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臆病者の衝突

1 :名無飼育さん :2007/05/19(土) 22:44
某バンドの曲に触発されて何本か短編を
更新は遅いですがよろしければ是非
64 :白くて背の高い :2007/10/07(日) 03:22
 道重さゆみは白くて背の高い女の子だった。
 れいなには友人がいなかった。いや、以前はいた。むしろ友人は多い方だった。
その程度の社交性はれいなにもあったし、現在でも保持している筈だ。だから今、
れいなに友人がいないのは本人のせいではない。ただ変わったのだ。れいな自身で
はなく、彼女を取り巻く環境の方が。変わったのは去年のことだ。
 父親が殺人事件を起こした。
 相手は部下だった女性。不倫相手らしい。動機は相手側による脅迫に追い詰めら
れた結果、というのが父自身の供述と警察の裏付け捜査から明らかになっている。
現在も公判中で、相手側の違法行為が背景にあるので死刑にこそならないが実刑は
免れないだろうと弁護士は見立てていた。
 元を正せば父の不倫が事件の発端にある。当然マスコミが食いつき、知る権利を
掲げたハイエナはれいなの身辺にも押し寄せた。近隣や学校からの苦情に応対した
のはすべて母だ。母が父と離婚し、れいなを連れて他所の町へと引っ越すまでにそ
う長い時間はかからなかった。
 新しい土地でも報道の余波は健在だった。れいなは「殺人犯の娘」というレッテ
ルを背負い、その上にクラスメイトとは名ばかりの他人の中傷がのしかかる。新し
い学校でれいなが孤立するのにもたいした時間は要さなかった。
65 :白くて背の高い :2007/10/07(日) 03:22
「お昼、一緒に食べよ」
 さゆみはそんな中で唯一、れいなに話かけてきた物好きだった。
「なんアンタ、同情?」
 悪意と皮肉を籠めて凄んだれいなに、さゆみは薄く微笑んでやんわりと首を振っ
た。その微笑みに見惚れた瞬間のことを今でもよく覚えている。
「違うの。さゆみはれいなちゃんに、すごく興味があるだけなの」
 さゆみもクラスで孤立していた。ただ彼女の場合、彼女自身の性分にその原因が
あった。そのことは一緒に昼食を摂るようになったその日に理解した。
「さゆみは魔女なの。だから神秘的なものとか、珍しいものには貪欲なの」
 開口一番がこれだ。突拍子もない。思わずれいなは目を見開き、吹き出してしま
った。しばらく忘れていた笑うという行為を、忘れていた分を取り返すかのように
笑い転げた。笑いすぎて涙が出た。涙はしばらく止まってくれなかった。
 道重さゆみは白くて背の高い女の子だった。
 れいなにとってかけがえのない存在になった。
 生きる意味を、自分の価値を、夢や希望を忘れたれいなに、それをもう一度与え
てくれた。
 唯一無二の親友だった。
 絶対に失いたくないと思った。
66 :白くて背の高い :2007/10/07(日) 03:23


  *  *  *


 さゆみが笑っている。
 白い花に囲まれて笑っている。
 白と黒の写真の中で、笑っている。


  *  *  *


 道重さゆみの葬儀はつつがなく終了した。
 喪服姿の参列者たちに混じって、れいなは虚ろげな足取りで帰路についた。ついた
つもりが、足は勝手にさゆみの事故現場へと向かっていた。
 やや勾配の急な坂下にある踏切である。目撃者の話では遮断機の下りた踏切の内側
に飛び出した猫を外へと放り投げて、自分はそのまま……だったそうだ。
 警報機の真下に供えられた白い花束を見つめ、れいなは口元だけで笑みを作った。
「アホっちゃろ。そんなベタな死に方、今時ドラマでも見ん」
67 :白くて背の高い :2007/10/07(日) 03:23
 警報機が鳴る。赤い両目が点滅する。遮断機が下りる。轟音が耳のそばを通り過ぎ
ていく。警報が止む。遮断機が上がる。なにげなく目を向けると、線路を挟んだ向か
い側に、白くて背の高い女の子が佇んでいる。
「『ベタ』っていうのは傷つくの。『普通』とか『平凡』とかって言葉は、さゆみに
 とって最大級のブジョクなの」
 れいなは目を見張った。
「……さ、ゆ………?」
「うん。そういう『この世のモノとは思えない』って反応は可愛くて好きなの」
 現実に、この世のモノではなさそうだった。その白くて背の高い女の子。れいなの
見知った道重さゆみにはくるぶしから先がなかった。膝の辺りから色が透けて、背後
にある坂の斜面が覗いている。
 さゆみは地縛霊になっていた。
68 :白くて背の高い :2007/10/07(日) 03:24
 その日かられいなの日課が決まった。
 学校へ行き、授業を受け、一人で昼食を摂り、午後の授業の後で踏切へ向かう。さ
ゆみは踏切から数メートルも離れることができない。毎日れいなが通い、日が暮れる
まで色々な話をして過ごした。人目を気にして何度も通行人の振りをした。
 いつ消えるとも知れないさゆみの存在に怯えながらも、二人の時間は楽しかった。
69 :白くて背の高い :2007/10/07(日) 03:25
 この日は朝から雨が降っていた。
 れいなの日課は天候に左右されたりしない。さゆみを目指して水たまりを蹴りなが
ら踏切へと急ぐ。学校で良いことがあった。友達が出来た。風聞が薄れたのと、さゆ
みを失ったことに対する同情も含まれてはいるだろう。だがそれでも良かった。もし
もさゆみがこの世に留まり続けている理由にれいなを残していく未練があるのなら、
これでさゆみも安心できるはずだ。さゆみと別れたくはない。それでもこのままあん
な場所にさゆみを独りにしておくのは嫌だった。それにもう、れいなはさゆみに二度
も助けて貰った。枯れかけた心を救って貰った。十分にしてもらえたと思えるくらい
には、れいなも強くなれた。
 そのことをさゆみに早く、伝えたい。
 れいなは走った。踏切が視界の先に見え始める。
 踏切の方から男性がひとり近づいてくるのが見えた。黒いレインコートの隙間から
白髪の多い頭が覗いている。
 目が合った。落雷が轟く。
 れいなは走り続けた。
 すれ違う瞬間、レインコートの男はれいなに倒れこんで来た。
 鈍い音を聞く。水の張った路面に転げる。
 男が何かを呟いている。
「アイツの…お前の親父のせいだ……俺の娘を…貴様も同……苦しみを――」
 男はまだ何事か唱えている。だが声までは聞き取れない。
70 :白くて背の高い :2007/10/07(日) 03:25
 れいなは立ち上がるために地面に腕をつく。ついたが、ずるりと掌が滑ってもう一
度転げてしまう。雨が冷たい。腹部だけが嫌に熱い。
 男が叫んでいる。声は聞こえない。男の手には刃物が握られている。刃先を覆う赤
黒い泥のようなものが雨に洗われていく。
 同じ色の泥がれいなの周囲に広がっていく。
 雨音が聞こえない。
 視界が暗い。
 自分の輪郭がわからない。
 わずかに残っていた地面の感触が薄れていく。
 消えていく。
 消えていく。
 途切れていく。
 さゆみに伝えることがまだ。
 れいなは吠えた。
 言葉にならない何かを、さゆみに届けと、最期に吠えた。
71 :白くて背の高い :2007/10/07(日) 03:26

