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初恋サイダー

1 :名無飼育さん :2012/03/12(月) 21:23
みやもも。
タイトルはBuono!ですが、どちらかというとBerryz寄り。
188 :名無飼育さん :2013/04/14(日) 21:49
更新します。
前回の続きになります。
189 :名無飼育さん :2013/04/14(日) 21:49

190 :名無飼育さん :2013/04/14(日) 21:49
「……帰ろっか」

微笑んだまま、けれど名残惜しそうな声色で雅が促す。

離れがたいのはおそらくどちらも感じていただろうが、
壁に掛けられた時計は終電までさほど時間がないことを知らせていて、いつまでもここにいられないことを嫌でもつきつけてくる。

溜め息と一緒にカラダを離し、とうに済んでいた身支度を再確認する。

先にドアノブを握っていた雅を追って、差しだされた手を掴むと雅は照れくさそうに笑った。

駅までの道のりを手を繋いで歩いたのはいつ以来だろう。
いつもだったら人目のつきそうなところで目立つ行動はしないというのはふたりの間での暗黙のルールで、
一緒に帰ることすら、駅での時間差の待ち合わせで誤魔化していたのに。

前を向いたままで、繋いだ手のチカラを緩めて指を絡めてくる。

夜も深く沈んだこんな時間帯では駅へと向かう人も少なく、
いつも以上に身を寄せ合って歩いていても気に留める人間など誰もいない。

ぎゅっと強くチカラがこもった手を桃子も握り返し、けれど何も言葉にしないまま並んで歩く。
言葉などなくても、繋いだ手からお互いの気持ちが伝わっている気がした。
191 :名無飼育さん :2013/04/14(日) 21:50
駅のホームについたとき、タイミング良く最終電車が滑りこんできた。

乗客は少なくなかったが満員というほどでもなく、雅の最寄り駅で開くほうのドアの近くに並んで立つ。
繋いだ手を離したくなくて、そしてそれはどちらも望んでいるのがわかるから、視線を合わせながらふたりして笑いあった。

雅の降りる駅に着き、ドアが開く直前、また強く握りしめて、それからするりと解いて雅は電車から降りた。

振り返り、ひょい、と手を挙げて手のひらを見せる。

「じゃあ、またね」
「うん…」

名残惜しい。
離れがたい。

もっと一緒にいたい。

けれど今乗っているこの電車は最終で、ここで降りてしまっては帰れない。

どうしてか『またあした』が言えなくて、桃子は俯く。
雅からも、いつもだったら続けて言ってくれるはずの『おやすみ』が聞けなかった。

発車を知らせるアナウンスがホームに響く。


――― そして桃子は、自分のうしろで、扉の閉まる音を聞いた。
192 :名無飼育さん :2013/04/14(日) 21:50
我に返った桃子が顔を上げると、その大きな目を更に大きく見開いた雅が半ば呆然と桃子を見ていた。

ハッとして振り返ると、自分が乗っていたはずの電車はすでに動き出して加速をつけたところだ。

「う、わ…、やっちゃった…」
「ちょ、嘘でしょ…」

呆れた、というよりは驚きのほうが強い声色で、雅はそれ以上は何も言えなくなったようだった。
手で口を覆い、桃子を見つめている。

「…あはは、もぉってば何やってんだろ。今の終電だったのにね」

愛想笑いでそれだけ言っても、雅はまだ何も言わない。

「……ごめん…、呆れた、よね…?」

知らずに視線は下向きになるが、雅からの反応はなく、ただただ悲しくなってくる。
せめて、小馬鹿にしたような溜め息だけでも欲しいとすら思うくらいに。

「……タクシーで、帰るから…」

雅の反応が薄かったことで、自分のしたことが酷くはしたなくてみっともない身勝手なことに感じて、
俯きながら言い訳を探していたら、不意に腕を掴んで引っ張られた。

何かと思うより早く、桃子のカラダは雅が抱きとめていて。

「みや…?」
「…なにやってんの」

口調は呆れているのに、桃子を抱きしめる腕は強く、そして優しかった。

「……ごめん…、…でも、だって、もう少しみやと、いたかったんだよ…」

そう言った桃子を雅は更に強く抱きしめて。

「…バカ」

息苦しく感じるほど強く抱きしめられたのに、桃子にはその腕のチカラがとてもうれしかった。
応えるために、桃子も雅に強く強く、しがみつく。
193 :名無飼育さん :2013/04/14(日) 21:50
「ごめん…、でも、ちゃんと、帰るからさ」
「…帰るってどうやって?」
「駅の外、タクシー、ない?」
「あるけど、こんな夜中にこっからタクシーで帰ったらいくらかかると思ってんの」
「で、でももう電車ないし」
「帰らなくてもいいじゃん」
「へっ?」

裏返った桃子の声を合図に、桃子から離れた雅が桃子の顔を見ないまま腕を掴んだ。
そしてそのまま桃子の腕を引っ張るようにして歩きだす雅に、桃子も逆らわずについて歩くことになって。

「…うちに来ればいい」
「えっ? え、でも」

まさか誘われると思わなくて、声を上ずらせた桃子に歩きだしていた雅の足が止まる。
顔だけで振り返ったことで咄嗟に顎を引いた桃子だったが、見えた雅の顔は怒っているというよりはむしろ、拗ねているようにも見えた。

