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恋人一年生

1 :名無飼育さん :2014/01/04(土) 01:38
bluff内「奇妙なあいつ」の続編です。
ttp://m-seek.net/test/read.cgi/mirage/1133879814/752

一部、登場人物の性別が変わっています。
苦手な方はスルーして下さい。
301 :名無飼育さん :2015/11/08(日) 03:54
さくらは足早に歩く優樹を追いかける。
怒りなのか悲しみなのか、恐らくその両方の感情が背中から伝わって
きて、さくらまで胸が苦しくなる。
後ろから優樹の右手に触れると、少しスピードを落としてくれた。
ギュッと繋ぎ返されて、そのまま無言で並んで歩く。

遥と亜佑美に何があったのか、さくらにはわからない。
だけど、優樹が今どんな気持ちでいるかは痛いほどよくわかる。
誰よりも二人を応援していたのは優樹だったから。
302 :名無飼育さん :2015/11/08(日) 03:54
今日は優樹の家族の帰りが遅くなるとのことで、一緒に夕食を食べて
部屋でのんびりと過ごす予定だった。

「さくらちゃん、優樹のことよろしくね」

優樹の母から頼まれていたので、食べ損ねた夕食の代わりになるものを
コンビニで買って帰ることにした。
買い物をしている間も、家に着いてからも優樹は一言も発しなかった。

「これ、温めますね」

お弁当を温めている間に麦茶を入れると、優樹はそれを一気に飲み干す。

「…あー、もう!」

乱暴にコップを置く優樹を咎めつつも、さくらは内心ホッとしていた。
どうやら怒りを表に出せる段階まで進んだようだ。

「どぅーのバカ!人がせっかく心配してやってんのに!」

食事中も優樹の愚痴は止まらなかったが、一通り気持ちを吐き出して
スッキリしたようだ。
食べ終えて優樹の部屋へ移動したときには、もう怒りは収まっていた。
303 :名無飼育さん :2015/11/08(日) 03:54
「ちゃんと仲直りしてくださいね」
「…うん」

優樹はさくらの話を素直に聞き入れる。
遥が浮気や二股など出来るタイプでないことは、二人とも十分に
わかっている。
きっと何か理由があるに違いない。

「…どぅー、怒ってるかな」
「嫌いって言ったことですか?」
「うん…」

酷く落ち込んでいる優樹に、さくらは苦笑する。
怒ったり落ち込んだり、忙しい人だ。

「大丈夫ですよ」
「そうかな…」
「佐藤さんと工藤さんの仲じゃないですか」

さくらの言葉に安心したのか、優樹はようやく笑顔を見せてくれた。
これほどまでに優樹の心を翻弄する遥のことが、少しだけ羨ましい。
304 :名無飼育さん :2015/11/08(日) 03:55
「…いいなあ、工藤さん」
「え?」
「あ、な、なんでもないです」

思わず口にしてしまったさくらの言葉を優樹は聞き逃さなかった。

「小田ちゃん、どぅーになりたいの?」
「え?いや、そうじゃなくて…」
「ん?どういうこと?」

こうなっては優樹を誤魔化すのは至難の業だ。

「…羨ましいなって思ったんです」
「どぅーが?なんで?」
「…だって、佐藤さんにそんなに思ってもらえて」

伝えた瞬間、顔が熱くなるのを感じて、さくらは両手で顔を隠した。
同性の親友にまでやきもちを焼くなんて、自分で自分に呆れてしまう。

一緒にいればいるほど、優樹のことを好きになる。
そんな自分が少しだけ怖い。
これ以上好きになったら、どうなってしまうのだろうか。
305 :名無飼育さん :2015/11/08(日) 03:55
次の瞬間、顔を覆う両手ごと温もりに包み込まれる。

「佐藤さん…?」

そっと名前を呼ぶと、優樹は一旦離れてさくらの両手を掴んで下ろした。
目に飛び込んできたその顔は今までに見たことのない表情で、さくらは
その瞳に真っ直ぐ射抜かれる。

「小田ちゃん、マサ、ヤバいかも」
「え?どうしたんですか?具合悪い?大丈…」

聞き終わる前に優しくキスをされた。
具合が悪いわけではないらしい。
唇の代わりに今度はおでこ同士がくっついて、胸がキュンとなる。

「ヤバい、ちょーヤバい」

優樹はぶつぶつと呟きながら、さくらと向き合う。
306 :名無飼育さん :2015/11/08(日) 03:56
「…約束、破っていい?」

何の約束なのかは聞かなくてもすぐにわかった。
それは、さくら自身、いつも頭のどこかで意識していたことだから。

返事をしないさくらの手を握り、優樹は不安そうに、だけどどこか
強引にもう一度問いかける。

「ヤダ?」

いつもよりも甘い声。
今にも泣き出しそうに困ったように下がる眉。
今までのどんなわがままやおねだりなんか比にならないくらい、
さくらの心に響いてくる。
307 :名無飼育さん :2015/11/08(日) 03:56
「…その聞き方、ズルいですよ」

もしも「ダメ?」と聞かれたら、「今はダメ」と答えたかもしれない。
だけど、「ヤダ?」なんて聞かれたら。

「イヤなわけ、ないじゃないですか…」

好きな人と一つになることを拒むはずがない。
さくらの答えに優樹は満足そうに微笑んで、彼女の体を抱き寄せた。
308 :名無飼育さん :2015/11/08(日) 03:56








309 :名無飼育さん :2015/11/08(日) 03:56
幸せそうな寝顔にそっと触れると、優樹はまるで子供のようにさくらの
体にしがみついてきた。
さっきまであんなにさくらを翻弄していたことがまるで嘘のようだ。
だけど密着している体から直接優樹の体温が伝わってきて、さくらは
再び体の奥が熱くなるのを感じた。
310 :名無飼育さん :2015/11/08(日) 03:56

―――――…平気?

余裕のない顔をしていたくせに、それでも優樹はちゃんとさくらの体を
気遣ってくれた。

311 :名無飼育さん :2015/11/08(日) 03:57

―――――…さくら

一つになれた瞬間の、自分の名前を呼ぶそのせつなくも優しい声に、
愛されていることを実感した。

312 :名無飼育さん :2015/11/08(日) 03:57
「…好き」

もうきっとこんな思いは全部わかっていると思うけれど、それでもなお
伝えても伝えてもきりがない。
さくらは腕の中の優樹をギュッと抱きしめた。
313 :名無飼育さん :2015/11/08(日) 03:57
ガチャ

「ただいまー」

どのくらいの時間が経ったのだろう。
階下から聞こえる声でさくらはハッと目を覚まし、飛び起きる。
どうやら優樹の家族が帰ってきたようだ。

「さ、佐藤さん!起きてください!」

優樹を起こしながら急いで服を着る。
いくら家族公認の仲とはいえ、こんな姿を見られるわけにはいかない。

「佐藤さん!起きてってば!」
「んー?」
「帰ってきたんです、おばさんたち。早く服着ないと!」

焦るさくらだが、優樹は全く起きる気配がない。
314 :名無飼育さん :2015/11/08(日) 03:57
「なんで焦ってんの?」
「…なんでって、だってこんなところ見られたら…」
「別にいーじゃん」
「良くないです!」
「いいって」
「何がいいんですか!」
「だってさ」