 白くて背の高い女の子が、目の前に立っている。
 女の子は泣きそうな顔で笑った。
 綺麗だと思った。
 女の子の差し出す手を、れいなは強く握った。
 世界は最期に白々と濁り、終焉を迎えた。
 次に芽を出すいつの日かを目指すための、束の間の終焉を。


【END】
72 :名無飼育さん :2007/10/07(日) 03:32
皆様レスありがとうございます(平伏

>>61 名無飼育さん 様
このような作品に嬉しいご感想、恐縮かつありがたいです・゜・(ノД`)・゜・

>>62 名無飼育さん 様
ありがとうございますっ
某バンドの曲は構想の取っ掛かりというか切っ掛け程度の使い方をしてるので
下手したら知っていても気づかないやも(汗

>>63 名無飼育さん 様
光栄ですありがとうございます・゚・(ノ∀`)・゚・。
次回作こんなものになってしまいましたが大丈夫でしょうか不安です…
73 :名無飼育さん :2007/10/08(月) 01:28
今回は悲しいけれどけど良い話ですね
74 :天象儀 :2008/01/03(木) 19:41
カーテンを閉め切った室内は、ただ静謐な闇に満たされている。
暗闇にあって、しかし光源が存在しないわけではない。
部屋の中央、フローリングの床の上にはひとつの機材が据えられ、無数の光の糸を
吐き出し続けている。
機材はゆるやかに自転し、天井や壁に映す星々を動かしている。
ニセモノの星空の下、室内にはそれを見つめる少女が一人。
機材の横に腰をおろし、お世辞にも上手いとは評し難い調子外れのメロディーを口
ずさんでいる。

――手作りプラネタリウム

少女は歌う。
ツクリモノの夜空に、歌う。
75 :天象儀 :2008/01/03(木) 19:42


  *  *  *


元来、独占欲の強い性格ではあったのだと思う。
姉と共有の持ち物が嫌いだった。
他人に自身の所有物を貸すのが我慢ならなかった。
学校で飼っていたウサギがみんなのものである、という事実が気に喰わなくて、夜
中にこっそり自宅へ持ち帰ってしまったこともある。
それでも、自分が異常で異質な人間であるとまでは思わなかった。

そんな彼女、道重さゆみには想い人がいた。
田中れいな。
同じ高校に通う、同級の徒。
相手が同性であっても、それは焼けつくような恋であると自覚していた。
打ち明けて壊れるのを畏れて、何年も秘め続けた。
秘め続け、保ち続けた関係は、最近になって不意に崩壊を始める。
れいなに恋人ができた。
相手がどこの誰なのか。
どういった性格でどんな容姿をしているのか。
同性なの異性なのか。
それすらもさゆみにはどうでも良かった。
れいなは一方的にそれらの情報を伝えていたのかもしれないが、さゆみの側はそれ
を一切記憶していない。
愉しそうに話すれいなの横顔を見つめながら、さゆみの中には途轍もない速さであ
る算段が築き上げられていた。
彼女の意識を占めるのはただひとつ、田中れいなを、"自分のモノ"をどこかの誰か
に掠め盗られたという事実のみ。

計画と準備には一週間も要さなかった。
一抹の躊躇もなく、道重さゆみは刃物を手にした。


  *  *  *

76 :天象儀 :2008/01/03(木) 19:42
カーテンを閉め切った室内は、ただ静謐な闇に満たされている。
暗闇にあって、しかし光源が存在しないわけではない。
部屋の中央、フローリングの床の上にはひとつの機材が据えられ、無数の光の糸を
吐き出し続けている。
機材はゆるやかに自転し、天井や壁に映す星々を動かしている。
ニセモノの星空の下、室内にはそれを見つめる少女が一人。
機材の横に腰をおろし、お世辞にも上手いとは評し難い調子外れのメロディーを口
ずさんでいる。

――いつだって見付けるよ 君の場所は
――僕しか知らない

少女は歌う。
ツクリモノの夜空に、歌う。


【END】
77 :名無飼育さん :2008/01/03(木) 19:46
念のため改めて言っておきますが某バンドの曲は構想の起点にしてるだけ
なのでストーリーとはほんとなんっの関係もございません
今回は超短くしてみました
ていうかあけましておめでとうございます

>>73 名無飼育さん 様
ありがとうございます
せっかくそうおっしゃっていただけたのに今回はまたこんなんで申し訳ない…orz
78 :名無飼育さん :2008/01/04(金) 02:01
明けましておめでとうございます
作者さんのダークな世界観好きですよ

79 :硝子の業 :2008/02/05(火) 02:36
小気味良い音を立て、硝子玉が弾けた。
絵里の指先が飛ばした玉は里沙のそれを陣地から弾き出す。
目論見通り、代わって絵里の持ち玉が陣地を占拠した。
弾き出された硝子玉は勢いそのまま机を飛び出し、
古びた木の床をするすると転がっていく。

