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Two Destinies

1 :あおてん :2012/02/05(日) 14:17
やすみよで1998年〜のお話を。
当時の時代背景や初期娘。に詳しくないですが、愛をもって頑張ります。
923 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 01:36
9人から8人になったからと言って、私達の娘。への思い入れは変わらない。
だけど、明日香が去り、娘。はパワーダウンしているという
世間の認識は簡単に拭い去る事はできないだろう。

明日香という核が失われても、私達は前に進まなくちゃいけない。
分かってはいるんだ。
でも…
これからの娘。には、いくつもの試練が降りかかる。
そして、皆はたくさんの傷を負ってしまう。
このまま、時代の流れに身を委ねていていいんだろうか。
今以上に大きな壁に突き当たる事は目に見えているのに。
私は知らないフリをしていてもいいんだろうか。

娘。という集団の中で、私は一人モヤモヤとした思いを抱えていた。
924 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 01:38
...

「うわっ絵梨香、何小難しそうなの読んでんの」
「すみません、今勉強中なんで」

大げさに驚いてみせる真里さんに、リアクションを取る余裕はなかった。
私が熱心に読んでいるのは主に音楽批評誌。
インターネットはまだ普及していないせいか、満足に情報を得られない。
よって、世間が娘。に対してどういうイメージを抱いているのか、
手っ取り早く知るにはこれが一番いいと思った。
ただ、書店でまとめて買って来たのはいいものの、
娘。を好意的な視点で評価してくれている記事は少なかった。
むしろ、酷評が圧倒的多数だ。

それは、明日香が脱退してから尚の事顕著になったように思える。
どれもが、明日香のいた頃の娘。を懐古し、今の娘。を貶す内容。
925 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 01:38
誌面に踊る文字を次々と目で追っていく。

“三好は福田の劣悪なコピー”
“保田の歌唱力は高いが声質にこれといった特徴がない”
“来年の今頃には確実に消えているだろうグループ”

「…」
これは、他のメンバーに見せられないな。

私は一応全てに目を通してから本を閉じ、バッグの中にしまい込んだ。

圭さんと私が明日香のパートを引き継いだ事により、
批評の矛先は私達二人にも向けられるようになっていた。


明日香がいなくなったから、娘。はダメになった…
それは、今一番言われたくない言葉だ。
926 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 01:40
でも、明日香の脱退が決まった頃から、順位が下がり始めたのは事実だ。
史実通りならば、次曲の『ふるさと』はオリコン5位。
『LOVEマシーン』が生まれるまで、娘。は暗黒時代に突入する。
その未来を知っているからこそ、余計に気が重くなる。

「なんかそうしてると、絵梨香って福ちゃんみたいだね」
安倍さんの何気ない言葉。
でも、その言葉は、私の心の奥を引っかいた。

「…そうですか?」
平然を装い笑ってみせる。
私はどうしたって明日香にはなれない。
明日香の才能を超える事なんてできない。

でも、私達は、せめてこれだけは超えなければならないんだ。
明日香がいた頃の娘。を…
927 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 01:40
...

6月某日。
この日、鈴木あみとの売上対決、そして、メンバーの増員が発表された。

「売上対決ってなんだよ対決って!ウリナリじゃないんだからさぁ」
「それよりまた増やすって…勘弁してよホント」

予想通り、私を除いた娘。のメンバーは皆混乱状態に陥っていた。
928 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 01:41
増員するメンバーは1名。
99年9月9日に9人として新生モーニング娘。が誕生するのだと言う。

間違いなく、加入するのは後藤さんだ。
私は後藤さんの人となりは知っているから、一切の抵抗なくそれを受け入れられる。
でも、他のメンバーにとって、新たに見ず知らずの人間を
迎え入れるには相当の勇気と覚悟が必要だろう。
そしてASAYANによる、他の歌手との対立を煽る演出にも強い反発を覚えている。
無理もない。
明日香の脱退を悲しむ暇すら与えてもらえず、
大人の都合に振り回されているのだから。

929 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 01:41
『ふるさと』は鈴木さんの『Be together』に惨敗。
あれは、『LOVEマシーン』大ヒットの布石だったんだろうか。
でも、このままあの歴史をトレースする事だけは避けて欲しいと思っていた。

必ずいつかは道が開けると分かっていても。
930 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 01:42
...

