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Edge of Eden

1 :たすけ :2013/09/16(月) 14:44
みやももで、捏造三昧。

時間の流れ等も合わないことがあるかもしれません。
話の根幹にはまったく関わりがありませんが、一部オリキャラあり。
ご注意ください。

短期でさくっと更新予定。
338 :たすけ :2014/05/11(日) 18:27
△▼△
339 :たすけ :2014/05/11(日) 18:27
△▼△
340 :たすけ :2014/05/11(日) 19:32
お伝えし忘れてました。続きます。更新はまた明日に。
341 :overflow :2014/05/12(月) 20:44
叫ぶと、少し気分がマシになった。
最悪は最悪の気分だが、最低というほどではない。
落ち着いてふと気付けば、持っていたはずのバッグがない。
きっと楽屋前に落としてきたのだろう。

バッグさえきちんと持ってきてさえいれば、そのまま帰ることも出来たのに。
ペットボトルなんて忘れて帰っていればよかった。
春だとはいえ、夜はまだ肌寒い。
まして屋上は風も強く、冷える。
よく晴れた夜空の下光るネオンも、今の梨沙子の目には美しく映る訳もない。
後ろ向きな思考のまま、埒もなく先ほどのことを反省しながら梨沙子はしゃがみこむ。
言わなければよかった。
つい口をついて出てしまったのだから仕方ないのだが、それでも言わなければよかった。

バッグがなければ帰れない。
しかし、楽屋に戻れば桃子とはちあわせだ。
iPhoneもバッグの中で、雅や佐紀の助けも望めない。
これは暫く、時間を潰すしかない。
結論にがっくりと頭を落とす梨沙子の背後で、扉がきぃと音を立てて開いた。
342 :overflow :2014/05/12(月) 20:45
「あの、どうもー。バカな桃です……」
「はぁ!?」

認識より先に、反射で声が出た。信じられない。
いるはずのない、いや、いてはいけない、聞こえるいはずのない人の声。
勢いよく振り向けば、小さな体をさらに縮めるようにして梨沙子の方へと歩いてくる桃子がいる。


「なんでいるの!?」

もう会えないとまで思ったのに。
心底から出た疑問は、完全な詰問になった。
怒られた桃子はひどく申し訳なさそうに眉を下げていたが、梨沙子の険しい顔に、肩をびくっと震わせる。

「なんでってそりゃ、追いかけるでしょ普通」

情けない返事に、驚きでフリーズしていた脳がやっと思考を始める。

普通、追いかける!?ウソでしょ!?


寝ている間に仕事仲間から、梨沙子から告白されたのだ。
普通、聞かなかったことにしてくれるものなのではないだろうか。
そっと寝ていてくれれば、そっとしておいてくれればそれで済んだ。

「普通追いかけないでしょ!なんでわざわざ来る訳!?」

しかも、第一声がひどい。
デリカシーがないにもほどがある。
343 :overflow :2014/05/12(月) 20:47
「だって追いかけないわけにはいかないよ」

声を荒げた梨沙子にさらに遠慮するように、桃子がぼそぼそと反論する。

「どうしてよ!そっとしといてくれたら良かったんじゃん。桃だってそうするつもりだったんでしょ?そしたらさ」
「そうだよ。でも、できなかった」
「なんでよ」

もう全部終わりだというのに、なぜこんな言い争いまでしなければならないのだろう。
桃子が悪いわけではないのに、桃子を責めている自分にも腹がたつ。
泣きたくなって、梨沙子はうつむいた。

「ごめん。悪いの、桃じゃない。あたし。聞こえてたんでしょ?もうさ、いいから放っておいて。そしたら明日から元通りだから」
「ならない。元通りになんて、なんないよ。放ってなんておけない」

断固とした桃子の声に、顔をあげてついに梨沙子は桃子を怒鳴りつけた。

「だから、なんで!」
344 :overflow :2014/05/12(月) 20:49
「だって私、好きだもん」

平素と変わらぬ、静かな声と真剣な表情。
放たれた答えに梨沙子の時が止まった。

風が吹いて、梨沙子と桃子の髪が煽られる。
桃子がめくれそうになった自分のワンピースの裾を押さえた。

「聞こえた?」

握りしめた裾はそのままに、きゅっと唇をかみしめて、桃子が梨沙子の方へと歩いてくる。

「聞こえた、と思うけど」
「梨沙子が好き」

桃子の声が柔らかくなる。
自分の耳が信じられない。あまりにもいつも通りの桃子の顔を凝視し、梨沙子は首を振る。

「どうせ仕事仲間としてでしょ。桃、わかってない。そんな好き、いらない。あたしの好き、そういうんじゃないよ」
「それならこんな言い方しないでしょ」
「でも、同情とかでしょ」
「だから、違うって」
「じゃ、どうしてそんな普通なの!?」
「どうしてって」

桃子の声が情けなくなる。
345 :overflow :2014/05/12(月) 20:58
「桃、いつもあたしに甘いもん。あたしが好きだって言ったから、あわせてくれてるんでしょ。ほんと、同情とかいらないから」
「そりゃそうだって。甘いの、当たり前でしょ。だって、前から好きだったもん。しょうがないよ」

桃子の手が伸びてくる。
とっさにいつものように逃げようとした梨沙子だが、桃子の瞳が揺れたのをみて、その場にとどまった。
桃子が眉をハの字にして困ったように笑う。

「梨沙子が好きだった。ずっと。いつか他の男の人とか、誰かを好きになると思ってたけど、どうしても気になって。

しかも梨沙子、私より絶対みやのが好きだし。桃が出る幕、ないと思ってた。でもそれでいいって」


桃子の額が梨沙子の肩に落ちてくる。
いつもならしっかりと抱き着いてくる距離なのに、そうはせず、肩口に頭を寄せただけ。
桃子の髪がさらりと梨沙子の胸元で滑る。
桃子が使っている、いつものシャンプーのにおいがする。

