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ローズクオーツの掟

1 :名無飼育さん :2014/03/05(水) 21:34

宮本さん中心の小説です。
主な登場人物はJ=J 娘。などなど。
425 :名無飼育さん :2015/03/28(土) 21:19
「佳林ちゃんをどっかに隠しておかないと」

すでに遠くのほうからドタドタと足音が聞こえ始めた。

「隠すってどこに?そんな時間あるわけないでしょ」

佳林が冷静に言う。
里保が屋敷を改めると言っている以上ここが見つかるのも
時間の問題だ。

「さくら、もうあきらめて私を解放して」

佳林はもう降参するようにさくらを促す。

「そうだ。いくら鞘師さんだって佳林ちゃんを人質にとれば
あたしに何も出来ないよね」

さくらがそう言って佳林を見つめた。
再び獰猛なさくらの表情が戻って佳林がぎくりとなる。

「馬鹿なこと考えないで。鞘師さんはモーニング娘。の先輩でしょ?
今だったら私が何もなかったって証言してあげるから」

佳林は必死に訴えた。
426 :名無飼育さん :2015/03/28(土) 21:21
さくらにだって人の良心は残っているはずだ。
ただしこんな吊るし上げにあってる状態じゃ拷問を受けてるようにしか見えないだろう。

「早くこの縄をほどいて」

さくらもそれは分かってる。
ただ佳林を自由にすることには一瞬躊躇した。

さくらとは最初から信頼関係なんて何もない。
でも一つずつ積み重ねていくしかない。
佳林は目に一杯の涙を浮かべてさくらはまっすぐに見据えた。

「お願い。私を信じて」

懇願するように佳林は言った。

「分かったよ」

さくらはそれだけ言うと佳林を吊るしている縄に手をかけた。
どうやらさくらの意思は動いたみたいだ。
縄を外してくれるみたいで佳林はほっとする。
427 :名無飼育さん :2015/03/28(土) 21:22
「痛っ」

急に両腕が上にひっ張られて縄が手首に食い込んできた。

「あれ、これどうするんだっけ?」

さくらが首をかしげる。

「外し方をわからないの!?」

佳林はまた別の恐怖に襲われる。
扉の向こうからガヤガヤとした声が聞こえる。
里保がもう近くまできてるようだ。

「さくら、急いで」

佳林が促すとさすがに焦りの表情を見せたさくらは
わたわたと吊り下げられている縄のもう一方を引っ張る。

今度は佳林はさっきより遥かに上方に引き上げられて宙ぶらりんの姿勢になった。
縄が一気に手首に食い込んで血が滲む。

「痛い!痛いよ」

佳林が叫び声を上げた。
428 :名無飼育さん :2015/03/28(土) 21:25
「あ、ごめん」

さくらが普通に謝ってきたけど佳林が何か言うとさらに焦りそうで
佳林は仕方なく吊るされた状態で我慢してさくらを見守る。
帯も外されてるせいで着物がずり落ちて半裸状態の悲惨な格好だ。

さくらが試行錯誤してる間にも佳林の両腕には縄がぐいぐいと食い込んでくる。
もはや拷問と言ってもいいくらいだ。

「さくら、お願い。早く外してよ」

「ごめん。すぐに外すから。ええと。ええと」

焦っているのかさくらの手が震えている。

「ちょさくら、何やってんの?」

滅多なことでいらつかない佳林がついにそう言ったときだった。

「えと、分かった。これだ」

さくらがそう言うと釣り下がった縄が一気に緩んだ。

「きゃあああ」

佳林は自分の身長ぐらいの高さから床に崩れ落ちた。
着物がはだけて白い肌が露出する。
429 :名無飼育さん :2015/03/28(土) 21:27
「ごめん、痛かった?」