「……帰りたい?」
「え…」
「あたしといるより、帰るほうがいい?」

思わず息を飲んだのは、そう尋ねるくせに、その問いかけの答えを一つしか許さない目で見つめられたからだ。
そしてその答えは、桃子自身が、そう願ったことで。

「みやといるほうがいい」

首を振りながらもはっきり告げると、桃子の腕を掴んでいた雅の手が桃子の手を握り締めた。

その手はさっきまで電車内にいたはずなのに酷く冷たくなっていて、雅がいま、緊張していることを教えた。
強気に桃子を見つめるくせに、それは強がりを言って見せかけているのだとわかって、また桃子の胸が鳴った。
194 :名無飼育さん :2013/04/14(日) 21:51
駅を出たところで母親に電話した。
終電を逃してしまったので雅の家に泊まらせてもらう、と言ったら、案の定、こんな夜分に失礼だからタクシーで帰ってこい、と言われた。

手持ちが少ない、と食い下がったら、帰って来たときにこっちで払う、とまで言われてうまく言い返せずにいると、
遣り取りをそばで窺っていた雅が桃子の手を突っつき、戸惑っている桃子の手から携帯を奪った。

「あ、こんばんは、雅です、いつもお世話になってます、……いえいえ、とんでもないです、
 あの、すいません、あたしがもものこと引きとめちゃって。……そんな、あたしこそいつもももに相談乗ってもらってて……、
 ハイ、そしたら遅くなっちゃって、ももはタクシーで帰るって言ったんですけど、
 やっぱり遅いとタクシーも料金高くなっちゃうし、うちは全然構わないんで……、
 ハイ、明日の仕事とかは全然大丈夫です、……あはは、そうなんですよー、気づいたらもうこんな時間で。
 ……ハイ、…ハイ、わかりました、大丈夫です、あ、ももに変わりますね」

呆気にとられて見守っていた桃子の手元に携帯が返される。
戸惑っていると、雅の口元がニヤリと綻んだ。

もしもし、とおそるおそる呼びかけると、渋々といった感じではあったが、さっきまでの頭ごなしの反対はなく、
失礼のないように、と重ねて言われただけで通話は切れた。

ほー、と長く溜め息を吐き出すと、得意げに笑った雅が桃子の顔を覗きこんできた。

「……みやのオトナ向け接待ってホントにすごいよね…」
「人聞き悪いな、人当たりがいいと言ってよ」
「でも、助かった、ありがと。うちのママ、みやのことお気に入りだしね」
「お役に立ててなにより。……行こ?」

照れたように笑いながら雅が手を差しだす。
迷わずその手を取って握りしめたら、雅の口元はまたうれしそうに綻んだ。
195 :名無飼育さん :2013/04/14(日) 21:51
そのまま、雅の家までは手をつないで無言で歩いた。

帰りつくころには既に日付は変わっていて、雅の家族ももう寝てしまっているのか、家の中もシンとしている。

「弟くんは?」

なるべく音を起てないように部屋まで歩きながらひそりと尋ねると、雅は呆れたように肩をすくめて見せた。

「靴なかったし、彼女のとこにでも行ってるんじゃないかな」
「あ、彼女いるんだ」
「まあね。ナマイキに年上みたいよ」

溜め息と一緒に部屋の扉が開かれ中へ促される。
数年ぶりに訪れた雅の部屋は、桃子の記憶のそれとはやはり様変わりしていた。

「ごめん、ちょっと散らかってるけど、適当に座って」

確かに、脱いだままのスカートなどがベッドの上にいくつかあったが、桃子の部屋に比べると片付いている。

「…懐かしいな、みやの部屋に入るの、何年ぶりだろ」

デビューしてからしばらくは同じ路線を使うし他のメンバーと比べて家も近いからと、
何度か訪れたこともあるけれど、いつからかプライベートでは会わなくなっていた。

「3…、いや、4年くらい? Buono!が決まったあとも何回か来たことあったよね」
「やっぱちょっと雰囲気変わってるね」
「…あんまりじろじろ見ないでよ、恥ずかしいじゃん」

ベッドの上に脱いだままだった服を片づけながら恥ずかしそうに桃子の肩を軽く押す。
そのチカラはさほど強くなかったけれど、照れたように唇を尖らせる雅が可愛くて桃子は笑った。
196 :名無飼育さん :2013/04/14(日) 21:51
「そうだ、着替え、ある?」
「あ、うん。それはいつも予備で持ってきてる」
「じゃ、お風呂先に入っておいでよ。その間に布団敷いとくからさ。あたし、パジャマって持ってないからTシャツとハーパンになるけど、いい?」
「うん」

テキパキと指示されるまま、忍び足で浴室に向かう。
口頭で聞いていた場所からタオルなどを出し、なるべく音を起てないように、シャワーだけで手早く済ませた。

部屋に戻ると、ちょうどベッドの下に客用の布団を敷き終えたところだった。
あまり時間をかけずに戻ってきたせいか、ドライヤーで乾かしはしたもののまだ少し湿った髪の桃子を見て雅がきょとんとする。

「早いね」
「そうかな」
「ちゃんとあったまった?」
「シャワーだけだったから…」
「湯船にも入んないとダメじゃん」
「平気だもん」

まだ文句を言いたそうだったが、細く息を吐いてから用意していたらしいペットボトルのお茶を差しだす。

「一応、さっきママに、ももが泊まってくこと言っといたから」
「えっ、ひょっとして起こしちゃった?」
「起きてたみたい。ももがお風呂入ったと同時に誰か来てるのって聞きに来たから」
「ほんと?」
「うん、だから気にしないでいいよ。…あたしも入ってくるから、テレビでもDVDでも好きに見てて」
「うん」

