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流動マーブル

1 :名無飼育さん :2012/11/29(木) 20:24
2012年11月以降の娘。をメインにした短編集になる予定です。

前の短編スレ
好意と敬意
ttp://m-seek.net/test/read.cgi/grass/1340375988/
2 :名無飼育さん :2012/11/29(木) 20:25
チラシゲーム
3 :名無飼育さん :2012/11/29(木) 20:27
背後で、どたん、と鈍い物音が聞こえた。

「あああア」

素っ頓狂な叫び声に田中が振り向くと、床に散らばった紙片をかき集める鞘師と石田が目に入った。
鞘師が転ぶことはよくあるので、またか、と呆れたが、レッスンスタジオの板張りの床に
散らばった派手な色の紙たちが、派手好きな田中の心をくすぐる。
近寄ってよく見ると、それぞれに“関西””北海道”などと大きな文字で書いてあり、
その紙が旅行会社のチラシであることに気付いた。

「なん、鞘師どっか旅行すると?」

ヤンキー座りでチラシを拾っている鞘師に声をかけると

「ああア、すいません、ただ見たかっただけなんです!」
「転んだ拍子にファイルに挟んでたのが全部落ちちゃって」

すぐ傍にいた石田も一緒になって説明した。

「へー、これもしかして全部あると?」
「あ、そうです日本中の持ってきちゃいました、イヒヒ」

福岡もありますよ、と、後輩が気を利かせてチラシを見せてくれる。

「おー、マジやんありがと」

細かい文章を読む気にはならなかったが、大きな“福岡”の文字を見れて嬉しかった。
4 :名無飼育さん :2012/11/29(木) 20:29
そこへ突然の閃きが起こり、

「あ、わかった!」

と叫ぶ。
鞘師と石田は、きょとんとして田中を見た。

「これさ、床に並べて日本地図作れるやん」
「地図、ですか? 並べるってチラシをですか」
「あー、できます! 亜佑美ちゃん、上から北海道東北って置いてってやるんだよ」

そうですよね、と鞘師が尋ねる。

「そう!」

田中は親指を立てて答え、

「中学生しゅーごー!」

目の醒めるような大声を出して、あたりのメンバーに招集をかけた。
猫の一声に驚いた中学生以外のメンバーも集まってきて、結局全員が田中のまわりを
囲うように揃った。
5 :名無飼育さん :2012/11/29(木) 20:31
立ち上がった田中が、それなりに威張った態度で、

「えー今からゲームをしまーす」

と“福岡”のチラシを周囲に見せ付けながら話すと、

「ゲーム! したいですー!」

“まっさき優樹”な佐藤がはしゃいだ。

「うんよく聞いて。
 自分の出身地のこれ持って床に置いて、それから他のとこ置いてって、なんちゃって地図を作ります」

はいまずは生田、と持っていたそれを生田に押し付けると、戸惑っている後輩に

「最初やし適当なとこ置いてみ」

と続ける。

「えーじゃあ、ここ置きますぅ」

生田は言われた通りその場にしゃがみ込んで、チラシを足元に置いた。
6 :名無飼育さん :2012/11/29(木) 20:32
田中は次々地方出身メンバーにチラシを渡していき、途中で瞳をキラキラさせていた石田と
目が合うと、言い忘れてたけどこれは中学生だけね、高校生はできて当たり前やろ、
と言って宮城県のチラシを隣の鞘師に渡す。
いじけたフリをする茶髪が視界の片隅に入った。

「全部渡った? わからんとこはちゃんと相談しーよ。
 さゆはさー、何分でやれるか数えとって」
「いいけど、れいなこそちゃんと正解わかる?」
「わかるわかるぅ」

軽い返事をしながら、どこからかパイプ椅子を持ってきて背もたれを前して座り、

「よーし、やれ! 中学生!」

パン、と手を叩くと、佐藤を筆頭に嬌声を上げながら床に座り込んだ中学生の面々。

「ほっかいどー!」
「あ、まーちゃんそこなら関東はこの辺かな」
「あーそうですね、神奈川無いんですか?」
「じゃ広島はこの辺に」
「尾張名古屋〜はここです! はい名古屋ここでーす」
「福岡はもう置いてあるけん九州極める!」
7 :名無飼育さん :2012/11/29(木) 20:34
ヤバーイ超楽しそーやんれーなマジ天才、と、田中は満足げにその様子を眺めた。
道重もかわいいを連呼しながらしっかり時間を数えている。
高校生組は、

「聖もやりたかっ……えっ、そこなんだ」
「いいのー? まーちゃんほんとにそこで。それだと四国に大雪が降っちゃうねー」
「はるなんシッ、お、教えたら駄、ひひっ」

時々意外なところに意外な地名がセッティングされるのを、
突っ込みを入れつつ笑いながら見ていた。

「はい出来た! たなさたん出来ましたー!」
「待ってまだ確認してませんよ」
「まーちゃん手下ろして!」

両手を挙げてアピールする佐藤を制する、冷静な小田と工藤。
年少二人がしっかり確認を終えたところで、終了の合図を出した。

「はい終了ー、ただいまのタイムは……二分四十四秒です」

道重が教えてくれたが、果たしてこのタイムが早いのか遅いのかゲームの主催者にも
見当がつかない。
田中はとりあえず両腕を組んで、うーん、おっそいなー、と適当に言った。
8 :名無飼育さん :2012/11/29(木) 20:37
「田中さんヤですー」
「もう一回やらしてください!」

最初に言われるまま地元を置いた生田と、遅いと言われて悔しかったらしい鈴木が
リベンジを申し出るが、

「ダメ! 残念ながらもう時間でーす」

それを拒絶すると、一斉に批難の声が上がる。

「気持ちはわかるけどほんとに時間だから準備してね」

リーダー道重がフォローをしたことで、まず高校生組がその場を離れた。
中学生組は、ゲームのテンションを少し引き摺ったままその後ろをついていく。
チラシの持ち主だった鞘師だけは床の紙片を集めなくてはいけなかったので、
急いで拾い集めて駆け足でみんなの後を追った。

石田が自分の鞄の中から筆記用具を取り出そうとしていると、
追いついた鞘師が隣で鞄を開ける。

「意外な方向に行きましたね」
「ねー! こんなことになるなんて夢にも思わないよ! 超楽しかった」

落としてよかったーなどと笑って、今度こそきちんとファイルに紙の束をしまおうとした
その時、あ、と声を上げた。

「角のとこ折れちゃった。また取りに行かなきゃ」

こうして石田は、鞘師が食品サンプルに続き新たな収集アイテムを得た瞬間に立ち会ったのである。
9 :名無飼育さん :2012/11/29(木) 20:38
東京で一緒に帰ろう
10 :名無飼育さん :2012/11/29(木) 20:40
ほどほどに混雑していたエレベーターを出ると、

「さあーどうぞどうぞ、ぜひご試食なさってくださーい!」

色とりどりのエプロンを着た販売員が、次々と自分たちに声をかけてくる。
鞘師は歩きながらそのうちのひとつを、どこのものかわからない一口サイズの
そのお菓子を販売員の手から貰い受け、早速口の中に放り込んだ。
前にいた石田が振り返り、片手に爪楊枝だけ持った鞘師に気付くと、自分も、
と思ったのかすぐ近くでトレイを持っていた販売員に話しかけた。

最初は互いの地元の食べ物についてなんとなく話していただけだったのだが、
次第に故郷に対する思いがつのりはじめ、どうしてもその空気に触れたくなった。
東京でなんとかならないかと思案をめぐらせた結果、レッスンまでのわずかな時間を
ぬってでも、とここにやって来たのである。

デパートの物産展で、全国の特産品を集めた催しだった。
出店の前の通路を少し歩くだけでも、まさに北から南までといったあらゆる地名の
看板やのぼりが目に入り、同時にさまざまな食べ物の香りが漂ってくる。
これなら広島も仙台もカバーできる、と期待を持てた。

しかし、夕方のフロアはとても人が多く、並んで歩くことすらかなわない。
爪楊枝を返した石田が鞘師に手を差し伸べ、二人は手を繋いで歩くことにした。
11 :名無飼育さん :2012/11/29(木) 20:42
「全部まわり切れそう!?」
「無理かもしれないです! せめて地元だけでも……」

喧騒に負けじと声を張って話すが、いつの間にか人の流れに巻き込まれてしまう。

「うわわわっ」

それでも鞘師は楽しかった。
賑やかな場所は否応なしにテンションがあがってしまう。
手を引く人を信頼しきって、あたりをきょろきょろ見回してしまう。

まるで夏祭りの屋台のような派手な垂れ幕を眺めるだけでも、目の保養になった。
やがて、引かれていた手が人の流れに逆らって横道に逸れようとする。

「すいません、通りまーす!」
「え、こっち? あ、すいませーん!」

頭を下げながら、更に強く引かれる手を離さないように歩いた。
新たな人の流れに合流すると、少しだけ人同士の間隔が広くなり、
反対に石田との距離は縮まる。

「なんか見っけた?」
「ここ、西日本ゾーンですって」

その時初めて、通路が地域ごとに分けられていると知った。
言われてみれば、今嗅覚を刺激しているのは、焦げたソースの香りだ。
広島が近い!
鞘師は期待に胸を膨らませて周囲を確認した。
12 :名無飼育さん :2012/11/29(木) 20:45
あった。“もみじまんじゅう”!

