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弱虫ナイト

1 :名無飼育さん :2006/03/25(土) 22:20
思いつくがままに短編を。
田中さん贔屓な作者なのでれなえり、みきれなを中心に、他CPも
書いていければいいなあと思います。

よろしくお願いします。
101 :konkon :2006/05/16(火) 00:08
PCの前でニヤニヤしちゃってますw
れいにゃキャワワッ!
102 :名無飼育さん :2006/05/28(日) 23:56
ここのれなえりのクォリティは半端ないですね

これからも楽しみにしてます!
103 :あお :2006/06/19(月) 02:33
幻からとんできましたー。


いやぁ、作者様の書くれいにゃはマジで可愛いです。愛が伝わってきます。
これからも萌えさせて下さいなw
104 :生存報告 :2006/08/11(金) 00:48
作者です。
放置気味で申し訳ありませんがよろしくお願い致します。
105 :名無飼育さん :2007/03/12(月) 23:43
>>101 konkon様
どうもです。自分もかわいいれいなを見てニヤニヤするのが趣味ですw

>>102 名無飼育さん
ありがとうございます。
今回はれなえりではないですが…読んで頂ければ幸いです。

>>103 あお様
幻板ともどもどうもです。
これからも愛が伝わるようなかわいいれいなを書いていきたいと思うのでよろしくです。


今回はちょっと趣向を変えて中篇を。
106 :名無飼育さん :2007/03/12(月) 23:43

『隣の家のおチビちゃん』
107 :第1話 月明かりのおチビちゃん :2007/03/12(月) 23:44

うぇーん。うぇーん。
遠慮のない泣き声が公園に響く。
ちっちゃな手があたしのランドセルを掴んで離さない。

「あー、わかったから、もう泣くなってー」
「…っく、ひっく…」
「ほれ、帰るべ?」

手を差し出した途端に泣き止んで、いたずらっ子みたいな顔で笑う。

「…って嘘泣きかよ、おまえー」
「にひひー」



108 :第1話 月明かりのおチビちゃん :2007/03/12(月) 23:44

気持ちのいい目覚めだった。
枕元の携帯を見るといつも起きる時間より30分も早い。
あたしはベッドの上で軽く伸びをして、リビングへと向かう。

「あら、早いのね。ご飯は?」
「ん、食う」

何気なくテレビをつけると、情報番組のお姉さんが元気に笑ってた。

そういえば、今日は火曜日。
授業は二限目からだった。
出かけるまでまだ時間がある。

―――それにしても、懐かしい夢を見たもんだなあ。

朝食を食べ終わり部屋に戻ったが、特にやることもない。
少し早いけど、もう学校に行くか。
109 :第1話 月明かりのおチビちゃん :2007/03/12(月) 23:45

玄関の扉を開けたと同時に、隣の家から何かが飛び出してきた。

「ちょっとれいな!ご飯はー?」
「無理!あーヤバイ。もう、なんでこんな日に限って日直なんか…」
「気をつけていくとよー!!」

飛び出してきた女の子は見るからに遅そうな走り方で、あたしの目の前を通り過ぎていく。

「おー、れいな、元気かー?」

急いでいるのをわかっていてわざと声をかけてみた。
案の定、彼女は面倒くさそうな顔をして睨んでくる。
それがちょっと面白かったりする。

「…吉澤さん、見てわかる通り、れいな、急いでるんですけど」
「あ、そうなの?わりーわりー、気ぃつけてねー」

わざとらしく右手をヒラヒラと振ると、彼女は膨れっ面のまま再び走り出した。
そんな走り方じゃ間に合わないぞー。
また転んで怪我すんなよー。

小さくなっていく背中を見送りながら、あたしは今朝の夢を思い出していた。
110 :第1話 月明かりのおチビちゃん :2007/03/12(月) 23:46

田中れいなは言ってみれば幼なじみのようなもんだ。
小さい頃は近所の子供同士男女年齢問わず一緒に遊んでいて、4歳年下のれいなもその
仲間の一人だった。
人一倍小さくて運動神経もあまりよくないくせに、あたしたちのちょっと危ない遊びに
必死についてきて、そのたびに転んで怪我をして。
家が隣ってだけでいつも面倒を見る羽目になったあたしにとっては、正直かなり迷惑な
存在だった。
よく遊んでる途中で家まで送り届けたっけな。

いつの間にか大きくなって一緒に遊ぶこともなくなって、今ではこんなふうにたまに顔
を合わせて挨拶する程度の関係になった。
しかも、わざとらしく敬語なんか使っちゃって。
あたしはそんなふうに大人ぶっている姿が面白くて、ついついからかってしまう。
その度に顔を真っ赤にして背中を向けるれいなを見るのが、これまた面白い。

隣の家のおチビちゃん―――田中れいなはあたしにとってそういう存在だった。
111 :第1話 月明かりのおチビちゃん :2007/03/12(月) 23:46

大学に着くと真っ先に部室へ向かった。
誰かしらいるだろう。
うちの女子フットサル部は、関東の大学の中でもかなりレベルが高い方だ。
あたしも結構一生懸命やっていて、一応キャプテンだったりする。

「あ、よっすぃー」
「…げ」

反射的にドアを閉めようとしたあたしに、甲高い声が襲いかかった。

「ちょっとー!なんで逃げるのよ!」
「逃げてなんかないって」
「思いっきり逃げてるじゃんっ!もう、よっすぃーは意地悪なんだから」
「うわ、キモ…」
「なによー」
「んだよー」

いつも通りの会話が繰り返される。
この甲高い声の持ち主は石川梨華。
こんなんでも、一応貴重な戦力だったりする。
そして、どういうわけか気になる存在…だったりもする。
112 :第1話 月明かりのおチビちゃん :2007/03/12(月) 23:46

「あ、あれ持ってきてくれた?」
「…あ、やべー」
「忘れたのー?昨日メールであれだけお願いしたじゃん!」

そうだった。
昨日の夜、メールがあって、フットサル雑誌の最新号を持ってくるように頼まれていた。
机の上に用意してたのにすっかりと忘れていた。

「わりーね」
「もう…。これがかわいい後輩だったら絶対に忘れないくせに」
「そりゃそーだろー」
「さいてー!」

あたしは下を向いて必死に笑いを堪える。
こんな顔見られたら、ますます怒り狂うだろう。
…まあ、別に構わないけどさ。
悪趣味だと思われるかもしれないけど、怒っている顔が結構好きだったりするし。
113 :第1話 月明かりのおチビちゃん :2007/03/12(月) 23:46

「そうだ。練習終わったら取りに行ってもいい?」
「はあ!?」

このバカは一体何を言い出すんだ?

