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砂糖をあなたに

1 :名無飼育さん :2018/08/06(月) 21:05
砂糖は麻薬だそうだ。
ゆっくりゆっくり効いていく遅効性の毒。

最初の印象が悪いなら、ゆっくり私の存在をあの人に貯めていく。
時間をかければ、人への想いは変わる。
変わったその時に毒が貯まっていればいるほど、あの人は私から逃げられなくなると信じて。
2 :一話 :2018/08/06(月) 21:08
初めての後輩ということで、とても楽しみにしてたのだ。
なのに、新しく入ってきた彼女は苦手なタイプだった。
しかも、歌も上手くてダンスもできて手が全くかからない。
あまり関わろうとしなかったのはしょうがないのかもしれない。

最初はそこまで苦手とは思ってなかった。
しかし、まだそこまで仲良くなってないのに先輩たちに抱きつきにいったのを見て引いてしまった。
その手のスキンシップに慣れない私には、なんだコイツ!?って感じだった。
なのに、その私にまで抱きついてきたのでもう無理だ!ってなってしまったのは当然のことだった。

それ以降、小田が近寄れば警戒心が湧き、名前を呼ばれると背筋がぞわっとし、目が合うと逃げ出したくなった。
苦手だからだと思っていたけれど今思えばそれは、小田の色気に当てられてたのかもしれない。
3 :一話 :2018/08/06(月) 21:10
こっちは苦手だ苦手だと言っていたのに、小田は「石田さんのこと、好きです」とか言うからどうしたらいいのかよくわからなかった。

小田が、鈴木さんやどぅー、はるなんと仲良くなって何人かで遊ぶようになってようやく小田に慣れていった。
さらに何故かファンの方たちから『だーさく』と呼ばれ、小田とのコンビが人気になったおかげで二人セットにされることも増えた。
嫌でも小田と一緒にいる時間が増えるにつれ、小田のいいところが見えてくるようになったのだと思う。
苦手だったのが嘘のように、一緒にいて楽しい人になった。
そうなると今度は、小田が『私は女子に嫌われる女子で、石田さんはその嫌う女子なんですよ』って言うのにモヤモヤするようになった。
あれだけ、苦手だと言っていたのだから無理もないのだけれど。

はるなんや譜久村さんに相談したら、二人とも
「あゆみんが、小田にデレるしかないでしょ。」
と言われてしまった。

ちょっとずつ嫌いではないと伝えるようにしたら、なんか小田の押しが強くなってきた気がする。
不快に思うほどではないけど、ふと気がつくとすごく懐に入られているような?

最近、こんなに小田のこと好きだったっけ?と考えている。
4 :一話 :2018/08/08(水) 00:16


                            一話終



        
5 :二話 :2018/08/08(水) 00:20


梨沙ちゃんと映画みて、ご飯を食べに行く。
最近のお休みの過ごし方。
梨沙ちゃんは本当にいい子で、素直に一緒にいて楽しいと言える。どこかの誰かとは大違いだ。



「いやー、ほんっと面白かったねー!梨沙ちゃんと一緒に見れて良かった!!」


「そんなに喜んでいただけると私も嬉しいです。石田さんと一緒だと、語り合えてすごく楽しいですし。また行きましょうね!」


さっきまで見ていた映画の話をしながらきゃっきゃしながら歩いていく。



6 :二話 :2018/08/08(水) 00:21

雰囲気のいいお店の前で梨沙ちゃんが立ち止まる。

「あ、ここです。石田さんもお好きそうなカレーがあるんですよ。」


「わぁ、なんかお店の雰囲気もいいね。」


「でしょう。お気に入りのお店なんです。」

いい感じのお店にわくわくしていると、梨沙ちゃんも自慢気にしてる。



梨沙ちゃんが連れて行ってくれたお店のカレーはとっても美味しかった。

7 :二話 :2018/08/08(水) 00:22


梨沙ちゃんが連れて行ってくれたお店のカレーはとっても美味しかった。


「あ〜、美味しい。このカレー、作れるかなぁ。」


お腹一杯になって、へらへらしながら背もたれにもたれる。


「ふふ。お口に合って良かったです。
でも、ちょっと量が多かったですかね?」


「ん?なんで?」


「この間、小田さんに聞いたんですけど、石田さんお腹が膨れて幸せな時はその体勢になるんですって。
 で、ちょっと落ち着いてから食べ始めるのが可愛いのって言ってらっしゃいましたよ。」


「・・・小田ぁ!!」

仲良しですね〜って梨沙ちゃんはにこにこしてるけど、なんかもう恥ずかしい。
小田にクセを知られてるのも、それを人に言われてるのも恥ずかしい。

美味しいし小田も好きそうなカレーだから、小田を連れてきてやってもいいなとか思ったけど、却下だ!却下!

本当に小田はカンに触るやつだ!!