さくらがそう言ったとき牢獄部屋の扉が開いた。

「そこまでだ」

里保が勇敢な騎士のように押し入ってきた。
そのままさくらを通り越して佳林を助け起こす。

「佳林ちゃん、大丈夫?」

里保はめくれ上がった着物をさっと整えてくれる。

ただ、佳林の手首は薄く血が滲んで足にはさっき転んだときに
負った擦り傷がそのままになっている。
両手を縛っていた縄はそのままになっていた。

「あの、これは」

おどおどしながら言うさくらを里保はきっと睨みつけた。

「こんなの人のすることじゃないよ」

里保が静かに言った。
430 :名無飼育さん :2015/03/28(土) 21:28
「佳林ちゃんは私の大切な友達なんだよ。
こんなひどいことするなんて絶対に許せない」

里保の目に涙が浮かんでいる。

「里保、でもさくらはね」

佳林がさくらの弁解をしようとした。

「佳林ちゃんは黙ってて」

再び激しい口調で里保は言った。

「小田さくら、こんなことをした以上モーニング娘。からは除名する」

里保は厳しい目つきでそう言った。

「鞘師さん、それだけは勘弁してください。
もう佳林ちゃんには近づきません」

さくらは泣きそうになって言う。

「あたしがモーニングじゃなくなったら何もかも失ってしまう」

「何もかも失うようなことをしたんじゃないの?」

里保は優しくも冷静にそう言った。
431 :名無飼育さん :2015/03/28(土) 21:29

今回の更新を終わります。
432 :名無飼育さん :2015/03/28(土) 21:31
>>412
一途が度を過ぎてるかもしれないここの小田ちゃん
ですが、優しく見守っていただけると幸いです!
レスありがとうございます。
433 :名無飼育さん :2015/03/29(日) 01:47
王子じゃなくて騎士が来たw
全部手に入れるのか、全部失うのか、気になるぅ!
出てくる度に主役を食う存在感の小田ちゃん大好きです。
434 :名無飼育さん :2015/04/05(日) 21:02
着物を整えて里保の従者に守られながら佳林はやっとさくらの
屋敷を出ることが出来た。
里保の乗ってきた馬車に乗るとようやく自分が生きているという
感触が戻ってきた。
さくらに監禁されている間中生きた心地がしなかった。

「だから送っていくって言ったのに」

里保が心配そうな目をして言った。

「ごめん」

佳林は里保に謝りながら何て自分は頼りない存在になってしまったのだろうと思う。
自分と同じ年の瀬の少女に付け狙われて結局は同じ年の
里保に助けられている。

昔は大人顔負けの機敏さとたくましさを持っていたのにと
佳林は自分でも思う。
435 :名無飼育さん :2015/04/05(日) 21:03
「佳林ちゃんてすごく優しいというかお人好し。
普通あんなことされて小田ちゃんをかばうかな」

里保はそう言った。
さくらは佳林がとりなしたおかげで結局モーニング娘。の除名は
まぬがれた。
その代わり、北の国での研修を命じられ南の国からは
出ていくことになった。

「でも最後は私の言うことをちゃんと聞いてくれたんだ」

佳林はさくらが最後に見せてくれた優しさを思い出す。

除名が許されてもさくらは佳林を見てすごく寂しそうな
目をしていた。
これが佳林と会う最後になることを訴えかけていたのかもしれない。

「それにしたってさ。無理やり連れ去られて、
縛られてこんな怪我までさせられて」

佳林の両手足には包帯がまかれている。
里保は佳林を助けた後怪我の介抱までしてくれた。
436 :名無飼育さん :2015/04/05(日) 21:04
「里保、本当にありがとう。
でもどうして私がさくらに連れて行かれたことが分かったの?」

「あ、佳林ちゃんを助けるのに必死で忘れるところだった」

思い出したように里保は言う。

「この子が教えてくれたの」

里保は便箋に入った封筒を佳林に見せる。
差出人の名前を見てさくらは喜びと寂しさと悲しさ、
恋焦がれるような吹き荒れる感情を同時に感じた。

「とも」

金澤朋子と書かれている封筒に里保はこの手紙は
佳林ちゃん宛だと言った。

やっぱり馬車から見たあの人影は朋子のものだったのだ。
437 :名無飼育さん :2015/04/05(日) 21:06
何故手紙なんかではなく、ここに佳林に会いに来てくれなかったんだろう。
そのことだけでも佳林は暗い気持ちになった。
佳林はすぐに便箋を広げて朋子の手紙を読んだ。
最初の文面には自分には佳林ちゃんを助けに行く資格がないと
書かれていた。