「あ。また負けた」

取り立てて残念そうでもない声で里沙が呟く。
気の遠くなるほど長い時間繰り返したこのゲーム、
絵里の方も自分が勝てなかった記憶は数えるほどしかない。

「ガキさん、下手すぎでしょ」
「んー。なかなか思うようにいかなくて」
「まだがんばってんの? 例の挑戦」

小馬鹿にしたつもりで笑い飛ばしたのに、
里沙は腹を立てるでも悲しむでもなく「うん」とだけ神妙に肯いた。

新垣里沙はひどく純粋な人間だった。
"とても"でも"すごく"でもない。
"ひどく"だ。
当てる字は酷くでも非道くでも構わない。
ただ、有り体な強調での形容は彼女の純粋さを語る上で生やさしすぎると、絵里は思う。
度し難いほどの純粋さ。
その無神経なまでの真っ直ぐさが絵里は心底嫌いだったし、しかし親しみを抱いてもいた。
80 :硝子の業 :2008/02/05(火) 02:37
「そっちの戦況はどう?」
「相変わらずみたい。カメのとこは?」
「似たようなもんかな」

夕食後、館内を見回りながらいつも通りの情報交換。
館内外の敷地内には今日も異常は一切見当たらず、
仮初の平穏が夜のしじまに乗って一日の終わりを告げに来る。
仮初。そう、仮初だ。
この平穏は喧噪から離れた国境に位置するこの図書館だけの、ごくごく例外的な仮初のものだ。
現在、絵里の国は戦時下にある。
否、今現在この地上のどこを探しても、戦時下にない国家など存在しない。
そもそも、かつてこの星のどこかに本質的な意味での平時というものが
一度でも実在したのかどうか、それすら疑わしいものだった。
閑話休題。
現在はどこの国も戦争中だ。
無論、絵里の国とは隣り合わせにある里沙の母国も同様である。
大陸の北東、極寒の山脈を背にした位置にその二つの小国はあった。
それぞれの国の兵士である二人が暢気にゲームに興じて日々を浪費していられるのはなにも
隣国同士仲が良いからではなく、どちらも逆隣の国との戦闘で手いっぱいなだけである。
一部自称有識者の思いつきで建てられたこの荒野の国境図書館も、
そんなハリボテの不戦協定の象徴でしかなかった。
一応は両国の知的財産保護と、国境にそれを建てることによる両国間の不戦の証明を目的とした
ものらしいが、いざ戦争となれば国境上空を戦闘機がビュンビュン飛び交うのだから如何ほどの意味があるのだか。
81 :硝子の業 :2008/02/05(火) 02:37
かくて亀井絵里と新垣里沙の二人は国境警備と図書館管理の任を帯び、
奇怪な共同生活をもう半年以上続けているのだった。
似たような状況を謡った童謡があったなと絵里はふと思い出す。
確かあれの舞台はさまざまな花の咲く土地の国境だったか。
対してこちらは雑草すら生えぬ毒の大地だが。
何世紀か前の大戦におけるNBC兵器の濫用で世界中の土壌がこんな具合だ。
結果、限りある資源は更に限られ、その奪い合いのため戦火はますます拡大した。
それを愚かだとは絵里は思わない。
少なくともその当時の人間は必死だったのだ。
その行為がどんな結果を招くか、それを予測して止まれるほどの余裕があったとも思えない。
そんな彼らを、彼らの行いを愚鈍と笑うのは、それこそが愚鈍だと絵里は思う。
自分たちはそんな業の上に生きている。
その業を嘲笑うなら、それは自身の生存を侮蔑するのと差異がない。

「戦争なんてやめちゃえばいいのになぁ」

だから、絵里は新垣里沙を愚鈍だと思う。

「またそれ? やめれるんならみんなやめてるって言ってるでしょ」

いつも通りの絵里の反論に、里沙は不服を唱えるでもなく曖昧に言葉を濁す。
新垣里沙は反戦主義者だ。
そのことはここへの赴任と同日に悟った。
絵里にはその思想が面白くない。
平和を願う気持ちなら絵里とて持っている。
だがその願いを現実への希望として持ち続けるには、現状はあまりに峻厳だった。
反戦主義。
そんなものが無意味どころか害悪でしかないのは、既に歴史が証明している。
82 :硝子の業 :2008/02/05(火) 02:38
昔、ひとつの国があった。
半世紀もの長きに渡り戦火から遠ざかったその国内では、反戦主義が盛り上がったという。
憲法で軍事力を否定し、その否定の結果が今の平和だと国民は盲信していた。
過熱した反戦主義は国内から警察力以外のすべての武力を廃絶し、
狂ったように世界平和を叫び続けた。
直後、その国は滅んだ。
丸腰になった瞬間、隣り合う餓えた国々によって徹底的に蹂躙された。
男は殺され、女は犯され、子どもは文字通りの意味で喰い殺された。
大国の軍需産業を批判し、国防の生命線でもあったその大国の兵力を国内から追い出し、
あまつさえ自国の防衛戦力までもを否定した結果がそれだった。
それが反戦主義の全てだ。
蓋を開けてみれば反戦主義を主導したのが後に攻め入ってきた
隣国の工作組織であったことなど、もはや笑い話でしかない。
83 :硝子の業 :2008/02/05(火) 02:38
「んー。やっぱ難しいなあ」

今日もまた、新垣里沙はゲームの趣旨を無視した飽くなき挑戦に従事している。
そろそろと指先で硝子玉をつつき、
陣地にある絵里の手玉と触れないよう陣地の隙間に滑り込ませようとする。
無茶な話だ。
そもそもがひとつ分しかスペースのない陣地に、二つの硝子玉は入りようがない。
共存の猶予はない。
なら、どちらかが脱落するまで衝突を続けるのみ。
シンプルで判りやすいルールだ。
なぜ自分たちの先祖はその程度のルールを理解できなかったのか、絵里は常々疑問に思う。

