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えいえんの娘。A

1 :名無飼育さん :2012/05/12(土) 21:48
※注意書き※
陰鬱になるテーマを扱っているため、この先、体調悪化や興奮を引き起こす可能性があります。
そうなったときは、ブラウザのタブかウィンドウを素早く閉じてください。
読み進めようとして何度も上記を繰り返す場合、この物語の存在を忘れ他の物語に没頭してください。
35 :2.俺はだからこの日、綺麗なものも汚いものも見なかったのだ :2013/03/03(日) 21:15
夕陽差し込む保健室に大人が二人。保健室の主である藤本は本日分の日誌を書いている最中だ。
中澤は窓際に立っている。窓の外からは部活終わりの女生徒たちの歓声が聞こえてくる。
大きな歓声の波が引くと静かになる。
と思うと、また小さな歓声の波がやってきてなかなか静かにはならない。
元気やなぁ、若いなぁと中澤は愚痴る。
それが聞こえたのか、藤本がふふと笑った。

「なんやの、人を呼び出しといて」

顔を上げ、後ろを向く藤本の視線はまっすぐに中澤を見つめる。
視線に気づいてないのか、中澤も藤本から目をそらさない。
眩しいのか目を細めた藤本はすっと日誌へ視線を落とした。

「一人じゃ何もできませんよ」
「……何の話かわからへんけど」
「二人とも強情なんですねぇ」
「意味わからんけど、そんなんじゃないで。話それだけなら帰るわ」
「そういうこと言うもんじゃないですよ」

久しぶりじゃないんですか、去年まで慣れ親しんだ保健室に来られるの。
藤本は続けて中澤に問う。
前任の保健教諭の話を吉澤先生から聞いたんです。吉澤先生に道重さんを運んでもらったので。
その時、全部の責任をご自分一人で取ろうとされた、と。それは本当ですか。
36 :2.俺はだからこの日、綺麗なものも汚いものも見なかったのだ :2013/03/03(日) 21:18
「ホンマの話だとして藤本はどうするん? 何がしたいん?」

忌々しげに顔をしかめ、中澤はチッと舌打ちする。
好きな人がいる、だから仕事ができる。
そんなことを中澤は学生のころから繰り返してきた。
社会人になって困った。異性との恋愛だろうが同性同士だろうが責任問題に発展することだ。
ただ好きなように行動しても、相手の自由を奪うことになる。
頭では理解できても、心では納得できない。
去年まで生徒とは好きと嫌いの感情だけで付き合ってきたし、接する態度にも差があったのは確かだ。
成績は絶対評価なので感情だけではない。
だが、真面目に授業を受ける生徒たちには好意を持ち、そうでない生徒の評価がからくなることもある。
それは同僚の教員にも同じことが言えた。藤本が指摘してきた前任の養護教諭がそれにあたる。
他にも好意を寄せる同僚はいるのだが、クラス担任を持たない者同士、ウマが合うと中澤は感じていた。
実際には、年下の相手が中澤に合わせていただけだったのだが。
――誰か一人を好きになりすぎない、一人に依存しない。
さきほどの道重の問いにうまく答えられなかったのはそのせいだ。
周りが見えなくなっていた中澤には、気づくことができない相手の感情だ。
自分が『好き』と言うのは簡単だが、相手が何を求めているのかはわからない。
よく言えば感情豊かなうえに言いたいことを言える、悪く言えば情緒不安定。
不安定さが中澤と前任の養護教諭の間に溝を作り、問題の発覚に至る。

問いに中澤が応えることはないようだ。
藤本は小さくため息をつき、答えられるときに教えてくださいと返した。
37 :名無飼育さん :2013/03/03(日) 21:19
2.俺はだからこの日、綺麗なものも汚いものも見なかったのだ 了
38 :名無飼育さん :2013/03/05(火) 10:29
まさかの更新が来てた!!!!!
続きが楽しみでしょうがないです。それこそえいえんに待ってますw
39 :3.「これがどん底」などと言える間は、本当のどん底なのではない :2013/06/29(土) 00:45
金曜がやってきた。夏と違って、秋は気温が下がり爽やかな朝が過ごせる。
半袖の夏服から、長袖の冬服との境目。衣替えの季節でもある。
おはよう、おはようと声をかけ合い、今日もまた女子高生たちの一日は始まっていく。
二組の辻は挨拶もなしに新垣へと声をかけた。

「ちょっとガキさん、困るんだよねー。のんの吉澤先生なんだから盗らないで!」

え、あ。……はいー? のんちゃんどういうことぉ? 
辻の背中越しに新垣が声をかけても返事はない。
独り言は冷たい廊下に落ちて消えていく。
新垣の視線が辻を追う。辻がぷりぷりと怒りながら進んだ先に、加護が誰かと話してるのが見える。
あっ、と声を出す間もなく、二人はぶつかった。
「どこ見て歩いてん!?」
「のんは悪くない! 亜依ちゃんがぶつかってきたんでしょ!!」
「はぁ!? 何ゆうてるん!」
二人の口喧嘩が始まった。
廊下にいるクラスメイトはいつものこと、という視線を交わし、教室へ移動していく。
よくもまぁ次から次へと汚い言葉が出てくるものだ、と新垣は苦々しく思う。
40 :3.「これがどん底」などと言える間は、本当のどん底なのではない :2013/06/29(土) 00:45
「のん知ってるんだからね!」
「加護だってわかってるもん! のんが加護のこと嫌いだって!」
「はぁ!? そんなこと言ったことないじゃん! あいぼんのうそつき!!」
「のんのバカ!」
「アホ!!」

はいはいと割って入ったのは吉澤先生だった。
あとで話聞くからね、とにらむと二人してはぁいとふてくされた返事をする。
教室に入ろうとした二人のカバンがドンとぶつかるとそれが合図となった。
肩を押し合ってるうちに、腕が絡み、先生が体を離そうとしても近づこうとする。
むきだしになった本能がぶつかり、火花が散る。

「あんたら、何やってん」

静かな怒りが場を変えた。

「吉澤先生、この子ぉら、仲ようしとうてたまらんみたいやから。な」

にっこりと笑う中澤先生が立っていた。
怒りがにじんだ声と対照的な表情が、余計に怖さを呼び起こさせる。
やじうまのごとく見てたクラスメイトは、静かに動き出す。
吉澤に張りついていた辻と加護も体を離し、制服についた汚れを手で払い、カバンを拾う。

「のん、休戦やからな」
「亜依ちゃんの言葉、のの忘れないからね!」

ふん、と勢いよく鼻を鳴らした加護は二組の教室に入る。
加護の姿が見えなくなると、辻は先生ごめんなさいと吉澤に謝り、駆け足で教室へ入る。
すぐに甲高い声であいさつを交わす声が聞こえた。

「ほら、新垣も教室入んな。ホームルーム始まるで」

さきほどとは打って変わった中澤の優しい表情と声。
はい、と微笑み、新垣は教室へ向かう。
41 :名無飼育さん :2013/06/29(土) 00:45
42 :名無飼育さん :2013/07/02(火) 00:49
wktk
43 :3.「これがどん底」などと言える間は、本当のどん底なのではない :2013/12/01(日) 22:19
新垣は何もかもがめんどくさかった。
教室で起こるいじめも、クラスメイトがする自分の噂も、他人の噂も、今朝のケンカも。
目にも耳にも入れたくなかった。

それでも、学校ではいい人を貫き通している。
帰宅するとまずは祖母に愚痴った。宿題しながら妹に愚痴ったこともあった。
「私と同じ高校に来るんじゃないわよ」と言うと、はーいと気の抜けた返事をもらった。
夕飯を食べ終わったら、皿洗いを手伝いながら母にも愚痴る。
いつも心配してくれる家族と自宅が大好きだ。
どんなに愚痴をこぼしても、父は笑いかけてくれ、休日になれば買い物にも付き合ってくれる。
母とも純粋におしゃべりを楽しむため、オシャレなカフェを探してくつろぎながらスイーツを楽しむ。

自宅以外で愚痴ることはない。
教師の前ではいい子だという仮面をかぶり、クラスメイトの前でも親切な人という仮面をかぶっていた。
いい人を演じると気持ちが良い。
教科書を忘れた友達がいたら貸し、宿題を忘れた友達がいたら見せ、落し物は拾って届ける。
笑顔ですべてこなしてきた。これからもそうだろう。
嫌な顔をせず、悪口には耳を貸さず自分から話すこともなかった。
本当は嫌いでも必ず挨拶して、無視は絶対にしない。
だからといって、周りで争いごとがなくなるわけではない。
小さな争いごとをやめさせるにはいい人を演じるのが一番だと新垣は思っていた。
大人に近づくにつれ、教師の理不尽なひいきに異性間不純交友と思ってるよりもどうにもできない問題が増えてくる。
今まではいい子ならひいきしてくれたのに、国語の飯田先生ときたら見た目が可愛い子をひいきする。
バカじゃないの、と心の中で憤る。
怒りをおもてに出すことはない。
笑顔の仮面があるから、笑顔以外の感情が顔に出ることはなかった。
44 :3.「これがどん底」などと言える間は、本当のどん底なのではない :2013/12/01(日) 22:19


遅筆なので一度落とします
45 :名無飼育さん :2013/12/03(火) 13:16
飼育で今一番読むに堪えうる話だと思ってます
続き待ってます
46 :名無飼育さん :2014/01/13(月) 18:56
こういう雰囲気懐かしいです。面白い。
更新待ってます。
47 :3.「これがどん底」などと言える間は、本当のどん底なのではない :2015/07/19(日) 01:07
仮面を被り続けていれば学校生活は楽に過ごせた。
今年に入ってからは違う。
昨日も、そして今日も。
それでも新垣は私は綺麗だと感じていた。