「だって、どうしても今日中に見たいんだもん。ね?いいでしょ、よっすぃー」

上目遣いに見られて思わず視線を逸らす。

「…別にいーけどさ」

あたしは結局、石川には敵わない。
惚れた弱みって奴だ。仕方ない。
114 :第1話 月明かりのおチビちゃん :2007/03/12(月) 23:47

部屋に入るなり雑誌に夢中の石川。
そんな彼女を横目で見ながら、あたしはかつてないくらいの緊張感を味わっていた。
二人きりの空間がどうしようもなく息苦しい。

「ふぅ…」

深くため息をついた瞬間、石川がブワッと顔を上げた。
うわっ、なんだよ…。

「…なによ?」
「な、なによって…」
「ため息なんてついちゃってさ、そんなにあたしと一緒にいるのがイヤなの?」
「え、いや、そんなんじゃないけど…」
「けど、なによ」

石川に小手先のごまかしは通用しない。
いつも何事にもウザいくらいに全力投球する、それが石川梨華なのだ。
115 :第1話 月明かりのおチビちゃん :2007/03/12(月) 23:47

あたしは石川を納得させるようなため息の理由を探し、それを口にした。

「ちょっと、具合わりーみたい」
「え?ホントに?熱は?」
「あ、いや、そこまで…」

石川が近づいてくる。

「おでこ出して」
「ちょ…」
「うーん、ちょっと熱いかも」

…そりゃあそうだろう。
石川に触られたことであたしの体は一瞬で沸騰した。

「ごめんね、よっすぃー、気付かなくて。あたし、帰るね」
「えぇ!?」
「ん?そばにいた方がいい?」
「…キショイからいい」

わざと悪態をつくと、石川はいつもみたいに「もう」と口を尖らせた。
116 :第1話 月明かりのおチビちゃん :2007/03/12(月) 23:47

「寝てなきゃダメ!」なんていう石川をなんとか言いくるめて、玄関先まで見送る。

「ちゃんと休んで治してね。明日も練習あるし」
「あー、うん、へーき」
「もう心配だなあ」

いつになく優しい石川に複雑な気持ちになる。
あたしたちはこんな関係じゃない。

「…ごっちんとは、うまくやってる?」

だからあたしは流されないように、わざと自分を戒める。

「やだあ、なによいきなり…」

石川の顔が真っ赤になって照れくさそうに頷いた瞬間、自分のものじゃないって現実を
改めて突きつけられて胸が痛くなった。

「じゃあ、帰るね」
「…あー、気ぃつけて」

石川はすっかりと暗くなった道を足早に駆けていった。
117 :第1話 月明かりのおチビちゃん :2007/03/12(月) 23:47

「…言っちゃえばいいのに」
「どわっ!!」

背後からの突然の声に思わず飛び上がる。

「なななななななんだよっ!」

振り向くと、石垣を挟んだ向こう側にちっちゃな影が一つ。

「…れいな、いつからそこに…」
「吉澤さんたちが出てくるずっと前から」

暗くてよく見えないけど、れいなは面白くなさそうな顔をしている。
だけど、あたしだって面白くない。
見られたくない姿を見られたわけだから。
118 :第1話 月明かりのおチビちゃん :2007/03/12(月) 23:48

「盗み聞きとかどうかと思うぞ」
「隣やけん、仕方ないです。れいなだって別に聞きたくなかったし」

正論に返す言葉を失う。

「綺麗な人ですね」
「…そーでもないよ」
「へー」
「…なんだよ」
「別に」

なんだかスッキリしない感じだ。
あたしは石垣の上に顎を乗せ、れいなを見下ろした。
いつもなら目を逸らす彼女だが、今日はしっかりと睨み返してきた。
生意気だ。
119 :第1話 月明かりのおチビちゃん :2007/03/12(月) 23:49

「…言えるもんならとーっくの昔に言ってんべ」

れいなは何も言わない。
あたしはなんかちょっとムキになって話し続けた。

「付き合ってる子がいるわけ。その子はさ、あたしとも結構仲良かったりして。いろいろ
 面倒じゃん、そういうの」

だから、言えない。言わない。

れいなは相変わらず黙ってこっちを見ている。
なんかこいつ、強いんだよね、目力っていうの?
石川と同じように冗談が通じないような、そんな雰囲気を醸し出している。
120 :第1話 月明かりのおチビちゃん :2007/03/12(月) 23:49

「…れいなだったらどうする?」
「は?」
「恋人いる相手に告れる?」
「…なんでれいなに振るんですか?」
「おめーが黙ってるからだよ」

昔みたいに頭をはたこうと思ったら、ギリギリのタイミングで避けられてしまった。
運動神経は悪いくせに、反射神経はなかなかのもんだ。
わりと適当に話を振ったのに、れいなは結構真面目に考え込んでいる。
その姿がおかしくて思わず吹き出してしまう。

「なんで笑うと?」
「いやあ、わりーわりー」
「…真面目に考えたれいながバカだった」
「だから、ごめんて。おーい、れいなー。れいなちゃーん…」
121 :第1話 月明かりのおチビちゃん :2007/03/12(月) 23:49

拗ねて家に入ろうとしたれいなは玄関の前で足を止めた。

「ん?」
「れいなは…」
「うん?」
「れいなだったらちゃんと言います。…伝えないで終わるのなんて悲しいから」

隣の家のおチビちゃんはあたしの目をしっかりと見てそう言った後、逃げるように家へと
駆け込んだ。
月明かりに映し出されたその表情はものすごく大人っぽくて、あたしは不覚にもドキドキ
した。
122 :名無飼育さん :2007/03/12(月) 23:51

第1話 終わり


こんな雰囲気で。数回で完結する予定です。
123 :名無飼育さん :2007/03/13(火) 22:06
興味深い組合せですね
楽しみにしてます
124 :名無飼育さん :2007/03/23(金) 20:25
>>123
自分も初挑戦の組み合わせです。
楽しんで頂けたら嬉しいです。


では、第2話。
125 :第2話 窓の向こうのおチビちゃん :2007/03/23(金) 20:26

―――伝えないで終わるのなんて悲しいから。

あの日以来、れいなの言葉が頭の中で勝手に再生される。
その度に心に迷いが生じる。
あたしは石川に思いを伝えるべきなのだろうか。

100%叶わない思いを相手に伝えるという行為は、ただの自己満足だと思っていた。
いや、今でもそう思う。
だけど、それでは『悲しい』とれいなは言った。
その通りだと思った。

彼女の一言はすごく素直で、あたしの胸に直球に突き刺さった。


126 :第2話 窓の向こうのおチビちゃん :2007/03/23(金) 20:27

次の火曜日。
先週と同じ時間に目が覚めたあたしは、先週と同じく時間を持て余し、先週と同じように
大学へと向かった。
ただし、先週遭遇したれいなはいない。
まあ、この時間だと遅刻確実だから当たり前か。
部室の扉を開けると、先週と同じ人物が座っていた。

「…あ」
「あ、よっすぃ、おはよう。早いね」
「あー、うん」

なんだかまともに顔を見ることが出来ない。
やばいなあ…。
ここ数日、告白することで悩んでいたせいか、やけに意識してしまう。


127 :第2話 窓の向こうのおチビちゃん :2007/03/23(金) 20:27

「なによー、またなにか文句でもあるの?」

そんなあたしの様子が納得いかないのか、石川はいつもの調子で絡んでくる。
つーか、あんまり近づくなって。

「もう、そんなにあたしのこと嫌い?」
「…いや、その」

石川に迫られて壁際まで追い詰められるあたし。

「なんなのよー。嫌いなら嫌いってはっきり言ってみなさいよ」
「うぐ…」

あたしの胸倉を掴む石川。


128 :第2話 窓の向こうのおチビちゃん :2007/03/23(金) 20:27

「どうなのよ、嫌いなの?」
「き、嫌いじゃないです」
「じゃあ、その態度はなんなのよ」
「いや、だから、その…」
「はっきりしなさいよ!」
「す、好きなんです!」

完全に怒りモードの石川に、あたしの思考回路はいとも簡単にショートした。

「…え?」

予想外の言葉に驚いた石川は、腕を静かに離す。
今ならまだなんとでもごまかすことが出来るけど…。
頭の中に浮かんだのは、あの日のれいなの言葉。

―――伝えないで終わるのなんて悲しいから。


129 :第2話 窓の向こうのおチビちゃん :2007/03/23(金) 20:28

覚悟を決めて大きく息を吸う。
静かに吐く。
あたしは石川の目をしっかりと見て、こう言った。

「…あたし、ずっと好きだったんだ、石川のこと」

その言葉を聞いた途端、石川は床に座り込んだ。






130 :第2話 窓の向こうのおチビちゃん :2007/03/23(金) 20:28

その日の夜、寝る前のひととき、あたしはベランダでボーっと夜空を眺めていた。

今日の昼間、石川にふられた。
それは、予想通りというか予定通りというか、とにかく至極当然のことだ。
石川には大好きで大切な恋人がいるのだから。

だからなのか、不思議なことにほとんどショックは受けなかった。
むしろ、動揺していたのは石川の方。
泣きそうな顔で「ごめんね」を繰り返す彼女に、あたしは努めて明るく言った。

