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シースシース

1 :ただの名無しでしたから :2014/02/15(土) 22:09
ジャンルはファンタジー。
娘。、べりきゅーなどなどオールキャスト。
主役は鞘師さんで。

よろしければお付き合いいただければうれしいです。
854 :ただの名無しでしたから :2015/10/18(日) 23:22


あー、もう最悪……

寝坊した。

決勝戦当日は無理だったが、せっかく手に入ったRGSのチケット。

なのに、午前中の試合が見れなかったなんて……

パンフレットを見ながら、次の試合会場へと一人の少女は小走りで向かう。

次が準々決勝の試合。

RGSではグループ決勝からは同時に2試合が始まる。
それは公平さを期すためであるが、観客とすれば見る試合を選ぶ必要があった。

次に行われるのは、圧倒的に片一方に人気が集中していた。
近衛騎士団を倒したチーム℃-uteの試合。
その注目度は一気に跳ね上がり、会場にいる人間のほとんどがそちらの試合会場へ向かっていた。
そして、その裏で行われるのが、亜佑美たちの試合だった。

少女も、それに遅れをとってはいけないと、急いで会場へと向かう。

その時。

角を曲がった瞬間、彼女は不意に人にぶつかった。
855 :ただの名無しでしたから :2015/10/18(日) 23:22
とっさに腕を伸ばし、相手の腕を引っ張り、お互いに後ろに倒れることなく、その場に踏みとどまる。

「ごめんなさい」
「すいません」

ぶつかった二人の声が重なった。

「うえむー、大丈夫?あなたも、怪我無い?」

朋子が後ろから問いかけると、二人はコクコクと頷いた。

「すいません。私が急いでたので」
「いやいや、私もや。試合始まるから急いでて」
「試合?」
「そう。この後試合やねん」

「ほら、急がないと……」

朋子の言葉に「ほんまにごめん」と再度言い、あかりは走り出す。
その後ろに朋子と、亜佑美も続く。

チラッとすれ違いざまに、亜佑美は少女の持つ違和感に気付いた。
彼女の腰にさげられた鞘。

そこには絶対になくてはならないものがなかった。

忘れた?

咄嗟に思ったその考えをすぐに否定する。
そんなことはありえない。
抜き身の剣を放置するなんて、ありえない。
856 :ただの名無しでしたから :2015/10/18(日) 23:23
「うえむー、本当に大丈夫?」

先頭をあかりと代わった朋子が声を掛けるが、背後から返事は無い。

「うえむー?」

再度、横に並んで問いかける。
あかりは、十分に間を取ってからしぼりだすように答えた。

「めっちゃかわいかった」
「え?」
「さっきの子」
「は?」
「めっちゃ好きなんやけど」

朋子と亜佑美は顔を見合わせる。
けれど、鞘の違和感が印象に残っており、顔まではよく覚えていなかった。

「まぁ、大丈夫そうでなによりだけど」

呆れたように亜佑美が言った。
あかりは、そのままご機嫌で、試合会場へと入っていく。
857 :ただの名無しでしたから :2015/10/18(日) 23:23
そして、さっきの少女は、3人の姿を見送った後、パンフレットを開いていた。

うえむー。

それが、植村あかりのことを指しているのは、残っているチームの名簿を見れば理解できた。

へぇ……

それは、予感でしかなかった。
でも、すれ違いざまにチラッと目が合った人物。
亜佑美。
あの子なら、面白い試合を見せてくれそうと思えた。

だから……

少女は来た道を引き返す。

もう一試合。

見に行くのはそっちに決まった。
858 :ただの名無しでしたから :2015/10/18(日) 23:25
>>850-857 更新終了です。

>>849 ありがとうございます。そのあたりは後々に……ということで引っ張ります。
859 :名無飼育さん :2015/10/19(月) 16:36
どんな内容になるか楽しみにしてますw

今回出てきたのはあの子ですね?うえむーが惚れたかw
860 :ただの名無しでしたから :2015/11/12(木) 00:11


「お待たせ」

試合会場へと到着する。
扉を開けて入っていく3人を待っていたのは、由加だけだった。

「紗友希は?」

朋子の問いかけに、由加は首を振る。

「悪気があったわけじゃないんだよ」
「わかってる」

あかりは即答する。
あかりとしては、いつものことだった。
紗友希が怒るのは。

その時、鐘が鳴り響く。
試合開始の合図だった。

怒号にも満ちた歓声が、壁の向こう側から響いてくる。

「紗友希は――」

そう言いかけた時、背後の扉が開き、紗友希が現れた。

「ごめん」

それが、あかりに対してではなく、遅れそうになったことに対してだということは、誰しもが理解していた。
それだけ短く言い捨てて、紗友希は率先して部屋を出て行く。
861 :ただの名無しでしたから :2015/11/12(木) 00:11
まぶしい太陽の光が目に飛び込んでくる。
何度やっても、この数秒間は目が眩む。