8 :二話 :2018/08/08(水) 00:24


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二話 終

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9 :三話 :2018/08/10(金) 23:04


愛されている人は、キラキラしたものを持っている。

それは私にしか見えないようで、人に言ってもピンとこないようだった。
そのキラキラしたものは、色んな色や形をしていて綺麗で見て楽しかった。
特に石田さんのそれが今まで見てきた中で一番好きだと思った。ずっと見ていた。

そして石田さんを見ているうちに、豊富な表情や一生懸命なところにどんどんと惹かれていった。
いつの間にやら、石田さんを好きになっていた。




10 :三話 :2018/08/10(金) 23:06


しかし、大きな問題があった。

石田さんはどうやら私のことが苦手らしい。

それも、ちょっとではなく盛大に。
もともと、同年代の女の子に好かれにくい自覚はあったが、流石に好きになった人からそう思われてしまうのはへこむ。

スキンシップのつもりで抱きついたのが拍車をかけてしまったらしく、近寄ると警戒されるまでになってしまった。


しばらくは、これ以上近寄ると嫌われるかなどうかなとフラフラ近づいたり離れたりと石田さんとの距離に迷っていた。
そんな時、生田さんに「小田だけじゃなくて、実はあゆみちゃんも小田のこと気にしとーよね。」と言われてハッとした。

無関心でないのならそれでいい。
好意でも悪意でも嫌悪感でも、私に関心があるのならそれはチャンスだ。
むしろ元が悪ければ、それが好意に変わった時に最初から好意をもたれた時よりももっと良く思われるはずだ。
真面目な石田さんのことだから、一生懸命にお仕事を頑張っていればそのうち必ず認めてくれる。
認めてくれた時に石田さんの心をどれだけ小田が占めているかで、好意の跳ね上がり方は変わる。
ならば、とことん気になる存在になってやろう。石田さんに私の存在を少しずつ貯めていこう。
それとわからないように、ゆっくりこっそりと。


砂糖が麻薬とは誰も思わない。
でも麻薬のようなものだという説がある。
そんな砂糖のようにゆっくりゆっくり石田さんを侵食していこう。




気がつけば砂糖漬けの石田さんができあがってたりして。
めちゃくちゃ甘いんだろうなぁ。
ふふ。石田さん、覚悟しておいてください。
私、本当に欲しいものはどれだけかけても手に入れるので。

11 :三話 :2018/08/10(金) 23:07
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                            三話 終

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12 :四話 :2018/08/14(火) 23:30


石田さんは、しっかりしているようで放っては置けない時がある。


ある時、ずぶ濡れで石田さんが仕事場に来たことがあった。
聞くと、雨が降るのは知ってたけど家を出るときは降ってなかったから傘を持ってこなかったせいで濡れネズミになったと。
傘を持つということが好きではないらしい。

それ以来、雨が降る日は石田さんと駅で会えるような時間に行くようにしていた。
ちゃんと石田さんと会えることはあまりなかったけど、上手く会えた日のほとんどは石田さんと一つの傘で歩いていく。
たった数分だけど大切で幸せな時間。
しかし失敗してしまうこともたまにあって、これはとことんうまくいかなかった話。


13 :四話 :2018/08/14(火) 23:34


「石田さん!!何やってんですか!風邪ひきますよ!!」


電車を降りると案の定、雨が降っていた。
それも、どしゃ降りに凄い風。

いつもより少し長目に待ってみるも、石田さんは来ない。

こんな強い雨風だしさすがに今日は傘を持ってきてるかなと思って駅から出ようとした時、横を駆け抜けて行った人がいた。
あー、あの人傘忘れたんだ大変だなぁと眺めたら、どこか見覚えのある後ろ姿。


   って、石田さんじゃん!!


慌てて追いかけて傘の中にいれた。


「え?あ、小田?おはよう。」

「石田さん……、おはようございます。じゃなくて、傘どうしたんですか?今日ぐらい……」

「いやー、こんな降るとは思わなくて、持ってこなかった。」


小田が来てくれて助かったよと、けらけら笑う。


「もう、石田さんだと気づいて慌てて走ってきたんですからね。っきゃあ!」

「わ、わっ!……あっはっはっはっは!!」


突然ふいた風に傘がひっくり返った。
石田さんは何が面白いのか爆笑してる。


「もう!なんで笑ってるんですかー!」




14 :四話 :2018/08/14(火) 23:38


石田さんを濡れネズミにしないようにと思ってたのに、何故か二人してびしょびしょになってしまった。

控え室に着くと、先に来てた三人に驚かれた。

そして、
譜久村さんにタオルでわしゃわしゃ拭かれ、
生田さんにはケラケラ笑われ、
飯窪さんにはバシャバシャ写真を撮られてしまった。
その間、石田さんはずっと笑っていて仕事前なのにテンションが壊れていた。


全くもって思った通りにならなかったけど、石田さんが笑ってるからいいかなぁ。ちょっと笑いすぎだけど……


「あっはっはっ!!」


いや、本当に笑いすぎです。石田さん、大丈夫?


15 :四話 :2018/08/14(火) 23:39
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                            四話 終

