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白い世界

1 :玄米ちゃ :2014/01/11(土) 21:22
CPはいしよしです。
2 :玄米ちゃ :2014/01/11(土) 21:24
短編のアンリアルです。
3回の予定です。
3 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:25

  『白い世界』

4 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:26

「――雪だ…」

降るなんて言ってなかったのに…
空を見上げて、深くため息をつく。

ハラハラと空から落ちてくる白い結晶。
思いがけず訪れた、天からの贈り物にはしゃぐ街の人々。

夜の帳が下りた街には明かりが灯り
真っ白な贈り物を更に際立たせる――


お願いだから
積もらないで欲しい…

真っ白な世界は、どうしてもあの日を思い出してしまうから。
天からの贈り物なんかよりも、真っ白な肌をしたあの人の姿を…

――嫌でも思い出してしまうから…

5 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:26

ずっと好きだったあの人。
きっと向こうも同じ想いだったと思う。

けれど、慎重なわたし達は、注意深く。

一線を越えてはいけないって。
近づきすぎたら、壊れてしまうって。

言葉には出したことはないけど、
お互いに自制しあっていた。

『友達以上恋人未満』

そんな単純な言葉では表せないほど
わたし達の関係は複雑だったと思う。

他の友達よりも大切で。
他の誰よりもそばにいたくて。

そして、家族よりも愛おしい…

6 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:27

苦しくなかったと言えば、嘘になる。
けどあの頃は、そんな感情を握り潰してでも
壊したくなかった。

彼女のそばにいて。
彼女の整った顔を見上げて。

彼女と笑い合って。
彼女とたくさんの時間を過ごして。

彼女に世話を焼いて。
彼女に感謝されて。

彼女を見つめて。
彼女から見つめられて――

そんな宝物みたいな時間が続いていくなら
小さな胸の痛みなんて、目をつむることが出来た。

7 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:28

高校、大学…

彼女と過ごした時間は、
今でもわたしにとっては、宝物の時間。

心の奥に眠らせて、綺麗に光り輝く
大切な大切な想い出たち。

なのに、真っ白な世界は
たった一度だけ、繋がりかけたわたし達を映し出す。

――あの日、もし彼女の手をとっていたら…

後悔の渦がわたしを飲み込み
心が疼き、悲鳴を上げる。

だからお願い。積もらないで…

わたしの願いもむなしく
辺りはうっすらと白い世界へと変貌していた。

8 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:28




9 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:28

「梨華ちゃん!酒買いに行ってよ!」
「何でわたしが?!」

したたか酔っている美貴ちゃんからのご指名。
でもこんな寒い雪の日に、わざわざコンビニなんて行きたくない。

年明け、何度目になるかわからない新年会。
大学3年の冬。就職戦線を間近に控え、ギリギリ気楽に遊べる今の時期を
わたし達は謳歌しようとしていた。

「ごとーも飲みたいっ!梨華ちゃん頼んだ!」

こたつに寝転がっていたごっちんまでが
わたしを指名する。

高校からずっと一緒の仲良し4人組。
口に出してはいけない彼女への想い以外は、何でも話せる大切な仲間。

10 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:29

「仕方ねぇなー。梨華ちゃん行こ?」

珍しくちびちびと飲んでいたよっすぃ〜が
早々とダウンを羽織って、わたしを誘った。

「さっすが〜!よっちゃんカッコいい〜!」
「よっ!よしこ男前っ!」

「こいつら、サッサと酔い潰さないとうるせーから。
 たんまり買って黙らせようぜ」

「酔い潰すとは何だー」
「いつもは自分が一番酔いつぶれるくせにっ」

ブーブー言う2人を尻目に
よっすぃ〜は、わたしに手を差し伸べた。

「早く行こ?」

お酒のせいか、いつもより潤んだ瞳に
わたしの心臓が小さく跳ねた。

11 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:30

「ぐわっ!さみぃぃぃ!!!」
「だからイヤだったのに…」
「でも綺麗じゃね?」

一面の銀世界。

傘は一つでいいと言う彼女に寄り添って
暗い夜道をゆっくり滑らないように歩く。

「いっちば〜んっ!」

真新しい雪の上に、自分の足跡をつけて喜ぶ彼女。
手のひらを天に向け、無邪気に雪の結晶を乗せて楽しむ彼女。

「やっぱテンションあがるなぁ!
 もっと積もっちまえ」

その辺の小さな雪の塊を掴んでは、
いちいちわたしに投げてよこす。

全くもって、傘の意味がない。

12 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:30

「もお〜〜」

怒ってみせたり、投げ返したり。
いつの間にか彼女に巻き込まれて、わたしも夢中で雪遊び。

毎年のことなんだけど、結構楽しい。
ううん、すごく楽しい。

「んがぁ〜!つめて〜」

湿気の多い雪が、彼女の手袋をびしょびしょに濡らす。

「わたしのは完璧だも〜ん!」

雪仕様
完全防水の手袋。

「準備いいなぁ」
「だって、天気予報で降るって言ってたもん」

それに雪が積もったら、こうしてあなたと遊ぶってことも
ちゃんと予想してたもん。

13 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:31

「片方貸して?」
「仕方ないなあ」

傘を持つ方の手に、わたしの手袋をはめ
空いた手は、自分のポケットへ。

同じようにわたしも
手袋をはめていない手を、自分のコートのポケットに突っ込んだ。

もしも、この手を繋いだりしたら
わたし達の関係は変わってしまうのだろうか…

そんな風に思いながら――

14 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:31

「それにしてもよっすぃ〜
 今日はぜんぜん酔ってないね?」

いつもはあっという間に潰れてしまうのに。

「んー、ちょっとちびちび飲みたい気分だった」

軽く回ったお酒のせいか、この寒さのせいか
彼女の頬は、ほんのり赤い。

「もしかして、雪遊びしたかったの?」
「まあ、それもある」

よっすぃ〜らしい…
思わず微笑んだ。

かわいい彼女。
わたしの大好きな人。

15 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:32

「今、笑ったろ?」
「うん」
「自分も用意周到に雪遊びする気マンマンだったくせに」
「だって絶対よっすぃ〜に巻き込まれるって思ったもん」
「巻き込むってひでーなー」
「ふふっ。でも楽しいよ?」

嬉しそうにはにかんだ彼女。
優しい笑みが、わたしに降り注ぐ。

それだけで、わたしの心はほんのり温かくなる。

静かな夜の街。
音もなく降り注ぐ、真っ白な天からの贈り物。

決して交わることはないけれど
ずっとこうして、彼女の隣を歩んで行けたら…

そう願っていた時だった。

16 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:32

「…寒くない?」

前を見つめたまま、そう尋ねてきた彼女。

「そりゃ寒いよ」

雪が降り積もるくらい
シンと冷えた夜だもの。

赤信号で2人の足が止まる。

「止まると余計さみぃ。
 誰もいねーし、車もこねーし、渡っちゃお?」
「ダーメ!」

ちぇっ。
なんて肩をすぼめた彼女。

その姿がまたかわいい。

17 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:33

「…じゃあ、さ…」

なぜか言葉に詰まった彼女を見上げようとして固まった。
一気に心臓が破裂しそうなほど高鳴りだし、パニックを起こす。

――彼女の体が、わたしを包み込んでいる…

そう気づいたのは、後ろから回された彼女の細い腕と、
わたしの耳元から、そっと立ち上る彼女の真っ白な吐息が視界に入ったから。

「…あった、かい…?」

返事すら出来ない。

「…ずっとこうしたいって思ってた」

突然の出来事に、あまりに激しい胸の鼓動に
めまいを起こしそうになる。

18 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:33

「――踏み出しちゃ…ダメ、かな…?」

前に回された腕に力がこもり
ギュッと体を引き寄せられる。

冷たい頬と頬が重なり、
外気とは裏腹に熱が灯る。

「…アタシ、は…
 …踏み出して…みたいん、だ…」

押し出すように漏れた言葉。
言葉を発することが出来ないわたしから漏れた吐息が
彼女の吐息と交ざりあい、空へと昇る――

「――梨華、ちゃんは…?」

わずかに震える声が、わたしの耳に響いた。

19 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:34



あの時、わたしは何と言ったのだろう?

何も言っていないと思う。
ただ言葉にならず、首を横に振っただけだと思う。

あまりに衝撃で。
あまりに唐突で。

何も反応が出来なかった。

その後、覚えているのは
彼女の悲しそうな笑みとゆっくり離れて
そっと素手でわたしの頭を撫でてくれたことだけ。

まるで何事もなかったかのように
その後、お酒を買って帰って、変わらぬ日々を何日も過ごして。

桜の咲くころに、彼女は大学を中退し
アメリカに留学をした。

20 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:34

たった一度だけ
交わりかけた、わたし達の道。

真っ白な銀世界の中、
踏み出しかけた彼女の足をわたしは止め、
足跡をつけることを拒んだ。

それが正解だったのか、不正解だったのか
今なら答えを出せる。

だって、わたしはあの日から動けずにいる。

綺麗な一面の白い世界に
たった一つの足跡もつけることが出来ず、ずっと立ち止まったままだから…


21 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:35

22 :白い世界 :2014/01/11(土) 21:35

23 :玄米ちゃ :2014/01/11(土) 21:37

こんな感じでスタートしました。
以後、よろしくお願いします。

24 :名無し留学生 :2014/01/12(日) 02:20
>>23
玄米ちやさんの新作発見!!
ずっっっと待ってます。嬉しい限り!
25 :名無飼育さん :2014/01/12(日) 03:05
うぉぉぉっ!
ずっと待ってました!
日々の楽しみが一つ増えまさた。
今回も玄米ちゃさま独特のキレイな情景が浮かびます。
どんないしよしなのかワクワクしてます。
26 :名無飼育さん :2014/01/12(日) 21:25
玄米ちゃ様お帰りなさい
こうやって新作が読めるの嬉しいな
このキュンキュンする感じ素敵です
27 :名無飼育さん :2014/01/13(月) 10:43
玄米ちゃ様お帰りなさい
そしてありがとうございます
28 :名無飼育さん :2014/01/13(月) 23:55
玄米ちゃ様!お帰りなさい。
新作ありがとうございます。
この切ない感じたまりません。
29 :玄米ちゃ :2014/01/18(土) 14:59

>24:名無し留学生様
 ありがとうございます。
 楽しんで頂ければ幸いです。

>25:名無飼育さん様
 ありがとうございます。
 嬉しいお言葉もありがとうございます。

>26:名無飼育さん様
 ありがとうございます。
 キュンキュンして頂き光栄です。

>27:名無飼育さん様
 こちらこそありがとうございます。

>28:名無飼育さん様
 ありがとうございます。
 本日も少し切ないかもしれません。


では、続きです。

30 :白い世界 :2014/01/18(土) 14:59


31 :白い世界 :2014/01/18(土) 15:00

『梨華ちゃんも一緒に行こうよ?
 よっちゃんの個展』

数日前にかかってきた美貴ちゃんからの電話。
大学を卒業して、それぞれの道を歩み始めて、
少し疎遠になってしまったけど、ちょくちょく近況報告はしていた。

3ヶ月前によっすぃ〜が帰国した。
それを聞いたのは、ごっちんからだった。

『結構、注目されてんだって。
 雑誌の挿絵とかも描いてるらしいよ?』

教えてもらった雑誌を、すぐさま買いに行って
彼女が描いたという絵を指でなぞった。

ただ触れただけなのに。
何万部と出ている雑誌の、たった一枚の片隅に描かれた
小さな挿絵なのに――

涙が次から次に溢れて、止まらなかった。

32 :白い世界 :2014/01/18(土) 15:01

他の友達よりも大切で。
他の誰よりもそばにいたくて。

そして、家族よりも愛おしい…

閉じ込めたはずの想いが、瞬く間に溢れ出して
涙となって、わたしの中から零れ落ちてゆく。

とめどない涙が、わたしの本心をむき出しにし
現実を突きつける。

――あの時…
――もしも、あの時…

彼女の挿絵を抱きしめて
声を上げて泣いた。

33 :白い世界 :2014/01/18(土) 15:01

むき出しになった本心を塞ぐ術も見つからないまま
毎日を過ごしていたわたし宛に届いた一枚のハガキ。

彼女の個展の案内状。

懐かしい彼女の直筆で、たった一言
<良かったら見に来て下さい>
そう書いてあった。

相変わらず気遣いのできる彼女。
相変わらず優しい彼女。

たった一文だけれど、
『良かったら』の言葉と、使われたことのない敬語に
彼女の温かさが凝縮されている気がした。

34 :白い世界 :2014/01/18(土) 15:02

見に行ってみようか…
でも会いたくないな…

だって、彼女はあの日から進んでいる。
けれど、わたしはあの日で立ち止ったまま。

真っ白な世界に一人佇み
一歩も踏み出せないでいる――

「よっすぃ…」

そう呟いた途端、胸が軋んだ。
久々に声に出した彼女の呼び名。

「よっすぃ、よっすぃ、よっすぃ…」

会いたい。
ほんとはすごく会いたい。

今でも大切で。
今でもそばにいたくて。

今でも愛おしい人――

35 :白い世界 :2014/01/18(土) 15:02

無理だよ…
こんな感情を抱えたままで、彼女に会うなんて。

むき出されたままの本心を抱えて
美貴ちゃんやごっちんの前で、平静を装えない。

昔になんて戻れない――

あの日から一歩も進めない臆病なわたしは、
迷った挙句、美貴ちゃんのお誘いを断った。

36 :白い世界 :2014/01/18(土) 15:02



37 :白い世界 :2014/01/18(土) 15:03

うっすらと積もり始めた雪を
踏みしめながら、ゆっくりと足を運ぶ――


『よっちゃん、寂しがってたよ』

日中、留守電に入っていた美貴ちゃんからのメッセージ。

『梨華ちゃん来てくれないだろうな…
 そんな風に泣きそうな顔して言ってた』

あの日の彼女の悲しそうな笑みが
脳裏に蘇る。

『行く、行かないは梨華ちゃんが決めることだから
 とやかくは言わないけど、迷ってるなら行きなよ?
 友達の人生初の個展なんだし。それに初めては一度しかないんだから』

美貴ちゃんの言葉が、ズシンと胸に響いた。

――そう、わたし達は『友達』なんだ。

38 :白い世界 :2014/01/18(土) 15:04

『ちょっと見に行くくらいはいいんじゃない?』

そうだよね。
こんなに頑なにわたしが拒否するのも、
美貴ちゃんやごっちんにとっては、おかしな話なわけで…

『少なくとも、よっちゃんは待ってるよ?』

よっすぃ〜が待っている。

『美貴やごっちんよりも梨華ちゃんのことを待ってる』

わたしを…待っている。

『…てことで、とりあえず行け。以上』

そこで留守電は切れた。

39 :白い世界 :2014/01/18(土) 15:05

<良かったら見に来て下さい>

彼女からの遠慮がちな、それでいて切実なメッセージ。


良かったら見に来て下さい。
良かったらあの日のことを忘れましょう。

そして良かったら、楽しかったあの頃の元の関係に戻りましょう――


彼女の真意を図りたくて、
すぐさま美貴ちゃんにメールを打つ。

 [よっすぃ〜からの案内状。
  美貴ちゃんのには何か書いてあった?]

 [特になにもなかったよ]

やっぱり…
わたしだけに書かれたメッセージ。

<良かったら>

――そうだね。元に戻ろう。

楽しかったあの頃に。
一人の仲の良い『友達』に。

戻れるチャンスだね――

40 :白い世界 :2014/01/18(土) 15:06


嫌でも視界に入る、真っ白な世界――

会場の前の信号が赤に変わり、歩みをとめる。


  『止まると余計さみぃ。
   誰もいねーし、車もこねーし、渡っちゃお?』

あの時、赤にならなかったら?

  『…アタシ、は…
   …踏み出して…みたいん、だ…』

あの時、あなたの足を止めなければ何かが変わった?

  『――梨華、ちゃんは…?』

あの時、縦に首を振っていたら?


遅すぎる後悔を責めるように、真っ白な雪は降り続け、
立ち止る足を誘うように、信号が青に変わった。

41 :白い世界 :2014/01/18(土) 15:06

今日で、この想いに別れを告げよう。

彼女が望む関係へ――

あの日のことを忘れ
楽しかったあの頃の、元の関係に。

ただのお友達だった、あの頃に戻りましょう――


意を決して、わたしはその会場へと足を踏み入れた…


42 :白い世界 :2014/01/18(土) 15:06

43 :白い世界 :2014/01/18(土) 15:06

44 :玄米ちゃ :2014/01/18(土) 15:07

本日は以上です。
次回で終わります。

45 :名無飼育さん :2014/01/19(日) 03:55
更新待ってました!
たくさんいしよしを読んできたのに展開が読めないです
更なるドキドキの予感です
46 :名無飼育さん :2014/01/20(月) 01:32
梨華ちゃん!素直になるんだ!
47 :名無飼育さん :2014/01/22(水) 07:11
最終回待機中
48 :玄米ちゃ :2014/01/25(土) 00:43

>45:名無飼育さん様
 お待たせしました。
 最終回楽しんでもらえたらいいのですが…

>46:名無飼育さん様
 さてどうでしょう。

>47:名無飼育さん様
 お待ちどうさまでした。


では、最終回です。
どうぞ。

49 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:43

50 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:44

「お名前をご記入頂けますか?」

受付で促され、ペンを取る。
<石川>まで記入した所で、受付の子が
ゴクリと唾を飲み込むのが分かった。

不審に思いつつ、<梨>と続けると
思わず口から漏れてしまったのか、小さく「キタ!」とつぶやく。

「あの〜、何か?」
「あ、いえいえ。どうぞ続けてお書き下さい」

と言いつつ、目はギラギラと光っている。

首をひねりつつ、最後の<華>の字を書いていると
一画一画、ペンを運ぶたびに息を飲む気配がする。

そして、とうとう一字を完成させると

「うおっっっしゃ〜〜〜!!」

などと、この場に不釣り合いな叫び声をあげ
館内の全員に睨まれた。

51 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:45

「すみません、石川さん。
 ちょっと待ってて下さいね」

そう言って電話を手にすると

「あ、親分は?」

お、親分??

「来客?んなもん放っといてこっち来いって言って。
 待ち人来るって伝えてよ。すぐだよ?すぐ。
 それまでは私が捕まえとくから」

親分…
捕まえる…

何これ?
銭形平次??

52 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:46

「では、石川さん。
 私、小川麻琴が館内をご案内させて頂きます!」

「あ、いえ…
 一人で大丈夫ですよ?」

てか、全然広くないし。
見渡せるし。

「ダメです!
 そんなことしたら後で私が、てえへんなことになります」

何だかこの子が、本当に八五郎に見えてきた。

「だって期間中ずっーと、石川さんが来るのを
 私は受付で待ってたんですよ?
 休憩すら許されず、取り逃がしたりしたらぶっ殺すって
 親分に言われて…」

「親分…ですか?」
「あ、吉澤さんのことです。
 尊敬してるんで、親分って呼んでますっ」

尊敬して、親分って…

思わず笑っちゃった。

53 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:47

「あ、ほんとだ!
 笑顔がかわいい」

え?

「親分がね、言うんですよ。
 笑顔がかわいくて、すっごくチャーミングな人だって」

そんなこと、よっすぃ〜から直接言われたことないのに…
思わず頬が熱くなる。

「なのに、男勝りで、負けず嫌いで
 気が強いって」

見ず知らずの人に、余計な情報を…

「ささ、ともかく行きましょ!」

彼女の子分、ハチ…じゃなかった。
小川さんに案内され、わたしは彼女の世界へと足を踏み入れた――


54 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:47

辺り一面に広がる彼女の世界は
美しくて、優しい彼女の内面を映しているようで
そばにいたあの頃を思い出す。

楽しかったね、よっすぃ〜。

彼女がわたしに来てほしいと願ったのは
この世界を見せたかったからだ。

楽しくて、キラキラと輝いていたあの頃。
穏やかで、ワクワクしていた毎日。

55 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:48

「学生の頃から、イタズラ書きはよくしてたけど
 こんなに才能があったなんて、ビックリしちゃう」

「そうですか?親分がこの道に来たのは
 石川さんに絵を褒められたからだって言ってましたよ?」

「わたしが褒めた?」

「ええ。ノートの隅に書いた卵の絵を褒められて
 調子にのって、ロックバージョンとか、モズクバージョンを
 書いたのが始まりだって」

…思い出した。
舌を出してる卵がすっごく可愛かったんだ!

「だから石川さんは恩人なんですって」

恩人、か…

うれしいけど、今のわたしには寂しい響き。
恩人だから、良かったら――

よっすぃ〜への想いとは
決別するつもりで来たのに、バカだなぁ、わたし…

56 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:49

「どうにか譲ってもらえんかのう?
 頼む!いくら払っても構わない」
「そう言われましても、吉澤の意向でして…」


「――何ですか?あれ…」

一枚の絵の前で、恰幅のいい紳士が
スタッフに手を合わせている。

「ああ、しょっちゅうなんですよ。
 あの絵を売ってくれって。
 これで何人目だろ?」

両の手を広げて、小川さんが指を折っていく。

「他の絵はね、ばんばん売っちゃっていいって言うんですけど
 あの絵だけは、絶対にダメなんですって」

へぇ〜。
どんな絵なんだろ?

「私にはどこがいいのか、サッパリなんですけど
 見る人が見ると、色んな感情が見え隠れして、
 魂が揺さぶられるらしいです。見てみます?」

一つ頷いて、まだ懇願中の紳士の近くへと歩いていく。

57 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:50

「石川さんは分かります?
 この絵の良さ」

一目見て、息を飲んだ。

「真っ白な中に、足跡が一つだけなんて
 何でこんなのがいいんですかねー」

  『――踏み出しちゃ…ダメ、かな…?』

息が止まりそうで、思わず胸元を抑えた。

「色んな種類の白から、複雑に交錯した心情が
 垣間見えて、魂が揺さぶられるんだそうですよ?」

  『…アタシ、は…
   …踏み出して…みたいん、だ…』

「そこに足跡が一つ!
 その足跡が交錯した心情から抜け出せず、
 もがいている葛藤を表現していて、非常に芸術性が高いらしいです。
 あ、これは、昨日来た評論家の方が言ってたんですけどね」

  『――梨華、ちゃんは…?』

「作品名はそのまま。<White World>」

58 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:51

「あ、親分だ!」

小川さんの声に我に返り、
視線を向けると、そこに彼女が立っていた。

「お客様、大変申し訳ございません。
 この作品だけは、どうしても差し上げるわけには参りません。
 私の…、アタシの今の心そのものを描いたものなので
 どんなに評価して頂いても、譲る気はないのです」

彼女のきっぱりとした口調に
懇願していた紳士も諦めたようで、静かにその場を去って行った。

彼に向って、深々と頭を下げていた彼女が
ゆっくりと顔をあげ、わたしに向き直る――

「…来てくれて、ありがとう。梨華ちゃん」

その途端、わたしは出口に向かって走り出していた。

59 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:51

どうして?!
なんで?!

頭の中がパニックを起こしていた。

複雑に交錯した心情…
その交錯した心情から抜け出せず、もがいている葛藤…

 『アタシの今の心そのものを描いたものなので
  どんなに評価して頂いても、譲る気はないのです』

よっすぃ〜が…?
よっすぃ〜も…?


「待って!梨華ちゃんっ!!」

走りながら振り返ると
彼女が真っ白な息を吐きながら、わたしを追いかけてくる。

分からないよ…
わたし、どうしたらいいの?

だって、せっかく決意したんだよ?
友達に戻ろうって。

ただの友達に…
なのに…、なのに…

60 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:52

無意識に、目の前の点滅する信号を走って渡った。

彼女から逃げたい自分。
彼女の真意を知りたい自分。

彼女の描く通り、複雑に交錯する自分の心を
この白い世界の中に抱えながら――


<キキーッ!!>
「アブねぇだろっ!バカヤロウっ!!」


振り返ると、彼女が車の間を縫って
赤信号の横断歩道を突っ切ってくる。

「何してんのよっ!!」

急ブレーキをかける車に
頭を下げながら、わたしに向かってくる。

61 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:53

「あー死ぬかと思った」

渡り終えた彼女の第一声。

「もう…バカ…」

安心したのと、愛おしい気持ちと。
わたしの中の色んな感情が爆発して
涙となって、頬を伝う。

「ごめん。けど、梨華ちゃんが逃げちゃうと思ったから。
 今捕まえないと、2度と捕まえられない、
 そんな気がしたから…」

ごめん…

彼女がもう一度、小さな声で謝った。

62 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:54

「――あの絵…さ、あの白い世界は
 アタシの心なんだ…」

あの日。
何度も踏みとどまろうと思った。

仲のいい友達のままでいいって、
自分の本心をねじ伏せて、ずっとそばで笑えたらいいって
そんな風にも思ってた。

けど――

もう爆発寸前だった。
触れたくて、抱きしめたくて。
アタシだけのものにしたくて…

あの時ね、アタシ賭けをしたんだ。

手のひらに乗った雪が、綺麗な結晶の形をしていたら。
崩れずにそのままの姿で、アタシの元に降りてきてくれたなら。

――本当の気持ちを、そのまま伝えてみようって…

63 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:54


「梨華ちゃん。アタシはあの日からずっと
 梨華ちゃんを諦めようって、そう思ってた。
 だから、そばにいることをやめて留学に行った」

だけどね。

「どうしても無理だった。
 想いは募るばかりで、あんな絵まで描いて…」

彼女がゆっくりと目を閉じた。

「あの絵の通り、アタシはあの日から一歩も進めてない。
 踏み出したいって、片足を地面につけてみたけど、
 そこから先には進めなかった」

彼女の白い世界にたった一つ残る足跡。
たった一度だけ、繋がりかけたわたし達の白い世界。

一線を越え、2人の白い世界を繋げようと
わたしの白い世界へ、足を踏み出そうとした
彼女の足をわたしは止めた。

そして、わたしは――

あの日から、一歩も進めていないわたしの白い世界は
足跡すらない、ただの真っ白な世界になった。

64 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:55

「…アタシ、は…
 …やっぱり、踏み出し…たいん、だ…」

押し出すように漏れた言葉。

「できることなら、梨華ちゃんの世界に…
 そして一緒に、この白い世界に足跡をつけたいんだ…」

彼女から吐き出された真っ白な吐息が、空へと昇ってゆく。

「…でも、ダメなら…。ほんとにダメなら…
 このまま逃げてくれていい。
 そしたら今度こそ…今度こそ諦める」

他の友達よりも大切で。
他の誰よりもそばにいたくて。
そして、家族よりも愛おしい彼女…

「次に会うときには、ちゃんと友達とし――」

彼女の白い吐息は、わたしの中に消えた。

65 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:56

「――好き…」

重ねた唇を離して、真っ先に自分の素直な気持ちを伝えた。

「…わたしもほんとは、ずっと…」

後悔してた、あの日を。
臆病だった、あの頃を。
素直になれなかった、あの時を。

「よっすぃが好きで、どうしようもなくて…」

熱い涙が頬を伝う。

「…好き…大好き…よっすぃ…」

やっと言えた。
やっと踏み出せた…

66 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:56

「梨華ちゃん…」

彼女の綺麗な瞳からも、一筋の涙が零れ落ちる。
きつく抱きしめられて、彼女の温かい腕に身をゆだねた。

頬と頬が重なり、2人分の熱が、降り積もる雪を解かしてゆく――

まるで誓いを立てるかのように
どちらからともなく、唇を寄せた。


――やっと繋がったわたし達の世界。


きっとこれからは、2人の後ろに
たくさんの足跡がついていくはず。

全て寄り添って、
全て同じ方向を向いて――

67 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:57

68 :白い世界 :2014/01/25(土) 00:57


   おわり

69 :玄米ちゃ :2014/01/25(土) 00:58

お目汚し失礼致しました。

70 :名無飼育さん :2014/01/25(土) 01:10
玄米ちゃさまの真骨頂というべき綺麗な情景
きっと絵の才能もあるんでしょうね。
この数日、更新待ちという懐かしい感覚を味わってました。
もっと、もっと読みたいです
そして、石川梨華さん、お誕生日おめでとうございます
71 :名無飼育さん :2014/01/28(火) 11:04
素敵ですね〜。心が暖かくなりました。何回も読み返してしまいます。新作期待してもいいですか?
72 :玄米ちゃ :2014/01/28(火) 18:22

>70:名無飼育さん様
 ありがとうございます。
 棒で人の体を描くほどではありませんが、
 全くもって絵の才能はございません。

>71:名無飼育さん様
 ありがとうございます。
 新作は脳内にはあるんですが文字になるのはいつになるやら…
 てな感じです。すみません。


さて、本日はリアル短編です。
今年こそお誕生日はスルーする気マンマンで
白い世界を始めたんですが、ヲタの悲しい習性なのか
某ブログで空港に忘れ物したことが明かされたら、
それにピコンしてしまい、あっという間に書きあがっちゃいました。

こんなものアリかなーぐらいの軽い気持ちで
お読みいただければと思います。

ではどうぞ。

73 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:22


  『ad libitum』


74 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:23

「…ねぇ、そっちいっていい?」

だって、最後の夜なんだよ?
最後くらい、あなたの腕の中で眠りたい。

「――ダメ…」

震える背中で、わたしを拒否する彼女。

強がりな背中。
頼りがいがあって、広くて、温かい背中。

けれど、誰よりも繊細で、
本当はずっと守ってあげたい、大好きなあなた――

75 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:24

ごめんね、おいていくこと。
でもやっぱり、わたし達はこのままじゃいけない。

中澤ねぇさんだって。
あの圭ちゃんだって…

時は動いているの。
だから、わたし達の周りも動いている。
どんどん変わっていく。

わたし達だけが、このままでいいはずがない。
わたし達だけが、出会った時のままでいいはずがない。

だから――

ばいばい、よっすぃ…

76 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:25





<ブーンブーン>



枕元で震える携帯。


――イヤな、予感…


彼女に背を向けて、そっと画面を開く――



77 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:26



 [はいっ、カットー!!
  さすが梨華ちゃん、いい演技だったよぉ。
  っつーことで、誕生日おめでとう!!]