「どうしたんや、三好。
大事な話がある言うても、今『ふるさと』の肉付けしとる真っ最中やから、
それほど時間割けへんで」

つんくさんは私に目もくれず作業に没頭していた。

言うんだ。
言うなら今しかない。
汗ばむ手の平をぎゅっと握りしめ、唾を飲み込む。
もしもこのタイミングを逃したら、二度目はない。

私は息を吸い、はっきりとした口調で一気に告げた。

「その曲では鈴木さんに勝てません」
931 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 01:43
「は?」

つんくさんはようやく私の方へと振り返った。
ただ、その目は点になっている。

「もう一度言います。その曲じゃ勝負になりません」

周りがざわめいた。
つんくさんを取り巻くスタッフの顔が皆引きつっている。

当然だろう。
私自身、どれほど恐ろしい事を言っているのか理解していた。
それでも、もう後には引けなかった。

ただ、和田さんだけは黙って私を見ていた。
まるで、次の言葉を待っているかのように。
そんな和田さんを一瞥してから、私は話を続けた。
932 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 01:44
「誤解しないで下さい。ふるさとは私にとって大切な曲です。
大好きな故郷を思い出す曲だから」

その言葉通り、『ふるさと』は思い入れのある曲だった。
元の世界で、ハロプロで一番好きな曲だと挙げたほどに。
でも…どれほど人の心を惹き付ける曲を生み出せても、今回ばかりは譲れない。

結果を出さなければ意味がない。
ここはそういう世界だ。
結果が全てなんだ。
プロセスや個人の感情なんて、勝負を前にすれば、何の意味もない。
933 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 01:45
『真夏の光線』のオリコンランキングが発表された時、言われた言葉がある。
これ以上順位が下がっていくようなら、近いうちに解散も考えていると。
その言葉は、ずっと娘。達に重くのしかかっていた。

私は『LOVEマシーン』で挽回できる未来を知っている。
だけど他のメンバーはそうじゃない。
彼女達にとってはまさしく、一寸先は闇状態なんだ。
『ふるさと』で大きな挫折を経験し、『LOVEマシーン』発売まで
明日に怯えながら生きていかなくてはいけない。

そんな事はさせない。
934 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 01:45
今更、なりふり構ってはいられなかった。
不安要素はできる限り減らしておきたかった。
音楽のおの字も知らない私が、一丁前に
その道に長けた人に意見するなんて、本来なら許されない事だ。
そんな事分かってる。
でも、このまま大人しく惨敗して、打ちひしがれたメンバー達の姿を
見ているだけしかできないだなんて、我慢ならない。
935 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 01:46
「そんなら、なんでやねん」

つんくさんは、わなわなと震えているように見える。
決して曲を貶しているわけじゃない。
だけど、つんくさんにとっては、自分を
全否定されたように感じているんだろう。

「娘。の為です。少しでも娘。にとってマイナスとなる要素があれば、
たとえつんくさんに恨まれても、意見させていただきます」

「三好お前、よくそんな口が…」

憤るスタッフの一人を和田さんがすっと遮る。

「綺麗事だけじゃやっていけない、世間に認められなければガラクタと同じ…
そう言ったのは和田さんですよね」
「…言ったな、確かに」

和田さんはどこまでも冷静に、しっかりと頷いてくれる。
936 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 01:48
夢見るだけじゃ、この世界にいられないと言って
明日香は去って行った。
1位が全てじゃないという言葉を残した明日香。
確かに、その通りだ。
音楽の良し悪しと順位は比例しない。

でも。
私は明日香のように純粋な心は持てない。

この場所で生きていくという事は、“そういう事”だ。
今更別の生き方なんてできない。
圭さん達のそばから離れたくない。
だったら、何としてもこの世界の方針に馴染まなければいけない。

誰かが、なんとかしなきゃダメなんだ。
薄汚れた大人になるのは、私一人だけでいい。
937 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 01:48
「…私が言いたい事は以上です」

私は一礼し、素早くこの場から立ち去った。
いや、半分逃げるような形に近かったと思う。
今にも爆発しそうな心臓を押さえ、震える足を引きずるようにして。

938 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 01:49
...

