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神の純潔

1 :優胡麻 :2011/10/11(火) 22:31
短篇集になるかと思います。
時代錯誤するかもしれません。

仰々しいスレタイにしてしまったことを反省中
84 :OATH :2011/11/14(月) 18:02

寝る前は…目をつぶる。
世界が終わるなら、どうしよう。とりあえず笑う。
100年後なんて想像つかないな…

「変な生き物がいる世界!人類はほろびる。」

誰かも知らない先輩の回答に目を奪われた。
この人は、何を思ってこんな事を書いたのだろうか。
人類はほろびる。滅びる。絶滅する。
衣梨奈は14年間生きてきたなかで、一度もそんな事を考えた事はなかった。
人類はほろびる。
どうして、こんなことを思ったんだろう。


85 :OATH :2011/11/14(月) 18:03


◇◇◇


86 :OATH :2011/11/14(月) 18:03

今日も寒い。小鳥が優雅に囀る音がする。静かな朝だ。
もぞもぞとベットから這い出しながら、昨日のことを思い出した。
「人類はほろびる。」
ゆっくりと深呼吸をする。
スー、ハー、スー、ハー、スー、ハー。
衣梨奈は息を吸って、吐いている。
酸素を吸い込み、二酸化炭素を吐き出している。
深く、深く。

窓から見えるその鳥はミュン、と啼いた。妙な鳴き声だ。
この鳥も衣梨奈と同じように呼吸をしているのだろうか。
同じように、吸収と放出を繰り返しているのだろうか。その、小さいカラダも。


87 :OATH :2011/11/14(月) 18:03



88 :OATH :2011/11/14(月) 18:04

ガラガラガラ……
今日の稽古場には先客がいた。

机に突っ伏して眠る新垣さん。その隣には、亀井さん。
すぐそこまで迫ってきた発表会の準備とその稽古で、最近は本当に休みがない。
部長の新垣さんは、多分誰よりも忙しい。疲れているんだろう。
きっと毎日睡眠もろくに取れなくて、目の下に酷いクマが出来ているのに、
後輩にまで気合いの籠もった指導をしてくれる、格好いい新垣さん。
そんな新垣さんのことを、衣梨奈は尊敬していたし、大好きだった。

亀井さんは、久しぶりに見た。
休部したのか退部したのか分からないけど、
全然稽古には顔を出さなかったし、当然発表会での配役もない。
それが、どうして今日はここにいるのかも分からない。
流石の衣梨奈も大学生のことはそんなに把握できていない。
亀井さんは新垣さんの隣に座って台本を捲っている。
その捲るスピードが信じられないほど速い。この人は絶対に読む気がないんだと思った。
こんなことなら、早く聖も連れてくれば良かった。
委員会なんて適当に終わらせて、早く来ちゃいなよ。聖の大好きな、亀井さんがいるよ。

89 :OATH :2011/11/14(月) 18:04

「こんにちはぁ〜」

静かに挨拶をして、2人の目の前を通り過ぎる。
細心の注意を払って足音を忍ばせながら、資料室まで辿り着く。
衣梨奈だって、人並みに空気は読める。
元々の性格は、馴染みの薄い年上の人に気安く話し掛けられる程、根っからの社交的な人間じゃない。
それに、衣梨奈だって、空気が読めるのだ。

資料室は、昨日と全く変わらない姿で衣梨奈を迎えた。
相変わらず窓のない埃まみれのその部屋は、なぜか昨日よりも居心地が良く感じた。
黄ばんだ台本も、開きっぱなしの会報も、埃を被った帽子も、
新垣さんが誇らしげに語った演劇部の輝かしい歴史も、
何ひとつ変わっていないのに、
心が、昨日よりも淋しいことを犇々と訴えていた。

