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Edge of Eden

1 :たすけ :2013/09/16(月) 14:44
みやももで、捏造三昧。

時間の流れ等も合わないことがあるかもしれません。
話の根幹にはまったく関わりがありませんが、一部オリキャラあり。
ご注意ください。

短期でさくっと更新予定。
2 :たすけ :2013/09/16(月) 14:44
△▼△
3 :    :2013/09/16(月) 14:46
まっすぐ、どこまでもいけると思っていた。
7人で、どこまでも。
ちょっと大人になってからは、案外まっすぐは行けないな、って気づいたけど。
躓くこともいっぱいあるし、努力してもうまくいかないことも、沢山あった。

でも、7人で何も変わらず、どこまでもいける。そう思っていた。

舞波とは道が分かれてしまったけど、道が分かれたって、ただそれだけで。
他の、たとえば℃-uteやモーニングさんみたいにメンバーが抜けて、
形が変わっていっても、Berryzはそうじゃない。
不安はあっても、あたしはバカみたいに変わらないって―

当たり前みたいに強く、そう信じていたみたいで。


『みたいで』っていうのは、あんまりそういうこと、その時は考えてなくって。
後から思えばそうだった、ってことなんだけど。
4 :Chapter 1 :2013/09/16(月) 14:48
春のライブのツアー中、喉を痛めた雅は仕事を休むことになった。
思いもよらないことでぽっかりと空いてしまった時間。

ファンに、メンバーに、スタッフに申し訳なく、何もしない時間が不安で、寂しくて、
あそこに立てない自分が歯がゆかった。
ライブに出られないならせめて、とライブの映像を見て、その後時間があるにまかせて
自分たちの過去のDVDや資料映像、とり溜めたテレビ番組などを見た。

テレビの録画はそのほとんどが桃子のものだ。
見て、応援して、その横にいない自分に悔しくなった。

桃子の家族は別として、いや、ともすれば桃子の家族より、そして桃子の友達、Berryzのメンバー、
その誰より近くで桃子を見ている自信があった。
番組を見れば、それがいつの収録だったかすぐわかる。

ももち結びで武装して、いつも見せる集中で張り詰めた横顔。
やりきった時のドヤ顔、食べ物を前にした時のちょっとおまぬけな素顔。
疲れている顔、作った笑顔。他所ゆきの顔。
済んだことだというのに、無駄にハラハラしたり、笑ったりでライブ映像を見る倍は疲れる。
5 :Chapter 1 :2013/09/16(月) 14:50
忙しいだろうとは思っていたが、桃子の激務がよくわかる。
最初の方は桃子がテレビに出ているという、そのこと自体が嬉しくて
メールで感想を送ったりしていたのに、今では桃子の事務連絡のようなテレビ出演情報メールに短い返事を返すだけ。
もっときちんと見よう。反省をした。

もっと早く番組を見ていれば、桃子の体調、仕事の内容がわかったかもしれない。
いつか、何かの役にたつかもしれない。
大抵、そんな殊勝な反省は続くはずもないのだが―

その時、その時、思ったことだけは本当だ。

医師の許可が出て、仕事に戻れたときにはほっとした。
寂しい寂しいと皆にメールしたり、こぼしたりしていたが、戻ってはじめて、
ここに在ることが出来ないことが本当に寂しかったのだとわかった。

また、この場所に戻ってこれた。
嬉しかったし、感動した。

迎えてくれた梨沙子、佐紀をはじめとするBerryzの仲間。
スタッフの皆、マネージャー。とても大好きで、大事だとわかった。

そして、気がついた。ちょっとしたことで、足場は崩れる。
ここにいること、それ自体がうれしく、大事で、貴重なことだ。
皆に囲まれ、泣く梨沙子と佐紀をなだめながら、雅は喜びをかみしめた。
6 :Chapter 1 :2013/09/16(月) 14:51
休み中に映像でさんざん付き合った桃子に会うのも嬉しくて、
ちょっと浮かれて、ライブでまでらしくないことまで言ってしまったおまけもついたが、そこはそれ。
反省を活かして、それからは前より早いうちにテレビ番組も見ている―のだが。

見れば見るほど、何故か胸がもやもやする。

テレビ出演に慣れてきたのか、桃子は最近少し余裕が出てきたようで、表情が和らいできた。
喜ばしいことのはずなのに、何故か雅は落ち着かない。

最近思い出す桃子はほとんどももち結びのももちバージョンだ。
桃子との会話の中で、知らない名前も増えた。
少し前までは下手をすれば土日もなく毎日顔を合わせていたのに、一緒にいる時間は目に見えて減った。
今日は珍しく桃子から一緒に行こうと誘われたが、
以前はよくしていた待ち合わせも、今は桃子だけ収録から直接楽屋入りが増え、随分とご無沙汰だった。


「よし!」

最近寝不足気味だが、今日は早く目がさめた。
先日買った服もコーディネートもうまくきまって、気分がいい。
雅としては認めるのが癪に障るが、認めよう。


機嫌が良いのは久々の桃子との待ち合わせのせいだ。
7 :たすけ :2013/09/16(月) 14:56
Chapter 1 終了

久々で緊張しましたが、お付き合いいただけると嬉しいです。
8 :名無飼育さん :2013/09/16(月) 21:26
おっなんか始まっていますね
楽しみにしています
9 : :2013/09/17(火) 21:09
今日があったら明日がある、ぐらいな強さで、Berryzは変わらないって思ってた。

それはあたしが辞めたいって思っても、メンバーの誰か、たとえば梨沙子が、千奈美が辞めたいって悩んでても
心のどこかで、何も変わらないって思ってた。

いつまでもBerryzでいられないのはもちろんわかってたし、皆が結婚したりして終わりはあると思っていたけど、
それはあたしがいつか死ぬ、それと同じぐらいの感覚の、わかんない、不確かな未来だと信じていた。

休んだ時に、それを実感した。

変わらないものはない。だから、今を大事にしよう。後悔はしないように。


そう。


今日がいつもと同じでも、明日がいつもと同じとは限らない。
10 :Chapter 2 :2013/09/17(火) 21:11
今年の夏は暑いらしい。
テレビのニュースでそう聞いたのだが、確かに、8月に入ってからずっと暑さは続いている。

街のざわめき、車の音、そしてどこかからセミの鳴き声がする。
真上から照りつける夏の日差しは強く、白くアスファルトに反射する。
風が吹くが、ビルの間を通り抜けてくるそれはもはやドライヤー並の熱風だが、
雅の機嫌は悪くなかった。

上向いた気分のまま、母親と機嫌よく会話して家を出、待ち合わせのコンビニのドアを押し、
メールをチェックしたところで集合時間を間違えたことに雅は気がつく。

早く着きすぎた。

しかし、買い物に行くには足りない中途半端な待ち時間。
これはもう仕方ない。
お店には申し訳ないが、雑誌でも見て時間をつぶすことにして、ずり下がったマスクを直して雅は小さくため息をつく。


こういう時に早く来ればいいのに。ま、桃だし無理か。

11 :Chapter 2 :2013/09/17(火) 21:14
時間を確認しなかった自分のことを棚にあげて心中で桃子にクレームを入れると、雅は機嫌よくペットボトルの並ぶケースの扉を眺める。
その中のひとつに手を伸ばした、その雅の上機嫌は、数分後に急降下する。

コンビニのドアをあけ、店内へと入ってくる見慣れた、フリルとピンク過多のマスク姿。

こんなタイミングが合うとは珍しいこともあるものだ。

気分よく声をかけようとしたが、桃子の後ろを見て雅の足が止まった。
桃子に続いて入ってきたのは、桃子の友人と思われる女の子。

二人はコピー機の前でなにやら作業をしながら楽しげに、そして親しげに話をしている。
何枚かコピーを取ると、桃子の友達は桃子に手を振って帰っていった。

なんてことのない、日常の一コマ。
けれど、何故か雅はショックを受けた。


顔を近づけて笑う横顔、ガラス越しに手を振り合う後姿。友達の笑顔。
雅の知らない桃子がそこに居た。

驚きに胸がつまる。
12 :Chapter 2 :2013/09/17(火) 21:16
普段、桃子は仕事に私事を持ち込まない。
現に、このコンビニを使ったとはいえ、待ち合わせ時間にはまだ早い。
今までこういったことに友達を伴ってきたこともないのだから、
きっと大学の課題か何かが、差し迫っていたのだろうと思う。

別に、たまたま居合わせてしまった雅には何の関係もない話。
そして、桃子にも何の落ち度もない話。

狭い店内なのに、自分に気がつかない桃子がむかつくのかと思ったが、そうでもない。
調子にのって笑っている桃子がむかつくのかとも思うが、違う。

胸に何かがたまっていくようなこの気持ちはなんだろう。

自分で自分がよくわからなくなり、雅はガラスの扉に手をつく。
冷たさが染みて、少し冷静になれた気がした。

雅の知らない桃子がそこにいた。

桃子のことは、自分が一番よく知っているはず。

何故か無意識にそう思っていたことに気付かされた。
13 :Chapter 2 :2013/09/17(火) 21:18
衝撃だった。
衝撃を受けた、そのことが衝撃だった。
自分で自分が信じられない。

そもそも、桃子の私生活を雅は知らないし、そこに何の興味もない。
休みの日だって、一緒に遊ぶこともない。
桃子も、雅の友達を知らないのだから、お互い様。
そのはずだ。


答えのでないまま、ペットボトルの並ぶ冷蔵ケースのガラスに映る自分の顔はひどいものに思えた。
なんとか口元を引き上げ、普段の顔をつくろうとしていると、桃子が気がついたようでこちらに向かってくるのが見える。

邪気のかけらもない笑顔で「おぉ、早いね」などとひょこひょこと手を振りながら寄ってくる姿にはアイドルどころか芸能人のオーラなど皆無で、今度こそ雅は笑顔を作ることができた。

「そんな桃に会いたかった?」
「意味わかんないんですけど。時間あまったから早く来ただけ。桃こそ、あたしに会いたくて早く着いたんでしょ?」
「ま、みやがそう言うならそうしてあげてもいいけどぉ?っふふ。ま、でもね。みやとの待ち合わせも久しぶりだしね」
14 :Chapter 2 :2013/09/17(火) 21:23
― 嘘ばっかり。用事があったんでしょ。

そう返そうと思ったのに、桃子がいつもの調子に乗った軽口から一転して一瞬、真顔で見上げてきたので、
らしくもなく雅の心臓がひとつ跳ねる。
そういえば、今日の桃子は髪を結っていない。

「にしても今日暑くない?」

雅から店の外へ目を移し、顔をしかめて独り言のようにつぶやいた桃子は
雅が眺めていた冷蔵ケースの扉を開け、そこから十六茶を取り出すと、そのまま歩き出す。

「まーね。でも夏だしさ」

自分でもよくわからない相槌を打ちながら、雅も自分の前にあったボトルの名前を確かめもせず手にとり、
会計をすませる桃子を追った。


あの気持ちはなんだったのだろう。


雅の胸に湧いた黒い雲。

今ならわかる。あれを言葉にするなら、きっとこうだ。





―そこはあたしの、だ。
15 :たすけ :2013/09/17(火) 21:24
△▼△
16 :たすけ :2013/09/17(火) 21:24
△▼△
17 :たすけ :2013/09/17(火) 21:27
Chapter 2 終了

>>8
ありがとうございます!お付き合いよろしくお願いします。
18 :名無飼育さん :2013/09/17(火) 22:05
話にすごく引き込まれます。
続きも楽しみにしています。
19 :名無飼育さん :2013/09/18(水) 09:23
いいですね。
こういうリアルなみやもも、好きです。
20 :      :2013/09/18(水) 21:52
キャプテンはおねえちゃん。
千奈美は友達でバカ仲間。
茉麻はまぁどっちかっていうとお母さんで、熊井ちゃんはちょっとツンツンした妹、
それから梨沙子は妹。みやのこと好きで甘えてきてくれる、可愛い妹。


この、あたしからみた皆への気持ち―言ってしまえば役割分担みたいなのは、
Berryzになったときからあまり変わらない。

桃は、最初はライバル。
そのあと、ちょっとだけおねえちゃん。
桃自体ツンツンしてた時期もあって、負けるもんか!みたいになって張り合ったことも結構あるし、
大人の言うこととか、一人でなんでもわかってたみたいな桃に反抗してみたり。
ズバっとやなこと言ってきたりして、桃のことわかんない!って思ったりして。

桃のツンツンしたところがだんだん消えて、ますますなんかよくわかんない人になったって思ってた。
それからBuono!があって、桃と話をすることが増えて。

さりげなくフォロー入れてくれたり、みやがいっぱいいっぱいだった時助けてくれたり。
前から実は結構助けられてたんだなぁ、って思い出すこともあったし、
そんな桃も意外に抜けてるところもあって、あたしが後始末をしたり、桃があたしに甘えてきたりして。
21 :      :2013/09/18(水) 21:54
ライバルは相棒になった。桃のいいとこ、いっぱい知った。

その後、桃がテレビに出始めた。
あたしの相棒はすごかった。がんばってる姿をみて、尊敬した。
そりゃ、前からすごいとは思ってたけど、もっと評価が上がった。
でも、普段は物はこぼすし、よくこけるし、ずぼらだし、メール返さないし、食い意地はってるし。
人のこといじってくるし。
まぁかわいいなって思うとこもあるけど、子供みたいなくせに大人だし、
ふらっとどっか行っちゃったり何考えてるかわかんないところもあって。

最初から桃だけ、あたしの中でどこか遠くて近い、なんか定まらない変な感じだった。

それでも、なんか桃って面白くて、つい見ちゃうし、困ってると、手、出したくなる。


桃に褒められると、認めて貰えたみたいで、なんか特別な感じで嬉しい。

22 :Chapter 3 :2013/09/18(水) 21:55
誕生日が済み、雅も二十歳になった。

例年通り、いや例年以上に家族から、Berryzから、ハローのメンバーみんな、友達から祝ってもらい、
プレゼントももらった。
タイにいた佐紀、友理奈、梨沙子からもお祝いメールが届いたのに、
一緒にいた桃子からのメールが来なかったのには予想通りで笑ったが、
催促したらメールをよこしたのでそこはよし。

「会って直接言ったんだからよくない?」などと後でこぼしていたが、それとこれとは違うと雅は主張したい。言葉もうれしいが、メールもうれしいし、
何より何度でもメッセージを見返すことができる。

二十歳になって変わったことといえば、そうはない。

仕事のせいか、出来ることが増えたという実感は18歳の方が大きかったような気がする。
大きな変化が1つあるとすれば、お酒を飲めるようになったことぐらいか。
23 :Chapter 3 :2013/09/18(水) 21:57
スタッフやマネージャーから、お酒を外であまり飲まないように、
飲酒の際、異性と同席しないように、けしてつぶれたりしないように等と注意を受けた。

雅の父も練習などと言いながら雅と飲むようになり、嬉しそうだ。
雅も少しだけ付き合いながら、父親のそういう姿を見ると素直に嬉しく思う。

あれから、桃子を見ると妙に落ち着かない気分になる。
胸のもやもやはあれ以来あまり感じないが、桃子に会うと嬉しい。
桃子が隣にいると、何故か妙に浮かれる。
最初は春に休んだせいで、このハイテンションが続いているのだと思ったがそれだけではないかもしれない。

大阪で一緒のホテルに泊まったこと、ライブ、札幌のイベント。
どれも本当に楽しかった。



雅としては不本意だが、最近妙にハイだ。桃がらみで。


まぁ、いいことなんだけど。

24 :たすけ :2013/09/18(水) 22:02
Chapter 3 終了


>>18
ありがとうございます。
ぼちぼちですが、もう少しで軌道にのりそうです。

>>19
リアルと言っていただけると嬉しいです。
ちょっと無理もあるかもしれませんが、しばらくお付き合いくださいませ。
25 :名無飼育さん :2013/09/19(木) 13:04
みやもも大好きなので楽しみにしています!
26 :      :2013/09/19(木) 21:16
桃がフライデーされた。

桃にそんな相手がいるなんて信じられなくて「嘘でしょ」と言って固まってしまった。
すぐに相手が千奈美だと知って、皆でげらげら笑って、「出世したじゃーん」とか、
「千奈美と仲いいんじゃん」「ビジネスパートナーとか嘘でしょ」なんて皆して二人に絡んで、
千奈美は早々にふて腐れた。
最初は千奈美を皆と一緒にからかっていた桃も、最後は誤魔化しながらふいと楽屋から逃げ出した。

笑いすぎて涙が出た。

皆の前では隠していたけど、自分でもちょっと吃驚するぐらい動揺した。
あの時の背中が冷たくなる感じ、それからちょっと吃驚するぐらい安心した気持ちを覚えている。

桃の相手が千奈美で本当によかった。

正直、この時1番に思ったのは、Berryzや、桃のこれからの事じゃなかった。
心配とか、そういうのじゃなくて、桃に彼氏がいなくてよかったっていう、ただそれだけ。


雑誌に載る前に送られてきたという写真には、見た事のあるダサい私服で、いつもの顔で笑っている桃がいた。
マネージャーから見せられた白黒のそれをそっと指で撫でて、思った。


桃が桃のままでよかった。

27 :Chapter 4 :2013/09/19(木) 21:19
札幌でのイベントも終わり、ひと段落ついた頃、高校の時の友達からメールがきた。
二十歳の記念にプチ同窓会をしようという。
指定された店はいわゆる居酒屋。

初めての事に悩んだ雅が両親に相談すると、十分に気をつければ行ってもいいという。
相手にも場所が個室であること、元同級生だけの気軽ないわゆる女子会である事を確かめた。

「みや、滅多に会えないんだしさ。お願い!」などと頼まれれば嫌とは言えない。
久々の友達との再会が楽しみで、初めての飲み会ということもあって浮かれていたのが良くなかったか。

「っと、しまったなー……」

仕事の後、向かった居酒屋。
指定されたのは雅もよく前を通ったことのある、会社の近くの洒落た店だった。
打ち合わせが長引き、遅刻をして向かった雅が時間を確かめようとバッグから
iPhoneを取り出そうとするが、見つからない。
慌ててバッグを探したが、記憶は会社の控え室の机の上に置いた所で途切れていた。

あるとすればあそこだ。
28 :Chapter 4 :2013/09/19(木) 21:21
戻るか、否か。

悩んだ雅は、電話ボックスを探し、手帳をめくりマネージャーに電話する。
iPhoneはやはり控え室にあったらしく、無事マネージャーに保護された。
飲み会が終わった後会社に寄ることにし、店へと戻る。

黒ベースで、暖色の灯りの点るお洒落な店内。
店員に幹事をしてくれた友達の名を告げ、案内された個室に入ろうとすると、思いもよらない光景が広がっていた。

「あ、みやー」
「遅いよー」
「イェーイ!雅ちゃんだ!かわいいね!」
「あー…ね、ちょっと」

入口近くの幹事を部屋の外へと引っ張りだす。
29 :Chapter 4 :2013/09/19(木) 21:22
入口近くの幹事を部屋の外へと引っ張りだす。

「男の子のいない、女子会の同窓会だって言わなかった?」
「ごめん!みやがくるって言ったらさ、メンバーの彼氏がうわさの雅ちゃんが見たい!って言いだして断りきれなくてさ。
他にミホのバイトの先輩もいるんだけど、ミホ片思いしてるらしくて」
「あたし帰るわ」
「ごめん!でも、先輩と仲良くなりたいって泣きながら頼まれたら
どうしても断れなくて……みやが来るからって勇気出して先輩誘ったんだって。
騙したみたいになって本当ごめん!」
「……わかった。でもあたし先出るからね」
「本当ごめんね!ありがとう!」

こういう仕事をしているとよくある事だ。

まあ仕方ない、か。

内心ためいきをつきながら雅は笑顔で部屋へと戻り、
件のミホのバイトの先輩の斜め前に座る。

「どうもー」
「うわ本物だ!かわいいね!」
「あー、ありがとうございます」
30 :Chapter 4 :2013/09/19(木) 21:23
確かに先輩さん、顔はいい方か。

愛想笑いを浮かべながら、周りの友達に「久しぶり〜」と手を振ると、
それぞれから両手を合わせて拝まれた。

皆グルか。まあいいけど。

「いーよ、もう。でも次は最初からちゃんと言ってよ。
あたしだけ仲間外れとか寂しいでしょ」

そこそこ広い個室には、10人程が座っている。男性は4人。
それぞれ顔見知りらしく話をしていたが、雅が入ってきてからは興味津々の表情で雅を見ている。
そういったことには慣れてはいるし、こういう席も嫌いではない。

しかし、雅にとって、そしてBerryzにとって今は本当に大切な時期だ。
桃子のフライデーは笑い話だったが、雅がこれで何かあればおおごとだ。

回ってきたメニューの中から適当なチューハイを選び、
全員の飲み物のオーダーが通ると目の前の男が口を開く。

「雅ちゃんって呼んでいい?」
「いいですよ」

見れば少し顔が赤い。あがっているのではなく、既に少し酔っているようだ。

「ミホちゃんの友達なんだってね」
「そうなんですよ。高校ん時から仲良くて。この子いい子でしょ?」
31 :Chapter 4 :2013/09/19(木) 21:27
雅が先輩さんに売り込む横で、緊張しているのか当の本人はかくかくと頷くだけ。

「もーどうしたのミホ!」

苦笑いして雅が小突いた時、飲み物がきて会話が途切れる。

そこからは先輩だけではなく、周りの男子に挨拶したり友達の近況の話で盛り上がった。
可愛い可愛いと誉められるのを適当に流しながらだが、つまむ料理も美味しく、会話が弾む。
隣に座るミホも先輩と盛り上がって、いい雰囲気にみえた。

「ところで雅ちゃんってBerryz工房なんだよね」
「そうですよ」
「Berryz工房ってももちのいるグループだよね」
「はい」

少し離れた所からの声に雅が笑って返事をした所で、先輩さんがこちらを向いた。

「あ、そうなんだ。あの子いつもああなの?」
「ああってキャラですか?まあ、あんな感じですけど」
「鬱陶しくない?俺、苦手だなああいう子」
「まあ大抵の人はそうだと思うかもしれませんけどね」
「仲いいの?」
「いえ、普通です。普通に仕事仲間」
32 :Chapter 4 :2013/09/19(木) 21:30
次々とぶ予想通りの言葉に失笑してしまった。

テレビの桃子も桃子だが、それがすべてではないこと、
桃子が陰で本当に努力をしていることを雅は知っている。
それでも、桃子が自分を貫き通そうとしている以上、たとえプライベートでもそれを雅が崩すことは出来ない。

笑いが苦くなってしまったが、それを周りは「へぇ、やっぱ女の子のグループっていろいろあるんだね」などと
曲解されてしまった。
誤解を解いてもいいが、それも自分達らしくない気がして、
躊躇する雅を他所に男性陣は桃子について語りだした。

「そう?がんばってんじゃない?」
「何、お前ああいうのタイプなの?俺やだ。キモイ。
頼まれても彼女とかないわー。雅ちゃんにはお願いしたいけど」
「バカ、お前なんか雅ちゃんが相手にするかよ。けど俺も彼女はないな。
女に見れない。ブリブリして違う生き物みたい。あれでアイドルなんだろ?
キスとか出来る?」
「ない!絶対無理!どうしてもって言われたら記念に一回ぐらいはまあいいけど」

桃子のことも知りもしないのに、勝手なことを。

反射で、「桃、ああ見えてファン多いし可愛いんですよ」と桃子をかばったが、
「またまた」とか、「雅ちゃん、いい子だね」などと流されてしまった。

ちらちらと視線が飛び交い、それぞれの彼女が「止めなよ」と盛り上がる自分の彼氏を引っ張る。

雅が『仕事仲間』と言ったせいか、話が思わぬ所に転がってしまったようだ。
33 :Chapter 4 :2013/09/19(木) 21:32
「ももち、私は好きだな」
「私も。プロ根性あるんだよあの子」

ミホや雅を良く知る元クラスメイトたちが桃子をかばい、
桃子の品定めがようやく終わるが、雅の気分は沈んでいく。
事情を知らない人はこういうものだと知ってはいるが、気分が悪くなるのは止められない。

桃子と同じグループだという雅がいて、これなのだ。

桃子が「よくキモイって言われたり」などとネタにしているが、
こういう声を桃子が現実に聞いているとしたら―そこまで考えて、雅の胸が痛む。

自分なら耐えられない。

あんながんばってるのにね、桃。

「雅ちゃんグラス空?同じのもう一つお願いしまーす」
「あ、いや」
「先輩がごめんね」

オーダーに紛れてミホが謝るので雅はため息を押し殺して笑う。
34 :Chapter 4 :2013/09/19(木) 21:33
「んーん。うまくいきそ?」
「うん。今日、みやのおかげで大分喋れた。ありがとね」
「どうした?いつもそんな弱気じゃないでしょ」
「本気だから。ほんとさ、好きなんだ。」
「そっか」
「こんな好きなの初めてなんだ」

昔の雅ならこの場で「こんなの止めときなよ」と怒ったかもしれないが、
今の雅は少し大人になったので自重できた。

先輩さんの普段の姿も雅は知らないし、ミホが真剣なら今言っても仕方ない。

それに何より、飲み屋で騒ぐわけにもいかない。
個室とはいえ、揉めれば即twitterでリアルタイムの暴露が待っている。

Berryz工房夏焼雅が男と飲み会して暴れてる、とでも言われた目も当てられない。

大人って面倒くさい。

浮かんだ想像と、言わずに飲み込んだ「止めなよ」を、
雅はお酒と一緒に喉に流し込む。

にしても、恋多きミホから、こんなリリカルな言葉が出てくるとは思わなかった。
先輩さんがもう少し真面目そうな人なら尚良かったが、
きっとバイト中はいい先輩なんだろう。

きっとそうだ。そうだといいな。
35 :Chapter 4 :2013/09/19(木) 21:34
追加のグラスが半分程からになったあたりで、潮時かと思った。

「今何時?」
「あ、8時」
「もう?あー、ごめん、あたし帰るね。この後用事あるから事務所戻るんだ」

部屋中からお約束の「え〜!」という声。
友達は皆慣れているので「ありがと〜」「またね」で済んだが、
男性陣からは「まだダメなの?」「次いつ会える?」のよくあるやりとりがまきおこる。

本当面倒だなー。

普段なら適当に笑顔で捌くが、雅も酒が入っている。
軽い感じで「次とかないよー」と笑顔で言ってしまおうかとの誘惑に負けそうになった矢先、
「しかたないよね」という声が場を収める。

先輩さんだ。見直しかけた。しかし続きが悪かった。

「できたらメアドかLineのID教えてくれない?」

更に煩い「教えてくれ」の大合唱がはじまったが、
「迷惑だし、事務所に止められてるから。またね」のセリフでさくっと断った。
笑顔が恐くなっていたかもしれないが、もうすべてどうでもいい。

どうでもいいついでに、口が滑った。

36 :Chapter 4 :2013/09/19(木) 21:36
「あのさ、桃可愛くないとか、目、腐ってんの?桃可愛いし。
いくら飲み会とかでも、仲間けなされるの、ムカツク。じゃーね。あ、お金払いたいんだけど、いい?」

慌てて追ってきた幹事にメアド等を教えないよう念押しし、少し多めの代金を渡して店を出る。

あの先輩はない。
印象サイアク。
だいたい、桃子の良さをわかってない。
あんなに頑張ってるのに。
あんなに、可愛いのに。

自分で自分のことを可愛いと広言して憚らないくせに、
可愛さよりインパクトとツッコミどころを前へ押しだして戦う桃子が正しいのかどうか、
雅には判断できない。

けれど、雅より賢い桃子が決断したのだ。
綺麗な顔をしているのに、あんな扱いをうけても折れず、
難しいことに挑んでいる桃子を雅が応援しなくて、誰が応援するのだ。

桃、真面目だし可愛いし―

あの人たちがわからなくても、きっとわかる人もいる。
そう思っても、悔しくて雅の怒りは治まらない。
歩道にヒールを強く打ち付ける。
涙がにじんできた。
37 :Chapter 4 :2013/09/19(木) 21:38
―賢いし、がんばりやだし、食いしん坊だし、
ずぼらだし、適当だし、大雑把だし、面倒くさがりやだし、結構ケチだし―

大分思考がズレて、自覚もないまま悪口のオンパレードになってきたところで思い出す。

「っと、メール……あ」

ミホに、絶対にアドレスを漏らさないようにと念押ししようと思ったが、
そういえば雅の手元にはiPhoneがない。

戻ったら速攻メールしよ。


結論付けて早足で会社へと向かう。

この時間ならまだマネージャーもいるだろうし、
何か用事があったとしても雅にiPhoneが戻るように手配してくれているはずだ。
38 :たすけ :2013/09/19(木) 21:39
△▼△
39 :たすけ :2013/09/19(木) 21:39
△▼△
40 :たすけ :2013/09/19(木) 21:46
Chapter 4 終了
>>25
応援ありがとうございます。
私もみやもも大好きです!ご期待にこたえられたらいいな、と願いつつ。
41 :名無し飼育さん :2013/09/20(金) 12:32
連日の更新乙です。
また夜がくるのが楽しみ!!
頑張って下さい。
42 :名無飼育さん :2013/09/20(金) 21:21
毎日の楽しみができました!
更新楽しみにしています。
43 :Chapter 5 :2013/09/21(土) 01:03
顔見知りの受付に預かり物はないかと聞いたが、「ない」の返事。
心配してくれたが、「控え室に行くから」とエレベーターに乗った。

そういえば電話を借りて自分のiPhoneに電話するか、
マネージャーに電話したらよかった。

雅が思う間にエレベーターは目的の階に達し、電気の付いた部屋を開けると、
机に向かっている桃子がいた。

いるとは思っていなかった。

肩までの髪を耳にかけ、長いまつげが目元に影を落としている。
テレビかなにかの収録でもあったのか、いつもよりきっちり化粧をし、
髪には結った後の癖がゆるくついていた。


ほら、だから言ったでしょ。
桃、可愛くて綺麗じゃん。

後に残してきた見る目のない男共を再度心の中で罵ってはみたが、
先程まで思考を占拠していた桃子の登場に雅の脳が混乱しているらしく、
扉には手をかけ、驚きに足が止まったまま動けない。


「おー、みや。これ?」

顔を上げた桃子が雅のiPhoneを手に、挨拶がわりか軽く振る。
44 :Chapter 5 :2013/09/21(土) 01:05
「う、ん」

喉が詰まって変な返答だったが、桃子は気付かなかったようだ。
軽く咳払いをして、雅は室内へと入る。
桃子の机の前まで行くと、どうやら仕事の書き物をしていたらしく
写真とペンが目に入る。

「今マネージャーさん買い物に出たよ。夏焼の事だから連絡無しでここ来るだろうから、ってさ。
いやー流石だよね。大当たり」
「ありがと。でも大当たりってなにさ」
「事実でしょ!」

吹き出すように笑われるが怒る気にはならず、尖る艶やかな唇を眺めていた。

「なんか久しぶり」
「そう?そうでもなくない?」
「いや、最近毎日会ってたから、なんか。……大変?」
「実習?んー…でも、我が儘きいてもらったし、自分で決めた事だから。
まだ準備段階だし、これからだね」

化粧でも隠しきれていない疲れが滲み、雅の胸がしくりと痛む。

「あ、そういえばさっきからみやの電話鳴りっぱなしなんだけど」
「嘘。早く言ってよ」
45 :Chapter 5 :2013/09/21(土) 01:06
桃子からiPhoneを受け取り着信をチェックしようとすると、
桃子が子指を立てて顔前を仰ぐ。

「なーに、みやお酒のんでんの?」
「わかる?今日高校の同窓会だったんだー」
「わかる。お酒くさい。ちょっと、アイドルなんだから気をつけてよね」
「気をつけてんだけどなー。そんなお酒臭い?
あたしから出る息なんだからフローラルじゃない?よく嗅いでみて」

嫌がる桃子が面白く、息を吹き掛けて遊びながら履歴をみると家、
佐紀の他にさっき別れたばかりのミホからの短い着信が1件入っていた。

「みや!くさい!匂いだけで酔うからやめて!
ちょっと、みやのiPhone守ってた恩人にこの扱いってひどくない?」
「ごめんごめん許してにゃーん」
「ますますひどいよ!許してにゃんを粗末に扱わないで!」

心のこもらない謝罪をしながらも、ミホの着信が気にかかる。
ざっとバッグをみたが忘れ物をした覚えもないし、何かあったのだろうか。
記憶を探っていると「聞いてる?」と桃子に小指でつつかれる。

「んー……」
「ん?どうかした?」
「いや」
46 :Chapter 5 :2013/09/21(土) 01:07
飲み屋での桃子への心無い言葉が次々に脳裏に蘇り、
思わず桃子をじっと眺めてしまった。
その雅を、なぜか桃子は口をへの字にした神妙な顔で見上げる。
なんだかばつが悪くなって目を泳がせ、口を閉ざそうとする雅を桃子が追求する。

「何さ、みや」
「同窓会だったんだけど、男の子がいてさ。
友達の彼氏とか、なんかいろいろ」
「うん」

椅子に座ったままの桃子を見下ろす。
この桃子をあいつらに見せてやりたい。
いや、見せたくない。

どうしたらいいのかよくわからなくなって、とりあえず近くにあった桃子の頭に手を乗せる。
なでるでもなく、叩くでもないそれに桃子は別に反応もせず、雅のするままにまかせている。

「……めんどくさかった」

複雑な気持ちを一言にのせると、桃子がわずかに顔をしかめる。

「あのさ、まぁ、いいんだけど。気を付けてよね」
「え?」

今度は桃子が言い淀んだが、一度視線を落としてから真剣な眼差しで雅を見上げてきた。

「わかってると思うけど。写真とか」
47 :Chapter 5 :2013/09/21(土) 01:08
言われて、マネージャーに見せられた桃子の記事がフラッシュバックし、
カッと頭に血が上った。

「わかってるし、桃に言われたくない」
「―だよね。ならいいけど」

誰のせいでこんな気持ちになっていると思ってんの?先に撮られたくせに。

普段心を痛めているのではないかと心配していたはずの桃子から、
逆に裏切られたような、疑われたような気持ちになって、言葉がきつくなった。
思ったことが伝わったのか、桃子が自嘲を含んだ笑みを口元に刷いた。

「ごめん。でも、大丈夫だから」

雅が言いかけたところで、手の中のiPhoneが電子音を鳴らす。
着信はミホ。
一瞬迷うが、桃子の「出たら?」の一言でボタンを押した。
48 :Chapter 5 :2013/09/21(土) 01:09
「はい。どした?」
「あ、雅ちゃんー?」