「りーちゃんが幸せなら、それでいい。桃も誰か、桃のこと好きになってくれる人と、いつか。
そんなこと思ってるのに、りーちゃん、桃のことじーっと見てくるし」
346 :overflow :2014/05/12(月) 20:59
信じられない。

けれど、もう顔を合わせられない、合わせる顔がないとまで思った桃子は梨沙子のこんなに近くにいる。

そう。
桃子は梨沙子に甘かった。
いつも、お姉ちゃんの顔で梨沙子をフォローして、助け、許してくれた。
今日もやはりそれなのだろうか。仕事を、円滑にこなすための嘘かもしれない。

けれど、桃子の言葉はこんなにも梨沙子の胸をうつ。

信じてもいいのだろうか。
桃子の顔を上げる。
寒いせいか、顔色は少し悪いが、まんまるの目が梨沙子をまっすぐに捉える。

「りーちゃんいっつも桃に当たりがキツイし、本当は嫌いなのかなってへこんだときもあったけど」
「違う!」

そこだけは誤解されたくなくて、勢いよく反論する梨沙子を制するように、桃子が大人の顔で頷く。

「うん。普通に嫌いじゃないことは知ってたけど。でも見られてると気になって。
梨沙子は嫌いな子、じっと見ることはしないだろうし、もしかしたら、私のこと、好きかなって期待することもあった。
それで諦められなくて。りーちゃん悪女だよ」
347 :overflow :2014/05/12(月) 21:02
いつもの冗談を言おうとして、失敗したように苦笑いをする桃子の顔をみて、ゆるゆると実感が胸にせりあがってくる。

信じてもいいのかもしれない。

桃子は確かに、はぐらかしたり、誤魔化すことも多いが梨沙子のことを騙すことはしなかった。
本当は最初からわかっていた。
けれど、あまりのことに信じられない思いの方が強くて、気持ちがついてこなかった。
やっと、これが現実だと信じられる。
まだ夢のような気もするが、やっと。

「諦めようって思ってたけど、今日わかった」

桃子の手が梨沙子の羽織ったジャケットを握りしめる。

「さわられて目が覚めて、夢かと思って、びっくりして。でも、違って。りーちゃんの顔みて、夢じゃなかったかもって」

桃子の目元がふわりと和む。
その端に光る滴を見て、思わず梨沙子の手が桃子の頬に伸びる。

「とっさに誤魔化してごめん。反応できなかったけど、うれしかったんだよ」

梨沙子の指で涙を拭われ、桃子が目を細めてくすぐったそうにする。
348 :overflow :2014/05/12(月) 21:08
幸せで、なんだか胸が詰まる。この気持ちはなんだろう。
梨沙子の心臓がばくなくと耳元で鳴り始める。
が熱くて、じっとしていられないような気がするのに、ずっとこうしていたいようでもある。

「りーちゃんは?さっきから桃ばっかりじゃん。もう一回言ってよ」

頬を紅潮させ、ちょっと悪い笑顔できらきらと目を輝かせる桃子から思わず目を逸らす。
見慣れているはずのこんな顔なのに、梨沙子にはいつもよりもずっと可愛く、特別に見える。

「もうい言ったでしょ」
「いいじゃん!聞きたいの!」

照れくさくて、逃げようと思ったのに桃子は梨沙子を逃がしてはくれない。

「好きだよ」

逆ギレのようになってしまった言葉なのに、あまりに嬉しそうに桃子が笑うものだから
梨沙子はかえって恥ずかしくなる。

「心がこもってなーい!ちゃんと言って」

なんだか調子にのせてしまったようだ。
桃子からぎゅっと抱き着かれてせがまれ、居心地が悪く、梨沙子は身じろぎする。

「ねぇりーちゃん」
349 :overflow :2014/05/12(月) 21:12
もういっか。

桃子の顔も近いし、面倒だし、なにより、ずっとしたかったし。
言い訳を並べて、拒まれるかもという恐怖を追いやる。
桃子がこれだけ言ってくれたのだ。

目を閉じる瞬間にみた桃子の驚きの表情に、梨沙子は口元だけでほほ笑む。
よかった、逃げられてない。

ついで訪れる、ふわりとした感触。
とても長時間キスなんてできなくて、急いで離れる。
桃子は耳まで顔を赤くし、固まっていた。

「桃?」

茫然とした目に不安を感じ、呼びかけると腕の中の桃子が勢いよく後ろを向く。

「やだった?」

嫌そうには見えなかったのに、本当は我慢してくれたのだろうか。
とたんに不安がこみ上げ、梨沙子が眉をさげて桃子の肩をつかむ。
こちらを向いてはほしいが、振り向かせた桃子の表情に否定の色が浮かんでいたらと思うと、怖くて力がこめられない。

「びっくりしただけ」

蚊の鳴くような声で返事が返ってきて、梨沙子が脱力してへたりこむ。

「ちょ、梨沙子?」
「やめてよ。やだったのかと思ったじゃん」
350 :overflow :2014/05/12(月) 21:15
安心のあまりいつもの憎まれ口がつい出た。
非難されているというのに、妙に嬉しそうな顔で桃子はにやりと唇を持ち上げ、しゃがんだ梨沙子へと手を差し伸べる。

「やなわけないじゃん。りーちゃんはもうちょっと自信を持ったほうがいいよ」
「え?」
「こーんな可愛いももちが好きになった人なんだからさ。堂々としてたらいいんだよ」
「何それ意味わかんない」

いつものように呆れて鼻で笑ってやりたかったが、うまくいかずに満面の笑顔になってしまった。
そのままげらげらと笑い出だした梨沙子に、ふくれっ面を装うとした桃子がそれに失敗して後に続く。
ひとしきり笑うと、梨沙子は差し出された桃子の手を取り、どちらともなく歩き出す。

