■掲示板に戻る■ 全部 1- 101- 最新50

だから、そういうこと

1 :名無し飼育さん :2013/01/11(金) 01:51
現娘。ナハッキメインの短編予定。
マイナーカプ万歳。85あたりもつまみ食い。

前の短編スレ
新品バッグの通販専門店!!
ttp://m-seek.net/test/read.cgi/grass/1290063696/l50
2 :名無し飼育さん :2013/01/11(金) 01:53

 そういう日に向けての心構え

3 :名無し飼育さん :2013/01/11(金) 01:57

 恋に落ちた二人がするキスのその先、それくらい知っている。
 学校で流行ってる少女漫画には露骨にそれが描写してあるし
 携帯小説にはなんの脈絡もなくそういう表現が出てくる。
 
 年上の恋人が出来たら、いつそういう日が来てもいいようにしといた方がいいよ。
 だって相手は大人だし。飢えてるし。
 
 これは友達の体験談。
 5つ年上の恋人と付き合っている同級生がそう言っていた。

 10歳近くも年上の恋人がいるうちは、その子よりももっともっと覚悟がいるんだ。
 子ども扱いなんてされちゃだめだ、呆れられる。
 ずっとそう思っていたのに

 
 なのに道重さんはうちに何にもしてこない。
 キスはおろか、手を繋いで歩いたこともきっと数えるほど
 …せっかく始まったのにもう終わり?コドモすぎて呆れられちゃった?

 うちはもやもやを抱えたまま新学期を迎え、そして5つ年上の恋人がいる友達に相談を持ちかけた。
 もちろん彼女のことは出さない。話し始めの言葉はこうだ。ちょっと友達が悩んでんだけどね…
4 :名無し飼育さん :2013/01/11(金) 01:58

 友達は足を組んで、わざとらしく難しい顔を作った。
 ちょっとそれヤバくない?本命、別に居たりしてね。その子はストック、っていうか
 まぁ軽い遊び相手、みたいな。で、本命と別れたら手出すとか。
 ほらやっぱりそこらへんはちゃんとケジメつけてたりするじゃん、ずるいよねー
 何にもなさすぎってそれは大切にしてるのと訳が違うと思うんだよね、あたしは。
 …とんでもない話だ。
 聞いてよかったのか、悪かったのか、軽いパニックに陥った。

 まさか道重さんに遊ばれてる!?本命が居る!?!?
 そんな事考えられない。
 でも、でも…
 その可能性がゼロ、とも考えられない。
 10歳近く年上で、10年以上芸能活動をしている。
 その間にきっとイロイロあっただろうし、うちが知ってる中でもすごく仲良しの人はいるわけで…。 
 
 ちょ…、それってどうしたらいいの?解決法ってあるの?
 思わず前のめりになった。
 相変わらず友達は難しい顔をしている。
 いつしかギャラリーも増えた。みんな刺激的な話を欲してるんだ。
 そういう、年頃なんだ。

 自分から仕掛けるしかないでしょ、これは。
 自分から仕掛けて、それでも拒否されたら完全にアウト。
 もしそれで上手く行けたら様子見だな。
 そこで安心しちゃだめだってちゃんと伝えてね、体だけのカンケーとかありえるから!
5 :名無し飼育さん :2013/01/11(金) 01:59
 
 あぁ、頭がくらくらする。
 思わず机に突っ伏した。
 とりあえず落ち着こう。頭を整理しよう。
 その前に言い訳をしなくちゃ…、ヤバイ、ちょっと落ち込んだ。友達が可哀想すぎる…

 今日は授業がなくてよかった。
 校長先生の話の間はずっと道重さんのことを考えていられたし
 HRの間はこれからうちがすべきことについて考えられた。

 うちはこんなに大好きなのに!
 …上手く表現には出せていないけど、それでも道重さんには伝わってると思ってた。
 伝わってなかったのかな。
 道重さんはうちのいないところではよく好きとか可愛いとか言ってくれるけど
 直接はあまり言ってくれないし、2ショットの写真もきっと他のメンバーより少ない。
 思い返せばストックの女かもしれないと思い当たるところは意外とたくさんある。
 付き合ったのだって正直ちょっと押し切った感じだったかもだし
 年の差ありすぎてちょっとよくわかんないよ…道重さんは最後まで悩んでた。

 きりーつ。
 学級委員の声にあわせて席を立つ。
 うちは覚悟を決めた、
 きおつけー
 仕掛けてみよう。
 れーい
 そして直接聞いてみよう
 さよーならー
 うちはいい加減に挨拶を済ませ教室を出た。
 運がいいことに今日は道重さんと二人の撮影から始まる。
 時間は、たっぷりある。
6 :名無し飼育さん :2013/01/11(金) 01:59



 
 あんなに意気込んだのに、本物を目の前にするとなかなか言葉がでなかった。
 おかげで撮影中はおかしなテンションに陥り、道重さんを不審がらせた。
 なんか今日テンション違うねー
 あなたのことで頭がいっぱいなんですだなんて口が裂けても言えない。
 そうですか?今日から学校だったんでちょっとテンション上がってるのかもしれません
 曖昧に笑って濁す。
 そっか、今日からかーなんか懐かしいな学校。
 道重さんはパイプ椅子に座ってどこか遠い目をした。
 その顔が綺麗でなんだか儚くてドキッとする。見惚れた。

「ん?どしたの?さゆみの顔が可愛すぎるー?」

 ハッとする。これは絶好のチャンスだ。
 視線だけであたりを見回すがセットチェンジのためスタッフさんは忙しなく動いておりこちらを気にする様子はない。
 マネージャーもいない。ありがたいことにスタジオの隅で光も薄い。今しかない。

7 :名無し飼育さん :2013/01/11(金) 02:00

「可愛すぎて見惚れてました。ほんっとに道重さんは綺麗です」

「ふふっ、どうしたの?めずらしーねそんなこというの。そんな事言っても何もでないよ」

「――― キスもですか?」

「え?」

 心底、驚いた顔をしている。
 でももう、行くしかない。頑張れ鞘師里保、正念場だ

「キスも、してもらえないですか?うちら…付き合ってるのに」

 心臓の音がうるさい。
 顔が真っ赤なのが自分で分かる。
 手をぎゅっと握り締めた。 

「道重さんは、手も繋いでくれない。ちゅーもしてくれない。
 うちのこと本当に好きなんですか?ストックとかじゃ、ないですか?」

 眉尻を下げて困った顔になった。  
 沈黙が続く。
 怖い、この沈黙が破られた時うちはどうなるんだろう。
 衝撃の事実を聞くことになるかもしれない。
 でもどんな結末が来ようとも覚悟してる。余裕なんて殆どないけど
 必死に繋ぎとめておくほどの力がうちにはない。あぁ、今なら思い切り感情をこめて歌えそうです。

8 :名無し飼育さん :2013/01/11(金) 02:01


「なんでそんなに急いでるの?さゆみは鞘師が大切で大切で仕方ないのに。」


 だけど聞こえたのは優しすぎるくらい優しい声で、
 衝撃の告白でもお別れの言葉でもなかった。

「大切ならなんで…」

 でもまだ確信は持てない。口でなんて何とでも言える。
 騙されちゃダメだよ、それでずるずるいくパターンが一番悲しいんだから。
 …友達より引用。

「大切だから、大好きな人だからってすぐにはきっと今鞘師が思ってるような事を簡単にしたりはしないよ。」

 道重さんが何を言ってるのか理解できなかった。
 大切だから、大好きだからそーゆーことをして愛を確かめ合うんじゃないの、
 うちの頭の中は疑問符だらけでなんだか腑に落ちない。
 
 きっとそういう顔をしていたんだろう。
 道重さんは困った顔のまま笑って、うちの頭を撫でた。
 …子ども扱いされてる

「さゆみ説明下手だから上手く言えないけど、鞘師にはまだしたくない。これが本音。」

「え?」

 うちはこんなにも覚悟が出来てるのに!
 