「んもうっ!よっすぃ!!」

振り返ろうとして、体ごと抑え込まれた。

「おたおめメール一番のり。
 ついでに29歳の体にも一番のり」

綺麗な顔がニヤリと崩れる。

「もうっ!ちゃんと台本通りにしてよ。
 まだまだ続きがあるでしょ?」

わたしのこの言い分には理由がある。
それは今から、遡ること数日――


78 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:26


79 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:27


「圭ちゃんね、綺麗だったよ」

頂いたブーケを見ていたら、
やっぱり声が聴きたくなっちゃって、思わず電話して――

『そりゃ一応アイドルやってたんだし』

うん、そうなんだ。
そうなんだけど…

『もしかして着たいとか思っちゃった?』

図星。

青い空の元、みんなに祝福される幸せそうな2人に
自分たちの姿を重ねてしまったなんて、絶対に言えないけど…

80 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:28

「べ、別にわたしは、着なくてもいいし。
 それに式の準備とか大変そうだし、そういうのこだわらないし」

『ふ〜ん』

「何よりわたしは、よっすぃのそばにいたいの!」

『あら、キレ気味だけど素直』

彼女から苦笑する気配が伝わってくる。
それだけで、じんわりわたしの心が温まっていく。

彼女と繋がっているだけで。
彼女の声を聴くだけで。

彼女のそばにいられるだけで、
わたしは幸せになれる。

81 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:29

『でも今、ちょっとだけ不安になっちった』
「え?なんで?」

『やっぱ式とか、あげられないしなー
 ごくごく普通のこと、できないからなーって。
 2人で選んだはずの道なんだけどさ、
 こういう時、ちょっと胸のあたりがチクッて来ない?』

今日は何だか、2人とも素直だね。

大好きな先輩の人生の門出だもの。
いろいろ考えちゃうのは仕方ないよね?

『何か懐かしいかも。このモヤモヤ感』

2人でいるって決める前も、決めたあとも
小さなキッカケで何度もつまづいた。

普通の恋愛じゃないことに、お互いに胸を痛めて
握った手を離そうとしたことも何度もあった。

82 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:29

『今だから笑えるけど、当時はそーとーキツかった!』
「わたしだって!」

でも、だから。
それを乗り越えた絆が、わたし達にはある。

『あー思い出すとキュンキュンしちゃうなぁ』
「なによぉ、今がキュンキュンしないみたいな」
『だってもう、普段はしなくね?』
「そりゃ、しないけど…」

ってことは…

『もしかして』
「わたし達」

『「マンネリ?!」』

83 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:30

『いやいや、まだ大丈夫でしょ?』
「そうかな?」
『そうかなじゃねぇよ。何?なんか不満なの?』
「不満はないよ」
『ならいいじゃん』

「…う〜ん、なんて言うか…
 変化がないのが、ほころびの始まりだったりするし…」
『おいおい。ほころびとか、不吉なこと言わないでよ』

もしかして、熟年夫婦とか言って
安心してる場合じゃないのかもしれない。

『おーい、梨華ちゃん?』

うん、そうだ。
何か、こう初心に帰れるような出来事――

84 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:31

『変なこと考えないでよ?
 あ、そうそう。帰ってきたら誕生日じゃん?
 だから今年はいつも以上に――』

そうだ!それだ!!

「よっすぃ!」
『はい?』
「わたしの誕生日のお祝い、もう決めてる?」
『…え、い、いや。まだ…』

よしっ!

「じゃ、わたしの言う通りにして」
『はああ??』

エンジン全開。
空回りスイッチ全力でオン。

待ってて、よっすぃ!

わたし達の新鮮な気持ちを取り戻そう作戦!
帰るまでにまとめて、よっすぃに渡すからねっ!

85 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:32



と、帰りの飛行機の中で
鼻息も荒く、書き上げた台本。


  [脚本:石川梨華
   W主演:吉澤ひとみ、石川梨華]

   〜あらすじ〜

    やはり2人の関係がこのままではいけないと思った梨華は
    愛の巣を出ていくことを決意する。

    愛するが故に別れを選ぶ梨華。

    せめて最後の夜は、ひとみの腕の中で過ごしたいと願うが
    別れを納得できないままのひとみは、それを拒む。

    翌朝、背を向けたままのひとみに声もかけずに、
    梨華は一人、荷物を抱えて家を出ていく。

    一人残されたひとみは、梨華の跡を消そうとするが
    どうしても出来ずに、梨華を追いかける――


86 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:32


「なんだよこれ、実話じゃねーか」
「いいじゃない」

帰国して、真っ先に彼女の元に向かって
渾身の作品を見せたって言うのに…

しかも機中で没頭しすぎたせいで、大事なiPhoneを
空港でなくすなんて、大失態までしちゃったんだからね!

「これウン年前、逆のキャストでやってますけど?」
「そうだけどぉ」

だって、2人で生きていくって決めた
わたし達の大切な出来事なんだよ?

「あの時のお互いの立場にたってみたら
 また感じるものがあるんじゃないかな、なんて思ったんだもん」

「はああああ…」

よっすぃが深いため息をつく。

やっぱりダメ?ボツ?

87 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:33

「これ、本気?」

コクリと頷く。

「誕生日にやるわけ?」

コクリ。

「どうしても?」

コクリ。


「――わかった」

うそっ?!

驚いて顔をあげた。

「…いい、の?」
「やりたいんでしょ?」
「うん。だって初心に帰れそうだから…」

「好きな人が、どうしてもやりたいってんだから
 しょーがねぇじゃん」

プイとそっぽを向いて、頬を赤らめたよっすぃ〜。
嬉しくて思わず抱き着きそうになって、慌てて思いとどまった。

やると決まれば、役作り!
ねっ!!

88 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:34








89 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:34


「あ〜あ、せっかく役作りしてたのに…」
「どんな風に?」

29歳になったばかりの体を抑え込まれたまま
上に乗った彼女に聞かれる。

「あなたを好きで好きで仕方ないの。
 だから、あなたの幸せを考えたら、一緒にいちゃいけないって。
 普通の幸せを掴ませてあげたいって、身を引く決意をして…」

「そんで?」
「翌朝、家を出ていくの」
「アタシを置いて?」
「だって台本にはそう――」

彼女の瞳が急に真剣なものに変わる。
身動き一つ出来ないほど、見つめられ息が詰まる…

90 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:35

「あの時のアタシは、自信がなかった。
 ただただ自信がなくて、自分さえ我慢すれば
 自分の気持ちにさえ、フタをしてしまえば
 梨華ちゃんは幸せになれるって思ってた」

よっすぃ…

「自分勝手だったんだ。自分さえいなければ。
 自分さえ消えればって。
 梨華ちゃんには普通の幸せが似合うって。
 かわいい奥さんが似合うって」

あの頃の身を切られるような、よっすぃ〜の想い。
切ないほど真っ直ぐなわたしへの愛。

「でも2人で時間をかけて、一方的な想いじゃなくて
 こうして一緒に、大切に愛を育んできて」

――今なら、自信を持って言えるよ。

「石川梨華を幸せにできるのは、アタシしかいない」

だから絶対、出て行かせたりなんかしない。
一人になんて、絶対にするもんか。

91 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:36

「よっすぃ…」

ポロポロと涙が零れ落ちる。

「周りの状況だけが劇的に変わってるようにみえても。
 アタシ達だって、ちゃんと変わってるよ。
 アタシ達なりの速度で、時と共に成長してる」

だから、昔の出来事は
2人の大切な歴史でしょ?

92 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:37

よっすぃ〜の言う通りだ。

わたし達には、わたし達だけで築いた歴史がある。
2人だけで乗り越えてきた道のりが、いくつもある。

わたし達は、ちゃんと進んできたんだ。
止まらないで、補い合いながら、手を取り合って進んできた。

だって、その足あとは、ちゃんとわたし達の後ろにある。

「まあ、心配すんな。
 マンネリ化したところで、アタシは梨華ちゃんの隣を
 離れる気なんて、これっぽっちもないから」

「わたしだって」

そう。愛情の深さは、わたしだって負けないもん!

93 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:38

「さて。もう台本通りじゃなくていいっしょ?
 吉澤さん、アドリブ大好きなもんで」

「この前、麻琴怒ってたよ。
 あの人、めちゃめちゃやり過ぎですって。
 石川さんからも言っといて下さいって」

「みんな、楽しんでたけどなぁ」

「小春よりひどいって」

「あ、それ。その言われようは、地味に痛い」

眉を寄せた彼女を笑った。

94 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:38

「でも、今日のアドリブは合格」
「でしょ〜」

途端に眉尻が下がった彼女。
心の底から、愛おしくて仕方ない。

「アドリブの続きしたいんだけどいい?」
「ん?いいけど」

「では今から、29歳のお姉さん梨華ちゃんを
 おいしく頂こうと思います」

妖しく、彼女の目が光る。

「てか、この体勢でお預けは無理だし。
 ちょっと色々学習もしてきたんだよねー。
 こっちでマンネリとか言われたら、ちょーショックだから」

早々に動き出した彼女のイタズラな指。

95 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:39

「んっ…ね、縛るのとか、ヤダ…よ」
「んなことしないよ」

…ぁ…、んん…

「最高にキモチイイことしてあげる」

好きだから、大切に。
梨華ちゃんが悦ぶことを、ね。

「だから安心して、これからも
 全部アタシにゆだねて」

大きく頷いて、体のチカラを抜いた。

96 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:39


あなたのアドリブは、いつだってわたしを楽しませてくれる。
あなたのアドリブは、いつだってわたしを幸せにする。

決められたセリフや生き方は
わたし達にはない。

決められた形式にも
わたし達はあてはまらない。

ならば2人で
2人だけの道を。

思うままに、自由に貫いて往こう――


97 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:40

98 :ad libitum :2014/01/28(火) 18:40

  おわり

99 :玄米ちゃ :2014/01/28(火) 18:40

大変失礼いたしました。

100 :名無飼育さん :2014/01/28(火) 19:45
遅くなりましたが完結おめでとうございます!
&リアル短編ありがとうございます!
玄米ちゃさまのいしよし、やっぱり好きです
あと、今のいしよしもやっぱり好きだなぁって再確認しました
これからの玄米ちゃさまのいしよしも、これからの現実のいしよしもすっごい楽しみです
101 :名無飼育さん :2014/02/02(日) 00:43
続きをくわしく読みたいです!
本当に面白かった。キュンキュンしました!
102 :名無飼育さん :2014/03/14(金) 20:20
楽しかった(^_^ゞ
新作 楽しみにしてます!!
103 :名無飼育さん :2014/03/28(金) 22:10
┐('〜`;)┌
104 :玄米ちゃ :2014/04/08(火) 17:11

>100:名無飼育さん様
 ありがとうございます。
 嬉しいお言葉を頂き、こちらこそ感謝です。

>101:名無飼育さん様
 ありがとうございます。
 本日も楽しんで頂けるといいのですが…

>102:名無飼育さん様
 ありがとうございます。
 お待たせしました。

>103:名無飼育さん様
 すみません。


長生きはしてみるもんですねぇ…としみじみ思う昨今です。
さて本日は、一応お誕生日前のリアル短編です。
もう少し近づいてからと思っていたのですが、
週末には葉桜になってしまいそうなので、少し早めに。

では、どうぞ。
105 :サクラ色の2人 :2014/04/08(火) 17:11


  『サクラ色の2人』

106 :サクラ色の2人 :2014/04/08(火) 17:13

くやしいなぁ。
何でこんなに似合っちゃうんだろ…

サングラスをかけた横顔。
スッと通った鼻筋に、薄い唇。

穏やかな春の光をガラス越しに受けて、
キラキラときらめく真っ白な肌は、
そろそろ見飽きてもおかしくないと思う。

ずっとずっと隣で見つめてきた彼女。
ずっとずっと隣にいてくれた彼女。

なのにやっぱり見飽きない――
…ううん、見たりないくらいだ。

107 :サクラ色の2人 :2014/04/08(火) 17:13

「なーに、ジッと見てんだよ。
 そんなに初心者の運転が怖いかぁ?」

チラリと助手席を見やって
ハンドルを切る。

ほらまた、くやしいくらいサマになってる。
なのに、初心者マークつけてるなんて…

ギャップに笑っちゃう。

「何で笑うんだよぉ」
「良く取れたなぁって」

 あ〜めんどくせぇ。
 何だこの問題。何でこんな回りくどい言い方するわけぇ?
 ぐわぁ〜マンマとひっかけ問題にひっかかった!

 やべぇ、読めねえ…
 カナふってよぉ…
 ダメだ。一個覚えたら一個出て行く…

108 :サクラ色の2人 :2014/04/08(火) 17:14

それはそれは、毎日がにぎやかで。

ピンクのソファに寝そべったり、起き上がったり。
ひめの背中にテキストをおいて、机代わりにして逆にかじられたり。
真剣に勉強してると思ったら、棚から人の写真集を引っ張り出して
年齢ごとにカラダの線を比べてみたり…

叱って、笑って、
励まして、また笑って。

このところずっと穏やかに過ごしてきた2人の間に
わずかだけど、変化が起きて、すっごく楽しかった。

いつも思ってるけど
『がんばれ、ひーちゃん』
そう声に出して応援出来たことが、本当に本当に嬉しかった。

109 :サクラ色の2人 :2014/04/08(火) 17:15

「アタシが無事に免許とれたのは
 石川先輩のおかげっスよ」

ニヤリと上がる口角。

「事細かに、次はこういう学科があって
 こんなのがあって、ああしてこうしてそうして…って
 超世話やいてくれたもんね」

だってぇ。
久しぶりに嬉しかったんだもん。
前に立って、あなたの手をとって導くことが。

最近じゃめっきり減っちゃってさ…
どっちかと言うと、ここ数年は手を引いてもらう方。

ダイビングしかり。
機械類全般しかり。

110 :サクラ色の2人 :2014/04/08(火) 17:16

「隣に大先輩が乗っててくれるから
 安心して、若葉ちゃんは運転できるんスよ」

「そうやってペーパーをバカにして」

フハハ。

楽しそうな横顔。
大好きな横顔。

幸せを感じるひと時――

彼女の手がスッとドリンクホルダーに伸びる。
初心者のくせに、もう片手離せるなんて
やっぱり悔しい。

伸ばされた彼女の手を制して
代わりにわたしがドリンクを取る。

ストローを摘まんで彼女の口元に差し出す。

一瞬驚いた顔をして、目元を緩めると
視線を前に向けたまま、差し出されたストローに唇をつけた。

 <ドキンッ>

111 :サクラ色の2人 :2014/04/08(火) 17:16

「サンキュ」

こんな姿、何度も見てるのに、なぜか心臓が早鐘を打つ。

彼女が熱を出した時だって、
こんな風にストローを差し出して、お世話して。

艶っぽい彼女の口元を見つめて、
ゆっくり吸い上げる姿をかわいいなって…

「何だよ?なんかついてる?」
「…ん?ううん」

慌てて首を横に振る。
こんな時、悔しいけど自覚してしまう。

――わたし、ずっと恋してるなって。

112 :サクラ色の2人 :2014/04/08(火) 17:17

こんなにずっとそばにいるのに、
今でもときめいてしまう。

慣れることなんてないのかもしれない。

世間では、『熟年夫婦』とか言われて
わたしもよく使ってるけど、でも。

わたしの心は、まだまだ
このさくら色のドリンクのように
甘酸っぱくて、ピュアな色をしている気がする。

113 :サクラ色の2人 :2014/04/08(火) 17:18

「どした?」
「んー、わたしってピュアだなぁって」
「はあ?黙りこんだと思ったら、そんな寒いこと考えてたの?」
「寒いって何よぉ」

ニヤッてしながら、ちと暖房つけるか、なんて皮肉気味に言って、
陽が陰って少し冷えてきた車内を暖めてくれる。

気づかない人には気づかない
彼女の優しい心遣い。

だけど、気づいてしまう人は
一瞬で心を奪われてしまう。

あーあ。
ほんとこれで、今まで何人の人がおちただろうか…

114 :サクラ色の2人 :2014/04/08(火) 17:18

「ムカつく…」
「はい?」

「ひーちゃんが優しすぎてムカつく」
「はあ?」

もう気持ちが揺らぐなんてことはないけれど
離れた仕事が続くと、やっぱりちょっと心配になっちゃったりする。

優しい人だから。
優しすぎる人だから。

「何なに?久しぶりにヤキモチ系?」
「べっつに」

まちがいねーな、こりゃ。
彼女がボソッと呟いた。

115 :サクラ色の2人 :2014/04/08(火) 17:22

「で?なんか良からぬ噂でも耳にしました?」
「してません」

「ありゃ、じゃ何でまた?」
「う〜ん、不明」

「フハッ、何それ?」

不穏な空気も不穏にならない。
それが年を重ねた今のわたし達。

信号が赤になり、ゆっくり車が停車する。
彼女がサングラスを外して、優しい瞳をして
助手席に座るわたしの顔を覗き込む――

「寂しかった?」

素直に頷いた。

両手に溢れるほどの愛を注いでもらっても、
まだ欲しいと願うわたしは、相当な欲張りなんだと思う。

116 :サクラ色の2人 :2014/04/08(火) 17:22

「そっかー、寂しかったかぁ。
 よーし!じゃ、ひーちゃん今日は頑張っちゃうぞ」

ふふ。
フハハ。

重なる笑い声さえ、穏やかな旋律を奏で、
2人の間を優しい空気で満たす。

わたし達が2人で育んできた温度。
わたし達が2人で育んできた空間。

かけがえのない2人だけの時間――

117 :サクラ色の2人 :2014/04/08(火) 17:23

「やっぱいいな、こういうの」

視線を前に戻した彼女が言う。

「恋人を乗せて、ドライブってさ。
 なんか無性にワクワクする」

「うん。分かるよ、その気持ち」

わたしもあなたを初めて乗せた時そうだったもん。

「の割には、あっという間にペーパーになった気がするけど?」
「そのうちまた乗せてあげるもん」
「へー、期待しないで待っとくわ」

クスクス笑う彼女に
頬を膨らませるわたし。

春色の優しい景色が窓外に流れ
自然と笑みが零れる。

118 :サクラ色の2人 :2014/04/08(火) 17:24

春は好き。
世界が大好きなピンク色に染まるから。

春は好き。
大好きなあなたが生まれた季節だから。

あ、でも。
花粉症デビューしちゃったんだよなぁ…

<くしゅんっ>

119 :サクラ色の2人 :2014/04/08(火) 17:25

「ほら、マスクしときなよ。
 これからもっと山ん中つーか
 森の中通るから」

車内にあるティッシュで鼻をグジグジ拭きながら
その紙の柔らかさに驚く。

ティッシュカバーをそっとめくってみると
案の定、超柔らかティッシュ。花粉症仕様。

「まあ、アタシも何か鼻炎っぽいし?
 森ん中行って、鼻の頭カピカピにされても困るし。
 一応アイドルだからさ」

あーあ。ほーんと、やんなっちゃう。
どうしてこんなに、イチイチ気が利くのかしら。

こんなことされたら絶対キケン…

「助手席は、わたし以外禁止ね」
「何?急に」
「いいから禁止」

「んなの、言われなくても
 そのつもりだけど」

120 :サクラ色の2人 :2014/04/08(火) 17:25

ぶわっ。
一気に頬が染まった。

こういうこともサラッと言っちゃうんだ、この人は。

普段はすんごく恥ずかしがるクセに
決める時は、悔しいくらい決めちゃう人。

マメで、繊細で、優しすぎて、気配りが出来て。
それでいて、心が広くて、サバサバしてて、格好良くて、美人で。

自慢してもしきれないくらい
自慢の恋人。

世の中の人、うらやましいでしょ?
って、ドヤ顔したくなっちゃう。

たまに仲間の前でしちゃって
呆れられるけど。

121 :サクラ色の2人 :2014/04/08(火) 17:26

「あ、あそこ。
 もうすぐだよ」

彼女が言った通り、森を抜けて
少し開けた場所に出る。

「何とかギリギリ、陽が出てるうちに来れて良かった。
 日が沈むと、この辺真っ暗で何も見えなくなっちゃうからさ」

わたしが免許取り立ての時は
わたしの地元の自慢の景色を見に行った。

そして、今度は
彼女の地元の自慢の景色を見に行きたいってお願いした。

あそこは畑しかない。
真っ暗だって言ってたけど、
ちゃっかりガッタスで凱旋試合した時に
下見してきたみたいで、あそこならいいかもって連れてきてくれた。

122 :サクラ色の2人 :2014/04/08(火) 17:27

「どう?」

一面に広がるサクラ色。
風にそよぐ花びら。

魅入られたまま、車を降り
その大木を見上げる。

「きれい…」

ヒラヒラと舞う花吹雪が、わたしに降り注ぎ
別世界に来たかのような錯覚を起こす。

「何年ぶりだろうね、花見」
「うん…」

あまりの感動に、涙が一粒零れ落ちた。

「小さい頃、チャリすっとばして
 よくここに来たんだ」

懐かしげに遠い目をした彼女。

123 :サクラ色の2人 :2014/04/08(火) 17:28

「怒られたり、ミスしたりして
 一人で泣きたいときとか、よくここに来た」

泣き顔を見られるのを嫌う彼女。
弱みを見せず、人に気を使わせたり、心配をさせたりは決してしない。

「意外と泣き虫なアタシを知ってんのは
 この木と梨華ちゃんくらいかな?」

優しい目をして、そんなことを言うから
涙が止まらなくなった。

なのに――

<くしゅんっ>

「あーだから、マスクしとけって言ったのに」
「だってぇ…」

<くしゅんっ>

もう一つクシャミをして、
言われた通り、マスクをつけようとしたその時――

124 :サクラ色の2人 :2014/04/08(火) 17:28

――彼女の唇が、わたしのそれに触れた。

頬に添えられた手が温かい。
触れ合った唇が柔らかい。

大好きなピンク色の世界。
サクラ色の頬をした彼女。

幸せ。
すっごく幸せ。

静かに目を閉じて、彼女の愛を受け入れた。

125 :サクラ色の2人 :2014/04/08(火) 17:29





「…鼻水たれてる」

ロマンティックな雰囲気をぶち壊す
彼女の一言で目を開けた。

「だってぇ…ぶえっくしょん!」
「おいおい、あの石川梨華が
 ぶえっくしょんはないでしょ」

「だっ…はぁ…はぁ…はああ…ぶえっくしょんっ!!」
「何でそこまで来て、ぶえっくしょんになるんだよっ」

手を引かれて、車の中へ逃げ込む。
愛の証の柔らかティッシュで、思いっきり鼻をかんで
幾分スッキリする。

「あーあ、これからは
 花見は鼻水つきだな」
「だいじょぶ。完全ぼーびする」

鼻を拭き拭きし終わったわたしを見て
彼女が吹き出した。

「鼻真っ赤。涙目」
「じかたないでしょー」

126 :サクラ色の2人 :2014/04/08(火) 17:30

「でもやっぱ」

――すっげぇ、かわいい。

ぼぼぼぼっ。
鼻だけじゃなく、顔中真っ赤になった。


「飲酒運転になっちゃうから
 サクランボジュースで乾杯ね」

軽くペットボトルを合わせると
サクラ色の液体が揺れた。

127 :サクラ色の2人 :2014/04/08(火) 17:30

優しくて、癒されて、穏やかで
それでいて、気品があって…

サクラ色はまるであなたの色みたい。

甘酸っぱくて、ピュアで、キュートで
それでいて、華やかで…

サクラ色はまるでわたしの色みたい。

そして

いつまでも初々しくて、温もりがあって
それでいて、情熱的なサクラは

まるで、わたし達2人みたい。

128 :サクラ色の2人 :2014/04/08(火) 17:31

「ひーちゃん」
「ん?」
「来年も連れてきて?」
「いいよ」
「再来年も」
「OK」
「その次もずぅ〜っと」
「任せとけ」

微笑みあって、もう一度口づけた――


「…あ、ちょ、待って!
 はぁ…はああ…ぶえっくっしょんっ!!」

「だから、ぶえっくしょんをやめろって…」

一度反応するとね、なかなか止まらないのよ。
あなたへの恋心と一緒で…

129 :サクラ色の2人 :2014/04/08(火) 17:32





「うまいこと言って、綺麗に収めようとしてもムリムリ。
 ほら早く、鼻水拭け」

「そんな…ぶわっくしょんっ!!」

「どんどんヒドクなってやがる…」




130 :サクラ色の2人 :2014/04/08(火) 17:32



  花粉症お大事に。


       おわり。


131 :サクラ色の2人 :2014/04/08(火) 17:32

132 :サクラ色の2人 :2014/04/08(火) 17:32

133 :玄米ちゃ :2014/04/08(火) 17:34

かくいう作者も、かなり年季の入った重症患者だったりします。
さて、いかがでしたでしょうか?
もしかしたら、お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが
実はネタがネタなので、以前書いた『HANA』(幻板のI wrap Youスレ内)と
少しだけかぶせて書いていたりします。
ぜひご感想など頂けるとありがたいです。

134 :名無飼育さん :2014/04/09(水) 00:48
ぐぇんむぁい茶さむぁ〜!待ってましたよ!うれしいです!
いつまでもこんな二人を見ていたいですね。
135 :名無飼育さん :2014/04/09(水) 02:02
更新うれしいです!
今回の更新を読んでキュンキュンできたと思ったら
以前のを読んでドキドキしちゃいました
136 :名無飼育さん :2014/04/11(金) 21:20
まさかあの反省会で「噂です!噂」と強調していたひーちゃんが、
玄米ちゃさんに決定的瞬間を目撃されていたとは・・・(^^)

さくら色の中の二人がとてもステキですね。
久しぶりにやさしい気持ちにさせてもらえました。

いつも玄米ちゃさんの描く二人にいつも癒されています。


137 :名無飼育さん :2014/04/12(土) 08:47
なんかほっこりした〜。
こんな雰囲気好きww
こっそり痛くない甘い長編 希望してまつ
138 :名無飼育さん :2014/04/21(月) 23:09
キュン死にしそうでした(笑)
なんか二人の成長を見てるみたいで
楽しかったです!!

