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ミドルクリッピング

1 :宮木 :2012/11/30(金) 04:00
9、6、たまに85。ついでに10。
そんな短編をいろいろ。

前スレ
ジャストスターティング
ttp://m-seek.net/test/read.cgi/grass/1322315759/
239 :宮木 :2014/06/06(金) 17:31

舞台絡みからどぅーちょと生田さんで

>>223 名無飼育さん
感想をいただけ、書いてしまってよかったと思います。
振り回され笑う譜久村さん大好きですのでがんばってほしいですね。

>>224 名無飼育さん
まっすぐえりぽんにトキメクトキメケ。
またぽんぽん書いてしまっていいのかなと思いますがそう言っていただけて光栄です。
240 :名無飼育さん :2014/06/19(木) 02:18
どぅーちょに見せかけたどぅーいしとあやかのん、 素敵ですね
好みドンピシャの大好物でした。ごちそうさまです。
241 :名無飼育さん :2014/06/19(木) 02:19
どぅーちょに見せかけたどぅーいしとあやかのん、 素敵ですね
好みドンピシャの大好物でした。ごちそうさまです。
242 :名無飼育さん :2014/06/20(金) 02:26
大事大事
243 :宮木 :2014/08/04(月) 22:10


『夏空ペダル』

244 :夏空ペダル :2014/08/04(月) 22:11
駅前の駐輪場。
皆が雑に停めたせいで奥の方に停めた遥の自転車は出すのに時間がかかってしまった。
ガタンガタンと電車が通り過ぎる音と、近くの木に止まったらしい蝉がうるさい。
なんとか周りの自転車を倒さずに自身の自転車を引っ張りだした頃にはうっすらと汗ばんでいた。

終業式が終わり、明日からいよいよ夏休みが始まる。
見上げると青い空が広がり、ジリジリと照らしてくる太陽がこちらを見ていた。

遥は、学校終わりで友達数人とご飯を食べてきた帰りだった。
夏休みはどこへ行きたい。あんなことやこんなことをしよう。
今年は受験生。無責任にどんどんと広がった話が実現することはあるのだろうか。

ぼんやりと思いながら押していた自転車。
駅前のロータリーを過ぎようとしたところで、遥の足が止まった。

なにやら掲示板を見ていた女の人。
生温かい風が吹き、彼女の黒い綺麗な髪が靡く。

遥の記憶の中の彼女より、数段も大人っぽくなっていた。

思わず息を飲む。
引き寄せられるように近づいていく。
遥はそっと声を掛けた。


「和田さん」


振り返った彼女の澄んだ瞳が遥を捉えた。

245 :夏空ペダル :2014/08/04(月) 22:11




大学からの帰りだった。
いつもより少し早い帰宅になったのは、もうすぐ始まるテストのことでゼミの教授が用事があるらしくすることがなくなっ

たからだ。

地元の駅に到着し電車を降りると、むわっとした不快な空気が肌に触れる。
昼下がりの中途半端な時間だからか人は少ない。
まばらな人の合間を抜け改札を出る。

バス停へと向かおうとしたところで、気になっていた美術館のポスターを発見し、思わず彩花の足が止まった。
頭の中でスケジュールを開き、日程を確認する。
よし、大丈夫。どうやら行けそうだ。
にっこりと微笑み、その場を立ち去ろうとしたときだった。

「和田さん」

少し低めの声で名前を呼ばれた。
振り返るとそこには少女が立っていた。

短い髪に見覚えのある制服。
彩花が数年前に通っていた中学校の制服だ。

「あれ?覚えてないですか?」

残念そうに、苦笑いをこぼす彼女。
その顔を見て、彩花の記憶の中の映像と繋がる。

「あ、はるなんの妹の――」
「遥です」

久しぶりですね、と遥が微笑む。
246 :夏空ペダル :2014/08/04(月) 22:11
はるなん――春菜は中学校からの彩花の友人だ。
気が合い、二人はよく一緒に遊んだ。
今でも小まめに連絡を取り合って、時間があれば二人で遊んでいる。

その妹の、遥。
確か彩花や春菜とは5歳離れている。
春菜の家へと遊びに行き、何度か遥とも遊んだこともある。
遥がまだ小学生の頃の話だ。

数年ぶりに会った遥は、あの頃より随分と背が伸び、ショートカットになった髪の毛のせいもあるのだろうか、しゅっとし

ていてそれがまた似合っていた。

「和田さん、帰るとこですか?」
「うん、もう大学終わったから」

彩花の答えに、遥はそうなんですねと呟いたかと思うと何かを閃いたらしく「なら」と声を上げた。

「ハル、送っていきますよ」
「えっ、いいよ」
「駅からならどうせ家までの通り道ですから」
「え…」
「あれ?和田さん家って違いました?」
「ううん、合ってるよ」

一度だけ、春菜についてきた遥が家に来たことがある。
でもそれも、もうずいぶんと昔の話だ。
遥が覚えていてくれたことが嬉しかった。

「じゃあ座ってください」

遥が自転車の荷台をぽんぽんと叩く。
スカートを履いていた彩花がどう座ろうか悩んでいると「横向いて座るといいですよ」と教えてくれた。
手にしていた鞄を左肩に掛け、腰かけるように座る。

