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ジャストスターティング

1 :宮木 :2011/11/26(土) 22:55
フリースレでいくつか書いていました。
9、6、たまに85。
そんな短編をいろいろ。
168 :風相応 :2012/10/20(土) 19:33
自転車が止まる。
ポケットに突っ込んでいた缶ビールが現れる。

「飲酒運転になっちゃうよ」
「大丈夫。押して帰るから」

それだとカコーンが聞けない。
私は不服を唱える。

「酔っ払うと迷惑かけちゃうでしょ」
「出た、小姑」

からかう言葉で私はますます意地になる。

「お家で飲もうよ」
「しょうがないなあ」

私の要求を彼女が受け入れる。
一度降りた荷台に再び腰掛ける。
彼女がペダルを踏み込んだ。

「無駄足になっちゃったね」
「ドライブだよ、ドライブ」

彼女の肩に乗っかった銀杏の葉を摘む。鮮やかな色だ。
自転車は銀杏並木をゆるやかに走る。爽やかな風だ。
169 :風相応 :2012/10/20(土) 19:34
彼女の後ろで私は理想のデート像を思い浮かべる。

フランス料理でフルコース。
そんなデートは似合わない。

近所の居酒屋でわいわい。
そっちの方が彼女は好きだ。

だから私も好きだ。

私たちに合ったデートをする。
年齢はもう気にしない。

彼女は私にふさわしい。
たぶん彼女に私はふさわしい。

「帰ろっか」

カコーン、カコーン。
次に聞けるのはいつだろう。

170 :宮木 :2012/10/20(土) 19:34


『風相応』おわり

171 :宮木 :2012/10/20(土) 19:34


『シンデレラの忘れ物』

172 :シンデレラの忘れ物 :2012/10/20(土) 19:35
バットに球が当たるカキンという小気味のいい音がグラウンドの方から聞こえる。
ソフト部と思われる生徒たちの威勢のいい声が沸いている。
放課後の教室には、特に用事があるわけではないので暇を持て余している遥と、一つ上の先輩である里保とその友人の香音しかいない。

「辻褄合わないですよね、これ」
「なにがだよー」
「慌ててすっぽ抜けるくらいならさ、そもそもサイズ合ってないわけじゃないすか。
 なのに持ち主探しのときにはピッタリ合ってて『あなたしかいません』とか言うんですよ?
 おかしいじゃないですか」
「合っちゃったんだよ。ね、里保ちゃん」
「そうそう、合っちゃったんだよ」
「いーや、ないない」
「はぁ…夢がない。本当に夢がないよ、どぅー」

香音がわざとらしく溜息をつく。
それに合わせ隣にいた里保も溜息をついた。
香音はキャラに似合わず案外ロマンチストだ。
普段は遥と変わらないくらいマジレッサーの里保もこういう時だけノリのよいキャラに変わったりする。
そして、遥は超がつくほどの現実主義者である。
二対一の構図。ツッコミまくりの遥とそれに反論する先輩二人。
三人ともなかなか頑固で、議論はなかなか終息が見えない。
173 :シンデレラの忘れ物 :2012/10/20(土) 19:36
さて、さっきから遥たちが何を論争しているのか。

それは童話『シンデレラ』についてである。

別名を灰かぶり小娘というそれ。
継母や姉たちにいじめられる少女が、魔女の助けを得て舞踏会へ行き、帰りに脱げたガラスの靴で王子に見つけられ結婚するというグリム童話のあれである。

部活が休みの放課後の退屈な時間。
仲の良い先輩の教室に遊びに行くと里保と香音がいた。
そしてどこから持ってきたのか香音の手にはシンデレラの絵本があり、童心を取り戻してよくどぅー!ってことで半ば強引に読まされたのである。

だが狂犬やら軍用チワワとして名を馳せてる遥にとって、おとぎ話というのは気になるところが多々あり、さっきからこうしてやいやい言っているわけだった。

「リアリストすぎるんだよ、くどぅーは」
「夢見すぎなんですよ、鞘師さんたちが」
「もうちょっとさー希望を持とうよ」
「だいたい鈴木さんはジャージ姿でロマンを語らないでくださいよ」

部活サボってこんなの持ってきて。
芋臭い袖の絞ってあるジャージがさらにふざけてるとしか思えない。
174 :シンデレラの忘れ物 :2012/10/20(土) 19:36
「そもそも一目惚れってのがありえないですよ」
「なんでよ、いいじゃん」
「要は見た目だけってことじゃないですか。
 シンデレラの良さはいじめにも耐える強い心ってとこなのに。
 それなのに見てくれだけで婚約申し込むとか王子様は何見てんだって話ですよ」
「おぉー、どぅー熱いねー」
「ふぅー!」
「………」