「あー、わかってるから。へーきへーき。ごっちんと仲良くなー」


131 :第2話 窓の向こうのおチビちゃん :2007/03/23(金) 20:28

強がりでもなんでもなく心の底から素直に出てきたセリフで、そのとき初めて、ずっと
そう言いたかったんだと気付いた。
だって、石川とごっちんは本当にお似合いの二人で、あたしの入る余地なんでまるで
ないんだから。
秘めた片思いなんてガラじゃない。
気持ちをぶつけてすっきりしたかったんだ。

石川のことは苦しめちゃったかもしれないけど、あたしの心は驚くほど楽になっていた。

―――あいつのおかげかな…。


132 :第2話 窓の向こうのおチビちゃん :2007/03/23(金) 20:29

ふと、隣の家の方を見ると、ちょうど向かいの部屋の窓が目に入った。
中には机に向かっている女の子が一人。…あ。

その姿を確認したあたしは、いいことを思いついて部屋に入った。
隣の家に隣接している窓を開けると、さっき見た窓がすぐ目の前に現れた。
距離が近過ぎて丸見えのため、普段はカーテンを敷きっぱなしにしている。
だから、気付かなかったのだ。
この窓の向こうにれいながいることに。

れいなの机は窓に対して横を向いているため、あっちは覗かれていることに気付いてない。
やべー、ちょっと面白いかも。
悪趣味とは思いつつも、あたしはしばらく観察することにした。


133 :第2話 窓の向こうのおチビちゃん :2007/03/23(金) 20:30

れいなはじっと机に向かっている。
どうやら勉強中のようだ。うむ、感心感心。
お、携帯をいじり出したぞ。
ものすごいスピードで指が動いてる。
さすが女子高生、はえーな。

しばらくして、れいなは再び机に向かう。
ん?あー、すっげーアクビ。眠そうだなあ。
目をこすって…、あーあ、居眠り始めちゃった。
ったく、ちゃんと勉強してんのかよ…。

見ているだけでは物足りなくなったあたしは、なんとかしてこっちに気付いてもらおうと
考える。
とりあえず、手近にある30cm定規で試してみる。
…さすがに届かない。
古典的な方法だが、紙を丸めて投げてみた。
見事にヒットしたものの、音も立てずに庭へと落ちていった。
やべ、あとで拾いに行かないと…。

窓を割らずかつ効果的な音を立てる物を探そうと、いろいろな物を窓に向かって投げてみる。
タオル、消しゴム、セロテープ、筆箱…。

ようやくれいなが気付いたときには、あたしの部屋の小物は窓の下に山積になっていた。


134 :第2話 窓の向こうのおチビちゃん :2007/03/23(金) 20:30

「…なにやってんですか?」

呆れ顔で窓を開けるれいな。

「つーか、気付くの遅過ぎ。ほれ下見てみ」
「…うわ、なんあれ」
「汗と涙の結晶って奴?」
「どうするんですか、あれ…」
「もちろん、拾うのだよ」
「誰が?」
「もちろん…」

その問いかけにビシッと指を差して答えてやると、れいなは「…やっぱり」と深いため息
をついた。


135 :第2話 窓の向こうのおチビちゃん :2007/03/23(金) 20:30

「れいなの部屋、昔からそこだったっけ?気付かなかった」
「半年くらい前に模様替えして。気付かなくて当然ですよ。吉澤さんの窓、いつもカーテン
 閉まっとうし」
「おー、そっか」

半年前か。
今まで気付かなかったことが、なんだかすごくもったいない気がした。
知ってたらいろいろと楽しめたのになあ。
まあ、これから取り戻せばいいんだけど。

れいなは窓の下の小物たちとあたしを交互に見比べている。
戸惑ったような顔をしているけど、窓を閉める気配はない。
この突然の訪問をそれほど迷惑には思っていないようだ。


136 :第2話 窓の向こうのおチビちゃん :2007/03/23(金) 20:30

「あたしさー、ふられたんだけど」
「はあ?」
「だからー、あいつに告って、ふられたの」
「…そう、ですか」
「冷たいなー。れいなが告れって言うから頑張ったのにー」
「はあ?人のせいにしないで下さい」
「やだー、れーなのせいだー、慰めろー、わーわー」
「…」

…冷ややかな視線が痛い。

「慰める必要なんてないっちゃろ」
「…なんでさ?」
「だって、吉澤さん、全然辛そうじゃないけん」

おお、なかなか鋭いじゃん。


137 :第2話 窓の向こうのおチビちゃん :2007/03/23(金) 20:31

「落ち込んでない人をわざわざ慰めるほど暇じゃないです」
「生意気だなあ」
「…あの、れいな、明日テストなんですけど」
「そのわりにはさっきから携帯いじったり居眠りしたり、余裕じゃん」

さっき見ていた光景をありのまま話すと、れいなは真っ赤な顔をして立ち上がった。

「の、覗いてたと!!」
「やだなあ、覗くなんて人聞きの悪い。隣だから仕方ないじゃん。あたしだって別に見たく
 なかったし」

この間のセリフをそっくりそのまま返してあげた。
最後の一言は嘘だけど。

案の定、れいなは言葉に詰まって座り込んだ。
耳まで真っ赤にして、すごく悔しそうだ。
どうやらあたしの勝ちらしい。


138 :第2話 窓の向こうのおチビちゃん :2007/03/23(金) 20:31

「それはそーとさー、明日暇?」
「だから明日はテストだって…」
「じゃー、明後日」
「明後日もテストです」
「んじゃ、明々後日」
「明々後日も」
「いつ終わんのさ?」
「…さあ、一ヵ月後くらいじゃないですか」

見え透いた嘘だけど面白いから乗ってみる。

「へー、そりゃあ、大変だ」
「…え?」
「あたしが明日中澤先生に言ってやるよ。そんなにテストやらせてどうするんだーって」

れいなの高校はあたしの母校でもある。
中澤先生はあたしの元担任の数学教師だ。
曲がったことが大嫌いな先生だから、れいながそんな嘘をついたと知ったら間違いなく
呼び出されるだろう。
れいなは観念したように項垂れた。

「…水曜までです」


139 :第2話 窓の向こうのおチビちゃん :2007/03/23(金) 20:31

よっしゃ、第2回戦もあたしの勝ち。
生意気言ってるけどまだまだ子供だ。
あたしはれいなが更に怒るであろう言葉を口にしてみる。
やっべー、あたし今、すげー顔ニヤけてるだろうなあ…。

「木曜、デートしよ?」

いつもは抜群の反応を見せるれいなだが、さすがに意味を理解するまでに時間を要した
らしく、たっぷり数秒固まったあと一気にまくしたてた。

「はあ?なんでれいなが?吉澤さんと?なんでデート?マジありえんし!信じられんし!
 何考えとうと!?」
「いやあ、たまにはいーじゃん。昔はよく一緒に遊んでたんだしさ」
「昔は昔、今は今やろ!!」
「ちょ、シー、静かに。でかい声出すと近所迷惑だぞ」
「…でかい声出させてんのは誰ですか…」

