■掲示板に戻る■ 全部 1- 101- 201- 301- 401- 501- 最新50

白い世界

1 :玄米ちゃ :2014/01/11(土) 21:22
CPはいしよしです。
2 :玄米ちゃ :2014/01/11(土) 21:24
短編のアンリアルです。
3回の予定です。
3 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:25

  『白い世界』

4 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:26

「――雪だ…」

降るなんて言ってなかったのに…
空を見上げて、深くため息をつく。

ハラハラと空から落ちてくる白い結晶。
思いがけず訪れた、天からの贈り物にはしゃぐ街の人々。

夜の帳が下りた街には明かりが灯り
真っ白な贈り物を更に際立たせる――


お願いだから
積もらないで欲しい…

真っ白な世界は、どうしてもあの日を思い出してしまうから。
天からの贈り物なんかよりも、真っ白な肌をしたあの人の姿を…

――嫌でも思い出してしまうから…

5 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:26

ずっと好きだったあの人。
きっと向こうも同じ想いだったと思う。

けれど、慎重なわたし達は、注意深く。

一線を越えてはいけないって。
近づきすぎたら、壊れてしまうって。

言葉には出したことはないけど、
お互いに自制しあっていた。

『友達以上恋人未満』

そんな単純な言葉では表せないほど
わたし達の関係は複雑だったと思う。

他の友達よりも大切で。
他の誰よりもそばにいたくて。

そして、家族よりも愛おしい…

6 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:27

苦しくなかったと言えば、嘘になる。
けどあの頃は、そんな感情を握り潰してでも
壊したくなかった。

彼女のそばにいて。
彼女の整った顔を見上げて。

彼女と笑い合って。
彼女とたくさんの時間を過ごして。

彼女に世話を焼いて。
彼女に感謝されて。

彼女を見つめて。
彼女から見つめられて――

そんな宝物みたいな時間が続いていくなら
小さな胸の痛みなんて、目をつむることが出来た。

7 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:28

高校、大学…

彼女と過ごした時間は、
今でもわたしにとっては、宝物の時間。

心の奥に眠らせて、綺麗に光り輝く
大切な大切な想い出たち。

なのに、真っ白な世界は
たった一度だけ、繋がりかけたわたし達を映し出す。

――あの日、もし彼女の手をとっていたら…

後悔の渦がわたしを飲み込み
心が疼き、悲鳴を上げる。

だからお願い。積もらないで…

わたしの願いもむなしく
辺りはうっすらと白い世界へと変貌していた。

8 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:28




9 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:28

「梨華ちゃん!酒買いに行ってよ!」
「何でわたしが?!」

したたか酔っている美貴ちゃんからのご指名。
でもこんな寒い雪の日に、わざわざコンビニなんて行きたくない。

年明け、何度目になるかわからない新年会。
大学3年の冬。就職戦線を間近に控え、ギリギリ気楽に遊べる今の時期を
わたし達は謳歌しようとしていた。

「ごとーも飲みたいっ!梨華ちゃん頼んだ!」

こたつに寝転がっていたごっちんまでが
わたしを指名する。

高校からずっと一緒の仲良し4人組。
口に出してはいけない彼女への想い以外は、何でも話せる大切な仲間。

10 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:29

「仕方ねぇなー。梨華ちゃん行こ?」

珍しくちびちびと飲んでいたよっすぃ〜が
早々とダウンを羽織って、わたしを誘った。

「さっすが〜!よっちゃんカッコいい〜!」
「よっ!よしこ男前っ!」

「こいつら、サッサと酔い潰さないとうるせーから。
 たんまり買って黙らせようぜ」

「酔い潰すとは何だー」
「いつもは自分が一番酔いつぶれるくせにっ」

ブーブー言う2人を尻目に
よっすぃ〜は、わたしに手を差し伸べた。

「早く行こ?」

お酒のせいか、いつもより潤んだ瞳に
わたしの心臓が小さく跳ねた。

11 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:30

「ぐわっ!さみぃぃぃ!!!」
「だからイヤだったのに…」
「でも綺麗じゃね?」

一面の銀世界。

傘は一つでいいと言う彼女に寄り添って
暗い夜道をゆっくり滑らないように歩く。

「いっちば〜んっ!」

真新しい雪の上に、自分の足跡をつけて喜ぶ彼女。
手のひらを天に向け、無邪気に雪の結晶を乗せて楽しむ彼女。

「やっぱテンションあがるなぁ!
 もっと積もっちまえ」

その辺の小さな雪の塊を掴んでは、
いちいちわたしに投げてよこす。

全くもって、傘の意味がない。

12 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:30

「もお〜〜」

怒ってみせたり、投げ返したり。
いつの間にか彼女に巻き込まれて、わたしも夢中で雪遊び。

毎年のことなんだけど、結構楽しい。
ううん、すごく楽しい。

「んがぁ〜!つめて〜」

湿気の多い雪が、彼女の手袋をびしょびしょに濡らす。

「わたしのは完璧だも〜ん!」

雪仕様
完全防水の手袋。

「準備いいなぁ」
「だって、天気予報で降るって言ってたもん」

それに雪が積もったら、こうしてあなたと遊ぶってことも
ちゃんと予想してたもん。

13 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:31