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16 :五話 :2018/08/16(木) 19:44


「んぅ…」


狭い座席で寝返りを打った小田の頭が、石田の肩に落ち着く。
前までならあまりいい気はしなかったのだが、今はなぜだか可愛いなと思う自分がいる。

舞台が終わり髪も戻して通常モードになったはずなのに、油断をするとすぐにスネフェル様が出てくる。

見慣れているはずの小田に愛しさを感じるなんてそうとしか考えられない。

ファラオの墓の再演が決まって配役が発表された時は小田とかよって笑っていたのに、稽古が進むにつれどんどんと小田が気になっていった。


17 :五話 :2018/08/16(木) 19:51


ふと目を覚ました。
肩にはまだ小田の頭がある。
思わず撫でようとしたら、気配がして手をひっこめる。


「あれ、あゆみんまだ起きてた?」


前の座席から携帯を手にした飯窪が顔をだしていた。


「なに?」


思ったより低い声が出て焦ったが、飯窪は特に気にならなかったのか


「いや〜。はーちんからテスト頑張ったんでご褒美下さい!だーさくさんとか!って言われたから、仲良く寝てるのでも送ろうかなと思って。」


と悪びれもせず目的を教えてくれる。


「いや、なに堂々と盗撮しようとしたのを告白してんのよ。」

「ほらほら、可愛い後輩へのご褒美なんだから協力してよ。」

「なに言ってんの。」


飯窪に早く寝ろと言わんばかりに手を振られ、少し機嫌の悪そうな声が出る。
18 :五話 :2018/08/16(木) 19:53


「しょうがないな。まぁ、いっか。さっきのあゆみん、いい顔してたし。」

「なにがしょうがないだ…って、は?いつ?」


わりとあっさり引いた飯窪にホッとするも続く言葉に引っかかる。


「ん?小田氏がもたれてきたら、なんか愛しさ爆発って感じの顔してたよ。尾形が喜びそうな感じの。てなわけで、可愛い後輩にご褒美あげることにするわ。」

「はっ!?ちょっ……」

「もう送った!」

「送ったじゃない!!」


止めようとしたが遅く、送信済みの画面を見せられる。


「じゃぁ、お邪魔虫の飯窪さんは寝るねー。お好きなだけ、小田と仲良くね♪」


楽しそうに人をぶんまわして去る飯窪。


「仲良くねって、そんなんじゃないのに……」

可愛いと思ってしまったのは事実なので反論の声は小さくなる。

19 :五話 :2018/08/16(木) 19:57


モゾモゾ


うるさかったのか寝づらかったのか、小田が頭を動かす。
さっきよりも、近い上にいつの間にか左腕を抱きしめられている。


「おいこら、抱き枕じゃないんだぞ。」


そっと腕を抜こうとするも、ぐずり出したので諦めることにする。
起こしても別に何もいいことないしと自分を納得させ。
布団代わりにしている上着をかけなおしてやると、心なしか嬉しそうに見える。やっぱり、可愛いなと思う。


(寝顔、可愛いなぁ)


と思っているとメールがきた。


『やっぱり、小田が可愛いんじゃない?前までだったらさっさと小田から距離とってたじゃん。』


寝るはずの飯窪から送られてきたメールは見なかったことにする。
あまり考えすぎるのも、しゃくで自分も寝ることにした。

20 :五話 :2018/08/16(木) 19:58


悪夢を見た。


少し大人になった小田と自分。
スネフェルとナイルのようにイチャイチャしている。


起きてすぐ小田から離れたのはしょうがないことだと思う。


(はるなんのバカヤロー!)

21 :五話 :2018/08/16(木) 19:59
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                            五話 終

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22 :六話 :2018/08/17(金) 23:40


ちょっとした待機時間。

譜久村さんと飯窪さんが、

「『手持ちブタさん』だねー。」

「そうですね。微妙な時間すぎて『手持ちブタさん』ですねー。」


と言葉遊びをしている。


「『手持ちブタさん』、はるなんのは黒色だね!」

「うっ。ブタさんまで黒ですか。いいんです。私のブタさん、可愛いんで。」


ん?近くでフリの確認をしていた石田さんが不思議な顔をした。
……もしかして、石田さん『手持ちぶさた』をわかってない?



23 :六話 :2018/08/17(金) 23:41


その日の夕方、石田さんを探して控え室の前を通ると


「ねぇ、ねぇ。『手持ちぶさた』?『手持ちブタさん』?どっち?」

「んー、どっちだろ?『手持ちブタさん』かなぁ。」


と聞こえてきた。
ちらっとドアの隙間から覗くと、あかねちんとちぃちゃんが真面目な顔をして衣装を着替えもせず話し込んでいた。


「やっぱり『手持ちブタさん』かな!『手持ちブタさん』のほうが可愛いもん!」


ちぃちゃんが突っ込み処満載の結論を出してきた。


「違うよ!『手持ちぶさた』だよー!!譜久村さんと飯窪さんのおふざけに惑わされないでー!!」


たまらず、バァン!とドアを開けて叫んだ。


「えぇ!?『手持ちブタさん』じゃないんですか!?」

「『手持ちブタさん』の、ほうが可愛いのに!!」


ちぃちゃん、そういう問題じゃないから。
可愛いは正義だけど、これは違うから。
って、石田さんまで何びっくりした顔をしてるんですか。


私が見ているのに気づいた石田さんは、そっと目をそらす。
あぁ、やっぱり分かってなかったんですね。
思わず暖かい目で見てしまう。

24 :六話 :2018/08/17(金) 23:42


石田さんの隣にそっと座る。


「手持ちブタさん。」


ピクリと石田さんの肩が動く。


「ちぃちゃんたちが言うと可愛いですよねー。」

「……。そうね。」

「小田は、石田さんが言うのも可愛いと思うんですよねー。」

「バカにしてる?」

「いえいえ、まさか。可愛いだろうなぁと思っただけですよ。」


あ、拗ねた。
石田さんの唇が尖ってる。
そろそろ頃合いかな。


「石田さん、もう差し入れのアイス食べました?」

「まだ。」


じゃーん!