そんな先祖を、自らのルーツを愚鈍と笑う絵里と、
繰り返された業を愚鈍と笑う里沙。
より愚かなのはどちらなのだろうかと、絵里は思った。
84 :硝子の業 :2008/02/05(火) 02:38
「今朝、国から電話があったよ」絵里が言った。
「うん。うちもあった」里沙が返した。

里沙は繰り返し硝子玉を弾き続ける。
絵里はもうゲームを止めてそれを見ている。

「戦争、終わったみたいだね」と絵里。
「そんで、また始まるんだってね」と里沙。

絵里は拳銃を取り出した。
里沙も拳銃を取り出した。
絵里は銃口をこめかみに押し当てた。自分の。
里沙は銃口をこめかみに押し当てた。相手の。

二人は同時に引き金を絞った。


【END】
85 :名無飼育さん :2008/02/05(火) 02:44
んー。いまいちどころかいまに。
反反戦主義みたいな文章になってしまいました。
しかもあんまドラマがねえ。
ラストの理由はご想像にお任せという感じで。

>>78 名無飼育さん 様
明けましておめでとうございます
そう言っていただけると光栄の極みです。ありがとうございます
……とか言いつつまた期待を裏切るような内容になってしまって申し訳orz
86 :名無飼育さん :2008/02/06(水) 01:17
こっ!!このラストは難しい!?
87 :名無飼育さん :2008/04/30(水) 01:54
うーん、難しいですねぇラスト。
逆だったら普通に分かるんだけど…。
88 :名無飼育さん :2008/06/01(日) 04:40
待ってます
89 :名無飼育さん :2008/07/04(金) 22:41
なんとなく分かる気がします
集団にどうして欲しいかと自分個人がどうするかという違いも関わってきそうです
確かに、>>82だけでなく二人の対比にも反反戦を感じますね
逆に、思考の上で勝つものが実際の勝ちを得るわけじゃないという皮肉もあるのかな
90 :君のいない道 :2008/08/30(土) 23:25
 新垣里沙は雨の道を歩く。この夏も盆を過ぎ、少しずつではあるが気温も下
降傾向にあった。そのまま大気の温度は下降を続け、数ヵ月後には冬がやって
来るのだろう。季節は巡り、やがて雪が降る。
 じっとりと温く湿った空気の中、降り注ぐ雨に打たれながら、里沙はあの遠
い季節に想いを馳せていた。
 まだ茹だるような暑さが過ぎ去ったわけでもないのに、あの季節の雪道を想
うのはひどく不釣合いだなあと、ぼんやり思う。

「あーもぉ、最悪ぅー」

 傍らから泣き言が聞こえてきて目を向けると、隣を歩く亀井絵里が、ずぶ濡
れになった足元を見て溜息を吐いている。

「これだから夏ってヤダ」

 春には舞い散る花粉の多さに、秋なら漂う哀愁に、彼女はいつも似たような
愚痴を零していたはずだ。
 旧友の相変わらずの現金さに苦笑を漏らしつつ、里沙もしかし、その意見に
は賛成だった。

「そうだね。私も、夏が嫌い」
「そうなの? じゃあさ、ちなみにガキさんの好きな季節ってどれ?」
「冬」

 即答だった。あまりにも毅然とした里沙の口調に、亀井がキョトンと目を丸
めている。
 取り繕うように言い添えた。
91 :君のいない道 :2008/08/30(土) 23:25
「ほ、ほら、雪が綺麗じゃん。寒いのは我慢できる方だし、街中が真っ白にな
るのってなんかよくない?」

 本当は、別に冬が好きな理由があった。
 それは或るひとつの、想い出に起因する。

「じゃあさ」

 不意の声に、回想から引き戻される。見ると、隣の亀井がなにやら悪戯を思い
ついたような笑みを浮かべている。

「ガキさんが夏を好きになれるように、なんかしようよ」

 夏は嫌いだ。暑いし、蒸す。
 そして何より――あの人を里沙から奪って行った季節だから。

「とりあえず走ろっか!」
「え、ちょ。カメ、あんたさっきは夏イヤだって――」

 不平を言う遑も与えず、亀井は里沙の手を引き歩み出した。歩幅はぐんぐんと
広くなり、やがては駆け出す体になる。傘が揺れ、その庇護からはみ出した服の
肩が冷えた雨粒に滲んでいく。
 亀井の突拍子もない行動にはしかし、里沙も慣れていた。だから文句を並べつ
つも、振り切ることはせず為されるがままになっていた。特に目的地があって駆
け出したわけでもないだろう。直に疲れて歩みを止めるに決まっているのだ。
 それはお定まりの、いつもと変わらぬ平穏な日常。

―― その、筈だった。

 里沙の視界、引きずられるように駆けていく先ににひとつの公園が飛び込んで
きた。亀井は真っ直ぐにその入口を目指している。
 あの時の公園だ。
 脳裏にそれがよぎった時には、亀井の腕を強引に振り払っている自分に気づいた。
92 :君のいない道 :2008/08/30(土) 23:26
「……え、ガキさん?」

 戸惑うような亀井の口調。
 亀井に掴まれていた手首がじんわりと痛む。それほど強く掴まれていたわけでは
ない。なら、それだけ自分が唐突に、あまりにも強引に振り解いたのだということ。

「…ご、めん。ちょっと用事。先、帰ってて」

 取り繕いもそれが精一杯だった。ろくに亀井の顔を見ることもなく、里沙は身を
翻して来た道を駆けた。いつもと変わらぬ平穏な日常。そこに突如として飛び込ん
で来た自身の異常。誰よりも戸惑っているのは里沙だった。

  *  *

 もう何年前になるのだろうか。里沙には憧れている人がいた。
 安倍なつみ。いわゆる「近所のお姉さん」で、里沙は幼い頃からよく遊んでもらっ
ていた。なつみはSLE、全身性エリテマトーデスという病を患っていた。自己免疫疾
患の一種で、重症化すれば腎機能、心肺機能の低下等を併発する。当然命にかかわる
こともあり、そのうえ発病原因も治療方法も確定しておらず、生涯に渡る闘病生活と
社会復帰の困難さから難病に指定されている疾患だ。
 紫外線刺激によって重症化することがあるから、主に室内でしか里沙と遊ぶことも
できなかった。
 そんな難病に侵されながら、それでもなつみはよく笑う人だった。
 あの笑顔が大好きだった。その仕草も、すべてが里沙は大好きだった。