朋子が佳林を自分の物にするために佳林を遊女に追い落としたと
いうことが淡々と書かれている。

佳林にとっては今更そんなことはどうでも良かった。
自分の物にしたいなら今ここに一緒にいて欲しかった。
佳林の目に自然と涙が溜まる。

「佳林ちゃんがさくらに捕まってるから助けてあげてって。
その子に頼まれたんだ」

里保の問にも下を向いてうなずくので精一杯だ。

「金澤さん、絶対に佳林ちゃんを迎えに来てくれるよ」

里保は明るくそう言ってくれたが佳林には耐えていける自信がなかった。
438 :名無飼育さん :2015/04/05(日) 21:07
小田さくらが佳林の前から消えたとしても第二、第三の
さくらが現れないとも限らない。
体を売って心をなくして元々あった「宮本佳林」はなくなっていく。

そして佳林に客がつかなければ借金の返済もままならない。
どっちの道も地獄しかない。

里保は佳林を店まで送ると最後のお別れだと手を振って
去って行った。
里保も道重さんの命令で明日にはこの国を発つと言っていた。
どんどん自分から人が去っていってしまう。
朋子も里保も、そして結局のところはさくらもだ。

「寂しい」

佳林の心は今まで感じたことのなかった人恋しさに襲われるようになった。
439 :名無飼育さん :2015/04/05(日) 21:08

--------------------------
440 :名無飼育さん :2015/04/05(日) 21:10
「佳林ちゃん、ダメだよ。ちゃんと食べなきゃ」

由加の心配する声にも力なく笑って返すのがやっとだった。
里保に助け出されてから一週間たっても佳林はふさぎこんだままだった。

その間に誰も佳林を訪ねてくる人はいない。
勿論お客も一人として来なかった。

雨がしとしとと降っていた。
まだ昼下がりだと言うのに外はもう真っ暗で今が夜明け
だと言ってもなんにも違和感がない。
外は雨の音以外何も聞こえてこない。
それほど静けさに包まれた日だった。

「りんか」

部屋の外からあかりの声がする。
何も応えないでいるとあかりが襖をたたいて入ってきた。
441 :名無飼育さん :2015/04/05(日) 21:10
「今、さくらちゃんが最後のお別れだって」

その名前を聞いただけで懐かしい気持ちにさえなる。

「来てるの?」

佳林はうなずいて玄関に降りていこうとした。

「あ、ううん。さゆきが今更何しに来たって追い返したみたい」

佳林はそう聞いてもう一度座りなおす。

「いつ?」

「今、さっきだよ」

「じゃあちょっと出てくる」

さくらを追いかけるなんて自分でもちょっと信じられなかった。
442 :名無飼育さん :2015/04/05(日) 21:12
急いで玄関に駆け下りて表へ出る。
左右を見渡してもさくらの馬車は見当たらない。
一瞬遅かったと思ったが、はるか遠くにさくらの後ろ姿が見えた。