「さゆみは鞘師と指が触れるだけでどきどきしちゃう。傍にいるだけで十分幸せ。
 それ以上のことなんてどきどきしすぎちゃってきっと上手くできない。
 さゆみって情けないのかな?鞘師はおんなじ気持ちで居てくれてないのかな」

9 :名無し飼育さん :2013/01/11(金) 02:02

 知識ばかりが先行している。
 先入観がうちの邪魔をする。

「怖いんだよ、ちょっと。
 鞘師が思ってるより、きっとその先はちょっと怖いよ。
 さゆみは無理矢理そんなことするつもりはないし、ただの興味とか好奇心だけで迫ってきて欲しくない。
 それにもしそういうことになったら鞘師に優しくなんてしてあげられないと思う」


 道重さんの言葉をゆっくり噛み砕いて理解するよう努めた。
 緊張していた体から徐々に力が抜けていくのが分かった。
 ぎゅっと握った手には汗までかいている。

「それが全てじゃないんだよ。ゴールはそこなんかじゃない」

 
 分かってくれる?
 握り締めていたてを優しく包まれ、なぜか涙が出そうになった。
 この涙の理由は何
 だけどずっと抱えていたもやもやはすっかり晴れていた。
 ストン、と心が元の場所に戻った感じ。

 道重さんの優しさに甘え、うちは暫く考える。
 うちが求めていたものは何か。
 手を繋ぐこと?キスをすること?もっとその先に進むこと?
 

 そんな事じゃない、そんな事じゃなかったんだ。

10 :名無し飼育さん :2013/01/11(金) 02:02

 道重さんの手にパタリと雫が落ちた。
 いつの間にか溢れていたうちの涙。
 止めようと思って眉間に皺を寄せたけどそれは全く無駄な努力で、涙は次々に溢れ道重さんの手を濡らした。

「不安にさせちゃってごめんね。」

 包まれていた手が解かれ、優しく頭を撫でられる。
 うちは頭を振った。道重さんの所為じゃない。
 うちが一人で勝手に走ってただけなのに。

「これからはもっともっといっぱい話そう。さゆみのことも、鞘師の事も」


 凄く、満たされていた。
 このままずっとこうしていたい、心底そう思った。
 こうやって隣に並んで、手が触れて、頭を撫でてくれて
 お話をたくさんしようって言ってくれて
 
 それで十分、十分うちも幸せだ。
 
「はいっ」

 足りなかったのは言葉だったんだ。
 好きとか愛してるとか、そんなありきたりのものじゃなくて
 彼女を知るための言葉が全然足りなかった。

 うちは顔を上げた。
 情けないくらいに涙が溢れて、きっと顔がぐちゃぐちゃだけど
 それでもいいやと思った。道重さんはそれでも好きで居てくれる。
 そんな自信がいつの間にか持てていたから。
11 :名無し飼育さん :2013/01/11(金) 02:03

「これからもずっとよろしくね」

「はいっ!」

 元気よく返事した。
 もうなにも不安なことがないって伝えるために。
 道重さんもいつもの笑顔で笑ってくれて、温かい指先でほっぺたに流れた涙を拭ってくれた。
 そしてそのままほっぺを手の平で包まれて。
 道重さんから笑顔が消える、真剣な表情になる。

「好きだよ、鞘師」

 真正面からの告白とおでこにキスをもらった。
 なんだかくすぐったくてとても優しくて、嬉しかった。 


「さ、メイクやりなおしてもらってきな。このままじゃ撮影できないよ」

「はぁーい」

「もぉーさゆみが説教して泣かせたみたいじゃーん。ま、いいけど。珍しいりほりほの涙ゲットってことで。ふふふ」


 もういつもの道重さんに戻っていて
 バカみたいに早くなったうちの心臓の音は聞かれずにすみそうだ。
 久しぶりのキス一つでこんなドキドキするなんて、きっとその先なんてしたら今は死んでしまう。

「メイク直してもらってきます」

「はいはーい。あ、後で誰に吹き込まれたかじっくり教えなさいよね。」

「うぇっ!?」

「それくらいさゆみにだって分かるって。誰かから色々聞いてたんでしょ?
 ほんとやーねぇ今の中学生は。さゆみが中学生の時もっと純情だったよ」

12 :名無し飼育さん :2013/01/11(金) 02:04


 道重さんは楽しそうに笑いひらひらと手を振った。
 うちは何からどう話そうか、そればかり考えながらメイクルームへ向かった。
 たくさん聞いて欲しい事がある。そしてたくさん聞きたい事がある。


 今日は長い一日になりそうだ。
 道重さんとの未来に心が弾んだ。
 『そういう日』は、まだまだ、まだまだ先でいい。

13 :名無し飼育さん :2013/01/11(金) 02:05
 
14 :名無し飼育さん :2013/01/11(金) 02:05

15 :名無し飼育さん :2013/01/11(金) 02:13

>>3-12 そういう日に向けての心構え さゆさや

恋愛観や恋人の意味は年を重ねるごとに変わっていくもんです。

りほりほのテンションが違うことに気付いたさゆとか、
なうのペンケースがさゆうさデザインのりほりほとか
さゆりほ一度書いてみたかった。

言動や視線が変態なだけで実際そうなると意外と純情かも…しれない
16 :名無飼育さん :2013/01/13(日) 03:03
新スレおめです!
鞘師ちゃんの悩み方や相談の仕方がらしくてほほえましくて( *´Д`)
道重さん純情、あると思います
17 :名無し飼育さん :2013/02/05(火) 01:39
>>16さん
ありがとうございます!
なんかそんな事で悩んでそうなイメージの中学生鞘師
道重さん純情ありますよね!二人の距離感がさらにそう思わせます(妄想w

18 :名無し飼育さん :2013/02/05(火) 01:40
更新します。
19 :名無し飼育さん :2013/02/05(火) 01:40

20 :名無し飼育さん :2013/02/05(火) 01:40

21 :名無し飼育さん :2013/02/05(火) 01:41

 吉澤が二杯目のコーヒーを紙コップへ注ぎ、熱さを確かめながらゆっくりと口をつけたとき
 視界の端で白い塊が動いたのが見えて、喉を鳴らしながらそちらに視線を向けた。

 氷嚢が音を立てる。
 真っ白な掛け布団がもぞりと動き、しっかりとその布団に包まっていた少女の顔がこちらへ向いた。

 布団から覗くその頬は熱でほんのり上気しており幼さが増している。
 眉間に皺を寄せながら唸った。魘されているのだろうか。
 乾いた咳が二度、小さな口から零れた。

 吉澤は紙コップをテーブルに置き立ち上がる。
 小さな楽屋に用意された簡易ベッドでぐったりと眠る工藤。
 寝返りを打ったせいか、おでこに貼られている熱冷却用のジェルシートは剥がれかけている。


「水飲むかー?」


 吉澤はその返事を聞くよりも早く
 工藤の額からジェルシートを剥がし取り新しいものと交換した。
 
「うっ…」

 冷たさに顔をしかめる工藤。
 それからゆるりと瞼が持ち上げられる

「…」

 視線が定まっておらずぼんやりとしている。
 吉澤は首筋の辺りを素でで触った。
 熱い。まだ少し上がりそうだ。
22 :名無し飼育さん :2013/02/05(火) 01:42

