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作者フリー 短編用スレ 8集目

1 :名無飼育さん :2012/08/28(火) 01:40
このスレッドは作者フリーの短編用スレッドです。
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前スレ 作者フリー 短編用スレ 7集目
ttp://m-seek.net/test/read.cgi/dream/1251815658/
536 :名無飼育さん :2015/08/05(水) 23:47
待機
537 :管理DD :2016/02/10(水) 21:09
test
538 :名無飼育さん :2016/03/24(木) 19:15
『矢島と鈴木と犬の話。』

お邪魔致します、やじすずです。
539 :矢島と鈴木と犬の話。 :2016/03/24(木) 19:16

冬のコンサートが始まったと思ったら、メンバーの内3人の誕生日がひと息に来て
あっという間に季節を跨いで、自然と仕事も春に向けた内容にシフトしていく。

そうか、もうすぐ1年が経つんだなって、ふと気付く。

気懸かりな彼女のことが真っ先に思い浮かんで少しだけ苦い気持ちになる。
大切な思い出の日だって同じように巡るけれど。
お別れした日を受け止めるのにはきっと時間がかかる。
去年は夢の舞台がその先に控えていたから、消化しきれない気持ちもまとめて飲み込んで走るしかなくて。

舞美ちゃん覚えてるかな、はっきりと答えをもらったわけじゃないけど、多分伝わったとは思う
まぁ、後日、メンバー皆同じ事を考えていたことを知って何だか可笑しかったけれど。

でも、何となくだけど舞美ちゃんの無意識は
もしかしたら私が欲しい答えと繋がっているかもしれない。
舞美ちゃんが私を構いたがるの、きっと自惚れじゃないと思うんだ。

あの日のほんの少し顔を覗かせた弱くて脆い舞美ちゃんのこと
すごく、愛しいと思ったんだよ。
だから、幸せな一日を押し流そうと待ち構える何かに抗うように。
もう一度…何度でも伝えてあげる。
540 :矢島と鈴木と犬の話。 :2016/03/24(木) 19:17

──────────────────────

────────────
──────
───
541 :矢島と鈴木と犬の話。 :2016/03/24(木) 19:17

レッスン着に袖を通して、「もう春だなぁ」なんてふわふわと思考を漂わせながら
近くの椅子に腰を落としてぼーっと視線を巡らせれば、
少し離れた席でスマホを覗き込む舞美ちゃんが映り込む。
他のメンバーはついさっき「飲み物とってくるー」と騒がしく楽屋を後にしたばかりだった。

だからかな、何となく、その背に手を伸ばしてみた。

指先の向こうに重なり合う彼女の背中は届きそうで届かない。
当たり前か。
と、物理的な距離を考え冷静に一人つっこみ。
誰の目も無いから、私以外につっこみようもないのだけど。
これはただの無意味な一人遊びだから別に良い。

偶に、こうして確かめたくなる時がある。
微妙な距離を保ち続ける舞美ちゃんと私の関係はすごく曖昧で
一時だって形を得ることは無い。

4 :test :2014/03/11(火) 12:28

それでも、ふとした瞬間
いつも絶妙な距離にある
指先を伸ばしてほんの少し届かない背中
かと思えば呼びかける声が喉を震わせるより早く
私の視線に気付いて、いつもの笑顔で振り返る

それから、一歩

埋まる距離。
体ひとつ分、舞美ちゃんから私に。

私の手があなたに届く距離。

舞美ちゃんがくれる一歩を待って、私はいつも立ち止まる。


以前なら迷い無く私の手は舞美ちゃんを掴まえていた。
変わったのは多分、胸の内に僅かに生まれた疑問のせい。

引き合う糸を手繰るこの手を緩めたら
はたして彼女は何処へ向かうのだろうか、と。

焦がれる気持ちの暴走などでは決して無く
もっと単純な、偶然見かけたクイズ番組の解答をそう言えば見損ねたなと
そんな程度の心持ち。
542 :矢島と鈴木と犬の話。 :2016/03/24(木) 19:18

伸ばした手の平をぐっと握って下ろすと、タイミング良く舞美ちゃんが振り返る。
ばっちりと合ってしまった目が疑問を投げかけてくるのを見て取り
「何でもないよ」と立ち上がって彼女の後ろへと回り込む。

「やじー、何見てたのー?」
背中にじゃれつくように圧し掛かり手元を覗くと
「一緒に見る?」って差し出された画面に映る、新曲のプロモーション用に撮影した動画。
腹筋ってほんと舞美ちゃんらしい。

「動画なんて見れるようになったんだ」
「へへーすごいでしょ?」
って何だか褒めて欲しそうにしてるから
「えらいねーやじー」って、撫でてあげると嬉しそうに目を細める。

手近な椅子を引っ張ってきて並んで画面を覗き込む。
改めて見ると舞美ちゃんが起き上がるたび、触れそうなほど近づく顔が
何だか無性に照れくさくて、たった1分ちょっとの時間が落ち着かない。
こんな時、舞美ちゃんはあまり恥ずかしがらないのがずるいなと、
ちらりと隣を盗み見る。


「この愛理さ」
待っていたかのように呼ばれて一瞬どきりとした。
画面を指した人差し指が立てられて、くるり、描く軌道
思わず目で追いかける
543 :矢島と鈴木と犬の話。 :2016/03/24(木) 19:18


「なんか、犬みたいだね」

何とも良い笑顔に着地した。

予想外の方向に放られた言葉にからかいの色は無くて
いやいやいや、それはあなたでしょうと、思わず仰け反りそうになる。

「いつも犬っぽいやじに言われたくないよー」
聞き捨てならないとばかりにぐいっと顔を近づけると
「愛理、近い近い」と笑いながら、緩く肩を押され
変な顔ーって鼻先が触れ合う距離でにこにこしてる。

構って構ってと指先で突いたり、髪の毛をちょいちょいと引っ張ってきたり
いたずら好きでやんちゃな、お散歩が大変そうな子。

そう返すと「そうかなー?」と不服そうな声を上げつつも、やっぱり笑顔で。
「やじはお利口さんなんだぞ?」
って、上目遣いで、照れたように体をぶつけたりしてきて。
相変わらず可愛い人だな、なんて不覚にも思ってしまったのだけど。


