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シースシース

877 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:39


どれくらい時間が経っただろうか。

傍から見ているさくらですら、そう思うほど。
二人の攻防は続いていた。

リールへの侵攻をとめるために、さくらと亜佑美はここに来た。

「私達を止めたければ、戦って止めてみせて」

佳林がそう言って始まった戦い。

絶対に負けるわけにはいかない戦い。

でも、石田さんは勝てるんだろうか?

そんな思いが頭によぎる。

さくらの目からすれば互角にしか映らない。
早すぎる剣戟に、細かな優劣は判断できなかった。

実際には、互角ではなかった。

徐々に押されているのはあゆみの方。

しかしそれは、剣の技量だけが原因というわけではなかった。
あゆみが本来使っているはずの剣は、さくらの手にあった。
それは決してさくらが使うためではない。

この戦いが始まる前に、あゆみはその剣をさくらに渡した。
878 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:39
理由は一つ。

この剣を使ってしまえば、佳林を殺してしまうかもしれないから。
手加減などできる相手ではない。
だからこそ、強力すぎる剣は、相手の武器もろとも切り払ってしまうのだから。

佳林を殺して勝っても意味は無い。

亜佑美の目的は、ザフトの協力を得ることであり。
遺恨を残すことでは決してないんだから。

絶対に殺してはいけない。
でも、絶対に勝たなければいけない。

それは、まさしくRGSと同じ条件。

違いを強いて挙げるなら、お互い使っているのは真剣だということ。

ただし、それ以外のもう一つの決定的な違いを、亜佑美は気付いていた。
そして、それがこの状況を打開する切り札であるということに。

後はタイミング次第。

それが、あの時とは決定的に違った。

勝利への道筋ができているか否か。

それが、あの時……決勝戦との一番の違いだった。
879 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:39


矢島舞美。
石田亜佑美。

お互いの名前がコールされた瞬間が、RGSの2番目の盛り上がりを見せた場面だった。
もちろん、一番の盛り上がりは決勝戦の決着が着いた瞬間なのだが。

ここまでの勝敗は2−2。
朋子と紗友希が得た勝利で、互角の状態で回ってきた決勝戦の第5戦目だった。

優勝決定戦。

覚悟はしていた。
大将になった時から。
それでも、重圧は半端ではなかった。
けれど、その大半は相手が舞美ということ。

勝てるのか。
今の自分に。

勝てる。
絶対に。

その思いが交互にやってくる中で、舞美の剣は、一気に亜佑美に襲い掛かる。
880 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:39
現近衛騎士団長すら止めれなかった一撃。

待ち構えていたそれを受け止めると、少し体の緊張がほぐれていく。

だが、舞美の剣戟はそのまま次々とやってくる。

剣を打ち合うたびに、剣を落としそうなほどの衝撃がかかる。
受け流すなんてレベルではない。
合わせて付いていくのが精一杯。

相手が振る剣を、最小限の動きで受け止めていく。
それが、今の亜佑美にできる精一杯。

佳林のハッパが効いたのか、準決勝を4−0で終えたために、亜佑美にとってはこれがRGSの2試合目。

まだまだ戻りきっていなかった実戦の勘を、舞美の一撃一撃が強制的に呼び覚ましていくようで。

勝機のまったく見えない戦いではあったが、亜佑美に悲壮感はなかった。
というより、他の考えを巡らしている余裕すらなかった。
881 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:40
会場はいつしか静まり返っていく。

舞美が相手を倒すのに数分以上掛かったのは、この決勝戦が初めて。

そう言う意味では、彼女達は全て大将戦まで回ってきていた。

それは、舞美のワンマンチームということを意味しているのではない。
現近衛騎士団相手に、大将戦を前に3−1になっているのは、間違いない事実であった。

5−1。
それがここまできた彼女達のすべてのスコア。

必ず負ける1は、その一人が人数合わせであったという事。

まだビーシー教団の動きが活発化する前。
過激な宗教集団とは一般に言われているが、ツェーン以外では特に目だった活動をしているわけではない。
それでも、教団員は少なからず全国に存在する。

彼らの目的。
来るべき時のために、軍を手に入れるためには、RGSというものは好機だった。
882 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:40
だからこそ、通常ザフトの人間以外のエントリーできないこの大会にも、彼らは団員を送り込んだ。
舞美を初め、4人の精鋭を。
そして、手引きをするためにザフトの教団員を1名入れる。
この形で結成されたチームは、℃-uteと名づけられた。