「亜佑美ちゃん右右!」
「お、あれか!」

流れに沿えばいずれ辿り着く距離ではあったが、時間の無い二人は
急いでブースに向かった。
辿り着いた広島のブースでは、定番のもみじ饅頭の他に、“揚げもみじ”の
実演販売を行っていた。
最近売り出し始めた商品で、実は鞘師自身もあまり馴染みの無いものだったが、
故郷の一部に触れることが最大の目的である。
どんなものか興味もあったので、さっそくひとつ頼んで揚げたてを買った。
半分切り込みの入った専用の紙袋に入れてもらったが、熱すぎて持っているのも辛い。
早く食べた方がいいかもしれないと、また人の流れに混ざってフロアの端まで行き、
やっと壁際の空いたスペースに辿り着いた。

「ごめん、すぐ食べちゃうから」
「いいですよ、火傷に気をつけて」
「……気をつける」

改めて袋から出ている部分を見ると、もみじの形はすっかり衣に覆われていて、
見た目は唐揚げに似ている。
用心してふうふう息を吹きかけてから噛み付いた。
カリッといい音がして口の中に入ってくる。食感まで唐揚げだった。
13 :名無飼育さん :2012/11/29(木) 20:48
「どうですか?」

石田が声をかけてきた。
鞘師はひと呼吸おいてから、紙袋を差し出して促す。

「え、いいんですか?」
「ん」

頷くと、礼を言いながら石田もそれを少し齧った。

「ウチまだあんこにたどりつかなくて。出てきた?」
「お、甘い」

紙袋がまた自分に返ってくる。覗き込むと本体と思われる饅頭の黒い餡が見えていた。
再度かぶりつくと今度こそ懐かしの饅頭の風味と甘みを感じ、思わず鞘師は目を細めた。

「これ、これだよー。うわー」

あっという間に食べつくす。
石田はそれを微笑みながら見て、それから振り返ってフロアの様子を窺った。

「……またあの中に入るのは勇気が要りますね」
「仙台どこだろ?」
「うーん、厳しいなあ……多分反対側の方だし」

迷っている様子だ。

「今度はウチが前行くからさ、行こうよ」

自分はついて行くだけだったので、前にいた人の苦労がわからなかったかもしれない、
と鞘師は手を上げる。

「……じゃ、お願いしちゃおうかな」
「任して。目標は?」
「“たまごカステラ”!」
14 :名無飼育さん :2012/11/29(木) 20:50
ところが、意気込んで仙台のブースに辿り着いた二人に、予想外の事態が待っていた。
カステラが品切れで手に入らなかったのである。
販売員が気を利かせてその場にあった他の食品全ての試食を勧めてくれたが、
石田は明らかに落ち込んでいた。

「カステラ……」
「また来ようよ、試食美味しかったよ?」
「……そうですね、お腹の方は膨れましたもんね」
「これから踊るんだし、満腹だったらヤバいって」
「そうだ! ……次、がありますよね?」
「絶対来ようよ。絶対また来たい」

これってデートだよね

帰りのエレベーターを待ちながら鞘師がそんなことを言ったので、石田は慌てて周囲を見回した。
他に何人かいたが、それぞれ話し込んでいて誰も自分たちを気に留めていない様子だった。

「大丈夫だよ」
「びっくりさせないでくださいよ、もう」
「女子デートなんていまどき珍しくないよ?」
「……意識し過ぎだって言いたいんですか」
「イヒヒ、意識はされたい。どんどんして」
「ばか」

石田は思わず悪態を吐いた。
15 :名無飼育さん :2012/11/29(木) 20:52
デパートを離れ駅の構内を歩いていると、鞘師が石田を引き止めた。
立ち止まったのは旅行代理店の前で、彼女はその前で何かをじっと見ていた。

「どうしたんですか?」
「ちょっと待ってて」

言われた通り待っていると、店の前のクリアケースに並んでいる旅行チラシを
端から順に一枚ずつ抜き取っていく。

北海道・東北・北陸・関東……

と徐々に南下していく地名の刷られたチラシを全国分集めると、
鞄の中のファイルにまとめて突っ込んだ。

「全部行くんですか?」
「いや、あとで眺めるだけ」
「それだけ?」
「うん、いつかこの写真のところに行きたいなーって思いながら見るの」
「妄想旅行ですか、ふふ、楽しそうですね」

そうでしょと相槌を打ちつつ、でもいつか叶えるんだ、と再び歩きながら鞘師は言う。
16 :名無飼育さん :2012/11/29(木) 20:55
自分たちはライブやイベントで各地を飛び回っているが、スタッフの誘導に従って
行動しているだけだから、例え観光地に行ったとしてもそれは旅行とは言えない。
いつか自分だけの意志と行動で行きたいところへ行って、物産展で見かけた食べ物を
自力で見つけて……その土地で食べ歩きをしたい、と思った。

「なんか、中学生なのに渋いですねー」
「悪い?」
「いやいや、とっても素敵だと思います!」
「もし行ったら、ちゃんとお土産買ってくるから」
「えー一人で行っちゃうんですか?
 もしそこが私も行きたい場所だったら、一緒に行きたいなー。
 関東ならすぐ実現できそうじゃないですか?」
「近くならそうだけど、でも行きたいっていうか、まずは帰りたい、だよね」
「……そうですね、最初はそうかもしれない」

それから石田はうわ言のように、カステラ……と呟く。
よっぽど食べたかったんだな、と鞘師は思った。
17 :名無飼育さん :2012/11/29(木) 20:56
>>2-8 チラシゲーム
>>9-16 東京で一緒に帰ろう
18 :名無飼育さん :2012/11/29(木) 20:58
揚げもみじは、私の地元の物産展で実際に食べたことがあります。
たまごカステラは、ミュージックアンツという配信番組で石田さんがテンションMAX!
になったお菓子です。
まだ観ることができるので、興味のある方は一度ご覧になってみてはいかがでしょうか。
19 :名無飼育さん :2012/11/29(木) 20:58

20 :名無飼育さん :2012/11/30(金) 00:25
新スレおめでとうございます><
前スレ終了がとても寂しかったのですが、
これでまた楽しみができました><
21 :名無飼育さん :2012/11/30(金) 16:08
新スレおめでとうございます!待ってましたよー!
カステラ食べれずしょんぼりだーいし可愛い。
さやしすーんに振り回されるあぬみんが大好物ですw
さっそくちょびっと振り回されてて嬉しい!
22 :名無飼育さん :2012/12/01(土) 08:20
流動マーブル
23 :名無飼育さん :2012/12/01(土) 08:22
部屋にストーブを出したので、いつでも遊びに来てくださいね。
と言われた鞘師は、嬉々として石田の部屋に遊びに来た。

暖かいので、ベッドの上で布団をかぶらずにゴロゴロできる。
石田はそのベッド下の床に座っていて、録画していた番組を観ようと
リモコンをいじっていた。

「何録ったの?」
「大化学実験ナントカってやつです」

番組が始まると、“先生”と呼ばれた白衣のおじさんがフラスコを持って現れた。
司会者からの簡単な自己紹介の後に、おじさんは話し始める。

『皆さんは墨流しというのをご存知でしょうか。
 これは、マーブリングとも呼ばれます。
 早速ですが、ちょっと実験してみましょう』

テーブルに直径二十センチくらいのガラスの容器が置いてある。
瓶の底の部分を切り取ったような円形で、深さは一センチくらいだろうか。
ここに薄く水が張ってあります、と説明があった。

続いて墨のついた小筆が登場し、“先生”は少し緊張しているのか、
筆先を震えさせながら水の上に墨をつけた。
すると当然、墨汁が水の上で溶けて広がる。

『そしてこの中心に、この竹串をつけると……』

あっという間に、中心部の墨が消えてしまった。
24 :名無飼育さん :2012/12/01(土) 08:25
「消えた!」

石田が声を上げたので、それまであまり真剣に観ていなかった鞘師も
思わず身を乗り出して画面を見つめた。
消えたように見えた墨はよく見ると容器の縁に追いやられていて、
黒い輪郭が出来ていた。

『そしてもう一度、墨を落とす』

次に落とされた墨は溶けずに中心に残り、最も外側の墨との間に水の円ができる。

『また串を刺します。そうすると、中心に水だけの部分ができて……
 ……はい、どうですか?
 あっという間に、◎(二重丸)の模様ができましたね』

“先生”はそこから更に丸の数を四つに増やし、そしてここからが重要です、と、
爪楊枝を水面の端の方に突き刺して、それを中心に向かってなぞった。
中心に辿り着くと同時に、また楊枝を端に刺して同じ動作を繰り返していくと、
墨と水によって大理石のような模様が水面に描かれる。

「おおおっ」
「マーブルだ」

二人はすっかり実験の虜になってしまった。

『これを墨流しと言います。
 日本ではこれを染物などに利用し、伝統工芸として今日まで伝えています。
 さて、ここからが化学的な話になってきますよ。
 みなさんは、なぜこの様な模様が水面に出来上がったと思いますか?』
25 :名無飼育さん :2012/12/01(土) 08:28
「油だよね?」

鞘師がさらっと解答を口にしたので、石田はぎょっとして思わず振り向いてしまった。

「……あれ、違う?」
「いや……多分合ってると思います」

二人の間に微妙な空気が流れる。

「……けど、芸能人的には間違ってますね。お手本はこうですよ」

テレビの中では、芸能人解答者が様々な答えを“先生”にぶつけていた。
石田はニヤリと笑って、そんな解答者たちを指差す。

「う、そうか。しまった……」
「やっぱり、すぐに答えちゃダメなんですよっ」
「そんなこと言って、じゃあ亜佑美ちゃんは答えわかったのか」
「え? そっりゃあもう。どうボケようかと思ったくらいで!」
「嘘くさいぞー!」

失敗を有耶無耶にするため、鞘師はベッドの上から石田にヘッドロックをかける。

「ぎ、ギブギブギブ」

布団を平手で連打して降参する後輩。

「アハハハ!」

心底楽しそうに笑ってから、鞘師は腕を外した。
26 :名無飼育さん :2012/12/01(土) 08:30
『そう、正解は油なんです。
 水に溶けない油を間に落とすことで、このような模様が作られるわけなんですね。
 墨を絵の具に変えれば、カラフルで美しい模様を描くこともできるんです』

「許してあげる、許してあげるよ」
「あー、それ懐かしい!」
「……ほんとは許してあげようと思ったけど」
「え、知らない台詞出てきた」

何なんですか、と、石田は完全に鞘師の方を向いた。

『VTRを観ていただきましょう。
 これはマーブリングインクという特殊なインクですが、最初に赤いインクを入れます。
 次に青いインクを入れ……早送りですが、先ほどの私のものと同じような、
 赤と青の何重もの輪ができあがりました。
 そして、この方はどこに串を入れるのでしょうか?』