139 :玄米ちゃ :2014/05/27(火) 12:04

>134:名無飼育さん様
 ありがとうございます。
 ほんと見ていたいですね。

>135:名無飼育さん様
 ありがとうございます。
 今だに現実の2人を見ているだけでキュンキュンしちゃいますね。

>136:名無飼育さん様
 ありがとうございます。
 実は周辺に間者を放っています。

>137:名無飼育さん様
 ありがとうございます。
 今度は甘くない中編になりました。

>138:名無飼育さん様
 ありがとうございます。
 現実の2人に感謝が尽きません。


さて、何とか見通しがつきそうなので
新作を始めます。
宜しければお付き合いください。
140 :相克 :2014/05/27(火) 12:05


    『相克』


141 :相克 :2014/05/27(火) 12:06

どうしても忘れられないものがある――

あの夜の2つの輝き。

それは、頼りない月明かりに照らされて
まるでルビーのように輝き、わたしを魅了した。

果実が熟れたような甘い香りが全身を包み込み
わたしの体は硬直し、指一つさえ動かすことが出来なかったあの夜。

『怖がらないのか?』

ああ、その声も。
わたしの耳には、心地よく響く…

ゆっくりと近づいてくる2つの輝きに、
わたしは見とれ、思わず零れ落ちた言葉に、その輝きが揺れた。

「――キレイ…」

142 :相克 :2014/05/27(火) 12:06


ああ、どうして。
どうして、わたしは…

ああ、どうして。
どうして、あなたは…



――まもなくわたしは、この長い眠りから覚める。

だけどそれは、
わたし達にとっては、終わりを意味する。

純血という
悲しい性に縛られた

わたしと、あなたの――


143 :相克 :2014/05/27(火) 12:07





144 :相克 :2014/05/27(火) 12:07

「リカ様、いい加減に覚えて下さい!
 いいですか?日本ではお食事の時は
 この2本のお箸を使うんですっ!」

「もうっ、マコトってばうるさい」

「うるさいじゃありませんっ!
 めんどうだからって、魔法を使ってお食事なさるのは
 やめて下さい!!」

「はいはい」
「はいは一回で結構!」

「はーい」
「伸ばすなっ!」

「ホイ!」

「ホ、ホイ…とは…
 あーなんと、嘆かわしい…
 大魔導師様がご存命なら
 さぞかし落胆なさることでしょう…」

大げさにため息をつくマコトに気づかれないように
こちらも小さくため息を吐いた。

145 :相克 :2014/05/27(火) 12:08

わたくし、現在の仮の名は『石川梨華』
本名『リカ・チャーミー』

出身はこれでもヨーロッパ。
深い森が開けた場所にある、懐かしいわが故郷は
もう影も形もないらしい。

なんたってわたしは…

「いくら1000年の眠りから覚めた後だからと言って
 あなた様は、由緒正しき魔法使い一族の唯一の後継者なのですよ?」

「2言目にはそれだもんなぁ…」

「だもんなぁ…じゃないですよ!」

「あーうるさい。うるさい。
 ごちそう様でした!」

ムカツキついでに、ちょいと指を鳴らして
魔法でシンクに食器を運んだ。

「コラ!また!」

怒り出すマコトを尻目に
さっさと自室に引き上げる。

146 :相克 :2014/05/27(火) 12:09

わざと音を立てて扉を閉め
ベッドの上にドサッと倒れこんだ。

「あーあ…」

狭い家に、狭い街並み。
何もかもが眠りにつく前と違いすぎる。

平和なのはいい。
魔法が必要ないほど、便利になった世の中も魅力的。

だけど――
わたしには、逃れられない使命が課せられている。

けれどやっぱり、あの人を思うと、途端に胸がときめく。
そして苦しくなる。

古すぎる記憶を手繰り寄せ、今日もあの日のことを思い出す。
あの2つの輝きのことを――

147 :相克 :2014/05/27(火) 12:09





148 :相克 :2014/05/27(火) 12:10

「夜襲だ!吸血一族の夜襲だ!!」

寝静まっていた城内に悲鳴や怒号が飛び交った。

逃げなきゃ…

恐る恐るベッドから抜け出そうとして
窓の隙間から部屋の中に、霧のようなものが流れ込んできたのが見えた。

と同時に、果実が熟れたような甘い香りが全身を包み込み
頭と体がしびれ、縛りつけられたようにベッドに横たわり、
指一つさえ動かすことができなくなった。

マズイ、どうしよう…

指を動かせなければ、魔法が使えない。
助けを呼ぼうとしても、喉さえしびれて声が出てこない。

ヤダ。助けて!
パパ、ママ…

149 :相克 :2014/05/27(火) 12:10

ゆっくりと侵入した霧が
ベッドの脇に溜まっていき、やがて人の形をなした。

黒いマントを羽織り
スラリとした背に、金色の髪。

透けるような白い肌に浮かぶ
真っ赤な2つの輝き――

キレイ…

思わず釘付けになった。

まるでルビーのような
赤く美しい2つの瞳――

「怖がらないのか?」

ああ、なんて甘い声なんだろう。
心地よく耳に響く、穏やかな音色の濡れた声――

150 :相克 :2014/05/27(火) 12:11

ゆっくりと近づいてくる2つの輝きに、
わたしは見とれ、手を伸ばしたい衝動にかられた。

これが、吸血鬼…?

野蛮で、横暴で、魔法族の唯一の敵だと、
子供のころから教えられ続けてきた、あの――

「どうして怖がらない?」

怖い?

怖いわけがない。
むしろ触れてみたい。

151 :相克 :2014/05/27(火) 12:12

見つめ合ったまま、薄く開いた唇が
わたしの頬に触れた。

思わず身じろぎするほど、冷たい唇…
だけどやっぱり恐怖は感じない。

満足げに舌なめずりをしたその人が、大きく口を開き
わたしを見つめたまま、そっと首筋に歯を立てた。

「――キレイ…」

思わず零れ落ちた言葉。
やっと喉が動いた。

「キレイな瞳…」

驚いたように、2つの輝きが揺れ、
首筋から離れた。

「…こ、これが、きれい、だと…?」
「きれい…、まるで宝石みたい…」

うっとりしたまま、そう答えると
廊下で誰かの声がした。

152 :相克 :2014/05/27(火) 12:12

「シッ!静かに」

その人の指がわたしの唇に触れる。

「いいか?何も話さぬよう。
 指一本動かさぬよう」

小さく頷くと、その人は
そっとわたしの顔に布をかけた。

足音が遠ざかり、扉の元へ移動する。

「お父様」

扉を開ける音と、甘い声が同時に響き
迫力のある気配が、部屋の中に入ってくる。

「おおっ、我が子よ。
 大魔導師の娘はどうした?」

ピリリと威厳のある太い声が、耳を澄ませたわたしの耳に届き
思わず背筋が凍った。

153 :相克 :2014/05/27(火) 12:13

「ワタクシが一滴も残さず頂きました」
「お前がか?」
「はい」

クンクンと
鼻を鳴らす音が聞こえる。

「おお、芳しいいい匂いだ。
 お前が食したのなら良かろう。
 さあ、今宵は盛大に一族狩りをしよう」
「はっ」

「まだ大魔導師も見つかっておらん。
 夜が明ける前に、憎き魔法使いの一族を根絶やしにするぞ」
「かしこまりました」

154 :相克 :2014/05/27(火) 12:14

「よし、急ごう」
「お待ちください。
 ワタクシは後ほど参ります」

「なぜだ?」
「この娘のあと処理をさせて下さい」
「あと処理だと?」

「憎き魔法族とはいえ、
 彼女も一族の跡取り。ワタクシと同じ立場ゆえ
 無残な姿のままでは、どうしても胸が痛みます」

「…う〜む。そうだな。良かろう。
 だが、すぐに来なさい。
 吸血族の跡取りが、出遅れては笑いものになる」

「承知しております」

「ならば宜しい」

威圧感のある気配が消え、
思わず安堵する。

155 :相克 :2014/05/27(火) 12:14

言われた通り動かずにいると、そっと布がはがされ、
再び2つの輝きが、わたしを覗きこんだ。

「この布は、ワタシが食したという証だ。
 朝が来るまで、この布をかぶっていれば
 お前は助かるだろう」

「どうして?」
「ん?」

「あなたも跡取りなんでしょ?
 敵の跡取りを見逃したりなんかしたら…」

それ以上言わせないかのように、唇が塞がれた。

初めてのキス――

その相手が、何度も争いを繰り広げ、
野蛮で、横暴で、魔法族の唯一の敵だと、
子供のころから教え続けられてきた
吸血一族の、しかも跡取りだなんて…

156 :相克 :2014/05/27(火) 12:15

だけど…

うっとりするほど、心地よくて。
クセになりそうなほど、甘い果実の味がする。

離れたくなくて、このままずっと触れ合っていたくて
そっと背中に手を回した。

ハッとしたように、その人が
わたしから離れる。

濁った月が照らす薄明りの中、
輝く2つの瞳以外の全てを、この目に焼き付けたくて
艶やかな頬に手を伸ばした。

禁断の恋…

普段から真面目で、してはいけないと言われたことは
決してしたことがないのに、
わたしは今、ハッキリと自覚していた。

157 :相克 :2014/05/27(火) 12:15

「…さよなら」

甘い声がわたしに囁く。

「いつかもし、もう一度どこかで会えたなら」
「会えたなら?」




「――やめよう。ワタシは吸血族だ。
 魔法族とは相容れない」

「そんなことない!
 わたしとあなたなら…」

「さよなら」

黒いマントを翻すと、再び部屋に霧が立ち込め
あっという間に、窓の隙間から出て行った…

158 :相克 :2014/05/27(火) 12:16


数時間後、朝日が差し込み、城内が静まってから
わたしはようやくベッドを抜け出し、惨状を目の当たりにした。

昨夜まで、楽しげに笑っていた同士は
変わり果てた姿で、骸をさらし、
ギリギリで凍血の魔法を用い、全ての血を抜かれなかった者も
自力で動くことが出来ず、虫の息で横たわっていた。

――これが、吸血族のしたこと…


159 :相克 :2014/05/27(火) 12:17

「リカ様!」

オガワーノ家の長老が、わたしを見て駆け込んでくる。

「良かった…
 よくぞ御無事で」

大きな肩を揺らして、安堵と悔しさのせいか
咽び泣いている。

彼の一家は、街外れにあり
パパの命令で、密かに魔法薬の研究をしている。
あまりにも外れた場所にあるため
きっと昨夜の難を逃れたのだろう。

「パパ…は?
 ママはどうしたか知っている?」

わたしは今だ現実を受け止めきれないでいた。

「大魔導師様は、最後まで皆をかばって…」

長老が唇をかんだ。

「お亡くなりになられました。
 しかも、そのご遺体は奴らに持っていかれました…」

160 :相克 :2014/05/27(火) 12:17

「更にはっ!」

長老が激昂する。

「奥さまは…奴らに…」

怒りに震え、拳を握りしめ
苦しげに言葉を吐き出した。

「――凌辱され、吸血族の長に連れ去られました…」

昨夜の凍りつくような威圧感のある気配と
ピリリと威厳のある太い声が蘇る。

あの人の父親が…
そんな…、そんなママをだなんて…

「リカ様!
 どうか、どうか我が一族の仇をっ!!」

わたしの足にすがり、悔しさを隠さず
憎しみを隠さず、長老がわたしを促す。


161 :相克 :2014/05/27(火) 12:18


生前、パパは長老に万が一の時のことを
言い残していたらしい。

  わしにもしものことがあったなら、
  もしも、吸血族に我が一族を潰されるようなことがあったならば、

  生き残った者の中から、なるべく魔法族の血の濃い者を一人
  復活の、再興の、その時が来るまで、眠りにつかせるがよい。

  そして、その者を
  代々オガワーノ家で、守り抜いて欲しい。

  やがて、その者の眠りが覚めた時

  我が一族再興ののろしを!
  我が一族の復活を!
  我が一族の仇を!

  どうか、どうか
  お願いしたいのだ!!

皮肉なことに、あの人のおかげで助かったわたしの命は
唯一の純血の魔法族の命だった――

162 :相克 :2014/05/27(火) 12:20




<コンコン>

ベッドに仰向けたまま、物思いにふけっていたわたしを
呼び覚ますように、部屋の扉がノックされた。

「…どうぞ」

一礼をして、マコトが部屋に入ってくる。
彼女は、オガワーノ家の何代目にあたるのだろう?

わたしを長い眠りにつかせた後、その存在をひた隠しにし、
オガワーノ家は、吸血族の目をかいくぐるため、
幾時代も経て、東へ東へと逃げたらしい。

そして、今は日本にいる。
眠りにつく前には、知らなかった東洋の国。

中世のヨーロッパに比べたら、
数段便利で、平和で、何でも揃っている国。

けれど、空気は汚れて
人は皆、無関心で、何となく住みづらい。

163 :相克 :2014/05/27(火) 12:21

「リカ様。
 今のお暮しに完全に馴染めとはいいません。
 ですが…」

「わかってる」

そう、分かっている。
わたしの使命くらい分かっている。

なるべく目立たぬように生活をして
吸血族の王を見つけ出し、我が一族の仇を打たねばならない。

そしてその王が、今はあの夜キスを交わした
あの人だってことも良くわかっている。

パパである大魔導師から盗んだ秘薬
[不老不死の薬]を飲んで、わたしが眠り続けている間も
一族の王として君臨し続けているあの人だと――

164 :相克 :2014/05/27(火) 12:22

「それで。吸血族のことは
 何か分かったの?」

体を勢いよく起こして、努めて明るく尋ねた。
わたしが、あの人に恋をしてたなんてこと
誰にも言えるはずがない。

「いえ、何も…
 こちらもそうですが、時代と共に特殊能力を持つ者は
 裁判にかけられ、火あぶりにされ、勢力も衰えました。
 ですから今では、東欧の山奥に、ほんの一握りが半人半鬼として
 ひっそり暮らしているらしく…」

「じゃあ純血は、もう王しかいないということね?」
「はい」

我が一族と一緒。
本当に皮肉な巡り合わせ。

「その王の居場所が、どうしても分からないんでしょ?」
「はい。勢力が衰えてからというもの、派手に吸血もしなくなり
 どんなに手を尽くしても、現在の居場所を特定できなくて…」

――申し訳ありません。

マコトが小さな声で謝った。

165 :相克 :2014/05/27(火) 12:22

「いいのよ。マコトが悪い訳じゃない」

そう。彼女は本当によくやってくれている。
先祖の命令を忠実に守って、わたしに仕えてくれている。

それに――

見つからなければ、わたしの使命は果たさなくていい。

純血にしか扱うことの出来ないパパの杖で
その息の根を止めることもしなくていい。

だって、不老不死の薬を飲んだあの人の
息の根を止められるのは、もうわたししかいない。

純血の魔法族のわたしにしか、あの人の息の根は止められない。
吸血族の源を絶つことは、もうわたしにしか出来ない…

166 :相克 :2014/05/27(火) 12:23

「そっか。じゃあ、とりあえず寝るね?」
「ちょ、ちょっとリカ様!?」

マコトに背を向けて、
ふとんを頭からかぶった。

あきれたマコトがため息をつく。

――複雑なんだ、とっても。

パパやママ。
変わり果てた同士の姿を思い出すと
胸が軋むように痛む。

だけど、あの夜の
2つの輝きを思い出すと、胸がときめくの…

今わたしに許されること。

それは、いつか訪れる一族の復活を、
いつか訪れる吸血族への復讐を、

少しだけ、先延ばしにすること。

それだけなんだ――

167 :相克 :2014/05/27(火) 12:23


168 :相克 :2014/05/27(火) 12:23


169 :玄米ちゃ :2014/05/27(火) 12:24

本日は以上です。

170 :名無飼育さん :2014/05/28(水) 05:21
なんかすごいのきたっ
すごくすごく楽しみです
171 :名無飼育さん :2014/05/28(水) 21:36
新しいのキテた!
どんな話になっていくのか凄い楽しみ
次回更新が待ち遠しいです
172 :名無飼育さん :2014/06/02(月) 00:59
新作ありがとうございます!
これから先どうなっていくのか楽しみです。
173 :玄米ちゃ :2014/06/09(月) 15:33

>170:名無飼育さん様
 ありがとうございます。

>171:名無飼育さん様
 ゆる〜く期待して頂ければ…

>172:名無飼育さん様
 昨今の言動で、幼児化したよっすぃを書きたくなってしまい
 この連載を始めなきゃよかった…と若干後悔しています。


では本日の更新です。

174 :相克 :2014/06/09(月) 15:34

175 :相克 :2014/06/09(月) 15:35

「ほんとに働く気ですか?」
「もちろん!」

心配顔で見つめるマコトに
最上級の笑みを送る。

だってだってだって、情報を待ってるだけなんて、毎日退屈なんだもん。
海外ドラマのDVDも戦争映画もいい加減、見飽きたしさぁ。

「でもご先祖様が聞いたら
 絶対反対されるような…」

「大丈夫、大丈夫。
 もういないんだし」

「それはそうなんですけど…」

「ほらー、外界に出たら
 もしかしたら、吸血族の手掛かりを掴めるかもしれないしー」

「そんなの、我々がやります」

「だってー、純血にしか見抜けないことも
 あるかもしれないじゃん?」

「うぐっ…」

何かにつけて、純血をウリにするのは
結構威力がある。

176 :相克 :2014/06/09(月) 15:36

「んじゃ、行ってくるねー」

ヒラヒラと手を振って
玄関で靴を履く。

「お願いですから、外で
 魔法は使わないで下さいよ?」

「わかってるって」

「あーでも、やはり心配です。
 私も一緒に――」

パチンッと指を鳴らした。
途端にマコトの足が床にくっつき離れなくなる。

「ちょ、ちょっと!
 リカ様?!!」

「大丈夫。30分くらいで解けるから」

「た、頼むから、このようなこと
 外でしないでくださいよぉ。
 吸血族にでも見つかったりしたら…」

「大丈夫、大丈夫」

再び、最上の笑みを見せて
わたしは玄関を出た。

177 :相克 :2014/06/09(月) 15:37


鼻歌を口ずさみながら歩き、
大通りに出て、しばし固まる――

す、すごい…

行きかう車。
大きな建物。

当然、馬車など走っていない。
生物で走っているのは、ジャージを着た人間くらい…

知識として知っていたけど、
間近で見る世界は、鳥肌が立つほどすごい。

これなら、空を飛んでも誰も気づかないかも…

ふとそんな考えがよぎったけど
マコトの怒った顔が浮かんで、思いとどまった。

178 :相克 :2014/06/09(月) 15:38

わたしが働くのは
小洒落たハーブティー専門のお店。

外装や店内の雰囲気が、
中世のヨーロッパに似ていて、
なんとなく安心できたから、ここに決めた。

だって、もしかしたら
わたしがここにいて落ち着くように
あの人だって、あの時代の人な訳だし
ここに来たいと思うかもしれないし…

――ま、んなわけないか。

だって、こんなとこに出入りしてるなら、とっくに
マコト達のアンテナにひっかかってるだろうからね。

純血ではないけど、ああ見えて結構優秀なのよ、一応。

179 :相克 :2014/06/09(月) 15:38

目まぐるしい一日が瞬く間に過ぎて
初日のアルバイトが終了した。

魔法を一切使わずに、一日を過ごすのも
なかなか大変だ。

「せっかくだから、石川さんの歓迎会しましょうよ!」

何かとこまめに仕事を教えてくれた
新垣さんが皆に声をかけた。

「賛成!」
「さんせい!」

あちこちから挙手があり、
どうやら歓迎されているらしいことを知り
結構、誇らしげになる。

帰ったら、マコトに自慢しなくっちゃ!

180 :相克 :2014/06/09(月) 15:39

るんるん、らんらん♪

歓迎会と言うのは、一体どんなものかと
ワクワクしていたというのに…

この時代では、ただひたすら
しゃべってお酒を飲むだけのことを
○○会と、大そうな名前で呼ぶらしい。

ダンスや、見世物。
そんな風習は、ここにはない。

つまらない…
けど、皆は楽しそうだ。

馴れ馴れしく、肩を抱いてくる男もいて
いっそのこと、魔法でふっ飛ばしてやろうかと思ったけど
必死で耐えた。

181 :相克 :2014/06/09(月) 15:40

「梨華ちゃんは、好きな芸能人とかいる?」

梨華ちゃんだと?
リカ様と呼べ!

「好きなタイプは?」

タイプ?
タイプって何だ?

「やっぱマッチョとかがいい?」

マッチョ?
何それ?何語??
勉強した日本語には、そんなのなかったけど…

とりあえず、微笑んでやり過ごす。
それを勘違いしたのか、こいつは

「梨華ちゃんて大人しいなあ。
 俺こういう奥ゆかしい子、めっちゃタイプー!」

だから、タイプって何だよ!
後でこいつ、スカイツリーのてっぺんにでも
裸でくくりつけてやるっ!!

182 :相克 :2014/06/09(月) 15:40

苦痛に感じる時間の中でも
唯一楽しめたのは、お酒だった。

あの頃なんかよりも格別な味。

大好きなワインも、中世とはこんなに違うのか!
と驚くほど、おいしくてグイグイと進んでしまう。

その結果、お開きのころにはー―

「石川さん大丈夫??」
「うぃ〜」

新垣さんに抱えられ
千鳥足のまま、何とか電車へ。

こんな時でも何かと小まめに世話を焼いてくれる新垣さんに、
上機嫌なわたしはあだ名をつけた。

「おまめちゃ〜ん」

目を白黒させて、大げさに驚くも
意外と気に入ってくれたようだ。

何度か呼ぶと、ハイハイと返事をしてくれるようになった。

183 :相克 :2014/06/09(月) 15:42

「いいですか石川さん。
 新垣はここで降りますけど、
 石川さんが降りる駅は、次ですからね?」

「はいよ〜」

「これ、終電ですから。
 乗り越したら、帰れませんからね?」

「だいじょーぶれすっ!」

だって別に。
空飛んで帰れるも〜ん。

「じゃ、くれぐれも気をつけて下さいよ?」
「はいはーい」

おまめちゃんはいい子だ。
はいを2回言っても、伸ばしても怒らない。

心配そうに電車を降りて、
発車するまで見届けてくれたおまめちゃんに
思いっきり手を振って、安心しきったわたしは
そのまま深い眠りに落ちていった――


184 :相克 :2014/06/09(月) 15:42



トントン。

もう、なによ〜

誰かが、わたしの肩を叩く。

トントン。

遠慮がちに何度も。

もう、マコトなの〜?

トントン。

「あの〜」

マコトではない声が聞こえて
慌てて飛び起きた。

185 :相克 :2014/06/09(月) 15:43

「もう終点なんですけど」

ハッとして隣を見ると
困り顔のお姉さん。

どうやら、思いっきり寄りかかっていたらしく
すぐさま立ち上がって頭を下げた。

<ハラリ>

へ、へ?何?

立ち上がった拍子に
わたしの膝から、真っ白なハンカチがゆっくり落ちていった。

「結構ガッツリ股開いて寝てたんで」

え?

「短いの履いてるでしょ?
 何かちょっとエロい視線が集まりつつあったんで
 おせっかいかと思ったんだけど、隣が空いた瞬間に
 移動して、このハンカチ膝にかけといたんだ」

う、うそ…

「とりあえず降りません?」

彼女がハンカチを拾いながら
わたしを促す。

「このままじゃ、この電車
 車庫にいっちゃうから」

186 :相克 :2014/06/09(月) 15:44


「参ったな…」

改札を出て、開口一番、彼女が言う。

「泊まるとこって、あそこしかないのか…」

あ、あれは…
この前テレビで見たラブホテルってやつじゃあ…

「タクシーも出払ってんのか…
 まあしゃーない、歩くか」

後ろで立ち尽くすわたしを振り返ると
彼女は笑顔で言った。

「んじゃ、気をつけて」

片手をあげて、その場を去ろうとする。

ちょ、ちょっと待って。
もしかして彼女って、わたしのために
電車を乗り過ごしてくれたの…?

187 :相克 :2014/06/09(月) 15:44

確かに彼女がいなければ
わたしは簡単に魔法を使って、家に戻れる。

――まあ、マコトには怒られるだろうけど。

しかし、彼女にもしものことがあり
万が一明日ニュースにでもなったりしたら、後味が悪い。

――そしてやっぱり、マコトに怒られるだろう。

だからと言って、ここで魔法を使って
2人ともお家に帰るとして…

――間違いなく、マコトに大目玉だ。


どの道、マコトに怒られるなら
一番怒られなくて済みそうな方法で――

188 :相克 :2014/06/09(月) 15:45

「ちょっと待って!!」

不思議そうに彼女が振り返る。

「お家、近いんですか?」
「いや。こっから5駅くらい」

やっぱり…

「だったら、その…
 一緒に泊まりません?」
「はい?」

「あそこに!」

指差した先は、もちろん
ギラギラ、ネオンが輝くラブホテル。

彼女があんぐりと口を開けて
その場で立ち尽くす――

かなりキレイな顔してるのに
そんな顔してもったいない。

189 :相克 :2014/06/09(月) 15:46

「…えっと…
 それって、誘ってる?」

誘う?
もちろんっ!