「なんかね、この、座ってね?おすわり、みたいな格好で見上げてるのがね」

「待て、されてじーっと見つめてくるわんこにそっくりだなって」

そう言って、無邪気に陽だまりのような笑顔を向けるこの人は
恐らく視線の意味になんて気付いてはいないだろう。

悔し紛れに、唇を上下にぶにっとつまんでやったら
思いの外、面白い顔になってしまったけど
残念。今、私の手には記録に収める術がない。

むーむー言ってる唇を諦めて解放してあげながら、ぷくっとしているほっぺたをつつくと
二人して噴出して、かかる息がくすぐったい。
544 :矢島と鈴木と犬の話。 :2016/03/24(木) 19:18

子供っぽくて、落ち着きが足りなくて、たまに困っちゃうこともあるけど。
でも、素直でとても真っ直ぐで…。
不意に弱った瞬間私の手を取ってくれるから

幼かったあの頃からずっと、私の目が自然と彼女を追ってしまうのは
だから、多分癖なのだ。

今更何を望む気は無くとも屈託無く笑って指摘されれば
それは当然、気恥ずかしい。

鈍感な舞美ちゃんが悪い
と、すこしばかり手荒な私の反撃にも
何だか嬉しそうなのだから、本当に困る。

無遠慮に頭を撫で回す手つきに迷惑顔を作って呆れて見せても
舞美ちゃんの温かな手に触れられると安心してしまう私も大概かもしれないけれど。

過去のときめきを返せなんてこれっぽっちも思わない程度には
私は彼女のことが好きなのだから仕方ない。


そんないつも通りのじゃれあいをしている間に楽屋に騒がしさが戻ってくる。
「そろそろ時間だね」って言う舞美ちゃんに頷いて、
よーしっ!と気合入れて立ち上がったら「愛理、がに股」ってまた笑われた。
545 :矢島と鈴木と犬の話。 :2016/03/24(木) 19:19

舞美ちゃんにとって、年下の女の子は皆小動物のように見えているのではないかと
若干不安になることもあるけれど、私は恐らくその枠には入っていなくて。
だから、犬のようだと言われたのは少し意外だった。

世間的にも大人になって、流石にもう理想の王子様だなんて憧れは無い
けれど、凛とした強い眼差しに、はっとして惹きこまれる瞬間は幾度もあるし。
やっぱりかっこいいなと思ってしまう。

女性らしくないというわけではないけど、どうにも立ち居振る舞いが紳士的に見えてしまうのも否めない。
実際、いつか「舞美ってさ、男に生まれるべきだったと思わない?」と言われて本人も納得してしまっていた。


そんな舞美ちゃんにとって「愛理は女の子」で、それは舞ちゃんが「妹」を独占してるのと同じくらい
彼女にとって変わらない基準の一つなんだと思う。

誰に対しても優しい彼女は、昔から私に対しては何と言うか、無闇に優しい。
子供の頃は、壊れ物を前に恐る恐ると戸惑うかのようで
"大切に扱われすぎていた"のだと今にして思う。

不器用な舞美ちゃんらしい、ぎこちない触れ方だったけれど
大切にされている事は十分すぎるほどに伝わっていたし
それが、なんだかまるでお姫様にでもなったようだと
幼かった私は純粋にくすぐったくも嬉しくて
546 :矢島と鈴木と犬の話。 :2016/03/24(木) 19:19

隣に居るだけでふにゃふにゃとだらしなくなる顔と
自分でも信じられないほど甘ったるくなってしまう声で
舞美ちゃん、と呼べば
「どうした愛理?」って優しい声と
包み込んでくれるその腕に身を委ねて。
何度、あなたに大好きだと伝えただろう。

このままずっと腕の中に囲われていたいと思うほどに
彼女が与えてくれる温かな時間は手放し難く
甘やかな安らぎに溺れることはひどく心地が良かった。


ただ、無条件に甘えられる最年少でもなく
無邪気に自己主張できる程の勇気も無くて。

舞美ちゃんと肩を並べる彼女との間に
私には知りえない心の共有があるだろうことも感じていたし

周囲の大人たちが私に求める期待と、急速に高くなる目の前の壁を
自分の力で乗り越えなければならない事も理解していたから。

彼女に特別を求めるほど欲張りにはなれず

『愛理は私なんかよりずっと大人だね』
なんて、舞美ちゃんはズルいなと少しだけ寂しく思ったけれど。


胸の内に密やかに生まれたけぶる霞のような淡く仄かな感情に、
私は名前を付けることはしなかった。

547 :矢島と鈴木と犬の話。 :2016/03/24(木) 19:19

それでも、5人になって不安と不満の只中で孤立する痛みと
身動きも取れない閉塞感の中、呼吸すらままならず
結局、舞美ちゃんに逃げ場を求めた。

ためらいも無く差し出される彼女の優しさを
自分を守る殻の内側で利用し続けたずるい私にさえ
きっと舞美ちゃんは気付いていたけど何も言わなかった。

舞美ちゃん自身に向けられる苛立ちすらも受け入れてしまえる強さに
呆れるほど途方もない愛情を見て
そうして、どうしようもなく彼女に守られているのだと思い知る。


めまぐるしく動く不安定な世界の中で、
どうしようもなく心が磨耗したとき
求めればいつだって腕の中に迎え入れてくれて。

「大丈夫、なんとかなるさ」って
その笑顔一つで私はカタチを取り戻せる。

どれだけ見える世界が歪でも、ただ真っ直ぐに道を示し手を引いてくれる人だから。

舞美ちゃんだけは絶対に私たちの手を離したりしない
それだけは疑いようも無く信じられるんだ。


与えられるばかりの自分がもどかしくて
どうしたって埋めることの出来ない年の差に焦った時期もあって
ならばせめてと思った目線の高さもほんの少し届かないまま
追いつくことは出来なかったけど

相変わらず少なくない悩み事や気持ちを重くする何かを
私たちには伝えてくれなくても
それが舞美ちゃんだからと思えるぐらいには余裕が出来た。
548 :矢島と鈴木と犬の話。 :2016/03/24(木) 19:20

多少のことではびくともしない舞美ちゃんの背中を見ていると
なんだか悪戯心に駆られて、加減もせずに飛びついたり噛み付いたり
私の体が大きくなっても受け止めてくれる安定感は変わらないのが嬉しくて。
扱いが乱暴だと言いつつも、舞美ちゃんも変な遠慮をしなくなった。


