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オンパレット

1 :名無飼育さん :2012/08/30(木) 21:23
やじみやあいりしゃこを軸に学園もの短編。
宜しくお願いします。
201 :idoloid :2015/04/25(土) 21:23
その初めて上手くいった公演の終了後、私はみんなから離れたメイク台で1人、化粧直しする手もそこそこに、こころの中で何度も何度も喜びを噛み締めていた。
直ぐにゆるんでにやけ出す頬を誰にも見られないように気を付けながら、じたばたしたくなる衝動を何とか身体に留めていた。

そのときだ。
いきなり楽屋のドアを蹴破ってきた桃が、豪速球で投げたボールみたいに真っ直ぐこちらに突進してきたのだ。
驚いて目を丸くする私を無視して、彼女は顔をずいっと近付け、猛然とこうまくし立てた。


「みや!すごい!あのパート!大成功!とってもとっても良かった!
 もうねえ、もも、感動しちゃったよ!」


瞳に目一杯の光を閉じ込め興奮した様子で、自分のことのような熱量で語り出した桃に面食らう。
いつもはひんやり冷たそうな白い頬がピンク色に染まっていた。
勢いに気圧され、咄嗟に気持ち的にも物理的にも引いてしまい、ああ、ありがと、と私は素っ気なく応え仰け反った。

温度差がある反応にようやく我に返ったのか、桃は慌てて飛び退いた。
そして照れ笑いを浮かべた顔をさっと逸らし、ぼそぼそとこうつぶやいたのだった。


「でも、そうだよね。みや、頑張ってたもんね。
 いっぱいいっぱい練習してたもんね。すごいよ」


瞬間、身体が一気にかっと熱くなった。
追って、顔にどんどん熱が集中していく。
何か返そうとしても、言葉が全く出てこない。
喉で堰き止められたそれは、胸をいっぱいにして苦しくなる。

まるで突然、自分の内側で激しい嵐が巻き起こったみたいで混乱した。
きっと赤くなっているであろう顔を見られたくなくて、私はそのとき、何か浮かんだ適当な台詞を投げ付け、そっぽを向いて追い払った。

何気ない一言だったからこそ余計、自分に起きた変化に訳が分からず戸惑った。
首の裏がむずむずとかゆくなる。
頭が全く付いていかず、そのままずるずると机に突っ伏して、あああ、とか何とか、情けない声を漏らしたことまで覚えている。
202 :idoloid :2015/04/25(土) 21:23
つまり、嬉しかったのだ。
裏で練習している姿は、みんなにばれまいと必死で隠していたはずなのに、それを気にして見ていてくれた。
もしかしたら、結果で努力を判断してくれたのかもしれない。
何にせよ、桃に評価してもらえたことが、堪らなく私を喜びで満たした。



負けたくないって思っていた。
でもその気持ちは、少しずつ変わっていたことをはっきりと思い知らされた。
私は桃と、対等な目線に立っていたかったのだ。

私のこと、すごいと思ってて欲しい。
私が桃を、すごいと思っているのと同じように。
桃に何かあったら助けてあげたい。
いつも桃が私を助けてくれるみたいに。

私は桃に、隣にいていい存在だと許され、認めて欲しかったのだった。
203 :idoloid :2015/04/25(土) 21:23
「ああ、ごめん」


謝罪の言葉を述べつつも、ゆっくり距離を縮めて隣に並び、また再び歩き出した。
一抹の風が砂埃を巻き上げ虫柱を散らす。

そこでふと、桃がわずかに右脚を引きずっていることに気付き、ひやっと恐れが背中を舐めた。
佐紀のラストライブのことが頭を過る。
思い通りにならなくなった脚、悲痛な叫び―――
動揺を感付かれないように、右手で彼女の手首を掴み、自分の左腕を持たせた。


