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風の中の愛理〜エピソード0〜

1 :Easestone :2013/06/13(木) 16:34
なっきぃ1人称の物語です。
なっきぃ、愛理、梨沙子中心に展開させていこうと思います。

よろしければどうぞ。
2 :風の中の愛理 :2013/06/13(木) 16:36
「ねえ、なっきぃって本当はどうゆう人?」

いきなりそう言われてあたしは困った。

「どういうって言われても」

「あんたって実はヘタレでも何でもないでしょ?」

「え、そうかな・・・」

自分でも自分のことがよく分からない。

「分かった。あんたキャラ作ってんでしょ?芸能人ってそういうの大変だよねー」

わかったような口ぶりで決め付けられる。

「そんなことないけど」

あたしは答えに困った。
3 :風の中の愛理 :2013/06/13(木) 16:38
あたしが今ヘタレのなかさきちゃんかそうじゃないのかと聞かれたらもうそうじゃないのかもしれない。
あたしは、5人で℃-uteというアイドルグループを組んでる。
今、そのことがとても不思議に感じる。
気がついたらアイドルになっていたなんて言ったら誰かに怒られそうだけど、それが今のあたしの正直な感覚だった。

アイドルなんてそれこそアイドルに絶対なりたい!って強い意志をもって何度もオーディションを受けてなるものなんだと思う。
でもあたしは情けないほどちゃんとした意思がないままここまで来てしまっていた。

「でもなっきぃって見た目は芸能人だけどさ。芸能人ぽくないよね」

「え?それってどーゆーこと?」

またよく分からないことを言われている。
4 :風の中の愛理 :2013/06/13(木) 16:40
「何かどこにでもいて気楽に会える感じ?他のアイドルだとそーはいかないじゃん」

「確かに」

目の前の友達の言葉にそう答えざるを得なかった。
自分には何かそういうアイドルとか芸能人というオーラに欠けてるように思うときがある。
というより、今から普通の人にもどって学生生活送ってくださいと言われたら普通に学校に通って、
芸能人オーラなんて簡単に消しされる自信さえあった。いやそんなもん最初からないのかもしれないけど。

「や、それってうちらが友達だからでしょ?なっきぃに会うために何百人も握手待ってる人だっているんだからね」

もう一人の友達が慌てて打ち消してくれる。
5 :風の中の愛理 :2013/06/13(木) 16:42
「でも、普通にコンビニとかでバイトしてても溶け込みそうじゃない?」

目の前の友人があたしを見て少し真剣に言う。

「そうかも」

これについても否定は出来なかった。

きっと自分にとってもそれが自然なことなのかもしれない。
もしもこういう仕事をしてなくて、普通の学校生活送ってたらどんなのだったんだろうねと℃-uteで話すことがよくある。
みんな夢を見るようなキラキラした目でそう言うけど、あたしはまあ同じようなもんでしょとしか思えない。
確かにテストで苦手な頭をフル回転させることや、変な校則に悩むこともあるかもしれない。

でもきっとそれは、十七歳とか十八歳とか年齢の延長線上にあることで、
この狭い日本で今とは違う別世界が広がってるなんて到底思えなかった。
6 :風の中の愛理 :2013/06/13(木) 16:47
「ねえ、仕事仲間がアイドルってどんな感じ?やっぱり気使うでしょ」

「まあ付き合い長いからそんなこともないけど」

あたしは℃-uteのメンバーの顔を一つ一つ思い浮かべた。
それこそ、十七歳と十八歳とか年齢の延長線上にない人たち。
何万人の中から選ばれたメンバーには美少女ってだけでは片付けられない何かを持っているようにあたしには思える。

「みんなすごいからついていくのが大変」

あたしは少し遠い目をした。
7 :風の中の愛理 :2013/06/13(木) 16:50
グループとしてやっている以上、自分の役割がある。
歌もダンスのレベルも合わせていかなきゃいけない。
それが分かってるから頑張って努力はする。
けど中学の時はその努力の先が何も見えなくて怖くなる時があった。

℃-uteやBerryzの他のメンバーを見てもみんなアイドルになりたくてここに来た。
当たり前のことなのにそれがあたしにはあまりそういう意識がない。
ぱっとある朝起きたら自分はもうアイドルだった。
まさにそんな感じだ。

「なっきぃにはライバルっていないの?」

友達がそう訊いた。

なかさきちゃん時代には自分に自信がなかったからかすごく負けず嫌いだった。
でもあたしはもうすっかりと大人へと変わった。
きっとあたしには他人に勝ってどうこうするより何か別の道があるような気がする。
8 :風の中の愛理 :2013/06/13(木) 16:51
「あの子には負けたくないってのがあたしにはあまりなくて」

あたしがそういう風に言うと友達が二人とも「分かる」って顔をした。
舞があんなにダンスできるのに。千聖がこんなに歌えるのにあたしヤバイ。Berryzがライブで歌っているのを見て焦る。
そんなことばっかり思ってきた。

「でもあの子みたいになりたいって思う子はいるよ」

それはきっとあたしとは正反対で、五歳ですでに人と違う歌う仕事とか留学とかまで考えていた。
負けず嫌いで向上心が人一倍強くて、ダンスも歌も天才的な人。

「誰?」

友達の問に応答するその一瞬の間に自然と顔が綻んだ。
そして、合言葉にでも答えるかのようにあたしは「鈴木愛理」と流れるように言っていた。
9 :ES :2013/06/13(木) 16:53

短めですが、今回の更新を終わります。
10 :名無飼育さん :2013/06/13(木) 23:40
おぉ。どうなるのかわくわくします。
11 :ES :2013/06/20(木) 16:54
>>10
レスありがとうございます!
まだ始まったばかりですが、末永く楽しんでもらえたらうれしいです。
12 :風の中の愛理 :2013/06/20(木) 16:55
秋の陽光がとても眩しかった。
あたしは目を細めながら日差しを遮るように手を額の上にやった。
あたしの横を歩いている愛理はあたしよりも少し背が高い。

「もう秋だね」

愛理はそう言って片目を瞑る。
まるでウィンクをしているように見える愛理の仕草はそれがそのままPV撮影のようにきれいな絵になる。

愛理はここ最近一気に変化した。
少し前は可愛らしくて元気な子だったのに今はもう可憐な美少女だ。
落ち着いた表情は育ちのいいお金持ちのお嬢様にも見える。
あたしはそんな「愛理の佇まい」がすごくうらやましかった。

けどきっとそれは一つの壁を突き抜けた自信だとあたしは思う。
そしてこの人はそんな静かな歌い手でもなかった。
舞台は一気にライブ会場に移動する。
13 :風の中の愛理 :2013/06/20(木) 16:56
「みんな!もっと声出して!」

愛理の声が会場中に響き渡る。

「まだまだ!もっともっといけるよ!」
 
怒声に近いような愛理の言葉でライブ会場のボルテージが最高潮に上がった。
さっきまであれほど穏やかだった愛理が、今はまるで刃でも生えているみたいな激しい感情をむき出しにしていた。
愛理が舞台に入り込む性格というのはよく分かっていたけど、
こんなに火のような一面をもっていることにあたしは正直驚いた。

「まだまだ!もっと!」

ファンに三回目の声出しを叫んだところでスタッフさんから「これで終わり」の合図が出た。
14 :風の中の愛理 :2013/06/20(木) 16:57
「はは。盛り上がったねー」
 
ステージ裏にはけた愛理が汗をぬぐいながら軽やかにそう言った。
さっきとは全然違う愛理の柔和な表情に一瞬同じ人間には思えないぐらいだった。

何にせよライブは大成功だった。
紅潮してふっくらした愛理の笑顔が眩しくて思わずあたしも同じ笑みを返した。
 
今回の℃-uteライブ、「ダンススペシャル!!超占イト」はとにかく最初からダンス・ダンス・ダンスだ。
あたし達はとにかくそれまでバラバラになりかけていた心を一つに取り戻すように団結して踊った。
 