盛り上がる飲み会の喧噪とミホの「ちょっと、もう止めてくださいよ」をバックに、
先輩さんの脳天気な声が雅の耳に突き刺さる。

「さっきはごめんねー」

垂直に急降下した機嫌をさらに逆撫でするようにへらへらと先輩さんは笑い、
雅は黙り込む。

「あのさ、俺、ずっと雅ちゃんのこと聞いてたし、知ってたし好きだったんだよね。
それで」
「いえ、別にもういいんですけど」

桃子に聞かせたくなくて、雅は桃子に背を向けて扉とは反対の壁あたりまで歩く。

「ごめんねー。でも、謝りたくてさー。俺、なんか今日ほんとに」
「わかってもらえたらそれで」

うんざりした雅が更に続けようとした時、ぱたぱたと足音が聞こえ耳元からiPhoneが取り上げられた。

「私、夏焼のマネージャーですが。どちら様ですか?」
「ちょっと」
49 :Chapter 5 :2013/09/21(土) 01:11
素の声でも普段の高い声でもなく、作った大人の声で桃子が雅の会話をジャックする。
取り返そうとする手は桃子に邪険に払われる。

「夏焼は今大事な時期なんです。こういうことをされると非常に困りますが―は?
……えぇ。わかりましたので、二度とこういったことはしないでくださいますか?―はい。あ、切れた」

会話の間中、桃子は部屋の隅まで移動し続け、雅も自分の電話を追って手を出し続ける。
音だけは静かな追いかけっこは、通話の終わったiPhoneを「ん」と桃子に突き返されることで幕を閉じた。

「ちょっと、桃!」
「大丈夫じゃなかったじゃん」
「だけど!」

はたくようなきつい口調で叱られ、雅も反駁しかけたが、電話があった事実は事実だ。
返されたiPhoneを握りしめ、桃子から目を逸らしてうつむく。

「……でも」
「横入りしたのは悪かったけど。でも、今大事な時期なんだよ」
「わかってる!」
「まさかと思うけどみや、あの人にアドレス教えたの?」
「違う!」

そこまで愚かではない。
それだけは信じてほしくて、顔を上げると桃子のまっすぐな目にぶつかった。
50 :Chapter 5 :2013/09/21(土) 01:12
「あれは、友達の携帯。奪ってかけてきたんだと思う」
「そっか。そこはきっとそんなとこかな、って思ったけど」

飲み会のこと、そこであったことを桃子の話は省いて説明し、雅は大きなため息をついた。

「わかった。大変だったね」
「ごめん」
「わたしもごめん。余計なお世話だった」

真摯な声で謝られ、雅は首を振る。

「でも、桃のおかげで助かったのは助かった。ありがと」
「もぉのことで、ごめんね」
「え?」

意外な言葉を聞き、目を瞬いた雅に向けて、すまなそうに桃子が笑う。

「やなこと、言われたんでしょ。飲み会で、わたしのことで」
「どうして」
「電話のひとが『みや怒らした』とかって、なんか言ってた」
「あいつ」

ほんと空気読めないっていうか、なんていうか。
記憶の中の先輩さんを罵りついでに締め上げていたら、反応が遅れた。
51 :Chapter 5 :2013/09/21(土) 01:12
「なんて言われた?」
「え?」
「言えない?言えないようなひどいことなの?」

冗談めかした口調だったが、桃子の瞳をちらりとよぎった悲しげな色に雅は迷いながらも
返事を探す。

「……べつに。不思議とか、桃がいつもネタにしてるみたいなこと。
桃が気にすることじゃない」
「そっか。ありがと。みやが怒ってくれたって聞いて、嬉しかった」

嬉しそうに、桃子が微笑む。
水面に広がる波紋のように、そっと、ふわりとひろがった笑顔だった。

咲いた花みたいな、ってこういうことを言うのかな。

そんなバカみたいなことを思い、胸が詰まり、一瞬息が止まる。

見る目ない。
可愛くないとか、ほんと見る目ない。



これにキスできないとか、嘘でしょ。

52 :      :2013/09/21(土) 01:13


△▼△

53 :      :2013/09/21(土) 01:14
「どうしたの?」

聞かれたけど、なんだかもう声が音としてしか認識できない。
10年一緒に居たけど初めて桃を見たような、やっと桃に会えたみたいな変な感じだった。

頬を撫でてみたけど桃は逃げない。
眉を寄せて妙なものでも見るようにあたしを見上げるだけだ。

そのまま顔を近づけた。
自分から触れた癖に、きちんとキス出来たかできなかったか全然わからなくて、
離れた後に首をひねってしまった。

うん。キス、出来るよ。
桃本当可愛いじゃん。今こんな変な顔してるけど。

見下ろす桃は目をまん丸にして口は半開きで固まってる。
顔色は真っ白だ。

それが何か悔しいし、感触もわかんなかったし、もう一度キスした。

桃は避けてくれなかったから、鼻があたりそうであたしが多めに顔を傾ける。
目を閉じる前、桃のまだ固まったままの真っ黒な瞳を見て、ちょっと笑った。

桃普段から結構顔近いから至近距離には慣れてたけど、これ、記録更新だなって。
54 :      :2013/09/21(土) 01:16
前髪があたって唇がふわって触れて、ちょっとだけ潰れて、
その瞬間桃のリップかグロスで滑るのがわかった。
あたしのグロスじゃない。飲み会の後で塗り直すの忘れたから、もうとれてるだろうし。
唇、あんな薄いのに柔らかい。触った事はあったけど、キスするとこんなに感触が違うのに驚いて、
確かめるために桃の下唇をなめてみた。

固まったままだった桃がぴくりと動く。
親指を動かして桃の頬を撫でて、無意識に角度を変えようと思って唇を離した所で
桃の「え…?」という小さな声が耳に入って我にかえった。

吃驚した。
至近距離で見つめあうと、さっきまで触れていた桃の唇が何か言いたげに、
むずむず動く。
桃の目がどうしたらいいかわからない、と言ってるのがわかるけどあたしも正直それは一緒で。

自分が何をしていたのか、やっと回路がつながって
「ごめん!」
と言って離れたら、顔色激悪でなんかいっぱいいっぱいのいつも桃がそこにいて。

蛍光灯もなんか白くて、キスした実感が今頃沸いてきて左手に持ったままのiPhoneが鳴ったから、
桃から逃げた。
55 :      :2013/09/21(土) 01:17
廊下を走って丁度きたエレベーターに乗り、ボタンを押した所で耐えられなくなって凭れた壁からずり下がる。

唇にまだ感触が残っている。
キス、した。キスした。

口元を手で覆ったら顔がもう異常に熱くて、これきっとあたし真っ赤だ。
桃大体なんであんな普通な訳?と思ったけどそういや桃って、
吃驚し過ぎると最初の瞬間はあんな感じだっけ。


今頃はあたしときっと一緒の顔してると思う。
いや、したあたしがこうなんだから桃はもっと吃驚したかも。

書き物してたのに続き、出来るかな。

頭はパニックなのに足は案外普通で、エレベーターから降りてきちんとあたしを駅へと連れていく。

やっちゃった、とかなんで、とかどうして、とか桃残して逃げちゃったとか、
明日からどうしよう、とかどんな顔して会おうとか、頭の中はパニックだ。

あたしどうかしてた。いや、どうかしてる。
どうしてあんなことしたのか、わかんない。

でも、キスした。

ライブとかじゃない、日常で。
10年、こんな近くで一緒にいたけど、あの感触も、あの顔もきっと全部が初めてだ。




そこは何故かとても嬉しかった。


56 :たすけ :2013/09/21(土) 01:18
△▼△
57 :たすけ :2013/09/21(土) 01:18
△▼△
58 :たすけ :2013/09/21(土) 01:21
Chapter 5 終了

>>41
いえいえ、むしろ連日のお付き合いありがとうございます。
遅くなってしまってすみません。

>>42
そう言っていただけると本当に嬉しいです。
今日中に間に合いませんでしたが、これからもお付き合いよろしくお願いします。
59 :名無飼育さん :2013/09/21(土) 02:46
ドキドキした
60 :名無飼育さん :2013/09/21(土) 07:38
これはいい…!
素晴らしい。
61 :名無飼育さん :2013/09/21(土) 18:14
ヤヴァイいきなりサイコーですよこれは
作者さんの文章ホントに読みやすく情景がリアルに浮かんで大好きです
62 :Chapter 6 :2013/09/21(土) 21:16
世界が終りを迎えない限り、何があっても夜は明ける。
雅が恥かしさと己への疑問でベッドの上で一晩転がって悶えてみても容赦なく朝は来る。

有難いことに今日はオフだった。
別に事前にオフまで計画して事件を起こしてしまったわけではないが、
不幸中の幸いというべきか、桃子には会わないで済むのは有り難い。
千奈美との予定があるため、朝に少し寝て出かけた。
佐紀達の出る舞台を見るというのに、途中居眠りするわけにはいかない。
楽しかったが、途中何度も「みや、聞いてんの!?」と千奈美に文句を言われた。

1日こんなことで、付き合ってくれた千奈美には悪いが、雅もそこそこ頑張ったのだ。
眠気は取れないし、その上、ご飯を食べても、飲み物を飲んでも、
喋っていても心の半分ぐらいに桃子がいる。
正確に言えば、桃子とキスした、そのことがある。
気を張っていないとつい、思考がそちらへと向く。

何か感じるところがあったのか、佐紀にも「なっちゃん、どうかした?何かあった?」と聞かれ、
一瞬どうしようか迷ったがあんな事を言える訳がない。
当たり障りの無い返答で誤魔化した。
63 :Chapter 6 :2013/09/21(土) 21:17
途中会ったマネージャーに昨日のiphoneの礼を伝えたら、桃子の噂を聞いた。
今日の桃子は楽屋での待ち時間だけならともかく、
収録中もおとなしく黙り込むという酷い有様で絶不調らしい。

「昨日体調悪そうだった?」と聞かれたが「さぁ。忙しそうで疲れてんなぁとは思いましたけどね」と適当な返事をしておいた。
まさか「あぁ、昨日酔ったあげくうっかり桃にキスしちゃって。そのせいでしょうか」などと正直に答えられるはずもない。

忙しい桃子に悪いことをした。
桃子は怒っているだろうか。

なにせ桃子は乙女チックシミュレーションなどを嗜む乙女なのだ。
雅としては桃子の本気度を疑っているところもあるが、まぁ、桃子のことだ。
キスは大事にしているだろう。

桃子に、嫌われただろうか。

けれど、これに関してはどこかで事態を楽観視する自分がいる。
桃子はきっと雅を嫌わない。
雅自身にもどうしてかはわからないが、しでかした事を反省はしても、
後悔の念は全く浮かんでこない。
64 :Chapter 6 :2013/09/21(土) 21:18
そんなこんなの1日が終り、今雅はベッドの上。
1日たって随分落ち着いた。
今日は昨晩ほどは悶えずに済みそうだ。

に、しても―

「よくはない」

思わず呟き、ため息をつく。

教育実習を控えて、色々立て込んでいる桃子なのだ。
その桃子をこのまま放っておくのは、相棒としても、『原因』としても、非常に心苦しい。

会うべきか、会わざるべきか。
格好をつけてみたはいいものの、仕事なのだから会わない訳にはいかないのだ。
蒸し返すのもよくないだろうか。きちんと話合うべきだろうか。

朝からずっと自問自答していた。

べつに直接でなくても、電話、メール、Lineと数種類の連絡手段があるのだ。
すぐにも謝るべきかと思う。
けれど、謝るのもまた違うと思うのだ。

「何もなかったことにしたほうがいいかなぁ」

ベッドの上で唸り、雅は頭をかかえる。
自分からキスしておいて何だが、冷却期間も必要かもしれない。
桃子は大人だ。
何もなかったことにしてくれるのを期待する―
65 :Chapter 6 :2013/09/21(土) 21:19
「のもなんか」

嫌だ。

目を閉じると、昨日のキスする直前の桃子の笑顔、キスした後の桃子の真っ白な真顔、ももち結びのももち、
口を尖らせる桃子、ライブの記憶、怒った顔、真剣な横顔、満足げな笑顔が次々と浮かんでは弾ける。

その合間合間に思い出される、キスをした時のあの唇の熱さ。

心臓がどきどきと音を立てて鼓動を始める。
こんな気持ちは初めてかもしれない。

どうしてこうなったのか。
これからどうしたいのか。
自分でも自分がさっぱりわからない。

桃子はどう思ったのだろう。
桃子は、どうするのだろう。


ああ、夜が明ける。
66 :たすけ :2013/09/21(土) 21:19
△▼△

67 :たすけ :2013/09/21(土) 21:20
△▼△
68 :たすけ :2013/09/21(土) 21:24
Chapter 6 終了

>>59
私も更新のたびにドキドキしています。ちょっと違う意味で、ですけどw

>>60
ありがとうございます。よかった!

>>61
やっとみやももらしくなったかな、と。お言葉嬉しく頂戴しました。
これからもよろしくお願いします。
69 :名無飼育さん :2013/09/22(日) 03:33
ああ!私までドキドキして眠れませんw
続きが気になって気になって仕方ないこの感じ、久しぶりです。
更新楽しみに待っています。
70 :      :2013/09/22(日) 18:06
自分で言うのも変だけど、恋には一途だし結構真面目なほうだと思う。

キスも誰彼かまわずするなんてことしない。

たとえばライブで、テンションが上がっててほっぺにチューとかはあっても、唇はない。
恥かしいし。

後になって考えると、このときあたしは桃にキスしちゃったことで頭がいっぱいだったのもあるけど、
無意識にいろんなことを考えないようにしていたんだと思う。

答えなんて、ほんとは出てた。



きっと、今よりずっと前から。
71 :Chapter 7 :2013/09/22(日) 18:07
身構えていなかったので、油断した。
会社に外から戻ってきたら、廊下で桃子に出くわした。
自販機の前で、ももち結びで何を買うでもなくぼーっとたたずんでいる。

「っ、おぉ」

動揺したまま手をあげて挨拶すると、首だけくるりとこちらへ向けて
桃子も「おー」と気の抜けた返事を返してくる。

少し顔色の悪いいつもの桃子。

その青白い面には雅のような動揺も緊張も見えない。

「あー、桃」
「みや、ごめん時間ないから桃行くね」
「え?」
「じゃ」

ピンクのワンピースの裾を翻して小走りに駆けていく。
時間がないようには見えなかったし、自販機の前に立っていたなら何か飲み物が欲しかったのだろうと思うが、
よかったのだろうか。
72 :Chapter 7 :2013/09/22(日) 18:09
これはあれか。

「避けられて……る?」

避けるにしても桃子ならもう少し上手くやると思ったが、どうしたのだろうか。
雅と同じく、予想外の邂逅に動揺していたのか、それとも。
そのわりには平常心の手本のような、能面のようなあの顔はなんなのだ。

事ここに至り、メールを送ろうと思うが、気持ちはうまく言葉にならない。
Lineもなにか、気が乗らない。

悶々とした気持ちばかりが募っていく。

もやつく気持ちのまま、月も変わり、リハの日を迎えた。
今日から数日間、スケジュールは桃子と一緒だ。

このチャンスを活かすべきだとは思う。
謝るのはアレでも、軽く詫びを入れるべきだ。
あの様子では多分、桃子も気にしている。
先日のように避けられると、仕事にならない。
73 :Chapter 7 :2013/09/22(日) 18:10
覚悟を決めて、臨んだ1日目。

「あのさ、桃」

桃子が楽屋のドアを開けたところで、雅は桃子を捕獲し、そのまま二人で廊下に出る。

「っと。ちょっと!なに、みや。痛い。危ないって」

気持ちと勢いがあまったとはいえ、背中をわしっと掴んだのはやりすぎだったか。
反省しながら、引っ張られて締まってしまった首元をさする桃子に向き直る。

「ごめん。あの、この間は」

掴んだままだった桃子のジャージから手を放し、廊下の端に寄ると桃子も雅の横に並ぶ。
ただ、その距離がなんとなく気になる。
なんとなく、遠い。

「この間?」

首を傾げる桃子に焦れて、雅の語気が荒くなる。

「だから、この間!ごめん。あのさ、あたし」
「……なんのこと?みやに謝られるような覚えないんだけど。それよりさ」

「それよりさ」から始まるリハ、テレビ、この間の大阪、
札幌の話とめまぐるしく移り変わる雪崩のようなマシンガントークでそのまま流され、その日は機会を逃したまま終了。
74 :Chapter 7 :2013/09/22(日) 18:11
その後もちらちらと話をすることがあったのだが、やはり桃子との距離は事件以前よりも
1歩、いや2.5歩分は隔たりがある。

雅としてはなんとかしたいとは思っても、どうしても腰が引ける。
久しぶりに梨沙子や佐紀と会って、話が弾んだのもある。
つい、桃子とは疎遠なまま楽な方へと流れてしまった。

2日目もそれが継続。
佐紀と梨沙子と話すのが楽しく、これまた、つい。
リハ終了後も仕事に追われる桃子をはじめ、他のメンバーと別れ、
佐紀とカフェで話をした。話は尽きず、盛り上がった。


このままでいいんじゃないかな。
このまま、桃が流してくれたらそれで。
75 :Chapter 7 :2013/09/22(日) 18:13
桃子との関係もそこそこ良好であることだし、距離こそ、今は少し気なるが、いずれまた元に戻れるだろう。
キスなんて、千聖も舞もよくしている。
モーニングさんも今はどうか知らないけど、昔はよくメンバー同士でキスしているのを見た。

たいしたことなんてない。
ファーストキスじゃないんだし。
ちょっとうっかり、なんていうか酔っ払った気の迷いでやっちまっただけなのだ。
愛犬のピースや、たとえばどこかのハムスターが可愛くてキスしたのと一緒だ。

桃子が聞いたら目を剥いて抗議しそうな乱暴な結論で、雅は迷走する思考を終わらせようとする。

桃もとってもきっと、たいしたことないってことなんだ。

もう20歳だし、恋人の話など聞いたことはないがきっと、キスぐらいどうってことはないのだろう。慣れているのだ。

雅はきつく目を閉じる。

何もなかったんだ。

だから、この胸のもやもやも、痛みもぜんぶ嘘なのだ。
にじむ涙も、気の迷いだ。

76 :たすけ :2013/09/22(日) 18:14
△▼△

77 :たすけ :2013/09/22(日) 18:14
△▼△

78 :たすけ :2013/09/22(日) 18:21
Chapter 7 終了

>>69
ありがとうございます。
量的にやっと半分過ぎました。
出来ましたら最後までおつきあいよろしくお願いします。
79 :たすけ :2013/09/22(日) 19:29
あと3回の更新で終了予定です。
明日は朝と夜の出来れば2度更新して、明後日夜は2話連結で完結までいきたいと思っています。

今になって思えば連休中に終わると良かったような気もしますが、
後2日、よろしくお願いします。
80 :名無飼育さん :2013/09/22(日) 19:41
あと3回楽しみにしています
でも終わるのが寂しくもあるー
81 :名無飼育さん :2013/09/23(月) 00:12
うわぁ。どうすんの夏焼さん・・・。
前回更新分で、浮かれすぎって思っていたら。
あと3回楽しみにしてます。
82 :名無飼育さん :2013/09/23(月) 00:46
明日は二回も更新分が読めるなんて…贅沢だわ。
続きが気になるけど終わってしまうのは寂しい、複雑な気持ちです。
83 :Chapter 8 :2013/09/23(月) 06:25
それに触れることが、怖くなった。
あけてはいけない。
そこから踏み出せば、戻れないような何かが待ち構えているような気がする。
雅の理性が、勘がアラートを鳴らしている。

目さえ瞑ってしまえば、いつもの日常が待っている。
ダンスレッスン、イベント。
桃子と一緒にいると楽しかった。
ステージの上で桃子からフライデーの話題でからかわれたときは一瞬背中が冷たくなったが、
梨沙子が助け舟を出してくれて助かった。

そういえば、あれ、ほんとに行くのかな。

ファンの前でスイーツを食べに行く約束などしてしまったが、あの約束は実現するのだろうか。
雅としては喜んで一緒に行くし、照れ隠しで「おごり」などと言ってしまったが、別に割り勘でも、
なんなら雅がおごってもいい。

でもあれ多分、ただのサービストーク的なやつだし。

楽屋はいつものようににぎやかだ。
84 :Chapter 8 :2013/09/23(月) 06:30
「ちーちゃん!なんなの、桃が重いって訳!?」
「重いでしょー!ってか、ウザイ嗣永、離れて、のしかかってくるな!」

楽屋のドアに近いソファで梨沙子としゃべっていた雅だが、騒ぐ二人にちらりと目をやれば、
数時間前に桃子がよろけたついでに桃子を抱きしめた事を思い出す。
雅の頬に熱がともる。
今までスキンシップなど意識したことなどなかったのに、桃子の肩の感じや温度、
シャンプーの匂いをありありと思い出してしまう。

「みやどうかした?」
「んーん、何も。で、梨沙子、そのお店で何買ったの?」

雅がこんなに可愛い反応をしているというのに、桃子といえばあの調子。
今日の撮影は移動があったり、ダンスが大変だったりと余計なことを考える必要がなくて助かった。
MVの撮影終了まであと少し、という休憩中。全員が衣装のままだ。
深夜だというのに、メンバーのテンションは高かった。
騒ぐ桃子と千奈美の横で机に伏せていた友理奈が迷惑そうに頭をもたげ、ため息をつくと元の体勢へと戻っていく。
85 :Chapter 8 :2013/09/23(月) 06:31
「熊井ちゃん、煩いなら離れればいいのに」

雅の後ろのソファに陣取って漫画を読んでいた茉麻が独り言のようにつぶやく。
声に宿った面白げな響きに、なんとなく興味をもって茉麻の方へと向き直ると、
茉麻の向こうで桃子がまた騒ぎ出した。

「千奈美、これ全部飲んだわけ!?」
「だって桃が飲んでいいって言ったんじゃん。あたし全部飲んでいい?って聞いたら、んーとか返事したくせに」
「言ってないよ!」

ペットボトルを握って対峙する桃子と千奈美の音量に耐えかねたのか、
ついにのっそりと起き上がった友理奈が避難ついでに「言ってたよ、桃」とジャッジする。

「言ったか。じゃあしょうがない。でもさぁ、んーは相槌でしょ」
「っていうか相槌とか意味わかんない。誰が聞いてもそれ返事でしょ」
「まぁいいけどさぁ。あー。桃のど渇いた。なんか買ってくる」


見るともなしに見ていた桃子がこちらへ向ってきたので少し慌てたが、
そういえばバッグにまだ飲んでいないお茶が入っていたはずだ。
86 :Chapter 8 :2013/09/23(月) 06:32
確か桃子の飲めないものではないはずだと思う。
今日は荷物が多いので忘れていた。

「あ、ちょっとごめん、梨沙子」

断って、自分のバッグからペットボトルを出すと、
雅は丁度自分の脇を通り過ぎようとした桃子の進行方向へと差し出す。

「桃、これいる?」
「っ」

手と手が軽く触れた瞬間、ぼこん、と間抜けな音がした。

それは一瞬だった。

差し出した雅の手を桃子が振り払って、ペットボトルが床へと転がる。
驚いてごろごろごろ、と扉まで転がっていくペットボトルを見送った雅が桃子へと視線を戻すと、
やはり呆然とした桃子と目が合う。

半開きになった口をぱくんと閉じて、桃子は振り払ったまま固まっていた自分の右手を胸元へと戻し、
左手で守るように握りこむ。
雅と目を合わせたまま、桃子の顔が見る間に赤くなっていく。
87 :Chapter 8 :2013/09/23(月) 06:33
楽屋は静まり返っている。

見詰め合ったまま、雅がとりあえず何か言おうと口を開いた瞬間、楽屋のドアが開いた。

「あれ?これ誰の?」

入ってきた佐紀が、雅のペットボトルを拾い上げていた。

「入り口に転がしとくとかやめてよね。怪我したらどうすんの、ってあれ?どうかした?」

全員が全員佐紀に注目している状況。
首をかしげた佐紀にいち早く反応したのは桃子だった。

「ごめん、なんでもない。ありがと、キャプテン」

ペットボトルを佐紀から受け取ると、雅に返す。

「ごめんね、みや。なんかびっくりして」
「んーん。別に」
「あの、わたし、飲み物買ってくるから」
88 :Chapter 8 :2013/09/23(月) 06:33
早口でまくし立て、そのまま佐紀の横を通り抜け、桃子が出ていく。

「ね。どうか、した?」

佐紀の問いかけは殆ど確認に近かった。
梨沙子も心配を隠さず雅を見つめる。

「別に、なんでもない。」

振り払われた手が冷たい。
手は痛くなかったが、胸が痛い。
なんでもない。何もなかった。
だって桃子も何も―

「ちがうわ」

なんでもないなんて嘘だ。
桃子があんなに動揺している。

「あのさ、キャプテン」
「う、うん」

何故か一歩引いた佐紀にかまいもせず、雅はドアへと向かう。

「あたし、桃と喧嘩してるんだ。あ、それも違うか。あたしがちょっと、桃にやっちゃって。謝ってくるから」

やっちゃったってなにを。

自分の発言のツッコミ所に気付きもせず、困惑に満ちた楽屋の空気を背に雅は走り出した。
89 :Chapter 8 :2013/09/23(月) 06:34



90 :Chapter 8 :2013/09/23(月) 06:35
スタッフに居場所を聞いたり、走っているうちに桃子を見つけた。
廊下の隅、人気のない階段に一人で座っている。

「桃」

座り込む桃子の前に立ってはみたものの、続く言葉を見つけられず、
とりあえず名前を呼べば桃子がゆるりと顔をあげた。
相変わらずの白い顔。浮いた隈。
疲れた様子に雅は思わず顔をしかめた。

「こないだはごめん」
「だから、何のこと」
「キスのこと」

恥ずかしかったがストレートにそのまま言って、衣装のグローブをつけたままの桃子の手を握った。
雅としては他意はなく、先程のように逃げられないようにという保険のつもりだった。
91 :Chapter 8 :2013/09/23(月) 06:36
それなのに桃子はつかまれた手を凝視し、頬を染める。
つられて雅も顔に血が上ってくるのがわかる。
『キス』のワードに反応したのだろうか。桃子の反応がいまいち読めない。
動悸が激しくなる。
こんなつもりではなかった。

ただ、謝って―

どうしようと思ったんだっけ。

手を握り、見つめ合うこと数秒。
桃子が雅から目を逸らし、うつむく。

「どうしてしたの」
「え?」

桃子の旋毛をしげしげと眺めながら思考に耽っていたので、何の話かわからなかった。

「だから……」

「キス」。
92 :Chapter 8 :2013/09/23(月) 06:37
不意打ちのそれは囁き声よりも小さな音量だったのに、
雅の心に大きく響き、心臓がひとつ大きく跳ねる。

「どうしてって」

喉が詰まる。
どうして、してしまったのか。
何度も自分に問いかけたが、した雅としても不本意だが未だに納得できる答えは出ていない。

「したかったから?」

自信も覚悟もなく、一番心に近いものを声にしたが、震える声は自然、疑問系になり、
桃子が信じられないとでも言いたげに雅の顔を凝視する。

「はぁ?みや、したかったら誰にでもあんなことするの?」
「しないよ!したことないし。酔っぱらってたからか……ら?」
「みやはお酒を飲むのを止めたほうがいいよ。それキス魔っていうんだよ」
93 :Chapter 8 :2013/09/23(月) 06:37
大きく肩を落として桃子が嘆く。

「ごめん。でも、前からあたし変でさ。桃に会うと嬉しかったり、一緒にいると楽しかったり」

それは春からだ。
桃子の凄さを再確認した。
テレビで見れば誇らしく、会えば妙に嬉しかった。
待ち合わせに浮かれるなんて、今までなかったことだ。

「ちょっと、それ変なの?酷くない?」

桃子の至極もっともな指摘に、雅は自分の言った言葉を反芻してその内容の酷さを自覚し、動揺する。

そうじゃない。そうじゃなくて―

「そうだけど、違う。前よりずっと。桃が他の子と喋ってたの見たり、桃のテレビ見て、
なんか桃が遠くなった気がしたり」

―もっと、素直にきちんと、言いたいことを伝えたい。
94 :Chapter 8 :2013/09/23(月) 06:38
いつもとなりにいた桃子が居なくて、思っていたより寂しくて。
休み中、何度もメンバーみんなに会いたくなったが、その気持ちを言葉にしたとき口にするりと出てきたのが、桃子だった。

飲み会での桃子の話が嫌だった。
桃子の真価を知らないくせに、桃子の可愛らしさ、美しさを知らないくせにと怒り、
けれど同時に、知られたくない、あいつらなんかに見せたくないと思ったり。

「桃貶されて本当ムカついて、やっちゃった」
「……ごめんわかんない」

正直な気持ちを告げたのだが、自分自身もわからない感情を上手く伝えられない。
案の定、眉を下げて、途方に暮れた顔をしている桃子が可愛い。
95 :Chapter 8 :2013/09/23(月) 06:39
「うん。……桃がんばってんなって。桃、かわいいなって。え?―嘘」

目の前の桃子は顔色も悪いし、ダンスのしすぎでへろへろだし、
髪も整っているとは言い難いが、本当に可愛いと思う。

知っている。この感情は、きっと―

「へ?何?」
「あたし桃のこと」

好きだ。


すとんと心に落ちてきた。
それと同時に、雅の手ごと桃子の手が落ちた。

じゃらりと手首のブレスレットが擦れて音が響いた。
96 :Chapter 8 :2013/09/23(月) 06:40
最後は言葉にはならなかった。

頭の中が真っ白になる。雅の周囲から音が消え、世界が遠くなる。
膝の力が抜けて、雅は桃子の前にしゃがみこむ。

「うそでしょ」

桃ががんばっていると、応援したくなる。
桃がけなされるとむかつく。
桃が笑っていると、嬉しい。
桃が悲しいのはいやだ。

桃子は驚いた顔をして雅を見ている。

桃の横に亜美がいると胸がざわざわして、
雅の知らない番組スタッフと話しているのを見るとなんだか遠くにいってしまったみたいで胸が痛む。
97 :Chapter 8 :2013/09/23(月) 06:41
桃と一緒だと、嬉しい。
隣にいると楽しい。近くに居たい。
困っていたら、出来れば、一番に助けたい。
あたしが、助けたい。
友達と笑い会っていたとき、なんだか羨ましくて悔しかった。
フライデーされたとき、桃に彼氏がいるかもしれないと思ったとき、怖かった。

今ならわかる。



「嘘、でしょ」

「わかった。もういいよ、みや。とりあえず」

ぶらん、とまだ雅に掴まれたままの手を桃子が自分の膝から胸前まであげる。
98 :Chapter 8 :2013/09/23(月) 06:42
「放して。あとそれ、気の迷いだから。一時的なもの。キスしちゃって、
ドキドキしただけだから」
「それって何」

「だから」

断言の形で言い切って、続けようとした桃子が凍りつく。
ほんのりと赤く染まっていた頬が雅の目の前で見る間に白くなっていく。


一度俯き、掴まれたままの両手でこぶしを作った桃子がまた顔を上げる。



「とにかく、そうなの!」

とがった薄い唇がきゅっと引き結ばれ、叫んだ桃子が急に立ち上がる。
99 :Chapter 8 :2013/09/23(月) 06:42
「わっ」

しりもちをついたままの雅に背を向け、桃子は走り去る。
なんとなくペンギンを思わせるいつもの変な走り方で角を曲がり、桃子の姿は消える。


「この話、これで終わりだから!」


姿は見えぬまま、廊下の向こうから一方的に宣言されたが反応など出来ず、雅は呆然と座り込む。



「……うそでしょ」
100 :Chapter 8 :2013/09/23(月) 06:53
Chapter 8 終了

>>80
お付き合い頂いてありがとうございます。
最初からもうちょっと計算して更新していたらよかったんですけど、
無計画のつけがこんなところに。
でも間があくよりはいいかな、と。

>>81
ありがとうございます。
夏焼さんには頑張っていただきたい。
もう少しおつきあいよろしくお願いします。

>>82
おはようございます。
そう言っていただけると嬉しいです。
忙しないことで申し訳ありませんが、後ちょっと。
よろしくお願いします。
101 :たすけ :2013/09/23(月) 06:53
△▼△
102 :たすけ :2013/09/23(月) 06:55
△▼△

レスのお返しは>>100に。
103 :名無飼育さん :2013/09/23(月) 16:49
うー…もどかしい。
ももちの真意が気になる。
雅ちゃんが純粋で真っ直ぐで可愛すぎるー(>人<;)
104 :Chapter 9 :2013/09/23(月) 18:46
MVの撮影が終了を雅はあまりよく覚えていない。
何も指摘はされなかったから、多分ダンスはうまくできたのだろう。

いつもどおり千奈美とふざけて佐紀や梨沙子としゃべって帰宅した。
「あの後どうしたの?」と聞かれたが、「もう大丈夫」で適当に誤魔化した。
大丈夫などではないとバレバレだとも思うが、この辺りは皆長いつきあいなので当人同士の問題、と踏み込んでこない。
桃子とはあれから話をしていない。
一緒にいた時間は少なかったから、遠い距離もそう目立たなかったと思う。

走り出した気持ちをもてあまし、雅はため息をつく。
家へ帰り、なんども自問自答した。

どうして桃子なのか。
よりにもよって桃子だ。
生真面目なくせに自由自立、独立独歩の桃子だ。
何を考えているかわからないことも多いし、趣味も、話題も違う。
共通点も無いとは言わないが、それほど多くはない。
好きになどなっても苦労をするに決まってる。
105 :Chapter 9 :2013/09/23(月) 18:47
男の子を好きだという方がまだよかったかもしれない。
佐紀は、梨沙子は、千奈美は、茉麻は友理奈はなんて言うだろう。

ファンの人はなんて言うだろう。裏切りだと言うだろうか。
事務所にも怒られる。世間にばれたらどうしよう。
ネットとか週刊誌とか、新聞とか。

桃が好きでも、結婚とか出来ないし子供出来ないし―
いや、結婚とかいきなり重いか。でも、桃子供好きだしな。
あたしも、結婚して子供が、とか思ってた。

こんな気持ちを言う気はないが、両親は、弟はどう思うだろう。

思えば、昔から桃子を見てきた。
少しわかりにくいこともあるが、桃子は昔からメンバーや、雅に優しい。
小さい頃にはその優しさに気づけなかった。
そっぽを向きながら、桃子の気を引きたくていたずらをしたり、弄ったり、真似をしたり。
可愛くないことを言ったり、素直になりたかったのに桃子に逆に茶化されたり。
ライブでフォローしてくれたり、雅が助けたり。
106 :Chapter 9 :2013/09/23(月) 18:48
桃子に拒まれれば―例え桃子と付き合っても、それが露見したとしたら―
今までと、これからのすべてが失われるかもしれない。

それはとても、言葉にできないぐらい怖いことだ。

きっとずっと、この気持ちは胸にあった。
気付かずに済ませられれば、どんなに楽だっただろう。
後悔する。後悔しても仕方がないが、後ろ向きな思考は止まらない。
もう全部止めて、なかったことにしてしまいたい。

それでも、心は桃子を指す。
たった一人を選ぶなら、桃子がほしい。
桃子のことを想うと、何故かちょっと泣きたくなる。

桃子は雅のことをどう思っているのだろう。

雅の性格上、本来なら気付いても怖くて告白なんてできなかったのに、
自覚もないまま告白もどきをしてしまった。

自分の鈍さとうかつさが嫌になる。
あれでは鈍感な桃子でも気がつくだろう。
現に、走って逃げられたあげく「もう終わり」などと妙な捨て台詞を残された。
107 :Chapter 9 :2013/09/23(月) 18:49
しかし、不本意ながらあまり頭が良くないと自認する、雅でもわかることがある。
桃子からは一度も拒まれていない……ような気がする。

本当に気にしていないなら、桃子があんなに逃げるわけがない。
本当に嫌なら、もっと正面から、もう二度とあんなことをしないでと言われる。
桃子とは長い付き合いだ。それぐらい、雅にはわかる。

あれから何度も、桃子との会話を反芻する。
その度に壁にぶち当たる。

どうして逃げたの?
どうしてあの時、顔が赤かった訳?

