380 :CPヲタ :2008/12/13(土) 09:17




381 :痛みの向こうで :2008/12/13(土) 09:18

朝は涼しい。
特に始発という時間はいつも見えないものがたくさんあって。
まだ出ていない太陽というのも新鮮な気がした。
そんな中、雅は一人梨沙子の家へと向かっていた。

電車を降りて改札を出る。
駅に着く頃には少し人が増えていた。
キョロキョロと周りを見回して、梨沙子を見つける。
人が少ないからか顔を隠すための帽子しか被っていなかった。

「みや。」

にこりと零された笑顔はいつもどおりで。
雅は何故かほっとした。
電話の向こうで泣いていた梨沙子の声が今も離れない。
あんなに泣かせたことは初めだった。
もしかしたら今までも影で泣いていたのかもしれないと思って。
雅は胸が痛くなった。

382 :痛みの向こうで :2008/12/13(土) 09:18

「迎え、来なくても良かったのに。」
「だって来てくれるんなら迎えぐらいしたなぁって。」

人の多くないフロアをゆっくりと歩く。自然、隣を歩く配置になった。
梨沙子の表情は変わらない。穏やかな顔だった。
ふと思う。
いつから梨沙子はこんなに大人しい顔をするようになったのだろう。
雅の知っている梨沙子は子供で。
感情の起伏が激しくて、すぐ拗ねて、すぐ泣く。
それでも雅のためになると物凄く優しくて、我慢強くなる。
そんな梨沙子が大好きだった。
真っ直ぐに自分を好きと表現してくれる梨沙子とは違い雅は言えないかった。
言えなかったがそれがずっと胸の中にある気持ちだった。
子供の梨沙子が消えたとしたらきっと雅のせいだった。

「あたしんちで、いい?」
「……いいよ。」

違和感無く伸びてきた手を取って繋ぐ。
久しぶりに感じた梨沙子の手はそれでも変わらなかった。
段々と日が昇って、温かい陽光が降り注ぎ始める。
それに連れて人も多くなって来ていた。
駅前は雑踏と呼べるほどに人が増えてきていた。
学生や社会人、それによく分からない人。
色んな人にぶつからない様に足を動かす。

383 :痛みの向こうで :2008/12/13(土) 09:19

―梨沙子の町。

別に来たのは初めてではない。
だが今まで感じたことの無い関心を雅は感じた。
この時間帯が初めてだからだろうか。
朝というのは他のどんな時間より特別な気がする。
始まりの時間だからなと雅は一人思った。

「ねぇ。」
「うん?」

声にあわせて隣を歩いていた梨沙子が雅の方を向く。
建物の間から昇ってきた太陽が切り取られた光を振り掛ける。
綺麗だった。キラキラした光が梨沙子の髪を透かす。
白光が輪郭をぼやけさせ、曖昧にする。
ちょっと怖くなって雅はきゅっと梨沙子の手に力を入れた。

384 :痛みの向こうで :2008/12/13(土) 09:19

「うちもさ、好きなんだよ。」

何を言いたいかなど、忘れてしまった。
綺麗過ぎる光景を見ると人の脳は勝手にフリーズしてしまう。
眩しいものを見たときに視界が真っ白になるように。
頭の中だって梨沙子一色で、他のことは全て消えてしまったのだ。
だからこの時出た言葉は雅が梨沙子に一番伝えたかったことに違いない。

「え?」

たおやかに上がっていた口角がそのまま固まる。
何を言われたか分からないという風に首が傾げられる。
そんな梨沙子に雅の口は再び同じ文句を繰り返していた。

「梨沙子が好きなんだよ。」

「こんな時間に、始発で来ちゃうくらいに。」とくすりと笑いながら言う。
梨沙子は雅が好きでバカみたいと言った。
雅だって梨沙子がバカみたいに好きだ。
泣いている梨沙子が放っておけなくて家に来るほどには。

385 :痛みの向こうで :2008/12/13(土) 09:20

雅は梨沙子が戻ってきていると感じた。
記憶まで戻ってきているかはわからない。
しかし梨沙子の性質が前に戻ってきているのは事実。
でなければ雅のことを好きでバカみたいなんて言わない。
だって記憶をなくした梨沙子はそんな事を思うはずないくらい、雅に対して興味が無かったのだから。

