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Berryz Quest Vol.2

1 :びーろぐ :2009/12/16(水) 06:03
berryzによる剣と魔法のファンタジー、第弐集です。
タイトルにQuestとありますが、今のところなにひとつ探求してません。

一話完結の形を取っていますが、ネタバレしたりする可能性があるので
ちょっと読んで面白いと思ったら、前スレから読んでやってください。

とりあえず冒頭の八話は、なるべくネタバレしない方向で行きます。

Berryz Quest 壱話〜七話
ttp://m-seek.net/test/read.cgi/dream/1188559496/
101 :第八話 デレシン :2010/01/20(水) 06:12
「今宵は楽しくやろうぜ。ほら、アンタも踊りな!」

赤鼻が鼻歌を口ずさむ。髭男は呆れた表情で首を振った。

とその時、薄く扉が開いた。
隙間から、つばの付いた黒い帽子が差し出される。

赤鼻が動きを止めた。ひらひら揺れる帽子を凝視する。

「オイ、テメエ!」赤鼻は大股で歩き出した。
「バカにするのもいい加減にしろよ。
 だいたいよ、言っとくがよ、あれはイカサマだろうが。
 俺には、わかってんだからよ!!」

激しく腕を振り指差しながら、廊下に消えていく帽子を追う。

「おい、止めろ」

髭男は赤鼻の腕を取った。
が、赤鼻はうるさいと言って振りほどいた。

髭男は呆れ顔で首を振った。
赤鼻が廊下に出たところで、派手な物音が響き渡った。
髭男は大きくため息をつくと、扉に向かって歩き出した。

「ケンカなんて、するんじゃねえ!」

髭男は扉を大きく開けた。そこで動けなくなった。

まず目に飛び込んできたのは、廊下に転がるふたりの男。
そして、顎に下から突きつけられた棒状の物。

「静かに。騒がないで」

棒を突きつけた女が言った。

酔ってるとはいえ、荒くれ者をふたりもねじ伏せるとは、相当なやり手だ。
だが所詮は女、力勝負では男に敵うまい。
髭男は、気づかれないよう、女の持つ棒に手を伸ばした。

背後から声が聞こえた。

「動かないで。できるなら貴方たちを傷つけたくない。わかるでしょ?」

背筋に冷たい感触が伝わる。髭男は観念した。
102 :びーろぐ :2010/01/20(水) 06:20
>>84
有難うございます。
ここから先、モモコが活躍するかもしれませんし
他の誰かが活躍するかもしれないです。
どうぞ暖かく見守ってやってください。
103 :名無飼育さん :2010/01/21(木) 19:45
他の誰かって…真野ちゃん?舞美?茉麻?千奈美?
それともまさか…池田稔(大人の麦茶)さん?
悪ふざけが過ぎました(スミマセン)。
何にしてもこの警備をどう脱出するかは見物です。
104 :第八話 デレシン :2010/01/27(水) 06:23
鎧戸から差し込んだ月明かりが
赤い絨毯の上に規則正しく並んでいた。

アイリは椅子に腰掛け、ぼんやりその線を眺めていた。
順に目で追いながら、一本、二本と頭の中で数える。
なぜそんなことをしているのか、自分でもわからなかった。

なによりも、己の置かれている状況がわからない。

いきなり馬車に連れ込まれ、目隠しと猿ぐつわをかまされた。
なので、ここがどこなのか、誰にさらわたのか
なんのために連れてこられたのか、なにもわからない。

救いなのは、酷い扱いを受けなかったことだ。

監禁されている部屋は立派だし、大きなベッドもある。
夕食も出された。さすがに食欲もなく
手はつけなかったが、豪華な料理が並んでいた。

ただ、拉致という乱暴な手口と、豪勢な待遇が
アイリの頭をいっそう混乱させた。

隣の部屋から、大きな物が転がったような音が鳴った。

アイリは怯えた視線を壁に向けた。
鍵のまわる音が聞こえ、扉がゆっくり開く。

扉に視線を移し、思わず立ち上がる。
椅子が絨毯の上に倒れ、静かな音を立てた。

人影が見えた。照明が目に入り、顔まではわからない。

小さな人影が、アイリに向かって駆けてきた。
逃げようと思うのだが、身体が動かない。
人影は、ドンドン近づいてくる。

「アイリ〜!」

聴き慣れた声がした。アイリの表情が明るくなる。

「モモ!」

アイリの胸に飛び込んできたのは
顔をクシャクシャにしたモモコだった。
105 :第八話 デレシン :2010/01/27(水) 06:26
「子爵の屋敷!?」

モモコから話を事の顛末を聞き、アイリは目を丸くした。

「なんで? なんのために、連れてこられたの?」

「う〜ん、モモもわかんないけど、アイリが頼んでも
 創ってくれないからだと思うよ」

「はあ? 意味わかんないんですけど」

監禁された不安から助けに来てくれた喜び、そして子爵への憤り。
アイリの感情はクルクルと変化した。

「話は後で。とにかく、今は早く逃げ出さないと」

サキが言う。そして廊下を探るミヤビに顔を向けた。

「ミヤ、どう?」
「大丈夫、誰も来ない」

じゃあ行こうかとサキが促す。
部屋の中には、三人の大男が縛られ
猿ぐつわをかまされた状態で転がっていた。

「これ、モモたちがやったの?」

アイリが訊くとモモコはそうだよと頷いた。
が、サキに「モモはなんにもしてないでしょ」
と言われ、頬を膨らませた。
106 :第八話 デレシン :2010/01/27(水) 06:28
階段を下り、一番に一階に降り立ったミヤビは
どっちだったけと首を振り向けた。

一段上がったところから、サキが向こうだよと指差す。

その方向を向いた瞬間、背後から声がした。

「誰だ。なにしている!」

振り向くと、すぐ側に白髪の男が立っていた。

つい先ほど見たときには、誰も居なかったはずだ。
それが気配も感じさせず、間近に立っている。
ミヤビの額から汗が噴出した。

だが動揺している場合ではない。
すぐさま棍を繰り出す。

ところが男は老人とは思えない素早さで、それを避けた。
そして棍をむんずと掴む。

ミヤビの動きが封じられた。
男の蹴りが、彼女の顔面を狙う。

そこへサキが躍り出た。

「モモ、アイリをお願い!」

そう言うと、すぐさま矢を放つ。

矢を避けようとして、男がバランスを崩す。
倒れかけたところに、ミヤビが棍を突きつける。
が、男は軽い身のこなしで、すぐに立ち上がった。
107 :第八話 デレシン :2010/01/27(水) 06:29
男が反撃の態勢に入った。

サキが次の矢をつがう。
その後ろを、モモコに手を引かれアイリが通った。

「!? オマエは…」

男の動きが一瞬、止まった。
その隙を突き、ミヤビの棍が喉元を狙う。

「うっ!」

男が床に転がった。
が、寸でのところで急所をかわされ、致命傷はあたえられなかった。

サキが眠りの矢を放つ。
これも避けられ、男の頬をかすめた。

「誰だ、なんの騒ぎだ!」

廊下の遥か向こうから声が聞こえた。

「ミヤ、もういい。逃げよう」

ミヤビは男にとどめを刺そうとしたが
サキの言葉に舌打ちし、身をひるがえした。

これでサキたちが侵入し、アイリが逃げ出したことが知れ渡ってしまう。

だがこの老人は相当手ごわい。
相手をしている内に囲まれては、元も子もない。

これで逃亡が困難になることを感じつつ、ミヤビは必死で駆けた。
108 :第八話 デレシン :2010/01/27(水) 06:30
 
109 :第八話 デレシン :2010/01/27(水) 06:31
「見張りが酒を飲んでいただと!?」

召使いが差し出すガウンに袖を通しながら
トリル子爵は声を荒げた。

「クビだ、クビだ! あやつら全員、放り出せ!」

子爵は怒鳴った。それでも怒りが収まらず
なんの脈絡もなく召使いを叱り付ける。

「それに侵入者をゆるすとは、見張りの城兵はなにをやっている。
 速やかに捕えるよう、使いを出せ!」

配下の者が一礼し、走り出そうとする。
が、先ほどミヤビと戦闘を繰り広げた老人が
「少しお待ちを」と声を掛けた。
子爵は使いの者を、待てと言って留めた。

「実は…」

老人が子爵の耳元で囁く。
子爵の顔色が変わる。

「……まことか」

子爵が老人の顔をまじまじと見つめた。

「はい。間違いございません」

老人はうやうやしく頭を下げた。

子爵の口が、真一文字に結ばれる。
しばらく唸った後、決心したように口を開いた。

「城兵には知らせるな。我らだけで賊を捕えるのだ」

そして、激しい口調で言った。

「いざという時は、始末して構わん。
 良いな、必ず我らだけで仕留めるのだ!!」
110 :第八話 デレシン :2010/01/27(水) 06:32
 
111 :第八話 デレシン :2010/01/27(水) 06:33
屋敷に灯が燈り、捜索の足音が響く中
サキたちは中庭にある燃料庫に身を潜めていた。

侵入した勝手口から出るつもりだったのが
先に逃げ出したモモコとアイリが誤って
中庭に通ずる扉から出てしまったのだ。

中庭も表通りとは面していたのだが
調度、見回りの城兵とかち合ってしまい、引き返した。

ところが他の三方は屋敷と接しており、敷地外に出られない。

しょうがなく、燃料庫に隠れた。

「ねえ、ちょっとマジでヤバイよ」

窓から様子を伺っていたミヤビが呟く。
どれどれとサキも窓から顔を覗かせる。

「うわぁ、これってマジじゃん」

アイリと共に薪が積まれた場所に
身を隠していたモモコが、どういうことかと尋ねる。

「あれ見てごらん」

サキが指差す。数人の男たちが見えた。
手にしている武器は、魔法の剣や大振りの斧など
殺傷能力が強い物ばかりだ。

「見つかったら殺されるよ」

サキの言葉に、モモコの顔色が変わった。

「ウソでしょ!?」
112 :第八話 デレシン :2010/01/27(水) 06:35
子爵としては、彼女らが城兵に捕まって
アイリを連れ去ったことが露見することが一番不味い。