ペットボトルを受け取ったのを見てから、雅は部屋を出て行った。
197 :名無飼育さん :2013/04/14(日) 21:52
敷かれた布団の上で正座を崩した座り方のまま、桃子はゆっくり室内を見回す。

雅はいないが、雅の匂いがする部屋だ。
全身を雅に包まれているようでなんだかくすぐったく感じるのに居心地がいい。

室内の雅の持ち物に興味がないわけではなかったが、
雅のいないときに部屋を探るのはさすがにプライバシーの侵害だと怒られるので、おとなしくテレビのリモコンを取った。

一番手近に、世間には流通していない、関係者にのみ渡される記録用のDVDがあった。
コンサートなどを家庭用のビデオで撮影したもので、メンバーにとっては練習と確認を兼ねたDVDである。

特に何も考えずそれを再生すると、映し出されたのは昨春のコンサートのものだった。
1年ほどしかたっていないのに、映っているメンバーの雰囲気がどことなく今とは違っていて、時間の経過とともに成長も感じられる。
何より、雅と梨沙子の髪型と髪色が目に見えて違っていて、それほど昔のことでもないのになんだか懐かしくて桃子の口元がゆるんだ。

しかし、不意に映し出された雅にドキリと心音が跳ねる。
普段、楽屋などで見せる賑やかで明るいイメージとは違う、歌に対して真摯な目をした雅だった。

このころはまだ、雅のことを、今のようには意識していなかった。
もちろん好意的には見ていたが、顔を見ただけで、声を聞いただけで、そしてその目が自分に向けられただけで、
自分でも戸惑うほど心臓が高鳴ったことなんてなかった。

交わしたキスの記憶が蘇る。
口の中まで入り込んで来た雅の唇や舌の熱を思い出して体温が上がる。
熱い吐息混じりで桃子の名前を呼んだ、艶のある声までもが耳の奥に残っていて、体温の上昇に拍車をかける。
198 :名無飼育さん :2013/04/14(日) 21:52
顔に熱が集まるのを感じて手のひらで冷やそうと両手で頬を撫でたとき、
自室なのだから当然と言えば当然だけれど、ノックもなく部屋の扉が開いて、文字通り、桃子は飛び上がった。

「あ、ごめん、つい」

飛び上がったのが見えたのか、雅がすまなさそうにゆっくり扉を閉める。

「う、ううん…」

タイミングが悪かったとはいえ、動揺している自分を取り繕うように見ていたDVDを咄嗟に消したら、
その動作を見ていたらしい雅がリモコンを持つ桃子の手の上から再生ボタンを押した。

「何見てたの?」

不意に手を重ねられて桃子のカラダが強張る。
風呂上がりのシャンプーの匂いが鼻先をくすぐるが、いつもほどに感じないのは自分もそのシャンプーを使ったからだろう。

「…あー、これかー」

懐かしそうに言って桃子から離れ、そのままベッドに腰を下ろす。
ベッドの下に敷かれた布団の上に座っていた桃子は、そのまま雅を背にした状態でテレビを見た。

「去年のだけど、なんかもう懐かしいよね」
「うん。…あ、いまの梨沙子、チョー可愛い」

何気なく出たとしても少しも不自然ではない名前だった。
それに「可愛い」は雅の常套句でもある。
でもそれが梨沙子の名前と梨沙子に対しての言葉だったことで、桃子の中に表には出したくない感情が芽生える。
199 :名無飼育さん :2013/04/14(日) 21:52
「…もも? どうかした?」

不穏な空気が無意識のうちに出てしまったんだろうか、雅が不思議そうに声を掛けた。

「…ううん、べつに? てか、もう遅いし、寝るね。…明日の朝には、帰ろうと思うから」
「えっ」

言いながら敷かれた布団の上掛けを上げると雅は慌てたように声を上げた。

高い声に桃子が振り向くと、自分でもそんな声が出たことに戸惑ったように雅が口元を隠している。
桃子が首を傾げたのを見て、苦笑いを浮かべながら口元を隠した手でベッドを叩いて見せた。

「こっちこっち。ももはベッドで寝て。あたしがそっちで寝るからさ」
「えっ、い、いいよ、そんな」
「遠慮しなくていいよ、ほら」
「ホントにこっちでいいってば」
「えー、なんでよ?」

かたくなに拒絶する桃子に雅は不服そうに口を尖らせた。

「……だって、みやのベッドなんて絶対眠れないもん」
「は?」
「部屋にいるだけでもドキドキしちゃうのにさ、ベッドとかみやの匂いしかしないじゃん。そんなの眠れるわけ…」

抑えたつもりで、やっぱり苛立っていたのかも知れない。
言葉にしてしまってからハッと我に返った。

ベッドに座っている雅にそろりそろりと振り向くと、上体を倒して頭を抱えている雅がいた。
200 :名無飼育さん :2013/04/14(日) 21:52
「みや?」

桃子の声にぴくりとその肩が揺れる。
それからゆっくりカラダを起こすと、深く深く息を吐き出してから口元を手で隠した。

その仕草とうっすら朱に染まった頬のいろに、雅が照れていることを察する。

「……そんなこと言うなバカ」
「え…」

風呂上がりだけではない別の理由もあるとわかる赤い頬をしたまま雅が立ち上がる。
思わず身構えた桃子の手を掴み、少し乱暴に引っ張って立たせたあと、その勢いのままベッドに突き飛ばした。

ベッドの上なので怪我をする心配はもちろんなかったが、
態勢を整えて振り向いたら唇のカタチをへの字にした雅が桃子を見下ろしていて、
それがなんだか拗ねているようにも、怒っているようにも見えて引き腰になった。