優樹がゆっくりと体を起こし、裸の上半身がさくらの目に入る。
さっきは夢中で気付かなかったが、顔の割に筋肉質なその体に
さくらは顔を赤らめる。

「だって、マサたち、家族になるんだからさ」
「え?」

優樹の真意が掴めずに聞き返す。

「父に言われたの。家族になりたいって思う女の子とじゃなきゃ、
 エッチしちゃダメだって。だからマサ、小田ちゃんと家族になる」

優樹のそれはある意味プロポーズだ。
まさかこんな状況でそんなことを言われるとは思ってもみなかった。
315 :名無飼育さん :2015/11/08(日) 03:57
黙っているさくらに、優樹が不満そうに問いかける。

「イヤなの?小田?」

さくらは込み上げてくる涙を必死で堪えながら答える。

「イヤなわけ、ないじゃないですか…」
「ニヒヒー」

その笑顔はまるでさくらの答えを確信していたみたいで。

「佐藤さん、やっぱりズルい…」

きっといつまで経っても優樹にはかなわない。
だけどそれが自分にとっての幸せなのだとさくらは思う。
316 :名無飼育さん :2015/11/08(日) 03:58
「なにボーっとしてんの?行くよ」

いつの間にかちゃんと服を着ていた優樹が、さくらの手を引く。
ちょっと強引だけど優しくエスコートしてくれる優樹に素直に
ついていく。

二人はそのまま手を繋いで部屋を出る。

火照った顔を優樹の家族に見られるかもしれない。
繋いだ手をからかわれるかもしれない。
だけどそれでも、この手をずっと離したくない、そう思った。
317 :名無飼育さん :2015/11/08(日) 03:58
本日は以上です。
318 :名無飼育さん :2015/11/08(日) 08:23
まーちゃん一足お先に大人になっただか
319 :名無飼育さん :2015/11/08(日) 09:16
まっすぐまーと迷走どぅーどっちも頑張れ
320 :名無飼育さん :2015/11/08(日) 10:28
まーさく!まーさく!(*´Д`*)
約束ってなんだったんだろう?
あゆどぅーも気になるぅぅぅ
321 :名無飼育さん :2015/11/15(日) 02:30
レスありがとうございます!

>>318
やっぱり、まーちゃんの方が先でした。

>>319
今回は迷走どぅーくんも頑張ったと思います。

>>320
約束は…二人だけの秘密にしてやってくださいw
322 :名無飼育さん :2015/11/15(日) 02:31
亜佑美とケンカしてから、一週間が経った。
こんなに長く連絡を取らなかったのは、付き合ってから初めてだ。
メールも電話もしない、そんな状態で一週間を過ごすのは想像以上に
辛かった。
亜佑美はなんとも思っていないのだろうか。
もう呆れて、自分のことなんて見捨ててしまったのかもしれない。
あるいは、他の誰かと…。
考えれば考えるほど胸が苦しくなる。
こんな思いは、自分一人で抱えきれそうもない。
323 :名無飼育さん :2015/11/15(日) 02:31
「…で、私が呼ばれたと」

遥の話を聞いた春菜は深いため息をついた。

「頼むよ、はるなんしかいないんだよ…」
「謝ればいいじゃん、普通に」
「…それが出来ないから困ってんの」

メールをしても返信してくれないかもしれない。
電話をしても出てくれないかもしれない。
謝っても許してもらえないかもしれない。

あの日の亜佑美の後ろ姿が遥の脳裏に焼きついて離れない。
これ以上、亜佑美に拒否されたら、もう立ち直れる自信がない。

324 :名無飼育さん :2015/11/15(日) 02:31
「亜佑美から、なんか聞いてる?」
「聞いてないよ」
「…そっか」
「人に言えないくらい落ち込んでるってことじゃない?あゆみん、
 自分のこと話すの苦手だからさ」
「…そうかなあ」

こんなに悩んでいるのは自分だけで、亜佑美は意外とケロッと日常
生活を送っているのではないだろうか。

「あのさあ、くどぅーはどうしたいわけ?」
「…俺は」

遥は一旦俯き考え込んだあと、弱々しい声で答える。

「仲直り、したい…」
「だったら、謝るしかないでしょ」
「…うん」

そう、謝る以外他に手立てはないのだ。
そんなことは遥もわかっている。
わかっているけど、どうにもこうにも勇気が出ない。
325 :名無飼育さん :2015/11/15(日) 02:31
春菜はもう一度深いため息をつき、手帳から紙を取り出した。

「はい」
「…なに?」
「あゆみんの劇団の稽古場」
「え?」
「メールも電話も無理なら、直接会って話すしかないんじゃない?
 家に押しかけるなんて、くどぅーに出来るわけないし」

遥からすれば稽古場も相当ハードルが高いのだが、確かに自宅へ
行くよりはましかもしれない。

「謝る謝らないは別としてさ。会ってきなよ。会いたいんでしょ?
 あゆみんに」
「…うん」
「ま、ダメだったらそのときはまた呼んでよ。ご飯くらいは付き
 合ってあげるから」
「はるなん…」
「もちろん、くどぅーのおごりでね」
「…やっぱり」
326 :名無飼育さん :2015/11/15(日) 02:31
そんなこんなで、遥は今、稽古場の前にいる。
中に入るわけにもいかず、入口前で立ち尽くすこと約二時間。
亜佑美は一向に姿を見せない。

午後9時30分を過ぎた頃、ようやく中から人が出てきた。
稽古を終えた劇団員なのだろうか。
全員、なかなかのビジュアルだ。
遥は少し離れたところで亜佑美の姿を探すが、彼女はその集団の中に
いないようだ。

「…あれ?」

集団の中の一人が遥の方へ向かってきた。
注意されることは覚悟の上だ。

「す、すいません!俺、怪しい者じゃ…。あ…」
「やっぱり、あゆみんの…」

目の前に立っていたのは、鈴木先生だった。
327 :名無飼育さん :2015/11/15(日) 02:31
「ずっと待ってたの?呼んで来ようか?」
「あ、いや、平気っす。俺が勝手に来ただけだから…」
「あー、もしかして、ケンカ?」

返答に困り、遥は俯いた。
まさかケンカの原因である相手とこんな会話をするなんて。

「あゆみんの不調の原因は、君かあ」
「…不調?」

『あゆみん』という親しげな呼び方に少しだけカチンときたものの、
それ以上に彼女が不調という方が気になった。

「…あいつ、調子悪いんすか?」
「んー、心ここにあらずって感じだったねえ。団長に叱られて、今は
 居残りで練習してるよ」
「居残り…」

亜佑美がとても大切に、そして真剣に打ち込んでいるもの。
それが上手くいかないとしたら、きっとすごく辛いに違いない。
328 :名無飼育さん :2015/11/15(日) 02:32
「一人で居残りしてるから、行ってやれば?」

鈴木先生は優しく微笑む。

「…俺、酷いこと言っちゃって、たぶんいっぱい傷つけちゃって。
 俺なんかでいいのかなって…」

その笑顔に遥は少しだけ素直になる。

「初めてなんだよね、あんなあゆみん。オンオフの切り替え、ちゃんと
 出来る子だから。それが出来ないくらい、君とのケンカがきついって
 ことじゃないかな」
「…亜佑美」
「行ってやんなよ。今の彼女じゃ、俺たちも困るしさ」