大きく頷く。

「おたく、そっちの趣味?」

そっちってどっち?
分からないから、歓迎会同様、微笑むことにする。

「…参ったな…
 まあ、別に。アタシも嫌いじゃないけどさ…」

頭を人差し指でかきかきしながら
わたしのそばに戻ってくる。

「おたく、見かけによらず
 大胆だね」

うん!よく言われる。

190 :相克 :2014/06/09(月) 15:46

「んじゃ、まあいいや。
 行きずりの関係ね」

行きずり?
日本語ってなかなか難しい。

…コホン。

彼女が小さく咳払いをして
なぜかわたしの肩に手を回した。

あれ?
でも、さっきみたいにイヤじゃないや。

「いこっか?」

暗闇で見る優しい微笑み。
なぜか一瞬だけ、遠い記憶のあの人の面影とダブった――

191 :相克 :2014/06/09(月) 15:47

192 :相克 :2014/06/09(月) 15:47

193 :玄米ちゃ :2014/06/09(月) 15:48

本日は以上です。

194 :名無飼育さん :2014/06/11(水) 19:39
続ききてた!どうなるのか楽しみです
195 :名無飼育さん :2014/06/12(木) 00:17
更新お疲れ様です。
お〜また先が気になるところで、、続き楽しみにしてます。

幼児化よっすぃも良いですよね〜また、気が向いたら書いてください。
196 :名無飼育さん :2014/06/12(木) 21:20
新作来てた!
やっぱりいしよし最高です。
197 :玄米ちゃ :2014/06/18(水) 12:08

>194:名無飼育さん様
 ありがとうございます。

>195:名無飼育さん様
 現実がかわいすぎて、今作がなかなか進みません。

>196:名無飼育さん様
 駄作ですが楽しんで頂ければ。


では、本日の更新です。

198 :相克 :2014/06/18(水) 12:08

199 :相克 :2014/06/18(水) 12:09

通された部屋は、何だか中世に近い。

色遣いは格段に派手だけど、ベッドは大きくて
久しぶりに寝心地が良さそう。

部屋に入るなり、喜んでベッドにダイブしたわたしを見て
彼女はクスクス笑うと

「案外せっかちなんだ」

なんて、妙なことを言った。

「いきなり始めたっていいけど
 やっぱシャワー浴びない?」

寝転がったわたしの横に腰かけて
そっと髪をすいてくれる。

何だかすごく、心地いい…

「先に浴びておいで?」

手を引いて起こされ、
うっとりしたままのわたしを
浴室まで連れて行ってくれる。

200 :相克 :2014/06/18(水) 12:10

「ごゆっくりって言いたいけど
 あんま待たせすぎないでね?」

そうだよね、順番だもんね。

「アタシもちょっと昂ぶってきてるから」

昂ぶる?
そんなにお風呂に入りたいの?

「いってらっしゃい」

と言われたら、

「行ってきます」

そう返すものだって、ちゃんと心得てる。
ほら、彼女も満足げに笑ってる。

201 :相克 :2014/06/18(水) 12:10

ごめんね、そんなにお風呂が恋しいのに
先に入っちゃって。

なるべく急がなくちゃね!

サササッと身に着けたものを脱いで
どデカい浴室へ。

いいなぁ…

こんなお風呂。
家にも欲しいなぁ…

でも、扉が透明なのは
ちょっとねぇ…

お部屋からかろうじて見えないのはいいけど
脱衣所からは丸見えよねぇ…

そんなことを考えながら
お風呂を急ぐ彼女のために、手早く全身を洗った。

202 :相克 :2014/06/18(水) 12:11

浴室から出ると、手持ち無沙汰なのか
彼女が携帯をいじっていた。

あ、そうだ!
マコトに電話しなきゃ!!

入れ替わりに、浴室に入っていく
彼女を見送ってから、自分の携帯を取り出した。

鳩とかいらないんだもん。
ほんと現代って便利よね〜

<プル>

『リカ様?!!』
「はやっ!」
『一体こんな時間まで、どこで何をしてらっしゃるんですかーっ!!』

思わず耳を離す。

「大丈夫だよ。
 遅くなっちゃったから、今日ホテルに泊まる」
『ホ、ホテルですって?!!』
「心配いらないよ、じゃあね」
『ちょ、ちょっと!!』

つべこべ言われる前に
サッサと電話を切る。

203 :相克 :2014/06/18(水) 12:13

すぐさま着信があって、
電話に出ると、またマコトがわめきたてていた。

「だから大丈夫!!」

思いっきり言って、電源ボタンを押した。

ったく、もう!
帰ったらどーせ怒られるんだもん。

今怒られて、あとでも怒られるなんて
ワリに合わないじゃない!


「…ふ〜ん。
 結構、ワルイ子なんだ?」

いつの間に上がったのか
彼女がバスローブ姿で立っていた。

204 :相克 :2014/06/18(水) 12:14

「見た目、イイ子そうなのに」

ゆっくり近づいてきて
わたしの隣に座る。

「こういうとこ結構来るの?」
「へ?まっさかー。初めてだよ?」
「初めて?あれ?じゃあ何でまた?」

何で?
何でって、わたしのせいで、あなたが帰れないからで。
あなたのためだったりするんだけど…

「何かイヤなことでもあったの?」

覗き込まれて、彼女の顔をマジマジと見る。

キレイな顔だな…
肌も透き通るように白くて、あの人みたい…

205 :相克 :2014/06/18(水) 12:15

「ごめん。言いたくないならいいよ。
 それより名前は?
 これも言いたくないならいいけど
 最中は名前くらい呼びたいし…」

最中?

「アタシは吉澤ひとみ」

あ、自己紹介。
えっと…、リ…じゃなかった。

「石川梨華です」

「そっか。梨華ちゃんか。
 かわいい名前だね」

あれ、やっぱり。
この人に、梨華ちゃんて呼ばれても、
今頃スカイツリーにいるアイツみたいに
ムカついたりしない。

206 :相克 :2014/06/18(水) 12:16

「梨華ちゃん…」

そっと肩を抱かれて
そのまま押し倒された。

え?ええ??

「イヤなことがあったんなら、忘れさせてあげる…」

ゆっくりと髪を撫でられる。

やっぱりすごく…
すごく心地いい…

真っ白な陶器のような艶やかな頬。
2つの瞳は、あの人のように赤く輝いてはいないけれど
あめ色をした琥珀のように美しい。

207 :相克 :2014/06/18(水) 12:16

彼女の唇が、わたしの頬にそっと触れた。

あの人とは違う
温かな柔らかい感触。

そのまま滑って
優しい感触が頬を伝う。

唇の端まで来た途端、
一気に唇を覆われ、やっとわたしは
キスされたことに気付いた。

ちょ、ちょ、ちょっと…??!

目を白黒させたわたしに対し
恍惚の表情を浮かべ、彼女の舌が
わたしの口内に滑り込もうとする。

同時に彼女の左手が、体を滑り
バスローブの合わせ目に到達する。

ま、待って!
タンマ、待った!降参っ!!

208 :相克 :2014/06/18(水) 12:17

わたしの異変に気付いたのか
彼女が顔を上げた。

「…もう少しじらされたい?」

い、いや。
そうじゃなくて…

ブンブンと首を横に振る。

「あ、いきなり始めちゃった方が良かった?
 前戯とかいらない?」

やや…
だから…

「なら遠慮なく――」

「ま、待ってぇ!!」

やっと声になった。

209 :相克 :2014/06/18(水) 12:17

唖然とした彼女が、目をパチクリして
しばしわたしと見つめ合い、そして――

「もしか、して…?」

いや、でも。
誘われたし…
ここ、ラブホだし…

小声でブツブツとつぶやく。

「あ、あの、さ。
 ここってどこだっけ?」

それぐらい知ってるよ。

「ラブホテル」
「だよな、うん。
 アタシは間違っていないぞ。
 いや、待てよ。まさか…」

210 :相克 :2014/06/18(水) 12:18

「ここって主に何するとこか知ってる?」

そんなの知ってるよ。
テレビで見たもん。

「泊まるとこでしょ」

「うん。まあ、確かに泊まったりはするんだけども…
 その泊まった時に、何をするとこか聞きたいんだけど」

え?
泊まった時に何をするかですって?

――そんなのテレビでやんなかった!

だって、男女が2人で入って行って
次のシーンは、もう朝だったし…

あ、そういえば!

2人ともなぜか裸で寝てたような…

…?



――は、裸っ??

211 :相克 :2014/06/18(水) 12:19

「…参ったな」

彼女はそう言って、
わたしの上から起き上がると、
テレビのリモコンを操作して、画面を映した。

  <…あ、あんっ…
   …ぃやん…>

こ、これって、つまり――


「ここってさ、こういうこと
 するとこなんだよね」

マ、マジですか?!

「だからてっきりさ…」

そう言って、肩を落としたと思ったら
彼女は突然クスクスと笑い出した。

「おもしれぇなぁ」

フハハ。
アハハハハ。

212 :相克 :2014/06/18(水) 12:20

「了解。もう何もしないよ」

テレビを消して、
わたしの方に向き直る。

「何もしないけど、ベッドくらい寝かせてよ」
「あ、それは、もちろん」

というか、そもそも
そのつもりだったし…

「んじゃ、端の方によるからさ」

そう言って、ふとんに潜り込むと

「ま、でも。気が変わったら
 いつでもお相手しますけど?」

なんて、イタズラっぽく言って
わたしに背を向けた。

213 :相克 :2014/06/18(水) 12:21

彼女と同じベッドに潜り込み
電気を最小限まで落とす。

――ふと幼い頃を思い出した。


 『リカ、おやすみ』

優しいママの温もり。
眠れない時は、一緒にベッドに入って
わたしが眠るまで、その腕に優しく抱きしめて
添い寝してくれた…

――ママ…

何年、いや千年以上ぶりで
わたしはベッドの中で人の温もりを感じた。

214 :相克 :2014/06/18(水) 12:21

う、うう…

堪えようとしているのに嗚咽が漏れる。

どうして…
どうして、わたしだけ…


「…泣いてるの?」

優しい声が聞こえた。

聞かれたくない。
けど、一度溢れた思いは止められそうにない。

ふと優しい温もりが
わたしの体を背中から包みこんだ。

「…アタシで良かったら
 泣き止むまでこうしててあげるよ?」

囁くような穏やかで優しい音色の声。

215 :相克 :2014/06/18(水) 12:22

堪えきれずに、振り向いて
彼女の胸に顔を埋めた。

つらいの。
誰にも言えない想いを抱えることが。

苦しいの。
恋した人の息の根を、自ら止めなければいけない使命があることが。

寂しいの。
たった一人で、千年も時を超えてここにいることが――


泣き続けるわたしに、何も聞かずに
彼女はただずっと、その温かい手のひらで
わたしの背中を撫でていてくれた…


216 :相克 :2014/06/18(水) 12:22

217 :相克 :2014/06/18(水) 12:22

218 :玄米ちゃ :2014/06/18(水) 12:23

本日は以上です。

219 :名無飼育さん :2014/06/19(木) 23:45
更新ありがとうございます!
これからが楽しみな展開ですね♪
これからどうなるんだろう??
220 :名無飼育さん :2014/06/24(火) 12:25
続ききてた!どうなるのか楽しみです
221 :名無飼育さん :2014/06/24(火) 21:00
次回更新が楽しみすぎる
222 :名無飼育さん :2014/06/24(火) 21:02
ごめんsage忘れたorz
223 :玄米ちゃ :2014/06/30(月) 15:16

>219:名無飼育さん様
 こちらこそありがとうございます。

>220:名無飼育さん様
 ありがとうございます。

>221:名無飼育さん様
 ありがとうございます。


では、本日の更新です。

224 :相克 :2014/06/30(月) 15:17

225 :相克 :2014/06/30(月) 15:17

翌朝帰宅すると、玄関で夜通し
仁王立ちをしていたらしいマコトに、こっぴどく怒られた。

「そんなに怒らないでよ。
 リカ様の記念すべき朝帰りってやつよ?」
「あ、あ、あさがえり…」

マコトのこめかみがピクピクと動いている。

「普通の子は、みんなしてるんでしょ?」
「リカ様は普通ではありませんっ!!」

確かに。

「まあ、そんなに心配しないでよ。
 なかなか良かったんだからさぁ」
「よ、よ、よかった…ですって…?」

ああああ……

声にならない声を発しながら
マコトがその場に崩れ落ちていく。

226 :相克 :2014/06/30(月) 15:18

だってさ、わたし昨日気づいたんだ。

そういえば、あの日以来
一度も泣いていなかったことに。

パパやママや仲間を失って以来
一滴も涙を流していなかったことに――

今までずっと。
千年もずっと。

跡取りという、そして、唯一の純血という宿命に縛られて
しっかりしなきゃって、わたしが気丈にしていなきゃって
肩肘張って過ごしてきた。

なのに昨日は、温かい彼女の腕の中で
思い切り泣いて、何だか少し、体の強張りがとれたような気がしたの。

227 :相克 :2014/06/30(月) 15:19

「マコトが考えてるような淫らなことはしてないってば」
「み、み、みだら…、ああああ……」

またもや、崩れ落ちていくマコト。
あら、逆効果だったわ。

「だからー。大丈夫って言ってるじゃない。ちょっとホテルで休んで
 モーニングコーヒー飲んできただけだってば!」

叱られたって構わなくないから
一生懸命弁明してるのに。

「え?ほんとですか?」

途端にマコトが元気になる。

「ほんともほんとよ」

だいぶ端折ったけど。

「なーんだ」
「ね?大したことないでしょ?」

マコトの顔がパッと明るくなり、安堵の笑みを浮かべる。
ほんと心配症なんだから…

228 :相克 :2014/06/30(月) 15:19

「でも、おひとりでは退屈だったんじゃないですか?」
「ぜ〜んぜん。だって2人だっ――あっ」

「ほう…そうですか」

マコトの顔が鬼の形相になる。

「どうやら、もう少し
 詳しくお聞きする必要があるようですねぇ…」

「いや、ほんと。
 そんなやましいことは…」

だってわたし、充分大人だし。
ほら、年なんか、厳密に言えば千歳越えてるんだし。

「問答無用ですっ!!」

首根っこを掴まれ、床に正座をさせられて
昨日の出来事をイチから説明するはめになった。

229 :相克 :2014/06/30(月) 15:20



230 :相克 :2014/06/30(月) 15:20

「ほんとにもう!
 もっとご自覚を持ってくださいよ?
 そんな行きずりの関係で、お世継ぎでも
 身ごもったら、どうするおつもりですか?!」

「大丈夫だよ、もしヤっちゃったとしても
 女同士じゃ子供できないもん」

やっと解放されて、ソファに腰かけ
ハーブティーをすすりながら言ったら
ジロリと睨まれた。

「できないもんっじゃないでしょ!
 もしも、そのお方が男性だったら?
 もしも、そのお方が力ずくでモノにしようとしたら?
 その時は一体、どうするおつもりですかっ!」

「その時は、ほらあれよ。
 指をパチンと鳴らして、ちょちょちょいと…」

231 :相克 :2014/06/30(月) 15:21

「ならそのお相手が、万が一にも
 吸血族の王だったなら、どうされるおつもりですか?」

あちらの方がうわ手で、もうリカ様の情報を得ていて
言葉巧みに近づいてきたとしたら?

普通の人間のように振る舞って、油断させて
お母上のように、凌辱されたりしたらどうなさるおつもりですか?

ましてや、万が一にでも
吸血族の子を身ごもったりしたとしたら…

「想像しただけで、体中が震えますっ」
「そんなこと!」

あの人に限って、するはずがない…
だって、わたしを生かし、逃がしてくれたのは
紛れもないあの人だもの――

そんな酷いことをする気があるなら
あの時にしていたはずだもん。

232 :相克 :2014/06/30(月) 15:22

「ともかくっ!以後気を付けてくださいよ?
 魔法も、行動も」

「はーい…」
「伸ばすな!」
「はいはい」
「1回で結構!」

まったく、嘆かわしいったら
ありゃしない。

マコトがぶつぶつと呟きながら
リビングを出ていく。

…は〜あ。

大きくため息をついて、ソファに倒れ込んだ。

233 :相克 :2014/06/30(月) 15:22


禁断の恋、か…

  『いつかもし、もう一度どこかで会えたなら』

あの後、あなたは何を言おうとしたの?

  『この布は、ワタシが食したという証だ。
   朝が来るまで、この布をかぶっていれば
   お前は助かるだろう』

どうしてわたしだけ、生かしたりしたの?

涙が一筋零れ落ちて
ソファを濡らした。

首筋にうっすら残る、2つの跡…
誰にも言えない、わたしだけの秘密。

わたしのこの想いは。
苦しいほど切ないこの想いは。

いったい、どこに向かえばいいのだろう…


234 :相克 :2014/06/30(月) 15:23

235 :相克 :2014/06/30(月) 15:23

236 :玄米ちゃ :2014/06/30(月) 15:23

短いですが、本日は以上です。

237 :名無飼育さん :2014/07/03(木) 19:23
今後の展開が気になる
238 :名無飼育さん :2014/07/09(水) 09:07
楽しみ楽しみ♪
239 :名無飼育さん :2014/07/12(土) 19:58
全然読めない…
240 :名無飼育さん :2014/07/12(土) 19:58
全然展開が読めない…
241 :玄米ちゃ :2014/07/18(金) 15:44

>237:名無飼育さん様
 ありがとうございます。
 楽しんで頂ければ。

>238:名無飼育さん様
 ありがとうございます。

>239,240:名無飼育さん様
 作者も…なんて。


では、本日の更新です。

242 :相克 :2014/07/18(金) 15:44

243 :相克 :2014/07/18(金) 15:46

「ねぇねぇ、おまめちゃん」
「なんですか?」

「おまめちゃんて、好きな人とHしたことある?」
「ぅぇええええ〜〜っ!!
 い、いきなり何てこと聞くんですかぁっ?!」

ゼエゼエ、ハアハア…
あらあら、おまめちゃんたら、肩で息しちゃって。
リアクション芸が、ほんとうまいよねー。
今度おでん屋さんにでも誘ってみようかしら?

「ねぇ、で、どうなの?」
「ど、どうって…
 い、今はバイト中ですよ?」

「いいじゃない。お客さんいないんだし」
「だいぶ慣れてきたと思ったら、そんな変なことを真昼間から…」

「じゃあ夜なら聞いていい?」
「いや、そういう問題じゃ…」

244 :相克 :2014/07/18(金) 15:46

「ちょっとちょっと!聞きました?」

バタバタと外から駆け込んできた
同じバイト仲間の小春ちゃんが、息を切らせて
わたし達2人の元にやってくる。

「どうしたの?
 そんなに慌てちゃって」

おまめちゃんが助かったとばかりに
小春ちゃんに食いつく。

ちぇっ。
いい話の途中だったのに…

245 :相克 :2014/07/18(金) 15:47

「五郎さん、このところずっとバイト休んでたじゃないですか?
 どうやらヤバイ人にやられたらしいんですぅ」
「ヤ、ヤられる?!」

おまめちゃんの額にじわりと汗が浮かぶ。
へー、男の人でもヤられちゃうことあるんだねー。

「それがね?なんとあのスカイツリーのてっぺんに
 吊るされてたらしくて!」

…げっ。

「なーんだ、そっちかよ…」

安堵の息をもらすおまめちゃん。
って、ぜんぜん何だじゃない。
むしろヤバイ。

完全に忘れてたっ!!

246 :相克 :2014/07/18(金) 15:48

「なんだじゃないですよっ。
 絶対ヤバイ世界の人に目をつけられたんですよ!
 だってだって、ムサシですよ、ム・サ・シ。
 あれはマフィアの仕業だな」

いや、マフィアじゃなくて
魔法使いの仕業なんだけど…

「例えば…ヘリコプターから落とされたとかっ!」

いやいや、ちょっと指をね、パチンてしただけで…

「発射台からロケットみたいに、一気にビュンと飛ばされたとかっ?」

いやいやいや、瞬間移動なんです。ハイ。

247 :相克 :2014/07/18(金) 15:49

「で、当の五郎さんはなんて言ってるわけ?」

おまめちゃんの質問に、小春ちゃんは
声を潜めて、こう言った。

「気が付いたら、そこにいたって」

でしょうねー。
だってほんとに一瞬だもん。
普通の人にわかる訳ないもん。

「今日のワイドショーで、トップニュースでやってますよ?」

ヤバイ…
帰ったら、絶対マコトに怒られる…
いや、怒られるだけじゃすまない気がする…

248 :相克 :2014/07/18(金) 15:51

「おっ!何か楽しそうな話してんじゃん」

話に夢中のわたし達の背後から、声がかけられる。
振り向くとサングラスをかけたイケメ…ん?

「吉澤さ〜んっ!!」

途端に小春ちゃんの声のトーンが更に高くなって
飛びつかんばかりの勢いで、その人の元にかけ出して行く。

「ヨッ!」

片手をあげて、サングラスを外して
ニッコリ微笑んだ。

「あーっ!!」
「おや」

「ちょっと何なに?
 2人は知り合いなんですかっ!?」

彼女の首に自分の腕を巻きつけた小春ちゃんが
怪訝そうに、わたしと彼女を交互に見る。

249 :相克 :2014/07/18(金) 15:53

「知り合いも何も。
 この間2人でラブホ行ったし」

「ぅええええええっ!!!!」

またもや見事な、おまめちゃんのリアクション芸。

「ちょっと!どういうことですかっ!!
 小春の吉澤さんに手を出すとは…」

小春ちゃんが凄まじい力でわたしの首を絞めにかかる。

「い、行っただけで、何もしてないってばぁ!」

ぐ、ぐるじい…

「まあまあ、小春」

彼女が優しく声をかけ、
わたしに掴みかかっていた小春ちゃんを自分の方に振り向かせた。
そっと両肩に手を置いて、ジッと小春ちゃんの目を見つめると
そのままスッと耳元に唇を寄せ、何かを囁いた。

急に大人しくなった小春ちゃんが
わたしに頭を下げ、この場を去っていく…

――何?今の…

何だか不思議な、妙な違和感…

250 :相克 :2014/07/18(金) 15:54

「魔法」

え?

「みたいでしょ?」

彼女がわたしを見て微笑む。

「小春はなぜかアタシを気にいっててさー。
 恋人でもないクセに、しょっちゅうああやってヤキモチ妬くんだよね。
 だからそんな時は、小春に魔法の言葉を囁くんだ」

グッと腰を掴まれて、引き寄せられた。
小春ちゃんと同じように、耳元で囁かれる。

――ワタシに従え。

「なんてね?」

屈託のない笑み。
だけど、背筋が凍るほど冷たい声。

そう、例えて言うなら
あの夜、あの人のお父様が出した威圧感のある、あの声――

251 :相克 :2014/07/18(金) 15:55

「どしたの?梨華ちゃん」

彼女が不思議そうに
わたしを覗き込む。

「あーもしかして、梨華ちゃんもアタシを気にいっちゃった?
 そうか、そうか。まいったなー」

とか言いつつ、全然参っているように見えない。

「あ、ガキさん。
 いつものね?」

いつもの?

「アタシね、ここの常連なのよ。
 梨華ちゃんがバイトしてるなんて知らなかったなー」

「…最近、始めたから」

「そっか、そっか。
 うん、いいね。何か運命感じちゃうね」

さっき感じた威圧感は気のせいだ。
だって、彼女は普通の人間だもの。

もし、あの人だったなら
わたしにはきっとわかるはず――

252 :相克 :2014/07/18(金) 15:56


「お待たせしました」

柑橘系の香りが鼻腔に届き、ふと我に返る。

「これ、アタシがいつも頼むの。
 レモンバームティー。覚えといてね?」

彼女がティーカップを持ち上げ、鼻に近づけると
ゆっくり息を吸い込み、香りを楽しむ。

レモンバーム。

人間界において、中世のヨーロッパでは、
若さの霊薬、もしくは不老不死の霊薬と言われていたハーブ――

「アタシ、頭痛持ちでさ。
 これって鎮痛効果があるし、気分も落ち着くから好きなんだよねー」

きっと、わたしの考え過ぎだ…

だって、レモンバームは本当の不老不死の秘薬ではない。
魔法族から言わせれば、単なる気休め程度の効能。

それに、本当の秘薬を飲んだあの人には
こんなもの、必要ないのだから…

253 :相克 :2014/07/18(金) 15:57

「私は石川さんの質問に、頭痛が起きます」
「何なに?どんな質問?」

おまめちゃんの嘆きに身を乗り出す彼女。

「石川さん、吉澤さんなら
 さっきの質問、昼夜関係なく答えてくれますよ」

「何?何でも聞いてよ。
 アタシ、頼りになっちゃうよ〜」

楽しそうに輝く、あめ色の瞳。

――違う、やっぱり。
彼女は、あの人じゃない。

「えぇっと…ね?」
「うん」
「そのー」
「うん」
「だから…ね?」

「って、何で石川さん。
 吉澤さんだと恥じらうんですか?」

「…う〜ん。なんとなく?」

254 :相克 :2014/07/18(金) 15:58

「何?そんなに恥ずかしいことなわけ?」

大きな目をクリクリさせて、
わたしとおまめちゃんを交互に見る彼女。

見かねたおまめちゃんが、彼女にそっと打ち明けた。

「石川さん、真昼間からセックスしたいみたいで」

…はああ??

<ブーッ!>

飲みかけたハーブティーを
彼女が盛大に吹き出した。

「ああああっ!!
 吉澤さんっ!汚いっ!!」

「いや、だって。
 いくらアタシでも、ビックリするっつーの」

焦りながら、テーブルを拭き拭きする2人が
何だかとっても面白い。

255 :相克 :2014/07/18(金) 15:58

「別にしたいって訳じゃなくってぇ」
「じゃあ何だってあんな質問」

「う〜ん。説明するの難しい…」

だって、どう言えばいいの?