それまでのあたし達は一気にメンバーが二人も卒業してしまってどことなくぎくしゃくしていた。 
15 :風の中の愛理 :2013/06/20(木) 16:59
リーダーの舞美ちゃんは相変わらず空回りしていたし、
あたしは無駄に年上意識を持ってみんなに注意しまくりひたすら怖いと思われた。
愛理はセンターで一人ばっかり目立つとどうしようもない非難をされ、
千聖と舞は卒業していったメンバーに戻ってきて欲しいとそればかり言っていた。

でもそんなあたし達だからこそ、「合わせる」ことに共通の価値観を持てた。
Berryz工房だったらバラバラだったものを一つに合わせようとはきっと思わない。
というよりバラバラのままでいいと思えるのがベリーズのいいところだと思う。

でもあたし達はベリーズとの違いを意識し始めたことで変わり始めた。
つまり強く団結し始めた。
それがダンスと一緒になって一つの形に出来たのがこのライブだった。
16 :風の中の愛理 :2013/06/20(木) 17:00
ライブが終わって、ふと緊張が緩むと同時に今日のダンス、愛理とあたしどっちが勝っただろうと思う。
あたしと愛理はダンスでライバル関係と言われていた。
愛理のダンスはしなやかで上品なのに激しい気持ちが内側から伝わってくる。
歌の世界が表情にまで出せるのは誰にも真似ができない。
そして何より愛理のダンスは高貴だ。
あたしはダイナミックに動いて的確に動きを止めることしかできない。
あたしが愛理に対抗できるとしたら楽しく踊っているということだろうか。
それでもこんなあたしがダンスで愛理とライバルと言われるのはとてもうれしかった。
17 :風の中の愛理 :2013/06/20(木) 17:01
「愛理、最後のあれって煽りすぎじゃないの?」

みんなでライブの感想を言い合っているときに舞が愛理にぽつりとそう言った。

「あ、そう?そんな感じだった?」

今の愛理からはライブでの激しさなんてすっかり消えてしまっている。
ぽかんとした表情でそう言った。

「それよりも舞ちゃん、早くケータリング行こうよ。なっきぃも一緒に。やじ先に行ってるみたいだよ」

急かすように愛理が言った。

「うん」

あたしもそう言って三人でケータリングに向かって歩く。

「ねえ、愛理って何も考えてないよね」

愛理にも聞こえるように舞があたしに言った。
18 :風の中の愛理 :2013/06/20(木) 17:03
「そうだねえ」

愛理の横顔を見ながらあたしは言う。

「何も悩みなさそうだもんね」

「うん。私ってあんまり深く考えない性質だから」

あっけらかんと愛理は答えた。
愛理はエースとしての重圧もあるし、いちいち深く考えてたらやってられないというのもあるだろう。
それに悩んで苦しんで歌ってますみたいな演歌歌手みたいなのよりも「今日も明るくはしゃいじゃいました」的なほうがアイドルとしてはいいのかもしれない。

特に愛理はさっきのライブみたいに決めるときは、それこそ天才的な才能で歌もダンスもこなしてしまうのだから何の文句もつけようがない。
19 :風の中の愛理 :2013/06/20(木) 17:04
℃-uteは壁を乗り越えたし、あたしも変なプレッシャーを感じることもなくなった。
愛理がこんなふうに何も考えずにいられるのも℃-uteがチームとしてうまくいってるからだとは思う。

「愛理、学校の方は?うまくいってるの?」
 
あたしは愛理の表情を伺うように言った。
 
「大丈夫。行けない日も多いけど学校の仲間もみんな優しいから」
 
愛理は顔を緩めて言った。
 
「そっか。でもあんまり友達と遊びに行ったりできないでしょ?」
 
「そうだけど。それはなっきぃも一緒でしょ?」
 
あたしがさも心配そうに言ったせいか愛理は不思議そうに答えた。
20 :風の中の愛理 :2013/06/20(木) 17:12
「あたしは、学校はそんなに関係ないし適当にしてるからさ」 
 
「私だって適当だよ」
 
愛理は言った。

確かに。
とあっけらかんとした愛理の表情を見てあたしは思う。
 
「なっきぃ、そんなに愛理の心配しなくても大丈夫っしょ?」
 
舞に諭されるように言われた。
21 :風の中の愛理 :2013/06/20(木) 17:13
確かに。
愛理の心配ばかりしていられるほど自分の立場は甘くない。
ダンスで少し自信がついただけで、歌唱力もほかのメンバーに比べるとまだまだだし、
MCももっとうまくやれるようになりたい。

ラジオを一人でやらせてもらったりチャンスだけはもらえてる。
だから歯を食いしばってでも上り調子の℃-uteについていきたい。

何より口には出さないけど青いペンライトがどのくらいいて、
自分のファンは℃-uteで何番目なのか何より気になるのだ。
ファンからの人気が圧倒的な愛理に対して嫉妬の気持ちがないわけでもない。
22 :風の中の愛理 :2013/06/20(木) 17:14
でも愛理に対する嫉妬なんて、あたしの中で一度として吹き溜まりのようにたまったことはなかった。
愛理にはかなわないというあたしの後ろ向きな気持ちは、そのまま「鈴木愛理」という煌く星のような存在につながっている。
そんな風に考えられる自分がうれしい。

自分への皮肉のような変な感情はそれでもあたしにとって大切な心の奥底に秘めた気持ちでもあった。
23 :風の中の愛理 :2013/06/20(木) 17:15
舞ちゃん。
千聖の呼ぶ声が聞こえて舞がケータリングの方へ走っていく。
 
「千聖、また太るよ」
 
舞の太い元気な声が周囲に響く。
 
「いいんだって。ライブでカロリー使ったから」
 
二人のきゃっきゃする声が聞こえて、あたしと愛理は目を合わせて笑った。
 
「なっきぃ、ありがとね」
 
舞がいなくなると、愛理は急にすました顔でそう言った。
24 :風の中の愛理 :2013/06/20(木) 17:16
愛理の目は気取らない控えめな睫毛の下にいかにも意思の強い大きな瞳が真剣な眼差しを伝えてくる。

愛理の瞳の力に耐え切れなくなって、あたしは思わず下向きに視線を外した。
すると愛理の白い首筋から胸元がほんのり上気して明るい照明に反射しているのが見える。

ライブが終わっていったん静まったあたしの鼓動が再び高鳴る。
それは深い水底からせり上がる大きな空気の塊のように一気に立ち昇ってくるようだった。
25 :ES :2013/06/20(木) 17:16

今回の更新を終わります。
26 :風の中の愛理 :2013/06/27(木) 16:47
それは抗うことのできない本能みたいな緊張だった。
 
「え?何が?」
 
あたしはさも何も見なかったような無邪気な顔をつくって言った。
 
「心配してくれて」
 
でも純粋な目であたしを見る愛理の方がよっぽど邪心がない。
 
「あ、あたしは勉強がどのくらい大変なのか分からないからさ。
愛理の話し聞いて普通の学生生活ってどんなんか聞いてみたいかなと思って」
 
そのせいであたしは全く心の中にも思ってもないことを口走った。
27 :風の中の愛理 :2013/06/27(木) 16:49
「ああ、うん。でも私は学校でも地味な方だからね。
なっきぃみたいにオシャレ出来る人は私の話しなんて参考になんないかも」
 
愛理は真面目な顔で答える。
愛理は自分の顔にずっとコンプレックスがあると言ってたけど、
改めて見るとどこにそれを感じる要素があるのだろうと思うぐらい愛理はすっきりと目鼻立ちの整った美少女だった。

至近距離でもっと愛理の表情を確かめようと今度はまじまじと見すぎたせいで愛理としっかり目が合ってしまった。
28 :風の中の愛理 :2013/06/27(木) 16:51
「そうかな。アハハハ」
 
