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恋人一年生

1 :名無飼育さん :2014/01/04(土) 01:38
bluff内「奇妙なあいつ」の続編です。
ttp://m-seek.net/test/read.cgi/mirage/1133879814/752

一部、登場人物の性別が変わっています。
苦手な方はスルーして下さい。
201 :名無飼育さん :2014/12/29(月) 16:56
レスありがとうございます!

>>197
ホント、どこならいいんでしょうねw

>>198
お待たせいたしました!

>>199
リアルネタや歌詞に気付いて頂けるのはとても嬉しいです。
これからもひっそりと入れていきたいと思います。

>>200
偶然辿り着いて頂き、光栄ですw
迷惑なんかとんでもないです。
一言のレスでも長文の感想でもすごく嬉しいので、是非お願いします!
202 :名無飼育さん :2014/12/29(月) 16:56
学校から帰るとすぐに掃除機をかけた。
隅から隅までチェックし、見られて困るものは押入れの奥底へ押し込んだ。
こんなに自分の部屋を掃除したのは生まれて初めてだ。

今日は亜佑美の通うモーニング女学院の終業式。
今夜、彼女は仙台の実家へ帰ってしまう。
つまり、今日が一緒に過ごせる今年最後の日なのだ。

―――――ここじゃ、ヤダ

あの日の彼女のセリフがずっと頭から離れない。
「ここじゃ、ヤダ」ということはつまり、「ここじゃなければ、良い」という
ことだ。
学校の成績がそんなに良くない遥にもそれくらいのことはわかる。
そして、あの場合の「ここ」は外のことを示しており、要するに部屋の中で
あれば良いということになる。

もしかしたら勝手な解釈かもしれない。
しかし、今の遥にはそれ以外の結論は導き出せなかった。

もうすぐ、亜佑美がこの部屋へやってくる。

203 :名無飼育さん :2014/12/29(月) 16:57
「ハルー、亜佑美ちゃんよー!」

母親の声が階下から響く。

「お邪魔します」
「亜佑美ちゃん、なんだか大人っぽくなったわねー」
「えー?ホントですか?」

階段を上る音が大きくなるごとに、心臓が止まりそうなくらいドキドキする。

今日、亜佑美を家に誘ったのは遥だった。
お互い学校のある日だし、新幹線の時間もあり、遠出は出来ない。
寒いし風邪気味だしとなんだかんだ理由をつけて誘ったのだが、本当の理由は
ただ一つだった。

「おまたせー」

ドアが開き、良い香りと共に亜佑美が姿を見せる。
なんとなく顔を見れず、手近にあった漫画を読むふりをした。

「ん」
「なにそれ」
「今、いいとこだから、ちょい待って」
「もう、せっかく来たのに」

亜佑美は憮然としながら荷物を置いてコートを脱ぐ。
これから実家へ帰るだけに、大きな荷物だ。

204 :名無飼育さん :2014/12/29(月) 16:57
「なんか、前より部屋、綺麗じゃない?」
「…いつも綺麗だし」
「そうかなあ。ま、いいけど。あー、疲れたー」

当然のように亜佑美は遥の隣に座った。
彼女のスカートがふわりと揺れる。
横目でチラリと見てしまい、慌てて視線を逸らした。

あくまでも漫画に集中するふりをする遥に、亜佑美は執拗にちょっかいを出す。

「ねー」
「ん」
「暇なんだけど」
「これ読めば?」
「読みたくないし」

「くどぅーのバカ」とすねる彼女に対し、遥の頭の中は超高速で回転している。
ここからどうすればいいのか、経験値のない遥にはわからなかった。
あの日は完全に勢いだけの行動であり、全く参考にならない。

そもそも、部屋に二人きりのこの状況を亜佑美はどう思っているのだろうか。
あの言葉の意味を履き違えて、自分だけが先走っているのではないだろうか。
いつも肝心なところで顔を出すのは弱気な自分だ。

すぐ隣にいるのに亜佑美までの距離がやけに遠く感じた。

205 :名無飼育さん :2014/12/29(月) 16:57
遥の態度に業を煮やしたのか、亜佑美は携帯を取り出した。
恐らく、ハマっているゲームを始めるのであろう。
そうなってからでは本格的に手遅れだ。

遥はわざと少し乱暴に漫画を置いた。

「あ、読み終わった?」
「うん」
「そんなに面白い漫画?」
「…まあな」

実際、内容は上の空で返答のしようがないで、適当にごまかす。
亜佑美もそれ以上深く追及することはなかった。

206 :名無飼育さん :2014/12/29(月) 16:57
「あ、そうだ。はい、これ」

そう言って亜佑美が鞄から取り出したのは、一見してプレゼントだとわかる
包みだった。

「今日、帰っちゃうから。ちょっと早いけどクリスマスプレゼント」
「え、マジで?見ていい?」
「もちろん!」

亜佑美はなぜかドヤ顔で笑いを堪えている。
中から出てきたのは2枚のTシャツだった。
黒地に黄色い文字で『ある意味神』と白地に黒い文字で『犯人は私です』と
書かれている。

「ちょ…なんだよ、これ」
「くどぅー、着てみて?」

遥は言われるがままに『ある意味神』Tシャツを着る。

「似合う!最高ー!」

亜佑美はベッドをバンバン叩きながら爆笑している。

「…さすが石田さん」

若干呆れ気味に包装紙を片付けようと持ち上げると、何かが床に落ちた。
どうやら中にまだ入っていたようだ。
遥は真ん中が不自然に膨らんだ封筒を拾い上げる。

「…手紙?」
「うん。あと、もう一個プレゼント。それは私が帰ってからね」
「今じゃダメなの?」
「ダーメー。今はそのTシャツを楽しんでよ。ツ…、それにしても笑えるー」
「あのなあー…」

笑いの止まらない亜佑美に抗議しようとしたとき、階下から再び母の声が聞こえた。

207 :名無飼育さん :2014/12/29(月) 16:57
「ハルー!まーちゃんが来たわよ!」
「ま、まーちゃん?」
「メリークリスマス!まーさくサンタ登場!!」

現れたのはサンタのコスプレをしたさくらと、何やら不思議な緑の衣装を身に
纏った優樹だった。

「まーちゃん、その格好…」
「ん?見ればわかるっしょ?ツリーでーす!」

呆然とする遥と亜佑美にさくらが遠慮がちに袋を渡す。

「お邪魔ですよね、ごめんなさい」
「どぅとあゆみんも早くこれつけて!」

二人に手渡されたのは、フード付きの茶色い洋服だ。
フードの先には角のようなものがついている。

「これって…」

聞かなくてもわかる。
トナカイの衣装だ。

208 :名無飼育さん :2014/12/29(月) 16:58
「はい、早く着て着て!」

優樹に急かされるまま、その衣装を身に纏う。

「なんで俺がこんな…」
「いーじゃん、クリスマスだしさ」

戸惑う遥の横で亜佑美はノリノリだ。

「あゆみ、似合うー!」
「石田さん、かわいいです」
「ホントー?イェア!」

確かにトナカイ亜佑美はかわいい。
それはもう、思わず見とれてしまうほどかわいい。
その点に関しては優樹に感謝している。
しかし、男の遥にとってこの衣装はどうにも厳しい。