最後は冗談っぽく、だけど力強く、鈴木先生は遥の背中を押す。

「あ、ありがとうございます。俺、行ってきます」
「あ、ちなみにこの稽古場、10時で閉まるからね。頑張れー」
329 :名無飼育さん :2015/11/15(日) 02:32
稽古場の一角、そこだけ灯りがついている場所に彼女はいた。
台本を片手にセリフの練習をしているようだ。
亜佑美は背を向けており、遥に気付いていない。
遥も声をかけることが出来ずにいる。

その立ち姿はとても綺麗で、一週間ぶりの彼女に心が震える。
勇気がなくて声がかけられないのか、それとも見とれていたからか。

何度も何度も繰り返される同じセリフ。
遥からすればそれはもう完璧なのに、亜佑美は納得いかないのだろう。
イントネーションやアクセントを変えながら、彼女の練習は続く。

いつか、二人で海へ行ったことを思い出す。
亜佑美の演劇への思いを聞いたとき、何も出来ない無力感に襲われた。
夢を叶えるために戦っている彼女を支えるどころか、足を引っ張って
いるのではないだろうか。
330 :名無飼育さん :2015/11/15(日) 02:32
―――――そばにいてね?
―――――…俺で、いいの?
―――――くどぅーじゃなきゃ、ヤだ

あのとき、亜佑美は躊躇なく答えてくれた。
あんなに酷いことを言ってしまった今でも、同じように笑ってくれる
のなら、今度こそ彼女のそばにいたい。
331 :名無飼育さん :2015/11/15(日) 02:32
「あと10分で閉館でーす!」
「うわ!」

突然のアナウンスに遥は思わず声をあげた。

「あ、す、すいません」
「早く出てくださいねー」
「はい…」

スタッフが立ち去ったあと振り向くと、亜佑美と視線がぶつかった。

言わなければならないことがたくさんある。
だけど、亜佑美の顔を見た瞬間、頭の中が真っ白になった。

溢れ出しそうな涙を必死に堪えながら、亜佑美は遥を見つめている。
その表情が全てを物語っていた。
彼女の気持ちが伝染したのか、それとも遥自身の思いなのか、胸が
苦しい。
332 :名無飼育さん :2015/11/15(日) 02:32
「…ごめん」

クラスメイトの子のこととか、優樹に叱られたこととか、鈴木先生の
こととか、いろいろとすっ飛ばして、遥はただそれだけを伝えた。

それだけしか言えなかった。

遥の言葉に亜佑美は静かに頷いてくれた。
胸のモヤモヤが少しずつ晴れていくのを感じた。

再び続く沈黙がもどかしくて、遥は一歩一歩亜佑美に近付いた。
333 :名無飼育さん :2015/11/15(日) 02:32
「…肩借りてもいい?」

目の前の彼女が小さく呟いた。
いつもならそんなこと聞かないのに、それだけ不安にさせていたことを
強く後悔する。
今は亜佑美の望むことを何でもしてあげたいと思う。

本当は強く抱きしめたかったけど、今の亜佑美は壊れてしまうような
気がして、なるだけ優しい声で返事をした。
334 :名無飼育さん :2015/11/15(日) 02:33
「おいで」
「…ツ、くどぅー、チャラ男みたーい…」

亜佑美がいつものように軽口を叩く。
やっと笑ってくれたことにホッとしながらも、だけどその声が少し
震えていることに気付いた。

右肩に寄りかかる亜佑美の手にそっと触れる。
初めて手を繋いだときみたいに、胸がキュンとする。
触れるだけで、ただそれだけのことで、こんなにも心が溢れ出す。

「…好き」

静かな部屋に亜佑美の小さな声が響く。
335 :名無飼育さん :2015/11/15(日) 02:33
「俺も」
「…ヤダ」
「え?」

亜佑美はすねた顔で拒否したあと、遥の胸に顔を預けてこう言った。

「…ちゃんと、言って?」

自分の腕の中にすっぽりとおさまっている愛しい彼女のリクエストに、
遥はありったけの思いを込めて答える。

「好きだよ」

出会ったときよりも、付き合い始めた頃よりも、今の方がずっと。
336 :名無飼育さん :2015/11/15(日) 02:33
「閉館しまーす!」
「は、はい!すぐ出ます!」

再びの閉館アナウンスに二人は慌てて稽古場を後にした。

「…見られたかな、今の」
「かもね」

お互いに顔を見合わせて笑う。
そんな些細なことだけど、すごく幸せだと思った。
337 :名無飼育さん :2015/11/15(日) 02:33
並んで夜道を歩くと、亜佑美が遥の腕に絡みついてきた。
今日の彼女はとことん甘えモードのようだ。

「ねー」
「んー?」
「…あの子、誰?」
「あの子って?」
「あの日、一緒にいた子」
「…あー」

ただのクラスメイトで何にもなかったことを説明すると、亜佑美が
遥の頬をギュッと抓る。

「い、痛い…」
「ホントに?」
「ホ、ホントだって…」
「もう腕組んだりしない」
「しないしない、絶対にしない!だから、離して…」

必死で否定する遥に満足したのか、亜佑美は手を離し、今度は指を
絡める。
338 :名無飼育さん :2015/11/15(日) 02:33
「…羨ましいなって、思った」
「え?何が?」

遥は抓られた頬をさすりながら尋ねる。

「私は、あんなふうに学校から一緒に帰ったり、制服デートなんて
 出来ないから」

寂しそうな亜佑美の声に、遥は改めて彼女を深く傷つけてしまった
ことに気付く。

学校から一緒に帰るのは無理だけど、もう一つの方は出来なくもない。

「しようよ、制服デート」
「…今着たら、コスプレになっちゃうじゃん」
「いいじゃん、別に」

卒業してまだ間もないし、亜佑美ならきっと違和感ないと思う。

「行こうよ、決まり」
「フフ、なんかくどぅー、強引ー」

文句を言いながらも亜佑美はとても嬉しそうだった。
339 :名無飼育さん :2015/11/15(日) 02:33
「そばにいてね?」

いつかと同じ亜佑美の言葉。
だけど遥は、もう「俺でいいの?」とは聞き返さなかった。
その答えは聞かなくてもわかっているから。

「そばにいるよ」

今度こそもう絶対に、繋いだこの手は、何があっても離さない。
遥は心の中で強く強くそう誓った。
340 :名無飼育さん :2015/11/15(日) 02:34





341 :名無飼育さん :2015/11/15(日) 02:34
「というわけで、無事に仲直りしました。その節はどうも…」

数日後、遥と亜佑美、そして優樹とさくらはファミレスで向かい
合わせに座っていた。
心配をかけた二人にきちんと報告しようと、遥が誘ったのだ。
残念ながら春菜はバイトで来れず、後日埋め合わせをすることを
約束させられた。

「全く、世話がやけるなあ、どぅーは」
「ごめん」
「ま、仲直りしたならいいけどさ」
「本当に心配してましたもんね、佐藤さん」
「べっつに、マサはどうでも良かったけどさあ」

素直じゃない優樹に、遥と亜佑美、そしてさくらは苦笑する。
優樹の怒りと春菜の後押しがなければ、今頃どうなっていたことか。
口には出さないが、遥は心から感謝していた。
342 :名無飼育さん :2015/11/15(日) 02:34
「何か飲みますか?」

さくらが優樹に声をかける。
優樹は当然のように空いたグラスを差し出すと、さくらは優しく
微笑んで席を立つ。
何も言っていないのに、何を求めているかわかっているようだ。