二組のホームルームは新垣と同じようにいつもと変わらないよう振る舞う生徒の姿があった。
私たちは何も変わっていません。
飯田は出席を取りながら道重の返事が震えていることに気づいた。
いや、欠席してないことに驚いたというべきか。
昨日の臨時ホームルームでは、何が起こったのか結局わからずに放課後へ突入してしまった。

「飯田先生は何も見てないのに、私を、私たちを責めるんですか」

一人の女生徒から発せられた言葉は飯田をずんと突き上げた。
顔がかぁっと真っ赤になるのがわかるくらい頭のてっぺんまで熱くなる。
沸き上がった感情におもむくまま叫ぼうと拳を握ってしまった。
それがいけなかった、と今なら反省する。

「誰も何もしてないんですよ、道重さんが勝手に倒れただけで」
「私だって先生と一緒で何が起きたかわからないんです」
「何で授業がなくなったんですか。先生、私は学ぶために登校してるんですよ」
「先生、この時間は国語の授業ですよね」
「飯田先生が私たちに国語を教える時間ですよ」
「早く授業を始めてください」

他の生徒たちは何一つ喋らなかった。
つまらなさそうに窓や廊下の外を眺めたり、興味なさそうに指先で前髪をくるくるともてあそんだりしている。
けだるそうに頬杖をついたり、全てを拒絶するかのごとく机に突っ伏してる生徒もいた。

「せんせぇ」

手を挙げた亀井は何かを訴えたそうな顔を見せた。助かった、とその時は思った。

「体調悪いので保健室行っていいですか」
「え、ええ、どうぞ」

すみません、と小さな声で謝り両手をお腹にあて教室を出ていく。
亀井は一学期の途中から何度か授業中に保健室へ行くことがある。
すると、クスクスと小さな笑い声が教室のあちこちから聞こえた。
手を口にあてた加護の目は笑っている。
真面目な表情でまっすぐ見ている紺野に期待と困惑を覚えた。
授業を始めて欲しいのは正義感からなのか。
......本当に?
飯田の疑念がふつふつと沸いては怒りへと変化していく。

「先生、授業始めてください」

飯田はたまらずバンっと怒りに任せて教壇を叩いた。

「授業はしません。その代わりみんなには無記名のアンケートを書いてもらいます!」

えー! 今度こそ教室全体から異議が上がった。
強制的にアンケート用紙をまわしたのは昨日だ。
48 :名無飼育さん :2015/08/19(水) 07:20
期待
49 :3.「これがどん底」などと言える間は、本当のどん底なのではない :2016/10/02(日) 01:51
今日はいつもと変わらない日常なのか。
それともまた、道重を軸に何かが起こるのか。
見ない振りをしたいと飯田は思う。
綺麗で純粋な生徒たちの一面だけを見ていたい。
昨日を意識した諸注意を並べるとホームルームの終了を告げるチャイムが響く。
次の授業へ生徒たちは一斉に動き出す。
注意を意識する生徒は誰一人としていないようだった。
これもまたいつもと変わらない日常なのかもしれない。

無記名のアンケートには今まで何もしなかった、という怒りと嘲笑とが大半を占めていた。
過去にも今もいじめが行われてると回答した生徒は四十名中三十八名とほぼ全員だ。
怒りの矛先は飯田に、疑惑は紺野と加護、不満は亀井と道重へ続いていた。
瞬間、チリリと飯田の頭の片隅で何かがわかりそうな気がした。
ほとんどの教師が授業へと出払っていて、職員室には疑問や愚痴を聞いてくれる相手はいなかった。
今日も放課後空いてる? とだけ吉澤にメールし、アンケート用紙を紙袋へしまい、鍵付きの引き出しへ入れた。
時間を確認すると、教務室を出た。



放課後、音楽室に道重が訪れる。

「中澤先生がまた明日って言ってくれたから来ました」

ああ、うん、準備するからそこ座っといてな。
中澤は音楽室のピアノの椅子を指差して、音楽準備室へと逃げ込んだ。
今日の授業も掃除も終わり、一息ついて早めに帰るかと思っていたのだが、そうはいかなかった。
確かに「そうか、ほな、また明日な」と声をかけて帰らせた。
とにかく早く帰すのが最優先だと、それが仕事だと思ったからだ。
帰宅へと心踊らせた気持ちを落ち着ける準備と、単純に楽譜を用意する準備とが必要だった。
50 :3.「これがどん底」などと言える間は、本当のどん底なのではない :2017/02/21(火) 23:26
授業で使用している楽譜を見つけ、ふっと小さく深呼吸する。
肩の荷が少しだけおりた感覚だ。

「待たせたな」

準備室から音楽室への扉を開けると、道重が座ったまま待っていた。
さっきは気づかなかったが、今日も昨日同様に顔が青白く感じられる。
楽譜を譜面台に置き、肩を優しく撫でる。
やはり肩の筋肉が緊張で固まってる。
歌わせるのは無理だろう。
ぎゅ、ぎゅと何度か揉むようにまた肩を撫でた。

「体調どうや?」

にこやかな表情を保ったつもりで道重にたずねる。
道重は中澤から視線を外さずじっと見つめてくる。

「大丈夫、です。でも、中澤先生が触ってくれて、嬉しいです」
「そか」

物理的にか心理的にか。
触ってくれて嬉しいという表現に違和感を覚えたが、あえてその話題は引っ張らなかった。
得意な音楽で真剣に応えよう。
言葉だけは苦手だ。

「今日は、歌わずにピアノ弾こか」
「はい」

幼い頃、習ってたけどすぐにやめてしまったんです。
と、道重は話してくれた。
ピアノを弾くのはその時以来という話を聞き、かえるの歌やチューリップといった簡単な童謡を教えることにした。
51 :3.「これがどん底」などと言える間は、本当のどん底なのではない :2017/02/23(木) 23:40
鍵盤に手を置いてみて、と言うと、道重の両手が黒鍵白鍵関係なくデタラメに置かれた。
これは大変だ。
右手だけでいいよと言い直し、ちょっとごめんな、と謝ってから道重の手を軽く持ち上げて移動させる。
そして、右手と右手を重ね、道重の指を軽く押して一緒に弾いてみる。

♪ドレミファミレド

と、まずは一節だけ弾いて、中澤は道重の表情をうかがう。

「なんか聞いたことある気がします」
「調子出てきたな」

明るく声かけして、もう一度同じところを弾いてから次へうつる。
二つ右の白鍵へと手を動かす。

♪ミファソラソファミ

先ほどと同じ速さで弾き、顔を見る。
ただ鍵盤と指先だけを見つめているようだった。

「どや? 聞いたことあらへん?」

今度は止めることなく初めから最後まで弾き直す。
手の甲と指先まで柔らかく、中澤は本当にピアノを弾いてこなかった手なのだと思った。
大切に大切に、怪我なんかしないように育てられたのだろう。

いじめや嫌がらせを受けている子どもは親に相談しないらしい。
どんなに大切に育てられてもどんなに信頼が育まれていても、ほとんどが胸の内にしまってしまう。
親に迷惑をかけたくないと思うのだそうだ。
自立したいと反抗する期間と、いじめが陰湿になる期間は重なって見える。
問題を自分だけの力で解決を試みようとするのも、反抗や自立の一つだろう。
でも、わかっている。
反抗がうまくいかないからと、友達や何の事情も知らないクラスメートに暴力を振りかざしてはいけない。
いじめはクラスメート同士の問題ではなく、うまく話し合えない家族の問題である。
見ないふりをする教師の問題でもある。
教師が見ないふりをしたら生徒だって真似をする。
大人になりたいから反抗する自分と背伸びして大人の真似をしてカッコつけたい自分とに折り合いをつけていく。
私だけは見ていたいというきれいぶりたい自分と、道重だけを見たいと願うきたない自分が同時に存在するのだった。
52 :3.「これがどん底」などと言える間は、本当のどん底なのではない :2017/02/23(木) 23:45
それでも、捌け口が学校のなかにあって良かった。
生徒から嫌われているのも何かの役に立つんや、と中澤は自嘲する。

道重は考え込んでいるようだった。
バレているのに優しい中澤先生は何も聞いてこない。
きっと今日も「またな」と言ってくれるだろう。
先生の好意に甘えているようで苛立つ。
何に対しても抗えなくて不安とともに時間が過ぎていく。
優しくしてくれる先生には相談ひとつできない。

中澤が乗せていた手を離そうとすると、ああ、と道重の声が漏れる。

「やっとわかりました! かえるの歌ですね!」

そっかー、こうなんだ。案外、簡単なんですね。
と続く。
輪唱しやすいかえるの歌は音を外しやすい道重にとって難しい曲に聞こえていたのかもしれない。
案ずるより産むが易し。
もう一度、右手を重ねたまま弾くと、道重の頬にほんのり赤みがさした気がする。
輝きを取り戻した瞳は、きれいもよごれも充分経験してきた中澤にとって眩しかった。

「せんせ、私のこと好きですか?」

ハッとした。
昨日と同じ質問だった。
いや、昨日は確認の意味が強かった。
心臓が強くえぐられたように苦しい。
ごくんと生唾を飲み込み、重ねていた右手を自分の左手に組ませる。
まっすぐな瞳は、射し込む夕陽のようで眩しい。
思わず目をそらす。