「あははー!どぅー、ウケるー!」
「…く、工藤さんも似合いますよ、フフフ」
「ツ…アハハハハ!」

どう考えても似合うはずがない。

「…こんなん似合うわけねーし」

209 :名無飼育さん :2014/12/29(月) 16:58
不貞腐れる遥をなんとか宥め、みんなで写真を撮った。

「さてと、そろそろ帰りますか、佐藤さん」
「えー、もう?」
「帰って勉強しなきゃ」
「…はーい」

すっかりと忘れかけていたが、遥と優樹は受験生だ。
ましてや進学校のさくらと同じ高校を目指している優樹にとって、クリスマスも
お正月も関係ない。

さくらと同じ学校へ行くと聞き、亜佑美も目を丸くする。

「マサって、勉強できるの?」
「しっつれーだなあ、あゆみ。どぅーよりは出来るよ!」

以前の遥なら速攻で否定するところだが、実際、最近の優樹の成績はぐんぐん
伸びていた。
今回の期末テストでも学年で上位に食い込み、学校中が驚きに包まれたほどだ。
このまま頑張れば、さくらと同じ学校へ進学するのも夢ではない。

210 :名無飼育さん :2014/12/29(月) 16:58
「…あの約束、すげー力だな」

遥は優樹の耳元で小さく呟いた。
『あの約束』とはもちろん、優樹とさくらの間で交わされた、

―――――合格したら、エッチしてくれるって

というものだ。

「ま、それもあるけどさ」

優樹はニッと笑う。
亜佑美とさくらは互いの衣装のことで盛り上がって、こちらの会話は聞こえて
いないようだ。

「小田ちゃん、すぐ誤解されちゃうから」
「誤解?」
「そ。ほら、中学でもさ、ヤなこと言う奴いたじゃん」

優等生の生活福祉常任委員長。
貼られたレッテルと彼女の言動により、さくらを悪く言う生徒は少なくなかった。

「ホントは優しくてかわいいのにさ」
「うん」

実際のところ、遥も少しだけ誤解をしていた。
しかし、本当のさくらを知るにつれて、それが間違いだと気付いた。

「マサが守るんだ、小田ちゃんのこと。だから、絶対同じ学校行く」
「まーちゃん…」

優樹の笑顔はいつも通りで、だからこそ逆に強い意志が伝わってきた。
同い年なのに、優樹が一歩も二歩も先に進んでいる気がして、少し前の自分の
欲望が恥ずかしく思えた。

211 :名無飼育さん :2014/12/29(月) 16:58
二人が帰ったあと、遥は机の上の包みを渡した。

「どーぞ」

初めて自分一人で選んだプレゼントだ。
気に入ってくれるかどうか少しだけ不安だったが、中身を見た亜佑美の反応に
即座に安心する。

「ありがとう」

彼女はそれまでの爆笑が嘘みたいに、とても優しい幸せそうな笑顔を見せた。
遥からのプレゼントはネックレスだった。

「くどぅー」
「ん?」
「…これ、つけて?」

亜佑美は真っ赤な顔でネックレスを差し出す。

「う、うん…」

212 :名無飼育さん :2014/12/29(月) 16:58
遥がネックレスを受け取ると、亜佑美は背を向けて髪を前に流した。
いつも殆ど髪を下ろしている彼女のうなじを見るのは初めてだった。

もちろん、誰かにネックレスをつけるなんて経験も初めてで、震えて金具が
上手く外せない。

「ん?外れない?」
「あ、いや、平気…」

やっとの思いで金具を外し、ネックレスを亜佑美の首に回す。
コントロールの利かない手が、何度も彼女の肌に触れそうになる。
いや、むしろ触れてしまいたいのだが、それをグッと抑えて作業に徹した。

なんとか無事につけ終えた瞬間、わずかに亜佑美の肌に触れてしまい、彼女の
体がビクッと震えた。

「ご、ごめ…」
「ううん…」

亜佑美の白い肌が一瞬で赤く染まる。
耳まで赤いその後ろ姿がやけに色っぽくて、遥はそっと彼女を抱きしめた。

213 :名無飼育さん :2014/12/29(月) 16:59
いつか亜佑美を背負ったときに感じたように、自分の吐息とか腕の震えとか
顔の熱とか、もしかしたら今考えていることまで伝わってしまうかもしれない。

だけど、それでも構わないと思った。
遥が抱きしめる腕に力を込めると、亜佑美はその腕に優しく触れた。
肯定してくれているような気がして、少しだけ震えが収まる。

「亜佑美…」

名前を呼ぶと彼女は振り向き、遥の胸に体を預けた。

優しいキスは次第に、あの日のように激しくなる。
呼吸が荒くなり、まるで頭の中まで熱に侵されているようにクラクラする。
一旦顔を離すと、視界に亜佑美の潤んだ瞳が飛び込んできた。

亜佑美の手を取り、そっとベッドへと導く。
もう一度キスをして亜佑美の体に体重をかけると、彼女はそのままベッドへ
横たわった。

「…俺」

何か声をかけようと思ったが何を言えばいいのかわからない。
ただただ、目の前の彼女が欲しくて欲しくてたまらなかった。
だけど、上手く出来る自信も優しく出来る自信もない。
もしかしたら、亜佑美を傷つけてしまうかもしれない。

214 :名無飼育さん :2014/12/29(月) 16:59
「…くどぅー?」

声と共に亜佑美の手がすっと伸びてきた。
強張る頬に優しい温もりが触れる。

「平気?」
「…うん」
「…いいよ」
「え?」
「くどぅーがしたいように、…して?」

悔しいけど、やっぱり亜佑美の方がいつも少しだけ大人だ。
久々に感じる年の差に、だけど今日は素直に甘えることにする。
どんな自分もきっと彼女は受け入れてくれるから。

遥はもう何も考えず、自分の欲望に従った―――――。

215 :名無飼育さん :2014/12/29(月) 16:59
ピピピッ、ピピピッ、…。

「…なんか鳴ってる」
「…あ」

まさかのこのタイミングで鳴り響く電子音。
音の方を見ると亜佑美の携帯が震えている。

「…ごめん、アラーム」
「ア、アラーム?」
「うん、新幹線の時間。ごめん、行かなきゃ…」

申し訳なさそうに目を伏せる亜佑美に、遥は何も言えず体を起こした。
亜佑美もゆっくりと立ち上がり、コートを着る。

「…じゃあ、行くね」
「ん」

遥はベッドに座ったまま、彼女の後ろ姿を見送った。

216 :名無飼育さん :2014/12/29(月) 16:59
追いかけなければと思った。
だけど、途中で終わってしまったことが遥の足を止める。
無性に腹が立つが、何に対しての怒りなのかがわからなかった。

ふと床の上に無造作に置かれた封筒が目に入る。
先程、亜佑美がくれたものだ。

手に取って封を開くと、中からカッコいいストラップが出てきた。
あんなふざけたTシャツだけでなく、他のものも用意してくれてたことに胸が
熱くなる。

そして、同封されている手紙にはかわいらしい文字のメッセージ。

『クリスマスもお正月も一緒に過ごせなくてごめんね。
 来年はずっと一緒にいようね。
 亜佑美』

「…何やってんだ、俺」

遥はストラップと手紙を手に持って、部屋を飛び出した。

217 :名無飼育さん :2014/12/29(月) 16:59
バス停までは一本道。
すぐに亜佑美に追いついた。

「亜佑美!」
「くどぅー。どうしたの?」
「バス停まで行く」
「…うん」

少し前を歩く遥に、亜佑美は黙ってついてくる。
二人とも無言で気まずい空気が流れる。

「ごめんね」

先に口を開いたのは亜佑美だった。

「…クリスマス、一緒に過ごせなくて」

家族と離れて暮らす亜佑美にとっては、素に戻れる大切な場所だろう。
そして、亜佑美の両親も娘の帰りを待ち侘びているに違いない。
遥にだってそれくらいわかっている。
だから、子供みたいなわがままは言いたくない。
早く大人になりたい。
こんなつまらないことで悩まなくていいくらい、大人になりたい。