90 :OATH :2011/11/14(月) 18:04

人類はほろびる。
これを書いた人の気持ちが、衣梨奈は少しだけ分かったような気がした。

91 :OATH :2011/11/14(月) 18:04

今日は昨日よりも気温が高い。
季節の変わり目のお天道様は気紛れだ。凍えるほど寒くなったり、暖かくなったり。
心なしか去年の今日よりも暖かい気がする。
今日も、地球温暖化は進行しているに違いない。
その原因は、二酸化炭素。
それを、衣梨奈は今こうしている間にも排出し続けている。
息を吐くのを堪えてみても、2分しか我慢していられなかった。

綿埃が溜まっている本棚の縁に沿ってツーッと指を走らせる。
指先に、灰色の埃が付いた。
この埃には、沢山のちっちゃな生物の死骸が入ってる。
多分、目に見えないくらいに、ちっちゃな生き物の。
それがこんなふうに少しずつ積もって、少しずつ少しずつ降り積もって。
何ヶ月も、何年も、人間の見えないところで塵重なり、塊を作っている。

この薄汚れた紙だって、いつかは大きな樹だったんだ。
この地球を緑に彩る、壮麗な森を構成する、ひとつだったのだ。

92 :OATH :2011/11/14(月) 18:05

ふぅ…
手をはたいて、溜息を吐く。
もうそろそろ、みんなが集まり出す頃かな。
新垣さんは、まだ寝てるかな。
そーっと扉を開けて外を覗くと、そこにはまだ眠っている新垣さんがいた。

93 :OATH :2011/11/14(月) 18:05

昏々と眠り続ける新垣さん。
亀井さんは、ジーッと横を向いて眠る新垣さんの顔を見詰めている。
聖が大好きな亀井さん。
いつでもどこでも可愛いって聖がうるさく言ってくる亀井さん。
衣梨奈から見える亀井さんの俯き気味の横顔は、すごく綺麗だった。
誰よりも近い距離にいるのに、切なそうに、少し困ったように眉を寄せて、
それでもその目は優しく細められていて、綺麗な茶色の髪を一筋、その頬にはらりと垂らして。
そっと新垣さんの頬に触れて、ゆっくりと、ゆっくりと、顔を近づける。
静寂のなか、その幽玄な行為は、厳かな誓いの儀式のようで…
その姿は、美しかった。

新垣さんは、まだ眠っている。
静かに顔を上げた亀井さんと目が合った。
亀井さんは、一瞬、バツが悪そうに目を泳がせたが、すぐにへらっと笑った。
多分、それは聖の大好きな亀井さんの笑顔だ。
それを見て、衣梨奈も笑った。
やっぱり、早く聖が来ればいいのに、と思った。

94 :OATH :2011/11/14(月) 18:05



95 :OATH :2011/11/14(月) 18:06

今日の部活は長かった。いよいよ発表会へ向けて大詰めだ。

「えりぽん、亀井さん可愛かったね〜。あのとき見た?
 田中さんに『三十路になったら焼き鳥を食べに行こう』って言った後の、髪をこうやる時の表情!
 あー、可愛かったあ。可愛いよね。ほんとーに何してても可愛い。」

聖は予想通り、亀井さんの来訪に興奮して、
普段よりも五割り増しくらいの勢いで亀井さんの魅力を熱弁している。
新垣さんは疲れているはずなのに、それを感じさせないくらいにパワフルで、
いつもと同じように、色々なことを教えてくれた。

部活後には、時々大学生が差し入れを買ってきてくれる。

「はーい、今日の差し入れはサンドイッチなの」
「ちょっとー、さゆみん、このじゃがりこなんなのよー」
「ガキさんが食べたいかなって思って。
 あ、りほりほの分はキムチだよ。好きなんだもんねー?」

96 :OATH :2011/11/14(月) 18:07

手元にあるサンドイッチをまじまじと見詰める。
生クリーム、いちご、パイン、チョコ。
衣梨奈の分は、いたって普通のフルーツサンドイッチだった。

このパンは、人間が機械で育てた小麦で作ってる。
このクリームは、酪農の牛から搾ってる。
このいちごだって、パインだって、カカオだって、ほんの少し前までは生きてたんだ。
それが、今は人間に食べられるためだけにこの手の中にある。