あたしはごまかすように笑っていた。
そんなあたしを見て愛理もふにゃりと笑ってくれた。
こうしてずっと愛理に惹かれている自分から考えてもファンの人が愛理を好きな気持ちがよく分かる。
愛理は神秘的で古風な美少女にも、今みたいに可愛らしくて愛嬌のある顔にも表情を何にでも変えられる。
 
愛理に見とれていると「中島、ちょっといいか」とマネージャーさんから呼ばれてしまった。
何か注意されると一瞬びくついたが、マネージャーさんが大したことじゃないんだけどと再三言いながら前を歩くので
本当に大したことじゃないんだろうと自分を落ち着かせた。
29 :風の中の愛理 :2013/06/27(木) 16:52
「鈴木のことなんだけど。ステージで熱くなりすぎるのをもう少しだけ抑えてもらえないか」
 
別室にはいるとマネージャーは「もう少しだけ」を強調して弱々しく苦笑いしながら言った。
 
「ファンの人煽りすぎるってことですか?」
 
「まあね」
 
「はあ・・・ってそれ愛理に直接言えばいいじゃないですか?」
 
あたしは何か嫌な役回りを直感して言った。
 
「いや、上から言って萎縮させたくない。今℃-uteはダンスパフォーマンスで一番勢いに乗ってるから。
それを細かいこと言って落としたくないんだ」
 
「あたしから言ったって同じと思いますけど」
30 :風の中の愛理 :2013/06/27(木) 16:53
「中島は今鈴木と一緒にいる時間も多いみたいだし、それとなく伝えてくれよ。
何となくでいいから。スマんけど頼む」
 
仕事として仕方ないのかもしれない。
でも個人的に愛理に小言みたいなことを言うのはとても嫌だ。
愛理にはもっとダンスや歌のパフォーマンスで意識されるようになりたいとあたしは思った。
 
「リーダーから伝えてもらったらいいんじゃないですか?」
 
あたしは舞美ちゃんを思い浮かべて言う。
舞美ちゃんだって愛理と一緒の時間は多いし、仲もいい。
℃-uteを引っ張っていく二人同士のほうが分かり合えることが多いかもしれない。

それに舞美ちゃんは何といっても公式的にも℃-uteのリーダーなのだ。
31 :風の中の愛理 :2013/06/27(木) 16:54
「あいつも今は余計なこと考えずにまっすぐ走らせたほうがいいだろ」
 
ところがマネージャーは驚く程自信を込めてそう返してきた。
あたしに同意を求めるような言い方はさも今の℃-uteのことは何でもわかってるぐらいの勢いだ。
確かに今の舞美ちゃんはまっすぐに走ってる。
メンバーに対して苦手な細かい注意なんて一切しないで、ダンスも歌も先頭に立って何も考えずに走ってる。
今の舞美ちゃんはこの上なくカッコよかった。
 
「でも」
 
「じゃあ頼むな。まあ軽くでいいから」
 
結局断るのが苦手なあたしはそのままの流れで引き受けてしまった。
確かに愛理はステージで歌うことに入り込みすぎて周囲が見えなくなることがある。
32 :風の中の愛理 :2013/06/27(木) 16:56
でもだからってあたし、愛理に嫌われたくない。

理不尽な指令を受けたあとであたしは一人不満を漏らした。
愛理に何か注意して愛理の勢いを落として自分が少しでも愛理より上にいこうとしているなんて思われたら絶対いやだ。
いや愛理は絶対そんなこと思わないだろうけどそういうことは一瞬でも感じて欲しくなかった。
 
愛理とは℃-uteが結成されてからもう五年も一緒にやってきている。
でもあたしはこれまで愛理とそこまで親しかったわけじゃなかった。
33 :風の中の愛理 :2013/06/27(木) 16:57
℃-uteのとき愛理の隣にはいつも栞菜がいた。
ベリキューのときは梨沙子が隣にいたし、あたしは千聖や舞とふざけてるときの方が居心地がよかった。
愛理の隣にいて愛理と比べられることに無意識にプレッシャーを感じていたのかもしれない。
だからあたしは愛理の隣の席は自分自身に自信を持っている人じゃなきゃ座れないポジションだと思っていた。

昔は今よりもっと自分に自信がなくて、ヘタレだったあたしは今でもメンバーやファンの人になかさきちゃん時代とからかわれる。
その時のあたしにとって愛理の隣というのは行きたくてもいけないずっと遠い場所のようだった。
34 :風の中の愛理 :2013/06/27(木) 16:58
でも栞菜とえりかの二人が卒業して℃-uteがたった五人になってしまったとき、
心細さととも愛理の隣が空いていることにあたしは気づいた。
誰かと争奪戦じゃない分、あたしにはよかったのかもしれない。

べったり隣にいるというわけじゃないけど、ケータリングに行くまでのちょっとした時間や
休憩時間に自然と愛理と二人でいられることに幸せを感じられる。
愛理との距離が少しずつ縮まっていくことがあたしにはうれしい。
その関係は今のあたしにとって何より大切なものだった
35 :風の中の愛理 :2013/06/27(木) 17:02
「なっきぃ、昨日のブログ読んだよ。コメントまで全部読んじゃった」

撮影の合間、愛理がきらきらする笑顔をあたしに向けて言った。

「私、なっきぃのブログ大好き。ファンなんだ」

愛理はこういう人が喜びそうなことを本当に純粋に言ってくる。
その言葉があまりにも混じりっけがないから時々それを悪く取る人がいないかと心配になるくらいだ。

「そうかな。あたしのは短いし、絵文字も使えてないしねー」

苦笑いしてあたしは言った。
愛理に言われると何もかもが照れる。
36 :風の中の愛理 :2013/06/27(木) 17:03
「それがいいと思う。なっきぃのブログ言いたいことがすごい伝わるっていうか。
なっきぃが本当にしゃべってるみたいだから」

愛理は真面目にそう言った。
今の愛理は「静」の愛理だとあたしは思った。
しっとりした愛理の表情を見ているとあのライブの時の荒々しいリズムを刻み込む愛理ととても同じ人間には思えない。
あたしはそんな愛理の魅力の虜になってしまっていた。

「あ、そうだ。昨日マネージャーさん呼ばれてたけど。あれ何だったの?」

愛理は言った。
愛理は細かいことに気がつくタイプじゃないし、気にする性格でもないからきっと舞美ちゃんにでも何か言われたんだろうとすぐに予想がついた。
37 :風の中の愛理 :2013/06/27(木) 17:07
「舞美ちゃん、何か言ってた?」

「うん。舞美ちゃん、なっきぃ何言われたんだろうって心配してたから」

「そっか」

どうやら予想が的中したと安心してあたしは言った。

「あれ別に何でもなかった。今ライブがノってるから。メンバーで体調悪い人がいないかとかそういうこと」

あたしは言った。

「何だ。よかった」

愛理は何の疑いもしない口調で笑った。
38 :風の中の愛理 :2013/06/27(木) 17:09
メンバーに何か隠し事をするとき自分がとても敏感な性質だから、
自分自身が言うときはさらに気を使ってしまう。
でも℃-uteに関して言えば愛理はことさら鈍感だからそういう意味ではやりやすい。
女っぽくないと言えばそうかもしれないし、だから好きになってしまうのかもしれない。