せっかく二人に乗って語ってやったのに、茶化しやがって。遥は憤慨する。
憤慨した遥はひゅーひゅー言い出した二人を置いて教室を出る。
もう語る気はない。
というわけで二人に付き合う気はない。
そういうわけで、帰る。

「じゃ」
「ちょっ、待ってよ」
「ちょっとちょっと」

スタスタと教室を出た遥を追ってすぐにバタバタと後ろから二人が駆けてくる。
右には薄っぺらい鞄を持った里保と左にはシンデレラの本を持った香音。
二人の空いた手が遥の肩に回る。
175 :シンデレラの忘れ物 :2012/10/20(土) 19:37
「まーまーシンデレラ論についてもっと語ってよ、どぅー」
「もう言うことなんてないですってば。それより鈴木さん、部活」
「いいのいいのサボりタイムだから」
「意味わかんないですってば」
「たまには休息も必要なのだよ」
「他のソフト部はみんな頑張ってるっていうのに」

遠くの方でまたバッドに球の当たる音が鳴る。
そんな仲間たちの音は聞こえないのか、香音は華麗に話を転換した。

「それより里保ちゃんはいいの?」
「なにが?」
「えりちゃん」
「あぁー、あの人は放っておいても大丈夫だから」

唐突に出てきた「えりちゃん」という知らない名前。
遥は首を傾げる。

「誰ですか、えりちゃんって」
「生田衣梨奈。うちらの一個上だよ」
「その人と鞘師さんは、どういう関係なんですか?」
176 :シンデレラの忘れ物 :2012/10/20(土) 19:37
そう突っ込むと里保が少し考えるような素振りをした。
言いたくないのか。言えないような関係なのか。
疑問に思い口にしようとした時、その横の香音がさらっと答えを言った。

「里保ちゃんの幼なじみ。ね?」
「…あぁー、そう。幼なじみ」
「なんだ、ただの幼なじみですか」

遥がそう言うと里保はなんとも言えないような表情をした。
浮かないというかなんというか。
その表情から心情を読み取れるほど、遥は賢くない。

「里保ちゃんとえりちゃんはねーいっつも一緒にいるの」
「いつもじゃないから」
「だって毎朝一緒に来るじゃん」
「幼なじみだからだよ」
「家、そんな近くないじゃん」
177 :シンデレラの忘れ物 :2012/10/20(土) 19:37
里保と香音がうだうだとそんな会話をしながら階段を下りていく。
間に挟まれた遥がどのタイミングで逃げようかと思案し始めたそのときだった。

「あれ?なんか落ちてない?」

遥が肩に回った二人の手を払っていると、里保が何かを見つけたのか声を上げる。
里保の視線の先を追うと、そこには――


「……上履き?」


階段の踊り場。そのど真ん中。
ガラスの靴とは到底程遠い、履き慣らしたくたびれた上履きが片方だけ落ちてあった。

178 :シンデレラの忘れ物 :2012/10/20(土) 19:38



「で、拾ったはいいけども。どうするの?」
「名前書いてないっぽいですよねー」

発見した上履きを、そのまま見過ごすわけにもいかなかった遥たちはとりあえず拾ってみた。
やっぱり、さっきまでシンデレラを読んでいて、なんていうかタイミングが良すぎたからだ。

しかし、その靴には名前が書いていない。
よって、持ち主がわからない。

落ちている(というのかはわからないが)ということはやっぱり落とした人がいるわけだ。
誰かが困っているのは間違いないわけである。

「やっぱり探してあげるべきなんじゃない?」
「あたしもそう思う」
「職員室持ってっても捨てられるだけですよねー」

落し物ですと持っていったところで、忙しい教師はそのまま放置し、めんどくさがってしっかりと探してはくれないだろう。
それならば、やっぱり拾った遥たちが探してあげるべきだと思う。

どうせ暇を持て余している。隣を見れば香音は既に探す気満々だ。
それに、こう見えて遥と里保は学級委員なのだ。
困っている生徒がいたら助けるのが筋である。

というわけで、遥たちの『王子様よろしくシンデレラを探せ作戦』が始まったのだった。
このネーミングは香音のセンスである。苦情は受け付けない。
179 :シンデレラの忘れ物 :2012/10/20(土) 19:38