そうなる前に口を封じ、たとえ兵たちに見つかっても
侵入者を始末しただけだと言えば、咎められることはない。

「それに、アイリちゃんはともかく、ウチらを生かす理由はないしね」

アイリにしたって、命の保障があるわけではない。
子爵にとっては、己の保身の方が大切だからだ。

「でも、どうする? 身動き取れないよ」

ミヤビが言う。
敷地の外に出るには、庭を突っ切って大通りに出るか
屋敷に戻って裏から出るしかない。

そして、そのどちらにも彼女らを探す男たちが居る。

「う〜ん、そうだなぁ」

サキは唸った。ぐずぐずしてられない。
ここもいずれ捜索の手が伸びるだろう。

「よし、火をつけよう」
「えっ、なに言ってんの、キャップ?」

驚きの表情を見せるモモコに、なんでもいいから
山積みになった薪に火をつけろと、炎の刃を指差す。

「ダメだって! ウチら逃げらんないんだよ?
 ここに火なんてつけたら、焼け死んじゃう!」

「大丈夫だから。ほら、早くつけて」

サキは苛立った声を出した。
他に火をつける道具はなく、炎の刃はモモコしか使えない。
不安がるモモコを、宥めすかした。

観念したモモコは、剣を振り上げた。

「キャップ、責任とってよ!」

そう叫び、一気に振り下ろした。
113 :第八話 デレシン :2010/01/27(水) 06:36
 
114 :第八話 デレシン :2010/01/27(水) 06:37
中庭を捜索していたひとりが、一緒に居た男の肩を叩いた。

「おい、なにか匂わないか?」
「なにがだ?」
「こう、焦げるような、香ばしいような…」

鼻をひくつかせながら、辺りを見回す。

「おい、あれ見ろ!」

ひとりが剣を掲げた。燃料庫の窓から、紅い炎が見える。

「た、大変だ!」

大声で火事だと告げながら、男たちは走り回った。

薪や枯れ草などが保管されている燃料庫は、火の回りが速い。
屋敷の者たちが集まったころには
炎が壁を伝い、屋根より高く上がっていた。

「火を消せ!」「水だ、水」「屋敷に燃え移るぞ!」

男たちの怒号が飛び交う。
小娘の捜索などしている場合ではない。
皆、必死で消火活動にあたった。

また、大通りに面した門扉辺りでは、別の騒動が起きていた。
火事が起きたことを知り、城兵が駆けつけたのだ。

「我々の手で消し止めますので、どうかお引取りを」
「いやいや、城内の警備は我らの務め。見過ごすわけには」

城兵を敷地に入れたくない屋敷の者と
職務を全うするため消火に加わりたい城兵との間で
押し問答が続いていた。
115 :第八話 デレシン :2010/01/27(水) 06:38
城兵の後ろに、幾人もの城兵が現れた。
その中でも、立派な冑を被った兵が、声をあげた。

「何事であるか!」

もめていた城兵が振り返る。

「団長!」

団長と呼ばれた男は、赤々と燃え上がる炎を目にし声を荒げた。

「貴様、なにをしておる。すぐさま消火活動に加わらんか!」
「ハッ! …いや、ですが」

屋敷の者が手もみしながら団長の前に進む。

「この程度の火でしたら、我らのみで大丈夫ですので」
「なにを言うか、屋敷に燃え移らんとしておるではないか!」

者ども続けと手を振り、強引に敷地内に足を踏み入れた。
そこに姿を見せたのは、あのミヤビと戦った老人だ。

「これは、これは。団長殿、見回りご苦労さまです」

団長が眉をひそめた。
尋ねる前に、老人がうやうやしく頭を下げる。

「私はトリル家の家令でございます」
「あれはどういうことですかな?」

団長が炎に包まれた燃料庫を目で指した。
家令は身体を少し捻り、炎を眩しそうに見つめると
静かに団長に向き直り、平然とした表情で言った。

「家人が不始末を起こしたようですな。
 お忙しいお身体にも関わらず、足を運んでいただき
 申し訳ございません」

そしてもう一度、頭を下げるとお引取りくださいと掌を差し出した。
116 :第八話 デレシン :2010/01/27(水) 06:40
「なにゆえ、城兵を拒まれる。
 我らが足を踏み入れると、都合の悪いことでも、おありか?」

丁寧だが、強い口調で団長は言った。
だが家令は頬に笑みをたたえ
とんでもございませんと手を振った。

「我らの不始末は、我らで始末をつけます。
 幸いなことに、火元は中庭の小屋。
 他の皆さまのお屋敷に延焼することは、ございません。
 どうぞ、職務にお戻りください」

ただの使用人ならともかく、一切を取り仕切る家令に
ここまで言われれば、無理やり踏み込むわけにも行かない。

断固とした拒絶に、なにかあるなと感じていても
引き下がるしかなかった。

「後日、殿下からこの件に関して
 尋ねられることがあるかもしれぬ。
 その時は、嘘偽りなきよう」

「もちろん」

家令は、先ほどと寸分たがわぬ姿勢で一礼した。
後ろ髪引かれる想いで、踵を返そうとしたその時
燃え盛る燃料庫から、小さな影が飛び出すのが見えた。

「なんだ、あれは?」

団長は目を凝らした。
必死で消火活動をする男たちの間を走り回っている。
そのうち二人は、どう見ても子供だ。
117 :第八話 デレシン :2010/01/27(水) 06:43
家令が身体を向けた。

「ほう、あれは当家のメイドたちですな」

表情を変えず、平然と言い放つ。

「メイド?」

確かに、子供たちと共に走り回る中に
女性らしきシルエットが、ふたつあった。

「男どもに混じって消火を助けるとは、感心、感心」

家令はそう言って目を細めたが
団長にはどう見ても消火を手伝っているようには思えなかった。

男たち数名と、追いかけっこをしている。
そんな風にしか見えない。

追っている男のひとりが、斧のような物を振り上げた。
その前を逃げまどっていた女性の足がもつれる。

転んだ女性に、斧が振り下ろされようとした
その瞬間、子供のひとりが矢を放った。

命中し、男は棒のように後ろに倒れた。

「あれが消火を助けてる?」

団長が指差す。だが、家令は慌てない。

「屋敷で起こる初めての火災に、はしゃいでるようですな」

──後で叱ってやらねば。

そう呟き、家令は、ほんの少しだけ眉を寄せた。
118 :第八話 デレシン :2010/01/27(水) 06:44
やがて、逃げまどう女子供が、門に近づいてきた。
後ろから追うのは、子爵の屋敷には似合わない、荒くれ者だ。