「じゃあ撮影の準備入ろうかな」

そう言って愛理はメイク室に行こうとした。

「あ、あのさ。愛理」

あたしは中途半端に言いかけると愛理の大きな瞳がこちらを向く。

「ライブの時なんだけど」

「ライブの時?」

愛理は不思議そうに、にっと笑って首をかしげるような動作をした。
39 :風の中の愛理 :2013/06/27(木) 17:10
言えない。

もう少しテンション抑え気味にしたらなんてあたしの口からは言えない。

「ライブの時の愛理と普段の愛理って何でこんなに違うの?」

すごく場違いなことを言ったような気がする。
でも気づいたらそうとしか言えなかった。

「ああ。学校の友達にもよくそう言われる。愛理じゃないって」

愛理は普通にすました表情でそう言った。

「テンション上がると抑えきれなくて」

まるで困っているように見える表情は愛理は自分自身を持て余しているようにさえ見えた。

「入り込んじゃうんだよね。歌に」

伏し目がちに愛理は言う。
40 :風の中の愛理 :2013/06/27(木) 17:11
「それがいいところじゃん。愛理の」

愛理の本音を聞けたような気がしてあたしは逆に明るくなった。

「愛理はそのままでいいんだよ。ファンの人もそういう愛理のほんわかしたところと
本気で歌ってる時のギャップにやられちゃってるんだよ。きっと」

あたしはさらに調子に乗って言ってしまった。

「なっきぃ。ありがと」

愛理が八重歯を見せて笑った。
41 :風の中の愛理 :2013/06/27(木) 17:12
しっとりとした大人の表情の中にも笑う時だけ愛理は小さかった時の面影が戻る。
愛理が笑顔を見せるのは勿論あたしに対してだけじゃない。
でも、それでもあたしはとても幸せな気持ちになれた。

「ううん。ぜーんぜん」

あたしは大げさに手をふる。
でも結局マネージャーさんに頼まれたことは何一つ言えてないことに、
あたしはだいぶたってから気づいた。
42 :ES :2013/06/27(木) 17:13

今回の更新を終わります。
43 :風の中の愛理 :2013/07/04(木) 20:34
雑誌の撮影が無事終わると会社に移動して、あたし達は次のライブに向けてミーティングをすることになった。
バス移動で前の方の席は愛理が舞美ちゃんの隣の席に座り、
あたしと千聖と舞は後方の席に座った。
三人で千聖の家に遊びに行って千聖の弟や妹達と遊んだときの話をしていると、
前の座席と座席の間から楽しそうに舞美ちゃんと話す愛理の表情が見えた。
輝くように映える愛理の顔はあたしと話しているときの表情とは違うように見えてあたしは少し憂鬱になる。

そんな愛理の顔だけで一喜一憂する自分を滑稽というか哀れに思ったが、
そう感じるものは仕方ない。
あたしは千聖としゃべりながらもチラチラと愛理の様子を伺っていた。
そうこうする間にバスは会社に到着した。
44 :風の中の愛理 :2013/07/04(木) 20:36
スタッフさんと会社の会議室に入るとライブとは違った緊張感がある。
こういうミーティングでは以前のなかさきちゃん時代に何一つ発言しなかった。
そしてえりかと栞菜が卒業した後は年上だという責任感からメンバーに猛烈に発言して注意するようになって千聖と舞にものすごく怖がられた。

愛理のことに限らずその一件以来あたしはまた積極的には発言しなくなっている。
特にスタッフさんが加わるとなおさらそうだ。
グループでの立場もあるくせにこんなんでいいんだろうかと思うことはある。
けど今のあたし自身はごく普通でいい。
ライブでもこうしたいというこだわりでもなければ自然と人の話を聞いていればいいと思っていた。

でも全員席に着いてミーティングが始まった途端いきなり話し始めたのは舞だった。
45 :風の中の愛理 :2013/07/04(木) 20:39
「まず、愛理さあ。ファン煽りすぎじゃない?」

舞があたしが決して言えなかったことを一番最初に言い放った。

「ええ?そうかなあ」

愛理はのんびりと答えている。

「別にいいと思うけどさ。愛理がやると盛り上がるし。でも愛理がやる以上うちらも乗っていきたいからさ」

舞が今度は遠慮がちに声のトーンを落として言った。
46 :風の中の愛理 :2013/07/04(木) 20:44
舞は物怖じせずにずけずけを発言する印象がある一方で、
ものすごく人の気持ちとか感情に敏感で繊細なところがあった。
あたしが寝起きが悪くてイライラしていたら、舞がなっきぃの機嫌はいつ戻るのかずっと気にしていたと後で千聖から聞かされたこともある。
舞が気まぐれな愛理のことをどれぐらい察知するのか興味はあったが、
愛理が何も深くは考えてないせいか愛理と舞の関係はずいぶんとさっぱりとしているようだった。

「で、ファンのコール。いつ終わるのって終わりどきが分かんないからさ。
三回目とか二回目とか決めて欲しいわけよ」

舞が至極真っ当なことを言っているように聞こえた。
47 :風の中の愛理 :2013/07/04(木) 20:46
「そうそう。あれ何回目を一番上にもっていけばいいの?」

千聖がそれに乗じて言う。

「でもそのときのさあ。盛り上がり方で違うじゃない」

愛理は一歩も下がらずに言う。

「確かにそうだよね。私もライブで勢い止まらないこともあるし。愛理の気持ちも分かるな」

舞美ちゃんがそう言うと今度は舞が助けを求めるようにあたしを見た。
とりあえずあたしの意見で全てが決まるとかいう状況にはいつも逃げ出したくなる。
48 :風の中の愛理 :2013/07/04(木) 20:47
この頃の舞美ちゃんはとにかく愛理に依存している。
愛理の言うことならなんでもOK。
そんな舞美ちゃんをリーダーとしてもっと何とかしてほしいという気持ちはあった。
でもそれはそのまま自分自身にもあてはまるのだ。

「愛理もさ。ライブ盛り上げようとしてやってるんだからいいんじゃない?」

打算的なあたしはとりあえず舞達を見捨てることにした。
とにかくあたしは愛理には嫌われたくない。

「とりあえずアイコンタクトでやってみたらいいんじゃないかな。
みんなでうなずいてたら終わりにしたらいいし。後は舞台袖からカンペ見ればいいしね」

あたしは出来るだけ当たり障りのないようにそう言った。
マネージャーさんの表情を伺っていたら特に何もなさそうなのであたしは正直ほっとした。
49 :風の中の愛理 :2013/07/04(木) 20:48
「そうだね。なっきぃの言うとおりみんなで合図し合ってやれたらいいよね」
あたしの予想通り、さっそく舞美ちゃんがそう言ってくれてあたしの意見がまんま結論になった。

愛理の方は−あたしの打算的な結論にも舞美ちゃんの愛理への依存も全くお構いなしに、
千聖や舞ちゃん達とふざけ始めた。

愛理は誰が味方で誰が敵なんて考えは全くないに違いない。
50 :風の中の愛理 :2013/07/04(木) 20:50
愛理はあたしのことをどう思ってるんだろう。
それを考えるときふっと愛理と目が合う時がある。
その瞬間、楽しくもあり、怖くもなった。
なっきぃは℃-uteの大切な仲間。そう愛理に思われていたとしてもあたしには全然物足りなかった。

愛理の中のあたしの存在はきっとあたしが抱いている淡い期待よりも遥かに小さい。
ただグループの状況としては、あたしの個人的な愛理への思いを全く別にしてとても順調だった。

このダンシングライブをきっかけにメンバーの卒業という危機をあたし達は団結して完璧に乗り越えることができた。
そしてきっとまだま上を目指せるという思いはメンバー全員にあった。
愛理がいくら天才でも構わない。
あたしは愛理に近づいて愛理にあたしの存在をもっともっと意識させたいとそればかり思った。
51 :風の中の愛理 :2013/07/04(木) 20:51

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52 :風の中の愛理 :2013/07/04(木) 20:54
膨張した夕日が遥か遠くに見えるビルの向こうを絵の具を滲ませたように真っ赤に染めている。
ただ赤色は絵のようにそこにだけに限定されて、
周囲の薄暗い紺色に溶けるように消えてしまっていた。

そのビル群の影からあたしが歩いている小道の草むらまで、
もうすっかり夜の気配があたりを覆っていた。
両脇に広がる畑の中に点在する草むらから虫の鳴き声が一定のリズムを打って聞こえてくる。