変わり続ける環境と感情と、私たちの距離。

幼い頃のような、どこか夢のようなふわふわとした甘やかな空気はなくとも

鮮やかでにぎやかな、子供っぽくじゃれ合える
今の関係が私は気に入っていたりもする。

いつか想いの色が重なればと思うこともあるけど。
私自身、過去の残影を引きずっているだけなのか
この感情に答えは出せていないのだから
確かな気持ちが返ってくるはずも無いし。
このまま、この気楽な距離で良いかなとも思う。

彼女の嘘の無い笑顔が、私たちが拠り所になれていることを教えてくれるから。
今はそれで満足。
549 :矢島と鈴木と犬の話。 :2016/03/24(木) 19:20


午後に入り、食事を終えると少しの空き時間。
飲み物だけ取りに行って楽屋のドアを開けると
中に居たのはソファーに座る舞美ちゃん一人で
おかえりーって掛けてくれた声に
ただいまって返してそのまま舞美ちゃんの膝に頭を預けて
ごろーんとソファーに体を横たえる。

「やじ枕かたーい」
「なんだとぉー?」

ふにふにと頬を突かれて
がぅ、とあまり可愛くない鳴き声を発して噛み付こうとしたら
逃げる指先

うぅーって唸ったら、また指先が近づいてきて鼻をつつくから
それを追って口を開けると、楽しげに笑ってまた逃げてゆく


「こらっ愛理!くすぐったいよー」

にひひっ、と笑いながら仕返しとばかりに舞美ちゃんの腰にしがみつく様に腕を回して
ぐりぐりとお腹に顔を埋めると、くすぐったそうに声を上げ身をよじる

「もぅ、愛理さんは甘えん坊だなぁ」
「んふーっ、やじあったかーい」

体は大きく揺れるけれど、舞美ちゃんの手は私の体にそっと置かれているだけで

ぎゅーっと一度強く抱きついてから、腕の力を抜いて
大人しく彼女の膝に頭を預けていると
細く長い指先が優しく髪を撫でてくれる

心地よさにまどろむ様に目を閉じて
されるがままゆっくり、ゆっくりとすべる指先の温かさを感じていた。
550 :矢島と鈴木と犬の話。 :2016/03/24(木) 19:21

「やっぱり愛理、犬みたい」

優しく降ってくる笑いを含んだ声に、けれど僅かな違和感。
ふっと、見上げた舞美ちゃんの目は、酷く優しい慈しむような深い深い愛情の色を湛えていて
けれど捉えているのは私ではなく、どこか遠く、何かを懐かしむように


とても、とても静かな笑顔だった


いつもなら瞳の中いっぱいに閉じ込めた気持ちが、
細められた目からこぼれ落ちてしまいそうで
言葉や擬音が聞こえる気すらするのに

あぁ、と思い至って舞美ちゃんに手を伸ばすと、
今度はしっかりと私を映して、ん?って顔を近づけてくれる

「私が犬なら、やじが飼ってよ」

「えぇー?どうしようかなぁー」
「悩むんかいっ!そこは喜んでよ」

「だって、すぐはしゃぐでしょ?」
「疲れてても元気になれるよ」

「マイペース?」
「癒されるよぉ」

「あー、でも何処でも寝るからなー愛理は」
「やじのかたい膝枕でも寝れるー」

「何それ」って膨れるやじに、いひひっていたずらっ子みたいに笑って
両手で頬ををむにむにと挟んでやればくすぐったそうに笑ってくれるけど
細められた深くて黒い瞳はやっぱり、静かでほんの少し寂しげで


ねぇ、知ってるよ。

悲しいんでしょう?

まだ寂しくて、苦しいんでしょう?



だから、体を起こしてじゃれつくように舞美ちゃんの肩に顎を乗せて
その背に手を回す

そういえば、オーディションに受かる前から一緒だったのはその子だけだって言ってたね。

大きなお別れが続いたのに、全然大丈夫な筈なんてなかったんだ。
何でも無いような顔をしてこの人の心は疲弊しきっていたのだろう。
551 :矢島と鈴木と犬の話。 :2016/03/24(木) 19:22

「ほらほら、素直になりなよー」
「何その自信」
「なんででしょー」

「私、構いたがりだよ?」
「うん、知ってる」

「噛まないでね?」
「んふふーでも脱走はしないから安心していいよぉ」

ぽんぽんと優しくあやすように背を叩かれて
たまらなくなったけど、きっと今は顔見られたくないだろうから首筋に
顔を埋めたまま背中に回した腕にぐっと力を入れる


ねぇ、もっと甘えてよ。
沢山貰った愛情の分、元気にしてあげる。
舞美ちゃんの笑顔を愛理が守ってあげる。

あなたが望むなら
何度でも、何だって差し出すよ。
私の全部で抱きしめてあげるから。


「ずっと、ずーっと舞美ちゃんだけの可愛いわんこで居てあげるー」
「ふふっ、そっかそっかー」

笑い声にいつもの温度を感じて、体を離すと覗き込んだ舞美ちゃんの目は
とても嬉しそうで、だから、元気になれーっとほんの少しだけぎこちなく弧を描く
その唇を犬みたいに舐めてやると「こらっ愛理ーっ!」って、額を合わせて
わしゃわしゃと両手で私の頭を撫でてくる


大丈夫だよ、私は舞美ちゃんより先に旅立ったりしないから
これからも一番近くにいるよ



言葉にせずに、もう一度彼女の目を覗き込むと
温かな春の日差しに目を細めるように、キラキラととても嬉しそうに笑ってくれて

たまらなく幸せな気持ちになった

────────
──── 


END
552 :矢島と鈴木と犬の話。 :2016/03/24(木) 19:22
以上です。お目汚し失礼いたしました。
去年考えたネタの上、初投稿でつたない表現等気になる点が多々あるかと存じますがご容赦頂ければ幸いです。
553 :名無飼育さん :2016/03/24(木) 19:32
>>541 コピペミスしましたすみません。
554 :名無飼育さん :2016/03/25(金) 18:37
ずっと近くにいる二人に幸せを頂きました
更新ありがとうございます
555 :狸寝入り :2016/03/30(水) 22:09
蛙が風邪を引いたときみたいな声で泣くものだからめちゃくちゃうるさい。

「ちょっとー、大事なところなんですけどー」

昼下がりのテレビに流れる「ウルトラマン」。
今すべきことは、ジャミラが復讐に燃えている姿を見届けることだ。
二人で遊んでいるときに、一人が泣き出したら、優しく声をかけるのが通常である。ただ、例外もあって。
例えば、相川茉穂がそうである。
熊でも逃げてしまいそうな鋭い目つきで言ってやる。