文句を言いながらもしっかりと声を小さくするれいな。
うん、なかなか素直でよろしい。


140 :第2話 窓の向こうのおチビちゃん :2007/03/23(金) 20:32

「なんつーかさ、お礼だよお礼」
「…お礼?」
「そ。…一応、石川のこと吹っ切ること出来たからさ。れいなが言ってくれたおかげ」

れいなは一瞬何か言いたげな顔であたしを見て、だけどすぐに唇を噛み締めてうつむいた。
クールそうに見えるけどコロコロと表情が変わって面白いんだよなあ、こいつ。

「だからさあ、ちょっと付き合ってよ。おごるから」
「…それなら、まあ、いいですけど」

意外と現金な奴だ。

「よし、そうと決まれば、ほれ、さっさと勉強しな。なにサボってんだよ」
「はあ!?邪魔しとったんは吉澤さんやろ!」
「だから、シーって」
「…ムカつく」
「ん?なんか言った?」
「なんでもないです。じゃあ、さよなら」
「あ、れいなー」


141 :第2話 窓の向こうのおチビちゃん :2007/03/23(金) 20:32

窓を閉めようとする彼女に、あたしは優しく教えてあげる。
そう、これはあくまでも親切な忠告だ。

「着替えるときはカーテン閉めた方がいいぞ、丸見えだから」

次の瞬間、この世のものとは思えない叫び声とともに、割れんばかりの勢いで窓が閉められた。
続いて、引きちぎれんばかりの勢いでカーテンも。

「だから、シーって言ってんのに」

窓の向こうで真っ赤な顔をしているであろうおチビちゃんを思い浮かべながら、あたしは一人
ニヤニヤしていた。


142 :名無飼育さん :2007/03/23(金) 20:33

第2話 終わり


143 :名無飼育さん :2007/03/25(日) 10:01
翻弄されるれいなさんがすごくかわいいですw
続きを楽しみにしてます
144 :名無飼育さん :2007/04/06(金) 18:29
更新待ってます
145 :名無飼育さん :2007/04/10(火) 22:46
>>143 名無飼育さん
自分も書いてて楽しいです。

>>144 名無飼育さん
お待たせしてすいません。


では、第3話。
146 :第3話 写真の中のおチビちゃん :2007/04/10(火) 22:47

木曜日。
午後の授業を華麗にスルーしたあたしは、なぜかやけにウキウキしながられいなの学校に
向かった。
今日はフットサルの練習はない。
しかし、毎日なんだかんだでつるんでいるチームメイトは、足早に帰るあたしを不思議
そうに見ていた。

「デートだよ、デート」

そう言ってピースした瞬間、石川と目が合った。
心配そうな顔で見てるから思いきり舌を出してやったら、いつもみたいに「もう…」なんて
拗ねていた。
うん、あたしたちはこういう関係がいい。
147 :第3話 写真の中のおチビちゃん :2007/04/10(火) 22:47

門のところに立っていると、懐かしい制服が通り過ぎていく。
いやあ、みんなかわいーねー。
ニヤニヤしながら眺めていると、ものすごーく痛い視線を感じた。
この感覚…、間違いない、れいなだ。

「なにニヤニヤしてるんですか?…変態」

ほらね。
ボソッと呟いた言葉は聞かなかったことにしよう。

「せっかく迎えに来たのにそんな言い方はねーだろー」
「別に頼んでませんけど」
「冷たいなー。…ていうかおめー、スカート短すぎじゃね?」
「これくらいみんなしとうもん」

周りをよく見てみると、なるほど、確かにみんなれいなと同じくらいの長さだ。
しかし、れいなの長さだけやたらと気になるのはなぜだろう。

「せめてもうちょっと長くすれば?」
「はあ?れいなは好きでやっとうけん、吉澤さんには関係ないと」
「…まあ、そうだけどさ」

なんか面白くない。
148 :第3話 写真の中のおチビちゃん :2007/04/10(火) 22:47

「あ、れいなー」
「あれ?まだ帰ってなかったんだ?」

れいなの背後から二人の女の子が忍び寄る。
声をかけられたれいなは、なぜか気まずそうに目を逸らした。

「さっき言ってた待ち合わせってこの人?」

待ち合わせ?

「ああ、昼からずっと楽しみでそわそわし…」
「あーあーあー!違う違う、この人は全然関係ないと!」
「えー、でも、カッコいいお姉さんだって…」
「違うから!なんでもないけん!さゆも絵里もカラオケ行くっちゃろ?早く行かんと」

友達らしき子の言葉を遮ったれいなの顔は真っ赤だ。
勘のいいあたしはすぐに状況を理解し、ニヤニヤする。

「なーんか怪しー」
「れいな、顔真っ赤だし」
「ホントに違うし!この人はただの隣の家の人で…」

二人は、ムキになって必死で否定してるれいなの言葉には全く耳を貸さず、「明日じっくり
聞くからねー」なんて捨てセリフを残して去っていった。
なかなか使えるお友達じゃないか。
さゆちゃんに絵里ちゃんね、覚えておこう。
149 :第3話 写真の中のおチビちゃん :2007/04/10(火) 22:47

あたしは明後日の方向を向いているれいなに声をかける。

「昼からずっと楽しみだったんだー」
「…うっさい」
「カッコいいお姉さんねえ」
「…」

れいなはとうとう黙り込む。
あまりからかうのもかわいそうなので、これくらいにしておくか。

「とりあえず、行きますか?」

正面に回りこんで腰をかがめて顔を覗き込むと、れいなはうつむいたまま小さく頷いた。
その仕草がやけにかわいくて、なぜか自分まで頭に血が上ってくるのを感じて、そのこと
に気付かれないように足早に歩き始めた。
150 :第3話 写真の中のおチビちゃん :2007/04/10(火) 22:48

「…で、なんでここなんですか?」

やってきたのはこの町の学生なら誰もが知っているゲームセンター。

「はあ?学生のデートといやー、ゲーセンでしょゲーセン。ジョーシキだよジョーシキ」
「おごってくれるんじゃないんですか?」
「ほれ」

あたしはポケットからあるだけの小銭を取り出して、れいなに差し出す。
…んーと、5、6、7、800円か。
まあ、こんなもんでしょ。

「800円じゃ大して遊べんし」
「ちっちっちっち、甘いよ、れいなくん。正確に言うと二人で分け分けするから400円
 なのだ」
「うわ、せこ…」
「しょーがねーだろー、練習忙しくてバイトやる暇ないのよ」
「じゃあ、なんでおごってやるなんて言ったと?」
「だからー、お礼だよお礼」
「ゲーセンでお礼なんて聞いたことないし」
「バッカだなあ、大事なのはここよここ」

あたしは大威張りで自分の心臓を指差す。
そんなあたしを見て、れいなは大きくため息をついた。
151 :第3話 写真の中のおチビちゃん :2007/04/10(火) 22:48

店内に入ったあたしたちは遊ぶ対象を物色する。
とはいえ、あたしがやりたいものは最初から決まっている。

「れいな、こっち」
「え?」

あたしはキョロキョロしているれいなの鞄を引っ張り、お目当ての場所へと導いた。
自動車のシートを形をした椅子が二つ並んでいる。
そう、レーシングゲームだ。

「えー、れいな、違うのやりた…」
「いいから、ほれ、100円入れて」

有無を言わせず座り込むと、れいなも渋々とそれに従った。
爆音を上げてゲームがスタートする。
あたしは抜群のタイミングでアクセルを踏み込み、一気にトップへと躍り出る。
いつもならばこのまま独走状態なんだけど…。

「は?アクセルってどっち?踏んでも進まんし!このレバーなん?」
152 :第3話 写真の中のおチビちゃん :2007/04/10(火) 22:48

隣でうるさいおチビちゃんのために、仕方なくアクセルを踏み込むのをやめる。
しょーがない、ここで待っててやるか。

「ちょっと!ぶつかるぶつかる!もう曲がれんし!」

放っておくと機械を壊しかねない勢いで運転するれいな。
ようやくゴールしたときには息も絶え絶えに髪を振り乱して、まるで1ステージを終えた
あとのアイドルのような状態になっていた。