「りーちゃん、手冷たい」
「だってここ、寒いもんしょうがないでしょ」
「そうだよ寒いよ!早く帰ろ」

気が付けば月も天頂高く上っている。

「やば。今何時かな」
「わかんないけど」

桃子が梨沙子をちらりと見上げる。

「今日一緒に帰ろ」
「うん」

方向が違うとか、少ししか一緒にいられないとか、桃子もわかりきっているはずの野暮な事を言うのは止めにする。
頷いて、つないだ手に力を込めると、桃子もぎゅっと握り返してくれた。
351 :overflow :2014/05/12(月) 21:15

△▼△

352 :overflow :2014/05/12(月) 21:17
それで二人の何が変わったかというと、そうそう劇的な変化があるわけもなく。

桃子は相変わらず忙しそうに働き、よく食べ、よく笑い、楽屋で騒ぐ。
梨沙子も変わらず、普段どおりに生活し、雅と買い物へ行ったり、よく食べ、よく笑う。
梨沙子から桃子にLINEやメールをしても、あの夜以降も平常運転で返信は遅い。
恋人になっても、やはり無精は相変わらずだ。

ただ、内容は少し違う。ごく稀に、ごくごく稀に混じる恋人らしい言葉。
意外に照れ屋の桃子がどんな顔をしてこれを打っているのか確かめたくもなるが、意地悪もよくないと梨沙子はそこには触れず、淡々とメッセージを保存する。

ふとした時、梨沙子が桃子を見つめてしまうのも前と同じ。
目が合う回数は格段に増えた気がする。
確認したところによれば、以前の桃子はわざわざ、梨沙子の視線を感じると器用にもそれを避けていたらしい。
353 :overflow :2014/05/12(月) 21:21
べつに、そこまでしなくてもよかったよね。


顔をしかめ、ちらりと視線をやれば、ジャージ姿で立っている桃子と鏡越しに目が合う。
只今ダンスレッスンの休憩中。
メンバーは皆メモを見たり、振りの確認をしたり、騒いだりと各々勝手にやっている。

面白くない気分のまま、しかめっ面で舌を出すと、桃子からは何故かへたくそな投げキッスがとんでくる。

「ばか」と口に出そうとして、ふと考える。
いつも同じ反応というのも、よくはない。

キスを受け取って、そのまま唇に押し付けた指を桃子へ。
とっておきの顔までつけてやったのに、恋人からのお返しに何やら焦って躓いている桃子が可笑しくて、梨沙子は声をあげて笑った。
354 :overflow :2014/05/12(月) 21:21


355 :名無飼育さん :2014/05/12(月) 21:31
更新中に立ち会ってしまった!
りしゃもも良いですねりしゃもも
更新ありがとうございました
356 :たすけ :2014/05/12(月) 21:32
overflow、終了です。

これにてこのスレ、Edge of Edenもおしまいです。

読んでくださった皆様に感謝。レス、本当に励みになりました。
ここまでお付き合い下さってありがとうございました。
357 :たすけ :2014/05/12(月) 21:34
>>355
こちらこそいち早いレス、ありがとうございます!
お礼が言えてうれしいです。
よかったー。
358 :名無飼育さん :2014/05/12(月) 21:52
更新おつかれさまでした。そして、ありがとうございました。
みやももではなく、りしゃももに驚きましたが、このお話も素敵ですね。
本当にありがとうございました。
359 :たすけ :2014/05/17(土) 22:29
>>358
最後がみやももでないことには少し悩みましたが、これはおまけということで。
お許しいただけてよかったです。
レスと、それから最後までのおつきあいを本当にありがとうございました。
360 :たすけ :2014/07/03(木) 23:23
おまけのおまけ。広い心でお付き合いくださるとうれしいです。古典的なネタとオチですみません。
361 :!?short ver. :2014/07/03(木) 23:25
目を開けると、ゆらゆらと黒いなにかが揺れるのが見えた。
あぁ、ももち結びか、これ。
そういえば、楽屋のソファーで寝てたんだった。

ちょっとずつ思い出す。
桃と喋ってて、桃が眠いって言っていつものあのブランケット出してきて、「みやも寝よ」とかって。
そんな気なかったんだけど、誰も帰ってこないし、つい桃と一緒に寝ちゃってたみたいだ。
そんな時間たってないはずなのに、妙に首と肩が痛い。
疲れてんのかな。おかしいな。
伸びをして、「んー」と、聞こえた声に違和感。
「桃、起きたの?」

違和感。

聞こえた、というのはなんか違ってたと思う。
そのときはそれどころじゃなかったけど。
「え?」
慌てて振り向く。 鏡が、たしか、そこに。
びっくりした。びっくりすると、鏡に映った桃も一緒にびっくりする。
「えーーー!!?」
「なに、うるさい……」
がばっと振り向くと、私がいる。
そうだ。私がいる。鏡や、カメラチェックとかでよく見る私。
「う……っそでしょ」
今度こそ、声が、この声が自分から出てるんだってわかる。
ちょっと、いつもの桃の声っぽくなかったけど、明らかに私の声じゃない。
でも、これ、意識するとそうだ。桃の声だ。
362 :!? short :2014/07/03(木) 23:27
慌てて鏡まで走る。写ってる姿は桃だ。私が手をあげると、桃も手をあげる。
いつもよく見てるまんまるの目で、びっくりしているこの顔を触ってみる。
違う。なんか違う。すごい違う。
手をみて、さらに違うって思う。これ、私のじゃない。
ちっちゃな爪、短い指、ぷくぷくした手。
これ、知ってる。桃のだ。桃の指だ。

「ちょ、起きて!はやく!」
桃、と横にいるはずの桃の名前を呼ぼうとして、凍り付く。
ソファにいるのは私だ。
さっきまでいたソファに戻って、横にいる私によく似た、っていうか、みやそのものなんだけど、その人の髪に触れてみる。
これ、誰?何回見ても私だ。目の横のほくろも、今日付けたピアスも、なにもかも。
っていうか、私がここにいるって事は、私、だれ?
何が起きてるんだろう。急に恐くなって、ソファにぺたんと座りこんだ。