「上履きの色が青ってことは、ハルと同じ学年ってことですよね」

この学校では、学年によって上履きの色が変わる。
里保たちが赤で、遥の学年は青。
そしてこの落ちていた上履きも青であった。
つまり、持ち主は遥と同学年。

「てことは、どぅーの知ってる人じゃない?」
「心当たりないの?」
「名前の書いてない上履きなんてわかるわけないじゃないっすか」
「落としそうな人とかさ」
「そんなドジな奴知らないですよ」

アホはいるけど。目の前に。
…とはさすがの遥でも言えない。
生徒数が多く、いくら同学年と言っても全員を把握しているわけではないので見当がつかない。
180 :シンデレラの忘れ物 :2012/10/20(土) 19:39
「しかも右足だよ、これ」

いいこと気づいたぜなんて表情でこっちを見る香音を一先ず無視し、遥は一番最初、この上履きを見つけて即座に思ったことを口にする。

「ていうかさ、落とします?普通」

上履きを。
しかも片方だけなんて。

「脱げた時点で気づけよって話ですよね」

シンデレラじゃあるまいし、そんなに急を要す用事なんて早々ないだろうに。
そう思って遥は至極当たり前のツッコミをする。

「まあ、落としちゃったもんはしょうがないんだ。そう責めてやるな」

香音はまだ見ぬ持ち主に同情する。
確かにここで知りもしない持ち主の悪口を言ったところで何も始まらない。
181 :シンデレラの忘れ物 :2012/10/20(土) 19:39
「しかし、どういう状況だったんだろね」と香音。
「バタバタしてて脱げたのか、手に持ってて落としたのか、はたまた捨てたのか」と里保。
「捨てるわけないでしょ」と遥。
「しかも片方だけってねぇ…」と香音。
「やっぱ脱げた線が濃厚?」と里保。
「んー…」と遥。

考えたところで、常人には想像もつくわけがなく、三人は黙りこくってしまった。
どうやったら片方だけの上履きが落ちるのか。
そんなもの、わかるわけがない。

「とりあえずさ、持ち主見つけるのが先決でしょ」

里保が仕切り直す。
理由はともかく、ここに片方だけの上履きがあるという事実。
その持ち主を探す、ということだけが今自分たちにできることなのは間違いないのだ。
182 :シンデレラの忘れ物 :2012/10/20(土) 19:39
一先ず、捜査の基本はやっぱり聞き込みだろう、ということで遥たちは今現在教室に残っている生徒を回っていった。

だがほとんどの生徒は部活に行っているか既に帰宅済み。
該当者はおろか目撃者やこれといった情報も掴めなかった。
どうやらドラマみたいにそう都合よく捜査は進まないらしい。

しかも片方だけの上履きを持ってるからちょっと変な目で見られるし。
ほんと、いいことなんてなかった。


ふらふらと校舎内を歩きながら、再度作戦会議を開く。

「なんかいい方法ないかなー」
「下駄箱一個一個確認してまわるとか?」
「……それ、めんどくさくないっすか?」

だが、そう頭が回るわけでもない先輩方の口から案が出るわけもなく、遥は至極簡単な方法を挙げた。
183 :シンデレラの忘れ物 :2012/10/20(土) 19:40
「張り紙に『落し物です』って書いて、昇降口付近に置いておけば明日登校してその人も気づくかもしれないですよね」

紙書くだけで手間も掛からないし一番手っ取り早い。
なんて名案だろうと思って二人を見ると、その顔はどこか浮かない顔をしていた。

「んーなんかヤダ」
「うちもー」
「えぇーなんでですか。一番効率いいでしょ」
「ここまで乗った舟じゃん。持ち主が誰か気になんない?」
「そうそう。誰が落としたのか知りたいじゃん」
「……まあ、それは…確かに気には、なる」

確かに。靴が片方脱げても気づかないアホな子を見てみたいと思う。
面倒なことは嫌いだけど、好奇心はそれなりにあるんだ、遥だって。

「でも、じゃあどうするんですか?」
「というわけで提案なんだけど」

184 :シンデレラの忘れ物 :2012/10/20(土) 19:40



翌日。
遥たちは普段じゃありえないほど朝早く学校に来ていた。
目的はもちろん、靴の持ち主を探すためである。

上履きがないということは朝登校してきた時点で気づく。そして必ず困るはずだ。
そんな困った表情をしている人に、手当たり次第に聞いていけばいいという、すごく単純な作戦になったのである。
朝早いし、疲れるし、面倒だし。もっと他にいい案はなかったのだろうか。
そんな恨めしげな遥の視線に気づかない提案者の香音はにこにことしている。
隣の里保は眠たそうに瞼を擦っていた。