「うううううううう」

だが、佐々木莉佳子は友人の言葉になおさら刺激を受けたらしい。より激しく泣き出してしまった。

「ち!」

バッとティッシュを掴み取り、泣きじゃくる莉佳子の顔に押し付ける。ふああ、とくぐもった声がするが、水をかけられた怪獣が気の毒でそれどころではない。
エンディングテーマが流れ出したとき、あれ、そういえば佐々木は、と振り返ってみると、声はいつの間にか止んでいた。
びしょ濡れで重たくなったティッシュを退けてみると、あったのは瞼の降りた目。濃い睫毛はもう水気を含んでいない。

ベッドを背もたれにして、体の力を抜いた姿勢。口は小さく開いており、空気がそこを行ったり来たりしていた。
こいつめ、と思う。
よくジャミラが大変なときに寝ていられるものだ。自分のことは棚にあげて、全開になっているおでこを指ではじいてやった。
何度かぺちぺちと攻撃してみたが、反応は無い。よほど寝入っているらしい。
体を近づけて離すという往復運動のあとも、莉佳子と目が合うことは無かった。

それを見ていて、茉穂は吹き出す。人差し指で莉佳子のほっぺたを押してみたら、太い眉毛がひょこりと上がって、お腹を撫でられてる犬みたいな顔になった。

「赤いよ」

指摘しても頑なに態度を崩さず、目を開けない

その隙にテーブルのグラスを手に取り、喉を潤した。
怪獣贔屓の茉穂であるから、熱に強く、水に弱いとはどのようなものかを解りたい。けれども、実感できるのは、上がった熱を冷まそうとする人間らしさで、それが少し癪だった。
556 :名無飼育さん :2016/03/30(水) 22:11
以上です。
557 :名無飼育さん :2016/04/03(日) 13:19
2人ともめっちゃ魅力的で
とても好きです
558 :同じ歩幅 :2016/04/10(日) 14:00
だーさく
絶好調
559 :同じ歩幅 :2016/04/10(日) 14:01
「小田ちゃん?」

 楽屋に残る小田ちゃんに声を掛けに来た。もうそろそろ次の移動時間が近い。
 声は掛けたけれど、少し後悔した。意識が無いのかな?と疑うほどに、小田ちゃんはぼんやりと部屋のどこかをみつめている。一人の時間を邪魔してしまったかなと心配になる。

「小田ちゃん」

 一度声を掛けたのだから、二度目も同じことだと開き直って声を掛ける。小田ちゃんが声を頼りにこちらを見た。すぐに目が大きく開かれて、いつものように笑顔を見せてくる。

「石田さん。どうかしました?」
「どうかしたって……」

 小田ちゃんこそ、大丈夫? その言葉を飲み込んで、小田ちゃんに連絡事項だけを告げる。まだ視界は晴れない。何を考えていたの?

「移動だよ」
「もうそんな時間なんですか」
「そうだね。みんな集合してる」
「そっか」

 立ち上がって荷物をまとめ出した小田ちゃん。まだぼんやりしているようでもう一度小さく「そっか」と言いながら準備をしている。ため口をきいている、というよりは独り言に近いその返事に私はどう反応を返せば良いのかわからなくて、黙って見守るばかり。

「あ、先に行っててもらっていいですよ」

 こちらを向いて笑顔で言われる。いつもならその言葉に従ってしまうところだけれど、今日は少し違った。もうそんな顔をして笑ってほしくはないから。

「呼びに来たのに一人で戻れないじゃん」
「それもそうですね、急ぎます」

 困ったようにふにゃりと笑う小田ちゃん。私はいつも通りな態度を返せているだろうか。カバンの中に荷物を詰める小田ちゃん。

「疲れてる?」

 言葉が出たのは本当に無意識だった。特に何も言うことなくみんなのもとへ合流をするつもりだった。踏み入る勇気や優しさは、無神経さは私には備わっていない筈だ。それでも言葉が出てきてしまったのは、

「そんなこと無いですよ」

 きっと私も同じように感じているから。

「あ、そ。まあいいや」
560 :同じ歩幅 :2016/04/10(日) 14:01
 笑顔を崩さず強がりを言う後輩は可愛くなくって。こいつはいっつもそうで、とか苛立ちがよみがえってくる。私以外には盛大に甘えるくせに、私にはそれを出していないつもりなのだろうか。こっちはそんなこと、とうにお見通しなのに。
 冷たく返すと、小田ちゃんは少し考えた後に、「はい」とまた笑顔で返してきた。
 可愛くない奴。
 準備ができたようなので、二人で楽屋を出る。道中は無言だった。そもそもどうして私が呼びに行く羽目になるのか。

『小田ちゃんがまだだから、あゆみん呼んできて』

 問答無用という顔で譜久村さんは言い放った。一瞬、自分が言われたことに気付けなくて『え?』と間抜けな返事をしてしまった。他のメンバーは、早く行けよという顔をしていた。12期は気まずそうにこちらを見ていた。私たちが代わりに行きたいですけど、この空気の中は行けません。というのが、12期の顔に書いてあった。
 二人で並んで歩いていると、たまに不思議な感覚に襲われる。小田ちゃんが、もっとくっつきたがっているような気がするときがある。実際にくっつかれたり、手を繋がれたりすることは無いのだけれど、何故だかそう思うシーンがある。
 そして今がまさにそのときで、ちょっとだけ肩が近い気がする。自惚れだったら嫌だし、自分からは絶対に寄っては行かない。それでも今日は何故だか小田ちゃんがひどく弱っているような気がして、いつもなら距離を取るところをそのままにしておいてみた。すると案の定手がぶつかる。さらに進んで手がほぼほぼ歩く度に当たる。
 もどかしい。
 そう思ってから、何だ?もどかしいって!と自分にもやもやする。繋いでしまえば確かにそれで終わるんだけれど、繋いで拒否されたら嫌だし、そもそも小田ちゃんは誰にだってこうやってくっつくのかもしれない。
 考えれば考えるほどまるで自分が小田ちゃんと手を繋ぎたいみたいで、苛立ちが増していく。
 小田ちゃんがカバンを左に持っているから悪いんだ。だから右手が当たるんだ。
 何で左でカバンを持ってるんだろうというのは、気が付かなかったことにしたかった。でも普通右利きだったら右で持つよねとか思ったら、考えが止まらなくなってしまった。
561 :同じ歩幅 :2016/04/10(日) 14:03
「ねえ」
「何ですか?」