「水、くんできます!」
「ウチも!」
「アタシも!」
「モモも!」

そう言って彼女たちは、団長の横をすり抜けた。

「待ちやがれ!」

その後を、剣を手にした荒くれ者が突進してくる。

団長は、脇を通り過ぎようとする荒くれ者に
鉄槌を喰らわせた。

荒くれ者が転がった。
門扉から玄関に続く階段に、頭をしこたま打ち付ける。
荒くれ者は、頭を抱えながら悲鳴をあげた。

「なにしやがる!」

だが団長は、そんな男を怒鳴りつけた。

「火事だというのに、メイドの尻を追い回すとは
 どういった了見だ!!」

「メイドだと!」

打ち付けた頭をさすりながら、男は声をあげた。

「メイドなんかじゃねぇ! アイツら侵入者だ。
 夜中に、城に忍び込んだ、不届き者なんだよ!!」

アンタらがしっかりしないから、こんなことになったんだと
声を荒げる男に、城兵たちは色めき立った。

あの者たちを追えと、団長は剣を抜いた。
集まった城兵が、オーと応える。

ここに来て初めて、家令の顔に苛立ちが浮かんだ。
119 :第八話 デレシン :2010/01/27(水) 06:44
 
120 :第八話 デレシン :2010/01/27(水) 06:46
「どっから逃げるの?」

走りながらアイリが尋ねる。
彼女の手を引き、モモコが振り返った。

「あのね、水くみ場から外の水路に繋がってるの」

モモが見つけたんだよと笑顔を見せる。が

「ダメだよ、あそこまで行ってる暇ない」

とサキが告げると、今度は泣き出しそうな顔になった。

「じゃ、どっから逃げるの!?」
「あんまりやりたくなかったけど、強行突破」

そう言って、サキは城壁を顎で指した。

「何者だ!」

背後から城兵が現れた。
火事の現場に居合わせた兵ではないようだ。
彼女たちが侵入者であることは、まだ知らないらしい。

「先、行って」

ミヤビが身をひるがえす。
駆け寄ってくる城兵に、棍を後ろ手に隠し
慎重に間合いを計る。

「ゴメンなさい!」

ミヤビは隠した棍を下から振り上げ
城兵の眉間に突きつけた。

女相手に油断していた城兵は、避けるそぶりもなく
ミヤビの一撃に卒倒した。

「ホントは顔とか狙いたくなかったんだけどね」

軽装とはいえ、甲冑に身を包んでいるのだから仕方がない。
油断している隙に急所を狙わないと、勝ち目はないからだ。

ミヤビは大の字になって転がる城兵に
顔を歪ませ手を合わせた。
121 :第八話 デレシン :2010/01/27(水) 06:49
サキたちの後を追おう振り向いたミヤビは
突然、顔面に強い痛みを感じ、その場に倒れた。

「先ほどは、よくも恥をかかせてくれましたね」

そこに居たのは、トリル家の家令だった。

ミヤビは素早く立ち上がった。
鼻から垂れた鮮血が、地面に赤い染みを作る。

──まただ。また、気づかなかった。

まったく気配を感じさせず接近する。
この男、かなりの手練だ。

頬に笑みを蓄えながら家令がゆっくり近づく。
ミヤビは姿勢を低くし、棍を構えてじりじりと後ずさる。

家令が一歩、踏み込んだ。素早い蹴りが飛んでくる。
棍で受けようとするのだが、間に合わない。
キツイ一発が、横っ腹に突き刺さる。

吹き飛ぶようにしてミヤビは倒れこんだ。
息ができず、うめき声をあげる。

霞んだ視界の中に、先ほど倒した城兵の足が見えた。
122 :第八話 デレシン :2010/01/27(水) 06:50
遠くから甲冑のすれる音が聞こえてきた。

「どうやら、遊んでる暇はないようですな」

家令が大股で近づいてくる。

「他のお仲間はどちらに行かれましたかな」

倒れたミヤビの髪を掴み、頭をもたげようとした瞬間
ミヤビは棍を地面に突き、身体を起こした。
その反動を利用して、家令の額に頭突きを喰らわせる。

ミヤビが苦しみながらも棍で攻撃することは想定していたらしく
家令は突き立てた棍を掴もうと手を伸ばした。

だが、頭突きは予想外だったようだ。
見事にクリーンヒットした。

「うっ!」

家令がうめく。
が、ミヤビが攻撃できないよう、棍を握る手は離さない。

ミヤビは身体を横たえ、転がって昏睡する兵に近づいた。
兵の腰から剣を抜く。
そして家令の足の甲、目がけて一気に振り下ろした。

「ぐおぉ!!」

家令が悲鳴をあげた。思わず棍を取り落とす。

ミヤビは棍を拾い上げた。
城兵の足音が、思いのほか近づいているのを感じた。
とどめを刺している余裕はない。

家令の恨めしい視線を背中に受けながら
ミヤビは駆け出した。
123 :第八話 デレシン :2010/01/27(水) 06:51
 
124 :第八話 デレシン :2010/01/27(水) 06:53
城壁のすぐ側に来たところで
サキはモモコとアイリに隠れるよう指示した。

光の玉が灯る櫓に素早く視線を巡らせる。
正面近くにも櫓はあったが、サキは左側の
少し離れた櫓だけに、矢を放った。

「よし、行こう」
「えっ、こっちはいいの?」

モモコが正面の櫓を指す。

「そっちはいい。だって城兵居ないもん」

全ての櫓に、兵が詰めているわけではない。
モモコやアイリには見えなかったが
サキの矢は確実に見張りを捕えていた。

縄をくくり付けた矢を弓につがえる。
城壁の上部に狙いを定め、放つ。
縄の重みで緩い放物線を描いた矢が、壁の上に消えた。

サキは縄を力一杯引いた。
矢狭間に矢が引っかかり、縄が固定される。

「ミヤビちゃん、大丈夫かなぁ」

アイリが振り返る。
通ってきた路地は暗く、先がまったく見えない。

「ミヤなら平気。ちゃんと来るって」

モモコは握り拳を突き上げ
自分に言い聞かせるように頷いた。
だが、アイリが

「でも、ちょっと遅くない?」

と眉を寄せると、モモコの瞳に、不安の色が浮かんだ。
125 :第八話 デレシン :2010/01/27(水) 06:54
「さっ、早くして」

サキがアイリに、目線で合図する。
モモコが背中を押す。
度々、振り返りながら、アイリは城壁に近づいた。

縄を掴み、登ろうとするのだが
一向に足が地面から離れない。

「どうしたの?」

周囲を警戒しながらサキが訊く。
アイリは縄を掴んだまま、苦しそうな声をあげた。

「の・ぼ・れ・な・い〜!」

アイリの体力では、縄を登るどころか
ぶら下がることすらできない。

「もう、しょうがないな。モモ、先、登って」

おかしいなと照れ笑いするアイリと
身体を入れ換え、モモコは縄に手を掛けた。

モモコが登りきると、サキはアイリに綱を掴ませ
余った縄を、胴回りに一周、巻いた。

そして城壁の上に居るモモコに
引っ張りあげるよう、指示する。

路地から人の気配を感じた。
弓を構える。

が、足を引きずるようにして現れたのは、ミヤビだった。
126 :第八話 デレシン :2010/01/27(水) 06:55
「ミヤ!」サキは声をあげた。
「遅いよ、なにやってたの」

「ゴメン、ゴメン」

ミヤビは引きつった笑みを見せた。
顔に青あざができており、鼻血の跡が残っている。

「どうしたの! 大丈夫?」

肩に手を掛け、サキが顔を覗き込む。
ミヤビは片目を瞑った。

「ちょっと転んだだけ。それより、城兵が来るよ、早くしないと」

アイリが登りきったため、縄が降ろされた。
サキはミヤビに先に登るよう促したが、彼女は首を振った。

「キャプテンが先に登って。じゃないと援護できないし」

ミヤビが最後ならば、サキが登っている間は
下にいる彼女が周囲を監視できるし
最後にミヤビが登っている最中も、上からサキが弓矢で応戦できる。

だが、サキを最後にすると、城兵が近づいてきた時に対処できない。

ミヤビの意見を聞き入れ、サキは綱を取った。
幸いにも、彼女が登りきるまで、城兵は現れなかった。

「ミヤ、いいよ!」

ミヤビは綱を掴んで、器用に登り始めた。
127 :第八話 デレシン :2010/01/27(水) 07:01
「ミヤビちゃん!」

後もう少しで登りきるというところで
アイリが手を差し出した。

サキは弓矢を手に辺りの警戒にあたっている。

モモコも、及び腰ながら炎の刃を構え
いつでも放てるよう、身構えている。

ひとりだけ、なにもできないでいるアイリは
少しでも早くミヤビに登ってもらおうと
城壁から身を乗り出した。

ミヤビの右手が、アイリの手首に伸びる。

アイリもミヤビの手首を掴もうとした。
ところが、掴みかけた瞬間、するりと彼女の手が
掌から抜け落ちた。

なにが起きたのか理解できず、アイリの頭が混乱する。
眉が困ったように下がり、驚愕で口元が歪んだ。

だが一方、ミヤビの顔には
イタズラっぽい笑みが浮かんでいた。

「やっとだよ」

そうため息をつくと、ミヤビは右手を掲げた。

「やっと、取り返した」

困り顔のアイリを見上げ、片目を瞑る。
その手の中で、布製のブレスレットが揺れていた。
128 :びーろぐ :2010/01/27(水) 07:10
>>103
今回、活躍したのはミヤビ…とトリルさんちの家令でした。
予想を裏切ってしまい、スミマセンw
このまま行けば、なんとか四人とも無事、脱出できそうです。
129 :名無飼育さん :2010/01/27(水) 23:01
ミヤサキがカッコよくて惚れそうです
130 :名無飼育 :2010/01/28(木) 15:20
更新キテター!
ミヤビちゃんのブレスレット愛が可愛い♪
131 :名無飼育さん :2010/02/02(火) 18:55
辛い日々もこの話を見ると少し元気が出る
俺もこんな話を書きたいもんだ…
132 :第八話 デレシン :2010/02/03(水) 05:40
「もう!」