「…ん」
「え?」
「持つよ、それ」
「え、いいよ。そんなに重くないし」
「いいって」
「…ありがと」

半ば強引に奪うようにして亜佑美の荷物を肩にかける。
今日の自分が情けなさ過ぎるから、せめてこれくらいの格好はつけたかった。

218 :名無飼育さん :2014/12/29(月) 16:59
遥は荷物を持ち替えて、空いた右手で彼女の手を握る。

「…俺も、ごめん」
「何が?」
「…いや、なんか、いろいろ」

亜佑美と“そういうこと”をしたいと思う。
だけど、それだけが目的なわけではない。
今日はずっと欲望ばかりが空回りして、せっかく一緒にいれる大切な時間を
自ら無駄にしてしまったような気がして、後悔だけが頭を駆け巡る。

伝える言葉が上手く浮かばず、遥はもう一度謝る。

「ごめん」
「…バカ」

それは全てを包み込んでくれるような優しい声で、遥の胸にストレートに響く。

219 :名無飼育さん :2014/12/29(月) 17:00
「…ホントはね」
「ん?」
「正直、ホッとした。さっき、アラーム鳴ったとき」

亜佑美が遥の手をギュッと握る。

「イヤじゃないんだよ?イヤじゃないんだけど。やっぱり、ちょっと怖くて…」
「…うん」
「ごめんね、私の方が年上なのに」
「そんなん関係ねーよ」

年齢なんか関係なく、初めてのことはきっと誰もが不安だ。
男の遥でさえ震えていたのだから、亜佑美の方がもっと怖いに違いない。

それなのに年上だからって、無理して平気なふりをしてくれたのだろう。
そのことに気付かされた瞬間、遥はやりきれない気持ちになる。

「だから、もうちょっと待って?」
「うん、待つ」

亜佑美の恐怖心がなくなるまで、ちゃんと待とうと思う。
今すぐ大人にはなれない自分だけど、待つくらいは出来る。

「ちゃんと、待つから」
「…ありがと」

220 :名無飼育さん :2014/12/29(月) 17:00
「ちゃんと勉強してね。一応受験生なんだし」
「わかってるって」
「くどぅーが受験失敗しちゃったらさ、おばさんたちに申し訳ないもん」

亜佑美の意外な言葉に思わず足を止める。

「…そんなこと考えてたの?」
「考えてたよ。だってやっぱり年上だし、ちゃんとしなきゃって思うじゃん」

亜佑美の笑顔が優樹のそれと重なった。
二人ともちゃんと未来のことを考えている。

大人な二人に比べて子供な自分がより一層情けなく感じて、泣きそうになる。

221 :名無飼育さん :2014/12/29(月) 17:00
バス停に着く。

亜佑美が帰ってくるのは約二週間後だ。
二週間会わないことなんて今までもたくさんあったが、仙台という遠く離れた
場所にいることが寂しさに拍車をかける。

遠くの角から姿を見せたバスがどんどん近付いてくる。

次に会うときには新しい年になっている。
2015年は遥も亜佑美も新しい環境に身を置くことになる。

―――――マサが守るんだ、小田ちゃんのこと
―――――だってやっぱり年上だし、ちゃんとしなきゃって思うじゃん

きっと自分が一番子供で、先のことを考えたり、力強く宣言したりはまだまだ
出来そうにない。
だから、今自分がやるべきことを精一杯やるしかない。

「…あのさ」
「うん?」

今年の最後に亜佑美に伝えたい言葉を必死で紡ぐ。

222 :名無飼育さん :2014/12/29(月) 17:00
「俺、ちゃんとするよ」

亜佑美はキョトンとしている。
バスが止まる。

「ちゃんと勉強すっから」

ドアが開き、彼女がバスに乗り込む。

「だから、来年もよろしく!」

ドアが閉まる瞬間に叫んだ言葉はきちんと亜佑美に届いたらしく、彼女は
優しく微笑んでくれた。
それは、他の誰が聞いても普通の言葉だ。
ごくごく一般的な年末の挨拶に過ぎない。

だけど、遥にとっては亜佑美の手紙に対する返答であり、自身の決意表明だった。
その意味はきっと二人にしかわからない。

223 :名無飼育さん :2014/12/29(月) 17:00
バスの一番後ろで大きく手を振る亜佑美の姿を見送りながら、遥は願った。

来年も再来年もずっと、亜佑美と一緒にいられるようにと。

224 :名無飼育さん :2014/12/29(月) 17:05
本日は以上です。

これが今年最後の更新となります。
なかなか進展しない、しかも毎回同じような展開の話で申し訳ないですが、今年一年お付き合い頂き、
本当にありがとうございました。

これからもマイペースにまったりと続けていきたいと思っていますので、遥と亜佑美の成長を一緒に
見守って頂ければ幸いです。

来年もよろしくお願いいたします。
良いお年をお迎えください。
225 :名無飼育さん :2015/01/06(火) 18:39
明けましておめでとうございます
更新楽しみにしてます
226 :名無飼育さん :2015/01/07(水) 20:18
ついに・・・?!
と思ったけどやっぱりこの二人はこんなペースがちょうど良さそうだなぁ
長続きするドキドキ感を楽しませてもらってます
227 :名無飼育さん :2015/02/01(日) 03:30
レスありがとうございます!

>>225
遅ればせながら、あけましておめでとうございます!
まったりペースですが、今年もよろしくお願いします。

>>226
自分の中でももう少しこんな関係の二人を書きたいという思いが強く…。
卒業後に少し話が動く…かもしれませんw
228 :名無飼育さん :2015/02/01(日) 03:30
改札から現れた亜佑美の姿を見たとき、なぜかドキッとした。
もちろん久しぶりに会うという高揚感もあるが、それだけではないちょっとした
違和感。
わずか二週間会わないだけで、彼女がすごく大人に見える。

「なに?顔になんかついてる?」
「え?いや、別に…」

そういえば、去年も久々に会ったとき、そんなふうに感じた記憶がある。
だから、遥はその違和感を追及することはしなかった。

229 :名無飼育さん :2015/02/01(日) 03:31
1月7日。
遥は、誕生日当日に帰ってきた亜佑美を駅まで迎えに来た。
夕方の新幹線だったため、それほど長く一緒にはいられない。
それでも特別なその日を二人きりで祝いたくて、遥は迷わずにあの公園で過ごす
ことを決めた。

駅から公園までバスで向かう。
この時間はとても空いており、二人は一番後ろの席に並んで座った。

「あったかいね、バス」

亜佑美はそう言ってマフラーを外した。
髪がサラッと揺れて、胸元のネックレスが遥の目に飛び込んでくる。
あの日、遥がプレゼントしたものだ。
身に付けてくれている嬉しさと恥ずかしさに顔が熱くなった瞬間、遥は再び
あの違和感に襲われる。

「…あれ?」

苦労しながらつけたクリスマスの記憶と、どこか違う。
あのときよりもネックレスがよく見えるような気がする。
だけど、その理由がわからない。

230 :名無飼育さん :2015/02/01(日) 03:31
首を捻っている遥に、亜佑美がボソッと呟く。

「…鈍感」
「へ?」
「普通、気付くでしょ。10cmも短くなったのにさ」
「え、あ、…あっ!髪切ったんだ」
「くどぅー、鈍すぎ」

違和感の正体がわかり遥はすっきりとしているが、一方の亜佑美は呆れ顔だ。

「私はすぐに気付いたのになあ。くどぅーが前髪切ったこと」
「え?気付いてたの?」
「会った瞬間から気付いてましたー」
「…マジか」

10cm以上バッサリと切って肩までの長さになった亜佑美に対し、遥の前髪は
ほんのわずかな変化だ。
それでも気付いてくれたことに感動し、逆に気付けなかったことが悔しい。