あれじゃ、ちょっと期待するでしょ。
それとも驚いてるだけ?

希望が頭をもたげるたびに、そんな訳がないと打ち消すがどうしても落ち着かない。
108 :Chapter 9 :2013/09/23(月) 18:50
落ち着く訳がない。雅自身もソロイベントを控えている。
段階をすっとばしてうっかり、本当にうっかり進んでしまったのでもはや後ろに引けず、これ以上進めず。まさしく自業自得とはいえ、こんな心境では仕事に身が入らない。

時間がたてば解決するかもしれない。
そう思ってもみたが、時間がたてばたつほど、桃子への気持ちは溢れ、加速して雅を追い詰める。
この数日すっぽり頭から抜け落ちていたが、桃子も教育実習があるのだ。
雅ほどではないとしても、あの様子なら桃子もこれが気にはなっているはずだ。

桃子から無理矢理『終わり』と言われたからには、そこにどんな終わりがあろうとも始めてしまった責任を取ってけりをつけてやるべきだ。
このままにしてしまえば、きっとしこりが残る。自覚してしまったのだ。

どうせもう元にはもどれない。

雅はiPhoneを握りしめ、通話ボタンを押した。
109 :たすけ :2013/09/23(月) 18:51
△▼△

110 :たすけ :2013/09/23(月) 18:51
△▼△

111 :たすけ :2013/09/23(月) 19:02
Chapter 9 終了

>>103
嬉しいお言葉ありがとうございます。
明日もよろしくお願いします。


1週間お付き合いいただいたEoEですが、明日終了します。
更新は9時頃から出来たらと思っています。
量が結構あるので、ミスしないようにしたいな、と。
連日の忙しない更新なのに、レスいただいた皆様に感謝しています。
112 :名無飼育さん :2013/09/23(月) 20:22
うわぁ、明日が待ち遠しい。
夏焼さん、ずるいなぁ。なんでそこに気づいてしまうんだろう。
桃子のほうが頭の回転早くて自分の思い通りにことを進めれそうだけど、
このことに関しては、夏焼さんの野性のカン?で夏焼さんの思い通りになりそう。なんか、ソワソワしてしまいます。
113 :名無飼育さん :2013/09/23(月) 21:37
この1週間毎日楽しみにしていました。
明日で終わるのはさみしいですが、でもとても楽しみにしています。
114 :名無飼育さん :2013/09/24(火) 00:47
桃子の気持ちが気になる…
明日が待ち遠しいです。
115 :名無飼育さん :2013/09/24(火) 08:47
もうすぐだーー。
楽しみすぎる。
116 :たすけ :2013/09/24(火) 21:04
>>112
ありがとうございます。
頂いたレス、励みになりました。
中身について何もいえなくてもどかしいです。

>>113
お付き合いありがとうございました。
ご期待に沿えますように。

>>114
ありがとうございます。
短いようで、ちょっと長い1週間とちょっとでした。
やっと終われます。

>>115
ありがとうございます。
ちょっとすぎちゃいましたけど、9時ですね。間に合ってよかったー。

ではでは、一度やってみたかった2話ぶち抜きの最終回。
よろしくお願いします。








117 :Chapter 10 :2013/09/24(火) 21:06
「よっ」
「っ!?」

大袈裟なぐらいびくっと反応して、桃子が雅をまじまじと見詰める。
ももち結びのままで、ピンクの薄いコートにピンクのバッグの桃子がいる。
場所は会社のエレベーターの前。そして夜。
死角から居るはずのない雅が出てきたら、それは桃子でなくても驚くだろう。

「なんでいるのみや」
「マネージャーさんから聞いた。今日これで終了なんでしょ?あ、お疲れ様でーす」
「あぁ、夏焼さん。後よろしくね」
「はーい」

桃子と並んでいたマネージャーに手を振って、もたれていた壁から背を離すと雅は桃子の手首を握る。
外から来たくせに、桃子の手は温かかった。
温度差を感じる程なので、桃子にとって雅の手は冷たかったはずだが、
桃子は文句を言わない。

桃子の手首の細さを感じる。
こんなにしっかり自覚して握ったのは初めてで、なんだかちょっと恥かしいような、
くすぐったいような気持ちでむずむずするが、ここで恥ずかしがってはすべて台無しなので平気な振りをする。
しっかり力を入れて手を引くと、桃子が不本意そうにつかまれた方の手を振る。
118 :Chapter 10 :2013/09/24(火) 21:07
「なんでそんな捕まえんの」
「べつに。あたしに手つかまれるの嫌なの?」
「そういうわけじゃないけど。離してよ」
「だめ。桃、逃げるから。行くよ」

そのまま来たエレベーターに乗って、「ちょっと、みや」などと騒ぐ桃子をひっぱって
目的の階のボタンを押す。

「どこ行くのさ」
「んー?部屋借りて貰った」
「部屋?」
「うん、会議室。あ、ついた」

桃子の手を引いて歩き出す。もっと抵抗されるかと思ったが、桃子は案外素直に雅についてきた。
ドアをあけ、明かりをつけると桃子を先に部屋へと通す。
そのまま雅は鍵をかけた。

「みや?」
「さて、嗣永さん。あたしたち、話し合うべきだと思うんですが」

ドアに鍵をかけた雅を不審者でも見るように眉を顰めて見ていた桃子だが、
かしこまった雅の言葉にさらに困惑を露わにする。
119 :Chapter 10 :2013/09/24(火) 21:08
「話し合うって何を?わたし、明日も朝から大学あるんだけど」
「そうだろうね。だから、話し合お」
「だから、何をさ!?話すことなんてないと思うんだけど」

桃子の瞳が不安と緊張に揺れている。
本人は隠しているつもりなのだろうが雅には分かる。

「あれからさ、あたしたちちょっとあれじゃん。その、あたしがやらかしてから」
「またその話?」

肩から滑り落とすようにバッグを下ろし、うんざりした様子で桃子が立ったまま椅子に両手をかける。

「それ言うなら、わたしこの話終わりだってみやに言ったよね」

雅も自分の鞄を桃子の前の机の上に起き、桃子と同じく椅子には座らず、
立ったまま対面する。

怯むな。逃げるな。
自分を叱咤するが膝が震える。声も震える。

「言った。でも終わってない」

それでも首を振って雅が言い切ると桃子が眉を寄せ、苛立ちを隠さず反論する。
120 :Chapter 10 :2013/09/24(火) 21:08
「終わったの!みやがどうだか知らないけどわたしの方は終わってる」
「ほんとに?」

机を挟んでにらみ合うこと数秒。先に折れたのは桃子だった。

「……いいよ。わかった。みやの話聞く。けど、仕事の為だからね。
これからの仕事に差し障りがあるから聞くんだから」

思わず雅の口元が緩む。
どうにも言い訳がましいが、桃子としても話が終わっていない事、雅、もしくは桃子、はてまた両方か、
どれかはわからないが仕事に支障があるということは認めるらしい。


「桃はあたしが今から何言うかわかってんの?」

言わないで、何とかならないのか。
少し水を向ければ、あるいは―
例えば桃子が雅を好きで、告白してはくれないのか。
この期に及んで希望に満ちたずるい考えが浮かぶ。
121 :Chapter 10 :2013/09/24(火) 21:09
「わかる訳ないよ。やーっと収録終わって帰れると思ってたんだからね。早くしてよ」
「わかった」

万が一桃があたしを好きだとしても、桃があたしに好きなんて言う訳ない、か。

賢く、度胸があるし最近はももちを全面に押し出しているので忘れがちだが、
桃子は根本的には臆病で生真面目で慎重だ。
もし桃子が雅を好きだとしても、そして雅が桃子を好きだと知っていたとしても、
桃子は多分、一歩を踏み出すことはないと思う。

ならば、ここからとぶのは雅の役目だ。

指など冷たいを通り越して最早感覚がない。
心臓が飛び出そうだ。


多分今、線の上に立っている。

『10年アイドルをやってきた』。
桃子もよくそう口にするこの言葉だが、10年。
言うだけなら1秒程だが、10年というのは長い時間だ。
雅の人生の半分だ。
アイドルをしていなかった残りの10年に関してはあまり覚えてない事も多いから、
物心ついた雅の半分以上。雅そのものと言っていいかもしれない。

いい事も嫌な事も嬉しい事も悲しい事も沢山あった。
幼い頃はこんなに長くBerryz工房でいるなんて想像もしていなかった。
傍にはいつもメンバーが、桃子がいた。
今なら引き返す事が出来る。
122 :Chapter 10 :2013/09/24(火) 21:10
10年。
雅にとってなくすことの出来ない大切な過去で、現在で、そしてこれからも続く未来。
全てが一繋ぎにつながっている。
桃子の望む通りに、『あれ』を冗談にしたら、きっと明日からまた、
同じ日々を歩む事が出来る。

アイドルして、いつか結婚して、子供が出来て、メンバーと会って、
ママ会とかして、前インタビューで桃と話したみたいに、公園で子供を抱いて―

しかし、その未来のどの時をとっても、多分、今ほど近くに桃子はいない。

ここを踏み越えるのは怖い事だ。
未来はわからない。例えば今日桃子と付き合えても、明日大喧嘩をして別れるかもしれない。
けれど、今これを言わなければどちらにせよ後も、先もない。

気付いてしまったのだ。ならば無かったことには出来ないし、したくない。

息を吸うと、ひゅっと喉から音がした。

指が、膝が、体が震える。心臓の音が耳元でする。
きつく一度目を瞑って、震える喉に力を込めた。

「すき」

ひどい声でも、出た事が奇跡だ。普段の発声練習に感謝する。

「ありがと。それだけ?」
123 :Chapter 10 :2013/09/24(火) 21:11
雅の一生分の勇気をさらっとかわして、桃子は肩をすくめる。
昨日シミュレーションした通りの答えと態度だが、実際目にすると非常に腹が立つ。
桃子は乱暴に自分の髪飾りとゴムを外すと、鏡も見ずにももち結びを手櫛で解いていく。

「そうだけど」
「わかった。じゃ、桃帰るね。みやお疲れ〜」

苛立つ雅とは対照的に鼻歌でも歌い出しそうな位に飄々と手を振り、
鞄を持ち上げようとした桃子の手を雅は上から押さえつける。

「痛いよ、みや」
「今あたし告白したんだけど。何かないの」

ここで引き下がるわけにはいかない。
苦情を無視して下から睨め付けると桃子の目が冷たく光る。

「何かって言われても。みや、わたしBerryzの仲間で女の子なんだけど。なんか間違ってない?」

温度の感じられない淡々とした低い声。
けれど、桃子がやっと応じてくれた。
そのことに少し安心する。
124 :Chapter 10 :2013/09/24(火) 21:12
「あたしが男の子ならよかったわけ?」
「まさか。どっちだって一緒だけど」
「あたしも本当悩んだし嫌だった。よりによって桃とか信じらんないし趣味悪すぎだし」

雅としては真剣な気持を吐露したつもりだったが、何故かそれが売り言葉に買い言葉になる。

「勝手にキスしてきて勝手に告白してきた人が言うセリフ?それ」

不機嫌そうにいつもの調子で突っ込まれ、雅はしどろもどろに謝る羽目になる。

「そこは、だからごめん」
「まあいいけど。それは許す。いいでしょ、それで」
「あたしまだフラレてない」
「フれば帰してくれる訳?じゃあ、バイバイみや。みやとは付き合えない。
いつまでもいい仲間でいてよね。はいこれで明日からは普通ね」

ぱんぱんと手を叩き、いつもの撮影のように締めにかかられ、雅は桃子の肩に手をかけた。

「なんでよ」
「なんでって当たり前でしょ!アイドルは恋愛厳禁。私もみやも女の子。以上」
「カンケーない」

雅を引きずってでも今までのラインに戻ろうとする桃子に、
半ばヤケになって言い切れば、桃子の目が丸くなる。
125 :Chapter 10 :2013/09/24(火) 21:13
「大有りでしょ。ファンの人がなんて言うと思うのさ。スキャンダルになんじゃん」
「隠せばいいでしょ。男の子よりはバレにくいし、事務所からも止められてないよ」
「え?」
「女作るなって」
「いや、当たり前でしょ」

驚きに見張られたままだった瞳が和み、桃子が思わずといった様子でふきだす。
ひとしきり笑った後、妙に優しい顔で桃子は自分の肩を掴んだままの雅の手をなでる。

「あのさ、みや。何度も言ったけど、みやは、酔って、貶されてた桃に同情してキスしただけ。
それにドキドキして、今、桃が好きだと思いこんでるだけ。なんかあるでしょ。
心臓がどきどきすると、その人が好きだと思い込むってやつ。それ」
「桃もドキドキした?してたよね。あんな顔して逃げんだもん」
「っ……桃のことはいーの!」

あの日のようにほんのり頬を染めた桃子がばん!と机を叩いて、正面から雅へと向き直る。

「1回や2回のキス位で、桃たち何も変わらないよ」
126 :Chapter 10 :2013/09/24(火) 21:13
荒い仕草とは反対の、優しい、凪いだ声だった。
ふっと笑みを零して、桃子が続ける。

「もどろ、もとの桃とみやに」
「もどるもなにも、まだ何も始まってない。あと、桃の気持ち、あたしまだ聞いてない」

大人の顔をなんとか崩したくて、雅は桃子の腕をとる。
桃子に挑むには自分の態度が子供っぽくて嫌になるが、仕方ない。

「スキャンダルがどうとか仕事のこととかしか聞いてない。桃は、どうなの」
「わたしは」

違う、今から出るの、これ本音じゃない。
何故わかるのか聞かれても答えられないが、敢えて言うならなんとなく桃子の顔がまだ大人のままだった。
本当の桃子からの答えがほしくて、雅は手に力を込める。
127 :Chapter 10 :2013/09/24(火) 21:15
「嘘つかないでよ」
「まだなんも言ってない」

不本意そうに呟かれたが、否定はされなかった。
野生の勘は当ったらしい。よし、一歩リード。

「わかるよ、桃のことは。で、どうなの」
「……恐い」

ぽつり、呟いた桃子が顔を伏せる。

「何がよ」
「恐いものだらけだよ、そんなの。ファンの人を、応援してくれた人を裏切れない。
マネージャーさんも、スタッフさんも事務所の人も皆。普通のじゃないんだよ?しかもみやと桃の分、2倍だよ?
世間も恐いし、将来も恐いし、Berryzも家族も大事だし、それこそBerryzのみんながどう思うかとか、みんなの目も、
みんなが何言われるかも恐いし、みやも恐い。ここんとこずっとわたしがどんな気持ちでいたと思ってるのさ。
ひどいよ。勝手な事して、動揺しないように頑張ってるのに勝手に現れたり、終わりだって言っても、
もぉのこと無視して今日こんなとこまで押し掛けてくるし、好きとか言うし。言わないでよ、そんなこと」

途中で顔を上げた桃子が雅を睨むが、抗議の内容が情けなく、どうにも格好が付かないのが自分でもわかるのか
突っ張っていた肘が折れ、最後は背を丸めてため息をつく。

「そっか」
128 :Chapter 10 :2013/09/24(火) 21:16
口角が上がるのが自分でもわかる。
桃子のしょぼくれた背中のせいではない。

「ねぇ。ちょっと、何笑ってんの。人が今すっごい真剣な話してたでしょ」

キツい顔で真剣に抗議する桃子の肩をたたいて、雅はついにふきだし、笑い出す。

「ごめん。わかってる。あたしもちゃんと考えた、それ。でもさ、桃。今、桃、みやのこと」

雅が言い終わる前に雅が言おうとしたことに気付いた桃子が、見る間に赤くなる。
耳まで赤くなり、憮然とする桃子の肩にもたれて、雅は笑い続ける。

安心した。
困りきった顔をする桃子を見ることが出来て、嬉しかった。
緊張していた。
怖いということは、雅と付き合う未来を想像したということだ。
そんなことはないと思っていても、桃子に嫌われるかもしれないと思うと、恐ろしかった。
ゆるゆると喜びが胸に満ちてくる。



桃子が、雅が好きだと言った。
多分、雅と同じ意味で。
129 :Chapter 10 :2013/09/24(火) 21:17
直接でなくても、まわりくどくてもわかる。
安堵のあまりにじんだ涙をぬぐって、雅は桃子に向き直る。
仏頂面の口元をむずむずとさせ、複雑な顔でそれを見守っていた桃子が、
腰に手をあて大きなため息をついた。

「真剣に考えてくれて、ありがと。先のこととかわかんないけど、付き合お。ばれないようにする。みやのになって。桃がすき」

顔を覗き込んで勢いよく雅が言うと、桃子がそっぽを向く。

「嘘でしょ?そんなの。みや桃より佐紀ちゃんのが好きじゃん」
「そうだけど、キャプテンはそういう好きじゃない。桃が好き」
「桃が好きじゃないって言っても?」

本音が出たところで先程までの大人げをどこかへやってしまったのか、
桃子はすっかりいつもの桃子を通り越して小学生にまで戻り、それにつられて雅の口調も昔に戻っていく。
自然、声の高さと会話のレベルは下がる。

「それでも、あたしは好きだから。絶対隠す。外では桃に近付かないし、
キスもしないようにする」
「したじゃん」
「いや、あれは…と、ともかく、桃が好きなの」
「だめ。桃たち付き合ったらBerryzでいられないよ」
「そんなことないと思うけど。とりあえず、桃を好きでいることはいいでしょ」
「困る。もぉが普通じゃいられないよ」
「……なんだかんだでバレても、みんな最後は受け入れてくれると思うけど」
130 :Chapter 10 :2013/09/24(火) 21:18
自分が聞く立場だとしても、きっと信じられないし、受け入れ難いとは思う。
何せ、一緒に育ってきて家族のような仲間で、その上女同士だ。
ハードルが高いなどというものではない。冗談かと思う。
正直、桃子が好きなことを認めた今でも雅自身、この展開が嘘かどっきりのようで、実感がない。
二十歳になったら、大人になったら、と自分の未来を想像したこともあるが、
こんな未来など想像もできなかった。予想外もいいところだ。

しかし、10年の付き合いだ。
いや、10年の付き合いだから、信じられないと言われそうな気もするが、それでも。

「甘いね、みや。もし皆が受け入れてくれても、今度はBerryzが変な目で見られるよ。
あと、もし付き合って、別れたらどうすんの。気まずいでしょ」
「別れなきゃいいよ」
「無理だよ」

自分でもちょっと強引な返事だとは思ったが、至極真面目な顔で断言されて雅の胸に反発が巻き起こる。
付き合う前に無理とか、やる気がないとしか考えられない。
やる気以前に愛が感じられない。
131 :Chapter 10 :2013/09/24(火) 21:18
「やってみなきゃわかんないじゃん!」
「わかってる!わたしとみやだよ?無理」
「なんでよ」
「桃不精だし時間ないしみや愛想つかすに決まってるもん」
「なに、みやのこと大事にしてくんないの?」
「そういう問題じゃないよ、みや」
「そうなの?よくわかんないんだけど」

鼻から大きく息をついて腕を組んでみせると、桃子が苦々しく顔をしかめる。

「そもそも、好きとかよくそんな恥かしげもなく言えるね。普段ツンデレなのに。
あんまり好きとかいわないでよ」
「桃、そういうの好きなんじゃないの?よく言ってない?自分より自分のことが好きな人がいいとか」

桃子の意外な言葉に雅が思わず目を瞬くと、桃子が困ったように雅から目をそらし、視線を右の方に遣る。
132 :Chapter 10 :2013/09/24(火) 21:19
「そうだけど!みやから言われるとなんか微妙」
「ちょっとそれ無いでしょ!あたしだって恥ずかしいんだからね!」
「じゃあ言わなきゃいいでしょ!」
「言わなきゃこのままだから恥ずかしいの我慢してんじゃん!」

ついにぎゃあぎゃあといつものやり取りが始まったところで、雅が我にかえった。
ため息をついて苦笑いをすると、同じタイミングで桃子が肩を落として小さく笑う。

「ね、桃はさ、キスぐらいでなにも変わらないって言ったけど」

雅が話をしようとすると、必ず桃子は雅の方を向いていつも、きちんと話を聞いてくれる。
それは昔から変わらなくて、記憶の中のいくつもの桃子が、今の桃子の姿と重なる。
普段桃子に素直になれない分、丁寧に一つずつ心を言葉にする。


初めて会ったときのこと。


あまり覚えてはいなかったが、桃子と話していくうちに3万人もいる中で、
みんなより先に初めてあそこで会ったと知った。
133 :Chapter 10 :2013/09/24(火) 21:20
キッズの頃から雅にとって、桃子はなんだか気になる存在で、Berryzで一緒になって。
一緒に笑って、泣いて、喧嘩して、反発して、もう辞めようって思ったこともあって。

「桃のこと、前から嫌いじゃなかったよ。子供のときから。真似したり、困らせたり、
喧嘩したり反発してたときからずっと」

Berryzにならなかったら。途中で辞めていたら。そんな想像をすることもある。
けれど、3万人の中でぶつかって、今一緒にいるのだ。



多分、出会ったのは運命だ。


「桃が手、あっためてくれると安心した。多分、そういうことなんだと思う。
いつも傍にいないくせに、困ったとき、最後は桃が助けてくれた。そりゃ、弾みだったかもしれないけど、
キスしたらわかった。前からずっと好きだった。キスしたら、前より好きになった」

記憶から大事に、掬いあげるようにひとつひとつ、確認するようにぽつりぽつりと言葉にする。
拙い告白でも、桃子は今度はきちんと聞いてくれた。

言っちゃった。言い切った。
やりきった充実感のような、退路を断った、からっとした諦念のような達成感がある。

これが今の雅の全てで、多分嘘はひとつもなかった。
134 :Chapter 10 :2013/09/24(火) 21:21
達成感や過去のこと、桃子への気持ちなど色々な思いで胸がいっぱいで、
雅がひとつ息を吐くと桃子が潤んだ目でにらみつけてくる。

「……ばか。もう歌とか歌えなくなったらどうしてくれるの」
「何それ」

暫くの沈黙の後、やっと、とでもいうように呟いてしゃがみ込んで頭を抱えてしまった桃子に従って、雅も対峙していた机から離れ、回り込んで桃子の横にかがむ。

「もう歌詞とかでも無理だよ。好きとか恥ずかしすぎる」

声が小さかったので、耳を寄せた頭から聞こえた声に雅は思わず言葉を失う。
雅としても、今それはそれは恥ずかしい告白をした自覚があるが、その返事がこれ。

耳からくすぐったさが伝わり、恥ずかしさとうれしさと乙女な桃子への可笑しさが綯い交ぜになり、
滑り出たのがいつもの、桃子を茶化す言葉。

「うわー……ちょっと、聞いたこっちのが恥ずかしいんですけど」
135 :Chapter 10 :2013/09/24(火) 21:22
案の定、桃子は恥ずかしさを誤魔化すためか不機嫌になって雅にくってかかる。

「うるさいよ。みやは平気なの?」
「うん。それとこれとは違うからさ」
「ない!夢がない!桃に向けて歌うからとか言えない訳?」
「いやー流石乙女チックシミュレーションの人は言うことが違うわー」
「もうい」
「あれ?」

妙なところへと流れそうになった話に引っかかりを覚えて、雅は会話と記憶を引き戻す。
すっかり拗ねていた桃子が怪訝な顔で雅を見上げる。

「え、じゃあ歌っていいって事?桃、あたしに桃に好きって言ってていいって事だよね、今の」
「いや、例えだから」

いささか間抜けな一連だったが、確かに桃子はそう言った。

やっぱり、言ってほしいんじゃん。
ツンデレはどっちだよ。

ぱたぱたと手を振って慌てている桃子の肩を掴んで、雅はささやく。

「例えでももう聞いた。好き」
136 :Chapter 10 :2013/09/24(火) 21:23
「ちょっと」

完全に腰が引けた桃子を引き寄せる。
頭が触れるほどに顔を突き合わせると、あからさまに桃子が怯む。

「今更逃げんなよ、嗣永!好き、好き、好き、愛してる」
「……誠意が伝わんない!っていうかふざけてるでしょ」
「ちょっと面白くなってきた」

睨まれて、こらえきれずに笑ったら二の腕を結構な力で叩かれた。

「もう、みやいい加減…」

顔が近かったので、首を少し伸ばしてそのまま唇を寄せた。
雅の気持ちをわかってほしくて、そして認めながらもいい加減往生際の悪い桃子を黙らせたくて、
意趣返しも含めて―でも恥ずかしかったので、一瞬、触れるだけ。
137 :Chapter 10 :2013/09/24(火) 21:24
「2回目。ほんとに変わんない?……ってちょっと、顔真っ赤!」

しゃがんだ体勢からずりずりと膝から崩れ落ち、桃子は両腕で顔を覆う。
雅も恥かしさと、なんだかよくわからないハイテンションで、笑いが止まらない。
笑いながらも照れ隠しに「おーい、どーした!?」と聞いても返事が返ってこない。
桃子の肩が震えている。垣間見えた口元がへの字にゆがんでいる。

「……泣いてんの?」
「泣いてない!」

嗚咽こそ聞こえないものの、涙に濡れた声で強がられ、雅は桃子の肩を抱く。
嫌がられないので、安心する。回した腕からわかる、肩の骨。桃子の体の形。
スプレーのせいでごわつく髪。まだ少しとがった毛先。
何度も何度も、小さい頃から数え切れない程触れたはずなのに、なんだか新鮮に感じて驚く。癖がきつくついた髪に頬を寄せると、ふわりといつもの匂いがした。甘くて柔らかい桃子の匂い。触れたところから伝わる温度は、いつもの桃子よりもずっと高く、熱い。
体勢がきつくなってきたので、桃子と一緒に床に座り込んだ。
耳元から桃子の息づかいが聞こえる。

「変わんないわけないじゃん」

ぐすぐすと鼻をすする音と共に、まだ顔を隠してぼそっと低い声で桃子がつぶやく。
138 :Chapter 10 :2013/09/24(火) 21:25
「へ?」
「キス!」
「だって、桃」
「嘘だよあんなの。ドキドキするに決まってるでしょ。桃のこと、なんだと思ってるの?」

あっさり白状された上にキレられて、雅も釈然としないながらも律儀に問いかけの返答を探す。

「なんだって言われても……あたし、さっきから『好きだ』って言ってない?」
「だからそうじゃなくて!困る。キスなんてされると」
「どうしてよ」

手を下ろした桃子の顔をのぞき込もうとすると、恥ずかしいのか桃子は雅の肩に頭を寄せてしがみつく。

「好きになるでしょ、みやのこと!これ、ほんとに勘違いなの。みやが桃のこと好きなのも、
桃がドキドキすんのも、ぜんぶ!」
「そうなの?」

はぁ、と湿度の高い、大きなため息が聞こえて体を離すと、桃子は掌で乱暴に涙を拭い、
ぺたんと膝を崩して、同じように座り込んだまま雅の両手首を掴んで肩を落とした。
139 :Chapter 10 :2013/09/24(火) 21:26
「そうなの。みやはもぉのことなんて、好きな訳ないもん。好きなのは佐紀ちゃんとか梨沙子とか、家族とかピースとか友達とかで、
わたしはただの仕事仲間。遊びに行ったこともカラオケに行ったこともないし、趣味も話も合わないし、一緒に買物にも行かないし。
なのに、ほんとどうしてくれるのさ。わたしこれからどうしたらいいの!?仕事忙しいし、実習これからだし、
いっぱいいっぱいなのにみやはもぉのこと襲ってくるし!バカっ!もうやだ!つーかーれーたぁ!」

最後は癇癪を起こしたような口調で訴えられて雅は申し訳なくなり、謝罪を込めて桃子の頭をそっと撫でる。
実習を控えてスケジュールのきつい桃子に本当に無理をさせたのだろう。

ま、普段の桃ならもうちょっと手強かったかもしれないし結果オーライかな。

桃子が聞いたら怒りそうなことを思いながらも、雅は親指でまた滲む桃子の涙を拭う。

「だからそこはごめんって。……ね、勘違いじゃだめなの?」
「何言ってんのみや」
「勘違いでもいい。桃が誰かのものになるの、やだ。桃が隣にいないのも嫌。
買い物に一緒に行きたいのは桃じゃないかもだけど、でも、一緒にいるのは桃がいい。
よし。じゃあ、わかった。約束しよ」
140 :Chapter 10 :2013/09/24(火) 21:27
桃子に手首を握られたまま、雅が桃子の真似をするように立てた小指を左右に振ってにやりと笑うと、
桃子が警戒するように顎を引く。

「何を」
「誰のものにもならないで。あたしのじゃなくてもいい。でも、みやの横にいて。
あたしも外でキスしない。いつも通りね。手も……急に繋がないとか変、か。じゃあ、手はたまに繋いでも、あんまり近づかない。
うっかり桃にさわっちゃったら、他の子も同じようにさわる。休みがあったら会お。
買い物とかカラオケとかディズニーは佐紀とか梨沙子とか誘うから、桃はその後でいいから一緒にいようよ」
「さわっちゃったらって」

桃子が苦笑いする。雅にも妙な提案をしている自覚はある。
しかし、これを越える解決策を思いつけない。
聞いた10人中10人から「何それ」と言われそうな案でも、雅と桃子、二人が共に在ることが出来るならそれでいい。
他の誰に認めてもらえなくても、二人でお互いの形を探せるなら、それでいい。
141 :Chapter 10 :2013/09/24(火) 21:29
「何、そのみやに都合のいいの。わたしのメリットなくない?」

顔をしかめる桃子だが、目にちらりと興味を引かれたような、楽しげな光が過ぎったのを雅は見逃さない。

「そう?桃、ディズニーとか別にそんな好きじゃないじゃん。その代わり、みやも誰のものにもならない。
桃のそばにいる。たまに付き合ってもいいなって思ったら、デートしよ」
「付き合ってるっていわないの?それ」

呆れたように桃子は笑うが、雅としては大真面目だ。

「人からみたのとかどうでもいい。桃が別れたらどうとか、やだとか何とかいうから譲ってやってんの。
それでいこ」
「わたしの意見は?」
「ご不満ですか?嗣永さん」
142 :Chapter 10 :2013/09/24(火) 21:30
下からのぞき込んでやると、「うー」などと桃子は唸っていたが、やがてこくりと幼いしぐさで首を縦に振った。
思案中引き結ばれていた口元が解け、気の抜けた笑みが浮かぶ。

「……うん。もういいよ。だって、みや、誰のものにもならないんでしょ?もぉ、ずっとそれ、無理だと思ってた。
呆れるかもしれないけど、みやが、誰のものにもならなきゃいいって多分、どっかで願ってた。
なんか予想っていうか妄想より上っていうか、絶対こないと思ってた未来が来ちゃってかなり混乱してるけど」

ふぅ。
大きなため息をついて桃子が立ち上がり、バッグをあさり出す。
すぐに探し当てたティッシュを取り出し、何をするのかと思いきやアイドルらしからぬ動作で音をたてて鼻をかんだ。

「ちょっと、ムード!」
「はー。すっきりした。わかった。ありがと。約束する」

やっとかよ!っていうか、すっきりしたの、鼻だよね。

突っ込みたい気持ちは我慢する。
嬉しくて、嬉しくて、達成感みたいなものがあってむずむずする。

目と鼻を赤くした桃子がいつもの数倍は子供っぽく見えて、雅は声をあげて笑った。
143 :      :2013/09/24(火) 21:30
      
144 :      :2013/09/24(火) 21:30





145 :Chapter 11 :2013/09/24(火) 21:31


「ま、今は、の話だから」

あの後、桃子はトイレに顔を洗いに行き、赤くなった目に目薬をさしてなんとか外に出られる位に外見を整えた。
二人並んでマネージャーに借りて貰った会議室の礼と、ついでに仲直りの報告をしてから、今は駅へと向う途中。

時折ひゅうと冷たい風が吹く。夜も遅い時間であるため、人影は少ない。

「え?」

歩道を歩きながら切り出すと、桃子が眉を寄せた。

「いずれ、桃はあたしのものになるから」
「ちょっと、さっきまでの流れはなんだったわけ?」

掴まれた腕にちらりと雅が目を遣ると、桃子は不承不承手を放す。
146 :Chapter 11 :2013/09/24(火) 21:32
「桃があたしの魅力に勝てるわけないでしょ」

雅が桃子を見下ろして口元を持ち上げると、桃子も唇を尖らせて肩をすくめる。

「はいはいはい。あーもう夏焼さんにはかないませんねー」

「ツンデレはどこにいったんだよ」等とぶちぶち文句を言いながら隣を歩く桃子だが、
憎まれ口とは裏腹に表情は暗くもなく、少し楽しそうだ。

やっちゃったなー、という思いはある。
数ヶ月前までの雅は、まさかこんな未来がやってくるなんて予想もしていなかった。

ファンや会社、世間には勿論、佐紀や梨沙子、千奈美に友理奈に茉麻。Berryzの皆にも言えないことが出来た。
付き合ってはいると言い切れない微妙な関係とはいえ、秘密を維持するのは大変だ。
道程はきっと長く険しい。
それでも、桃子と―この実は頼りになる小さな相棒と一緒ならば、大丈夫だと信じられる。
こうして桃子の隣を歩くことの出来る小さな奇跡を守る為なら、頑張ろうと思う。
147 :Chapter 11 :2013/09/24(火) 21:33
「ね、どこまで行けるかな」

幼い頃、望めば何でも出来ると思っていた。
世界はきらきらしていて、大人は大きくて、強くて。
あの時の大人になった筈なのに、自分はまだこんなに頼りない。

どこまでもいける。そう思った強さは、今はない。

「どこ?って駅?」
「そうじゃなくて」

桃子が不思議そうに行き先を指差す。
当たり前の反応だ。
予想出来た答えだったがなんだか可笑しくなって、雅は桃子の上がった腕を下ろす。

「桃とあたし。あと、Berryz。考えたこと、ない?あたしたちどこまでアイドル出来るかな。結婚とかあるけどさ。
あたし、前までなんか、あたしたちだけ何も変わらないと思ってた。でも、違うよね」