「初めてだね、みやがそんなこと言ってくれるの。」

くしゃっと梨沙子の顔が歪んだ。
朝日に照らされたそれは、それさえ神々しくさせた。
ああ、そうかもしれないと今更ながらに雅は思う。
好きだなんて言ったこと無かったかもしれない。
恥ずかしかったし、梨沙子は雅のことを何でも分かっていてくれたから。
雅は言う必要を感じなかったのだ。
そんな言葉がするりと出たのは朝という時間に全てが浄化されたからかもしれない。
ただ好きだと思った。恥ずかしいとか、どうでもよくなった。

386 :痛みの向こうで :2008/12/13(土) 09:20

梨沙子の家までの道は今までにないくらい清々しい。
隣には赤くなって黙り込んだ梨沙子がいる。
朝の風はまだ何にも汚されていなくて、とても爽やかに感じた。
繋いだ手はそのままに雅は機嫌よく歩を進めたのだ。




++++

387 :CPヲタ :2008/12/13(土) 09:20




388 :CPヲタ :2008/12/13(土) 09:22


甘さが続かないw
短い、短い。
久しぶりの更新なのにこの短さですみませんorz


389 :CPヲタ :2008/12/13(土) 09:22




390 :麻人 :2008/12/14(日) 14:39


更新お疲れさまです♪
はぁ、なんか、りーちゃんと雅ちゃんが手つないでるだけで嬉しいですw素直になった雅ちゃん可愛いなぁw
りーちゃんの、忠犬ハチ公ばりの雅ちゃんへの不変の愛も相変わらず素敵です。
391 :ななしいくさん :2009/02/05(木) 00:01
期待してます
392 :CPヲタ :2009/03/02(月) 20:04

遅くなりスンマセンorz
最後が近づくと筆が遅くなるたちです。
ええ、つまり優柔不断です。

390>>麻人さん
大変お待たせしました。
自分もりしゃみやが手を繋いでるだけで嬉しいっすw
りーちゃんは犬に生まれれば忠犬ハチ公は越えたことでしょう。
あの慕いっぷりは中々できません。

391>>ななしいくさん
お待たせしました。
期待に応えられればいいのですが。


では今日の更新です。
相変わらず短めです。

393 :CPヲタ :2009/03/02(月) 20:04




394 :痛みの向こうで :2009/03/02(月) 20:05

++++



「ももさ、思うんだよね。」

唐突に言葉を発する。
何てことはない空気。
何ら変わりないいつもの部屋。
しかしそこに込められたものに気づかないほど鈍くは無かった。

「何が?」

雑誌片手に問い返す。
あえて普通に返したのは唯一の佐紀の抵抗だろうか。
出してきたオレンジジュースが机の上で温くなっていく。
時計の音が聞こえるくらい静かな部屋には二人しかいない。
ふと他のメンバーが何をしているのかが気になった。
395 :痛みの向こうで :2009/03/02(月) 20:06

「りーちゃんさ、そろそろ思い出すんじゃないかって。」
「……何で?」

梨沙子の件に首を突っ込まないようにしようと言ったのは桃子だ。
それなのに、その桃子が話すものは未だに事件についてが多い。
いつもはきっちりと線引きしてしまうのに珍しい。
桃子がそうできない何かがこの件に隠れている。
そんな気が少し前からしていた。

開いていた雑誌を閉じる。
ちらりと視線を動かせば桃子はベッドの上にいた。
クッションも抱き込んでちょっとやそっとじゃ、離れない体勢だ。
その図々しさは少し感心してしまうほどである。

「んー、勘?」
「勘で物言わないでよ。」

にっこり笑って首を傾げる桃子は仕事仕様だ。
何で今そうするかが分からなくて素っ気無い声が出た。
こうやって誤魔化す時は碌な事がないことを佐紀は知っている。
すっと桃子の目が細くなる。
一緒に佐紀の部屋の空気も冷えた気がした。
396 :痛みの向こうで :2009/03/02(月) 20:07

「ももの勘は当たるんだよ?」
「……知ってる。」

非常に認めたくないがそうなのだ。
ぎゅっと一度唇を結んで、それから佐紀は諦めたように言葉を発した。
桃子はある種動物的な勘で物事を当ててしまうときがある。
場が読める性格にその能力が着くと手がつけられない。
佐紀には理解できないくらい先読みが出来てしまうのだ。

ふっと桃子の顔が緩む。
仕事用の顔から穏やかな余り見せない表情になった。
来ると佐紀は心の中で身構える。

「ももね、たぶんりーちゃんと一緒に恋してた。」

にこと可愛らしい笑みと共に零されたのは、やはり爆弾だった。
梨沙子に構う様子が佐紀の脳裏に蘇る。
あの時感じた違和感は気のせいではなかった。
雑誌を机の上において、くるりとベッドの方に体を向ける。
どういうことよと佐紀は視線だけで問い返す。
すると桃子はふわりとまた笑みだけで佐紀をかわす。
397 :痛みの向こうで :2009/03/02(月) 20:08