231 :名無飼育さん :2015/02/01(日) 03:31
「…似合ってない?」

横を向くと、不安そうな亜佑美と目が合った。
似合っていないなんてとんでもない。
よく似合っていると思う。
むしろ髪を切る前よりもずっとずっと大人っぽく、かわいくなったと思う。

「そ、そんなことねーよ」
「じゃあ、似合ってる?」
「うん」
「ホントに?」
「ホントだって」
「嘘じゃない?」
「嘘じゃねーし」
「かわいい?」
「かわい…」

思わず素直に答えそうになってハッとする。
そんなことを面と向かって言うのはとても恥ずかしい。
ひょっとしたら、「好き」よりももっとずっとハードルが高いのかもしれない。

「やっぱり、かわいくないんだ…」
「え、いや、違うって」
「じゃあ、何?」
「何って、だから、その…」

どうやら言わないことには、彼女の気持ちは納まらないらしい。
遥は真っ赤な顔を見られないように反対側の窓を向いた。

「か、かわいい…と思います」
「ツ…、なんで敬語ー?」
「う、うっせー!」

すっかり機嫌の良くなった亜佑美は、甘えるように遥の右腕に腕を絡めた。

232 :名無飼育さん :2015/02/01(日) 03:31
「勉強してる?」
「んー、まあまあかな」
「怪しいなあ」
「ちゃんとしたって、ホントに」

実際のところ、遥にとっては生まれてから最も勉強に励んだ二週間だった。
亜佑美との約束だから、ちゃんと守ろうと思い頑張ったのだ。

優樹ほどの高いレベルの高校ではないが、遥も自分に適した志望校を決めた。
今の自分の学力よりも少しだけ高いところだ。

「受かりそう?」
「うん、たぶん」
「頑張ってね」

亜佑美の頭が肩に触れる。
その温もりがどんな言葉よりも心強かった。

233 :名無飼育さん :2015/02/01(日) 03:32
「仙台、どうだった?」
「あー、…うん」
「ん?なんかあった?」
「ちょっとね、お父さんとケンカしちゃった」

亜佑美の答えは意外なものだった。

「ケンカ?」
「うん…」

今年高校を卒業する亜佑美は、お正月に卒業後のことを家族で話し合ったそうだ。
演劇を続けることは前々から同意を得ていたが、両親は仙台の劇団に入ると
思っていたらしい。
こちらで一人暮らしをすることを伝えた途端、父から猛反対をされたのだ。

「演劇なんかどこでも出来るって言われたんだけど、やっぱり自分の入りたい
 劇団とかやりたい芝居とかもあるし」

遥も亜佑美の父親と同じで芝居の違いはわからない。
だけどもし、亜佑美が仙台に戻ることになったら、ますます会う時間が減って
しまう。
それは嫌だと素直に思う。

「…それに、くどぅーと離れるの、嫌だし」

心を読まれたみたいでドキッとする。

234 :名無飼育さん :2015/02/01(日) 03:32
「でもね、最後はお母さんが味方になってくれて、ちゃんと納得してくれた」
「…そっか」
「ホッとした?」
「ま、まあな」

遥の答えに亜佑美は満足そうに頷く。

「一人暮らし、ちょっと不安だけど」
「そうなの?」
「今までは寮だったから、同じ部屋の子もいたし。全くの一人は初めてだから」
「寂しいんだ?」
「べ、別にそうじゃないけど!」

強気な亜佑美は、だけどその反面、人一倍寂しがり屋で甘えん坊だ。
今こうして遥に寄り添っているのも、少しでも不安な気持ちを柔らげたいから
かもしれない。

もっともっと頼られる存在になりたいと思う。

「…俺が、いるじゃん」
「え?」
「なんかあったら、すぐ行くし」
「…うん」

235 :名無飼育さん :2015/02/01(日) 03:32
優しい沈黙が続く。

右腕に亜佑美の温もりを感じながら、遥は自分の中で湧き上がる衝動を必死で
抑えていた。
早くあの公園で、あのオブジェで亜佑美を抱きしめたい。
抱きしめてキスして、その先はまだちゃんと待つつもりだけど、とにかくもっと
彼女に触れたい。

こんなにバスに乗っている時間をもどかしく感じたのは初めてだった。

236 :名無飼育さん :2015/02/01(日) 03:32
ふっと腕の温もりが消え、次の瞬間、右手にそれが移った。
亜佑美の細い指が遥の指に絡まる。

「…早く着けばいいのに」

亜佑美の呟きにドキッとしながら、遥も一分一秒でもバスが早く着くようにと
本気で願った。

237 :名無飼育さん :2015/02/01(日) 03:34
本日は以上です。
短くてすいません。
髪を切った石田さんがかわいすぎて、どうしても書かずにはいられませんでした。
238 :名無飼育さん :2015/02/06(金) 11:28
アカンあゆみんが可愛いすぎてもう…
NYでのイチャイチャもごっつぁんでしたね
239 :名無飼育さん :2015/02/12(木) 01:51
リアルに想像できるだけにもうやばいです
NY、すごかったですもんね
240 :名無飼育さん :2015/05/22(金) 21:12
ふたりとも可愛くてによによ
241 :名無飼育さん :2015/06/15(月) 23:54
レスありがとうございます!

>>238
かわいい石田さんを書くことが生きがいです(大袈裟ですがw)

>>239
なんだかんだでどの映像でもリアルにいちゃついている二人ですね

>>240
もうしばらくこのかわいさを楽しんで頂ければ幸いです
242 :名無飼育さん :2015/06/15(月) 23:54
優樹の家の前で立ち尽くすこと30分。
さくらは穴が開くほど携帯の画面をじっと見つめていた。
読んでいる形跡はあるのに返信はない。
所謂、既読スルーという状態だ。

今日は高校の合格発表翌日で、昨日から優樹からの連絡はない。
受かったのであれば当然の如く喜びの電話がかかってくるはずだから、きっと
残念な結果に終わったのだろう。
遥の情報によると、優樹は学校も休んでいるようだ。

この一年間、優樹がどれだけ頑張ってきたか、さくらが一番よく知っていた。
合格できる可能性は十分にあった。
それなのに…。

243 :名無飼育さん :2015/06/15(月) 23:54
ガチャ

考え事でボーとしていると、突然目の前のドアが開いた。
馴染みのある声と顔が飛び込んでくる。

「あー!さくらちゃん!」

中から現れたのは優樹の妹だった。
優樹の受験勉強のため、何度も訪れた佐藤家。
さくらはすっかり優樹の家族とも仲良くなっていた。

「あら、さくらちゃん。いらっしゃい」
「あ、こんにちは。…あの、佐藤さんは…」
「なんかね、部屋に閉じこもってるのよ。まあ、気持ちもわかるけど…。まさか
 当日に熱出しちゃうなんてね」

優樹の母の言葉に、さくらは黙って俯く。
そう、優樹はあろうことか前日夜遅くまで頑張り過ぎて、試験当日に熱を出して
しまったのだ。
なんとか試験は受けたものの、内容も覚えてないほどフラフラだったらしい。