あたしの地元はそんな都会から離れたありがちな田舎町の一つだった。
53 :風の中の愛理 :2013/07/04(木) 20:57
あたしはそんな夜の道を歩きながら携帯で℃-uteのメンバーのブログをひたすら見ていた。
愛理はBuono!ライブのリハーサルが始まったみたいで雅ちゃんとのツーショット写真や
お気に入りの飲み物の画像などが貼り付けられている。

愛理はあたしとのツーショット写真を時々ブログに載せてくれた。
同じグループである以上それは何も特別なことではないし意識することじゃないのは分ってる。
でも℃-uteでの集まりがなかった日に過去に撮ったあたしとの写真をアップしてくれていると素直にうれしい。

比率で言うと愛理は舞美ちゃんとの写真が圧倒的に多いけど、
千聖や舞に比べるたら自惚れだけじゃなくあたしとの写真の方が多い気がしていた。
54 :風の中の愛理 :2013/07/04(木) 20:59
さすがにBuono!の話題のときにあたしの写真はないか。
あたしは少しだけ残念な気持ちになりながら愛理のブログを読んでいく。

Buono!の雰囲気はとても楽しそうで、準備もすごく順調そうだ。
あたしはBuono!が結成されたときのことを何となく思い出していた。
その時は℃-uteがメジャーデビューして間もないときで、
愛理は℃-uteから唯一選抜されたメンバーだった。

今じゃ信じられないけど、あのとき愛理は桃ちゃんや雅ちゃんとうまくやっていく自信がない。
不安で仕方ないって言っていたのだ。
55 :風の中の愛理 :2013/07/04(木) 21:01
デビュー3年目のBerryz工房は、あたし達℃-uteのはるか前を走っていた。
雅ちゃんも桃ちゃんもBerryzの人気の中心だったから愛理のプレッシャーも相当だったんだと思う。
ZYXに入れなかったときはあんなに悔しがってたのにBuono!のときは何で自分が選ばれたんだろうと
まるで入りたくないとでも言ってるみたいだった。
そしてあの二人とはきっと性格が合わないと顔合わせの直前まで言っていた。

それがいざ始まってみればBuono!の愛理は年上の二人に支えられて快調にスタートした。
56 :風の中の愛理 :2013/07/04(木) 21:03
Buono!はベリーズと℃-uteの混成チームだからBuono!についていろんな気持ちを抱いているベリキューのメンバーも多いと思う。
もしかしたらBuono!にメンバーをとられると思う人もいるのかもしれない。
でもあたしはそうは思わなかった。

℃-uteに卒業が相次いでごたごたしたとき、愛理はテストがあるとか学校行事があると言って
何かと学校の方に逃げがちになっていた。
℃-uteもメンバーが少なくなって各自の役割をも変わった。

でも雅ちゃんも桃ちゃんも愛理を℃-uteの鈴木愛理じゃなくキッズの時と同じ目線で愛理と接してくれたように思う。
だから愛理はずっと二人の妹みたいな存在でやってこれた。
℃-uteで苦しいとき、Buono!の存在があることで愛理をアイドルの世界へと引き戻してくれたように思う。

Buono!は愛理の支えになってくれたし、Buono!でめいいっぱい楽しげに話してる愛理を見て
Buono!があって本当によかったとあたしは思っていた。
57 :風の中の愛理 :2013/07/04(木) 21:05
だからあたしはBuono!のライブはどうしても行ってみたい。
℃-uteでの試練を乗り越えた愛理がどんなパフォーマンスを今度はBuono!で見せるのか見てみたい。
あたしはワクワクするような様子で楽しそうにライブの準備に集中している楽しそうな愛理のブログ読んでそう思った。

よし。
今度都合つけて絶対行こう。

そう思ったあたしは急に早足になって家に向かう。
思い立ったらぐずぐずなんかしてられない。
途中から小走りになってあたしは、ついに走り出して家の前までたどり着くと、
ただいまと言いながら玄関のドアを開いて階段を一気に駆け上がっていく。
58 :風の中の愛理 :2013/07/04(木) 21:06
二階の自室に駆け込んだあたしは、大急ぎでスケジュールを確認した。
2月にあるBuono!ライブは℃-uteもハロープロジェクトのライブツアーが終わっているから
比較的都合のつきやすい時期だった。

思い立つとすぐに行動してしまうあたしはもう完全にBuono!ライブの初日を見に行くつもりになって愛理にメールしていた。
愛理からはすぐに返信があって、来てくれてうれしいということと、初日は梨沙子も見に来てくれるということが書かれていた。
59 :ES :2013/07/04(木) 21:07

今回の更新を終わります。
60 : :2013/07/05(金) 14:25
めっちゃキュンキュンです これからも楽しませてもらいます
61 :TOY :2013/07/10(水) 21:32
中島さんが、新鮮です。ギャグによく使われるけど、本当の中島早貴はこんなんなんだろうなと思いました。
この頃の愛理とBuono!、愛理と舞美の関係ってこんな感じだったなぁと懐かしくなりました。
今じゃ考えられないなぁ。
梨沙子がでてきましたね。次の更新が楽しみです。
62 :ES :2013/07/11(木) 20:49
♂さん
レスありがとうございます。萌える作品目指しまするm(_ _)m

TOYさん
レスありがとうございます。中島さんはいろいろ見て考えるほど
魅力的な人ですけど、なかなか小説にするのは難しい。。でも
見当はずれじゃなかったみたいでよかったです!
これからもよろしくです。
63 :風の中の愛理 :2013/07/11(木) 20:51
梨沙子かあ。

「Berryz工房の菅谷梨沙子」

梨沙子は愛理や雅ちゃんと仲がいいのは分かっている。
だから見に来るのも当然納得できた。

ただ正直梨沙子とはあまり話したことがなかった。
梨沙子はもちろんキッズの時から一緒だったし
ガーディアンズ4というユニットも一緒にやっていた。
けどそこまで交流があったわけではない。

梨沙子はとにかく可愛いというイメージしかなくて
話した印象が全くなかった。
でもこれは梨沙子がというよりあたしの方に問題があるのは間違いない。
64 :風の中の愛理 :2013/07/11(木) 20:52
人見知りでヘタレなあたしは、℃-ute以外のメンバーとは仲良くなれない。
Berryz工房なんてキッズ時代から一緒なんだから
幼馴染みたいになっててもおかしくはないかもしれない。
けど何故かBerryzのメンバーともあたしは距離を感じていた。

同期のBerryz工房がそんな状態だから、他のモーニング娘。のメンバーにいたっては
話しかけることもできなくて会話すらほとんどしたことがない。

だから同期の梨沙子が苦手だというよりあたしにとって
℃-ute以外の全メンバーの距離感は、ほぼ同じようなものだった。

あたしが「梨沙子に会って話すのは緊張する」と愛理にメールすると
「りーちゃんは優しいから大丈夫」と笑いマークをつけて返ってきた。
65 :風の中の愛理 :2013/07/11(木) 20:56
お正月が過ぎてしばらくあたしは絶望的な気分でいた。
さすがに「絶望的」というのは大げさかもしれないけど、
やっぱりあたしはあたしなんだなと思った。

結局ハロプロのお正月ライブでは、新しく入ってきた
モーニング娘。の9期メンバーに顔を合わせることも挨拶すら出来なかった。
周囲から「携帯のメアド交換した」とか「話しかけてみたら意外とおもしろい子」
だったとかいう声が聞こえてくるとあたしは、うらやましくて憂鬱になる。

「だから怖いんだよ。なっきぃは」

楽屋で舞が傍から言った。

あたしは後輩や知らない人がいるところだと
緊張してすました顔をしてしまう。
それが周りからは怖く見えるらしい。
66 :風の中の愛理 :2013/07/11(木) 20:58
「後輩から話しかけることなんて普通できないんだから
 こっちからしゃべるしかないじゃん」