「当たり前やん」
「好きって言ってくれないんですね」

うそつき。
小さな呟きとともに、道重は中澤の首筋を狙うように歯を食い込ませてくる。
痛みがびりびりと皮膚へ、神経へと伝わっていく。
いたい。

「痛っ!」

とっさに左手で道重の肩を押した。
痛い。
押しても離れることはせず、噛みついたままだった。
痛い痛い。
道重から逃げようと首筋を伸ばそうとするほど、えぐられそうなぐらい痛みが強くなる。
痛い痛い痛い。
あんな青白い顔をして来たのに、何の感情が動いたのか。
逃げたい。
痛い痛い痛い、いたい。
逃げたい。

「やめて、もうあかん」

すくんだ身の奥からしぼりだすようにかすれた声をきっかけに道重から解放される。
中澤は椅子から滑り落ちるみたく床にへたりこむ。
わめいても離れなかったのに、気が済んだのだろうか。
肩で呼吸を整えながら、噛まれた首筋を手で守る。
唾液でべとべとになっているのかそれとも自身の血なのか、わからなかった。
落ち着いたところで道重を見上げる。

「先生、さようなら」

足早に去っていく彼女の足音を聞きながら、やっぱり何も見なかったことにしたかった。
53 :名無飼育さん :2017/02/23(木) 23:46
遅くなりましたが、今回で3.の更新は終わりです。
お話的には折り返し地点の予定です。
54 :名無飼育さん :2017/02/24(金) 00:17
>>49
>過去にも今もいじめが行われてると回答した生徒は四十名中三十八名とほぼ全員だ。
三十八名中三十六名に訂正します。
55 :4.世間を欺くには、世間と同じ顔色をなさらなくては :2017/02/26(日) 00:03
そのメールに気づいたのは、勤務を終えて駐車場に着いた時だった。
モスグリーンのカーディガンに膝丈のスカートに低いヒール姿の彼女は乗車前に携帯を確認する癖があった。
『とにかく一番大きい絆創膏買うてきて。』
知人で元患者の中澤裕子からだ。
寛解をきっかけに疎遠となっていた。
さっきまで勤務していた病棟を眺めていたが、絆創膏一枚でも持ち出すのは横領にあたるだろうと考えた。
黄土色の肩掛けサイドバッグを助手席に置くと、車を発進させる。
行き先はもちろん中澤の家だ。
駐車場を出た先の夜空に月が浮かんでいる。
信号が変わるのを待ちながら、今だけは秋の月に酔いしれる。
コンビニへ寄ると塾帰りの小学生がおやつを買っていた。
これから成長を迎えるであろう丸っこい体を揺らしながら喋る変声期前の甲高い声が耳に届く。彼らは元気だけが取り柄なのだ。
脇を通りすぎ、絆創膏とウエットティッシュ、いくつかのおにぎりとお総菜を買い物カゴへと放り込む。
白いビニール袋一つを肩掛けサイドバッグとともに助手席へ置くと、今度こそ知人の家へと車を走らせた。

二階建てアパートの階段を片手に白のビニール袋、肩掛けサイドバッグを背負った女性が上がっていく。
明るい茶色の長い巻毛を触りながら、表札の出てない一室の前に立った。
この部屋の住人に用があるのだろうか。
チャイムを押しても住人は出てこなかった。
携帯を確認する。返信はない。
もう一度押すが出てこない。それでも、とにかく一番大きい絆創膏買ってきてと頼まれているのだから、顔を合わせるまで帰る気はない。
何してんのよ、と女性は愚痴りながら、また携帯を確認するとほどなくして大きな溜め息をついた。
冷たいドアノブを回し、ガチャリと音が鳴る。

「入るよ」

住人は出てこないまま、真っ暗な玄関から先へと声をかける。
ジーという冷蔵庫から発せられる音だけで住人のいる気配は感じられない。
不安そうな表情で、手探りに照明のスイッチをオンにしていく。
ドアノブについているロックを回し、チェーンロックも忘れずにつける。
一つの荷物を冷蔵庫の前に置くと、住人の名前を呟きながらそろりそろりと慎重に進んでいく。
そして、リビング横に続く寝室のドアノブを回して照明を点けた。

「バカ! 一人暮らしなんだから防犯意識持ちなさいよ!」

彼女が怒りを示した先に布団を被った中澤が右手で右の首筋を隠すように押さえていた。
疲れて憔悴しきったように見える。
枕の横には、瞬きを繰り返すように何度となく青く光る液晶画面が転がっていた。
56 :4.世間を欺くには、世間と同じ顔色をなさらなくては :2017/02/26(日) 00:04
冷静に戻った彼女はちょっと見せて、と中澤に促す。
バッグを置くと、買ってきた絆創膏を器用に開ける。
手際のいい光景を見ながら中澤はゆっくりと右手をどける。
そこには赤く血の滲んだ痕のある歯形がくっきりとついていた。

「これ、どうしたの」

近づいてみると乾いた唾液がこびりついたままだった。
聞いても中澤から返事は引き出せなかった。
生徒? と聞くとこくんと首を縦に振る。
短く返事をすると、まずはウエットティッシュで優しく肌を拭く。
痛いけど我慢してねと声をかけると首を左右に振りながら「いや、噛まれたときに比べたら全然」と。
体だけじゃなく心にも傷を負ったのだろうか。
それでも中澤は時折目をぎゅっとつむり、ふぅーとゆっくり息を吐き出しながら痛みに耐えているようだった。

「お風呂に入ったらしみるかもしれない。でも、体をあたためるのは大事だから」
「圭ちゃん、ありがと」
「専門外だから合ってるかどうかわかんないよ」

圭ちゃんと呼ばれた女性は脅すように言ってから、くしゃっとした笑顔を見せ、夕飯まだでしょ台所勝手に使うからねと言い放つと寝室から出ていった。
残された中澤は安心したようにベッドからおりると部屋着になる。
肩を上下に揺らし何度か深呼吸すると、引き寄せられるようリビングの座椅子へ足を伸ばして座った。
ぼーっと天井を見上げると、道重の行為が思い出される。
何であんなことしたんやろか、考えても答えは出ない。
どんな嫌がらせを受けているのか、突っ込んだ話題を振ったことはなかった。
急に紺野と加護が道重に接近してから紺野と加護以外に何となく無視されてるようだとか、陰で笑われているようだとか、断片的なことしか浮かんでこない。

「お待たせ」

皿にコンビニおにぎりを並べ、惣菜は小皿に分けたものを持ってきた。
どれもレンジで温めたようで、お腹を空かせた二人にとっては良い匂いに思えた。
本当はコンビニ食だけじゃダメなんだけどね、今夜はしょうがないから。楽に炊事を済ませたことを心のどこかで反省してるようだ。

「そういやさ、何で保健室行かなかったの?」

ご飯を食べ終えた彼女は素朴な疑問をぶつけると、ゆっくり噛みながら中澤はうーんと考え込む。

「ゴタゴタしてる中で後任が後藤との関係に気づいたんや。そんで睨まれてるみたいやから行く気がせえへんかった」
「そっか、そのゴタゴタって今日の傷と関係ある?」

うん、と中澤が頷くと彼女は広げた両手を前に突き出した。

「ストップストップ、わかった、その先は専門なんで診察きてね」

圭ちゃん、商売上手やな。中澤の呟きは彼女を驚かせた。
その驚いた顔を見て、中澤は笑った。

「保田圭先生、予約とれたらお願いします」

うん、予約待ってるから。
会話を終えると保田は立ち上がり、帰ろうとした。
すると、帰らないでと中澤にお願いされる。
他愛もない会話をして、話題がなくなった少しの間、沈黙が流れる。
そうして、保田が帰ろうと立ち上がるとまた中澤が話題を振るのだった。
明日、診察あるからと真剣な表情で訴えるとそうやなと返事があり、やっと自宅への帰路についた。
57 :4.世間を欺くには、世間と同じ顔色をなさらなくては :2017/03/03(金) 23:04
早朝、けたたましいアラームが耳元で鳴り響く。
ぼんやりとした頭でうーんと返事をし、横になったまま伸びをする。
枕元にあるケータイを確認すると病院からの救急呼び出しであった。
いけない、と飛び起きカーテンを開けると珍しく霧が出ているようで白い世界が広がっていた。
秋晴れで急激に下がった気温は朝の霧となって見通しを悪くしている。
早く晴れてくれないかなと思いながら進むも、病院に到着する頃まで霧がまとわりいてくるようだった。
ゆっくり安全運転を心がけた結果、早番の師長に遅すぎです、と睨まれてしまった。
駆けつけてみると、外科の中島医師が傷の手当てをすませ、同じく精神科の三好医師がカルテを作っていた。
救急搬送された患者の措置入院を検討したいと三好医師から話があり、事情を伺う。
ホテルのお風呂場でアームカットしているところを救急搬送されたとのこと。
アームカットの傷だけではなく、何度ものためらい傷の跡と古いリストカットもあったそうだ。
十代の自傷行為は危険だ。
また、手当ての最中に何度も「死にたい」と叫びながら暴れたそうだ。

ブランドもののバッグの底から生徒手帳が見つかったため、一緒にいた男性に確認したが、患者が高校生と知ると名前も告げずにいなくなってしまったそうだ。
父親と間違えるほど年が離れているように見えた、と看護士の皆が口を揃えた。
そして、当該高校へ電話して対応してもらう手はずになっていた。
患者の名前は、加護亜依。中澤の学校の生徒だ。
これがゴタゴタなのだろうか。もちろん違うかもしれない。
鎮静剤を打たれ、処置室のベッドで疲れた表情のまま寝ている患者を見下ろしながら治療方針をいくつか思い浮かべた。
58 :4.世間を欺くには、世間と同じ顔色をなさらなくては :2017/03/03(金) 23:05
「保田せんせー、教頭とお母様がお見えですぅー」