石田さんの目の前にアイスクリームを二つ差し出す。


「だと思って、石田さんのも取ってきました!一緒に食べましょう。」

「あ、ありがとう。」


ここで、素直にお礼を言えるとこが石田さんだよなぁと思う。
美味しいものを食べてすぐ機嫌が治る石田さんが可愛い。

今日は、石田さんの拗ねた顔も見れてラッキーな日でした。

25 :六話 :2018/08/17(金) 23:43
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                            六話 終

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26 :七話 :2018/08/21(火) 00:56


小田が休んだ。

昨日、ちょっと調子が悪そうだなと思ってたら本当に悪かったようだ。

今日は、全員でのダンスレッスン。
小田とはなにかと絡んだりすることが多いから、小田がいない状態だとなにか変な感じがする。


「小田ぁ……あ、いないんだった。」


シンメになる小田と打ち合わせしようと思って呼んでしまったけれど、当然返事はない。
けれど、メンバーにはしっかり聞こえてしまって、何人かにニヤリとされる。


「小田氏がいなくて寂しい?」

「別に寂しいとかじゃないって。」


はるなんがにやにやしながら来る。


「本当に〜?」

「もう、譜久村さんまで!」


譜久村さんは、小田と私の関係を弄るのが好きだ。


「メンバーが休むくらい体調崩したら誰だって心配しますって。」

「小田だと特に?」

「もう!譜久村さん!」



27 :七話 :2018/08/21(火) 00:57


仕事が終わり、携帯を見ると小田からメンバーに謝罪のメッセージが着ていた。
どうやら、明後日には復帰できるらしい。

『お詫びにアイスクリーム買っていきます。ご希望ありますか?』

なんて書いてたから、

『アイスクリームで許されると思うなよー!』

と返した。
ちょっときつかったかなと思って

『余計な気を使わなくていいから、ゆっくり休んでしっかり治しなさい。小田が元気な、顔を見せてくれたら十分だから。』

小田に追加で送ると、すぐに既読になった。

『石田さんの優しさで、小田もう元気になりました!明日にでも復帰できそうな気がします!』

『なにバカなこと言ってんの。ちゃんと治せって言ったでしょ。お医者さんの言うことちゃんと聞きなさい。』

『はーい。しっかり、治します。』

結構、元気そうな感じだったので安心した。





ずっとずっと後になって知ったことだけれど、小田はこのなんてことない言葉が本当に嬉しかったらしくスクリーンショットを撮って大事にしていたらしい。

28 :七話 :2018/08/21(火) 00:58
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                            七話 終

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29 :八話 :2018/08/22(水) 23:23


「石田さん?」


返事はない。
人気のない階段で、石田さんは膝を抱えてうつむいたままだ。


今日は、彼女の同期の卒業が発表される。


卒業を告げられたときは大丈夫だったけど、別れ際に泣いたと聞いた。
私だって、一緒にやってきた仲間の卒業は寂しい。
でも同期ならばもっと思うこともあるのだろう。
同期のいない私にはわからないことが。
30 :八話 :2018/08/22(水) 23:25


誰かの卒業が発表されるたび、石田さんはこっそりこうやって一人で悲しんで皆の前では明るく振る舞っていた。
私たちにはいつだって別れがつきまとう。
卒業と加入を繰り返して紡がれた歴史。
ここが最終地点ではないと言われても、ここより大切な場所ができるとはまだ思えなかった。
今生の別れでもないから会おうと思えばいつでも会える。
でも、今まで分かち合ってきた喜びも辛さも共有はできない。
離れて新しくできる絆もあったけれど、寂しいものは寂しいのだ。



「石田さん。」


ゆっくり石田さんに近づいて、そっと包み込む。
ちょっとでも石田さんの寂しさがマシになれば。

ピクリとも動かなかった石田さんが、ゆっくりと手を伸ばしてくる。
ぎゅっと抱きついて、また動かなくなる。
31 :八話 :2018/08/22(水) 23:26


工藤さんの卒業を聞いて、自分そして石田さんの卒業を強く意識するようになった。
10期さんの最年少。並べば私の前で、石田さんの二つ後ろ。
意識するなというほうが無理だ。

今、やりたいことを叶えても次から次へとここで達成したい目標が出てくる。
それがなくなれば、卒業になるのだろうか。
それとも、いつかここでは叶えられない目標が出来てしまうのだろうか。
できればその時は石田さんの後であって欲しい。
こうやって石田さんが一人になってしまわないように。


32 :八話 :2018/08/22(水) 23:27


どれくらいたったのか、ふと気づくと石田さんは寝ていた。
楽な体勢にかえて、彼女を心配している人たちにメールを送る。


『石田さんと一緒にいます。もう少ししたら戻ります。』


次々に返ってくる返事、全てに石田さんをよろしくって書かれていて少し笑ってしまう。
本当にこの人は愛されている。


さて。そろそろ、戻りますか。


「石田さん、起きて下さい。そろそろ時間です。」

「んぅ。ごめん、寝てた?」

「いえ。行けますか?」

「うん。ありがとう。小田は大丈夫なの?」

「私は、石田さんをハグできましたから。」

「なに言ってんの。」

鼻で笑った石田さんは、最後にぎゅっとして立ち上がる。
立ち上がった石田さんはもう、いつもの石田さんだった。

「さーて!今日のライブも、頑張ろう!いつだって、最高の私たちで行かないとね!」


そうだ。いつでも最高の私たちでいよう。
卒業していく、メンバーが心配しないように、胸を張ってこの先も歩いて行けるように。
まだまだ私にはやらないといけないこともやりたいこともある。


33 :名無飼育さん :2018/08/23(木) 16:09
ヤバい!!
だーさく!