人類はほろびた方が良いのかもしれない。

そう思ったら途端に悲しくなって、泣きたいような気持ちになった。
やるせない想いは熱い涙となって零れた。ぽろぽろと、涙が溢れて止まらない。

97 :OATH :2011/11/14(月) 18:07

「はぁー?生田どーしたのー?」

新垣さんが、ピューンと寄ってきてくれた。嬉しい。
聖は気が付くと亀井さんばかり見ている。今だって、新垣さんの後ろにいる亀井さんに見蕩れてる。

衣梨奈は泣き虫だ。
人よりも感受性が強いことは否定できないし、感情が昂ぶるとすぐに涙が零れる。
でもね、いつでもちゃんと泣く理由があって、泣くんだよ。

「ううっ、あのぉ、人がっ、めっめ…滅亡した、ほうがぁ
 だって、ズッ、だって、いいことっ、なにも、ないしぃー、うぅ…」

必死で伝えようとしていたら、他の部員たちも集まってきた。
衣梨奈を中心に曖昧な輪ができる。

98 :OATH :2011/11/14(月) 18:08

熱い熱い涙と一緒に、温暖化の原因の二酸化炭素を排出し続けるこのカラダ。
衣梨奈を心配そうに見る香音ちゃんの手元にはとんかつが挟まったサンドイッチが見える。
それじゃあ、ただのカツサンドだよ。
その豚さんだって生きてたんだ。
でも香音ちゃんはもう半分以上食べていて、余計に泣きたくなった。

「全然分かんないよぉー」
新垣さんは困った顔でオロオロと動き回っている。

思ってることを伝えたいのに、込み上げる嗚咽が邪魔をして伝えられない。
人類はほろびた方がいいんだって思ってしまったこと。
100年後のことを思うとやるせない気持ちになること。
ほろびた方がいい人類が、なんだか悲しいんだってこと。
何ひとつ伝えられなかった。

99 :OATH :2011/11/14(月) 18:09

隣に座っていた聖がやっと衣梨奈を見た。遅いよ、ばか。
衣梨奈を囲む輪から少し離れたところに亀井さんがいる。
心配そうに見詰めるその表情は、部活前に見てしまったそれと似ている気がした。
でも、それは間違えなく似て非なるもの。
はっきりと異なる部分があることが、衣梨奈にはなんとなく分かっていた。
どうしてこんなに涙が止まらないんだろう。
どうしてえりはこんなに悲しいんだろう。
浮かび上がる疑問は何ひとつ解消されないまま、時間だけが過ぎ去る。

「大丈夫だよ、生田。だいじょーぶ。」

「えりぽん…」

新垣さんに、背中を撫ででもらっていたら、少しずつ落ち着いた。
聖も至極心配そうな目で衣梨奈を見ていた。
一息吐くと、どうしてさっきまであんなに泣いていたのかもう分からなかった。
輪のなかにいた人たちは、鼻を啜りながらもケロッとしている衣梨奈に、
「生田は相変わらずKYだ」とか好き勝手言って散っていった。
後輩の工藤遥が、冷めたような、呆れたような目で衣梨奈を見ている。
もう今後は、出来るだけ泣くのは我慢しようと心に誓った。

100 :OATH :2011/11/14(月) 18:10

「絵里には分かるよ、うん。
 いやー、絵里もねぇ、鳥インフルの時には色々考えた時期もありましたよー」

亀井さんは、顎に指を置きながら、うんうん、とひとりで頷いている。
亀井さん、衣梨奈はあなたなら分かってくれると信じてました…!
ガシッと手を取りあってふたりで頷き合う。
何かが伝わった気がした。
聖は、やっぱり見る目があるね。