アイリは頬を膨らませた。

この状況下で、なに子供っぽいことをやってるんだ。
してやったりと笑みを漏らすミヤビを睨みつける。

だがその瞳に怒りの色はなく、笑みが浮かんでいた。

ほら、と呆れ顔でぶっきらぼうに手を差し出す。
それに応えるようにミヤビも、手を伸ばした。

今度こそ、がっちり手を握り合う。
はずが、またもミヤビの手が抜け落ちた。

驚いたアイリが顔を向けると
ミヤビの顔から生気が失せていた。

次の瞬間、彼女の身体が、アイリから遠ざかっていった。
なんとか掴み取ろうと、身を大きく乗り出す。

バランスを崩し、城壁から身体が投げ出されそうになる。

それを察知したサキが、アイリの背中を引っ張りあげた。

なす術をなくしたアイリから、ミヤビが、どんどん遠ざかる。
彼女の身体は、音もなく地面に落下した。

うつ伏せになった背中に、剣が刺さっているのが見えた。

しばらくの間、なにが起こったのか、理解できなかった。

「ミヤー!!」

モモコの鋭い叫び声に、我に返る。
路地から人影が現れるのが見えた。
屋敷で見た、老人だ。

サキが素早く縄を引き上げ、外側に垂らした。

「ふたりとも、すぐに逃げて」

そう言うと、城壁に脚を掛けた。

「モタモタしてたら、捕まっちゃうから。
 真っ直ぐ、家に帰るんだよ。いいね」

唖然とするふたりを残し、サキは城壁から飛び降りた。
133 :第八話 デレシン :2010/02/03(水) 05:41
サキは地面に降り立つと同時に、弓を構えた。
近づいてくる家令に、すぐさま放つ。

家令は身体を捻って矢をかわした。

だが、屋敷で見せたような
軽い身のこなしではなかった。

「キャ、キャプテン…」

ミヤビが声をあげた。
最後の力を振り絞り、家令の足を指差す。

引きずる右足の甲から、血が滴っている。

「ミヤがやったの?」

サキが尋ねるとミヤビは弱々しい笑みを浮かべながら頷いた。

「お手柄!」

そう言ってサキは、家令の左足に照準を合わせた。

「貴様だけは、絶対に逃がさん!!」

家令が叫んだ。
だが、サキは慌てることなく醒めた視線を送る。

「これでおしまい!」

最後に一本だけ残った、眠りの矢を放つ。

右足を負傷しているため
軸足となった左足は容易に動かせない。

矢は見事に家令の腿に命中した。

家令は一瞬、顔を歪めた。
そして、頬に厭らしい笑みをたたえたまま、その場に倒れた。
134 :第八話 デレシン :2010/02/03(水) 05:42
「ミヤ、大丈夫!?」

サキは横たわるミヤビに駆け寄った。
血は止まっている。
今、ここで剣を抜くのは、かえって危険だ。

「居たぞ、こっちだ!」

城兵の声が響き渡る。
複数の足音が、あちらこちらから集まってくる。

手負いのミヤビを連れて逃げることは不可能だ。
あっという間に、周囲を取り囲まれた。
サキは観念した。

「コヤツめ!」

眉間から血を流した男が、ミヤビの髪を掴んだ。

「乱暴はやめて!」

サキはその手を振り払った。

「なにを!」

城兵がサキに掴みかかる。

「そこまでだ!」

大きな声が飛んだ。
群がる兵たちをかき分け、団長が姿を見せた。
仁王立ちになってふたりを見下ろす。

「もう抵抗する気はないのだろう。
 手荒い真似をする必要はない」

城兵は忌々しそうに、サキから手を離した。
サキは立ち上がり、強い視線を団長に送った。
135 :第八話 デレシン :2010/02/03(水) 05:43
 
136 :第八話 デレシン :2010/02/03(水) 05:44
モモコとアイリは、サキに言われた通り
城壁から降りると、すぐにその場を離れた。

なんとか無事、家にたどり着いたころには
空が白み始めていた。

「どうしよう…」

最小限の灯りだけを燈した部屋の中を
アイリが忙しなく歩き回る。

「アタシのせいだ、アタシのせいだ、アタシのせいだ…」

早口で何度も呟く。

「アイリ、落ち着いて」

モモコが声をあげた。
目の前のテーブルの上に、まだ手をつけていない
水滴をまとったグラスが、四つある。

注がれているのは、レモネードだ。
疲れた身体を癒すためにと、モモコとアイリ
それにすぐに戻ってくるはずの
サキとミヤビのために、アイリが用意した。

だがいくら待っても、ふたりは戻ってこない。

「あのふたりなら、大丈夫だよ」

なんでもないような口ぶりで、モモコが言う。

「大丈夫なわけないじゃん! モモも見たでしょ?
 ミヤビちゃん、大怪我してるんだよ!?」

「だって、キャップがついてるもん」

少なくとも、子爵の手の者に捕まったりはしない。
だから大丈夫、と何度も繰り返す。
言葉は自信に満ちていたが、その視線はなにも捉えてなかった。
137 :第八話 デレシン :2010/02/03(水) 05:46
「だいたいさ、なんで助けにきたの!?」

掴みかかりそうな勢いで、アイリが言った。

「なんでって…」

「助けてって、誰も頼んでないじゃん!
 モモたちには関係ないじゃん! それともあれ?
 アタシのこと助けたら、お礼に氷の刃
 創ってもらえるとでも思ったの?」

「そんなこと…」

感情を吐き出すようにまくし立てるアイリに
モモコは言葉を失った。

「創んないよ、そんなことされたって、創るわけないじゃん!
 なのに、城に忍び込むなんて無茶して、ふたりが捕まって…」

アイリは椅子に身体をストンと落した。両手で顔を覆う。

「これで、ミヤビちゃんに、もしものことでもあったら
 アタシ、どうしたらいいのか、わかんない…」

消え入るような声で言うと、アイリは静かに首を振った。

「アイリ」

モモコは立ち上がり、彼女に近づくとそっと肩に手を掛けた。

「あのふたりは、伝説の錬金術師じゃなくても助けに行ったよ。
 だって、そういう子たちだもん」

嗚咽を漏らすアイリの顔を覗き込む。

「そして、モモはアイリだから行ったんだよ」

アイリがゆっくりと顔をあげる。
モモコは笑みを浮かべて頷いた。

「だって、大切なお友だちだもん」
138 :第八話 デレシン :2010/02/03(水) 05:48
「心配しないで。朝になったらモモ、王さまに会いに行くから」