周りを覆う壁の上からは、たくさんの観衆が声を上げていた。

紗友希はそのまま前に進んでいく。
それ以外の4人は、そのまま用意された椅子へと並ぶ。
2列に並んだ前には由加たち3人。
亜佑美はやはり一人だけ後ろの列に座った。

紗友希は前を見てばかりいた。
一度も振り向かないままに。

ただただ、自分の前に対峙する相手を見ていた。

あかりに言ったことは悪いとは思っている。
でも、自分が間違っているとまでは思っていない。

現状を知るべきだ。みんな。

佳林の不在と強敵の出現。

楽観視していい理由なんてどこにもない。
気を引き締めていかないといけない。

それなのに。

「でも、大将やから私が戦うんじゃないし」

あかりの言葉がもう一度再生される。

勝たないといけない。
私達が。
絶対に。
862 :ただの名無しでしたから :2015/11/12(木) 00:11
試合開始の合図とともに、紗友希は距離を詰める。
相手も同じ剣使い。

男性でもあり、体格は相手の方が一回り大きく。
紗友希が振り切る前に当てられた剣戟に、剣を弾かれそうになる。

負けられない。
最後まで、絶対に勝たないといけない。
うえむーはわかってない。
勝たないといけないのに。
佳林がいないから。
佳林の代わりなんて誰も務められない。
ぽっと出の人数合わせに、自分達の運命を任せられるわけがない。
だから、私達が勝たないといけないのに。

紗友希の頭にあったのはそれだけ。

ただただ、それだけを思い、剣を振っていた。

カン、カンと連続的に剣が打ち合う。
その様子を後ろから見ていた亜佑美は気付いていた。

一見すると互角のようだったが、それは時間の問題のようだった。
力は相手が上だったが、スピードは紗友希の方が断然上だった。
それでも、単調ともいえる紗友希の攻撃に、相手が遅れていたのは最初だけ。
工夫も何も無い一本調子な連撃は、本来の紗友希のそれとは大きく違っていた。
863 :ただの名無しでしたから :2015/11/12(木) 00:11
紗友希の連撃の途中で割り込まれた攻撃が、彼女の肩に襲い掛かる。
体を捻って衝撃を逸らせるが、バランスを大きく崩した紗友希の腕に、そのまま相手の剣が叩きつけられる。

バシンという音と、手からこぼれる剣。
紗友希が顔を上げたときには、もう目の前に剣先が向けられていた。

相手を殺してはいけないという厳格なルールのもと、RGSではこのような光景が多く見られる。

相手に負けを悟らせるという形だった。

「負けました」

上げた顔を伏せて、紗友希は搾り出すように告げる。

歓声が沸きあがる中、紗友希は剣を拾って戻ってくる。

目を合わせようともせずに、じっと下をみつめたまま。

「紗友希」

由加の言葉に、彼女は「ごめんなさい」と力なく答え、タオルを受け取る。
そのまま、由加の横に座り込む。
864 :ただの名無しでしたから :2015/11/12(木) 00:11
ベスト8。
この舞台に残っているのは、単純計算でこの国の上位40人のうちの一人。
簡単な相手だとは思っていない。
しかも、先鋒というのは、弱い相手が来ることが少ない。

わかっているつもりだった。

でも、戦い終わっても、相手の顔すらはっきりと思い出せない。
自分のせいだ。
集中できていなかったから。

勝たないといけなかったのに。

溢れてくる涙を隠すように、紗友希はタオルで顔を覆った。

右腕には赤い痣がくっきりと残るが、その処置すらしようともしない。
ただただ、タオルで顔を覆って座るのみ。

朋子が医務室へいくことを薦めるが、首を横に振るだけだった。

「きー」

あかりの呼びかけにも、顔すらあげることはない。

「私、勝つから」

あかりはそれだけ言って立ち上がる。

次はあかりの試合だったのだから。

私が勝てなかったのに、あんたが勝てるわけ……

口には出さなかったが紗友希が思ったのは、そんなこと。

そして、そんなことを考えてしまう自分に腹が立った。

自分が負けたのは、彼女のせいではない。
そんなこと、当たり前なのに。
865 :ただの名無しでしたから :2015/11/12(木) 00:11
2試合目が始まる。

あかりの振り回す槍は、その速度とパワーをもって相手の侵入を抑えている。
たとえ相手が男性であっても、剣を相手にした場合の、絶対的なリーチの違い。
それによって攻めと受けがはっきりと分かれた形だったが、その均衡は不意に崩れていく。

あかりの槍が払いから突きへと転じた瞬間。
避けるとともに一気に間合いを詰められて勝負は決まった。

やっぱり……無理でしょ……

うなだれながら戻ってくるあかり。

「きー、ごめん……」

その言葉に紗友希は咄嗟に言葉がでなかった。
謝られるとは思っていなかった。
攻められて然るべきは自分かもしれないのに。

自分の気持ちが、ひどく卑しく映った。

あかりは少なくとも自分の力を出し切っていた。
相手が強かっただけなのは、誰が見てもわかることだった。

それなのに……

0−2。

1勝でもすれば、大将戦に望みを託すことができるが、現実としてそれすら危うくなりそうな状況。
866 :ただの名無しでしたから :2015/11/12(木) 00:12
相手は強い。