「じゃあしゅっぱーつ」

遥が声を上げ、自転車はゆっくりと動き出した。
247 :夏空ペダル :2014/08/04(月) 22:11




「じゃあしゅっぱーつ」

ペダルに力を込め、ゆっくりと自転車は動き出す。
が、漕ぎ始めの一歩で自転車が大きく揺れてしまった。

「わっ」
「ごめんなさい」
「彩、降りよっか?」
「大丈夫ですから」

二歩目、三歩目と漕ぐうちにすぐ自転車は安定した。

遥の背中のシャツを、ちょこんと遠慮がちに掴む彩花の右手。
いじらしくてかわいい。

小さい頃、姉と一緒に遊んでくれた彩花は無邪気で、ふわふわとした女の子という印象だった。
だが今、久々に再会した彼女はどこか知的な雰囲気すら感じる大人の女性になっていた。
それが少し遥に妙な緊張感を与える。
自身の神経がシャツ越しの彼女の手の感触に集中していくような気がして、遥は話題を探した。

「そう言えば、何見てたんですか?」
「ん?」
「さっき駅で。ポスターかなんか見てたみたいですけど」
「ああ、あれ。今度やる絵画展のやつでね」

嬉しそうに彩花が語り出す。
以前、春菜から聞いた話によれば彩花は美大に通っているらしい。
遥とは真逆の、遠い、綺麗な世界のように思える。
絵画の話は遥には少し難しくちんぷんかんぷんだったけれど、饒舌に喋っている楽しそうな彩花の声を聞くのは心地よかっ

た。
248 :夏空ペダル :2014/08/04(月) 22:12
「ちょっと遠いんだけどね、でも行きたい。ていうか行く」
「姉ちゃんと行くんですか?」

春菜とは何度か美術館に遊びに行っていると聞いた。
二人は本当に趣味が合う。

「どうだろ、大学は夏休みだけど、はるなんはお仕事あるし…」

春菜は高校を卒業して、そのまま就職し一足先に社会人となった。
学生と社会人では自由な時間に差がある。
寂しそうな彩花の声を聞いて、遥は自然と提案していた。

「じゃあハルと行きましょうよ」
「え?でも…」

彩花の戸惑う声が聞こえる。
遥が詳しくないこと、さほど興味がないことに気づいているのだろう。

でも、彼女となら。


「和田さんとなら、どこへでもついていきますよ」


たぶんそれは、楽しい。

249 :夏空ペダル :2014/08/04(月) 22:12




「和田さんとなら、どこへでもついていきますよ」

美術館へ行きたいと言った彩花に答えた遥の言葉。
社交辞令なのかもしれない。
でも、それでもそうやって気を遣ってくれる彼女のやさしさと、そういうことを言えるような年齢になったという成長が嬉

しかった。
ありがとう。そう言おうとした彩花をふいに遥が遮った。

「あ、ちゃんと掴まっててくださいね」

そう言って、遥がハンドルから右手を離し遥のシャツを掴んでいた彩花の手を掴む。
掴んだ彩花の手をそのまま自身の腹部へと回した。

「反対も」

言われた通り、彩花はそのまま左手も前に回す。
後ろから抱きつくような体勢になる。

華奢な体だった。
でも大きいと感じたのは、遥の優しさを感じたからかもしれない。

「この先、ガタンって揺れますから」

遥の忠告のすぐあと自転車が段差を乗り越える。
その衝撃で自転車が揺れ「キャッ」と声が出た。
遥は楽しそうに笑っている。
ガタン、ガタンと数度揺れた。
250 :夏空ペダル :2014/08/04(月) 22:12
「でもジェットコースターみたいで楽しい」
「和田さん、意外とこういうの好きなんですね」