「さくら」

さくらがゆっくりと歩いてるせいで佳林は簡単に追いつくことができた。
佳林が声をかけるとさくらは振り向いて弱々しく笑った。

「わざわざ追いかけてきてくれたの?うれしいな」

その顔はいつもの勝気なさくらの表情とは違った。

「北の国に行くの?」

「うん。明日ね」

応えるさくらの顔はとても幼くて、自分を無理やり連れ去った人物だとは
とても思えない。

「良かった。佳林ちゃんの顔が最後に見れて。じゃあね」

さくらはそう言って踵を返した。
443 :名無飼育さん :2015/04/05(日) 21:13
「待って」

佳林はさくらを追いかけて言った。

「佳林ちゃんて不思議な人だね。あたしといて怖くないの?
あたしが佳林ちゃんに何したか分かってる?」

「そうだけど。私はさくらとの関係、このまま終わりにしたくないって思ってる」

「馬鹿なこと言わないでよね。佳林ちゃんあたしのことなんて
信用できないでしょ?何されるか分からない人だと思ってるでしょ」

さくらの言葉に佳林は首をふった。

「そんなことないよ。
さくらは私の目を見てちゃんと言うことを聞いてくれた。
由加ちゃんはさくらは優しい人だって言ってた。
本当はそうなんでしょ?」

「あたしが優しい?どっちにしたってもう遅いよ。
あたしは本当に佳林ちゃんにひどいことしちゃったから」

さくらはそのまま立ち去ろうとした。
444 :名無飼育さん :2015/04/05(日) 21:14
「私達このままいがみ合ったまま終わるの?」

佳林はさくらの後ろ姿に向かって訴えた。

「私は友達になれると思ってた」

「無理だよ。今更友達なんて」

さくらは立ち止まって自嘲的に笑った。

「でもそこまで言ってくれるなら」

さくらは胸元に手をやった。

「今日は北の国に旅立つメンバーのパーティーがあるんだ。
これでお詫びになんかはならないけど」

そう言ってさくらは招待券を佳林に差し出した。

「分かった。必ず行くよ」

佳林は落ち込んださくらを元気づけるように言う。
445 :名無飼育さん :2015/04/05(日) 21:16
さくらはわずかに笑うとまた歩き始めた。
もうさくらには馬車の用意はしてもらえないのかもしれない。

「ねえ、さくら」

佳林はさくらの後ろ姿に話しかける。

「パーティーが終わったらもうお別れなの?」

「きっと。そうだね。佳林ちゃんにはもう会うことはないと思う」

さくらは再び歩き出す。
もう引き止めることはしなかった。
寂しげなさくらの様子を見ているとこれまで自分を追い詰めてきた
天敵には到底思えなかった。

復讐、とは言ってもさくらには強い口調で非難されたことも
なじられたこともない。

確かに逃げようとする佳林にはいつも執拗に追いかけてきた。
けどそれは自分を本気で相手にしてくれたということもでもある。
446 :名無飼育さん :2015/04/05(日) 21:17
朋子にも半分見放されてしまった今、まともに相手をしてくれたのは
さくらだけだったことに気付く。
追いかけられてるうちが花だよと言ったあかりの言葉を
今やっと実感した。

脱走の前科がある佳林には本来私用の外出は許されなかったが、
今回は上客の送迎会ということでさくらのお別れパーティーに
出席することが特別に認められた。

店の管理をまかされている遣手婆もモーニング娘。の名前には
ひれ伏すしかなかったのだろう。
447 :名無飼育さん :2015/04/05(日) 21:17

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448 :名無飼育さん :2015/04/05(日) 21:18
さくらときっちり仲直り出来たら何かが変わるかもしれない。
さくらとは貴族時代から追いかけたり逆に追われたりで
ずっと噛み合わないままだ。

朋子についてもそれは同じことなのかもしれない。
佳林は至極自然に生きてきたつもりだったが
結局のところ一番素直になれていないのは自分なのかもしれない。

さくらが最後に渡してくれた招待券を佳林は見つめる。
さくらに会ってきちんとお互いのわだかまりをとったら、
また店に戻って辛抱強く朋子を待とう。

ずっとふさぎこんでいた佳林だったが、
初めて自分からさくらに会いにいくことで
自分の中の悪い因縁を断つことができるように思えた。
449 :名無飼育さん :2015/04/05(日) 21:20
夕刻になって佳林は店を出た。
薄暗い雲間に弱い褐色の太陽が埋まり日差しは
今にも消えかかっている。
いつもは美しい夕焼けと感じるのにその日は何故だか
生々しく恐ろしいものに見えてしまう。