 もしかして手繋ぎたい? と聞こうとした自分を脳内で瞬間的に鈍器で殴った。もし繋ぎたかったとしてもそんなの訊かれるのはきっと嫌だろうし、こいつは絶対認めない。

「ごめん何でもないや」
「そうですか。石田さんも疲れてるんですね」
「あ、今、"も"って言ったでしょ」
「言ってません」
「言ったよ」

 ちょっとした小競り合いが出来て安心する。

「聞き間違えですよ」
「ほんっと、そういうとこ可愛くないよね」

 思わず本音が出てしまって、当たっていた小田ちゃんの手が一瞬で距離を置かれた。
 しまった。
 今言うことではないのは、さすがの私でも分かっていたのに。

「そうですね、そう思います」

 トーンの落ちた声を出した小田ちゃん。
 胸がざわついて、冷えていく気がした。この気持ちは間違いなく後悔だった。それと同時にどこかが締まる気がして、いつも小田ちゃんに感じていた苛立ちは、本当に苛立ちだったのだろうか、途中から何かが混ざっていた気がした。

「そうじゃなくって、ちょっとは、ほらあれだよ。なんて言うか、……甘えていいよ」

 小田ちゃんが驚いた顔でこちらを見た。目は合わない。私は前を向くので精一杯だから。
 小田ちゃんの手が近い位置に戻ってくる。こうやって時々寄ってきてくれるのが嬉しい自分は間違いなく、今までにも存在していた。
 また手が当たる。
 手が当たるばかりで繋がれないので、少しだけ小田ちゃんを窺うと、ほんとですか? と顔に書いてある。

「ほんとだよ」
562 :同じ歩幅 :2016/04/10(日) 14:03
 そう返すと、遠慮がちに小指だけが握られた。小さな手は温かく、少し緊張してるみたいだった。かくいう私はめちゃくちゃ緊張している。
 何だこれ。
 胸が締め付けられているのか、内側から太鼓みたいにどんどん叩かれているのか、分からないくらいにどきどきしてる。小指だけ繋がれるってどんな状況なんだろうと思いながら歩みを進める。皆のところに合流したら、この手は離れるのだろうかと考えると切なくなった。
 背丈が近いから歩幅は合っていて、苦も無く歩き続ける。たまに握った指を確かめるみたいに、きゅっと力をこめられる。二人して手に集中しきってる気がしておかしかった。

「呼んできましたー」

 皆の姿が見えて声を掛けた。予想外なことと言えば、手は離れて行かなかった。変わらずに握られている。今日は本当に疲れているのだろう。まだ甘えたりないらしい。
 メンバー全員の視線が、一瞬バチッと繋がれた手にいったけれど、小田ちゃんの顔をみて何を理解したか誰からもつっこみは飛んでこなかった。

「すみません。お待たせしました」
「そうだぞ、おだんごー! そんで何あゆみと手繋いで「まーちゃん早く行くよ」」

 一人を除いて、つっこみは飛んでこなかった。はるなんとくどぅーがまーちゃんを引っ張ってバスへ乗り込ませる。まーちゃんはまだ叫び足りなさそうだけれど、渋々連れて行かれた。まーちゃんの発言の後も、手は離されることなくバスへ乗り込む。当然のように隣同士で座る。座るまでに一瞬手が離れることはあったけれど、座ると、また繋がれた。
 相変わらず小指だけ握られて、少し疲れてしまった。何となく動きに気を使ってしまうという意味で。
 私は疲れたから、全部繋ぐんだ。という謎の言い訳をしながら小指を小田ちゃんの手から抜いた。そのまま小田ちゃんの手に重なるように手を置いて、握った。
 二人して何も言わなかったけれど、小田ちゃんが嬉しそうなのは分かったし、私が嬉しいのもきっと伝わった。
563 :同じ歩幅 :2016/04/10(日) 14:05

終わりです。
564 :名無飼育さん :2016/08/14(日) 19:38
今さらだけどこの話のだーさくの距離感好きです
565 :7月1日 :2016/11/08(火) 17:24
たぶん、初めて会ったときから好きだったんだよね。
ももは最初から大人だったのに、一番子どもっぽくて、調子のりで頑固で変なやつで気になってた。でも変なやつすぎて、なにか気になるが好きだってことに気づいたのは随分後だった。よくケンカしたしね。ももは、本当に頑固だった。

ももと一緒にBuono!をやることになって、ももに頼ることができるようになっていった。それまでは、負けるもんかって思うことが多いのと、ちょーしのるから頼りたくなかった。
でも、ももの強さはずっと羨ましかった。これ言うの嫌だけど、あこがれてた。
そして、ちょっとあれなことがあって……。子どもだったから、告白されたのが嬉しかったんだよね。相手の子も、優しくていい人だったし。
本当なら私、あの時に辞めさせられてた。実際、それで辞めさせられている人もいたし。でも、これは後で知ったことだけどももが中心になって私がクビになるのを止めてくれたんだって。
それから、ちょっとずつももに優しくできるようになった。そしたら、ももも少しずつ変わってきた。
566 :7月1日 :2016/11/08(火) 17:25
そうやって、少しずつお互いの関係が変わっていって。
ももが受験の時に自分の気持ちに気づいた。滅多にメンバーにも弱音を言わないももが茉麻の前で泣いてたのを偶然見たの。ももが泣いてるのもショックだったけど、茉麻の前で泣いてるのが悔しかった。なんで私じゃないんだって。そこでやっと気づいた。

色々考えたけど、隠してずっと一緒にいるのも嫌だったから、ももに告白した。
そしたら「ももはアイドルだから、誰か一人と付き合うことはできない。」ってきっぱり断られたけど、好きでいてもいい、好きになってくれたのは嬉しいって言ってくれたんだ。
だから、ずっと好きでいた。好きなことを拒否されなかったから、好きだってことはずっと伝えてきた。ももも、それを嫌がらなかった。むしろ、嬉しそうだったと思う。それに、わざわざアイドルを辞めた次の日に会いたいって連絡くれた。期待して、いいと思わない?