というわけで遥たちは朝も早くから登校してきた生徒の群れを観察していたのだが、それらしき人はなかなか現れてはくれない。

いない。いない。
顔を見ては足元を見るという繰り返し。
時間が経てばやってくる生徒も多くなる。
そんな観察に、ちょっとずつ飽きてきたときだった。
185 :シンデレラの忘れ物 :2012/10/20(土) 19:41

「あれ?里保やん」

声のした方を見ると、何故か頬を膨らませた女の子がいた。
女の子の視線は里保にのみ注がれている。
そしてその里保は何故か表情が強張っているようにも見える。
さっきまで開ききっていない目で眠たそうだったのにだ。

目の前の女の子が何者かわからない遥は、隣の香音に小声で問いかける。

「…誰ですか?」
「あれが噂の生田だよ」

どうやらこの人物が昨日話題に上がっていた里保の幼なじみらしい。
186 :シンデレラの忘れ物 :2012/10/20(土) 19:41
「里保、こんなとこで何しようと?」
「いやいやえりちゃん。あたしたちもいるから」
「なんか用事あるって言いよったのってこれ?」
「って無視か」

完全に無視されてしまっている香音を哀れに思っていると、生田さんとやらに捕まった里保も哀れに思えてきた。

「里保さー『今日一緒に行けない』ってメールしたやん」
「したね」
「結構ショックやったとよ」
「別に一緒に行くのが義務ってわけじゃないじゃん」
「そうやけど」
「ならいいじゃん」

「これを俗に痴話喧嘩って言うんだよ」
「そうですね」

遥と香音のひそひそ話は二人には届かない。
187 :シンデレラの忘れ物 :2012/10/20(土) 19:41
「てかなんしよーとよ?」
「今聞くのか」

そんな香音の突っ込みはまたもやスルーされる。哀れだ。
それに対して里保のフォローがないのも悲しい。揃って無視だ。

「ボランティアだよ」
「ボランティア?」
「落し物を拾ってさ。今持ち主を探してあげてるの」
「なんそれ。いいことしようやん。偉いね」

さっきまでのイライラとした表情はなんだったのか。
今度はニコニコと里保を見つめている。

そんな様子を見て香音が呟く。

「本当、えりちゃんってコロコロ表情変わるよね」
「ありがとう」
「いやあまり褒めてないから」
「そこは聞こえるんですね」
188 :シンデレラの忘れ物 :2012/10/20(土) 19:42
頑張ってねと去っていった衣梨奈に手を振り、再度持ち主探し再開。
しかし、やはり相手はなかなか見つからない。
マイペースな里保と香音も時間を気にし始める。

「もうすぐでチャイム鳴っちゃうよ」
「せっかく朝早く来たのに遅刻扱いはやだなー」

そんなことをぶつぶつ言いながら時計を見て焦っていたときだった。


予鈴が鳴り駆け込んでくる生徒の中で、何故か楽しげに駆けてきた女の子。


「あぁー!それまーちゃんの!」


キーンと高い大きな声。
何故かとびっきりの笑顔。
その子が遥を見つめた。
彼女が指差すのは、遥が持っているあの上履き。



タイムリミット寸前。

シンデレラ、発見。

189 :シンデレラの忘れ物 :2012/10/20(土) 19:42

「おぉー見つけたシンデレラ!」
「ん?」

テンションが上がったらしい香音に、その子はキョトンとした表情を向ける。

「これ、キミのなの?」
「うん。あ、はい」

里保の質問に女の子はこくりと頷く。
足元を見て先輩とわかったのか訂正しているが、敬語になれていないような態度だ。

女の子の足元を見ると、職員用のスリッパを履いていた。
片方失くして履けなくなっていたのだろう。
持ち主はこの女の子で間違いないらしい。

「じゃあ、これ」
「ありがとー」

遥から手渡して、無事上履きは持ち主のもとへと渡った。
これにて一件落着である。
190 :シンデレラの忘れ物 :2012/10/20(土) 19:43
「いやーよかったよかった」
「ね。ギリギリ見つかってホントよかったよ」

安心したように笑い合う香音と里保に「それじゃあ」と告げる。
先輩たちとは校舎が違うためここでお別れだ。

一旦下駄箱へと戻った女の子はもう片方の靴と合わせて履き替えてきた。
やたらと早足で戻ってきた女の子と教室へ向かうタイミングが一緒になってしまったので、ついでに気になってたことを聞いてみた。