「だーまってキ・ス・で・も・し・ろー」

歌にのせて要求するズル賢い先輩に噴き出す石田。

「へへっ、なんだ、なんかもっととんでもない事言われるかと」
「ピュアな中学生にはまだ無理」
「ていうか、そんな体勢なのに綺麗な声で歌えるのがすごいですね、さすが!」
27 :名無飼育さん :2012/12/01(土) 08:33
『おっと、串ではなく筆を使うようですね。
 それをちょっと中心より上の方から下に……手前に引いて……
 わかりますか? かわいらしいハートマークが完成しました!』

テレビから歓声が聞こえてきて、二人は揃って画面を見た。
そこには赤い輪郭と青い輪郭が重なってできたハートマークが映し出され、
それを見て同時に、すごい! と声を上げる。

ところが次の瞬間、模様のど真ん中に筆が突っ込まれて、めちゃくちゃにかき回され、
ハートにヒビが入ってしまった。

「って、ええー!?」

鞘師は驚き、

「もったいねぇ!」

石田は珍しくちょっと汚い言葉を発する。
すると、音声だけの“先生”が、

『おやおや、この方は最近失恋でもされたのかな?』

そんなジョークをすかさず差し込んだ。
28 :名無飼育さん :2012/12/01(土) 08:38
「失恋だって」
「うまいこと言いますね」
「ウチも今キスを拒否されたから失恋」
「いや別にしてませんから」

石田もすかさず反論すると、ベッドの上にかけていた肘を鞘師に引っ張られた。

『しかし、こうして滅茶苦茶にされても、綺麗な模様ができるものですねー。
 それはつまり、インク同士が色を混ぜ合わせることなく保っているからなんですね。
 私は化学者ですが、
 この二色が理想の人間関係のように見えることがあります。
 油で弾かれてもできる限り隣の色に近付いて、ぎりぎりまで寄り添っていく。
 外部からの影響を受けても、形を変化させてでも色を失わずに保つ。
 混ざり合って別の色になってしまえば、その人の色、個性は失われてしまいます』

「それに、しないと嫌い、じゃないですよ」

不満そうに唇を歪めた鞘師の髪を撫でてやる。

『相手の色に染まりきってしまった自分は、果たして“自分”と言えるのか。
 決して恋人の言いなりにならず、
 好きになってくれた“私”を失うことを恐れてください』

石田は床から立ち上がり、寝転がっている年下の先輩の隣に、
同じように寝転んだ。
それから無言で抱きついてくる鞘師を受け入れて、好きですよ、と、
たった一言だけ捧げる。

『あなたの色は、どんな形であっても美しいのです』

鞘師は彼女の首筋に顔を押し付けながら、わかってる、と小さく呟いた。
29 :名無飼育さん :2012/12/01(土) 08:40
>>22-28 流動マーブル
30 :名無飼育さん :2012/12/01(土) 08:44
レスありがとうございます。

>>20
そんなに経ってない感じですが寂しかったとは><
またよろしくお願いします><

>>21
現実でも何かと小さな不幸に見舞われる石田さん、面白かわいいですよね。
毎回振り回したりはさすがに心が痛みますので、話のエッセンス程度に
入れて行きたいと思っています。
31 :名無飼育さん :2012/12/01(土) 08:45

32 :名無飼育さん :2012/12/01(土) 11:12
( *´Д`)
33 :名無飼育さん :2012/12/04(火) 19:34
金くどぅーにさくら太郎
34 :名無飼育さん :2012/12/04(火) 19:36
ある日、森の木の下でぼんやりしていた金くどぅーとくまーちゃんの前に、
草むらから一人の少年が突如として現れました。

額に鉢巻をして、刀を持った少年でした。
着物も立派で、絢爛な出で立ちのその少年に、金くどぅーは少し身構えてしまいます。

「こんちくわ!」

くまーちゃんは、言葉が通じないのも忘れてその少年に挨拶しました。
ところが、

「こんにちは、初めまして」

少年は笑顔で挨拶を返してきました。
金くどぅーはたいそう驚き、

「なぬっ!?」

と叫んで飛び上がります。
くまーちゃんも最初は目を真ん丸くしていましたが、言葉が通じ合ったとわかって
キャッキャとはしゃいでいます。

「バカ! 喜ぶとこじゃない!」
「なんでさっ、だってお返事してくれたんだよ?」
「よく見ろ! あいつ武器持ってんだよ!」
「あの、これは鬼退治用なので、熊さんを切ったりはしませんよ」

刀を持った少年は敵意がないことを示すため、刀を土の上に置きました。
金くどぅーはそれでもまだ警戒を解くことができません。
両手と両足を広げ、くまーちゃんを庇うように立ちました。
35 :名無飼育さん :2012/12/04(火) 19:38
「……鬼なんかこの森にはいねーぞ」
「はい、知ってます。あ、ちゃんと自己紹介しますね。
 さくら太郎と申します。鬼ヶ島へ鬼退治にゆくところです」
「そのさくら太郎さんとやらが、なんでこの森に」
「そんなに怖い顔しないでくださいよー。ただ単に通り道なので」

金くどぅーは確かに知っていました。
鬼ヶ島へ行くには、船に乗って行かなくてはならず、
この森を通り抜ける必要があることを。
ただ……

「道もなにもそんなもんこの辺には無かったはずだろ」
「そうなんです! いつの間にか道が無くなってて、ここに出てきちゃって」
「あー迷っちゃったんだねー」

くまーちゃんが指摘すると、さくら太郎は紅くなって頷きました。

「あ、あの、どうか、人間の通る道に案内していただけないでしょうか」
「いいよ!」
「ダメだ。来た道を戻ればいいだけだろ」

金くどぅーは冷たく言い放って、さくら太郎を追い返そうとします。
さくら太郎は苦笑した後、それじゃあ、と言って土の上の刀を指差しました。

「この刀を、えっと」
「……金くどぅー」
「金くどぅーさん、素敵なお名前ですね」
「まーはまーちゃんだよ!」
「金くどぅーさんかまーちゃんさんに、刀を預けます。お礼もしますから、どうか」
「ねえくどぅー、まーちゃんダメ?」
「ダメだ。……どうしてもって言うならハルが持つけど」
36 :名無飼育さん :2012/12/04(火) 19:40
お礼と聞いて、金くどぅーの心は揺らいだようでした。
さくら太郎はすぐさま

「ありがとうございます!」

と礼を述べ、断られる前にさっさと刀を拾い上げて金くどぅーに押し付けます。

「重っ!!」
「とんでもない。あなたの斧よりは軽いもんですよ」
「そ、そうだな、慣れてないだけだって」
「ひとまず両端に手を添えれば」
「んなのわかってるし!」

言われたとおりにしてやっと、刀は安定しました。

お前が先頭を行け、と金くどぅーはさくら太郎に命令をして、自分は二番目、
最後にくまーちゃん、という順番で獣道を歩きます。

そして金くどぅーは、先ほどくまーちゃんの言葉を理解して返事までしたさくら太郎に、
なぜわかったのか、と尋ねました。

「うーん、どうしてでしょう。
 物心ついた時から頭の中で、動物の声がわかるようになっていましたね。
 うちにたくさん猫がいるんですけど、そのうち会話もできるようになって。
 だからきっとわたしは、これから動物たちの力を借りて何かを成し遂げていく
 運命なんだって」
「……」
「金くどぅーさんもそうなんじゃないですか?」
「……まあ、そう」
「そうですよね!? 絶対そうだと思ってました」

リアクションは薄いものの、誰にも言わず、言えなかったことがさくら太郎の口から
発せられたのを聞いて、金くどぅーにほんの少しだけ仲間意識が芽生えました。

「ねー何話してるのか聞こえないーなにはなしてるの?」
「なんでもないよ」

この話がくまーちゃんに聞こえなくて良かった、とも思いました。
37 :名無飼育さん :2012/12/04(火) 19:43
それからしばらく歩き続け、二人と一頭の目の前に、ようやく人間の通り道が見えてきます。
しかしくまーちゃんだけは拓けた場所に出るといろいろ危険なため、道の手前でいったん
立ち止まりました。

「ここまで来ればもうわかんだろ」
「本当にありがとうございます! とても助かりました」

これはお礼です、と言いながら、さくら太郎は腰巾着から二個のお餅を取り出し、
金くどぅーとくまーちゃんに差し出しました。

「お饅頭だー!」
「違います、これはお餅ですよ。
 さくら餅、おばあさんが持たせてくれた自慢のお餅です」
「おう、ありがとさん」
「……」

金くどぅーがその御餅を受け取った時、さくら太郎は少し寂しそうな顔をしました。

「なんだよ、やっぱ惜しくなった?」
「あっ、いえ!」
「無理すんなよ、これほんとは自分の弁当なんだろ」
「えっそうなの!? じゃあまーちゃん要らない!」
「あ……ほんとに違うんです。ご飯はご飯なんですけど」

さくら太郎は少しずつ言葉を選んで話し始めました。
今、頭の中で、渡さない方がいい、と誰かの声が聞こえたのだ、と。
38 :名無飼育さん :2012/12/04(火) 19:45
「誰? お母さん?」

くまーちゃんが言うと、さくら太郎はかぶりを振ります。
しかし、抗ってはいけない気がする、と真剣なまなざしで言いました。

「んぢゃ、その通りにしな。まーちゃんも別に腹減ってないって」
「言ってない! けど、インスピレーションは大事にした方がいいねー!」

まーちゃんは時々難しい言葉を使うなあ、と金くどぅーは思いましたが、
珍しく駄々をこねなくてほっとしました。

「本当にごめんなさい、お礼はこれのつもりで、他に何もなくて」
「いいって。それより、暗くなる前に森を出なよ」
「そうだ、危ない危ない襲われちゃうぞー!?」
「……熊の台詞とは思えないな。でも本当に危ないからさ」

そう言って金くどぅーは預かっていた刀を差し出したのですが、
モジモジしながらさくら太郎は言いました。

「あ、あの……、お別れする前に、その、まーちゃんさんにお願いが」
「えっなになに、サイン!?」
「マーチャンバッカジャネーノ」
「さ、サインじゃなくて、ええっとー……いいですか?」