「ん?みや、おは……?え?」

桃が起きたとこから、ちょっと落ち着けた。
あぁ、これ、ほんと桃だ。
大慌てで、大騒ぎする私は、桃そのものだった。
声は違うけど、動きも、喋ってる事も全部桃だ。

自分の姿で桃の動きを見るのはちょっとキツかった。正直気持ち悪い。
でも、その冷めた分だけ冷静になれた。
363 :!? :2014/07/03(木) 23:27
あー、やっぱ、表情って大事だな。次、なんか撮る時気をつけよ。
ひたってたら、私が、っていうか、桃が、「何、何、なに、どゆこと!?ウソ、え?ちょっと、みや!え?みやなの?」「ちょ、どういうこと!?」なんて肩をすごい勢いで揺すってきてぐらんぐらん首が揺れる。

「ちょっと、やめて。桃、落ち着きなって」
「やっぱり、私だ。うん。で、中はみやなのね。はぁー」
たっぷり騒いだあとへなへなとソファの上に情けなくしゃがみ込んで、桃は、いや、みやが頭を抱える。
自分の姿をDVDとかテレビ以外でこうやって見ることなんてないから、すごい新鮮だ。
歌とかで自分の声なんてよく聞いてるけど、それを生で聞くとこんなのなんだ。
せっかく聞いた自分の声がこんなしょぼくれてるの、やだな。
「ね、みやの格好でそんな情けない声、出さないでよ」
「そんなこと言われても。よくみや、そんな冷静でいられるね」
「うん。桃見てたら落ち着いた」
試しに情けない顔でこっち見てくる自分の顔をぺたっと触ってみる。
うーん。よくわかんない。
もうちょっと、なんかいつもの感触っていうか、実感がわくかと思ったけどほんと、わかんない。
でも、この顔されるのなんか、ほんとヤだからぐにっと頬を摘んでみる。
364 :!? short ver. :2014/07/03(木) 23:29
「なによ」
「その顔やめな。私の顔でそんな顔すんな」
「だってさぁ」
ぶちぶちと文句を言いながらも、桃はなんとか立ち直ったみたいでいつもの桃の、ぺたんってするお姉さん座りでこっちを見下ろして今度はこっちの顔をぺたぺたと遠慮なしに触ってくる。

「はぁー。私の顔だぁ。うーん、こんな風に外から見るとは思わなかった。……うん、やっぱり可愛いな」
「ちょ、感想、それなの?ないわー。ちょっと、ほんと、人の体勝手に使わないでよね」
「それ、お互い様でしょー」
すねたように言われて、思わず吹き出す。
だって、ほんと、桃だこれ、と思って。
なんか中味でこんな違うもんなんだ。きょとんとした顔は私のだけど、すごい、桃だった。

ふたりでちょー笑って、落ち着いて。
「で、どうする?」
「まさかこんな、漫画みたいなことが起きるとはね。とりあえず、みんなは?」
「わかんない。もう来るとは思うけど。今何時?」
「んー」
桃が見る携帯は、勿論桃の。見た目、私が桃の携帯を見てるっていうのがなんかほんと、変な感じ。
ぐしゃぐしゃになった髪が気になって、直してると首をふって嫌がられる。
365 :!? short ver. :2014/07/03(木) 23:31
「止めて。くすぐったい」
「そっちこそ私の髪なんだから気を使って」
「わかった。でもさー、前髪なくて、すごい落ち着かないんだけど」
ふるふると犬みたいに顔を振る自分を見て、似合わなくて嫌になる。
「だからやだって言ったでしょそれ。あ」
「あ、みや、桃。おはよ」
「「キャプテーン!」」
「え?どしたの」


ドアあけて、挨拶したキャプテンに安心して、思わず肩の力が抜けた。
ちらっとみた私の顔した桃も、安心した顔してたから、私もきっとよく似た顔をしてたんだろう。
さすがキャプテン。ほんと、良いところに来てくれた。これでやっとなんとかなる。
366 :!? short ver. :2014/07/03(木) 23:32
そう思ってたんだけど、まぁ、現実っていつも、うまくはいかないよね。
キャプテンの後、まぁさが来て、んで次々にみんながきて。
丸くなって座ったんだけど、みんな変な顔してこっち見てる。

最初キャプテンとした「ふざけてんの?」「ウソでしょ?」「冗談とかじゃなくて?」をまだやらないといけないのかな。
あれ、うちが今桃のせいか、なんか皆いつもよりあたりがキツくて、こたえるんだけど。

「ねぇ、うち、まだ信じらんないんだけど」
熊井ちゃんが心底困った、って顔でこっちを見てくる。
「ねぇ、桃、ほんとなの?」
「ほんとなんだな、これが」
「へ?なんでみやが答えるの?」
「だから、今、みやがもぉなんだって」

机につっぷした桃が、大きなため息をつく。
気持ちは一緒だけど、人の体であんまり情けない声出すの、ほんと止めてほしい。
「ほんとだよ。今は桃が私で、私の中にいるのが、桃」
今喋ってるこの声も違和感ばっかだ。桃の声が自分の声だなんて。
私の声も、桃の喋りで聞くと変なの、としか言いようがない。
みんなもそういうのを感じてるのか、全員がなんか変なものでも食べたみたいな顔になる。
「え?ちょっと、わかんない。だから、みやが、桃で、桃がみやなんだよね」
「さっきからずっとそう言ってるでしょ、ちぃ」
「待って、ほんとあたし頭痛くなってきた」

唸る千奈美の横で、梨沙子が頭を押さえてる。

「いい加減信じてよ」
「まぁ信じるけどさ」
367 :!? short ver. :2014/07/03(木) 23:34
キャプテンが頷いて、手を叩いて「はーい、注目」って皆を黙らせる。
「まだ正直信じらんないけど、桃はともかく、みやがこんな冗談言うの、あり得ないし。私は二人を信じることにする」
「ともかくって」
「み、じゃなかった、桃、黙って。うん。手が込みすぎてるし。で、どうする?まだマネージャさん達とか、誰にもこれ、言ってないんだよね」
「言ってない。さっき起きたばっかだし」