後日、鈴木あみとの対決曲は『忘れらんない』に決まった。
そう、娘。の6枚目のシングルは『忘れらんない』となったのだ。
『ふるさと』は『忘れらんない』のカップリング曲に
差し替えられる事となった。

私のあの言葉が影響したのだろうか。
それとも、つんくさん達の気が変わっただけなのだろうか

スローテンポの『ふるさと』とはまた違い、
『忘れらんない』はR&B調の曲。
R&Bブームが起こった99年の邦楽界では、充分に通用するはずだ。
単に、『忘れらんない』の方が、いい勝負ができると気付いたのかもしれない。

真偽は分からないけれど。

ただ、またひとつ歴史が変わったのは事実だ。
元の世界とズレが生じていく事に恐ろしさを感じないと言えばウソになる。
だけど、これこそが娘。にとって最善の道なんだと、私は信じる事にした。
939 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 01:51
...

「あっちぃよー。こんなに暑かったら干からびるよ」
「アホ、京都の夏なんてプラス湿気でこんなもんやないで」
「へー、どんくらいヤバいの」
「汗だくの圭坊が背後からべったり張り付いてくるくらいやな」
「うげえ」

「ちょっと、勝手に私を喩えに使わないでよ」
じゃれ合いながら自分をネタにする真里さんと裕ちゃんに、
圭さんは抗議の声を上げている。
940 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 01:51
私達娘。はバリ島に来ていた。
二冊目の写真集の撮影の為に。

娘。の増員、売上対決…度重なる試練に、皆の精神は疲弊していた。
きっとこの仕事は、そのフォローも兼ねているんだろう。
皆日本から離れた事で、どこか険が取れたような気がした。

この数日間だけは、それぞれが穏やかな休息を満喫できるようにと願った。
941 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 01:52
...

今日の撮影が終わり、私達は宿で自由気ままに過ごしていた。
ここでは、一人一部屋ずつ割り当てられていたのだけど、
圭さんは私と二人で過ごす事を選んでくれた。
広いベッドに一緒に腰掛けながら、今日の事を語り合う。
なんだか、東京でホテル暮らししていた頃を思い出すな。

「すっかりいじられ役になってきたよね私」
「やっぱり、うたばんの影響ですかね…」

『忘れらんない』のうたばん収録は、
主に飯田さんと圭さんがイジリのターゲットにされていた。
それに感化されたのか、真里さんや裕ちゃんは率先して
圭さんイジリをするようになっていた。
圭さんは最初の収録の時こそ立腹していたものの、
今は既に免疫がついてしまったのか、苦笑いしつつ受け入れている。
942 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 01:53
「圭さん、本当にいいんですか?」
「ふふっ…絵梨香は私をそういう風には見てないんでしょ?」
「もちろんですよ」

私の即答に、圭さんは満足そうに笑ってくれる。
「絵梨香がそういったイメージを取り払って、
私を一人の女として見てくれるなら、充分に幸せだもん。
絵梨香は本当の私を受け入れてくれる。
だから、他の人にどんなイメージ持たれようと平気」
「あ…」

圭さんが私の首に両腕を絡ませて来る。
シャンプーの匂いが漂って、くらりとした。
943 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 01:54
「絵梨香の前でだけは、私は女でいたい」

圭さんは私の頬に触れ、そっと唇をふさぐ。
味はないはずなのに、淡い花の香りに混じって、
それが甘く感じるから不思議だ。

私は誘われるように圭さんの左胸に手を添えた。
圭さんの心臓も、私と同じように動いている。
確かな鼓動を感じる度、この世界は夢じゃないんだと安心する。

「絵梨香…さわり…たいの?」

圭さんの問いに、顔がかあっと熱くなる。
ほとんど無意識にやってしまっていた事。
でも、それはきっとまぎれもない私の願望だから。
944 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 01:54
「いいよ…」

圭さんは私に微笑んで、小さく頷いてくれた。

息が止まりそうになった。
圭さんが、私を受け入れてくれている…
こんな奇跡のような事が、現実に起こり得るなんて。

圭さんの髪にキスをしながら、おそるおそる問う。

「圭さんの肌…見せてもらってもいいですか?」

圭さんは顔を赤くしながらも、再び頷いてくれた。

前髪をかき上げて、圭さんの額に唇で触れる。
そして今度は唇を頬へと移動しながら、圭さんの服を優しく脱がせる。
945 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 01:55