以前から仲の良い二人だが、なんとなく雰囲気が変わったような
感じがするのは気のせいだろうか。
上手く言えないけど、優樹から感じるさくらへのそこはかとない
「俺の女」感。

「あ、私もついで来る」

女子二人が席を立った瞬間、遥はその疑問を率直にぶつけた。

「まーちゃん、小田ちゃんとなんかあった?」
「へ?なんかって?別にケンカとかしてないよ?」
「あー、そうじゃなくてさ、なんか二人、前と違うっていうか」
「んー。…あ、エッチしたからかなあ」
「そっか、エッチしたからかあ」
343 :名無飼育さん :2015/11/15(日) 02:34
サラリと流した数秒後、遥は口にしたジュースを吹き出した。

「どぅー、きたなーい」
「だ、だって今、なんて…」
「だから、エッチしたって」
「し、したの!?マジで?」
「うん」

優樹は平然とした顔で答えた。
遥と亜佑美が遠回りをしている間に、まさかワンランク上へ進んで
いたとは。

「ど、どうだった?」

こうなっては見栄も外聞もない。

「んー、まあ、柔らかかったし気持ちかったし、それに…」
「それに?」
「小田ちゃん、超かわいかった」
「か、かわいかったって…」
「すっごくかわいい声で、マサの…」
「さ、佐藤さん!!!!」

いつから聞いていたのか、そこには真っ赤な顔をしたさくらがいた。
隣の亜佑美も同じくらい赤い顔をしている。
344 :名無飼育さん :2015/11/15(日) 02:34
「あ、おかえりー」
「おかえりじゃありません!そ、そんな話、やめてください!」
「だって、どぅーが知りたいって」
「いや、俺は、別に…」

さくらの強い視線に、遥は慌てて否定する。
次の瞬間、真っ赤な顔の亜佑美と目が合い、お互い視線を逸らす。
こんな話題をしていたら、否が応でも意識してしまう。

「そういえば、どぅーたちはどうなの?」
「は、はあ?」
「ど、どうって…」
「まだエッチしてないの?」
「まーちゃん!」
「マサ!」
「佐藤さん!」

しれっと尋ねる優樹に、三人の声が重なる。
真っ赤な顔の遥、亜佑美、さくらを見ながら、優樹はただ一人、
楽しそうに笑っていた。
345 :名無飼育さん :2015/11/15(日) 02:35
本日は以上です。
346 :名無飼育さん :2015/11/15(日) 20:28
どぅーいし良かった良かった
あゆみんは弱ったり拗ねたりが似合いますね

そしてまーちゃん最高もっとやれwwww
347 :sage :2015/11/16(月) 22:09
どぅーとあゆみんも幸せになりますように!
348 :名無飼育さん :2015/11/24(火) 23:05
奇妙なあいつ からまた読み直してみて
まーちゃんの成長っぷりに感慨深くなりました
スパイラルムササビとかやってたのに(ノ∀`)
349 :名無飼育さん :2016/05/15(日) 21:07
レスありがとうございます。

>>346
石田さんの素直なところがかわいいです。
ここでもそのかわいさを表現できればと思っています。

>>347
のんびり歩んでいる二人ですが、きっと幸せになることでしょう!
それまで見守って頂ければ嬉しいです。

>>348
読み直して頂いてありがとうございます!
リアルまーちゃんの成長っぷりも半端ないですね。


久々の更新となりましたが、今回は番外編をお送りします。
350 :名無飼育さん :2016/05/15(日) 21:07
この春から大学2年生になった聖は、至って平和な大学生活を送っていた。

高校時代から継続しているバイトはすっかりベテランの域に達しており、バイト
仲間である衣梨奈との関係も相変わらずだった。

出会ってすぐその優しさと奔放さに惹かれて好きになった人。
だけど、衣梨奈にはずっと思っている相手がいて、聖の気持ちなんて知る由も
ない彼は、あろうことか思い人・里保の話をしょっちゅうしてくる。

その割に衣梨奈と里保は一向に結ばれず、わがまま気のままな衣梨奈の誘いを
断ることも出来ずにいた。

351 :名無飼育さん :2016/05/15(日) 21:07
そんなある日、リビングでテレビを見ていた聖に、帰宅した父親が声をかけた。
珍しく頼みがあるという。

「…家庭教師!?聖が?」
「そうなんだよ。知り合いに頼まれてな」

どうやら、その知り合いの息子の家庭教師をお願いしたいらしい。

「聖、頭悪いの知ってるでしょ…」
「それが成績はかなり優秀らしいんだよ。ただ帰国子女だから、日本語の細かい
 ニュアンスがわからないことがあって、そこを教えてほしいらしい」

長いこと迷っていた聖だが、勉強を教えるわけではないということと、時給の
高さに渋々承諾した。

相手の年齢は高校2年生。
3か月ほど前に帰国し、超名門私立高校に通っているそうだ。
その風貌からよく「お嬢様」と称される聖だが、実は普通の家庭の普通の女の子だ。
自分には全く縁のない世界だと思っていた。

一抹の不安と興味を胸に、家庭教師の初日を迎えた。

352 :名無飼育さん :2016/05/15(日) 21:08
父の知り合いの家は近所にあり、歩いて行ける距離だった。

「あ、こんにちは。今日から家庭教師をさせて頂く、譜久村聖です」
「いらっしゃい。どうぞ」

上品な女性に案内され、二階へと上がる。

「美希、家庭教師の譜久村さんがお見えになったわよ」

ドアを開けると、窓際の椅子に腰掛けていた男の子がゆっくりと振り向いた。

「初めまして。譜久村聖です」

聖を見た途端、眼鏡の下の頬が赤く染まる。

「あ、あの、お世話になります!の、野中美希です」
「よろしくね、野中ちゃん」

聖が差し出した左手を、美希は少し戸惑いながら同じように左手で握り返した。

「あ、も、もしかして、譜久村さんは左利き、ですか?」
「え、そうだけど、なんで?」
「握手、左手だったので」
「あ、そっか、思わず…、ごめんね」

聖は昔母親に、「左手の握手はマナー違反」と教えてもらったことを思い出した。

「あ、ぜ、全然、大丈夫です!僕も左利きですから!」

そう言ってはにかんだ瞬間、美希の片頬にえくぼがピュッと現れて。
かわいい子だなと聖は思った。

353 :名無飼育さん :2016/05/15(日) 21:08
家庭教師は週に一回。
父の話の通り美希はとても優秀だった。
帰国子女で英語はペラペラ、さらにピアノやダンス、アクロバットなども堪能で、
所謂高スペックな男の子だ。

しかし、美希自身からはそんな印象は受けず、眼鏡姿の彼は素朴でかわいらしい。
何よりもとても不器用でおっちょこちょいだった。

すぐに転ぶし物はなくすし、学校でも忘れ物が多いらしい。
美希の両親からもむしろ生活面を教えてほしいと依頼され、いつしか聖は姉の
ような気持ちで美希に接するようになっていた。

354 :名無飼育さん :2016/05/15(日) 21:08
「野中ちゃん、またシャーペンなくしたの?」
「あ、すいません…。気を付けてるんですけど、なんかどっか行っちゃって」
「もう。…じゃあ、はい」
「え?」