「おばさんたち、これから出かけるから、さくらちゃん、あがって慰めてあげて
 くれる?」
「あ、はい。お邪魔します」

244 :名無飼育さん :2015/06/15(月) 23:54
いつも騒がしい佐藤家が静まり返っている。
優樹の周りはどこでもそうだった。
彼が元気なら明るくなり、落ち込んでいれば暗くなる。
そんな優樹に何度も助けられてきたから、今度は自分が返す番だ。
さくらは深呼吸して、優樹の部屋をノックする。

もちろん、返事はない。

「…佐藤さん、入りますよ?」

ベッドの上、大きな膨らみがガサゴソと動いた。
どうやら起きているらしい。

「佐藤さん」

膨らみは動かない。

「起きてるの、バレてますよ」

さくらはベッドに近付き、布団の上にそっと手を置く。

245 :名無飼育さん :2015/06/15(月) 23:55
「…小田ちゃんのことなんか呼んでない」
「わかってますよ。勝手に来たんです」
「…帰ってよ」

相当重傷のようだ。
このままでは埒が明かないと思ったさくらは優樹から離れる。

「わかりました。帰ります」

優樹はビクッと反応したが、まだ布団から出てこない。
仕方なくさくらはドアを開けて閉める。
もちろん、ただ開け閉めしただけで部屋の中からは出なかった。

その音を聞いて、ようやく優樹が布団から現れた。
ドアの前にいるさくらと目が合い、「ず、ずるい…」と呟いた優樹の目は
真っ赤に腫れている。

想像以上の優樹の落胆ぶりに、まるで自分のことのように胸が苦しくなる。

246 :名無飼育さん :2015/06/15(月) 23:55
「…顔、最悪ですね」
「帰れって言ったのに…」
「こんな佐藤さん置いて、帰れるわけないじゃないですか」

再び優樹に近付くさくら。
優樹はまるで叱られた子供のように情けない声を出す。

「…今は小田ちゃんといたくない」
「私はそばにいたいです」

さくらは怪訝な顔を浮かべる優樹に優しく微笑む。
そんな憎まれ口を言われたぐらいで、揺らぐ仲でないことはお互いわかっている。
わかっているからこそ、優樹は苦しい思いをぶつけてくる。
それはきっと信頼の証なのだろう。
だから優樹に八つ当たりされるたび、さくらは少しだけ嬉しくなる。

247 :名無飼育さん :2015/06/15(月) 23:55
「…マサ、落ちた」
「…はい」
「でも、落ちたことよりもちゃんと出来なかったことがイヤだ」

どうやら優樹の落ち込みの原因は、落ちたという結果ではなく、実力を発揮
できなかったことにあるようだ。

「佐藤さんらしいですね」
「いつものマサなら解けたのに」
「フフ…。そうですね」
「…ムカつく」

少しずついつもの調子を取り戻していく優樹に安堵する。

248 :名無飼育さん :2015/06/15(月) 23:55
「佐藤さんの頑張りは私が一番知ってますから。それだけじゃ、不満ですか?」

優樹はわかりやすくすねた顔で、「…不満」と呟いた。
さくらは優樹を抱きしめる。

「欲張りですね、佐藤さんは」

さくらがそっとキスをする。
優樹もそれに応える。

久々のキスは少しずつ激しさを増し、『あの約束』がさくらの脳裏をよぎる。

合格したら叶える約束。
本当はもう、ずっと前からさくらの覚悟は決まっていた。

「…小田ちゃん」

優樹の顔が急に男らしくなり、さくらの心臓が高鳴る。
この人は一体いくつの顔を持っているのだろう。
そのどれもが愛おしくて、さくらはますます優樹に夢中になる。
こんな優樹を他の誰にも見せたくない。

249 :名無飼育さん :2015/06/15(月) 23:55
「マサ、合格できなかったよ?」

その質問の真意をさくらはすぐに汲み取る。

「…合格じゃなくて、頑張ったご褒美でもいいですよ」

長い沈黙が続く。
優樹は黙ったまま、じっと考え込んでいる。
さくらはいつも通り、優樹の答えをずっと待っている。
どんな答えでも受け止める、そう心に決めながら。

「…やっぱ、ダメ」
「…佐藤さん?」
「だってマサ、ダメだったんだもん。合格できなかったのに、それなのに、
 ずるいじゃん」

優樹の言葉にさくらは苦笑する。
どこまでも真っ直ぐで純粋で、こういう優樹が好きなんだと改めて思う。

250 :名無飼育さん :2015/06/15(月) 23:55
「そうだ!マサ、来年また受ける!」
「え!?」
「もっかい受ければきっと受かるし!」
「ちょ、ちょっと待ってください!それって高校行かずに一年勉強するって
 ことですか?」
「うん!決めた!」

目標が決まり、一気に元気になる優樹。
一方のさくらは動揺が隠せない。
さくらと同じ学校は落ちてしまったものの、滑り止めの学校にはちゃんと合格
しているのだ。

「さ、佐藤さん、落ち着いて!」
「落ち着いてとか言われてもこれが限界だし」

その後、なんとか優樹を宥めて、高校にはきちんと通うことを約束させた。
もう一つの大切な新しい『あの約束』は、二人だけの秘密。

251 :名無飼育さん :2015/06/15(月) 23:56
「小田ちゃん」
「はい?」

優樹はいつも通りさくらの手を引き、自分のベッドに座らせる。
お決まりの膝枕の合図も、かなり久しぶりだ。
それだけずっと張りつめていたのだろう。

頭を撫でると、優樹はすぐに眠りに落ちた。

子供みたいにかわいくて愛しくて、ずっとこのまま変わらずにいてほしいと思う。
その一方で。

「早く、約束叶えてくださいね」

寝ている優樹のおでこにそっとキスすると、彼の顔が幸せそうに緩む。
その笑顔をずっとずっと支えていきたい、さくらは心からそう思った。

252 :名無飼育さん :2015/06/15(月) 23:56






253 :名無飼育さん :2015/06/15(月) 23:56
優樹とさくらにそんなことがあった数日後の日曜日。
遥は春菜と共に亜佑美の家を訪れていた。
この春から一人暮らしを始める亜佑美に招かれたのだ。

出会ったときから寮生活だったため、彼女の部屋へ行くのは初めてだ。
二人きりでないとはいえ、緊張を隠せない。

以前より、遥の家からは少し遠い町となる。
頑張れば自転車で来れないことはないが、今日は電車での訪問となり、その
分だけ距離を感じて少しだけ寂しい。

254 :名無飼育さん :2015/06/15(月) 23:56
「お、お邪魔します」

足を踏み入れた瞬間、甘い香りが漂ってきた。
かわいらしい小物やベッドに置かれたぬいぐるみ、そして花柄のタオルに
までも自分との違いを感じ、遥は一人赤面する。

「くどぅー、意識しすぎ」

亜佑美がお茶を入れている間、春菜に突っ込まれ、遥はますます赤くなる。

「べ、別に、意識なんか…」
「安心して。私、先に帰るからさ」
「え…」

付き合い始めて一年以上経つし、二人きりも何度も経験しているし、もちろん
キスもしたし、それ以上のことになりかけたこともあるし。
それでも、彼女の部屋に二人きりというシチュエーションはまずい。