 一度だけ、なつみと外で遊んだことがある。
 夜。雪の降りしきる公園を、二人で歩いた。雪は降り始めたばかりで、まだうっす
らと雪の積もった公園の道には誰の足跡も刻まれていなかった。
 その上を、二人で足跡の平行線を刻み、他愛のない話をしながら歩いた。
 ただそれだけの、朧げな、けれど確かな記憶。それ以来、里沙は冬と、雪が大好き
になった。
93 :君のいない道 :2008/08/30(土) 23:26

――**

 なつみは三年前に亡くなった。それは里沙にとってあまりにも唐突な離別だった。
 彼女は何を思ったのだろう。夏の日。暑い、そして熱い陽だまりの下に、彼女は突
然その身を投げ出した。容赦ない紫外線はみるみる内に彼女の肌を灼き、その全身を
蝕んでいった。難病は慈悲もなく容態を悪化させ、結果、彼女は絶命した。
 それは自殺と呼んで遜色ない行為だった。遺書もなく、誰に言伝を残すでもなく逝
ってしまった彼女は、灼熱の業火に身を投げて、死んだ。
 彼女は、安倍なつみは、本当に何を思ってそんな行為に出たのだろう。
 あの笑顔の下に、一体どんな泥濘を隠していたのだろう。
 里沙の疑問は増えるばかりで、誰一人その問いに答えられる者もなかった。唯一答
えられたかもしれない彼女は、突然の衝動か、あるいは胸の内に抱えていた想いごと
消えてしまった。
 後に残ったのは、もう二度とあの笑顔を見ることは出来ないのだという、里沙にと
って残酷で峻厳な現実だけだった。
 それ以来、里沙は夏と、じりじりと灼けつく太陽が大嫌いになった。

  *  *

 雨はまだ降り続いている。むしろその雨脚は増していた。
 走り続けた両脚が重い。乳酸の充満した筋肉が悲鳴を上げている。里沙は立ち止ま
り、なつみの死という事実が自分の奥底に未だ重く沈んでいることを知った。
 亀井が向かった公園は、あの日なつみと歩いた公園だった。同時に、なつみが無残
な姿で発見された現場でもある。
 禁忌のようなモノだ。何度でも足を踏み入れたい想い出の土地でありながら、同時
に二度と目にしたくない忌むべき場所でもある。なつみの家族があれからすぐ他所の
地へと越していったのも、そんな場所から一刻も早く遠ざかりたかったからだろう。
 里沙にとってもそうだった。里沙は今、大学の二年。就職は決めあぐねている。ど
こか他所の土地へ移りたい。けれど、想い出のあの場所を残して行きたくはない。
 相克し矛盾する想いが、里沙の中で打ち消し合っている。
94 :君のいない道 :2008/08/30(土) 23:27
「ガキさん」

 ふと呼ばれ、顔を上げると目の前に亀井が佇んでいた。それでようやく自身が俯い
ていたことを知る。思いのほか心理的ショックが大きかったのだなと、他人事のよう
に思った。

「あーほら、ずぶ濡れだよ」

 走って追って来たのだろうか。差し出された亀井のハンカチも十分にずぶ濡れてい
る。それでも構わず、亀井は里沙の顔を乱暴に拭った。拭われたのが雨なのか涙なの
か、それすらもう里沙には判別できなかった。

「話してみる気とか、ある?」

 コンビニの庇で雨宿りをしながら数分。落ち着いた頃になって亀井がそう切り出し
た。何についてなのかなどと、問い質す必要はないだろう。

「前から気になってはいたんだけどさ。ガキさんってほら、なんか一歩引いてるって
いうか、そんな感じあったから」
「……そうなの?」
「そうだよ」

 なつみの影響はそんな所にも出ていたのかと、里沙は我が事ながら俄かに驚く。た
ぶん知ってしまったからだろう。親しんでいた何かが、唐突に消えてしまうその影響
を。

「昔、大好きだった近所のお姉さんがいてさ」

 ポツリ、ポツリと。やや弱まってきた雨脚に合わせて、里沙はなつみについて語っ
た。誰かに語るのは初めてだった。ぎこちない、我ながら要領を得ない説明に、絵里
は黙って相槌を打っている。
95 :君のいない道 :2008/08/30(土) 23:28
 雨脚がまた強くなる。一度喋り出すと止まらなかった。堰を切ったように、抑えて
いた何かを絵里に向けて吐き出した。
 何故なつみは死んでしまったのか。何故誰にも、自分にも相談してくれなかったの
か。どうしてなつみが死ななければならないのか。周囲のみんながなつみを忘れてし
まったような振りをしていられるのは何故なのか。何故。何故。何故。何故。
 里沙の心情に同調したかのように、雨もまたその勢いを強くしていた。
 里沙が落ち着きを取り戻した頃、雨もやはり落ち着いた小降りに戻っていた。

「あの公園、もっかい行ってみよ?」

 すべてを話し終えた後、絵里はそう提案した。あの話の後でどうしてそんな案が出
てくるのか、里沙は半ば呆れ、けれどしっかりと同意していた。

 公園が近づくにつれ、鼓動が速く脈打つようになった。「大丈夫?」「やっぱりや
めとく?」気遣わしげな絵里の声を懸命に拒み、なんとか辿り着くことができた。
 数年ぶりに訪れた公園は、やはりと言うべきか雪の日とはずいぶん印象が違った。
 なつみと歩いた道を、今日は絵里と、水溜りに足跡の平行線を刻み、歩く。
 複雑な気分だった。あまりに複雑すぎて、里沙にはいま自分がどんな気分でここを
歩いているのか、理解できなかった。