「掴まれば」
「ああ、うん」


短い指が二の腕辺りの服をちからなく握った。
会社に刃向かったことで佐紀は4日前からメンテナンスを受けていなかったのを後から知った。
もし桃も同じならば、最後にラボへ行ったのはいつなのだろう。
嫌などきどきが胸に生まれて息苦しくなる。


「明日のライブさ」
「うん」
「途中でももの声が出なくなっちゃっても、かわいそうだなんて思わないでね」
「うん」
「身体が動かなくなっちゃっても、同情なんてしないでね」
「うん」
「絶対そういうふうに思われたくない。みやだけには」


同情なんてする訳ないじゃん。
私を誰だと思ってんの。

台詞をそのまま受け取ったらかちんと来て、テニスのラリーみたく打ち返してやりたくなったけど、少し考えてみてぐっと堪え、くちびるを引き結んだ。
こういうことを桃がはっきりと口にしたのが珍しかったからだ。
見下ろした彼女の横顔は、寸分の隙もなく真剣だった。
204 :idoloid :2015/04/25(土) 21:25
思えば、桃とはとにかく言い合ってきたけれど、肝心なことはちゃんと言葉にしてこなかった気がする。
意地とか照れとか気恥ずかしさとか、口に出さなくても分かるでしょ、という信頼や怠惰や甘えは、言葉を見えない糸にした。
それを長いこと通い合わせて出来た繭の、何といびつでぶさいくなことか。
でもそれは、紛うことなき不器用な2人の、2人だけの形。

歌詞になってしまえば、アイドルの顔で何でも言えてしまうのに、お互いにだけはなかなか素直に気持ちを伝えられない。
結局のところ、私と桃は似た者同士なのかもしれない。
自分が1番大好きで、他人に手の内や弱いところを絶対見せたくない、完璧主義の負けず嫌い。

変なの。私たちが並んだ画は、誰の目にもちぐはぐに映るだろう。
キモい仕草やウザい言動を直ぐにして、ピンクのふりふりした服ばかり好む、こんなちんちくりん。

でも私が背中を預けるならば、こいつしかいない。
世界でたった1人、桃だけなのだ。


「フォローするから」
「よろしく」


きっぱり言い放った返事に、少しだけ肩のちからが抜ける。
いつもの強気に安心していると、不意に言葉が掛けられた。


「みやは優しいねぇ」


熱いお味噌汁が胃に沁み渡っていくような、しみじみとしたおばあちゃん口調に思わず笑ってしまう。
ふん、と鼻から息をついたら、存外感じ悪く響いた。


「何それ、今頃気付いたの?」


軽口を叩きながら桃の顔を覗き込んで、どきっとした。
桃が見たこともない−−−いや、子どもの頃に目にしたことがある表情をしていたからだ。

ぎりぎりまでいっぱいになって、表面張力で何とか持ちこたえているコップの水みたいに、目のふちに溜めた涙。
鼻の頭を赤くしてくちびるを固く結び、必死で泣くのを堪えている顔は、ちいさかった昔にダンスレッスンでめちゃくちゃに叱られたときを思い出させた。

波紋のようにざわつきが胸に広がる。
桃が静かに私を見上げた。


「ううん。ずっと前から知ってたよ。
 何百年も前から、知ってたよ。
 ありがとうって、いっつも思ってた。
 ずっと伝えたかったの」
205 :idoloid :2015/04/25(土) 21:25
ついにぽろぽろこぼれた雫に気付かされる。
全然分かっていなかった。
最期の日の前日は、もう日常なんかじゃない。
自分でも信じられないくらい切羽詰まった声が出た。


「ももっ!」


涙を隠すふうに、桃は私の肩口に顔を押し付けた。
強引に引き寄せると、まつげが首筋に当たって肌の表面が熱く濡れる。
腕の中でちいさなかたまりが震えていた。

―――途中でももの声が出なくなっちゃっても
―――身体が動かなくなっちゃっても

さっきの台詞が頭の中で繰り返される。
もしかして、桃はこれから自分の身に振り掛かる未来が分かっているのではないだろうか。
最悪のシーンが頭に浮かび、急激に体温が下がったみたいにぞっとした。