年下の舞に諭されるように言われた。

「もういい。あたしは誰とも仲良くなれなくていい」

あたしは自暴自棄になってテーブルに頭をくっつけた。

「ほら。そうやって投げやりなこと言う・・・」

舞が傍に立って困った子でも見るようにあたしを見下ろした。

「無理だよ。だってBerryzの子でも緊張すんだよ」

「は?だってさすがにBerryzは長い付き合いじゃん」

舞が一瞬驚いた顔をした。
67 :風の中の愛理 :2013/07/11(木) 21:01
「そうだけど。みんなあの頃の子供のままじゃないじゃん。
 アイドルだしそれなりの態度で接しないとやばいかなとか思って」

あたしは言った。
入った頃はみんなただの子供だった。
でもどんどん成長して、しかもみんな人から見られる仕事をしてる。
ファッションも見た目も芸能人のオーラに包まれて、
おいそれと話しかけることはできなくなってしまった。

ヘタレななかさきちゃん時代は脱出したように思ってたけど、
人見知りと緊張するところはまだまだ変わりきれてないらしい。

「Berryzねえ。確かに舞もそこまで仲よくなれてるわけじゃないな」

呆れられるかと思ったけど舞は少しだけ理解を示してくれた。
68 :風の中の愛理 :2013/07/11(木) 21:04
「あたしだって距離をおきたいとか思ってるわけじゃないんだけど」

あたしは正直な気持ちを言う。

本当はみんなと一緒に騒ぎたいしはしゃいでる自分のほうが好きだ。
愛理は親友が梨沙子だし、舞美ちゃんは千奈美ちゃんと仲がいい。
だからこの二人はBerryz工房と距離を縮めたいなんて
願望もたなくていいからうらやましい。

「なっきぃはBerryzだと誰と仲良くなりたい?」

そんな聞かれ方をすると同性なのに誰か狙ってる子を
聞かれてるようで少し恥ずかしい。

「うーん。梨沙子とか雅ちゃんとか?」

あたしは愛理の周辺にいるBerryzのメンバーをあげた。
舞が納得の表情を浮かべる。
69 :風の中の愛理 :2013/07/11(木) 21:07
「今度ご飯でも一緒に行けたらいいけど」

舞が真面目な顔をして言った。

「誘いにくいよね」

あたしは自分からだいぶ遠い距離にいる二人を想像して言った。

「だね」

舞もそう言った。
アイドルってだけでこうも距離を感じさせるものなのかと
あたしはため息をついて思う。

何か思春期の初々しい初恋みたいだ。
でも勇気をもって一歩っていうのも大切なのかもしれない。
70 :風の中の愛理 :2013/07/11(木) 21:11
結局ハロコンが終わってBuono!のライブツアーが始まるまで
急に誰と親しくなるでもなく、あたしの身辺には何の変化もなかった。
というか何もしなかったので当たり前の結果だとも言えた。

直前まであたしは梨沙子に何か連絡しようか悩んだ。
あたしから「あたしもBuono!見に行くからよろしくね」
とでもメール打てばいいんだろうと思う。

でも普段あたしから梨沙子に連絡することはないし、
最近はほとんど話してもないし「久しぶりだね」
とかつけた方がいいのかもよくわからない。
71 :風の中の愛理 :2013/07/11(木) 21:12
梨沙子が同じ日に見に行くことを誰かから聞いて連絡してきてくれる
という淡い希望を抱いていたが、もう直前になったのでその線はないと思う。

本当の目的は愛理の歌うところを見たいということなのに、
すでにあたしは今すごく人間関係に悩まされている。
それも人間関係の出来ないことに。

あたしが観戦するBuono!ライブの初日、スタッフさんが
関係者用の席を二階に用意してくれた。
℃-uteの他のメンバーはスケジュールが合わなくて
あたし一人が見に行くことになった。
Berryzからは梨沙子が来るというのは風の噂で聞いたが、
他のメンバーが来る話はなかったから多分Berryzも梨沙子一人なんだと思う。
72 :風の中の愛理 :2013/07/11(木) 21:14
梨沙子って天真爛漫ですごく無邪気な子ってイメージがある。
愛理も何も考えずにはしゃいでるだけのことも多いから
その点が二人が波長の合うところなのかもしれない。

それに梨沙子の周りは雅ちゃんとか愛理みたいな人気があって
華やかな人たちがお似合いだ。
そんな風に考えるとあたしとはきっと話が噛み合わないんだろうなあと
沈んだ気分になる。

歌やダンスや人気の面で愛理をうらやましいと思うことは多くあったけど、
梨沙子との関係でも正直愛理がうらやましい。
73 :風の中の愛理 :2013/07/11(木) 21:17
あたしが悶々と過ごしている間、あっという間にその日はやってきた。
あたしはもうだいぶ早い時間帯に家を出た。

℃-uteじゃないところで愛理に会うのは何だか緊張するし、
雅ちゃんに会うのはもっと緊張すると思った。
ももちゃんはまだいじられキャラだし大丈夫かもしれない。

ベリキューでこんなことを悶々と考えるのはあたし一人かもしれない。
Buono!に会うこと自体あたしにとってはプレッシャーだった。
あたしは三時から始まるライブなのにお昼すぎには会場に着いていた。

風はなかったが真冬だけあってちらほらと雪が舞っている。
そのせいで見渡すとあたりは真っ白な霧に包まれたように白くかすんでいた。
74 :風の中の愛理 :2013/07/11(木) 21:19
会場周辺に目立つものがないせいか、雪の色そのままの空と
周囲のビルが溶け込むように同じ色をしている。
かろうじて黒っぽいライブ会場の建物だけがやっとの思いで
そこにあることを示していた。

すでに集まり始めたBuono!のファンの人たちが熱気を内に込めている。
ファンの人たち盛り上がりすぎて風邪ひかなきゃいいけど。
まさかこの雪で電車が止まることはないよね。
あたしはそんな心配をしながら楽屋に向かった。

三人はもう会場入りしているはずだった。
詳しいスケジュールを確認していいなかったので、
ゲネプロや最終確認で会えない可能性もあったが
それでも時間ギリギリに行くよりもましだ。
75 :風の中の愛理 :2013/07/11(木) 21:21
楽屋に入ると三人は昼食休憩をとっているところだった。

「あ、なっきぃ早いね」

愛理があたしを見て手をあげた。

「みんなお疲れ様でーす。応援に来たよ」

元気よく言ってあたしは持ってきたシュークリームの差し入れを見せた。

「わあ、なっきぃありがとう!」

そう言って雅ちゃんが駆け寄ってきてくれる。

「なっきぃ、これ可愛いじゃん」

雅ちゃんがあたしが着ているチェック柄のコートを見て褒めてくれた。
その黒目の奥にわずかに灯る1点の火が
たちまち雅ちゃんのキラキラした表情を作り出す。

「え、そうかな。ありがと」

雅ちゃんの可愛さにあたしは息が止まりそうになった。
76 :風の中の愛理 :2013/07/11(木) 21:23
「みんな、頑張って」

威勢良く言うあたしがどんなに緊張してテンパっているか、
きっと雅ちゃんと桃ちゃんには分からない。
もしかしたら愛理は何か気づいているかもしれない。
いや普段何も考えてない愛理のことだからあたしの細かい反応
なんてきっと分からないだろう。

「なっきぃ何色のサイリウム使うの?」

ももちゃんの質問にあたしはにやけてさっと緑と赤のサイリウムを取り出した。

「もうー」

ももちゃんがふくれっつらをする。

「さっすがなっきぃ」

雅ちゃんが言ってくれてだいぶ場に打ち解けることができた。
愛理はというとあたしが来たというのに少し奥に引っ込んだところに座っている。
77 :風の中の愛理 :2013/07/11(木) 21:24
「あの、梨沙子は?」