今まで、ずっとこうしたいって思ってたのに…なんでだろう。
彼女を直視できない。

だって…圭さんが…まるで、生まれたての赤ちゃんのように綺麗な存在だったから。

「絵梨香…震えてる。怖い?」

頷く事も、否定する事もできなかった。

私は今まで、元の世界で…
欲望のままに何人もの人と関係を持った。
決して誰でも良かったわけじゃない。
でも、“この人だ”と思った事はなかった。

圭さんに出会うまでは。

これほどまで誰かを大切だと思った事なんてなかった。
だからこそ、どうやって触れていいのか分からなくなってしまうんだ。
946 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 01:56
「私を見て」

圭さんは私の頬を両手で挟み込み、真っ直ぐな視線を向けて来る。
私なんかが、この人を一人占めしてしまっていいんだろうか。
そんな想いが、口をついて出る。

「私は、本当にあなたの側にいてもいいんですか?」
「何を今更…
私は絵梨香がいなくなったら、どうやって生きていったらいいか分かんないよ」
「…私もですよ」

私も、あなたがいなかったら、ここまで来られなかった。
圭さんじゃなければ、こんな自分に出会う事もなかった。
947 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 01:58
「愛してるよ」

優しい声が降りて来る。
私も身に着けているものを脱ぎ捨て、
圭さんの肌にぴったりと素肌を合わせていく。
その体が小さく身じろぐ。

「逃げないで。痕はつけたりしませんから…」

さすがに、水着の撮影を控えているのに、そんな無神経な事はできない。
私は、できる限り優しく唇を圭さんの胸元に押し当てた。

「ん」
鼻から抜けるような甘い声。
きっと圭さんは無意識のうちに出しているんだろう。
それがたまらなく色っぽくて、私は嬉しくなる。

正確に言えば、目の前にいる圭さんは、私の実年齢よりも10歳ほど年下だ。
だけど、彼女の体は充分に女を感じさせた。
948 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 01:59
「今だけ…圭って呼んでくれないかな」
「…けい…」
「もう一回…」
「圭…綺麗」

私の言葉に、きゅっと圭さんの瞼が閉じる。
その体は微かに震えていた。

ああ、ガチガチに緊張しているのは、私だけじゃないんだ。
それだけで、幸せな気持ちになれる。

「…ふふ」
私は圭さんの手の甲にキスをして、髪を撫でてあげた。
949 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 02:00
「今日はこのまま寝ましょうか」
「…え?」

圭さんがうっすらと目を開ける。
その瞳は潤んでいた。

「そんなにがっつく必要もないかなって。
…こうしてるだけでも、すごく気持いいですから」

実を言うと、いっぱいいっぱいなのは私も同じだった。
圭さんが愛しくて。あまりに綺麗で。
他の人と同じ触れ方なんてできなかった。

“あなたを大切にしたい”
それを言葉にしなくても、圭さんは納得してくれたようだった。
950 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 02:00
「…手、つなごっか」

圭さんはふわりと笑って、私の手を優しく取った。

「この間、言い忘れてた事なんだけどね…
私は…オーディションの時、初めて絵梨香が声を掛けてくれた時から、
ずっと好きだったんだよ」
「私も…ずっとあなたの事想っていました」

圭さんに出会う、ずっとずっと前から。
“保田圭”というただ一人の人を求めて。
私は、もしかしたら、圭さんに出会う為に、生まれて来たのかもしれない。

その晩、圭さんの素肌の温もりを感じながらも、
“保田さん”の事を思い出す事はなかった。
951 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 02:03
...

「おはよう」
目覚めると、何故か水着姿の圭さんがいた。

「ほんとぐっすり眠ってたよね。絵梨香の寝顔見たの、久し振りかも」

何度も、下から上、上から下へと視線を移動させる。
やっぱりどこからどう見ても水着だ。

「あの、どうして水着なんですか」
「泳ぎに行こうと思って。絵梨香も一緒に行かない?」

そう言って、圭さんは水着の上に薄手のシャツを羽織る。
952 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 02:03
「ま、待って下さい」

片時も離れたくない。
その思いに突き動かされ、起き抜けにもかかわらず、私は勢いよく跳ね起きる。
そんな私を、圭さんは優しく受け止めてくれる。

「…急がなくても、置いて行ったりしないよ。ちゃんと待ってる」

昨夜と変わらない、甘い香り。
優しい温もり。
それは私をいくらか落ち着かせてくれた。

私はゆっくりと頷き、支度にとりかかった。
953 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 02:04
...