君主アクアサンタ公は、決して暗君ではない。
それに、トリル子爵のよくない噂も、耳にしているはずだ。
ちゃんと説明すれば、わかってくれるに違いない。

「だったら、アタシが行く」

アイリは勢いよく立ち上がった。
頬に残った涙の跡を急いで拭う。

「モモが言ったって、信用してもらえるかわかんないじゃん。
 でも、アタシならきっと信じてもらえる」

国内はおろか、帝都までその名を知られる錬金術師だ。
名もない他国の旅人が訴えるより、ずっと信用できる。

だがモモコは、今にも部屋を飛び出しそうなアイリを
両手を前に出して押しとどめた。

「アイリはダメ。だって、子爵んとこの連中に
 見つかったら、また捕まっちゃうよ」

そうなったら、今度こそ命の保障はない。
向こうは、今回の件に関わる者
全てを闇に葬りたいはずだからだ。

「でも、それはモモも一緒じゃん」

アイリは苛立つように足を踏み鳴らした。
侵入した時に、何人かには確実に顔を見られている。
もし見つかれば、アイリ以上に命の危険に見舞われる。

だがモモコは首を振った。

「モモは平気。たぶん見つかんないから」
「なんで? なんでそんなことが言えるの?」
「だってモモ…」

モモコは俯いて唇を突き出した。
そして拗ねたような視線を送る。

「だってモモの顔、地味だもん。誰も憶えてないよ」
139 :第八話 デレシン :2010/02/03(水) 05:50
突然、外が騒がしくなった。

馬のいななき、車軸の回る音、男たちの声。

モモコは窓に駆け寄ったが
外に目をやることなく駆け戻った。

慌てて揺れる蝋燭の火を吹き消す。

ひょっとすると、子爵の手の者かもしれない。

アイリの家に戻れば安心だと思い込んでいた。
だが、そもそも彼女は、ここから連れ去られたのだ。
ある意味、もっとも危険な場所だ。

サキはそこまで指示しなかったが
ここに戻った後、すぐにでも信頼の置ける
誰かのもとに駆け込むべきだったのだ。

モモコは己の迂闊さを呪った。

カーテンの隙間から外を伺う。
垣根の向こうに立派な馬車が見えた。

が、昨日見た子爵の馬車とは違っていた。
屋根に君主アクアサンタ公の紋章が記されている。
周りを囲む騎馬は、領主直轄の兵たちだ。

激しく扉を叩く音が鳴り響いた。

アイリが不安げな視線を巡らせた。
モモコも、どうすればいいのかわからず、おろおろした。

扉を叩く音は、激しさを増した。

「殿下の使いである。中に居るのはわかっておる。
 なにをしてる、早くここを開けぬか!
 さもなくば扉を打ち破るぞ!!」

男の怒鳴り声が響き渡った。
140 :第八話 デレシン :2010/02/03(水) 05:52
「ど、どうしよ? アタシ、どうしたらいいかな?」

アイリがモモコの手を取った。
落ち着きなく身体を動かす。

「そんな、モモに訊かれたって…」

モモコも、アイリの動きに合わせるように、身体を揺らせた。

扉を叩く音は、まだ続いている。
モモコは窓に顔を向け、外を見やった。

「あの馬車、モモたちのこと捕まえにきたにしては
 立派すぎるし、とりあえず出てみる?」

貴族や町の有力者を連行するならともかく
モモコやアイリの様な庶民相手なら
幌馬車の荷台に押し込められるのが関の山だ。

伝説の錬金術師といえど、罪を犯せば特別待遇はない。

「そ、そうだね。扉、壊されちゃ困るしね」

ふたりは覚束ない足取りで、玄関に向かった。

なおも叩きつけられる扉に向かってアイリは
「今、開けます。お待ちください」と震える声で応えた。

扉を開けると、厳めしい顔つきの兵たちが立っていた。

手を取り合い、怯えるふたりの顔を見比べ、ひとりの兵が声をあげた。

「どちらがこの家の主だ」

アイリがモモコを振り返りながら、おずおずと一歩前に出た。
すると兵は後ろに居るモモコに向かって、顎をしゃくって見せた。

「そこの者、城まで連行する。出てきなさい」
141 :第八話 デレシン :2010/02/03(水) 05:53
モモコは目を見開き、自分の顔を指差した。

兵がしかめっ面で、億劫そうに頷いた。
モモコは手と首を全力で振った。

「モモ、なんにも悪いこと、してないですよ。
 ずっとここに居たし。
 お城に忍び込んだりとか、してないですよ!」

必死で言い訳するモモコに、アイリは声は出さずに
「ダメ、ダメ」と口を動かしながら首を小刻みに振った。

だがパニックに陥ったモモコには、まったく通じない。

「子爵の屋敷に、火なんか点けてないし」

と誰も訊いていないことを口走る。
もうダメだと、アイリがうな垂れた。

兵がうんざりした口調で言う。

「そなたを捕えるとは、誰も言ってないだろうが。
 いいから来なさい」

モモコの手を掴み、強引に引っ張る。

「モモ!」

アイリがその後を追おうとするが、兵たちに阻まれる。

馬車に連れ込まれるまで、モモコは何度も振り返りアイリを見た。

「アイリ、心配しないで!」

モモコはそう叫んだ。
だが、彼女の胸の内に、どうなるんだろうという不安が
止め処もなく広がっていった。
142 :びーろぐ :2010/02/03(水) 06:02
>>129
サキがカッコいいというレスはよく頂きますが
いつもはおバカなミヤビが、今回カッコよく描けたんじゃないかと自負してます。

>>130
ご存知かとは思いますが、デレシン衣装の夏焼さんがしているブレスレットは彼女作です。
作中と同じく、他メンの衣装の切れ端を、三つ編みにして作ったものです。

>>131
なにがあったか知りませんが、頑張ってくださいねw
こちらこそ、こういうレスを頂くと元気が出ます!
143 :びーろぐ :2010/02/10(水) 05:34
モモコが連行される少し前、サキは城内の執務室で
領主アクアサンタ公と対面していた。

「ミヤは…一緒に捕まった私の仲間は、どうなったのですか?」

この部屋に連れてこられるまでにも
ミヤビの安否について、何度も尋ねた。
だが、誰も答えてくれなかった。

それどころか、なにひとつ口を利かない。
サキがこれまでの経緯を話そうとしても
誰一人聞く耳を持たない。

そして今、領主の眼前に居る。
部屋の中には、数人の側近、それに団長を筆頭とした
近衛兵数名が居るだけだ。

領主が口を開いた。

「連れのことなら心配せずとも良い。
 手当ては施した。命に関わることはない」

サキは安堵の息をついた。

「さて、そなたは、なぜあのような場所に居た。
 なにが目的だ。話してもらおうか」

サキは城内に忍び込んだ理由、子爵の悪行を
隠し立てすることなく、全て話した。
その間、領主はいくつかの質問を投げかけるだけで
静かに聴いていた。

話し終わると、サキの証言を書き取っていた側近が
その調書を領主に差し出した。

領主は、その書面に目を落とした。
ときおり側近や団長と耳打ちする。

一通り読み終えると、サキに鋭い視線を向けた。
144 :第八話 デレシン :2010/02/10(水) 05:36
「つまり深夜、密かに城内に侵入し
 屋敷に火を放ったことは、認めるわけだな」

調書に目をやりながら、領主が声をあげた。
サキは大きく、そしてしっかりと首を縦に振った。

「はい、事実です。ですが殿下…」

発言しようとするサキを、領主は手を上げ制した。
わかっておると頷き、書面に目を走らせる。

「確かに、この証言が事実であれば、由々しき事態だ。
 すぐにでも議会を開き、子爵の処分を検討せねばならぬ。
 しかしだ、証拠がない」

領主はそう言いながら、調書を指で叩いた。

「それは、当事者であるアイリに訊いてもらえれば…」
「話にならんな」

領主は鼻で笑った。豪華な刺繍が施された
大きな背もたれに身をゆだねる。

「売名行為や金品目的で、貴族や有力な人物を訴え出る事例は多々ある。
 著名な錬金術師といえど、本人の証言だけで
 爵位を持つ者を糾弾するわけにはいかん」

「証言なら私どもがします。拉致されるところを目撃しましたし
 彼女が屋敷に監禁されているところも発見しました」

「賊の証言が、証拠になりうるわけがなかろう」

重い空気が流れる。
二人のやり取りを書き取るペンの音が聞こえるだけで
他の側近や近衛兵たちは、存在を消し去るように微動だにしない。
145 :第八話 デレシン :2010/02/10(水) 05:37
淀んだ空気を切り裂くように、サキが口を開いた。
慎重に、言葉を選び発言する。

「殿下の仰るように、私どもの証言では
 証拠に値しないのかもしれません。
 ですが、城下の者たちはどうでしょうか。
 元々、子爵は良くない風評を持つご様子。
 確かな証拠がなくとも、噂はすぐに広まりましょう」

領主の眉が、ピクリと上がる。
サキはなおも続けた。

「また、そんな子爵から囚われし者を救わんと
 勇気ある行動に出た者たちを捕えたとあっては
 殿下の名声に傷をつけるのではないかと」

そう言ってうやうやしく頭を下げる。
領主は椅子に深く腰掛けたまま、はき捨てるように言った。

「脅しのつもりか」

サキは笑みを作り首を振った。

「とんでもございません。
 このことが他国にも広まれば、観光を柱とする殿下の政策に
 暗い影を落すのではと危惧しているのでございます。
 私は、貴国の将来を憂いて申し上げているまで」

「相変らず、口の減らぬ奴だ」

領主は苦笑を漏らした。
大きな机の両端を掴み、身を乗り出す。

「望みはなんだ」

申してみよと、顎でしゃくった。
146 :第八話 デレシン :2010/02/10(水) 05:40
「子爵への重い処分…などと大それたことを
 望んでいるわけではございません。
 我らには自由を、そしてアイリには身の安全を。
 ただ、それだけでございます」

「そうすれば、醜聞は広まらぬと申すか」

「この窮地を救っていただいた、恩ある殿下を
 裏切ることなど、決してございません」

この身に誓って、とサキは胸に手を当てた。

領主は大きな椅子に身体を沈めた。
しばらく何事かを思案していたが
乾いた唇を湿らせると、まるで謡うように
良く通る声を発した。

「昨夜、閉門に間に合わず、城内に取り残された他国人が三名。
 内、二名を保護。一名は未明に城外に逃走。
 当夜に起こった子爵トリル家、城内屋敷での火災については
 同家から失火であるとの報告が、すでになされておる。
 よって、他国人三名の関与はなかったと断定する。
 また、アイリなる錬金術師においては
 城内での目撃証言はなく、本件には無関係である」

領主はそこで言葉を切った。
側近が書き取るのを待つ。
ペンが走る音が止まったところで、続けた。

「但し、立ち入り禁止時刻に城内に留まり
 城兵数名を弓矢等で負傷せしめたことは、重罪である。
 よって件の三名を国外追放とする。
 以後、入国することを永久に禁ず」

ペンが走る音だけが聞こえる、静かな時が流れた。

やがて書き終えた側近が書類を領主の前に差し出した。
領主は、書面にサインを書きながら言った。

「別件ではあるが、錬金術師アイリを拉致せんと
 企む輩が居るとの密告があった。
 虚言の可能性もあるが、彼女は我が国の宝だ。
 念のため、しばらくは警護をつけることとする」