「なんで上履き失くしたの?」
「んー?」
「しかも片方だけ」

一番気になってたそれ。
この靴を発見したときから気になってたことである。

「手に持ってて落としたとか誰かに隠されたとか…」
「あぁーそんなんじゃないよ。ただ歩いてたら脱げてー」

どうやら本当にシンデレラみたいに履いていた靴が脱げたらしい。
女の子の足元を見ると、踵を踏んできちんと履いていない。
これなら、脱げてもしょうがないのかもしれないと思う。
191 :シンデレラの忘れ物 :2012/10/20(土) 19:43
「脱げたとき気づいたんなら、戻ろうよ」
「だって眠くてね。途中で気づいたんだけど、まあいいかなって」

その答えを女の子はまたも楽しげな口調で答えた。
何が楽しいのか遥にはわからない。

「いや、よくないでしょ」
「でも眠かったもん」

どうにも、この子は変らしい。
ほんの少ししか会話していないが、それだけは充分に伝わった。
あまり関わらない方がいいかもしれないという直感が働く。
それと同時に湧いてきた好奇心には知らないふりをした。

「じゃあハル、教室ここだから」

会話を切り上げようとそう言うと、「うん!」と無駄に元気よい返事をしてその子が手を振った。
それがまた全力でぶんぶんと振るもんだから可笑しくて遥はつい笑ってしまう。
192 :シンデレラの忘れ物 :2012/10/20(土) 19:43
上の階のクラスなのだろう。
女の子が跳ねるような足取りで、踵を踏んだ上履きをパタパタと音を立てながら階段を上がっていく。
見送り、立ち去ろうとした遥を女の子が呼び止めた。
足を止め振り返る。
踊り場に到達した女の子がこちらを見ていた。

「まーちゃんね、まーちゃんって言うの!」

自己紹介のつもりなのだろうか、大声で叫ばれた。

「いや、意味わかんないし」
「サトウマサキこと佐藤優樹!」
「それもまた意味わかんないから」

遥が突っ込むと、優樹という女の子はえへへと笑って去っていってしまった。
取り残された遥は、優樹の変哲さに笑う。

「なんだ、あの子」

まあどうせクラスも違うし。
ほんの少し興味は湧いたけど、もう関わることはないだろうなと遥はすぐにその情報を頭から排除し教室へと向かった。




なのに。


放課後。
再会は早くもやってきた。
193 :シンデレラの忘れ物 :2012/10/20(土) 19:44

「あ、今朝の子だ」
「え?」

廊下でばったり会った里保と職員室へ向かった遥は偶然にもそこに今朝出会った女の子、優樹を見つけた。
先生と話しているようだが、どうも先生が苦笑を零しているのが気になる。

直感を思い出し関わらないようにと顔を背けようとしたところで、キョロキョロとしていた優樹と不運にも目が合ってしまった。

「あっ!」

優樹が嬉しそうに声を上げる。これがまた大きい。
先ほどまで話していた先生を放置してこちらへ駆けてくる。全速力だ。
軽く会釈をし逃げようとした遥に、優樹は予想外の言葉を口にした。


「王子様だー!」


しっかりと遥を指差して、そう言ったのである。
194 :シンデレラの忘れ物 :2012/10/20(土) 19:44
もちろん、そんなことを言われるだなんて思ってなかった遥は焦る。戸惑う。

「は、はぁ?」

いきなりなんてことを言うんだ。この子は。
隣の里保は堪えきれず笑い出してしまってる。
目の前にある優樹の顔はやはり楽しそうだ。

そんな優樹を遥はポカンと見つめる。

「ん?どうかした?」
「どうかしたもなにも……王子様ってなに?」
「上履き拾ってくれたのって君だったよね。あれ違った?」
「いや、そうだけど…」
「なんだ合ってるじゃん。だから王子様でしょ?」
「だから、なんで?」
「シンデレラの靴を拾ってくれるのは王子様じゃん。だから、キミ、王子様」

さも当然といった表情で、優樹は言う。
ニコニコ笑顔が眩しい。
195 :シンデレラの忘れ物 :2012/10/20(土) 19:44
ハルが王子様って。
まったくもって、そんなガラじゃない。
しかし、よくもまあ。
そんな恥ずかしいことをさらりと言ってくれるもんだ。