「ももは、りーちゃんに自分を重ねてた。」

その笑顔が見たことのないもので。
見たことが無いくらい綺麗に形作られた笑顔で。
佐紀は何も言えなくなった。

「もも……。」

泣きそうな気がした。
桃子が言う本心は佐紀には酷く重いもので。
ずっと一緒にいた分、分かってしまうものもあると佐紀はこの時初めて気づいた。
そんな佐紀ににこっと桃子は微笑む。
それさえ、今の佐紀には涙の素にしかならない。

「りーちゃんにはね、離れて欲しくなかった。」

好きな人と離れるのは辛いから、そう言って桃子は笑う。
そう佐紀は知っていた。
桃子が誰を好きだったか、知っていた。
幼すぎて他の誰もが恋さえ知らなかった時期に。
桃子は確かに一人恋をしていたのだ。
もう一緒にいることはできないあの子と。
失くしてしまった遠い恋。
398 :痛みの向こうで :2009/03/02(月) 20:08

『恋なんて、もうしない。』

そう言ったのは何時のことだったろうか。
ただ泣く桃子を只管に慰めたのは、何時だっただろう。
何も出来なくて、そして理解も出来なかったあの頃の自分。
あれから桃子は更にアイドルになった。

「りーちゃんにね、もう一回教えて貰った。」

ふわり、桃子の瞳が細められる。
それだけでどれ程嬉しかったのかが伝わってくる。
ああ、梨沙子は凄いことをしたんだなと心の中で呟いた。
真っ直ぐな想いで、梨沙子は自分に出来ないことをしてみせる。
それが佐紀には少し羨ましくて、眩しかった。

「恋っていうのがどんなに大変で、でもどれだけ良いものか。」

「ね、佐紀ちゃん?」という問いにただ頷く。
そう、あの頃理解できなかった感情を佐紀は梨沙子を通して見つめた。
正しくは梨沙子と雅、また桃子を通して。
399 :痛みの向こうで :2009/03/02(月) 20:09

梨沙子は雅が好きだった。
たったそれだけで記憶まで失くしてしまった。
未だに理解は出来ない。
理解は出来ないが、そういう事もあると思えるほどには成長していた。

「梨沙子は、本当にみやが好きだからね。」
「そうだね。」

出てきた言葉はやはり其れだけだった。
梨沙子は雅が好きで、それだけだ。
そしてそんな真っ直ぐな梨沙子が桃子の瞳にはとても綺麗だったのだろう。
桃子にも佐紀にもできない。
だから桃子は梨沙子を異常に思えるほど可愛がった。
自分と同じ風にならないように手を回した。

「ももが梨沙子に甘い訳が分かった気がする。」

苦笑と共に桃子に告げる。
すると桃子はううんと頭を振った。
抱えたクッションに顎を乗せる。
すっと細められた瞳は、今度は穏やかな色をしていた。
400 :痛みの向こうで :2009/03/02(月) 20:10

「ももは梨沙子に甘いって訳じゃないよ。」
「甘いでしょ?」

ううんともう一度桃子が頭を振った。
同時に昔から変わらない黒髪がぱさぱさと揺れる。
困ったような笑顔がその顔には張り付いていた。

「ももは知ってて、止められなかったわけだし。」
「それは仕方ないでしょ。」
「でも、止められなかった。梨沙子に傷つけちゃった。」

だから甘いわけじゃない。
そう言う桃子に、それが甘いんだってと何度めか分からない溜息を佐紀は吐く。
不思議そうに首を傾げた桃子が妙に印象的だった。



++++

401 :CPヲタ :2009/03/02(月) 20:10




402 :CPヲタ :2009/03/02(月) 20:11


今度はもうちょっと早く更新したいです。はい。
嘘臭いですがw

では終わりまでもう少しです。
またお会いしましょう。

403 :麻人 :2009/04/18(土) 13:00

更新お疲れさまです!もうちょっとで最終回ですか。結末が楽しみですが、一方で終わりを寂しくも思います。ほんと、このお話のファンなんでw

最後まで応援してます。
404 :CPヲタ :2009/08/03(月) 12:45

やっぱり早くはなりませんでした。
悩み悩んでの結末です。
ただ受け入れてもらえたら嬉しく思います。

403>>麻人さん
お待たせしました。
ずっとお付き合い頂き本当にありがとうございます。
唐突な最後ですが、胸に留めてもらえたら幸いです。


では最終回です。

405 :CPヲタ :2009/08/03(月) 12:46




406 :痛みの向こうで :2009/08/03(月) 12:47
++++


梨沙子の家に着いて、然程する事もなく雅は挨拶をして二階に上がった。
勝手知ったるとまでは行かないがそれでも何度か訪れている。
その足に迷いは無かった。
部屋のドアを開けて以前と変わっていない間取りを眺める。
変わらない配置に何故か酷くほっとしている雅がいた。