「片方貸して?」
「仕方ないなあ」

傘を持つ方の手に、わたしの手袋をはめ
空いた手は、自分のポケットへ。

同じようにわたしも
手袋をはめていない手を、自分のコートのポケットに突っ込んだ。

もしも、この手を繋いだりしたら
わたし達の関係は変わってしまうのだろうか…

そんな風に思いながら――

14 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:31

「それにしてもよっすぃ〜
 今日はぜんぜん酔ってないね?」

いつもはあっという間に潰れてしまうのに。

「んー、ちょっとちびちび飲みたい気分だった」

軽く回ったお酒のせいか、この寒さのせいか
彼女の頬は、ほんのり赤い。

「もしかして、雪遊びしたかったの?」
「まあ、それもある」

よっすぃ〜らしい…
思わず微笑んだ。

かわいい彼女。
わたしの大好きな人。

15 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:32

「今、笑ったろ?」
「うん」
「自分も用意周到に雪遊びする気マンマンだったくせに」
「だって絶対よっすぃ〜に巻き込まれるって思ったもん」
「巻き込むってひでーなー」
「ふふっ。でも楽しいよ?」

嬉しそうにはにかんだ彼女。
優しい笑みが、わたしに降り注ぐ。

それだけで、わたしの心はほんのり温かくなる。

静かな夜の街。
音もなく降り注ぐ、真っ白な天からの贈り物。

決して交わることはないけれど
ずっとこうして、彼女の隣を歩んで行けたら…

そう願っていた時だった。

16 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:32

「…寒くない?」

前を見つめたまま、そう尋ねてきた彼女。

「そりゃ寒いよ」

雪が降り積もるくらい
シンと冷えた夜だもの。

赤信号で2人の足が止まる。

「止まると余計さみぃ。
 誰もいねーし、車もこねーし、渡っちゃお?」
「ダーメ!」

ちぇっ。
なんて肩をすぼめた彼女。

その姿がまたかわいい。

17 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:33

「…じゃあ、さ…」

なぜか言葉に詰まった彼女を見上げようとして固まった。
一気に心臓が破裂しそうなほど高鳴りだし、パニックを起こす。

――彼女の体が、わたしを包み込んでいる…

そう気づいたのは、後ろから回された彼女の細い腕と、
わたしの耳元から、そっと立ち上る彼女の真っ白な吐息が視界に入ったから。

「…あった、かい…?」

返事すら出来ない。

「…ずっとこうしたいって思ってた」

突然の出来事に、あまりに激しい胸の鼓動に
めまいを起こしそうになる。

18 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:33

「――踏み出しちゃ…ダメ、かな…?」

前に回された腕に力がこもり
ギュッと体を引き寄せられる。

冷たい頬と頬が重なり、
外気とは裏腹に熱が灯る。

「…アタシ、は…
 …踏み出して…みたいん、だ…」

押し出すように漏れた言葉。
言葉を発することが出来ないわたしから漏れた吐息が
彼女の吐息と交ざりあい、空へと昇る――

「――梨華、ちゃんは…?」

わずかに震える声が、わたしの耳に響いた。

19 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:34



あの時、わたしは何と言ったのだろう?

何も言っていないと思う。
ただ言葉にならず、首を横に振っただけだと思う。

あまりに衝撃で。
あまりに唐突で。

何も反応が出来なかった。

その後、覚えているのは
彼女の悲しそうな笑みとゆっくり離れて
そっと素手でわたしの頭を撫でてくれたことだけ。

まるで何事もなかったかのように
その後、お酒を買って帰って、変わらぬ日々を何日も過ごして。

桜の咲くころに、彼女は大学を中退し
アメリカに留学をした。

20 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:34

たった一度だけ
交わりかけた、わたし達の道。

真っ白な銀世界の中、
踏み出しかけた彼女の足をわたしは止め、
足跡をつけることを拒んだ。

それが正解だったのか、不正解だったのか
今なら答えを出せる。

だって、わたしはあの日から動けずにいる。

綺麗な一面の白い世界に
たった一つの足跡もつけることが出来ず、ずっと立ち止まったままだから…


21 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:35

22 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:35

23 :玄米ちゃ :2014/01/11(土) 21:37

こんな感じでスタートしました。
以後、よろしくお願いします。

24 :名無し留学生 :2014/01/12(日) 02:20
>>23
玄米ちやさんの新作発見!!
ずっっっと待ってます。嬉しい限り!
25 :名無飼育さん :2014/01/12(日) 03:05
うぉぉぉっ!
ずっと待ってました!
日々の楽しみが一つ増えまさた。
今回も玄米ちゃさま独特のキレイな情景が浮かびます。
どんないしよしなのかワクワクしてます。
26 :名無飼育さん :2014/01/12(日) 21:25
玄米ちゃ様お帰りなさい
こうやって新作が読めるの嬉しいな
このキュンキュンする感じ素敵です
27 :名無飼育さん :2014/01/13(月) 10:43
玄米ちゃ様お帰りなさい
そしてありがとうございます
28 :名無飼育さん :2014/01/13(月) 23:55
玄米ちゃ様!お帰りなさい。
新作ありがとうございます。
この切ない感じたまりません。
29 :玄米ちゃ :2014/01/18(土) 14:59