聖が差し出したのは自分の筆箱から取り出したシャーペンだった。

「えっと、これ…」
「聖、使ってないから、あげる」
「え、えー!」

必要以上に驚く美希に聖は目を細める。
いつも反応が純朴で面白い。

「そんなに嬉しい?聖のシャーペン」

だから、からかいたくなってしまう。
予想通り、美希は真っ赤な顔ではにかんだ。

「は、はい!大切にします!」
「べ、別に、ただのシャーペンだし、大袈裟だよ」

期待以上の反応に思わず聖まで赤くなって俯いた。

355 :名無飼育さん :2016/05/15(日) 21:08
聖はどちらかというとモテる方だった。
告白されたことも何度かあるけど、全て断ってきた。
高嶺の花だとかお嬢様ぶってとかいろいろ言われたりもしたけど、仕方がない。
自分が本気で好きな人には常に他に好きな相手がいたから。

今だってそうだ。
衣梨奈が聖のことを必要としてくれるのはわかっている。
辛いとき、落ち込んだとき、いつも一番に呼び出されるのは聖だ。
だけどそれは衣梨奈にとって一番の存在だからではない。
二番目の存在。
いつだってそうだった。

だから、自分のあげたシャーペンを大事そうに握りしめている美希の行動が
恥ずかしくて、すごく嬉しかった。

あれから数か月経った今でも、美希はそのシャーペンだけはなくすことなく、
ずっと使ってくれている。

356 :名無飼育さん :2016/05/15(日) 21:08
いつものように美希の家で家庭教師をしていたところ、突然、聖の携帯が鳴った。
普段は鳴らないようにしているのだが、今日はマナーモードにするのを忘れていた
ようだ。

ディスプレイに表示された「生田 衣梨奈」の文字に胸が躍る。
こんな風に電話が来るのは久しぶりだ。

「…譜久村さん?」
「あ、ごめん。マナーにするの忘れてた」
「出ないんですか?」

美希の視線が気になりながらも、聖は通話ボタンを押した。
愛しい人の声を聞いた瞬間、体中が熱くなる。

「…うん。え?今からはちょっと…。うん、…わかった。後でね」

357 :名無飼育さん :2016/05/15(日) 21:08
やっぱり、衣梨奈の誘いを断ることなんて出来ない。
家庭教師が終わったあと、いつものカラオケボックスへ行く約束をして電話を
切った。

「…すいません」
「え?なんで?」
「あの、今日はもう大丈夫ですよ?母には僕から伝えておくので」
「別に大丈夫だよ。急ぎの用じゃないし」

なんとなく、気まずい沈黙が流れる。
別に美希に対してやましい気持ちなどないはずなのに。

「…あ、あの」
「ん?」
「いや、その、今の…、か、彼氏さん、ですか?」

遠慮がちだけどストレートな美希の質問に、聖は一瞬答えに詰まる。

「…彼氏なんかじゃないよ」

何度も何度もそうなりたいと思っていたけど、その願いが叶わないことは聖が
一番よくわかっていた。
衣梨奈の里保への強い思いをいつも聞かされていたのだから。

358 :名無飼育さん :2016/05/15(日) 21:09
「…そ、そうですか」

俯いている美希の姿に胸が苦しくなる。

「えりぽん、好きな子いるんだもん。聖なんかより、ずっとずっと大切な子」
「譜久村さん…」
「弱ったときだけ聖に電話してくるの。それで喜んじゃう聖も、バカだよね」
「そ、そんなのダメです!」

突然、美希が立ち上がる。

「野中ちゃん、どうし…」
「そんな都合のいい女なんて、絶対にダメです!!」
「…どこで覚えたの、そんな言葉」
「そんなのどうだっていい!とにかく、譜久村さんはそんな扱いを受けていい
 人じゃないんです!」

初めて見る美希の怒った顔。
その怒りが自分のためだと気付き、聖の心になんともいえない感情が芽生える。

「わかったから、落ち着いて」
「…あ、はい、すいません。つい、ムキに…。で、でも、もうそんな関係、
 やめた方がいいと思います」

359 :名無飼育さん :2016/05/15(日) 21:09
それは正論だ。
そんなことは聖だってとっくの昔にわかっていた。
だけど、呼ばれると行かざるを得ない。
好きだから。
会いたいから。
衣梨奈が必要としてくれている以上、断る選択肢など聖にはない。

「そんなの、ダメです」

美希はもう一度、さっきの言葉を繰り返す。
わかっている。
わかっているけど、ダメだからって止められるほど、簡単に割り切れるほど
単純な問題でなはい。

「…野中ちゃんにはわかんないよ」

聖の静かな反論に美希の動きが止まる。

「野中ちゃんには聖の気持ちなんて、わかんな…」

360 :名無飼育さん :2016/05/15(日) 21:09
一瞬、何が起きたのかわからなくて、聖は思わず目を瞑った。
ゆっくり目を開けると目の前には美希の顔があって、そのとき初めて、自分が
置かれている状況を理解する。
そう、この体勢はつまり、所謂壁ドンというものだ。

間近で見る美希の顔には、いつものようなおろおろ感は全くない。
反対に動揺しているのは聖の方だった。

「子供扱いしないでください」

美希がすっと眼鏡を取る。
初めて見る素顔は思っていたよりもずっと端正で。

見とれているうちに、聖の唇に美希の唇がそっと重なった。

361 :名無飼育さん :2016/05/15(日) 21:09
逃げるように美希の家を出てからも、聖の胸のドキドキはずっと収まらなかった。
こんな気持ちのまま、衣梨奈に会うことは憚られたが、行かないわけにもいかない。
きっと衣梨奈は聖のことを待っているだろう。

カラオケボックスの部屋を開けると、暗い表情の衣梨奈が歌いもせずに座っていた。
かなりの重症のようだ。

「…聖、遅い」
「…ごめん」

いつもなら明るく衣梨奈を励ます聖だが、今日はそれどころではなかった。
油断すると、先程の美希の顔が目の前に現れて、柔らかい感触が蘇ってくる。
衣梨奈が隣にいるのに、頭の中は美希のことでいっぱいだった。

「…里保が」
「うん」
「留学するんやって」
「え?」

元々、里保が地元を離れてこっちの高校に入学したのは、ダンスの腕を磨くため
だったそうだ。
全国レベルのダンス部でエース級の活躍をしていた里保に、海外のダンススクール
から誘いがかかり、一年間の期限付きで留学をすることになったらしい。

362 :名無飼育さん :2016/05/15(日) 21:09
相変わらず、友達以上恋人未満のような関係だった衣梨奈と里保だが、誰も
入り込めない不思議な絆があるように見えた。
離れていても会えなくてもずっと変わらない、そんな強い絆が。
だけど、海外へ行くという事実は、さすがの衣梨奈も受け止め切れていない
様子だ。

「さすがの衣梨奈様も、海外まではきついっちゃん」
「えりぽん…」
「聖ぃ…」

弱った衣梨奈はいつも、聖にハグを求める。
それは衣梨奈にとっては特別な行為ではないのだろう。

だけど、衣梨奈の温もりに包まれるこの瞬間が、聖にとってはせつなくも
幸せで、永遠に続いてほしい大切な時間だった。

363 :名無飼育さん :2016/05/15(日) 21:10
いつもよりもずっとずっと長いハグ。
衣梨奈がどれだけ弱っているかが伝わってくる。

「聖…」

一瞬、温もりが離れたあと、ゆっくりと衣梨奈の顔が近付いてくる。
それは聖がずっと夢見ていたことだった。

恋のライバルは海の向こうへ行く。
このまま、彼のキスを受け入れれば、もしかしたら―――――。

364 :名無飼育さん :2016/05/15(日) 21:10
―――――そんなの、ダメです。

二人の距離がゼロになりかけたとき、聖の頭の中に美希の声が聞こえた。

聖があげたシャーペンをまるで宝物のように大切にしてくれた美希。
笑うとえくぼがかわいくて、子供みたいに不器用であどけなくて、だけど、
眼鏡を取った素顔はすごく凛々しくて。