「よっしゃー、あたしの勝ちー!」
「あああああ!ずるいー!!」
「はあ?なんでだよー」
「だって、れいなが抜かそうとしたらわざと邪魔したやろ!」
「そんなん当たり前だろ、勝負なんだから」

確かにれいなの車の前を超低速で走りながら、絶対に抜かれないように妨害していたのは
事実だ。
その度に「邪魔!邪魔!」なんて叫ぶれいなのおかげで、あたしは普段よりも何倍も楽しく
このゲームを満喫することができた。
153 :第3話 写真の中のおチビちゃん :2007/04/10(火) 22:49

さて、残りは一人300円。
膨れっ面のれいなを次のゲームへと引っ張る。
今度は二人一組でゾンビを倒していくシューティングゲームだ。
れいなはなにか言いたそうな顔をしていたけど、抵抗しても無駄だと悟ったのか、素直に
100円を入れた。

次々と襲い掛かってくるゾンビ。
あたしは正確に狙いを定めて必要最小限の弾数で敵を倒していく。

「ちょっと!なんで当たらんと!れいな、ちゃんと撃っとうやろが!」

一方のれいなは相変わらずうるさい。
やぶからぼうに撃ちまくるもんだから弾数もヤバいし、ゾンビからの攻撃もまともに受けて
いる。
しょーがない、少しフォローしてやっか。

「あー!それ、れいなが撃つ敵やろ。横取りすんな!」
「だってれいな遅いんだもん。そんなんじゃ、すぐやられちゃうぞ。…って、あー、ほら、
 言わんこっちゃない」
154 :第3話 写真の中のおチビちゃん :2007/04/10(火) 22:49

画面に映し出される『GAME OVER』の文字。

「…吉澤さんがごちゃごちゃうるさいから」
「人のせいにすんなってー。あたしがカバーしなきゃとっくの昔にゲームオーバーだよ。
 感謝しな」
「しません、絶対に」
「かわいくねーなー」
「…どうせれいなはかわいくないですよ」

その瞬間、空気が変わるのを感じた。
どうやら少し調子に乗りすぎたようだ。
お詫びの意味を込めて、本気で凹んでいるれいなの頭をポンポンと叩く。

「ウソウソ、かわいーよ」
「…べ、別にかわいくなくていいですけど…」

叫んだり怒ったり落ち込んだり照れたり、本当に忙しい奴だ。
その反応が面白くていちいちからかうあたしもあたしだけど。
155 :第3話 写真の中のおチビちゃん :2007/04/10(火) 22:49

さてさて、残りは一人200円、二人合わせて400円。
ちょうど半分だし、今度はれいなの好きなものにしてやるか。

「次どーする?」
「え?れいなが選んでいいと?」
「うん、あたしはやりたいのやったし」
「なんでもいいと?」
「もちろん」

目を輝かしたれいなが連れてきた場所は、あたしにはおよそ似つかわしくないキラキラした
ところだった。
周りには女子中高生がウジャウジャと順番待ちをしている。

「やっぱゲーセンといえばこれっちゃねー」
「うわあ、プリクラなんて何年ぶりだろ。つーか、こんなに種類あんの?」

あたしの反応にれいなは得意気な顔をする。
さっきとは逆の立場になってしまったようで、ちょっと悔しい。
156 :第3話 写真の中のおチビちゃん :2007/04/10(火) 22:49

「最近はこれが流行ってるんですよ」というれいなの案内で一台の機械に入る。

「早くお金入れてください」

言われるがままに200円を投入すると、れいなは慣れた手つきで機械を操作し始めた。
あたしはもう何がなんだかわからない状態で呆然とそれを見ている。

「ちょっとボーっとしとらんと、撮りますよ。はい、チーズ」
「え?もう撮ったの?早くね?」
「どんどん撮られるけん、ほら、ちゃんとポーズ決めて」
「お、おう…」

久々のプリクラ撮影はあっという間に幕を閉じた。
と思ったら、どうやらそれだけでは終わらないらしい。
次はお絵かきタイムのようだ。

結局、ペンやスタンプでカラフルに写真をアレンジし出てきたプリクラを二人分に分け
終わるまで、あたしはずっとれいなを見ていた。
ご機嫌にニコニコと笑う横顔を、ずっと。

そのプリクラでちょうど800円分を消費したあたしたちは、隣同士の家に帰るべく、
ゲームセンターを後にした。
157 :第3話 写真の中のおチビちゃん :2007/04/10(火) 22:50

家の前。辺りはすっかり夕闇に包まれている。

「ふう、なんか疲れたなあ。久々に遊んだ気がする」
「れいなもー」
「あれ?ゲーセンとかよく行くんじゃねーの?」
「そうやけど、大体プリクラとかばっかやし。あんなゲームしたの久々かも」
「そっか。れいなとゲーセン行くと大変だもんな。機械壊れそうだったし」
「えー、そんなことないよ、れいなと行くと楽しいよ…」

自信がないのか小さな声で呟くれいな。
怒鳴り返されるかと思ったあたしは、意外な反応に驚きながらも言葉を返す。

「うん、楽しかったかも」
「やっぱそうっちゃろー、ニヒヒー」

あたしの言葉に安心したのか、れいなはいたずらっ子みたいな笑顔を見せた。
その顔に小さい頃の記憶がフラッシュバックする。
少し背が伸びて大人っぽくなって生意気になったけど、根っこのところは何一つ変わって
いない。
あの頃のれいなのままだ。
158 :第3話 写真の中のおチビちゃん :2007/04/10(火) 22:50

「…はい、これ」

沈黙に耐えられなくなったのか、れいなは派手な鞄から何かを差し出した。
さっき撮ったプリクラだ。
キラキラに飾り付けられた写真の中、ウィンクつきのポーズをバッチリ決めているれいな。
その横で撮られる準備が出来てなくて間抜けな顔をしているあたし。
そのギャップがなかなかいい味を出している。

「かわいく写ってんじゃん」
「ウィンクはれいなのチャームポイントですから」

からかい口調で言ったあたしに、れいなは平然と言い放つ。
ホント、よくわかんねー奴。

「ちゃんと持っといて下さいね」
「当たり前だろー」
「えー、吉澤さん、その辺にほっぽってそのままにしそう」

…うん、やっぱりこいつはなかなか鋭い。
159 :第3話 写真の中のおチビちゃん :2007/04/10(火) 22:50

「だーいじょうぶだってー、ちゃんと大切にするよ。なんたって、初デート記念だからねえ」
「…そういえば、なんか結局うまくはぐらかされたような…」
「んー?気のせい気のせい」
「んー、まあ、いっか」

なんだかんだで、こいつも相当大雑把な性格のようだ。

「じゃあ、またな、ハニー」
「はあ?ハニーってなん?」
「おめー、ハニーも知らねーの?勉強せーよ」
「…れいな、勉強嫌いやし」
「しょーがねーなー。って、まあ、あたしも好きじゃないけどさ」

そう言って笑うと、れいなもまたいたずらっ子のような笑顔を見せた。
あたしはなんだか落ち着かなくなって、れいなから視線を逸らす。

「…じゃあ、そろそろ帰るべ」
「うん、すぐそこやけどね」
「おう。…じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさーい」