看護士に声をかけられ、無言で頷くとへと向かった。
スーツ姿の男性と貧相な体をした女性が縮こまるように立っていた。
二人が何度も何度も頭を下げようとするのを止め、まず処置室で顔を確認してもらう。
母親には鞄や衣服などを渡して、措置入院の説明を行う。
すぐに入院手続きのため看護士にナースステーションへと案内してもらう。
先の廊下を指し、教頭先生はこちらへどうぞと保田は一度処置室をあとにする。
保田は、教頭に救急搬送された特殊な事情を話すため診察室へと案内する。
そして、年が離れている男性と二人でホテルにいたところリストカットして搬送されたと伝えると、真っ青な顔をした教頭がどうかどうか内密にと頭を下げた。
治療方針と期間は本人との面談次第なので入院中は勉学に支障が出るかもしれませんが、と告げると、それは仕方ありませんねと真っ青なまま返答があった。

彼女は父親がいないはずです。
でも生徒間で年の離れた男性と繁華街をよく遊び回っているという噂があったのも確かです。
私達教師は根拠のない噂として流すのはやめなさいと注意してきました。
しかし、本当だったのですね。
今まで補導されなかったのが不思議なくらいかもしれません。
この病院に運ばれたのも運が良かったのかもしれません。
どうか、うちの生徒を救ってやってください。

教育熱心な教頭を返すのは大変だった。
それでも処置室へ戻され、患者の母親を家まで送り届けたらと看護士が提案したことで二人は冷静さをずいぶん取り戻したようだった。
ドタバタしてるうちに土曜の診察時間になり、保田は救急搬送された患者のこともそれが中澤の高校の生徒だという情報も忘れていた。
お昼を食べ終わってのんびり休憩してたら、看護士が患者が目を覚ましましたとわざわざ呼びに来てくれたから思い出したのだった。
それから診察に中澤の姿はなかった。
特殊な事情が新しくできたから、寝ているところをきっと電話で起こされたのだろうと想像する。
59 :4.世間を欺くには、世間と同じ顔色をなさらなくては :2017/03/03(金) 23:06
「加護ちゃん。おはようございます。この病棟一番のナース天使なっちこと安倍なつみです。よろしくねぇ」

深々と頭を下げた看護士を横目に見ながら、この人物はいったいなんなのだろうと加護は思った。
それから自分が生きていて病院に運ばれたのだとわかった。
なんでよ、という小さな愚痴は安倍の耳に届いてしまったようだ。
悲しそうな顔で加護の右手を両手で優しく包み込む。

「どうしたの? 悲しいの?」

優しく撫でられると、幼かった頃の両親や繁華街で出会った優しく扱ってくれたおじさんたちが頭に浮かんだ。
ぐすっ、いけない。涙より先に鼻水が出そうになる。

「なっちがいるから大丈夫だよ」

うんうん、安心してと続けながら優しく手を撫でてくるこの看護士はやっぱりなんなんだ。地球を侵略しにきた宇宙人かもしれない。

「ごめんね、変なナースがおしかけちゃって」

ベッドを区切るカーテンをさっと開けて、白衣をまとった保田が入ってくる。
ちょっと圭ちゃん! 変じゃないよ! なっちは天使だよ!
看護士の抗議を保田はいつものようにはいはいと流し、慣れた手つきでカーテンの外へ追い出した。

「こんにちは。加護さん。担当の精神科医、保田圭です」

保田は挨拶とともに右手を差し出した。
加護の使える右手が天井に向かって伸びていくのを見て、ガッチリと掴む。加護の手は寝起きだからか、まだあたたかみが残っている。
こちらはまともそうだ。でも、今まで搬送された病院と違って外科や内科じゃないようだと加護は気づいた。
いつ運ばれたのだろうか。長い時間、眠っていたような気もする。
何も覚えてない。時刻がわからない。
そんな加護の表情を見てか、今後の日程を伝え始めた。

「土曜の午後だから診察は月曜までないよ。ここは閉鎖病棟だから携帯の持ち込みはダメなんだ。ただ、本人確認を兼ねて荷物はお母さんに渡したから安心して」

もしお見舞いや持ち込んでいいものが何かわからなかったらさっきの看護士に聞いて。変な子だけど、根は真面目で優しい子だから。
保田はそう言って笑った。
せーしんかとは何を治すところなのか加護には理解できないまま、また眠りにつく。
薬がよく効いてるのであろう加護の右手をそっと布団に戻す。
今は何もかも忘れてゆっくり寝てねと声をかけ、保田は病室を去った。
60 :4.世間を欺くには、世間と同じ顔色をなさらなくては :2017/04/09(日) 00:52
医者にも入院患者にも教師にも生徒にも、どんな人にも平等に月曜の朝がやってくる。
すっきりとした秋晴れが空の高さを感じさせる。
その青空のような青い顔をした教頭と、すっきりした青空とは対照的に職員室はどんよりとした曇り空のような雰囲気だ。
その職員室は先週金曜までとは違って一つ小さな机と椅子が足されていた。
二年生のクラス担任の机が集まる一角にその机と椅子はある。
中澤の席だ。土曜の朝に緊急の呼び出しを受けて集まった教師が会議した結果、飯田クラスの副担任に決まったのだ。
決まったあとに飯田は「推薦されなくても立候補しようと思ってたんや」と中澤から告げられた。
中澤は土曜も月曜も襟を立て首元まできっちりとボタンをとめたブラウスに濃い紫色のカーディガンを羽織っている。
風邪でもひいたの? と聞いたら、そうやと返答があった。
体調悪いのに何で......と呟いたときには飯田から離れ、教頭と熱心に話し込んでいた。

朝会では加護の入院だけを話すこととなったが、月曜はもう一つ頭を悩ませる連絡が入る。
それは道重から欠席の連絡だった。
静かな受け止めだったが、職員のどんよりとした重い空気は変わらなかった。
次から次へと起こる厄介事がコップから溢れた水のように表面化していく。
どうしたら溢れなくなるのか、溢れた水をどうやったらコップに戻せるのか、どうにもできない方法でどうにかするしかないような、嫌な雰囲気が無気力な教師たちからは感じられる。
そんな職員室の雰囲気を察してか、飯田吉澤と中澤が一緒になって教室へと歩いていく。
中澤は副担任として朝会の様子を後ろから観察するのだ。
気づいたことあったら報告して、と飯田から頼まれ緊張した面持ちで教室に入ろうとすると固い固い! 気楽に! と吉澤から痛いほど強く叩かれた。
「加減してや」と軽口を叩き、騒いでる教室のドアを開けると、急にシーンと静まり返った。
個人が自由に使える小さな棚がずらりと並ぶ後ろのドアから入ったのだが、幾人かの視線が痛い。
ピリピリと突き刺さるほどだった。
飯田が出席番号1番から出欠を確認していくと、当然ながら加護の番でざわめきが起こる。
61 :4.世間を欺くには、世間と同じ顔色をなさらなくては :2017/04/09(日) 00:53
「加護は入院したため欠席です」

飯田は極めて冷静な態度で伝えたのだが、やはり教室のざわめきは止まらない。
どんどん大きくなっていくような気さえする。
例えるなら、蜂の巣が攻撃されて働き蜂がわんわんと鳴くように出てきたときだ。
そういう状況で、手を挙げた生徒がいた。

「先生。確認したいんですけど、加護さんは怪我ですか、病気ですか」

加護と仲がいい紺野から質問が出ると、それまで止まらなかったおしゃべりが止み、喧騒には興味無さそうに前髪を指でくるくると弄んでいた生徒ですら背筋を伸ばして紺野を注視した。
この子がきっと女王蜂なんや。
一瞬、怯んだ飯田が言葉を濁らせ、また教室にざわめきが戻る。

「先生、うそつき」

紺野の言葉は先週の道重と同じで、中澤はつい噛まれた首筋をさすった。
その呟きは沈黙を誘い、時を見計らったかのように口を開いた飯田が出欠確認を進める。
道重の欠席連絡にざわめきはなかったが、ただ亀井が頭を垂れて落ち込んでる様子が中澤の立つ後ろからでもよく見えた。
副担任制度の活用にブーイングが上がったが、そのまま諸注意を言い渡すと教師など気にも止めないような女子高生らしい活気が戻ってくる。