今になってこの手を放す気などないが、少し確かめたくなった。

桃子を巻き込んでしまったかもしれない。
雅が望むから、桃子が折れてくれたのかもしれない。

可能性に思い当たり、ちくりと胸が痛む。
148 :Chapter 11 :2013/09/24(火) 21:34
「あ、そっかあ」

桃子が急に歩を止め、素っ頓狂な声をあげて雅を見上げる。

「そうだった。最近忙しくて、忘れてた」

先程までの眉間のあたりの曇りは消え去り、桃子は満面の笑みで雅の手を引いて、
また歩き出す。
子供っぽく大きく腕を振られ、2人の影が本人たちより楽しげに踊る。

「そうだよね。考えないよ、いつまでとか。どうなっても、形が変わっても、バラバラになっても、
おばあちゃんになっても。みやとわたしが別れても」
「おい嗣永」

不穏な言葉に思わず突っ込むと、桃子は「あはは」と嬉しそうに声をあげて笑う。
久々の快晴の笑顔に、しかめ面をつくった雅の口元も思わず緩む。


「繋がってるから。いけるよ、Berryzはどこまでも」


きりりと表情を引き締めた桃子が呟いた。
繋いだ手に力がこもる。
149 :Chapter 11 :2013/09/24(火) 21:34
「誰が無理って言っても、わたしは、そう信じてる。信じる。そうだった」

ひとつ頷いて、桃子が雅を見上げる。

「だから、みやと桃も大丈夫」

桃子のまんまるの黒い目が街灯に照らされて静かに光っている。

「うん」

急に泣きたくなって、その代わりに桃子の手を力一杯握り、雅は大きく頷く。

「ちょ、痛い、痛いってみや」
「このぐらい平気でしょ、筋肉ももち」
「筋肉って言わないで!」



目指す先には、駅の明かりが見える。

150 :      :2013/09/24(火) 21:35



151 :      :2013/09/24(火) 21:35



152 :      :2013/09/24(火) 21:36
あれからちょっと時間がたって、今は仕事の移動中。車のなか。
ハワイのファンクラブツアーも終わって、ひと段落って感じだ。
今日はたまたま桃の隣に座った。
あれから、仕事中は意識しないですむんだけど、そうじゃない時は、やっぱり桃の横へ行くとなんだかドキドキする。
そしてそんな自分が末期だと思う。

「そういえばさ」
「何よ」
「ハワイでさ、神社行って願い事したんだって?」

あたしの隣に座ってるっていうのに、涼しい顔でのんきにメールチェックなんてしてる桃に悪戯心9割、ムカツキ1割で話しかけた。

「あぁ、オプショナルツアーのやつ?」
「そう。梨沙子が桃に優しくなるとか無理だね」

まぁから聞いたときには手をたたいて笑った。健気すぎて。
桃のことだからネタだろうと思うけど、面白すぎる。
それから、ちょっと反省した。
そう、基本ネタだとは思うけど、それがあたしとのことが関係してるとしたら、
桃にはごめんって感じだ。
153 :      :2013/09/24(火) 21:37
「願い事ってそのこと?ちょっと、なんでよ」
「梨沙子あたしの妹だもん。妹は姉の恋人に厳しいものでしょ」
「嘘。梨沙子にばれてるってこと?」

桃が身を乗り出してきて、あたしの腕を握る。
腕が痛くて顔をしかめたら、すぐに気付いて手を離してくれたけど緊張した顔はそのまま。

「わかんない。でもなんかあるってうすうすわかってるかもよ、あの感じだと」
「バレてないといいけど……気をつける」

あたしの前の前の席に座った梨沙子は、隣の千奈美とさっきからこの間の差し入れの話で盛り上がっている。
梨沙子は鋭いっていうか、勘がすごい。キャプテンにも桃のことバレないように気を使って、今は一応まだ大丈夫だと思うけど、
梨沙子の方は気を使ってもなんだか違う方向でバレそうな気がする。
色々と考えなければいけないかもしれない。
154 :      :2013/09/24(火) 21:39
「なら、願い事のことはいい。欲張りすぎもよくないでしょ」
「え、いいの?」

桃はすとんとまたあたしの横の席に背を戻した。

折角もっとからかってやろうと思ったのに、意外にあっさりしていてがっかりだ。
桃の顔を覗きこんでみたが、別に無理をしているようでもない、いつもの普通の顔。
ちょっと近くなったあたしの顔の分、身を引いてちらりと笑う。

「うん。みやのこと、好きだからさ。梨沙子からみやとっちゃった訳だし?
ま、しょうがないよ」
「桃、今」
「あ、でも梨沙子のことはあきらめないから。長期戦でいく」
「そうじゃなくて」

ちゃんと好きって言った。


あんまり嬉しくて、胸っていうか、どこか、体の奥がじんわり熱くなって泣きたくなって、
どうしようかと思って、桃に飛びつこうとして、桃の焦った顔を見てここが車内だって思い出した。

でも勢いがついちゃって出した腕はもう引っ込められないからそれはそのまま、仕方なく桃に飛びつく。
みや的にはこれは、ハグ。
周囲から見た感じだと、桃が首を絞められているように見えると思う。カモフラージュも完璧。
桃はちょっと苦しいだろうけど、我慢してもらおう。
155 :      :2013/09/24(火) 21:39
「ちょっと、何、何でよみや!苦しい!首、締まる」
「桃が悪い!」
「後ろ煩いよ!」
「はーい」
「今の、桃悪くなくない?」
「もーも!」
「……はぁい」

案の定、一つ前の席のキャプテンから怒られたけど、それはそれ。
桃は言い訳に失敗して、ふいと窓の外に顔を向けてしまった。

恥かしいからちょっと怒ったふりしてるのが丸わかりっていうのが可愛いと思うあたしはやっぱり末期だ。終わってる。

まだ近くにあった桃の手に、指でそっと「みやも好き」と書いたら、そっぽを向いたままの桃の耳が赤くなった。
156 :      :2013/09/24(火) 21:40




157 :たすけ :2013/09/24(火) 21:40
△▼△
158 :たすけ :2013/09/24(火) 21:40
△▼△
159 :たすけ :2013/09/24(火) 21:46
Edge of Eden 終了いたしました。

最後まで読んで下さってありがとうございました。
お付き合いくださった方々に感謝です。
最初毎日は更新するつもりはなかったのですが、頂けるレスが嬉しくてつい、やってしまいました。

今更ですが、EoEは2012年の春〜秋頃の設定でお送りいたしました。
モデルになる日を決めましたが、設定と現実の時間の流れに無理があると思います。
その辺りは妄想上のもう一つのベリということで大目に見てくださると嬉しいです。

数えたくない位の何年ぶりかの飼育で緊張しましたが、そこそこ無事終えられてほっとしてます。
1更新につき2〜3個、脱字、単語かぶり等々ありますが、脳内変換お願いします。
もし意味不明な箇所があれば、ご指摘いただければ。レスで修正させてください。

超短編ということで草にあげさせていただきましたが、容量がまだあります。よね?
基本これで終了ですけど、もしも、万が一何か書けたら書きます。
お借りしている大事なスペースなので、そこそこ埋められたらとは思いますが、無理そうならスレを落とそうと思います。

私にみやももを教えてくださったみやももを書いて下さってる方、レポしてくださる方、ツイートをしてくださる方、
そしてみやもも好きな方全てに感謝を込めてペイみやもも的な感じで。
ひっそりこっそりみやももの輪がひろがるといいと願っています。

この場を貸してくださっている管理人様、どうもありがとうございました。

まずはこれにて。
160 :名無し飼育さん :2013/09/24(火) 21:56
見に来たらちょうど更新最中!
てことでリロード何回もしながら読みました

連日の更新ありがとうございます
長々と感想を書き綴るのはあれなので一言
みやもも最高!!

161 :名無飼育さん :2013/09/24(火) 21:58
怒涛の最終回更新お疲れ様でした
みやももの2人にしか出せない空気感がよく伝わってきました
BLTも出たし今日はみやもも浸りデーですね
万が一の容量埋め期待してますw
ありがとうございました!
162 :名無飼育さん :2013/09/24(火) 22:35
こんなに素敵な小説本当に有難うございました!
毎日ドキドキさせて頂きました。
また何か書いて頂けたら物凄く嬉しいです!
本当に有難うございました!
163 :名無飼育さん :2013/09/24(火) 22:41
完結おめでとうございます
一気の更新すごいです
もうドキドキのしっぱなしでした
面白かったぁぁぁ

ぜひぜひまたのご登場をお待ちしています!

164 :名無飼育さん :2013/09/24(火) 22:50
みやびちゃんの心の揺れがとてもおもしろかったです。毎日続きが気になってました。
素敵な作品をありがとう
165 :名無飼育さん :2013/09/25(水) 00:27
お疲れ様でした!
終わっちゃったのは寂しいですが、こんな素敵なみやももに出会えてとても嬉しいです。
166 :名無飼育さん :2013/09/25(水) 09:27
レスするのも容量が勿体無いと思ってしまいますが、
どうしても伝えたくて…。
素敵な話、ありがとうございました。
毎日ドッキドキでした!
そして、今後もみやもも楽しみにしています!
167 :たすけ :2013/11/02(土) 22:02
△▼△
168 :恋とはどんなものかしら  :2013/11/02(土) 22:02


169 :恋とはどんなものかしら  :2013/11/02(土) 22:03
自慢ではないが、ストイックな人生を送ってきた。

24時間アイドルと言うと人は笑うが、こちらは真剣だ。
気を抜く瞬間もそれはあるけれど、積み重ねた時間全てをアイドルに費やしていると言っても過言ではない。

馬鹿にしないでほしい。
たとえば、そのせいでみやとしかキスしたことがなくても。

桃子としては、別にキスを後生大事にとっておいた訳ではなく、
する機会も必要もなかったのでしなかっただけ、というのが正直なところだ。
そんなに好きな人もいなかったし、何よりアイドルだし。

ファーストキスは夕焼けの公園でとか、海とかロマンチックなシチュエーションを考えないではなかったが、
実際実行するとなればそれも人目が気になり過ぎる。
なのでそれは「どうしても」ではなく、「出来れば」という希望、あくまで努力目標。

とは言ってもファーストキスがあれというのはあまりに酷い。
酔ったキス魔にヤリ逃げされるとかどんな罰ゲーム?と聞きたくなる。悲惨すぎる。
2度目は悪くなかったが、1回目は是非やり直しを要求したい。
170 :恋とはどんなものかしら  :2013/11/02(土) 22:05
そう。

やり直しを求めてもいいのが問題だったのだ。

雅にキスされた時、晴天の霹靂を地でいくほど驚いた訳だが、不思議に違和感も嫌悪感もなかった。
ただただ唇と顔と体、全てが熱くてドキドキして、床に座りこんで顔を覆う事しか出来なかった。
疑問だらけでどうすればいいかわからなくて、書き物の続きをしようと思ったが貴重な時間と資源を無駄にして止めた。

複雑な心境のまま帰れば、家族に熱が出たかと心配され、風呂にのぼせた。
不調は次の日以降も続き、その次の日の収録でさらした醜態は思い出したくもない。


馬鹿な話だが、キスされて雅が好きだと気付いた。
普通、10年も毎日一緒にいればたいていの恋人は倦怠期に、結婚した夫婦は同居人同士に、
友達は家族にかわる。

にも関わらず、雅は特別だった。雅だけが、特別だった。

友達が告られて付き合う基準はキスが出来るかどうかだと話していたが、まさしくそれ。
ただ順序は逆だったが。
171 :恋とはどんなものかしら  :2013/11/02(土) 22:09
浮かんだ感情を認められず、認めたくもなく、そもそもの雅の真意も読めず。
もし雅が好きとして、告白して、付き合って―
などと考えてすぐ絶望に行き当たり、あれを忘れる事に決めた。

雅は仲間。
あれは勘違い。

テレビやネットでよく言う、なんとか理論で勘違いしているだけだ。
苦労して普通に振る舞っているのに、当の雅といえば妙にこちらを見つめてきたり、
なかったはずのあれについて桃子にアプローチしてきたり、非常にお気楽な様子で腹がたった。

あんなことがなければ普通にしていられたのに、雅を見る目が変わってしまった。
気付きたくなどなかった。

知らなければ、このまま雅が結婚して、子供を生んでも笑って祝福できたのに。

桃子自身も日頃言う王子様のような、もしかしたら世間の認識では王子様ではないとしても、
好きになった人と結婚して、いつか子供が出来て生きていくのだと思っていた。

雅は仲間。BerryzとBuono!の相棒。
納得したくて、少し時間が空くと自分たちのライブDVDをみた。

その中の、練習やライブや収録、そして記録媒体で再生で聞いた何十回、ともすれば何百回目かの雅の歌声で諦めた。
172 :恋とはどんなものかしら  :2013/11/02(土) 22:09
運命がそこにあるなら仕方ない。
みやがそういうなら、きっとそうだ。
歌詞を作ったのはつんくさんだけど。

人生をやり直せるとしても、何度でもBerryzを選ぶ。
その運命がここにあったのなら、もう認めよう。

とりあえず、あった事は仕方ない。しかし、まだ戻れるはずだ。

自分をこんな風にした雅に恨みは少々あるが、雅はBerryzの番長で、特別だ。
桃子自身も元より年長組だし、元から雅に振り回されるのは慣れている。

仕方ない。

気付いてしまったこの恋を胸に押し込めて、凍りつかせて生きていく決心をした。
いつかは恋も何かに変わり、時の経過とともに痛みは鈍り思い出になるはずだったのに―

何故こんなことに。

誤魔化して吹っ切るつもりが、あり得ないミスからうっかり雅に気持ちがバレて飛び火した。

きっちり消し去る予定だったのに。
自分の甘い対応を後悔した。
173 :恋とはどんなものかしら  :2013/11/02(土) 22:11
何せあのまっすぐな雅のことだ。世間に隠しておけるとは思えない。
どうあってもこの路線は踏み外さずなんとか耐え切るはずだったのに、
説得はまさかの失敗。その後、色々あって現在に至る。

拒みきれば、多分それで元に戻れたはずだ。
それが出来なかったのは、桃子も雅のことが好きで、こうなることをどこかで望んでいたからだ。

仕方ない。
進むと決めたからには、きっちりしたい。というのは、嘘で、誤魔化しだ。

ただ、嬉しかったのだ―雅に認められたこと、雅に求められたことが。

Be careful what you wish for.『願い事に気をつけなさい』という言葉を夏までの自分に贈りたい。
うっかりその願いが叶っちゃった今現在はいろんな感情が入り混じってもう「どうしたらいいの?」って感じだ。
現実感のない状況と経験のないこの状態が問題だと思う。
いっそリハーサルでも出来たらどんなにいいか。



ハロー夏までのわたし。お元気ですか?頑張ってますか?
わたしは今、なんだかとても戸惑っています。

174 :恋とはどんなものかしら  :2013/11/02(土) 22:11


△▼△

175 :恋とはどんなものかしら  :2013/11/02(土) 22:12
教育実習が終わった。
アップダウンの激しい日々に疲れきってはいたが充実感はあった。
休んでいた仕事もはじまり、いつもの日々が戻ってきた。

始まる前までは秋の気配がまだ残っていたのに、近頃は冷え込んで季節はすっかり冬一色。
桃子は首に巻いたマフラーをマスクをした口元まで引き上げる。

今年の秋は今までにない秋だった。実習もそうだが、何より人に言えない秘密が出来た。
秘密は女を魅力的にするなんて言葉もあるが、これはそんな可愛らしいものではない。

魅力的どころか、敢えて言えば破滅的などと表現すると雅は怒るだろうか。

思わず笑ってしまったが、外からはマフラーとマスクのおかげで見えないはずだ。
これを恋と表現するかはさておき、好きという気持ちは偉大だ。
実習中、何度もメンバーに会いたくなるし、夢にはかなりの確率で雅が出てきた。
単純な自分に呆れる。

気持ちを引き締めようと深呼吸を一つして、ドアの開いたエレベーターから一歩踏み出す。
今日は雅と久々に会う日だ。
176 :恋とはどんなものかしら  :2013/11/02(土) 22:13
あれから連絡はとっていた。いつもどおりに。

「いつもどおり」というところが戸惑うところ。
そう、あんなことがあったのに、あれから雅とはいつもどおりなのだ。
つまり、事務的な会話以外はほとんどない。
会いたいな、と思うことは多々あった。
嬉しいとき、困ったとき、疲れて倒れこみそうになる夜。
声が聞きたくなるたびに、自分の柄ではないと思って止め、一人で部屋で照れた。
バカみたいだ。いや、バカだ。
ずっと会っていない。雅に会ったらどんな顔をしたらいいのだろう。

とりあえず、いつもどおり―

そこまで考えて、よく見知った人影に驚いて桃子は立ち止まる。
予定外。楽屋のドアを開けたら勝負だと思っていたので油断していた。
177 :恋とはどんなものかしら  :2013/11/02(土) 22:14
「あ、お、おはよう」
「おはよ」

楽屋での会話を想定していたのに、まさかの扉前での邂逅。
久々の微妙な関係の恋人もどきと出くわしたのに、方針が決まっていなかったせいで結局どうしていいのかわからない。

それは雅も同じらしく、距離をあけ、二人で立ち尽くす。
目が一瞬合ったが、すぐに逸らすし、逸らされる。

「あ、あのさ」

とりあえず声を出してみたものの、続きはみつからず言葉は宙に浮く。
自分の声に顔をあげた雅は、赤い頬で廊下の電気に照らされて目潤んで見えた。
驚きに心臓が急がしく鼓動を始める。

「か」
「か?」

危ない。本音ならぬ本能が声になるところだった。
かわいい。そう思ったことは内緒だ。
さすがに、1ヶ月会ってなくて早々にこれでは頭がとけているとしか思えない。

と、その瞬間、桃子の目の端で何かが動いた。
178 :恋とはどんなものかしら  :2013/11/02(土) 22:15
「ちょ、桃!」
「へ?」

桃子が認識できたのは千奈美の声、そして何か白い物体と衝撃と衝突音。

「ごめん!ってか桃、なんでそんなとこにいるの」

痛みに桃子は思わず蹲る。

「大丈夫?」


千奈美はまぁいい。

いや、人にドアぶつけといて笑うって人としてどうよって思うけど、そこは目を瞑ろう。
けどさぁ、普通、恋人(仮)が頭押さえて蹲ってたら、
そこは心配そうな顔してわたしに駆け寄るところでしょ。
崩れ落ちて笑うとかどうなの。
しかもさぁ、その「大丈夫?」の後ろ、かっこ笑いがついてるよね。

「大丈夫じゃない」

恨みをこめて唸るように返事をすると、二人の笑い声はさらに大きくなる。
楽屋からは「どうしたの?」の声とともに、仲間たちが出てくる気配がする。

さらに笑われることを覚悟し、桃子は小さく頭を振った。

179 :恋とはどんなものかしら  :2013/11/02(土) 22:16

△▼△

180 :恋とはどんなものかしら  :2013/11/02(土) 22:18
『デートしよ。』
五文字を昨夜から多分10回は見直した。

事務連絡と「わかった」のならんだメッセージ群の中紛れ込んだ異分子。

調子が狂う。
コンビニで思わず普段買わない物まで買ってしまう始末だ。
楽屋で吐いたため息に、横にいた友理奈が反応する。

「桃、どうかした?」
「んーん、別に」

生返事に先程から友理奈はスマホを手に悪戦苦闘している。
なにやら最近アプリにはまっているらしく、少し前に写真を撮ったかと思いきや画像を加工すると言って顔を伏せてしまった。

これを幸いと一緒に食べていた抹茶チョコを食べきるのも何やら大人気ない。
桃子はバッグから覗く余計な買い物を見て、チョコに目を戻し、艶々のブラウンヘアが形作るちょっとレアな友理奈の旋毛へと目をやる。

その友理奈に飽きの気配はなく、一心不乱にスマホを弄っている。

まあいいか。
バッグからその余計なもの、いわゆるデート雑誌を取り出し、パラパラとめくる。
行楽地、話題のビル、スイーツに映画。
雅ならきっとこの雑誌が似合うとだろうが、桃子自身は自分にこれは似合わないような気がする。
181 :恋とはどんなものかしら  :2013/11/02(土) 22:19
そもそも、桃子にはデートというものがわからない。
いや、好きな男の子と出かけるのはデートだ。映画をみてもいいし、買物に行くのもいい。
それはわかるし、妄想は得意分野だ。
しかし、相手が雅となると話は違う。
友達と出かけるのはデートと呼ぶこともあるが、デートではない。
好きな人と出かけるのはデートだから、それでいいのだがそもそも雅が喜ぶデートを桃子は知らない。
雅と自分が楽しめればいいと思うが、今までの乙女チックシミュレーションが何も役に立たないことがわかった。

そこで、せめてもの予習を、と雑誌を広げることにしたのだが―
鏡越しに確認した雅は、桃子の後ろで差し入れのお菓子を頬張りながら佐紀と茉麻と談笑中。

一人でデート雑誌を読むのも時間の無駄だが、雅に見せるのもなんだか自分だけ張り切っているみたいで恥ずかしい。
とはいえ、次の仕事の移動中に読めばマネージャーの詮索にあうだろうし、家では寝たい。
雑誌の表紙を隠すようにして机に突っ伏そうとした矢先、真横から細い綺麗な指先が割り込んできた。

「珍しいね、桃。それデート特集?次の番組の予習かなんか?」
「っ…そう。あ、くまいちょー写真出来たの?見せて」
「あ、見る?これね」
182 :恋とはどんなものかしら  :2013/11/02(土) 22:19
素直で穏和な友理奈の横だから隣で雑誌を広げる気になったのだが、
どうやら自分の判断力に救われたようだ。
これが例えば千奈美なら、そんな相手がいないのをわかった上でからかいの言葉を投げてくるだろう。

「ちょっとみや、何してんの!」

「誰かティッシュとって!」の佐紀の慌てた声と茉麻の笑い声で楽屋は俄に活気づく。

狭い部屋だもん、そりゃこっちの話も聞こえるよね。

雅が豪快に溢したお茶は机からダラダラと零れ落ち、粗相をした本人は手で机に即席の堰を作って動けないでいた。
数秒、目があった雅が赤い顔をしていたのは、溢したお茶のせいではないだろう。


多分。
183 :恋とはどんなものかしら  :2013/11/02(土) 22:20

△▼△
184 :恋とはどんなものかしら  :2013/11/02(土) 22:20
なんとなく、いたたまれなくて雅を置き去りにして楽屋から出た。
次のステージまでまだ時間はある。
雅は誰かが世話を焼くからいい。

用事もなく、財布も、本も持っていないので少し散歩してからトイレに入った。
静かなトイレで手を洗っていると、後ろから耳慣れた声で「桃」と呼ばれた。
驚いて振り向くと、所在なさげに立っている雅がいる。

「どうしたの?お茶は?」
「ちゃんと片付けてきたし。桃こそ何してんの」
「何って、見たとおりだけど」
「トイレならもっと近くあったでしょ。なんでこんなとこに」
「あ、わたしのこと探してたの?なんか用?」
「なんかって別に……」

合っていた視線が外されたが、思い直すように雅がきゅっとこぶしを握って、近づいてくる。

「あのさ」

洗面台にもたれるようにして手をつき、雅が桃子の顔を覗き込む。

「ごめん。あれのことだけど」
「ん?あれってなに?」

緊張にこわばった顔と、挑むような声ですぐに何のことか察しはついたがとりあえず時間を稼ぐ。
中途半端に終わってしまった手洗いを再開するため、桃子は蛇口をひねった。
さて、次に続くのはどんな言葉だろうか。

「だから」
185 :恋とはどんなものかしら  :2013/11/02(土) 22:22
『あれ』はだめになった。
もしくは、都合が悪いから、またにしよう。
続きをシミュレートしてみたが、思ったよりショックだ。
これはあっさり、「わかったー」とでも軽く応えなければならない。

「デート。せっかく桃が雑誌とか買ってくれたけど、そんな、時間ないと思う。
外出るのはまたにし……よ?」

桃子がよほど間抜けな顔をしていたのか、雅の語尾が不自然に上がり、
首が疑問を表すように横に倒れる。

なんだ、そんなこと。
力が抜けて、乾いた笑いが漏れた。そして気付く。

期待してたんだわたし。

自分で思うよりずっと、雅と会うのが楽しみだったらしい。
急激に恥ずかしくなり、動揺を隠せない。

「なんでもない。わかった。っていうか、あの、わかってるから。
夜に会うんでしょ?別にわたしも、外に行きたいとかじゃないし。
なんか、よくわかんなくてそういうの。それで―」
「そういうのって?」
「だから、デートとか。雑誌買ったらわかるかもとか思ったわけじゃないんだけど、買っちゃった」
186 :恋とはどんなものかしら  :2013/11/02(土) 22:23
そんなつもりはなかったといえばなかったが、結果的には一人で浮かれていた自覚はある。
笑われるかと思ったのに、雅は洗面台にもたれたまま動かない。
頭が回っていなかったが、水しぶきがかかるということにようやく気付いて、
もう手も引いていた水流を蛇口を捻って止める。

「あの、って、桃。ハンカチは?」
「持ってない」

とっさに出たのでそんなものを持っている訳もなく、適当に手を振ったところで顔をしかめられた。

「あ、跳んだ?ごめん」
「うん。冷たい。いや、そうじゃなくて!だから、その、あのね」
「ん?」

仏頂面から焦った顔、その後頬が紅潮する。
くるくると表情を変える雅を見守りながら、桃子は濡れた手を振って乾かす。

「ちょっと、なんか。嬉しかった。あたしだけかと思ってたから、そういうの。
桃、いつも平気な顔してるし。連絡とかないし」

音が言語に変換された瞬間、脳が沸騰するかと思った。
一瞬で顔に血が集まってくるのがわかり、心臓がばくばくと音を立てはじめる。
きっと顔だけじゃなく耳まで赤くなっているはずだ。
目を逸らして頬を染めている雅は桃子の変化に気付かない。
187 :恋とはどんなものかしら  :2013/11/02(土) 22:24
「やっぱり番組のじゃなかったんだ。なんかあたしの勘違いかもとも思ったんだけど、
目が合ったし、もしかしたらって思って。だから―」

手を胸元で握り合わせる。しっかりと押さえていないと、心臓がどこかへ飛び立ってしまいそうだ。
ひとつ大きな深呼吸をする。平常心。ここは仕事場。
この動悸にも慣れないといけない。がんばれわたし。
今まで、どんな現場でも乗り越えてきたのだ。

と、その時桃子の耳に複数の足音と、人の話し声が聞こえてきた。

「その」
「みや」

雅がまだ何か話していたようだが、緊急事態はすぐそこに迫っている。
足音は2人分。聞き覚えのある声だ。スタイリストだろうか。


どうしよう。

話し声が近づいてくる。

「え!?ちょっと」

そこにあった雅の手をひっつかみ、左手にあるドアの中へ雅を押し込むと自分もそこへ続く。

「誰か来る」
「ちょっと、桃」
「静かに!」

ささやいて鍵を閉め、ぎゅうぎゅうと体を使って雅をそのまま押し込む。
迅速に、しかし音がしないようにドアを閉める。
188 :恋とはどんなものかしら  :2013/11/02(土) 22:26
「先行くから」
「はーい」

一人は出入り口のところで別れたらしい。
軽い返事と共に、もう一方の足音の主がトイレへと入ってくる。
ぱちりという音と共に、電気が点く。心臓が縮み上がる。
目の前の雅にしがみつき、桃子は息を殺す。

隣の個室が開く音がする。
二人分の足が見えてはいけない。
下の隙間から足が見えないよう、必死で雅へと体を寄せる。
個室に二人いることが足元や影でばれてはならない。

雅は同じく焦った顔でこちらを見てくるが、その目が何か言いたげで思わず首を傾げた。
すると、雅が天井を仰いで桃子の腰へ腕をまわす。

ただでさえ密着していた体が更に近づく。
雅のいつもの香水の甘い匂いと体温。桃子の顔の間近には、雅の華奢な鎖骨がある。
頬と雅の肌が触れ合って、桃子の体温が一気に上がる。

隣からは衣擦れの音がする。
こちらの個室に人がいることはわかっているはずだ。
音はたてても大丈夫だとは思うが、なるべく、静かに。
押し付けたままの体が熱い。

落ち着きたいのに、心臓はいうことをきいてくれずに速いリズムで鼓動を刻む。
雅に絶対伝わっている。
恥ずかしくて顔をあげられない。
189 :恋とはどんなものかしら  :2013/11/02(土) 22:27
別に近くにいるのは普通だし、狭いところに二人で入ったこともないでもない。
しかも今は緊急事態。こんなことでドキドキなんてしていてはいけないし、
する必要もないのになぜこんなに違う意味で緊張するのか。
一人で空回ってばかみたいだ。

近い。恥ずかしい。

こんなに長い間は抱き合ったことはあまりない。
ましてや、あんなことがあってから、ふれあうのも初めて。
最近ずっと会っていなかったのだ。
雅との間に挟まった手に力が入り、ぎゅっと握りしめていた。
これでは雅が痛いだろうと、手をひらく。
指でまで脈打っているのかと思っていたが、少し違う。
胸元にあった手が探り当てた速い心音は自分のものとはではない。
驚いて思わず見上げると、雅が桃子の視線に気付いて赤い顔で目をそらす。

少し冷静になった今ならわかるが、同じような速さなので最初はわからなかったようだ。

なんだ、一緒か。

ささいな事なのに自分でもどうかと思うぐらいお腹から沸き上がる温かいようなくすぐったいような気持ち。
もしこれが「好き」ということなら、このうずうずする落ち着かなさに慣れるのは難しい。
雅と一緒にいればこの先ずっと平常心なんてやってこないような気さえする。

世の恋人達はこれをどうやってやりすごしているのだろう。
190 :恋とはどんなものかしら  :2013/11/02(土) 22:28
上がった熱を少しでも逃がそうとして音がしないようにそっと息をつくと、
雅がびくりと震えた。

剥き出しの首に息をかけられたらそりゃこうなるか。

納得して、今の自分達の近さをまた自覚する。

汗が出てきそうだ。楽屋に上着を置いてきててよかった。
こんな個室に2人で汗かいてるとか嫌すぎる。
益体もないことを考えると少し余裕が出てきた。

そういえば、別にこんなことしなくてよかったんじゃ……。

雅と桃子は別に普通に話をしていただけ。
確かにここは楽屋から遠いトイレではあるが、2人とも女子なのだ。
女子が二人、女子トイレにいても、なんの問題もない。
思い当たった事実に、全身から力が抜けた。

先の雅の物言いた気な視線の意味はこれか。
思えば、人の気配に気付いた時、雅は桃子よりも随分冷静だったような気がする。

隣の個室からは人が出ていき、水音がする。


恐る恐る目を上げると、呆れた目で雅が見下ろしてくる。

以心伝心。

10年の付き合いは伊達ではないらしい。
誤魔化すように笑うと、苦笑いが返ってきた。
鎖骨あたりに額をあてると、耳元で大きなため息が聞こえた。
191 :恋とはどんなものかしら  :2013/11/02(土) 22:30
足音が遠ざかる。

完全にそれが聞こえなくなってから、桃子は大きく息を吐き出した。
間に挟まったままの腕にそっと力を入れると、腰に回った雅の手の力も緩んだ。
桃子が雅を見上げると、雅が仏頂面で桃子を睨み付けてくる。

「別に隠れる必要なかったよね」
「ごめん」

全くその通りだったので、即答で謝ると雅の口元が弛む。

「ちょっと、さっきから桃こっちのこと見すぎ。狭いんだからあんまりこっち見ないで」
「関係なくない?って、ちょっと、みや」

離れようとした体を引き寄せられ、桃子の目のあたりを雅の手が塞ぐ。
視界が暗くなる。

「桃なのになんか恥ずかしいし」

スキンシップは日常茶飯事だったのに、一度意識してしまった今は指先が触れるだけで大事件だ。
おさまりかけた心音がまた騒がしくなる。

塞がれた目が癪だったので、右手で雅の腕、肩を手探りで辿り雅の推定目のあたりを同じように手で塞ぐ。

「ちょっと、何?見えないんですけど」

お互い間抜けな事をしているという自覚から桃子が吹き出すと、雅もつられて笑いだす。

「離して」「みやが先」押し問答の間も態勢はそのままだ。

「みやばっかずるいでしょ。わたしもしたいし」
192 :恋とはどんなものかしら  :2013/11/02(土) 22:32
「え?」

言い訳になるが、あくまでも桃子が「したい」のは目隠しのつもりだった。
それが雅の過剰反応にぶつかり、触れた手から直結で何かが来てエスパーみたいに繋がった。
凍りついた雅の頬、雰囲気から受信した答えは間違っていないような気がする。

「と、とりあえず手、はずして」

頼むと、素直に雅が手を退かす。
明るくなった視野の中、目元の見えない雅の頬は予想より赤い。
緊張にだろうか、見守る桃子の前で雅が唇を噛む。

思わず雅の腕を掴む手に力が入る。
そもそも色気のある雅だが、今の雅を端的に表現するならエロい。その一言に尽きる。
10年一緒に居たのに、あれから何度も今まで知らなかった雅に出会う。
苦しさに一つ大きく息を吐けば、雅が不満げに唇を尖らせる。

「ね、離したでしょ。桃も離してよ」

従おうとして、止めて、迷って目元から離れかけた手を押し付けた。

腕を曲げて体を近づける。雅の目を見たら多分、もうきっと出来ない。

まだこれを「したい」かどうかはわからない。
けれど少しでも雅を悲しませたり、がっかりさせるのは嫌だった。
多分、これで正しい。期待に応えるのが、わたしの仕事だ。

みやはわたしの勇気に感謝するといい。
193 :恋とはどんなものかしら  :2013/11/02(土) 22:33
勢いだけで口付けた。
ゴツッという不穏な音と「いたっ」という小さな悲鳴が聞こえたが気のせいだ。

そういえば雅が居たのは壁際だったか。
ま、まあ初めてだからしょうがないよね。

心の中で言い訳をして平気な顔をつくる。手はもう外してしまった。

「った、っていうか、え!?え?」

顔をしかめたいのか笑いたいのか、その困惑具合が非常によくわかる器用な表情で雅が自分の口元を覆う。
1回、いや2回したのだ。
別に何度キスしてももう一緒だと思っていた。
違いは、向こうから押しつけられたか、こっちから押しつけたか、それだけだ。


それなのに―


「これでおあいこってことで」

迷った挙句、動揺を隠すべく出た言い訳がコレ。

なんとなくアフターケアを間違ったような気もするが、こうなった以上最後までこれで通そう。

恥ずかしい。爆発しそうに恥ずかしい。

後ずさりしようとしたら背に扉がぶつかり、後ろ手で鍵を開ける。

「じゃ、じゃあわたし行くから。みや、遅刻しないでよ」

軽く手をあげてドアから出る。
雅の顔なんて見る余裕はない。
脱出時にドアで足を打ったがご愛敬。
ごつっと大きな音がしたが、そこをつっこまれるのも恥ずかしいので、
ダッシュぎりぎりの速度の全力速歩きで逃げ出す。
194 :恋とはどんなものかしら  :2013/11/02(土) 22:35
みやの言うことは本当だった。わかってたけど、何もかわんないなんてほんと、嘘だ。

キスされるのと、するのも違う。第一に恥ずかしさが、第二にした感じが、なんとなく。
口元を雅がしていたように手で覆うと、桃子は廊下に崩れ落ちるようにしゃがみ込む。

やっちゃった。

後悔はない。嫌だったのではない。断じてない。
この恥ずかしいような叫びたいような埋まってしまいたいような嬉しさは一体なんだろう。

「ま、まぁそれはそれで」

一言呟いて立ち上がり、大きく深呼吸をする。
楽屋に戻る前に普段の自分に戻らなければならない。


こんなことではいけない。このままでは早晩秘密は明るみに出る。
雅と一緒に居るということを決めたからにはそれを貫き通したい。
雅との関係、それから雅の破壊力に慣れなければならない。

そういえば、最初のキスのやり直しを要求するのを忘れていたが、次に会ったときにでも、伝えればいいと思う。
その時に、きっと雅は今日の苦情を伝えてくるだろう。
195 :恋とはどんなものかしら  :2013/11/02(土) 22:35
今冷静に考えれば、さっきのも「ない」。
向こうからのが酔っぱらいの冗談なら、こっちからはトイレでの勢い任せだ。
桃子は小さく笑う。


まいっか。確かにヤリ逃げは同じだし、ひどいってことは否めないけどそれでもわたしの方が10倍はマシだし―


こんなことでもなければ、桃子の気持ちも伝わらないだろうし、桃子からのキスだっていつになったかわからない。
挑戦したことそれ自体が尊いということで、多少のことには目を瞑ってもらおう。



楽屋のドアが見える。

浮ついた気持ちはここまで。
しっかりと気を引き締めて仕事をすべきだ。

唇にそっとふれる。
雅とのことは、これからだ。




そしてまた夜がやってくる。

196 :恋とはどんなものかしら  :2013/11/02(土) 22:36

197 :たすけ :2013/11/02(土) 22:36
>>160
リアルタイムにお付き合いくださってありがとうございました!
なのにお礼が遅くなってしまってすみません。みやもも最高!