34 :九話 :2018/08/27(月) 21:30


「うわぁ、いい雰囲気のお店ですね!カレーのいい匂い!」


今日は、石田さんと二人でのお仕事。
結構時間もあってお昼ご飯をどうしようかとなったら、石田さんがいいお店知ってるんだと連れてきてくれた。


あの時から、石田さんとよくご飯を食べに行くようになった。
なにかと、気にかけてくれるようになったように思う。
いや気にかけているというより、知ろうとしてくれてるが近いかもしれない。

35 :九話 :2018/08/27(月) 21:31

「石田さん、よくこんないいお店ご存知でしたね。」

「あぁ、梨沙ちゃんが以前連れてきてくれて……。ってそうだ、小田!!あんた、ハロコンで何言ってくれてんの!!」

「へ?なんのことですか?」


申し訳ないけど、石田さんに怒られる心当たりがない。


「うっ。なんか、私のこと色々と話してたって梨沙ちゃんから聞いたんだけど。」


そんな、石田さんが顔を赤くするようなことを言ったかなぁ。
梨沙ちゃんに?あ、もしかして。

36 :九話 :2018/08/27(月) 21:32

「もしかして、石田さんが美味しいもの食べたらテンション上がるって話ですか?」

「それ!なんか恥ずかしかったんだけど!!」

「今さらじゃないですか?たしか、何かのDVDでも言った記憶ありますよ。」


でもなんか恥ずかしいじゃんかと石田さんは膨れる。
膨れる石田さんは可愛いんだけど、ここで可愛いと言ったら怒られるのは目に見えてる。


「あ、石田さん。デザートきましたよ!美味しそう!」


いいタイミングでデザートがきた。


「デザートも美味しいんだよ!」


さっきまで膨れてたのにデザートを見たらすぐにご機嫌になる石田さん。
目がキラキラして嬉しそう。
37 :九話 :2018/08/27(月) 21:34



「美味しかったですね!石田さん、ありがとうございました。」

「ん。小田の好みに合ってよかったよ。」


あのあとも、色々とお話をしてたくさん笑った。

さすがに二人で遊びに行くことはないけれど、こういう日が多くなった。
石田さんと二人でこんなに話せるようになるにはもっと時間がかかるかと思ってた。
正直なところ、私か石田さんが卒業してからと考えてたから嬉しいけど少し戸惑っている。
これからどうしよう・・・


38 :九話 :2018/08/27(月) 21:35
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                            九話 終

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39 :九話 :2018/08/27(月) 21:36
>>33
だーさくです。
よろしくお願いします。


八話に終つけるの忘れてしまいました。
40 :十話 :2018/09/06(木) 00:19


「小田ぁ。今日、この後ヒマ?ご飯食べに行かない?」

「はぁい。大丈夫ですよ。行きましょう♪」


鏡越しに会話している二人を眺める。
OKが出て少し嬉しそうな亜佑実ちゃんと、ニコニコしている小田。
最近のだーさくさんは仲良しだ。


「聖、楽しそうっちゃね。」


隣にいたえりぽんに突っ込まれる。
口元が緩んでいたらしい。


「う〜ん。あの二人がようやくここまでって思うとね。」

「あぁ、亜佑実ちゃんと小田ね。」


41 :十話 :2018/09/06(木) 00:21


本当に、あの二人はじれったかった。
小田ちゃんが亜佑実ちゃんのことを好きなのは、みんな気づいていた。
なのに気づかない亜佑実ちゃん。

亜佑実ちゃんは亜佑実ちゃんで、『小田、小田』ってすっごく気にしてるのに自覚がない。
小田ちゃんはそのことに気づいているのかはわからない。
だけど、亜佑実ちゃんの気に障ることはわざとやっているとこもあるみたいだった。
お互いとても気にしてるのになんかズレていて、だーさく観察は面白かったけどやっぱりもどかしかった。

42 :十話 :2018/09/06(木) 00:21


『小田ちゃんはあゆみんの事好きだけどね 』

『そうなんですかね?』
『私あんまり好きじゃない』

あまりに『小田と合わない』を強調するから見かねて直球を投げても、ピンときてないようだったし、他の人に突っ込まれたらすぐこんなことを言っていたのに。


亜佑実ちゃん次第だった、二人。
小田ちゃんが告ったわけじゃなさそうだけど、なにかが亜佑実ちゃんの心を変えたんだろうな。
グループ内恋愛は禁止って先輩が作ったルールがあるけど、あの二人は早くくっつけばいいのになぁと思う。

43 :十話 :2018/09/06(木) 00:22


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                            十話 終

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44 :十一話 :2018/09/11(火) 23:20


小田は気が多すぎる!
なんだあいつは、あっちこっちにベタベタして!