結局、私達は本格的に泳ぐ事はしなかった。
ただ、この身を海水に浸し、クラゲのように漂っているだけ。

異国情緒あふれる南の島。
透明度の高いマリンブルーの海。
ぷかぷかと浮いていると、精神までたゆたっているような錯覚に陥る。
夢か現実か区別もできなくなる。
でも、この世界はまぎれもない現実なんだ。
954 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 02:05

「気持ちいいね」
「そうですね…」

相槌を打ちながら、私は圭さんの手をたぐり寄せ、そっと指を絡める。

心音と波の音が重なり合い心地良い。
全ての生物は海から生まれたというけれど、
その記憶の片鱗が私にもどこかにあるんだろうか。
このまま、圭さんと一体化できれば、どれだけ幸せだろう。
そんな私の考えを読んだかのような圭さんの言葉が、すっと耳に入って来た。

「ずっと、一緒にいられたらいいのに」
955 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 02:07
圭さんの方を見ると、さっきまで閉じられていたはずの瞳は開いていた。

「今回の曲に負けて、次の曲もダメだったら…もう後はないんだよね。
デビューが決まった頃、せいぜいもって2、3年だって和田さんに言われて、
覚悟はしてたつもりなのに。やっぱり怖いや」

水面に浮きながら、果てしなく広がる空を見上げる圭さん。
その瞳は、本当は何を映しているんだろう。

「娘。って枠がなくなったら、芸能界で生きていくのは難しいと思う。
本当はずっと歌ってたいって思ってるけど、
熱意や努力だけでやっていけるほど、この業界って甘くないから」

確かに、今の中途半端な現状じゃ、元娘。という肩書きは何の価値も無いだろう。
むしろ、それが足枷となる時だってきっとある。
956 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 02:10
「最近、娘。が解散になった時の事ばっかり想像しちゃうんだよね。
娘。がなくなったら、きっと他に拾ってくれるところなんてない。
その時が来たら…あはは、どうしよう。
専門学校にでも行かせてもらおうかな。
マックのバイトじゃ限界があるし」

圭さんは笑っていたけれど、彼女がどれほど怯えているのかは
痛いほどに伝わって来た。

「きっと絵梨香とも…離ればなれになっちゃうよね。
こうして、誰も私達を知らない…時が止まったみたいな場所で、
二人で静かに生きていけたらいいのに」
繋がれた手の力がいっそう強くなる。

「ううん…いっそさ、本当にノストラダムスが予言した通りに、
世界ごと終わっちゃったら、こんな風に怯えなくて済むのにね」
957 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 02:11
「…」

言葉が、出なかった。
これほどまでに追い詰められていただなんて。
私は圭さんの何を見ていたんだろう。

「なんてね。ごめん…言ってみただけ。
タチの悪い現実逃避だって思われてもしょうがないね」

この人は、こんなにも儚い笑い方をする人だっただろうか。
いや、私が知らないだけで、元の世界の“保田さん”も
当時は未来に怯え、神経をすり減らしていたんだろう。
958 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 02:12
「本当にごめん、わざわざ絵梨香を気欝にさせる事ばかり言っちゃうなんて…
どうかしてるよね。反省してる」

でも、今この人には、私がいる。
抱えている闇全てを受け止める為に…
その為に、私がいるんだ。

「そろそろ戻ろっか。皆起きて来る頃だよ」
繋がれた手はそのままに、圭さんは流れるような動きで陸に向かって泳いでいく。
959 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 02:13
陸に上がると、私はその手をそっと解いた。
そして、彼女を背後からきつく抱きしめる。

「絵梨香…?」
「圭さんが恐れているような未来にはなりませんよ。
万が一、最悪の結果になったとしても…
後の事はその時になって考えましょう」

「ん…そう、だね。悪い事は考えないようにする」

私は救世主でもナイトでも王子様でも何でもない。
娘。を引っ張っていけるようなカリスマ性も、ずば抜けた才能もない。

でも、私はあなたを守りたい。
圭さんに闇が押し寄せた時は、それをかき消すだけの光を集めてみせる。
たとえ、歪んだ光だとしても。
960 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 02:13
...