  『いつかもし、もう一度どこかで会えたなら』

――その時は、あなたと結ばれたい…

わたしはそう思ったの。
決して許されない恋でも。

イケナイことだって良くわかってる。
わかってるけど…

相反する心が、わたしを苦しめる。

あの人と結ばれたい。
でもそれは、一族の破滅を意味する。

どうすればいい?
一体、わたしはどうすれば――

256 :相克 :2014/07/18(金) 15:59

「…わかった」
「え?」

彼女に見つめられて、思わず固まる。

「その胸に閉じ込められた想い、
 アタシが聞いてあげる」

彼女の人差し指が、わたしの心臓を指し示す。
そう、まるで狙い打つかのように――

「場所を移そう」

ふいに肩を抱かれて、我に返る。
鼓動が激しい音を立て、体内で暴れ始める。

命を狙われたあの夜…
そして、命を助けられたあの夜…

あの夜に近い、この胸の高鳴り――

257 :相克 :2014/07/18(金) 16:00

「ちょ、ちょっと吉澤さん!
 石川さんは、まだバイト中…」

「体調不良で休みってことで〜」

そう言いながら、おまめちゃんに向かって
ヒラヒラと手を振る彼女。

彼女が――
いや、まさか。

だって、温もりも香りも。
あの美しい瞳の色も。
何もかもが、あの人とは違う。

それに、彼女が吸血族ならば
こんな日中に外を出歩けるはずがない。

だって、彼らは太陽の光に弱い。
だからこそ、夜襲だったのだから…

258 :相克 :2014/07/18(金) 16:00

「アタシじゃ不安?」

あめ色の瞳がわたしを覗き込む。

日の光が、彼女の瞳の色を一層輝かせ、
真っ白な肌を照らす。

「アタシじゃ力になれないのかな?」

悲しげに揺れる、あめ色の瞳。

「…あ、ち、違うの。
 そうじゃなくて…」

「アタシは力になりたい。
 梨華ちゃんのためなら、何でもしてあげるよ?」

わたしの頬に触れた彼女の指は
当然のことながら温かい。

何を考えているんだろう、わたし…

間違いなく、彼女は人間だ。
だってこんなにも温かい…

259 :相克 :2014/07/18(金) 16:01

触れられている指に、そっと自分の手を重ねた。

「…つめたい、ね…」

人間よりは低い、わたし達の体温。

「温めてあげよっか?」

彼女がわたしの手を握り返す。


「アタシでよければ…」

――梨華ちゃんを、温めてあげる…


ドクドクと音を立て続けている、わたしの鼓動。

このまま彼女に。
今目の前にいる彼女に想いを寄せれば――

わたしの行き場のない想いは、
行き場を見つけられるかもしれない…

260 :相克 :2014/07/18(金) 16:01

261 :相克 :2014/07/18(金) 16:02

262 :玄米ちゃ :2014/07/18(金) 16:02

本日は以上です。

263 :名無飼育さん :2014/07/18(金) 19:14
夢中で読み進めて、息をするの忘れてました
264 :名無飼育さん :2014/08/03(日) 01:11
え、どっちだ?
ここからの展開が気になります
265 :名無飼育さん :2014/08/03(日) 14:38
まだかな、まだかな (o^〜^)
266 :名無飼育さん :2014/08/07(木) 03:17
続き待ってます。
267 :名無飼育さん :2014/09/28(日) 00:10
更新しろよ
268 :名無飼育さん :2014/11/26(水) 22:08
いしよしも終わったねw
269 :名無飼育さん :2014/11/28(金) 04:12
270 :名無飼育さん :2014/11/30(日) 16:11
梨華ちゃんの熱愛報道で書く気なくしたか
271 :名無飼育さん :2014/12/02(火) 04:55
272 :名無飼育さん :2014/12/03(水) 13:25
更新待ってます
273 :名無飼育さん :2014/12/03(水) 13:25
更新待ってます
274 :名無飼育さん :2014/12/03(水) 13:25
更新待ってます
275 :名無飼育さん :2014/12/03(水) 13:25
更新待ってます
276 :名無飼育さん :2014/12/03(水) 13:26
すみません
間違えました
277 :とりあえず :2014/12/08(月) 23:54
あげちゃうかw
278 :玄米ちゃ :2014/12/10(水) 12:20

>263〜277様
 お待たせして申し訳ありませんでした。

本日より再開したいと思います。
一応書きあがっていますので、今後はサクサク更新できると思います。
279 :相克 :2014/12/10(水) 12:20

280 :相克 :2014/12/10(水) 12:22

「へぇ〜、ここが梨華ちゃん家なんだ」

住宅街の一角。
目立つようには作っていない…つもり。
2階建てで、手狭で、ちゃんと玄関で靴を脱いで…

「でけー」

そうかな?

「ほんとにここに友達と2人で住んでるの?」
「あ、えっと…、友達…じゃなくて、親戚…みたいなもんかな?」

マコトのことは非常に説明しづらい…

一族以外を家に上げるのは、彼女が初めて。
なのにここに連れてきたのは、それなりの理由がある。

1.スカイツリーの件で、こっぴどくマコトに怒られる…
  いや、それ以上のことをされるだろうから、絶対に避けたい。
2.モーニングコーヒーの相手を紹介しておくことで
  マコトを安心させてあげたい。
3.彼女と離れたくない。

わたしの心の中は、1が35%、2が5%、3が60%。
だって、彼女を好きになれば、わたしの心は救われる…
281 :相克 :2014/12/10(水) 12:23

玄関を開けて、彼女を招き入れる。

「おじゃましま…すげぇ…」

口をあんぐりと開けたまま
キョロキョロと、彼女が中を見渡している。

「ただいまー」

あれ?返事がない。

「マコトー?」

出かけてるのかな?

「いないのー?」

どこ行っちゃったんだろ?

282 :相克 :2014/12/10(水) 12:23

「マコト…あ、えっと。親戚の子ね
 今出かけてるみたいだから、とりあえず上がっちゃって?」

上がらせてしまえば、こっちのものだ。
さすがのマコトも無下に『出ていけ』とは言わないだろう。

何だかナイスタイミング!だったかも。

「…あの、梨華ちゃんてさ。
 実は超お金持ちの子?」

お金持ち?
どうなのかな?気にしたことないし…
魔法持ちではあるけど…

「いや、何かさ。
 ここってちょっとお城みたいな造りだし…」

確かに似せてくれている。
わたしが住みやすいように。
でも、相当縮小されてるよ?

283 :相克 :2014/12/10(水) 12:24

リビングに向かう途中も、彼女は興味深々。

「すげー、中世のヨーロッパに
 タイムスリップしたみたい」

あめ色の瞳がキラキラと輝く。

こんな風に喜んでくれると
何だかすごく誇らしい。

「アタシさ、大学の時
 中世ヨーロッパ史を専攻しててさ、
 こういう家に住んでみたいとかずっと思ってたんだ!」

「ほんと?」

「ほんともほんと。
 梨華ちゃんが超うらやましいよ」

家具、調度品、すべては本当に中世の時代のもの。
興味のある人にとっては、宝の山だろう
284 :相克 :2014/12/10(水) 12:25

「じゃあ、住んでみる?」
「へ?」

半分本気で、半分冗談。

「あ、ほら。2人だけだし
 部屋も余っちゃってるから、良ければだけど…」

彼女が真顔で近づいてくる。

「…あ、あくまでも良ければで
 む、無理にとは言わないよ?」

両手をガシッと掴まれた。

「ほんとにいいの?!」
「…え?あ、うん…」
285 :相克 :2014/12/10(水) 12:26

「マジ?やったー!!」

そのままギュッと抱き締められた。
途端に大きく跳ね上がるわたしの心音…

甘い香りがする…
けどそれは、あの人のように
果実が熟れたような官能的な匂いではなく
ふわりと優しく包み込んでくれる、お花のような香り。

「超うれしいよ」

それにこの声…
あの人とはまた違う甘さを含んだ優しい音色の声――

胸が苦しくなって、彼女にしがみついた。

「梨華ちゃん…?」
「…ごめん、なさい。少しだけこうしてて…」

目を閉じて、彼女に身をゆだねた。
286 :相克 :2014/12/10(水) 12:26

「――アタシを、好きになればいいよ…」

そんなにつらいなら。
そんなに苦しいなら。

「アタシのことを…」

少しだけ体を離して、彼女がわたしを見つめる。
見つめられただけで、涙が零れそうになるなんて――

温かな指がわたしの頬に触れ、
堪えていた涙が頬を伝う。

悲しげな色を湛えた、あめ色の瞳がゆっくりと閉じられて
同時に彼女の唇が、わたしの唇に触れた。

柔らかくて優しい彼女の温もり――

受け入れた感触は、少しだけあの人に似ているような気がして
苦い感情が入り混じる…

いっそのこと、全て塗りつぶしてくれればいい。
そして、あなたの感触だけを残して欲しい。

そうすれば、わたしは――


287 :相克 :2014/12/10(水) 12:27


「…あ、あ、あ、あ、あ…
 ちょ、ちょっと!何やってるんですかぁぁぁ!!!」

わたしの儚い願いは
マコトの絶叫と共に消えた。

いいところだったのに――

少しぐらい空気読め!
まったく…

「あんた一体だれ?!」

腕組みをしたマコトが、彼女を睨みつけた。

「…あ、え、えっと…
 どうも、はじめまして、おじゃましてます…」

上気した頬のまま、彼女がマコトに頭を下げる。
288 :相克 :2014/12/10(水) 12:28

「一体全体これはどういうことですかっ!?
 大体、ニュースでやってる一件も何なんですか?
 あれ絶対、リカ様の仕業でしょっ!!」

…やっぱ、バレた。

「…え?あの…リ、リカ様って??」

彼女の驚く顔を見て、
慌ててマコトの元に走り寄った。

「ヤダなあ、マコトったら。
 怒るとすぐサマとかつけて呼ぶんだからぁ」

速攻、マコトの腕を引っ張って、彼女に背を向けてから
手短かにここまでの経緯を説明する。

 (こ、ここに一緒に住むですって??)
 (絶対問題です!大問題です!)
 (断固反対!拒否しますっ!!)

もうっ!このカチカチ頭!
289 :相克 :2014/12/10(水) 12:29

 (いいですか?ここは魔法族のいわば本拠地でございます。
  そんなところに他人を入れるなんて言語道断ですっ!)

 (それが返っていいんじゃないかと思うのよ。
  ありえないことだし、カムフラージュになるんじゃないかって…)

 (全然意味わかんないですっ!
  全く意味わかんないですっ!
  それに仲間が来るときはどうするんですか?
  どう紹介するつもりですか?!)

 (その時はちょっと出かけてもらうから…ね?)

「私は、断固反対ですっ!」
「もうっ!分からず屋!
 マコトにわたしの気持ちなんか…」

「あの〜」

わたし達が思わず声を荒げたところで
背後から彼女に声をかけられた。
290 :相克 :2014/12/10(水) 12:29

「お取込み中、何ですけど…」

相変わらず、彼女に睨みを利かせているマコト。
そんなマコトに対し、彼女はとびきりと言っていいほどの笑顔を向けた。

「自己紹介まだでしたよね?
 アタシ、吉澤ひとみっていいます」

マコトの前に右手を差し出す。

「突然お邪魔してすみません。
 お怒りはごもっともです」

握ろうともしないマコトに対し、
彼女がもう一歩間合いを詰める。

「先日も朝まで、ホテルでご一緒しちゃいましたし」

マコトのこめかみがピクリと動いた。

「でもアタシ――
 本気ですよ、梨華さんのこと」

彼女の真剣な眼差しに
さすがのマコトもたじろいだ。

てか、わたしも!
ほ、本気って…
291 :相克 :2014/12/10(水) 12:30

マコトの目をジッと見つめながら、
彼女が更に間合いを詰め、マコトの手を取る。

そして、わたしの耳には届かないほど小さな声で、
彼女が何かを囁くと、マコトの体がわずかに跳ね
無理やり握られていた彼女の手をゆっくりと握り返した。

段々と力が込められ、握り合った手が縦に振られ
固い握手を交わす2人――

…え?
い、いま何が起きたの?

「というわけで、今日からお世話になります」

彼女が再び笑顔をみせる。

「あ、ルールは守るから。
 ここは立入禁止とか、何時起床とか、何時就寝とか?
 全部決めてもらっていいよ。アタシはそれに従います」
292 :相克 :2014/12/10(水) 12:31

「…いいの?マコト…」
「仕方がありませんね」

憮然として答えるマコト。
何だか腑に落ちない。

まるでマコトが魔法にかけられたみたい…

呆然とするわたしをよそに
2人で次々とルールを決めていく――

293 :相克 :2014/12/10(水) 12:31

1.リカ様のお部屋には決して入らないこと。

 「親戚なのに何で様付けで呼ぶの?」
 「幼い頃から、そう呼べと命じられたので、
  クセのようなものです」

マコトって嘘がつけないのよね…

2.奥の間と倉庫、天井裏には決して立ち入らぬこと

 「了解」
 「絶対にですよ」

奥の間には、わたしが眠っていた頃の棺が。
そして、倉庫、天井裏には、魔法族の遺品がある。

3.むやみやたらに家具・調度品・書物には触らぬこと

 「そうだもんね…、許可得ればいい?」
 「私に許可を得て下さい。リカ様はダメです」

な、何よ!
信用ないわね!
294 :相克 :2014/12/10(水) 12:33

「以上、3点は絶対に守って下さい。
 その他、私共の生活に少しでも支障が出るようでしたら
 すぐに出て行ってもらいます。いいですね?」

「もちろん。ルールは絶対守る。
 もしお望みなら、掃除、洗濯とか、何でもするよ?」

「結構ですっ!
 勘違いしないで下さい。
 あなたには、ただ居住スペースを与えただけですから」

「…うぐっ。つれないなぁ…」

眉を下げた彼女に、思わず笑みが零れる。
マコトの表情も随分和らいでいる。

彼女の人懐っこさや
優しい雰囲気がそうさせるんだろうけど…

気になるのは、さっきの囁き。
小春ちゃんの時と同じような、妙な違和感――
295 :相克 :2014/12/10(水) 12:34

どうしても解せないわたしは
マコトの目を盗んで、彼女にそっと尋ねた。

「気になるの?」
「だって、あれだけ反対してたのに、
 急にマコトが了承したから…」

彼女がマコトの様子を窺って、
わたしの手を引き、見えない位置に移動する。

「死ぬって言った」
「え?」

「本気だから、離れたくない。
 今追い出したら、このまま死ぬぞって」

彼女に囁かれ、わずかに跳ねたマコト。

「だからアタシに、一週間だけ時間を下さいって言った」

握られていた彼女の手を、強く握り返したマコト。
(一週間だけですよ)
そんな意味が込められた固い握手…

 『…いいの?マコト…』
 『仕方がありませんね』

そう、憮然として答えていたマコト。

――つじつまは…合う…
296 :相克 :2014/12/10(水) 12:34

彼女が首を伸ばし、もう一度マコトの様子を窺うと
今度はわたしに正対した。

「本気だよ、アタシ」

まっすぐ見つめられて、身動きすら出来ない。

「さっきキスして、自分の気持ちを確信したんだ」

そう言って、壁に背を預けたわたしを両手で閉じ込めた。

「認めさせてみせる。
 一週間の間に、もっとここにいられるように認めさせてみせるから」

あめ色の瞳が、優しく光る。

「だから」

――アタシを好きになって…

再び重ねられた唇に、背筋が震えた。
297 :相克 :2014/12/10(水) 12:35


あの人との関係が宿命ならば
彼女とはきっと運命なんだ――

電車で出会ったことも。
ホテルで一夜を過ごしたことも。
常連のお店でバイトをしたことも。
今こうして、キスを交わしていることも…

ねぇお願い。もっともっと
わたしの心を塗りつぶしてよ。

わたしの宿命も使命もあなた色に染めあげて、
この身を切られるような胸苦しさや
恋心を一つ残らず、拭い去って欲しい――

298 :相克 :2014/12/10(水) 12:36


「――そばに…いて…」

あなたに恋をするから。
あの人のことをわたしの中から消し去るから。

だからお願い…


「そばにいるよ」

あめ色の瞳が、わたしだけを映した。

「…好きだよ、梨華ちゃん」

彼女の温もりが
わたしの体を包み込む。

ほんの少しずつだけど、心の中に
あめ色が広がっている…

そんな気がした――

299 :相克 :2014/12/10(水) 12:36

300 :相克 :2014/12/10(水) 12:36

301 :玄米ちゃ :2014/12/10(水) 12:37

本日は以上です。
302 :名無飼育さん :2014/12/12(金) 03:09
待ってました!
更新ありがとうございます!
またいしよしが読めるのがすごく嬉しいです。
303 :名無飼育さん :2014/12/13(土) 07:54
おかえりなさい
待ってました
304 :玄米ちゃ :2014/12/15(月) 14:05

>302:名無飼育さん様
 ありがとうございます。
 そう言って頂けるとこちらも嬉しいです。

>303:名無飼育さん様
 ありがとうございます。

では、本日の更新です。
305 :相克 :2014/12/15(月) 14:05

306 :相克 :2014/12/15(月) 14:06

彼女がここに住むようになって、3ヶ月が過ぎた。

すっかりマコトとも打ち解けた彼女は
最近では、まるで姉妹のように毎日マコトとじゃれ合っている。

「見てよ、梨華ちゃん。
 このマコトの顔」

「コラ、吉澤さん!
 それあんたが後ろからおどかしたからでしょーが!」

2人の手には、つい先日
3人で旅行に行った時の写真が握られている。

名所めぐりにショッピング。
たくさんの御当地グルメを堪能して
ダイビングにも挑戦して――

魔法を使わずに生活することが
こんなに楽しいなんて思わなかった。

けれど、頭の上にナマコを乗せるのだけは、
もう勘弁して欲しい。

だって驚きすぎちゃって、つい出ちゃったんだもの。
あの時のナマコさん、スカイツリーに飛ばしちゃってごめんなさい。

マコトにはバレたけど、幸いマンタに夢中になっていた
彼女にはバレなかった。

ふぅ、危ない。危ない…
307 :相克 :2014/12/15(月) 14:07

「ねぇ梨華ちゃん。
 今度は遊園地に行こうよ?」

「遊園地?」

「うん、楽しいよ?
 マコトも行ったことないらしくてさ」

わたし達はずっと目立たぬように生きてきた。
娯楽やスポーツ、そんなものとは程遠い生活。

だって魔法を使えば、空も飛べるし
たいていのことは出来てしまう。
だから、あまり興味が持てなかった世界。

その世界がこんなにも楽しいということを
彼女が教えてくれた。

今わたし達は、まるで初めて経験する子供のように
目を輝かせ、はしゃぎ、笑い、彼女がくれる時間を目一杯楽しんでいる。
308 :相克 :2014/12/15(月) 14:08

「あ、そろそろ夕飯の支度しなくちゃ!」

マコトが時計を見て、ソファから立ち上がった。

「何かご希望あります?」
「ゆでたまご」
「却下。吉澤さん3食それだもん」
「いいじゃんか、ケチー」

唇を尖らせた彼女に、マコトがあっかんべえをする。

「マコトにまかせるよ」
「ハイ!」

純血のわたしがこういうと
マコトはとびっきり嬉しそうにする。

そんな様子をちょっとだけ不思議そうな顔で見ている彼女。
ただの親戚ではないことなんて、とっくに気づいているんだろうけど
詮索しようとしてこないのも、彼女のいいところだ。
309 :相克 :2014/12/15(月) 14:08

「では、いってきます!」

「ゆっくりでいいよ〜
 梨華ちゃんと2人きりの時間を楽しむから」

からかうように言う彼女。

「ソッコー戻ってきます!」

負けじとマコトも鼻息荒く返す。

「あ、そうだ。
 悪いけどトマトジュース買ってきてくんない?」
「トマトジュース?」
「うん。2駅先のスーパーにしか売ってないやつ」
「あ、そうやって時間稼ぎして、人のいない間に…」
「バレた?」

クスクスと笑う彼女に、わたしも頬が緩む。
なんだかんだと文句を言いながらも、マコトも笑っている。
310 :相克 :2014/12/15(月) 14:09

絶対買いませんから!

なんて言いながら、マコトったら買ってくるんだろうな。
しかも、ちゃんと電車に乗って。

マコトだって、純血ではないけど
魔法使いの端くれだから、魔法で空を飛んだり
料理を作ったり、簡単なことは出来る。

けれど、彼女の前では
絶対しないし、そんな様子さえ出さない。

わたしとは正反対。
守ってきた側と守られてきた側の違い。
この差が、こんなにも大きいってことを初めて知った。

固い決意と固い意志で、
守り続けてきた強い心。

どこかで当たり前のように思っていた自分を恥じ
マコトを始め、ここまで繋いできた一族のみんなに
心から感謝をした。

それがわかったのも
今、ここにいる彼女のおかげ。

彼女と暮らしたからこそ、大事なことを知ることができた。

でも同時に、わたしの心に
暗い使命が重みを増すのも事実で――
311 :相克 :2014/12/15(月) 14:10

「おいで?」

ソファに腰かけたままの彼女が
わたしに手を差し伸べ、自らの膝の上に導いてくれる。

「考え事?」
「うん…」

両頬を温かな手のひらで包まれ
顔を覗き込まれる。

「眉間にシワ寄ってる」

柔らかな感触が、眉間に触れた。
そのまま鼻筋を滑り、触れ合う唇。

暗いココロが塗りつぶされ
キレイなあめ色に変化していく瞬間――
312 :相克 :2014/12/15(月) 14:11


「好き…
 …ひとみちゃんが、好き…」

合間に漏らしたわたしの呟きに
彼女は満足そうな笑みを浮かべて、わたしを抱き寄せた。

「アタシも…
 もう、離したくない…」

彼女の唇が、耳たぶに触れ
そっと舐めあげられる。

思わずもれそうになる声を飲み込んで
彼女にしがみついた。

背筋を撫で上げられ
彼女の熱い吐息が、直接耳に届く。

抗えそうにない快感が、全身を貫き
こらえきれずに声がもれた。

「…っん…あ…」

313 :相克 :2014/12/15(月) 14:11

「梨華…」

濡れた甘い声が耳に響く。

そこから滑り下りた唇が首筋に届き、
舌で舐めあげると、そっと歯を立てた。

「…いっ…」
「ごめん」

ハッとしたように離れた彼女。
その瞳は見つめられただけで溶けてしまいそうなほど
甘く緩んでいて、いつものあめ色に明みが増して
表現できないほど、美しい。

――キレイ…

ほんとに綺麗…
なのに彼女の瞳には、なぜか影が混じる。

「ごめん、梨華ちゃんの反応が可愛くて
 思わず、噛みたくなって…」

ごめん…

「痛かったよね?
 甘噛みしたつもりだったんだけど…」

「平気だよ、びっくりしただけ」
314 :相克 :2014/12/15(月) 14:12

「まだ、こうしててもいい?」

向かい合ったまま、ギュッと抱きしめられた。

「マコトが帰ってくるまで。
 梨華ちゃんに触れてたい」

「…さっきの続き、してもいいよ?」

勇気を出して言ってみたけど
彼女は首を横に振った。

「今日はガマンする。
 途中でマコトが帰ってきても困るし…」


今日は――
ううん、今日もでしょ?

彼女はこれ以上進もうとしない。
もう3ヶ月になるのに…

おまめちゃん曰く、
大事にされているってことらしいんだけど――

315 :相克 :2014/12/15(月) 14:13

「ねぇ、ひとみちゃん」
「ん?」
「今夜、お部屋に行ってもいい?」
「へ?」

「続きしたい」

体を離して、彼女の顔を覗き見た。
触るとヤケドしてしまいそうなほど、真っ赤に染まった頬。

「つ、つ、つづき…って?」

そっと彼女の手を手繰って、自分の胸の上に導く。
ガチンと固まってしまった彼女の体。

「ダ、ダ、ダ、ダメだよ」
「どうして?」
「い、い、いや、その、なんて言うか…」
316 :相克 :2014/12/15(月) 14:13




「ただいま〜って!
 吉澤さん、どこ触ってんすかっ!!!」

「お、イヤ、ちがっ。
 これは…」

「問答無用っ!!」

ダッシュで帰ってきたらしいマコトが
息を切らしながら、襲いかかる。

手には、彼女のリクエストにお応えしたらしい
トマトジュースのペットボトル、1リットル入り。

「バカ、おまっ、それで殴んな!」
「だまれ、オオカミめ!」

イテッ!やめろ!
頼むっ!やめてくれ〜〜

悲痛な叫びが、お家中に響いた。

317 :相克 :2014/12/15(月) 14:14

「ヒドイよ、ぐすん…」
「ごめんね」

いくつもタンコブの出来た頭を
優しく撫でてあげる。

「リカ様が早く止めて下さらないからです」
「止めたよ?マコトが全然聞く耳もたないから」

ひとみちゃんの惨状を見ると
よっぽどスカイツリーのてっぺんに飛ばされる方が
マシなんじゃないかと言う気さえする。

思わず魔法で、キズを治してあげたいとか
思っちゃうけど、気配を察したマコトに目で制された。

「お詫びで本日の夕食は
 ゆで卵、だし巻き卵、オムライス他
 卵料理のフルコースにしますから」

「マジ?ヤッター!!」

両手を上げて喜ぶ彼女に
わたしもマコトも笑みが零れる。
318 :相克 :2014/12/15(月) 14:14

このままこうして3人で暮らしたいな…

何も気負わず。
何も考えず。

自分の素性すら忘れて
生きて行けたら、どんなにいいだろう――


「リカ様、ちょっと手伝って頂けますか?」

319 :相克 :2014/12/15(月) 14:15

「なりませんよ、変なことはお考えにならないように」

やっぱり守り続けてきた者は強い。

「もしも、リカ様のお気持ちに
 良からぬ変化が起きるようでしたら
 残念ですが、吉澤さんには出て行ってもらうことになります」

ハッとした。

それだけはダメ。
だって今の『出て行く』と言う意味は
もう2度と彼女に会えなくなるということ。

最悪の場合は――

「大義のためには、仕方ありませんから」

「待ってよ!大丈夫。
 わたしは大丈夫だから!」

ちゃんと使命は自覚してるし、
逆に言えば、使命を果たせば、ずっと一緒にいられると言うこと…

320 :相克 :2014/12/15(月) 14:15

「早く見つけよう?」

マコトが大きく頷いた。

マコトだって、ほんとは
ずっとひとみちゃんといたいはず。
だって、あんなに仲がいいんだもの…

わたしのココロは今
ほとんど、あめ色に染まっている。

やるなら今だ。
今ならきっと、あの人と戦える――

321 :相克 :2014/12/15(月) 14:16

322 :相克 :2014/12/15(月) 14:16

323 :玄米ちゃ :2014/12/15(月) 14:16

本日は以上です。

324 :名無飼育さん :2014/12/18(木) 23:10
なんか切ない予感がしてきた…
次の更新が気になります。
325 :玄米ちゃ :2014/12/19(金) 09:51

>324:名無飼育さん様
 ありがとうございます。


では、本日の更新です。
326 :相克 :2014/12/19(金) 09:51

327 :相克 :2014/12/19(金) 09:52

「いい?入場する時に、耳をすまして
 よ〜く聞いててね?」

 (シャリン)

「ほら!聞こえた?」

目をランランと輝かせ、
わたしとマコトに嬉々として尋ねるひとみちゃん。

ひとみちゃんが言うには、ここは『夢と魔法の国』なんだそうで…

「今アタシたち、魔法にかけられちゃったんだよぉ」

そんな風に言って、とろけそうな笑顔で
はしゃがれちゃったら、自然とわたしの頬も緩んでしまう。

ほんとの魔法は『パチンッ』て音が鳴るんだけど
この際、そんな事はどうでもいい。
ひとみちゃんが望むなら、指を鳴らす音を変えてしまおう。
328 :相克 :2014/12/19(金) 09:52

「ヤッベ!超テンションあがってきた!!」

ここが大好きだというひとみちゃんは、
わたしとマコトの手を引き、「次行こ次」ってパーク内を駆け回る。

楽しくて仕方ないという、その表情に
わたしもマコトも自然と笑顔になって、
「少し休もうよ〜」とかいいながらも、すっごく満喫している。

ほんとの魔法なんか使わなくたって
まるで魔法にかけられたように、こんなに非日常に浸れるなんて、
何だか不思議な気分だな…
329 :相克 :2014/12/19(金) 09:53

「あ、あれ!三木さんだっ!!」

人だかりの中心に、目つきの悪いねずみもどきがいる。

「その隣は、美々さんて言うんだよ。
 で、あの隣はぷさん」

実はね…

ひとみちゃんが、声を潜めて
わたしに耳打ちする。

「ぷさんはくまみたいに見えるけど
 ほんとはカエルなんだよ」

ひとみちゃんの吐く息が、耳に触れて
すごくくすぐったい。

その後もたくさん、いろんなキャラクターの解説をしてくれたけど
ほとんど耳を素通りしていた。

いつの間にか繋がれた手と、
楽しそうな笑顔に、夢中だったから…
330 :相克 :2014/12/19(金) 09:54

「よぅし!一番前ゲットォ〜!」

レジャーシートを広げて、わたし達を座らせると

「アタシ、何か食べ物とか買ってくるから
 ここで待ってて」

そう言って、足取りも軽やかに駆けていく。

「吉澤さんてタフですね」

少々へばり気味のマコト。
すっかり暗くなったパーク内に、
きらめく光が点在するのは何だか不思議な光景。
その中でも、圧倒的な存在感を放つ中央のお城…
331 :相克 :2014/12/19(金) 09:54

「――あのお城、似てますね。
 やっぱり懐かしいですか?」
「…ううん」

とは言っても、寂しさが胸をよぎる。

跡形もなくなってしまった故郷。
パパやママ。
そして大切な仲間たち…

あの日の惨状。
忘れられない光景は、今でもしっかりと
瞼の裏に焼きついている――


「魔法ってさ、こんな風に
 皆を笑顔にできるんだね…」

作り物の魔法の国でさえ、こんなに輝いているのに――

なんでだろう?
どうしてなんだろう?