>>161
ありがとうございました。
埋めにきました。いまさらですけど、BLTよかったですよね。
何度もももち結びの写真を見返してしまいました。

>>162
こちらこそありがとうございました。
嬉しいです。
これでスレの容量が埋まるといいんですけど……

>>163
私としても一気更新を一度やってみたいと思っていたので、楽しかったです。
お言葉大変うれしく頂戴しました。ありがとうございました。
198 :たすけ :2013/11/02(土) 22:37
>>164
こちらこそありがとうございました!
ノープラン更新もそれはそれで良かったかな、と喜んでます。

>>165
短い話でしたが、惜しんでくださって嬉しいです。
本当にありがとうございます。

>>166
いえいえいえとんでもない!お気遣いありがとうございます。
レスいただけるのは励みになるので、嬉しいです。
ありがとうございました!

199 :たすけ :2013/11/02(土) 22:41
そこそこ容量も埋まったでしょうか。
温かいお言葉、本当にどうもありがとうございました。
200 :名無飼育さん :2013/11/03(日) 01:35
読んでるこっちまでドキドキします。
本当に素敵なみやももをありがとうございます。
このスレが埋まっても、また何かの形でたすけさんの作品が読みたいです。
201 :名無飼育さん :2013/11/03(日) 12:14
続編キタ(*゚▽゚*)
ここのももちは本当可愛いです。
素敵なお話をありがとうございました。
大変かと思いますが、みやもも次回更新も
楽しみにしていますので、よろしくお願いいたします。
202 :名無飼育さん :2013/11/04(月) 11:24
みやびちゃんのお話の裏側のももちの気持ちの一端が垣間見えて面白かったです。
冷静で大人なのに動揺してるのがかわいすぎました!
203 :たすけ :2013/11/25(月) 06:52
>>200
こちらこそありがとうございます。
スレの容量的にはまだまだまだあるので、何かあればまた書きにきますね。


>>201
お付き合いありがとうございます。
毎度ネタ詰まりなんですが、自転車操業でやってます。
よかったらよろしくお願いします。

>>202
よかった。書く予定がなかったので、そう言っていただけると
安心します。ありがとうございます。
204 :たすけ :2013/11/25(月) 06:56
更新します。
みやももでアンリアル。お嫌いな方は避けてください。
205 :    :2013/11/25(月) 06:58
「みや、この後ご飯行かない?」
「あ、ごめんちぃ。今日私用があって帰る。疲れたし」
「何?歳なの?」
「千奈美に言われたくない!お疲れー」
「おー、お疲れ。じゃあねー。あ、熊井ちゃーん」

次のターゲットを見つけた千奈美に手を振り、雅は楽屋から出る。
待ち合わせまであと少し。
ただ一緒に帰るだけなのに、浮ついた気持ちが抑えられない。
久しぶりの二人きりだ。

夜は随分肌寒い。
道行く人も寒そうに肩をすくめて歩いている。
昨日買ったコートを着てきてよかった。
雅が上機嫌で改札へと向かうと、その改札の隅のほうでひっそりとたたずむピンクの塊がいる。
「桃」
「あ、みや。おそーい」

ふんわりとしたベビーピンクのコートに、それより濃い色目のピンクのバッグ。
その裾から覗くスカートもピンクで、ブーツだけがピンクではない。
目立つ色を着ているくせに、全体的には地味に目立たないとは器用なやつ。
思わず雅が笑ったら、「遅刻しといていきなり笑うってなによ」と肩を小突かれた。
206 :    :2013/11/25(月) 06:58
「ごめんごめん。隅にいると意外と目立たないなーって」
「何?桃が地味だって言いたいの?」
「違う。言いたいんじゃなくて、そう言ってるの」
「みや!」

改札をくぐりながらぽかぽかと肩を叩かれ、「痛い!ちょっと、筋肉さん痛いよ」「ももち!」
「こら、声」などとじゃれあっている雅の横を風が通り抜ける。

「あ」

急に立ち止まった雅を不審に思ったのか、腕にぶらさがった桃子が動きを止めた。

「どうかした?みや」
「ん?んーん、なんでもない」

首を振り、さりげなく桃子の腕から自分の腕を抜き、雅は桃子の少し先を行く。

かすかなバイブの音がする。

「電話だ。ちょっと待って」

後ろの桃子が立ち止まる。

「ん」

短く答えて雅は両手をコートのポケットに入れ、目を閉じた。
207 :    :2013/11/25(月) 06:59




私には、秘密がある。





208 :魔法少女 X :2013/11/25(月) 07:00



幼い頃、雅は公園で魔女と出会った。

「魔法が使いたいと思ったことはない?」

たっぷりとした長い黒いケープ、黒のロングスカートに黒の編み上げブーツ。
背丈は雅よりも少し高く、肌も、ふわふわとしたウェーブのかかった髪も真っ白。
垂れた目を細めて、雅の顔を覗き込み、魔女は再度雅に尋ねた。

「魔法が使えるようになりたいって思ったこと、ない?」

柔らかい微笑みに釣られ、雅はおずおずと頷く。
少し前に受けたオーディションの結果待ちで、そのころの雅はとにかく不安定だった。
家族もなんとなくそわそわとしていて、いつもと違う家の感じに雅は公園に一人で逃げてきていた。周囲に人は誰もいない。

「そうよね、あるわよね。どんな魔法?」
「願い事が、かなう魔法」

小さい声で絞り出した。
アイドルになりたかった。
アイドルがどういうものかまだ具体的にしっかりとはわかっていなかったが、キラキラ光る舞台で歌ったり踊ったりするのは雅の夢だった。

「そう。わかった。私がそれを叶えてあげる」

その魔女の一言で、今の雅がある。
魔女がくれたビー玉を握りしめて、強く願うと、魔力のおかげで願いが叶う。
それが雅の小さな魔法。
209 :魔法少女 X :2013/11/25(月) 07:01
どうか、お母さんがお泊まりをオッケーしてくれますように。
どうか、あの服を買って貰えますように。

幼い雅の願いは、魔力を引き出すことに成功さえすれば何でも叶った。

どうか、アイドルになれますように。
どうか、歌が上手くなりますように。
どうか、ダンスが上手く出来ますように。

それから願うのが恐くなった。
魔法で何かずるいことをしている。そんな気がした。
何より、魔力を使うのには罪悪感もある。
それから、雅は仕事に関する魔法は止めることに決めた。

どうか、優しくてみんながうらやむ彼氏が出来ますように。
どうか、彼氏とのことがばれませんように。
どうか、彼氏と上手く別れられますように。

学校で彼氏がいないと言ったことで、驚かれてバカにされ、悔しくなった雅の次の願いはこれだった。出来た彼氏は格好良くて、優しくて最初は嬉しくて夢中になったが、すぐに悲しくなった。



こんなの、嘘だ。

210 :魔法少女 X :2013/11/25(月) 07:03

反省して、出来るだけ彼を傷つけないようにと魔法を使ったが、雅が思ったより代償は大きかった。
魔法は融通はきかない。
結果的に願った通りになるだけで、気をつけないと周りに迷惑をかけることもあることも知った。
色々学んで痛い目にもあった雅は、出来るだけ魔法は使わないようにしようと決めた。

それでも困った時、悲しい時、魔法は雅を誘惑する。

勿論、魔法にも制約がある。
ビー玉をくれた魔女は細々としたことを教えてくれたが、幼い雅がわかったのはこれだけだ。

まず、魔女であることは人に話せない。
魔女同士でなければ、人に話そうとすると必ず邪魔が入るらしい。

それから、世界の決まりや、自然をどうこうするような願いは叶わない。
宿題が終わらなくて、夏休みの最後の日に雅の時間だけ長くして貰おうと願ったが無理だった。
211 :魔法少女 X :2013/11/25(月) 07:04
同じように、極端に不自然な願い事も叶わないようだ。
「どうか起きたら宿題が終わってますように」と願ってみたが、何も起きなかった。

お願いをするなら、もう少し早くするべきらしい。

魔女は言っていた。


「魔法はちょっとだけ、あなたを助けてくれるものなのよ。
起きてしまったことは変えられないし、自然や、人の気持ちはを動かすのは難しい。
大きな魔法ほど代償が必要なの。誰かになにかを無理矢理させたりしようとしても、魔法はすぐに解けてしまうわ」


212 :たすけ :2013/11/25(月) 07:05

△▼△
213 :たすけ :2013/11/25(月) 07:05

△▼△
214 :たすけ :2013/11/25(月) 07:05

△▼△
215 :名無飼育さん :2013/11/25(月) 17:46
更新ありがとうございます!
楽しが増えました
216 :魔法少女 X :2013/11/25(月) 21:09


「みや?」


名前を呼ばれて、雅はいつのまにか俯いていた顔をあげる。

「……みや?終わったよー。どうかした?」
「なんでもない。あ、ほら電車、来たよ」

もたれかかってくる桃子を押し返し、到着したばかりの電車に乗り込む。
マスクの上からでも桃子が不服げに唇を尖らせているのがわかる。

電車は雅と桃子を乗せ、走っていく。
席に空きはなく、扉のところに二人で立った。
何駅か過ぎた頃、ふと会話が途切れた。

「でも、久しぶりじゃない?こうやってみやと一緒に帰れるの」
「そうだね。最近桃、忙しいから」
「あ、みや、もしかして寂しかった?桃と一緒に帰れなくて」
「バカ。別にそんなんじゃないし」

距離を詰めてくる桃子をそっと押し返して、雅は窓の外を向く。

見慣れた街並み。降りる駅はもうすぐだ。
217 :魔法少女 X :2013/11/25(月) 21:11
「へーそーですか。素直じゃないなー。最近ずっとデレてたくせに」

すっかりすねた口調でも桃子は意外に楽しそうだったので、雅も桃子の軽口に乗ることにした。

「桃の妄想の中だけじゃなくて?」
「ひどい!うちら、恋人でしょ?」

雅の耳元に近づいた桃子の囁き声に、胸をつかれた。

「あ、」

とっさに言葉が出てこない。
速度を落とした電車が、雅の家の最寄り駅へ止まる。

「ほら、駅だよ。じゃね、みや」

桃子の腕が、雅をそっと突き放す。
ホームへと降りた雅に、桃子が手を振る。
瞳が悲しそうに揺れていて、雅は思わず腕を伸ばす。

「おやすみ」
「桃」

扉が閉まり、桃子と雅を隔てる。
伸ばした手を中途半端に下ろすと、桃子は車内で微笑んで後ろを向いてしまった。

傷つけた。雅の胸がしくりと痛む。
桃子をまた傷付けてしまった。
218 :魔法少女 X :2013/11/25(月) 21:16


雅が最後に使った魔法はこうだ。

「どうか、桃が恋人になりますように」。

何故そうなったのか、雅にはわからない。
けれど、桃子が好きになって、桃子が欲しくなって。
たとえば前の彼氏みたいに告白してきてくれる訳はないし、
雑誌を参考にしてアプローチする訳にもいかない。
そもそも、桃子はなかなか雅を見ようとはしなかった。

告白をしようにも、桃子は女の子だ。
女の子に告白する術を雅は知らない。

本当は、この恋を消すつもりだった。

どうか、私が桃を好きなことを忘れてしまいますように。


声に出しかけて、恐くなった。
この気持ちを消してしまって、桃子を嫌いになったらどうしよう。

雅が桃子を嫌いになって、桃子を傷つけるかもしれない。
それだけは絶対に嫌だった。

その時は丁度、Buono!のライブツアーの最中。
219 :魔法少女 X :2013/11/25(月) 21:18

仕事にも影響があるから、これはまずはやめておこう。

そう思ったその日、桃子と愛理が打ち上げの後、楽しそうに愛理の部屋に入っていくのを見た。
別に、何かがあると疑った訳ではない。

桃子と愛理は、誰が見ても特別な関係などではなく、ただの仲のいい仲間だ。

それなのに、雅の手はトランクの奥に大事にしまったポーチに伸びて、
気が付いたら魔法を使ってしまっていた。

やっちゃいけない。前のことを思い出せ。

理性が叫ぶのに、手が、心がそれを無視する。
桃子が誰かの横にいることが我慢できなかった。

魔法は叶った。

そのツアー最後の夜、雅のホテルの部屋を桃子が尋ねてきた。

思い詰めた顔をしているし、声は震え、顔色も真っ白。
どうしたのかと血相を変えた雅を制して、桃子は言った。

「みやが好き。こんなこと、言うつもりなかったけど。私と付き合って」
220 :魔法少女 X :2013/11/25(月) 21:21
ずっと待っていた言葉を聞いたはずなのに、感じたのは手に入れたというどこか空虚な独占欲と
やってしまったという果てしない罪の意識。

こんな風に、桃子が勇気を出して震えながら言ってくれたのは、魔法のせいだ。
そう思うと桃子に悪くて、声が出なかった。
夢見たはずの光景なのに、こんなにも嬉しくない。

いうことをきかない喉を諦めなんとか頷いた雅を桃子は抱きしめてくれたが、
桃子の腕の中で雅は罪悪感に苛まれる。

桃子を操った。桃子を騙した。ずるで、桃子を奪ってしまった。


断ればよかったが、それもできない。

魔法を使ったのだ。
これを断れば、きっと二度と桃子に「好き」などと言われることはない。

ずっと欲しかった桃子を誰かに取られるのが恐かったのだ。


それならば、せめて桃子を大事にしようと思ったのに―

221 :魔法少女 X :2013/11/25(月) 21:22
桃子がいると上手く笑えない。

恋人になれて嬉しいのに、桃子の気持ちを踏みにじったような気がして、桃子に悪くて。
桃子にも好きな人がいたかもしれない。
雅の魔法が桃子の恋を潰してしまったかもしれない。

桃子に優しくしてもらう度に、これは魔法のせいなんじゃないかと疑って悲しくなった。
笑ってくれる度に、本当に好きな人に向けて桃子はきっとこうやって笑うんだろうと卑屈になる。

それでも別れられない。
桃子が、「みや、無理してるんじゃない?」と言うたびに、首を振った。

今日も桃子を傷付けてしまった。
222 :魔法少女 X :2013/11/25(月) 21:23

両思いのはずなのに、これでは全く楽しくない。
両思いになんてならなかったらよかった。


魔法を恨む。けれど、魔法がなければ、今の雅もないのだ。

桃子を傷付けたくはない。
けれど、できれば、どうか、このままで―



立ちつくしていたホームから雅は階段へと足を向ける。



この話をたとえば誰かにしたとする。
すると、雅の話を聞いた人はこう言うだろう。
「考えすぎじゃない?」又は、「思いこみだって」と。
けれど、そうではないのだ。




魔法を使ったその日。


雅に、魔法の夜がやってくる。


223 :たすけ :2013/11/25(月) 21:25
>>215
レスいただけてとても嬉しいです。
相変わらずのノープラン更新ですが、よろしかったらお付き合いくださいませ。
224 :たすけ :2013/11/25(月) 21:27

△▼△
225 :たすけ :2013/11/25(月) 21:27

△▼△
226 :名無飼育さん :2013/11/25(月) 22:53
新しい小説が始まってる!
作者様の小説が大好きなので凄くうれしいです。
更新楽しみにしています。
227 :魔法少女 X :2013/11/26(火) 22:40
魔女はたしか、こんなことを言った。

「世界の魔女の数は決まっているのよ。
それこそ遥か昔から、ずっーと魔女はいるの。
魔女が減ると、また新しい魔女が生まれる。そうやって、私たちは遷り変わってきたの。
でも残念なことに、世界に満ちる魔力も決まっているのよ。
魔女が魔法を使うと、その分魔力が減ってしまう。
負けたら、魔力が奪われることになる。そうすると、魔法が消えてしまうわね。
強い願いは、より強い魔女にしか叶えられないのよ」

世界に魔女は沢山いる。

雅が願いを叶える度に、他の魔女が願い事をする度に―ヘクセンナハトがやってくる。

風が吹く。雅を中心にして、渦を巻いて噴き上がる。
どういう事かはわからないが、この風は雅にしか感じられないらしい。
雅がどこにいようと、どんな気分であろうと、容赦なくナハトは雅を呼ぶ。
228 :魔法少女 X :2013/11/26(火) 22:41
駅のホームが歪み、ぐるぐると回りはじめる。風が強くなる。
耐えきれず、雅は目を閉じる。

草の匂い、花の匂い、土の、水の、それに混じるどこか生臭いような森の匂い。

回る。ぐるぐる回る。
ざわつく気配、それから体の芯が冷えるような夜の気配、そして響く子供のような甲高い、幽かな笑い声。

周囲が静まり、雅が目を開けると真っ暗な夜の中にいる。

いつものことだ。

地面もないのに、真っ暗な中なのに浮かぶことが出来る。
足下にはあの日もらったビー玉みたいな赤紫の、光る丸い波紋。
ここに沈むとき、ヘクセンナハトでの敗北が決定する。

遠くに見えるまん丸の赤い月。
数十メートル先にはスカートをはいた人影がある。
若い少女の影だ。足元の光は青い。
229 :魔法少女 X :2013/11/26(火) 22:42

もう、桃子を解放してあげるべきかもしれない。
こんなくだらないことをして、人を操って。

けれど、負けられない。
負けると魔法がなくなってしまう。
負けたら、桃子が雅の隣からいなくなってしまう。

迷いを棚上げして雅は波紋を蹴って浮かび上がると、片手で半円を描く。
腕の軌跡に従って、炎が6個生まれ、雅を照らす。
重力などないかのように宙に浮かんだまま、炎を従えた雅は腕を組んだ。

少女の影から声がする。

「あのさ、あんたの願いが何か知らないけど」
「え?何?」


雅が聞き返すと、相手は雅の所まで上がってくる。
230 :魔法少女 X :2013/11/26(火) 22:43

「あたし、好きな人がいるの。もう玉砕三回目なの。魔法でもないと、駄目なの。お願いします!
今回、譲ってくれない?」

黒髪のショート、気の強そうな目。日に焼けた肌。着崩したブレザーの制服。
絵に描いたような高校陸上少女に、雅は気の抜けた笑みをみせた。
三回目、か。
きっとこの願いは、雅の想いを犠牲にしても叶うことはないだろう。
それでも願うというのなら、この少女が初心者なのか、ヤケを起こしているのか、
わかってないのか、そのどれかだ。

「あー、そういうの、ね。気持ちはわかるよ」
「わかってくれる?じゃあ」
「わかるけど、じゃあ負けられない。よかった。
あなたの願いが『お母さんを助けて』とかじゃなくて」

肩までの髪を後ろにやり、雅が苦く笑う。
想いに貴賤はないとはいえ、人の生死がかかった願いを潰すのは辛い。
大抵ナハトでは同じ位の願い、同じ位の想いを抱いた魔女が対戦すると知ってはいたが、安心した。
231 :魔法少女 X :2013/11/26(火) 22:45
身勝手なことだとは思うが、これなら戦える。

「え?」
「私、今気分サイアクでさ。手加減とか優しくしてあげらんない、多分。
だから先に謝っとく。ごめんね。じゃ、いくよ」

手元の炎を腕の一振りで勢いよく放つと、少女は一回転をしてそれを避け、
こちらへ向けて同じく炎を放ってきた。
それを雅は半円の透明なバリアを呼び出して受け、周囲に立て続けに稲妻を放つ。
青白い稲妻が下方向から空へと立ち上り、幾重にも折れ曲がって少女へと収束する。

「あたしと一緒のタイプ?うわキッツ」

少女はスニーカの足で宙を蹴って舞い上がり雅の稲妻をかわすと、雅の周囲に同じように稲妻を走らせる。
横に広がったそれを、雅は自らの稲妻を制御して相殺する。

波紋が二人の動きに従い、闇に花をまき散らしたように華やかに光る。

232 :魔法少女 X :2013/11/26(火) 22:46

「っつ」

さらに追加で放たれた稲妻を数条くらった雅のバリアが爆ぜる。
間合いを詰めてきた少女の追撃をバックステップで避け、牽制に炎を帯状に放って距離を取る。

ほっと雅が息をついたその時、

「くらえ!」

少女の背後から、数メートル以上はある巨大な水流が吹き出して雅へと殺到する。
とっさに新たなバリアを作り出したが、水に雅の視界が塞がれる。

「やった!あたしの勝ちだから!」

バリアを拡大し、やっと水上を見上げることができた雅の視界に、勝ち名乗りを上げる少女の指先に宿る巨大な稲妻の束が映った。

「だったらよかったのにね。後ろ見てみな!」
233 :魔法少女 X :2013/11/26(火) 22:48

その、雅が指差す、背後。

闇の中でうっそりとそびえ立つ、大きな口がそこあった。
湿気を含んだなま暖かい風でも感じたか、少女が勢いよく振り返る。
あんぐりとあいた大きな口が柔らかそうなピンクのベロを覗かせ、綺麗に揃った白い歯が粘膜の端を彩る。
真っ赤な唇は、現実感なく、ツヤツヤとポップに光っている。

「え?」

恐怖にゆがんだ半笑いを浮かべた少女の姿がスローモーションのように雅の目に焼き付く。

ぐしゃ。

雪崩落ちるように閉じた口から、少女の絶叫が遠く聞こえた。

「あー……やっぱこれ、えぐいよね。ごめん」

少女の青の波紋が消えた。


想う力で魔力は決まる。魔法は、魔女の想像力の数だけある。
もうだめだと思ったら、そこで負け。
浮かぶことが出来なくなり、波紋に飲み込まれナハトが終わる。
魔法で死ぬことはないと知っているのだが、やはり稲妻に打たれれば痛いし、炎は熱いし、恐い。
本能で感じる恐怖は越えがたいものがある。
234 :魔法少女 X :2013/11/26(火) 22:51
少女の敗因は、炎や雷を操ってみせた雅を自分と同じような系統の魔女だと思ったこと。
派手な炎や雷を見せつけられると、つい、その手段で戦わなければいけないような気になってくるのだ。
雅もその轍を踏んだことがある。

要は経験の差だ。
魔法は信じる力。
それならば、自分が最強と思う存在でも想像して作り出してみた方がよほど手っ取り早くて強いと雅は思っている。
負けると魔法が、自分が信じられなくなる。
魔法を信じられなくなったら、魔女ですらなくなってしまう。

気が付いたら、駅のホームに戻ってきていた。
大きなため息をついて、雅はのろのろと踵をかえす。
『呼ばれ』て、どれだけ向こうにいても現実の時間は変わらない。雅がここに立っていたのは、せいぜい瞬き一つ分位だろうか。

桃子の乗る電車は行ったばかり。
雅の今の気分が最悪を通り越して凶悪に悪かったとしても、あまり長い間一つの場所に立っていると不審に思われる。
帰途を急ぎながら、雅は大きなため息をつく。

今日は疲れた。
明日のことなんて今はもうどうでもいい。
235 :たすけ :2013/11/26(火) 22:54
>>226
ありがとうございます。
ちょっと毛色が違うので、心配してまして。
少しでもお楽しみいただけたら嬉しいです。
236 :たすけ :2013/11/26(火) 22:55
△▼△
237 :たすけ :2013/11/26(火) 22:55
△▼△
238 :名無飼育さん :2013/11/26(火) 23:16
今日も来てた!
読んだことのない感じのみやももですね。話にすごく引き込まれます。
これからも更新楽しみにしています。
239 :魔法少女 X :2013/11/27(水) 22:19
仕事が終わり、そのまま買物でもして帰ろうとした雅だったが、マネージャーに会社に戻るよう言われた。
細々としたものを持ち帰らなければならないらしい。
面倒なので後回しにしたかったが、車での移動のため雅に選択権はない。

さっさと荷物をまとめ、会社のエントランスを抜けようとした雅の足が止まる。

「桃」
「あぁ、みや、今帰り?私も終わったとこなんだけど。一緒に帰らない?」
「うん。いいけど」

昨日とは違うピンクのコートに、仕事帰りの癖のついた黒髪。ピンク色のマフラー。
気まずさに断ろうかとも思ったが、ほっとしたように笑う桃子に、雅はつい頷いてしまった。
会いたくなかったはずなのに、会うと心が浮き立つ。
自分の気持ちなのに、ままならない。

雅同様、なにやら荷物を取ってくると言う桃子を待って、一緒に駅まで歩く。
240 :魔法少女 X :2013/11/27(水) 22:21
「ちょっと公園寄らない?」
「寒くない?なんか用でもあんの?」
「まーいいでしょたまには!ね、こっち」

手をポケットに入れたままの腕をとられ、マスクを装着した桃子に公園に引っ張り込まれる。
「こっち」と促され、ブランコの柵に二人で並んでもたれた。
寒いせいか、夕暮れの公園には人がいない。
もう少し暗くなっていたら雅も同意しなかったと思うけれど、黄昏の公園もムードもあっていいような気もする。

日は落ちきってしまったが、公園の中は夜というにはまだ少し明るい。
今はオレンジやグレー混じりの藍のグラデーションに染まった空の色も、冬特有の早さですぐに夜へと変わるのだろう。
きょろきょろと周囲を見回す雅の横で、ほぅと桃子が息をつく。
白い息が上がって、ふと桃子を見ると、桃子はマスクを外していた。
241 :魔法少女 X :2013/11/27(水) 22:22
「いいの?外して」
「うん。どうせ気付かれないから。っていうかみやもしてないじゃん。帽子だけで平気?」「意外にいけるよ?ファンの子にバレても笑って手ぇ振ったらいいんだし」
「ったく。フライデーされたらどうすんのさ」
「ここで?桃と?っははは。千奈美じゃないんだから」

そういえばこの公園で桃子は写真を撮られたのだった。
思い出して笑うと、桃子は横で顔をしかめる。

「笑い事じゃないよ。千奈美とは付き合ってないけど、みやとは……」

ふと言葉を切って、桃子は下を向いた。

「みやは、迷惑だったかな」

小さな声が、静かな公園にぽつりと落ちた。
雅の息が一瞬止まる。
242 :魔法少女 X :2013/11/27(水) 22:24
「私はみやが好きだけど……みやはいつも、苦しそうな顔してる」

桃子の語尾が震えた。
胸が詰まる。
気付けば、雅は桃子の肩に手をかけていた。

「そんなことない!」

顔を上げた桃子の頬に、涙が一筋流れる。

「みやは桃が可哀想だから付き合ってくれたの?」
「違う!私だって、桃が好きで」
「ほんとに?」

もう限界だ。

桃子を泣かせた。大事にしたいのに、傷付けて、縛り付けて。
最初からあんな魔法使ってはいけなかった。

「そう、そうだけど」

正々堂々と、振られてもまっすぐ思いを伝えればよかった。
そうすれば、桃子も偽物の恋に惑わされなくて済んだのに。

雅は柵から離れ、一歩後退る。
243 :魔法少女 X :2013/11/27(水) 22:25

「ごめん。桃の気持ち、嘘なの。私が桃が好きで、桃が私を好きになればいいと思ったから、桃を苦しめた」
「え?どういうこと?」

目を赤くし、訝しげに首を傾げる桃子から離れる。

「わかんなくていい。明日になれば大丈夫だから。桃、今までごめん。
もう別れよ。ちゃんと、ちゃんとするから。桃のこと、好きだけど」

いつのまにか夜が周囲に満ちていた。
街灯が点灯し、二人の影が地面に長く伸びる。

「バイバイ」
「みや!」

桃子の顔をまともに見ることが出来ず、雅は走り去る

帽子を深くかぶり直す。
桃子の言うとおり、やはりマスクをつけてくるべきだった。
前がまともに見えない。喉が熱い。ネオンがぼやける。
駅の表示が滲む。


鼻が赤くなってないといいな。


家に帰るまで、誰にも会わないことを祈った。

244 :たすけ :2013/11/27(水) 22:28
>>238
ちょっと安心しました!ありがとうございます。
ぼちぼちがんばります。
245 :たすけ :2013/11/27(水) 22:29
△▼△
246 :たすけ :2013/11/27(水) 22:29
△▼△
247 :名無飼育さん :2013/11/28(木) 01:59
なんてところで…。続きがめっちゃ、気になります!
Berryz工房の武道館も、日付かわったんでもう明日ですね!
武道館、こちらの小説と楽しみがたくさんあって幸せです^_^
248 :魔法少女 X :2013/12/02(月) 21:54
「ただいま!」
家族の返事も聞かずに部屋へと走って、ビー玉を取り出した。

桃子が好きだ。

笑った顔、一緒に行ったカフェ、あげたプレゼント。
ジャンプして、子供みたいに喜んでくれた。
服を選んだ時、照れくさそうに「似合う?」なんて、普段が嘘みたいに自信がなさ気に笑った。
顔が近づくだけで恥ずかしそうに俯いたり。あのとき、折角だからキスしとけばよかった。
きっともう出来ない。昨日の別れ際にみせた、悲しそうな横顔。
告白してくれた時の、真っ白な緊張した顔。ほっとした笑顔。涙。



まだ好きだ。別れたくない。
249 :魔法少女 X :2013/12/02(月) 21:55
「どうか」

床に座り込み、ビー玉を両手で握って胸元に引き寄せる。
次々に思い出が涙と共に溢れたが、雅は声を振り絞る。

きっと今しかできない。
今しなければ、また桃子を縛り付けたくなる。

「桃が私を好きなことを忘れて、桃と別れられますように」

ぽたりとスカートに丸い涙の染みが落ちた。


その時、風が吹く。

雅の肩までの髪がふわりと巻き上がる。
馴染みの感覚に、雅は目を閉じる。
こんなにはやくヘクセンナハトが来たことは初めてだった。
巻き上がる風がスカートをはためかせ、雅を包み込む。

それだけ無理な願い事だったということだろうか。


やっぱり、ほんとに桃に無理させてたのかな。


子供のような笑い声が耳障りだ。もう早く終わらせたい。
相手には悪いが、雅は今回だけはどんな手段を使っても勝つつもりでいた。
250 :魔法少女 X :2013/12/02(月) 21:55



251 :魔法少女 X :2013/12/02(月) 21:56
目を開けると、いつもの闇の中にある。

相手は遠い。影からすれば、小柄な少女。
足元の波紋の色は、淡いピンク。
色から桃子を思いだして、みやびは不快に眉間に皺を寄せる。
珍しく好戦的な気分だ。

ふわりと舞い上がると、雅はありったけの稲妻を呼びだし、宙へと放つ。
まるで目の細かい投網のように拡がった稲妻をものともせず、相手も雅の近くへと跳んできた。


見覚えのある、ふわふわのピンクのワンピース。肩までの黒髪は、別れた時と同じように癖がゆるくついて、数時間前より乱れている。
見慣れた白い肌。


「え?」


下から桃色の光を当てられているのに、いつもよりも顔色が悪い。
大きな黒い目。泣いた後なのか、真っ赤だ。


薄い唇が動く。

「み……や?」



桃子があげていた腕が、力無く落ちた。

252 :魔法少女 X :2013/12/02(月) 21:58




雅が呼びだした稲妻も消え失せ、闇が戻ってくる。

呆然と見つめ合うこと暫し。
ずっと近くでこの顔を見てきたのだ。間違う訳がない。
これは桃子だ。

「びっくりした。みやも魔法少女なの?」
「何それ?桃は魔女じゃないの?」

意外な言葉が桃子の口から出てきて、思わず返事が普通の調子になった。
ぐすっと鼻をすすって、桃子が首を振る。

「その呼び方好きじゃない。魔法少女。こっちのが可愛くない?」

いつもの、それこそ桃子らしい桃子がそこにいて、雅は力無く吹き出した。

「何よ、それ」
「変かな」
「変でしょ。魔女は魔女だよ」
253 :魔法少女 X :2013/12/02(月) 21:58

ふふ、と力無く笑いあって、雅と桃子は向かい合う。
その距離およそ3m。
油断なく見つめ合い、桃子に問われるまま、雅は小さい頃に魔女に会った話をした。

「みやの願いって何?」
「桃と別れること」
「そっか―」

ため息をついて、桃子が天に浮かぶ赤い満月を仰ぐ。

「私も一緒。小さい頃魔女に会って魔法を貰ったんだ。そのときはもうアイドルだったけど。
願いを叶えられるって聞いたけど、それに頼っちゃいそうで止めにした。だから、他のにした」
「他の?」
「そう。私の力は、取り消す力。最初のやつの取り消しは失敗したけど」

悲しげにくしゃりと桃子が笑う。

254 :魔法少女 X :2013/12/02(月) 21:59

「それから、ずっと取り消し続けてるんだ。Berryz の解散の可能性を。
そして、今日はみやと別れる未来を取り消した。だから私は負ける訳にはいかない」

桃子が雅から少し離れる。
りりしく引き締まった顔に、雅は見とれる。
こんな時でも、桃子が好きな自分は変わらない。

「こんなに嫌われてるとは思わなかったけど。私はみやと別れる気、ないからね」
「え?」

思いもよらない言葉に、一瞬思考がフリーズした。
その隙をつき、桃子が雅の方へと突っ込んでくる。

「桃には魔法、きかないよ!絶対別れてなんてやらないから!」

255 :たすけ :2013/12/02(月) 22:03
>>247
ありがとうございます。励みになります。
武道館本当に良かったですよね!
入って、わかってたことですけど満員の席を見て嬉しくなったし、
楽しませようとしてくれてるのがわかる、とても幸せなライブでした。
ほんとよかった!行かれた方皆様、お疲れ様でした。
256 :たすけ :2013/12/02(月) 22:04
△▼△
257 :たすけ :2013/12/02(月) 22:04
△▼△

258 :名無し飼育。 :2013/12/02(月) 23:25
続きキテター
これはどうなるんだっ。
気になって夜しか眠れそうにないです。

作者さんも武道館に行かれたんですね。
あの幸せな空間にいられた事、本当によかったですよね。
まさに、ベリヲタでよかった!の一言につきます。
259 :魔法少女 X :2013/12/08(日) 17:38
せっかく人が自由にしてやるって言ってんのに!
湧き上がる怒りを魔力に変える。