一面ピンク色に染まった空間で1人歌い踊る桃を、私は後ろから見守っている。
しかし突然、切断されたように歌声が止まるのだ。
ざわめきが広がる中、蕾がほどけるみたくして、握っていた手からマイクが取り落とされる。
会場に響き渡った鈍い衝撃音を追い掛けるように、糸が切れた傀儡みたく膝から崩れ落ちて彼女は−−−


「くやしいよ、みや」


くぐもった涙声は細く掠れていた。
嫌な想像を追い出すようにぎゅっと目を瞑って、背中に回した腕にちからを込めて祈る。
アイドルに誰よりもこだわってきたのは桃なのに―――!
206 :idoloid :2015/04/25(土) 21:26
「最期になんないと何も言えないなんて」


しばらくして桃は、そう自嘲しながら私の身体から離れた。
その言葉に胸が痛む。

恐らくオリジナルから引き継いでいるこの宿題を、私は、私の方は、まだ果たせていない。
でも、この期に及んでどう切り出せばいいか分からず、焦りだけが空回りする。
時間はスイッチを入れられたときから終わりに近付いていたのだ。
それから目を逸らし続けていたツケが今、ここにきて回ってきている。

沈黙が訪れる。
根が生えたみたいにお互い立ち尽くしていると、桃がぽつりと重たい空気に穴を開けた。


「佐紀ちゃんには話したんだけど、みやにも言っとくね」


ゆっくり頭をもたげると、真剣な眼差しが貫くように向けられていた。


「もも、明日のライブが終わったらラボには行かない。
 遠くに逃げる。逃げるって言い方は癪だけど」


信じられない思いで桃をまじまじと見つめた。
唐突過ぎて意味が分からない。
発した声は十分過ぎるほど戸惑いと狼狽えを露にしていた。
207 :idoloid :2015/04/25(土) 21:27
「え、ちょっと待って。どういうこと。遠くって、どこ行くの」
「場所は言えない。遠くの国」
「何それ。全然分かんないんだけど。
 そこにはメンテナンスしてくれるところ、あるの」
「ある。話はついてる。そこでかくまってもらうの。
 その準備って理由もあって、何年もイーストエリアに通ってたんだし」
「−−−ハッ?」


思わず声が裏返った。
羞恥と憤りに、顔に熱が集まっていく。

どうして今まで打ち明けてくれなかったの、なんて桃が秘密にしていたことに対して介入したい訳じゃない。
心配して毎度のように公園へついていった私は、明らかに邪魔だったのだ。
それなのに、桃のことを守っている気になっていたなんて、自分が滑稽でみじめ過ぎる。

目の横がぴりぴりする。
きっとまなじりはいつも以上に吊り上がっているだろう。
遠慮なく怒りを剥き出しにする私をちらと横目で窺って桃は、言いたいことを察したのか、ばつが悪そうに俯いた。


「怒んないでよ。子どもたちに会いたかったのは本当だし、みやが一緒に来てくれて、もも、嬉しかったんだから」


勇ましい表情から一転、桃はもじょもじょと弱々しく口ごもった。
じわじわと赤くなっていく耳を見て、腹立たしさがしぼみ、つい吹き出してしまう。

なんて最後まで私たちは、こんなにも私たちなんだろう。
お互いを思い通りに出来なさ過ぎて、本当にウケる。
おかしくて仕方なくなって、笑いながら少しだけ泣いた。
208 :idoloid :2015/04/25(土) 21:27
「会社のひとたちが諦めたくらいに、戻ってくるから。
 何十年後か分からないけど。そしたらみんなを探すの」


言いながら、桃は近くにあった小石を蹴った。
足元を見て改めて、ピンクのエナメルのラウンドトゥがダサくて子どもっぽいな、と確認する。
右脚は元に戻ったらしいけれど、いつまた信号が途切れるか分からない。
顔を覗くと、彼女はむっとくちびるを尖らせていた。