それまでハキハキ喋っていた人とはまるで別人のように口ごもるので、
金くどぅーは少しイライラしてしまいます。

「何だよ早く言えよ」
「ええ、っと、た、旅のお守りに、匂いをつけて欲しいんですっ!」
「におい?」
「はいっ!」

もふっ
39 :名無飼育さん :2012/12/04(火) 19:47
……気がつくと、くまーちゃんはさくら太郎に抱きつかれていました。
金くどぅーは呆気に取られ、しばらく開いた口が塞がりませんでした。

名残惜しそうに離れたさくら太郎が、まさしく頬をさくら色に染めているのを見て
やっと我に返り、

「……気が済んだかい」

と言うのがやっとだったそうです。

「……すいません、初めて見た時から、どうしても触りたくって……」
「全然いーよ! まーちゃん気にしなーい」
「だってサ」

今度こそ刀を受け取ったさくら太郎。
頭を下げて、言いました。

「それじゃあ、行きますね。
 無事鬼退治を終えたら、またご挨拶に伺います」
「そんな気ぃ遣わなくてもいいし。それに、また同じとこいるかわかんねえじゃん。
 でもまあ、もし会えたら武勇伝を聞かせてくれよ」
「はい、もちろん! その時は家来を連れてるかもしれませんが」
「けたい?」
「家来だろ。これから探すのかい」

探さずとも向こうからやってくる気がします、と、さくら太郎は腰巾着を撫でています。
金くどぅーはなんとなく意味がわかった気がして、そうか、とだけ言いました。

後日、この予感は見事に当たり、さくら太郎はスズキジ、ミズモンキー、イヌ田という
三匹の家来を従えることとなったのでした。
40 :名無飼育さん :2012/12/04(火) 19:49
さくら太郎と別れた後、金くどぅーは少し思案しました。
もしあの時お餅を受け取っていたら、くまーちゃんは彼の家来になってしまった
かもしれない、と。

「なあまーちゃん、ちょっと」

家に帰る前、金くどぅーは思い切って自分もくまーちゃんに抱きついてみようと思い、
返事を待たずにその体を抱きしめてみます。
相撲を取る以外でこうしてくっついてみたことがなかったので、こんな匂いがするのか、
と改めて思いました。

そんな金くどぅーに、おっきくなったねえ、とくまーちゃんは言いました。
41 :名無飼育さん :2012/12/04(火) 19:49
>>33-40 金くどぅーにさくら太郎
42 :名無飼育さん :2012/12/04(火) 19:53
参考

金くどぅー
ttp://m-seek.net/test/read.cgi/dream/1251815658/717-732

>>32
川c*’Д´)
43 :名無飼育さん :2012/12/04(火) 19:54

44 :名無飼育さん :2012/12/04(火) 21:02
日常的な鞘石がとても好みなので、作者さんの作風とても好きです。
しかし、金くどぅーの方でしたか。金くどぅーも大好きです。
45 :名無飼育さん :2012/12/05(水) 02:27
さくら太郎はなんだか既に的確に人物像を捉えてる気がする…!はえぇー
家来トリオは名前だけで華麗に想像できすぎて困った
46 :名無飼育さん :2012/12/06(木) 01:21
最後の一文にとてもほっこりしました

番外編でさくら太郎の鬼退治を期待しております
47 :名無飼育さん :2012/12/06(木) 17:47
くまーちゃんもふりてぇ
48 :名無飼育さん :2012/12/06(木) 23:12
金くどぅーキテタ━━━━━━( *´Д`)━━━━━━ !!!!!
今回も娘。達のキャラクターが益々好きになっちゃうお話ですね><
まだ出てきてないコ達のエピソードも読めたらうれしいです><
49 :名無し飼育さん :2012/12/08(土) 02:32
金くどぅー大好き
50 :名無飼育さん :2012/12/08(土) 22:40
金くどぅーに一寸鞘師
51 :名無飼育さん :2012/12/08(土) 22:42
はう馬がまた牧場を抜け出して、新鮮な水を飲みに川にやって来ると、
水面から飛び出した岩に奇妙なものが引っかかっているのを見つけました。

それはお椀でした。長い首を突き出してお椀に顔を近づけると、
なんとその中に、体長一寸足らずのポニーテールの小人が入っていたのです。

「ヒエエエエッ!?」

驚いて嘶いてしまったはう馬。
それに気付いた小人が叫びました。

「助けてください!」

と。

「たいへんたいへん、もちろんお助けしましょう」

はう馬は更に首を突き出し、長い馬面をお椀の縁まで持って行くと、さあここに捕まって、と導きます。
小人はえいやっと飛んで馬面にしがみ付き、無事お椀から脱出することができました。

落とさないようにゆっくり顔を引き上げ、水面に落下する心配が無くなると、
小人はしがみ付いたままはう馬にお礼を言います。

「本当に助かりました。親切なお馬様、どうもありがとうございます」
「いえ、それよりもこちらも謝らなくてはいけません。
 わたしの体では、あのお椀を拾ってあげることができないのですから」
「とんでもない! あなたは救世主です」
52 :名無飼育さん :2012/12/08(土) 22:46
互いにそんなことを言い合ってうふふと笑い合い、それから小人は自己紹介をしました。

「ウチの名前は一寸鞘師。見ての通り小さな人間です」
「わたしははう馬と申します。一寸鞘師さん、萌えですね〜」
「か、からかわないでください。ウチはもっとビッグになりたいんじゃ」
「あらあらそんな!
 動物とお話ができるし可愛いし、今のままで十分キャラが立ってますよ〜」

一寸鞘師を鬣のてっぺんに乗せたはう馬は、とりあえず話が合いそうな金くどぅーと
一寸鞘師を会わせることにしました。

まだ朝も早いので、家まで行けばきっと金くどぅーが遊びに出かける時間に間に合います。
お椀くらいなら貸してもらえるかもしれない、と説明しながら家に向かいました。

金くどぅーの住むプレハブ小屋に到着すると、換気扇から煙が出ており、朝餉の時を知らせています。

「もう少しすれば出てくるはずですから、ここで待ちましょう」
「いえ、お話は伺いましたし、ここからはウチが一人で行きます」
「えっ、そんな」
「これ以上お世話になるのも申し訳ないのじゃ」

一寸鞘師は驚くほど素早い身のこなしではう馬の体を駆け下りていき、
あっという間に地面に辿り着くと、はう馬の前に立って頭を下げました。

「本当にお一人で行かれるのですね」
「この度のこと、本当に感謝しております。どうもありがとうございました」
「……わたしは少しここで道草を食って帰りますから、どうぞお気になさらずに」
「優しい方、いつかその優しさで身を滅ぼさぬことを願っています」

一寸鞘師は一言余計なことを言いつつ、背を向けて歩き出しました。
53 :名無飼育さん :2012/12/08(土) 22:48
小屋の引き戸の前に立つと、その戸を二度叩いて待ちます。

「ごめんください」
「はーい、どちらさん?」

奥からハスキーな声が聞こえ、引き戸が開いて金くどぅーが姿を現しました。
しかし、当然一寸鞘師には気付きません。

「あ? 誰もいねぇじゃん」
「ここにおりま」

ぴしゃん!
戸はすぐに閉められてしまいました。

「……」

一寸鞘師は、懲りずに再び戸を叩きました。

「だから、誰ー?」
「ごめんください!」

今度こそ無視されるものかと声を張り上げると、金くどぅーは一瞬動きを止め、
自分の足元を見たとたん

「うおおおおおおっ」

と叫びました。
54 :名無飼育さん :2012/12/08(土) 22:49
「朝早くに申し訳ない、ウチは一寸」
「何だこいつキメェ! 母ちゃん、変なのがいる!」

無礼な小僧。
一寸鞘師の金くどぅーに対する第一印象は、この通り最悪なものだったと言います。

さておき金くどぅーの叫び声を聞いただーいし母ちゃん、割烹着の裾で手を拭きつつ

「何だよ騒がしいね」

と文句を言いながら引き戸までやってきて、金くどぅーに指で示された場所を見て
息を呑みました。
このチャンスを逃すわけにいかない一寸鞘師。

「おはようございます、ご婦人」

恭しくこうべを垂れながら挨拶すると、

「あらあらあらやぁーもおお! 何てかわいらしい!」

見事だーいし母ちゃんの心を掴むことに成功し、次の瞬間さっと拾い上げられて
しまいましたとさ。
55 :名無飼育さん :2012/12/08(土) 22:51
「朝のお忙しい時間にお訪ねしてしまい、重ね重ね申し訳ございません。
 ウチの名前は一寸鞘師。お椀の舟に乗って川を下っていたのですが、
 途中の岩に引っかかってとあるお馬様に助けていただいたのじゃ」

傍で聞いていた金くどぅーの脳裏に、はう馬の姿が過ぎります。

「とある、馬……? そいつ、超目のでかい雌馬じゃなかったか」
「いかにも。
 そのお馬様にここに連れてこられ、お椀を貸してもらえないかと……」
「お安い御用だよ!」

だーいし母ちゃんが快諾したのを聞いて、金くどぅーは耳を疑いました。
自分には欲しいものをなかなか買ってくれない厳しいはずのだーいし母ちゃんが、
このチビッコの要求にはあっさり応えようとしているのです。
それはそれは驚くし、とても嫌な気分になりました。

「おい母ちゃん! こいつ超怪しいじゃんいいのかよ!」
「何言ってんだい、こんなに礼儀正しい女の子のことを怪しいだなんて」

そして、また耳を疑う言葉が飛び込んできます。
56 :名無飼育さん :2012/12/08(土) 22:53
「お、おんな……?」
「見てわかんないのかい。我が子ながらにっぶいわぁ」
「……いかにも」