あ。もも、来た。


「もも!……」
567 :7月1日 :2016/11/08(火) 17:28
以上です。
夏焼さんが、わざわざあの日に来ていたこと、あの破壊力満点なインスタ画像のおかげ。
568 :名無飼育さん :2016/11/08(火) 19:15
こんなところにもみやもも
最高です
569 :意地っ張り :2016/12/12(月) 00:20


だーさくさん

570 :意地っ張り :2016/12/12(月) 00:20
 この状況、おかしくない?
 石田は唖然とした。メンバー全員が小田を取り囲んで仲良く談笑している。談笑というのは適切な表現ではなく、正しくは、愛でている。
 代わる代わるメンバーが小田を膝に乗せている光景は異様だ。
 石田はその現場から逃げ出そうかと悩んだが、思うところがあり、それはやめた。この状況が、どうも腹に据えかねる。

「あ、石田さーん」

 呑気な尾形が声を掛けてくる。その表情を見て警戒をした。日頃から『だーさくさん』等と呼び掛けてくる人物に弱みを握られてはならない。
 そもそも、普段いじりすぎている小田をひたすら甘やかす日、とは何なのか。誰が言い出したのか。

「次やります?」

 おおよその検討はつく。尾形が糸を引いているのだろう。
 石田は「やらないし」とぶっきらぼうに言い放って、椅子に座った。昼公演と夜公演の間の貴重な時間に、そんなことをやっている暇は無いと、自分に言い聞かせる。

「お団子、重い!」
「そんなー、ひどいですよ!」
571 :意地っ張り :2016/12/12(月) 00:21

 小田と佐藤の声に、眉間にしわが寄る。見てみると、佐藤が小田を膝に乗せて、首元辺りに顔を寄せて匂いをかいでいる。くすぐったいのか体をよじる小田に、ますます石田の眉間のしわは濃くなった。

「くすぐったいですって」
「なーんか……亜佑美の匂いがする」
「ぶっ」

 思わず、石田は噴き出してしまった。

「えー、そんなわけないじゃないですか」

 一方の小田は至って冷静に佐藤の発言を否定した。
 ただ、石田にも小田にも思い当たる節はあった。昼公演の最中に、ステージ裏で一度だけ石田が小田を抱き寄せた。
 小田の否定に、佐藤はつまらなさそうに小田から離れて、次の生田に順番を譲った。
 少し照れながら生田の膝に乗る小田に、石田は何か嫌な予感がした。それは自分に対する、嫌な予感。

「おー、何か新鮮」
「新鮮?」
「小田に見下ろされるのが」


572 :意地っ張り :2016/12/12(月) 00:21
 そう言って生田の手が、小田の前髪に伸びる。いつの間にか石田は目が離せなくなっていた。

「デコ出しじゃないけん、余計に新鮮」

 生田が小田の前髪を右手であげる。恥ずかしそうに顔を赤くして、生田の手を抑える小田に、石田の予感は的中した。

「小田は………」

 石田は立ち上がった。その声にメンバーが振り返り、ただならぬオーラに怯んだ。
 つかつかと輪の中心に進む石田に、飯窪と工藤は「あゆみん……?」と心配そうに小さく声を掛けた。
 煩わしいことは避ける性格の生田は、あっさりと小田をおろして、距離をとった。小田はどうすることも出来ずに近付いてくる石田を見つめていふ。
 
「小田はあたしのだー!!」

 全員がその発言に目を白黒させた。
 石田は小田を抱き寄せて、周りを威嚇している。
573 :意地っ張り :2016/12/12(月) 00:22
「ぎゃー、あゆみが壊れた!!」

 佐藤は心底面白いものを見れた、という顔をして笑いながら叫んだ。
 ぎゃはは、と声をあげて笑う佐藤と、顔を真っ赤にして恥ずかしがる小田を見て、飯窪は笑うしかなかった。いつもはこんな思い切った行動をする人間ではないのに。石田の心に波風が立つのはいつも、小田のことだ。

「小田ちゃん、顔真っ赤」

 指摘されたことに、より小田の心拍数は上がった。しっかりと抱き締められているので、小田から石田の顔は見えず、それがさらに恥ずかしさを増させる。

「はいはーい。みんな、かいさーん」

 譜久村の呑気な声と共に、メンバーは二人のもとを離れていく。

「私の勝ちだね」
「あゆみん、絶対来ないと思ったんだけどなー」

 飯窪が工藤に勝ち誇った顔を見せる。

「聖は来ると思ったよ」
「あゆみ意地っ張りの癖に弱い」

 佐藤が完全に石田を小馬鹿にしながら言い放った言葉に、野中は苦笑いした。

「……何だったんでしょうね」
574 :意地っ張り :2016/12/12(月) 00:22
 小田がゆっくりと口を開いた。石田はそれには返事をせずに、ゆっくりと腕を解いた。

「……知らない」

 今更ながらに恥ずかしさがやって来たのか、ぶっきらぼうに石田は言葉を返す。そんな様子を可愛く思いながら、小田は笑った。

「小田は、石田さんの、ですか?」

 わざと、ゆっくり言葉を繰り返されて、石田は眉間にしわを再び寄せた。
 可愛くない奴。

「知らない」

 もう一度同じ言葉を返せば、困ったように小田は眉毛を八の字にした。いつもこうやって困らせてしまう。心の距離の取り方が、下手くそらしい。

「小田は……石田さんの、が、いいです」
575 :意地っ張り :2016/12/12(月) 00:23
 恥ずかしそうにそう言った小田に、石田は困惑した。自分から距離を詰めることも、詰められることも苦手。そんな不器用な性格だと自覚したのはつい最近だ。

「やだわ」
「ひどいですよ」

 小田は、変わらず眉毛を歯の時にして、寂しそうに笑った。

「ん」

 石田が手を差し出すと、小田は不思議そうにその手を取った。冷たい手から伝わるものは何も無く、何が起きるのかと考え始めた瞬間に引かれた。
 再び抱き締められる形になり、戸惑う小田をよそに、石田は息を短く吐いた。

「メンバーの膝とか、乗るのやめて」

 小さな声が耳に届いて頭に響く。聞こえる声は優しく、小田は目をつむった。

「はい」
「その、さ。あー、うん。小田ちゃんは、うちのだから、ほんと、やめて、ね」

 小田が途切れ途切れの言葉に笑うと、「笑うなよ」と、石田も照れ笑いをしながら返した。

「石田さん」

 ゆっくりとした声に「ん」と、短く返す。

「好きです」
「……当たり前じゃん」
「何ですかその返事」
「さあね」

 素直なのか、素直でないのか、我ながらややこしい性格だと石田は苦笑いした。
 それでもひたむきに向き合ってくれる温かい存在が、大好きだから仕方が無いと、強く抱き締めた。
576 :意地っ張り :2016/12/12(月) 00:23
−−−