「中澤せんせぇ、お昼一緒に教室で食べましょうよ」

亀井がとことこと寄ってきた。
いい提案やね、と返すとやったぁ! と手を叩いて喜んでくれる。
夏を思い出すようなうねる活気と紺野と亀井には誰も声をかけない異様な雰囲気に気づいたが、一時限開始のチャイムが鳴り終わる前にそろりと教室から抜けた。
62 :4.世間を欺くには、世間と同じ顔色をなさらなくては :2017/04/29(土) 00:28
四限目終了のチャイムが校舎に響き渡る。
待ってましたと言わんばかりに、それぞれの教室から生徒たちが飛び出していく。
購買でお目当てのパンを買いに走る者、食堂に行く者。
昼食前のこの時間だけは、廊下は走らない! という教師の注意はない。
お目当てのパンや限定ランチを求めるのは生徒だけではなく教師も同じ。
または教室でお弁当を広げる者。
亀井は弁当袋を机に置いたまま、中澤が来るのを待っていた。
購買から戻ってきた紺野が見たときもそうしていたので、亀井の机に近づくと無言で袋上部の紐を持ち上げた。
えっ、と亀井が気づくと紺野はニヤリと唇の端を歪ませる。
紺野はくるりと方向転換し、ゆっくり歩いて教室のゴミ箱へ弁当箱が入ってる袋を落とした。
紙ゴミの闇に吸い込まれていくようにお弁当箱は落ちていく。
ガコン。
底にあたったのか鈍く低い音が聞こえた。
お弁当を食べていたクラスメイトは気づいているのかいないのか、何もなかったかのようにおしゃべりを続けている。
無表情の紺野は廊下へ出ていくと、姿が見えなくなる。
亀井は机に頭を突っ伏して、両手で頭を覆った。
泣きたかったけれど、中澤先生が来るまでは何も考えたくない。
何も見たくない。無知のままが良かった。
63 :4.世間を欺くには、世間と同じ顔色をなさらなくては :2017/04/29(土) 00:28
夏の朝と違う。
気温上昇は落ち着きを取り戻し、お昼でも秋の涼しい風が教室や生徒に冷静さを思い出させるよう吹き抜けていく。

「どうしたん」

次に亀井が頭を上げたときには、クラスメイトのほとんどが教室から出払っていて静かになっていた。
残りは気だるく前髪をくるくると弄んでたり、読書に耽っていたり、仲間とつるむだけではない子たちだ。

「遅なってすまんなぁ」

中澤は頭を下げ、腕に抱え込んだ二つのパンと牛乳パックを亀井の机に置くと、他にお弁当も何も置いてないことに気づく。
あれぇ? お昼ごはんどないしたん? 忘れたんか?
不思議そうに尋ねてくる彼女に亀井はゴミ箱を指で示す。
その指先を見て踵を返し、ゆっくりと、だがきっちりとした印象の背中を向けてゴミ箱を覗く。
音楽室にいる先生とは雰囲気が違うなと背中を見つめた。
ふと気づいたようで、中澤はゆっくりと腰を曲げてゴミ箱の中を片手で探る。
小さなクスクスという笑いが教室のそこかしこで起こっている気がした。
単に面白い箇所を読んでいただけかもしれないし、たまたま友達に呼ばれて面白い話を聞いたばかりなのかもしれない。
紙ゴミをガサガサとかきわけ、お弁当袋はスポンと中澤の指に絡まって出てきた。
首をかしげながら、これ? と亀井に尋ねる。
こくんと首を縦に振ると、教室のあちこちからプッと爆発的な音のあとにクックックとこらえてるような笑い声が聞こえてきた。
何も聞きたくない。
64 :4.世間を欺くには、世間と同じ顔色をなさらなくては :2017/04/29(土) 00:29
「このお弁当、先生が食べてもええ?」

代わりに梅ジャムと明太フランスだけど食べてや、と中澤は置いておいたパンを亀井に握らせ、袋を開けると箸箱とお弁当箱を取り出した。
亀井の返事はなかったが、無言で梅ジャムパンの包装を開けたところを見るとそうしたほうがいいようだった。

幼稚だ。
パンをほおばる亀井をちらりと観察する。
涙を滲ませた目と鼻と頬が赤い。
それにしても弁当袋が汚くなったかといって弁当の中身は無事だ。
気持ちの問題である。
視線を落とすと、弁当の中身が片寄っていた。
母親が綺麗に盛りつけたであろう弁当を顔見知りが杜撰に扱えば悲しい気持ちもわかる。
ただ、悲しいのと弁当を食べられないのは別問題のような気がするが、十代の多感な時期はそういう感情をうまくコントロールできないのだ。
何かをした人物が教室にいなくても、傍観者が働き蜂として充分に働けばそれで良いのだろう。
教室のあちこちに視線をやると笑いは絶え、静けさが戻っていく。
廊下に面した扉へ隠れるようにそっと紺野が様子をうかがっていた。
いつからいたのだろうか。
背筋がゾッと凍るような紺野の恐怖心が見えた。
この空腹時にはまともに取り合わない。
恐怖心に背を向け、お弁当を食べ始めた。
65 :4.世間を欺くには、世間と同じ顔色をなさらなくては :2017/04/29(土) 00:30
「この卵焼き、ちょっと甘いけどおいしいな」

声をかけると無表情でパンを貪る亀井に感情が戻ってきたようだ。
頬に赤みがさし、目の輝きが戻ったような気がする。
それでも食べ終わると頭痛を訴えたので保健室まで付き添った。
遠ざかっていく教室からはざわめきまでもが戻っていくような気がした。
階下へと進むたびに教室から聞こえるひときわ大きな笑い声が波のように小さくなり、そして静寂に包まれる踊り場が世間から急速に取り残される感覚を覚える。

「せんせ」

そんなの慣れたよ何でもないよ、という乾いた声だった。
緊張して喉が乾いていたのかもしれない。
ん? と返し、続きを促す。

「あのぉ、道重さんに中澤先生が教室来るよって教えてもいいですかぁ」
「ええよ。大切なクラスメイトなんやろ」
「やったぁ」

朝に見たときよりは控えめな喜びようだった。
それでも中澤は、誰かの支えや励ましになっている現状にホッと胸を撫で下ろし、教師としてのやりがいを感じる。

「中澤せんせぇは怖いけどぉ、でもぉ嘘はつかないですよねぇ」

怖いんか! と突っ込みたくなったが深呼吸をして抑えた。
普段の亀井だろうか、乾いた言い方からゆったりとした口調に戻り安堵する。
担任も持たず準備室にこもりきって関係を遮断しているような日常からすると、明るく過ごせている。
引きこもりだったな、と一人反省した。
ピリピリした空気と疲れはあるものの、選択と行動に後悔はない。

保健室にはお昼休みを満喫する藤本一人だけで他の生徒はいなかった。
いつものことだと保健室来室カードに記入するとさっさとベッドに行き、横になったようだ。
藤本も藤本で記入されたカードにさっと目を通すと個別に引かれたカーテンに入っていくのだった。
66 :4.世間を欺くには、世間と同じ顔色をなさらなくては :2017/06/14(水) 22:51
加護は涙を流しながら目を開けた。
ベッドの回りはカーテンで区切られている。
そうだ、ここは病室だ。
夢を見ていた。
あの保田とかいう医者の診察が良くなかった。
グッタリ疲れ果て、昼食と処方された薬を飲んだらグッスリ眠ってしまったようだ。
幼い頃から今までの夢。
その内容を直前に診察で洗いざらい話すことになった。

「また、病院に運ばれて入院したくないよね?」

医者の言葉が重い。母には泣かれた。
というか、びっくりするぐらい周りの大人の顔が青白くなってオロオロしていた。
そうなったらきっと「ざまーみろ」と思うはずだったのに、全然違った。
「どう生きてようと健康にさえ、迷惑さえかけなければそれでいいと思ってたのにどうして?」
泣きながら母は繰り返し呟いた。
答えの出ない問いを母自身に、そして加護自身につきつけるかのように。
夢ではない、現実だ。恐ろしいことに現実だ。
母の見ていた現実とは違う。悪夢だったんだ。

その悪夢は父が家に居た頃に始まった。
「亜依、一緒に出かけよう」
兄弟が多い中、父が自分だけを誘ってくれるのが嬉しかった。
「みんなには内緒だぞ」
心なしか強く、嬉しそうに念入りされると二人だけの秘密を持っているようで、なお嬉しくなった。
最初は屋外での撮影会で、父がどこからか募集した素人のカメラマンを連れてきて、撮影する代わりにお金を取るのだった。
カメラマンたちは「かわいいね」「そのポーズいいね」などともてはやしてくる。
時間指定しており、時間が来ると父は加護を抱きしめて、もう撮られないようにした。
カメラマンたちもよくわかっているのか「また次もお願いしますよ」と言いながら離れてくれた。
撮影が終わるとパフェやクレープなどおいしいおやつを食べた。
家では出されない、見たこともない。
果物のつやつやした皮がキラキラと輝くように見えていた。
「亜依がいい子にしてるから父さん嬉しいよ」
何度も頭を撫でてくれた。
大きくてあたたかい手が嬉しい。
いい子ってきっと頭がいいって意味だとその時は思った。

屋外での撮影は、いつの間にかスタジオでの撮影が多くなる。
出かけたときと違う、短いスカートや露出の多いタンクトップに着替えさせられる。
カメラマンが着替えの服を用意してくれることもあった。
かわいいレースがフリフリしているワンピースだったり、セクシーに穴が空いた服だったり、彼らの好みによってさまざまなものを着させられた。
それにポーズ指定が多くなる。
時にはパンチラや、胸の乳首が見えてしまうんじゃないかというようなポーズもあった。
後ろからや下からなめるように撮られると、どういう風に見られてるのかわからなくて恥ずかしい。
一度、恥ずかしさから極度の緊張に陥り、お漏らしをしながら泣いてしまった。
だが、その時に異変に気づいてしまった。
父は助けようともしない。
興奮したカメラマンに囲まれ、シャッター音とたくさん炊かれたフラッシュがわかった。
いい子じゃダメなんだ。
いい子じゃないから父は助けてくれなかったんだ。
67 :4.世間を欺くには、世間と同じ顔色をなさらなくては :2017/06/14(水) 22:52
プロのカメラマンが来た。今までと違ってスタッフも何人かついている。
父は「亜依がかわいいから来てくれたんだよ」と言う。
うすうす嘘なんじゃないかと思っていたけれど、言わなかった。
言えなかった。
父も、このカメラマンみたいに商品としか思ってないんじゃないかって。