>24:名無し留学生様
 ありがとうございます。
 楽しんで頂ければ幸いです。

>25:名無飼育さん様
 ありがとうございます。
 嬉しいお言葉もありがとうございます。

>26:名無飼育さん様
 ありがとうございます。
 キュンキュンして頂き光栄です。

>27:名無飼育さん様
 こちらこそありがとうございます。

>28:名無飼育さん様
 ありがとうございます。
 本日も少し切ないかもしれません。


では、続きです。

30 :白い世界 :2014/01/18(土) 14:59


31 :白い世界 :2014/01/18(土) 15:00

『梨華ちゃんも一緒に行こうよ?
 よっちゃんの個展』

数日前にかかってきた美貴ちゃんからの電話。
大学を卒業して、それぞれの道を歩み始めて、
少し疎遠になってしまったけど、ちょくちょく近況報告はしていた。

3ヶ月前によっすぃ〜が帰国した。
それを聞いたのは、ごっちんからだった。

『結構、注目されてんだって。
 雑誌の挿絵とかも描いてるらしいよ?』

教えてもらった雑誌を、すぐさま買いに行って
彼女が描いたという絵を指でなぞった。

ただ触れただけなのに。
何万部と出ている雑誌の、たった一枚の片隅に描かれた
小さな挿絵なのに――

涙が次から次に溢れて、止まらなかった。

32 :白い世界 :2014/01/18(土) 15:01

他の友達よりも大切で。
他の誰よりもそばにいたくて。

そして、家族よりも愛おしい…

閉じ込めたはずの想いが、瞬く間に溢れ出して
涙となって、わたしの中から零れ落ちてゆく。

とめどない涙が、わたしの本心をむき出しにし
現実を突きつける。

――あの時…
――もしも、あの時…

彼女の挿絵を抱きしめて
声を上げて泣いた。

33 :白い世界 :2014/01/18(土) 15:01

むき出しになった本心を塞ぐ術も見つからないまま
毎日を過ごしていたわたし宛に届いた一枚のハガキ。

彼女の個展の案内状。

懐かしい彼女の直筆で、たった一言
<良かったら見に来て下さい>
そう書いてあった。

相変わらず気遣いのできる彼女。
相変わらず優しい彼女。

たった一文だけれど、
『良かったら』の言葉と、使われたことのない敬語に
彼女の温かさが凝縮されている気がした。

34 :白い世界 :2014/01/18(土) 15:02

見に行ってみようか…
でも会いたくないな…

だって、彼女はあの日から進んでいる。
けれど、わたしはあの日で立ち止ったまま。

真っ白な世界に一人佇み
一歩も踏み出せないでいる――

「よっすぃ…」

そう呟いた途端、胸が軋んだ。
久々に声に出した彼女の呼び名。

「よっすぃ、よっすぃ、よっすぃ…」

会いたい。
ほんとはすごく会いたい。

今でも大切で。
今でもそばにいたくて。

今でも愛おしい人――

35 :白い世界 :2014/01/18(土) 15:02

無理だよ…
こんな感情を抱えたままで、彼女に会うなんて。

むき出されたままの本心を抱えて
美貴ちゃんやごっちんの前で、平静を装えない。

昔になんて戻れない――

あの日から一歩も進めない臆病なわたしは、
迷った挙句、美貴ちゃんのお誘いを断った。

36 :白い世界 :2014/01/18(土) 15:02



37 :白い世界 :2014/01/18(土) 15:03

うっすらと積もり始めた雪を
踏みしめながら、ゆっくりと足を運ぶ――


『よっちゃん、寂しがってたよ』

日中、留守電に入っていた美貴ちゃんからのメッセージ。

『梨華ちゃん来てくれないだろうな…
 そんな風に泣きそうな顔して言ってた』

あの日の彼女の悲しそうな笑みが
脳裏に蘇る。

『行く、行かないは梨華ちゃんが決めることだから
 とやかくは言わないけど、迷ってるなら行きなよ?
 友達の人生初の個展なんだし。それに初めては一度しかないんだから』

美貴ちゃんの言葉が、ズシンと胸に響いた。

――そう、わたし達は『友達』なんだ。

38 :白い世界 :2014/01/18(土) 15:04

『ちょっと見に行くくらいはいいんじゃない?』

そうだよね。
こんなに頑なにわたしが拒否するのも、
美貴ちゃんやごっちんにとっては、おかしな話なわけで…

『少なくとも、よっちゃんは待ってるよ?』

よっすぃ〜が待っている。

『美貴やごっちんよりも梨華ちゃんのことを待ってる』

わたしを…待っている。

『…てことで、とりあえず行け。以上』

そこで留守電は切れた。

39 :白い世界 :2014/01/18(土) 15:05

<良かったら見に来て下さい>

彼女からの遠慮がちな、それでいて切実なメッセージ。


良かったら見に来て下さい。
良かったらあの日のことを忘れましょう。

そして良かったら、楽しかったあの頃の元の関係に戻りましょう――


彼女の真意を図りたくて、
すぐさま美貴ちゃんにメールを打つ。

 [よっすぃ〜からの案内状。
  美貴ちゃんのには何か書いてあった?]