「だって、悔しいじゃん。全部会社の思い通りになんてさせないよ。
 ももはずっとアイドルでいるんだもん。これだけは譲れない」
「でもさ、もしだよ。
 もしライブの途中や終わりにももの身体が動かなくちゃったら−−−


どうすんの。
そう続けようとしたのを飲み込んだ。
きっとこっちの方が、私っぽい。


−−−ももの身体、どこに運べばいいの」


にやっと口の端を持ち上げてみせると桃も、あの日に見せた共犯者の笑みを浮かべた。
209 :idoloid :2015/04/25(土) 21:28
明日のライブが終わったら、イーストエリアの裏ルートを使って行方をくらまし、ほとぼりが冷めた頃に戻ってくる、という桃の計画。
彼女はいつも、私たちより先のことを考えて、未来を切り開こうとする。
でもそれにしても、ただじゃ起きないというか、尊敬を通り越して呆れてきた。

幾らオリジナルのBerryz工房が破天荒なグループだったとは言え、絶対的に【idoloid】は従順なロボットとしてつくられる。
反旗を翻すなんて前例がない。
きっと会社のひとたちは慌てふためくだろう。
ツグナガ モモコと嗣永 桃子を甘く見過ぎていたのだ。



しかし私自身、桃の言葉を信じ、それを拠りどころに余生を生きようなんて気はさらさらなかった。
己の未来を他人に託して夢を見て、自分は何もしないなんて、そんな無責任なことは出来ない。

それに私は結構リアリストだ。
桃にどんな秘策があるかは知らないけれど、何十年後、どこにいるか分からない私たちの身体を探し出すのは、海中に落とした一粒真珠のピアスを拾うみたいに、途方もないことに思える。
パーツがばらばらに解体され、新しい【idoloid】の作成に再利用される可能性だって高い。

それにきっと、桃も完璧な自信があるのではないだろう。
だって、未来のことなんて誰にも分からない。
絶対なんてない。

桃が無事に逃げ切れて、どこかの国で新しい人生を始めて、しあわせに暮らしてくれたらそれでいい。
それだけを願おう。


「戻って来たら、必ず見付け出すから」
「よろしく―――相棒」


たっぷり逡巡して、やっと一言付け足す。
普段使わない私の言葉に気付いて、桃はきょとんとした後、肩をすくめてくすぐったそうに笑った。
やっぱりちょっと恥ずかしいな。
私も照れ笑いを浮かべ、焼き付けるように彼女の顔を見つめた。
210 :idoloid :2015/04/25(土) 21:28



◇◇◇◇◇



211 :idoloid :2015/04/25(土) 21:29
長い夢を見ていた。
ノイズとつぎはぎだらけの出来の悪い映画は、私と彼女たち、7人の物語。
スイッチが入れられてから心臓を取り抜かれるまでの断片的な記憶をめちゃくちゃに繋ぎ合わせたそれが、繰り返し繰り返し再生されている。

イベントでのワンシーンだったり、楽屋裏での一コマだったり。
カメラが回っていてもいなくても、ばかなことをやってふざけ合って、そんな日常の些細な思い出はみんなの笑顔で彩られていた。
それぞれの特徴的な笑い声は耳に染み込んでいる。

でもそういうふうに、ただ仲良く10年以上過ごしてきたのではない。
幼い嫉妬で傷付けたり、意見が食い違えば衝突したり、嵐みたいな喧嘩もしたり。
あの子に突き刺してしまったひどい言葉は、後悔と一緒に胸に刻み込まれている。

楽しいことばかりではなかった。
厳しく叱られるレッスンや、プレッシャーに押し潰されそうになる舞台の稽古から逃げたくなったり。
加齢ややがて訪れる最期に急に悲観的になって、何もかも投げ出してしまいたくなったり。
笑いたくないときやファンのみんなの前に出たくない日だってあったけれど、それを隠してにこにこしていなければならないのはつらかった。
212 :idoloid :2015/04/25(土) 21:29
楽しいことばかりでは、確かになかった。
でも楽しいこともいっぱいあった。
何より鮮やかに映し出されるのは、ステージの上での光景だ。