父のいないところで時々知らないおじさんから「あいちゃんの写真買ったよ、大切にしてるよ」「宝物だよ」と話しかけられることがあったからだ。
母と一緒の時は「知らないよ」と答えた。
本当に知らないおじさんだからだ。
たまに素人のカメラマンとすれ違っても、父も相手も会釈すらすることはなかったから、何も問題はなかった。
ただ、父が徴収しているあのたくさんのお金はどこに消えているんだろうと不思議に思っていた。
兄弟が多い分、食事内容はお粗末だし、おもちゃだって買うお金がないと母は愚痴をこぼす。
おいしいおやつを食べられるのも父と撮影に行く日だけだ。
おやつはそんなに高くない。
不満と不思議は、それから中学生になるまで氷解しなかった。

プロのカメラマンの次があった。ビデオクルーだ。
かわいい洋服に着替えてから、脱いでいく過程までじっくりと撮影された。
何も身に付けてない裸になってもそのカメラでなめまわすように体を撮られた。
どんな表情をしていいかすらわからなかった。
笑顔がいいのかと、そうしてみたけれど違う。
いい子にならなきゃと思いながら、緊張して固くなっていたら、また同じ失敗を繰り返す。
やっぱり父は助けない。
誰も手助けしてくれない。
ただ撮影が終わったらスタッフみんな興奮してるのがわかった。

「これは高く売れるぞ」

誇り高そうに父は胸を張る。
商品になるんだと、はっきりわかった。

そこで目が覚めたのだ。
これは夢だ、夢だ、夢だと念じていたら現在に戻ってこれた。
幼い私は泣いていた。今、泣いているのは誰?
加護は両手を見比べると「いい子じゃなければいいんだ」と呟く。
ここにはカッターやはさみなどの刃物類はない。
紐状の類いもない。
イイコト思いついた。
誰にも聞こえない呟きは空っぽにした心の奥底へと消えていく。
加護は、左腕の自身が切り刻んだ何本もの傷をいとおしそうに眺めてから、ガブリと噛みついた。
今までと違って痛みは感じなかった。

「加護ちゃぁん、見舞い希望者が来てるんだけど」

安倍がサッとカーテンを開けると、加護はうつろな瞳で泣いていた。
視線を下へ移すと、左腕の新しい歯型の痕を確認する。
ナースコールのボタンを押し、先生お願いします! と伝える。
保田が来るまで安倍は笑顔で加護を抱きしめていた。
68 :4.世間を欺くには、世間と同じ顔色をなさらなくては :2017/07/18(火) 02:46
部活動や委員会活動に精を出す生徒たちの元気な声が保健室まで届く。
藤本は日誌に今日の来室者数を記録している。
何学年の来室が多いのか、頭痛、腹痛、その他の怪我、痛みの訴えはどうだったか。
経験上、統計を得ることで見えてくるものはある。
二年生の一クラスだけやたら来室が多いなど。
そういうクラスには、来室者当人ないしクラスメイトに問題の種がある。
信じたくはないが、過去に担任だったという例もあった。

中澤が亀井に付き添ってきたことを思い出す。
付き添った事実も驚いたが、生徒や自分を見る表情が穏やかに変化した。
前任の保健教諭がいなくなり、音楽準備室に籠るようになってからの中澤しか知らなかった。
どういう心境の変化だろうか。
道重をテリトリーに迎え入れてから数日しか経ってないだろうに。
それだけ中澤にとっては大きな変化だったとも言えよう。
彼女たちが楽しい学校生活を送れるよう藤本は思案するのだった。
69 :名無飼育さん :2017/07/18(火) 02:50
作者です。4章が終わり、次から5章に入ります。
なるべく一ヶ月に一、二度更新するペースを崩さないように頑張ります。
70 :5.To be or not to be. :2017/07/24(月) 23:43
秋晴れの空を高く感じる。
おはよう、おはようと挨拶し、じゃれあう生徒の声はあたたかい。
朝晩と昼間の気温差があり、登校時には半袖の上からベストを着る生徒がだんだんと増えてきた。
高校前の並木道は乾燥し始めた葉っぱが朝の冷えた風にのって生徒たちの頭上でカラカラと鳴る。
その様子を藤本は保健室の窓から眺める。
部活の朝練が終わる時刻、今朝も怪我や病気はなかったようだ。
吉澤先生が顧問をしているバレーボール部は怪我が多い。
怪我人が出るたびに口頭で注意を申し入れているが、改善されていなかった。
こういう状況だったが、昨日から二日続けて怪我がないのは本当に良いことだ。
中学生から続けているという吉澤が打つサーブを一度だけ見たことがある。
まだ着任したばかりの四月、あまりにも怪我が多いので注意も兼ねて視察へ行ったのだ。
茶色く染めた短髪とうなじ、上腕二頭筋やふくらはぎの筋肉、細い足首とそこに浮き出る血管、色素の薄い色白の肌に運動して上気し赤くなった頬。
これらがそろっていて女子から人気でないわけないだろ、こんちくしょうめ、と言いそうになったが、抑えた。
バレーボール部の部員数が多いのも頷ける話だ。
吉澤から「やってみよう」と一言あれば、多少無理してでもやってやろうという気になるのが女心だ。
この場で注意したら、部員からむしろ責められそうだと退散した。
それから半年経とうという時期に、やっと思いが通じたかと嬉しくなる。
朝からルンルンと浮かれて、一旦保健室を閉め、職員室で行う朝会へと向かう。

職員室の窓から入り込む冷たい風に吹かれる中澤の姿がある。
以前は朝会が始まっても遅刻が目立っていたが、土曜の一件以来遅刻なしだ。
それも教員への挨拶含めた立ち話をしているのだから、人はいくつになっても変化を受け入れ成長していくのだろう。
教員たちが校内引きこもりと噂していたのを中澤は知らない。
今年度は誰とも接点を作りたがらなかったのだ。
大人なのに極端だという人もいるだろう。
そうであればあるほど、変化の振り幅は大きくなり、やがて成長へとつながる。
本人が変化を求められればの話だが、年少であればあるほど認められる傾向だ。
どんなきっかけでも構わないが、変化を楽しむ余裕が出てくるのはすばらしい。
71 :5.To be or not to be. :2017/07/24(月) 23:44
教頭宛に病院から連絡があった。
加護の面会謝絶が決まったから見舞いに来ないよう指導してくれ、と。
どうも見舞いに行った生徒がいたらしいが、それどころではなかったようだ。
症状が安定するまでは控えて欲しいという内容だ。
その生徒は紺野と名乗ったが、バタバタしてたらいつの間にか居なくなっていたらしい。
手が空いてる教員は二年生のクラスの状況や、紺野の様子を聞かせて欲しい。
という、校長からの提案にはほとんどの教員がだらしなく「はぁい」と返す。
教頭からは「なんだ、その返事は。教員がやる気なかったら生徒にうつるぞ」などと発破をかけてくる。
抽象的な言葉に耳を貸しても仕方がない、そういう空気が職員室を覆っている。
従順ぶった返事だけしておけば、時の流れによって解決していく問題の一つではないか。

「あたし、紺野に聞いときます」

音楽教師らしく朝から通る声の中澤を、周りの教員はいぶかしく伺う。
校長と教頭は二人揃って何度も首を縦に振る。

「中澤先生、頼みましたよ」

校長からの返事に「はい!」とやる気に満ちた声で応えた。
その返事と共に朝会は終了し、教員たちは体育や社会などの教科別準備室へ急ぐ。

「なかざーせんせー、変わったね。なんか吹っ切れたみたい」

机の向かいに立っていた吉澤が中澤へと声をかける。
中澤は、そんなことない、と即答できなかった。
校内引きこもりに自覚を持ち始めた矢先だからだ。
ただ、今日も傷を隠すように白いワイシャツの襟を立てボタンをきっちりとしめて、上から紫色の薄手のカーディガンを羽織っている。
首の傷跡をなぞっても痛みは感じない。

「放課後、図書準備室で作戦会議しません? 飯田先生も」

柔らかく茶色に染めた短髪をボリボリとかき「昨日お土産をゲットしましてね、作戦会議に持っていきますから」とちゃっかりおやつの話までしている。

「賛成。私も色々考えてきたし」

飯田は一番下の引き出しから茶色い封筒を取り出すと、検討材料あるよ、と微笑む。

「ええよ」
「それ何時からですか? できれば会議に出たいんですけど」

保健教諭の藤本が話題に乗っかり、なんか面白そうじゃないですか、と笑った。
吉澤は、手が空き次第でいいからね、と笑顔を向ける。

「面白いってえらい前向きな感情やん。その気持ちは大切やな」

呟きは近くにいる飯田や吉澤、そして藤本の耳へも届く。
先週木曜の誰のことも信頼してない中澤はもういない、と藤本は感じていた。
72 :5.To be or not to be. :2017/07/24(月) 23:45
朝のホームルームでは加護道重の欠席と加護のお見舞い禁止令が出されたが、昨日のような騒ぎはなく生徒たちに冷静に受け止められたようだ。
中澤が見る限り、飯田も冷静さを取り戻している。
亀井は手を机に置いたりノートを用意したり落ち着きがなく話を聞いてないようだ。
対して、紺野は頭を抱えて俯いている。
長い髪が邪魔をして表情までは窺うことができない。
やはり昨日病院へ向かったのは紺野なのだろうか。
ホームルームが終わると、チャイムが鳴るまでの間に中澤はさっそく紺野の背に声をかける。