 [特になにもなかったよ]

やっぱり…
わたしだけに書かれたメッセージ。

<良かったら>

――そうだね。元に戻ろう。

楽しかったあの頃に。
一人の仲の良い『友達』に。

戻れるチャンスだね――

40 :白い世界 :2014/01/18(土) 15:06


嫌でも視界に入る、真っ白な世界――

会場の前の信号が赤に変わり、歩みをとめる。


  『止まると余計さみぃ。
   誰もいねーし、車もこねーし、渡っちゃお?』

あの時、赤にならなかったら?

  『…アタシ、は…
   …踏み出して…みたいん、だ…』

あの時、あなたの足を止めなければ何かが変わった?

  『――梨華、ちゃんは…?』

あの時、縦に首を振っていたら?


遅すぎる後悔を責めるように、真っ白な雪は降り続け、
立ち止る足を誘うように、信号が青に変わった。

41 :白い世界 :2014/01/18(土) 15:06

今日で、この想いに別れを告げよう。

彼女が望む関係へ――

あの日のことを忘れ
楽しかったあの頃の、元の関係に。

ただのお友達だった、あの頃に戻りましょう――


意を決して、わたしはその会場へと足を踏み入れた…


42 :白い世界 :2014/01/18(土) 15:06

43 :白い世界 :2014/01/18(土) 15:06

44 :玄米ちゃ :2014/01/18(土) 15:07

本日は以上です。
次回で終わります。

45 :名無飼育さん :2014/01/19(日) 03:55
更新待ってました!
たくさんいしよしを読んできたのに展開が読めないです
更なるドキドキの予感です
46 :名無飼育さん :2014/01/20(月) 01:32
梨華ちゃん!素直になるんだ!
47 :名無飼育さん :2014/01/22(水) 07:11
最終回待機中
48 :玄米ちゃ :2014/01/25(土) 00:43

>45:名無飼育さん様
 お待たせしました。
 最終回楽しんでもらえたらいいのですが…

>46:名無飼育さん様
 さてどうでしょう。

>47:名無飼育さん様
 お待ちどうさまでした。


では、最終回です。
どうぞ。

49 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:43

50 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:44

「お名前をご記入頂けますか?」

受付で促され、ペンを取る。
<石川>まで記入した所で、受付の子が
ゴクリと唾を飲み込むのが分かった。

不審に思いつつ、<梨>と続けると
思わず口から漏れてしまったのか、小さく「キタ!」とつぶやく。

「あの〜、何か?」
「あ、いえいえ。どうぞ続けてお書き下さい」

と言いつつ、目はギラギラと光っている。

首をひねりつつ、最後の<華>の字を書いていると
一画一画、ペンを運ぶたびに息を飲む気配がする。

そして、とうとう一字を完成させると

「うおっっっしゃ〜〜〜!!」

などと、この場に不釣り合いな叫び声をあげ
館内の全員に睨まれた。

51 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:45

「すみません、石川さん。
 ちょっと待ってて下さいね」

そう言って電話を手にすると

「あ、親分は?」

お、親分??

「来客?んなもん放っといてこっち来いって言って。
 待ち人来るって伝えてよ。すぐだよ?すぐ。
 それまでは私が捕まえとくから」

親分…
捕まえる…

何これ?
銭形平次??

52 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:46

「では、石川さん。
 私、小川麻琴が館内をご案内させて頂きます!」

「あ、いえ…
 一人で大丈夫ですよ?」

てか、全然広くないし。
見渡せるし。

「ダメです!
 そんなことしたら後で私が、てえへんなことになります」

何だかこの子が、本当に八五郎に見えてきた。

「だって期間中ずっーと、石川さんが来るのを
 私は受付で待ってたんですよ?
 休憩すら許されず、取り逃がしたりしたらぶっ殺すって
 親分に言われて…」

「親分…ですか?」
「あ、吉澤さんのことです。
 尊敬してるんで、親分って呼んでますっ」

尊敬して、親分って…

思わず笑っちゃった。

53 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:47

「あ、ほんとだ!
 笑顔がかわいい」

え?

「親分がね、言うんですよ。
 笑顔がかわいくて、すっごくチャーミングな人だって」

そんなこと、よっすぃ〜から直接言われたことないのに…
思わず頬が熱くなる。

「なのに、男勝りで、負けず嫌いで
 気が強いって」

見ず知らずの人に、余計な情報を…

「ささ、ともかく行きましょ!」

彼女の子分、ハチ…じゃなかった。
小川さんに案内され、わたしは彼女の世界へと足を踏み入れた――


54 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:47

辺り一面に広がる彼女の世界は
美しくて、優しい彼女の内面を映しているようで
そばにいたあの頃を思い出す。

楽しかったね、よっすぃ〜。

彼女がわたしに来てほしいと願ったのは
この世界を見せたかったからだ。

楽しくて、キラキラと輝いていたあの頃。
穏やかで、ワクワクしていた毎日。

55 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:48

「学生の頃から、イタズラ書きはよくしてたけど
 こんなに才能があったなんて、ビックリしちゃう」

「そうですか?親分がこの道に来たのは
 石川さんに絵を褒められたからだって言ってましたよ?」

「わたしが褒めた?」

「ええ。ノートの隅に書いた卵の絵を褒められて
 調子にのって、ロックバージョンとか、モズクバージョンを
 書いたのが始まりだって」

…思い出した。
舌を出してる卵がすっごく可愛かったんだ!