もちろん、愛理はその中には含まれていなかった。
彼女が他国へとでていくことはない。
そもそも、教団の建物から外にでることすら稀で。
舞美自身も徐々に愛理と会う機会が減っていっている頃だった。
トップとして君臨する梨沙子が、愛理と入れ替わるのももう少し先のこと。

教団には義理がある。
愛理と自分の居場所を作ってくれたのだから。

だから、それに全力で答えるのは、当然のことだった。
883 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:40
でも……

舞美は思う。

自分が求めていたのは、愛理との生活。

自分と離れて、愛理が無事に生きていくこと。
それが、自分が望んだ形とはずれていることは、なんとなく気付いている。

そして……

もしもこの戦いに勝ったとしたら。

近衛騎士団となってこの地に留まる自分は、愛理と会えるのだろうか。

剣が激しくぶつかる。

この大会自体を少しなめていた舞美にとって、亜佑美たちの存在は少し驚きがあった。
同時刻での対戦が組まれる上、自分達は大将戦までもつれ込むため、彼女達の試合を見たことはなかった。

そもそも、相手なんて見る必要はないと思っていた。

それは慢心ではなく、確固たる自信。

だが、それは少し目論見が外れたと舞美は自分に言い聞かせる。
少なくとも、互角で自分のところまで回ってくるとは思っていなかった。

ましてや、自分がすぐに勝負を決めきれないなんて。
884 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:40
舞美は気付いている。
打ち合うごとに、亜佑美の反応が鋭くなっていることに。

そのうちに、相手からの攻撃が挟まれ始める。
それは一閃ごとに鋭く、舞美に迫っていた。

リーチでは圧倒的に舞美が有利であったが、その分、距離を詰められるとどうしても不利になる。
その近い距離感へ踏み出してくる亜佑美を、引き離すことは難しかった。

縦、横、斜め。

朋子たちですら、光の線が走るように錯覚するほどの剣の流れを、お互いは完全にコントロールしていた。

「すごい……」

思わず漏らしたのは紗友希。
言葉に出さないが、驚いているのは他の3人も同じ。

ただただ繰り返される攻防に、観衆は静まり返ったまま。
そうして、剣と剣の打ち合う音だけが響き渡る。
885 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:41
当人たちは、そんなことには気付いていない。

相手の視線、呼吸、そして意識さえも。
すべてが情報として頭に入り込んでくる。
それらすべての情報を、瞬時に計算するよりも、更に速く動いていく剣。

自分達も十分に知覚できていないような攻防を繋ぎとめているのは、勘だった。
だからこそ、その曖昧さがズレとなり、次第に彼女達の体に襲い掛かる。

斬れないはずの剣であっても、彼女達の剣速をもってすれば、掠めただけで皮膚が裂けて血が浮き上がった。

どこまでも続くかと思われたその攻防だったが、終わるときは一瞬。

そのきっかけは、彼女たちの預かり知らぬところで突然やってきた。

それは、ほんの些細な差だった。

亜佑美の方がリーチが短いから。
舞美の方がリーチが長いから。

より踏み込んでいた亜佑美の剣の先が、舞美の剣の根元へと当たる。

受け止めた舞美の剣が折れる。

彼女達の速度についてこれなかったのは武器の方。
殺すことのないように、刃を落とし、強度を落として作られた剣。
886 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:41
ただし、それは亜佑美の方も同じ。

ただ、位置が違っただけ。

剣先だったために、剣の半分以上を残した亜佑美と、根元だったために刀身が全てなくなった舞美。

カランカランと離れた地面に落ちて転がるその剣が止まるよりも速く。
亜佑美の剣が、舞美の眼前に差し出された。

避けることはできた。
それでも、舞美はしなかった。

剣が無くなった以上、もう戦うつもりは無かった。

負けたつもりはない。
自分の刀だったのなら。

それは、亜佑美も同じ。
勝ったつもりはない。
真剣だったなら、こんな結末はありえない。

それでも―――

亜佑美の勝利を告げるアナウンスとともに、大歓声が巻き起こる。

朋子たちが駆け寄ってくる。

けれど、たどり着く前に、亜佑美の体はその場に崩れ落ちる。
体はとっくに限界を迎えていた。
緊張が切れた瞬間に、彼女は気を失った。
887 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:41