あたしたちは珍しく平和に別れて、お互いの家に入った。
160 :第3話 写真の中のおチビちゃん :2007/04/10(火) 22:50

とはいえ、家の中でもあたしとれいなとの距離は壁二枚分と少しの空間だけ。
なんだか不思議な感覚だ。
手に持ったままのプリクラを改めて眺める。

―――ちゃんと持っといて下さいね

そう言われてもなあ。
プリクラ帳なんて持ってないし、手帳だって今年初めに買ったきり開いてもいない。
どこに貼ればいいのやら…。

しばらく悩んだ末、ふと思い立って携帯を取り出す。
飾りっ気のない傷だらけのちょっと古いタイプの携帯。
もう三年くらい変えていないその携帯を裏返し、充電池の蓋を開ける。
一番小さいサイズの写真を剥がし…。
161 :第3話 写真の中のおチビちゃん :2007/04/10(火) 22:51

「…って、恋人かよっ」

軽快な一人ノリツッコミのあと、携帯を放り出しベッドへと倒れ込む。
なんだかなあ…。

写真の中で最高のポーズを決めるおチビちゃんの笑顔が頭から離れなくて、あたしの心は
しばらくザワザワと騒がしいままだった。
162 :名無飼育さん :2007/04/10(火) 22:51

第3話 終わり
163 :名無飼育さん :2007/04/15(日) 18:57
あぁ…なんだかホンワカした気分になりますね
164 :名無飼育さん :2007/05/18(金) 00:32
>>163
嬉しい言葉、ありがとうございます。


では、第4回。
165 :第4回 嵐の夜のおチビちゃん :2007/05/18(金) 00:33

いつものように練習を終え、疲れた体をひきずりながら家へと向かう。
空はドンヨリとしていて今にも雨が降り出しそうだ。
玄関のドアを開け部屋へ入ったちょうど一分後、けたたましい轟音と共に激しい雨が降って
きた。
危ねー、ギリギリセーフ。

椅子に座り、まず最初に窓の外を見る。
あの日以来、日課のようになってしまった、隣の家のおチビちゃんの所在確認。
締め切ったカーテンの向こう側は真っ暗だ。
どうやらまだ帰っていないらしい。
珍しいな。
166 :第4回 嵐の夜のおチビちゃん :2007/05/18(金) 00:34

れいなは見かけによらずビビリだ。
暗闇が嫌いで、眠るときですら電気をつけっぱなしにしているらしい。
高校生になった今でも、だ。
三つ子の魂百までというけど、これほどまでに変わらない奴も珍しい。

小さい頃は本当によく泣いていた。
みんなで怖い話をしてるときは、決まってあたしの横で耳を塞いで震えていた。
そんなに怖いなら聞かなきゃいいのに、なぜかいつもそばにいた。
あたしは、そんなれいなの肩を後ろからそっと触って更に怖がらせるのが得意だった。
…威張って言うことじゃないけど。

記憶というのは不思議なものだ。
一つのことをきっかけにいろんな思い出が蘇ってくる。
ああ、そういえば、れいなが苦手なのは暗闇や怖い話だけじゃなかった―――。

ゴロゴロゴロゴロ…。

そう、確か雷も大の苦手だったんだ。
167 :第4回 嵐の夜のおチビちゃん :2007/05/18(金) 00:34

階下へ降りると母親がテレビを見ていた。

「すごい雨ねえ」
「あー、天気予報で言ってたっけ?」
「さあ、どうだったかしら。…あら大変」
「んー?」
「お隣さん、洗濯物干しっぱなしだわ」
「ああ!?」

予想だにしない『お隣さん』という言葉に、思わず窓の外を見る。

「うわあ、ずぶ濡れじゃん。おばさんたち、出かけてんのかなあ」
「あ、そういえば、今日から旅行って言ってたような…」
「ええ!?」
「でもおかしいわねえ、れいなちゃんだけ学校の都合でお留守番のはずなんだけど…」
「はああ!?」
「まだ帰ってないのかしらねえ。でももうこんな時間だし…」

最後の言葉を聞く前に、家を飛び出していた。
168 :第4回 嵐の夜のおチビちゃん :2007/05/18(金) 00:34

門を開いて中に入る。
インターホンを鳴らしても返事はない。
庭に回り、窓から部屋の中を覗く。
れいなの部屋同様、しっかりとカーテンが閉まっており、やっぱり真っ暗だった。
帰ってないのかもしれない。
でも、なんとなく嫌な予感がする。

「おーい、れいなー!」

窓を叩き名前を呼ぶ。
こんな姿を人に見られたら不法侵入で訴えられるだろうか。
…まあ、お隣だし大丈夫だろう。

「おーい!いねーのー!れいなー!!」
169 :第4回 嵐の夜のおチビちゃん :2007/05/18(金) 00:35

雨はいっそう激しさを増す。
あたしはすでにずぶ濡れだ。
もうすぐ大事な試合がある。
風邪をひくわけにいかないのに、なぜかムキになって窓を叩き続けた。

隣で耳を塞いで怯えているれいなの姿が脳裏から離れなかった。

「…しざわ、さん?」

カーテンの隙間から小さな影が現れたとき、あたしはすっかり水も滴るいい女になって
いた。
170 :第4回 嵐の夜のおチビちゃん :2007/05/18(金) 00:35

「…っくしょい!」

ソファの上で豪快にくしゃみをすると、横に座っているれいなは少しだけ申し訳なさそう
にこっちを見た。
あたしが必死で呼びかけているとき、こいつは夢の中にいたらしい。
うたた寝をしていたらいつの間にか夜になっていたそうな。

さっきまであんなに降っていた雨は見事に上がり、空には嫌味なくらい星が輝いている。
普段はこんなに見えないくせに、腹立たしい。

「…まあ、とりあえず、何事もなくてよかったよ」
「ごめんなさい…」
「んー、いや、勝手に勘違いしたのはこっちだしさ」

ずぶ濡れで庭に突っ立っていたあたしを見て、「え?ど、な、なんしとうと?」と慌て
ふためきながらも速攻でタオルと着替えを用意してくれたれいな。
彼女が出してくれたTシャツとジャージは少しキツイけれど、まあ着れないことはない。
「れいなにはダボダボやけん、吉澤さんにはちょうどいいと思って」なんて言われたとき
には張り倒してやろうかと思ったけど。
171 :第4回 嵐の夜のおチビちゃん :2007/05/18(金) 00:35

「おばさんたち、旅行なんだって?相変わらずラブラブだね」
「ホント、いっつもイチャイチャしとうけん、目のやり場に困るとー」
「ハハ、まあいいじゃん。仲良いのはなによりだ」
「それはそうやけど…」
「あれー、れいなちゃん。もしかして、一人じゃ寂しいのかなあ」
「そ、そんなんじゃないと!」

相変わらず、抜群の反応を見せてくれるれいな。

「またまたあ。なんなら、お姉さんが一緒に寝てあげてもいいぞー」
「……………いらん」

かなり長い沈黙のあとの否定。
その間に少し戸惑う。
172 :第4回 嵐の夜のおチビちゃん :2007/05/18(金) 00:35

「…いや、マジで泊まろうか?れいなって意外と怖がりじゃん。昔っからさ」
「もう、子供じゃないですから」

そう言ってむくれる姿は子供そのものなんですけど。

「またまたあ。怖い話したときとか、ずーっとあたしの裾掴んでさ、耳塞いで震えてた
 じゃん」
「やけん、それは子供の頃の話やろ!」
「今だって子供だろー」
「違います!もう17やし」
「はいはい。んじゃ、マジで帰るべ?」
「……………いいと」

れいなは再び言葉を詰まらせながら答えた。
173 :第4回 嵐の夜のおチビちゃん :2007/05/18(金) 00:36

「おーい、大丈夫かあ?」
「…大丈夫。吉澤さんなんかと二人きりになったら何されるかわからんし」
「はあ?人を変態扱いすんなよ」
「人の部屋覗いたり女子高生見てニヤニヤしとったのは誰ですか」
「…うう」