桃と二人で首を振る。
ももち結びがぶんぶん揺れて、嫌な顔をされた。
なに、「振りすぎ」?しょうがないじゃん、慣れてないんだから。
持ち主なんだから、ちょっとあたるぐらい我慢しなよね。

「桃、今日、この後は?」
「収録済ませてきたから、ダンスレッスンの後は帰り」
みやの顔と声で、桃が喋る度に皆が変な顔をするのにも慣れてきた。
皆の対応には慣れたけど、でもまだ自分が目の前にいるのには慣れない。
だから出来るだけ桃から目を逸らしているようにしてる。
「ん。じゃ、ダンスレッスンだけ乗り切ればいいとして。まぁ、これ、ほんとどうしよ」
「さっさと言えば?会社の人とか、皆で相談すべきだと思うけど」
「まあさの言う通りかもだけどさ、でも、ライブとか中止になんじゃないの?最悪解散とかさ」
「やだ!やだよ、そんなの。だってさ、みやも桃も元気じゃん!」

梨沙子からびしって指差されて、のけぞる。
普段梨沙子にこういうことされないから、なんだか恐い。
368 :!? short ver. :2014/07/03(木) 23:35
「解散はないにしても、休業はあるかもね」
「それもやだよ。だってさ、10周年とかってさ、これからだよ?うちら皆で頑張っていこうね、って言ったばっかじゃん」
「嫌なのは皆同じだよ。でもさ、このままだったらどうするの?みやと桃、このまま、入れ替わって生きていけっていうの?それは二人のために、ダメでしょ」

泣きそうな顔をした熊井ちゃんの頭を、キャプテンが撫でる。


「一番不安なの、二人なんだしさ」


言われて思わず、隣を見て桃と目が合った。
そういえばそうだ。
意外に不安とかではなかったんだけど、ずっとこのままだとほんと困る。
忘れてたけど、この後、家に帰るんだわ。あたしどっちの家帰ればいいんだろ。
どこかで見た漫画みたいに、桃の家族に桃の振りしなきゃなんないのかな。
すっごい不安。

「病院、行く?」
「うーん」
茉麻に顔を覗き込まれて、桃が腕を組んで首を傾げる。
「正直、それも考えたんだけど。あのさ、ちょっとだけ、待てない?1日だけ」
「なんで?」
「今日はダンスレッスンだし、まぁなんとかするとして。で、明日は私、仕事ないし。これで収録とかラジオあったら最悪だったけど」
「待ってどうすんの?今すぐ病院行けばいいじゃん」
千奈美が心配そうな顔で、バンと机を叩く。
369 :!? short ver. :2014/07/03(木) 23:36
「どうせバレたら仕事出来なくなるんだから、すぐ行けるでしょ。漫画とかでよくあんじゃん。1日で戻ったとか、頭打ったら戻るとか」
「まさかそんな非科学的なこと、するつもりなの?」
「そうだけど。あと、階段落ちるとか」

眉を寄せたキャプテンに、桃は当然、みたいな感じで頷いた。
え?ちょっと、私、痛いのは嫌なんだけど!

「ちょっと、桃、本気!?頭ぶつけるとかはまだいいけど、階段落ちるとか私、本当ヤなんだけど!」
「私も嫌だけどさぁ、この際、嫌とか言ってらんないでしょ。ま、あくまで最後の手段ってことで」
「絶対嫌!だって桃でしょ!?桃だよ!?心配すぎる!」
「3段ぐらいにするから」
「え!?低!出来んの?それで?」

うさんくさい返事に、疑問を思いっきり声に出してふと周りが静かすぎるのに気が付いた。

「……なに?」
「なんか、さ」
目で合図しあって、代表になったらしい茉麻がなんか嫌そうに話はじめる。
「わかった。あんたたち、入れ替わってるわ。まだなんか信じらんないけど、納得した。漫画でしかないと思ってたけど、ほんとにあるんだね、こんなこと」

しみじみ頷かれて、力が抜けた。
ねーえ、ここまできて、やっとそこ!?
370 :!? short ver. :2014/07/03(木) 23:38

それからしっかり話合って、結局、桃の提案通り、1日様子を見るってことで落ち着いた。
その代わり、明日の朝、目が覚めても今のままだったら即マネーシャーさんに電話して、病院へ行く。
結論が出た、というわけで、今からのダンスレッスンを、私はなんとか桃として乗り切ればいい。
よし!と気合いは入れたんだけど、着替えようと思って早速バッグを取ったら「みやのはこっち」って桃のバッグから
着替えを出されるし、ほんと疲れる。

「これ、着るの?」
「そりゃそうだよ。今、みやが桃だもん」
「取替えない?」
「いや、変でしょ!桃がみやの服着てたら!自分で言いたくないけど、パンツの裾、余るよ。踏んでコケたくないでしょ」

すっごい不機嫌そうな顔のみやの顔で、桃が顎で自分のももちパーカーとパンツをさす。

「みやのも出して。で、着て、早く。私もなんか、違和感ばっかなんだから」

バッグからレッスン着を出して桃に渡し、桃のツアーTを持ち上げて、ため息をつく。
まさかこの、ピンクを着てレッスンする日がくるとは思わなかった。
どうにも落ち着かないし、やる気が出ない。
とりあえず、このふりふりのワンピを脱ごうとして、チャックに手をかけたところで隣にいる、桃を見て思わず手が止まった。
ブラ姿の私がいる。っていうか、桃なんだけど、中身。なんか今、猛烈に恥ずかしい。
当たり前なんだけど、そうなんだけど!
この次を見たくなくて、力一杯後ろを向いてさっさと着替える。
ホックめんどくさいし、チャック下ろすのになんかちょっと首痛いし。寝違え?それとも、老化?
ったく、このババチめ。ストレッチが足りてないっての。
371 :!? short ver. :2014/07/03(木) 23:42