遥が嬉しそうに言う。
自分は、遥にはどういう風に見えているのだろう。

「彩ね、こう見えて元陸上部だったし運動とか得意なんだよ」

中学時代は陸上部だった。
運動で汗を流し、日にだって焼けていた。
少し自慢げに言う彩花に、遥は意外な言葉を返した。

「知ってますよ」

続いた遥の言葉が、風に乗って彩花のもとへ届く。


「だって、姉ちゃんにくっついていつも見てましたもん、和田さんのこと」


それは、街路樹に止まった蝉に掻き消されることなくすっと届いた。

しかし、彩花はなんと返していいかわからず黙り込んでしまった。
一言で言えば、嬉しかった。
でもそれを素直に言えなかった。

照れてしまったのだ。
どうしようもなく、嬉しかったから。

沈黙になる。
でも優しい、心地の良い沈黙だった。

回した腕に少し力を入れる。
遥が今、何を思っているかはわからない。
でも、同じようにこの時間を心地よく思ってくれていたらいい。

251 :夏空ペダル :2014/08/04(月) 22:12




自転車はゆっくりと進んで行く。
普段ならもう駅から自分の家まで着いてる時間なのだけれど、後ろに彩花を乗せているということで安全運転だった。
これがもし、後ろに乗っているのが姉の春菜だったらお構いなくぶっ飛ばしていたに違いない。

夏の日差しがジリジリと二人を照らす。
汗が遥の短い髪の毛を伝う。

小さい頃よく遊んでもらった公園を曲がったところだった。
前方に見覚えのある後ろ姿を見かけた。
黒いストレートの長い髪。
噂をすればなんとやら、だ。

「あ、姉ちゃんだ」

遥がそう呟くと、「え、どこどこ」と後ろが揺れる気配がした。
身を捩りその姿を見つけたらしい彩花が大きな声で呼びかけた。

「はるなーん!」

彩花の声に振り返ったのは、遥の姉、春菜だ。
ペダルを漕ぐのをやめ、徐行しゆっくりと春菜の傍でブレーキを掛けた。

「彩ちゃん!」

春菜が嬉しそうに声を上げる。
252 :夏空ペダル :2014/08/04(月) 22:13
しかし、春菜が視線を向けるのは彩花だけ。遥はムッとした。

「ちょっ、ハルは無視かよ」
「あぁ、おかえり」
「なんだよ、そのついでみたいな感じ」
「だってあんたとは家で毎日会うじゃん」

二人の仲の良いやり取りをみて彩花が微笑む。

「はるなんお仕事は?」
「今日お休みなの」

ショップ店員をしている春菜は、土日が休みというわけではない。
きっとまた本屋にでも行ったのだろう。その手には買い物袋を下げていた。

「ところで二人で何してるの?」

春菜は改めて二人をジロジロと見て、珍しい組み合わせに不思議に思ったようだ。

「駅でたまたま会ってね。そしたら声掛けてくれて」
「んで、ハルが家まで送ってあげてるわけ」

遥が続けると「そう」と納得したようだった。
253 :夏空ペダル :2014/08/04(月) 22:13
「あ、そうだ。それなら私も一緒に行くよ」

春菜が嬉しそうに提案した。
それを受け、彩花までも乗り気になりそうだった。

「ダメ」

咄嗟に出た言葉だった。
焦りなのか。冗談なのか。悪戯心なのか。
遥は自分でもわからない。


「今日は和田さん、ハルのものだから」


そう宣言すると、遥は再び自転車を漕ぎだした。

「えっ、ちょっと」
「ばいばーい」

戸惑う春菜を置いて、遥はペダルに力を込めていく。

みるみる内に加速した自転車は、あっという間に春菜のもとを離れていった。
先程よりもスピードの出た自転車。

彩花は何も言わない。
遥も何も言えない。

風が頬を切る。
照れて、熱くなった頬を冷やすにはちょうどよかった。

254 :夏空ペダル :2014/08/04(月) 22:13




懐かしい公園の近くで春菜に会った。
つい最近も会ったとは言え、仲が良いから話は弾む。
春菜が私も一緒に行くと言ったときだった。

「ダメ。今日は和田さん、ハルのものだから」

遥がそう言って、突然自転車を漕ぎだした。
戸惑う春菜を置いてけぼりに自転車はどんどん加速する。

落とされないように彩花は遥の腰に回した手に力を込めた。

春菜が見えなくなった頃、信号が赤に変わり、ようやく自転車のスピードが落ちた。
ゆっくりと止まる自転車。
遥は何も言おうとしない。
だから、彩花は気になったことをそのまま聞いてみることにした。

「さっきのってさ…」
「はい?」
「はるなんに言ってたやつ。ハルのものだからって…」
「あ、もしかして迷惑でした?」

遥が少し心配そうに問いかける。
「ううん」と一言返すと、遥は安心したように「そっか」と笑った。
255 :夏空ペダル :2014/08/04(月) 22:14
全然、迷惑ではなかった。
普通、友人との会話を突然切られたら少しはムッときそうなものなのに、不思議とそうは思わなかった。