とでも言いたげな顔で横に立っている先輩に声をかける。


「石田さん、そんなに小田が気になります?」

「はぁ!?なんっ……。いや、あの別に。そんなことよりさ……」


勢いよく否定する途中で横にいるのが後輩でさらに小田の親友だと気づいたのか、石田さんは話をそらそうとした。


「おーだは、小さくて可愛い子が大好きですからねぇ。私にも最初はあんな感じでしたよ。」

「はまちゃん大佐!浜浦ちゃん、小さかったよね〜!それがこんなに大きくてスタイルよくなって。しかも可愛いままで。」

「あはは。ありがとうございます。石田さんは、可愛らしいままでどんどん格好よくなってますね。」

「そうかなぁ。そう思ってもらえたら嬉しいな。」


「そろそろ、みんな集合してー!」


開演前、全員での気合い入れに向かう。

45 :十一話 :2018/09/11(火) 23:33


ふと、なんで今回はこんなに石田さんとお話してるんだろうと考えてみた。

答え。石田さんがおーだと一緒にいるからだ!
だからハロコンになると、よくおーだと一緒にいる私と石田さんが一緒にいることになる。

おーだと石田さんが一緒にいるのはよく見かける光景だ。
でもそれは、おーだが石田さんの側にいるからで、おーだが違う人のところへ行けば、バラバラ。
それが今回のハロコンでは、おーだが他の人の所に行っても石田さんもなんやかんやと一緒に移動している。


あれ?おーだは気づいていないわけないよね。
二人の仲が進展したとかまだ聞いてないんだけど。
ま、また今度教えてくれるかな。


46 :十一話 :2018/09/11(火) 23:34

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                            十一話 終

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47 :十二話 :2018/09/16(日) 23:38


「小田氏は、健気だよねぇ」


しみじみと言いながら、飯窪は小田の斜め前の席に座った。


「なんですか、いきなり?」


書き物をしていた小田は手を止めて顔を上げる。


「それ。」


飯窪の指差した先には、小田の充電器に繋がれた携帯があった。携帯の持ち主は、小田の横で机に伏して寝ている石田だ。


「わざわざ、あゆみんの為にケーブル持ち歩いてるって言ってたじゃん。あのあと、横山が悔しがってたよ。小田さんの愛が深すぎて勝てないー!って」


飯窪は、石田さんが大好きなんですと公言している後輩のマネをする。


「ふふふ。」


小田は、あまり似てない物真似に苦笑する。
そして、横で寝ている石田をチラッと見る。


「ま、ご本人は気づいてないかったみたいですけどね。」

「そうね。この間、『野中のためじゃないの?』とか言ってたわ。」

「ちぇるちゃんも石田さんと同じやつですからねぇ。あの子は充電器忘れるなんてほとんどしないですけど。」

「だよね。あゆみんってこういうの鈍感だよね。小田氏があゆみんにやってることに全然気づいてないもん。わざとかってくらい。小田氏が、こんなにもあゆみんを甘やかしてんのに。」


ハァと息をついて飯窪は背もたれにもたれた。
48 :十二話 :2018/09/16(日) 23:39


「甘やかすって……。もともと、気づかれないようにしてたからいいんです。でも最近、石田さんが変わってきたんでどうしましょうかねぇ。」


バカみたいに優しい顔でサラリと石田の髪を撫でる小田。
隠しきれない気持ちを見てしまったようで、うわぁと言いそうになる。


「小田氏って本当にあゆみんのこと好きだね。」

「そうですね。」

「否定しないんだ?言わないの?」

「今さらな質問ですね。まだまだ言いませんよ。もっともっと、小田なしでは生きていけないぐらいになってもらわないと。」


小田は静かな声で答える。
どうしましょうと言ったのに、揺らぐこともなく決めているようだ。
49 :十二話 :2018/09/16(日) 23:40


「飯窪さんとしては、さっさとくっついて欲しいんだけどなぁ。」

「飯窪さん、知ってます?即効性の毒って、その効果が薄れるのも早いんですよ。」

「ほう?」

「即効は瞬間的で遅効は持続的に置き換えられるなら?私は、長く続けたいんですよ。だから、じっくり攻めていくんです。」

「小田の一目惚れは即効性のものじゃないの?」

「そうですけど、一目惚れとはちょっと違いますね。ずっと探していたのが石田さんだったんです。それに石田さんも麻薬みたいな人だから、私もやられちゃってますよ。」

「怖い女だなぁ。」

「ふふ。内緒にしといて下さいね。」

「なんで、教えてくれたの?」

「んー。あのお二人を見守っていらっしゃったからですかね。」


そうこうしているうちに、順番がきて小田は撮影に行った。

50 :十二話 :2018/09/16(日) 23:41


「見守っていたからねぇ。見守るもなにも同期に壊れて欲しくなかっただけなんだけどなぁ。」


やれやれとため息をついて飯窪は、まだぐっすり寝ている同期を見る。


「ほんと、早く気づきなよ。小田氏の気持ちにも自分の気持ちにもさ。」


軽く石田の頭を撫でて立ち上がる。


「さてと。飯窪さんも色々と頑張りますかね。」


飯窪が出て行った楽屋には、一人残された石田。


51 :十二話 :2018/09/16(日) 23:43




「自分の気持ちって、なにさ……」


しっかり聞いてしまって、頭を抱えていた。



52 :十二話 :2018/09/16(日) 23:43
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                            十二話 終

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53 :名無飼育さん :2018/09/17(月) 21:36
こ、こんなところに素敵だーさくさん。
ありがとうございます。続き、楽しみにしてます!
小田ちゃんの、いかにも小田ちゃんっぽい考え方、好きですねぇ。
亜佑美ちゃんがんばれ。
54 :十三話 :2018/09/25(火) 22:53