パタンと馬車の扉を閉める。
慣れ親しんだこの国とお別れだった。

RGSの余韻はとっくに収まっていた。
市場はいつもどおりの賑わいにもどっており。

窓越しにそれを眺めながら、亜佑美はこの国でのことを思い返す。

結局、朋子たちとあれ以来会うことはなかった。

亜佑美が意識を取り戻したのは翌日になってから。
そのときに、説明してくれたのは、佳林を看病していた男性からだった。

あの後、意識を失った亜佑美を、朋子たちがすぐに会場から運び出したこと。

その際に、今亜佑美の寝ているベッドに彼女を運び入れたこと。
違う部屋に寝ていた佳林と、その際に上手く入れ替わることができたこと。

そのまま、今朝にセレモニーが行われたが、佳林のことは気付かれないままに執り行われたこと。

そのまま、亜佑美は結局もう1日をベッドの上で過ごした。
男性は翌日にはもういなくなっていた。
888 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:42
かといって、朋子たちも来るわけではなかった。

新たな近衛騎士団となった彼女たちには、多忙なスケジュールが用意されており、亜佑美に会いに来るわずかな時間すらないほどだった。

まるで夢のようだった。

スラムで会った少女が、実はまだ生きているんじゃないかと思えるほどに。
あの火事はなかったんじゃないかと思うほどに。

しかし、その思いを打ち消すように、馬車の窓からは、郊外のスラムであった場所が見えた。
未だに黒ずんで放置されたそれは、確かに現実であったことを告げていた。

ふぅっと一つ息を吐き、窓から目を離し、一眠りしようと亜佑美が目を閉じたときだった。

急に馬車が動きを止めた。
889 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:42
賊?

咄嗟に思い浮かんだ単語に、亜佑美は傍らに置いた剣を取る。
窓からそっと覗いた亜佑美の目に映ったのは、2人の女性。

「ちょっと待っててください」

亜佑美は御者にそう告げると、馬車から降りた。

「黙って出ていくなんて、水臭くない?」
「近衛騎士団様は、お忙しいかと思って」

言い合って、亜佑美と朋子は笑いあう。

そして、もう一人。

じっと真剣な瞳で亜佑美を見つめているのは、佳林。

「ありがとうございました」

彼女は深々と頭を下げた。

「ううん、別に」
「お願いばかりで申し訳ないですが、最後にお願いがあります」
「何?」
「私と戦ってください」

その言葉は、どこか亜佑美は想像していた。

彼女のことはよく知っているわけではない
それでも、こうするだろうことはわかっていた。

だから、今日まで会うことがなかったことに、少しほっとしていたのも事実。
890 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:42
朋子が剣を投げる。
足元に刺さったそれは、RGSのときに使われたものと同じもの。

手にしないわけにはいかない。

彼女のために。
彼女が今後、近衛騎士団の長として過ごしていく未来のために。

亜佑美は答えずに剣を引き抜き、佳林へと向ける。

佳林もそれを確認し、ゆっくりと剣を構えた。

踏み出した一歩は二人同時。

直線的に亜佑美に向かう剣。
弧を描いて佳林へと向かう剣。

お互いに受ける気はなかった。

自分の剣が相手に届くのがどちらが早いか。
ただそれだけ。

だからこそ。

傍で見ていた朋子ですら、剣が止まるのはほぼ同時に見えた。
気付いているのは本人だけ。
亜佑美の剣が止まるよりも、眼前で剣先が止まるのが一瞬早かった。

突きか払いか。
ただそれだけの違い。
その剣が描く軌跡の差が、その一瞬の差となって現れただけのことだった。
891 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:43
たったそれだけだったが、儀式としては十分だった。
佳林が納得するための儀式としては。

「……お互い、体が万全になったら、もう一度戦ってください」

剣を降ろして佳林は言った。

「……いいよ。その代わり私からもお願い」
「はい」

「この国を、今よりもっと良くして。みんなが、平和で暮らせるように」
「はい、わかりました」

佳林はそう答えて、もう一度深々と頭を下げた。

その時は来ることはないと、亜佑美はその時は思っていた。
きっと、相手もそのつもりで言っているんだと、思っていた。
たった、それだけの口約束にすぎなかった。

そう、もしもあるとすれば、ツェーンとザフトの戦争くらいしかきっと無いはず。
なんて思っていた。その時は……
892 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:43