サインを終えた領主は、側近に書類を押しやりながら言った。

「これで良いな」
147 :第八話 デレシン :2010/02/10(水) 05:42
サキは頬に笑みをたたえた。

「慈悲ある殿下のご裁量に、感謝いたします」

両肘を机の上につき、組んだ手に顎を乗せて
領主はうむと応えた。

「怪我を負ったそなたの仲間も、昼には体を
 動かせるようになるそうだ。
 その後、そこの団長が先導し国境まで連行する。
 それまで間、その者を拘留せよ」

サキは領主に一礼し、踵を返した。
一歩踏み出そうとしたその時、領主の低い声が飛んだ。

「サキ」

サキの背中が凍りつく。なにも応えず、次の言葉を待つ。
領主が焦れたように口を開いた。

「茶番はこれくらいでいいだろう。
 一介の旅人の証言には誰も耳を貸さずとも
 王女の言葉ならば、口を差し挟む者もいない。
 そうすれば、他の者たちも追放せずに済む」

サキの瞳に迷いが生じた。ペロリと舌を出し、唇を濡らす。

「意地を張るのもいい加減にしろ。
 どうだ、戻ってくる気はないのか」

重い沈黙が流れる。サキは静かに口を開いた。

「戻り…ますよ」

領主を振り返る。その目に、迷いは消えていた。

「私のことを、本当に必要としてくれる、仲間の元に」

領主はなにも答えず、ただ頷いた。
それでは、と言って一礼すると、サキは領主に背中を向けた。

近衛兵によって執務室の重い扉が開かれた。
サキは扉に向かって歩き出した。

二度と領主を振り返ることはなかった。
148 :第八話 デレシン :2010/02/10(水) 05:42
 
149 :第八話 デレシン :2010/02/10(水) 05:45
牢獄の固い床の上で、ミヤビは目を覚ました。

硬い靴音の響きが、近づいてくる。

起き上がろうとするのだが、背中に激痛が走り
うつ伏せの状態から、まったく身動きできない。

──キャプテン、ちゃんと逃げたかな。

モモコとアイリは大丈夫だろう。
ああ見えて、モモコは意外としたたかだ。

心配なのは、城内に舞い戻ってきたサキだ。

家令が倒れたところまでは憶えているが
そこから記憶がない。

一命を取り留めたということは
ここは子爵の屋敷ではないということだ。

ならば無理をすることはない。
ミヤビを置いて、ひとりで逃げてくれていれば。

そんなことを考える内、足音がすぐ近くで止まった。

鍵を回す音に続いて、扉が開かれた。

「立て」

男の声がした。
起き上がろうと腕に力を入れるのだが
やはり身体が持ち上がらない。

すると両腕を抱えられ、無理やり立たされた。
引きずるようにして、牢から出された。

どこに連れて行かれるのだろうか。

──まさか、死刑とかにはなんないよね。

まだはっきりしない頭で、ミヤビは考えた。
150 :第八話 デレシン :2010/02/10(水) 05:47
ミヤビが連れて行かれたのは、絞首台ではなかった。

例の搬入門から城壁の外に出る。
すると、そこに城兵に両脇を固められたサキが立っていた。

「ミヤ、大丈夫!?」

サキがミヤビのそばに駆け寄った。

「キャプテン、逃げなかったの?」

弱々しい声で尋ねる。
サキは今にも泣き出しそうな顔で、首を振った。
その隣から、もうひとり、小さな人影が近づいてきた。

「ミヤ、心配したよぉ!」
「なに、モモまで捕まったの!?」

ミヤビは、両腕を抱えられたまま、うな垂れた。
立っているのが精一杯だったのが、その気力まで失いそうだ。
兵がしっかりせぬかと言って、腕を抱え直した。

「違う、助かったんだよ」

そう言って、サキはこれまでの経緯を手短に説明した。

「で、ウチらの処分は国外追放。
 国境を越えれば、自由の身だよ!」

「国外追放!? だったらモモ、二度と来れないじゃん」

自分のせいで、申し訳ないと話すミヤビに
弱りきった彼女の身体を支えながら
モモコは全然大丈夫だからと笑顔を見せた。

「入国する方法はいくらでもあるから。
 ほとぼりが醒めたら、なんとでもなるって」
151 :第八話 デレシン :2010/02/10(水) 05:48
コホンと咳払いが聞こえた。団長だ。

「兵を目の前にして、なんとも大胆な発言だな」

モモコはなんでもないですと、苦笑を浮かべた。

「それでは、馬車に乗りたまえ。
 関所まで我々が連行する」

団長の指した先に、モモコの荷馬車があった。
ミヤビの腕を抱えた兵たちが、荷馬車に向かおうとしたが
その前に彼女が声をあげた。

「あの、ひとつお願いがあるんですけど」
「ん、なにかね?」

団長が良く日に焼けた顔をミヤビに向けた。

「最後に会いたい人がいるんですけど」

弱々しい声で言う。
サキとモモコも、懇願するように団長の顔を見上げた。

団長はサキの顔をチラリと見た。

「できるかぎりの便宜は図ってやりたいところだが
 道筋はすでに決まっておる。残念だが、無理な相談だ」

サキの視線を避けるように宙を見つめながら
そなたらだけを特別扱いするわけにはいけない、と続けた。
152 :第八話 デレシン :2010/02/10(水) 05:50
関所まではモモコの馬車も兵が操るということで
三人は荷台に押し込められた。

団長を先頭に、数騎の騎馬が馬車を取り囲む。

荷台の中で、ミヤビはマーサの煎じた薬を飲んだ。
しばらくすると、体調が戻り
やっぱり他国の薬は身体に合わない
マーサの薬はよく効くねと、言って笑みを漏らした。

やがて馬車が停まった。

荷台には幌が掛けられており
外の様子はわからないが、関所に到着したのだろう。

そう思っていると、団長が突然、声をあげた。

「よし、ここで一旦、休息を取る!」

モモコの顔色が変わった。

「えっ、休息!?」

城から関所までは、歩いてでも十分、たどり着ける。
少なくとも、馬車が途中で休息を
取らなければならない距離ではない。

──ひょっとして、ウチら殺されるんじゃ。

「お前らも外に出ろ!」

兵の声が聞こえた。
ここは、人の通わぬ山中で、馬車を出た途端
切りつけられるのではないか。

たとえ領主が赦すつもりであったとしても
あの団長は違う考えを持ってるかもしれない。

──口を封じるには、葬るのが手っ取り早い。

そう考えても可笑しくない。
そんな想像が、モモコの頭をぐるぐる巡った。
153 :第八話 デレシン :2010/02/10(水) 05:54
そのことをサキに耳打ちすると
考えすぎだと即座に一蹴された。

だが、モモコの考えは変らない。

「だってさ、今、武器持ってないんだよ?」

国境を越えたところで返却する約束で
全ての武具を没収されていた。

「ひょっとすると、最初からそのつもりで没収したのかもよ?」
「そんなわけないって」

ウチら罪人なんだから当然でしょとサキは笑う。

「なにをしてる。早く出ぬか!」

兵の求めに応じ、外に出ようとするサキの袖を、モモコは引いた。

「だって可笑しいじゃん。
 休憩するだけだったら、馬車に居たっていいじゃん。
 なんで、出て来い、出て来いって言うの?」

「う〜ん、それはわかんないけど…」

唇を尖らせ眉を寄せる。それでも

「ホントに始末するつもりだったら
 外、出ても出なくても一緒でしょ」

と言って、モモコの制止を振り切り顔を外に出した。
154 :第八話 デレシン :2010/02/10(水) 05:55
「あっ!!」

サキが驚きの声をあげた。
馬車からは降りず、すぐさまモモコの元に戻ってくる。

「ほら、やっぱり!」

モモコは身を硬くした。
そんな彼女の身体を、サキは激しく揺さぶった。

「違うって。いいから、モモも出ておいで」

明るい声で言う。
小刻みに首を振り、嫌がるモモコの身体を引っ張る。
あまりにもしつこく迫られるので
外を見るだけと言って、馬車から顔を出した。

「あっ!!」

モモコもサキと同じように声をあげた。
今度は、彼女がミヤビの元に舞い戻る。

「ミヤ、ちょっと外、行こ」

身体を横たえていたミヤビは
薄目を開けて苦しそうに唸った。

「ウチ、いいよ。ここで待ってる」
「そんなこと言わないで。外、見たらビックリするよ」

怪我が辛いんだけどと渋るミヤビを
無理やり外に連れ出す。

外の景色を見た途端、ミヤビは驚きの表情を作った。

そこは、人も通わぬ山中なぞではなかった。
鍛冶屋が住まう集落、アイリの住む家の前だった。
155 :第八話 デレシン :2010/02/10(水) 05:56
ミヤビはふらつく足で馬車から出た。
そばに立つ団長を、ゆっくりと見上げる。

「あの…」
「休息場所はあらかじめ決められていた。
 なにもそなたの願いを受け入れたわけではない」
「…ありがとうございます」

ミヤビは頭を下げた。

「なにも礼を言われるようなことはしておらんぞ。
 もう間もなく出立する。そなたも早く休息してきなさい」

そう言って団長は肩をすくめて見せた。
ミヤビは笑顔で頷き、もう一度頭を下げた。

先に外に出ていたサキが、アイリの家から出てきた。

「家ん中、居ないよ!」

どこか出かけたのかなとモモコは呟いたが
そんなはずはないと、団長が首を傾げた。

家の周りには今朝から就けた警護の兵が立っている。
それに出かけたのなら、報告が入るはずだ。

「あ、あれ!」

ミヤビが空を指した。煙が上がっていた。
アイリは工房にいるのだ。

モモコは家の裏に向かって駆け出した。
その後を、サキに支えられながらミヤビが追った。
156 :第八話 デレシン :2010/02/10(水) 05:57
モモコがアイリの名を呼びながら、工房の扉を叩いた。