「だから石川さんは恩人なんですって」

恩人、か…

うれしいけど、今のわたしには寂しい響き。
恩人だから、良かったら――

よっすぃ〜への想いとは
決別するつもりで来たのに、バカだなぁ、わたし…

56 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:49

「どうにか譲ってもらえんかのう?
 頼む!いくら払っても構わない」
「そう言われましても、吉澤の意向でして…」


「――何ですか?あれ…」

一枚の絵の前で、恰幅のいい紳士が
スタッフに手を合わせている。

「ああ、しょっちゅうなんですよ。
 あの絵を売ってくれって。
 これで何人目だろ?」

両の手を広げて、小川さんが指を折っていく。

「他の絵はね、ばんばん売っちゃっていいって言うんですけど
 あの絵だけは、絶対にダメなんですって」

へぇ〜。
どんな絵なんだろ?

「私にはどこがいいのか、サッパリなんですけど
 見る人が見ると、色んな感情が見え隠れして、
 魂が揺さぶられるらしいです。見てみます?」

一つ頷いて、まだ懇願中の紳士の近くへと歩いていく。

57 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:50

「石川さんは分かります?
 この絵の良さ」

一目見て、息を飲んだ。

「真っ白な中に、足跡が一つだけなんて
 何でこんなのがいいんですかねー」

  『――踏み出しちゃ…ダメ、かな…?』

息が止まりそうで、思わず胸元を抑えた。

「色んな種類の白から、複雑に交錯した心情が
 垣間見えて、魂が揺さぶられるんだそうですよ?」

  『…アタシ、は…
   …踏み出して…みたいん、だ…』

「そこに足跡が一つ!
 その足跡が交錯した心情から抜け出せず、
 もがいている葛藤を表現していて、非常に芸術性が高いらしいです。
 あ、これは、昨日来た評論家の方が言ってたんですけどね」

  『――梨華、ちゃんは…?』

「作品名はそのまま。<White World>」

58 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:51

「あ、親分だ!」

小川さんの声に我に返り、
視線を向けると、そこに彼女が立っていた。

「お客様、大変申し訳ございません。
 この作品だけは、どうしても差し上げるわけには参りません。
 私の…、アタシの今の心そのものを描いたものなので
 どんなに評価して頂いても、譲る気はないのです」

彼女のきっぱりとした口調に
懇願していた紳士も諦めたようで、静かにその場を去って行った。

彼に向って、深々と頭を下げていた彼女が
ゆっくりと顔をあげ、わたしに向き直る――

「…来てくれて、ありがとう。梨華ちゃん」

その途端、わたしは出口に向かって走り出していた。

59 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:51

どうして?!
なんで?!

頭の中がパニックを起こしていた。

複雑に交錯した心情…
その交錯した心情から抜け出せず、もがいている葛藤…

 『アタシの今の心そのものを描いたものなので
  どんなに評価して頂いても、譲る気はないのです』

よっすぃ〜が…?
よっすぃ〜も…?


「待って!梨華ちゃんっ!!」

走りながら振り返ると
彼女が真っ白な息を吐きながら、わたしを追いかけてくる。

分からないよ…
わたし、どうしたらいいの?