「なにあれ」 

 離れたところで佐藤がポツリと呟いた。
 
「うらやましいの?」
「全然」
「まーは素直じゃないんだから」

 不貞腐れる佐藤を見て、飯窪は笑った。

「まさは、みんながいい」
「ん、そうだね。 まーちゃんみんな好きだもんね」 
「一人とか、分かんない」 

 石田も、小田も一人だけが好きな訳では無いのだけれど、特別な存在という認識が佐藤には受け入れ難いようで、飯窪は考えた。

「二人ともみんな好きだよ」
「知ってる」 
「あ、なんだ」
「でも、お団子はめっちゃあゆみが好きだし、あゆみもお団子、バカみたいに好きだし」
「やきもちだ」
「ちっがう!」
「二人に構って貰いたいんだー」
「ちーがーうー!」

 むきになる佐藤をよそに、飯窪は更に笑った。


577 :意地っ張り :2016/12/12(月) 00:23


おわり。


578 :勝田里奈の憂鬱 :2017/02/14(火) 22:35
初めて投稿します。

フク×タケですが里奈視点の話です
わかりにくいかもしれませんがよろしくお願いします。

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今日からしばらく遠征。
行きの新幹線では元気いっぱいの後輩と、力を温存すべく静かに過ごす先輩。
そんな中で今日も出発の瞬間から私の横で寝ているやつがいる。

そう、竹内朱莉だ。

これが元気いっぱいの上で寝ているならまだしも、ぐったりしているから困る。

「またテレビの見過ぎかなぁ?」

ニヤニヤしながら香菜が呟く。

「どうかな」

違う。
これはまたアレのせいだ。
579 :勝田里奈の憂鬱 :2017/02/14(火) 22:35
違和感を覚えたのは今からもう数年前になる。
当時はもっとツラい遠征が続いていて、家に帰れるときは何もしたくないそんな時期だった。
皆、初日にはしっかり休息してきたという顔で集合場所に来たものだ。

タケ以外は。

「…ねぇ、タケちゃん。またテレビでも見てたんでしょ。
自分の体のことだからとやかく言いたくないけど、前日はちゃんと寝なさい。」

いつだったか和田さんに苦言を呈されていた。
その時もタケは「すいません、ちゃんとライブは出来ますので」と謝って、ライブをしていた。

タケは適当なところもあるけど、基本的にはしっかりしているし真面目だ。
なんとなくタケの言い訳が嘘のように感じた。



ライブハウスに到着して着替える。
たまたまタケのブラジャーのホックが1つとれかかっていた。

「りなぷ〜、ちょっと止めてくんない?」
「はぁー…ちゃんと止めといてよ」
「さっき準備体操したら取れたのかもー」

色気のない背中でグイグイくるもんだから、
仕方なく止めてやることにした。
その時だ。

「………」
「…早くして」
「頼んでおいて何様…」

ホックの下の白い肌に吸い付く赤い痕。
一瞬、背中にもニキビできるもんな…なんて考えたけどすぐに違うと思った。

…まじかよ。
キスマークじゃん。

こいつ遠征前に彼氏とそんなことしてるから、寝不足なの。
ないわー。あり得ないでしょー。

メンバーの中で一番ないと思っていたタケに彼氏がいたとは。
周りもそして本人も気付いてないこの事実を胸の奥にしまった。



その日からなんとなくタケの行動を気にしてみた。
…が、彼氏がいるようにはとても思えない。

でも少し背中の開いた衣装を着るときとかにさりげなく身だしなみチェックなどと装って、
同じ場所を見ると濃さの違う赤い痕がいつも見えたのだった。
下着の下だからバレないと思ってるんだこの彼氏。

一度、午前中で仕事が終わり次の日も休みって言う日にタケをお茶に誘ったら嬉しそうについてきた。
「こんな日こそ彼氏とデートじゃないの?」
「はぁ?誰の話?」
「おまえだよ」
「朱莉!?なーに言ってんのギャハハハハ!!」
なんとも品のない笑いが返ってきた。
その姿はとても嘘をついているようには思えない。

もうなんなの。わけがわかんない。
580 :勝田里奈の憂鬱 :2017/02/14(火) 22:36
ある日のこと。
次の新曲がチューブトップのドレス風衣装だから、サイズ測定をすると集められた。
どうやらセクシー路線のようだ。