そうして少しカラダを引いた桃子に、膝からベッドに乗り上げてきた雅が手を伸ばしてくる。
ベッドの上では逃げ場もなく、すぐに両方とも手首が捕まえられ、重力に逆らえないまま押し倒された。

「みや…」

物言いたげで、けれど何も言わないまま、雅が顔を近づけてくる。
何をされるかは歴然で、そしてそれは桃子も心のどこかで望んでいるから、無意識に瞼は下りた。

唇に、今日何度目かわからないほど感じた熱。
そこで覚えた感触。

桃子の上唇を辿る雅の舌先に応えたくて、おそるおそる口を開いて舌を差しだすと、
まるでそれを待っていたみたいに、弱く、けれど痺れるような甘さでその舌先に雅は噛みついてきた。

「ふ…」

呼吸の仕方がわからず口の端から息が漏れたら、それを合図にしたようにゆっくり雅が桃子から離れた。
201 :名無飼育さん :2013/04/14(日) 21:53
小刻みになっていた呼吸を大きく深呼吸することで整えている間に、桃子の手首を捕らえていた手が外され、桃子の上にあった気配も薄れる。

ベッドの軋む音で雅がベッドを下りたと気づいて桃子が目を開けると、それとほぼ同時に顔の前に上掛けが被せられた。

「…いいから、そっちで寝な」

みや、と呼びかけて上体を起こそうとしたが、なんとなく振り返ってはもらえない気がして桃子は言葉を飲み込む。
それに、振り向いてもらったところで、気の利いたことが言える気もしなかった。

カラダの緊張を解くように頭まで上掛けを被ってベッドに身を沈めると、桃子の予想通り、雅の匂いが桃子の全身を包んだ。

カチカチ、と機械的な音がしてDVDとテレビが消され、部屋の照明も落とされる。
薄暗い、オレンジ色の照明のもと、桃子が横になったベッドの下で雅が深く深く溜め息をついたのが聞こえた。

「…みや」
「……なに」
「怒った?」
「…怒ってないよ」
「ホント?」
「ホント。…いいから寝なよ。明日の朝には帰りたいんでしょ?」

素っ気なく言われて胸が痛くなる。
すぐそこに雅がいるのに、雅の匂いに包まれているのに、雅を遠く感じて途端に淋しさが押し寄せてきた。

「……怒ってるじゃんかあ…」
「怒ってないって、ホントに」

呆れたような溜め息と一緒に起き上がる気配がして、桃子も起き上がる。
202 :名無飼育さん :2013/04/14(日) 21:53
「…怒ってないから、早く寝な?」
「眠れない…」
「横になったらそのうち眠れるよ、疲れてんのは確かなんだし」
「みやは?」
「あたしも寝る」

言うが早いか、起こしたカラダを倒して桃子のほうに背中を向ける。

「…おやすみ」

反論することを拒むみたいな声に、淋しい気持ちを抑えながらも、桃子も横になった。

こちらに背を向けている雅の背中をそっと見つめる。
こんなふうに雅の匂いに包まれているのに安心出来ないのは、そばにいるのに、そこに見えているのに、雅のぬくもりを感じとれないからだ。

さっきの乱暴なくちづけは確かに熱く感じたのに。
背中を向けられただけで遠くに感じてしまうなんて。

「…みやぁ……」

ひそりと、向こうを向いたままの背中に呟いた。
音の消えた暗い室内だったので思うより響いたけれど、
これで振り返らなかったら、いや、何の反応もなかったら、桃子もそのまま目を閉じるつもりだった。

けれど。
203 :名無飼育さん :2013/04/14(日) 21:54
「……そんな声で呼ばないでよ、もう…」

呆れたような、困ったような、そのどちらともとれる溜め息と一緒に雅は起き上がった。

そしてゆっくり桃子のほうに振り返る。
視界の悪い薄暗さの中でも目が合ったのがわかって桃子が顎を引くと、また溜め息をつく。
しかしそのあとゆっくり態勢を変えて布団から抜け出し、桃子が寝ているベッド脇まで膝立ちで歩いて近づいてきた。

「みや…?」
「…ももが悪いんだからね」

言ってすぐ、桃子の唇をキスで塞ぐ。
手のひらで桃子の顔を包んで撫でたあと、離れると同時に雅は桃子の隣に滑り込むように潜り込んできた。

「…朝には帰りたいって、言ったくせに」

そう言いながら桃子を抱きしめる。

「あんな声で呼ばれたら、帰したくなくなるじゃん…」

ぎゅ、と強く抱きしめられて、桃子を包む雅の匂いに頭がクラクラする。
もっともっと強く抱きしめて欲しくて、もっともっと雅に近づきたくて、桃子もしがみつくように雅に抱きついた。

「…だって早く帰らなきゃ、帰りたくなくなるもん……」
「え?」
「誰にも邪魔されないで、みやのこと独り占め出来て、こうやってぎゅってしたり、ぎゅってしてもらったり、
 そんなの知っちゃったら、帰れなく、なる…」

桃子の声は小さかったけれど、音のない空間にそれは響くようにはっきりと雅の耳に届く。

「…独り占め、って…、もも、そんなふうに考えてたの?」
204 :名無飼育さん :2013/04/14(日) 21:54
雅の意外そうな響きをした声色に、自分の発した言葉がらしくないものだと言われた気がして桃子は自分の顔が熱くなるのを感じた。
しかし、幾らか慣れたと言ってもまだ薄暗い室内で、そのうえ抱き合っている今はお互いの顔までは見えないので、
赤くなっているであろう顔色まで気取られる心配もないことに、桃子はひそかにホッとする。