亜佑美と春菜のおしゃべりも殆ど上の空で、遥の頭はショート寸前だった。

255 :名無飼育さん :2015/06/15(月) 23:56
「…さてと、そろそろ帰るね」

夕方になり、春菜が帰り支度を始める。

「え、あ、じゃあ、俺も…」

思わずそう口にすると、春菜からじろっと睨まれた。

「何言ってんの。せっかくなんだから、くどぅーは夕飯でも作ってもらいな。
 ね?あゆみん」
「あ、うん」

ニヤニヤしながら春菜が退室し、二人きりの時間が訪れる。

「くどぅー、何食べたい?」
「え?」
「作ってあげる」
「作れんの?」

思い出すのは大雪の日。
二人で四苦八苦しながらなんとか夕飯を作ったときのこと。

「あの頃の私より成長したんだから!」

亜佑美のドヤ顔に遥の顔も綻ぶ。
同じ思い出で笑えることに幸せを感じる。

256 :名無飼育さん :2015/06/15(月) 23:56
言葉通り、テキパキと食事の支度をする亜佑美をドア越しに眺める。

もしも、このまま順調に付き合いが続いて、結婚するなんてことになったら、
こんな感じで休日を過ごすことになるのだろうか。
妄想が遥の頭の中を駆け巡る。

「何ニヤニヤしてんの?」

いつの間にか料理が完成していたらしく、亜佑美がテーブルに料理を運んできた。

「ニ、ニヤニヤなんかしてねーし」
「…変なこと考えてたんでしょ」
「なっ、ちがっ…」

どんなに否定しても、真っ赤な顔が全てを物語ってしまう。

257 :名無飼育さん :2015/06/15(月) 23:57
「早く食べよ?冷めちゃうよ」
「あ、うん…」

なんとなくぎこちない空間に居心地の悪さを感じ、とりあえずスープに口を
つける。

「あちっ…」
「大丈夫?もう、気を付けないと。はい」

亜佑美がティッシュで口元を拭いてくれた。

「あ、ありがと…」
「フーフーちましょうかー?」
「は?い、いらねーし!」

バカにしたような口ぶりにムキになって言い返すと、亜佑美は優しく微笑んだ。
その笑顔にドキッとする。
見慣れてるはずなのに、今日はいつもより柔らかいような気がして。
何もかもに戸惑ってしまう。

「おいしい?」
「…ん、うまい」
「良かった」

遥は亜佑美の顔をまともに見れなかった。

258 :名無飼育さん :2015/06/15(月) 23:57
夕食も軽く済ませ、時間だけが過ぎていく。
テレビがついてるけど、頭に入ってこないみたいだ。
すぐ触れられる距離にいるのに、手を伸ばす勇気がない。
「ちゃんと、待つから」と約束してから数ヵ月、亜佑美の心に変化はあるのか、
遥には読めなかった。

とりとめのない会話が続き、ふと携帯を見ると終電の時間が迫っている。

「…そろそろ、帰る」

そう声をかけると、亜佑美はハッとしたように遥を見たあと、何かを言いかけて
やめた。

259 :名無飼育さん :2015/06/15(月) 23:57
「…うん」
「飯うまかった。ありがと」
「…うん」
「じゃあ」

靴を履こうと亜佑美に背を向けた瞬間、後ろから引っ張られてよろけそうになる。

「うわっ、あぶね…」

振り向くと、そこには真っ赤な顔で俯く亜佑美がいて。

「…どうかした?」
「…けば」
「へ?」
「…泊まってけば?」

彼女のその言葉を聞いたとき、世界が止まったような気がした。

260 :名無飼育さん :2015/06/15(月) 23:57
自宅に連絡し、宿泊の許可を半ば強引に取りつけたあと、遥はコンビニへと
向かった。
女の子ほどではないとはいえ、男だってそれなりの準備が必要だ。
いろいろ買い揃えて亜佑美の部屋へ戻ると、彼女はお風呂を沸かしながら
待っていた。

「くどぅー、先どうぞ?」
「え?…いいの?」
「うん。普通、お客さんが先でしょ?」
「あ、じゃあ…」

お風呂の中にも亜佑美の痕跡をあちこちに感じてしまい、全くリラックス
出来なかった。

用意してくれたバスタオルでガシガシと頭を拭きながら出る。

「ドライヤー使う?」
「すぐ乾くからいい」
「そっか。楽でいいね」

亜佑美がお風呂へ向かい、遥は一人残される。

261 :名無飼育さん :2015/06/15(月) 23:57
これからどうすればいいのか。
改めて冷静に部屋を見回してみる。
当然のことだがベッドは一つしかない。
布団が天井から降りてくるようなことない限り、このベッドで二人で寝る
ことは間違いないだろう。

今まで何とか理性を保ってきた遥だが、そんな状況で我慢できる自信はない。
そもそも、恋人同士が一夜を過ごすということがどういう意味なのか、亜佑美が
知らないわけがない。
それをあえて誘ったということはつまり、準備は整ったということなのか。

亜佑美本人に聞くわけにもいかず、悶々としたまま時が流れていく。

262 :名無飼育さん :2015/06/15(月) 23:58
それにしても、女の子のお風呂は長い。
あまりにも考え過ぎたせいか、急激な眠気が遥を襲う。

亜佑美が出てくるまで少しだけと思い、ベッドの端っこに横になる。

朦朧とする意識の中、遠くの方でドライヤーの音が聞こえた気がした。
その音はまるで子守唄のように心地よく、遥の体を深い眠りへと誘っていった。

263 :名無飼育さん :2015/06/15(月) 23:58
ふと目を覚ますと視界は暗く、遥は自分が置かれた状況をすぐに理解すること
が出来なかった。
目をこすりながら顔を横に向ける。

「…あ」

絶句というのはまさにこのことだろう。
遥が目にしたのは、隣でぐっすりと眠る亜佑美の姿だった。

どう考えても、何かが起こった形跡はない。
どうやらあのまま眠ってしまったことは間違いないようだ。

遥は起き上がり頭を抱える。
もしかしなくとも、一世一代の大チャンスを逃してしまったのではないか。

視界の隅には無防備な彼女が映る。
遥が起き上がったせいで布団がめくれて、Tシャツ姿の上半身が見える。
一気に体温が上がるのを感じた。

264 :名無飼育さん :2015/06/15(月) 23:58
そっと彼女の体の横に手を置くと、ベッドがギシッと軋んだ。

「…ん」

亜佑美が寝返りをうち、遥の方へ体を向けた。
ビクッとしながらも、もう一方の手を反対側へ置く。
大きく深呼吸をして顔を近付けると、「くどぅー?」と大好きな彼女の声が
耳に入った。

寝起きだからなのか、いつもよりも甘い声だ。
遥の顔を確認すると、安心したように首に腕を絡めて抱き付いてくる。

265 :名無飼育さん :2015/06/15(月) 23:58
「あ、亜佑…」
「あったかーい」
「…うん」
「くどぅーの匂い、好き」

自分がどんな匂いなのかはわからないが、亜佑美の匂いが好きなのは遥だって
同じだ。

「…俺も」

静かに答えると亜佑美は満足そうに「エヘヘ」と笑い、そのまま目を閉じた。
まもなく、スーッという規則正しい寝息が遥の耳にかかる。

「…マジかよ」

ため息をつきながら、遥もそっと亜佑美の隣に横になる。
湧き上がった欲望を抑えることに必死で、結局朝まで寝付けなかった。

266 :名無飼育さん :2015/06/15(月) 23:58







267 :名無飼育さん :2015/06/15(月) 23:58
数日後、ファーストフード店。
ため息をつきながらテーブルに伏せる男子が二人。

「…はあ」
「つーかさ、まーちゃんはため息つく必要ねーだろ。自分で選んだんじゃん」

遥の言葉に優樹が顔を上げて睨み付ける。

「それを今後悔してんの!せっかく、小田ちゃんがその気になったのに、なんで
 マサ、カッコつけたんだろ…」

どうやら優樹は新しい約束をしてしまったことを後悔してるようだ。

「どぅーだって、次はもう確実にエッチするでしょ、あゆみんと」
「…確実じゃねーし」

先に寝てしまったのは遥ではあるが、結局亜佑美の気持ちはよくわからなかった。
むしろ、今回何もなかったことで、次回はどうやってそういう流れに持ち込めば
いいのか。

268 :名無飼育さん :2015/06/15(月) 23:59
「なんか、チャンス逃したって感じだよね、マサたち」
「だな…」

健全な10代男子である。
そういうことへの興味は尽きない。
だけど、いざというときどうすればいいのかわからないのも事実であり、まだ
早いのかもという気持ちもあった。