さくらに会うのも今日が最後になるかもしれない。
今まで冷たくせざるを得なかった分さくらには少しでも
優しくしてあげたかった。

洋服は店のものを借りた。
欧州のゴシック風のもので白いブラウスに黒のレースが入った
袖口とスカートには豪華なフリルが入っていた。

さくらに会いにいくなんてこれが初めてだった。
そしてこれが最初で最後になるかもしれない。
さくらは反省してくれているみたいだったが、
さくらの佳林に対する怒りはもう収まったのだろうか。
それは長い年月をかけて溶かさなければいけないもののような気がする。

これでさくらからは逃げることが出来たとしても佳林には
おかしな罪悪感は残っている。
このまま全てが消化不良のままで果たして全てが霧が晴れるように
解決してくれるのだろうか。
佳林には確信が持てなかった。
450 :名無飼育さん :2015/04/05(日) 21:23

今回の更新を終わります。
451 :名無飼育さん :2015/04/05(日) 21:24
>>433
レスありがとうございます。ここの小田ちゃん好きなんて書いてて
本当に嬉しいお言葉!ありがとうございます。頑張ります(>_<)
452 :名無飼育さん :2015/04/06(月) 22:06
ともこ早く来てくれ・・・
かりんちゃんが流されそうだよ・・・w
453 :名無飼育さん :2015/04/12(日) 08:52
パーティーは昔より貴族達の社交場として使われた古めかしい六角形の建物で行われていた。
すでに電気が明々とつき、案内係が会場に入る貴婦人が紳士に恭しく頭を下げている。

佳林は社交場への出席は慣れていたが遊女に堕とされてからは
このようなところへ来るのは初めてだ。
招待券を見せてようこそいらっしゃいましたと言われて
ほっとして中に入った。

さくらを探そうと左右を見渡した瞬間、緊張が走った。
目の前に立っていたのは「道重さゆみ」だった。

「ようこそ。モーニング娘。のパーティーへ」

さゆみは佳林を出迎えるように足を軽く折り曲げた。
454 :名無飼育さん :2015/04/12(日) 08:54
純白のドレスに身を包んださゆみはまるで天使のような風貌と
どこかしら妖艶な雰囲気が漂っている。

さゆみの目をまっすぐに見つめているとそのまま
吸い込まれていきそうになる。

慌てて下を向くとドレスの切れ目からのぞく細くて
真っ白な太ももが見えてさらに目のやり場に困った。

「鞘師はもういないよ。昨日、もう旅立ったから」

佳林が人を探すように目をそらすとさゆみが言った。
里保はもういない。
そのことは里保からすでに聞いていたが、
そうなるとさゆみに自分がここにいることを怪しまれているかもしれない。

「あ、あの。私はさくらに招待されて」

咄嗟に言い訳するように言った。

「小田ちゃんから聞いてるよ。楽しんでいってね」

さゆみは佳林を安心させるようにそう言って手をふると背を向けた。
455 :名無飼育さん :2015/04/12(日) 08:57
「あ、そうだ」

さゆみが途中でくるりと向き直る。

「小田ちゃんのこと。よろしくね」

今日で最後のお別れだというのにさゆみはそんなことを言う。

「小田さくらは何度も佳林ちゃんが進む道を邪魔してきたと思う。
でも許してあげてね。
本人も悪気があってそうしたわけじゃないから」

「分かってます。でも今日が最後ですから」

佳林がそう言うとさゆみは何も言わずにこりと笑うと
流れるように歩いていく。
その一連の動作の流麗さに佳林は見とれてしまっていた。

会場に来ている人間は誰も知らない人ばかりだった。
佳林が奥に進んでいくと少し薄暗くなった「競売会場」
という張り紙が貼ってある円形のドーム型の部屋にさくらはいた。
456 :名無飼育さん :2015/04/12(日) 08:57
髪を後ろで結えてペルシャ絨毯のような赤と白と黒の
細かい模様の入った麻の服を着ていた。

少しつり上がった大きな目は異国の人を思わせる。
さくらは会うたびに印象ががらりと変わる。
それが恐怖を感じながらも抗いがたいほどさくらから感じる
強い魅力だった。