相変らず反応がない。
が、扉を引くと簡単に開いた。
どうやら、警護の兵から、鍵は掛けないよう指示されていたようだ。

困ったような顔で出てきたアイリだったが
モモコ、それにサキとミヤビの姿を見ると
その表情が驚きに変わった。

「みんな…」

そう呟くと、今度は泣き顔になる。
モモコは笑顔で頷いた。

「みんな無事だったんだよ」

アイリはモモコの顔を見つめ、良かったと息をついた。

「ただ、国外追放になったから、しばらく会えなくなるけどね」

そう言っておどけるモモコの肩を掴んで
アイリはちゃかさないでと揺らした。

アイリの表情が、突然引き締まった。
強い視線をミヤビに送る。
そして、彼女に向かって歩き出した。

ミヤビは身体を支えてくれているサキから離れた。
そして自分の足で、地面をしっかり踏みしめる。
157 :第八話 デレシン :2010/02/10(水) 05:58
アイリがミヤビの前で立ち止まった。

「怪我、大丈夫?」
「うん、平気。あれぐらい、どうってことないよ」

そう言って無理やり笑顔を作る。
アイリが頬を膨らませた。

「ありがとうは言わないよ。
 だって、助けてなんて言ってないもん」

わかってる、とミヤビは首を縦に振った。

「その代わり…」アイリが右手を差し出した。
そこには小ぶりの剣が握られていた。

「それって…」

モモコがアイリのもとへ駆け寄った。
サキも興味深げに覗きこむ。

アイリは三人の顔を見回し、照れくさそうな笑みを浮かべた。

「だって、約束だから」

ミヤビは「約束?」と首を傾げたが、次の瞬間
「あっ!」と叫んで右手首に左手を添えた。

「しょうがないよ、取り返されちゃったんだから」

そして早く受け取れと、剣の柄をミヤビの胸元に突きつけた。

ミヤビも照れた笑みを口元に浮かべ
手首のブレスレットを揺らせながら受け取った。
158 :第八話 デレシン :2010/02/10(水) 05:59
柄には簡単だが丁寧に掘り込まれた彫刻が施されていた。

鞘から抜くと、初めてこの街で観た海の色の様な
鮮やかな青一色の剣身が現れた。

「綺麗…」

ミヤビの口からため息が漏れた。
横からサキが覗き込み、そうだねと呟いた。

「ほほう、たいした物だ」

声のする方に目をやると、団長が眩しそうに目を細め剣を見つめていた。

各々休息を取っていた兵たちも、集まってくる。
皆、伝説の錬金術師が創った剣に、興味があるのだ。

急ごしらえだから恥ずかしいと、身体をくねらせるアイリだったが
そこに集った者全員が、素晴らしいと感嘆の声を漏らした。

「えっ、ちょっと待って」

皆が感動する中、モモコが声をあげた。

「アイリがミヤに手渡したってことはさぁ。モモはどうなるの?」

そもそも、アイリに依頼し出来上がった剣を
モモコがサキらハンターに販売する手はずだった。
それが、モモコをすっ飛ばし、アイリから直接ミヤの手に渡ってしまった。

となれば、いったい、誰から代金を貰えばいいのか。

「まあ、いいじゃん。細かいことは気にしない!」

こんな立派な剣が手に入ったんだからと言って
サキは唖然とするモモコの背中を思いっきり叩いた。
159 :第八話 デレシン :2010/02/10(水) 06:00
「…ちっとも細かいことじゃ、ないんだけど」

背中をさすりながら、モモコは口元を尖らせ呟いた。
恨めしげな視線をサキに送る。

サキは団長となにやら談笑していた。
声が小さいせいで、なにを話しているのかまではわからない。
が、最後にサキが笑顔で頷き

「ハイ、いつも助けてもらってます」

と応えたところだけは、はっきり聞き取れた。

モモコはサキの側に近づいた。

「ねえ」
「モモ、しつこい。お金の件はまた、今度!」

サキが顔をゆがめた。モモコはそうじゃないと首を振った。

「今、団長さんとなに話してたの?
 確か、『助けてもらって』とか言ってたけど」

「ああ、ここに連れてきてもらえて助かったってこと」

「そうなの?」

少しニュアンスが違う気がしたが
アイリが声をあげたため、ここで話は中断した。

「ねえ、一度試してみて」

そう言って、ミヤビの持つ剣を指差した。
出来栄えを見届けないと不安なのだという。
160 :第八話 デレシン :2010/02/10(水) 06:02
ミヤビは頷いた。アイリに扱い方を習う。
柄に刻まれた印を押さえると、剣身が仄かに光った。

創ったばかりなので、まだ魔力が小さいが
目一杯、溜め込めば、眩いばかりの光を放つのだという。

「じゃ、空に向かって振ってみて」

アイリに言われるがまま、ミヤビは下段から力一杯、剣を振り上げた。

が、ブリザードが放たれることなく、剣に宿った光は
ほんの少し揺れただけで、剣身に張り付いたままだ。

「あれ?」

ミヤビは首を傾げた。
水飛沫を切るように、剣を二度三度振ってみるが
やはり光は張り付いたまま、離れようとしない。

「ちょ、ちょっと貸して」

アイリが慌てて剣を受け取る。
その表情に、焦りの色が伺える。

さぞ素晴らしいブリザードが放たれるだろうと
見守っていた兵士たちがざわめく。

「あの、ミヤ怪我してるし、そのせいじゃないの」

モモコがそう言ったが、アイリは関係ないと首を振った。

確かに、魔術師が体力を消耗すれば、魔力も小さくなる。
だが、ミヤビは水の魔力の素質があるというだけで
体力に左右されるほどの魔力は持っていない。

それに素質は命中率や技のバリエーションに関係がある。
ブリザードを放つこと自体には関係しない。
161 :第八話 デレシン :2010/02/10(水) 06:03
「ひょっとしたら、あれかも。
 呪文唱えながらだったら上手くいくかも」

あたふたしながらアイリが呟いた。

「呪文?」とモモコが尋ねる。
「うん、呪文」とアイリがおうむ返しに応えた。

魔力のないミヤビが、呪文を唱えたところで
意味があるとは思えなかった。が

「そろそろ発たねばならぬ。
 今、できることは、なんでもやっておきなさい」

と団長が急かすので、取り合えずやってみることになった。

アイリが地面に古代文字を書いて、ミヤビに説明する。

「これが、『氷の精霊』で、こっちが『我に力を』
 でぇ、ここがね、意味はないんだけど、ここを強調する…」

そして文字の読み方、呪文を耳打ちする。
すると、それまで真剣に聞いていたミヤビの表情が、一変した。

「えーっ、ウソでしょ!?」
「ううん、ホント」
「マジで言ってんの? ウチのことからかってない?」

ミヤビの反応に、周りはなにがあったのだろうと訝った。
彼女は呪文を教わっただけだ。
なにに対し、不快感を示しているのか、理解できなかった。

「ホント、別にミヤビちゃんを困らせようと思ってるんじゃないよ。
 たまたまだから、ホントに偶然。ミヤビちゃんを観察してて
 この魔術が一番、合うって思ったからだよ。
 だって、呪文唱えないといけないなんて、思ってもいなかったんだから」

アイリは眉を下げ、困り顔で必死に言い訳した。
が、ミヤビはガックリうな垂れ、かぶりを振った。

「言えない、絶対にそんなこと言えないよ」
162 :第八話 デレシン :2010/02/10(水) 06:04
「なにをしておる、早くせぬか!」

団長が声をあげた。

真っ直ぐ国境へ向かえば、もう着いているころだ。
長居はできない。だが、剣の出来栄えは見てみたい。

そんな苛立ちが表情に浮かんでいる。

「もう…」

ミヤビがため息をついた。

「わかりました、今すぐやりますから…」

地面に書かれた文字を確認し立ち上がる。
剣を握り、刻まれた印に指を添えると、剣身が光った。
その剣を、引きずるようにして一歩、前に出る。

振り返りアイリに目をやると、彼女は拳を握り頷いた。
相変らず眉が下がっている。
ミヤビは恨めしそうな視線を送ると
前を向いて瞳をギュッと瞑った。

覚悟を決め、呪文を唱えながら、剣を空に振り上げた。

「ミヤ、ビーム!!」

「ミミミ、ミヤビーム!?」

モモコが目を見張り、声をあげた。
サキがポカンと口を開け、唖然とした表情を作った。

「もう! 絶対、ムリなんですけど!?」

耳まで真っ赤にしながら屈むミヤビをよそに
雲ひとつない青空を、ブリザードが鮮やかに舞った。
163 :第八話 デレシン :2010/02/10(水) 06:04
 
164 :第八話 デレシン :2010/02/10(水) 06:06
「キャプテン、帰ってきたんだって?」

なにをするでもなく、ただぼんやり
外の風景を眺めていたサキの背後から、声が飛んだ。

振り返るとそこに居たのはチナミだった。

おそらく、今回の行き先をモモコかミヤビから聞いたのだろう。
サキが「うん」と答えると、チナミは「どうだった?」
と彼女の隣に腰を降ろした。

「街道が開通したって聞いて、どうなってるか心配だったんだけど」

領民は明るく皆親切で、とても住みやすそうな、いい街だった。
観光客が増え、ごった返していたが
昔、ふたりで水路から城を抜け出し、遊びまわった街並みは
なにひとつ変っていなかった。