金くどぅーが改めて凝視した一寸鞘師は、心なしか紅い顔をしていました。

それからだーいし母ちゃんはおもてなし代わりのご飯粒を一寸鞘師に与え、
彼女に旅の目的を詳しく聞きました。

「ウチは得意のダンスで生計を立てるために、東の都を目指している途中でした」
「ダンス?」

ムッとしながら話を聞いていた金くどぅーが思わず反応します。

「そう、ダンス。何か心当たりが?」
「うちの母ちゃん、昔ダンスすごかったって聞いたぜ!」

得意げに話す金くどぅー。
しかし、ほんの一瞬だーいし母ちゃんの表情が曇りました。

「くどぅー、昔の話だから」
「伝説のバックダンサーとして有名だったんだからな!」
「なんと! お母様、ぜひ詳しく話をお聞かせください!」
「……本当に大したことじゃあないんだよ。東北の街で踊りを生業にしていただけさ」
「とんでもない! ウチの目指すものと同じではないですか!」
「でもね、ちょっと欲を出しちゃって、あなたと同じように都に出て失敗したんだよ……」
57 :名無飼育さん :2012/12/08(土) 22:57
これには、一寸鞘師も金くどぅーも共に口ごもり、だーいし母ちゃんは苦笑いです。
そしてそれから、東北の街でも人材が飽和状態で、背丈の小さな自分は思うように目立てず、
狭い舞台でバックダンサーをするしかなかったことなどを語りました。

「し、しかし、ウチの聞いた話では、東の都には小人専用の劇場があると」
「その感じだと、それは見世物小屋のことなんじゃないかねえ」
「そ、そんな……」

一寸鞘師は畳に膝を着き、息絶えた虫のように蹲ってしまいました。
金くどぅーは思わず同情してしまい、指の腹でその頭を少し撫でてやります。
ちいさなちいさな、啜り泣きが聞こえてきました。

「……ちょっと待ってな」

だーいし母ちゃんはその場を離れ、押入れをごそごそと物色し始めました。
ややあって戻ってきただーいし母ちゃん、年季の入った玩具の箱を持っていました。

「これ、母ちゃんが大好きだったシルバニアのおうちなんだけどね」

箱から中身を取り出すと、赤い屋根の二階建てのおうちが出てきます。

「今は一人の時間が欲しいだろうから、よかったらここにお入り」

部屋の片隅におうちを置いて、一寸鞘師に語りかけると、

「……」

一寸鞘師は泣きながらそのおうちに入っていきました。

「くどぅー、そっとしておいてあげるんだよ」
「……わかってるよ」

金くどぅーはそう言って、プレハブ小屋を出て行きました。
58 :名無飼育さん :2012/12/08(土) 23:00
小屋の近くで、道草を食っていたはう馬を見つけた金くどぅー。
お椀があった所に連れていってほしいと頼むと、ひとつ嘶いて場所を案内してくれました。

「一寸鞘師さんは今どうしていらっしゃるの?」
「疲れて寝てるよ」
「そう、確かに大冒険だったでしょうね。
 わたしたちには小さな川でも、あの方にとっては命懸けだから」

そうなのです。
彼女は、小さな体と小さなお椀ひとつでここまでやってきた、とても強い人なのです。
森で動物たちと相撲を取って勝ち、粋がっている自分とは違う。
以前出会ったさくら太郎も、鬼ヶ島へ鬼退治に行くという大きな使命を持った少年でした。

金くどぅーが強くなりたいのには、理由があります。
すぐ近くの足柄山が怖いからです。
足を踏み入れるのも恐ろしいその山。
しかし、いつかは行かなくてはなりません。
そのために力を付けなくてはいけないのです。
59 :名無飼育さん :2012/12/08(土) 23:03
一方。
だーいし母ちゃんは、皿洗いをしながら物思いに耽っていました。
遠い昔の自分を思い起こしていました。

伝説の“打ち出の小槌”を求め、東の都へ単身赴いた日のことを。
“打ち出の小槌”は、振ると欲しい物がなんでも手に入るというお宝で、
とある質屋に流れ着いているという噂を耳にした当時の母ちゃんは、
身長欲しさにいても立ってもいられず、都を目指す決心をします。
東北の時と同じように踊り子として働きながら、都中の質屋を探し歩きましたが、
結局見つけることはできず、ある日地方巡業の旅に出ることになりました。
その旅の途中の足柄山で遭難してから、だーいし母ちゃんの人生は大きく変わってしまったのです。

「お母様」

急に声をかけられただーいし母ちゃんは、びっくりして皿をシンクに落としてしまいました。

「も、もう起きちゃったのかい!?」
「いえ、ウチは寝ておりませんでした」

ずっと考え事をしておりました、と言う一寸鞘師の声は低く、それでいて芯のあるものに
変わっていました。
60 :名無飼育さん :2012/12/08(土) 23:06
「……何か覚悟を感じるね」

皿洗いを止めただーいし母ちゃんが畳に正座すると、正面で一寸鞘師も膝を曲げました。

「申し訳ありませんが、お母様のご助言だけで、この旅を諦めるわけにはいかないのじゃ」
「うんうん」
「しっかりとこの目で、劇場がどんなものかを確かめる使命がウチにはある」
「正しいね」
「それからどうするかを考えようと思っています。
 もしものことは……いや、今は悪いことを考えたくはないのじゃ」

愚かだと思うでしょうが、と言う一寸鞘師に、だーいし母ちゃんは首を振ります。

「母ちゃんも悪いことしたと思ってるんだよ。
 それでね、いろいろ思い出してたんだ。
 信じる信じないはあなたに委ねるけど、母ちゃんの生きた経験を、
 自分にとっては無駄だから、って切り捨てられるのはちょっと悔しいじゃない?
 ……だから、希望の助言をひとつあげるよ」

“打ち出の小槌”を知っているかい?
61 :名無飼育さん :2012/12/08(土) 23:08
金くどぅーとはう馬が目的地に辿り着くと、そこには驚きの光景が待っていました。
川のど真ん中にくまーちゃんがいて、素手で魚獲りをしていたのです。

「まーちゃん!?」

金くどぅーが思わず声をかけると、くまーちゃんはそれに気づいて両手を振りました。

「みんなー! やっほー!」

その手は鋭くて大きな爪が剥き出しになっており、金くどぅーはまた驚いてしまいます。
陸の上ではのんべんだらりとしたくまーちゃん。
もちろん、あんな大きな爪は見たことがなく、相撲の時だって一度も引っかかれた
ことなどなかったのです。
普段は皮膚の中に引っ込めてあったのだ、と理解しました。

「……なあ、まーちゃんってもしかして、超つえぇんじゃね?」
「えっ、急にどうしたの」
「あんな爪あったの、ハル知らなかった」
「うふふ、そういうこと。確かにまーちゃんが本気を出したら、
 わたしも一撃でドギュウウウーーーンされちゃうって思うな」

でも絶対わたしたちに爪や牙を向けたりはしないよ、
お友達だと思ってくれてるからね、とはう馬は言います。

「……」

金くどぅーはそれに答えず、お椀を探すことにしました。
62 :名無飼育さん :2012/12/08(土) 23:12
「打ち出の小槌……!
 それで叩けば、ウチの背が大きくなるかもしれないのですか!?」
「はっきり断言はできないよ。どこにあるのかもわからないから。
 ただ、間違いなく打ち出の小槌は存在していて、あんなお宝が
 あちこち盥回しにされるとは考えにくいんだ。
 ……母ちゃんは、今でも東の都のどこかにあると思っているんだよ」

一寸鞘師が、正座したまま小さな拳をぎゅっと握ったのが見えます。
だーいし母ちゃんは続けました。

「あなたとは今日出会ったばかりだけど、本音は女の子に危険な旅を続けて欲しくない。
 母ちゃん、くどぅーのことはもちろん愛しているけど、女の子も欲しくてさ!
 あ、これはくどぅーに言っちゃ駄目よ? 怒るの通り越して泣いちゃうかも」
「……あんな小僧が簡単に泣くとは思えませんが」
「それはあなたがまだあんまりあの子のことを知らないからさ。
 泣き虫で優しい子だよ、動物と話もできちゃうみたい。
 あ、もっとあの子のことを知りたいかい?
 いっそあの子の許婚になってみちゃう?」

へへっと笑いながら、だーいし母ちゃんはとんでもないことを言います。

「……も、もしウチが、打ち出の小槌で大きくなって、小僧と背比べをして
 ウチが負けたら、その時は考えましょう。
 ……でも、きっと無理でしょうね!
 ウチ、でっかくなったらパリコレにも出てみたいんじゃ。
 お世話になったお母様はともかく、小僧のことなどとうに忘れているに違いない!」

そう受け流す一方で、動物と会話できるという点に、一寸鞘師は少し引っかかりを感じました。

一寸鞘師は、幼い頃から自分と同じくらいの体長の動物と会話ができていました。
最初は鼠でした。
実は昔、彼女の頬には白い髭がぴょんと生えており、そこから言葉を理解することができていたのです。
成長するにつれ、髭は取れてしまいましたが、大きな動物とでも会話が可能になりました。
もしかしたら、金くどぅーにも……

「お母様、あの金くどぅーという小僧はいったい……」
63 :名無飼育さん :2012/12/08(土) 23:14
「ただいまー」

ちょうどその時、金くどぅーが帰ってきました。
お椀を見つけてきてくれたのです。

「ほれ、お椀ってこれだろ」

それを見た瞬間、ものすごい勢いで金くどぅーの体を駆け上がって、あっという間に
お椀を持った右手にまで到達した一寸鞘師。

「おお、いかにも! わざわざ見つけてきてくれたのか! ありがとう!」
「お、おう」

風に翻ったポニーテールと、きらきらの笑顔に戸惑いながら返事をする金くどぅー。
それを見ただーいし母ちゃんが、にやにやしながら言いました。

「よくやった! さすが母ちゃんの子……だけど、ずいぶん早かったねえ?」
「はう馬が知ってたから早かっただけだ」

金くどぅーは冷たく返しますが、だーいし母ちゃんはしばらくにやにやしっぱなしでした。

「ともかく、これでまた旅が再開できるのじゃ!」
「あ、なんだ? 結局行くのかよ」
「なんじゃ、もしかして寂しいのか」
「ぶぇええっつにぃいいいい?」
「ふふん、ウチには新たな旅の目的ができたのじゃ!
 君もどこか旅に出たら」
64 :名無飼育さん :2012/12/08(土) 23:16
「いや、ハルだっていろいろ考えてんだよ」
「何だって?」