ライブが好きだった。
貫くみたいな光と迫り出してくる音に身体は突き動かされる。
押し寄せる歓声に負けないように、エネルギーをぶつけ返すみたくして、私たちは歌って踊っていた。
客席の笑顔を見ると、自分たちのやっていることに間違いはないのだと短い命を肯定されたような気持ちにもなった。

私はいつでも1人じゃなかった。
テレパシーを飛ばすみたいに交わすアイコンタクト。
ばらばらの声質が重なり合って生まれる絶妙なハーモニー。
Berryz工房という運命を共有した、機械仕掛けの女の子。
あの空間で私たちは、1つの魂を7人で分かち合っているようだった。



トンネルの入口にいたときは、10年以上って永遠みたいなものだと思ってた。
でも、過ぎてみたらあっと言う間だったね。

終わらない時間なんてない。
きっと全てが一瞬のきらめき。
213 :idoloid :2015/04/25(土) 21:30
「ねえ、もし私たちが人間だったら、いつまで歌ってたかな」


突然場面は切り替わる。
2、3歩先を行く彼女が不意にこちらを振り返った。
スカートの裾が揺れ、さらりと髪が風になびく。
その口許には寂しげな笑みがたたえられていた。


「オリジナルが羨ましいね。だって最後を自分たちで決められたんだもん」


アイドル以外の夢を持つことを当たり前に許され、それぞれの道を歩むと決めた彼女たち。
Berryz工房が活動を停止しても、7人の人生は続いていった。
アイドルとして生まれ、そして死んでいく選択肢しかない私たちにとってそれは、羨望と嫉妬だ。

何百年後の遠い未来、各々そっくりのアンドロイドがつくられて、またBerryz工房が結成されるなんて知ったら、オリジナルはどんな顔をするだろうか。
彼女たちにもし出会えるならば伝えたい。
毎日いっぱい頑張ってたんだねって、全てを肯定してあげたい。
だって、あなたたちのことをまるごと全部理解してあげられるのは私たちだけだから。



前方からふと眩むような光が襲ってきた。
目の前の彼女の姿は溶けるみたいに呑み込まれてしまう。


「もっと歌っていたかったな。
 もっとみんなでいたかったな。ねえ―――


実像を持たない影が私を呼ぶ。
私は。私の名前は―――
214 :idoloid :2015/04/25(土) 21:31



◇◇◇◇◇



215 :idoloid :2015/04/25(土) 21:33



―――ゃ?!みや?!ねえっ!!聞こえる?!みや?!」



216 :idoloid :2015/04/25(土) 21:34
声に呼び起こされるみたいに微睡みから覚醒した。
ゆっくりと瞼を持ち上げると、 眼球パーツに刺すような痛みが走り、思わず目をしばたたかせる。
強く白い光。

それを遮るふうに、私に覆い被さろうとしているものがあった。
霞がかった思考は鈍い。
それでも何とかピントを合わせようと、焦点がもがくみたいにして彷徨うと、水に浸した水彩画のごとくぼやけた輪郭が、次第にくっきりと線を描くようになった。
瞬間、私は大きく目を見開く。

まさかのことに呼吸を忘れた。
それと同時に今、自分が息をしていたのだと身を持って識る。

瞳にまた世界が映し出された。
そしてそこには、あの日と変わらない姿で私を覗き込む桃がいた。


「みや!!」


逆光でも分かった。
涙でぐしゃぐしゃに濡れた顔。
目から落ちたそれが私の頬にぽたぽたと落ちた。

もも。
名前を口にすると、本当にかすかだけれど確かにくちびるが動いた。

喉が破けるのではないかと心配になるほど、声にならない声を上げて桃は、私の胸に崩れるように突っ伏した。
こんなに取り乱した彼女は見たことがない。
だから余計、夢なんじゃないかと疑ってしまう。