「私のこと嫌いなの、桃の方じゃん!」

垂直に跳んだ桃子の進行方向へ向け、分厚い石壁を立て続けに自分の前に数十枚生み出し、雅自身も最後の壁を蹴って桃子と距離をとる。
進行方向、真上、真下、桃子の向かうであろう先全てを壁で覆い尽くす。

雅は全力で叩き潰すつもりだった。桃子を。魔法に頼った自らの過ちを。恋を。

桃子にぶつけ、なんなら潰してしまうつもりで積み上げた壁が、桃子に触れた瞬間跡形もなく消え失せる。

「何で消えちゃうの!?」
「消す力だって言ったでしょ!」

次いで作り上げた大きな口も、桃子の手が触れた途端に溶けるように消えた。
間近にまで迫った桃子に向け、雅は火炎を作り上げ、放とうとした。
260 :魔法少女 X :2013/12/08(日) 17:38
全力で勝つ。そう決意したはずだ。ナハトの魔法では死なない。
けれど、好きな人へ炎を放つことはできない。とっさに手が止まる。
雅の逡巡を見透かしたように桃子の手が迫る。

顔に風圧を感じると同時に、ぎゅっと目を瞑った雅の手から帯状の火炎が噴出していた。
噴射した炎の勢いそのままに、雅は後方へと下がる。
至近距離の放射に、瞼の裏まで光が届く。

熱い。
放った側にも関わらずこの有様なのだ。
まともに浴びた桃子が心配になり、急いで目を開ける。

少し距離をとり、腕で顔を庇った桃子は、炎が届く前に伸ばした片手でそれを消し去っていた。

桃子は強い。魔法を消すだなんて、反則だ。

どうすれば勝てるだろう。
石壁を鋼鉄製にして時間を稼ぎながら、雅は頭脳をフル回転させる。
何なら桃子を阻めるだろうか。

「私がみやが嫌いって何よ!?」
「だって!」
261 :魔法少女 X :2013/12/08(日) 17:40
こんなに、桃子の恋人でいることは難しい。
こんなに桃子が好きなのに、この願いを阻もうと何度も何度もナハトがやってきて、相手が向かってくる。
世界は雅の思い通りにならない。
しかも、やっと諦めて自分の恋を葬り去ろうと決めた夜に現れた相手は桃子だ。
雅の魔法のせいで、雅が好きだと思いこんでいる桃子だ。

雅は唇をかみ締める。これが事実だ。

「何回ナハトしたと思ってんの?桃が私と付き合うの嫌だから魔法が持たないんじゃん!」

その時、雅の記憶にひっかかるものがあった。
見つけた。雅が知っている桃子の弱点。

世界が、魔法が雅の手で桃子を元に戻せというなら、もうなんでもしてしまうつもりだ。
桃子の弱点を形にする。
完全には無理でも、雅の恐怖をアレンジに加え、自分の中のありったけの魔力を練り上げ、再現する。
そしてまた鉄の壁を。これは消えてもいい。仕掛けの目隠し代わりだ。
262 :魔法少女 X :2013/12/08(日) 17:41
壁を消し去ったであろう桃子から「え?」という間抜けな声が聞こえた。

そうだ。
触れたら消されるというのなら、桃子が触れたくないものを作ればいいのだ。


「え?キャー!やだ!来ないで!!嘘!?恐い恐い恐い」

次いで桃子の困惑と恐怖に満ちた「いやー!」や「キャー!」という高い悲鳴が聞こえる。
壁の終わりにテレビと、そこから這い出る貞子を。
貞子の周囲に、目が光る猫の影の群れと壁代わりの半分とけたスライムを。
その横に出した仮面のジェイソンを桃子へと差し向け、ゾンビを雅自身の周囲の守りに。

消されなかった目隠しの壁に阻まれ、雅に全てが見えた訳ではないが、桃子に相当なダメージを与えられたようだ。
うぞうぞと蠢くゾンビを新たに作りながら、雅は心の中で桃子に謝る。

あの攻撃は雅も嫌だ。
263 :魔法少女 X :2013/12/08(日) 17:42

「桃、終わりにしよっか。降参するなら消してあげるから」

テレビから完全に這い出した裸足の貞子が驚くべきスピードで桃子を追い回し、泣きながら逃げる桃子へ向けジェイソンが無限に出てくるチェーンソーを投げつける。
猫の群れがニャーニャーと鳴きながらその後へと続き、ゾンビは今や五十以上の群れとなって雅を取り巻く。


「絶対やだ!」

涙とその他でぐちゃぐちゃな癖に、強く言い切り桃子は恐怖の集団へと立ち向かう。

「お願い帰って!もー!邪魔しないで!」



桃子が両手を突き出した瞬間、真っ白な光が闇を払う。
264 :魔法少女 X :2013/12/08(日) 17:42







265 :魔法少女 X :2013/12/08(日) 17:43
何が起きたか、暫く判断出来なかった。
目を瞑り、腕で顔を庇ったが、視界はチカチカしてよく見えない。
下ろそうとした雅の腕がとられた。

「どういうこと?」
「何が」
「魔法が持たないって」

ようやく回復しだした目を凝らせば、肩で息をした至近距離の桃子の真剣な顔がみえた。
慌てて周囲を見渡すと、あれ程いた猫も、ゾンビも貞子もジェイソンも、スライム、鉄の壁に至るまで雅の作り出したものは全て消え去っていた。


終わり、か。
魔力もほぼ空に近いし、正直疲れた。
雅はため息を吐く。

「そのまんまの意味だけど。桃に、魔法かけた。桃とみやが恋人同士になるように」

半ばヤケになって腕を組み、胸を反らして桃子を睨む。
266 :魔法少女 X :2013/12/08(日) 17:44
「軽蔑していいよ」

強がってはみたものの、涙が出そうだ。
何も言わない桃子に居たたまれなくなり、雅は俯く。
ぼんやり光る紫の雅の光輪。
項垂れてそこへいっそ自分から落ちてしまおうかと思う。
そうすればこの場から逃れられる。

「それってみやが私の事好きだって事?」
「そう最初から言ってるでしょ!」

先ほどからずっと雅が未練を断ち切り、桃子を開放するため動いているというのに、まだ暢気なことを言う桃子に腹がたつ。
苛立ちをそのまま言葉にぶつけると、つかまれたままだった腕を引かれて引き寄せられた。

「なんだ」

勢いよくがっしりと抱きとめられて、雅は驚きに体を固くする。

「よかったよぅ」
267 :魔法少女 X :2013/12/08(日) 17:45
日本語だったのはそこまでで、そのままべしょべしょと桃子は子供のように泣きだした。
至近距離で見た赤い耳に、しっかりと首に回された腕。
耳元でしゃくりあげる声が聞こえ、雅は思わず腰に腕を回してしっかりと桃子を抱きしめたが、違う。

まずい。

確かに、雅は桃子にあまり好きだと告げてはこなかった。
しかし、別れる前に公園で「好きだ」と言ったはずだし、そもそもそんなことを言われるのは正直心外だが、問題はそこではない。

「う、そ。もしかして、まだ魔法解けてないの!?」

それならば大変なことだ。
確かに雅はまだナハトに完全に負けたわけではないが、もしも桃子にかけた魔法が解けなかったとしたら―雅の背筋に冷たい物が走る。

「へ?」

雅のニットの肩を濡らしていた桃子が顔をあげる。
しがみついたまま、ぽかんとした顔をしてまじまじと雅を見つめ、何かに気付いた様子で小さく笑った。
268 :魔法少女 X :2013/12/08(日) 17:47
「あ、そっか。わかんないか。あのね、みや。みやには悪いんだけど、桃には魔法、効かないから」

涙を拭きながらあっけらかんと言われた台詞に、雅は眉を寄せる。

「え?なんでよ。私ちゃんとナハトに勝ったし、それに」
「みーや。私さっき、取り消す力だって言ったよね?それに私、魔法消してたじゃん。魔法自体を無効にするような力はないから多分、一瞬は魔法がかかるんだと思うけど、魔力使う度にすぐに消えちゃうと思うんだ。桃の場合」

お互い宙に浮き、腰に回した手はそのまま。
抱き合っているので光の円が混ざり合い、下からのピンクと紫の光の粒が、二人の姿をちらちらと照らす。
「うーん。よくわかんないんだけど」
上半身だけを離した状態で雅が首を捻ると、同じように桃子も首を横に倒して唸る。

「だから、多分無駄ってこと。魔法はかけられるし、魔力の維持もできるだろうけど、私に触れた分の魔法は消える」
「やっぱりよくわかんない。とりあえず、私は無駄なことをしてたってことになる訳?」
「そうなるのかな。まぁもういいじゃん!」
「全然よくない」
269 :魔法少女 X :2013/12/08(日) 17:48
苦闘と葛藤の記憶を面倒臭そうに片付けられ、むくれる雅の肩に桃子は顔を押しつける。

「もういい。ちょっと黙って。ぎゅってしていい?」
「もうしてんじゃん」
「そうだけど。だってずっと我慢してたんだもん。みや、同情で付き合ってくれてると思ったから」
「だから、違うって」
「それはわかった。桃も、違う。みやが好き。魔法じゃなくて。信じて」
「う、ん。ごめん。わかった。信じる。いいよ、しよ。みやも、桃とぎゅってしたい」

桃子の手が、遠慮がちに雅の腰から背に回る。
それがあまりに恐る恐るだったので、雅は桃子の分も力を入れてぎゅうぎゅうと桃子を締め付けた。
「苦しい!筋肉とかいつも言う癖にどっちが筋肉よ」などと桃子が可愛くないことを言いながら笑う。
「桃、黙るんじゃなかったの?」と雅がからかうと、桃子は悔しげに雅を一つ叩いた後こくりと頷き、雅の首もとに顔を埋めた。
伝わる体温が混ざる。いつもの桃子のシャンプーの匂いがした。
270 :魔法少女 X :2013/12/08(日) 17:49
久しぶりにこんなに近くにいる。
そっと髪を撫でると、桃子は雅の首筋に頬を寄せた。

「あのさ、キスしない?」

耳元で聞こえる桃子の声にそっと体を離すと、恥ずかしげに顎を引き、頬を赤くした桃子が上目遣いで雅を見上げる。雅の心拍数と体温が上がる。


「うん」
「じゃあみやからして」
「桃からしてよ」
「えー?桃から?もぉ相っ当悩んだんだけど」
「みやも相っ当悩んだっての」
「だけどみや、自業自得じゃん。みやのせいでしょ」
「自業……?え?みやのせいってこと?なんか変じゃない?納得いかないんだけど。
まぁいっか。いいよ。みやがしてあげる。ほら、目、閉じろ」

どちらも本気でないのはわかっている。
冗談交じりの譲り合いに雅が折れた。
気恥ずかしさを誤魔化すため、少し乱暴になった物言いに、案の定桃子が噛み付く。
271 :魔法少女 X :2013/12/08(日) 17:50
「ねーえ、言い方!他にないの?」
「いいから、閉じて。目」

口を尖らせた桃子に、雅が少々強引に顔を近づけると、桃子が逃げた。

「やっぱ照れる〜」

スカートを靡かせくるりと一回転して後ろを向き、頬に手をあててくねくねと揺れている桃子に、雅は腰に手をあて大きなため息をついた。

「ちょっと。自分から振っといてなんなの?しないよ、そんなことしてると」
「やだ」
「やだって。まぁいっか。ほら、さっさとするよ」
「もうちょっとさぁ、ムードを……あ、そうだ。みや、魔法使えるよね。魔法でぱーっとここらへん変えちゃってよ」

さっと両手を広げ、桃子が目を輝かせる。

「え?」

周囲はいつもの、ヘクセンナハトの真っ暗な闇だ。
光源は雅と桃子の足元の円と、遠くに見える赤い月。
ただそれだけの、夜の世界。
272 :魔法少女 X :2013/12/08(日) 17:51
「だって今なら何でも出せるんでしょ?魔法でさ。なんならディズニーでも、海でも」

そういえばそうだ。
お互いアイドルなのだ。
外でキスなどしたら写真を撮られる心配をしなければならない。
こんな機会は滅多にない。しかも付き合って、最初のキスだ。
ナハトの闇も綺麗といえば綺麗だが、この世界にあまりいい思い出はない。

「桃はどっちがいい?」
「ん?なになに?」

どうせなら桃子の望むものがいい。
雅にも希望はあるが、それより、子供のような顔で浮かれている桃子の理想を叶えてやりたい。

「だから、キスするならどこがいいの?乙女チックシミュレーションの達人のももちさん」
「うーん。そうだなぁ」

ふっと下を向いて思案し、やがて小さく笑うと、桃子は顔を上げた。
273 :魔法少女 X :2013/12/08(日) 17:52
「じゃあ、公園。公園がいい。夕焼けね。」
「公園?そんなのでいいの?わかった」

もっとメルヘンかつ無茶な要求をされると思った雅は拍子抜けで目を閉じ、イメージを形にする。
小さめのジャングルジム、ベンチ。
もう遠い昔のような気もするが、今日桃子と別れ話をしたブランコと、二人でもたれた柵。街灯。空の色。
浮かんだのは桃子のバックに見えた黄昏の色だったが、思い悩んだ末に鮮やかなオレンジにした。
沈む夕日に真っ赤に染まった公園。こっちの方が桃子の涙を思い出さなくて済む。

「うわ、すごい!みや、いいよいいよ!やる〜」

もしかして桃、あれのやり直しをするつもりだったのかな。

思い当たって、雅は苦笑いをして褒めてくれた桃子に応えるべく目を開ける。
274 :魔法少女 X :2013/12/08(日) 17:53
想像通りの空間がそこにあった。
はしゃいで周囲を飛び回る桃子を見て、苦笑いを満足気な笑顔に変えた雅に、桃子はニヤリとわらって振り向いた。

「ね。リクエストしといてなんだけど、みやの公園にはさ、シンデレラ城があるわけ?」
「え?」
「あの特徴あるシルエット。背景、どうでもよかったの?しかもその横がなんか適当な山とかどゆこと?もしかして千葉、バカにしてる?」

吹き出して笑われ、指差された方角を見れば確かに見慣れた影と適当に描かれたとしか思えない、ぼんやりとした山の連なりがある。
そういえば公園のイメージはしっかりしていたものの、その他のことはぼんやりとしか考えていなかった。
闇でもよかったはずなのに、ちぐはぐながら案外しっかりと背景まで作り込んでしまったのは桃子のリクエストを色々考えていたせいか、
又は雅自身の希望が混じり込んでしまったせいか。

少し恥ずかしくなり雅は仏頂面を作るが桃子にはそれもポーズだとお見通しらしい。
275 :魔法少女 X :2013/12/08(日) 17:54
「してない。もうさぁ、そんなうるさいなら消すよ?」
「やだやだやだ。あ、そっか。みや、もしかしてディズニーが良かったの?
そうだよね。桃たち、ディズニーでキスとか絶対出来ないもんね。じゃ、次はディズニーね」

図星を指され、ドヤ顔がむかついたので、雅は桃子の腕をひっぱって腕の中へと引き寄せる。


公園の上に1m浮いてのキス。
触れた唇の感触が、一瞬だけだったのに妙に唇に焼きついて気恥ずかしい。
思わず顎を引いた雅に桃子は桃子は眉を下げ、泣き顔の一歩手前の顔で微笑むと、雅を伴い地面の傍へと降り立った。
そのまま、もう一度唇を寄せる。
桃子の腕が雅の首に回る。触れたところからじんわりと熱をもって、温かくなる。

なんとなく感じた違和感に体を離すと、雅は桃子がまだ少しだけ浮いているのに気付いた。
276 :魔法少女 X :2013/12/08(日) 17:55
「あれ?桃、なんで降りないの?変でしょ」
「だって、桃触れないよ。私降りると、ここ、全部消えんだよ。いいの?みや」

困った顔で地面を指差され、先程聞いたばかりの説明を思い出して雅は情けない顔になる。

「あ、そうだっけ」
「あ、でもこういうことできるよ」

何を思いついたのか、まだ赤い顔で妙に得意げに唇を持ち上げると、桃子がそのまま雅を抱きしめた。

普段桃子よりも背の高い雅だが、今の桃子は地上から十センチ程浮いているので雅の顔が桃子の胸元あたりにある。
なんだか新鮮な感覚に、そっと桃子のワンピースに頬を当てると桃子は照れ隠しにか、
「どーですかどうですか雅ちゃん。ももちお姉さんのお胸の感触は」と調子に乗った声を出すので、雅は桃子を一つ叩いて黙らせる。

「あいた!ひどいよみや」
「もう、煩い。黙って」
「ほーい」
277 :魔法少女 X :2013/12/08(日) 17:56
雅が腕を桃子の背に回すと、桃子も雅を抱きしめ直してくれた。
桃子の心音がダイレクトに雅の耳に伝わる。
ばくばくと音を立てて早いそれに雅は喜びに耐えきれずに笑う。
雅と一緒にいて、きっと、同じように一緒に嬉しくなってくれている証拠だと思う。

「もういい?」

なんだか照れたような様子で桃子が雅の肩を押す。

「ねぇ。ちょっと。もうちょっと」
「もういいじゃん。十分だよ」

ねだる雅を引き離し、桃子は宙を蹴る。

「じゃ、次ディズニー。さっさと変えちゃって!みや」
「ったく。人がすると思って」
「いいからいーから!お願い!次は桃からするから」

ディズニーなら得意分野だ。
雅が瞬く間に背景を塗り替えていく。
口を半開きにして、見とれる桃子に誇らしくなって雅はジャングルジムをシンデレラ城に、橙に染まる空を星の瞬く夜空に、そしてブランコをエレクトリカルパレードへと創り替えた。
パレードの人工の色とりどりの光が闇を払い周囲を明るく彩る。
278 :魔法少女 X :2013/12/08(日) 17:57
「すごーい……」

隣の桃子が鮮やかに光る世界に呆然と見とれている。
少し疲れたが、雅の力作だ。
切れた息に気付いたのか、桃子が雅の背を支える。
地面までは余裕がなかったので二人は宙に浮いたままだ。


「でしょ?みやのこともっと褒めていいよ」
「すごい、すごいよみや!天才!最高。綺麗」
「桃だけのためだから」

事実を述べただけなのに、思ったよりも気障なセリフになってしまった。
赤面する雅に驚いた様子の桃子だったが、やがてその目を和ませて雅を抱きしめた。

「ありがと、みや」

甘く囁かれ、思わず首をすくめると頬に桃子の手が触れる。
桃子の睫が伏せられ、綺麗に整った白い顔が近づいてくる。
雅が目を閉じると、ふんわりとした感触が唇に触れた。
視線が交わり、吐息が混ざる。桃子の目が濡れているように光る。
角度を変えて、もう一度。
雅の指が桃子の髪を透き、口づけが深くなる。
279 :魔法少女 X :2013/12/08(日) 18:03
「また、ナハトで会えたらいいのに」

唇を離して雅が囁くと、桃子が吐息だけで笑う。

「多分もうこんなことないと思うけど。でも、よかった。ディズニーでキスなんて絶対無理だもんね」
「桃無精だしね」
「そこ?桃だって、そりゃ、デートなら」
「ほんとに?」
「多分」

目を泳がせて返事をする桃子が面白くて吹き出して笑うと、桃子も釣られて笑い出す。
ひとしきり二人で笑った後、桃子が雅へともたれかかって肩に顔を隠して口を開いた。

「帰りたくないけど、戻んなきゃね。どっちが負ける?」
「戻んなきゃだめ?」

食い下がってはみたものの、雅自身も戻らなくてはならないこともわかっていた。
280 :魔法少女 X :2013/12/08(日) 18:04
今までヘクセンナハトを行なっていた間に時間が経っていたことはなかったはずだが、絶対ということはないのだ。
ましてや、戦闘を行なわないでこうして時間を過ごしたこともない。
魔法のシステムもしっかりと解っていない。
夢のような時間で名残惜しいが、理性では桃子が正しいとわかっている。

「駄目でしょ。で、どっち」

真顔で選択を迫る桃子は、結論を雅に選ばせるつもりらしいが、答えなど決まっている。

「何言ってんの桃。私が勝っていいの?別れたい訳?」
「あ、そっか。じゃ、みや、悪いけど」
「うん。桃、そういえば魔法使えないんだよね?いつもどうやって勝ってんの?」

思い当たった疑問を雅が尋ねると桃子は顔を顰める。
281 :魔法少女 X :2013/12/08(日) 18:06
「相手の人に好きなだけ魔法使ってもらって完璧に『負けた』って思ってもらうか、それでも駄目な人はこうやって」

桃子は雅の両肩に手をかけると、真下、足元の光円の方へ向かって押し始める。
確かに負けたらあの波紋に沈むことは知っていたが、まさかの力業とは思わなかった。

「えー!?嘘でしょ!?ちょっと、うわ乱っ暴。なんかレスラーみたい」
「ちょっと!失礼な!アーイードール!言葉選んで!桃だって嫌なんだからね!これ」
「ま、いっか。私が沈めばいいんでしょ?離して。自分で行くから」
「うん」


苦笑いの桃子の手を両手で繋ぎ、ゆっくりと雅は降りていく。

桃子の波紋は動きに従って降りていくのに、雅の波紋はその場を離れない。

雅が降りることを選択したからか、桃子のせいか。
意思の力で浮かぶ方向、そしてその上下を制御出来ることは知っていたが、自分から沈む為に降りていくのは初めてだ。


「ね、桃。後で会いにきてよ」
「え?」

282 :魔法少女 X :2013/12/08(日) 18:06
下からの紫の光が強くなる。
風が吹いて、雅の髪やスカートがふわりと持ち上がる。
訝しげな桃子に変化はない。


「あ、やっぱいいわ。私が行く。家でおとなしく待っとけ」

魔法の円はもうすぐそこだ。
光が雅を中心に帯状に立ち上る。
靴の先が円に触れる。

「う、ん?わかった。でも何しにくるの?仕事は?」
「あるけど。あ、じゃあ泊めて。何かは秘密」

雅の腰から下が円に飲み込まれる。
痛みや不快感はない。ただ、眩しい。桃子の顔が良く見えない。
それが少し残念だ。

「じゃ、ね。桃。大好き」

繋いだ指をそっと離す。

「桃も」

見えなかったが、きっと桃子も笑っていたはずだ。



「すき」

重なった声だけを残して、魔法の夜が終わる。
283 :魔法少女 X :2013/12/08(日) 18:07






284 :魔法少女 X :2013/12/08(日) 18:09
気付けば、雅は自分の部屋にいた。
ぱちぱちと瞬きを繰り返すと、目の端から涙が落ちた。

「え?」

長い夢を見ていたような気がする。
手の中にはいつもの感触。
握りしめていた両手をほどくと、ころりとビー玉が落ちてカーペットの上で二つに割れた。


「うそ」

慌てて割れたビー玉を合わせてみるものの、くっつく訳はない。

「もう駄目ってこと?」

力無く呟く雅の耳に、電子音が響く。

『時間遅いから、タクシー使って気を付けて来て。部屋片付けて待ってるから』
「桃……」

そうだ。
今から雅にはしなくてはいけないことがある。
285 :魔法少女 X :2013/12/08(日) 18:12
LINEのメッセージに短い返事を返し、割れたビー玉をティッシュに包んでポーチに仕舞うと雅は立ち上がる。
涙の跡の残るスカートを脱いで着替えると、必要な荷物をまとめて雅はコートを羽織って立ち上がる。

「今から出てくる!桃のとこ泊まるね。明日の仕事は桃んとこから行くから」

母親に声をかけると、駅まで送ってくれるというので有り難く車を出して貰うことにした。
仕事の忘れ物がないかチェックをしながら支度を待つ間、ポーチから出したビー玉だったものをじっと眺める。

例え魔女でなくなったとしても、雅には出来ることが沢山あるはずだ。

魔法にはまだ未練がある。
桃子には負けたが、雅自身も勝率の高い、結構優秀な魔女だったのだ。
何があるかわからないこの世の中、魔法が使えるに越したことはない。
286 :魔法少女 X :2013/12/08(日) 18:14

「ま、でもしょうがない、か」

名前を呼ばれ、雅はポーチを片付け、部屋のドアを開ける。

「今いくー」

桃子に会ったら、今度は雅から告げるつもりだ。
桃子を思い出すだけで、胸があたたかくなる。
この気持ちをなくさないでよかった。
この恋を消さないでよかった。
桃子に魔法が効かなくてよかった。

桃子が、雅を好きでいてくれてよかった。


謝って、桃子に改めて「好き」ともう一度、雅から告白して、それから―


287 :魔法少女 X :2013/12/08(日) 18:14





288 :魔法少女 X :2013/12/08(日) 18:15



雅が出ていき、パタンと閉じられたドア。
人の居なくなり、電気の消えた雅の部屋で、窓も開いていないのに風が吹く。
カーテンが巻き上がり、ポーチが一度ちかりと光ると、唐突に風は止まる。




どこかで小さく、子供の笑い声がする。

289 :魔法少女 X :2013/12/08(日) 18:15


290 :たすけ :2013/12/08(日) 18:19
>>258
ありがとうございます。武道館よかった!本当に、ベリヲタでよかったですよね!
この話も無事終了。お付き合いありがとうございました。

これにて魔法少女X終了。
皆様お付き合い、ありがとうございました。
291 :たすけ :2013/12/08(日) 18:26

そういえば容量容量と申しておりましたが、草板も256KBまで拡張してくださっていたんですよね。
まだまだゆったりできそうです。本編終了後そのレスをみつけるという間抜けなことでございまして。

とはいえ、方針は変わらず出来れば有効利用、書けたら書く、無理ならそこで完結ということで。
お気づきの点などあれば、お知らせください。

ということで、ここまで読んでくださってありがとうございました。
292 :名無飼育さん :2013/12/09(月) 09:22
アニメ化希望!
したくなりました
面白かったですありがとうございました
293 :名無飼育さん :2013/12/09(月) 20:59
今作も夢中になって文章を追いかけていました。
物語に惹き込まれます!
作者さまのタイトルのセンスもすごく好きで…
また何か読ませて頂けたら嬉しいです。
294 :名無し飼育。 :2013/12/10(火) 23:32
面白かった〜
毎日毎日更新をワクワクしながら待っていました。
終わってしまったのは寂しいですが、何度でも読み返したいと思います。
まずは、完結おめでとうございます。
楽しい作品をありがとうございました。
295 :名無飼育さん :2013/12/15(日) 17:44
296 :    :2013/12/24(火) 21:37






297 : :2013/12/24(火) 21:40
東京に星はないが、年に一度、この季節にだけ東京の、この街の地上に星が満ちる。
冬のイルミネーションはきっと今日、この日のためにある。

今年のクリスマスイブは晴れて寒い。

少し前まで雅と一緒にいた。
イベントで、みなでサンタになって、ファンの人たちとお祝いすることができた。
楽しかった。
終わってから仕事で別れ別れになったけれど、わいわいと騒ぐ楽屋の気配がまだ、桃子の周りに残っている。
ケーキもおいしかった。

窓の外ではイルミネーションが光って見える。
並木が星をまとったようだ。

番組の収録も済み、今日の桃子の仕事もやっと終了。
肘をつき、車窓から外を眺める。
袖口が顔に近づくと、いい香りがする。

思わず笑みがこぼれ、桃子の意識が今日のお昼前までとぶ。

298 :名無飼育さん :2013/12/24(火) 21:40



星が降る夜


299 :星が降る夜 :2013/12/24(火) 21:41
「はよ。桃、早いね」
「おーおはよ」

桃子が楽屋へと入って文庫本を広げたあたりで、雅が入ってきた。
手に持ったままのスタバの紙コップを振って、桃子と距離をとって座る。

「あ、スタバ寄ったんだ」
「そう。飲む?」
「飲む。ちょうだい」

バッグからiPhoneと雑誌を取りだした雅が、机の上を滑らせるようにしてコップを寄越した。前の席でも斜めでもなく、横に椅子二つ分の距離。
もう少し、いや、椅子もう一つ分でいいから、近くに来ればいいのに。


両手で受取り、桃子でも飲めるクリームの味のする甘いコーヒーに口をつけながら視線を送るが、雅には届かないらしい。
涼しい顔でページをめくり、何か気になるのか自分の髪色をチェックしている。
綺麗にネイルをした細い指と、真剣な眼差し。
そんなに格好のいいことをしている訳でないのに、ライブ中とよく似た目をしている。
300 :星が降る夜 :2013/12/24(火) 21:42
部屋に二人きりだというのに、最近付き合い始めた恋人を放って、ヘアチェック。
バカだと思いながらも、つい横目で見とれてしまった。
勿論、バカは桃子と雅の両方だ。

「ありがと」
「んー」

気のない返事で視線もよこさずコップを受け取る雅が小憎らしい。
不満にとがる唇を隠しもせず、桃子は先ほどまで読んでいた小説に目を戻した。
本当はもう少し、雅を見ていたかった。
ちらりと視線をやると、雅はやはりこちらを一瞥もせずに戻ってきたコーヒーを飲んでいる。
その場所が桃子と同じだったことに気がつき、思わず唇を押さえた。

回し飲みなんて何度も、数え切れないほどしている。
意識なんてするほうが難しいのに、何が原因でスイッチが入るのかわからないが、最近、よくこんなことがある。
グロスで綺麗に光る唇がカップに触れ、そして離れる。
あの唇の温度を、感触をしっている。

きっと顔が赤くなっている。
熱くなった頬を隠すべく、カバーをかけたおかげで少し大きくなった文庫本の影に顔を埋めてさりげなく雅と反対の方向を向いた。
301 :星が降る夜 :2013/12/24(火) 21:43
「あのさ、桃」

やっと気付いたのか、それとも動きのせいか。
この赤い顔で雅がかけた声に振り向く訳にもいかず、先程の雅を真似て、
顔をあげずに「なに?」と気のない返事をかえす。
こんなつれない恋人を一人で意識していたなんて桃子のプライドにかけて、バラすわけにはいかない。

「今日さー」

今日、なんだというのだろう。
雅の声に、思わず桃子が顔をあげかけた時だった。

「おはよー。お、なに?早いじゃんふたりとも」
「おはよ。ほんとだ。みやも桃もいつ来たの?」

茉麻と友理奈の登場で、桃子と雅の動きが止まる。

「おはよ。大学寄ってきたから」
「そっか。今日、がんばろうね」

茉麻が雅の横に席をとり、友理奈が桃子の横へ座ったところで、二人の不自然な隙間は埋まった。
ちらりと雅を見ると、肘をついて何故かこちらを憮然とした顔で一瞥すると、iPhoneをいじり始めた。
302 :星が降る夜 :2013/12/24(火) 21:43
「桃、どうしたの?顔、赤くない?風邪ひいた?」
「ん?そう?大丈夫だけど。暖房効き過ぎかな」
「ならいいけど」

覗き込んでくる友理奈の真剣な表情が、心配に曇る。
素直で優しい友理奈におもわずほろりときて、無意味に頭を撫でてしまった。

「ちょっと、なにー?どうしたの桃」
「くまいちょー、くまいちょーはそのままでいてね」

髪が乱れると言いながらも嬉しそうな友理奈とじゃれていると、「おっはよー」とテンションの高い千奈美と、
「おはよ」と対照的に落ち着いた佐紀、「はよ。あ、みや」と何か紙袋を下げて嬉しそうな梨沙子が揃い、いつもの楽屋が出来上がる。

雅が言いかけた事は気になるが、まぁ平常運転だ。

千奈美は友理奈の反対側、桃子の横へと陣取ると、ざらざらとビニール袋からお菓子を机に広げる。
303 :星が降る夜 :2013/12/24(火) 21:44
「どうしたのそれ」
「これ?買ってきた」
「見たらわかるし。あ、かわいい。サンタのチョコ?」
「ほんとだ!千奈美、これどうしたの?」
「今日クリスマスだからさぁ」

適当に爪で網の目を破り、サンタチョコを放出しながら千奈美が語るところによると、来る途中、寒かったから店に入った。
すぐそこにあった小さな網に入ったサンタのチョコが可愛くて、千奈美は購入を即決。
1つにしようと思ったが、お腹がすいていたので5つ買った。安くなっていたので仕方ない。ということらしい。

「食べていいよ」

メンバー皆の「かわいい」の賛辞の中、小山になったサンタを自らも一つ摘みながら千奈美が胸を張るので、読んでいた本を伏せて桃子も有り難くご相伴に預かる。
小さなパーティーが始まり、用意してあった紙コップに茉麻が飲み物を注ぎ始め、友理奈がそれを配る。

304 :星が降る夜 :2013/12/24(火) 21:45
チョコの小山をふたつに分けて、千奈美がずいとすすめたので、少し離れた雅や梨沙子にも手が届くようだ。
銀紙を剥きながら見えた二人は、よく行くショップのピアスの話で盛り上がっている。
梨沙子が持っていた袋は、雅へのちょっとしたクリスマスプレゼントのようだ。

「前行った時さぁ、これ欲しいって言ってなかった?昨日再入荷したって聞いたから買ってきたの。まだみや、買ってないと思って」
「ありがと梨沙子!マジで?うわかわいー。これ、欲しかったんだー」

漏れ聞こえた会話は、少し耳に痛い。
クリスマスプレゼントは用意した。
雅の好みを全く知らない訳ではないが、一生懸命選んだ。
心配ではあるが、優しい雅のことだ。きっと喜んでくれるだろう。
けれど、桃子は雅とまだ買物に出かけたことはないし、あんな風に雅が欲しいものをさりげなくプレゼントすることも出来そうにない。
305 :星が降る夜 :2013/12/24(火) 21:46
雅はモテる。とにかく好かれる。
あの美しい容姿に加え、親しみやすく、面倒見がよく、誰より優しい、魅力的な性格。
モテない訳がない。

慣れ親しんだはずの感情が胸を刺す。
好きという気持ちはやっかいだ。
好きな人が手の中にあるなら、尚更だ。
特別な関係になった今、繰り返したはずの小さな嫉妬すら毎回胸にひびく。

暗いことを考えていたせいか、小さなため息が落ちた。

「なに?どうかしたの?」
「んーん。なんでもない。それより千奈美、これさぁ、買いすぎじゃない?サンタさん何人いるのよ」
「え?わかんない。数えてみよっか」


気が付いて、その上できっと誤魔化されてくれたのか。
千奈美が俯いてサンタを数え始めたのを見て、内心感謝する。

新しいサンタをつまみ上げ、銀紙を剥いたら千奈美の手が桃子の手首に伸びてきた。

「ちょっと!一回数えるんだからそれ、食べないでよ」
「なんでよ。もうみんな食べちゃってんだから一緒じゃん。食べた分は剥いた銀紙数えればいいでしょ」
「そうだけどさぁ。人に振っといて何自分一人だけ食べようとしてんの」
306 :星が降る夜 :2013/12/24(火) 21:48
不満げに腕を引かれ、手が滑った。