飲み物を取りに行った梨沙子が後ろから顔を出す。
その手にはお盆があってコップに麦茶が入れられていた。
梨沙子に押し込まれるようにして雅は部屋の中へと進んだ

「ねぇ、みや。」

コップを雅の前に置きながら梨沙子が尋ねる。
雅は心の中で一度深呼吸する。
何を言われても答える覚悟でここに来た。
自分に梨沙子を手放す気はないのだ。
ならばそれを示さなければならない。
407 :痛みの向こうで :2009/08/03(月) 12:47

「なに、梨沙子。」

珍しく対面に向かい合うようにして座る。
常に隣に寄り添う形で座っていたから違和感があった。
それと同時に雅はまだこの梨沙子は自分の恋人ではないのだと思い出す。
甘えるようにくっ付いてきた彼女ではない。
ここにいる梨沙子は自分の記憶を取り戻そうとしている梨沙子だ。

梨沙子が自分を好きなことを知っている。
雅も梨沙子が好きなことを伝えた。
普通ならば恋人という括りに入ってもいい関係だ。
だが今の二人がそうなるにはもう一つ越えないといけない山があった。

「この傷、つけたの……あたしなんでしょ?」

そっと梨沙子の手が動いてわき腹を服の上から撫でる。
傷を辿るようにゆっくりとその手は動いた。思わず雅は顔をしかめる。
何について聞かれるかなど分かっていた筈なのに、苦しかった。
カランと氷の溶ける音がして雅は視線を俯かせた。
408 :痛みの向こうで :2009/08/03(月) 12:48

「違うよ、それをつけたのはうち。」

好きだったから、愛してたから傷つけた。
なんてそんな事を言うつもりはない。
その感情を確かに持っていたとしても雅は梨沙子を傷つけた。
変わらぬ事実に雅は何も言えなくなってしまう。

刃を持ち出したのは梨沙子だったのかもしれない。
だがそれを梨沙子に突き刺したのは間違いなく自分だ。
そしてそこまで追い詰めたのも雅に他ならない。
気づかなかった、知らなかったで通せる話ではないのだ。

「あたしね、夢を見たの。」

唐突に梨沙子が言った。
顔を俯かせていた雅は梨沙子を見る。
そこにいたのは少し怖いくらい真剣な顔をした梨沙子だった。
409 :痛みの向こうで :2009/08/03(月) 12:48

「みやを好きな夢。」
「うちを、好きな夢?」

告げられた言葉はすとんと入ってくる。
なんとなくそれだけで内容が分かってしまった。
涙の理由もきっとこの夢に違いない。
そんな確信めいた何かが雅の中にあった。

「みやを好きになって、段々怖くなる夢。」

好きになるが綺麗ごとじゃないと知った。
独占欲も嫉妬も知った。
何より好きという気持ちが憎しみを生むと知った。

「本当に、夢だと良かったのに。」

最後に雅へ刃を向けてその夢は終わった。
その瞬間に梨沙子は思ってしまったのだ。
忘れていた記憶はこれだったのではないかと。
梨沙子には否定する術がなかった。
410 :痛みの向こうで :2009/08/03(月) 12:49

ぽろりと一粒梨沙子の頬を雫が伝う。
電話越しに見た涙だった。
それが今は現実として雅の目の前にある。
どうしていいかわからなくて、それでも泣いて欲しくなくて。
雅は梨沙子をただ抱きしめた。

「ごめん。」
「なんで、みやが謝るの?」
「ごめん、梨沙子。」

不思議そうな声にそれでも雅は謝った。
梨沙子に何もかも教えたのは雅だ。
好きも嫌いも、人に刃を握らせる感情まで。
相手が雅でさえなかったら、梨沙子はもっと幸せな恋ができたかもしれない。
こんな、泣くような恋をさせたかったわけじゃない。

―ももに怒られるな。

ふと場違いに年上の同僚を思い出して、笑いたくなった。
桃子は梨沙子に過保護でこんなに泣かせたと知ったら本気で怒られるかもしれない。
だがそれこそ今の自分には相応しいような気が雅にはした。
411 :痛みの向こうで :2009/08/03(月) 12:49