 額からずり落ちてしまった氷嚢を持たせた。 
 工藤は無意識にそれを頬へ引き寄せる。冷たさが心地いいのだろうか、いくらか表情が和らいだ。

「水、飲んどきな」

「……よしざわさん?」

 名前を呼ばれたわけではない、確認されたのだ。

「ん。」

 ようやく傍にいた人間が把握できたようだ。
 吉澤はその声に頷き、タオルの下でくしゃくしゃになった髪の毛を整えてやった。

「なんでここにいるんですか?」


 いつも以上に声が掠れている。
 吉澤はその質問に答えず、少量の水を紙コップに注ぎ工藤の口元へ持っていった。

 遠慮されるかと思ったが意外と彼女は素直に口を薄く開け、
 ゆっくりと傾けられる紙コップから上手く水分を摂った。
 
「もうちょっと飲んどきな」

 水を継ぎ足し、再び工藤に飲ませる。
 全て飲み終えるとほぅ、と大きく息を吐き出した。
 体の中にたまった熱が少し逃げていったように見えた。

「ありがとうございます」

「いいってことよ」

 吉澤はつい癖のように再び工藤の頭を軽く撫でベッドの端に腰掛けた。
 楽屋に取り付けられたテレビからわぁっと大きく歓声が上がる。
 ステージの引き映像が画面に映し出されている。光井が客席を煽っていた。後半戦突入だ。
23 :名無し飼育さん :2013/02/05(火) 01:42


「…吉澤さん、なんでここにいるんですか?」

 すっかりテレビ画面に見入っていた吉澤は工藤の掠れ過ぎた声に視線を戻した。
 あまりに申し訳なさそうな顔をするのでわざとらしく笑って見せる。

「工藤の専属マネージャーだからですよ」

「え?」

「なんつって。娘。のマネージャーがばたばたしてたからさ、あたしが代わりにここにいますって言ったの。
 おまえの事一人残して出て行くのすっげー心配そうな顔してたからさ」

「吉澤さんにうつるかもしれないのに…」

 ジェルシートを貼っている所為で工藤の眉毛は隠れてしまっている。
 でもそれが困ったようにハの字に下がっていることは安易に想像できた。
 その表情をいつか、どこかで見たような気がして。
 吉澤はぐしゃぐしゃに短い髪の毛を撫でてた。

「バカは風邪引かないっていうでしょ?ま、あたしはうつったとしても明日明後日は大丈夫だし
 工藤一人にしとくのも心配だったし。ね、嬉しいでしょ」

 工藤のおでこより一回り大きい大人用のジェルシートは産毛に絡まり端が捲れている。
 髪の毛を撫でた手そのままで、剥がれかけたシートをぐいぐい押して
 未だ申し訳顔の工藤の額にデコピンを食らわせた。

「…すごい、うれしいです」

「そうそう、素直になりゃぁいいんだって」

「本当は起きた時一人だったら、ちょっと寂しいなって思ってたんです。よかった吉澤さんがいてくれて」
24 :名無し飼育さん :2013/02/05(火) 01:43



 ―――――― よかった、よっすぃ〜がいてくれて。



 そうだ、あの子達に似てるんだ。
 どこかでみたような気がしたのは、あいつらだったんだ。

 一人体調を崩せば見計らったようにもう一人も体調を崩す。
 偶然でしかないはずなのに、あたしたちは顔を見合わせて笑った。
 そしてその時も、こうやって傍にいて水を飲ませたりジェルシートを取り替えてやったり。
 伝染るから立ち入り禁止だとマネージャーに止められても、やっぱり心配で一人ぼっちにさせたくなくて
 目を盗んでは楽屋に忍び込んで声をかけた。


「工藤が思ってるよりもっともっと甘えても大丈夫だよ。」


 もっともっと迷惑かけても大丈夫なんだ。
 どうせすぐに出来なくなってしまうんだから、今のうちにもっともっと。


 吉澤が見る工藤の姿は自分と同期の少女とどこか重なって見えた。
 やんちゃではちゃめちゃで世話が焼けて泣き虫で、それでいてたまらなく愛おしいあいつら。

 もう彼女達にあたしの手は必要ない。
 世話を焼く事も、小言を言う事も、そんな日はもう来ない。


「ほんっとね、年下ってかわいーんだよ。むかつくけど、何されてもね」

25 :名無し飼育さん :2013/02/05(火) 01:44


 どうしようもなく愛おしく、そしてほんの少し苦いあの頃の記憶が蘇る。
 なんとなく、あの頃のあたし達に似てるんだ。だからこうして手を焼きたくなったんだ。

「よしざわさぁん」

 殆ど泣いているような声で工藤が名前を呼ぶ。
 何を思っているのか、大きな垂れた瞳からは今にも涙が零れ落ちてしまいそうだった。

「情けねー声出さないの。すぐ下がるよ、熱くらい」

 不意に零れた涙を拭おうと吉澤が手を伸ばした時、その手が掴まれドキリと心が跳ねた。
 そう、こんなところまであいつらと一緒だなんて。
 いくらか小さな工藤の手が吉澤のそれを捉える。
 吉澤は工藤がやりたいように右手を委ねた。


「ごめんなさい」


 ―――― よっすぃ〜いつ治るかなぁ。ごめんね、出られなくてごめんね


 懐かしさに鼻の奥がじんとした。
 だからぎゅっと小さな手を握ってやった。

 工藤はそのチカラに安心したように吉澤の手を両手で包み、自分の頬近くに引き寄せた。
 ありがとうございます。呟いた言葉は掠れて殆ど聞こえなかったが、吉澤は笑って答えた。


26 :名無し飼育さん :2013/02/05(火) 01:45


 いつまでも守ってくれる人がいるんだから安心しなよ。
 それから、いつまでも無邪気でいてよ。あの頃あたしたちはそれに助けられてたんだ。


 工藤の瞬きが重くなり、次第にその間隔が広がる。
 それでも眠るのを渋るかのように工藤の瞳は時々吉澤の姿を捉えた。  
 そんな姿までも彼女達と重なり吉澤は微笑んだ。

「飯窪と石田が戻ってくるまでここにいるから大丈夫だよ」

 工藤が長い瞬きをするタイミングを見計らい手の平で目元を覆う。
 吉澤の手の平から伝わる体温と握ったチカラに安心し、工藤はやがて穏やかな寝息を立てた。



 終演まであと20分。
 この子の同期が迎えに来るまでもう少し、思い出に浸っていようか。
 吉澤はそっと、被せた手をどけ柔らかな髪の毛を撫でた。

27 :名無し飼育さん :2013/02/05(火) 01:45


28 :名無し飼育さん :2013/02/05(火) 01:45

29 :名無し飼育さん :2013/02/05(火) 01:48
以上
>>21-26『かぜっぴきのあいつ』吉澤工藤

吉澤さんがゲストで出たハロ紺の次の公演で工藤が欠席をした、というところから。
(どぅの憧れの先輩?は吉澤さんだそうな!!!)
4期と10期のメンバー構成が似てません?
10期見てて懐かしくなったりするんです。
30 :名無飼育さん :2013/02/06(水) 07:17
いいです これすっごい好きです
4期と10期似てるって激しく同意です
31 :名無し飼育さん :2013/03/01(金) 23:19
>>30さん
ありがとうございます!うれしいです
似てますよね!よかった同意してくれる方がいて