おそらく由加も勝つことは難しい。
もしも、朋も負けてしまったら……

自分のせいで。
人のことばかり気にしていて、4−0にすることばかり考えていた自分のせいで……

由加の試合が始まり、いつの間にか隣に座っていたあかりが、自分の手を握っていたことに気付く。

「うえむー……」
「大丈夫。絶対に」

あかりは、自分の方を向く紗友希に視線を合わさず、前を見たままそれだけ言った。

しかし、現実は紗友希の予想通りに進んでしまう。

由加も敗れて0−3。
残り2人を残しての状況はそれだった。

亜佑美と朋子はお互いに顔を見合わせた。

「大丈夫?」
「こっちのセリフだと思うけど」

朋子の言葉に、亜佑美は思わずつっこんだ。
ニヤリと朋子は笑う。

自分が負けることは微塵も思っていなかった。
けれど、それは紗友希のような形ではなかった。

自分への自信と、次の亜佑美への信頼。

差し出した亜佑美の手をパチンと叩いて、朋子は立ち上がる。
867 :ただの名無しでしたから :2015/11/12(木) 00:12
「紗友希、まだ終わってないから」

前に座る紗友希の肩をポンと叩き、そのまま歩き出す。

0−3。
残り2つ勝たなければいけない状況だった。
たとえ朋子が勝っても、亜佑美が負けてしまえば意味が無い。

勝ってようやく状況は五分といったところ。

それでも、朋子はどこか確信していた。
自分さえ勝てば、後は大丈夫と。

まだ会ってから数日しか経っていない。
剣を交えたのも一度きり。
それでも、信じていた。
佳林と同じくらい、亜佑美の強さを。

そして、相手の力を信じているのは亜佑美も同じだった。

おそらく朋子は間違いなく勝つだろう。
亜佑美はそう確信していた。
今までの3人を見ていて、朋子の力では苦戦はしても負けることは想像しにくかった。

つまり、自分の出番が来るということ。

そもそも、紗友希が負けた時点で、自分に回ってくることはほぼ確定的だったのだが。

自分に彼女達4人の、そして佳林の運命が掛かっている。
負けるわけにはいかない。

負けるつもりはなかったが、それでも不安要素は一杯あった。
868 :ただの名無しでしたから :2015/11/12(木) 00:12
そんなことを考えているうちに、朋子の勝負が決まる。

案の定、朋子は苦戦をしたが勝利を収める。

1−3での大将戦。

自分が勝たないといけない試合。

「お願いします」

由加が立ち上がり頭を下げる。
次いで、紗友希もあかりも頭を下げた。

「勝つから。絶対に」

亜佑美はそう言って、立ち上がる。

「任せたよ」

乱れた息のまま、戻ってきた朋子と対面する。
差し出された拳を、軽く打ち合った。

剣を手にする。

考えてみれば、この模擬刀すら手にするのは初めてだった。

普段自分が使っている剣よりも少し刃が厚くて重い。
長さも少しだけ短いように思ったが、気になるほどではない。

相手も同じ剣使い。
違うのは両手に持っているということだけ。

二刀流を相手にするのは初めてだった。
訓練中に遊びでやることはあっても、その程度のもの。
869 :ただの名無しでしたから :2015/11/12(木) 00:12
二刀流の最大の特徴は、攻撃ではなく防御だと聞いたことがある。
両手での連続した攻撃は、熟練者であっても難しい。
攻撃の主体となるのは片一方だけで。もう一方はあくまでも補助。
代わりに防御は両方で行える。

だから、一番気をつけなければならないのは、一方で攻撃を受けられたときに、もう一方からくる攻撃というパターン。

そこまで考えたとき、試合が開始される。

まずはこの剣にの具合を確かめないといけない。
距離があるうちに、剣を持ち上げ、まずは軽く振ってみる。

持ったときよりも分厚い分、振ったときに重みがかかる。
剣自体の重心も普段より先のほうにある感じだった。

再度横に振ろうとする前に、相手の剣が迫ってくる。

避けることもできたが、あえて剣で受ける。
衝撃が腕を通って肘に抜けていく。

衝撃もいつもの感じでうまく流すことができなかった。

相手の攻撃は、二刀流であることを生かして左右から次々とやってくる。
自分の知識が若干嘘ではないか疑いながらも、亜佑美はそれらを全て受けていく。

相手が片手で振っているから、こちらの剣がぶれることは無い。

次第に、衝撃を流すコツをつかんでくると、亜佑美は受けることから避ける方に移行し始める。

相手の攻撃のほとんどを避け、一部を剣で弾く。
870 :ただの名無しでしたから :2015/11/12(木) 00:12
流れるような相手の攻撃だったが、隙はやはり大きかった。
自分が剣一本でやっているほうが、よほどスムーズだと思うほどに。

