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(仮)

69 :コドモじゃない :2015/12/05(土) 23:52
「ほら、とも、真っ直ぐ歩いて」
「んん〜?」

酔っぱらいに肩を貸して歩くのは大変なことだと、由加はこのとき初めて知った。
吐く息が白い。マンションのエレベーターに乗り込んで階数ボタンを押すとほっと一息
つけたけれど、眠たげにしている朋子の処遇を考えると頭を抱えたくなってしまう。

同じ大学の先輩後輩としての付き合いが始まってから、どれくらいが経つのだろう。
友達の友達、という他人同士からのスタートだった。朋子はインドアを自称するわりには
交友関係が広く、自分も数多い知人のうちの一人なのだろうと由加も始めは思っていた。

学内ですれ違えばちょっかいを出され、時々は遊びに誘われ。決して気が合うタイプ
だとは思わないのだけれど、なぜか気に入られたようだということがわかるようになり、
二人はそれなりに親密さを増した。それこそ今では飲み会後の朋子を部屋に迎え
入れることができるくらいには親しく、ただの知り合い、という表現は似合わなく
なっている。

部屋の前にたどり着いて由加は鞄から鍵を取り出す。開錠している間にも朋子は
しなだれかかってきて邪魔なことこのうえない。左肩にかかる重みを感じながら
ドアを開け、玄関に朋子を押し込んだ。
70 :コドモじゃない :2015/12/05(土) 23:52
「……ゆかちゃーん」
「どうしたの?」
「おみず、ください」
「はいはい」

ひとまずソファに座らせて、帰宅途中のコンビニで買ったミネラルウォーターを
袋から出して、渡す。受け取ってキャップをひねろうとする手つきすら覚束ない
ものだから、由加は溜息をつきたくなってしまった。

「開けてあげるから。貸して」
「自分でできるよぅ」
「できてないでしょー?」

拗ねたような声を出す朋子を無視してボトルを奪い、蓋を外してやる。もう一度
手渡すと冷えたままの水が朋子の喉を通り、ふは、と彼女は一息つく。

「ねえ、泊まっていい?」
「……だめって言ったら帰るの?」
「もう帰れなーい」

へらへらと朋子は笑っているけれど、終電を逃しておいてどうしてこうも気楽に
いられるのだろう。ノリと勢いで生きている、と以前に朋子は嘯いていたけれど、
今となっては納得だ。
71 :コドモじゃない :2015/12/05(土) 23:53
「とも、お風呂入って」
「んー? もうねよーよ」
「だめ。汚い」
「ひどいなあ」

潔癖、と朋子はつぶやく。「ここ由加の家だからね?」従わないのならばどうなるかと
暗に込めて言うと、朋子は仕方なさそうにうなずいた。

「一緒にはいろ」
「嫌です」

提案を却下すると、ええ、と朋子はまた拗ねたような声を出す。ペットボトルが朋子の
手からこぼれ落ちそうになっているのを慌てて支えると、そのまま手首を握られた。

「溺れるかも」
「ドアのとこで見張っててあげる」
「やだー、ゆかちゃんのえっちー」
「ふざけないで」

自分はほとんど飲んでいないものだから応対が冷たくなってしまうのも許してほしいと
由加は思う。朋子が拗ねたような顔をするのは何度目だろう。「わかったよ」彼女は
言って、こてんと由加の肩に頭をあずけてきた。
72 :コドモじゃない :2015/12/05(土) 23:54
「……わかってないでしょ?」
「んー。ちょっと休憩するだけ」
「寝るなー」

つかまれた手首が熱いのは、酔いのせいだろうか。朋子が目を閉じたのが気配だけで
わかる。ゆさゆさと身体を揺らしてもしなだれかかってきている姿勢はそのままで、
由加はあからさまに溜息をついてみせた。

「とも、しっかりして」
「……あー、やばい」
「え、なに、吐きそう?」

とっさに背中をさすってやると、違う、と朋子がつぶやく。つかまれていた手首が
離されて、今度は背中に腕を回された。

「……あのね、ゆかちゃん」
「うん?」
「……酔っ払った勢いでキスしていい?」

なぜか気に入られている、というのはあまり正確ではなくて。もぞりと身体を
揺らして朋子は由加の首に顔をうめる。首筋にかかる息が熱くて思わず身じろぎ
すると、それを押さえ込むようにさらに力を込められた。
73 :コドモじゃない :2015/12/05(土) 23:54
「……なんで家にあげちゃうかな。わかってるでしょ?」
「だって、終電、ないし」

気に入られているのは、好意があるからで。そのベクトルは恋に向いているのは
由加にもわかっていた。しばらく抱きすくめられたままでいると朋子が深く息を吐き、
身体が離される。

「……あんまり期待させないでよ」

少し俯いて言うその姿はまた拗ねているようで、微笑ましくさえ思える。酔った勢いが
ないと素直になれないのはそういう性格なのか。由加が思わず吹き出すと、恨めしげに
朋子が目だけを上げる。寒風のせいで乱れた茶髪を手で撫でつけてやると、
気持ちよさそうに目が細められた。

「とりあえず今日はなにもしちゃだめ。ほら、お風呂」
「……じゃあ、明日は?」

縋るように言う姿は可笑しいほどに子供じみている。酔っぱらいの首筋に触れると
ひどく熱くて、やけどしそうなほどだった。
74 :コドモじゃない :2015/12/05(土) 23:55
「それは明日考えよう?」

だから早く、と追い立てるように肩を叩けば朋子ははっきりと溜息をつき、
唸るように言った。

「……ぜったいだからね?」

向けられる視線は熱を帯びていて、受けとめるだけで精一杯だった。朋子は
由加の手を借りながら立ち上がり、ふらふらとバスルームに向かう。

繋がれた手があたたかく、強く握るとおそるおそる握り返される。
肝心なところで勢いが足りない朋子に呆れながら、由加はその身体を支えた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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