「…ヤダ」

聖は反射的に衣梨奈の肩を押し返した。

「…聖、そんなんじゃないもん」

美希の言葉を思い出す。

「都合のいい女なんかじゃない」

365 :名無飼育さん :2016/05/15(日) 21:10
重い沈黙を破ったのは衣梨奈の方だった。

「そうやね。ごめん俺、聖に甘え過ぎやった」
「…えりぽん」
「情けないっちゃん、マジで」

わかりやすく肩を落とす衣梨奈に聖は苦笑する。
情けないしずるいしカッコ悪いんだけど、やっぱり憎めない。

「里保ちゃんに言いなよ、帰ってくるまで待ってるって」
「…そんなん重くない?」
「今までが軽過ぎたんだから、たまにはいいんじゃない?」
「なんそれ」

ようやく衣梨奈が笑顔を見せてくれた。

「里保ちゃん、いつ行くの?」
「あー、…今日」
「え!?」
「夜10時過ぎの便、バイトで行けんって、家族には言ってあると」

再び弱気になる衣梨奈の腕を掴み、聖は無理やり出口へと向かわせる。

「ちょ…、痛いって、聖」
「早く行きなよ」
「聖、怖い」
「いいから早く!」

366 :名無飼育さん :2016/05/15(日) 21:10
外へ出てタクシーを捕まえると、衣梨奈を押し込んで行き先を告げた。
ここから空港までいくらかかるかわからないが、きっと衣梨奈の家族もいるし、
なんとかなるだろう。

「聖、ありがと!」

去り際の衣梨奈の笑顔に少しだけ胸がキュンとした。
だけど、不思議と後悔とか未練はなく、聖は穏やかな気持ちでタクシーを見送った。

「…バイバイ、えりぽん」

衣梨奈の思いが里保に届くようにと祈りながら。

367 :名無飼育さん :2016/05/15(日) 21:10











空港に見送りに来てくれた人たちの中に、衣梨奈の姿はなかった。

「ごめんね、里保ちゃん。こんな日にまでバイトなんて…」

申し訳なさそうに頭を下げる衣梨奈の母親に、里保は作り笑顔で首を振った。
ずっと、自分のことを好きだと言ってくれた衣梨奈を信じられず、素直に
気持ちに応えられなかったのは里保自身だ。

それでも衣梨奈はずっと変わらず、里保を思い続けてくれた。
だけど、一年もの間海外へ行く自分を待っててくれる保証なんてない。
男女問わずにモテる衣梨奈のことだ。
自分よりももっと相応しい人が現れるだろう。

わかっているのに胸が苦しくなるのはなんでだろう。
こんなことになるなら、素直に気持ちを伝えておけば良かったと、里保は
今さらながら後悔する。
誰よりも強く、衣梨奈のことを求めているくせに。

368 :名無飼育さん :2016/05/15(日) 21:10
「そろそろ行くね」

少し早いが、未練を断ち切るために、里保はみんなに別れを告げた。
大切な人たちの顔を見ていると泣きそうになるけど、これから夢を叶えるために
行くのだから、泣くわけにはいかない。
自分で選んだ未来だから。

グッと堪えて歩き出す。

「…ほ!」
「え?」
「里保!」

最初は幻聴かと思った。
だけど、遠くから全速力で向かってくるその姿を見た途端、涙が止まらなくなった。

「…間に合ったー」
「何しに来たん…」

この期に及んでまだ素直になれない自分が恨めしい。

369 :名無飼育さん :2016/05/15(日) 21:11
「里保に会いたくて、飛んで来た」

いつかも聞いたセリフ。
次に続く言葉はわかっている。

「俺、魔法が使えるけんね」
「…バカみたい」
「里保が呼んだらすぐ飛んで行くっちゃん」
「外国だよ?」
「そんなん余裕」
「パスポートもないのに」
「…現実的なこと言わんでよ」

里保の憎まれ口に衣梨奈は苦笑する。
変わらない距離感に安心するけど、今日からは今以上に遠くなる。

370 :名無飼育さん :2016/05/15(日) 21:11
「里保」

名前を呼ばれて顔を上げた次の瞬間、ふわっと衣梨奈に抱きしめられた。
初めての距離感に、里保は激しくなる鼓動を抑えられない。

「俺、待ってるけん。里保が帰ってくるの」
「…えり、ぽん」
「好きっちゃん」

里保は衣梨奈の背中に腕を回す。
そして、衣梨奈にしか聞こえないくらいの小さな声で呟いた。

「…ウチも、好き」

ずっとずっと好きだった。
ようやく素直に思いを伝えることが出来た。

今まで見たことのない顔で喜んでいる衣梨奈を見て、きっと自分は頑張れると
里保は思った。

―――――いつだって、世界一の魔法使いがついててくれるから。

371 :名無飼育さん :2016/05/15(日) 21:11





372 :名無飼育さん :2016/05/15(日) 21:12
一週間後、美希の家庭教師の日。
あんなことがあってから初めて会うため、聖はどんな顔をすればいいのか
わからなかった。
それでも会いたいと思う自分の気持ちに戸惑いながらも、美希の部屋に入る。

聖の姿を確認した途端、美希が滑り込むように聖の前で跪いた。

「すいませんでした!」
「ちょっと、野中ちゃん、やめてよ!」
「いや、だって僕、譜久村さんにあんなこと…」
「大丈夫だから、顔上げてってば!」

しばらくどちらも譲らずに押し問答が続いたあと、ようやく美希が顔を上げた。
目が合った瞬間、ドキッとしてしまう。

「…ホントに、あんなことするつもりじゃ…」

だったら、一体どんなつもりだったのか。
聖は少しだけ意地悪をしてみたくなった。


373 :名無飼育さん :2016/05/15(日) 21:12
「じゃあ、なんであんなことしたの?」
「…え、なんでって、それは、その」
「そういうことに興味があったから?」
「そ、そんなんじゃ!…あ、いや、興味がないわけじゃないですけど…」
「じゃあ、誰でも良かったんだ」
「ち、違います!誰でも良いわけじゃなくて…」
「なくて?」
「…ふ、譜久村さんだから」
「聖だから、何?」
「あ、だから、その…」

美希は真っ赤な顔で言い淀む。
聖は追及の手を緩めない。
自分勝手だと思うしわがままだと思うけど、美希に言ってほしかった。

374 :名無飼育さん :2016/05/15(日) 21:12
「野中ちゃん」

聖の優しい呼びかけに、美希は覚悟を決めたように息を深く吸い込んだ。

「あ、あの、僕、譜久村さんのこと、す、す、す…、すきやきっておいしい
 ですよね!…って、あー、違う!そうじゃなくって…」

頭を掻きむしる美希の姿が面白くて、聖は思わず吹き出した。

「野中ちゃん、ウケるー」
「ウケるって、あはは…」

聖の反応に、美希は力なく笑う。
そして、もう一度深呼吸をして、すっと聖の顔を覗き込んだ。

「好きです」

それは聖が一番聞きたかった言葉。
真っ直ぐな美希の瞳から彼の思いが伝わってくる。


375 :名無飼育さん :2016/05/15(日) 21:12
「…よく言えました」

照れくさそうに聖が差し出した左手を、美希は優しく、だけど力強く包み込む。
はにかんだ彼の頬に浮かんだえくぼは最高にかわいかった。

376 :名無飼育さん :2016/05/15(日) 21:13
本日は以上です。
377 :名無飼育さん :2016/05/20(金) 23:54
キテタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
こんなシチュエーションで勉強に集中できるかどうか甚だ疑問…、
いや何が言いたいかというととても羨ましいです。
どこに依頼したら良いのでしょうか?