32 :名無し飼育さん :2013/03/01(金) 23:25
更新します。

33 :名無し飼育さん :2013/03/01(金) 23:25


 
34 :名無し飼育さん :2013/03/01(金) 23:26

 高校の正門前がちょっとした騒ぎになっている。
 誰かの話によると『イケメン』が立っているらしい。
 どうぜ誰かの彼氏がかっこつけて迎えに来た、そんなところか。

 女子ばかりの生活に飽き飽きしている年頃の少女達はこぞって窓から身を乗り出したり
 用事もないのにわざわざ正門まで出かけたりしていた。
 
 女子高というものは校則が厳しい。
 第一ボタンが開いているだけでも注意を受けるし、スカート丈はもちろん変えることなど出来ない。
 ソックスに通学カバン、髪ゴムに至るまで規制されている。
 知っている人がどれほどいるかは分からないが、生徒手帳の『校則』欄には
 男子との不純な交際を禁ずる。とまで書かれている。
 すなわち、校門前での待ち合わせは完全に校則破りで指導対象となる。
 それが『純粋』な交際であれば対象外だが…ありえない。

 イキリガオで待つ彼氏はきっとガタイのいい教員に強制連行され説教を受ける。
 どんな罰が待っているのか聖のしったことではないが、ろくな目に遭わないことくらいは分かる。
 
 ただ自慢したいだけ、見せびらかしたいだけ。
 高校生の恋愛なんてそんなもんだ。

35 :名無し飼育さん :2013/03/01(金) 23:28

 聖は亜佑美と一緒に人ごみを掻き分け廊下を歩いた。
 今からクレープを食べに行くのだ。門限の五時まであと一時間半しかない。
 一分一秒と無駄には出来ない。

「ね、ほんっとイケメン。誰の彼氏?」
「知らないよー。三年生じゃないの?さすがに一年でこんな騒ぎ起こしてたら目つけられるよ」
「チャラ男だね。蛍光のパーカーって」
「でもすごくない?あれ、着こなしてる。」

 廊下で立ち話をする女の子に見向きもせず二人はずんずん歩みを進める。

「黄緑着こなすってだいぶ凄いよね。結構オシャレかも」
「うん、あたし嫌いじゃない」

 脇目も振らず、興味も持たず。
 そのはずだったのに。

「ね、亜佑美ちゃん。聖ちょっと嫌な予感がする」

 中学から女子校の聖にとって気軽に話せる男友達は皆無に等しい。
 だが、ひっかかるフレーズがあった。

 窓から身を乗り出す女子から声が上がる。

「やば!連れてかれるよ!逃げてー」

 きっと『イケメン』からは死角になっているだろう。
 だが、聖たちの居る二階の校舎からはよく見える。
 職員室から生徒指導担当のガタイのいい教員が中庭を横切って正門へ向かっている。
 
「その予感、当たってるかも」

36 :名無し飼育さん :2013/03/01(金) 23:30

 亜佑美は苦笑した。それしかできなかった。
 聖に男友達が殆ど居ないことは知っている。自分にも数えるほどしか居ない。
 しかし、『黄緑色が似合うイケメン』に心当たりがあった。
 今ハマっているアイドルのイメージカラーが黄緑色で
 目に付いてしまう、買っちゃうと言っていたイケメンを知っている。

「きみどりくーん!逃げなってー!!」

 野次馬と同じになって二人は窓から身を乗り出した。
 黒地に蛍光黄緑のアクセントが激しいパーカー、緩めのジーンズ。
 見覚えのあるロゴがインディゴの生地に描かれている。
 確か、セールで買ったお気に入りの…


「えりぽん!!!!」

 聖が叫んだ。

 校門前に立つ『イケメン』は見間違うはずもない、聖のお向かいさんで幼馴染の衣梨奈だった。
 2年ほど前、ロングな髪の毛をばっさりと切った。
 ワックスの使い方も手馴れたもので、いつも短い毛先を遊ばせている。
 えり、イケメンやろ?
 最近彼女の中でボーイッシュスタイルがブームらしい。


 確かにイケメンだが彼女は女だ。
 彼女が咎められる必要はない。紛らわしいが。

37 :名無し飼育さん :2013/03/01(金) 23:35


「せんせー!待ってー!!!」


 ここからはきっと声が届かないだろう。
 だが二人は叫びながら走った。
 階段を一段飛ばしで駆け下り、最後は三段ほどを飛び降りた。
 上靴からローファーに履き替えるのももどかしく、そのまま中庭を突っ切る。

 髪の毛を短くすると伸びたところが妙に気になるらしく、こまめに美容院に通っているらしい。
 確か今日行くと言っていた。そして聖に見せにいくとも。

 でもまさか、学校までくるとは思わなかった。


「えりぽんっ!!!!」
 

 野次馬が一斉に聖を見る。道が開いた。


「先生、この人女ですっ!!!」
 



 衣梨奈は右手を挙げ余裕たっぷりに答えた。
 それがあまりにも『イケメン』で、見慣れたはずの彼女の姿に聖は言葉を失った。


38 :名無し飼育さん :2013/03/01(金) 23:35

 
39 :名無し飼育さん :2013/03/01(金) 23:36

 
40 :名無し飼育さん :2013/03/01(金) 23:40
以上
>>34-37『カンチガイイケメンショウジョ』ぽんぽん

わざと、迎えにいくいたずらえりぽん。
幼馴染から関係がかわるのか…それはわかりませんw

41 :名無し飼育さん :2013/03/02(土) 00:07
続けて更新します。
42 :名無し飼育さん :2013/03/02(土) 00:07

43 :名無し飼育さん :2013/03/02(土) 00:09

 数日前に比べると確実に表情が柔らかくなっている。
 ベッドに寝転びならがiPhoneの画面に指を滑らせるガキさんのほっぺたを
 指先でそぅっと撫でながら実感する。

 一ヶ月ほど前までこんなことをした所でiPhoneから視線をはずしてくれなかったし
 バッドコンディションの時なんか、今はやめて。と軽く睨まれたりもした。

「なによーかめぇ」

 声が柔らかい事を確認してからガキさんのほっぺたをふにふにと弄ぶ。
 化粧水をたっぷりと含んだそこはつやつやすべすべで心地いい。

「ガキさんのほっぺを楽しんでるんですぅ」
 
 鈍感なんだか敏感なんだかわからない。
 それは昔から変わらない。
 よぉく見てるフリして実は全然見えてない事があったり
 分かってる中にごっそり抜けている部分があったり
 人の変化はすごくよく気付いてあげられるのに、自分のことはさっぱりだったり。