「あ!」

真横にあった紙コップは倒れ、中のオレンジジュースは机の上にひろがり、置いたままだった桃子の文庫本の下にまで水溜まりをつくる。

「あー!ちょっと」

素早く拾い上げたものの、間に合わず。
横の友理奈があたふたと手を動かし、茉麻がティッシュボックスを滑らせてくる。

「嘘でしょ。ちょっと、これ買ったばっか!千奈美のアホー!」

机の惨状は素早く片づいたが、桃子の本はそんなに簡単にリカバリーできない。
カバーのおかげで中味は無事だったようだが、カバー自体は無惨なものとなった。
大きな染みのついたそれをつまみ上げ、桃子は机に突っ伏す。

「ごめん。だけどさぁ、桃も悪いんじゃん」
「あーもう、どうでもいいからさぁ、桃、早くそれ洗っちゃいなよ」
307 :星が降る夜 :2013/12/24(火) 21:48
見かねた茉麻が助け船をだし、桃子がカバーを手に流しへと向かうと、何故か千奈美も後からついてきた。
別にいいと言ったのだが、「まぁいいじゃん」と言いながら染みを流し始めた桃子の手からカバーを取り上げると、
備え付けのソープを使って綺麗に洗ってくれた。
ぎゅっと絞ると、楽屋の暖房の近くへとそれを広げて干し、一件落着。

「ありがと」
「いーえ」

持っていたハンカチを差し出すと、千奈美がそれで手を拭う。
次いで桃子が手を拭き、席へと戻りチョコを食べようとすると、横にいた友理奈が桃子の指をそっとさす。

「あのさ、桃。それ、痛くない?」
「へ?」
「さかむけできてるよ」
「ほんとだ。気付かなかった」

痛みが全くなかった為指摘されるまで気付かなかったが、たしかに人差し指に小さな逆むけがある。
「荒れてんのかな」としげしげと眺めていると、「ん」と横から小さなチューブが出てきた。
308 :星が降る夜 :2013/12/24(火) 21:50
「あれ?どしたの、これ」
「熊井ちゃんがくれたハンドクリーム。痛くないなら塗っとけば?」
「あ、ありがとう」

千奈美自身も丁度ハンドクリームを塗っていたらしい。
有り難くお裾分けを貰うと、友理奈も嬉しそうに「これね、薔薇の匂いなんだ。いいにおいするから、千奈美にもあげたの」と桃子の手元を覗き込む。

「ほんとだ。ありがと、くまいちょー」
「ちょっと!あげたのあたしでしょー」
「千奈美もね」
「うわ軽。まぁいいけど」

手を鼻へと寄せると、確かにふんわりと薔薇のいいにおいがする。

「おそろいだね、ちーちゃん」
「何がよ」
「ももちと千奈美。一緒の匂い」

まだクリームの残る手で桃子が千奈美の手を握ると、千奈美の顔が引きつる。
309 :星が降る夜 :2013/12/24(火) 21:51
ぎゃあぎゃあと騒いでいると、友理奈が困ったように微笑みながら、椅子から立ち上がる。


「ほら皆着替えてるよ。そろそろあたしたちも行こ」

友理奈の指す方向ではもうサンタになった佐紀と梨沙子が鮭とばの袋をあけている。

「あ、キャプテンそれ欲しい」

いち早く気付いた千奈美が佐紀に声をかけ、「着替えてからね」とたしなめられた。
雅も茉麻もメイクを済ませている。いつもより支度が早いのは、サンタの衣装が気に入ったからだろう。
着替えに立つ途中、なんとなく雅からの視線を感じたが多分気のせいだろう。

閉じるドアの向こうの雅は、相変わらず楽しそうに佐紀と写真を撮り、鮭とばをつまんでいた。
310 :星が降る夜 :2013/12/24(火) 21:51



***   ***   ***


311 :星が降る夜 :2013/12/24(火) 21:52
イベントが終わった。
ケーキの差し入れもあり、テンションも高いまま楽屋へ戻る。
次の仕事もあるが、一段落。ケーキを食べ終え、席を立った所で雅がふと桃子の手を取った。

「みや?」

楽屋は着替えたメンバーがまだケーキなどをつまみながらのんびりと寛ぎ、雅と桃子を見ている者はいないようだ。
まだイベントの緊張と興奮の名残か顔を紅潮させたままの雅が、目でドアを示す。
私服に着替えた雅はコートまで羽織り、今すぐにでも次の仕事へ行けそうだ。
一緒の仕事のはずの佐紀と梨沙子 はまだのんびりしているので、少し驚いた。

「ちょっと」

手を引かれるまま、廊下に出る。

「何か用?」
「何…って、桃、この後仕事だよね」
「そうだけど。みやもだよね」
「うん」
312 :星が降る夜 :2013/12/24(火) 21:53
キョロキョロと周囲を窺っているが、何を探しているのだろうか。
廊下ではまだスタッフが忙しく動いている。
雅の意図が掴めず、首をひねっていると、先ほど着替えに使った部屋に引っ張りこまれた。
部屋は狭く、入ったすぐそこに机や椅子が並び、少し前まで使っていた衣装が衣装掛けに掛かっている。
入ってすぐ何かを警戒するように雅はドアの鍵をかけた。

「どうしたの」
「別に」

返事とは裏腹な態度で雅は掴んだままだった桃子の手を自分の鼻先へ持ち上げる。

「なーに?」
「千奈美と楽しそうだったじゃん」

楽屋に捌けてからはケーキにがっついていた記憶しかない。
思い当たる事がなく、首を捻る桃子の手に雅の鼻が触れた。

「まだちょっと匂いする」
「あ、あぁ、あれのこと?そうだね。いい匂い」

雅から取り返した手は、瞬く間に雅にまた拉致される。
313 :星が降る夜 :2013/12/24(火) 21:55
「ふぅん。……桃はさ、ローズ系の匂いが好きな訳?」
「そういう訳じゃないけど」

好みの調査でもされているのだろうか。
そのわりにはしっかりと両手を取られている。
抜き取るのもなんとなく憚られ、眉をさげて桃子は雅の意図を探る。

「じゃあ千奈美と同じ匂いなのが嬉しい訳?」
「え?……ふぅん」

頬が弛むのをおさえきれない。
雅はそんな気持ちを持たないと思っていた。
ましてや相手は千奈美だ。少し考えれば、桃子と千奈美にそんな気持ちや色気があるはずがないとわかるのに。

「なーにー?やだ、嫉妬?カワイイんだから、雅ちゃん!」

大人の余裕で、「そんな事ないよ、みや」なんて優しく抱きしめてみればいいとは思うが、10年積み重ねた日々は伊達ではない。
嫌がるのをわかっていながら、つい嬉しくて、照れ臭くていつもの反応をしてしまった。

「はぁ?そんなんじゃないし」
314 :星が降る夜 :2013/12/24(火) 21:56
よくないパターンのツーカー、阿吽の呼吸。
雅は顔をしかめて桃子の手を離そうとするので、今度は桃子から雅の両手を握る。

「まぁまぁ」

予想外だ。堪えきれず、ついに声に出して笑ってしまう。

「ごめん。みやがそんな事言うの意外で」

むくれてそっぽを向いた雅が可愛く思えて、やっと素直な言葉をかけることができた。

「薔薇の匂い、いい匂いだと思うけど。ただそれだけだって」
「あー、もう!そうだけど、ちょっと違くて」
「ん?」

今度こそ本当に分からず、首をひねったら体を引き寄せられた。
思わず解放した雅の両手が桃子の腰と背に回る。
体が密着し、鎖骨のあたりに雅の額があたり、そこを支点に体をごりごりと擦り付けられる。

「あのさ、みや、痛いんだけど」
「そう?」
315 :星が降る夜 :2013/12/24(火) 21:57
桃子の苦情を涼しい顔で受け流し、体を離した雅は桃子の服に鼻を近づけてふんふんと匂いを嗅ぐ。
次いで首筋あたりに鼻を近付け、「ま、無理か」と一人頷く。

「ちょっと、ねえ、みや、何してんの?」
「うるさい。ちょっと黙ってて」

臭いということだろうか。
いや、それなら雅はストレートに言うはずだ。
困惑する桃子を放って、そのまま雅は自分のポケットをごそごそと探り、反対の手が桃子の右腕をとる。

「うーん。まあ、いっか」

予告も遠慮もなく桃子のセーターの袖が捲られ、雅が手の中の小さなボトルらしきものから液体を一吹き吹き掛ける。

「ちょっと!」
「今日それつけて行きなよ」
「いや、行きなよって」

広がる香りは慣れ親しんだ雅の香りだ。
やけに丁寧に、香水のついた箇所をしまい込むように雅は桃子のセーターの袖を元へ戻し、匂いを嗅いで「うん」と満足げに笑う。
316 :星が降る夜 :2013/12/24(火) 22:01
「くさい……」
「はあ?ちょっと、何それ。みやが臭いっていうの?いい匂いでしょ」
「いい匂いだけど香水臭い」
「トップはすぐとぶって。お子様な桃には早いだろうけど慣れて。……これからずっと一緒にいるんだし」

逸れていた視線が上がり、上目使いの雅と目があう。瞬間で体温が上がる。
反射で雅を抱きしめて、肩に顎を預けてため息をついた。
どこでこんなことを覚えてくるのだろう。
生まれてから半分ぐらい、ずっと一緒にいたはずだ。
残りの半分でこんなことを覚えてきたのだったら、桃子はもうお手上げだ。
何かやり返したくなって、桃子も雅の体にごしごしと自分の体をすりつける。

「ちょっと、痛い!」
「私のにおい、みやにもつかないかなと思って」
「つかんわ!だって桃、何もつけてないでしょ?つくわけないじゃん」
「うん。でもさ、みやにも私の匂い、つけばいいって思ったんだもん。みやいつもモテすぎ。佐紀ちゃんとかりーちゃんとか後輩とか。ももちだって焼きもちぐらいやくんだからね」
「焼きももちじゃなくて?」
「みや!」
317 :星が降る夜 :2013/12/24(火) 22:02
混ぜっ返されてふくれると、桃子を抱えたまま雅がはじけるように笑い出す。

「言って欲しいの?桃が一番だとかって」
「そういうわけじゃ」
「ふーん。じゃ、いいんだ」

雅が笑うと、桃子の体にダイレクトに振動が響く。

「みやのいじわる」
「うん。桃が言うなら、言ってあげてもいいよ」

雅の大きな目が楽しげにきらりと光る。
「無理だろう」と言外に告げられ、桃子に悪戯心がわく。

「みやが一番、だよ」

なるべく真剣な声と、顔で。
それらしい表情を作ろうと思ったのに、さらに想いが溢れて本気になってしまった。
雅の目が泣きそうに潤むので、涙を止めたくて頬に右手を寄せた。
先ほど吹きかけられた雅の香水が強く香る。
顔を近づけると、雅がわずかに顎を引いた。

避けられませんように。

請うように顔を傾け、ゆっくりと唇を寄せた。
雅の睫が伏せられたのを確認し、桃子も瞼を閉じる。
そっと口づけた雅の唇からは、生クリームとベリーの甘い味がした。
318 :星が降る夜 :2013/12/24(火) 22:03
「お返し、言ってくれないの?」

照れ隠しにニヤリと笑うと、雅が桃子の胸元をかるくたたく。

「ばか」

髪から覗く耳が赤くなっているのをみて、桃子の胸に温かいものが満ちる。
そっと頬に唇を寄せると、雅がしがみついてくる。
密着しているとよくわかる、香水の、雅の匂い。
少し気になって自分の袖口の匂いを嗅ぐと、雅にその腕を取られた。

「まだ不満な訳?」
「不満じゃないけど。でもさぁ、みや。今から確かに仕事で別になるけどさぁ、楽屋に一回帰るんでしょ?
桃からみやの匂いしたらおかしくない?」

「あ」

思い当たった事実につい口調が情けなくなるが、雅もそのあたりの事は考えていなかったようで、あからさまに雅の動きが止まる。
319 :星が降る夜 :2013/12/24(火) 22:04
「まぁそこはさ、桃、プロでしょ。なんとかして。お姉さんなんだし。みや、そろそろでるから」

さすがのベリーズの番長。すべての雑事を臆面もなく年上の桃子へ丸投げして、上機嫌に片手をあげて「じゃーね!」とドアへ手をかける。

「はいはい」

もう少し恨み言も言いたかったが、状況が変わるでもなし、これで雅と一緒に帰るとまた面倒なことも起こるし、で諦めて桃子も手を振る。
ドアが完全に閉まったのを確認してから、もう一度だけ袖をまくり上げ、匂いを確かめた。

みやが隣にいるみたいだ。


その後、なるべく静かに楽屋へと戻り、なるべく不自然でないようにコートを着込み、次の仕事だと言って出てきたが、大変だった。
平静を装いながら、何か話しかけられると心臓が飛び出そうになる。

クリスマスで、皆が浮かれていてよかった。
幸運なことに、三人は桃子が戻るより先に出ていた。
雅には、明日にでも文句を言いたいと思う。
320 :星が降る夜 :2013/12/24(火) 22:05




***   ***   ***



321 :星が降る夜 :2013/12/24(火) 22:05
呼び出し音が聞こえ、桃子のiPhoneが震える。
気づけばもう車は会社の近くまで来ていた。

ディスプレイの表示は雅。珍しいこともあるものだ。

「はいはーい。みんなのアイドル、今日もかわいい、聖夜の天使、クリスマスバージョン!ももちだよー」
「何そのテンション。切るよ」
「ちょっと!つーめーたーい!」
「桃、仕事は?いまどこにいるの?」
「マネージャーさんの車の中。仕事は終わった」
「そっか」
「みやは仕事終わったの?」
「うん。ちょっと前皆と別れた。三人で帰りにちょっとだけイルミネーション見たんだ。桃はみた?綺麗だったよー!」
「車からちょっとだけ。私も見たかったよ」
「うん。そっか。みんなで―んーん、桃と見れたらいいな、って思った。また。また、いつか、さ」
「来年もあるしね。来年、見れたらいいよね。で、なんか用だった?」
「うーん。まぁ、そうだけど。いいわ。後でまた」
322 :星が降る夜 :2013/12/24(火) 22:06
「そうなの?あ、もう着きます?駅着くみたい。じゃ、一回切るね」
「おー。メリークリスマス。じゃーね」


通話が切れ、桃子を降ろすために一度車が止まる。
送ってくれた礼と、明日の確認の短いやりとりをしてからiPhoneをしまおうとすると、雅からのメールの表示がある。

『言い忘れた。桃が一番好き。浮気すんなよ。』

メール画面を開いて、思わず笑ってしまい、首をすくめる。
周囲からの目が痛い。習慣とはいえマスクをしていてよかった。
通話の用件はこれだったのだろうか。

わざわざ今日中に約束を果たしてくれた雅が嬉しく、可笑しくて、にやける頬を自覚しながらとりあえずメールを保護する。

家に着いたら、一番に電話しよう。



その頃にはきっと日付もかわって、クリスマスがやってきている。
323 :星が降る夜 :2013/12/24(火) 22:06



おわり


324 :たすけ :2013/12/24(火) 22:12

Q. よくこぼしますね
A. えぇ 

>>292
ありがとうございます!これ、どうかなーと思っていたので、すごく嬉しいお言葉でした。

>>293
センスは非常に自信がなくて。ありがとうございました。強く生きていきます。

>>294
嬉しいです!アンリアルってどうかな、と思ってたので、本当に嬉しいです。ありがとうございます。

>>295
読んで下さってありがとうございます。もしも何かあれば、またぜひ。
325 :名無飼育さん :2013/12/24(火) 23:51
みやももだけでなく、愉快なBerryz工房も楽しめて、もう幸せです。
326 :たすけ :2013/12/25(水) 01:09
ひとところ、会話が抜け落ちているのを発見。
失礼しました。
>>308>>309の間に、

「うわちょっと気持ち悪い!貸すんじゃなかった!拭いて!いや、あたしが拭く!」
「照れないで!っていうか、コラ!勿体ないでしょ!」

を足してください。これで意味がとおるかと。
以後気をつけます。

>>325
いち早くありがとうございます!コメント嬉しく頂戴しました。
イブも終わりましたね。いい一日をお過ごしください。

327 :名無し飼育。 :2013/12/26(木) 00:04
イブにサンタさんからステキなお話しがプレゼントされてたーーーー!
クリスマスケーキより甘いお話しを存分に堪能しました。
328 :名無飼育さん :2013/12/31(火) 09:25
329 :たすけ :2014/05/11(日) 18:08
>>325
すっかり冬も終わってしまい、もはや春、いや初夏にもかかろうかという勢い。
コメントのお返しが遅くなってしまい、申し訳ありません。
おつきあいありがとうございます。
>>328
ノシ

スレの最後がみやももではないということになってしまいましたが、おまけということで。
りしゃもも。
330 :overflow :2014/05/11(日) 18:12
小さい頃は、ただのお姉ちゃんだったのに。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
何度も自問自答を繰り返した疑問。
どうせなら、雅を好きになればよかった。
そうだ。正直にいうなら、雅の方が好きだ。
単純な好きの量でいうなら、きっと、ずっと。

頼りになるし、優しいし、面白いし、おしゃれだし、かわいいし、綺麗だし。
近くにいるなら、雅がいい。

なのに―

梨沙子は小さくため息をつく。
さわりたいと思うのは、ここにいる、これだ。
のんきな顔をして眠っている、こいつだ。

居るだけでなんだかざわざわして、触られると、心臓が跳ねる。
嫌いだから触られたくないのかと思ったこともあるが、そうではないと、最近気付いた。
振り払った手を後になってから、寂しそうにさすっている横顔を見て、胸が痛んだ。

「嫌いじゃないから!」と言って、抱きしめて、頭を撫でて、それから―

伸ばしかけた手を止め、衝動を押し込めた自分を褒めたくなる。
331 :overflow :2014/05/11(日) 18:14
知らなかった感情に戸惑う。
そこからは雪だるま式。
気が付けば目で追っている。

わかっていたから、避けていたのだ。
なのに。

楽屋の扉を梨沙子が空けたとき、見慣れた背中が机につっぷしていた。
「あ」
掛けようとした声を、途中で止める。

肩が静かに上下している。
出来るだけ音を立てないように扉を閉めて、梨沙子は室内へと入った。

珍しいこともあるものだ。
室内には誰もいない。
部屋の真ん中にあるバッグは、雅と佐紀、千奈美のもの。
三人はまだ仕事中だ。

いつもならば、先に仕事を終わった桃子は次の仕事場へ行くか、帰っているはず。
千奈美と桃子が今日この後はオフだと喋っていたのを、梨沙子は聞いていた。

そっと肩の後ろから覗き込めば、気持ちよさそうに眠り込んでいる横顔。
うたたねのつもりだったのだろうか。
普段なら、タオルや上着を被って寝ているのに今日はやけに無防備だ。
手にしていたペットボトルとタオルを置き、梨沙子は桃子を観察する。
相変わらずの血の気の失せた桃子の白い頬がふにふにと動く。

食べている夢でも見ているのだろうか。

可笑しくなって、梨沙子は指を伸ばして桃子の頬をそっとつついた。
332 :overflow :2014/05/11(日) 18:17
「ん」
小さく唸って、桃子が首を振る。
髪が揺れて、肩から滑り落ちた。

―桃さぁ、美容院に行くの面倒だってももち結びで適当に髪切ってるんだって。信じらんないよねぇ


いつか聞いた、ぼやく雅の声が耳に蘇る。
まだスプレーで固めた束が残る、桃子の髪。
適当にとかしたのだろう。からまって毛先は好き勝手に跳ねている。
指先でそれに触れ、気になったところをほぐして戻してやる。

「自分で可愛いとか言ってんだからさ、もうちょっと気をつかいなよ」

憎まれ口にいつもよりも力がないのは、梨沙子自身がよくわかっている。

「桃、起きてる?」

返事はない。寝息だけが聞こえる。
気が付かなければよかった。

気持ちはいつも揺れ動く。
気が付くまでに心の中にたまっていた「好き」は、自覚してから梨沙子の隙をついていつもあふれ出そうとする。

少しずつ、少しずつ。

桃子のやさしさに触れたとき。桃子が、楽屋で泣いていたとき。

笑っていたとき。意地汚く、お菓子を抱え込んだとき。
333 :overflow :2014/05/11(日) 18:19
最後のは自分でも好意の目減りを感じたが、他の子には断固として分け前を渋っていた桃子が、
梨沙子のおねだりに苦い顔で応じてくれたので結果的にはプラス。
自分でもバカだとは思うが、特別扱いを受けて気分はよくなった。


桃、あたしには甘いもんね。



だから期待する。
期待して、拒否が恐くなって。
もう今となれば、どうすればいいのかわからない。
そっと、もう一度、桃子の頬に触れる。



眠っていれば、桃子は梨沙子を拒まない。
眠っていれば拒まれない。

ブレーキなど効くはずがない。
こんなに複雑で多くの想いなのに、言葉にすればたった4文字だ。

胸から想いがあふれる。
静かにこぼれ、ひろがる。




「すきだよ」
334 :overflow :2014/05/11(日) 18:22
ため息をひとつつき、梨沙子は踵を返す。


すでに夜だ。バカなことをしていないで、さっさと帰ろう。
雅のバッグの隣に置いてあった自分のバッグを取り上げ、楽屋から出る。
廊下に出たところで喉の渇きに気付き、持っていたはずのペットボトルを探るが見あたらない。

「あ」

そういえば、桃子の横に置いたような気がする。
起こしてしまうことになるかもしれないが、仕方ない。
慌てたそのままの勢いで先ほど出たばかりの扉を開けると、こちらをがばりと振り返った桃子と目があった。
驚いて、声をかけようとして、瞬間、すぐに梨沙子の脳裏に閃くものがある。
桃子の頬は真っ赤だ。

合わせたままの目からは、桃子の著しい動揺が伝わる。

うそだ。

本能ではもう何が起きたのか、察している。
理性が逃避する。そんなこと、ある訳がない。どうか、どうか。


「桃、さっき」
「え?」

335 :overflow :2014/05/11(日) 18:25
梨沙子の問いに答える桃子の表情から急速に色が抜けていく。
目に見えていた動揺が押し殺され、ベールのように降りてきた平静が桃子を覆う。

間違いない。確信に、ショックが遅れてやってくる。
頭から血が下がる。足先からおなか、背中、すぐに冷たくなっていく。

―まさか、起きてた?

「聞こえて」
「なんのこと?」
「聞こえてたんだ」

他人から見れば、取り繕った表情だなんてわからないかもしれないが、ずっと桃子と一緒にやってきた梨沙子だ。
桃子の白々しい顔など見慣れている。

手遅れだ。
聞かれてた。バレた。
よりにもよって、一番知られたくない桃にバレた。きっと引かれた。
もう会えない。恥ずかしすぎる。嫌われる。面倒とか思われる。一緒のメンバーなのに!


気が付いたら梨沙子は走り出していた。
胸が潰れそうに痛い。


桃はきっと、聞かなかったことにしてくれる。


梨沙子の脳裏にちらりと保身の思考が浮かぶ。
きっと、なかったことにしてくれる。
現に、「なんのこと?」って言ってた。

でも―
336 :overflow :2014/05/11(日) 18:26
梨沙子の目の端に涙が浮かぶ。
逃げてしまった。
これでは、何もなかったことには出来ない。

いや、賢い桃子のことだ。
逃げ場に困り、階の一番上まで来ていた梨沙子は、ついに立ち止まる。
このまま今日は距離を置けば、明日にはきっと知らんぷりをしてくれる。

それもいやだ、と梨沙子の心の隅が悲鳴をあげる。
屋上へと続くドアノブに手をかけ、梨沙子は扉に額をつける。
しかし、仕方がないのだ。

あんなにしっかりと寝ていたのに。
まさか起きているとは思わなかった。
数分前に戻りたい。後悔ばかりが募り、梨沙子の目から涙がこぼれる。

桃子がすきだ。
けれど、別にどうこうしたいとか、付き合いたいとか、そんなビジョンがあった訳ではない。
ただ、心から気持ちが溢れてしまっただけだ。

梨沙子が体重をかけた扉はあっけなく開いた。
どうやら鍵は掛かっていなかったらしい。
梨沙子は屋上へと足を踏み出す。
高いところは苦手だが、今の気分にはここはぴったりだ。
寒くて、何より頭が冷える。

もう嫌だ。

「あー!もう!桃のバカ!!」
337 :たすけ :2014/05/11(日) 18:27
△▼△
338 :たすけ :2014/05/11(日) 18:27
△▼△
339 :たすけ :2014/05/11(日) 18:27
△▼△
340 :たすけ :2014/05/11(日) 19:32
お伝えし忘れてました。続きます。更新はまた明日に。
341 :overflow :2014/05/12(月) 20:44
叫ぶと、少し気分がマシになった。
最悪は最悪の気分だが、最低というほどではない。
落ち着いてふと気付けば、持っていたはずのバッグがない。
きっと楽屋前に落としてきたのだろう。

バッグさえきちんと持ってきてさえいれば、そのまま帰ることも出来たのに。
ペットボトルなんて忘れて帰っていればよかった。
春だとはいえ、夜はまだ肌寒い。
まして屋上は風も強く、冷える。
よく晴れた夜空の下光るネオンも、今の梨沙子の目には美しく映る訳もない。
後ろ向きな思考のまま、埒もなく先ほどのことを反省しながら梨沙子はしゃがみこむ。
言わなければよかった。
つい口をついて出てしまったのだから仕方ないのだが、それでも言わなければよかった。

バッグがなければ帰れない。
しかし、楽屋に戻れば桃子とはちあわせだ。
iPhoneもバッグの中で、雅や佐紀の助けも望めない。
これは暫く、時間を潰すしかない。
結論にがっくりと頭を落とす梨沙子の背後で、扉がきぃと音を立てて開いた。
342 :overflow :2014/05/12(月) 20:45
「あの、どうもー。バカな桃です……」
「はぁ!?」

認識より先に、反射で声が出た。信じられない。
いるはずのない、いや、いてはいけない、聞こえるいはずのない人の声。
勢いよく振り向けば、小さな体をさらに縮めるようにして梨沙子の方へと歩いてくる桃子がいる。


「なんでいるの!?」

もう会えないとまで思ったのに。
心底から出た疑問は、完全な詰問になった。
怒られた桃子はひどく申し訳なさそうに眉を下げていたが、梨沙子の険しい顔に、肩をびくっと震わせる。

「なんでってそりゃ、追いかけるでしょ普通」

情けない返事に、驚きでフリーズしていた脳がやっと思考を始める。

普通、追いかける!?ウソでしょ!?


寝ている間に仕事仲間から、梨沙子から告白されたのだ。
普通、聞かなかったことにしてくれるものなのではないだろうか。
そっと寝ていてくれれば、そっとしておいてくれればそれで済んだ。

「普通追いかけないでしょ!なんでわざわざ来る訳!?」

しかも、第一声がひどい。
デリカシーがないにもほどがある。
343 :overflow :2014/05/12(月) 20:47
「だって追いかけないわけにはいかないよ」

声を荒げた梨沙子にさらに遠慮するように、桃子がぼそぼそと反論する。

「どうしてよ!そっとしといてくれたら良かったんじゃん。桃だってそうするつもりだったんでしょ?そしたらさ」
「そうだよ。でも、できなかった」
「なんでよ」

もう全部終わりだというのに、なぜこんな言い争いまでしなければならないのだろう。
桃子が悪いわけではないのに、桃子を責めている自分にも腹がたつ。
泣きたくなって、梨沙子はうつむいた。

「ごめん。悪いの、桃じゃない。あたし。聞こえてたんでしょ?もうさ、いいから放っておいて。そしたら明日から元通りだから」
「ならない。元通りになんて、なんないよ。放ってなんておけない」

断固とした桃子の声に、顔をあげてついに梨沙子は桃子を怒鳴りつけた。

「だから、なんで!」
344 :overflow :2014/05/12(月) 20:49
「だって私、好きだもん」

平素と変わらぬ、静かな声と真剣な表情。
放たれた答えに梨沙子の時が止まった。

風が吹いて、梨沙子と桃子の髪が煽られる。
桃子がめくれそうになった自分のワンピースの裾を押さえた。

「聞こえた?」

握りしめた裾はそのままに、きゅっと唇をかみしめて、桃子が梨沙子の方へと歩いてくる。

「聞こえた、と思うけど」
「梨沙子が好き」

桃子の声が柔らかくなる。
自分の耳が信じられない。あまりにもいつも通りの桃子の顔を凝視し、梨沙子は首を振る。

「どうせ仕事仲間としてでしょ。桃、わかってない。そんな好き、いらない。あたしの好き、そういうんじゃないよ」
「それならこんな言い方しないでしょ」
「でも、同情とかでしょ」
「だから、違うって」
「じゃ、どうしてそんな普通なの!?」
「どうしてって」

桃子の声が情けなくなる。
345 :overflow :2014/05/12(月) 20:58
「桃、いつもあたしに甘いもん。あたしが好きだって言ったから、あわせてくれてるんでしょ。ほんと、同情とかいらないから」
「そりゃそうだって。甘いの、当たり前でしょ。だって、前から好きだったもん。しょうがないよ」

桃子の手が伸びてくる。
とっさにいつものように逃げようとした梨沙子だが、桃子の瞳が揺れたのをみて、その場にとどまった。
桃子が眉をハの字にして困ったように笑う。

「梨沙子が好きだった。ずっと。いつか他の男の人とか、誰かを好きになると思ってたけど、どうしても気になって。

しかも梨沙子、私より絶対みやのが好きだし。桃が出る幕、ないと思ってた。でもそれでいいって」


桃子の額が梨沙子の肩に落ちてくる。
いつもならしっかりと抱き着いてくる距離なのに、そうはせず、肩口に頭を寄せただけ。
桃子の髪がさらりと梨沙子の胸元で滑る。
桃子が使っている、いつものシャンプーのにおいがする。

「りーちゃんが幸せなら、それでいい。桃も誰か、桃のこと好きになってくれる人と、いつか。
そんなこと思ってるのに、りーちゃん、桃のことじーっと見てくるし」
346 :overflow :2014/05/12(月) 20:59
信じられない。

けれど、もう顔を合わせられない、合わせる顔がないとまで思った桃子は梨沙子のこんなに近くにいる。

そう。
桃子は梨沙子に甘かった。
いつも、お姉ちゃんの顔で梨沙子をフォローして、助け、許してくれた。
今日もやはりそれなのだろうか。仕事を、円滑にこなすための嘘かもしれない。

けれど、桃子の言葉はこんなにも梨沙子の胸をうつ。

信じてもいいのだろうか。
桃子の顔を上げる。
寒いせいか、顔色は少し悪いが、まんまるの目が梨沙子をまっすぐに捉える。

「りーちゃんいっつも桃に当たりがキツイし、本当は嫌いなのかなってへこんだときもあったけど」
「違う!」

そこだけは誤解されたくなくて、勢いよく反論する梨沙子を制するように、桃子が大人の顔で頷く。

「うん。普通に嫌いじゃないことは知ってたけど。でも見られてると気になって。
梨沙子は嫌いな子、じっと見ることはしないだろうし、もしかしたら、私のこと、好きかなって期待することもあった。
それで諦められなくて。りーちゃん悪女だよ」
347 :overflow :2014/05/12(月) 21:02
いつもの冗談を言おうとして、失敗したように苦笑いをする桃子の顔をみて、ゆるゆると実感が胸にせりあがってくる。

信じてもいいのかもしれない。

桃子は確かに、はぐらかしたり、誤魔化すことも多いが梨沙子のことを騙すことはしなかった。
本当は最初からわかっていた。
けれど、あまりのことに信じられない思いの方が強くて、気持ちがついてこなかった。
やっと、これが現実だと信じられる。
まだ夢のような気もするが、やっと。

「諦めようって思ってたけど、今日わかった」

桃子の手が梨沙子の羽織ったジャケットを握りしめる。

「さわられて目が覚めて、夢かと思って、びっくりして。でも、違って。りーちゃんの顔みて、夢じゃなかったかもって」

桃子の目元がふわりと和む。
その端に光る滴を見て、思わず梨沙子の手が桃子の頬に伸びる。

「とっさに誤魔化してごめん。反応できなかったけど、うれしかったんだよ」

梨沙子の指で涙を拭われ、桃子が目を細めてくすぐったそうにする。
348 :overflow :2014/05/12(月) 21:08
幸せで、なんだか胸が詰まる。この気持ちはなんだろう。
梨沙子の心臓がばくなくと耳元で鳴り始める。
が熱くて、じっとしていられないような気がするのに、ずっとこうしていたいようでもある。

「りーちゃんは?さっきから桃ばっかりじゃん。もう一回言ってよ」

頬を紅潮させ、ちょっと悪い笑顔できらきらと目を輝かせる桃子から思わず目を逸らす。
見慣れているはずのこんな顔なのに、梨沙子にはいつもよりもずっと可愛く、特別に見える。

「もうい言ったでしょ」
「いいじゃん!聞きたいの!」

照れくさくて、逃げようと思ったのに桃子は梨沙子を逃がしてはくれない。

「好きだよ」

逆ギレのようになってしまった言葉なのに、あまりに嬉しそうに桃子が笑うものだから
梨沙子はかえって恥ずかしくなる。

「心がこもってなーい!ちゃんと言って」

なんだか調子にのせてしまったようだ。
桃子からぎゅっと抱き着かれてせがまれ、居心地が悪く、梨沙子は身じろぎする。

「ねぇりーちゃん」
349 :overflow :2014/05/12(月) 21:12
もういっか。

桃子の顔も近いし、面倒だし、なにより、ずっとしたかったし。
言い訳を並べて、拒まれるかもという恐怖を追いやる。
桃子がこれだけ言ってくれたのだ。

目を閉じる瞬間にみた桃子の驚きの表情に、梨沙子は口元だけでほほ笑む。
よかった、逃げられてない。

ついで訪れる、ふわりとした感触。
とても長時間キスなんてできなくて、急いで離れる。
桃子は耳まで顔を赤くし、固まっていた。

「桃?」

茫然とした目に不安を感じ、呼びかけると腕の中の桃子が勢いよく後ろを向く。

「やだった?」

嫌そうには見えなかったのに、本当は我慢してくれたのだろうか。
とたんに不安がこみ上げ、梨沙子が眉をさげて桃子の肩をつかむ。
こちらを向いてはほしいが、振り向かせた桃子の表情に否定の色が浮かんでいたらと思うと、怖くて力がこめられない。

「びっくりしただけ」

蚊の鳴くような声で返事が返ってきて、梨沙子が脱力してへたりこむ。

「ちょ、梨沙子?」
「やめてよ。やだったのかと思ったじゃん」
350 :overflow :2014/05/12(月) 21:15
安心のあまりいつもの憎まれ口がつい出た。
非難されているというのに、妙に嬉しそうな顔で桃子はにやりと唇を持ち上げ、しゃがんだ梨沙子へと手を差し伸べる。

「やなわけないじゃん。りーちゃんはもうちょっと自信を持ったほうがいいよ」
「え?」
「こーんな可愛いももちが好きになった人なんだからさ。堂々としてたらいいんだよ」
「何それ意味わかんない」