「ガキさんの疑問だけど、ひとつだけなら答えられるかも」

 道の中央に立ち、絵里はまた唐突にそんなことを言った。

「知っての通りわたしって適当だから、ひょっとしたら怒られるかもしれないけど」

 珍しく自信なさげな彼女を、里沙は沈黙で促した。
96 :君のいない道 :2008/08/30(土) 23:28
「なつみさんはさ、夏が好きだったんじゃないかな」

 己が身を焼き尽くす夏の陽射し。なつみがそれに焦がれていた。確かに、合点のい
く説明かもしれない。彼女は自殺したがったわけではなかったのだ。ただ、普通に、
ごくごく普通に、あまりに天気が良いから、外の空気を吸いたくなっただけなのだ。
 けれどなつみの身体は普通とは違ったから、死んだ。
 遺族にはとうてい聞かせられない推論だ。けれど里沙は遺族ではないからか、なぜ
だか絵里のそんな妄言をすんなり受け入れることができてしまった。
 そうか、なつみはただ、夏の空気が好きだっただけなんだ。

「そうなのかも、しれないね」
 
 雲が途切れ、夏の強い陽射しが隙間から射し込んだ。目を細めて顔を上げると、太
陽が恨めしいほど燦々と照りつけている。
 その太陽が、なぜだかなつみの笑顔に重なった。
 似ている。そう思うと、少しだけ、里沙は夏が好きになれた気がした。

fin.
97 :名無飼育さん :2008/08/30(土) 23:36
なんか最近ジメジメしてるし爽やかっぽいのを書こう!
と思って筆を執ったは良いものの、
鬱なんだか切ないんだかよく判らないものが出来上がってしまいました。

>>86 名無飼育さん 様
やっぱ難しいですよねー。当然っちゃ当然なんですが。

>>87 名無飼育さん 様
ぶっちゃけ読者様にわかっていただく努力を放棄したので
当然わかりにくいものになっているかと。
一応回答らしきものはあるんですが絶対読み取れないだろーなと

>>88 名無飼育さん 様
お待たせしましたー。ごめんなさいー。

>>89 名無飼育さん 様
こんな判り難い文章からそこまで読み取っていただいて嬉しい限りです…!
合理と不合理と。現実主義と理想主義と。
とか色々と回答にはめんどくさいアレやソレやが横たわっていたり致します。
ていうか回答バラすとガキさんが悪者というか道化っぽくなってしまうので
やはりあえて伏せておきます(逃

というわけで久々の更新でした。
このようなスレですが、待っていただいた方には多大なる感謝を。(平伏
98 :名無飼育さん :2008/08/31(日) 00:32
お待ちしておりました
99 :名無飼育さん :2008/09/02(火) 22:54
いや、素直にいい話だと思いました
そんな理由で?というのも、この人ならとこちらも納得してしまう部分があったりして(笑)
切ないけど爽やかな読後感でした
100 :名無飼育さん :2008/11/02(日) 04:11
以前に自サイトに載せた話ですが、
そういえば一部某バンドから着想を得ていたことを想い出して
こちらにも載せようと思います。
101 :ひだりんとミキの翼 :2008/11/02(日) 04:13
むかしむかしあるところに、新垣というお家に生まれた三つ子の姉妹がおりました。
三人の並び順はいつも決まっていて、
町の人々からは右、真ん中、左と呼ばれていました。
三人のお母さんは毎日三人に平等に仕事を言いつけます。

「右、家の仕事を全部なさい」
「真ん中、この赤い毛糸でマフラーをたくさん編みなさい」
「左、あなたは真ん中が編んだマフラーを町で売ってらっしゃい」

お母さんはそれだけ言うと、左から昨日の売り上げを取りあげて何処かへと出かけ、
そのまま夜遅くになるまで帰ってきません。
お母さんが出て行くと、今度は右と真ん中が出かけの準備を始めます。

「左、今日も私の代わりに家事をお願いね」
「左、今日も私の代わりに編物をお願いね」

左がうなずくと、二人は満足げな笑みを浮かべて外へと出て行きます。
左がうなずかなければ、左に箒や包丁を投げつけ、怖い顔で脅しつけてからやっぱり外へ出かけます。
どちらにしても同じことなので、それならば痛くない方がいいと、左は毎日うなずくことを選んでいます。
二人が出て行くと左は三人分の朝食の後片付けをし、三人分の洗濯物を干し、お母さんの部屋と二人の部屋をそれぞれ掃除します。
左の朝食は三人の残り物だけですし、洋服も一着しか持っていません。
寝る時はリビングのテーブルの下です。
一人分よけいに働かなくて済むのが楽でいいと、左は自分の生活に微笑みを浮かべます。
家の仕事の合間に昨夜進めていた編物の続きをして、赤い毛糸のマフラーをできるだけたくさんこしらえます。
午後になると今度はそれらのマフラーをぼろぼろのリュックにつめて、町へと売りにでかけます。
家を出る前に三人のためのお風呂を沸かしておくのを忘れてはいけません。
102 :ひだりんとミキの翼 :2008/11/02(日) 04:14
誰の足跡もないまっさらな雪の上を、左は町を目指して歩きます。
お母さんや二人の姉なら背中の白く大きな翼でひとっ飛びの距離ですが、左は片翼が生まれつき極端に小さいせいで空を飛ぶことができませんでした。
抜けるように青い大空を眺めながら、左は雪の水面に足跡を刻みます。
いつものように空を往く人々を羨ましげにみつめて歩いていて、ふと視線を下ろすと、地面に黒い羽が落ちているのを目にしました。
拾い上げると、みたこともないような真っ黒な羽です。
綺麗な羽だと思ってあたりに持ち主の姿を探すと、少し先にうずくまる女の人をみつけました。
女の人は背中から生えた黒くて大きい立派な翼で自分を抱きしめるようにしています。
左が近づくと、女の人は鋭い瞳で睨むように左をみました。