レッスンは最悪だった。
「嗣永!そこじゃないでしょ」と最初の立ち位置から叱られ、ダンスもほんと、めちゃくちゃで。
だって覚えてたのと違うんだもん。桃もほんと悲惨だった。
キャプテンがその度に目で教えてくれるんだけど、二人分だし、間に合う訳もなくて。
「夏焼!」とか、「嗣永!」なんて名前を呼ばれるたびに、桃も私も反応しちゃうんだけど、皆も本気でビクビクしてて。
私たちだけじゃなくて、berryz全員ミス連発。
予定の半分も進まず、「今日はもう、みんなどうしたの!」って先生のお説教でおしまい。
でも、皆がミスってくれたおかげでみやと桃が変なのが、あんまり目立たなかったみたい。
鏡で見ても、相当ヤバかった。私はまだ、桃っぽく踊れるけど、桃のダンス、ほんと酷かった。
頑張ってるつもりだろうけど、無駄にぷりぷりしてて後ろから見てて、ほんっと気持ち悪くてどうしようかと思った。
千奈美とか梨沙子とか、最初吹き出してたもん。先生が怒ってるから、相っ当我慢してたみたいだけど。
まぁでもね、桃のダンスにしても、本人がみやっぽくしようって努力してるのはわかるから、仕方ない。
周りもそれでも、わかってたらそりゃ、見ちゃうし、私でも笑うよ。
許すよ、そこは。でもさ、問題はその後で。

「疲れたー」

梨沙子の背中が見えたから、いつもどおり肩に手をかけた。
ほんと、いつもどおり、と言いたいところだけど、なんとなくちょっと高めに感じる梨沙子の肩。
ちらっと、桃の身長だとこんな感じなんだな、と思ったところで手をはたかれた。

「重い、桃」
「……え」
372 :!? short ver. :2014/07/03(木) 23:44
かけた腕を乱暴に落とされて、ちょっと傷付く。
こんな風にされたこと、なかったから。

「あ、みやか!今!ごめん!!桃だと思って」
「いや、別にいーよ。気にしないで。それより声、デカイよ」
「あ、ごめん。でも、ほんっとごめん。許して」

顔を覗き込んで、本気で謝ってくる可愛い梨沙子をなだめながら、なんか気持ちが落ちて。
『桃だと思って』なら、間違ってはないんだよね。私、今桃だもん。
でも、桃は普段こんな扱い受けてんのか。
本人の自業自得ってとこもあるとは思うけど、そりゃ愚痴りたくもなるよね。
戻ったら、桃に優しくしてあげよう。そんなことを決意したところだった。

「ね、みや」
「ん?」

遠慮するみたいに、囁くみたいに桃が声をかけてきた。
くるっと振り向くと、指で二人で話せないか、って合図してくる。

「ちょっとごめん。先行ってて」

梨沙子を先に行かせて、桃に向き直ると手を掴まれて、廊下の壁際まで引っ張られる。

「っと」
「あ、ごめ」

引きずられて体勢を崩すと、桃が受け止めてくれた。
びっくりしたみたいに自分の手を見てたから、多分、力加減を間違えたんだと思う。
こんなところでも自分たちの体の違いを感じる。

「あのさ、あの」
「何よ」
「トイレ、行きたいんだけど」
「え?勝手に行ってくれば?」
373 :!? short ver. :2014/07/03(木) 23:47
相談してくる前に、早く行けばいいのに。

すごい大事なこと言うみたいに、小さい声で言うから逆に驚いた。

「行っていいのね。わかった。行ってくるから」
「え?なんかある訳?」

念押しされて、不安になって離れそうになった手を握ったら桃は困った顔をして笑った。

「みやが気にしないならいいよ、別に」
「気に?あー!!」

やっとわかった。そういうこと!?

言わないでくれたら気付かないで済んだのに!
あ、いや、言われなかったらそれも嫌だわ。

これを聞いてきた、桃の気持ちがわかった。
顔が赤くなってくのが分かる。どうしよ。どうしたらいいんだろ。
これから、夜まで、お互いきっと何度かトイレに行かなきゃいけない。
私が、トイレにい、く?桃の?桃を?
374 :!? short ver. :2014/07/03(木) 23:48
「ちょっと、そんな意識しないでよ」
「無理」
目の前にあるみやの、私の顔もどんどん赤くなっていく。
ぐるぐる考えて、これしかない!ってこと思いついた。

「そうだ!わかった。いいよ。いこ」
「へ?」

呆然とする桃。
さっき掴まれた手を逆に引っ張ってトイレへ向かう。
あ、なんかちょっと普段と違う。
何度も何度も、仕事以外でも桃と手を繋いだけど、そっか。
桃、私と手を繋ぐときって、手の感じとか、こんな風になんだ。
握った手の力を緩めて、そっと大事にするみたいに、手を握り直したら、桃もなんかいい感じに握り返してくれた。
恥ずかしいのと複雑なので、後ろは振り向けなかったけど、ほんとは今、桃の顔がみたい。
この角曲がったらすぐ、トイレがあって鏡見たらそれでいいんだけど、そういうんじゃなくて。
私じゃなくて、今、笑ってるほんとの桃が見たかった。
ほんの数時間なのに、桃にずっと会ってないみたいな気がしていた。
今すぐ。すぐは無理だけど、でも、出来るだけ早く。


早く、早く元に戻りたい。
375 :!? short ver. :2014/07/03(木) 23:51
「ね、まさかとは思うけど」

眉毛を下げて、桃がよくやる、困り切った顔を今みやがしてる。違和感はんぱない。
現在トイレの個室の中。
嫌がる桃を先に押し込め、二人で入って扉を閉めた。
「ほれ、座って」
「ねー、これ、ヤな予感しかしないんだけど!」
「早く!みやだってやなんだから」

自分より上にある顔にちょっとイラだちながら、肩に手をかけて無理矢理座らせる。
これからすることを考えると気が重い。今にもくじけそうだ。

「座るの?」
「あ、座ったらダメか。じゃあ」
「ちょ、ヤダ、やだやだやだ!!止めて、嘘、ちょ、みや!!!」
「うるさい!人が来る!」
目の前にいる、桃の、っていうか、自分の履いてるパンツ、っていうか、その、ズボンとパンツを引きずり下ろそうとして、猛烈に抵抗された。

自分で自分のパンツ下ろすのってそんな悪いこと?