「ブラジャーの部分を衣装に縫い付けて作るから、一人ずつ脱いで測るからね」
「ノーブラってことですか?」
「そうね、だからきっちり測るわよ」

女性スタッフがそう告げると皆慌て出す。

「い、今からですか!?体絞ってない!!」

めいが悲鳴のような声を上げる。
地味に福田さんもブツブツ文句を言っている。

「測るときだけ痩せても仕方ないでしょ。自然な形で計測しないと大変なことになるわよ」

「ひぃぃぃ!!!ってほどのものもないわ」

香菜が一人で忙しそうに喋る。
ちらりとタケを見たら特にリアクションはなく座っている。
ダボダボのパーカーを見てふと胸騒ぎを覚えた。

和田さんから呼ばれるから、タケは4番目。
昨日は休みだったよね…。
もしかして。

化粧ポーチを取り出してタケを強引に連れ出す。

「タケ、ちょっと来て」
「えええ?なんで朱莉!?」

トイレに連れて行くと手洗い場の大きな鏡の前でタケのパーカーを一気にまくった。

「な、なにすんの!!!」

やっぱりあった。
しかもくっきりしたやつ。
ほんとなんなのこの彼氏。
フツフツと怒りのようなものが湧いてくる。

「いいから、見て」

化粧ポーチから手鏡を出して背中が見えるように角度をつける。
はぁ?と半ばキレていたタケも状況がわかるとみるみる顔を真っ赤にした。

「えっと、、、あの…」
「夏のライブツアーのときもついてた。いつからか知らないけど、
ちゃんと彼氏にこういうのはダメって言いなよ。…アイドルなんだから」

化粧ポーチから今度はファンデーションやら化粧品を取り出し消そうと試みる。
固まったままされるがままのタケがばつの悪そうな顔をしている。

「友達じゃないし、何でも話せとは言わないけどさ。彼氏いないって言ったじゃん…」
「えと、、何から説明したらいいか…とりあえず、彼氏は…─



「タケーーーっっ!!どこ行ったぁ!」


廊下じゅうにめいの声が響く。
どうやら順番が回ってきたみたい。

「はぁーい今行きまーす!!!!!」

タケが逃げるように立ち去る。
とりあえず痕は見えなくなっただろうし、スタッフさんに見られても大丈夫だろう。
メンバーにはタケの背毛がどうのこうのとテキトーにごまかしておこう。
あとでメンバーに笑われても知ーらない。
581 :勝田里奈の憂鬱 :2017/02/14(火) 22:37
測定が終わった者から帰って良かったらしく、
もう先輩の姿はなかった。
最後になるめいにお別れの言葉をかけて、帰り支度をしていたらタケが戻ってきた。

「さっき、さっきはありがとう…なんか香菜やめいには笑われたけど」
「場所移す?」
「うん、そうしてくれるとありがたいか、な」

エレベーターで下に降りると別仕事だった聖ちゃんがいた。

「朱莉ちゃーーーんっ!!!とりなぷ〜!!」

ついでですよね、と思いながら満面の笑みの聖ちゃんを見て、ふとタケを見ると青ざめている。
いつもなら「聖ちゃんー!!」なんて走り寄って二人の世界になるくせに。
今日はそんな気分になれないのかな。
聖ちゃんが心配そうにこちらにやってきた。

「どしたの?なんかあった?」
「いやぁ、別に大したことないよ…」
「だってすっごい顔死んでるよ!りなぷ〜何があったのー??」

「いや!あの!ちょっ!待って!」
「…聖ちゃんさ、タケの彼氏がどんなのか知ってる?」


タケがなんか慌てたように何か言いかけたのを遮る。
私には打ち明けなくても聖ちゃんなら知ってるかもしれない。
聖ちゃんが「そんな彼氏別れちゃいなよ」って言ったら効果あるかもしれない。
そんな気持ちで聞いた。

そしたら聖ちゃんの顔が今度はみるみる青ざめて。
タケはもう完全に死んでる。

「朱莉ちゃん、なにそれ聖知らない。」

あーあの聖ちゃんにも言ってなかったのかぁ。
なんて軽く考えたこちらとは違い、聖ちゃんの息が急に上がりまくし立てる。

「どゆこと?ねぇ?どゆこと!?」
聖に内緒で浮気してるの!?どんな人?
聖よりいいの?聖のこと好きじゃないの?
裏切るなんてひどいよ…っ」

最後には涙声になってる。
仲良いのは知ってるけどこれじゃまるで彼女じゃん。
聖ちゃんの涙を見てタケが狼狽える。

「いや!あの!誤解が!話がおかしくなってる!」
「どゆこと!?聖に言い訳でもするの?」


「あ〜〜〜もう言うしかないじゃん…場所だけ!場所だけ移させて」
582 :勝田里奈の憂鬱 :2017/02/14(火) 22:37
聖ちゃんが返す予定だった鍵を取り部屋の中へ三人で入る。
その間も聖ちゃんは怒ってるのか泣いてるのか混乱してるし、
タケも表情がこわばったままだ。
聖ちゃんに聞くんじゃなかったな…と後悔した。


「えっと!聖ちゃん聞いて!」
「…うん。死ぬ覚悟も殺す覚悟も出来た。」
「いやいやいや!そんな話じゃないからっ。まず、朱莉に『彼氏』はいません。」

はぁ?このタイミングでバックれる気か。

「聖ちゃん、これになんか心当たりあるでしょ」


背中を向けパーカーを捲り、下着の辺りを指差す。
ぐいっと下着を押し上げ、乱暴に擦ると赤いそれが色を見せた。

「あ…それは……聖がつけたやつ…」
「は?」

リアクションが比較的薄い私も思わず声が出た。
マジかよ。
聖ちゃんがつけたって、この二人マジでそういう関係なの。

パーカーを下げても背を向けたままタケが喋る。
聖ちゃんはさっきまでの勢いはどこへやら、今度はシュンとしてる。
タケの耳がどんどん赤くなる。

「聖ちゃん、こんな痕つけなくたって、朱莉は聖ちゃんだけだよ。
同じ仕事してるから、こういうのはナシって約束したじゃん。
気付いたのがりなぷ〜だったから良かったけど、大変なことになるとこだったよ!
朱莉のこと信じらんないの?」
「…違うっ!信じてるし、付けちゃダメってわかってたんだけど…その……可愛くて」
「なにそれっ!」
「もう痕はつけない。約束する。
朱莉ちゃんが困ることはしちゃあダメだね…ごめんね。だから、泣かないで」

聖ちゃんがタケに近寄り抱き締める。
一度泣き出したら止まらないタケが腕にしがみつく。


…え、私は何を見せられてんの。
いや、ほんと勘弁して欲しい。
この数ヶ月を返して欲しい。

そんなわけで勝田里奈は知りたくなかった同期の秘密を知ってしまったのであった。
583 :勝田里奈の憂鬱 :2017/02/14(火) 22:38
「起きて!もうすぐ駅着く!」
「ん〜っ」

一度も起きずに寝ていたタケを起こす。

「和田さん、あんまりいい顔してなかったよ。そろそろ盛るのもほどほどにしたら?」
「…そだね。なんでだろね、なんでこんなに好きなんだろね」

伏し目がちに髪の毛を手で梳かす仕草に色気を感じて驚く。

「朱莉なんてこんなに男っぽいのにね」

キャップとざっくりしたジャンパーを身につけながら笑う。
いや、この数年でかなり変わったよ。
なんて言わないけど。

「いや、私に聞かれても」
「…ごめん、今の忘れて。朱莉のキャラじゃないわ」

自分は男っぽいと思ってるのかな。
男っぽいキャラもいじられキャラも周りに求められてるのをやってるだけなのに、
わかってないのかな。

なんて知らないし、どーでもいいけどね。
584 :勝田里奈の憂鬱 :2017/02/14(火) 22:39
以上です。
585 :名無飼育さん :2017/02/22(水) 00:53
勝田さん感が出てて非常に良かったです。
タケちゃんの色っぽい女性ぽくなった感じとかよく表現されてて面白かったです。

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