本物には、暗い使命しかないなんて――
332 :相克 :2014/12/19(金) 09:55

「リカ様?」
「…あ、ごめん」

暗い感情を誤魔化すように、辺りを見回してから
作った笑顔をマコトに向けた。

「キレイだねー」

色とりどりの光を振りまくおもちゃを手にした子供が、
わたしの前を通り過ぎる。

「わたし、あれ買ってくる!」
「え?ちょ、ちょっとリカ様??」
「マコト、お留守番よろしくね?」
「ま、待って下さいよ〜!」

マコトの呼ぶ声を無視して、駆け出した。

見る勇気がなかった。
ニセモノの魔法使いのパレードなんて。

どんなにひとみちゃんが勧めてくれても。
どんなに煌びやかなものでも。

今のわたしには、眩しすぎて
涙が溢れてしまいそうな気がしたから。
333 :相克 :2014/12/19(金) 09:55

なるべく人気のないところへ向かう。

いつもよりは空いているらしいけど
どこにでも人が溢れていて、
ここでは一人になれるところはないらしい。

はあぁぁぁ〜〜

思わず深いため息が出た。

仕方なく、近くの石垣の上に腰かけた。
ふと視界の隅に何かが引っかかって、自然とそこに視線が向かう――

――ひとみ、ちゃん…?

何やら深刻そうに、黒髪の女の子と話をしている。
334 :相克 :2014/12/19(金) 09:56

どうしたんだろう…?

2人の背後から、そっと
足音を忍ばせて近づいていく――

  「…ああ、分かってる」

ドキンッとした。

  『ワタシに従え』

前に耳元で囁かれたあの
背筋が凍るほどの冷たい声。

あの晩、あの人のお父様が出した
威圧感のある、あの声に似た――


「…あれ?梨華ちゃん?」

気配に気づいたのか、彼女が振り向いた。
335 :相克 :2014/12/19(金) 09:57

「どうしたの?マコトは?」

さっきの冷たい声を微塵も感じさせない
いつもの優しいひとみちゃんの声。

「…あ、えっと…
 遅いから、ひとみちゃんどうしたのかなって…」

思わず口をついて出たでまかせ。

「なーんだ。そんなにアタシと離れて
 寂しかったのかぁ」

なんて、目じりを下げて
わたしの肩を抱いた。

「ねぇ、その人がお姉ちゃんの彼女?」
「そうだよ。かわいいっしょ?」

お、お姉ちゃん…?!

「初めまして、妹のさゆみです」
「は、はじめまして。リ…石川梨華です」

妹…
336 :相克 :2014/12/19(金) 09:57

「すっげぇ偶然。
 さっきバッタリあっちゃってさ。
 家出たまんま、なかなか帰って来ないから
 父ちゃんも母ちゃんも心配してるって怒られてたとこ」

「そ、そうなんだ…」

  『…ああ、分かってる』

さっきのひとみちゃんの声が、
耳の奥でリフレインする。

「一日くらい帰ってきなよ」
「ヤダよ。見ての通り、アタシは梨華ちゃんから
 片時も離れる気なし」

ベーなんて、妹さんに向かって
茶目っ気たっぷりに舌を出したりしてるけど
妹と名乗った彼女から感じる何かを通じて生まれた思いが
一気にわたしの心に暗い影を落とした…

337 :相克 :2014/12/19(金) 09:58

338 :相克 :2014/12/19(金) 09:58

339 :玄米ちゃ :2014/12/19(金) 09:58

本日は以上です。

340 :名無飼育さん :2014/12/19(金) 12:28
まさかのあの場所(笑
341 :玄米ちゃ :2014/12/24(水) 09:42

>340:名無飼育さん様
 あの頃はまだここにたどりついてなかったなぁ…


では、本日の更新です。
342 :相克 :2014/12/24(水) 09:42

343 :相克 :2014/12/24(水) 09:42

 <コンコン>

「ひとみちゃん、入ってもいい?」

その夜、どうしても寝付けなくて
ひとみちゃんの部屋を訪ねた。

そっとドアを開けて、
中に入れてくれたひとみちゃん。

「寝てた?」
「ううん」

ベッドと机があるだけの簡素なお部屋。
2つ並べて、床にクッションを置いてくれたから
隣に座って、ベッドに背を預けた。

――ここに、わたしは何しに来たの…?
344 :相克 :2014/12/24(水) 09:43

「…遊園地、梨華ちゃん
 好きじゃなかった?」

「ううん、そんなことないよ?」

「でも最後の方、あんま楽しそうじゃなかったからさ…」

それは、あなたの妹だと名乗った、あの子のせい…

だって、妹じゃないと、わたしのカンが告げている。
脳内に、いや体中に警戒音が鳴り響いている。

――ひとみちゃんと彼女は姉妹じゃない。

強いて言うなら、わたしとマコトのような関係だと
わたしの中の血が告げている。

だけど、それをカタチにすることを
わたしの中の大きな迷いが拒む。

点と点を結ぶことを
おぼろげな輪郭を辿ることを

あなたに関する情報に、目をつぶれと
わたしの心が悲鳴をあげている――
345 :相克 :2014/12/24(水) 09:44

ふいに抱きしめられた。

「梨華ちゃん…」

耳元で聞こえる、あなたの甘い声。

――溺れてしまえ!

心の奥で、わたしが叫ぶ。

目を塞ぎ、今はただこの腕に身を任せて。
余計なことをシャットアウトして。

わたしが気づかなければいいんだ。
わたしが分からなければいいんだ。

だって、確証はないもの。
彼女があの人だって確証は、どこにもないもの――
346 :相克 :2014/12/24(水) 09:44

「ひとみちゃん」

間近でみる瞳。
――あめ色の瞳。

「キスして」

温かい唇。
――人間と同じ体温。

「もっと好きだって言って…」

優しくて甘い声。
――あの人とは違うもん…

何もかも、違うもん。
347 :相克 :2014/12/24(水) 09:45

「ひとみちゃんはひとみちゃん…だよね?」
「どうしたの?梨華ちゃん」

言葉に出来ない想いが胸に溢れて
涙となって零れ落ちた。

優しい眼差し。
とろけそうな笑顔。

彼女の頬にそっと手を伸ばす。

あめ色の瞳。
温かな頬。
甘い声。
お花のような香り。

どれも違う。
あの人とは違う。

だからわたしは、ただ目の前にある現実を受け止めればいい。
体中にさざめく警戒なんか、無視してしまえばいいんだ。
348 :相克 :2014/12/24(水) 09:45

困惑している彼女を引き寄せて
自分から唇を寄せた。

「…っん、梨華、ちゃん…
 それ、以上は…」

――マコトにもし、見つかったら…

「見つかったっていいもん」
「またアタシ、ボコボコにされちゃうよ」

彼女の瞳に、わたしが映る。
わたしだけが映っている――

「…させない」
「ん?」

「マコトにはわたしがちゃんと話しする」


だからずっと。
ずっとずっとわたしのそばにいてよ…

349 :相克 :2014/12/24(水) 09:46


「…言葉って罪だね」

スッと細められた、琥珀のように美しい、あめ色の瞳。

「無理だってわかってても
 そんな風に言われると胸が痛くなる…」

ひとみ、ちゃん…?

湧き上がる感情を閉じ込めるように
ゆっくり瞼を閉じると、ひとみちゃんは
わたしの額に自分の額をくっつけた。

「うれしいよ、マジで…」

囁くようにそう呟くと、今度は首筋に顔を埋めて、
わたしを強く抱きしめた。

350 :相克 :2014/12/24(水) 09:47

「――ひとみ…ちゃん?」

次第に冷たくなっていく彼女の体温。
さっきまでの温もりが嘘のように、
わたしの体を冷気が包み込む。

「ねえ…」

顔を覗こうとしても、
強く抱きしめられた体は言うことをきいてくれない。

「ひとみちゃん?」

彼女の呼吸が大きく乱れていく――
荒い吐息が首筋を撫で、快感がわたしを襲う…

「…っん…ぁあ…」

351 :相克 :2014/12/24(水) 09:47


ふと果実が熟れたような甘い香りが漂い始め
一気に、わたしの体が硬直した。

触れ合った肌から、わたしの異変が伝わり
彼女の体が小さくビクンと跳ねる。

っぐ…

彼女が奥歯を噛む音が聞こえ
彼女の体に温もりが戻ってくる。

周囲を漂っていた、果実が熟れたような甘い香りが
お花のような優しい香りに変わっていく――


352 :相克 :2014/12/24(水) 09:48

ゆっくりと顔を上げたあなたの瞳は、
見つめられただけで溶けてしまいそうなほど甘く緩み、
明みが増した美しいあめ色――

「――ひとみ、ちゃん…」

体の中心にうねる熱い欲望を責めるように
わたしの中を巡る血液がさざめき合い、警戒を促す…

複雑な表情のまま、
わたしから離れようとした彼女を引き戻して
もう一度、唇を合わせた。

自らの舌を差し出し、彼女に捧げる。
遠慮がちな彼女を煽り、より深くつながる。

体中の血液が、不快な音を立て、
勢いよくわたしの中を駆け巡る――

353 :相克 :2014/12/24(水) 09:49

「…妹、さん」
「ん?」

「――家に、呼んで…」

大きな賭け。

「…どうして?」
「おもてなし、したいから…」

危険すぎる賭けだって分かってる。

だけど、あなたを信じたい。
ううん、わたしは信じてる。
354 :相克 :2014/12/24(水) 09:49

「…抱いて」
「梨華ちゃん…」

「お願い…抱いて欲しいの…」
「でも…」

「お願いだから…」

――わたし。

「アナタに、抱かれたい」

355 :相克 :2014/12/24(水) 09:50


  『いつかもし、もう一度どこかで会えたなら』
  『会えたなら?』


全身に降り注ぐあなたの唇を受け止めながら
手の甲を噛んで、声を殺して泣いた。

触れられた肌は、震えるほどの喜びを感じるのに
心は千切れそうに痛くて、苦しくて
必死で背中にしがみついた。

好き…
狂おしいくらい、好き…

――だけど…


「リカ…」

そう呼ばれるたびに
涙が溢れて仕方がなかった――

356 :相克 :2014/12/24(水) 09:50

357 :相克 :2014/12/24(水) 09:50

358 :玄米ちゃ :2014/12/24(水) 09:51

本日は以上です。

359 :sage :2014/12/25(木) 00:12
クリスマス短編 期待してたのに(T-T)
360 :sage :2014/12/25(木) 00:14
貴重ないしよし小説 楽しみにしてます。
361 :名無し飼育さん :2014/12/25(木) 23:49
更新お疲れ様です。

せ、せつないです;;
362 :玄米ちゃ :2014/12/26(金) 10:57

>359様
 すみません。

>360様
 ありがとうございます。

>361:名無し飼育さん様
 しばらくはこんな感じかと…


それでは本日の更新です。
363 :相克 :2014/12/26(金) 10:58

「ひと雨きそうだね…」

遠くで雷鳴が響き、稲光が窓の外を覗く
あなたの頬を時折照らす。

見えない電流のようなピリリとした空気が
2人の間に流れ、言葉を交わすことをためらわせる。

まるで独り言のように
それぞれが短い言葉を発しては、沈黙が流れていく――

「…あ、とうとう降ってきた…」


微妙な空気を打ち破りたくて
作業する手を止め、彼女に向かって問いかけた。

「――さゆちゃん、大丈夫かな?」

一瞬、驚いたような顔をして
彼女は笑顔を作ると

「大丈夫だろ」

短くそう言った。

364 :相克 :2014/12/26(金) 10:58

作戦失敗…

少ししょげて、手元に視線を落とすと
ゆっくりわたしの元へと歩み寄りながら
彼女が言った。

「マコトも傘もってないんじゃね?」

顔を上げると、優しい笑顔が迎えてくれた。

「マコトはほっといても大丈夫だよ」
「ふはっ、つめてぇの」

今日初めての軽口が、何だかとっても嬉しい。

365 :相克 :2014/12/26(金) 10:59

「…てか、梨華ちゃんさ。
 自らおもてなししてくれるのは嬉しいけど、その切り方ヤバくない?」

「え?切り方?」

わたしの右手には、包丁。
左手には、ゴボウ。

「それ、まき割してんの?」

え?おかしい?
まき割方式ダメなの?

普段は全部、魔法でやっちゃうから
イマイチ包丁の使い方が分からない。

「普通はさ」

彼女がわたしの背後に回る。

「食材はこうやって寝せて」

彼女がわたしの右手に、
そっと手を添えようとしたその時――
366 :相克 :2014/12/26(金) 11:00

<ピカッ!バキバキバキッ!!>

激しい稲光と、凄まじい雷鳴が轟き地面を揺らした。
同時に、部屋中の電気が消え、薄暗い闇に包まれる――



「…すっげぇ。
 今、絶対落ちたな」

小さく首をすくめた彼女が
わたしの手元を見た。

「ちょ、指切ってんじゃんっ!」

雷鳴に驚いたわたしは
気づけば左手の人指し指を切っていた。

「大丈夫だよ。
 そんなに深くないから」

「血が出てる」

わたしが自分の指をかばうよりも早く
彼女が、わたしの傷ついた指を口に咥えた。
367 :相克 :2014/12/26(金) 11:00

薄闇の中、彼女の輪郭が
ぼんやりと光り、浮かび上がる。

濡れた舌が、傷口を這い
流れ出す血液を吸い上げていく。

温かな彼女の口内が、次第に冷たくなる。
背後から包みこまれたわたしの体温が、
冷えた彼女の体に温もりを奪われていく――

徐々に彼女の呼吸が大きく乱れ、
荒い吐息が指先から伝わってきた。

そして、果実が熟れたような甘い香りが漂い始め
一気に、わたしの体が硬直した。

368 :相克 :2014/12/26(金) 11:00




「――なんと芳しい…」

恍惚とした表情で、ひとみちゃんが顔を上げた。

暗くてもハッキリ分かる
真っ赤な2つの瞳。


ああ、やっぱり…
やっぱりそうだったんだ…


369 :相克 :2014/12/26(金) 11:01

チラチラと瞬いて、部屋の明かりがついた。

眩しさに思わず
腕で目を隠した彼女。

腕では隠れなかった髪色は
あの人と同じ金色。

いつの間にか、黒いマントを羽織り
上げていた腕をゆっくりと下すと、彼女が視線を上げた。

透けるような白い肌に浮かぶ
真っ赤な2つの輝き――

――キレイ…

あの日と同じように、釘付けになった。

370 :相克 :2014/12/26(金) 11:01

「やはり怖がらないんだな」

苦笑交じりの声。
だけど、心地よく耳に響く、穏やかな音色の濡れた声――

覚悟はしていた。

だけどやっぱり。
ほんのわずかな可能性でも、違って欲しかったのも事実…
371 :相克 :2014/12/26(金) 11:02

「お前はいい女だ」

その唇も。
その肌も。
その中に流れる血も。

「最高の味だ…」

彼女の手が、わたしの頬に触れる。
宝石のように美しい瞳が、スッと細められる――

「純血の味はやはり格別だ…」

372 :相克 :2014/12/26(金) 11:03


<ガチャリ>

「ただいまー、いや〜外すっごい雨で…」

部屋の中に入りかけたマコトが固まった。

「…な、んで…?
 うそ、だ…」

ひとみちゃんの変貌を見て
マコトが凍りついた。

「まさ、か…、そんな、ことって…」

「フハハハハハッ!
 魔法族とは、やはり滑稽な生き物だ。
 実に愚かで、救いようがない」

「お、お前っ!」

「こんなに簡単に入り込めるとは、思っていなかったよ」

「よくも、騙したなっ!」

駆け寄ろうとしたマコトに向かい、
彼女が左手を振り上げた。
途端にマコトの動きが止まる。

「ワタシに従えと言ったろう?」
373 :相克 :2014/12/26(金) 11:04

やはりあの時――

初めてここに来た日の、マコトの様子。
小春ちゃんの時と同じような、妙な違和感の正体――

吸血族は、催眠術を扱えるとパパから聞いていた。
純血であるわたし達には、おそらく通用しないけど
血が薄まれば、薄まるほど、簡単に操れるだろうって…

「所詮は下等なものどもの集まりだ。
 素直に従えばいいものを」

振り上げた手を、横に振ると
マコトの体が、壁に叩きつけられた。

「マコトっ!!」
「っつう…」

頬に触れている彼女の手を振り払って
慌ててマコトの元に駆け寄った。
薄笑いを浮かべる彼女を思わず睨みつける。
374 :相克 :2014/12/26(金) 11:04

「いい目だ…
 少しは足掻いてくれないと、こちらも面白くない。
 なあ、サユミ」

彼女が声をかけると、窓の隙間から
霧のようなものが部屋の中に流れこみ、やがて人の形をなした。
そしてそのまま、彼女の前に跪くと

「準備は整っております」

短くそう告げた。

「さあ、いよいよ
 最期の時が来たっ!」

体の底から震えるような
彼女の威厳のある声が、部屋中に響く。

「今日をもって、魔法族は滅する!!」

真っ赤な瞳が2つ、キラリと光った。
375 :相克 :2014/12/26(金) 11:04

376 :相克 :2014/12/26(金) 11:04

377 :玄米ちゃ :2014/12/26(金) 11:05

本日は以上です。

378 :名無飼育さん :2014/12/27(土) 07:12
おおおおどうなるんだ
379 :玄米ちゃ :2015/01/05(月) 13:05

>378:名無飼育さん様
 ありがとうございます。


では、本日の更新です。
380 :相克 :2015/01/05(月) 13:05

381 :相克 :2015/01/05(月) 13:06

「リカ王女よ。
 いっそのこと、ムダな足掻きはやめて、
 吸血族に下らぬか?」

そうすれば昨夜のように毎晩抱いてやろう。
お前の感度は素晴らしい。

「イイ声で鳴く」

彼女が下卑た笑いを浮かべる。

「…まさか、リカ様…」

腕の中のマコトが信じられないという顔で
わたしを見上げた。
382 :相克 :2015/01/05(月) 13:06

「マコトよ、お前もおめでたい。
 お前がスヤスヤと眠り、夢を見ている頃
 魔法族の王女は、吸血族の王の腕に抱かれて
 淫らな姿で、淫らな声を上げ、腰を振っていたぞ」

「き、貴様っ…」

「胸の先端を転がし、大事なトコロを舐めたら
 あられもない声をあげ、悦びの蜜を流しておったわ」

「このぉぉぉ!!!」
「触れるなっ!!」

再び彼女が左手を振り上げ
彼女に掴みかかろうとしたマコトの体が硬直する。

「ワタシに触れるな。
 汚らわしい」

冷めた目でマコトを見下ろす彼女。

「どうだ?意識のみ解放されたままで
 主の醜態を聞く気分は?」
383 :相克 :2015/01/05(月) 13:07

「お望みなら、お前の見ている前で
 今すぐ王女を抱いてやろうか?」

「っぅぐぐ…」

「仇に抱かれ、悦びの声を上げるお前の主を
 その目に焼き付けるか?」

「…き、貴様っ…」

渾身の力で、マコトが彼女へと手を伸ばす。

「おおっと」

あざ笑うかのように、彼女が腕を振り下ろした。
同時に、マコトの体が床に叩きつけられる。

「魔法族にワタシは倒せない」

なぜなら。

「ワタシは不老不死の絶対王だ。
 千年を超えて、ずっと生きている。
 自在に瞳の色を操り、髪の色を変え
 お前たちの目をくらますことなど、容易いこと」
384 :相克 :2015/01/05(月) 13:08

「現に純血の王女でさえ、
 ワタシの正体に気づかず、心も体も許した」

おかげで、その唇も。
その艶やかな肌も。

「堪能させてもらったよ」

フハハハハハッ!
アーハッハハハハ!


「――どう、して…?」
「ん?」

彼女の真っ赤な瞳が、言葉を発したわたしを捉える。

「どうして、あなたは…」
「なんだ?」
385 :相克 :2015/01/05(月) 13:09


「――わざとそんな言い方をするの?」

わずかに、2つの瞳が揺れた。

だってさっきから、
わざと煽っているようにしか見えない。

マコトを怒らせようと。
わたしに憎しみを抱かせようと。

そう仕向けているようにしか――


「わたしは好きよ!
 あなたが好き!」

初めて出会ったあの日から。
あなたがわたしを助けてくれたあの日から。
千年を超えて、相克を超えて

「…あなたを愛してる」
386 :相克 :2015/01/05(月) 13:09

「黙れっ!!」

黙れ、黙れ、黙れっ。
あの日、お前を助けたのは単なる気まぐれに過ぎない。

「ワタシは吸血族。
 魔法族とは相容れない」

「そんなことないっ!
 わたしとあなたなら…」

「うるさいっ!!」

彼女の左手がもう一度振り下ろされ、
マコトが再び床に叩きつけられた。

「っうぅ…」
387 :相克 :2015/01/05(月) 13:10

「お願いっ、やめてっ!!」

「やめて欲しければ、ワタシを倒してみよ!」
「イヤよっ!」

「ワタシはお前の仇だ!
 さあ、杖を召喚し、ワタシと戦え!」
「出来ないっ!そんなこと出来ないっ!」


「…ならば仕方がない」

――黙ってそこで指をくわえて見ているがいい。

「お前を守ってきた者たちが、
 命を懸けてお前を守り続けてきた者たちが、
 目の前で滅びゆく姿を!」
388 :相克 :2015/01/05(月) 13:11

「マコトよ」

彼女がゆっくりと、倒れているマコトの元へと歩み寄る。

「仲間をすべてここに呼べ」
「…なん、で…?」

「一族もろとも、ここで。
 お前たちの主の目の前で滅ぼす」

サユミ、われらの仲間も
ここに呼びよせ、準備にかかれ。

「待て…待ってくれ。
 どうか…」

マコトが彼女の足にすがる。

「哀れな奴だ…
 お前の主は戦いを放棄したのだ。
 もう破滅しか道はない」
389 :相克 :2015/01/05(月) 13:11

「さあ、呼べ!
 呼べばお前だけは助けてやろう」

「…イヤ、だ…」

「お前が呼ばずとも、王女がこれでは
 すぐに滅びる」

「…んな、ことは、ない…
 魔法族は、そんなに…ヤワじゃない…。
 お前らには…、いや、お前にだけは…」

――死んでも、負けない…

「そうか…
 ならば、お前がまず」

――逝くがよい。

彼女が左手で、マコトの首を掴み
高々と掲げた。
390 :相克 :2015/01/05(月) 13:12

「やめて…」

――お願い…

「やめてぇぇ〜〜!!!」

杖をこの手に召還した。

純血にしか扱うことの出来ないパパの杖を。
吸血族の源を絶つことが出来るこの杖を。

――彼女の息の根を止めることが出来る、唯一の杖を…

391 :相克 :2015/01/05(月) 13:12

「それでよい。さあ、リカ王女よ。
 我々の悠久の歴史に決着をつけよう」

ワタシがあなたに勝てば、魔法族は吸血族の元に下るのだ。
そしてワタシは、人間界をも支配する究極の王となり、万物を支配する。

だが、もしも――
もしも、あなたがワタシに勝ったなら、吸血族は
あなたを新たな王と崇め、魔法族に下ろう。

「よいな、サユミ」
「はい、心得ました」

「…ま、お前がワタシに勝つなど
 万に一つも可能性はないがな」

片頬を上げ、温度のない顔で
彼女がニヤリと微笑んだ。

逃れられない宿命が
わたしをがんじがらめにする…
392 :相克 :2015/01/05(月) 13:13


「――わかりました」

わたしの一言に、満足そうに一度頷くと
彼女の顔から笑みが消えた。

真剣なその眼差しに、
背筋が凍り、思わず杖を握りしめた。

「行くぞっ!!」

彼女が声を上げ、マントを翻し
右手を振り上げ、わたしに向かってくる――


<ピカッ!バキバキバキッ!!>

再び激しい稲光と、凄まじい雷鳴が轟き地面を揺らした。
思わず一瞬身を固くする。

393 :相克 :2015/01/05(月) 13:13


「リカ様っ!!」

さっきまで自由を奪われていたマコトが
動き出すのを、視界の隅に捉えて
思わず視線をそちらに向けた。

「っぐわっ…」

短いうめき声と共に、握りしめた杖に
強い衝撃が走り、視線を戻す――


――どう…し、て……


わたしは何もしてないのに…
1ミリたりとも、杖を動かしていないのに…

394 :相克 :2015/01/05(月) 13:14


「――リカ…おう、じょ…
 あな、たの…、か、ち…だ…」


胸の真ん中を貫く杖を握りしめたまま
彼女はその場に崩れ落ちた――


395 :相克 :2015/01/05(月) 13:14

396 :相克 :2015/01/05(月) 13:14

397 :玄米ちゃ :2015/01/05(月) 13:15

本日は以上です。

398 :名無飼育さん :2015/01/05(月) 23:41
2015年も更新ありがとうございますm(._.)m
切ない…ハッピーエンド信じてます!
399 :名無し飼育さん :2015/01/07(水) 00:39
明けましておめでとうございます。
本年も更新ありがとうございます。
400 :玄米ちゃ :2015/01/07(水) 14:41

>398:名無飼育さん様
 ありがとうございます。
 さてどうでしょうか…

>399:名無し飼育さん様
 こちらこそ読んで頂きありがとうございます。


では、本日の更新です。

401 :相克 :2015/01/07(水) 14:41

402 :相克 :2015/01/07(水) 14:42

「ひとみちゃんっ!!」

崩れ落ちた彼女を抱き起す。

「どうして…」

足の先から徐々に、
彼女の体が、灰と化してゆく――

「…ヤダ…、なんでよ…」

彼女の異変を止めたくて、
彼女の体に刺さったままの杖を引き抜こうとして、
逆にその手を制され、強く握りしめられた。

「さす、が…
 魔法、族の、王女…だね…
 かなわ、ない、よ…」

「ちがうっ!
 わたし何もしてない!
 何もしてないのに…」

溢れ出る涙を止められない。
403 :相克 :2015/01/07(水) 14:42

「…サユ、ミ…」
「はい」

「見ての、とお、り、だか、ら…
 あと、は…、リカ、王女に、したが、って…」
「心得ております」

「みな、にも、よろしく…」
「かしこまりました」

視線をわたしに戻した
彼女の指先が、わたしの頬に触れた。
404 :相克 :2015/01/07(水) 14:43

「リカ、王女…
 あなたの、生まれ、育った、城…」

溢れ続ける涙を
細い指先が、優しく拭ってくれる。

「今、は…、山になって、る、けど…
 その、なか、に…城を、その、ままで
 隠し、てある、から…」

頬に触れている手が、灰へと変わり
流れ落ちてゆく――

「…この、アタシ、の灰を…」

動く唇が、ゆっくり崩れ落ち、

――あと、は…サユ、ミに…

その言葉を最後に、
彼女はわたしの腕の中で、完全に灰へと化した。
405 :相克 :2015/01/07(水) 14:43

「――ヤダ…、行かないで…
 ひとみちゃん、ずっと…
 ずっとわたしのそばに――」


  『無理だってわかってても
   そんな風に言われると胸が痛くなる…』

  『うれしいよ、マジで…』


「いやぁぁぁ〜〜〜〜っ!!!」

手のひらに残る、形のない灰を握りしめ
わたしは声を上げて、泣き続けた…

406 :相克 :2015/01/07(水) 14:44


407 :相克 :2015/01/07(水) 14:45

泣き崩れて、自分では支えられない体を
マコトに支えられ、取りすがっていた灰から引き離される。

「急がなければなりません」

サユミさんが、懐から瓶を取り出し
彼女の遺灰を納めていく。

「効力があるのは、王が灰となってから1時間以内です。
 このまますぐに移動して、お城を隠してある山に振り掛けなければ
 あのお城はもう2度と元には戻りません」

さあ、早く!