「それじゃ生田、気をつけて帰るんだよ」
「はいっ!」

新垣さんは今日も格好良かった。
100年後の日本には、こんなに格好いい人がいるんだろうか。

101 :OATH :2011/11/14(月) 18:10


◇◇◇


102 :OATH :2011/11/14(月) 18:10

放課後、今日こそは一番だろうと思って稽古場の扉を開けると、いつか見たようなシルエット。
昨日、別の人が突っ伏して寝ていた全く同じところに、聖はいた。

衣梨奈は、隣の椅子に腰掛ける。亀井さんが座っていた場所だ。
この場所から、衣梨奈の方に顔を向けて眠る聖の寝顔を眺めてみる。
たった1年しか学年が違わないのに、妙に艶やかな雰囲気を持つ彼女。
すごく整った顔をしている。
面識ある人にも、衣梨奈の方が一方的に破天荒をしているように思われることが多いけど、
一緒にいると、意外と聖の方がぼーっとしている時が多い。
衣梨奈の話を聞いていないこともしばしば。
まあ、だからそこ衣梨奈と長い時間一緒にいられるのかもしれないけれど。

103 :OATH :2011/11/14(月) 18:11

「みずき…?」

瞼がぴくりと動いた気がするけど、まったく起きる気配がない。
深い眠りの森のなかを揺蕩う。
その姿は、そう、昨日の新垣さんのよう。
隣で暖かく見守る亀井さんに、
きっとあの無防備な寝顔をこんなふうに曝け出しながら。

104 :OATH :2011/11/14(月) 18:11

聖は、眠り続けている。
衣梨奈は、そっと手を伸ばす。聖を起こさないよう慎重に、慎重に。
ゆっくりとその頬を撫でる。
繊細に織り込まれた絹のように白くてふっくらとした肌。
口許は緩く弧を描いている。
幸せな夢を見ているのかな…
そして、惹き付けられるようにその距離を縮めていく。少しずつ、少しずつ。
近すぎる距離で聖の顔を見ることは、今まで何度かしたお泊まり会で慣れているはずなのに、
いつもと違う場所から見るその寝顔は、全然見たことがないような感じがする。
心臓がトクトクと早鐘を打つように脈打つのを感じる。
もう少しで触れる…聖の…
聖の大好きな、亀井さんが、新垣さんに、したように。

その刹那、罪悪感で胸の奥がちりっと痛むのを感じた。
近距離で聖を見詰めたまま、1ミリも動けなくなる。
相変わらず、聖は肩をゆっくりと上下させて眠り続けている。

105 :OATH :2011/11/14(月) 18:12

そのまま、頬に置いていた手を静かに離した。
聖はなにも気がつかない。
衣梨奈は大きく息を吐く。
スーーーー、ハーーーー。
このカラダは、やっぱり今日も二酸化炭素を排出する。

またなんだかやるせない気持ちになって、聖を見る。
未遂に終わった誓いの儀式は、衣梨奈の心を少しだけ晴らしてくれた。
聖は幸せそうな顔で眠り続けている。

いつか、その薄く開いた唇に触れたとき、人類はほろびればいいのに、と思った。

106 :OATH :2011/11/14(月) 18:12



107 :OATH :2011/11/14(月) 18:12

ガラガラガラ…
後ろで稽古場の扉が開かれる音がする。
きっといま振り返ったら、
極限までやつれてへろへろだけど、誰よりも格好いい人が立っているはずだ。

「新垣さんっ」

そろそろ、聖を起こさないといけない。
今日も、新垣さんは格好良かった。



108 :優胡麻 :2011/11/14(月) 18:14
>>79-107
「OATH」
109 :名無飼育さん :2011/11/15(火) 00:15
古いものから最新の小ネタまで凄いです
一貫したテンションがとても好きです
110 :名無飼育さん :2011/11/23(水) 16:36
ここのぽんぽんを読んでぽんぽんが気になるようになりました
あと、さりげないガキカメにドキドキ
111 :優胡麻 :2011/11/24(木) 01:24

>>109 名無飼育さん
温かいレスをありがとうございます
小ネタは、パッと思いついたら使っちゃう感じなのである意味ノリですねw
ちなみにアンケートは若かりし頃の後藤さんの回答なのです
いつかこのネタで書いてみたいと思っていたので個人的には満足しました
お気に召すテンションならば嬉しい限りです

>>110 名無飼育さん
嬉しいお言葉をありがとうございます
PONPONはですね、何はさておき、あのルックスがドストライクでございまして
えりぽんの美少女ゆえのイケメン度合いとフクちゃんのウェットな(w)色気が相俟って
2人で並んだ時に醸し出されるえも言はぬエロス!!!