むしろ、少し嬉しかった。
それが何故かはわからない。

信号が青に変わる。
自転車が走り出す。
遥がゆっくりと言葉を続けた。

「だって、こんな綺麗な人、独り占めしてみたいじゃないですか」

遥が無邪気に笑う。
彩花はまた、何も言えなくなってしまった。
さっきからずっとこの調子だ。
遥の言葉に簡単に心臓が跳ねてしまっている。

一体、どうしてしまったのだろう。

256 :夏空ペダル :2014/08/04(月) 22:14


「和田さんの家ってここでしたよね」

遥の言葉に我に返る。
前方に我が家が見えていた。

「…あ、うん。そう、彩ん家」

家に着いてしまったことを、残念に思った。

自転車がゆっくりと家の前に止まる。
彩花は荷台から降り、遥に向き直す。

「送ってくれて、ありがとう」

彩花が礼を言うと、遥は「いえいえ」と爽やかに笑った。

数年振りにあった彼女。
それは偶然の再会だった。
次に会えるのはいつだろう。
そもそも次の確証なんてない。

それが、すごく寂しい。
257 :夏空ペダル :2014/08/04(月) 22:14

「じゃあ、気をつけて帰ってね」
「はい」

遥に手を振り、彩花が家へと歩き出す。
門を越え、玄関の扉を開けようとしたときだった。


「彩花!」


唐突に下の名前を呼ばれる。
わかりやすいほどに心臓が跳ねた。

驚いて、振り返る。
遥の大きな瞳が、彩花をまっすぐと見ていた。

「え…」

声が掠れ、自分でも狼狽しているのがわかる。
258 :夏空ペダル :2014/08/04(月) 22:15
そんな彩花の様子を知ってか知らずか、遥はもう一度「彩花」と呼んだ。


「――でしたよね、名前」
「えっ…あぁ、うん」

そういうことかと納得し、そして落胆していることに気づいてしまった。

「和田さんは自分のこと彩って呼ぶし、姉ちゃんは彩ちゃんって呼ぶから」

遥が微笑む。
中学生らしい、無邪気な顔だった。

「じゃあまた」

遥が手を上げ、自転車を漕ぎだした。
つられるように彩花も片手を上げ、手を振る。


もう一度会いたい。
美術館じゃなくてもいい。
どこかでまた会いたい。
そして、願わくばもう一度呼んでほしい。
あの声で。あの目で見つめられながら。
そう思いながら、彩花は小さくなっていく遥の後ろ姿を見送った。

ジリジリと焼き付ける太陽が肌を焦がす。
ジワジワと遥を思い胸を焦がす。

夏はもう、始まっていた。

259 :宮木 :2014/08/04(月) 22:15


『夏空ペダル』 おわり

260 :宮木 :2014/08/04(月) 22:17

ここ最近のどぅーちょすごいやばい。ロマンスですね

>>240-242 名無飼育さん
大事なことで二度も感想いただいて感謝です
どぅーちょとその周辺の人物模様が大変好きです
261 :名無飼育さん :2014/08/10(日) 04:13
久しぶりに拝見したら激キャワなお話がいっぱい!
ありがとうございます><
262 :名無飼育さん :2014/08/12(火) 14:10
初恋感たっぷりで読みながらドキドキしました
よい作品ありがとうございます
263 :宮木 :2014/10/29(水) 01:32


『スクレ』

264 :スクレ :2014/10/29(水) 01:32

どうしてそのことを知ってしまったのか。
知らなかったら、意識することなんてなかったかもしれないのに。


「聖って、こっそり『亜佑美ちゃん』って呼びよるとよ」


悪戯っ子のような笑顔で衣梨奈から聞いたこと。

隣のクラスの譜久村さんは、普段は私のことを『石田さん』と呼ぶ。
なのに私がいないところでは『亜佑美ちゃん』と呼ぶらしい。
何故、私のいないところで下の名前で呼ぶのか。


衣梨奈から聞かされた彼女の秘密。
あの日から、亜佑美はそれが気になってしょうがない。

265 :スクレ :2014/10/29(水) 01:32




HRが終わり放課後。
いつもはダラダラと帰りの準備をするクラスメートたちが今日はさっさと教室を出ていく。
不思議そうな顔をした衣梨奈が亜佑美のもとへやってきた。

「なんか今日、みんな帰るの早くない?なんかあると?」
「委員会でこの教室使うから。って、せんせーさっき言ってましたー」

委員会でこの教室を使うからだというのは先程のHRで担任が言ってたばかりだ。
亜佑美はふざけた口調で衣梨奈に答える。

「あぁー寝とったけん知らんもん」

衣梨奈が爽やかに笑う
亜佑美は呆れながらも「ほら早く出ないと」と促す。

衣梨奈も亜佑美も部活がある。
鞄を手に取り、さあ教室を出ようとしたところで衣梨奈が思い出したように呟いた。

「あ、そう言えば」
「ん?」
「委員会やったら聖来るよ」
「えっ」
「噂の『亜佑美ちゃん』呼びの」

衣梨奈があの時と同じように悪戯っ子のように笑う。
それを思い出して、亜佑美の顔が赤くなる。

聖は衣梨奈の友達で、つまり亜佑美とは友達の友達という関係になる。

「譜久村さんか…」
「あれ?なんで亜佑美ちゃん顔赤いと?」
「ち、違う!」
266 :スクレ :2014/10/29(水) 01:33
からかうように話しかけてくる衣梨奈から逃げようと亜佑美が教室の外へ出ようとした時だった。