遥は呆然とする。

「…拾ったのハルだけじゃないし」

そう言いながら隣にいる里保を指差す。
突然指された里保は「え、うち?」と驚いていたが、こうなったら道連れだ。

「王子様二人もいらないもん」
「だ、だよね。やっぱくどぅーのがいいよね」

道連れ失敗。
何故かノリノリで里保までもが遥を王子様に仕立てようとしている。

気がつけば、キャッキャッキャッキャッと目の前で二人が楽しげに話していた。
遥は置いてけぼりをくらった気分を味わう。

「これからくどぅーが、まーちゃんの王子様ね」

笑顔で優樹が宣告する。
遥は絶望する。
196 :シンデレラの忘れ物 :2012/10/20(土) 19:45

しかし思う。
こんな陽気なシンデレラなんているのだろうか、と。
とてもいじめられメソメソするような玉には見えない。

結局、先生に呼び止められるまで、優樹は遥にまとわりついてきた。

「じゃーねー」
「ばいばーい」

もちろんこんなやり取りをしたのは里保と優樹である。
遥は未だついていけていない。
先生に連れられ優樹が去っていく。
後ろ姿を見届けて、遥が溜息をついた。

「何仲良くなっちゃってんすか」
「おっ、嫉妬ってやつですか?」
「バカじゃないですか」

そんなやり取りをしながら用事を済ませ、部室へと向かった。
金輪際、優樹に関わりませんようにと願いながら。

197 :シンデレラの忘れ物 :2012/10/20(土) 19:45


それからだった。
優樹が遥を見つけると、楽しそうに声を掛け、引っ付いてくるようになったのは。

そう、遥の願いは叶わなかったのである。

登下校、昼休み、移動教室、いろんな場面で狙われる。
放課後。今日もまた、捕獲されてしまった。

「ちょっと王子様ーいっしょに帰ろうよー」
「あぁーもう!ハルは王子様じゃない!」
「だよね。どっちかっていうとただの少年だもんね」
「鞘師さんは黙っててください!」

変に口を挟まないでほしい。
そしてそれに対してキミも笑うな。
そんな遥の抗議は意味を成さない。
198 :シンデレラの忘れ物 :2012/10/20(土) 19:45
「あーわかります、なんかくどぅーってイケメンですよね」
「キャップとか被ったら本当ただのイケメンだよね」
「二人ともいい加減にしてください!」
「きゃー少年が怒ったー」

すっかり仲良くなってる里保と優樹を見て、遥はこの場から逃げ出したい衝動に駆られる。
だけど、そうもいかないんだな、これが。遥は悟る。

「ちょっと、シンデレラ置いてどこ行くのー」

こっそりその場を立ち去ろうとした遥の腕を優樹が掴む。

「離してよ」
「ヤダ」
「…だいたいさ、前も言ったけどハルじゃなくて鞘師さんでもいいじゃん、王子様」
「うーん…なーんか違うんだよねえ」

腕を掴んだまま、優樹が唸る。

「鞘師さんとの方が仲いいじゃん」
「それはね、そうなんだけど」
199 :シンデレラの忘れ物 :2012/10/20(土) 19:46
頷きながら、不思議そうな顔で優樹が続けた。

「あ、この人だなって。思っちゃった。直感?」
「いや、聞かれても…」

そこを疑問系にする意味がわからない。
腕を掴まれているから、逃げることも出来ない。

「なんか、こう目が覚めたっていうか」
「は?」
「くどぅーに起こされた感じ?」

わかったような、わからないようなことをこれまた疑問系で言われた。
でも、なんとなくわかった。
これだけはわかった。

自分がきっと、なにか地雷を踏んでしまったのだろうということは。
押してはいけない彼女の中のスイッチを不本意ながら押してしまったのだろうってことは。
それがどのタイミングなのか、全くわからないけれど。

「ま、そういうわけでさ。くどぅーはまーちゃんのものなの」

当然というような、有無も言わせないような言葉とその笑顔。
どうしてか、遥は振りほどくことができない。
200 :シンデレラの忘れ物 :2012/10/20(土) 19:46
考えたくもない答えが遥の頭に浮かぶ。
必死にかき消そうとするも、目の前の顔を見る限りその答えは間違っていないのだろう。
項垂れる遥を見て、里保が楽しそうにケタケタと笑った。

「くどぅーが王子様なら、まーちゃんは気まぐれな王女様だ。気まぐれプリンセス」
「やったぁー!気まプリ!気まプリ!」
「だぁーもう!鞘師さんもまーちゃんもうるさい!」
「あっ、今初めてまーちゃんの名前呼んだ!」