その時、亜佑美は気付く。

いざ始まってみると、勝たなければいけない試合ということを忘れかけていたことに。
この試合を楽しんでいる、といった方がぴったりとくるほどに。

相手の左の剣を弾く。
次に来る右を避ける。

その次に来た左を下から弾き上げると、剣が宙を舞った。

相手の視線が跳ね上がった剣へと向く。
その瞬間、亜佑美の剣が相手の胴を鋭く薙いだ。

相手は悶絶し、崩れ落ちる。

思わず咄嗟に出てしまった一撃に、亜佑美は少し申し訳なく思う。
苦しませずに、相手に負けを悟らせるという方法もあった。
ただ、そのことを忘れて、いつものように相手を倒しきってしまった。
肋骨も含めて、骨も折れてしまっているに違いなかった。

それでも、もう一方の剣を杖のように立ち上がろうとする相手に、亜佑美は剣を払い飛ばす。
そのまま地面へと再び倒れこんだ相手は、今度こそ負けを認めた。
871 :ただの名無しでしたから :2015/11/12(木) 00:13
ふぅ……

それほど時間が経っているわけではなかった。
それでも、全身に汗をびっしょりかいていた。

試合終了の合図に、歓声が一気に沸きあがる。
それを尻目に、亜佑美はそそくさと朋子たちの下へと戻っていく。

佳林のためにも、余り目立ちすぎるわけにはいかないのだから。

「お疲れ」

朋子が差し出すタオルを受け取る。

「助かりました。私達の力が及ばないばっかりに」

その由加の言葉に続くように、あかりもありがとうを重ねる。

「そんなこと、気にしないで」
「やっぱり、ほんまに強いな。朋の言った通りや。なぁ、きー」

ドンと紗友希の背中を叩く。

「あぁ……そうだね」

紗友希はそう言うと、ゆっくりと4人を見回した後、
「ごめんなさい。みんな。私のせいで」と頭を下げた。
872 :ただの名無しでしたから :2015/11/12(木) 00:13
「そんなこと無いわ。私もうえむーも負けてしまったし」
「でも……」
「ええやん。別に勝ったんやし。なぁ、朋?」
「そうそう。次勝ってくれたら問題ないから」

肩をポンポンと叩かれ、紗友希は顔を上げる。
そして、再度亜佑美を見て、もう一度頭を下げた。

「疑っていてごめん。あなたのこと信じてなかった」
「別に……気にしてないわ。私もどこまでできるかわからないし」

そう言って、控え室に戻ろうと試合会場から出たときに、見知った顔があった。

「戻りました……佳林さんの意識が……」

昨日からずっと佳林に付き添っていた男が、息を切らせながら、そう告げた。
873 :ただの名無しでしたから :2015/11/12(木) 00:13


これで私もお役ごめんかと、亜佑美がそう思ったのもつかの間。

結局のところ、意識は戻っているが、立ち上がることが精一杯なほどの状況であり。
亜佑美は引き続き代役を務めることとなることを、佳林のところへ行く途中に教えられた。

最悪の状況は脱したというだけ。
それでも、5人にとっては朗報でしかなかった。

病室に詰め掛けて、佳林を囲む4人を、亜佑美は戸口で少し離れて見ていた。

試合は残り2試合。
今夜の準決勝と、明日の決勝のみ。

パンフレットを開くするが、次の相手の試合結果すら見ることなく会場を飛び出したため、対戦相手すらどちらかわからなかった。

それでも、さっきの試合のような形が、この後続いていくことは、容易に想像できた。
つまり、このチームの命運が、自分の剣に掛かっているということ。

試合から離れ、改めて考えていくと、その重みがのしかかる。
けれども、あそこで横になっている少女が、それを受け止めるはずだったのかと思うと、自分も頑張らないといけないという気持ちになる。
874 :ただの名無しでしたから :2015/11/12(木) 00:13
「石田さん」

不意に由加に呼びかけられる。

「佳林ちゃんが、話したいって」

そう続けられ、亜佑美はベッドに近づき、佳林の横へと立つ。

「もう大丈夫?」
「はい、おかげさまで。ありがとうございます」

寝たままの状態で、佳林は首だけを少し曲げた。

「朋が無理を言ったようで、本当にすみません」
「ううん、気にしないで。どこまで代わりができるかわからないけど」
「いえ、ありがとうございます」

「大丈夫やで、この人、さっきの試合もめっちゃ強かったから」

横からあかりがそう言って、亜佑美の背中をポンポンと叩いた。

「でも、できるだけ迷惑を掛けないように、私達で試合を決めちゃわないと」
「まーた、きーはそう言うことを言う」
「別にいいでしょ。回らないに越したことはないんだから」

その掛け合いに、試合前のギスギスした雰囲気はなかった。
875 :ただの名無しでしたから :2015/11/12(木) 00:13
「ま、佳林ちゃんはここで優雅に寝て待っててよ。私達がきっちり優勝してくるから」