「ねぇ、梨沙子。一回離れてみようか。」

自分の口から出た言葉に雅自身が驚いた。
離れたくなくてこの場に来たつもりだった。
それなのに口から出たのは正反対の言葉だった。
だがそれも仕方ないかもしれない。
雅は自分が梨沙子を如何に傷つけてしまったかを知ったのだから。

―離れた方が、いいのかも。

全て一緒にいすぎた事が原因だ。
少なくとも梨沙子の中で整理が付くまでそうするべきなのかもしれない。

「やだ。」

そっと放そうとした腕を梨沙子に掴まえられる。
儚い力で握られた手は振りほどくには容易い。
しかし雅にはそうすることができなかった。
412 :痛みの向こうで :2009/08/03(月) 12:50

「離れないでよ、みや。」

真剣な瞳が雅を見つめる。
潤んだそれは雅にとって何よりの弱点だった。
泣かれると何も言えなくなる。

「梨沙子……。」
「もう一人はいや。」

掴まれた腕を逆に引き寄せられて胸に顔を埋められる。
ひっくと大きな嗚咽が響いて雅は再び背に手を回した。
震える身体に愛しさが募る。
――どうしても自分はこの少女から離れられないらしい。
雅は一人苦笑した。

「みやがすき、みやだからすき、だから離れないで。」
「うちだって離れたくないよ。」

嗚咽交じりで聞き取りにくい言葉は雅の耳に確りと伝わった。
余りにも幼い声音に雅も囁くように返す。
離れたくない、好きだから。
それが二人の中の結論だった。



++++

413 :痛みの向こうで :2009/08/03(月) 12:51




414 :痛みの向こうで :2009/08/03(月) 12:51




――どんなに傷つけ合っても好きな人がいる。



415 :痛みの向こうで :2009/08/03(月) 12:51

「ももの言うとおりだったでしょ?」
「あー、はいはい。そうですね。」

ばっちりと桃子がウインクを決めてみせる。
佐紀はそれを呆れた風にそれでも笑顔で見つめていた。
大方が桃子の予想通りだった。
でも重要なのはそこじゃなくて、きっとあの二人が笑っていることなんだと思う。
佐紀は小さくおめでとうと呟いた。
416 :痛みの向こうで :2009/08/03(月) 12:52




――どんなに離れようとしても離れられない人がいる。



417 :痛みの向こうで :2009/08/03(月) 12:52

「まー、なんだかんだで収まるとこに収まった感じ?」
「当然だよ。梨沙子、みやのこと好きだもん。」

はぁと大きなため息を吐いて千奈美が大げさに肩を竦める。
友理奈はその隣で楽しそうに笑っていた。
なるようになった二人に自然と笑顔が零れて、顔を寄せ合って笑う。
好きな人が隣にいるのはそれだけで幸せなことだ。
418 :痛みの向こうで :2009/08/03(月) 12:53




――痛みの向こうで、



419 :痛みの向こうで :2009/08/03(月) 12:53


「みやも大人になったし、これで少しは安心かな。」

それでも梨沙子が泣きそうなときには側に駆け寄る準備はしてある。
茉麻にとって梨沙子が可愛いベイビーなのに変わりはないのだから。
今度泣かせたら、一発殴ってやろうか。
なんてアイドルらしからぬ考えが浮んだ。

420 :痛みの向こうで :2009/08/03(月) 12:53




――見つけたのはあなたでした。



421 :痛みの向こうで :2009/08/03(月) 12:54




「「大好きっ!」」




痛みの向こうで 終

422 :CPヲタ :2009/08/03(月) 12:55




423 :CPヲタ :2009/08/03(月) 12:55




424 :CPヲタ :2009/08/03(月) 13:00

長い間、お付き合い頂き本当にありがとうございました。
これでこのお話は終わりです。
最後に笑い会えるりしゃみやが見えたなら、自分の企みは成功でしょうw
書き始めたのが三年前かと思うと酷く遠くに思えます。
りしゃみや好きはさっぱり変わっていませんがw
とりあえず一言。

ベリーズ最高!!

ではまたどこかでお会いするかもしれません。
この作品を応援してくださった皆さんに感謝します。
ありがとうございました。

425 :CPヲタ :2009/08/03(月) 13:00




426 :CPヲタ :2009/08/03(月) 13:01


一応

427 :CPヲタ :2009/08/03(月) 13:01


隠します

428 :名無し飼育 :2009/08/06(木) 09:04
完結おめでとうございます
ずっと読んでましたがりしゃみや大好きっ
新作を期待して待ってます!!

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