「……もものバカ」

抱きしめてくる雅の腕のチカラが強くなったと感じてすぐ、耳元で、言葉とは裏腹な甘い声で囁かれてカラダが震えた。

「……そういうことは、ちゃんと言ってよ…、帰るとか言うから、あたしのしたこと、重すぎたかと思っちゃったじゃん」
「重い…?」
「…うちまで、連れてきたこと」
「そ、それは、もぉが帰りたくないって言ったから…」
「そうだよ、そう言ったくせに帰るって言ったじゃんか。なのにあんなふうに呼ぶとか、ずるいよ」

雅の拗ねた口振りに、不謹慎にも桃子は胸を鳴らした。

自分がどんなふうに雅を呼んだか、そしてそれが雅をどんな気持ちにさせたのか、桃子にはよくわからない。
それでも、今はこうすることが最善な気がしてしがみつく腕のチカラを強めると、それに気づいたらしい雅の腕のチカラがまた強まった。

「…まだ、帰る、って言う?」

雅に抱きしめられながら、桃子は頭を振った。
そうした桃子を確認してか、耳元に届いていた雅の吐息が安堵に似た溜め息に変わる。

そっと離れた雅が桃子の顔を見る。
表情を窺われているようで咄嗟に目線を外したが、雅の指がなぞるように桃子の顎の輪郭を辿ったことで反射的に身を捩って顔を上げると、
目があったことで満足そうに笑った雅がゆっくりとそのカラダを下方にずらすようにベッドの中へと潜りこんだ。
205 :名無飼育さん :2013/04/14(日) 21:54
雅が何をしようとしているかが読めずにその行動を見守っていた桃子だったが、
桃子の胸元あたりまで潜ったかと思ったら、雅はそのまま桃子の腰に腕をまわして抱きついてきた。

体勢的にも、必然と雅は桃子の胸に顔を埋める。

身長差もあって、こうでもしないと雅を『抱きしめる』ことが出来ないことに思い至って、
桃子はおそるおそる、腕を伸ばして雅の頭を胸に抱え込むように抱きしめた。

どきどきと心臓は高鳴っていて、そこに押しあてられている耳がその音に気づいていないわけがないとわかっても、
桃子はそのまま雅の柔らかな髪に指を差し入れ、緊張して小刻みに震えながらも、そっと撫で梳いた。

「…もっと撫でて」

強請る声にまたドキリとするが、甘えるように顔を擦り寄せてくる雅にうれしい気持ちが勝った。

言われるままに撫で続けていると雅の頭がゆっくり動き、寝返りを打つように顔の向きを変えた。

そのとき、Tシャツ越しでもわかるほど、熱を孕んだ雅の吐息が桃子の肌に伝わった。
それまで黙って胸元に顔を埋めていた雅の口元が動いたのがわかって、桃子のカラダは一気に強張る。

「みや…?」

戸惑う声に気づいてないわけがないのに、雅は答えなかった。

桃子の胸の膨らみの上を雅の口がそのカタチを確認するみたいにゆっくり滑る。
Tシャツを着ていても、たかが布切れ一枚では何をしているのかなんてわかり過ぎるくらいで、桃子はただ、雅にされるがままで。

胸に雅の頭を抱き込んだとき、こんなふうになることを考えなかったわけじゃないけれど、
だからといって雅のほうから積極的に自分に触れてくることは予想外だった。
206 :名無飼育さん :2013/04/14(日) 21:54
桃子の背中に回っていた雅の手が、桃子の背骨を上から下へと数えるように柔らかく撫でる。

「……ももは、しないんだ」
「え…」

桃子の腕の中で少しだけ顔を上げた雅の言葉に桃子は僅かに首をかしげて見せた。

「寝るとき、ブラしないの?」
「あ…うん…、寝苦しくなっちゃうから…。みやはするの?」

雅の頭を抱きしめている腕をそっと背中のほうへずらすと、指先が難なくそれを探り当てた。

「カタチ、悪くなっちゃうって聞いたから、あたしは寝るときもするかな」

答えたと同時に、桃子の背骨を撫でていた手がTシャツの裾から中へと入り込んできた。

「ちょ…っ」
「しー」

黙れ、という意味合いの言葉だとわかっても、いきなり桃子の素肌に触れた雅の指の感触には身を捩るしかなくて。

「待って、ちょっと待って」
「だめ、待たない」
「でも、触られたら、声、出ちゃう…」
「我慢して」

少し強く言われて桃子は唇を噛んで目を閉じる。
桃子の腰のあたりをなぞるように滑る雅の指を思い浮かべたら、それだけでも熱が上がるようだった。
207 :名無飼育さん :2013/04/14(日) 21:55
「みや…おねがいだから、ホントにやめて…」

桃子の声色に何かを感じとったように雅の手が止まる。

「…そんなにイヤ?」

縋るような声でそっと目を開けると、上体を起こして桃子を見下ろしている雅の目が淋しそうに揺れていて、
雅のしたいことがわかっているのに拒むことがひどく申し訳ない気持ちにさせる。

「……イヤじゃないから、イヤなの…」
「え…」

桃子の答えの意味をすぐには理解できなかったとわかる返事を聞いてから桃子もカラダを起こすと、そのまま腕を伸ばして雅に抱きついた。

「イヤじゃない。イヤじゃないよ。…するのがイヤなんじゃないの。こ、こういうことするとき、みや以外のこと、考えたくないの」
「…どういう、意味?」

抱きついてきた桃子を抱きとめながらも、雅の声はどこか不安気で。

「…となり…、みやのママもパパも…、いるんでしょ?」
「うん。でももう寝てるよ?」
「……寝てても、その…、声とか音とか、聞かれちゃうかも、とか、考えちゃいそうで…」