「紺野。こっち来ぃ」

紺野はゆっくりと席を立ち、中澤を見ると下唇を噛む。
伝えたいことがあるようだが、それも一瞬のことでひらりと踵を返し、廊下へと出ていく。
何度も背中に呼びかけるも応じる様子はない。
隣のクラスに入っていくのを見届け振り向くと、飯田が立っていた。
背の高い飯田が無言で首を左右に振る。

「時間、置いてから、また、聞けばいい」

ぶっきらぼうな言い方だが、飯田からのまともなアドバイスに、なるほどと納得する。
吉澤先生は中澤を変わったと言ったが、飯田先生も着実に変化があると考えた。
もう一度、教室を覗くと、亀井が白い顔でぎゅっと両手を握っている。
保健室へ連れていったほうがいいのだろうか。
今度は亀井の机まで近づき、座って顔を亀井の視線まで落とす。

「亀井、体調悪いん?」
「大丈夫です」

湿り気のある言い方がひっかかるが、否定して信頼関係を崩すのもよくないだろう。

「お昼、また一緒に食べような。今日はすぐ教室来れるから、な」
「……はい」

虚を突かれたような返答に沈黙があったが、微笑みながら返事した亀井に安堵を覚える。
昨日のようなヘマはしたくないと、中澤は策を用意してきたのだった。
そのやる気は職員室での朝会にもあらわれている。
やる気に満ちあふれた中澤は一時限の授業に間に合うよう、教室を出た。
73 :5.To be or not to be. :2017/08/05(土) 00:22
授業終了のチャイムが鳴る。
これからお昼を含めた四十五分間の休憩時間だ。
五分前に授業を終わらせ、準備室に置いておいた弁当袋を取り出し、亀井のもとへ向かおうとする。
しかし、準備室を出た廊下には四時限目の授業を受けてた三年生がニヤニヤしながら待っていた。

「やる気にあふれてる先生見るの去年以来」
「もっと言うなら後藤先生と恋に落ちて以来」
「今度は誰に恋したの?」

など好き勝手に生徒にいじられながら、否定せず足早に向かう。
二年生が大変だって噂になってる、と教えられた上に頑張ってねと廊下へと送り出される始末だった。
きっと他人事だから楽しんで見守っていられるのだろう。
音大を受けたいという生徒も今年はいないようで、中澤はその分気が楽だった。

「待たせた」

教室は閑散としていた。紺野の姿もない。
亀井は一人でお弁当に箸をつけるところだ。

「来るって言うたやん」

昨日の亀井と比べると明らかに元気がないように思えた。
そこへドタドタと教室へ入ってくる足音が聞こえる。

「私も入っていいですか?」

おっじゃましまーすと亀井の近くにある机とつきあわせて勝手に座ったのは隣のクラスの新垣だ。
何でも、いつも一緒に食べてる辻の元気がなくて参ってしまうのと中澤が出入りしてるのを不審に思い、偵察しにきたというわけだ。
亀井は驚いたのか、元から交流がないのか、無言で食べ進めている。
おにぎりと簡単にタッパーに詰めたおかずを交互に口にし、中澤が頷く暇はないほど、新垣のマシンガントークが続く。

「いつも喧嘩してるけど要は喧嘩するほど仲がいいってことで喧嘩する相手がいないのは寂しいんでしょうね」

新垣のおかずは一向に減らない。
辻は一人? と中澤が聞くと、いや小川がいますと答えがあった。
吉澤の耳にいれたほうがいいかもしれない。
二人が食べ終わっても愚痴は続いた。
心配してるよって伝えれば、と中澤がアドバイスすると急に口数が少なくなり、新垣が食べ終わったところで自然解散となった。
教室から出ていく新垣の背中を目で追う。

「せんせ」

亀井の乾いた声が聞こえる。
紺野さんはきっと図書室ですよと教えてくれた。
小説が好きみたいです、とも。
図書準備室で作戦会議はあまり良い環境にはならなさそうだ。

「あの、これ」

思考をめぐらせ始めようとした矢先、中澤の目の前にパステルピンクと水色の封筒が二通差し出される。
二通とも中澤先生へ、と書いてある。

「手紙? 嬉しいなぁ。読んでええ?」
「ここでは読まないでください」

亀井の真面目な表情できつめの返答には驚きを隠せず、ああとぼんやりとした約束しかできない。
きゅっと下唇を噛み、朝よりも顔だけでなく指先まで青白くなっている。
どしたん? と聞いても大丈夫ですという答えしか戻ってこない。
仕方なくその場を離れ、図書館へ向かうも入れ違いだったのか来ていないのか紺野には会えずじまいだった。
74 :5.To be or not to be. :2017/08/18(金) 23:07
午前中の診察終了間際に保田医師から午後は検査しようと提案があった。
加護の体に不安がつきまとう。
その表情を見てか、大丈夫だよ治療にも関係があるからねと真剣に諭され、了承した。
結果は、妊娠初期だった。
産むか堕胎か考えてと言われたが、すぐに堕胎を決めた。
どうしてだろう。ずっと避妊してたのに。
医師からはコンドームによる避妊は絶対安全ではないと教わった。

いや、それよりもずっと子どもの体のままだと過信していた。
若い子の肌は弾力があるからいいという客もいる。
十、二十代でないと弾力は失われるという。
だからこそ、妊娠って結婚が決まった大人がなるもので、まだまだ春を売っていきたい加護にとっては無縁の話でありたい。

通称クソチビこと矢口を元締めとして春の売買は成立している。
よく大笑いしながら、酒を大量に飲み干す姿が目撃されているクソチビだ。
危険だから直接的な金銭のやりとりをしないよう彼女が請け負っている。
クソチビ曰く、女がやってたらサツだって油断するよ、だそうだ。
本当かどうかはわからない。
クソチビが金髪で下部で二つ縛りにし、キャップを目深に被る。
それが商売の合図。平日、土日構わず客は買いに来る。
待ち合わせ場所の指示が電話で入る。
相手の要求は、ただ散歩するだけだったり一緒にごはんを食べるだけだったりカラオケだったり、体を重ねたり、と様々である。
お互いの寂しさをお金で埋めあう時間。
大好きな父の面影を追いかけて、あの時間をもう一度味わい直すように何度も何度も売った。
幼い頃より多く入手できるお金の使い道。
買い食いでは消費できなくなり、メイク用品から最近はブランドもののバッグやアクセサリーと買えるものはたくさんある。
好きなものが買えても、心の隙間まで埋めることはできない。
心につけた傷を表面化させるように、手首に傷を作り腕にも切り傷をつくる。
二年生になったばかりのある日。
75 :5.To be or not to be. :2017/08/18(金) 23:07
加護はいつものようにクソチビから連絡を受け、待ち合わせ場所へと向かう途中だった。
笑みをたたえた紺野が目の前に現れる。

「高校生に見えない化粧、光にかざせばキラリと輝く透明なマニキュア、夕方出て夜遅くまで帰ってこない仕事、高価になっていくアクセサリー類」
「なぁ、急いでんねん。また今度な!」
「高いお団子二つ結びやいつも切り揃えられた前髪、必要以上に幼く見られたいのね」

一つ一つが思い当たる言葉だった。
紺野が見せた携帯電話の画面には、頭頂部の髪が薄い小太りのおじさんと腕を組んでラブホテルに入っていく加護が写っている。

「何やこれ……」
「先生にも家族にも、誰にも告げ口なんかしないから。ちょっと協力して欲しいの」

怯える加護とは対照的に、紺野は何か楽しいことが始まる前触れのように微笑んでいた。
こんなことが起きたから、紺野とつるむようになる。
一年生の頃は挨拶や雑談をするぐらいであったが、現学年はトイレや特別教室への移動なども一緒に行動するように変わる。
そして、いじめのターゲットは最初から亀井に決まっていたようだ。
紺野はいじめだとは一言も言わず、遊びだとか奴隷だとか散々亀井をなぶり、欲求のおもむくままに弄んでいるように思えた。
二人の間に何があったのか聞く気はない。
きっと亀井が謝っても解決しないだろうし、もし逆らうようなことをしたら母や学校に告げ口されるだろうと考えたからだ。

――だから、わたしは汚い。
76 :5.To be or not to be. :2017/09/05(火) 19:54
午後の授業を無事に終え、西に落ち始めた陽に掌をかざす。
金曜夜に切った爪を眺める。やすりで少し削ろうか。
そうすれば、素早い指の動きに耐えられるのだ。
あのときの道重の爪は伸びた状態だった。
本人が言うとおり、日常的にピアノには触れてないのだろう。
清掃担当の生徒が来るまで、中澤は音楽準備室で亀井からの手紙を持つ。
深爪では破りにくいから、ハサミで封を切る。

授業というストレスから解放されたからか、わっと拡がるざわめき。
班毎に分けられた清掃分担場所へと急ぐ生徒たち。
そして、走らない! という大声の注意が聞こえてくる。
清掃が始まったのか、静かになった音楽準備室のソファに沈みこんだ。

水色の封筒は亀井からの手紙だった。
丁寧に書こうとしたのだろうか、文字のバランスがやたら下に寄っている。
失礼のないようにと普段では使わないであろう言葉が盛り込まれている文章だ。
要旨としては、パステルピンクの封筒は道重からで一度あけてしまったが、やはり勇気を出して先生に渡すのがいいと思う、先生ごめんなさい、私も同じ事をされてた。
これだけでは意味がわからないので、もう一つの封筒をあける。
丁寧ながらどこか丸っこいかわいらしい文字が並んでいる。
集中して読もう。どんなことをされていたのか好奇心が勝る。