だって、せっかく決意したんだよ?
友達に戻ろうって。

ただの友達に…
なのに…、なのに…

60 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:52

無意識に、目の前の点滅する信号を走って渡った。

彼女から逃げたい自分。
彼女の真意を知りたい自分。

彼女の描く通り、複雑に交錯する自分の心を
この白い世界の中に抱えながら――


<キキーッ!!>
「アブねぇだろっ!バカヤロウっ!!」


振り返ると、彼女が車の間を縫って
赤信号の横断歩道を突っ切ってくる。

「何してんのよっ!!」

急ブレーキをかける車に
頭を下げながら、わたしに向かってくる。

61 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:53

「あー死ぬかと思った」

渡り終えた彼女の第一声。

「もう…バカ…」

安心したのと、愛おしい気持ちと。
わたしの中の色んな感情が爆発して
涙となって、頬を伝う。

「ごめん。けど、梨華ちゃんが逃げちゃうと思ったから。
 今捕まえないと、2度と捕まえられない、
 そんな気がしたから…」

ごめん…

彼女がもう一度、小さな声で謝った。

62 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:54

「――あの絵…さ、あの白い世界は
 アタシの心なんだ…」

あの日。
何度も踏みとどまろうと思った。

仲のいい友達のままでいいって、
自分の本心をねじ伏せて、ずっとそばで笑えたらいいって
そんな風にも思ってた。

けど――

もう爆発寸前だった。
触れたくて、抱きしめたくて。
アタシだけのものにしたくて…

あの時ね、アタシ賭けをしたんだ。

手のひらに乗った雪が、綺麗な結晶の形をしていたら。
崩れずにそのままの姿で、アタシの元に降りてきてくれたなら。

――本当の気持ちを、そのまま伝えてみようって…

63 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:54


「梨華ちゃん。アタシはあの日からずっと
 梨華ちゃんを諦めようって、そう思ってた。
 だから、そばにいることをやめて留学に行った」

だけどね。

「どうしても無理だった。
 想いは募るばかりで、あんな絵まで描いて…」

彼女がゆっくりと目を閉じた。

「あの絵の通り、アタシはあの日から一歩も進めてない。
 踏み出したいって、片足を地面につけてみたけど、
 そこから先には進めなかった」

彼女の白い世界にたった一つ残る足跡。
たった一度だけ、繋がりかけたわたし達の白い世界。

一線を越え、2人の白い世界を繋げようと
わたしの白い世界へ、足を踏み出そうとした
彼女の足をわたしは止めた。

そして、わたしは――

あの日から、一歩も進めていないわたしの白い世界は
足跡すらない、ただの真っ白な世界になった。

64 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:55

「…アタシ、は…
 …やっぱり、踏み出し…たいん、だ…」

押し出すように漏れた言葉。

「できることなら、梨華ちゃんの世界に…
 そして一緒に、この白い世界に足跡をつけたいんだ…」

彼女から吐き出された真っ白な吐息が、空へと昇ってゆく。

「…でも、ダメなら…。ほんとにダメなら…
 このまま逃げてくれていい。
 そしたら今度こそ…今度こそ諦める」

他の友達よりも大切で。
他の誰よりもそばにいたくて。
そして、家族よりも愛おしい彼女…

「次に会うときには、ちゃんと友達とし――」

彼女の白い吐息は、わたしの中に消えた。

65 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:56

「――好き…」

重ねた唇を離して、真っ先に自分の素直な気持ちを伝えた。

「…わたしもほんとは、ずっと…」

後悔してた、あの日を。
臆病だった、あの頃を。
素直になれなかった、あの時を。

「よっすぃが好きで、どうしようもなくて…」

熱い涙が頬を伝う。

「…好き…大好き…よっすぃ…」

やっと言えた。
やっと踏み出せた…

66 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:56

「梨華ちゃん…」

彼女の綺麗な瞳からも、一筋の涙が零れ落ちる。
きつく抱きしめられて、彼女の温かい腕に身をゆだねた。

頬と頬が重なり、2人分の熱が、降り積もる雪を解かしてゆく――

まるで誓いを立てるかのように
どちらからともなく、唇を寄せた。


――やっと繋がったわたし達の世界。


きっとこれからは、2人の後ろに
たくさんの足跡がついていくはず。

全て寄り添って、
全て同じ方向を向いて――

67 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:57

68 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:57


   おわり

69 :玄米ちゃ :2014/01/25(土) 00:58

お目汚し失礼致しました。

70 :名無飼育さん :2014/01/25(土) 01:10
玄米ちゃさまの真骨頂というべき綺麗な情景
きっと絵の才能もあるんでしょうね。
この数日、更新待ちという懐かしい感覚を味わってました。
もっと、もっと読みたいです
そして、石川梨華さん、お誕生日おめでとうございます
71 :名無飼育さん :2014/01/28(火) 11:04
素敵ですね〜。心が暖かくなりました。何回も読み返してしまいます。新作期待してもいいですか?
72 :玄米ちゃ :2014/01/28(火) 18:22

>70:名無飼育さん様
 ありがとうございます。
 棒で人の体を描くほどではありませんが、
 全くもって絵の才能はございません。

>71:名無飼育さん様
 ありがとうございます。
 新作は脳内にはあるんですが文字になるのはいつになるやら…
 てな感じです。すみません。


さて、本日はリアル短編です。
今年こそお誕生日はスルーする気マンマンで
白い世界を始めたんですが、ヲタの悲しい習性なのか
某ブログで空港に忘れ物したことが明かされたら、
それにピコンしてしまい、あっという間に書きあがっちゃいました。

こんなものアリかなーぐらいの軽い気持ちで
お読みいただければと思います。

ではどうぞ。

73 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:22


  『ad libitum』


74 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:23

「…ねぇ、そっちいっていい?」

だって、最後の夜なんだよ?
最後くらい、あなたの腕の中で眠りたい。

「――ダメ…」

震える背中で、わたしを拒否する彼女。

強がりな背中。
頼りがいがあって、広くて、温かい背中。

けれど、誰よりも繊細で、
本当はずっと守ってあげたい、大好きなあなた――

75 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:24

ごめんね、おいていくこと。
でもやっぱり、わたし達はこのままじゃいけない。

中澤ねぇさんだって。
あの圭ちゃんだって…

時は動いているの。
だから、わたし達の周りも動いている。
どんどん変わっていく。

わたし達だけが、このままでいいはずがない。
わたし達だけが、出会った時のままでいいはずがない。

だから――

ばいばい、よっすぃ…

76 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:25





<ブーンブーン>



枕元で震える携帯。


――イヤな、予感…


彼女に背を向けて、そっと画面を開く――



77 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:26



 [はいっ、カットー!!
  さすが梨華ちゃん、いい演技だったよぉ。
  っつーことで、誕生日おめでとう!!]