雅の肩先に半分ほど顔を埋めた体勢でぼそぼそと喋るせいで桃子の声は雅の服に吸収されるけれど、
それを伝えたい本人には、僅かな声だけでも充分で。

桃子を抱きとめていた雅の腕のチカラが少しずつ緩んでいく。

不安定な体勢では雅への負担が大きくなると察知した桃子のほうから離れ、
おそるおそる雅の顔は見ないままでその二の腕を撫でたら、雅は何故か深く深く溜め息をつき、桃子の肩に額を押しつけてきた。
208 :名無飼育さん :2013/04/14(日) 21:55
「みや?」
「……負けた」
「え?」
「もうなんにも言えない」

そう言って、ゆっくり桃子を抱きしめる。

「……ごめん」

何を言うべきか、どんな言葉が適切なのかがわからず黙り込むしかない桃子の耳に届く雅の優しい声。

「ごめんね」
「み、みやは悪くないよ、もぉこそ、なんか、ごめんね、変なこと言って」
「ううん。…てかさ、あたし、ももと朝まで一緒にいられるってことに浮かれてたんだなあって思った」
「浮かれてた?」
「うん。こんなに長くふたりっきりで一緒にいるの、仕事以外では初めてじゃん?」

厳密には初めてではない気もしたが、雅の言わんとするのは、付き合い始めて、という意味だろう。

こくり、と頷いて見せると、雅はまた、はあっ、と息を吐いた。
けれどそれは、さきほどまでの熱を孕んだものではなくて。

「だいじょうぶ。もう何もしないよ。……でも、その…、…一緒に寝るのは、いい?」

甘えるような、強請るような、控えめな口調に桃子の胸がじんわり温かくなる。

「…それは、もぉが、いま、言おうと思ってた」

桃子の答えに雅は一瞬目を丸くしたけれど、すぐにくすぐったそうに笑って自身のカラダを横たえた。

それから、まだ上体を起こしたまま雅を見下ろしている桃子に両腕を向けて広げて見せる。

「……ここ、くる?」

呼ばれる甘い声に誘われるように、桃子はひどく胸を高鳴らせながら、ゆっくりその腕の中に身を預け、
雅もまた、言葉にするより饒舌に、その少し頼りなくてもどかしい心地好い腕の強さで、桃子を抱きとめた。
209 :名無飼育さん :2013/04/14(日) 21:55
「……やっぱ、眠れそうにないや」

ぽつりとつぶやいた桃子の頭上で雅が笑う。

「いいじゃん、眠れるまで起きてようよ」
「このまま?」
「うん。だから、もも、なんか喋って」
「えー、もぉが喋るの?」

反射的にカラダが揺れたが、それを阻むように雅の腕のチカラが強くなった。

「あのね、実習のときの話とか聞きたい」
「えー? うーん…」
「えー、って。イヤなの?」
「イヤっていうか…、…ぅー……、そういうのは、ちょっと恥ずかしいんだけどな…」
「ますます聞きたくなります、ももちセンセー」
「…こんなときだけそう呼ぶんだから」

密着しているから相手の体温はわかるが、顔は見えないので表情はわからない。
それでも、聞きたがる声色から雅が適当に言ったわけではないともわかるから、
桃子も渋々ながら、終わったばかりの実習のことを、心に残っていることから順番に話して聞かせることにした。

話しているうちに当時のことが思い出されて感慨深くなっていたらしく、思うより喋り続けていたことに気づいたのは、
さっきまで聞こえていた相槌や質問が次第に少なくなってきたと感じたからだった。

「……みや?」

もしかして喋りすぎて呆れさせてしまっただろうか、とおそるおそる呼んでみたが返事はない。
代わりに、聞いたことのある規則正しい寝息が聞こえてきた。

「え、寝ちゃったの?」

桃子を抱きとめていた腕のチカラもそのせいか弱くなっていて、桃子が少しカラダを起こしただけでその腕はするりと離れて落ちる。
210 :名無飼育さん :2013/04/14(日) 21:56
雅の寝顔は何度も見たことがある。
それは雅に限らず、メンバーのものなら飽きるほどだ。

それでも、今の桃子にとって雅の寝顔は特別だ。
薄く開いた唇が無防備で、無意識に桃子に身を寄せようと上体を傾けてこられて胸が鳴る。

「みや?」

ちょん、と指先で頬を撫でても反応がない。
見るより深く眠っていて呼んでも声は届いてないとわかって、再度桃子は雅の名を呼んだ。

「みや…」

囁くように、けれど今、とてつもなく愛しく感じているその名を。

気のせいか、その口元が緩んだ気がしてギクリとした。
まさか今、この状況で狸寝入りなんてことはないだろうが、悪戯に関しては雅の右に出られる誰かは思いつかない。

もう一度、そろりと頬に触れるとやっぱりその口元は綻ぶが、聞こえてくる寝息は乱れることがなくて、
咄嗟に桃子の脳裏にある考えが浮かぶ。

雅は今、きっと夢を見ている。
そしてその夢は、桃子の夢なのでは?