「さくら」

思い切って話しかけてみた。

「佳林ちゃん」

さくらは店の前で出会った時ほど悲壮感はなく、
何かをあきらめたようなさばさばとした表情だった。

「本当に来てくれたんだ」

「約束したからね」

佳林も薄く笑う。
まださくらと話すことに慣れていないと感じる。
457 :名無飼育さん :2015/04/12(日) 08:58
「服、似合ってるよ」

さくらが小声で言った。

「え?」

「佳林ちゃんのその服とても可愛い。佳林ちゃんも可愛いけど」

「そうかな」

素直にありがとうとは言えなかった。
そうさせたのはさくらが悪いと思う。
でもさくらが褒めてくれるのは嬉しい。

「明日には旅立つの?」

「そうだよ。南の国もこれで見納め」

「もう帰ってこないの?」

「多分。モーニング娘。の南の国への遠征自体もう最後みたいだから」

またいつか会えるという言葉を期待したが、
さくらは佳林とはもう会わないと言い切ってしまってるみたいだった。

「寂しくなる」

佳林はつぶやくように言った。
458 :名無飼育さん :2015/04/12(日) 08:59
「そんなことあるわけないよ。
明日にはあたしのことなんて忘れてきっと楽しくやってるよ。
佳林ちゃんは」

さくらは言った。

「だってそういう人だもん。佳林ちゃんは」

まるで責めるようにまっすぐにさくらは佳林を見つめてきた。

「そんなことないよ。私だって」

自分なりにさくらを許そうと努力してきた。
同時にそれはさくらに許されようとする努力でもある。
でもいつもさくらの執拗な復讐心に邪魔されてきた。

「冗談だよ。今更」

今度はさくらははにかんで笑った。
459 :名無飼育さん :2015/04/12(日) 09:01
さくらに従ってテーブルの上の食事をとった。
パーティーは立食形式で多くの老若男女が入り乱れて談笑している。

「佳林ちゃんは何が好きなの?」

さくらとテーブルに盛られた料理をとろうとしたときさくらが尋ねてきた。

「ます寿司が一番好きなんだけど。洋食にはないよね」

目の前にはローストビーフや生野菜や鳥の丸焼きなどが
所狭しの並べられている。

「いつか佳林ちゃんに料理作ってあげたいと思ってたけど
ます寿司じゃ難しいな」

一瞬冗談かと思ったがさくらがそのまま真面目な表情を変えなかった。
さくらはもう二度と南の国にはもどってこないはずだ。
460 :名無飼育さん :2015/04/12(日) 09:03
「佳林ちゃん、変わった飲み物があるよ」

さくらが指差したワイングラスには泡を吹いている
紅色のいかにも甘そうな飲み物があった。

「大人の飲み物かな。あたし達には無理かも」

「さくら、知らないの?私は何度も飲んだことあるけど?」

さくらが怖がっている様子を見て逆に佳林は強気になった。
これは南の国ではあまり知られていないぶどうジュースというものに違いない。

「まあお子様にはまだ早いかもね」

佳林は自慢げに言うとグラスの液体を一気に飲み干した。

「げ」

佳林は顔をしかめてテーブルの上に手をついた。
予想していた甘い味では全くなく苦味と強烈な酸っぱさが
口に広がる。
461 :名無飼育さん :2015/04/12(日) 09:04
「佳林ちゃん大丈夫?」