「んもうっ!よっすぃ!!」

振り返ろうとして、体ごと抑え込まれた。

「おたおめメール一番のり。
 ついでに29歳の体にも一番のり」

綺麗な顔がニヤリと崩れる。

「もうっ!ちゃんと台本通りにしてよ。
 まだまだ続きがあるでしょ?」

わたしのこの言い分には理由がある。
それは今から、遡ること数日――


78 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:26


79 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:27


「圭ちゃんね、綺麗だったよ」

頂いたブーケを見ていたら、
やっぱり声が聴きたくなっちゃって、思わず電話して――

『そりゃ一応アイドルやってたんだし』

うん、そうなんだ。
そうなんだけど…

『もしかして着たいとか思っちゃった?』

図星。

青い空の元、みんなに祝福される幸せそうな2人に
自分たちの姿を重ねてしまったなんて、絶対に言えないけど…

80 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:28

「べ、別にわたしは、着なくてもいいし。
 それに式の準備とか大変そうだし、そういうのこだわらないし」

『ふ〜ん』

「何よりわたしは、よっすぃのそばにいたいの!」

『あら、キレ気味だけど素直』

彼女から苦笑する気配が伝わってくる。
それだけで、じんわりわたしの心が温まっていく。

彼女と繋がっているだけで。
彼女の声を聴くだけで。

彼女のそばにいられるだけで、
わたしは幸せになれる。

81 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:29

『でも今、ちょっとだけ不安になっちった』
「え?なんで?」

『やっぱ式とか、あげられないしなー
 ごくごく普通のこと、できないからなーって。
 2人で選んだはずの道なんだけどさ、
 こういう時、ちょっと胸のあたりがチクッて来ない?』

今日は何だか、2人とも素直だね。

大好きな先輩の人生の門出だもの。
いろいろ考えちゃうのは仕方ないよね?

『何か懐かしいかも。このモヤモヤ感』

2人でいるって決める前も、決めたあとも
小さなキッカケで何度もつまづいた。

普通の恋愛じゃないことに、お互いに胸を痛めて
握った手を離そうとしたことも何度もあった。

82 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:29

『今だから笑えるけど、当時はそーとーキツかった!』
「わたしだって!」

でも、だから。
それを乗り越えた絆が、わたし達にはある。

『あー思い出すとキュンキュンしちゃうなぁ』
「なによぉ、今がキュンキュンしないみたいな」
『だってもう、普段はしなくね?』
「そりゃ、しないけど…」

ってことは…

『もしかして』
「わたし達」

『「マンネリ?!」』

83 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:30

『いやいや、まだ大丈夫でしょ?』
「そうかな?」
『そうかなじゃねぇよ。何?なんか不満なの?』
「不満はないよ」
『ならいいじゃん』

「…う〜ん、なんて言うか…
 変化がないのが、ほころびの始まりだったりするし…」
『おいおい。ほころびとか、不吉なこと言わないでよ』

もしかして、熟年夫婦とか言って
安心してる場合じゃないのかもしれない。

『おーい、梨華ちゃん?』

うん、そうだ。
何か、こう初心に帰れるような出来事――

84 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:31

『変なこと考えないでよ?
 あ、そうそう。帰ってきたら誕生日じゃん?
 だから今年はいつも以上に――』

そうだ!それだ!!

「よっすぃ!」
『はい?』
「わたしの誕生日のお祝い、もう決めてる?」
『…え、い、いや。まだ…』

よしっ!

「じゃ、わたしの言う通りにして」
『はああ??』

エンジン全開。
空回りスイッチ全力でオン。

待ってて、よっすぃ!

わたし達の新鮮な気持ちを取り戻そう作戦!
帰るまでにまとめて、よっすぃに渡すからねっ!

85 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:32



と、帰りの飛行機の中で
鼻息も荒く、書き上げた台本。


  [脚本:石川梨華
   W主演:吉澤ひとみ、石川梨華]

   〜あらすじ〜

    やはり2人の関係がこのままではいけないと思った梨華は
    愛の巣を出ていくことを決意する。

    愛するが故に別れを選ぶ梨華。

    せめて最後の夜は、ひとみの腕の中で過ごしたいと願うが
    別れを納得できないままのひとみは、それを拒む。

    翌朝、背を向けたままのひとみに声もかけずに、
    梨華は一人、荷物を抱えて家を出ていく。

    一人残されたひとみは、梨華の跡を消そうとするが
    どうしても出来ずに、梨華を追いかける――


86 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:32


「なんだよこれ、実話じゃねーか」
「いいじゃない」

帰国して、真っ先に彼女の元に向かって
渾身の作品を見せたって言うのに…

しかも機中で没頭しすぎたせいで、大事なiPhoneを
空港でなくすなんて、大失態までしちゃったんだからね!

「これウン年前、逆のキャストでやってますけど?」
「そうだけどぉ」

だって、2人で生きていくって決めた
わたし達の大切な出来事なんだよ?

「あの時のお互いの立場にたってみたら
 また感じるものがあるんじゃないかな、なんて思ったんだもん」

「はああああ…」

よっすぃが深いため息をつく。

やっぱりダメ?ボツ?

87 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:33

「これ、本気?」

コクリと頷く。

「誕生日にやるわけ?」

コクリ。

「どうしても?」

コクリ。


「――わかった」

うそっ?!