「きゃっ」
「あ、すいません」

出ようとした亜佑美と入ってこようとした誰かがぶつかりそうになった。
咄嗟に避ける亜佑美に謝る声が掛かる。
あれこの声はと思った亜佑美に背後から衣梨奈の声が聞こえた。

「お、聖」

ぶつかりそうになって避けた相手、視線の先にいたのは今まさに噂していた隣のクラスの譜久村さん、聖だった。

「あ、えりぽん」

聖が衣梨奈に対し、親しげに手をあげる。
至近距離で見ることになってしまった聖の柔らかい笑顔。
そのまま聖が視線を亜佑美に向けたものだから、妙にどぎまぎしてしまった。

「どうも」
「ど、どうも…」

衣梨奈を通して何度か話したことはあるが、それほど親しいわけでもない。

そんな関係なのに何故。

―――「聖、こっそり『亜佑美ちゃん』って呼びよるとよ」

数日前、衣梨奈が教えてくれたことを思い出す。
聖だって、亜佑美に対しては少し壁があるように思う。
別に下の名前で呼ばれることがいやなわけではない。
むしろ仲良くなりたいと思う。
けれど何故、陰でだけそう呼ぶのか。
いくら考えてもわからない。
わからないから、気になってしょうがない。
267 :スクレ :2014/10/29(水) 01:33
「えりぽんたちは今から部活?」
「そう。今からゴールいっぱい決めてくるけん」

バスケ部の衣梨奈がボールを投げるポーズを取ってみせる。
聖が「なんか変だよ、それ」と笑う。

「石田さんもバスケ部だったよね」

聖が衣梨奈から視線を亜佑美に向けた。
やはり名字呼びだ。

「うん、そう」
「かっこいいよね」
「そ、そうかな」

照れくさくて少しどもってしまう自分が恥ずかしい。
そんな亜佑美の様子を衣梨奈がニヤニヤと見ている。
にやけている衣梨奈に気づいた聖が不思議そうな顔をして衣梨奈を見る。

「どうしたの?」
「いや、なんでもない。ね、亜佑美ちゃん」

楽しんでいる衣梨奈が少し腹立たしい。
268 :スクレ :2014/10/29(水) 01:33
そう、と呟いて聖が亜佑美へと向き直す。
彼女の大きい瞳が亜佑美を捉える。

「頑張ってね」

柔らかい笑顔で応援された。
たった一言、それだけなのに何故かドキッとしてしまった。
うんという一言すら返せなかった自分に戸惑う。

そんな空気を壊すように衣梨奈が割って入ってきた。

「ちょっとーえりにもそれ言ってよ」
「え?あぁ、えりぽんも頑張って」
「ちょ、雑すぎるやろ」

衣梨奈が突っ込み、それを二人で笑う。
隣を見ると、聖が楽しそうに笑っていて、それだけで亜佑美も楽しくなった。

教室の入り口で話していた三人の脇を他の生徒たちが通っていく。
クラスメートたちは出ていき、入れ替わるよう委員会にやってきた生徒たちが入って行く。

「委員会もうすぐっちゃない?」

衣梨奈が教室の中を覗いて促す。

「そうみたい。じゃあね、えりぽんと石田さん」

聖が教室の中へと入って行く。
その姿を見送って、亜佑美は教室から離れた。

やはり、今日も彼女は亜佑美のことを名字で呼んだ。
衣梨奈から教えてもらったあの秘密は信じられない。

「なんで本人に言わんとかいなー」

衣梨奈がのんきに部室へと歩いて行く。
そのあとを続きながら、亜佑美は「こっちこそ知りたいよ…」と呟いた。
269 :スクレ :2014/10/29(水) 01:34