では、ガキカメで一作更新致します
ちょうどのタイミングでレスを頂いたので驚きました
>>79-107「OATH」のガキカメsideです
112 :パラドクスの消失点 :2011/11/24(木) 01:25

散り始めている枯葉を踏みつけながら、
中庭を歩いていた。
あーあ、終わっちゃった。
絵里の学生生活。
楽しかったなぁ…

あとで、教授に挨拶しに行かなくちゃ。
それで本当におしまい。
この学校とはサヨウナラ。

113 :パラドクスの消失点 :2011/11/24(木) 01:25

昨日はさゆとれいなにお別れ会をしてもらって
たった3人だけなのに、
まるで夏祭りの雑踏の中にいるみたいなドンチャン騒ぎ。
「今日くらい絵里も呑むったい!」
なーんて。れいな、ほとんど呑めないクセに。

でも、楽しかったなぁ。
慣れないお酒ばっかり呑んで、
結局潰れてさゆに介抱してもらうくらいに無理しちゃって。
絵里のために明るく振る舞ってくれた。
れいなが時々鼻を啜ってたこと、
気付かないふりしてたけど、本当は気付いてた。
さゆだって、分かりやすく目を真っ赤にしちゃってさ。
最後まで3人で馬鹿みたいにはしゃいで
そうだな…、
中学生の時に戻ったみたいで、すごく楽しかった。

114 :パラドクスの消失点 :2011/11/24(木) 01:26

ただ無邪気に笑ってたあの頃から
絵里たちは少しずつ大人に近づいて。
段々と色々なことが分かっちゃうようになった。
例えば、さゆが時々切なげに目を伏せる回数が増えたこと。
たぶん、もう、気が付いている。
3人とも、ずっと今のままではいられない。
絶妙なバランスがゆっくりと、ゆっくりと、傾いてしまったこと。

今でも鮮明に甦るあの2人の馬鹿みたいな笑顔。
きっと、あと少しであっと驚く未来がやってくる。


115 :パラドクスの消失点 :2011/11/24(木) 01:26


くしゃり。
茶色い枯葉を踏みつけながらまた一歩進む。


116 :パラドクスの消失点 :2011/11/24(木) 01:27

カメ。
呟くように呼ぶ声が聞こえた気がして足を止めた。
まさか………
沸き立つような胸のざわめきを
必死で押さえつけて振り返る。

「カメ、来るの遅いからもう行ったかと思っちゃったじゃん。」

いま一番会いたくなかった人が、そこにいた。
ガキさん、どうしてその場所に立っているの?
覚えてるのは絵里だけかもしれない。
だけど、そこは…そこは……

117 :パラドクスの消失点 :2011/11/24(木) 01:27

「いやー、アタシだってなんか…さぁ、」

 カメと話したかったし。
 大体アンタ教室出んの早すぎでしょーが。
 確かに忙しいのかもしれないけどさぁ…

拗ねたように話す声。
ごめんね、ガキさん。絵里はこのまま帰るつもりでした。
お別れの挨拶なんて、真面目にしないほうが絵里らしい。
そのほうが、絵里とガキさんらしい、でしょ?