朋子が言った言葉に、みんなはうんうんと頷いた。

「ありがとう……ごめんなさい。何もできなくて」

顔を下に向けた佳林の目元には、涙が浮かんでいた。

何もできない自分が悔しかった。
大会が始まってから、1試合も戦わないままに、終わってしまうなんて。

もしも、本当に優勝してしまったら……

私はどうすればいいの?
RGS優勝チームの大将は、近衛騎士団の長となることが決まっているのに。
こんなズルをしている私が、そんなことになっていいの……

その時、震える肩にそっと手を置いたのは由加だった。

「大丈夫。みんな知ってるよ。佳林ちゃんがどれだけ強いのか。
どれだけ一生懸命にやってきたか。だから、大丈夫。胸張って待ってて」

「そうだよ、佳林ちゃんがいなかったら、私達、RGSにすらでようなんて思ってなかったんだから」

紗友希はそう言って、佳林の手を握る。

「私らを鍛えてくれたのも佳林やん。佳林がおらんかったら私らこんなに強くなってないで」

「私達は佳林ちゃんのために戦ってるんだ。佳林ちゃんと一緒に、この国を変えたいんだよ。
RGSなんてただの通過点に過ぎないんだ。佳林ちゃんが本当に戦わなければいけないのは、その先。
だから、まずは私達でその道を切り開くのさ」

頭をポンポンと叩きながら、朋子は言う。

佳林は、ただただ泣きながら頷くだけだった。
876 :ただの名無しでしたから :2015/11/12(木) 00:15
>>860-875 遅くなりましたが更新終了です。

>>859 ありがとうございます。一応彼女は本編の主役なので。少しでもいいので、絡ませたいですね。
877 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:39


どれくらい時間が経っただろうか。

傍から見ているさくらですら、そう思うほど。
二人の攻防は続いていた。

リールへの侵攻をとめるために、さくらと亜佑美はここに来た。

「私達を止めたければ、戦って止めてみせて」

佳林がそう言って始まった戦い。

絶対に負けるわけにはいかない戦い。

でも、石田さんは勝てるんだろうか?

そんな思いが頭によぎる。

さくらの目からすれば互角にしか映らない。
早すぎる剣戟に、細かな優劣は判断できなかった。

実際には、互角ではなかった。

徐々に押されているのはあゆみの方。

しかしそれは、剣の技量だけが原因というわけではなかった。
あゆみが本来使っているはずの剣は、さくらの手にあった。
それは決してさくらが使うためではない。

この戦いが始まる前に、あゆみはその剣をさくらに渡した。
878 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:39
理由は一つ。

この剣を使ってしまえば、佳林を殺してしまうかもしれないから。
手加減などできる相手ではない。
だからこそ、強力すぎる剣は、相手の武器もろとも切り払ってしまうのだから。

佳林を殺して勝っても意味は無い。

亜佑美の目的は、ザフトの協力を得ることであり。
遺恨を残すことでは決してないんだから。

絶対に殺してはいけない。
でも、絶対に勝たなければいけない。

それは、まさしくRGSと同じ条件。

違いを強いて挙げるなら、お互い使っているのは真剣だということ。

ただし、それ以外のもう一つの決定的な違いを、亜佑美は気付いていた。
そして、それがこの状況を打開する切り札であるということに。

後はタイミング次第。

それが、あの時とは決定的に違った。

勝利への道筋ができているか否か。

それが、あの時……決勝戦との一番の違いだった。
879 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:39


矢島舞美。
石田亜佑美。

お互いの名前がコールされた瞬間が、RGSの2番目の盛り上がりを見せた場面だった。
もちろん、一番の盛り上がりは決勝戦の決着が着いた瞬間なのだが。

ここまでの勝敗は2−2。
朋子と紗友希が得た勝利で、互角の状態で回ってきた決勝戦の第5戦目だった。

優勝決定戦。

覚悟はしていた。
大将になった時から。
それでも、重圧は半端ではなかった。
けれど、その大半は相手が舞美ということ。

勝てるのか。
今の自分に。

勝てる。
絶対に。

その思いが交互にやってくる中で、舞美の剣は、一気に亜佑美に襲い掛かる。
880 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:39
現近衛騎士団長すら止めれなかった一撃。

待ち構えていたそれを受け止めると、少し体の緊張がほぐれていく。

だが、舞美の剣戟はそのまま次々とやってくる。

剣を打ち合うたびに、剣を落としそうなほどの衝撃がかかる。
受け流すなんてレベルではない。
合わせて付いていくのが精一杯。

相手が振る剣を、最小限の動きで受け止めていく。
それが、今の亜佑美にできる精一杯。

佳林のハッパが効いたのか、準決勝を4−0で終えたために、亜佑美にとってはこれがRGSの2試合目。

まだまだ戻りきっていなかった実戦の勘を、舞美の一撃一撃が強制的に呼び覚ましていくようで。

勝機のまったく見えない戦いではあったが、亜佑美に悲壮感はなかった。
というより、他の考えを巡らしている余裕すらなかった。
881 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:40
会場はいつしか静まり返っていく。