佳林は手をあげて触れてこようとするさくらを制止した。

「平気だって。私はこれでも高名な貴族だったんだからね。
西洋の嗜みぐらいは」

驚くさくらを横目に佳林はわざと余裕ありげに話す。。

もしかしてお酒が入っていたのではないかと佳林は思ったが
さくらに助けてもらおうとは思わない。

「それより、さくらは?何が好きなの?」

何事もなかったかのように佳林が問いただす。

「あたしは何といっても小龍包だよ」

さくらは明るい顔で即答した。
462 :名無飼育さん :2015/04/12(日) 09:06
「ショウロンポウ?」

「これだよ」

さくらはステンレスの大きな皿を指差す。
そこには白い小さなお饅頭が所狭しの並べられている。
豪奢なシャンデリアの光に照らされてそれは真珠のように
輝いていた。

「本当はスープに浸してあるのが好きなんだけどね。
これは北の国でも食べられるんだ」

さくらは小龍包を一つとるとほおばりながら楽しそうに言った。

「佳林ちゃんも一つ食べてみてよ」

さくらに勧められるままに佳林も一つとる。
白い衣の柔らかさと中に詰まったぷりっとした肉の食感に驚いた。
こんなものは貴族時代にも食べたことがない。

「おいしい」

佳林が思わず言うとさくらもにっこりと笑ってくれた。
463 :名無飼育さん :2015/04/12(日) 09:08
こうやって見てみるとさくらは本当に友達のように見える。
佳林につきまとって邪魔ばかりしてきた存在にはとても見えなかった。

これで本当に仲直りが出来たのかもしれないと佳林は思う。

それから中央に広がる大きなホールに行くと軽快な音楽に合わせて
たくさんの人が入り乱れてワルツを踊っている。
自然とさくらと目が合って二人でダンスを踊った。
社交界の場でダンスなんていつぶりだろう。

佳林は貴族時代が懐かしくなった。
そしてさくらと一緒に踊っていることがすごく新鮮だった。
でも体を動かしたせいか先ほどの飲み物のせいか
頭がぼうっとしてくる。

「佳林ちゃん、眠いの?」

「そんなことないけど」

「少し休んだほうがいいよ」

さくらに促されるまま佳林はメインホールから離れて
先程さくらがいた競売場に近づいていった。
464 :名無飼育さん :2015/04/12(日) 09:10
「さくら、大丈夫だから」

そう言ってもさくらは佳林の両肩をつかんで無理やり引っ張っていく。
その強引さに佳林は少しずつ恐怖を感じ始めた。

さくらは競売場の隣にある小部屋のドアを開いた。
部屋の中には動物が入るような小さな檻のようなものが置かれている。

佳林は急に檻の前に突き飛ばされた。

「痛っ。さくら、何するの?」

床に手をついてさくらを振り返る。
でもさくらはいっこうに悪びれる様子もなく佳林を見つめている。
周りには数人の男達が待機していた。

「この子、オークションに出品する商品だから。
傷がつかないように閉じ込めといて」

さくらが怪しく笑う。
465 :名無飼育さん :2015/04/12(日) 09:12
「オークション?何のこと?」

動揺する佳林をよそに男達が佳林につかみかかった。

「さくら、助けて」

佳林は叫んだがさくらは止めようともしない。
にやりと笑って男達によって佳林が取り押さえられるのをただ見ていた。
佳林の手足を無理やりつかむと檻の中に強引に押し込む。

「さくら、私を騙したの?」

佳林は信じられなかった。
今日こそは本当にさくらと分かり合えると思っていた。

「お人好しな佳林ちゃん。こんなとこまでのこのこついてくるなんてさ」

さくらは佳林をあざ笑うように言った。

「信じてたのに」

佳林は檻の中から恨めしそうに言った。

「だから言ったでしょ。
地の果てまで追いかけて復讐してやるって」

悪魔のようなさくらの表情は完全に元に戻っていた。
466 :名無飼育さん :2015/04/12(日) 09:13
「でも安心して。このオークションで佳林ちゃんの借金は完全に返済出来るよ。
何たって貴族の令嬢がそのまま売りに出されてるんだからね」

売りに出される。
その言葉を聞いて恐怖のあまり身が縮こまった。

「出して。ここから出して!」

檻の中から佳林は限界いっぱいまで叫んだ。

「ちゃんと買い手がついたら出してあげるよ。佳林様」

ふんと笑うとさくらは檻に黒い布がかけた。
もう泣いても叫んでも絶望に変わりなかった。

「楽しみだね。誰が佳林ちゃんの次の持ち主になるか」

さくらがいたずらっ子のように笑った。

最初からさくらの罠だったのだ。
少しでもさくらを信じようとした自分が馬鹿だった。
そう思っても全ては時すでに遅しだった。

もう里保もいない。朋子もいない。
佳林を助けてくれる人は誰もいなかった。
467 :名無飼育さん :2015/04/12(日) 09:14

---------------------------------
468 :名無飼育さん :2015/04/12(日) 09:15
虹の光を模造したような七色の人工的な光が佳林を包む。
佳林は檻の中に入れられたまままるで動物の競りにでも
かけられるようにステージの上にさらされた。