かあっ、と桃子の顔が熱くなる。
自惚れだとしても、思いこみだと言われても、いま、何気なく呼んだ桃子の声に雅の口元が緩んで見えたのは夢ではない。

『想われている』ということを、こんなカタチで知らされるなんて。
211 :名無飼育さん :2013/04/14(日) 21:56
ベッドに落ちていた雅の手の先が僅かに動く。
やっぱり起こしてしまったのかと、桃子が身構えてしまったとき、閉じられていた雅の瞼がゆるりと、だけどすこしだけ持ち上がる。

「…ごめん、起こしちゃった」
「……ももぉ…?」

眠そうに甘えた声で呼んで、その口元が目に見えて綻ぶ。
落ちていた手を持ち上げ、さっきと同じように桃子を抱きしめる。

「…もも…、眠れ…そ…?」
「……うん、みや見てたら、眠くなってきた」

咄嗟に出た嘘だったが、桃子の声を聞いた雅はホッとしたようにカラダからチカラを抜いて目を閉じ、
そのまま、眠りに誘いに来た睡魔に負けて、ゆっくりと夢の中へと落ちて行く。

すぐに聞こえてきた寝息に耳を澄ます。
同時に、抱きしめられたことで近くなった鼓動にも気持ちを向けた。

長い時間、一緒に過ごせる嬉しさと、恥ずかしさと、想われていることに対する高揚感で気持ちは揺れていたけれど、
規則正しい音は無意識に安心をつれてくる。

目を閉じると、カラダの疲れがそれを待っていたように顕著に桃子を眠りへと誘い、
幸せな気持ちと、雅の匂いと、心地好い腕のチカラに包まれながら、やがて桃子も眠りの縁へと落ちついた。
212 :名無飼育さん :2013/04/14(日) 21:56

213 :名無飼育さん :2013/04/14(日) 21:56

END
214 :名無飼育さん :2013/04/14(日) 21:57




毎度毎度、捏造三昧で恐縮です。
実は今回更新分は2月の終わりには書き終えていたのですが、
抑揚の薄い、起伏の弱い内容に感じてしまい、投稿することを今まで躊躇しておりました。
あまり動きのない更新内容ではありますが、読んでくださった方に少しでも楽しんでいただけていると嬉しいです。



>>183-187
レスありがとうございます!
毎回まとめてしまって申し訳ありません。
でも、いただいたレスは何度も何度も読み返すほど本当に励みになっています、ありがとうございます。
今後も、ゆる〜い気持ちで見守っていただけると幸いです。
215 :名無飼育さん :2013/04/14(日) 23:04
作者様の書くみやももが本当に大好きでこの小説をしょっちゅう読み返してます。
今日も読もうと思ったら来てたーーー!!!有難うございます!!!
もう本当に良かったです。ドキドキしてます。
また更新して下さるのを楽しみにしています!!!
216 :名無飼育さん :2013/04/15(月) 01:08
何でもないような一日なのにこんなにドキドキできる文章を書けるだなんて!!
はぁ…!今回も最高でした!!
大好きです!!
217 :名無し飼育 :2013/04/16(火) 23:55
続きがあったなんて思っていなかったので想定外のうれしい更新でした
暖かくなってきた春の夜にふさわしいほんわかでも少しドキドキさせられる内容でした
また読み返しつつ、次の更新をゆる〜くお待ちしています。
218 :名無し飼育さん :2013/04/23(火) 17:51
久々にチェックしたら来てたー
更新分を2度読み、1から読み直し、さらに(ry
ニヤニヤが止まりませんね
ゆっくりでもまた続きを書いていただきたいです
219 :名無飼育さん :2013/06/02(日) 05:02
雰囲気が丁寧で落ち着いていて読みやすいです! 
出来れば気長に更新待たせていただきます
220 :名無飼育さん :2013/07/27(土) 07:23
ここから進展したふたりが読みたいですなぁ
作者さんの丁寧な描写、素晴らしいです
221 :名無飼育さん :2013/08/26(月) 14:37
みや生誕記念小説きてるかなって期待したけど_| ̄|○
気長に待ってます。
222 :名無飼育さん :2013/09/23(月) 16:52
ここのみやももが恋しいなぁ。
続編、実は待ってますよ!!
223 :名無し飼育さん :2013/09/28(土) 16:01
続編を切に願います!!
もう何回読み返したか分からないくらい読みました。
2人は一線超えるのか超えないのか、手の早そうなみやびちゃんがどれだけ我慢の子を強いられるのか、
次回の更新を期待せずにはいられません。
作者さんの負担になる事は承知ですが続編を待たせて下さい。
楽しみにしてます!!
224 :名無し飼育 :2014/05/30(金) 12:23
完結してから一年以上経ってる…

作者様のももちとみやびちゃん、読みたいなあ。
なんてワガママをすみません。
225 :名無し飼育さん :2014/08/21(木) 20:35
久しぶりに読み返しても相変わらずイイ!!
できれば続きが読みたいです。
このレスが作者さんの目に留まりますように。
226 :名無飼育さん :2014/08/25(月) 00:02
更新します。
今までのお話とは特に繋がりはありません。
227 :名無飼育さん :2014/08/25(月) 00:02

228 :another happy birthday :2014/08/25(月) 00:02
屋外に出ると、すぐに額や首筋に汗が伝うくらいには残暑厳しい夏の午後。

幸いにも屋内でのスチール撮影だったおかげで外気温に体力が奪われるようなことはなかったけれど、
夜になっても続く連日の蒸し暑さは、最低限必要とする睡眠時間を思うよりも削っているようで。

食事休憩を含んだ、一時間程度のそれほど長くない自由時間。
いつもはたいがい一緒にいるメンバーたちも、今日は自分たちなりに有意義に過ごそうと、
食事を済ませたあとは、あてがわれた控室や休憩室、もっと涼しい会議室など、個々に別れてしまっている。