あたしは愛理を見て言った。
愛理は首をかしげるとよく分かんないという表情をした。

「梨沙子はギリギリになんないと来ないと思うよ。
 待ち合わせしてんの?」

雅ちゃんがそう言うとあたしはブルブルと首を横にふった。

その後三人は最終の打ち合わせがあるため、あたしは応援席に移動した。
愛理とは緊張してるせいかあまりしゃべれなかったなと
あたしは後になって後悔した。

℃-ute同士だから愛理も遠慮したのかもしれない。
いろんなことを考えながらあたしは席についた。

関係者席は二階で、まだ開場が始まってないせいで階下には誰もいない。
時々スタッフさんが配線や照明のチェックに走り回る姿が見えた。
78 :風の中の愛理 :2013/07/11(木) 21:27
梨沙子と何を話したらいいんだろう。
無言が続いたらやだなあと思いながらあたしはきょろきょろと
あたりを見回していた。

梨沙子だからやっぱりファッションとかメイクの話か。
あたしも興味はあるけど全然傾向が違う感じがする。
噛み合わなかったら微妙な空気になりそうだ。
まあそれでも何か共通の話題でもあればいいのかもしれない。

これを機会に仲良くなれたら二人でご飯行けたりするのかなとか
あたしは普通にBerryzのメンバーに会うだけなのに、
やたら大げさに考えてしまっていた。

ふとステージを見ると愛理がひょっこり姿を現すのが見えた。
そのうち横から雅ちゃんと桃ちゃんも出てきて会場の
端から端まで見渡すように見ている。

あたしの視線は愛理に釘付けになった。
近い距離でいるときはいつもいっしょで慣れてる愛理のよりも、
あたしは雅ちゃんや桃ちゃんとうまく話そうと立ち回るのに大忙しだ。
でもこうやって遠くから見ると愛理を一番見つめてしまう。
79 :風の中の愛理 :2013/07/11(木) 21:30
Buono!のスタッフさんもステージに出てきて
最終の打ち合わせらしきものを始めていた。

今回はマイクスタンドをもってパフォーマンスをするので
ぶつからないように距離を確認している。

「ここはこうした方がよくないですか?」

わずかに愛理が話してる声があたしのところまで届いた。
三人の中で愛理が一番自分の意見を主張しているように見える。
真剣にスタッフさんと話をしている愛理の表情を見ると
もう完全に子供の時代を脱ぎ捨てて新しい段階に進もうとしている
愛理をはっきりと感じた。

あたしの方は−。
引っ込み思案だしその場を取り繕う癖が抜けないから
適当に元気そうに返事してなんでも終わらせてしまいそうな気がする。
大人といえば大人なのかもしれないけど
あたしの方がまだまだ課題は多いように思う。

「なっきぃ」

その時自分を呼ぶ声がしたからびっくりした。
特徴的な声のせいでそれが梨沙子だとすぐに分かった。
80 :ES :2013/07/11(木) 21:31

今回の更新を終わります。
81 :風の中の愛理 :2013/07/18(木) 17:18
「あー。りーちゃん」
意外にも自然に声が出せたと思った。
梨沙子はあたしを見るとにこりと笑った。
梨沙子が親しげに接してくれてほっとしたのと
うれしいという気持ちが同時に起こってこっちも
思わず笑顔になる。

「早いね」

そう言いながら梨沙子はあたしの隣の席に座った。

会場が薄暗いせいで梨沙子の顔は輪郭だけが仄かに見える。
シルエットのように見える睫毛の下にすっと通った鼻筋に白い頬が
浮かび上がっていた。

一目見ただけで完璧な美少女だと分かってしまう。
梨沙子といると何か日本人離れしたおとぎ話の世界にでも
自分がいるように錯覚した。
82 :風の中の愛理 :2013/07/18(木) 17:20
「どうしたの?あたしの顔に何かついてる?」

「うんっいいや。何でもないよ」

あたしは笑って首を横にふった。

「ずっとメールしようかと思ってたんだけどね。
 ついしそびれちゃって。なっきぃだから大丈夫かなって思って」

梨沙子は暗がりでもはっきり分かるくらいまじまじと
あたしを見つめたかと思ったら、急に切ない顔をして
あたしから視線を外した。

「へ?」

あたしは「大丈夫」って言葉の意味が掴めなかったのと
梨沙子の横顔に見とれてしまったのとで適当な言葉が出てこない。
83 :風の中の愛理 :2013/07/18(木) 17:22
「なっきぃならさ。よく知ってるし事前にメールなんかしなくても
 だいじょぶかなって。ごめんね」

梨沙子はそっと舌を出すような感じで言った。

「あ、あたしもさ。メールしようかと思ってたんだけどね。
 愛理からもう連絡来てるかなって思って。
 りーちゃんて愛理と仲いいでしょ?」

あたしは梨沙子が答えるのも待たずにとりあえずぽんぽんと話し出す。
緊張するとこっちから何でもしゃべってしまう。
いつもの癖だ。

「でもりーちゃんは雅ちゃんとも仲いいよね」

「うん。Buono!のメンバーとは仲いいよ。約1名を除いてね」

それが桃ちゃんのことを言ってるのはすぐに分かった。
梨沙子がすました顔で言ったからあたしは思わず笑ってしまった。
84 :風の中の愛理 :2013/07/18(木) 17:24
なっきぃ、昔とイメージ変わった」

梨沙子が柔らかく頬をふくらませて言った。

「そうかな」

言いながらもあたしは何を言われているのかは大体分かる。

「前はすごく大人しいイメージだったけど。
 今はよくしゃべるし明るくなった。
 あ、ごめんね。何か上から目線かな」

「ううん。そんなことないよ。なかさきちゃん時代長かったからね」

引っ込み思案でまだまだヘタレな部分は変わらない。
85 :風の中の愛理 :2013/07/18(木) 17:26
でも弾けてたいし、もっとぶっちゃけたところも出していきたい
という欲求があたしにはあった。
そういう意味では今の性格の方が前向きになれそうな気がしていた。

梨沙子とは原宿でよく行く店の情報を交換し合ったり、
一緒にご飯を食べに行く約束までしてライブが始まるまでの間
盛り上がった。

近寄りがたいイメージっていうのは完全にあたしの思い込みだった。
何かの拍子に急に遠慮がちになったりする梨沙子は男の人から見たら
小悪魔みたいなのかもしれないけど、
逆にあたしから見たら隙だらけでつかまえやすい感じがした。
86 :風の中の愛理 :2013/07/18(木) 17:28
館内にはいつの間にかたくさんの人が入っていた。
ざわざわと低い音と時々メンバーを呼ぶ声が木霊して
ライブ前の緊張感を伝えてくる。

あたしはまるで自分がこれからステージに立つみたいな気がして
鼓動が高鳴る。

赤と緑とピンクのサイリウムがチラホラと見え始めた。

「りーちゃんは、何色で応援するの?」

あたしがそう聞いたときにはすでに梨沙子は雅ちゃんの
赤色のサイリウムを握りしめていた。
あたしはそれを見て思わず苦笑した。

「なっきぃは?」

「あたしは一応℃-uteの代表だから」

照れなのか強がりなのかよく分からないけど、
あたしはそう言いながら愛理の黄緑色のサイリウムを見せる
87 :風の中の愛理 :2013/07/18(木) 17:30
「まあでも一応三色分持ってきてるよ」

あたしは他に雅ちゃんの赤色、桃ちゃんのピンクを見せる。
律儀なのかどうか分からないけどあくまで表向きは
Buono!の三人を応援しに来ているのだ。

「そうなんだ。あたしは赤しかもってきてないけどね」

梨沙子は当然のようにさらりと言い切った。

「分かりやすいなあ。りーちゃんは」

あたしはうれしくなって笑って言った。
88 :風の中の愛理 :2013/07/18(木) 17:32
同時にそんな雅ちゃん一筋の梨沙子を愛理や桃ちゃんは
どう思うんだろうと考えた。
でもあの二人は本気で梨沙子に
「みやだけじゃなくあたしのことも応援してよ」
なんて思ってはいない気がする。