「もーなにぃ?」

 今日のガキさんはどうやら優しいモードだ。
 iPhoneのディスプレイを滑っていた指が絵里の髪の毛に伸びる。
 頬にかかった髪の毛をそっと耳にかけてくれた。

44 :名無し飼育さん :2013/03/02(土) 00:15


 役に入り込みすぎて出てこれなくなっちゃうんじゃないかって
 新垣里沙を忘れちゃうんじゃないかって


「本物の新垣里沙を見失わないでください。絵里はね、それがちょっとこわいんです」


 ガキさんの長くなった前髪を掻きあげた。
 そして絵里にしたのと同じように、指で梳いて耳にかける。
 ガキさんはくすぐったそうに肩をすくめた。
 
 ほんの少し情けない顔して。

「大丈夫だよ、カメ。そんな心配いらないよ」

「ガキさんは自覚してないと思うけど、顔が全然違うんですよ?今はすっごい優しい顔してる」

「少し前までは?」

「ちょっと、こわかった」


 不意にガキさんの髪の毛を撫でる絵里の手をつかまれて心が跳ねる。
 ガキさんが距離を詰めた。鼻先が触れるくらい、近づいた。

45 :名無し飼育さん :2013/03/02(土) 00:17

「…ごめんね、カメ」

 
 近すぎてどんな顔をしてるのか見えなかった。
 だけど、伏せられた睫が、静かな呼吸が震えている。
 

「ううん、ちがうの。ごめんねなんてゆってほしくない」


 聞きたいのはそんな言葉じゃない。
 絵里はそんなことを求めてるんじゃない。


「自分の決めた道を真面目にまっすぐ進むガキさんすっごくかっこいい。
 絵里は誰よりも応援してるんだから。だからね…」


 頑張りすぎる小さな体をぎゅうっと抱きしめた。
 

「一緒にいるときは絵里とこぉやっていてほしいな。また明日から頑張れるように」

46 :名無し飼育さん :2013/03/02(土) 00:23

 ガキさんが大きく息を吐き出したのが分かった。
 背中に腕が回る。パジャマをぎゅうっと掴まれた。


「かぁぁめぇぇぇー」

 甘えるみたいに絵里の首筋に顔をすり寄せる。
 ガキさんが戻ってきた。
 絵里はうれしくなって抱きしめる腕にぎゅうぎゅうと力を込める。


「がぁぁきぃぃさぁぁぁん!だいすきー!」

「うぉーやめてーはずかしーい」

「え、今更ですか?」

「急に真面目に戻らないでよ」

「うへへぇ。がきさんだぁ!ガキさん、おかえりぃ」


 もし自分を見失いそうになったら絵里が必ず引き戻してあげる。
 ガキさんがゼロに戻る場所がここでありますように。
 
47 :名無し飼育さん :2013/03/02(土) 00:30


 
48 :名無し飼育さん :2013/03/02(土) 00:30

49 :名無し飼育さん :2013/03/02(土) 00:34
以上
>>43-46『ゼロに戻る場所』ガキカメ

ブログの写真みて思いました。
次作品の稽古しだして顔つき変わったなー、なんて
そんなところから。
50 :名無し飼育さん :2013/03/02(土) 01:34
ショック!ごっそり抜けてました。
付け足します…orz
51 :名無し飼育さん :2013/03/02(土) 01:35
>>43


 目が優しく細められる。
 白い歯を見せ、ふふっと笑った。
 
「どうしたのよ」

 そういえば、こんなに近づいたの久しぶりかも。
 頑張る背中じゃなくて顔を見るのは、久しぶりかも。

 シングルのベッドで肩を寄せ合いぬくぬくとした時間を過ごす。 
 近い距離で見つめて触れる。ガキさんの呼吸が心臓の音が聞こえてくる。

 
 卒業後立て続けに決まった舞台のお仕事を毎日忙しくこなしている。
 難しい顔をしながら台本を眺めていたり、役作りのためにエクステを付けたりメイクを変えたりしていた。
 
 新しい役がつくたび、ガキさんの表情はころころ変わる。
 びっくりするくらい落ち着いたり、なんだかネガティブモードになったり
 そうかと思えば今までにないくらい強気になったり。

 役の中の女性に完璧になりきるガキさんはすごいと思う。
 すごいと思うけど、絵里は。


「絵里ちゃんはガキさんを心配してるんですよ」

「なにをー?」


 鈍感、だから。
 お家に帰ったら、役から抜け切れてるなんて思ってるガキさんだから

 
「自分のことについてはすごく鈍感なガキさんがしんぱいなんですよ」


>>44-46
52 :名無し飼育さん :2013/03/02(土) 01:37
ほんとに以上
>>43
>>51
>>44-46

で読んで下さい。ガキカメでした。
53 :名無し飼育さん :2013/03/18(月) 00:44
更新します。
54 :名無し飼育さん :2013/03/18(月) 00:54

 里保が風呂から上がると、亜佑美はメガネをかけたままスマートフォン片手に眠りに落ちていた。
 よっぽど眠かったらしい。移動中を除いてメガネをかけたままの寝顔を見るのは初めてだ。

 春菜は基本的に1日を通してずっとコンタクトレンズを着用しているらしいが
 亜佑美は1つの仕事が終わるたびコンタクトを外しメガネをかける。
 裸眼の里保からしてみれば、単純にずっとコンタクトつけてればいいのに。と思うのだが
 
 そーはいかないんですよ、鞘師さん。

 なんてドヤ顔で言われたことがある。
 そーはいかない、その理由は教えてくれなかったが亜佑美なりのこだわりでもあるのだろうか。


「あーゆーみーちゃーん」

 
 びっくりさせない程度の声で呼びかけたが、そんなので起きるはずもなく
 むにゃむにゃとでも言いそうに形のよい唇を動かしただけだった。

「あ!」

 何か思うより早く、里保の体が動く。
 亜佑美がメガネをかけたままうつ伏せに寝返りを打ちそうになり
 慌ててメガネを抜き取った。 

「おぉぉ。あぶないとこだった」

 素早い対応に我ながら関心する。
 里保は亜佑美を起こすことなくその任務を達成した。
55 :名無し飼育さん :2013/03/18(月) 00:57
 
 メガネケースは…と、きょろきょろとあたりを見回がそれっぽいものが見当たらない。
 仕方ないので亜佑美の枕元へ置いておこうとそっと手を伸ばした時
 急激に湧き出した中学2年生の好奇心。

 このメガネをかけてみたい!!!!

 
 亜佑美がほぼうつ伏せの状態で眠っているのを確認してから里保はにやりと口の端を持ち上げ
 ゆっくりと黒縁メガネを装着してみる。

「うおぁ!」

 亜佑美の視力がどれくらいか聞いたことはなかったが、これはなかなかにきついメガネだ。
 いつも見ている景色よりすべてのものが小さく見える。
 そしてぎゅっと凝縮されているように感じる。

「おぉ、これは目が痛くなるぅ」

 一人できゃっきゃと笑いながらメガネを外し、今度こそベッドボードに手を伸ばしかけたが
 ここでまたじわじわと沸いてくる好奇心。


 亜佑美ちゃんはどれくらい目が悪いのか

 
 里保はメガネを持ったまま、亜佑美が眠るベッドから二歩後ろへ下がった。
 
56 :名無し飼育さん :2013/03/18(月) 00:58

「あーゆーみーちゃーーん!!!!!!」

 次は気遣うことなく大声で呼びかける。
 うっ?とびっくりした呼吸の後、ゆっくりと瞼を持ち上げた。
 里保は動かない。

「あ…。あたし寝てました?」

 薄茶色の瞳が鞘師を捉える。が、その目はすぐに細められ眉間に皺が寄った。

「あ、れ?メガネ…」

 亜佑美の手がぱたぱたとベッドの上を這う。
 手を伸ばせば届く範囲にいつも置かれているそれが見当たらない。
 しかし、以前にも同じような事件があったのか亜佑美は目を細めたまま、里保を見た。

「鞘師さん、あたしのメガネ持ってます?」

 亜佑美から見た光景はどんなだろう。
 里保は何も言わずメガネを持った右手をあげた。
 だが亜佑美からの反応は薄い。

「持ってます?」

「持ってるよ」

 見えていないようだ。
 たった2歩先にある自分のメガネの存在が確かなものでない。

「亜佑美ちゃんかけっぱなしで寝てたから。寝返り打ってあぶなかったよ」

「あちゃー。最近気を付けてたのに。寝返り打って顔面ぶつけちゃうと痛いんですよね」

 亜佑美は目の辺りを擦りながら右手を差し出した。

「助けてもらってありがとーございます」

 そう簡単に返すわけにはいかない。
 里保の好奇心はまだ満たされていない。
57 :名無し飼育さん :2013/03/18(月) 01:01

「ね、亜佑美ちゃん。」

「なんですか?できればメガネを返してもらってからお話したいんですけど」

「そこからあたしの顔見える?」

 亜佑美の表情が険しくなった。
 眉間の皺が色濃くなっている。

「正直全然見えないです。ぼやけちゃってのっぺらぼうです」

「あたしの顔が薄いとかじゃなくって?」

「っ!なんですかそれ。そんなわけないじゃないですか。
 鞘師さんが赤いTシャツと黒のジャージを穿いてる事は分かりますけど
 そのシャツの柄とか、鞘師さんの持ってるものとか表情なんかは全然分かりません」