「自分でするから!」
「自分でするっていうなら、私がする!」
「そうだけど、合ってるけど、そうじゃない!」
「なんでよ!自分のパンツ、自分で下ろして何が悪いの?」
「自分って、今、みやは桃でもあるんだけど!ちょっと、うわ、ねーえ、やーめーて!あと声、落として!」

しまった。いつもの勢いで言い合いをしかけて、誰かにばれちゃうとこだった。
しぶしぶ桃のズボンのゴムから手を下ろすと、桃が心底ほっとしたような顔をして、大きなため息をついた。

「じゃ、さ、みや、出てくれる?なるべくみないようにするから」
「何言ってんの?何のために二人で入ったのよ。ほら、騒がないでおとなしくする」
「え?」
376 :!? short ver. :2014/07/03(木) 23:52
桃がひきつった顔で一歩下がろうとするけど、個室だよここ。狭いし下がれる訳ないよね。

「私がする。だから、桃はおとなしくしてな。ほら」
「ね、なんで?なんでそんな、わざわざ恥ずかしいことするの?桃が信用できない?」
「信用とか、そんなんじゃなくて。それとこれとは話が別」

もう一押しってすぐわかった。

「……どうしても?」
「どうしても」


頷くと、桃が「うー」と唸りながらもおとなしくなる。
こっちをちらっとみて、目を逸らして、手をぎゅっと握って。
そういうことをしないで欲しい。外見、みやなんだから。
自分で自分の恥ずかしがる姿を見るのは、ものすごく複雑だ。
しかも、仕草がまんま桃だから、ますますなんか、変っていうか、なんていうか。
指をズボンにかけると、桃がぎゅっと目を瞑る。
顔が赤い。
なんだかすごく悪いこと、っていうか、恥ずかしいことをしているような気になってきて、こっちの顔も赤くなる。
私、桃なんだよね。
つまり、今、桃がみやのズボンを脱がしている訳で。
意識するとダメだ。指先まで心臓がばくばくする。脱がしているような、脱がされているような。もうなんだか、意味わかんない。
ちょっとだけ下ろして、そういえば今日履いた、見覚えのあるパンツが見えて、一気に現実感がクる。
思わず手が止まって、下を向いたら桃が小さく震えたのがわかった。
377 :!? short ver. :2014/07/03(木) 23:55
「……みや?」

ちっちゃな声は、確かに私の声なのに、すごく桃っぽかった。
いろんな感情が一気に胸にきて、何かが詰まったみたいに苦しい。
ダメだ。もう、やめちゃいたい。でも、それはこれを、桃にまかすってことで。
ここまできて、「やっぱ桃やって」って言うのも、変に意識してるみたいで恥ずかしい。

これ、私の体なんだから。私、なんだから。

そう自分に言い聞かせて、なんとかやり遂げた。


「はい。座って。あ、待って」

まだ目を瞑っていた桃の目を右手で塞ぐ。

「もういいよ。あ、まだだめ」
「なによー」

ヤバイ問題に気が付いた。

「どうしよ」

音、が。
座って、こう、いよいよってとこにきてわかる。

音がするわこれ。

仕方ないの、わかってる。でも、絶対桃には聞かせたくない。
いや、もしかしたら今日、桃のも聞くことになるんだけど、そりゃ桃の前で鼻もかむし、納豆も食べるしちっちゃい頃から一緒にいるんだから、今更なんだけど!
でも、好きな人、っていうか付き合ってるのに、桃に、そんな。
付き合ってるからいいの?いや、だめでしょ。

「だから、なんなの」
「あのさ、お……音」
「そんなこと!?」

すっごい恥ずかしいの、我慢して言ったのに、あっさり桃は、「そんなこと?」とかって。
右手の下で、桃の目が開いて、動いたのがわかった。びっくりして、だと思うけど。
378 :!? short ver. :2014/07/03(木) 23:57
「目ぇ閉じててって」
「もうめんどくさい。ほんと、さっさとさせて。もれる。みやの体でもらすよ」
「絶対止めて!っていうかさ、逆なら絶対恥ずかしいから。あ、そっか。目、閉じて」
「もー」

桃はうんざりしたように唸ったけど、素直に目を閉じてくれた。
掌の下で瞼が閉じたのを確認してから、手をどけて、桃の、っていうか、私の体の両手を掴んで、両目へ。
しっかりあてて、「手このままね」って命令して、桃がしっかり頷いたの確認して、あいた両手で桃の両耳に手をあてる。
桃の手はぷくぷくしてるから、きっと音をしっかり遮ってくれるはずだ。
たぶん。ウソ、そんな訳ない。でも、私の手より、マシだと思う。気分の問題だけど。


にしても、まぬけだな。
できあがった桃、じゃなくて、自分の姿をみて、しみじみ情けない。
こんなみや、みたくなかった。
今日は髪を高いところでしばって、ちょっとクールにきめてみたつもりだったのになんか、台無し。
思わずつっぷしそうになるけど、我慢。つっぷしたら、自分の腿につっこむことになる。
に、してもこの絵、ほんとなんか、二重に恥ずかしい。
もっというと、自分で言うのもなんだけど、正直無駄にエロい。