舞美が相手を倒すのに数分以上掛かったのは、この決勝戦が初めて。

そう言う意味では、彼女達は全て大将戦まで回ってきていた。

それは、舞美のワンマンチームということを意味しているのではない。
現近衛騎士団相手に、大将戦を前に3−1になっているのは、間違いない事実であった。

5−1。
それがここまできた彼女達のすべてのスコア。

必ず負ける1は、その一人が人数合わせであったという事。

まだビーシー教団の動きが活発化する前。
過激な宗教集団とは一般に言われているが、ツェーン以外では特に目だった活動をしているわけではない。
それでも、教団員は少なからず全国に存在する。

彼らの目的。
来るべき時のために、軍を手に入れるためには、RGSというものは好機だった。
882 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:40
だからこそ、通常ザフトの人間以外のエントリーできないこの大会にも、彼らは団員を送り込んだ。
舞美を初め、4人の精鋭を。
そして、手引きをするためにザフトの教団員を1名入れる。
この形で結成されたチームは、℃-uteと名づけられた。

もちろん、愛理はその中には含まれていなかった。
彼女が他国へとでていくことはない。
そもそも、教団の建物から外にでることすら稀で。
舞美自身も徐々に愛理と会う機会が減っていっている頃だった。
トップとして君臨する梨沙子が、愛理と入れ替わるのももう少し先のこと。

教団には義理がある。
愛理と自分の居場所を作ってくれたのだから。

だから、それに全力で答えるのは、当然のことだった。
883 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:40
でも……

舞美は思う。

自分が求めていたのは、愛理との生活。

自分と離れて、愛理が無事に生きていくこと。
それが、自分が望んだ形とはずれていることは、なんとなく気付いている。

そして……

もしもこの戦いに勝ったとしたら。

近衛騎士団となってこの地に留まる自分は、愛理と会えるのだろうか。

剣が激しくぶつかる。

この大会自体を少しなめていた舞美にとって、亜佑美たちの存在は少し驚きがあった。
同時刻での対戦が組まれる上、自分達は大将戦までもつれ込むため、彼女達の試合を見たことはなかった。

そもそも、相手なんて見る必要はないと思っていた。

それは慢心ではなく、確固たる自信。

だが、それは少し目論見が外れたと舞美は自分に言い聞かせる。
少なくとも、互角で自分のところまで回ってくるとは思っていなかった。

ましてや、自分がすぐに勝負を決めきれないなんて。
884 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:40
舞美は気付いている。
打ち合うごとに、亜佑美の反応が鋭くなっていることに。

そのうちに、相手からの攻撃が挟まれ始める。
それは一閃ごとに鋭く、舞美に迫っていた。

リーチでは圧倒的に舞美が有利であったが、その分、距離を詰められるとどうしても不利になる。
その近い距離感へ踏み出してくる亜佑美を、引き離すことは難しかった。

縦、横、斜め。

朋子たちですら、光の線が走るように錯覚するほどの剣の流れを、お互いは完全にコントロールしていた。

「すごい……」

思わず漏らしたのは紗友希。
言葉に出さないが、驚いているのは他の3人も同じ。

ただただ繰り返される攻防に、観衆は静まり返ったまま。
そうして、剣と剣の打ち合う音だけが響き渡る。
885 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:41
当人たちは、そんなことには気付いていない。

相手の視線、呼吸、そして意識さえも。
すべてが情報として頭に入り込んでくる。
それらすべての情報を、瞬時に計算するよりも、更に速く動いていく剣。

自分達も十分に知覚できていないような攻防を繋ぎとめているのは、勘だった。
だからこそ、その曖昧さがズレとなり、次第に彼女達の体に襲い掛かる。

斬れないはずの剣であっても、彼女達の剣速をもってすれば、掠めただけで皮膚が裂けて血が浮き上がった。

どこまでも続くかと思われたその攻防だったが、終わるときは一瞬。

そのきっかけは、彼女たちの預かり知らぬところで突然やってきた。

それは、ほんの些細な差だった。

亜佑美の方がリーチが短いから。
舞美の方がリーチが長いから。

より踏み込んでいた亜佑美の剣の先が、舞美の剣の根元へと当たる。

受け止めた舞美の剣が折れる。

彼女達の速度についてこれなかったのは武器の方。
殺すことのないように、刃を落とし、強度を落として作られた剣。
886 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:41
ただし、それは亜佑美の方も同じ。

ただ、位置が違っただけ。

剣先だったために、剣の半分以上を残した亜佑美と、根元だったために刀身が全てなくなった舞美。

カランカランと離れた地面に落ちて転がるその剣が止まるよりも速く。
亜佑美の剣が、舞美の眼前に差し出された。

避けることはできた。
それでも、舞美はしなかった。

剣が無くなった以上、もう戦うつもりは無かった。

負けたつもりはない。
自分の刀だったのなら。

それは、亜佑美も同じ。
勝ったつもりはない。
真剣だったなら、こんな結末はありえない。

それでも―――

亜佑美の勝利を告げるアナウンスとともに、大歓声が巻き起こる。

朋子たちが駆け寄ってくる。

けれど、たどり着く前に、亜佑美の体はその場に崩れ落ちる。
体はとっくに限界を迎えていた。
緊張が切れた瞬間に、彼女は気を失った。
887 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:41