あの時、自分がどうして払いを選択したのか、覚えていない。

わざと負けるため、ではなかった。
それでも十分間に合うと思っていたわけでもなかった。

単純に、体が勝手に動いたのだと思う。

元々、亜佑美は突くことよりも、払うことが多い。
引き戻す必要がある突きよりも、円運動をそのまま次の攻撃に繋ぎ続ける払いの方が、亜佑美としては好んでいたから。

その意味では、相手はリアリスト。

剣を交えていてもわかる。
真面目すぎるほどの合理的な攻撃。

最低限の動きで、最高の攻撃を紡ぎだす。

その剣を受けていれば、それに対応するために、自然と亜佑美もその選択をせざるを得ない。

合理的だから、次の攻撃が読めるわけではない。
合理的過ぎるから、亜佑美の次の動きが逆に制限されてしまっていた。

だからこそ、まるで型のように綺麗な剣技が二人の間で生み出される。
893 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:43
もちろん、それが身に染み付いている佳林に比べて、どうしても無理に対応させられている亜佑美の方が不利だった。
だから、長引けばこのまま負けることは明白。

だからこそ、亜佑美はタイミングを計っていた。

その流れを崩すタイミング。

ただし、それは佳林の勝ちを意味する。
この流れから外れるということは、次の佳林の攻撃を受けきれないということにつながるのだから。

通常ならば。

ただし、亜佑美には佳林の知らないであろう事実が一つある。

RGSでは禁止されていたその力。
彼女のイアリングに宿るガーネットの力。

正々堂々と。

剣技以外の力を使うことはそれに反するかもしれない。
しかし、今はそれどころではない。

リールという一つの国の運命が掛かった戦いは、負けるわけにはいかなかった。
894 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:43
佳林の攻撃に割り込むように、剣を払う。
手首だけの動きで、それを流した佳林の一撃は、亜佑美の肩を切る。

そのまま、引き戻された佳林の剣が、もう一度亜佑美に向かってくる。

後ろに倒れるように避ける。

けれど、それはあくまでフィニッシュへの布石。
体勢を崩し、両足が地面から離れている状態の亜佑美では、その次の佳林の攻撃からは逃れられない。

チェックメイト。
佳林は剣をぐいっと引き戻す。

だが、それが亜佑美の囮。
相手に剣を振り上げさせる。
自分がもう避けることができないのなら、一番確実な方法で止めをさしにくるはずなのだから。
895 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:44
亜佑美の体が動く。
宙に浮いたままの彼女の体が、重力を無視した形で佳林へと向かう。
気付いた佳林が剣を伸ばす。
剣が亜佑美の脇腹を突く。
それでも、亜佑美の速度は衰えない。
剣が突きぬけ、血が舞う。

それと同時に、亜佑美の剣が佳林に迫る。

負ける。

佳林は確信する。
このまま首をはねられる、と。


ただし、佳林が感じたのは、冷たい剣の鉄の感触だけ。
亜佑美の剣は、首筋でピタリと止められていた。

「これで、勝ちでいいでしょ」

亜佑美はそれだけ言うと、術が切れてその場にしりもちを付いた。
896 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:44
「精霊術……そうですね、あなたはツェーンの人間だった」

倒れる亜佑美に手を差し伸べる。

「約束どおり、兵を引いて戦をやめて」

その手を握って起き上がりながら、亜佑美は言った。

「佳林!」
「大丈夫よ!」

駆け寄ろうとする朋子たちを手で制し、彼女は命令を下した。

「全軍に伝令を。リールとの戦は即刻停止。負傷者は敵味方問わずに救済し、国境まで撤退せよ」と。

それを聞くと、亜佑美はゆっくりとその場で倒れかかったが、すぐにさくらが彼女を支えた。
腹部の血が止まることなく、彼女の服を染めていた。
897 :ただの名無しでしたから :2016/02/07(日) 23:44
「回復の術が使える者か、医者はいませんか?」

さくらの問いかけに、佳林がすぐに呼び寄せる。

「大丈夫、こんなのかすり傷だって」

さくらから離れて歩こうとするが、すぐにふらついてさくらが駆け寄る。

「ダメです。石田さん、無茶しすぎですよ。でも……」
「何?」
「……格好よかったですよ」

「……ばーか、何言ってんの、小田ちゃん」

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