部活が早めに終わり、亜佑美は一人教室へと向かっていた。
帰宅準備をしていたときに明日提出の課題プリントを机の中に忘れてきてしまったからだ。

放課後の緩い空気に包まれる校舎内。
外からは他の部活動生たちの威勢のいい声が聞こえていた。

見慣れた教室の扉を開ける。
見慣れた景色があるはずだった。


「え…」

みんな帰ったと思っていた。
だからそこに人がいたことがびっくりだった。
さらにそれが自分の席にいたのだから、尚更だった。

教室の真ん中にある自分の席。
窓からの夕陽が逆光になって、よくわからなかった。

その影が動く気配はない。
どうしたのだろうとゆっくりと近づいていく。
その人はうつ伏せになっていて、どうやら眠っているらしかった。

見覚えのあるうっすらと染められた茶色い髪。
先程までこの教室で行われていた委員会活動。


そこにいたのは聖だった。
270 :スクレ :2014/10/29(水) 01:34

ここ最近、亜佑美をもやもやさせる張本人。

うつ伏せになっている聖の背中が呼吸に合わせゆっくりと上下している。
放課後の教室に二人きり。
そう思うと、妙に緊張してきてしまった。

亜佑美は自分が何をしに教室に戻ってきたかを思い出す。
机の中に忘れたプリントを取りに来たのだ。
そしてその席には今、聖が寝ている。
つまり、聖を起こさなければならない。


「譜久村さん」
「………」

呼びかけてみても反応なし。

「起きてください」
「………」

やはり聖が起きる様子はない。

ふと亜佑美はあることを思いつく。
聖が亜佑美のことをこっそりと呼ぶのなら、私だって。

「……みずき、ちゃん…」

口に出しただけなのに、まるで魔法にでも掛けられたように熱くなってしまう。
寝ているから本人には伝わらないとわかっているのにだ。
恥ずかしさでむず痒い。でも心地いい。
271 :スクレ :2014/10/29(水) 01:34
もう一度呼んでみようかと口を開きかけたそのときだった。
亜佑美が持っていた鞄が机の脚に当たった。
ガタンと音が鳴る。

「ん…」と聖が反応した。
もぞもぞと体が動き、顔が上がる。
開けきっていない寝ぼけ眼が亜佑美を見る。


「―――あゆみちゃん…?」

ふいに呼ばれた名前。
寝起きの呂律の回っていない甘い声。

「えっ…」
不意打ちをくらって、亜佑美は固まってしまう。

今、確かに彼女は下の名前で自分を呼んだ。
衣梨奈に聞いた通りだった。

亜佑美が反応しきれない間に、聖は起ききってしまったらしい。

「…あ…石田さん」

目が覚め亜佑美のことを認識した聖がいつもの呼び方に戻る。
やっぱり聖は陰で亜佑美のことを下の名前で呼んでいたらしい。
272 :スクレ :2014/10/29(水) 01:35
「聖、寝ちゃってたんだ…」

聖がゆっくりと体を起こす。
目を擦るその姿は幼くてかわいらしかった。

「あ、ごめん。ここ石田さんの席だよね」
「え…うん、そう」

戻ったことが寂しかった。
いつも通りのはずの距離に戻ることが悔しかった。

「あ、あのさ」
「ん?」

真意が知りたかった。
何故こっそり下の名前で呼ぶのか。
何故面と向かって下の名前で呼んでくれないのか。

「もしかして譜久村さんって、私のこと―――」

彼女は一体、私のことをどう思っているのか。


「あれ?二人ともこんなとこでなんしよーと?」

突然声が聞こえ、二人で一斉に振り向く。
教室の入り口に立ってこちらを不思議そうな顔で見ているのは衣梨奈だった。
いきなりの登場に、二人して固まる。

「あ、もしかして二人で帰るとこ?えり邪魔やった?」

衣梨奈がわざとらしく声を上げにやける。

「え?」
「いや、別にそういうんじゃ…」
「じゃあお二人さん、仲良くね!」
「ちょ、ちょっと!」
「えりぽん!」

急にやってきたと思ったら、衣梨奈は手を振りながらまたしても唐突に帰って行ってしまった。
やけににやけた笑顔と、妙に気まずい雰囲気を残して。
273 :スクレ :2014/10/29(水) 01:35