パタンと馬車の扉を閉める。
慣れ親しんだこの国とお別れだった。

RGSの余韻はとっくに収まっていた。
市場はいつもどおりの賑わいにもどっており。

窓越しにそれを眺めながら、亜佑美はこの国でのことを思い返す。

結局、朋子たちとあれ以来会うことはなかった。

亜佑美が意識を取り戻したのは翌日になってから。
そのときに、説明してくれたのは、佳林を看病していた男性からだった。

あの後、意識を失った亜佑美を、朋子たちがすぐに会場から運び出したこと。

その際に、今亜佑美の寝ているベッドに彼女を運び入れたこと。
違う部屋に寝ていた佳林と、その際に上手く入れ替わることができたこと。

そのまま、今朝にセレモニーが行われたが、佳林のことは気付かれないままに執り行われたこと。

そのまま、亜佑美は結局もう1日をベッドの上で過ごした。
男性は翌日にはもういなくなっていた。
888 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:42
かといって、朋子たちも来るわけではなかった。

新たな近衛騎士団となった彼女たちには、多忙なスケジュールが用意されており、亜佑美に会いに来るわずかな時間すらないほどだった。

まるで夢のようだった。

スラムで会った少女が、実はまだ生きているんじゃないかと思えるほどに。
あの火事はなかったんじゃないかと思うほどに。

しかし、その思いを打ち消すように、馬車の窓からは、郊外のスラムであった場所が見えた。
未だに黒ずんで放置されたそれは、確かに現実であったことを告げていた。

ふぅっと一つ息を吐き、窓から目を離し、一眠りしようと亜佑美が目を閉じたときだった。

急に馬車が動きを止めた。
889 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:42
賊?

咄嗟に思い浮かんだ単語に、亜佑美は傍らに置いた剣を取る。
窓からそっと覗いた亜佑美の目に映ったのは、2人の女性。

「ちょっと待っててください」

亜佑美は御者にそう告げると、馬車から降りた。

「黙って出ていくなんて、水臭くない?」
「近衛騎士団様は、お忙しいかと思って」

言い合って、亜佑美と朋子は笑いあう。

そして、もう一人。

じっと真剣な瞳で亜佑美を見つめているのは、佳林。

「ありがとうございました」

彼女は深々と頭を下げた。

「ううん、別に」
「お願いばかりで申し訳ないですが、最後にお願いがあります」
「何?」
「私と戦ってください」

その言葉は、どこか亜佑美は想像していた。

彼女のことはよく知っているわけではない
それでも、こうするだろうことはわかっていた。

だから、今日まで会うことがなかったことに、少しほっとしていたのも事実。
890 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:42
朋子が剣を投げる。
足元に刺さったそれは、RGSのときに使われたものと同じもの。

手にしないわけにはいかない。

彼女のために。
彼女が今後、近衛騎士団の長として過ごしていく未来のために。

亜佑美は答えずに剣を引き抜き、佳林へと向ける。

佳林もそれを確認し、ゆっくりと剣を構えた。

踏み出した一歩は二人同時。

直線的に亜佑美に向かう剣。
弧を描いて佳林へと向かう剣。

お互いに受ける気はなかった。

自分の剣が相手に届くのがどちらが早いか。
ただそれだけ。

だからこそ。

傍で見ていた朋子ですら、剣が止まるのはほぼ同時に見えた。
気付いているのは本人だけ。
亜佑美の剣が止まるよりも、眼前で剣先が止まるのが一瞬早かった。

突きか払いか。
ただそれだけの違い。
その剣が描く軌跡の差が、その一瞬の差となって現れただけのことだった。
891 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:43
たったそれだけだったが、儀式としては十分だった。
佳林が納得するための儀式としては。

「……お互い、体が万全になったら、もう一度戦ってください」

剣を降ろして佳林は言った。

「……いいよ。その代わり私からもお願い」
「はい」

「この国を、今よりもっと良くして。みんなが、平和で暮らせるように」
「はい、わかりました」

佳林はそう答えて、もう一度深々と頭を下げた。

その時は来ることはないと、亜佑美はその時は思っていた。
きっと、相手もそのつもりで言っているんだと、思っていた。
たった、それだけの口約束にすぎなかった。

そう、もしもあるとすれば、ツェーンとザフトの戦争くらいしかきっと無いはず。
なんて思っていた。その時は……
892 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:43