サキはそう言うと、昔を懐かしむように笑みを漏らした。

「そうだ、チナミに教えてもらった
 夕日が綺麗に見える丘にも行ってきたよ」

「あれ? キャプテン、行ったことなかったっけ?」

「あるよ、あるけど、いつも昼間だったじゃん」

夕刻までに城に戻ってなければ、大変な騒ぎになる。
夕日なんて見られるはずがない。
そう言って呆れ顔でチナミを突いた。

「あっ、それとチィのお父さんに、すっごくお世話になった」

それを聞き、チナミは自分のことのようにどや顔で胸を張った。

「『ウチの娘はどうしてますかな』って聞かれたから
 『相変らずウザイです』つっといた」

すると今度は頬を膨らませ、サキの顔を覗き込んだ。

「ねぇ、なんでそういうコト言うの!」

サキはコロコロと笑い転げた。
顔を近づけるチナミの肩を、押し返す。

「ウソだよ。ちゃんと『いつも助けてもらってます』
 って言っといたよ」

チナミの顔に、笑顔が戻った。
165 :第八話 デレシン :2010/02/10(水) 06:07
「そうだ、トリルって子爵、出世したらしいよ」
「はっ?」

サキは驚きの声をあげた。
アイリが拉致された一件は、表沙汰になっていない。
だから、処分されることはないだろうと思っていた。

──だが、よもや出世するとは。

「なんかね、代官に任命されたんだって」
「…そうなんだ」
「なんの代官だと思う?」
「そんなの、わかんないよ」

サキは表情を曇らせた。
あの一件については、アイリとの別れ際に
四人だけの胸に留め、決して誰にも話さないことを誓い合った。

だから、チナミは知らないはずだ。
知らないからこそ、子爵の出世話を笑って話せる。

だが、サキはそんな話、聞きたくなかった。
できるならば、知らずにおきたかった。

サキの思いなぞ構わず、チナミは笑顔で言った。

「鉱山のだよ」
「えっ!?」

唖然とするサキに、チナミは聞こえてなかったのと尋ね
「こ・う・ざ・ん」と一語一語、ゆっくりと発音した。

元々あの地は、良質の鉱石が取れるため、鉱山町ができ
それを求めて鍛冶屋が集まってきた。
その中に、著名な錬金術師が居たため、さらに人が集まり
有能な錬金術師が育った。

だからこそ、小国ながらも優れた武具を生産し
今の聖都が全土を統べるのに一役を担った。
166 :第八話 デレシン :2010/02/10(水) 06:08
今現在、鉱石は取り付くし鉱山は枯れ果てた。
代官といっても、なにもすることはない。
国を興した象徴として、名誉職として残っているだけだ。

つまり、子爵は閑職に回されたわけだ。
今後、政に関わることもないだろうし
これ以上の出世も見込めないだろう。

「なるほどね」

あの一件を表ざたにせず、子爵を処分する上手い方法だ。

それにしても──とサキは思う。
なぜ、チナミがそのことを知っているのか。

いくら早耳のモモコでも、貴族の人事までは知りようがない。
ミヤビは興味すら抱いていないだろう。

ひょっとすると、チナミはまだあの国と
繋がりを持っているのかもしれない。

サキがあの国に戻っていたことも、モモコやミヤビからではなく
その筋から聞いたのかもしれない。

だが、サキにはそれを責めるつもりはなかった。

もう王女と侍女という、関係ではないのだから。
チナミにはチナミの生き方がある。

サキに、とやかく口出しする権利はない。
167 :第八話 デレシン :2010/02/10(水) 06:10
「で、キャプテンは会ったの? その、おちち…」

言いかけて口をつぐむ。他の表現はないのか、頭を巡らせる。

「えっとぉ、お父さん…違っ、お父さま?」

必死に言葉を選ぶチナミに、お父さんでいいよとサキは笑った。
そして、少しはにかんで「うん」と頷いた。

「でさ、『戻ってくる気はないのか』だって。
 そんなのあるわけないのにねぇ」

無意識のうちに、最後はふざけたような口調になった。
そんなサキの顔を、チナミが真顔で覗き込んだ。

「戻る気ないの?」
「えっ、あるわけないじゃん。なに、チナミ戻りたいの?」

サキの問いに、チナミはしばらく考え込んでいたが
テーブルに上半身を横たえ、見上げるようにして
サキに顔を向けると、囁くような声で言った。

「えっとねぇ、キャプテンが戻りたいなら、チナミも戻りたいし
 キャプテンがここに居るってんなら、ウチもここに居る」

サキは驚いたような表情を作った。
そして迷惑そうに眉を寄せ思いっきりチナミの背中を叩く。

「ヤダ、なに言ってんの気持ち悪い!」

痛いと叫んで身体を起こすと、チナミは頬を膨らませた。

「だってさぁ、お父上…じゃなくて、お父さんに頼まれたんだよ。
 『娘のことは頼む、絶えず傍らに居て、力になって欲しい』って」

「誰に? ウチのバカ親父に?」

チナミはふくれっ面のまま、頷いた。

「いつ?」
「初めてお城に上がった日」

サキは呆れ顔になった。

「ずいぶん、昔の話じゃん」
「昔だよ、昔だけとちゃんと覚えてるんだから」

一言一句、違わずそらんじれると胸を張った。
168 :第八話 デレシン :2010/02/10(水) 06:13
サキの表情が柔らかくなった。
フッと笑みを漏らす。

「そんなさ、バカ親父の言うことなんて
 聞かなくていいんだよ」

──チナミは自由にしていいんだから。

サキがそう言うと、チナミは両手でテーブルをドンと叩いた。
やけに自信ありげな表情で、フンと鼻を鳴らす。

「言われなくても、ウチ自由だよ」

サキはチナミの顔をまじまじと見つめた。
あまりにも見つめるものだから
チナミは不満そうに眉をしかめ
「なに?」と言って首を傾げた。

サキは思わず吹き出した。
チナミが益々不満顔になる。
それを見たサキは、今度は大声を立てて笑った。

「そりゃ、そうだ。チナミは自由すぎるくらい、自由だもんね!」
「ちょっとそれ、どういう意味!」

掴みかかるチナミを避け、サキは立ち上がった。
テーブルを挟んで追いかけっこをする。

そう、誰かに命令されたからじゃない。
チナミはサキが必要だから共に居るし
サキはチナミが必要だから共に居るのだ。

楽しそうに、はしゃぎまわる声が
夏の日差しの中で、煌めいていた。
169 :第八話 デレシン :2010/02/10(水) 06:16




                        ── 完 ──
170 :びーろぐ :2010/02/10(水) 06:22
これで第八話、完結です。これまでで、最長の話になりました。
通常の二話分ぐらいの容量で、これほど長くなるとは思ってなかったですw

今回はBuono!が勢ぞろいするということで
イタリアの港町をイメージして書きましたが、どうでしたでしょうか。

余談ですが、ラスト更新中のBGMはフラゲしたばかりの「We are Buono!」でした。
今、調度ラス曲「We are Buono!〜Buono!のテーマ」が流れてますw

ちなみに「アクアサンタ」はイタリア語で「聖水」という意味です。
「聖水」=「清い水」ということですね。

感想等ありましたら、じゃんじゃか書いてやってください。
なんでも構いませんので。

長文、駄文にお付き合い頂き、どうも有り難うございました。
171 :名無飼育さん :2010/02/11(木) 00:20
面白かったぁ〜!
自作も楽しみにしています
172 :名無飼育さん :2010/02/11(木) 00:54
「アクアサンタ」に意味があるとは睨んでいたが、そうきましたか。
謎に思っていた幾つかが解決されました。
173 :名無飼育さん :2010/02/11(木) 01:01
次話のメインは、やっぱりあの人かな?
ハロプロで一番怖いと言われるキャラも見てみたいです。

それとも、意表をついてあっチーの人とか。
174 :名無飼育さん :2010/02/11(木) 01:41
おおお、キャプテン!そうきたかあ。
今回はバトル多めでしたね。
面白かったです!
175 :名無飼育 :2010/02/11(木) 17:42
楽しかったです!
良いなぁ♪
更新お疲れ様です^^
176 :名無飼育さん :2010/02/17(水) 07:55
今日は無しか…残念。
177 :名無飼育さん :2010/07/07(水) 00:17
待ってます!

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