そう言われてしまうと、確かに言い訳はできない。
全て事実なのだ。
言いくるめたことに満足したのか、れいなはニヤニヤとあたしを見ている。

ちくしょう、なんだか立場が逆転したようで悔しい。
このままで終わるわけにいかない。
あたしはすかさず反撃を試みる。

「安心しなって。あたしは子供には興味ないからさー。あ、まあ、子供は子供でも、ホラ、
 れいなの友達の…えみちゃんとさりちゃんだっけ?あの子達くらい、こう…。…ん?」

「やけん、子供じゃないと!」とさっきのように喚く姿を期待していたのだが、そんな
予想を見事に裏切って、れいなは静かにあたしを見つめていた。
その目に込められた感情は『怒り』…ではなくて、何かもっとこう複雑なもののように
思えた。
その表情に、思わず息を呑む。
174 :第4回 嵐の夜のおチビちゃん :2007/05/18(金) 00:36

「…れ、れいな?」

れいなは無言のまま、視線を逸らさずに少しずつ距離を縮めてきた。
左手があたしのTシャツの裾を遠慮がちに掴む。
真っ白で、華奢な手。
まるで再現VTRを見ているかのように、あの頃の記憶が鮮明に蘇る。

「吉澤さん…」
「え…」

顔を上げた瞬間、あたしの唇とれいなの唇の距離はゼロになった。
175 :第4回 嵐の夜のおチビちゃん :2007/05/18(金) 00:37

「…れいな、そんなに子供じゃないよ」

思考回路がショートして身動きがとれないあたしを真直ぐ捉える強い瞳。
いつものように軽口を叩くことも、大人ぶってなだめたり諌めることも出来ない。

あたしはもう完全に、目の前の17歳の少女に心を奪われていた。
176 :第4回 嵐の夜のおチビちゃん :2007/05/18(金) 00:37

「ホントに一人で平気やけん、もう帰って」
「…あ、う、うん」

あたしは慌てて立ち上がり、玄関へと向かう。

「吉澤さん」
「え?」
「これ、忘れとうよ」
「あ、ああ、そっか…」

れいなが袋に入れてくれたびしょ濡れの服を受け取り、再び玄関を目指す。

「吉澤さん」
「へ?」
「絵里とさゆ、やけん。れいなの友達の名前」
「な、名前?」
「…さっき、間違えとったやろ」
「あ、ああ、そっか、ごめん」

宙に浮いたような状態のまま、ようやく靴を履いてドアの前に立つ。
れいなは何事もなかったような顔であたしを見ていた。
…なんでそんなに冷静なんだよ、こいつ。
177 :第4回 嵐の夜のおチビちゃん :2007/05/18(金) 00:38

「じゃあ」と小さく呟いてノブに手をかける。

「…吉澤さん」

三度目に名前を呼ぶ声はやけに弱々しかった。
なんとなく振り向くことが出来なくて、背中を向けたまま答える。

「…ん?」
「れいなは…、れいなはもう子供じゃないけん」

今日何度も繰り返し聞いたセリフ。
あたしはもう観念して静かに頷いた。

「…うん、わかった」
「やけん…」
「ん?」
「…キスの意味だってちゃんとわかっとうよ」

誰かに強く掴まれているように胸が痛くなる。
動悸が激しくなる。

「…おやすみなさい」

結局、ドアを閉める瞬間のれいなの挨拶に何も返せないまま、家へと戻った。
178 :第4回 嵐の夜のおチビちゃん :2007/05/18(金) 00:38

「おかえりー。れいなちゃん、大丈夫だった?」
「…んー」
「あれ?あんた、そんな格好してたっけ?」
「…んー」

母親の問いかけなどまるで耳に入らなかった。
部屋に入り一人になっても、まだドキドキが止まらない。
何度も深呼吸をしてようやく息を整える。

…とりあえず、着替えよう。

脱いだTシャツに目をやると、一部だけやけにしわが出来ている場所があった。
右側の裾―――そう、れいなが掴んでいたところだ。
179 :第4回 嵐の夜のおチビちゃん :2007/05/18(金) 00:38

こんなに痕が残るくらい強く握っていたことに初めて気付き、あたしの胸は再び激しく
動き出す。

クシャクシャのTシャツ、真っ直ぐな瞳、囁く声、そして唇の感触。
おチビちゃん―――いや、れいなとの出来事がグルグルと頭の中を駆け巡って、あたしは
眠れない夜を過ごした。
180 :名無飼育さん :2007/05/18(金) 00:40

第4話 終わり

次が最終話…の予定です。
もうしばらくお付き合い頂ければ嬉しいです。
181 :ais :2007/05/19(土) 01:57
れいなが可愛すぎる!!!
ドキドキ感が溢れて最高です。
次回最後でちょい物足りないですけどがんばってください。
182 :名無飼育さん :2007/09/10(月) 22:57
いい展開ですね〜。
ドキドキニヤニヤしつつ待ってます。
183 :作者です :2008/01/11(金) 19:45
>>181-182
ありがとうございます。
更新を怠っていてすいません。
完結まで頑張りますのでよろしくお願いします。
184 :sage :2008/01/16(水) 19:44
れいなかわいい!!
作者さま、頑張って下さい!
185 :名無飼育さん :2008/01/16(水) 20:32
 
186 :名無飼育さん :2008/07/23(水) 18:16
>>184
ありがとうございます。
更新遅れてすいません。

『隣の家のおチビちゃん』最終話です。
187 :第5話 あたしの隣のおチビちゃん :2008/07/23(水) 18:17
あの嵐の夜から数日。
頭の中はあの日の出来事でいっぱいで、思い出すたびに顔が赤くなるのを感じる。

―――…キスの意味だってちゃんとわかっとうよ

…キスの意味、か。
それくらい、あたしにだってわかってる。
ギュッと握り締められた左手にどんな思いが込められていたか、それくらい…。

「…だー!」

頭を乱暴に掻き毟り、棚の上に置かれているTシャツに目をやる。

「…とりあえず、あれ、返さないとなあ」

れいなの部屋のカーテンは、あれからずっと閉まったままだ。
あたしはため息を一つついて部屋を出た。
188 :第5話 あたしの隣のおチビちゃん :2008/07/23(水) 18:18
いつものように練習が終わると、石川に腕を捕まれて部室へと引きずりこまれた。

「ちょっと!よっちゃん!!」
「あー?」
「あー?じゃないでしょ!しっかりしてよ、大事な試合が近いんだから!」

どうやら、練習に身が入っていないことを心配しているらしい。
自覚症状があるだけに反論も出来ない。
明後日は大学フットサルリーグの初戦。
このリーグ戦で優勝するために今まで練習してきたようなもので、その初戦は絶対に
落とすわけにいかない。
しかも、ライバルである強豪校との対戦だった。

「うん、わかってる、ごめん」
「みんな心配してるよ?なんかあったの?あたしでよければ話聞くよ?」

さすがに素直に理由を話すわけにもいかず黙り込む。
とある女の子のことが気になって練習に身が入りません、なんて言おうものなら、この
身が危険に晒されるだろう。
189 :第5話 あたしの隣のおチビちゃん :2008/07/23(水) 18:18
「よっちゃん、大丈夫?」

石川が肩を揺らした瞬間、ポケットに無防備に突っ込んであった携帯が床に落ちる。
と同時に、充電池の蓋が外れて―――――。

「あ、ごめん。…ん?」
「どわあああああああああああああ!」

焦ったあたしよりも石川が拾い上げるほうが早かった。
さっきまで心配顔だった彼女が、みるみるうちに般若のような顔に変わっていく。

「まさか、これが原因じゃないでしょうねえ」

石川がバシッと突き出した携帯電話に張り付いているプリクラの中では、バッチリと
ウィンクを決めたれいなが笑っていた。
190 :第5話 あたしの隣のおチビちゃん :2008/07/23(水) 18:19
三時間に渡るお説教のあと、話はようやくれいなの話題へと移行した。