驚いて顔をあげた。

「…いい、の?」
「やりたいんでしょ?」
「うん。だって初心に帰れそうだから…」

「好きな人が、どうしてもやりたいってんだから
 しょーがねぇじゃん」

プイとそっぽを向いて、頬を赤らめたよっすぃ〜。
嬉しくて思わず抱き着きそうになって、慌てて思いとどまった。

やると決まれば、役作り!
ねっ!!

88 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:34








89 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:34


「あ〜あ、せっかく役作りしてたのに…」
「どんな風に?」

29歳になったばかりの体を抑え込まれたまま
上に乗った彼女に聞かれる。

「あなたを好きで好きで仕方ないの。
 だから、あなたの幸せを考えたら、一緒にいちゃいけないって。
 普通の幸せを掴ませてあげたいって、身を引く決意をして…」

「そんで?」
「翌朝、家を出ていくの」
「アタシを置いて?」
「だって台本にはそう――」

彼女の瞳が急に真剣なものに変わる。
身動き一つ出来ないほど、見つめられ息が詰まる…

90 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:35

「あの時のアタシは、自信がなかった。
 ただただ自信がなくて、自分さえ我慢すれば
 自分の気持ちにさえ、フタをしてしまえば
 梨華ちゃんは幸せになれるって思ってた」

よっすぃ…

「自分勝手だったんだ。自分さえいなければ。
 自分さえ消えればって。
 梨華ちゃんには普通の幸せが似合うって。
 かわいい奥さんが似合うって」

あの頃の身を切られるような、よっすぃ〜の想い。
切ないほど真っ直ぐなわたしへの愛。

「でも2人で時間をかけて、一方的な想いじゃなくて
 こうして一緒に、大切に愛を育んできて」

――今なら、自信を持って言えるよ。

「石川梨華を幸せにできるのは、アタシしかいない」

だから絶対、出て行かせたりなんかしない。
一人になんて、絶対にするもんか。

91 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:36

「よっすぃ…」

ポロポロと涙が零れ落ちる。

「周りの状況だけが劇的に変わってるようにみえても。
 アタシ達だって、ちゃんと変わってるよ。
 アタシ達なりの速度で、時と共に成長してる」

だから、昔の出来事は
2人の大切な歴史でしょ?

92 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:37

よっすぃ〜の言う通りだ。

わたし達には、わたし達だけで築いた歴史がある。
2人だけで乗り越えてきた道のりが、いくつもある。

わたし達は、ちゃんと進んできたんだ。
止まらないで、補い合いながら、手を取り合って進んできた。

だって、その足あとは、ちゃんとわたし達の後ろにある。

「まあ、心配すんな。
 マンネリ化したところで、アタシは梨華ちゃんの隣を
 離れる気なんて、これっぽっちもないから」

「わたしだって」

そう。愛情の深さは、わたしだって負けないもん!

93 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:38

「さて。もう台本通りじゃなくていいっしょ?
 吉澤さん、アドリブ大好きなもんで」

「この前、麻琴怒ってたよ。
 あの人、めちゃめちゃやり過ぎですって。
 石川さんからも言っといて下さいって」

「みんな、楽しんでたけどなぁ」

「小春よりひどいって」

「あ、それ。その言われようは、地味に痛い」

眉を寄せた彼女を笑った。

94 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:38

「でも、今日のアドリブは合格」
「でしょ〜」

途端に眉尻が下がった彼女。
心の底から、愛おしくて仕方ない。

「アドリブの続きしたいんだけどいい?」
「ん?いいけど」

「では今から、29歳のお姉さん梨華ちゃんを
 おいしく頂こうと思います」

妖しく、彼女の目が光る。

「てか、この体勢でお預けは無理だし。
 ちょっと色々学習もしてきたんだよねー。
 こっちでマンネリとか言われたら、ちょーショックだから」

早々に動き出した彼女のイタズラな指。

95 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:39

「んっ…ね、縛るのとか、ヤダ…よ」
「んなことしないよ」

…ぁ…、んん…

「最高にキモチイイことしてあげる」

好きだから、大切に。
梨華ちゃんが悦ぶことを、ね。

「だから安心して、これからも
 全部アタシにゆだねて」

大きく頷いて、体のチカラを抜いた。

96 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:39


あなたのアドリブは、いつだってわたしを楽しませてくれる。
あなたのアドリブは、いつだってわたしを幸せにする。

決められたセリフや生き方は
わたし達にはない。

決められた形式にも
わたし達はあてはまらない。

ならば2人で
2人だけの道を。

思うままに、自由に貫いて往こう――


97 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:40

98 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:40

  おわり

99 :玄米ちゃ :2014/01/28(火) 18:40

大変失礼いたしました。

100 :名無飼育さん :2014/01/28(火) 19:45
遅くなりましたが完結おめでとうございます!
&リアル短編ありがとうございます!
玄米ちゃさまのいしよし、やっぱり好きです
あと、今のいしよしもやっぱり好きだなぁって再確認しました
これからの玄米ちゃさまのいしよしも、これからの現実のいしよしもすっごい楽しみです

続きを読む


掲示板に戻る 全部 次100 最新50

現在のスレッドサイズ:211623 byte

名前:

read.cgi ver5.27 + 0.02 (04/08/03)