ぼそりと呟いた一言を、だーいし母ちゃんは聞き逃しませんでした。

「……母ちゃん、ハル、そろそろ足柄山に登ろうと思う」
「…………そうか、とうとう決めたのかい」
「足柄山とは?」

金くどぅーの右手に乗ったままの一寸鞘師が尋ねます。

「……お前には関係ねえ」
「うん、ちょっと込み入った話になるからね。ごめんね」

母子揃ってそう言われた一寸鞘師は空気を読み、それ以上の追及はしませんでした。
場の雰囲気が重くなってしまったため、一寸鞘師は飛び跳ねてある提案をしました。

「それより、よろしければお礼にウチのダンスを見て欲しいのじゃ!」
「おっ、面白そうじゃねーか」
「カメラ! カメラどこにあったっけ!?」

すると一瞬で場が明るくなり、ちょっとしたダンス発表会が催されたのです。
65 :名無飼育さん :2012/12/08(土) 23:19
あっという間に夜になり、まだまだお礼が足りないと言って、一寸鞘師は
だーいし母ちゃんの爪をヤスリで磨いてあげていました。

「ありがとうねえ」
「いえ、実家では日課でしたから。爪磨きは得意なのです」
「ご実家のお父さんとお母さんは、こんな子が娘で誇らしいねえ」

イヒヒと照れ笑いの一寸鞘師。
そして、ヤスリをかけながらあるお願いをしました。

「ウチが見事大きくなって、成功をおさめたら……
 あのシルバニアのおうちを、ぜひ上から見てみたいのです。
 そのために、またここに伺ってもいいでしょうか?」
「おうちが気に入ったの? 大歓迎さ!
 なんなら、大きくなったらあなたにあげようか」
「ほんとですか!? ひゃっっほーい!」

嬉しすぎてぴょんぴょん飛び跳ねる一寸鞘師を、だーいし母ちゃんは微笑みながら見ていました。

「うわあ、楽しみすぎるー!
 ウチは絶対、打ち出の小槌を手に入れてみせます!」
「もしかしたら、母ちゃんより大きくなれるかもしれないねえ。
 その時は、小槌を手に入れた敬意も込めて、“鞘師さん”って呼ばなきゃだねっ」

布団で寝ていた金くどぅーは、そんなことも知らずに寝返りを打っていました。
66 :名無飼育さん :2012/12/08(土) 23:21
「一寸鞘師さん!」
「はう馬様!」

ぎゅっ

一日ぶりの再会を果たしたはう馬と一寸鞘師。
喜びのあまり、一寸鞘師がはう馬の馬面に抱きついています。

金くどぅーは持っていたお椀で首を掻きながらそれを見て、
お取り込み中悪いんだけど、と間に割り込みました。

「ほんとに今日行くのか? これから雨が降って川の水が増えるぞ」
「増えれば速度も上がるだろう。一刻も早く都に着きたいのじゃ」
「そっか、なら止めねえよ。
 あとこれは水かき代わりのスプーンな。
 軽いプラスチックのやつにしといたって母ちゃんが」
「なんてありがたい……お母様には感謝してもしきれない。
 ……もちろん君もだ、金くどぅー君」
「あんだよ今更、くどぅーでいいよ」
「くどぅー君、ありがとう」

はう馬から飛び降りた一寸鞘師は、金くどぅーの足首に抱きついて言いました。

「これは握首じゃ」
「……だ、駄洒落かよっ」

照れくさくなった金くどぅーは、蹴り上げるように足を振り上げて一寸鞘師を
地面に向かってふっ飛ばしましたが、身軽な彼女は華麗な着地を決めます。
67 :名無飼育さん :2012/12/08(土) 23:23
「そんな細首ではまだまだ頼りないぞ! もっと頑丈な男になるのじゃ」
「余計なお世話だっつの」

それから一寸鞘師は金くどぅーが地面に置いたお椀に乗り込み、
それを見たはう馬は慌ててしまいました。

「もう行ってしまうなんて!」
「はう馬様、どうか悲しまないでください。
 出会った時言ったことをおぼえていますか?
 ウチはもっとビッグになって帰ってくるのじゃ!」
「小さくても萌えだしいいじゃないですかー!
 ……でも、大きくなってもきっとお可愛らしいでしょうから、
 その姿をぜひお見せください!」
「はう馬様!」
「一寸鞘師さん!」

ひしっ

また馬面に抱きついている一寸鞘師。
金くどぅーは溜め息が出てしまいました。
68 :名無飼育さん :2012/12/08(土) 23:25
「……んぢゃ、手離すぞ」

水の流れのゆるい場所にお椀を浮かべ、いよいよ金くどぅーがその手を離すと、
ゆーらゆーらとお椀が流れていきます。

「それでは、行ってくるのじゃ!」
「ばいばーい!」

その時いきなり背後から甲高い声が聞こえ、飛び上がって驚く金くどぅー。
なんと、いつのまにかそこにくまーちゃんが立っているではありませんか!

「まーちゃん!? いつからいた!?」
「アッハッハ、くどぅー君は相当鈍い! ずっと前からそこにおったのじゃー!」
「なぬーっ!?」
「く、くどぅー落ち着いて! わたしも今気付きました……」

驚きを引きずっているはう馬と金くどぅーを尻目に、くまーちゃんと一寸鞘師は
お互い手を振り続けています。

「お姉さん行ってらっしゃーい!」
「行ってきまーす!」



…………


……


69 :名無飼育さん :2012/12/08(土) 23:27
お椀が見えなくなるまで遠くに行ってしまうと、くまーちゃんはやっと振り返りました。

「じゃじゃじゃーん! ビックリした!?」
「ビックリし過ぎて、ポックリいきそうになったよこっちは」

金くどぅーが呆れながら言うと、くまーちゃんは胸を張ります。

「まーはね、最近魚獲りで気配を消すのが上手になったんだよ!」
「あー、なるほどねー」

はう馬が呑気に納得していましたが、金くどぅーの胸はちりっと痛みました。
くまーちゃんが、どんどん立派な熊として成長している。
やっぱり自分も成長しなくてはいけないんだ、と。

「…………うん」

一大決心した金くどぅー。
はう馬とくまーちゃんに向かって、静かにこう言いました。



「……ハルさ、ちょっと足柄山のママに会ってくる」


70 :名無飼育さん :2012/12/08(土) 23:28
>>50-69 金くどぅーに一寸鞘師
71 :名無飼育さん :2012/12/08(土) 23:30
あと一回続くんじゃ。



レスありがとうございます。

>>44
現状、おデート報告もなくこういった内容に偏ってしまっているのですが、
(だいたいおうちデート多すぎだろーと)お褒めいただき大変嬉しいです。
金くどぅーも結構前にフリースレにあげたもので、今回もそっちに投稿しようかと
思いましたが、フリースレが新スレに移行した今、リンクを貼る必要性が出たので、
どちらにあげても大差ないだろうとこちらに投稿いたしました。
フリースレにあげた話は他にもいくつかありますので、興味がございましたらお手数ですが
前スレからのリンクを辿っていただければ、と。

>>45
さくら太郎、本当はもっと個性を出したかったのです。
現実ソース、モア・ウェルカム!
家来は名前だけで決めたんですけど、意外としっくりきたのでラッキーでした!

>>46
前述とかぶりますが、小田さんのこと、正直まだよくわかりませんので、
あるとしても続編はかなり先の話になると思います……

>>47
   (⌒─-⌒)
  ((( ・(,,ェ)・)
   ||l∩* ^_〉^) <ヤダピョーン♪
    ||  .  |⊃ 
   C:、.⊃ ノ
     ""U  ) ))
    
>>48
ノリ*´ー´リ<という訳で、ウチの登場じゃ

>>49
テo´ 。`レ<へへへ
72 :名無飼育さん :2012/12/08(土) 23:31

73 :名無飼育さん :2012/12/10(月) 00:14
みんな出てキタ━━━━━━( *´Д`)━━━━━━ !!!!!
74 :名無飼育さん :2012/12/10(月) 11:13
くまーちゃんビワあげるからもふもふさせてくれよぉー

このお話和むわ
75 :名無飼育さん :2012/12/14(金) 22:35
つま みたい
76 :名無飼育さん :2012/12/14(金) 22:37
ケータリングの前を通りかかった時、赤く輝くミニトマトの山がとても魅力的に見えた。
行儀が悪いと知りながらも、手を伸ばさずにはいられなかった。

ひとつつまみ上げて即座に口に入れ、噛まずに廊下を急ぎ足で歩く。
楽屋に戻ると同時にヘタだけ唇から出して千切り、テーブルにひっかけてあった
ゴミ袋に捨てた。

「……見ちゃいましたよー?」

そこへ、背後から含み笑いの声をかけられる。
鞘師は肩を縮こまらせながら振り返った。
そこにいたのは、石田だった。

「鞘師さんのつまみ食い現場。いーけないんだー」
「……」

口の中のトマトを噛めないまま、鞘師は無言で指を一本たてて唇に添えた。

「えーどーしよっかなあ〜?」

すると石田はきょろきょろと辺りを見回して、告げ口相手を探すフリをした。
急いでトマトを噛んで飲み込む鞘師。
77 :名無飼育さん :2012/12/14(金) 22:38
「んんー、なんのことかな?」
「あ、飲み込んだ!」
「え? だからなんのこと?」
「そんなに食べたかったんですか」
「いや超おいしそうだった。真っ赤で」

それつまみ食いを認めちゃってますよね、石田は鞘師を指差す。
まあバレたところで、と鞘師は開き直る。

「駄目じゃないですか、先輩ですよ? 後輩に示しがつかないなあー」
「亜佑美ちゃんが真似するとは思えないし。する?」
「そりゃあ当然やりませんけど」
「赤くてピカピカで、ほんと美味しそうで無視できないよ、あれ。実際美味しかった」
「……さっきも近いこと言いましたけど、そんなにトマトお好きでしたっけ」
「野菜は基本好きなの」
「つまみ食いするほど好きなんですかー、へー」