「さむいのですか」

女の人の肩が小刻みにふるえているのをみつけて、左は問いかけました。
女の人は雪の上だというのに左と同じくらいの薄着で、翼と同じ黒い服を一枚着ているだけだったのです。
左は慣れているからへっちゃらですが、女の人もそうだとはかぎりません。
女の人から返事はありませんでしたけれど、声もでないくらい弱っているのかもしれません。
これは大変だと思った左は、背中のリュックからマフラーを一枚取り出し、女の人の首に巻いてあげることにしました。
女の人は首に巻かれた赤い毛糸のマフラーと、それから左を驚いたような瞳で交互に見比べていましたが、しばらくすると口を開きました。

「あんたは誰」
「わたしは左です」
「ひだりん?」

ひだりん。ひだりん。
女の人は口の中で響きを確かめるように呟いています。
ほんとうは少し違うのですが、左もその響きが気に入ったので特に訂正はしませんでした。
103 :ひだりんとミキの翼 :2008/11/02(日) 04:15
「いい名前。ありがとう。またね」

短く言うと、女の人は黒い翼をはたまかせてふわりと宙に浮きました。
ばさり、ばさり、と羽ばたきのたびに高度は上がって、やがて体をひるがえし遠く空の向こうへと飛び去りました。
まぶしそうにそれをみつめてから、ひだりんはまた町への道をいっぽいっぽ歩きはじめました。

  *

物心ついた時から、ミキはいつも一人ぼっちでした。
町を歩くと石をぶつけられ、汚い言葉を吐きかけられました。
原因はミキの背中の黒い翼です。
この国の人たちの翼はみんな白く、ミキのように黒い翼を持つ人は他に誰もいませんでした。

闇の色だ。邪悪の色だ。悪魔の色だ。

人々は口ぐちにミキをののしり、ミキが近づくことをとても嫌がりました。
ミキ自身も、人々の言うことが間違いだとは思いませんでした。
お店に行っても食べ物を売ってもらえないので、そっと物をくすねて食べていましたし、洋服も成長するたびにお店やよそのお家から盗んでいました。
物を盗むのはとても悪いことです。
だからミキも自分は悪い子なんだと認めていました。
ミキは悪い子だったので、悪いことなら次第になんでもするようになりました。
物を盗むのにもこそこそと隠れるのではなく、斧やナイフを使って持ち主の命ごと取り上げるようになりました。

誰かに恋することがあっても、誰にも好きになってもらえないミキは、その人の心を命ごと取り上げるすべしか知りませんでした。
104 :ひだりんとミキの翼 :2008/11/02(日) 04:15
好きな人の心を取り上げた時も他の物を取り上げた時と同じように、とても嬉しい気持ちになります。
けれど、好きな人の心を取り上げた時だけはなぜだか一緒に、翼が雨に濡れた時のような悲しい気分にもなるのです。
悲しい気分が嫌いなミキは、ここしばらくは誰かを好きになることをやめていました。
だからその女の子を好きになったのは、すごく久しぶりのことでした。
そのとき突然近づいてきた人影に、ミキの翼をみてもなお近づいてきた初めての人間に、ミキは怯えて肩を震わせていました。

「さむいのですか」

それをミキが寒がっていると思ったのか、女の子はぼろぼろのリュックから赤い毛糸のマフラーを取り出してミキの首に巻いてくれました。
リュックを背負った女の子背中からは、左だけが極端に小さい不恰好な翼が生えていました。
よくみると女の子の格好もミキにおとらずみすぼらしいものでした。
その女の子はひだりんと名乗りました。
ひだりん。ひだりん。
ミキはゆっくりと味わうように、その名前を口の中で転がしました。

その日から、ミキは空の上でひだりんを見守るようになりました。
ひだりんは朝から家の仕事をして、マフラーを編み、午後になるとそれを町へ売りに出ます。
町から戻ると家族の晩御飯をこしらえ、自分はその残り物を食べ、あかの浮いたお風呂からあがると遅くまでまたマフラーを編んでいます。
毎日がその繰り返しのようでした。
マフラーを売ったお金はすべてお母さんに取り上げられるようです。
お母さんは翼が普通なひだりんの姉妹にはお小遣いをあげるようですが、ひだりんには朝仕事を言いつける以外では目も向けようとしません。
ミキはひだりんが可哀想でなりませんでした。
そして、ひだりんをいじめる三人が憎くて憎くてたまりません。
ミキは三人からひだりんを取り上げることにしました。いつものように。
105 :ひだりんとミキの翼 :2008/11/02(日) 04:16
 *

「赤い糸のお話を知ってる?」

あの女の人はときおり町へ行くひだりんのそばに降りてきて、一緒にお話をするようになりました。
女の人の名前はミキというそうです。
ひだりんと呼んでもらうまで「左」や「お前」、「アイツ」、「それ」としか呼ばれたことのないひだりんには、女の人の名前がとても輝いて思えました。

「知りません。どんなお話ですか?」
「運命の相手とは赤い糸で繋がってるっていうお話」

ミキはひだりんの知らないことをたくさん話してくれました。
聞けば、ミキは色んな町を旅してきたのでたくさんのことを知ってるのだそうです。
大きな翼があれば簡単なことなのかもしれませんが、地面をいっぽいっぽ進むことしかできないひだりんにはうらやましいことでした。

「わたしも一度でいいから、あの大空を飛んでみたいです」
「? いいよ。ミキが支えて飛ばせてあげる」

ミキの申し出に一瞬顔を輝かせたひだりんですが、すぐにその表情を沈ませました。

「だめです。マフラーを売ってこないと三人に怒られます」

怒られるのはいつも痛いことだったので、ひだりんは怒られるのが嫌いでした。
赤い毛糸のマフラーを巻いたミキはそんなひだりんを安心させるような穏やかな顔で笑いかけてきます。