「なんで、こんな時までテキトーなのよ…」

ちょっと責めるように見てくるガキさん。
うへ、今日も、怒られちゃったかな。
いつものようにへらへらと笑ってみたけど、
絵里は少し困惑していた。
それでも、絵里はいつものように笑いながら言った。

118 :パラドクスの消失点 :2011/11/24(木) 01:28

「ガキさんなら来てくれると思ってましたよ。」

これは、嘘。
絶対に来ないと思ってた。
大切なこの場所。
絵里が何年間も、そっとココロの奥に閉じこめていた大切な宝物。
ガキさんが来るわけない、と思ってた。

「来てくれて、嬉しかった。」

これは、半分だけ本当。
でも、もう話すこともなく去ってしまいたかった。
このまま、静かに、出来ればガキさんに気付かれないうちに。
出て行くことにも、絵里の気持ちにも、なにも。

119 :パラドクスの消失点 :2011/11/24(木) 01:28


「楽しかったよねぇ。」
遠い日々を懐かしむような口調と、柔らかく緩められた口許。

やめよう、ガキさん。
思い出話なんて、淋しくなるだけ。
今だって、ほら。
もうこんなにも胸の奥が痛い。

ああ、昨日で終わらせたつもりだったのに…
部室で疲れ切って眠るガキさんにそっと触れた瞬間の、
突き刺す後悔と、確かな興奮、感動。
でも不思議と水面を漂うように穏やかな気持ちだった。
いつまでも消えない、柔らかい唇に触れた感覚。
ずっと燻り続けていた気持ちには、確かにサヨナラを告げたつもりだったのに。
こんな時でも、絵里はもう一度触れたいなんて思ってる。

他愛ない思い出を笑いながら話しているガキさんは、
たぶん、何も気付かない。


120 :パラドクスの消失点 :2011/11/24(木) 01:28

「そーいえば、発表会がそろそろあるんだよね〜」

絵里が辞めた演劇部。
その部長を務めるガキさん。
ガキさん格好良かったし、きっと大丈夫ですよ。
普段の情けない姿が嘘みたい、なんてね。
そう言ったらガキさんはまた「コラー!」なんて怒るだろうけど。
格好良かったですよ、本当に。
惚れ直しちゃいましたよ、なんてね。

絵里に似てるとか言われてたから知ってる、最近入部したらしい女の子。
よくガキさんの傍にいる後輩の子がたまに見せる大人びた視線。潤んだ瞳。
それに、気付かないガキさんと、気付いてしまった絵里。
絵里たちは、もう違う道に立っている。

121 :パラドクスの消失点 :2011/11/24(木) 01:28


ガキさんが寄りかかっているその場所、覚えてますか?
部室と校舎を繋ぐ渡り廊下の陰にひっそりあるこの校門。
一ヶ月だけしか使われなかった
秘密の待ち合わせ場所。
友達と恋人の境界線に悩んで、
一度はその温もりを手放したけれど。

絵里は22歳。十分年相応な大人の女性ですよ。
高校生とは違う。あの頃の絵里とは違う。
自分の気持ちくらい、もう分かる。

122 :パラドクスの消失点 :2011/11/24(木) 01:29

昨日、絵里の隣で安心しきって眠るガキさんを見た時。
こんこんと流れる湧き水のように日々込み上げてくる想いを
誤魔化して、慎重に、どうか壊さないように慎重に
築き上げた親友という立ち位置。
それを壊してしまおうかと思ってしまった。
ガキさんを見つめる憧憬の眼差しを目にした時、
誰にも渡したくないと思ってしまった。
深い眠りの森を彷徨い続けていたガキさんが
絵里のキスで目覚めてしまえばいい、と思ってしまった。
今でも、触れたくて堪らないその柔らかさ。

だから、ここに来て欲しくなかったのに。

123 :パラドクスの消失点 :2011/11/24(木) 01:29

「ここ、覚えてる?」

唐突に、ガキさんが言った。
懐かしそうに門を撫でる指先。柔らかく緩められた口許。

「…ガキさんは、覚えてるの?」
「ふふ、まぁね」

覚えてるよ、大事な場所だから。
もごもごとそう言って、
恥ずかしそうにさっと目を逸らした。
格好つけちゃって、そんなセリフ。全然、ガラじゃないくせに。
誤魔化しようがないほど朱く染まった頬。
キュッと結ばれた唇。
所在なげに弄んでいる指先。
テキトーと言われ続けてきた絵里の頭は、
都合の良いように解釈したがる。

ねぇ、ガキさん、期待しちゃうよ?