サユミさんに促され、マコトが指を鳴らす。
けど、場所が遠いせいか、
人数が3人もいるせいか、場所移動がままならない。
408 :相克 :2015/01/07(水) 14:45

「何をしてるんですかっ!
 このへっぽこ魔法使いっ」

「…へ、へっぽこって…」

顔に似合わず毒舌なサユミさんに
驚きを隠せないマコト。

「この人じゃ使い物になりません!
 リカ王女、さあ早く移動の魔法をっ!」

「…でも今更お城が元に戻っても…」

意味がないじゃない。
だって、お城に戻ってどうするの?

「何をおっしゃるんですかっ、リカ様。
 魔法族の再興をするのですよっ!
 大魔導師様に託された使命ではありませんかっ!」

魔法族の再興?
そんなのムリだよ。
わたしには出来ない…
409 :相克 :2015/01/07(水) 14:46

「――お願いです」

サユミさんが深々と
わたしに向かって頭を下げる。

「どうかお願いです」

――ヒトミ王のお心を無駄にしないで下さい…


ひとみちゃんの、ココロ…?


「とにかく今すぐに。
 どうか効力が切れる前に。
 この遺灰を…どうかっ、どうかっ!!」

再び頭を下げたサユミさんの気迫に押され
わたしは指をパチンと鳴らした。

410 :相克 :2015/01/07(水) 14:46





411 :相克 :2015/01/07(水) 14:47

懐かしい、わが故郷――

けれど、千年を越えて見た景色は
あまりに違うものだった。

城下町は、道すらなくなり
草木が生い茂り。

色とりどりの花壇や、賑わいを見せていたお店も
カケラすら残っていない。

そして、お城のあった場所には
彼女の言う通り、大きな一つの山がそびえ立っていた。
412 :相克 :2015/01/07(水) 14:47

「さあ、リカ王女。
 急いで下さい」

彼女の遺灰の入った瓶を、サユミさんから手渡される。

「上空から、まんべんなく全体に行き渡るよう
 王の遺灰を振りまいて下さい」

気丈に振る舞っているけれど
手渡す指が微かに震えていた。

悲しみを内に閉じ込め、
主の遺訓を必死に成し遂げようとする
その姿に胸を打たれた。

――きっと…

きっと、わたしの一族も
こんな風に、パパの遺訓を成し遂げようと
悠遠な時間を必死に過ごし、守り抜いて来てくれたんだ…
413 :相克 :2015/01/07(水) 14:48

軽く指を鳴らし、一人空へと舞いあがる。

地上では、マコトとサユミさんが
息を飲んでわたしの一挙手一投足を見守っている。

ゆっくり山の頂上の辺りまで行くと、
大きく一つ深呼吸をし、瓶のフタに手をかけた。

瓶を傾け、遺灰をそっと手のひらにのせる――


  『リカ…』

  『無理だってわかってても
   そんな風に言われると胸が痛くなる…』

  『うれしいよ、マジで…』


彼女の温もりが蘇ってきて、胸が苦しくなる…
414 :相克 :2015/01/07(水) 14:48

「リカ王女っ!急いで下さいっ!
 もう時間がありませんっ!」

地上から、わたしに向かって叫ぶサユミさん。


  『どうかお願いです』
  『――ヒトミ王のお心を無駄にしないで下さい…』


ギュッと目を閉じて
彼女の遺灰を握りしめると
静かに拳をほどき、山に振りかけた。

415 :相克 :2015/01/07(水) 14:49



<グゴゴゴゴゴッ…ゴオオオオッ>

山が唸りをあげるように嘶き
遺灰を振りかけた箇所から、徐々に表面が崩れ落ちてゆく――


――こ、これは…
まぎれもなく…


私の生まれ育ったお城。
魔法族の紋章さえ、綺麗に残っている…

数か所の茂みを残し、
千年の時を越え、それは蘇った。

416 :相克 :2015/01/07(水) 14:49

「…これが、わが魔法族の…」

大きく口をあけ、広大なお城を見上げたマコトが呟いた。

そっか。
マコトは実物を初めて見るんだね…

「中はリカ王女の方が、よほど詳しいと思いますが
 ひとつだけ改装した箇所があると、ヒトミ様から聞いております」

手元の図面をサユミさんが広げた。

「そこだけは、私がご案内させて頂きます」

お城に向かって、サユミさんが先に立って歩き出した。
417 :相克 :2015/01/07(水) 14:50

「おかしいな…」
「何が?」

サユミさんの呟きに、マコトが即座に返す。

「王から聞いた話では、
 山がすべて崩れ、お城がキレイに復元されると聞いたのですが…」

門前を覆う草や木を手で払いのけながら
手元の図面を確認する。

「もともと魔法族のお城の門は
 このような感じなのですか?」

「え?あ、うん…
 まあ、そうだったかな…」

「リカ様、あいまいだなぁ」

「だって仕方ないでしょ?
 千年以上も前だよ?そんな門のことなんて
 細かく覚えてないよ」

「それもそっか…」

ホッと胸をなで下ろした。
ポケットに忍ばせた瓶に、少量残した彼女の遺灰。
ほんの少しでも手元に、わたしの手元に置いておきたかった。
418 :相克 :2015/01/07(水) 14:50

「…ほらっ、そう。あれじゃない?
 敵の侵入を防ぐために、門にはわざと草木を…」

ちょっといい訳がましかったかな?

「われわれ吸血族には何の効果もありませんけどね」

そうだった…

「ま、これ以上は追及しないでおきます」

ええ、そうして下さい…


「あ、ここだ」

少し錆びついた巨大な門を
3人並んで見上げる。

サユミさんが鍵束を取り出し
一つ一つを図面と照らし合わせる――

419 :相克 :2015/01/07(水) 14:51

「…あ、それだと思うよ」

わたしが指差した鍵を、サユミさんが
門の鍵穴に差し込む――

<ギィィィィ>

ゆっくりと大きな扉が動いた。

「門前の記憶はなくても
 鍵の記憶はおありのようですね」

はは…あははは…
するどい…

「お城の扉も覚えていらっしゃるでしょうから
 これごと王女にお返しします」

手のひらにのせられた
ずっしり重い鍵の束。

千年を越えて、ひとみちゃんはどうしてこんなものを
守り続けてくれたの?

お城なんか…
もうだれもいないお城なんか蘇ったって、嬉しくないのに…
420 :相克 :2015/01/07(水) 14:51

広いお庭を進んでいく――

初めて目にする光景に、マコトは感動のあまり身震いをし、
サユミさんは感嘆の声をあげる。

「吸血族のお城は、もっとすごいでしょ?」

だって魔法族に勝ったんだもの。

「さあ?見たことありませんから」
「え?」
「もうどこにも残っていません」
「なんで?!」

だっておかしいじゃない。
王はずっと生きていたのに。
ひとみちゃんはさっきまでいたんだよ?

どうして負けた魔法族の城が残っていて
勝った吸血族のお城が残っていないの?
421 :相克 :2015/01/07(水) 14:52

「きっと中に行けば…
 王のお心を分かって頂けると思います」

サユミさんが悲しげに目を伏せた。

それ以上、何も聞くことができないまま
大扉の前に立った。

「さあ、リカ王女。
 開けて下さい」

大きく一つ頷いて
鍵束の中から、迷わず一つのカギを掴むと
ゆっくりとその鍵穴に差し込んだ――

422 :相克 :2015/01/07(水) 14:52

423 :相克 :2015/01/07(水) 14:52

424 :玄米ちゃ :2015/01/07(水) 14:53

本日は以上です。

425 :名無飼育さん :2015/01/08(木) 12:42
お昼休みに読むんじゃなかった
涙でみえないけど
このあと仕事できるかな、、、
426 :名無し飼育さん :2015/01/09(金) 01:19
色んな小説を読んできましたが、
吉澤さんは悲しいほどの優しさが良く似合うなと
いつも思います。
427 :玄米ちゃ :2015/01/13(火) 10:25

>425:名無飼育さん様
 すみません。その後大丈夫でしたか?

>426:名無し飼育さん様
 ほんとそうですね。
 ご本人が底抜けに優しい方なので、書き手もそう書きたくなってしまうのかもしれません。


では、本日の更新です。

428 :相克 :2015/01/13(火) 10:25

429 :相克 :2015/01/13(火) 10:26

「…うわぁ…」
「…すごい…」

マコトとサユミさんが
そろって感嘆の声をあげる。

目の前には、あの悲劇の夜を迎える前と何一つ変わらない景色…
胸いっぱいに吸い込めば、あの頃と同じ匂いがするようで、胸が苦しくなる…

正面の大階段からは、今にもパパが降りてきて
『リカおはよう』って声をかけてくれそうで。

すぐ横の大広間から、ママが出てきて
『リカ早くこちらにいらっしゃい』って手招きをしそうで…

自然と涙が溢れ出た。
とまらずに頬を濡らし、流れ落ちてゆく――


「…ここを山の中に隠す前、
 ヒトミ様が一番心を砕かれたのが、
 このお城を魔法族が使っていた状態に戻すことだったと聞いています」

サユミさんが静かに話し出した。
430 :相克 :2015/01/13(火) 10:27

私の家で最初にヒトミ様に仕えたのは、
父方の祖先でした。

彼の日記には、
『ヒトミ様は吸血王としての資質に欠ける』
このように記されています。

なぜならば、われわれ吸血族は、
その生を受けた時より

『吸血族は、あらゆる種族より高貴であり、高等であるゆえ、
 一族の繁栄のためならば、その名の元に全ては正義となる。
 よって、その王たるは神であり、世の全ては吸血王の元にひれ伏す』

そう教えられるからです。

ですから彼は、先代やそれ以前の王と違い
他の種族との和を願うヒトミ様を
『吸血王としての資質に欠ける』と評しました。

そして、そのすぐ後にこう記しました。

『しかしながらその器、ここに極まれり』と――
431 :相克 :2015/01/13(火) 10:28

彼は気づいていました。
争うだけでは、憎しみしか生まないことを。

彼は知っていました。
ヒトミ様が種族を超えた大きなお心をお持ちだということを。

そして誓いました。

『われとわが子孫は、この絶対王に仕え、
 その仰せのままに働き、お守りすることをここに誓わん』

私たちはこれを家訓として
代々ヒトミ様に仕えてきたのです。
432 :相克 :2015/01/13(火) 10:29

あの日の夜…

リカ王女は思い出したくないでしょうが、
この城を吸血族が襲い、魔法族より奪いました。

魔法族の王一族は、一人残らず根絶やしにした。
これで最大の敵、魔法族は消え去った。
これからは、吸血族の天下だ!

一族の誰もがそう勢いづく中、お一人だけ
憂鬱な顔をされていたのが、ヒトミ様でした。

それもそのはず。
最後まで、あの急襲に反対をしていたのは
ヒトミ様お一人だけでしたから。
433 :相克 :2015/01/13(火) 10:31

ですがその後、なぜかヒトミ様はまるで人が変わったように
お父上の仰せの通り、吸血族の跡取りとして存分に働かれるようになりました。

お父上も我が子の変貌ぶりを喜び、次第に心を許されていったそうです。
そんな時、この魔法族の城を自分に任せてくれと、ヒトミ様はお父上に願い出たのです。

『吸血族の跡取りとして、世にその権威と権勢を示すため
 あえて魔法族の城を、自分の好きなようにさせて欲しい』

『ここから魔法族の何もかもを拭い去り
 価値のあるものはすべて、吸血族のものとしたい』

そのように仰せられて…

お父上が大層お喜びになったのは、言うまでもありません。
どちらかと言うと、いつも争うことに否定的で
腰抜けだと思っていた我が子が、こんなに成長したのかと…

目を細め、大きく手を広げ、その懐に我が子を抱いた瞬間
お父上が凄まじい叫び声があげ、その場に崩れ落ちました。

何とヒトミ様が、お父上に刃を向け、
その胸を刺したのです。

そして、その懐に隠されていたあの不老不死の薬を
奪い取り、皆の前で一気に飲んで見せたのです。

『ワタシが不老不死の絶対王だっ!!』

と高らかに叫ばれながら――
434 :相克 :2015/01/13(火) 10:32

どうしても腑に落ちない。
あのヒトミ様がなぜこんなことを。
何か裏があるはずだ…

そう確信した私の祖先は
幾度も幾度もヒトミ様に尋ねました。

 どうか本心をお教え下さい。
 何を仰っても、私は驚きません。
 あなたの仰せのままに働きます。
 だから、どうか…

そうしてやっと
ヒトミ様は、その胸のうちを明かして下さいました。
435 :相克 :2015/01/13(火) 10:33


 ワタシは吸血族が、高貴だとも高等だとも思わない。
 なぜなら吸血族は、ただ殺めることしかできない。

 魔法族のように、誰かの役に立つ魔法を使えるわけでもなく
 幸せにしてあげることも出来ない。

 ただひたすら、その血を喰らい滅ぼすのみだ。
 そんな我らに何の価値があろうか…

 ゆえに、我々吸血族は、栄えてはいけない種族なのだよ――

 だからワタシは、あえて不老不死の薬を飲んだ。
 この無意味な吸血行為を我々種族がしなくなるまで
 ワタシは吸血族の王として生きて、生き抜いて、
 その姿を見届けるつもりだ…

436 :相克 :2015/01/13(火) 10:34

そう仰られてから、ヒトミ様は最大の秘密を打ち明けられました。

『実は、魔法族の王女は生きているんだ…
 あの夜、ワタシが逃がしたんだ…』


「それがあなた。リカ王女です」

「ま、まさか…」

初めて聞く話に、マコトの目が見開かれる。

「私の祖先は、驚かなかったそうです。
 ヒトミ様なら、やりかねないと…」

そして、命じられたのが
他の者に気づかれぬよう、この城を魔法族の頃のままに保存することと、
誰にも知られぬよう、この城に秘密の地下室を作ること。

そして――

魔法族に悟られぬよう
他の吸血族から、リカ王女をお守りすること。

この3点でした。
437 :相克 :2015/01/13(火) 10:35

「うそだっ!
 だってそれは…
 それは、オガワーノ家が…」

「もちろん、あなたの一家がリカ王女をお守りしたことは
 間違いありません。ですが、もしも本気でヒトミ様が、
 吸血族の王が、王女を探したとしたら、容易く見つかるでしょう。
 それほどに王の力は絶大です」

「そ、そんな…」

吸血族が、リカ様を守ってた…?
ならどうして…

「どうしてもっと早く教えてくれなかったの?
 そしたら、そしたら…」

マコトの目からポロポロと涙が零れる。
438 :相克 :2015/01/13(火) 10:36

「信じてくれますか?」

あなたの種族を凄惨な目に合わせた一族の話などを。
罠だとは思いませんか?

「あなた方は、吸血族は自己の繁栄のためなら、
 どんな事でもする野蛮で、横暴な最低の生き物だと
 魔法族の最大の敵だと、教えられ続けてきたのではありませんか?」

「それは…」

「これは…このお城は、ヒトミ様の誠意です。
 我々残された吸血族が、魔法族に信じて頂くための…」
439 :相克 :2015/01/13(火) 10:37

もう一度、城内を見渡した。

パパの肖像画。
中央にそびえる魔法族のエンブレム。

血に染められたあの日の面影はどこにもなく
どれを見ても、平和だった日々のまま――


「やはりヒトミ様の仰る通り、何も言わずに、
 この城を王女に返すべきだったのかもしれません…」

けれど私は…

「ヒトミ様の千年を越えた苦悩を、
 せめて、せめてリカ王女には、分かって欲しかったのです…」

440 :相克 :2015/01/13(火) 10:37

ヒトミ様が、王となられてからまもなく
人に対する吸血行為が禁じられました。

私はもう、随分血が薄まっていますから
血を欲しがったりは致しませんが、
当時の人々は相当苦しかったようです。
悶え苦しむ様が、我が家に伝わる日記に記されています。

ですから、その苦しみの矛先は
ヒトミ様に向けられ、王を襲う者がたくさんいたそうです。

一時は体中の傷が癒える暇もないほど
ズタズタにされたこともあったほど…
それなのにヒトミ様は

『不死身だから構わないよ』

そう言って静かにをすべて受け止め
ひたすら耐えていらしたそうです。

家臣たちにも辛い思いをさせて申し訳ない。
そのように仰せられながら…
441 :相克 :2015/01/13(火) 10:38

ですが、そばにいた祖先は知っています。
一番吸血行為をやめて苦しんでいたのは、王ご自身だと…

王は純血です。
その体の維持には、何よりも上質な血が必要なんです。
ですが、王は少量の吸血さえ固辞されました。

せめて家畜の血を…
見かねた側近がそう申し上げても、決して口にされなかったそうです。
442 :相克 :2015/01/13(火) 10:38

 ワタシは決めたのだ。
 もう2度と、この無意味な吸血行為はしないと。

 どんなに苦しもうと
 殺戮の上に、存在する意義はない。

 もしも我々種族が、その存在意義を見つけるとしたら――

 それは、吸血をしなくなった時だ。
 その時初めて、少しだけ人間よりも勝る能力を持つ我々が
 存在する価値が見いだせる。

 だからワタシは、
 生きて、生き抜いて、その姿を見届けるのだ。

 そしてその暁にやっと、ワタシは滅ることが出来る。
 目覚めた魔法族の王女の手によって――
443 :相克 :2015/01/13(火) 10:39

『王女の中の憎しみに火をつけない限り
 彼女はワタシに切先を向けてくれないだろう』

ヒトミ様は常々そう仰っていました。
そして、こうも仰っていました。

『吸血族の悪者は、もうワタシ一人で充分だ。
 こんなワタシとて、吸血族の誇りはあるんだよ。
 だから今まで一度も、吸血族に生まれて後悔したことはない』

『皆に伝えよ。
 ゆえに、胸を張って生きよと』

『彼女なら…
 ワタシのこの忌々しい赤い瞳を、キレイだと言ってくれた
 リカ王女なら、きっと』

『我々を理解してくれるはずだ――』
444 :相克 :2015/01/13(火) 10:39

「これが王の遺言でした」

そこまで言うと、サユミさんはわたしの前に跪き、
恭しく頭を下げた。

「リカ王女。今日からは、あなたが私たち吸血族の主です。
 どうか何なりと、お申し付けください…」

小さく震える肩が、複雑な思いを語っている。

――ひとみちゃん…

445 :相克 :2015/01/13(火) 10:40


 『いつかもし、もう一度どこかで会えたなら』
 『会えたなら?』

彼女のやさしい眼差しが
脳裏に蘇る。

ほんとに、悲しい運命だね…

だけど、もう。
わたし達で終わらせることが出来るね?

あなたの苦しみ、痛み。
ちゃんとわたしが受け止めて、背負っていくから――


「顔をあげなさい。
 あなたは…、あなた方一族は
 わたしの大切な、大切な仲間なのだから――」

嗚咽とともに、俯いたサユミさんの目から
大粒の涙が零れ落ち、床を濡らした…

446 :相克 :2015/01/13(火) 10:40

447 :相克 :2015/01/13(火) 10:40

448 :玄米ちゃ :2015/01/13(火) 10:41

本日は以上です。

449 :名無飼育さん :2015/01/13(火) 12:43
よっすぃ…
450 :玄米ちゃ :2015/01/22(木) 12:21

>449:名無飼育さん様
 ありがとうございます。


本日の更新です。
451 :相克 :2015/01/22(木) 12:21

452 :相克 :2015/01/22(木) 12:23

一つだけ改装したという
秘密の地下室を目指し、3人で歩みを進める。

もうどこをどう通ったのかも分からないほど
いくつもの階段を下り、いくつもの分岐を進み
今だ目的地が見えない。

地下の暗い道を進めば進むほど
マコトから不安が伝わってくる――

 もしかして、やはり罠なのでは…
 このままこの暗い場所に、王女を閉じ込めて、
 殺すつもりなのでは…

千年を越え、語り継がれてきた誤解が、
暗闇にのまれ、彼女の中で息を吹き返そうとしている――
453 :相克 :2015/01/22(木) 12:23

握りしめたマコトの拳を
上から、そっと握った。

(大丈夫。
 王女のわたしが確信しているのだから
 何も心配しなくていいの)

無言のまま、そっと手のひらに思いをのせ
マコトに伝えた。


「もうすぐです」

サユミさんの言葉で
マコトの肩から少しだけ力が抜けた。
454 :相克 :2015/01/22(木) 12:24

「この奥です」

サユミさんがかかげてくれた明かり越しに
目を凝らすと、扉らしきものが見える。

「しかしまあ、何だってこんなに
 地下深くの誰もたどり着けないような場所に作ったんだろ?」

マコトの素朴な疑問に、間髪入れずにサユミさんが答えた。

「それはもちろん、万が一にも誰にもたどり着かせないためです。
 偶然でも他の人に見つかっては困るのです」

そこまでして見つかってはいけないものって、
一体なんだろう…
455 :相克 :2015/01/22(木) 12:25

「その鍵束に、王女が見覚えのない鍵があれば
 それが、この部屋の鍵です」

差し出してくれた明かりに
鍵束をかざしてみる。

「これだ…」

小さく頷いて、それを手に取り
扉の前に進んだ。

期待よりも不安が
指先を震えさせ、手元を狂わす…

暗闇が、カケラほどの怯えを増幅させ、心を揺さぶる――

ゆっくり瞼を閉じ、大きく深呼吸をして
彼女を、わたしの最愛の人を思い浮かべた。
456 :相克 :2015/01/22(木) 12:25

『リカ…』

穏やかな音色の濡れた声が、わたしの耳の奥で
心地よくこだまする。

何度も触れ合った唇の
やさしい温もり。

最後の夜の
とろけるほどに甘い囁き。

太陽のような笑顔。
そして、包み込んでくれるような温かな眼差し。

そして、宝石よりも美しい
あの真っ赤な2つの瞳――


彼女がそっと手を添えてくれているような気がして
思い切って、鍵を回した。
457 :相克 :2015/01/22(木) 12:26


――これは…

暗闇になれた目が、部屋の輪郭を捉える。

まるで吹き抜けのように、高くそびえる一面の本棚。
中央には、魔法薬を調合するための大きな窯。

所狭しと並べられた、パパとママの遺品…

部屋中に明かりを灯したサユミさんが
手招きをする方へと移動すると
大きな棺が2つ並べられていた。

一つには、パパのマントがかけられていて
もう一つには、ママのローブがかけられている。
458 :相克 :2015/01/22(木) 12:27

「もしかして、これって…」
「大魔導師様と奥様の御棺です」

「ええっー!!」

途端にマコトが跪く。

「こ、こちらが、だ、大、大魔導師様…」

あわあわしているマコトを尻目に
サユミさんがわたしに封筒を差し出した。

「ヒトミ様からお預かりしておりました。
 ここにお連れしたら、これを王女にお渡しするようにと」

459 :相克 :2015/01/22(木) 12:28


親愛なるリカ王女

この部屋は、ワタシのせめてもの償いです。
あなたのお父様とお母様が、生前大切にされていた書物や品々を
出来うる限り集め、ここに隠しておきました。
すべて王女であるあなたに、お返し致します。

中には、あなたの一族にとってかけがいのないものも
おありになるでしょう。

とりわけお父様が、最期のその時まで
その身から離すことがなかった書物は、
お父様の亡骸と一緒に、棺に入れております。

本当は、その書物を何とか読み解いて
お父上とお母上を蘇らせて差し上げたかったのですが
ワタシには、読み解くことは無理でした。

ですからせめて、生前の御姿のままで
もう一度あなたと対面させて差し上げたいと思い
ワタシの魔力を最大限に使い、その身のままで
お2人を保存させて頂きました。
460 :相克 :2015/01/22(木) 12:30

あなたには、お詫びのしようもありません。

我が一族の行い、非礼。
数え上げればキリがない。

ですがどうか。
どうか、ワタシの消滅をもって。
このお城の返還をもって。
今いる吸血族をゆるして頂きたいのです。

なんと虫のいいことを申し上げているのかと
我ながら情けなく思いますが、
何卒あなたの慈悲をもって、お許し願いたい。

現存する者たちは、誰一人吸血をする者はおりません。
皆にはすでに、あなたへの忠誠を誓わせております。

ですからどうか、全ては、吸血族の王が悪かったのだと。
ワタシのせいで、魔法族の皆様は苦しんだのだと、あなたの一族にお伝え頂き
残された吸血族の安穏を、あなたにお願い申し上げたいのです。