あの時、自分がどうして払いを選択したのか、覚えていない。

わざと負けるため、ではなかった。
それでも十分間に合うと思っていたわけでもなかった。

単純に、体が勝手に動いたのだと思う。

元々、亜佑美は突くことよりも、払うことが多い。
引き戻す必要がある突きよりも、円運動をそのまま次の攻撃に繋ぎ続ける払いの方が、亜佑美としては好んでいたから。

その意味では、相手はリアリスト。

剣を交えていてもわかる。
真面目すぎるほどの合理的な攻撃。

最低限の動きで、最高の攻撃を紡ぎだす。

その剣を受けていれば、それに対応するために、自然と亜佑美もその選択をせざるを得ない。

合理的だから、次の攻撃が読めるわけではない。
合理的過ぎるから、亜佑美の次の動きが逆に制限されてしまっていた。

だからこそ、まるで型のように綺麗な剣技が二人の間で生み出される。
893 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:43
もちろん、それが身に染み付いている佳林に比べて、どうしても無理に対応させられている亜佑美の方が不利だった。
だから、長引けばこのまま負けることは明白。

だからこそ、亜佑美はタイミングを計っていた。

その流れを崩すタイミング。

ただし、それは佳林の勝ちを意味する。
この流れから外れるということは、次の佳林の攻撃を受けきれないということにつながるのだから。

通常ならば。

ただし、亜佑美には佳林の知らないであろう事実が一つある。

RGSでは禁止されていたその力。
彼女のイアリングに宿るガーネットの力。

正々堂々と。

剣技以外の力を使うことはそれに反するかもしれない。
しかし、今はそれどころではない。

リールという一つの国の運命が掛かった戦いは、負けるわけにはいかなかった。
894 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:43
佳林の攻撃に割り込むように、剣を払う。
手首だけの動きで、それを流した佳林の一撃は、亜佑美の肩を切る。

そのまま、引き戻された佳林の剣が、もう一度亜佑美に向かってくる。

後ろに倒れるように避ける。

けれど、それはあくまでフィニッシュへの布石。
体勢を崩し、両足が地面から離れている状態の亜佑美では、その次の佳林の攻撃からは逃れられない。

チェックメイト。
佳林は剣をぐいっと引き戻す。

だが、それが亜佑美の囮。
相手に剣を振り上げさせる。
自分がもう避けることができないのなら、一番確実な方法で止めをさしにくるはずなのだから。
895 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:44
亜佑美の体が動く。
宙に浮いたままの彼女の体が、重力を無視した形で佳林へと向かう。
気付いた佳林が剣を伸ばす。
剣が亜佑美の脇腹を突く。
それでも、亜佑美の速度は衰えない。
剣が突きぬけ、血が舞う。

それと同時に、亜佑美の剣が佳林に迫る。

負ける。

佳林は確信する。
このまま首をはねられる、と。


ただし、佳林が感じたのは、冷たい剣の鉄の感触だけ。
亜佑美の剣は、首筋でピタリと止められていた。

「これで、勝ちでいいでしょ」

亜佑美はそれだけ言うと、術が切れてその場にしりもちを付いた。
896 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:44
「精霊術……そうですね、あなたはツェーンの人間だった」

倒れる亜佑美に手を差し伸べる。

「約束どおり、兵を引いて戦をやめて」

その手を握って起き上がりながら、亜佑美は言った。

「佳林!」
「大丈夫よ!」

駆け寄ろうとする朋子たちを手で制し、彼女は命令を下した。

「全軍に伝令を。リールとの戦は即刻停止。負傷者は敵味方問わずに救済し、国境まで撤退せよ」と。

それを聞くと、亜佑美はゆっくりとその場で倒れかかったが、すぐにさくらが彼女を支えた。
腹部の血が止まることなく、彼女の服を染めていた。
897 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:44
「回復の術が使える者か、医者はいませんか?」

さくらの問いかけに、佳林がすぐに呼び寄せる。

「大丈夫、こんなのかすり傷だって」

さくらから離れて歩こうとするが、すぐにふらついてさくらが駆け寄る。

「ダメです。石田さん、無茶しすぎですよ。でも……」
「何?」
「……格好よかったですよ」

「……ばーか、何言ってんの、小田ちゃん」
898 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:45

シースシース外伝(1) ジュースジュース 終

 
899 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:49
 
900 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:49
 
901 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:50
>>877-897 更新終了です。最後の最後に遅くなって申し訳ございません。
残りレス数が少ないことと、なにより本編主役がもう不在ということで、もう一つ考えていた外伝は書かずに、このままシースシースは終了とさせていただきます。
約2年間ありがとうございました。


>>2-743 シースシース(各章ごとのまとめは>>746
>>753-898 シースシース外伝 
902 :名無飼育さん :2016/03/09(水) 00:02
>>901
続ききてた!完結お疲れ様でした
これで最後かと思うと残念だしもう一つの外伝も気になるけど…また次の作品楽しみにしてます
903 :ただの名無しでしたから :2016/07/01(金) 22:46
>>902
遅くなりすぎましたが、ありがとうございます。まさかレスがついているとは。
近々また改めて次作(というか続編みたいなもの)を書き始める予定ですので、またお付き合いいただけるとうれしいです。その際はこちらのスレにお知らせは書くつもりです。

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