ステージは見世物のように部屋の真ん中に置かれていて、
真っ暗な場内を怪しいアイマスクをかけた無数の男女が蠢いている。

人々の関心の先は勿論囚われのあわれな少女だった。
好奇な視線が佳林をじっくりととらえる。
あちこちから聞こえる感嘆の声は佳林にとって
屈辱以外の何物でもなかった。

−競り落せば貴族の令嬢がそのまま買える。

−まだうら若き乙女をご堪能あれ。

場内を流れる卑猥な言葉が佳林を包む。
469 :名無飼育さん :2015/04/12(日) 09:17
由加の店で恵まれて何とか保ってきた佳林の貴族としてのプライドが
再びずたずたに切り裂かれるのを感じた。
佳林はあふれてこようとする涙を必死に押さえた。
さくらの狙いは佳林の誇り高き貴族としての矜持を
完全に打ち砕くことだ。

ここで負けたらそれこそ完全にさくらの思う壺になってしまう。

−さあいくらで張る。こんな機会はめったにないぞ。

客の間から次々に手が上がって佳林の値段が告げられていく。

「うう。誰か助けて」

佳林は息も絶え絶えに周囲を見渡す。
あたりには顔を隠した素性のしれない男女が今にも佳林を
我が物にしようと手を伸ばしてきた。
470 :名無飼育さん :2015/04/12(日) 09:19

さくらは、次々に上がっていく佳林の値段を表情一つ変えずに
じっと見ていた。
その様子は草むらの間から獲物を見据える阿弗利加の肉食動物に似ていた。

そのとき、さくらの手はず通り道重さゆみがモーニング娘。専用の
競売場の特別室に入ってきた。

続いてモーニング娘。の先輩である譜久村聖、飯窪春菜が入ってきて
さくらは慌ててお辞儀をする。
聖と春菜までさゆみについて来たことはさくらにとって計算外だった。

「どう?小田ちゃん、私の出品した物は売れてるかな」

さゆみは自身が出品したモーニング娘。のポラロイドの写真や
レコードの売れ行きを見に来ていた。

しかし値がつけられているのは中央のステージで回されてる宮本佳林だった。

「人が。人間が売りに出されてる」

春菜が悲痛な声をもらした。
471 :名無飼育さん :2015/04/12(日) 09:20
「こんなこと、すぐにやめさせます」

聖もそう言ってすぐにその場を立ち去ろうとする。

「譜久村さん、待ってください。
南の国では人が売られるのは当たり前のことなんです」

さくらが聖を引き止める。

「この国では借金で娘を売ることはよくあること。
それは貴族だって例外じゃありません。
南の国の人間はそうやって生きてきたんです」

南の国出身であるさくらは身振り手振りを加えて
わざと真実味をあふれるように語った。

「でも」

春菜はまだ心配そうに佳林を見ていた。

宮本佳林を直接知っているわけではなく、人が売られていること
自体に痛みを感じるのだろうとさくらは思った。
472 :名無飼育さん :2015/04/12(日) 09:22
「道重さん、お願いがあるんです」

さくらはあえて必死な形相を作って言った。
さゆみだけが先程から表情一つ変えずにステージの様子を見ている。

「このままじゃ、あの子、佳林ちゃんは誰かに買われてしまうんです」

さくらは沈痛な気持ちを表すように言った。

「あたし、どうしてもあの子が欲しい」

さくらは躊躇せずに舞台上の佳林を指差した。
473 :名無飼育さん :2015/04/12(日) 09:22

今回の更新を終わります。
474 :名無飼育さん :2015/04/12(日) 09:24

>>452
レスありがとうございます。流されやすい佳林ちゃんかもしれませんが
もうしばらくは踏ん張ってもらいたいと思ってます!

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