「で、この子とはどうなってるわけ?」

携帯電話に2ショットのプリクラを貼っているだけに、「ただの隣の家の子です」とも
言えず、あたしは素直に今までのことを話した。
数ヶ月前に告白した相手に恋の相談というのもなんだかおかしな話だ。
一通り話を聞いた石川が最初に口にした言葉は…。

「…はあ、情けない」
「なんだよ、それ」
「だって、それってもう告白じゃん」
「…あー、やっぱ、そうだよなあ」
「はあ?そうに決まってるでしょ?それ以外ありえないでしょ?鈍感バカ!」

石川だけには言われたくないセリフだけど、今それを指摘するのは自殺行為に近い。
191 :第5話 あたしの隣のおチビちゃん :2008/07/23(水) 18:19
「だいたい、よっちゃんだって好きなんでしょ?」
「んー、まあ…」
「はっきりしなさいよ!」

胸倉を掴まれて前後に揺さぶられる。
やっぱり、石川にはごまかしは通用しない。

「好きだ、………………と思う」
「なによ、その間は」

正直なところ、よくわからないというのが本音だ。
れいなはずっと隣にいたおチビちゃんであり、大切な存在であることには違いない。
恋愛対象かと問われると、はっきりとした自信はない。
だけど、それを否定してしまうと、今心の中で燻っている感情を説明する術を失って
しまう。
つまりその、もう一度キスをしたいとか、もちろん、それ以上のことも…。
192 :第5話 あたしの隣のおチビちゃん :2008/07/23(水) 18:19
「もう、しょうがないなあ、あたしに任せて」
「は?今、なんつった?」
「あたしに任せてって言ったの」
「任せるって、一体何を…」
「よっちゃんがその子に告白する機会を作ってあげる」
「ちょ、待っ…」
「題して、あの子のハートにシュート!大作戦!!」

自信満々に腕を組む石川に、あたしはただ黙って従うことしか出来なかった。

石川の作戦は『明後日のリーグ戦にれいなを呼び出しゴールを決めたら告白する』
という、ドラマやアニメで使い古された手法だった。
「フットサルに私情を持ち込まないで!」なんて散々説教していた張本人がこんな
作戦を立てたという矛盾に首をかしげつつも、煮え切らない自分の気持ちを吹っ飛ばす
いいチャンスだと思った。
ゴールを決めるのはチームにとっても悪いことではないし、勝利への第一歩だし。
193 :第5話 あたしの隣のおチビちゃん :2008/07/23(水) 18:20
 
194 :第5話 あたしの隣のおチビちゃん :2008/07/23(水) 18:20
その日の夜、あたしは久しぶりにれいなの部屋の窓を叩いた。
電気がついているのでいることはわかっている。
ゆっくりとカーテンが開き、困ったような顔をしたれいなが顔を出す。
続いて窓が開き、あたしとれいなの空気が交わる。
…ちくしょう、心臓がバクバクとうるさい。

「…よっ!」

努めて何事もなかったかのように挨拶をすると、強張っていたれいなの顔が少しだけ
柔らかくなる。

「これ、あんがと」
「…あ、うん」

あの日借りたTシャツを手渡すと、うつむいているれいなの耳はみるみるうちに真っ赤
になった。
そんな姿を見ちゃうと、もうどうしようもなく堪らない気持ちになる。
今すぐ窓を飛び越えて抱きしめたいと思う。
195 :第5話 あたしの隣のおチビちゃん :2008/07/23(水) 18:20
「今度さ、試合あるんだ」
「…試合?」
「うん、フットサルの大会。明後日なんだけど」
「そっか」
「よかったらさ、見に来てよ」
「え?」

れいながパッと顔を上げる。

「…れいな、行っていいと?」

そんなかわいい訊き方すんなよ。
動揺を悟られたくなくて、あたしはわざと変な顔をして答えた。

「いいに決まってんだろー」
「…プ、なん、その顔ー」

れいなはようやく笑顔を見せてくれた。
196 :第5話 あたしの隣のおチビちゃん :2008/07/23(水) 18:21
その笑顔を見た瞬間、あたしの中の何かが壊れた。

「…まいったなあ」
「は?」
「もう降参だわ」
「なん言っ…ちょ…、なんしとうと!?」

自分の部屋の窓に足をかけ立ち上がる。

「ちょい危ないから離れて」
「離れてって、一体…」
「いーから、ほれ」

不安そうな顔をしたれいなは、だけどあたしの言うとおりに窓から離れる。
あたしは、今度はれいなの部屋の窓に足をかけ、ひょいっと部屋の中へと飛び込んだ。
197 :第5話 あたしの隣のおチビちゃん :2008/07/23(水) 18:21
「バイセコー大成功!」
「…意味わからんし」

正直、自分でもよく意味がわからない。
発した言葉はもちろん、今の行動の意味も。
だけど、このモヤモヤした気持ちをぶつけるのは今しかない、そう思った。
あの嵐の夜、まるでスイッチが入ったかのようにあんな行動をとったれいなの気持ちが
わかるような気がする。

―――――ごめん、石川、作戦なんか待ってられない。

あたしは目の前にいるおチビちゃんを抱きしめた。
198 :第5話 あたしの隣のおチビちゃん :2008/07/23(水) 18:21
勢いで抱きしめたものの、ここから先はまるっきりノープラン。
れいなは固まっている。
あたしも固まっている。
とりあえず何か話さないとと思い、必死で言葉を探す。

「…ほっそ」
「…人のこと言えんやろ」

いつものように答えてくれたことで少しだけ気持ちが軽くなった。

「なんかさー、昔もこんなことなかったっけ?」
「…そうでしたっけ?」
「うん。れいな、よく泣いてたからなあ。そのたびにこうやって慰めてあげてたじゃん」
「置いてかれた覚えしかないんですけど」
「そうだっけ?」
「そうです」
「でもさ、なんだかんだ結構れいなのことかわいがってた気がするんだけど」
「はあ?むしろ吉澤さんに泣かされたことの方が多い気がする」
「そんなことないだろー。よくあたしのランドセル掴んで離さなかったくせに」
「…そんな昔のこと、覚えとらん」
「あたしはよーく覚えてるけどさ」

なんでもないような会話をしていても、あたしの心臓はずっとドキドキしたままだった。
密着しているれいなにその音が聞こえないように離れたいけど、離したくない。
199 :第5話 あたしの隣のおチビちゃん :2008/07/23(水) 18:22
「…あのー」
「あのときのれいな、ウザかったけどかわいかったなあ」
「あの!」
「ん?」
「…いつまで、こうしとうと?」
「んー、ずっと、かな」
「はあ?」
「…いや、だからさー」

上手い言葉が見つからない。
今さら「好き」とかそういうのもなんかしっくりこないし。

「つーかさ、れいなだって離れようとしないじゃん」
「…それは、吉澤さんが離さんからやろ」
「へー、あたしが離さなかったらずっとこのまんまでもいーんだ?」
200 :第5話 あたしの隣のおチビちゃん :2008/07/23(水) 18:23
思わずいつものような軽口を叩くと、れいなはあたしの肩に頭をくっつけて、こう言った。

「…別に、いいっちゃけど」

その言葉に今度は心臓がバクバク鳴り出す。
口から心臓が飛び出しそうという感覚はこういうことを言うのだろうか。
情けないくらい震えている腕でれいなをギュッと抱きしめると、れいなはあたしの背中に
手を回してくれた。
その途端、背中から暖かい何かが伝わってくる。

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