「練習とか出来ないし、難しいよね」
「うん」
「どぅー、練習相手になってよ」
「は、はあ!?バッカじゃねーの!」
「冗談だよ、ジョーダン。…はあ」

優樹のとんでも発言は理解できないが、練習したいという気持ちはわからない
でもない。
亜佑美を傷つけたり怖がらせることはしたくない。
遥だって初めてなのだから、そこまで相手を思いやる余裕はきっとないだろう。
だからといって、亜佑美以外の誰かとそういうことをしたいとは思わない。

269 :名無飼育さん :2015/06/15(月) 23:59
「はあ…」

二人同時にため息をつき、思わず顔を見合わせて笑った。

こんなことで悩めるのは、もしかしたら幸せな証拠なのかもしれない。
そんなことを考えながら、遥はふと窓の外に目をやる。

3月中旬、少し早い春の嵐に桜の花びらが舞う。
優樹という友と出会い、亜佑美という恋人に巡り合った中学時代。

そんな遥の中学校生活が、もうすぐ終わりを告げようとしていた。

270 :名無飼育さん :2015/06/15(月) 23:59
本日は以上です。
271 :名無飼育さん :2015/06/17(水) 10:29
素晴らしすぎる
胸がキュンキュンしました
272 :名無飼育さん :2015/06/17(水) 21:41
二組みとも応援したいような
もっとこのもどかしさを味わっていたいような・・・
そして約束気になります
273 :名無飼育さん :2015/06/20(土) 23:57
更新待ってました><
みんな少しづつ歩んでいってますね。
それにしても色々可愛すぎる。
274 :名無し飼育さん :2015/09/09(水) 15:31
更新期待してます。
275 :名無飼育さん :2015/10/18(日) 01:20
レスありがとうございます。

>>271
これからもキュンキュンしてもらえるよう頑張ります!

>>272
もどかしさを楽しみながら、引き続き応援して頂けると嬉しいです!

.>>273
本当に少しずつで申し訳ないですが、見守って頂けると嬉しいです!

>>274
長らくお待たせいたしました。
276 :名無飼育さん :2015/10/18(日) 01:20
「…ん」

彼女の甘い声が遥の五感全てを刺激する。
震える手でそっと体に触れるたびに、見たことのない彼女が現れる。

「亜佑美…」

愛しくて堪らないその名を呼ぶと、彼女は恥ずかしそうに、だけど幸せそうに
微笑んだ。

「…いいよ、くどぅー」

遥はもう何も考えず、自分の欲望に従った―――――。

277 :名無飼育さん :2015/10/18(日) 01:20
ピピピッ、ピピピッ、…。

「…うわっ!」

部屋に鳴り響く携帯のアラームが朝を告げる。
驚いて飛び起きた遥は、ベッドの上で頭を抱えた。

「また夢かよ…」

亜佑美の家に泊まったあの日から、幾度となく訪れるリアルな夢。
どれだけ欲求不満なのかと自分でも呆れてしまう。
目覚めたあとに残るのは、どうしようもない喪失感と罪悪感。

亜佑美のことをそんな目で見たくはないのに。
それなのに…。

深いため息と共に再び携帯に目を移すと、愛しい彼女からメッセージがあった。

『週末、うち来れる?』

かわいらしい文と一緒に送られていたのは、おいしそうな料理の写真だった。
最近、亜佑美は料理にはまっているらしい。
手料理を食べれるのは嬉しいのだが、亜佑美の部屋で二人きり、いつまでも進展
しない関係にモヤモヤしている自分がいた。

278 :名無飼育さん :2015/10/18(日) 01:20
この4月から始まった高校生活は至って順調だった。
友達もたくさん出来たし、水泳も続けている。

相変わらず女子からの人気は高く、入学式の翌日に最初の告白を受けた。
もちろん、丁重にお断りしたが、『見えない恋人』の存在は彼女たちにとって
リアリティがないらしく、その後も数人からしつこく誘いを受けている。

「工藤君!今日、カラオケ行こうよ?」
「あー、悪いけど、パス」
「えー、なんで?」
「前に言ったじゃん。俺、彼女いるし」
「カラオケくらいいいじゃん!」

遥も正直、それくらいならいいかなと思わなくもない。
しかし、それが亜佑美に知られたときのことを想像すると、とてもじゃないが
行く気にはなれない。
今度はヘアスプレーのフタどころではすまないかもしれないのだ。

恋人がいるというのは少しだけ窮屈だ。
だけど、それ以上にとても幸せなことで、遥の頭の中は亜佑美のことでいっぱい
だった。

279 :名無飼育さん :2015/10/18(日) 01:20
そんなこんなで週末。
遥は約束通り、亜佑美の部屋で料理が出来るのを待っていた。
毎日バイト三昧の上に、平日も土日も劇団の稽古がある亜佑美と過ごせる時間は
限られている。
今日もさっきまで稽古があったらしい。
疲れているはずなのにこうして会う時間を作ってくれることが嬉しかった。

ふと、机の上に置いてある台本が目に入る。

「これ、今度の舞台の?」

キッチンにいる亜佑美に問いかけると、「うん」と短い返事が返ってきた。
どうやら料理に集中しているようだ。

暇なので何気なく台本を手に取り、ページをめくる。
最初のページに配役が載っていた。
入団したばかりでちょい役しかもらえなかったと言っていたが、亜佑美の名前は
真ん中ら辺にあり、きちんとした役名がついている。
自分のことのように少しだけ誇らしく思う。

そのまま配役ページを眺めていたが、ある名前を見た瞬間、遥の動きが止まる。

280 :名無飼育さん :2015/10/18(日) 01:21
『鈴木 愛理』

別に鈴木なんて苗字は珍しくはない。
日本には鈴木さんはたくさんいるのだ。
きっと、劇団に入っている鈴木だって巷に溢れているだろう。

だけど、遥の胸騒ぎは止まらない。

281 :名無飼育さん :2015/10/18(日) 01:21
―――――一緒にやろうって誘ってくれる人がいてね。

見たことのない大人びた表情で夢を語っていた亜佑美。

282 :名無飼育さん :2015/10/18(日) 01:21
―――――石田も、すごい成長したね。

顔を赤らめながら嬉しそうに笑っていた亜佑美。

283 :名無飼育さん :2015/10/18(日) 01:21
―――――石田さん、鈴木先生と付き合ってるんじゃないの?