「先生、ゴミありますか」

ノックなしに清掃担当の生徒が突然ドアを開けると、中澤の肩がびくんと揺れる。
今日はええよ、と笑顔を見せてやんわり断った。
77 :5.To be or not to be. :2017/09/05(火) 19:55
中澤先生へ

こんにちは。道重です。
絵里から中澤先生が副担任になったと聞きました。
朝の会やお昼にもいると聞き、休んでても絵里から手紙を渡してもらえればいいなと思い、書いています。
先生にちゃんと会って伝えたかったけど、難しいので手紙にします。

先生。こんなことしても許されるんですか?
友達になら、クラスメイトになら、してもいいんですか?
さゆみは違うと思いました。
だから、先生にも謝りたいと思いました。
噛んでしまってごめんなさい。
優しくされて、どうしたらいいかわからなかったんです。
先生が誘ってくれてさゆみはとっても嬉しかった!
歌は苦手だけど音楽が好きになりました。
先生と一緒にピアノを弾いてみたいと思いました。
そのためには何をされてたか伝えて、解決できるなら、解決したいです。
一人ではどうしたらいいかはわからなかったけど、絵里が色々伝えてくれたから、さゆみも頑張って先生に伝えます。
78 :5.To be or not to be. :2017/09/05(火) 19:56
便箋の一枚目には嬉しくなるようなことが書いてある。
何をされてたかのか具体的なことは書いてないが、単純に謝ってくれたのは嬉しい。
一緒にピアノを弾きたいという願望は、道重の技量ではまったく足りてないから難しいかもしれない。
どうやって応えたらいいか模索するのもまた楽しい作業でもある。
それに、一歩踏み出したからこそ生徒が一つ一つ応えてくれるのもまた実りがある。
どうして早く言い出さなかったのか。言い出せなかったのか。
こうなるまで伝えられなかった。

二枚目の便箋へと指をかける前に大きな深呼吸を一つする。
緊張してこわばっていた肩がほぐれる。
読了後、中澤は慌ててその場から逃げ出すようにトイレへと駆け込んだ。
手紙に書かれていたその場所へ。
中澤は洋式便器のフタを上げると、胃からあがってきた液体を中にぶちまけた。
ツンと鼻をつく嫌な臭いが個室に広がる。
79 :5.To be or not to be. :2017/09/05(火) 19:56
ーー先生。トイレに一緒に行ったら個室で催してるところを覗かれました。
ーーわざわざ壁をよじ登って上から覗かれました。
ーーこれって友達なら許されるんですか?

カハッ、カハッと口を開けたまま咳き込む。
お腹がグルグルと唸る。
右手をお腹にあてさすってみるが、調子は良くないようだ。
幼稚、だなんて決めつけて、今までの背景を理解しなかった。
多感な時期ほど自分と他人への性に敏感である。

ーー先生。屋上への階段の踊り場で無理やりキスされました。

不意に思い出されるのは前任の保健教諭、後藤との情事だった。
好きだから追いかける。
最初のうちは生徒がいないところでなら受け止めてくれた。
でも、次第に校舎の外だけとなりデートすらしなくなり、連絡を取り合わなくなった。

ーー先生。トイレでスカートをめくられて下着をケータイで撮影されました。

それでも好きだと信じて中澤から一方的に連絡することはあった。
後藤は校内で追いかけられるたびに何度も逃げていた。
保健室は具合の悪い生徒がいつでも来られる場所という原則を破ってまで逃げた。

ーー高く売れるから遊ぶお金になるよって言われました。

後藤との噂は好意的なものも悪意に満ちたものもあった。
同性でも好きになるって素敵とか美人同士でくっつきあうのは目の保養とか。

ーーやめてって言ってもやめてくれないし、クラスメイトは通りすぎていくだけでした。
ーー誰も止めてくれなかった。

耳年増の生徒ほど辛辣な噂を流してくる。
レズなんて気持ち悪い。
女にキスするなんて嫌がらせと同じ。
ラブホじゃないんだから。

ーーモップの柄の部分でスカートをめくってきました。
ーー何度もスカートの乱れを直そうとしたけど、体をモップで押されたり下着の上から指でさわってきたりして気持ち悪かった。
ーートイレの床に倒れてしまって撮影されました。

どこで何してもいいなんてウケる。
教師より売女が合ってるんじゃない?
見せられるなんて迷惑。ウザくね。

ーー清純そうに見える子のは高く売れると言われました。
ーー別の日には下着を脱がされそうになりました。
ーー必死で抵抗しました。
ーーでも、やっぱり一人ではどうすることもできなくて脱がされました。
ーーその日は運動着を着用して過ごしました。
ーーザラザラして痛かったです。

後藤を追いかけてる間は耳に入らないし、後藤がいなくなってからは音楽準備室に逃げ込んでいれば物理的に聞こえてこなくなった。
80 :5.To be or not to be. :2017/09/05(火) 19:57
他人の性を玩具にするような行為が校内でされてきたのかと思うと苦しくなる。
まさに苦い胃液が食道を逆流してくる。
お腹の奥からあふれだす胃液は、自らの恋を同性愛嫌悪として強制的に見せられているようだった。
それは好奇心までをも飲み込んで吐き出させる。

ーー売ったお金で放課後遊ぼうよと誘われたけど、補習があるから断れました。
ーー先生との補習があって嬉しかったです。断れたから。

何度かお腹をさすると体が温まってきたようだ。
もう胃液は出てこなかったが、肩で息を何度もしてからトイレットペーパーで口をぬぐう。
フタをしめてから流す。
道重や亀井のされてきたことを思うと、全てを流してしまいたかった。
どうすれば道重の怒りがおさまって、二度と同じことを繰り返さないようにできるのか。
自分が動けば誰かを楽にできるのか。

ーーさゆみは友達だと思いたかった。
ーーでも、紺野さんは最初に言いました。ドレイになるんだよって。
ーードレイってこういうことをされる人なんですか?
ーードレイってみんなから笑われて当然なんですか?
ーー先生、教えてください。
81 :5.To be or not to be. :2017/09/22(金) 20:51
中澤は二年生の教室を訪ねる。
今日のうちに感謝を伝えたくて亀井に会っておきたかった。
全部同じことをされたわけではないだろうが、どんなにか辛かっただろう。
肩ほどの長さの髪型を見つけ声をかける。

「亀井!」
「せんせぇ? どぅしたんですか?」

亀井の間の抜けた返事に不思議と安心感を覚える。
きっと目とまぶたは赤くなっているだろう。
鼻水だって垂れてきそうなのに、何も聞かないでくれてありがとう。

「ありがとう、伝えてくれて。明日、音楽あるから。それだけ言いたかったんや」

紺野が教室にいるかどうかはどうでも良かった。
少しずつ動くしかない。一歩でも早く足を前に出そう。
転んでもまた起きあがればいい。
82 :5.To be or not to be. :2017/09/22(金) 20:52
ベッドとベッドを仕切るカーテンの向こうで中澤が着替えている。
生徒に噛まれたという怪我を看て、手当をし、藤本は渡された手紙を読み終えた。
パステルピンクの封筒には中澤宛とある。
当初は、生徒のプライバシー侵害にあたるからと拒否したのだが、傷痕を見せられ教師の心の傷を癒す手段だと思い直した。
それに、強情を張らず信頼してきてくれたのが嬉しかったからでもある。
二人だけの秘密というのは甘い罠だ。
好意と恋は言葉の響きが似ているだけでなく、感情の動きとしても似ているのだった。
きっと気づいてないのだろう。
お互いを信頼した状態でなければ相談はされない。
そもそも自分のためだけでなく誰かのために動こうとはしない。
歩みよる行為は次第に好意に変わっていくのだろうか、それとも。
いずれわかること。
保っていたはずの人間関係のパワーバランスが変化している。
この先、どう変わるのだろう。
どう解決するのだろう。
中澤から聞いた「紺野は小説好きでよく図書館へ行く」という情報を携帯で吉澤へと伝える。

「すまんな」
「いえいえ、仕事ですもん」

カーテンを開けて出てきた中澤の頬はほんのりと赤みがかっている。
中澤は今さら恥ずかしかったなどとは言えない。
83 :5.To be or not to be. :2017/09/22(金) 20:52
「今日の作戦会議、やるんかな」
「あ、さっきの情報を吉澤先生にコレでお伝えしときました」

ボヤけた声と視点の呟きが中澤から発せられると、藤本が着ている白衣のポケットから覗かせたスマホを見て、やっとクスリと笑った。
それを確認すると藤本も笑みを浮かべる。

「ちょっと面倒ですけど外でやるのもいいんじゃないでしょうか」
「ええやん、お酒飲みながら?」
「飲みすぎ注意ですけどね」

大きな笑い声が保健室に響く。
ハッと二人して両手を口へと当てた。図書室と保健室ではお静かに。

「またあとでな」
「はい、あとで。今日、来てくれて嬉しかったですよ、中澤せんせ」
「ん」

中澤は片手を挙げてヒラリと舞わせると下を向く。
頬が赤いままだった。
84 :名無飼育さん :2017/10/08(日) 20:35
次の更新から6章に入ります。
6章入れて、あと2章分更新すれば物語が終わります。
年内までに終わればいいなー。

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