まだ意地悪くそんなことを言いながら、石田は鞘師の半歩後ろをついてくる。
これから食事をするので、二人とも洗面台で手を洗おうとしているのだった。

「そういえば、SATOYAMAのロケでもミニトマト収穫しましたよ」

一台しかない洗面台で先に鞘師が手を洗っていると、待っている間にも石田が話しかけてきた。
へえ、と相槌を打ちつつ、ちょっとした疑問がわいたので、鞘師は下を向いたまま尋ねる。
78 :名無飼育さん :2012/12/14(金) 22:40
「あれってさ、お礼に野菜もらえたりするの?」
「あ、もらえますよ。傷あるのとかは」

ところが、水の勢いが強く音が大きかったせいか、鞘師は大きな聞き間違いをしてしまう。

「……キス?」
「傷です! キ・ズ!」
「……ああ!」

どん、石田は軽く小突いたつもりだったが、成長して幅の広がった鞘師の背中からは意外と
鈍い音が聞こえた。

「あ、すいません! そんな強く叩いたつもりじゃ」
「いや、イヒヒ、平気。てか、はは恥ずぃ」
「もーほんとですよ、とんだ聞き間違い」
「……したいのかなあ今」
「え? なんですか」
「いや、次どうぞっ」

機敏な動作で横にずれて順番を譲ると、礼を言いながら石田が台の前に進む。
鞘師は一歩後ろに下がり、前にもこうして背後に立ったなあなどと思い出しつつ、
台の上にあった鏡越しに石田の顔、主に唇を思う存分見た。
相変わらず発色が良くて、俯き気味で少し鼻の陰になっていても艶やかで。
あの艶は、触れて形を歪ませたらどんな反射をするのだろう。
……触れたことはあるが、感触ばかり気になってそこらへんを意識したことが無かった。

感触……

鞘師は無意識に自分の唇を触りながら、ついつい思い出を反芻してしまう。
そして思った。
さっきのはやっぱり願望だったのかな、と。
79 :名無飼育さん :2012/12/14(金) 22:41
>>75-78 つま みたい
80 :名無飼育さん :2012/12/14(金) 22:42
ぬおおおおおおお!
書き溜めてあったSATOYAMAのお裾分けネタを先にメンバーブログでやられてしまって、
慌てて更新しました……



レスありがとうございます。

>>73
全員じゃないですよーまだ出ますよー!

>>74
川屮 ^_〉^)屮<そのビワだけくれないとかっちゃくぞー!
ハo´ 。`ル<かっちゃくは「引っ掻く」って意味な
81 :名無飼育さん :2012/12/14(金) 22:42

82 :名無飼育さん :2012/12/17(月) 23:04
魚の手
83 :名無飼育さん :2012/12/17(月) 23:06
……トイレに立つ前に、イタズラ心でその寝顔を写真におさめた時は、
小さな子供のように自分のコートを抱きしめて眠っていたのだ。
今、鞘師の左腕は肘置きを跨いで、石田の座席のスペースを侵食していた。

このままだと着席できない。

起こそうかと思ったが、それで起きた瞬間にサッと腕を引かれる様を想像したら、
なんだか無性に寂しかった。
なぜならその腕はほんの少し前に石田を強く抱きしめていた腕で、
皮膚にはまだ余韻が残っていたからだ。

少し屈んで、肘に近い部分をそっと掴んで曲げてみる。
それからもう片方の手で、力の抜けた手のひらを掬い上げるように持った。
思っていたより、重かった。

なるべく位置を固定しておいて、体を捻りながらゆっくり座席に腰を下ろした。
鞘師は起きない。
ふっと息を吐いて、この腕をどうしようかと悩む。

素手で掴んだ魚を、再び川に放流するか?
それとも自分のものにするか?

……白と赤の縞模様のついた珍しい種類なので、しばらく鑑賞することにした。
84 :名無飼育さん :2012/12/17(月) 23:09
この魚は、今は死んだようにぐったりしているが、よく動く機敏な魚だ。
ステージの空気を裂くように、またうねるように泳ぐこともできる。
どの軌道もとても美しい。

かと思えば、布地の隙間が大好きで、少しの隙間に強引に入り込んでは、
予測できない動作で自分の肌に汗や熱の跡を残していったり……
右の魚は静脈の上をなぞるように行き来したり、動脈の上で静止したり。

左右の二匹で、体を回り込んで交差させるのも大好きで。
ときどき恥ずかしいのか、ぎゅうと声をあげてから笑って誤魔化すこともある。
ハイテンションにつられてトビウオみたいに急に浮上しようとして、
さっきはそれに巻き込まれたりした。
皮膚の余韻はそれだ。

こんなによく動く魚が、一年くらい前までは自分に寄り付こうともしなかったのを思うと、
なんだか不思議な気持ちになる。

心地いい領域でありたい。
澱んだ気持ちで不快にさせたくない。
好きだと言ってくれた唇も、まあ半分は自分のためでもいいから、
いつでも潤わせておきたい。
85 :名無飼育さん :2012/12/17(月) 23:12
石田は電車が目的地に近くなるまで、飽きずにずっと鞘師の手を見ていた。
いよいよ起こさなければという時になって、そうっと腕を隣の席の方に
移動させた時、肘の関節が鳴って思わず息を止めてしまう。
案の定、鞘師は目を醒ました。

「……起き、ました?」

石田の声を聞いて少しだけこちらを見て、それから深く息を吸って吐いた。
耳に嵌めていたイヤホンを外そうとして、石田の手元から浮き上がる魚。
急に軽くなったせいで、手の感覚がちょっとおかしくなる。

「……ついた?」
「まだ。でももうちょっとですよ」

外したイヤホンをコートのポケットにしまうところまで見届けて、石田は前を向く。
その視界の片隅で、鞘師が左手を摩っているのが見えた。

「ねー冷えたのかな。手冷たい。
 ウチ冷え性だから寝る時もコート触ったりしてんだけど、寝てるうち離したかなあ」
「あー……ですね。離してましたね」
「あ、やっぱかー」

亜佑美ちゃんは起きてたの、と聞かれ、ええ、と前を見たまま答えたら、
突然手首を掴まれた。
それからすかさず白い手を握られる。
86 :名無飼育さん :2012/12/17(月) 23:14
「……」
「……どうでしょう?」
「えーと、人肌? ちょうどいい」

意外といい言葉をもらえて、内心ほっとした。
そんなちょうどいいはずの手を、鞘師が遠慮なく自分の座席側に引き寄せて、
石田は少し前と逆の立場になる。
捕獲された魚の立場に。

だから、どういう思いで触れているのか異常に気になってしまった。

「亜佑美ちゃんさ、ぷにってるよね」
「て、手ですか?」
「うん、なんか好き。イヒヒ」

降りるまで触っててもいい? と聞いてくる。

「……汗ばんでも知りませんよっ」

もう思い上がりでもいい。
鞘師はきっと、自分に嫌いなところがない。
きっと、きっとだ。

おそらくすぐに摩擦で熱が起きてしまうだろう。
そして、そうなっても鞘師は自分に嬉しい言葉をくれるはずだ。

それが待ち遠しかった。
87 :名無飼育さん :2012/12/17(月) 23:15
>>82-86 魚の手
88 :名無飼育さん :2012/12/17(月) 23:19
千秋楽テンションひゃっっほーい( ´θ`)ノ♪
89 :名無飼育さん :2012/12/17(月) 23:19

90 :名無飼育さん :2012/12/18(火) 02:22
千秋楽のブログ画像良かったですよね!
作者さんの物の喩えが独特で個性があって面白かったです。
やっぱり鞘石いいですね。これからも楽しみにしています!
91 :名無飼育さん :2012/12/19(水) 06:53
接触系いっぱいキテタ><
92 :名無飼育さん :2012/12/23(日) 19:45
金くどぅーに足柄山の真実
93 :名無飼育さん :2012/12/23(日) 19:46
金くどぅーは、山道を慎重に歩いていました。
ここは足柄山。妖怪が出るともっぱらの噂で、普段はめったに人が入らないという山です。

……お話は昨日に遡ります。
一寸鞘師を送り出した金くどぅーは、くまーちゃんとはう馬に

「山には一人で行けるから、帰りを待ってて欲しいんだ」

とお願いしました。

「ママっていうのは、くどぅーに最初のお名前を付けてくれた人?」

くまーちゃんが尋ねると、金くどぅーは小さく頷きます。
それを見たはう馬が、

「それじゃ、わたし達は邪魔だね。
 まーちゃん、一緒に待っててあげよう」

と察してくれました。
金くどぅーはくまーちゃんの駄々を心配していましたが、

「うん、お山はまーのテリトリーじゃないから、まーちゃん待ってるね!」

意外にも空気を読むくまーちゃん。
また成長を見せ付けられたような気がしましたが、それは胸のうちに秘めておいて、
翌朝金くどぅーはだーいし母ちゃんに護身用の新品のマサカリをもらってプレハブ小屋を出、
くまーちゃんに抱きついて“お守り”を付けてもらい、はう馬にはいってらっしゃいと
声をかけてもらって、二頭に見送られながら森を出ました。
94 :名無飼育さん :2012/12/23(日) 19:48
マサカリを手に、ドキドキしながら上り坂を歩いていると、
目の前に白い塊が飛び込んできました。

「うわっ!?」

その塊の正体は、口の近くに黒い点のような模様のついた白うさぎでした。

「なんだ、うさぎかよ……」
「あ、あんた何者!? どうして人間から熊の匂いがするの!?」

うさぎが怯えて縮こまっています。
金くどぅーはひとつ深呼吸してから、そのうさぎに話しかけました。

「驚かせて悪ぃ。この匂いは、ハルの友達の熊がお守りにつけてくれたんだ」
「熊が友達? そんなの信じられないの」
「信じてくれよ。えっと……ハルの名前は、金くどぅーって言うんだけど」
「? 変なの。“ハル”は名前じゃないの?」
「ああ、うん。ほんとは“ハル”がママの付けてくれた名前。
 今からそのママに会いに行くんだ」