「ほんと、えりぽんってKY」

しばしの沈黙の後、聖が頬を膨らませ笑う。
だねと同調するように亜佑美も笑った。

「あ、そうだ。さっき言いかけたことってなんだったの?」
「え…あぁ、ううん」

今さら聞くのも恥ずかしかった。
それに、もう理由なんてどうでもよかった。

「せっかくだし…」
「ん?」

聖がきょとんとした目でまっすぐ亜佑美を見つめる。
あまりにも無垢なその瞳に、詰まりそうになった言葉を亜佑美は頑張って声にしてみた。

「…一緒に帰らない?」

二人の間にはいつもは衣梨奈がいた。
だから。せっかくだから、この機会に。
衣梨奈がいないと一緒にいれない関係を、壊したくなった。


「そうだね」

亜佑美の誘いを、聖は柔らかい笑顔で受けてくれた。
聖が席を立ち、帰り支度をする。
274 :スクレ :2014/10/29(水) 01:35

「あ、その前に宿題」
「へ?」
「忘れちゃって。それ取りに戻ってきたんだった」

亜佑美がポンと手を叩くと、聖が「意外とおっちょこちょいなんだね」と笑った。
自然な会話をしながら、二人で昇降口へと向かう。

靴を履きながら、そう言えばと亜佑美はふと気が付いた。
衣梨奈が教室に入ってきたとき、足音は聞こえなかった。

一体、いつから衣梨奈はいたのだろう。

KYと呼ばれるけれど、たぶん衣梨奈は気が利く。
明日、あのクラスメートにジュースの一つくらい奢ってあげよう。
そしてそのときに「ありがとう」の言葉も付け足そう。

気になる彼女と、仲良くなれるきっかけをくれたのだから。

そう思いながら亜佑美は笑顔で聖のあとを追った。


「聖ちゃん、待って!」


275 :宮木 :2014/10/29(水) 01:36


『スクレ』 おわり

276 :宮木 :2014/10/29(水) 01:36

初々しいあゆみずきが見たかっただけ感

>>261 名無飼育さん
こちらこそありがとうございます
かわいいピュアな子たちのかわいいピュアなお話がたくさん溢れればいいなと思います

>>262 名無飼育さん
初恋のドキドキ感って忘れたくないですね
ありがとうございます
277 :名無飼育さん :2014/11/10(月) 01:07
たまらん
呼び方って大事よな
278 :宮木 :2014/12/24(水) 00:51


『ふたりぼっち』

279 :ふたりぼっち :2014/12/24(水) 00:52

夜になってぐんと冷え込んだ外の空気を遮断するように家の扉をすぐに閉めた。
「ただいまー」と力なく呟いた声に返答する声はない。
終業式が終わり、冬休みに入った弟と一緒に母親は実家へと帰省してしまった。

衣梨奈はパチパチと家の明かりを付けていき、リビングにいくとテレビとストーブを付け、ソファにだらりと寝ころんだ。
何をするともなく、スマホを弄る。
ただ、それもすぐに飽きてしまう。

「クリスマスイブ、ねぇ」

12月24日。世間がクリスマスイブで浮かれるこの日。
学校の友人たちはそれぞれ相手がいたり、いない子はいない子で集まってワイワイと過ごしているはずだ。
衣梨奈は先程まで仕事があって、それが何時頃に終わるのかもわからなかったので、その集まりには不参加。
結果、ひとりぼっちだ。

先程まで一緒に仕事をしていたメンバーたちも、兄弟が多く、家族でクリスマスパーティーをする子がほとんどだった。
さすがに邪魔は出来ない。

付けてみたはいいものの、特に気を引かれるような番組はテレビから流れてこない。
ご飯は食べてきたし、することもない。

「なんしよっかな…」

呟いた言葉がようやく暖かくなってきた部屋の空気に溶けて、消えた。

280 :ふたりぼっち :2014/12/24(水) 00:52

――――

―――

――





ピンポーン。


ふいに聞こえた音で目が覚め、そこでようやく自分が寝てしまっていたことに気がついた。
壁に掛けられた時計を見る。
衣梨奈が帰ってきてから、そんなに時間は経っていないようだ。

起き上がり、うーんと伸びをする。
はて、こんな時間に誰だろう。
疑問に思いながらインターホンに出た。

「…はい」
「あ、鞘師ですけど、えりぽ…衣梨奈ちゃんいますか?」
「里保?」


予想外の人物に戸惑いながら、衣梨奈は里保を家に上げた。
リビングに通された里保は家の中の暖かい空気にほっと息をついている。

「ごめんね、こんな時間に」
「いいけど…どうしたと?」

今日の仕事は、里保だけ別件が入っていたはずだ。
わざわざ衣梨奈の家に寄るような用事なんてあるのだろうか。
281 :ふたりぼっち :2014/12/24(水) 00:53

「ん。一緒にケーキ食べようと思って」

里保が手にしていた箱を突き出す。
白いその箱は、よく見るケーキ屋さんの箱だった。

「えっ、わざわざ?」

衣梨奈が驚いて里保を見ると、里保は即座に違うと否定して早口で捲し立てた。

「もらったんだよ、スタッフさんから。差し入れで。
でもさ、ほら、うちすぐポニョっちゃうし、こんなに食べちゃいかんじゃろって思って。だから」

言い訳めいたようなその言葉に、衣梨奈は思わず微笑んだ。
衣梨奈の笑顔に気づかない里保は、まだ捲し立てる。

「ショートケーキとかチョコとかモンブランとかいろいろもらって。
今日のスタジオがえりぽん家に近かったし。えりぽんのママとか弟くんも食べるかなって思ってさ」
「ママたち福岡帰ったよ」
「あ、そうなんだ」