 じゃぁ、そう言って里保は1歩亜佑美に近づいた。
 
「見える?」

「や、ぜんっぜん」

「じゃぁ、見えたら教えて」

 これは楽しいぞ。
 内心里保はうきうきしていた。
 
 どこまで近づいたら亜佑美は表情を捉えてくれるのか
 なぜか分からないがすごく楽しい実験のような気がする。
 里保は自分の足の大きさ分ずつ距離を縮める。
58 :名無し飼育さん :2013/03/18(月) 01:04

「まだ?」
「まだです」
「まだ?」
「お、ちょっとだけきてます」
「じゃぁこれでは?」
「あと一息」
「じゃん!」
「おぉ!鞘師さん!!」

 気が付けばもう、息がかかってしまいそうな距離だった。

「こんなに近いけど、まだちゃんと見えないの?」

「多分あともうちょっと近づいてくれたら完璧ですよ」

 正直ここまでとは思わなかった。
 里保はあまりの近さにどぎまぎしてしまい、あと少し近づくことに戸惑う。
 しかし反対に亜佑美は里保の顔がどんどんクリアになっていくのが嬉しいのか
 どこか楽しそうな表情を浮かべている。

「じゃ、いくよ」

「はい。」

 じわり、里保の足が動いた。
 距離がさらに詰められる。

 これでどう?そう言おうとしたその時
 亜佑美の顔がぎゅっと近づき里保は驚きに息を止めた。
 距離がゼロになる。唇に温かいものが押し当てられた。

「…!」

 柔らかくて、温かくて、気持ちいいもの。
 それが亜佑美の唇だと分かるのに時間は必要ない。
 
 ちゅっ、とわざとらしくリップ音を立てて唇が離れる。
 視界が明るくなったその先には二カっと笑う亜佑美がいた。
59 :名無し飼育さん :2013/03/18(月) 01:10

「あんまり近すぎてもはっきり見えないもんですね」

「ちょっ!亜佑美ちゃん」

 驚いている里保の右手からさらりとメガネを奪う。
 あるべきところへ。亜佑美の輪郭へしっかりと収まった。

「へへへ。楽しかったですよ鞘師さん。」

「もう!だましたな!」

「いや、だました訳ではないです。最初はホント全然見えなかったんですから」

 頬を膨らませ抗議する里保。
 今はその顔がしっかりと見える。
 それはもうニヤけてしまうくらいに

「ホントはどこから見えてたの?」

「1歩と半分近づいてくれた時にはもうほとんど見えてました」

「えー!ずるい!」

「どこまで近づいてきてくれるかなーって思って」

 亜佑美は里保の膨れた頬を指でつつく。
 空気が抜けて、薄い唇が尖る様が面白い。

「かわいかったですよ、至近距離の鞘師さん」

「そんなコメントいらないよぅ」

「ホントですから」

「でもさ」

 尖った唇の里保が亜佑美の隣に腰を下ろす。
 スプリングが音を立て、ベッドが沈んだ。

「ちゃんと見えててよかった」

 戻ったはずのメガネを再び奪われる。
 あ、と言う声は里保の所為で音にならなかった。
60 :名無し飼育さん :2013/03/18(月) 01:12

「いつも、全然見えてないのかと思っちゃった」

 柔らかく何度も押し付けられる唇。
 その柔らかさを感じながら可愛い人だ、と亜佑美は口の端を持ち上げた。


「見えてますよ、しっかり見えてます。ほくろの数がかぞえられるくらい」

「じゃ、何個あるか教えてよ」

 里保の手がベッドサイドの小さなテーブルに伸びた。
 コトリ、と音がしてメガネが安全な場所に置かれる。

「ほくろって数えたら増えるんですよ」

 楽しい実験の結果がこうなるとは予想外だったな。
 亜佑美は里保の頬を親指でなぞりながら、体にかかる力に素直に従い再びベッドへ体を沈めた。
 白くつるりとした頬に、アクセントのようにちりばめられたほくろ
 この距離ならメガネがなくてもはっきりと見える。
 
 亜佑美は里保の顔を見上げながら目を細めて笑った。


61 :名無し飼育さん :2013/03/18(月) 01:13

62 :名無し飼育さん :2013/03/18(月) 01:17
以上
>>54-60『メガネをつかった楽しい実験』さやしだ

だーさんはやっぱり一枚上手であってほしい。
※石田さんのメガネ事情はすべて想像です
63 :名無飼育さん :2013/03/20(水) 22:47
だーいし眼鏡をかけて遊ぶりほりほきゃわわw
鞘石の駆け引き良いですね!萌えます(*´Д`)
64 :名無し飼育さん :2013/04/25(木) 01:45
>>63さん
ありがとうございます。
鞘石は常に駆け引きしてるイメージ!
この二人はなんか…萌えますねw

65 :名無し飼育さん :2013/04/25(木) 01:46
更新します。
66 :名無し飼育さん :2013/04/25(木) 01:50

67 :名無し飼育さん :2013/04/25(木) 01:50

 背中に妙な温かさを感じて目を覚ました。
 おやすみを言ったときにはなかった温かさだったが
 それが何か、すぐに察しが付いたので亜佑美は大して驚くこともなくゆっくりと寝返りを打った。

 想像通りすぐそばに里保の顔がある。
 薄い唇をほんの少し開いて静かに寝息を立てている。
 いつの間にこちらのベッドに移動してきたのか全く気が付かなかった。
 
 そういえば、と亜佑美は里保が自分より随分早く眠っていたことを思い出す。
 時間差で里保も今の自分のように不意に目を覚ましてしまったのだろうか。
 もしかしたら怖い夢でも見たのかもしれない。急に寂しくなったのかもしれない。
 
 柔らかく握られる手のひらが、亜佑美の背中に額を押し付け安心しきった顔で眠る姿が
 ひどく幼くそしてなぜか寂しげに映り、不意に堪らなく愛おしい気持ちが込上げた。
 たった2つ。その年の差を感じる気がする。

 まだこんなに幼かったんだ。

 亜佑美は里保との距離を縮め、年上の恋人がするみたいに
 そっと里保の頭を自分の方へ引き寄せた。

 鞘師さんが少しでも安心して眠れますように
 鞘師さんが怖い夢を見ませんように

 里保の温かすぎる体温を感じながら亜佑美はゆっくり目を閉じた。
68 :名無し飼育さん :2013/04/25(木) 01:51

69 :名無し飼育さん :2013/04/25(木) 01:51


70 :名無し飼育さん :2013/04/25(木) 01:55
以上
>>67『不意に目が覚めたその時に』さやしだ

ぱっと浮かんでぱっと書きました。
こういうシチュエーション、好きなんですw
不意に優しい顔をして年下の先輩方を『見守る』ような顔をするだーさんが大好きです。
71 :名無飼育さん :2013/04/29(月) 02:22
メンバーの寝顔は本当に可愛いですねぇ(*´∀`)
72 :名無し飼育さん :2013/05/01(水) 01:17
>>71さん
ありがとうございます。
可愛いですよね、特に鞘師と工藤は可愛いですw