金くどぅーが説明すると、白うさぎは少し考える素振りを見せました。

「……ちょっと待って欲しいの。
 その“ハル”に、さゆみは超ーーー聞き覚えがあるの」
「えっマジで?」

直後、白うさぎの耳がぴょこんと立ちます。

「思い出したの! ついてくるの!」
「あん? ま、待てよ!」

金くどぅーが白うさぎの後についてしばらく走ると、大きな木の前に辿り着きました。

「ここ! ここなの!」
「……こ、ここに何が……?」
「れーな! 起きるの! れーなの子供が来たよー!」

その時です。
金くどぅーは大木の前に、木の棒を立てて作った質素なお墓があることに気付きました。
そして、そのお墓に引っ掛けてあった動物の牙が、白うさぎの声に反応して光り始めたのです。
95 :名無飼育さん :2012/12/23(日) 19:50
「うわわわ、な、なんだコレ!?」
「ハルのママ……妖狐れいなの登場です、どうぞ!」

白うさぎのMCを受けた光が、満を持してと言わんばかりに牙から離れ高く舞い上がり、
それから急降下して、金くどぅーの前に人型を作ります。
その姿は、狐の耳と尻尾を生やした女性のようでした。
女性は金くどぅーの姿を見るなり、軽い口調で言いました。

「うっそ、マジ!? さゆ、マジでれーなの子やん!」
「だからそう言ったの」
「うっわー信じられん! けどマジうれしーヤバーイ!」
「いや、挨拶くらいしろよ……なの」
「あっ」

てへぺろ☆とリアルに口に出して言う妖狐れいな。

「えっと、こーゆー時なんて言うとかいな。
 ……れ、れーなは、あんたのママよ」

その瞬間、金くどぅーの両目から涙が溢れ出しました。

「ま、ママ……? ほんとに、ハルの、ママなの?」
「そーよ、こんな姿やけどね」

もっと気の利いたことを言え、と白うさぎが突っ込みます。

「えっと、ハ、ハルカ。そこのママの牙、取ってみいよ」

涙をぼろぼろ流しながら、金くどぅーはお墓の木に引っ掛けてあった牙を取り外しました。
するとどうでしょう。人型の光が消えたかと思うと、今度は牙から水色の光が溢れ出し、
金くどぅーの全身を包み込んだのです!

「ほーら、やっと捕まえたぞー!」
「う、っうう、うええええ!」
「よしよし。あん時は赤ん坊だったのにねー……こんなに立派になったんだ」
96 :名無飼育さん :2012/12/23(日) 19:53
妖狐れいなの魂は思い出します。

人の女に化けて人間と結ばれたものの、赤子に尻尾が生えているのが見つかり、
子供と一緒に家を追い出されてしまったつらい日々。
妖力も維持できなくなり、足柄山で狐に戻ってしまったこと。
お乳も出なくなり、まだ赤ん坊だった金くどぅーは当然獲ってきた獣の肉を食べてはくれず、
どんどん衰弱していきました。

そこに現れたのが、だーいし母ちゃんです。
大きな狐の懐に弱った赤ん坊がいたのを見つけ、危険を顧みずに救い出した彼女。
妖狐れいなは我が子が攫われてしまうと思い、赤ん坊の金色(こんじき)の
尻尾に噛み付いて取り戻そうとしました。
体が出来上がっていなかった赤子の尻尾は、その時に千切れてしまいました。

「ずっと気になっとったんやけど、痛くなかった?」
「ううん、ちっちゃすぎ、て、おぼえ、っない、から……大丈夫」
「そっか」

我が子が見ず知らずの人間に連れ去られてしまった妖狐れいな。
無気力になり、動物を獲って食する本能も失ってしまいました。
白うさぎのさゆうさが目の前に現れても、その場に伏したまま襲おうとはしませんでした。

「どうしてさゆみを襲おうとしないの?」
「……どーせこのまま生き伸びても、なーんも楽しくないと」
「どうしてそんなことを言うの?」
「大切な子供を育てられんなら、死んだ方がマシ。
 れーなは妖怪やし、体があれば記憶を新しくしていずれまた生き返るっちゃん。
 あーあ、でも、生き返ったらハルのこと忘れてしまう。
 やだなあ、生き返りたくない。もっかいハルに会いたいよぅ……」

そして、れいなの最期を看取ったのが、そのさゆうさでした。
魂となった妖狐れいなは、ヤケクソになっていろんな動物に憑依しては、
山に立ち入る人間にちょっかいをかけるようになりました。
97 :名無飼育さん :2012/12/23(日) 19:55
足柄山に入ると、妖怪に取り憑かれた動物に襲われてしまう。
人間の世界でそんな噂が立ち始めた頃、だーいし母ちゃんは金くどぅーを背負い、
鍬を持って山の中に入りました。

自分のせいに違いない、という自覚があったからです。
そして、金くどぅーを見つけた場所に辿り着くと、生き返る機会を失った、
腐りかけの妖狐れいなの亡骸を発見しました。

「あんたの“母ちゃん”って、超真面目やね。
 ヤバイくらい腐ってたのに、れーなの体を土に埋めて、お墓を作ってくれよったと。
 抜けてた牙もちゃんと拾って、お墓に引っ掛けてくれてさ。
 ちょっとおっきくなったあんたの姿も見せてくれて」
「母ちゃん……」
「れーなはなんか悪いなって思って、それからここで大人しくしようと思った」

今でもたまにあの人が手を合わせに来るからさ、と妖狐れいな。
金くどぅーは、だーいし母ちゃんがそんなことをしていたなんて一切知りませんでした。
きっと自分が遊びに出かけている間に、こっそり墓参りをしていたのでしょう。
妖怪が出るというのも昔の話で、もしかしたらだーいし母ちゃんが金くどぅーだけについた
嘘だったのかもしれません。
金くどぅーは、本当の母親がすでに亡くなっていて、それは足柄山の別の妖怪に襲われたからだ、
と聞いていたのです。
昔、尻尾が生えていたことも、その時に聞きました。

赤子の頃に感じた死への恐怖は、いつの間にか妖怪に対する恐怖にすり替わっていたのでした。
しかし、自分も妖怪の血が流れるモノとして、心の奥に滾るものを感じていました。
その妖怪をやっつけるための力をつけ、実の母親が生きていた証を探すために、
金くどぅーは森の動物たちと相撲を取り始めたのでした。

「でも、連れてきてくれたんはその一回だけ。
 我慢できんくなって、ハルは元気? って、
 話しかけたことがあったんやけど……」
98 :名無飼育さん :2012/12/23(日) 19:57
『ハ……ル?』
『そう、ハル! あんたが連れてったれーなの子よ!』
『それがあの子の名前なんですか』
『そうそう! ハルカだけどハルって呼んでた』
『きちんと立派に育っていますよ。
 物心もつき始めて……でも実は、この山のことを怖がっています』
『あー……うん、そらそうやろね……』
『ただ、あの時のことを忘れないように、金の尻尾を持っていた子……
 金くどぅーと名づけました』

 …………

 あんなに深い雑草の中であなたの金色の毛皮を見つけられたのも、
 それを見てふらふらと近寄り、前を行く仲間から離れてしまったのも、
 あの子を抱いて、急いで来た道を駆け下りようと思ったあの瞬間の判断も、
 ぜんぶ運命だったのかもしれないですね。

『私にとっても大切な子供です。
 いつか、この名前のことを聞かれたら、その時はちゃんとお話しますからね』
『うん、ありがとう。よろしくね』
99 :名無飼育さん :2012/12/23(日) 19:57
金くどぅーが深く息をつきます。
妖狐れいなの魂はそれを感じて、金くどぅーから離れました。

「あ、ママ……」
「……ハル、れーなはあんたのことが大好きだよ。
 でもだーいし母ちゃんも、れーなに負けんくらい、
 ハルのこと大好きやと思うから」

帰っておやり

と言い残して、妖狐れいなの魂の光は、完全に立ち消えてしまいました。

「待ってくれよ、待って……」
「……ズルい女なの」

さゆうさが金くどぅーの代わりに愚痴りました。
100 :名無飼育さん :2012/12/23(日) 20:00
「あんだよ……結局ママは、育児放棄したシンママじゃねえか」
「そんなこと言っちゃ駄目なの。
 おっぱい出なかっただけで、ちゃんとあんたを育てようとしたの」

帰り道をさゆうさと歩いていた金くどぅー。
さゆうさがすかさずフォローを入れると、

「ん、まあね」

と、ちょっと言葉に詰まっていました。

「これでさゆみと普通に会話できるのも納得したの」
「そー、ハルは実は狐の妖怪の子供だったって話」
「熊の匂いつけておいてよく言うの。鼻がひん曲がりそうなの」

金くどぅーは大笑いして転びそうになっていました。

山の出入り口付近に辿り着いた時、

「その牙、連れてっちゃうの?」

とさゆうさが言います。
金くどぅーが懐に入れていた妖狐れいなの牙のことです。
金くどぅーは当然持ち帰ろうとしていたのですが、さゆうさはそれが惜しいみたいでした。

「そっか、気付かなくてごめん」

理由はわかりませんが、さゆうさはずっと妖狐れいなの傍にいてくれていたのです。

「んぢゃ、返すけど……ずっとママに付き合ってくれてたんだよな?
 なんでか聞いていい?」
「さゆみはれいながまだ生きてた時、喰われようと思って前に出たの。
 でも逆に“死んだ方がマシ”なんて言われたの。
 その時は妖怪ってよくわからなくて、普通の狐だと思ってたから、
 食物連鎖に反抗したれいなに何かグッときたの。
 それから魂になるまでにいろいろ話を聞いたけど、ヤバ過ぎてお腹痛くなるまで笑った!」
「へ、へえ……」
「魂になってからも、同じ話で笑いあえる仲なの。きっとずっと話していられると思う!」

興奮気味のさゆうさを見て、ちょっと危険な香りを感じましたが、
実の母親はどんなことを話すのか? 子供として俄然興味がわいてきました。

今度だーいし母ちゃんと墓参りに行った時にその話をしてもらう約束をして、
さゆうさと別れました。

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