124 :パラドクスの消失点 :2011/11/24(木) 01:30


「あの頃は、まだ子供だったからねー」

色々よく分かんなかったし…。
そうですね、絵里も子供でした。
でも、でもね、ガキさん。

「今は、ちょっとは大人になったかなぁって思うんだ。」

絵里も、そう思います。
だから、もう分かってる。

125 :パラドクスの消失点 :2011/11/24(木) 01:30

「それで、今日は話したいことがあってここに来たんだけど。」
「…………ガキさん」
「カメとは、」

 カメとは、もう同じ場所には立てないかもしれないけど、
 今までとは違う関係で、隣に立ちたいなって。

茹でダコみたいに真っ赤になった首筋。
小さな声で呟くように言われた、新しい未来を作るその言葉。
信じられないようなことが起きて、思考停止した絵里を見つめる
今にも想いが零れ落ちそうな瞳。
そして、夢にまで見ていた言葉を、囁かれた。

「アタシたち、また、やり直せないかな。」

126 :パラドクスの消失点 :2011/11/24(木) 01:30

気が付いたら、いつもよりも小さく
頼りなさげに見えるそのカラダに腕を伸ばしていた。
これ以上ないくらい早鐘を打つ心臓。
うおっなんて、ガキさん色気ないですね。
腕の中にガキさんを閉じこめて、ぎゅーぎゅー抱きしめた。
「うっさい、アホカメ。」
ポツリと放たれた言葉は、キャラメルよりも甘く蕩ける。
どうして昨日、あんなに恬淡でいられたのかが分からない。
体中の血が沸騰してるみたいに熱い。
目の前にあるガキさんの耳も真っ赤に染まっている。

ガキさん…
そっと、頬に手を添えて唇に触れた。昨日のように。
驚くほど柔らかで不思議と甘い。
超近距離でガキさんの目の奥を覗くと、見たことのない澄んだ色。
もっと奥には、揺らぐ絵里の姿が見えた。

127 :パラドクスの消失点 :2011/11/24(木) 01:31

この腕の中にいることを確かめるように抱きしめる。
何度も、何度も。

ああ、どうしよ…、
やば…、ちょっと絵里、ガキさん好きすぎる……。

時々泣き虫なガキさんが
鼻を啜る音が聞こえるけど何も言わない。
絵里も同じはずだから。
滲む視界をゴシゴシと拭って、
見える風景をココロに刻み込む。

128 :パラドクスの消失点 :2011/11/24(木) 01:31

「ちょっと、カメ、苦しい。」
「知ってますよ、カメは年相応ですから。」
「はぁー?アンタそれおかしいって。」
「それくらい分かりますって〜」
「もぅ…」

くぐもった声で会話をする絵里たちは、
いま確かに新しい道に立っている。
やっと掴んだ温もりをもう離したくはない。
ココロが震えるほど愛しいこのヒト、
これからも絵里が隣を歩きたい。

かさり、と散った木の葉が音を立てる。
教授への挨拶は明日行こう。
終わらせるのは、今じゃなくていい。
129 :パラドクスの消失点 :2011/11/24(木) 01:31



130 :パラドクスの消失点 :2011/11/24(木) 01:31



131 :優胡麻 :2011/11/24(木) 01:33
>>112-128
「パラドクスの消失点」
132 :名無飼育さん :2011/11/25(金) 22:05
また色が違う話ですね…
好物のガキカメにびっくりしつつドキドキしつつにやにやしてます
133 :名無飼育さん :2012/02/16(木) 23:05
ガキカメいいなぁ。
ここの世界観大好きっす。

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