というのは半分冗談で、今回も楽しませて頂きました。ありがとうございました。
作者さんの描写、今も変わらず好きです(^-^)
378 :名無飼育さん :2016/05/23(月) 22:41
おぉー!番外編!
どうなったかなって気になっていた人たちのお話なので嬉しい限りです
そして素敵な結末をありがとうございます。
379 :名無飼育さん :2016/08/06(土) 23:09
レスありがとうございます!

>>377
確実に勉強に身が入らないと思いますw
野中ちゃんが羨ましいw

>>378
自分自身、ずっと気になっていた人たちです。
ようやく幸せにしてあげることが出来て、ホッとしています。
380 :名無飼育さん :2016/08/06(土) 23:10
「どぅー、お祭り行こう!」

それは優樹からの突然の誘いだった。

「なに、唐突に…」
「だって、夏と言えばお祭りじゃん。どうせこの夏、ずっと部活ばっかでしょ」

わけのわからないのは相変わらずだけど、確かに優樹の言うことにも一理ある。

水泳部にとっては夏が勝負。
練習に大会にと遊んでいる暇はないのだ。
しかも、この夏行われる大きな大会に、遥は初めてエントリーされた。
遥の学校の水泳部は地域でもかなりレベルが高い。
だから、1年生のときには練習試合にしか出してもらえなかった。
挫折しそうになったときもあったが、頑張っている亜佑美に触発されて、必死に
食らいついてきたのだ。
その結果、2年生の夏にようやく掴んだチャンス。
遊んでいる暇もデートをしている余裕もなかった。

381 :名無飼育さん :2016/08/06(土) 23:10
一方の亜佑美も、相変わらず演劇のバイトで忙しい日々。
お互い、電話やメールでのやりとりに終始していた。

「…んー、俺、パス」
「なんでさー?」
「練習きついもん。ヘトヘトだし」
「へー、ホントに行かないんだ」
「…なんだよ」

思わせぶりな優樹の言い方が頭に引っかかる。

「どぅー、亜佑美の浴衣姿、見なくていいんだ」
「…へ?」
「じゃあ、マサと小田ちゃんと亜佑美とで行くから。バイバイ」
「ちょ、ちょっ!待って!」
「なんだよ」
「あ、亜佑美も来るの?」
「来るよ、さっきOKもらったもん。でも、どぅーは行かないんでしょ?」
「い、行く!行くよ!行きます!!」

その夜、亜佑美に確認してみた。

『行くよ!くどぅーも来るんでしょ?楽しみだね』

そのかわいらしい返事にニヤニヤしながら、遥の頭の中は浴衣姿の亜佑美で
いっぱいだった。

382 :名無飼育さん :2016/08/06(土) 23:10
遥が待ち合わせの場所に着くと、既にさくらが来ていた。

「小田ちゃん、久しぶり」
「あ、工藤さん。お久しぶりです」

ラベンダー色の浴衣がよく似合っている。

「浴衣かわいいね。小田ちゃんのイメージにピッタリ」

さり気なく褒めると、さくらの頬が赤く染まる。

「さ、佐藤さんが着て来いってしつこいから…。私、浴衣なんて持ってなくて、
 叔母さんのおさがりで、ちょっと古くないかなって…」
「古くなんてないよ、めっちゃ似合う!」
「あ、ありがとうございます…」

さくらは真っ赤になって俯いた。

383 :名無飼育さん :2016/08/06(土) 23:11
「…なーに、小田ちゃんのこと口説いてんのさ」

いつの間にかそばにはふくれっ面の優樹が立っていた。

「べ、別に口説いてなんか…」
「あとで亜佑美に言いつけてやる」
「だから!口説いてねーし!!」

必死に言い訳する遥の背後から聞き慣れた声が響く。

「口説くって誰を?」
「あ、亜佑…」

振り向いた瞬間、遥の視線は一気に鮮やかな紺の浴衣に奪われる。
彼女と出会ってからもう何年も経つけれど、浴衣姿を見るのは初めてだ。

きっと今の自分はアホみたいに間抜けな顔をしているだろう。
そう自覚しながらも遥は彼女から目を離せなかった。

384 :名無飼育さん :2016/08/06(土) 23:11
「…くどぅー?」

亜佑美の声で我に返る。

「あ、ご、ごめん」
「ったく、見とれ過ぎだから。行こ、小田ちゃん」

まだ少しすねている優樹がさくらの手を取って先を歩く。

「あ、待ってよ、マサ。もう…」

二人の後ろ姿を見つめる亜佑美の背中。
夏らしく涼しげに纏められた髪がやけに大人っぽくて、遥をさらにドキドキ
させた。

「…くどぅー、疲れてる?」
「え?あ、いや、全然!」
「そっか。なんかいつもと違うから」
「あ、いや、なんか、久々っていうか…、その、なんつーか…」

遥の言葉に亜佑美はすっと距離を詰めてくる。

「そういえば、ゆっくり会うの、久々だね」
「…うん」

遥の部活帰りにとか、亜佑美のバイトの合間とか、特にここ数か月は忙しくて
こんなふうに対峙することも殆どなかった。

385 :名無飼育さん :2016/08/06(土) 23:11
「…浴衣、変じゃない?」
「え?」
「子供の頃以来だから、浴衣着るの」

かわいいとか似合っているとか、さくらにはあんなに簡単に言えたのに、
亜佑美には声をかけることすら出来ない。
まるで初めて恋を自覚したときのように、上手く言葉を紡げない。

「…変じゃねーし。俺らも行こう」

なんとなく亜佑美の顔を真っ直ぐ見れなくて、遥はさっと亜佑美の手を引いて
歩き出した。

386 :名無飼育さん :2016/08/06(土) 23:12
優樹とさくらに合流して、四人で屋台を見ながら歩く。
はしゃぐ優樹とそれを見守るさくら。
対して遥と亜佑美は先程の気まずさをまだ引きずっていた。
繋いでいた手もいつの間にか離れてしまっている。

「あ!綿あめだ!買ってくる!」
「…私も買ってくるね」

亜佑美は、目的の屋台へ走る優樹のあとを追っていった。

「佐藤さん、はしゃいじゃって…」

苦笑しながらも、さくらの表情はとても優しい。
変わらない二人の関係性が少しだけ羨ましい。

「まーちゃんとは、相変わらず仲良いんだ?」
「はい。…実は、私、お祭りとか殆ど来たことなくて」
「え?そうなの?」
「うち、両親が忙しかったんで…」
「そっか…」
「その話したら、佐藤さんがすぐに調べてくれて、誘ってくれたんです」