いつものように呆れて鼻で笑ってやりたかったが、うまくいかずに満面の笑顔になってしまった。
そのままげらげらと笑い出だした梨沙子に、ふくれっ面を装うとした桃子がそれに失敗して後に続く。
ひとしきり笑うと、梨沙子は差し出された桃子の手を取り、どちらともなく歩き出す。

「りーちゃん、手冷たい」
「だってここ、寒いもんしょうがないでしょ」
「そうだよ寒いよ!早く帰ろ」

気が付けば月も天頂高く上っている。

「やば。今何時かな」
「わかんないけど」

桃子が梨沙子をちらりと見上げる。

「今日一緒に帰ろ」
「うん」

方向が違うとか、少ししか一緒にいられないとか、桃子もわかりきっているはずの野暮な事を言うのは止めにする。
頷いて、つないだ手に力を込めると、桃子もぎゅっと握り返してくれた。
351 :overflow :2014/05/12(月) 21:15

△▼△

352 :overflow :2014/05/12(月) 21:17
それで二人の何が変わったかというと、そうそう劇的な変化があるわけもなく。

桃子は相変わらず忙しそうに働き、よく食べ、よく笑い、楽屋で騒ぐ。
梨沙子も変わらず、普段どおりに生活し、雅と買い物へ行ったり、よく食べ、よく笑う。
梨沙子から桃子にLINEやメールをしても、あの夜以降も平常運転で返信は遅い。
恋人になっても、やはり無精は相変わらずだ。

ただ、内容は少し違う。ごく稀に、ごくごく稀に混じる恋人らしい言葉。
意外に照れ屋の桃子がどんな顔をしてこれを打っているのか確かめたくもなるが、意地悪もよくないと梨沙子はそこには触れず、淡々とメッセージを保存する。

ふとした時、梨沙子が桃子を見つめてしまうのも前と同じ。
目が合う回数は格段に増えた気がする。
確認したところによれば、以前の桃子はわざわざ、梨沙子の視線を感じると器用にもそれを避けていたらしい。
353 :overflow :2014/05/12(月) 21:21
べつに、そこまでしなくてもよかったよね。


顔をしかめ、ちらりと視線をやれば、ジャージ姿で立っている桃子と鏡越しに目が合う。
只今ダンスレッスンの休憩中。
メンバーは皆メモを見たり、振りの確認をしたり、騒いだりと各々勝手にやっている。

面白くない気分のまま、しかめっ面で舌を出すと、桃子からは何故かへたくそな投げキッスがとんでくる。

「ばか」と口に出そうとして、ふと考える。
いつも同じ反応というのも、よくはない。

キスを受け取って、そのまま唇に押し付けた指を桃子へ。
とっておきの顔までつけてやったのに、恋人からのお返しに何やら焦って躓いている桃子が可笑しくて、梨沙子は声をあげて笑った。
354 :overflow :2014/05/12(月) 21:21


355 :名無飼育さん :2014/05/12(月) 21:31
更新中に立ち会ってしまった!
りしゃもも良いですねりしゃもも
更新ありがとうございました
356 :たすけ :2014/05/12(月) 21:32
overflow、終了です。

これにてこのスレ、Edge of Edenもおしまいです。

読んでくださった皆様に感謝。レス、本当に励みになりました。
ここまでお付き合い下さってありがとうございました。
357 :たすけ :2014/05/12(月) 21:34
>>355
こちらこそいち早いレス、ありがとうございます!
お礼が言えてうれしいです。
よかったー。
358 :名無飼育さん :2014/05/12(月) 21:52
更新おつかれさまでした。そして、ありがとうございました。
みやももではなく、りしゃももに驚きましたが、このお話も素敵ですね。
本当にありがとうございました。
359 :たすけ :2014/05/17(土) 22:29
>>358
最後がみやももでないことには少し悩みましたが、これはおまけということで。
お許しいただけてよかったです。
レスと、それから最後までのおつきあいを本当にありがとうございました。
360 :たすけ :2014/07/03(木) 23:23
おまけのおまけ。広い心でお付き合いくださるとうれしいです。古典的なネタとオチですみません。
361 :!?short ver. :2014/07/03(木) 23:25
目を開けると、ゆらゆらと黒いなにかが揺れるのが見えた。
あぁ、ももち結びか、これ。
そういえば、楽屋のソファーで寝てたんだった。

ちょっとずつ思い出す。
桃と喋ってて、桃が眠いって言っていつものあのブランケット出してきて、「みやも寝よ」とかって。
そんな気なかったんだけど、誰も帰ってこないし、つい桃と一緒に寝ちゃってたみたいだ。
そんな時間たってないはずなのに、妙に首と肩が痛い。
疲れてんのかな。おかしいな。
伸びをして、「んー」と、聞こえた声に違和感。
「桃、起きたの?」

違和感。

聞こえた、というのはなんか違ってたと思う。
そのときはそれどころじゃなかったけど。
「え?」
慌てて振り向く。 鏡が、たしか、そこに。
びっくりした。びっくりすると、鏡に映った桃も一緒にびっくりする。
「えーーー!!?」
「なに、うるさい……」
がばっと振り向くと、私がいる。
そうだ。私がいる。鏡や、カメラチェックとかでよく見る私。
「う……っそでしょ」
今度こそ、声が、この声が自分から出てるんだってわかる。
ちょっと、いつもの桃の声っぽくなかったけど、明らかに私の声じゃない。
でも、これ、意識するとそうだ。桃の声だ。
362 :!? short :2014/07/03(木) 23:27
慌てて鏡まで走る。写ってる姿は桃だ。私が手をあげると、桃も手をあげる。
いつもよく見てるまんまるの目で、びっくりしているこの顔を触ってみる。
違う。なんか違う。すごい違う。
手をみて、さらに違うって思う。これ、私のじゃない。
ちっちゃな爪、短い指、ぷくぷくした手。
これ、知ってる。桃のだ。桃の指だ。

「ちょ、起きて!はやく!」
桃、と横にいるはずの桃の名前を呼ぼうとして、凍り付く。
ソファにいるのは私だ。
さっきまでいたソファに戻って、横にいる私によく似た、っていうか、みやそのものなんだけど、その人の髪に触れてみる。
これ、誰?何回見ても私だ。目の横のほくろも、今日付けたピアスも、なにもかも。
っていうか、私がここにいるって事は、私、だれ?
何が起きてるんだろう。急に恐くなって、ソファにぺたんと座りこんだ。

「ん?みや、おは……?え?」

桃が起きたとこから、ちょっと落ち着けた。
あぁ、これ、ほんと桃だ。
大慌てで、大騒ぎする私は、桃そのものだった。
声は違うけど、動きも、喋ってる事も全部桃だ。

自分の姿で桃の動きを見るのはちょっとキツかった。正直気持ち悪い。
でも、その冷めた分だけ冷静になれた。
363 :!? :2014/07/03(木) 23:27
あー、やっぱ、表情って大事だな。次、なんか撮る時気をつけよ。
ひたってたら、私が、っていうか、桃が、「何、何、なに、どゆこと!?ウソ、え?ちょっと、みや!え?みやなの?」「ちょ、どういうこと!?」なんて肩をすごい勢いで揺すってきてぐらんぐらん首が揺れる。

「ちょっと、やめて。桃、落ち着きなって」
「やっぱり、私だ。うん。で、中はみやなのね。はぁー」
たっぷり騒いだあとへなへなとソファの上に情けなくしゃがみ込んで、桃は、いや、みやが頭を抱える。
自分の姿をDVDとかテレビ以外でこうやって見ることなんてないから、すごい新鮮だ。
歌とかで自分の声なんてよく聞いてるけど、それを生で聞くとこんなのなんだ。
せっかく聞いた自分の声がこんなしょぼくれてるの、やだな。
「ね、みやの格好でそんな情けない声、出さないでよ」
「そんなこと言われても。よくみや、そんな冷静でいられるね」
「うん。桃見てたら落ち着いた」
試しに情けない顔でこっち見てくる自分の顔をぺたっと触ってみる。
うーん。よくわかんない。
もうちょっと、なんかいつもの感触っていうか、実感がわくかと思ったけどほんと、わかんない。
でも、この顔されるのなんか、ほんとヤだからぐにっと頬を摘んでみる。
364 :!? short ver. :2014/07/03(木) 23:29
「なによ」
「その顔やめな。私の顔でそんな顔すんな」
「だってさぁ」
ぶちぶちと文句を言いながらも、桃はなんとか立ち直ったみたいでいつもの桃の、ぺたんってするお姉さん座りでこっちを見下ろして今度はこっちの顔をぺたぺたと遠慮なしに触ってくる。

「はぁー。私の顔だぁ。うーん、こんな風に外から見るとは思わなかった。……うん、やっぱり可愛いな」
「ちょ、感想、それなの?ないわー。ちょっと、ほんと、人の体勝手に使わないでよね」
「それ、お互い様でしょー」
すねたように言われて、思わず吹き出す。
だって、ほんと、桃だこれ、と思って。
なんか中味でこんな違うもんなんだ。きょとんとした顔は私のだけど、すごい、桃だった。

ふたりでちょー笑って、落ち着いて。
「で、どうする?」
「まさかこんな、漫画みたいなことが起きるとはね。とりあえず、みんなは?」
「わかんない。もう来るとは思うけど。今何時?」
「んー」
桃が見る携帯は、勿論桃の。見た目、私が桃の携帯を見てるっていうのがなんかほんと、変な感じ。
ぐしゃぐしゃになった髪が気になって、直してると首をふって嫌がられる。
365 :!? short ver. :2014/07/03(木) 23:31
「止めて。くすぐったい」
「そっちこそ私の髪なんだから気を使って」
「わかった。でもさー、前髪なくて、すごい落ち着かないんだけど」
ふるふると犬みたいに顔を振る自分を見て、似合わなくて嫌になる。
「だからやだって言ったでしょそれ。あ」
「あ、みや、桃。おはよ」
「「キャプテーン!」」
「え?どしたの」


ドアあけて、挨拶したキャプテンに安心して、思わず肩の力が抜けた。
ちらっとみた私の顔した桃も、安心した顔してたから、私もきっとよく似た顔をしてたんだろう。
さすがキャプテン。ほんと、良いところに来てくれた。これでやっとなんとかなる。
366 :!? short ver. :2014/07/03(木) 23:32
そう思ってたんだけど、まぁ、現実っていつも、うまくはいかないよね。
キャプテンの後、まぁさが来て、んで次々にみんながきて。
丸くなって座ったんだけど、みんな変な顔してこっち見てる。

最初キャプテンとした「ふざけてんの?」「ウソでしょ?」「冗談とかじゃなくて?」をまだやらないといけないのかな。
あれ、うちが今桃のせいか、なんか皆いつもよりあたりがキツくて、こたえるんだけど。

「ねぇ、うち、まだ信じらんないんだけど」
熊井ちゃんが心底困った、って顔でこっちを見てくる。
「ねぇ、桃、ほんとなの?」
「ほんとなんだな、これが」
「へ?なんでみやが答えるの?」
「だから、今、みやがもぉなんだって」

机につっぷした桃が、大きなため息をつく。
気持ちは一緒だけど、人の体であんまり情けない声出すの、ほんと止めてほしい。
「ほんとだよ。今は桃が私で、私の中にいるのが、桃」
今喋ってるこの声も違和感ばっかだ。桃の声が自分の声だなんて。
私の声も、桃の喋りで聞くと変なの、としか言いようがない。
みんなもそういうのを感じてるのか、全員がなんか変なものでも食べたみたいな顔になる。
「え?ちょっと、わかんない。だから、みやが、桃で、桃がみやなんだよね」
「さっきからずっとそう言ってるでしょ、ちぃ」
「待って、ほんとあたし頭痛くなってきた」

唸る千奈美の横で、梨沙子が頭を押さえてる。

「いい加減信じてよ」
「まぁ信じるけどさ」
367 :!? short ver. :2014/07/03(木) 23:34
キャプテンが頷いて、手を叩いて「はーい、注目」って皆を黙らせる。
「まだ正直信じらんないけど、桃はともかく、みやがこんな冗談言うの、あり得ないし。私は二人を信じることにする」
「ともかくって」
「み、じゃなかった、桃、黙って。うん。手が込みすぎてるし。で、どうする?まだマネージャさん達とか、誰にもこれ、言ってないんだよね」
「言ってない。さっき起きたばっかだし」

桃と二人で首を振る。
ももち結びがぶんぶん揺れて、嫌な顔をされた。
なに、「振りすぎ」?しょうがないじゃん、慣れてないんだから。
持ち主なんだから、ちょっとあたるぐらい我慢しなよね。

「桃、今日、この後は?」
「収録済ませてきたから、ダンスレッスンの後は帰り」
みやの顔と声で、桃が喋る度に皆が変な顔をするのにも慣れてきた。
皆の対応には慣れたけど、でもまだ自分が目の前にいるのには慣れない。
だから出来るだけ桃から目を逸らしているようにしてる。
「ん。じゃ、ダンスレッスンだけ乗り切ればいいとして。まぁ、これ、ほんとどうしよ」
「さっさと言えば?会社の人とか、皆で相談すべきだと思うけど」
「まあさの言う通りかもだけどさ、でも、ライブとか中止になんじゃないの?最悪解散とかさ」
「やだ!やだよ、そんなの。だってさ、みやも桃も元気じゃん!」

梨沙子からびしって指差されて、のけぞる。
普段梨沙子にこういうことされないから、なんだか恐い。
368 :!? short ver. :2014/07/03(木) 23:35
「解散はないにしても、休業はあるかもね」
「それもやだよ。だってさ、10周年とかってさ、これからだよ?うちら皆で頑張っていこうね、って言ったばっかじゃん」
「嫌なのは皆同じだよ。でもさ、このままだったらどうするの?みやと桃、このまま、入れ替わって生きていけっていうの?それは二人のために、ダメでしょ」

泣きそうな顔をした熊井ちゃんの頭を、キャプテンが撫でる。


「一番不安なの、二人なんだしさ」


言われて思わず、隣を見て桃と目が合った。
そういえばそうだ。
意外に不安とかではなかったんだけど、ずっとこのままだとほんと困る。
忘れてたけど、この後、家に帰るんだわ。あたしどっちの家帰ればいいんだろ。
どこかで見た漫画みたいに、桃の家族に桃の振りしなきゃなんないのかな。
すっごい不安。

「病院、行く?」
「うーん」
茉麻に顔を覗き込まれて、桃が腕を組んで首を傾げる。
「正直、それも考えたんだけど。あのさ、ちょっとだけ、待てない?1日だけ」
「なんで?」
「今日はダンスレッスンだし、まぁなんとかするとして。で、明日は私、仕事ないし。これで収録とかラジオあったら最悪だったけど」
「待ってどうすんの?今すぐ病院行けばいいじゃん」
千奈美が心配そうな顔で、バンと机を叩く。
369 :!? short ver. :2014/07/03(木) 23:36
「どうせバレたら仕事出来なくなるんだから、すぐ行けるでしょ。漫画とかでよくあんじゃん。1日で戻ったとか、頭打ったら戻るとか」
「まさかそんな非科学的なこと、するつもりなの?」
「そうだけど。あと、階段落ちるとか」

眉を寄せたキャプテンに、桃は当然、みたいな感じで頷いた。
え?ちょっと、私、痛いのは嫌なんだけど!

「ちょっと、桃、本気!?頭ぶつけるとかはまだいいけど、階段落ちるとか私、本当ヤなんだけど!」
「私も嫌だけどさぁ、この際、嫌とか言ってらんないでしょ。ま、あくまで最後の手段ってことで」
「絶対嫌!だって桃でしょ!?桃だよ!?心配すぎる!」
「3段ぐらいにするから」
「え!?低!出来んの?それで?」

うさんくさい返事に、疑問を思いっきり声に出してふと周りが静かすぎるのに気が付いた。

「……なに?」
「なんか、さ」
目で合図しあって、代表になったらしい茉麻がなんか嫌そうに話はじめる。
「わかった。あんたたち、入れ替わってるわ。まだなんか信じらんないけど、納得した。漫画でしかないと思ってたけど、ほんとにあるんだね、こんなこと」

しみじみ頷かれて、力が抜けた。
ねーえ、ここまできて、やっとそこ!?
370 :!? short ver. :2014/07/03(木) 23:38

それからしっかり話合って、結局、桃の提案通り、1日様子を見るってことで落ち着いた。
その代わり、明日の朝、目が覚めても今のままだったら即マネーシャーさんに電話して、病院へ行く。
結論が出た、というわけで、今からのダンスレッスンを、私はなんとか桃として乗り切ればいい。
よし!と気合いは入れたんだけど、着替えようと思って早速バッグを取ったら「みやのはこっち」って桃のバッグから
着替えを出されるし、ほんと疲れる。

「これ、着るの?」
「そりゃそうだよ。今、みやが桃だもん」
「取替えない?」
「いや、変でしょ!桃がみやの服着てたら!自分で言いたくないけど、パンツの裾、余るよ。踏んでコケたくないでしょ」

すっごい不機嫌そうな顔のみやの顔で、桃が顎で自分のももちパーカーとパンツをさす。

「みやのも出して。で、着て、早く。私もなんか、違和感ばっかなんだから」

バッグからレッスン着を出して桃に渡し、桃のツアーTを持ち上げて、ため息をつく。
まさかこの、ピンクを着てレッスンする日がくるとは思わなかった。
どうにも落ち着かないし、やる気が出ない。
とりあえず、このふりふりのワンピを脱ごうとして、チャックに手をかけたところで隣にいる、桃を見て思わず手が止まった。
ブラ姿の私がいる。っていうか、桃なんだけど、中身。なんか今、猛烈に恥ずかしい。
当たり前なんだけど、そうなんだけど!
この次を見たくなくて、力一杯後ろを向いてさっさと着替える。
ホックめんどくさいし、チャック下ろすのになんかちょっと首痛いし。寝違え?それとも、老化?
ったく、このババチめ。ストレッチが足りてないっての。
371 :!? short ver. :2014/07/03(木) 23:42

レッスンは最悪だった。
「嗣永!そこじゃないでしょ」と最初の立ち位置から叱られ、ダンスもほんと、めちゃくちゃで。
だって覚えてたのと違うんだもん。桃もほんと悲惨だった。
キャプテンがその度に目で教えてくれるんだけど、二人分だし、間に合う訳もなくて。
「夏焼!」とか、「嗣永!」なんて名前を呼ばれるたびに、桃も私も反応しちゃうんだけど、皆も本気でビクビクしてて。
私たちだけじゃなくて、berryz全員ミス連発。
予定の半分も進まず、「今日はもう、みんなどうしたの!」って先生のお説教でおしまい。
でも、皆がミスってくれたおかげでみやと桃が変なのが、あんまり目立たなかったみたい。
鏡で見ても、相当ヤバかった。私はまだ、桃っぽく踊れるけど、桃のダンス、ほんと酷かった。
頑張ってるつもりだろうけど、無駄にぷりぷりしてて後ろから見てて、ほんっと気持ち悪くてどうしようかと思った。
千奈美とか梨沙子とか、最初吹き出してたもん。先生が怒ってるから、相っ当我慢してたみたいだけど。
まぁでもね、桃のダンスにしても、本人がみやっぽくしようって努力してるのはわかるから、仕方ない。
周りもそれでも、わかってたらそりゃ、見ちゃうし、私でも笑うよ。
許すよ、そこは。でもさ、問題はその後で。

「疲れたー」

梨沙子の背中が見えたから、いつもどおり肩に手をかけた。
ほんと、いつもどおり、と言いたいところだけど、なんとなくちょっと高めに感じる梨沙子の肩。
ちらっと、桃の身長だとこんな感じなんだな、と思ったところで手をはたかれた。

「重い、桃」
「……え」
372 :!? short ver. :2014/07/03(木) 23:44
かけた腕を乱暴に落とされて、ちょっと傷付く。
こんな風にされたこと、なかったから。

「あ、みやか!今!ごめん!!桃だと思って」
「いや、別にいーよ。気にしないで。それより声、デカイよ」
「あ、ごめん。でも、ほんっとごめん。許して」

顔を覗き込んで、本気で謝ってくる可愛い梨沙子をなだめながら、なんか気持ちが落ちて。
『桃だと思って』なら、間違ってはないんだよね。私、今桃だもん。
でも、桃は普段こんな扱い受けてんのか。
本人の自業自得ってとこもあるとは思うけど、そりゃ愚痴りたくもなるよね。
戻ったら、桃に優しくしてあげよう。そんなことを決意したところだった。

「ね、みや」
「ん?」

遠慮するみたいに、囁くみたいに桃が声をかけてきた。
くるっと振り向くと、指で二人で話せないか、って合図してくる。

「ちょっとごめん。先行ってて」

梨沙子を先に行かせて、桃に向き直ると手を掴まれて、廊下の壁際まで引っ張られる。

「っと」
「あ、ごめ」

引きずられて体勢を崩すと、桃が受け止めてくれた。
びっくりしたみたいに自分の手を見てたから、多分、力加減を間違えたんだと思う。
こんなところでも自分たちの体の違いを感じる。

「あのさ、あの」
「何よ」
「トイレ、行きたいんだけど」
「え?勝手に行ってくれば?」
373 :!? short ver. :2014/07/03(木) 23:47
相談してくる前に、早く行けばいいのに。

すごい大事なこと言うみたいに、小さい声で言うから逆に驚いた。

「行っていいのね。わかった。行ってくるから」
「え?なんかある訳?」

念押しされて、不安になって離れそうになった手を握ったら桃は困った顔をして笑った。

「みやが気にしないならいいよ、別に」
「気に?あー!!」

やっとわかった。そういうこと!?

言わないでくれたら気付かないで済んだのに!
あ、いや、言われなかったらそれも嫌だわ。

これを聞いてきた、桃の気持ちがわかった。
顔が赤くなってくのが分かる。どうしよ。どうしたらいいんだろ。
これから、夜まで、お互いきっと何度かトイレに行かなきゃいけない。
私が、トイレにい、く?桃の?桃を?
374 :!? short ver. :2014/07/03(木) 23:48
「ちょっと、そんな意識しないでよ」
「無理」
目の前にあるみやの、私の顔もどんどん赤くなっていく。
ぐるぐる考えて、これしかない!ってこと思いついた。

「そうだ!わかった。いいよ。いこ」
「へ?」

呆然とする桃。
さっき掴まれた手を逆に引っ張ってトイレへ向かう。
あ、なんかちょっと普段と違う。
何度も何度も、仕事以外でも桃と手を繋いだけど、そっか。
桃、私と手を繋ぐときって、手の感じとか、こんな風になんだ。
握った手の力を緩めて、そっと大事にするみたいに、手を握り直したら、桃もなんかいい感じに握り返してくれた。
恥ずかしいのと複雑なので、後ろは振り向けなかったけど、ほんとは今、桃の顔がみたい。
この角曲がったらすぐ、トイレがあって鏡見たらそれでいいんだけど、そういうんじゃなくて。
私じゃなくて、今、笑ってるほんとの桃が見たかった。
ほんの数時間なのに、桃にずっと会ってないみたいな気がしていた。
今すぐ。すぐは無理だけど、でも、出来るだけ早く。


早く、早く元に戻りたい。
375 :!? short ver. :2014/07/03(木) 23:51
「ね、まさかとは思うけど」

眉毛を下げて、桃がよくやる、困り切った顔を今みやがしてる。違和感はんぱない。
現在トイレの個室の中。
嫌がる桃を先に押し込め、二人で入って扉を閉めた。
「ほれ、座って」
「ねー、これ、ヤな予感しかしないんだけど!」
「早く!みやだってやなんだから」

自分より上にある顔にちょっとイラだちながら、肩に手をかけて無理矢理座らせる。
これからすることを考えると気が重い。今にもくじけそうだ。

「座るの?」
「あ、座ったらダメか。じゃあ」
「ちょ、ヤダ、やだやだやだ!!止めて、嘘、ちょ、みや!!!」
「うるさい!人が来る!」
目の前にいる、桃の、っていうか、自分の履いてるパンツ、っていうか、その、ズボンとパンツを引きずり下ろそうとして、猛烈に抵抗された。

自分で自分のパンツ下ろすのってそんな悪いこと?

「自分でするから!」
「自分でするっていうなら、私がする!」
「そうだけど、合ってるけど、そうじゃない!」
「なんでよ!自分のパンツ、自分で下ろして何が悪いの?」
「自分って、今、みやは桃でもあるんだけど!ちょっと、うわ、ねーえ、やーめーて!あと声、落として!」

しまった。いつもの勢いで言い合いをしかけて、誰かにばれちゃうとこだった。
しぶしぶ桃のズボンのゴムから手を下ろすと、桃が心底ほっとしたような顔をして、大きなため息をついた。

「じゃ、さ、みや、出てくれる?なるべくみないようにするから」
「何言ってんの?何のために二人で入ったのよ。ほら、騒がないでおとなしくする」
「え?」
376 :!? short ver. :2014/07/03(木) 23:52
桃がひきつった顔で一歩下がろうとするけど、個室だよここ。狭いし下がれる訳ないよね。

「私がする。だから、桃はおとなしくしてな。ほら」
「ね、なんで?なんでそんな、わざわざ恥ずかしいことするの?桃が信用できない?」
「信用とか、そんなんじゃなくて。それとこれとは話が別」

もう一押しってすぐわかった。

「……どうしても?」
「どうしても」


頷くと、桃が「うー」と唸りながらもおとなしくなる。
こっちをちらっとみて、目を逸らして、手をぎゅっと握って。
そういうことをしないで欲しい。外見、みやなんだから。
自分で自分の恥ずかしがる姿を見るのは、ものすごく複雑だ。
しかも、仕草がまんま桃だから、ますますなんか、変っていうか、なんていうか。
指をズボンにかけると、桃がぎゅっと目を瞑る。
顔が赤い。
なんだかすごく悪いこと、っていうか、恥ずかしいことをしているような気になってきて、こっちの顔も赤くなる。
私、桃なんだよね。
つまり、今、桃がみやのズボンを脱がしている訳で。
意識するとダメだ。指先まで心臓がばくばくする。脱がしているような、脱がされているような。もうなんだか、意味わかんない。
ちょっとだけ下ろして、そういえば今日履いた、見覚えのあるパンツが見えて、一気に現実感がクる。
思わず手が止まって、下を向いたら桃が小さく震えたのがわかった。
377 :!? short ver. :2014/07/03(木) 23:55
「……みや?」

ちっちゃな声は、確かに私の声なのに、すごく桃っぽかった。
いろんな感情が一気に胸にきて、何かが詰まったみたいに苦しい。
ダメだ。もう、やめちゃいたい。でも、それはこれを、桃にまかすってことで。
ここまできて、「やっぱ桃やって」って言うのも、変に意識してるみたいで恥ずかしい。

これ、私の体なんだから。私、なんだから。

そう自分に言い聞かせて、なんとかやり遂げた。


「はい。座って。あ、待って」

まだ目を瞑っていた桃の目を右手で塞ぐ。

「もういいよ。あ、まだだめ」
「なによー」

ヤバイ問題に気が付いた。

「どうしよ」

音、が。
座って、こう、いよいよってとこにきてわかる。

音がするわこれ。

仕方ないの、わかってる。でも、絶対桃には聞かせたくない。
いや、もしかしたら今日、桃のも聞くことになるんだけど、そりゃ桃の前で鼻もかむし、納豆も食べるしちっちゃい頃から一緒にいるんだから、今更なんだけど!
でも、好きな人、っていうか付き合ってるのに、桃に、そんな。
付き合ってるからいいの?いや、だめでしょ。

「だから、なんなの」
「あのさ、お……音」
「そんなこと!?」

すっごい恥ずかしいの、我慢して言ったのに、あっさり桃は、「そんなこと?」とかって。
右手の下で、桃の目が開いて、動いたのがわかった。びっくりして、だと思うけど。
378 :!? short ver. :2014/07/03(木) 23:57
「目ぇ閉じててって」
「もうめんどくさい。ほんと、さっさとさせて。もれる。みやの体でもらすよ」
「絶対止めて!っていうかさ、逆なら絶対恥ずかしいから。あ、そっか。目、閉じて」
「もー」

桃はうんざりしたように唸ったけど、素直に目を閉じてくれた。
掌の下で瞼が閉じたのを確認してから、手をどけて、桃の、っていうか、私の体の両手を掴んで、両目へ。
しっかりあてて、「手このままね」って命令して、桃がしっかり頷いたの確認して、あいた両手で桃の両耳に手をあてる。
桃の手はぷくぷくしてるから、きっと音をしっかり遮ってくれるはずだ。
たぶん。ウソ、そんな訳ない。でも、私の手より、マシだと思う。気分の問題だけど。


にしても、まぬけだな。
できあがった桃、じゃなくて、自分の姿をみて、しみじみ情けない。
こんなみや、みたくなかった。
今日は髪を高いところでしばって、ちょっとクールにきめてみたつもりだったのになんか、台無し。
思わずつっぷしそうになるけど、我慢。つっぷしたら、自分の腿につっこむことになる。
に、してもこの絵、ほんとなんか、二重に恥ずかしい。
もっというと、自分で言うのもなんだけど、正直無駄にエロい。

「いいよ。しな」

照れ隠しにキツめに言って備える。
もうできることはきっとない。覚悟を決めた。
ぎゅっと息を止めて、その時を待っ……てるんだけど、こない。
何が、とか言わないけど、何もない。
379 :!? short ver. :2014/07/03(木) 23:59
「無理。ダメ」
「え?」
「そんな、無理だよ。恥ずかしくて無理。やだ。やっぱ外出て、みや」
「無理って、どうしてよ。そっちのが私がやだわ」
「だって、意識しなかったらできたけど、こんながっちり用意されて、はいどうぞって、出来ないでしょ」
「やだ。なんか、桃にされるのもやだ」
「しょーがないでしょ!あー、もうほんと、違う意味で無理だからもう出てって!」
「やだ!っていうか、私の体に無理させないで!覚悟決めて、ほんとにさっさとして!」
「もういい!わーかーりーまーしーた!どうなっても知らないからね!」


最後、逆切れされて、そのまぁ無事?終わった?みたいな。
そのあとも大仕事が残ってたんだけど、まぁ、そこもなんとか目を合わさずに、乗り切った。
そこから並んで手を洗って、トイレ出るまで、もうずっと無言。
目とか合わせられない。すごい疲れたけど、自分の面倒は自分でみれたので、そこは満足。

「みやの時はほんと覚えといてね」

トイレの出口からずっと恨みがましい目で睨まれて、「みやのバカ」と罵られ、階段に差し掛かり、言われたのがこれ。
正直背筋が凍る。こんなこと、もうどっちの立場にしてもやりたくない。
なるべくお茶を飲まないようにしよう……と思ったけど、そういえば。

「これ、桃の体でしょ?桃はアイドルだからトイレ行かないんじゃなかったっけ」
「っ」
380 :!? short ver. :2014/07/04(金) 00:00
真っ赤になって顔を逸らした桃の頭がふっと落ちたのがわかった。
踏み外したんだ。
思ったのと、手が出るのと、どっちが早かっただろう。
気が付いたら、桃の、っていうか、自分の手を掴んでた。
体重は桃もみやも一緒ぐらいだと思うけど、階段から落ちようとするみやの体を、不完全な体勢で桃の体が引き留められる訳もなくて。
足が階段から滑るのがわかった。ぎゅっと目を瞑って、掴んだ自分の体にしがみつく。

目の前がまっくらだったのは、どれぐらいの間だったのだろう。
目を開けたら、さっき落ちた階段が見えた。そんな高いところから落ちてない。
どうだろ、5段ぐらい?もう覚えてないけど。
背中が冷たくて、足を動かそうとしたけど痛いし、重い。


まさか怪我、した?一瞬血の気が引く。

まだライブもあるし、撮影も、ダンスもある。しかもこれ、桃の体だ。
がばっと体を起こすと、見慣れた体が自分の上に乗っているのがわかった。

「っはは」


桃だ。桃がいる。ってことは、

「起きて!桃!戻った!戻ったよ!」
「へ?」

手を握って、開いて。しみじみ眺める。あぁ、私の手、私の指だ。これだよね。
嬉しくて叫び出しそうだ。

「ん?みや?あ?あれ?」

桃も起きて、こっちを見て目をぱちぱちさせて自分を見下ろして確認して、わかったらしい。
381 :!? short ver. :2014/07/04(金) 00:02
「戻った?」
「戻った!!」
「桃―!!!」
「みやー!!!」

抱き合って喜んで確認する。ふんわりした抱き心地。私のじゃない、甘いにおい。あぁ、これ、桃だ。ぎゅうぎゅうと力を込めて抱いても、桃も今日は文句を言わない。
ちょっと涙も出てきた。

「どうした!?」

抱き合ってたら、千奈美の声がした。
声が聞こえたらしい。

「ちょ、何?大丈夫?」
「みや、桃、どうかした?」
「戻った!」
「え?戻った!?」

大騒ぎが楽屋にも聞こえたらしい。皆が楽屋から出てくる。
マネージャーさんも向こうから走ってくるのがわかる。
桃と目を合わせて、笑った。目の前に桃がいる。
当たり前なのに、それだけでもう嬉しい。

それからマネージャーさんに階段落ちがバレて軽く怒られて、皆からは「ウソでしょ」とか、「漫画すぎでしょ」って呆れられて。
次の日は、何かあると「桃入ってるんじゃないよね?」とか、失礼なことを言われたりした。


まだ、「あれ、ほんとに冗談じゃなかったの?」って熊井ちゃんとかにも聞かれるんだけど。
今となっては自分でも信じられないし、夢みたいって思うんだけど、入れ替わってたのは本当だし。これはメンバーだけの秘密になっている。ほんと、berryzの危機だった。
治ってよかった。バレなくてよかった。


今日はリベンジのダンスレッスン。
ちらっと横を見ると、アイドル全開で踊ってる、ぶりぶりのいつもの桃がそこにいる。
ほんと、戻ってよかった。私にあれは似合わない。

思わず吹き出すと、横の桃が「なんで笑うのよー」ってこっちを睨んできて、あぁ、やっぱ桃だって実感した。
肩抱いて、変な顔になった桃の頭を軽くはたくと、思ったことが伝わったのか桃も嬉しそうな笑顔になった。
382 :!? short ver. :2014/07/04(金) 00:02
おしまい
383 :名無飼育さん :2014/07/06(日) 01:33
久々になんかキテタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
お待ちしてました!ありがとうございます!
最近みやももにハマってあちこち読み漁っていたのですが
こちらのみやもものわちゃわちゃっとしたやりとりがすごく微笑ましくていつも拝見するたび頬が緩みます。
また次作も期待しています。
384 :たすけ :2015/02/25(水) 11:05
>>383
感謝!
385 :たすけ :2015/02/25(水) 11:13
最後になにかと思いましたが計算間違いをしてしまい、容量も足りず。
無謀なことをしてしまい、レスの削除をお願いして管理人さんにご迷惑をおかけしてしまいました。
申し訳ありませんでした。

Edge of Edenスレ、これにて本当に終了。
読んでくださった皆様、感想を下さった皆様。本当にありがとうございました。
386 :GYxhSl7xKg0 :2015/10/12(月) 14:51
So true. Honesty and everything receonizgd.
387 :RqTANUThyBhV :2015/12/21(月) 20:36
Cheers pal. I do apictrpaee the writing.

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