嬉しいなあなんて笑う優樹を見て、遥は顔が熱くなるのを感じた。


どうやら、遥の苦悩はまだしばらく続くらしい。


201 :宮木 :2012/10/20(土) 19:47


『シンデレラの忘れ物』おわり

202 :宮木 :2012/10/20(土) 19:47
久々の更新ってことで2つ。
シンデレラだけどにょんさんじゃないよ。
ついでに言うと9でも6でも85でもないよ。

>>160 :名無飼育さん
個人的に微妙な距離感が一番キュンとくると思ってます。
リーダーのお相手、一体誰なんでしょうね。本人のみ知るということで。

>>161 :名無飼育さん
こちらこそ感想ありがとうございましたとゆいたいです。
まさかそんなにリーダーの相手がフィーチャーされるとは思わなかった。

>>162 :名無飼育さん
生鞘ハマっていただきどうもありがとうございます。れっつ拡散。
意識せずに言わない関係が続いてます。今後も知らず知らずで続いてくでしょう。
203 :名無飼育さん :2012/10/23(火) 01:40
昇降口で生田に見つかったとこの会話がすごくリアルに脳内映像化された
わたしも生鞘のこれからに期待するひとりです
そして巻き込まれDOどぅーも、頑張っていくた
204 :名無飼育さん :2012/10/31(水) 11:14
率直に面白かったです。
文体が好みなので高校生メンバーのお話も
どんな感じになるのか読んでみたいなと少し思いました。
205 :宮木 :2012/11/30(金) 03:47


『回想バス』

206 :回想バス :2012/11/30(金) 03:47
周りはよく、衣梨奈のことをわからないと言う。
KYだとか変人だとか。
でも、衣梨奈からしたら里保の方がよっぽどわからないと思う。





会場から事務所へ帰る途中のバス車内。
ここ最近朝が早かったせいか、普段はどれほど注意しても静かにならない車内が今日は少しだけシンとしている。
さっきまではしゃいでいた後ろの席の優樹も、しゃべり声が聞こえずどうやら眠ってしまったようだ。
衣梨奈の隣にいる里保も、さっきからウトウトと船をこいでいる。

その様子を見て、思わず衣梨奈の表情が緩む。

衣梨奈は、里保と出会ったときのことを思い出していた。
207 :回想バス :2012/11/30(金) 03:48

同じオーディションを受けたのは、今から二年前のことである。
もう二年、というべきなのか。まだ二年、というべきなのか。

そのときに出会った鞘師里保という一個下の存在。

第一印象はクールだと思っていた。
あまり自分から関わってこようとしなかったし、衣梨奈が「里保」と親しげに呼んだときも「なんだこいつ」とでも言いたげであまりいい顔はしていなかった。
なんでも出来て、俗に言う優等生タイプの澄ましたやつとも思っていた。
そして衣梨奈はそれを壊してみたいと思った。
壁があるのなら、壊してしまえばいい。

でも、実際に同じ時間を過ごすと第一印象のそれらは違うのだと知った。


そう。例えば、意外と甘えたがりなところとか。
208 :回想バス :2012/11/30(金) 03:49
肩にコトンと小さな重みがかかる。
右を見ると、里保が居眠りをしていた。
どうやら睡魔との闘いは里保の負けということで決着がついたらしい。

その重みを感じて、更に衣梨奈の頬が緩む。



甘えたがりだと知ったのは、里保と出会ってしばらく経ってからだった。

確かに里保は第一印象通りクールでもあった。
しかし、それはただの人見知りなだけだということ。気を許した人が相手だと崩れる。
それを知ったのは、いつだっただろうか。

衣梨奈も大概だが、里保も意外と引っ付きたがる性質なのである。
10期の影響もあってか9期もよく手を繋いだり、抱きついたり、頬を寄せ合ったり、写真を撮るときなんかはよくくっついている。

里保も例外ではなく、隣にいるとその腕は自然と衣梨奈と繋がることがある。
指摘するとすぐに離す癖はいつになったら直るのだろう。
209 :回想バス :2012/11/30(金) 03:49
「もうすぐホテル着きまーす」