「『Be together』が1位という事で、今回は鈴木の勝利だ」

負けた…か。

結局、娘。の『忘れらんない』は『Be together』に頻差で敗北した。
本当に接戦だった。
961 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 02:14
元の世界のASAYANで見た対決の場面が脳裏に浮かび上がる。

『ふるさと』は5位で惨敗。
あの時の、皆の絶望的な表情が忘れられなかった。
そしてセンターを任された安倍さんが、
結果的に責任を負わざるを得なくなったのだ。
“ごめんね”と泣いていた安倍さん。
この世の終わりのような表情をしていた皆…

だけど今、暗い表情をしているメンバーはいない。

皆小室プロデュースの鈴木さんに勝てるとは思っていなかったのか、
この結果に満足しているようだった。
明日香が抜けても、娘。は鈴木さんと充分に渡り合えた…
それが分かっただけでも収穫だったのだ。
962 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 02:15

負けという事実は変えられなかった。
でも、この敗北は、決して屈辱ではなかった…そう思いたい。

「これが私達の頑張った結果です。モーニング娘。は2位でした」

裕ちゃんの凛とした声がこの場に響き渡る。
敗北したのはこちら側なのに、まるでそれが
勝利者宣言のように聞こえたのは、気のせいだろうか。

だけど、最悪の事態だけは避けられた…それだけは分かった。
963 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 02:19
ただ…気がかりな事はある。
“その曲では勝てない”とあれほど偉そうに意見して、
曲まで変えさせてしまったというのに、結局は負けてしまった。
勝負の結果に満足はしていても、
その点に関してはやはり申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

いや、勝とうが負けようが私は失礼な事を言ったのだ。
その事実は変わらない。

私は素直に彼の元へと謝りに行く事を決めた。
964 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 02:20
...

「生意気言ってすみませんでした!!」
私は彼の目の前で直角に腰を曲げ、何度も頭を下げた。
きっと今回の事は禍根を残してしまうだろう。
それは覚悟するしかない。
自分が蒔いた種なんだ。

「三好、顔上げや」

おそるおそる、言われた通りに顔を上げる。

そこには、笑顔のつんくさんがいた。
965 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 02:20
「あ、あの…?」

戸惑う私の頭に、ぽんとつんくさんの手が乗せられる。

「俺にストレートに物言うて来た娘。は、お前で二人目や」
二人目?

「お前が俺に盾突いた時、ちょっと嬉しかったで。
福田の姿とダブって懐かしい気持ちになったからな」
「明日香とですか…?」

「福田もあの時のお前みたいに、曲出す度けちょんけちょんに言うてくれたで。
“つんくさんはモーニング娘。を本当に愛してるんですか”とか“
話題になれば何やってもいいんですか”とか」

それは…勇ましいというか。
明日香もなかなか無鉄砲な発言をする子だな。
966 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 02:22
「俺もふるさとは売れる曲とは思うてなかったしな。
真面目な曲でおもっきしスベってもかっこ悪かったし、これでええんや。
あの曲に変えたから2位になれたんや。なかなかおもろい戦い見せてもろたで。
次で巻き返し図る為の参考になったのは確かや」

そう言うつんくさんは早くも次の目標に向けて張り切っているのか、
目を輝かせていた。
その事に心底ほっとする。

「あの…つんくさん」
「なんや?」
「信じてもらえないかもしれませんけど、私にとって
ふるさとは大事な曲ですよ。今でも」
「三好が俺の曲を愛してくれとるのはよう分かっとる」

つんくさんは2、3度私の髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜた後、
そっとその手を離した。

「お前は間違った事はしてへんのや。胸張って堂々としとき。
その方がロックやで」
「…はい!」

私は精一杯の笑顔を向け、この場を後にした。
先ほどとは打って変わって軽い足取りだった。
967 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 02:23
たとえ幾つもの苦難が私達に降りかかっても…
変えてみせる。
運命を。
この身を投げ出してでも。

これからも、私は道を切り開いて行くんだ。
まだ終わらせない。
私達に立ち止まる時間はないのだから。
968 :第28話 世界の終わりには :2012/05/14(月) 02:24
第28話 世界の終わりには
969 :あおてん :2012/05/14(月) 02:25
まだまだ続きます

>>920
ありがとうございます。4期登場までは続ける予定です。
970 :名無飼育さん :2012/05/17(木) 15:55
更新キター!
この話のやすみよ凄く好きです。
971 :あおてん :2012/05/20(日) 23:54
>>970
ありがとうございます!
重度のやすみよヲタの私にとっては最高の褒め言葉です。
972 :あおてん :2012/05/21(月) 00:04
Two DestiniesU
ttp://m-seek.net/test/read.cgi/dream/1337526168/
容量がいっぱいなので、次スレを立てました。

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