73 :名無し飼育さん :2013/05/01(水) 01:24
更新します。マイナーカプ

74 :名無し飼育さん :2013/05/01(水) 01:25

 
75 :名無し飼育さん :2013/05/01(水) 01:26
 
 そこそこ長い時間を共にするようになったが
 友の行動は未だ掴めない。

 
 台本を広げながらソファでくつろいでいた愛佳だったが
 ただいま、と同時にニヤニヤしながら水着が表紙の写真集を見せ付けられた。
 これはどういう反応が正解なんだ、一瞬そんなことを思ったが
 それよりなにより、表紙に写る友のグラマラスな体に愛佳の本音がぽろりと漏れる。

「でかっ!」

 上がった口角をさらに上げる彼女。
 にぃっと、それはそれはうれしそうに。

「愛佳のために先々行発売してあげる。吉川友のキスマークつき」

「くれるんちゃうんか」

「そこは売り上げに貢献していただかないと」


 キスマーク付き、そんなことを言った友はその言葉通り写真集の表紙 
 しかも自分の胸元めがけて思い切り唇を押し付けた。
 んーまっ!とアニメみたいな効果音までつけて。

「はいどーぞ。見て頂戴」

 自信満々に手渡される。
 愛佳は台本を閉じて、できたてほやほやのキスマーク付き写真集を受け取った。
 グロスの所為で友の胸元がてかてかと光っている。
 これは更にいやらしい。さすがに口には出さなかったが。
76 :名無し飼育さん :2013/05/01(水) 01:27

「これ開けていいん?キスマーク付き」

 手渡された写真集はきちんと世に送り出される本物で、
 汚れや傷から守るための薄いビニールで覆われていた。

「開けて。見てほしいからもらってきたのに」

「そやけど…」

 
 うまく開けないと友のキスマークまで破れてしまう。

 不覚にもそんなことを思ってしまい、ぎりぎりのところでそれを飲み込んだ。
 危ない。そんなん愛佳ただの変態やんか。


「せっかく頂きましたキスマーク破れてもしらんで」

 なんでもないようなフリをしてコンコン、と表紙を指先で叩く。
 キスマークをつけた張本人はさして気にする様子もなく
 いーよぉ、なんて暢気な返事が返ってきた。大して価値のあるキスマークではないらしい。
 既に興味を失いつつあるのか、カバンを置いて冷蔵庫へ向かっている。
 持って帰ってきたときはあんなに嬉しそうだったのに。

 よーわからん

 愛佳は無性に悔しくなって、写真集の端のビニールが出ているところを爪で引っ掛けて破り
 わざとその部分が裂けるようにしてやった。 
 見事に半分に割れたキスマーク。ビニールはくしゃくしゃにしてゴミ箱に捨てる。
 
「あー!捨てちゃったの!?」

 冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した友が戻ってくる。
 一連の流れを見ていたのか、普段から大きい声を更に大きくして愛佳の隣に腰を下ろした。

「声でかいわ!やってあんなビニールだけどーやって残しとくねん。しかもさっきいーよぉゆうたやん」

「言ったけど。ま、いいけど」

「ええんかい」

「仕方ないから愛佳のほっぺにつけとく」

「は?」
77 :名無し飼育さん :2013/05/01(水) 01:29

 文句を言うより先に、頬に温かで柔らかなものが押し付けられる。
 それが友の言葉通り唇だということはすぐに理解できたが、どうも思考が追いつかない。
 写真集にしたときと同じように、んーまっ!とアニメみたいな効果音をつけて頬から唇が離れる。

 思わず頬を右手で押さえた。
 
「んふふー、先々行の特典だって言ったでしょー」

「はぁぁぁぁ?」

「そーいえば最近ちゅーもしてなかったななんて思ってね」


 頬を押さえた手をつんつんと触られる。
 おちゃらけた表情かと思えば意外とそうでもないようにも見えて
 愛佳は間抜けに口を開けたまま友を見つめた。

「写真集撮影で海外とかいったでしょ?そのあと舞台あったし、終わったと思ったら愛佳も舞台の稽古入ってさ」

 少し長めにそろえた愛佳の前髪に友の指先が触れた。
 髪の流れに沿ってそうっと撫でられる。
 優しい手つきといつの間にか色を変えた眼差しに愛佳は言葉を詰まらせた。

 そういえば、こんな風に優しく触られたのいつぶりだっけ。

「…思い出せえへんな」

「ん?」

「最後にちゅーしたのがいつかも思い出せへん」

「ねー、悲しい事実でしょ?てことで」


 髪に触れていた指先が頬に下りて、そのまま手のひらで包み込まれて。 
 友の顔が近づいてくる。愛佳は流れに任せて目を瞑った。
78 :名無し飼育さん :2013/05/01(水) 01:30

 すぐに唇へ来ると期待した友のそれは予想に反してまずおでこへ押し付けられ
 その後に瞼、耳、頬、鼻先、そしてようやく唇へ到着した。
 リップ音を立て何度か啄まれる。

「わー!めっちゃ久しぶりじゃない?この感じ」

 目を開けると心底嬉しそうな友の顔があった。
 頬を指先でふにふにと触られている。こんな感触も確かに久しぶりだ。

 すっかり友のペースに飲まれている。
 写真集のキスマークからこんなことになるなんて。
  
「やばいテンション上がってきた。美味しく頂いてもいいですか!」

「あほか!ちょっといい雰囲気やったのになんでわざわざ壊すねん!」

 
 それっぽい空気を意図も簡単に壊してくれる。
 そのくせ美味しく頂くとか言いやがる。
 いい流れでしてくれたらいいものの、いちいち聞かんといて。


「あんたはほんまによーわからん」

「嫌いじゃないくせにー」

「…勝手にゆーといて」

「じゃ、いただきます」


 
 友の行動は未だに読めない。
 だけどこうやって流されるのは嫌いじゃない。

79 :名無し飼育さん :2013/05/01(水) 01:31


80 :名無し飼育さん :2013/05/01(水) 01:31

 
81 :名無し飼育さん :2013/05/01(水) 01:33
以上
>>『きっかけはYOU』みつきっか

あぁワンパターン。精進したいです。
きっかお誕生日おめでとう!!写真集の表紙は本当に目のやり場に困ります

82 :名無飼育さん :2013/05/02(木) 22:11
あの発表からもうすぐ1年
愛佳誕生日をサプライズで祝うきっかを見るとはその時は思ってもいませんでした。
83 :名無し飼育さん :2013/07/04(木) 01:32
>>82さん
あの発表から1年だった当日はなんだか複雑な感情を思い出して
複雑な気分に浸ってました。
忘れたころにやってくる愛佳きっか、これからも期待したいですw


84 :名無し飼育さん :2013/07/04(木) 01:34
久しぶりに更新します。
先日の舞台のネタバレが少し含まれます。
内容までは触れてませんが、いやな方は回避お願いします。
85 :名無し飼育さん :2013/07/04(木) 01:34


 
86 :名無し飼育さん :2013/07/04(木) 01:35


 暫く時間空くから好きにしてていいよ、誰かがそう言った瞬間あたしは机に突っ伏して瞼を閉じた。
 心地よい疲れと、その奥にある重くドロドロとした疲れが身体を支配している。
 すぅ、と何かに吸い込まれていくように意識が遠のいていく。




 微睡みと覚醒の狭間。
 夢と現実が交差する。

 自分が今どこにいて、何をしていたのか

 ふわふわとした意識の中で明確なそれ掴むことができず
 あたしは急に不安になって彼女の名前を呼んだ。

 
「リオン」


 返事はない。
 だけど彼女はあたしの傍にいることを知っている。


「リオン、返事して」


 あたしを一人にしてどこかへ行かないことも知っている。
 彼女は優秀な侍従だ。
 

「リオン」


 三度目に彼女の名前を呼んだとき、求めていた声が直ぐ後ろで聞こえて
 あたしは頭を持ち上げ振り向いた。
 だけど、部屋中に白い靄がかかっていて近くに居るはずの彼女の姿を捉えることができない。

 
87 :名無し飼育さん :2013/07/04(木) 01:36

「姫、どうされたのですか?」


 声の方へ手を伸ばした。
 その手は予想通り、細い指に捕まえられる。


「姫。」


 指先に感じる温かさ。間違いなくリオンの手だ。
 あたしはその温かさに安心し机に頭を預け瞼を閉じた。
 それから離れないようにしっかりと指先に力を込める。

「姫?」

 彼女の気配が近づいた。

「リオン、あたしは今どこにいて何をしていたの?思い出せなくなって困ってるの」



 ねぇリオン。あたしどうしたらいい?