写真の中、お姫様抱っこをされている彼女の姿が鮮明に蘇った。

284 :名無飼育さん :2015/10/18(日) 01:21
「お待たせー」

亜佑美が料理を運んでくる。

「…くどぅー?どうかした?」
「これ」
「ん?」

手にした台本を見せると、亜佑美は頬を赤らめた。
その反応が遥のモヤモヤを加速させる。

「もー、勝手に見ないでよ」

それはいつもの軽口だったけど、今の遥にとっては地雷だった。

「なんで?」
「え、なんでって…なんか恥ずかしいし」
「それだけ?」
「…え?」
「見られたくない理由、他にあるんじゃねーの」

亜佑美には遥が怒っている理由がわからない。
不安そうにそばに座る彼女に、今は優しく出来そうにない。

285 :名無飼育さん :2015/10/18(日) 01:22
「劇団に誘ってくれた人って、俺の知ってる人?」

遥の問いに、亜佑美は一瞬迷った素振りを見せたあと、目を逸らして答えた。

「…知らない人だよ」
「ホントに?」
「うん」

俯きながら答える彼女が嘘をついていることは明白だった。

「鈴木先生じゃねーの?」

ハッとして顔を上げた亜佑美の表情で、遥の疑念が確信に変わった。
鈴木先生は、亜佑美の高校の演劇部に指導しにきていた教育実習生だ。
遥と知り合う前、亜佑美が憧れていた相手で、付き合っているという噂もあった。

286 :名無飼育さん :2015/10/18(日) 01:22
「なんで、嘘つくんだよ」
「べ、別に、嘘つくつもりじゃ…。くどぅー、覚えてるなんて思わなかったし、
 それに…」
「なんだよ?」
「…言ったら、気にしちゃうかなって…」

図星だったその言葉に、遥は思わずカッとなる。

「やましい気持ちがあるから、言わなかったんじゃねーの?」
「そんな気持ちない!」

亜佑美もムキになって言い返してくる。
このままじゃダメなことはわかっている。
わかっていたけど、遥は自分の感情を抑えることが出来なかった。

287 :名無飼育さん :2015/10/18(日) 01:22
「ホントはずっと好きなんだろ!あいつのこと」

怒鳴った瞬間に泣いている亜佑美に気付き、一気に後悔の念に襲われたが、
もう遅かった。

「…って。帰ってよ!」

静かな空間に亜佑美の声が響き渡る。
投げつけられた言葉は、ヘアスプレーのフタなんかよりずっと、遥の胸に
突き刺さった。

288 :名無飼育さん :2015/10/18(日) 01:22
その後数日間、当然のように亜佑美からの連絡はなく、遥からも何もしなかった。
いや、出来なかったという方が正しいかもしれない。
今までにもたくさんケンカをしてきたが、今回はそれよりも酷い状況だ。

嘘をついていた亜佑美が悪いという気持ちもある。
だけど、あんなことまで言うつもりじゃなかった。
彼女の思いを全て否定するような、あんな酷い言葉を。
どれだけ自分のことを思ってくれているかなんて、一番よくわかっているのに。

謝ろうと思うたびに、脳裏にあの写真が浮かぶ。
遥がずっと抱えてきた年下というコンプレックス。
その一因は紛れもなく、鈴木先生の存在だった。
軽々と彼女をお姫様抱っこする年上の彼。

遥だって水泳で鍛えてはいるが、もともと細身でそれ程筋力はない。
今の自分に亜佑美をお姫様抱っこする力があるかどうか。
自らの細い二の腕をさすり、遥は深いため息をついた。

289 :名無飼育さん :2015/10/18(日) 01:22
「工藤君!今日こそ、付き合ってよ!」
「…んー?」
「カラオケじゃなくて、ファミレスでいいから。ね?」

亜佑美のことで頭がいっぱいな遥は、上の空で生返事する。

「うん」
「え?いいの!?」
「…へ?」
「やったー!」

我に返ったときには後にひけない状況で今さら断ることが出来ず、遥は仕方なく
彼女と共に下校することになった。

「ねえねえ、何食べる?」
「んー…」

校門に向かう途中もボーっとしていて、女の子がさり気なく絡めてくる腕にも
気付かない。

そんな状態だから、校門に立っている彼女の存在に気付かないのも仕方なかった。

290 :名無飼育さん :2015/10/18(日) 01:23
「…くどぅー」

聞き慣れた愛しい声に耳を疑う。

「え…、なんで…」

夢じゃない、目の前に亜佑美が立っている。

「…これ、忘れていったから」

亜佑美の手には遥のキャップ。
誕生日に初めて彼女から貰ったプレゼントだ。
わざわざ届けに来てくれたことに胸が熱くなる。

291 :名無飼育さん :2015/10/18(日) 01:23
「でも、もういらないみたいだね」
「え?」

遥は忘れていたのだ。
気が動転するあまり、今の自分の状況、つまり女の子と腕を組んでいるという
ことを。

「あ、これは、違くて…」

慌てて腕を離そうとするが、彼女は余計に遥との距離を縮めてきた。

「…彼女と仲良くね」
「あ、ちょ、亜佑美!」

遥の声は亜佑美には届かなかった。

292 :名無飼育さん :2015/10/18(日) 01:24
本日は以上です。
久々の更新がこんな内容で申し訳ないです。
今後の展開を見守って頂ければ幸いです。
293 :名無飼育さん :2015/10/18(日) 21:20
待っていた甲斐がありました!
工藤君が相変わらずで愛おしいです。今後の展開に期待しています。
(もう一作の方も首を長くして待っています)
294 :名無飼育さん :2015/10/24(土) 23:54
うまくいかない二人がもどかしい・・・
295 :名無飼育さん :2015/10/25(日) 19:43
ひさびさの更新きてた…
しかし修羅場に突入していた…
くどぅーあゆみんに幸あれ!
296 :名無飼育さん :2015/11/08(日) 03:53
レスありがとうございます!

>>293
お待たせいたしました!
もう一作の方、年内には必ず完結させますので、もうしばらくお待ち頂ければと思います。

>>294
もどかしさが大好物な作者です。
すいません…!

>>295
きっと幸ある…はずです。
見守って頂ければ嬉しいです。
297 :名無飼育さん :2015/11/08(日) 03:53
走り去る亜佑美を追いかけることも出来ず、遥は結局流されるまま
ファミレスに来ていた。
クラスメイトの女子のはしゃぐ声も耳に入らない。
こんな自分と一緒にいて何が楽しいのだろう。
途切れることなく話し続ける彼女を、冷めた目で見つめていた。

追いかけられなかったのは、まだ亜佑美を許せないからなのか。
それとも、女の子と腕を組んでいたという負い目からか。
いずれにしても、追いかけることが出来なかった自分に一番腹が
立っていた。
298 :名無飼育さん :2015/11/08(日) 03:53
「あれ?どぅー?」

聞き慣れた声にハッと顔を上げると、目の前に優樹が立っていた。
その横には当たり前のようにさくらがいる。

いつも通りの人懐っこい笑顔が、一緒にいる相手を確認した瞬間、
明らかに不機嫌な顔に変わる。

「…亜佑美と一緒じゃないの?」
「…ん、まあ」
「なんで?その子、誰?」

想定外の優樹の厳しい問いかけに、遥は言葉を失う。

「ねえ、どぅー、なんとか言ったら?」
「佐藤さん、落ち着いてください」

止めに入るさくらを気にも留めず、優樹の追及は続く。
二人に亜佑美とのことを聞いてほしいと思った。
優樹ならきっと情けない自分を引きずってでも亜佑美の元へと
連れていくだろうし、さくらは優しい笑顔で背中を押してくれる
だろう。

だけど、今は素直な気持ちになれなかった。
299 :名無飼育さん :2015/11/08(日) 03:54
「…まーちゃんには関係ねーだろ」

優樹の顔を見れずに俯いた遥に、強烈な言葉が浴びせられる。

「もう知らない!どぅーなんか大っ嫌い!」

優樹の後ろ姿が亜佑美のそれと重なる。

恋人と親友を同時に怒らせてしまった。
人生最悪の日だ。

どこか人ごとのように、遥はぼんやりとそんなことを考えていた。
300 :名無飼育さん :2015/11/08(日) 03:54









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