衣梨奈が口を挟み、ようやく里保の勢いが収まる。
それならどうしたものかと戸惑っている里保の手からとりあえず箱を受けとる。

「ありがと。じゃ、二人で食べよっか」
「結構、いっぱいあるよ?」

心配そうな里保の声を聞きながらその箱をテーブルに置き、開く。
確かに二人で食べるには多い、様々な種類のケーキが入っていた。

「…多いね」
「言ったじゃん」
282 :ふたりぼっち :2014/12/24(水) 00:54

お皿とフォークを用意し、各々好きなものを取る。
衣梨奈はショートケーキ、里保はチョコレートケーキだった。

「えりぽんがチョコ取らなくてよかった」
「なんで?」
「うち、チョコが食べたかったから」
「またそうやって自分のことばっかり」
「えりぽんに言われたくないよ」

お互い、お互いを自分勝手だと思ってる。
顔を見合わせて二人で笑った。



「でも別にえりじゃなくてもいいよね?」

ケーキを口に入れながら、衣梨奈はふと思ったことを口にする。
差し入れのケーキが多くて、それを分けたいのならば別に他のメンバーでもよかったはずだ。

「それはぁ」

里保がクツクツと笑う。
ハテナ顔で里保を見つめると、里保は意地悪そうな顔で言ってのけた。

「えりぽんひとりぼっちだろうなって」
「はぁ?」
「こないだイベントで言ってたじゃん。クリスマスはいつもひとりぼっちだーって。クリぼっち」

ニヤニヤと里保が衣梨奈を見る。
バカにしてるのか。
ムッと睨んでみたものの、里保は何食わぬ顔でケーキを頬張る。

「でもそういう里保もひとりやろ」
「う、うちはいつもぼっちだから」

言い訳になっていない言い訳を里保が言う。
自虐にもほどがあるそのセリフと、口の端にチョコを付けたまま慌てる里保の姿に、怒ってみせるのもバカらしくなって衣梨奈は笑った。
その笑顔を見て、里保もふにゃりと笑った。
283 :ふたりぼっち :2014/12/24(水) 00:54




「結構遅くまで居ちゃった」

ケーキなんてとっくに食べ終わったというのに、なんだかんだ話し込み、気がつけば時間は過ぎていた。
時計を見ると、それなりに遅い時間。
思いの外、ダラダラと過ごしてしまったらしい。

「明日、何時集合やったっけ」

言いながら衣梨奈はスケジュール帳を開く。
明日はメンバー全員での仕事だったはず。
向かいにいた里保が、ひょいと衣梨奈の手元を覗き込んだ。

「あ、集合早いんだ…」

翌日のスケジュールに目を留めた里保の顔が曇る。
早起きが苦手な里保にとって、明日はなかなかの試練だ。
その顔を見て、衣梨奈はふと思いつく。

「どうせなら泊まってけば?」

今から里保が帰宅していろいろしていたら、もっと遅くなってしまう。
着替えなら、衣梨奈のを使えばいい。新品のものだってあるし。
衣梨奈がそう提案すると、変な声を上げ里保がわかりやすく慌てた。
284 :ふたりぼっち :2014/12/24(水) 00:55
「えっ、いや、いいよ」
「でも今から家帰ってお風呂入って寝る準備してーってしよったら遅くならん?」
「そうだけど…」
「明日里保起きれんやろ?」
「お、起きれるかもしれないじゃん!」
「どうせ家族おらんっちゃけん、遠慮せんでさ」
「…それが、あれなんだよ…」

里保が小さな声で溜め息と一緒に呟く。

「でもさ、ほら、またファンの人に…」
「ん?」
「えりぽんとクリスマスイブ一緒に過ごしたなんて言ったら…」
「あぁー。またドラマティックにされちゃうかもって?」

ラジオでの里保の発言を思い出して、衣梨奈はからかった。
どうも里保は、ファンの間でやいやい言われていることを気にしているようだ。

「言わんどけばいいやん」

口外しなければ、何も言われることはない。
メンバーの一部も、少しからかってる節がある。
でも、知らなければ、弄られることもないのだから。

「クリスマス、一緒に過ごしたのは、えりと里保だけの秘密ってことでさ」

衣梨奈がそう言うと、里保は恥ずかしそうに、でも、嬉しそうに「うん」と頷いた。



二人が翌日時間通りに起きれたのか、それは衣梨奈と里保しか知らない。


285 :宮木 :2014/12/24(水) 00:55


『ふたりぼっち』 おわり

286 :宮木 :2014/12/24(水) 00:56

ドラマティックボマー生鞘だっていいじゃないメリークリスマス

>>277 名無飼育さん
特別な呼び方ってワクワクしますよね
287 :名無飼育さん :2015/01/18(日) 00:26
生鞘を読めてうれしいです。ありがとうございます。
288 :名無飼育さん :2015/11/09(月) 02:30
今年のクリスマスはどうなるか
と考えてたらここ思い出した

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