「いいよ。しな」

照れ隠しにキツめに言って備える。
もうできることはきっとない。覚悟を決めた。
ぎゅっと息を止めて、その時を待っ……てるんだけど、こない。
何が、とか言わないけど、何もない。
379 :!? short ver. :2014/07/03(木) 23:59
「無理。ダメ」
「え?」
「そんな、無理だよ。恥ずかしくて無理。やだ。やっぱ外出て、みや」
「無理って、どうしてよ。そっちのが私がやだわ」
「だって、意識しなかったらできたけど、こんながっちり用意されて、はいどうぞって、出来ないでしょ」
「やだ。なんか、桃にされるのもやだ」
「しょーがないでしょ!あー、もうほんと、違う意味で無理だからもう出てって!」
「やだ!っていうか、私の体に無理させないで!覚悟決めて、ほんとにさっさとして!」
「もういい!わーかーりーまーしーた!どうなっても知らないからね!」


最後、逆切れされて、そのまぁ無事?終わった?みたいな。
そのあとも大仕事が残ってたんだけど、まぁ、そこもなんとか目を合わさずに、乗り切った。
そこから並んで手を洗って、トイレ出るまで、もうずっと無言。
目とか合わせられない。すごい疲れたけど、自分の面倒は自分でみれたので、そこは満足。

「みやの時はほんと覚えといてね」

トイレの出口からずっと恨みがましい目で睨まれて、「みやのバカ」と罵られ、階段に差し掛かり、言われたのがこれ。
正直背筋が凍る。こんなこと、もうどっちの立場にしてもやりたくない。
なるべくお茶を飲まないようにしよう……と思ったけど、そういえば。

「これ、桃の体でしょ?桃はアイドルだからトイレ行かないんじゃなかったっけ」
「っ」
380 :!? short ver. :2014/07/04(金) 00:00
真っ赤になって顔を逸らした桃の頭がふっと落ちたのがわかった。
踏み外したんだ。
思ったのと、手が出るのと、どっちが早かっただろう。
気が付いたら、桃の、っていうか、自分の手を掴んでた。
体重は桃もみやも一緒ぐらいだと思うけど、階段から落ちようとするみやの体を、不完全な体勢で桃の体が引き留められる訳もなくて。
足が階段から滑るのがわかった。ぎゅっと目を瞑って、掴んだ自分の体にしがみつく。

目の前がまっくらだったのは、どれぐらいの間だったのだろう。
目を開けたら、さっき落ちた階段が見えた。そんな高いところから落ちてない。
どうだろ、5段ぐらい?もう覚えてないけど。
背中が冷たくて、足を動かそうとしたけど痛いし、重い。


まさか怪我、した?一瞬血の気が引く。

まだライブもあるし、撮影も、ダンスもある。しかもこれ、桃の体だ。
がばっと体を起こすと、見慣れた体が自分の上に乗っているのがわかった。

「っはは」


桃だ。桃がいる。ってことは、

「起きて!桃!戻った!戻ったよ!」
「へ?」

手を握って、開いて。しみじみ眺める。あぁ、私の手、私の指だ。これだよね。
嬉しくて叫び出しそうだ。

「ん?みや?あ?あれ?」

桃も起きて、こっちを見て目をぱちぱちさせて自分を見下ろして確認して、わかったらしい。
381 :!? short ver. :2014/07/04(金) 00:02
「戻った?」
「戻った!!」
「桃―!!!」
「みやー!!!」

抱き合って喜んで確認する。ふんわりした抱き心地。私のじゃない、甘いにおい。あぁ、これ、桃だ。ぎゅうぎゅうと力を込めて抱いても、桃も今日は文句を言わない。
ちょっと涙も出てきた。

「どうした!?」

抱き合ってたら、千奈美の声がした。
声が聞こえたらしい。

「ちょ、何?大丈夫?」
「みや、桃、どうかした?」
「戻った!」
「え?戻った!?」

大騒ぎが楽屋にも聞こえたらしい。皆が楽屋から出てくる。
マネージャーさんも向こうから走ってくるのがわかる。
桃と目を合わせて、笑った。目の前に桃がいる。
当たり前なのに、それだけでもう嬉しい。

それからマネージャーさんに階段落ちがバレて軽く怒られて、皆からは「ウソでしょ」とか、「漫画すぎでしょ」って呆れられて。
次の日は、何かあると「桃入ってるんじゃないよね?」とか、失礼なことを言われたりした。


まだ、「あれ、ほんとに冗談じゃなかったの?」って熊井ちゃんとかにも聞かれるんだけど。
今となっては自分でも信じられないし、夢みたいって思うんだけど、入れ替わってたのは本当だし。これはメンバーだけの秘密になっている。ほんと、berryzの危機だった。
治ってよかった。バレなくてよかった。


今日はリベンジのダンスレッスン。
ちらっと横を見ると、アイドル全開で踊ってる、ぶりぶりのいつもの桃がそこにいる。
ほんと、戻ってよかった。私にあれは似合わない。

思わず吹き出すと、横の桃が「なんで笑うのよー」ってこっちを睨んできて、あぁ、やっぱ桃だって実感した。
肩抱いて、変な顔になった桃の頭を軽くはたくと、思ったことが伝わったのか桃も嬉しそうな笑顔になった。
382 :!? short ver. :2014/07/04(金) 00:02
おしまい
383 :名無飼育さん :2014/07/06(日) 01:33
久々になんかキテタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
お待ちしてました!ありがとうございます!
最近みやももにハマってあちこち読み漁っていたのですが
こちらのみやもものわちゃわちゃっとしたやりとりがすごく微笑ましくていつも拝見するたび頬が緩みます。
また次作も期待しています。
384 :たすけ :2015/02/25(水) 11:05
>>383
感謝!
385 :たすけ :2015/02/25(水) 11:13
最後になにかと思いましたが計算間違いをしてしまい、容量も足りず。
無謀なことをしてしまい、レスの削除をお願いして管理人さんにご迷惑をおかけしてしまいました。
申し訳ありませんでした。

Edge of Edenスレ、これにて本当に終了。
読んでくださった皆様、感想を下さった皆様。本当にありがとうございました。
386 :GYxhSl7xKg0 :2015/10/12(月) 14:51
So true. Honesty and everything receonizgd.
387 :RqTANUThyBhV :2015/12/21(月) 20:36
Cheers pal. I do apictrpaee the writing.

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