「姫…」

 リオンがふっ、と笑ったような気がした。
 やっぱりリオンはなんでも知っている。
 
 頭に降ってきた優しい掌の温もりを感じながら
 あたしはまた、何かに吸い込まれていくような感覚に陥る。
  
「姫、まだゆっくりお休みください。
 そしてその時が来たら私が必ず起こしますから」


 ありがとう、そう言ったはずの声は掠れて音にならなかった。
 だからその言葉が彼女に届いたかは分からない。
 
 だけど頭を撫でてくれる優しい掌に安心し
 現実世界に辛うじて留まっていた意識をすっかりと手放した。
 
 
 リオンが傍にいる。
 そう思うと何も怖くない。
 たとえ自分自身を忘れたとしても。

88 :名無し飼育さん :2013/07/04(木) 01:37

 …
 ……
 ………



「鞘師さん寝ました?」


 遥が小さな声で問う。 
 聖は机に突っ伏したまま動かなくなった里保の顔を覗き込んだ。

「寝たみたい」

 しーっ、と人差し指を唇に当てた聖の仕草を確認してから
 遥は里保を撫でる手を止めた。

「びっくりしたね。いきなりリオンの名前呼んだりして」

 眠る里保と少し距離を置き、聖は椅子に腰掛けた。

「相当印象に残ってたんでしょうね。もしくは今、夢見てたとか?」

 遥は里保に囚われたままの指先を弱い力で引っ張って解放を試みたが、意外としっかり掴まれているらしく
 仕方なく繋がれたまま隣の椅子へ静かに腰を下ろした。

「どぅー、このままじゃどこにもいけないね」

 繋がったままの指先を見ながら聖が少し楽しそうに笑った。
 遥は困ったように、だけどほんの少し嬉しそうに溜息をつく。

「どうしよっかなー。ま、別にハルやることなかったし、このまま姫をお守りしますかね」

 繋がった指先を小さく動かす。
 もうすっかり彼女の傍にいると心に決めた侍従の顔は穏やかでそして凛々しかった。
89 :名無し飼育さん :2013/07/04(木) 01:39

「なんかちょっと羨ましいんだけど」


 机に顎を乗せわざとらしくむくれてみせる。
 今の言葉がどちらに向いているのか聖自身わかっていない。

 優秀な侍従に守られている姫になのか
 それとも無防備な姫を守っている侍従になのか

 分からないけどなんだかすごく悔しくなって聖も里保と同じように腕を枕に突っ伏した。
 

「リオン、わたくしの事も守ってくださる?妹と一緒に夢の世界へ旅立ちまーす」

「えー!譜久村さんもですか!?」


 遥の抗議を無視し、聖は目を閉じた。

 
「仕方ない、リュウ姫様もお守りしますよ」


 
 落ち着いたトーンの声を聞きながら、
 さっすがリオン、そう言ってくれると思ってた。
 なんて口の中だけで呟いてゆっくりと意識を手放した。 
 
90 :名無し飼育さん :2013/07/04(木) 01:39


91 :名無し飼育さん :2013/07/04(木) 01:39


92 :名無し飼育さん :2013/07/04(木) 01:44
以上
>>86-89『優秀な侍従と眠り姫』ふくさやはる

とても素敵な舞台でした。
侍従と姫、フェイとリュウ
どちらの関係も独特の雰囲気、良さがあって好きでした。

93 :名無飼育さん :2013/07/10(水) 03:39
鞘ハル?それともフクどぅーですか??
もっとください><
94 :名無し飼育さん :2013/07/13(土) 01:00
>>93さん
ありがとうございます。
鞘ハルでありフクどぅーであり、フク鞘でもあったりしますw
また書けたら、書きたいと思いますっ!
95 :名無し飼育さん :2013/07/13(土) 01:02

更新します。
96 :名無し飼育さん :2013/07/13(土) 01:02


97 :名無し飼育さん :2013/07/13(土) 01:03


 ディスプレイが教える珍しい人からの着信。
 さゆみは風呂上りの髪の毛を乾かす手を止めて端末に指を滑らせた。

「もしもしー」

「あ、道重さん?」

「はい道重さんですよー。鞘師がかけてくるなんて珍しいね」


 何かよからぬことでも起こったのかと一瞬構えたが聞こえる声は至って普通で
 

「今、電話…だいじょぶでしたか?」

「りほりほからの電話ならいつでも大歓迎だよ」


 インタビューではすらすら言葉が出るのに、普段になると少しつっかかる所もいつもと一緒だ。


「いひっ。いつもの道重さんでよかったです」

「え?」


 いつもの、そう思っていたのはこちらだったのに
 電話先の相手から思いがけない言葉をもらった。
98 :名無し飼育さん :2013/07/13(土) 01:06

「今日会えなかったし…あの、それに」

 さゆみはソロでの仕事だった。
 結構なハードスケジュールで朝から色々なスタジオをハシゴしていた。


「それに?」

「ブログがなかったから、何かあったのかなって心配で」


 いくら同じクループだからと言って毎日顔を合わせるわけではない。
 毎日顔を合わせるわけではないが、いつかは必ず会えるので連絡を常に取っているわけでもない。

 この世界に入ってもう10年。メンバーの誰とも会わない日、は意外と多く存在するもので。
 最初の方こそ寂しい、心配、なにしてんだろ。なんて思っていたが
 いつの間にかそんな日にも慣れていた。

「りほりほ、ファンの人みたいなこと言ってる」


 だから、こんな風に言ってくれる里保がただ可愛かった。


「…わかってます。」

「ふふっ、さゆみは元気だよ。あ、元気って言うのはちょっとあれだけど
 ぶっちゃけすっごい疲れちゃってるけど、それ以外は何もないから大丈夫」


 なんとなく、里保も小さく笑っているのが分かった。
 

「それならよかったです」

「うん、ありがとね。鞘師」

「…明日は会えますね」

「そうだね」

「遅くにすみませんでした。おやすみなさい」

「学校頑張ってね。明日会えるの楽しみにしてるね」

「……おやすみなさい」

「おやすみ」

99 :名無し飼育さん :2013/07/13(土) 01:07

 ホッと心が温かくなるのが分かった。
 じわじわと身体を満たしていく。
 酷く疲れていたはずなのにそれは後輩の言葉で心地いいものへと姿を変える。


「かーわいい」


 さゆみはとっくに通話が切れた端末に向かって呟いた。


 明日会っても鞘師はきっとなんでもない顔をしておはようございます、って言うんだろうな。
 他の子より少し距離があって、二人での写真なんて滅多に撮らなくて
 ステージ上ではちょっと歪んでネタにする。
 

 不器用なのはどっちだろ。



 さゆみは小さく笑いドライヤーを手に取った。
 なんでもないはずの明日が楽しみになった。

100 :名無し飼育さん :2013/07/13(土) 01:08



続きを読む


掲示板に戻る 全部 次100 最新50

現在のスレッドサイズ:87678 byte

名前:

read.cgi ver5.27 + 0.02 (04/08/03)