桃ちゃんは見た目よりも中身がずっと大人だし、
愛理はメンバーに対しては一定のクールさみたいなものを持っていて、
ファンとメンバーとははっきりした区別をしていそうだった。

さっき梨沙子と話した時も歌やハロプロの話題に愛理の名前が
意外に出てこない。
プライベートでは仲がよくても仕事上の関係は
案外そうでもないのかもしれない。
89 :風の中の愛理 :2013/07/18(木) 17:34
「愛理と仲がいい子」
 
あたしは梨沙子をずっとそんな目で見てきた。
あたしは、昔から愛理のことが好きだったから
愛理と仲がいい子が正直うらやましかった。

愛理ともっとたくさん話したいと思っても何となく
愛理とは波長が合わない気がしてしまって、
あたしが話しかける相手はいつも栞菜や千聖だった。

そんなあたしは愛理と仲がいい子と仲がよくなることで、
何となく自分を満足させてきたように思う。
℃-uteで言えば特に栞菜がそうだった。
愛理といつも一緒にいる栞菜はあたしと愛理の架け橋みたいになってくれた。
90 :風の中の愛理 :2013/07/18(木) 17:35
そして同じように愛理と仲がいい子が梨沙子だった。
梨沙子はそれこそキッズが結成された頃からずっと
双子みたいに愛理と一緒にいた。

だから栞菜と同じであたしにとっては長い間ずっと気になる存在だった。
でも栞菜と違って梨沙子の方はBerryz工房というお姉さんグループに
がっちりと守られたお姫様みたいで簡単には近づけなかった。

でも長い時間がそれを許したのか梨沙子は今、
簡単に手が触れられるぐらい近い距離にいる。
そのこと自体があたしをとても不思議な気持ちにさせた。
91 :風の中の愛理 :2013/07/18(木) 17:39
梨沙子はまっすぐにステージ上の一点を見つめている。
その先にはまだ登場していない雅ちゃんの姿が
梨沙子の瞳を通して伝わってくるようだった。
赤いペンライトを握りしめて祈るように見つめる
梨沙子の表情はとても真剣で。

それでも赤く燃えるような目つきでステージを見つめる姿は
まるで本当に恋をしているようだった。

そのとき、青白い光線がスクリーンに映し出された。
同時にBuono!の曲「GOAL」が流れ始める。
ステージに現れた三本の光の筋の中、
中央に愛理の姿が見える。

続いて両脇に雅ちゃんと桃ちゃんの巨大な画像が映し出された。
でもまだその姿は舞台上に映る映像の中の世界だ。
92 :風の中の愛理 :2013/07/18(木) 17:41
こうやって観客席にいると愛理が遠い人のように思える。
自分が愛理の仲間でもチームメイトでもなく、
一度も話したこともないただの「鈴木愛理のファン」で
こうやって愛理を応援しに来ている。
自分のことをそんな風に思った。
思わず隣の梨沙子を見ると呆気にとられているように
口を半開きにしてステージを眺めている。

自分がステージに立つときは圧倒的なパフォーマンスで
ファンを虜にするくせに今の梨沙子は初めてライブに来た子供みたいだ。
あたしはその時、あたしなんかよりずっと可愛くてずっとすごい人だと
思ってきた梨沙子に初めて親近感というか親しみを感じた。
93 :風の中の愛理 :2013/07/18(木) 17:43
三人が本格的に登場して、もうそれからあたしは、
一瞬も我に帰ることも隣の梨沙子を気にかけることも出来なかった。
ただライブに釘付けになって愛理の歌声とパフォーマンスに
吸い込まれていった。
梨沙子もきっと同じだったと思う。

ライブ中あたし達は一言も会話を交わさなかった。

愛理はどうやって普段の性格からは考えられないような
攻撃的な表情を出せるんだろう。
普段はおっとりしていてロックと愛理は一番遠く離れた存在のはずだったのに
今の愛理はガールズバンドのボーカルそのものだった。
そして、ファンへの煽りも℃-uteの比じゃない。

「もっと!まだまだ!」

繰り返す愛理の声はアイドルの領域なんて遥かに超えてしまっている
ように見えた。
94 :風の中の愛理 :2013/07/18(木) 17:45
もはやここまで潜在性を秘めたメンバーと一緒のグループを
組んでいることが怖くなる。
それでもあたしは愛理を見つめて黄緑のサイリウムを振り続けた。

上から見ていると緑と赤とピンクに彩られた会場は本当にきれいだった。
歌割りに合わせて三色が素早く入れ替わり歌とサイリウムがきびきびと
アップテンポのリズムを刻む。

愛理が歌うときはその瞬間だけ、音に合わせて
突然現れた蛍の大群みたいに黄緑色が全体を包み込んだ。
あたしはその動きに完全に見とれていた。
95 :風の中の愛理 :2013/07/18(木) 17:46
「なっきぃ?」

梨沙子に耳元で言われてようやくあたしは我に返った。
梨沙子が目をぱちくりさせてこっちを見ている。
気がついたらアンコールも終わってファンのみんなも
帰り始めているときだった。

「ああ、もう終わっちゃったんだ」

あたしは思わず言った。
すると何故か梨沙子はあたしを見てクスクス笑っている。

「なっきぃって何か愛理に似てる」

「え?愛理に?」

梨沙子にそんなこと言われるなんて思ってもみなかった。
96 :風の中の愛理 :2013/07/18(木) 17:48
「何かに集中すると周りが見えなくなるところ」

「えー?そうかな?」

完全にライブに夢中になっていたあたしは
「確かに」とそう思いながらも少し大げさに否定してしまった。

でも梨沙子はそんなあたしをじっと見ている。

「でもいいと思う。だって何か目がキラキラしてたし。
 可愛いって思った」

梨沙子の方が可愛いつぶらな瞳でそう言うから
こっちのほうがだいぶ恥ずかしくなった。

梨沙子は何かをあげたくなる可愛さとでも言うのだろうか。
妹みたいな存在ともまた違う。
梨沙子はあたしなんかよりよっぽど大人っぽかった。
97 :風の中の愛理 :2013/07/18(木) 17:49
「ちょっとあたしにそんなこと言っても何も出てこないよ。
 今日は差し入れのシュークリーム以外何ももってきてないし」

あたしは笑いながら言う。

「別にそんなつもりで言ったんじゃないよ」

梨沙子は少し不服そうに笑った。
98 :ES :2013/07/18(木) 17:49

今回の更新を終わります。
99 :風の中の愛理 :2013/07/25(木) 20:54
「そうだ。あたしシュークリーム早く持ってかないと」

あたしは差し入れを配るという大事なことをようやく思い出す。

「来たときに渡さなかったの?」

「うん。終わってからの方が何となく喜ばれるかなって思って」

あたしは答えた。

「生ものだったら早く持っていったほうがいいよね。
 終わってすぐだったらスタッフさんにも配れるし」

梨沙子が席から立ち上がって言った。
あたし達は関係者用の入口に向かった。
100 :風の中の愛理 :2013/07/25(木) 20:55
「りーちゃんは?何か持ってきたの?」

「あたしは・・・食べ物じゃないから後でいいよ」

梨沙子は歩きながらバッグから赤いリボンがついた
小物を取り出した。
それはまるで誕生日に送るプレゼントみたいにきれいに
ラッピングされていた。

バッグの中には他に黄緑色とピンク色のリボンのものが
大事そうに収められている。

「へえ。可愛い」

「三人へのメッセージも書いたんだ」

梨沙子がはにかみながら笑った。

梨沙子が手に持った透明なフィルムから
手紙らしき可愛い封筒がのぞいている。

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