「おまたせー。」

「どぅー、ごめんね。呼び出したりして。」


「ぜんぜん。あゆみんに久しぶりに会えてうれしいよ。」


と言いながら、工藤は石田の前に座る。

化粧や服装が知っている工藤とは少し違っていて微かな違和感を覚える。
久しぶりに会う工藤は、一緒にいたころよりお姉さんらしくなっていた。


55 :十三話 :2018/09/25(火) 22:54





56 :十三話 :2018/09/25(火) 22:55


「で、本題はなに?」


ひとしきり、お互いの近況報告で盛り上がったあと工藤が尋ねた。


「あ〜、うん。あのね、聞きたいことがあるんだ。」

「うん。」

「どぅーって、まーちゃんと付き合ってるでしょ?なんでまーちゃんと付き合うことにしたのか聞いてみたくて。」

「へ?」


工藤は不思議そうな顔になった。
それはそうだ。
二人が付き合うまで、話を聞いたり、時にはお節介を焼いていたのは石田と飯窪だったからだ。


57 :十三話 :2018/09/25(火) 23:06


「えーと。いきさつはあゆみんが見てきたまんまなんだけど、そういうことじゃないこと?」

「そう!好きってなんで思ったの?まーちゃんと他の人への、好きってなにが違うの!?」

「ちょっと。あゆみん、落ち着いて!」


工藤は近くにあった水を石田に飲ませる。


「うー、ごめん。落ち着いた。」

「そういう話なら、場所変えようか。ハルん家来る?」


カフェを出て、工藤の家に向かう。
工藤の実家に向かうのかとおもいきや、駅と反対に歩いていく。
しばらく前に都内に部屋を借りて、のちのちには一人暮らしをする予定だという。
知らない間に、知らない成長をしている工藤に寂しく感じる石田だった。



58 :十三話 :2018/09/25(火) 23:08


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59 :十三話 :2018/09/25(火) 23:16
>>53 

ありがとうございます!
小田さん、こんなこと考えそうだなぁってとこからはじまりました。
石田さん、パンクしかけですw


気にならないかもしれませんが、時系列がちょっとごちゃってます。
完結したら整理したいなと思います。

読んでいただいてありがとうございます。 
60 :十三話 :2018/10/02(火) 01:16



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61 :十三話 :2018/10/02(火) 01:17


「どーぞ。何もないけど、上がって。」


工藤がドアを押さえて、中に入れてくれる。
本当にこちらにはあまり帰っていないらしく、物は少なく綺麗な部屋だ。


「あゆみん、奥の部屋行ってて。ハル、これ片付けてから行くし。」


ワンルームかと思ったらもう一部屋あるらしい。
奥の部屋は、工藤らしい居心地の良さそうな部屋だった。
石田は、部屋の真ん中にあるローテーブルの前に座った。


「玄関入ってすぐって、落ち着かなくてさ。ほとんどこっちの部屋で過ごしてるんだよね。向こうはほぼ物置。」


あちこち見たら悪いかなと思いつつ部屋を眺めていると、両手にコップを持って工藤がやってきた。


「いい部屋だね。」

「どうも。はい、お茶。」


コップ二つをローテーブルに置いて、石田の向かいに工藤は座る。

62 :十三話 :2018/10/02(火) 01:17


「さて。さっきの話の続きだけど、その前に聞いていい?好きな人でもできたか告られたの?」


コップに手を伸ばしたままの姿でガチンっと固まる石田。


「小田?」


じっと石田を見つめてさらに追い討ちをかける。


「な、な、な、なんでそうなんの!?」

「なんでそうならないと思うんだよ。」

「そんなに、私と小田ってそういうふうに見えんの?」


石田は工藤の冷静な返事に、真っ赤になって頭を抱えた。

63 :十三話 :2018/10/02(火) 01:18


「もうさ、好きとかわかんなくて、わけわかんなくなってて。」

「ほー。んで、ハルがどうだったのか参考にしようってこと?」

「うん。どぅーもまーちゃんとずっと一緒にいてたけど、最初から好きとかじゃなかったでしょ?なんで好きって気づいたのかなとか、親友じゃダメだった理由とか改めて聞きたくて。」

「うーん。あゆみんの期待してるようなもんじゃないよ。多分、あゆみんには理解できないと思うよ。それに、ハルがそうだったからって、あゆみんもってわけじゃないでしょ?てかあゆみん、舞台で結構経験してるでしょ?」

「舞台と現実じゃ違うんだよぉ。お願いします。」


へたれた声にすがるような目で見られたら、工藤には冷たくあしらうことなどできない。

64 :十三話 :2018/10/02(火) 01:19


「先に言っておくけど、これはまさも知ってるからね。ハルがまさと付き合うことにしたのは、まさの束縛がしんどくなったからなんだ。」

「は?」


目と口がポカンと開く。


「ハルね、みんなといる時はみんなと仲良くしたいんだ。でも、まさはそうじゃなかった。いつでもどこでもハルを独占したがってた。あゆみんも覚えあるでしょ?」


たしかに、今はそんなことないが佐藤には工藤を独占したがるところが合った。
飯窪がそんな佐藤に注意をしたこともある。
しかし、それがなぜ付き合うことにつながるのか石田にはよくわからない。