雅は佐紀と梨沙子と一緒に休憩室にいたのだけれど、
ふたりが眠ってしまったのを確認して、そっと休憩室を抜け出した。

すぐ隣の会議室には千奈美が、廊下を挟んだ反対側の休憩室兼控室には茉麻と友理奈が、それぞれ無防備に寝転んで眠っていた。

そのどちらにも桃子がいなかったことに、雅はほんの少しホッとした。
別に、誰かと居たって構わない。
そこは自分だって好き勝手しているのだから文句を言うつもりなんてない。

でも、ひとりでいるなら、誰かの目を気にする必要もない。
229 :another happy birthday :2014/08/25(月) 00:03
会議室の向かい側の衣装室をそっと開けると、
突然扉が開いたことに驚いたのか、弾かれたように壁に凭れていた桃子がカラダを起こした。

「…なんだ、みやか」

雅の顔を見た桃子がホッとしたように息をつく。
素っ気ない口調にムッとなったのも事実だが、雅を見る桃子に迷惑そうな雰囲気はなく、
自身の隣に雅が座れるほどの空間を作って奥へ詰めてくれたので気にしないことにした。

桃子の隣に、桃子と同じように壁に凭れる態勢で座る。
いきなり現れたというのに用件を聞かないあたりが、無条件に隣にいることを許されているようで嬉しくなる。

とはいえ、それを言葉にしたりはしないけれど。

「…もも」
「んー?」

眠いのだろうか、どことなく気のない返事。
230 :another happy birthday :2014/08/25(月) 00:03
隣に座ったことで肩先と二の腕が僅かに触れ合っている。

その触れてる部分からしか伝わってこない体温がもどかしくて、
雅はゆっくり上体の重心を桃子のほうへと傾け、桃子の肩に自身の頭を預けるように乗せてみた。
カラダを揺らすか振り向くか、何かしらアクションがあると思ったのに、
雅の行動は読まれていたのか、何の反応もなくて、少しだけがっかりする。

「……なんでもない」
「なんだそりゃ」

肩に凭れていたので顔は見えなかったけれど、桃子が呆れたように息を吐いたのがわかる。

「…ていうか、その態勢、つらくない?」

体格差で言うと、桃子より背の高い雅が桃子の肩に凭れるのは首筋が反って少々厳しい。
だからと言って逆の態勢を求めるのはなんだか気恥ずかしくて黙ったままでいたら、
微かに鼻先で笑ったあと、桃子がゆっくり肩を引き、そのせいで浮いた雅の頭をそのまま自身の膝へと誘導する。
重力に逆らえない雅のカラダは横になって仰向けになり、意図せず桃子を見上げる態勢になった。

いきなり膝枕される態勢になって咄嗟に言葉を詰まらせてしまったが、
そんな雅を見下ろしてくる桃子は含み笑いを浮かべていて。
231 :another happy birthday :2014/08/25(月) 00:03
「この距離で顔が見えないのってなんかイヤじゃない?」

気持ちを見透かされた気がした。
それは雅も思ったことだから。

答えに詰まったせいで唇が尖る。
それを目にした桃子の口角が満足そうに上がった。

「もぉね、甘えんぼなみやも好きだよ?」
「…っ、さらっと言うな、バカ」

不意の告白と、雅の切りたての前髪を撫で上げる桃子の手の熱にどきどきする。
上がったままの口角が、雅の言葉をそのとおりに受けとめていないのもわかる。

湧き上がってくる衝動の勢いに任せて雅はその手首に唇を押し付けた。
さすがにそれは予想外だったのだろう、桃子のカラダが、ほんのすこし揺らいだ。

「……そこでいいの?」

普段触れない場所へのキスに戸惑ったはずなのに、それを隠すように含み笑いを浮かべたまま桃子が言う。
悔しいけれど、それに反論する気持ちにはどうしたってなれず、カラダを起こした勢いのまま、雅は桃子の唇を塞いだ。
232 :another happy birthday :2014/08/25(月) 00:03

233 :another happy birthday :2014/08/25(月) 00:03
END
234 :名無飼育さん :2014/08/25(月) 00:04


そんなわけで。
あんまりお誕生日ネタっぽくないですし、短いですし、実のところ大昔に書いた別のお話の焼き直しではありますが、
夏焼さん生誕、22歳おめ! ということで。


>>215-225
たくさんのレスありがとうございます。
いつもまとめてしまって申し訳ありません。
前回更新時から1年以上たってても、また読み返してくださってたりと、とても嬉しく、そして恐縮です。

今回は昔書いたものの加筆修正という形だったのですが、
正直なところ、今後も書けるか、というとなんとも言えない感じです。
書きたい気持ちはあっても、前回の続き、というものは何も考えてないのが現状でして…。
次、というお約束はできないので、過剰な期待はなさらず、気が向いたときにでも覗いてやってください。

ではまたいつか。

235 :名無飼育さん :2014/08/25(月) 23:29
まってました……!
この空気感と距離感が大好きです。
続きを確かに読みたい気持ちもありますが、作者様の書きたいものを、書きたい
ペースで書いてくださったらうれしいです。
更新、ありがとうございました
236 :名無し飼育さん :2015/03/18(水) 21:18
久々に読み返しました。
やっぱ作者さんのお話大好きです。
続きをお願いしますと言えば負担になるのも分かっていますがどうしても期待せざるを得ません。
無理を承知で言わせて下さい。更新期待してます。
237 :名無飼育さん :2017/05/11(木) 17:23
セクハラスレから来たんですが
最高ですね〜

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