薄汚れたグレーの天井。
浴び続けていたら火が付きそうなくらい強い照明の光はスポットライトを思い出させた。
どうやら私はどこかに仰向けに寝かされているのだと、何となく状況を把握する。
217 :idoloid :2015/04/25(土) 21:35
もも。
呼び掛けようとしても、全く声が出ていないことに気付く。
抱き締めたくても腕が上がらない。
まるで両の手足首に重石が付けられ砂の中に深く沈み込んでいるみたいで、もしかしたら四肢がないのかもしれないけれど、頭が動かないので確認しようがない。
もどかしさに身体が裂けそうだ。

もも。ねえ、もも。
こころの中で何度も何度も名前を呼ぶ。
信じらんない。こんなことって。
見開いた目から止めどなく涙が溢れていく。


「あっ、ごめんね!まだ繋げてない線ばっかで、身体、全然動けないでしょ。
 声も出るようになってないの」


顔を上げた桃はそう告げると、手のひらで私の顔を撫で付けた。
感触を、温度を、確かめるような手付きで。


「早くしゃべれるように―――ううん、早く歌えるようにしてあげるからね」


指が幾度も目許を往復した。
拭われても拭われても、視界は直ぐに滲んでいく。
涙はしばらく止まりそうにない。

桃の肩越しに開いた世界。それは全て光。
重い雲の切れ間から、彼女の言葉が射し込んだ。


「みやが動けるようになったらみんなを探しに行こう。
 もう1度、Berryz工房を始めよう」
218 :idoloid :2015/04/25(土) 21:35

219 :idoloid :2015/04/25(土) 21:35

220 :名無飼育さん :2015/04/25(土) 21:36
お読み頂きありがとうございました。
Berryz工房が大好きです。
221 :名無飼育さん :2015/04/26(日) 00:37
どうして、アンドロイドと未来の話に設定されたのかな、と考えておりました。正解を知りたいとかではなく、ふとそんな疑問が心に浮かびました。
視点をたくさん作ることで、立体的に見えてくるテーマがあるのかな、と思って拝読させて頂いておりました。

ラストへ向かっていく情熱にどきどきしました。キャプテンが気になって気になって気になっております。

更新ありがとうございました。Berryz工房って面白いですね。
222 :名無し飼育 :2015/04/26(日) 01:08
最後の一行で涙が零れました
素敵なストーリーをありがとうございました
223 :名無飼育さん :2015/04/26(日) 10:34
今まで二話分切なかったから最終話のカタルシスが…!
ベリにはやっぱり希望に満ちた感じが似合いますね
224 :名無飼育さん :2015/05/10(日) 18:59
レスありがとうございました。
書いて良かったなあ、と改めて感じております。



>>221
>どうして、アンドロイドと未来の話に設定されたのかな
正解が知りたいとかではない、ということですが、答えみたいなものを知っているのは私だけなので一応用意してみました。
ttp://berryzlifeonthestorm.blog.fc2.com/blog-entry-19.html
>立体的に見えてくるテーマ
各話ごとや物語を通じてのテーマは自分の中で設定していたのですが、察するにちゃんと伝わるように書けていなかったみたいで反省しています。
>キャプテンが気になって
本当は7人全員分の物語を書きたい気持ちなのですが、恐れ入ります><

>>222
最後の一行に気持ちを込めましたので、そう言って頂けると;;
こちらこそお読み頂きありがとうございました。

>>223
本当にその通りです…
書いている自分が耐えられなくて、早くラストシーンに繋ぎたくてたまりませんでした笑



◇◇◇インデックス◇◇◇

イチゴとメロン(矢島・夏焼) >>38-70

戦場のベリーズライフ(Berryz工房) >>79-116

idoloid
1話(徳永・熊井) >>122-145 >>151-158
2話(夏焼・菅谷) >>166-181 >>186-190
3話(嗣永・夏焼) >>195-217

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