「大丈夫だよ。ミキが一緒に謝ってあげる」

そうまで言われると、空を飛んでみたい願いのほうが勝りました。
ひだりんはうなずいて、差し出されたミキの右手を左手で握りしめます。
ゆっくりと、長い間使うことのなかった翼をはためかせます。
左の翼はひくひくと震えるだけですが、右の翼は思いのほか大きく高く羽ばたいてくれました。
ミキもそれに合わせて夜色の両翼を動かして、二人は同時にふわりと宙へ浮き上がりました。
一生懸命、額に汗が浮かぶほど翼を羽ばたかせ、ひだりんは生まれて初めての浮遊感に心をおどらせました。
ぐんぐんと白い地面が眼下へ沈んでいきます。
代わりに青々とした空が、雪よりなお白い雲が、お日様のまぶしさが近く近く眼前へとせまって来ました。
ばさりと、あるていどの高さでひだりんとミキは空中に留まりました。
106 :ひだりんとミキの翼 :2008/11/02(日) 04:17
町がおもちゃのように小さく、ずっと下のほうにみえています。
町を行き交う人々は米粒のようで、見上げてばかりだった空を飛ぶ人々が町で会う人のように近くを飛んでいます。
人々はときどきミキの黒い翼をみて怯えたように距離を取るのですが、ひだりんはそれに気づかないほど興奮していました。

「もっと遠くへ行ってみよう。翼広げて。風に乗るよ」

ミキはひだりんの手を引いて、急激に高度を下げました。
言われるままできるだけまっすぐ翼を広げると、翼が風に乗って空を滑るような姿勢になります。
速く、速く、どんどん二人は速度をあげ、生まれてから出たことのない町があっという間に背後へと消えました。
それから長い時間、二人は世界を飛び続けました。
他の町をみました。ずっと大きな都会をみました。
海や、山や、空に浮かぶ大きな島のお城もみることができました。

「今日はありがとう」
「もっと時間があれば、もっと遠くにも行けるのにね」

半日で世界のすべてをみてしまったような気分だったひだりんには、もっと遠くなんてとうてい想像もできません。

「ミキも行ったことないけど。外国にはもっと色んなものがあるんだよ」

どんなすごいものがあるんだろう。
きっとすばらしいものにちがいない。
夢のような景色がたくさん、ここ以外にもたくさんあるんだ。
思えば思うほど行ってみたくなるひだりんでしたが、そろそろ地上へ戻らなければいけない時間でした。

ひだりんが家に戻ると、お母さんと二人の姉妹は怒りに顔をひきつらせていました。
その手には包丁や箒が握られていて、ひだりんは恐怖にちぢみあがる思いです。
と、背後にひかえていたミキがひだりんをかばうように前へ出ました。

「ひだりんをいじめないで」

三人はミキの翼の色に一瞬ひるんだ様子でしたが、すぐに取り直して、

「ひだりん?! それは左よ! 誰だか知らないけど引っ込んでてちょうだい!」
107 :ひだりんとミキの翼 :2008/11/02(日) 04:18
激昂するお母さんに、ミキは無言でナイフを投げつけました。
くるくると軌跡を描いた白銀の輝きは、お母さんの胸に突き立つことでその動きを止めました。
びくんとお母さんの体が一度強く痙攣して、そのまま仰向けに倒れ玄関の床に血だまりを広げました。お母さんが動くことはそれから二度とありませんでした。
呆然としていた右と真ん中でしたが、我に返ると耳をつんざくような悲鳴をあげて家の奥へと逃げ込んでいきます。
ミキは表情もなく取り出した小さな鉄砲でまず二人の翼をバスンバスンと撃ち抜くと、今度は斧を取り出して転んだ二人の首をひと振りで刈り取ってしまいました。
ごろごろと床を転がる自分と同じ顔をした生首に、けれどひだりんは何の悲しみも恐怖も覚えることはありませんでした。

「ひだりん、こっちへ来て」

ミキに誘われるまま、ひだりんも家の中へと踏み入りました。
ミキの瞳はその奥に暗い夜の闇のような、翼と同じ真っ黒な、しかしとても魅惑的な輝きを宿していました。

「ひだりん。ミキのひだりん」

誰かに恋することがあっても、誰にも好きになってもらえないミキは、その人の心を命ごと取り上げるすべしか知りません。

「大丈夫。すぐ済むから、ね?」

ゆっくりとした穏やかな動作で、ミキのしなやかな指がひだりんの頬に触れます。
お母さんの胸から噴き出た返り血に濡れた二人の顔は、赤い涙の軌跡を目尻に残していました。
ミキの指が首に巻いた赤い毛糸のマフラーをほどき、ほどいた糸をひだりんの首へと巻きつけ始めました。
押し倒された姿勢で、ひだりんは抵抗もせずその行為を受け入れていました。
幾重にも巻きつけられた赤い糸。二人を繋ぐ赤い糸。
やがて、くっと強く巻きついた糸がひだりんの首を絞めつけました。
108 :ひだりんとミキの翼 :2008/11/02(日) 04:18
「好き。好きだよ、ひだりん」

ひだりんは泣きました。
苦しいからではありません。
今まで一度だって誰かに好きだなんて言ってもらえたことはなかったのです。
ひだりんもミキに同じことを言いたかったのですが、薄れる意識はそれに間に合ってくれませんでした。
ぽたぽたと頬に、涙の雫が落ちました。
ミキもまた、泣いていたのです。
嬉しくて。それ以上に、悲しくて。

「ひだりん……ひだりん……。」

泣きながら呟き続けるミキの声を聞きながら、
ひだりんは最期に、
ミキと二人、外国の大空を自由に旅する夢をみました。
不格好な片側だけの。真っ黒で忌み嫌われた。

大きな翼を、堂々と広げて。


<おわり>
109 :名無飼育さん :2008/11/02(日) 04:23
以上です。
気が向いたらこの続編のようなものを書こうかなと考えています。

>>98 名無飼育さん様
お待たせいたしました。
そしてお待ち頂きありがとうございます。

>>99 名無飼育さん様
理由についてはあの方の人柄でねじ伏せてしまった感がありますw
まあ構成上の不備と言えなくもないのですけどね…
爽やかな読後感を残せていたなら幸いです。
ご感想ありがとうございました。(平伏
110 :名無飼育さん :2008/11/03(月) 01:09
ひゃ〜
良い!
111 :名無飼育さん :2010/03/08(月) 01:52
待ってます
112 :ua27g2p2pn :2014/04/21(月) 15:19
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113 :hcGHl6sZOTeQ :2015/12/21(月) 18:47
What a pleasure to find someone who idfiitenes the issues so clearly

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