マネージャーが声を張り上げる。
それを聞いて衣梨奈は意識を戻した。

周りのメンバーがもぞもぞと起き出し一様に準備を始める中、隣にいる里保はまだ夢の中だ。

そう。里保が寝起きが悪いのも、意外な一面であった。
これは一緒にホテルに泊まるようになってから知ったことだ。

「里保ー起きてー」
「…………」
「もうすぐ着くよー」
「…………」

そしてなかなか起きてくれない。
あれは確か初めてのハワイの時だったか。
同じ部屋になったときもこうやって里保はなかなか起きてくれなかった。
衣梨奈が起こすことに諦めて自分の準備をし始めた頃にようやく「起きたよー」と報告付きで起きてくれたっけ。
210 :回想バス :2012/11/30(金) 03:50
「あれ?里保ちゃんまだ寝てるの?」

前の座席から香音が身を捩りこちらを見ていることに気づき、再び回想から意識を隣に戻す。
やはり里保はすやすやと心地よさそうに眠ったままだ。

「里保ちゃんってほんと起きないよね」
「もうほんと迷惑っちゃけどー」
「笑顔で言われても説得力ないんですけどー」

香音に笑われながら指摘される。
確かに、内心ではあまり迷惑だと思っていないのかもしれない。

「ほら、早く起こさないと」
「そうやね」

再度里保を見やる。
車内は徐々にうるさくなり始めているのに、一向に目を覚ます気配が無い。
211 :回想バス :2012/11/30(金) 03:50
「里保ってばー」

今度は声だけではなく、手を使う。
トントンと叩いてみる。しかし、起きない。
揺すって起こしてみる。しかし、起きない。
その手に力を込めてみても変わりはなかった。

「ねえ、起きてってば」
「………」
「もう着くっちゃけん、起きろー!」
「んぅ…」

耳元で声を張り上げみても里保は小さく唸るだけで起きてはくれない。
可愛らしい寝顔ではあるけれど、今はそれが憎らしい。
衣梨奈の眉が下がり、困ったように表情が曇る。
212 :回想バス :2012/11/30(金) 03:51
「起きんといたずらするぞー」
「………」
「携帯盗むぞー」
「………」
「おでこにラクガキするぞー」
「………」
「ちゅーするぞー」
「……それはいやだ…」

妙な部分で反応するものだ。
今までなんの反応もなかった里保がもぞもぞと体を捩り起きだす。
ようやく起きてくれた里保を見ると、開けきっていない細い目でこちらを見ていた。

「………ちゅーはしないでね」

寝ぼけ眼のくせに、釘を刺される。
そんなにイヤだったのか。
少しばかりショックを受ける。
213 :回想バス :2012/11/30(金) 03:51
「寝とーときにはせんよー」
「じゃあ起きてるときにはするの?」
「してほしいと?」
「イヤ」

即答だった。
緩んでいたはずの衣梨奈の頬が膨らむ。
そんな衣梨奈の表情を見てか、里保の顔が少し和らいだような気がした。

「あっ」
「なに?」
「里保、ほっぺに痕ついとるよ」
「うそ」
「ここ」

衣梨奈の手が里保の頬に伸びる。
左頬についた、衣梨奈の服を形取ったような線。
なぞるように痕に触れると、里保が顔をしかめた。

「くすぐったいよ」
214 :回想バス :2012/11/30(金) 03:52
細めた里保の目が抗議の意を込めている。
けれど衣梨奈はその目には気づかない。

衣梨奈の視線は里保の口元に向かっていたから。

少しだけ緩んでいるそこに。

里保は照れ屋だとつくづく思う。

「えりぽん、何笑ってんの」
「なんでもなーい」
「…へんなの」

衣梨奈には里保が何故素直にならないのかわからない。
わからないけれど、わかるからいいのだ。

「ほんと、えりぽんってわかんない」

やっぱり里保は、照れ屋だと思う。

215 :回想バス :2012/11/30(金) 03:53


『回想バス』 おわり

216 :宮木 :2012/11/30(金) 04:03
生鞘で始まったので生鞘で終わってみた。

>>203 名無飼育さん
生鞘はホープ。生鞘普及も頑張っていくたー
巻き込まれ振り回される人が多いような気がしなくもない。

>>161 名無飼育さん
率直にありがとうございます。
高校生メンバーが高校生のうちに高校生らしいことも書いてみたいですね。


容量があれなのでこれにてジャストスターティングは終わりです。
読んでくださった方々、どうもありがとうございました。
レスくださった方々、さらにありがとうございました。
お引越ししますのでよろしければ引き続きお付き合いください。

草板 ミドルクリッピング
ttp://m-seek.net/test/read.cgi/grass/1354215649/
217 :名無飼育さん :2012/12/02(日) 02:33
こちらの生鞘好きでした
言わない関係だったり「わからないけどわかる」だったり
いやー好きですわ

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