「まさにハルの時間をあげるかわりに、みんなといる時はハルを自由にしてってことで付き合うことにしたんだ。」

「……。それは付き合うって言うの?」

「好きなのかどうかって聞かれたら正直まだわからない。でも、ハルにとってまさは大事な人だよ。始まりはこんな理由だったけど。」


穏やかな顔で工藤は続ける。

65 :十三話 :2018/10/02(火) 01:20


「ハルはさ、人に合わせちゃうところがあるじゃん?だから、時々自分を見失いそうになっちゃうんだ。そんなハルをまさはしっかり捕まえていてくれるんだ。」


頬杖をついて 、穏やかなまま石田を見る。
石田には、その姿が自分より大人に見えた。
真っ直ぐ、ちょっと中二病だけどひねくれたところのない可愛い妹と思っていた工藤がこんなことを考えていたとは。


何か言わなければと思うが、何を言ったらいいのかわからない。
ただ、そういう形もあるのだとは心にストンと落ちた。


「こんな形もあるからさ、そんなに悩まなくてもいいんだと思うよ。」

「んー。」

「付き合ってから好きかどうか考えてもいいんじゃない?」

「でもそれってなんか失礼じゃない?」

「言うと思った。でもさ、悩むくらい好きで相手もそれで良いって言うなら甘えてもいいんじゃない?」


工藤の言葉に石田は「でもなぁ」と渋る。


66 :十三話 :2018/10/02(火) 01:20


「なんやかんやと話したけど、その辺りはあゆみんが決めることだからね。こんな考え方もあるんだって聞き流してもいいよ。」


工藤は、考え込んでいる石田に声をかける。


「うん。どぅー、ありがとう。まだ直接言われたわけでもないから、それまで考えてみるよ。」

「え!?言われたんじゃないの!?」

「うん。はるなんと小田が喋ってんの聞いちゃって。」


それを聞いた工藤は「なにやってんだよ。」と頭に手をやる。


「あー、うん。あんまり悩み過ぎないようにね。」


苦笑いする工藤は、なんだか昔の工藤だった。

67 :十三話 :2018/10/02(火) 01:21


そのままいつもの空気になった。
あのあと、二人でゲラゲラ笑っているところに佐藤が帰ってきたり、どうせならと飯窪を呼び出したり色々とあった。

いつものような騒がしさの中で、工藤と話せて良かったなと思う石田だった。



68 :十三話 :2018/10/02(火) 01:22


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                            十三話 終

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69 :十四話 :2018/10/07(日) 21:39


収録前の楽屋。
集合時間にはまだまだ時間がある為、それぞれが好きなことをしている。
そんな楽屋の片隅で、石田はスケジュール帳を前に考え込んでいた。


「この日は仕事とかぶってるしなぁ。…」


ぶつぶつ言いながら真剣に考えている。
他のグループの公演や舞台のチケットを前もって申し込みするために頭を悩ましているのだ。
フッと石田の手もとに影が落ちた。


「石田さん、ここの時間が空いてるならこの日に行きません?」


小田が、スケジュール帳を覗き込んでいた。

70 :十四話 :2018/10/07(日) 21:39



「でも、撮影場所が離れてるから間に合うか微妙なんだよ。」

「ここ、意外と近いんで間に合いますよ。小田と一緒に行きましょう。」

「えー、小田と一緒かぁ。」

「可愛い可愛いちぃちゃんもいますよ!だから、一緒に行きましょう!」

「ふっ。なんでそんな必死なの。しょうがないなぁ、一緒に行くか。」


なぜか必死に誘う小田に笑ってしまう。
石田は誘われた日の他にも何点か申込書に書き込んで、ボールペンを机に置いた。


「よし!じゃあこれスタッフさんに出してくるわ!ありがとう、小田。」

71 :十四話 :2018/10/07(日) 21:40


申込書を出しに楽屋を出ようとしたところで、入ってこようとしていた譜久村とぶつかりそうになった。


「わわっ!すみません、譜久村さん!大丈夫ですか!?」

「いや、こっちこそごめんね。あゆみちゃんも大丈夫?」

「あたしは大丈夫ですよ!丈夫なのが取り柄ですし!」


譜久村は、元気に答える石田の頭をついつい撫でてしまう。
石田は、「なんですか〜」と言いながら嬉しそうにしている。


「あれ?あゆみちゃん、それ…」

「あぁ!すみません、これ早く出さないといけないんで行ってきます!」


石田は、指摘されて慌ててスタッフを探しに行った。
残された譜久村が複雑な表情をしたことにも気づかずに。

72 :十四話 :2018/10/07(日) 21:40






73 :十四話 :2018/10/07(日) 21:41


「遅くなってすみません。チケットの申し込み、これでお願いします。」

「はい。じゃあ、これで調整しておきます。」

「では、失礼します。」

「あ、石田ちょっと待って。」


無事に申込書を渡せたので、楽屋に戻ろうとすると引き止められた。


「石田、したいことあるか?そろそろ、考えておけよ。」

「え?」

「時間なんて、あっという間だな。もう、そういう年齢になるなんてな。どういう形になるかはまだわからないが、考えておいてくれ。」

「……わかりました。」

74 :十四話 :2018/10/07(日) 21:42



まことしやかに囁かれる定年説。
年下の先輩、年下の同期に後輩。
もうすぐ半分になる同期。
自分もそろそろなのかなとは思っていた。


舞台が面白いと思ったから、色々な舞台を見に行った。
好きなダンスを続けるなら、どうしたらいいのか先輩に聞いたりもした。

でも、娘。より大切なことも、したいと思うこともなかった。





あたまがぐるぐるしている中でふと浮かんだのは、なぜか小田の顔だった。




75 :十四話 :2018/10/07(日) 21:42


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                            十四話 終

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