優樹の行動力の半分でも自分にあれば…。
遥の目に映るのは、優樹の隣で嬉しそうに笑っている亜佑美の姿だった。

387 :名無飼育さん :2016/08/06(土) 23:12
「ちゃんと言ってあげました?」
「へ?」
「石田さんに、浴衣かわいいって」

鋭いさくらの言葉に、遥は苦笑する。
さくらには二人の気まずさもその理由もお見通しのようだ。

「…さすが、小田ちゃん」
「きっと待ってますよ、工藤さんの一言」
「…うん」

「変じゃない」と聞いた亜佑美が欲しい言葉はなんとなくわかっている。
だけど、遥にとってはその一言が簡単なようで難しい。

388 :名無飼育さん :2016/08/06(土) 23:12
「お待たせー!はい、小田ちゃんの分」

戻ってきた優樹と亜佑美は両手に綿あめを持っていた。

「はい、くどぅー」
「あ、サンキュ…。あのさ…」
「ん?」
「…えっと、その、浴衣さ…」
「どぅー!行くよ!!」

遥の言葉は優樹の叫びによって遮られる。

「ホント、子供なんだから、マサは。…ごめん、くどぅー。なんだっけ?」
「あ、いや、なんでもない…」
「…そっか」

結局、また何も言えないまま、二人は微妙な距離感のまま、時間だけが過ぎて
いった。

389 :名無飼育さん :2016/08/06(土) 23:13
かき氷の屋台の前で、遥は思いがけない人と遭遇した。

「…どぅー?」
「え?…あ、譜久村さん」

声をかけてきたのは聖だった。
亜佑美への誕生日プレゼントを一緒に選んでもらって以来の再会だったが、
相変わらずの柔らかい雰囲気を醸し出している。
ピンクの浴衣もとてもよく似合っていた。

「久しぶりだね、どぅー」
「はい!あのときは、どうも…」
「ううん。あ、もしかして、亜佑美ちゃん?」

聖は遥の隣にいた亜佑美に気付き、優しく笑いかける。
事情を知らない亜佑美は戸惑いながらもペコリと頭を下げた。

「想像通り、かわいい彼女だね、どぅー」

聖の言葉に、遥と亜佑美は同時に顔を赤くした。

390 :名無飼育さん :2016/08/06(土) 23:13
「そ、そういえば、今日は生田さんと?」
「あ、ううん。聖ね、今…」
「譜久村さーん!お待たせしま…、いて!」

聖の名前を呼んで駆け寄ってきた美希が、遥たちの目の前で盛大に転んだ。

「野中ちゃん!大丈夫!?」
「いった…、いや、僕はだいじょ…あー!!!!」

立ち上がった美希の足元にはかき氷の残骸が広がっている。

「せっかく10分も並んで買ったのに…」
「もう、ドジなんだから…」
「…すいません」
「…あ、あの」

落ち込んでいる美希に遠慮しながら、遥が声をかける。

「あ、ごめんね、紹介するね。野中美希くん」
「初めまして!野中美希です!譜久村さんとお付き合いしてます!」
「野中ちゃん、声が大きいから…」
「す、すいません!」

391 :名無飼育さん :2016/08/06(土) 23:13
衣梨奈から里保とのことは聞いていた。
そのことはとても嬉しかったけれど、同時に思い浮かべたのは、衣梨奈のことを
見つめていた聖の横顔だった。
聖がどんな思いをしているのか心配だったから、美希の存在を知ることが出来、
遥は心から安心した。

遥が優樹やさくらを紹介すると、すぐに聖や美希とも仲良くなり、しばらくは
盛り上がっていた。

「向こうに金魚すくいとか水飴とかあったよ」
「マサ、金魚すくいやる!」
「あ、じゃあ、また」
「うん、またね、どぅー」

美希の隣で手を振る聖はとても幸せそうだった。

392 :名無飼育さん :2016/08/06(土) 23:14









393 :名無飼育さん :2016/08/06(土) 23:14
遥たちと別れたあと、美希は再び足元のかき氷に目を移す。

「やっぱり、僕、もう一度買ってきます!」
「え?もういいって…」
「ダメです!だって、譜久村さん、かき氷大好きって言ってたじゃないですか!
 ここの屋台、おいしいってみんな言ってるし、僕、まだ全然並べますから!」

駈け出そうとする美希のシャツを聖が引っ張る。

「…譜久村さん?」
「行かなくていい」
「で、でも…」
「聖をこのまま一人ぼっちにしておくわけ?」

聖はシャツを掴んだまま、美希を見つめる。

「一緒にお祭り来たんだから、ちゃんとそばにいて?」
「ふ、譜久村さん…」
「ね?」
「は、はい!!」
「だからー、声大きいってー」

394 :名無飼育さん :2016/08/06(土) 23:14









395 :名無飼育さん :2016/08/06(土) 23:15
お祭りの中心部に行くとさすがに人が多く、遥と亜佑美は優樹たちとはぐれて
しまった。
電話をしても気付かないのか、連絡が取れない。

「ったく、どこ行ったんだよ」
「これだけ人が多いとわかんないね」

金魚すくいや水飴の屋台にも姿は見当たらず、捜すうちに中心部を外れた静かな
場所に迷い込んでしまう。

草むらの中、座り込んでいる人影が目に入る。
薄暗い電灯にラベンダーの浴衣が映し出された。

「あ、いた…」

ようやく見つけた優樹とさくらは、目の前で互いの距離を縮めていく。
声をかけることも出来ぬまま、遥はその光景を静かに見つめていた。

二人の影が重なった瞬間、亜佑美が遥の手を引いて、その場から去った。

396 :名無飼育さん :2016/08/06(土) 23:15









397 :名無飼育さん :2016/08/06(土) 23:15
足音に気付き、さくらはすぐに優樹から離れる。

「今の、工藤さんと石田さんですよね。どうしよう、見られたかも…」
「べっつにいいじゃん。もうマサたちがエッチしてることも知ってるんだし」
「ま、またそういうこと…!」
「なんかどぅーたち、変な感じだったからさ」

さくらと同様、優樹も二人の気まずさに気付いていたのだ。

「仲直りのきっかけになるかもって」

優樹はそう言うと、まるでいたずらが成功した子供のような笑顔を見せた。
その笑顔にさくらはハッとする。

「もしかして佐藤さん、見られてるの知ってて、わざと…」
「ニヒヒー」

398 :名無飼育さん :2016/08/06(土) 23:15
ドキドキしていたのが自分だけみたいで、冷静な優樹が少し憎らしい。
さくらが少しだけむくれていると、優樹が向き合うように体勢を変えた。
正面から抱きしめられて、さくらの鼓動が跳ね上がる。

「小田ちゃん、我慢できなくなっちゃった?」

耳元で囁かれるセリフに体中が熱くなる。

「…そ、そんなわけ」
「…マサは我慢できないかも」
「佐藤さん…」

初めて体を重ねたあの日から、何度かそういう雰囲気になった。
しかし、高校生の二人がゆっくりと過ごせる場所は意外と少なく、なかなか
二回目のチャンスは訪れなかった。
優樹は家に家族がいても気にはしていないようだったが、さくらの方は
そうもいかない。

399 :名無飼育さん :2016/08/06(土) 23:16
「…今日」
「ん?」
「今日だったら、両親遅いし、兄も妹もお祭りでいないし…」

この状況でこんな誘いをするのはとても恥ずかしかった。
だけど、さくら自身、我慢できそうになかった。

「…うち、来ますか?」
「いいの?」

優樹の問いに、さくらは無言で頷いた。

400 :名無飼育さん :2016/08/06(土) 23:16










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