ワタシがあなたに滅ぼされることで
魔法族の皆様の積年の恨みが、
少しでも晴れてくれればいいのですが…

お辛い役目を科すことを、重ねてお詫び申し上げます。
461 :相克 :2015/01/22(木) 12:30

最後に…

吸血族の王としてではなく、
ワタシ個人として、あなたに伝えたい。

リカ。

あなたに囁いた愛の言葉に、一つも偽りはありません。
千年を越え、相克を超え、ワタシはあなたを愛していました。

相容れないと分かっていても
禁断だと分かっていても

ワタシはあの日から
あなただけを愛していました。

悲しい宿命に縛られたワタシ達でしたが
ワタシにとって、あなたはかけがえのない存在でした。

それは、この身が滅びた後でさえ
消えることのない気持ちです。

さようなら。
ありがとう。

たくさんの言葉をあなたに贈りたい。
けれど、一番あなたに伝えたいのはやはり――

――愛してる。

ただ、それだけです…

462 :相克 :2015/01/22(木) 12:31


何度も何度も、文字が滲んで読むのに苦労した。
胸が痛くて、張り裂けそうで、いっそ叫び声をあげて
ここから逃げ出してしまいたい衝動にかられた。

けれど、わたしは決めたから――

あなたの苦しみ、痛み。
すべて受け止めて、背負っていくって…

そして、悲しい運命を
わたし達で終わらせるって…

そう決めたんだから――

463 :相克 :2015/01/22(木) 12:33

パパとママの元に歩み寄って、棺を開ける。
手紙の通り、千年も経っているとは思えないほどのキレイな姿…

パパの足元に置かれた一冊の本を手に取って
指をパチンと鳴らす。

途端に本の色が変わり、
中の文字が躍るように現れ
再び、本の中へ納まってゆく――

そうこれは、純血だけにしか解けない
魔法がかけられた本。

たくさんの秘法が載っているけれど
そこに死者を蘇らせる法は載っていない。
というより、そんな魔法は存在しないの。

だから、ひとみちゃん…

いくらこの本を読み解いても
わたしにも無理なんだよ。

どんなに請い願ったって
あなたを蘇らせることも出来ないの…
464 :相克 :2015/01/22(木) 12:34

大きく息を吸って、溢れ続ける涙をぬぐった。
唇を噛んで、胸を張って、マコトとサユミさんに強い視線を送る…

――わたしもずっと愛してる。
――千年を越えて、相克を超えて…

だからあなたの言う通りに。
あなたの大切な仲間を、わたしの大切な仲間と共に…


「今日からわたしが、魔法族と、吸血族の王として、
 この命の限り、皆を守っていきます」


465 :相克 :2015/01/22(木) 12:34



466 :相克 :2015/01/22(木) 12:35

パパ、ママ…
ほんと、眠っているみたい…

棺の上にかけられていたパパのマントを肩にかけ
横たわるパパとママの頬に触れる。

――ほんとにキレイで、あの日の戦いの傷すら見当たらない。

今日からわたしが、パパの跡を継ぎ、
ひとみちゃんの遺志を継いで、頑張っていくからね…

「キャッ!!」
「どうしたの?」

小さな悲鳴をあげたサユミさんを見た。

「…い、今、奥様のお体が動いたような…」
「え?」

驚いて、ママの体に触れる。

何も感じない。
何も動かない。
467 :相克 :2015/01/22(木) 12:36

「気のせいだよ」

今にも起き出しそうなほど、
こんなにキレイなんだもの。

「でも、確かに今…」

怯えた表情のサユミさんに声をかけた。

「思わず錯覚しちゃうほど
 ひとみちゃんの魔力がすごいんだよ」

「でもヒトミ様はもういらっしゃらないから
 徐々にこの魔力も減ってしまいます…」

「大丈夫。ここまでキレイなままで
 2人を残してくれたんだもの。
 あとはわたしが、パパの本を見て…ってコラ!マコト」
468 :相克 :2015/01/22(木) 12:37

「…す、すごいですよ、この本。
 不老不死の薬の調合方法もほら、ここに…」

「ダ〜メ!誰が読んでいいって言った?」

「だ、だって!
 この魔法薬の研究って、オガワーノ家のオハコですよ?
 ご先祖様の足跡を見たいという心にはどうしても…」

そりゃま、そうかもしれないけどさ。

「――あっ!!」
「何よ」
「ああああっ!!」
「だから何よっ!」

「こ、これ。ココ見て下さいっ!!」

マコトの指差す先を読んでみる。
469 :相克 :2015/01/22(木) 12:38

「蘇生の魔法…うそっ!!」

マコトの手から、本を奪い取った。
3人で頭を突き合わせて、本を覗き込む――

「『死者を蘇らせることは不可能なり』
 なによ、もうっ!やっぱダメなんじゃないっ」

「いや、リカ様。
 続き、続きを読んでください」

「『しかしながら、不老不死の魔薬を飲みて
 永遠の生を得たものに限り、灰になりし後
 一度だけ服用前の体に戻すことが出来る』」

こ、これって…
470 :相克 :2015/01/22(木) 12:39

「もしかしてヒトミ様が…」

期待に目を輝かしたわたし達。
せっかちなマコトが先を読み進める。

「『強力なる魔力を持ちし、純血の者、
 その力を最大限に使い、かの者の灰に願をかけよ』」

「そ、そんな…
 ヒトミ様の遺灰はもう…」

「いや、あるの」

ポケットから隠していた瓶を取り出した。

「リカ王女っ!!」

サユミさんが、大喜びでわたしに抱き着いた。
471 :相克 :2015/01/22(木) 12:39

「全部じゃなくてもいいの?」
「うん、そうみたい」

自分グッジョブ!
今、心から叫びたい。

「…でも、ちょっと待って!!」

抱き合うわたし達に、マコトが緊迫した声を出した。

「この続きみてよ…」

472 :相克 :2015/01/22(木) 12:40


 但し、この秘法には大きな代償が伴う。

 かの者が蘇生を遂げることと引換えに、
 願をかけし純血の者より奪われるものが一つある。

 それが、その者の命であるのか
 それ以外のものであるのか、この秘法を試したものが
 未だいないゆえ、誰にもわからない。

 しかしながら、その者にとって唯一無二のものが
 奪われることだけは間違いない――

473 :相克 :2015/01/22(木) 12:40

一瞬にして、全員が凍りついた。

「――代償が、リカ王女ご自身…?」

「ダメ!ダメですっ!
 こんな魔法、私が許しませんっ!」

鼻息荒く、マコトがサユミさんをけん制する。

「もちろん、私も
 リカ王女と引換えになど望んでおりません。
 それに!ヒトミ様だって、そんなこと…」
474 :相克 :2015/01/22(木) 12:41

――わたしの命が代償で、ひとみちゃんが蘇る…

もし、もしも。
そうだったとして、ひとみちゃんは喜ぶ?

喜ぶ訳がない。
逆に怒り出すに違いない。

でも、だけど。
わたしはどうなの?

覚悟はある?
そう問われたなら、答えはYESだ。

わたしを差し出すことで
最愛の人が蘇るなら…
475 :相克 :2015/01/22(木) 12:41

吸血王の彼女と
魔法族の王女のわたし。

決して相容れてはいけないはずだった2人の運命…

振り回されて、翻弄されて、
わたしが突き立てた杖で、その命を終えた彼女。

だったら今度は、
わたしの魔法で、あなたを蘇らせればいい…

――何だ、単純なことじゃない。

だって、わたしの心は

たった一度でいいから。
ほんの一瞬で構わないから。

もう一度、あなたと心を通わせ、
あなたのその腕に抱かれたいって、強く願っているんだから…
476 :相克 :2015/01/22(木) 12:42


「マコト、その本を渡しなさい」
「ダメです!」

「いいから貸しなさい」
「イヤだっ!」

指をパチンと鳴らした。

マコトの体が硬直し、その手から
本が滑り落ちる。

「リカ様っ!!」

「やだなぁ…マコトったら。
 相変わらず心配症なんだから」

「イヤだ、イヤだ…
 リカ様…お願いだから…
 お願いだから、そんなこと…」

体を硬直させたまま、
泣きじゃくるマコトに笑いかけた。
477 :相克 :2015/01/22(木) 12:42

「パパも試したことがない魔法を
 このわたしがするんだよ?すごくない?」

「…ヤダ…ヤメて…下さい」

「大丈夫。何を失うかわからないって
 ここにも書いてあるじゃない?
 やってみなきゃわかんないって」

「でも…でも、もし…」

――そうだね…

とびっきりの笑顔をマコトに向けた。
478 :相克 :2015/01/22(木) 12:43

「その時は、マコト。
 あとのこと、頼んだよ」

サユミさんを促して、部屋を出た。

 『リカ様っ!!リカ様っ!!!
  イヤだっー!!!イヤだよぉぉぉっ!!!』

マコトの叫ぶ声が、何度も聞こえてきたけど
振り返らずに、外に向かって走った――

479 :相克 :2015/01/22(木) 12:43

480 :相克 :2015/01/22(木) 12:44

481 :玄米ちゃ :2015/01/22(木) 12:44

次回最終回となります。

482 :名無飼育さん :2015/01/22(木) 12:47
リアルタイムで読んで、ずっとドキドキしながら更新していました。
最終回は寂しいけど、続きも気になる…。
最終回の後もいしよし小説期待しています!
483 :名無飼育さん :2015/01/23(金) 00:01
ふぉおぉぉ
最終回楽しみにしてます
484 :玄米ちゃ :2015/01/26(月) 15:58

>482:名無飼育さん様
 ありがとうございます。

>483:名無飼育さん様
 ありがとうございます。


では、最終回となります。

485 :相克 :2015/01/26(月) 15:58

486 :相克 :2015/01/26(月) 15:59

夕闇がお城を飲み込んでいた。
周囲の木々は黒々とそびえ立ち、重なり合って暗い影を落とし始める…

徐々に冷え込む空気に身震いしたのか、
これから迎える未来を思って震えたのか
自分でもよく分からなかった。

本に書かれている通り
空中に魔方陣を描き、その中央に自らの体を浮かべる。

ゆっくり目を閉じて、全神経を集中し
自らの手のひらに、万物の力を集め、蓄積していく…

一瞬の静寂の後、周囲の木々が大きくうねり出し
ざわざわと音を立て始めた。

…あ、でも。その前に。

マコトの魔法解いてあげなきゃ。
だって、わたしに万一のことがあったら
誰もマコトの魔法を解いてあげられないもんね。
487 :相克 :2015/01/26(月) 15:59

<パチンッ>

これでよしっと。
慌てふためいて、部屋を飛び出してくる
マコトの様子が、容易に想像できる。

「サユミさーんっ」

心配そうに離れた場所で
わたしを見上げているサユミさんに声をかけた。

んー。いつまでもさん付けはおかしいか…
もう仲間なわけだし。

小さくコホンと咳払いする。
488 :相克 :2015/01/26(月) 16:00

「サユ」
「は、はいっ!」

嬉しそうな返事が返ってきた。

「今マコトの魔法を解いたから、あとで迎えにいってあげてくれる?
 あの子きっと迷子になっちゃうだろうから」

「かしこまりました!」

「それから…」

――それから…ね。

「もしもわたしがいなくなったら、
 サユがマコトの面倒みてあげてね?」

「はいっ!でも…」

「止めても無駄だからっ!」

だって決めたんだもの。

そりゃあ、少しくらい不安だったりするけど、
手が震えちゃったりもしてるけど。
ここでやめたら、絶対後悔するもん。
489 :相克 :2015/01/26(月) 16:01


可能性があるなら…
希望があるなら…

彼女に会えるなら…

ギュッと強く目を閉じた。


…よしっ!!

わたしの何が奪われるのかなんて、
やってみなけりゃ、わかんないじゃんっ!

490 :相克 :2015/01/26(月) 16:01

目を開けて、一気に集中力を高めた。
途端にまた、木々が大きくうねり出す。

大きな風が巻き上がり、わたしの周囲を取り巻いていく…

手のひらにのせた彼女のカケラを
前につき出し、そこに全神経を集中させた。


「我より奪えしものをもって
 灰になりし者、今ここに蘇らせんっ!」

491 :相克 :2015/01/26(月) 16:02

次の瞬間、周囲を巡っていた風が一斉に散らばり、
暴風となって、木々をなぎ倒した。

その勢いのまま、わたしの足元に集まり
一気に地上から空へと吹き上げる。

その風にのって、手のひらから放たれた
彼女のカケラが宙へと舞いあがっていく――

やがてそれは、天空で一つになると、まばゆい光を放った。
492 :相克 :2015/01/26(月) 16:03

思わず目がくらんで、手をかざした。

あまりに強い閃光に
急激なめまいを覚えて、体がフラつく。

周囲がぐるぐると回って見え、
力の抜けた体が、地面へと向かってゆく。

何とか指を合わせ、鳴らしてみても
地面は近づいていくばかりで、自分でもどうにも出来ない…


――そっか…

やっぱり、奪われるのはわたし自身か…


スローモーションのように流れる景色の中で
涙が零れた。

493 :相克 :2015/01/26(月) 16:03


――サヨナラ…


地上まであと少し…

3.2.1――


494 :相克 :2015/01/26(月) 16:08


「…リカっ!」

強く腕を引かれ、抱きとめられた。
どうやら、ギリギリのところで地面に叩きつけられるのは免れたらしい…

「リカっ!しっかりするんだ!
 リカっ!リカっ!」

うっすら目を開けると
金色の髪と、真っ赤な2つの瞳。

ああ、やっぱりキレイ…

「…ひとみちゃん…」
「なぜ、キミはこんなことを…」

真っ白な頬に手を伸ばす。

良かった…
成功したんだ…
495 :相克 :2015/01/26(月) 16:14

「会いたかったの…
 最後にあなたに会いたかった…」

「キミはバカだ…」

宝石のような瞳が潤んで
キラキラと輝く。

「愛してる…
 わたしもあの日からずっと。
 ずっとずっとあなたを愛してた…」

溢れ出す彼女の涙をぬぐった。

「わたし今、すごく幸せ…
 もう一度あなたに、こうして抱きしめて欲しかったんだもの。
 だから、あなたを蘇らせたのは、わたしの願いのためなの。
 あなたのためじゃないから…だから…」

――泣かないで。
496 :相克 :2015/01/26(月) 16:15

「リカ…」

「今度はわたしからお願いしなきゃ…
 魔法族のこと、お願いします…」

唇を噛みしめたあなたの唇に
自分のそれを合わせた。

最後のその時まで、あなたに触れていたい…

好き…
愛してる…

だけど――

――さようなら…

497 :相克 :2015/01/26(月) 16:15




………っん…


…長い…


まだ、かな……?



498 :相克 :2015/01/26(月) 16:16

息継ぎしないともう限界。

合わせた唇を少しだけ離して
軽く呼吸して、もう一度重ねる。

そろそろだと思うんだけど…

フッて意識がブラックアウトして、
ドラマティックに、彼女がわたしの名を呼んで…



――まだ、みたい。

でも、ここでやめるのも…

やめた途端にコテッていうのもいいけど
このままだと、妙な間が出来そうな…

――えーい!最後だもん。思う存分に…

彼女の中にグッと舌を差し込んだ。
499 :相克 :2015/01/26(月) 16:17

…っんん。
…っはぁ…

絡み合う舌が
求めあう音が

2人の心と体に火を灯す。


…リカ…
…ひと、み…

最後だという思いが、2人の行為を煽り助長していく――

500 :相克 :2015/01/26(月) 16:18


…ん…っああ…
…っと、欲し…





「ゴルぁぁぁっ!!!」
「いい加減にしろっ!!!」


凄まじい怒鳴り声に我に返ると
腕組みしたサユと、無事出て来れたらしいマコトの姿が…

あ、あははは…
ヤダ、わたし達ったら。

はだけた胸元を慌てて元に戻した。

501 :相克 :2015/01/26(月) 16:18


その後、落ち着いて
色々試してみると。

どうやら、奪われたものは
わたしの魔法力だったようで…

<パチンッ>

「やっぱダメみたい」
「ごめんね、アタシのために」
「いいよぉ。こうして一緒にいられるんだもん」

ちゅっ。

相克を越えて
ここに、バカップルが誕生。

502 :相克 :2015/01/26(月) 16:19

「はぁ…魔法族の王女と
 吸血族の王が、この有り様とは…」

ため息をつき、肩を落とすサユとマコトを尻目に、
わたし達は2人、幸せど真ん中。

 『さっきの続き、早くしたい』

とひとみちゃんが耳元で囁けば

 『わたしもだよぉ。
  早くひとみちゃんに愛されたい』

と囁き返して、耳にキスする始末。


「聞こえてますからね!」
「そういうことは、2人になってからして下さいっ!」

「いいじゃん」
「千年も引き裂かれてたんだから」

「「ね〜」」
503 :相克 :2015/01/26(月) 16:19

「…ダメだこりゃ」
「頭痛くなってきました…」

そんなに心配しないでよ。
ちゃーんと、今後の両一族のことも
2人で話し合って、手を取り合って乗り越えていくんだから…

でも今は、もう少しだけ
やっと通じ合えた喜びに浸らせてよ、ね?

「明日、それぞれの一族を呼び寄せて
 今後のことも含め、話して頂きますからね?」
「「わかってまーす」」

「皆の前でちゅっちゅちゅっちゅしないで下さいよ?」
「「心得ております」」

ほんとかよ…

サユとマコトの心の声が聞こえてきたけど気にしない。
それにしちゃったら、それはそれで友好の証になると思うよ?
504 :相克 :2015/01/26(月) 16:20

「今夜はほどほどにして下さいよ?」
「「ムリ」」

「キスマークとか勘弁してくださいね」
「「あーそれもムリ」」

「あんたらね〜」

ピクピクとこめかみを震わせて、そう言ったマコトに
ちょっとくらいお仕置きしてやりたいけど、もう魔法が使えないんだよなぁ。

「では」

え?

気が付けば、ひとみちゃんのマントの中。
505 :相克 :2015/01/26(月) 16:21

「そろそろ限界ゆえ、ここでお暇する」

へ?

体が宙に浮いた。

「ワタシのために魔法を使えなくなった王女を
 これからはワタシがお守りするから、心配ご無用。
 では、明日会おう」

「あ、ちょ、ちょっと!」

バサリ。

ひとみちゃんがマントを翻すと
あっけにとられた2人を置き去りにして、
あっという間にベッドルームに移動していた。
506 :相克 :2015/01/26(月) 16:21

「おもしろーい。
 吸血族ってこんな感じなんだー」

マコトとサユ、今頃地団駄踏んでるかも。

「リカ…
 やっと2人きりだ…」

強く抱き寄せられて、耳元で囁かれる。

「さっきの言葉は本当だよ。
 これからはワタシが、あなたを守る」
「ひとみちゃん…」

「愛してる…」
「わたしも…」

自然と結ばれた唇――

千年を越えた想いが今、溢れ出して
お互いを奪い合い、分かち合っていく…
507 :相克 :2015/01/26(月) 16:21

相容れてはいけない
禁断の恋だったはずなのに…

踏み出してしまえば、

こんなにも熱くて
こんなにも激しくて
こんなにも甘くて

こんなにも、愛おしい…

508 :相克 :2015/01/26(月) 16:22

遥か時を超え

相克を超え


今、わたし達は――


「…あ、ああ…っん!」
「…っうぅ…ぁあ…」


やっと一つになった…

509 :相克 :2015/01/26(月) 16:22





510 :相克 :2015/01/26(月) 16:23


**********
**********

511 :相克 :2015/01/26(月) 16:23


  【ドクンッ】


「なんだろうな…
 どうも頭が重い」

「マコッちゃんも?
 私もなの」

「サユも?困ったなぁ。
 今日はヒトミ王とリカ王妃の成婚式だというのに、
 2人ともこんな調子じゃ…」


  【ドクンッ】

512 :相克 :2015/01/26(月) 16:24

「おーい、マコトー
 式典の原稿はこれでいいんだよね?」

「キャー、ヒトミ様。
 今日は、一段とカッコイイです」

「やっぱり?リカも惚れ直したって〜」

「コホンッ。王様、原稿はこれで結構です。
 が、目じりが下がり過ぎです。
 もう少しシャキッとして下さい。シャキッと!」

「だーいじょうぶだって。
 ほら」

「そのお顔を式典中は保って下さいよ?」

「わーってるって!
 あ、リカ」
513 :相克 :2015/01/26(月) 16:24

「キャー、リカ様。
 今日は、一段とカッワイイです」

「サユったらぁ。やっぱそう思う?」

「ほら!お2人とも。
 カオ、カオ。シャキッとして下さいよ、もうっ!」


  【ドクンッ】


「あれ?サユもマコトも
 顔色悪くない?」

「リカ様と違って、色白だから
 そう見えるだけです」

「何よぉ!わたしだけ黒いみたいな言い方して!」

「いや…リカ。そこまでは誰も…
 てか、ほんと。2人とも大丈夫か?」

「「大丈夫です」」


  【ドクンッ】

514 :相克 :2015/01/26(月) 16:25

「まだ始まるまで、時間あるし。
 2人とも少し休んでなよ」

「いえ」
「そういう訳には…」

「だーいじょうぶだよ。
 主役はそろってるんだし」

「今まで色々あったから、疲れが出たんだよ」

「では、ほんとに少しだけ」
「時間になったら、参ります」

「OK」
「じゃあ、あとで」


  【ドクンッ】

515 :相克 :2015/01/26(月) 16:25

「はあ…ほんと私どうしちゃったんだろ?」
「ねー、あの2人のバカップルぶりにもやられてるのかも」

  【ドクンッ。ドクンッ】

「…っつう…」
「何か…頭が…ボーッと、す…」

  【ドクンッ。ドクンッ。ドクンッ】

「…い…し、き…が…」
「…も…ダ、メ…」

  【ドクッ。ドクッ。ドクッ。ドクッ。】

516 :相克 :2015/01/26(月) 16:26



  【今すぐ我の元に跪け。
   そして我を崇めよ】


517 :相克 :2015/01/26(月) 16:26

518 :相克 :2015/01/26(月) 16:27

重い棺の蓋を、中から持ち上げた。
光が差し込み、眩しさに目を細める――

「光に弱いのは、吸血族の方の血か…」

我ながら苦笑する。

――長かった…本当に長かった…

腹の中に宿りし後、
母の胎内で何度も死にかけた。

母ですら我を、忌々しいと蔑み、
我を葬らんと、自ら死を選んだのだ!
519 :相克 :2015/01/26(月) 16:27

しかし、我は生きていた。
生のある内にかけられた、ヒトミの魔力によって!

そして長い眠りについたままだった我を、
リカが起こし、我は息を吹き返したのだ!

我こそが、正統なる後継者!

先代の吸血族の王と魔法族の王妃の血を受け継ぐ
唯一無二の存在。

純血と純血をかけ合わせた
この上なき、絶対的な存在。

――絶対王なのだ!
520 :相克 :2015/01/26(月) 16:28

さあ、家来どもよ!
今すぐ我に跪けっ!

棺が開けられ、我が息を吹き返した時に
サユミはもう、我のものだ。

ここに一人で残されしマコトも
もう我のものだ。

まもなく、2人が
我の元へとやってくる。

そして2人が我の存在を教えるのだ。
すっかり腑抜けとなった2人の姉に…
521 :相克 :2015/01/26(月) 16:28

しばらくは。
我が成長するまでは。

2人の姉に、かわいい妹として
面倒を見てもらわねばならん。

魔法の使えないリカは、もう我の敵ではない。
ヒトミさえ狂わせてしまえば、我の時代がやってくる…

さあ始めよう!
新しい時代の幕開けだっ!!
522 :相克 :2015/01/26(月) 16:28



523 :相克 :2015/01/26(月) 16:29

「ヤダぁ!かっわいい!
 この子がわたし達の妹?」

「さようでございます」

「色白なとこは、アタシ似だなぁ。
 しっかし、よく生きてたなぁ」

「ねー。おーヨチヨチ。
 わたしがママの代わりにママになってあげるからねぇ」

「おっぱい飲ますの禁止ね。
 それはアタシのものだから」

「出るわけないでしょ!ねぇ。
 って、でも全然泣き止まない…
 ちょっと飲ませてみちゃう?」

「ダメ!ダメ!ダメ!ダメっ!
 アタシ以外、ぜってぇダメ!
 ちょっと貸してみ?アタシが抱っこする。
 おーヨチヨチ…」
524 :相克 :2015/01/26(月) 16:30

「うそっ!泣き止んだし、笑ってる!
 何か悔しい…」

「まあまあ。で、名前どうする?」


  【エリナ】


「エリナはどう?」
「えーなんでエリナなんだよ。
 リカのリは入ってるけど、ヒトミが入ってないじゃん」

「だって可愛いじゃない。
 何かフッて浮かんだんだもん。だめ?」
「リカのその上目使い反則…
 いいよ、エリナでいこう」

「エリナちゃ〜ん、ママでしゅよぉ」
「えりぽん、パパだよぉ」

「何よ、ぽんて」
「かわいいじゃん」


  【アホか、こいつら】
525 :相克 :2015/01/26(月) 16:30

「何?リカ今何か言った?」
「ううん、何も」

  【やはり、ヒトミは手強いか】

「よおし!アタシらも子作りするか!」
「できませんっ!でも…賛成っ!」

「ということで、サユとマコト
 えりぽんの面倒をよろしく」
「2時間くらいで戻るから」

「2時間で終わるかぁ?
 アタシ頑張っちゃうつもりなんだけど」
「やあだ!じゃあ朝までよろしく」

「では、明日」
「邪魔しないでよぉ」
526 :相克 :2015/01/26(月) 16:31


  【邪魔しろというフリか?】

「いえ」
「違います」

  【邪魔したらどうなる?】

「ムダです」
「夢中で気づきません」

  【もしかして、毎日ああか?】

「はい」
「もっとひどい日もあります」


  【…わかった…
   早く成長するとしよう…】


527 :相克 :2015/01/26(月) 16:31


528 :相克 :2015/01/26(月) 16:31


    おわり


529 :玄米ちゃ :2015/01/26(月) 16:33

最後までお付き合い下さった方々、本当にありがとうございました。
また某所で毎度素敵な時間に更新情報をのせて下さっていた方、
粋な計らいをありがとうございました。

さて、今作はいかがでしたでしょうか?
大筋は当初の予定通りなのですが、最終回のトーンが
なぜこうなった?と自分でも不思議に思っています。
続きがありそうな終わり方をしておりますが、続編の予定はございません。
ぜひご感想など頂けるとありがたいです。
530 :名無飼育さん :2015/01/26(月) 20:11
ええっ!続きないんですか!
まさかの展開、さすが作者様です!
531 :名無飼育さん :2015/01/30(金) 19:36
お疲れ様でした
まさかの生田にビックリしました(笑)
玄米ちゃさんの作品全部好きなのでまたいつか新作読みたいです

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