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ANSWER

1 :名無飼育さん :2008/11/10(月) 22:51
新垣さんメインでCPものです。
少し長くなるかも知れませんが、お付き合いくださるとうれしいです。
573 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:33
細く息を吐いて座り直す愛を見ながら、愛ともう少し話せることを嬉しく思ったのに、
改めて実感したら緊張度が増した気がして、何を話せばいいのか急にわからなくなった。

愛といてそんなふうに考えたことなど一度もなかっただけに、それほど意識しているのだと感じてまた鼓動が早くなった気がした。

視線を落として自分の靴の先を眺めながら、当たり障りのない話題を探していたら視線を感じて、
何気なく頭を上げて、愛と目が合って、条件反射のように顎を引いたら、愛がそっと手を伸ばしてきた。

「…ずいぶん、思い切ったよなあ」

言いながら、短くなった里沙の髪を確かめるように、愛の手が優しく里沙の頭を撫でた。

「短くしてみたい、ってのは聞いたことあったけど、いきなりでびっくりした。みんなにも内緒にしてたんやな」
「うん、まあ…いろいろ思うことあってさ」

他の誰に聞かれてもそんなふうには答えなかったのに、苦笑いを浮かべながら里沙は素直に本心を告げた。

「へえ…」

意味ありげに言ったと思うのに、愛はそれ以上は何も聞かず、里沙の頭を撫でていた手もゆっくりと下ろしてしまった。
直接肌に触れられたわけでもないのに、離れていく愛の手を名残惜しく思う。
574 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:33
「…愛ちゃんは、なんで、って聞かないんだね」

何も思ってないわけがないのに何も聞いてこないことが里沙を苛立たせた。
里沙に振り向いた愛の目の奥にほんの僅かな動揺を見た気がして、その苛立ちが加速する。

「聞いてほしいんなら、聞くけど」

上ずったように聞こえたのは自惚れだったのかも知れない。
けれど、知りたいとは思ってないと言いたげな態度と口調は、少なくとも里沙の気持ちを逆撫でた。

「聞いてほしいよ。誰よりも、愛ちゃんには」
「なん…、なんか、あたしのせいで切ったみたいな言い方や」

里沙から目を逸らした愛が、自嘲気味に口の端を上げる。

急に空気が重くなったと感じたのは里沙だけではないだろう。
でも、里沙が今、どんな気持ちで愛を見つめているのかを、愛に知ってほしいと思った。

「愛ちゃんのせいとか、そういうんじゃないけどさ。でも、聞いてほしいことは、ある」

もう一度里沙に振り向いた愛が心なしか身構えたのがわかる。
何気なく聞くべきことじゃないと、漂う空気が伝えているようだった。
575 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:33
「…さっきから意味深な言い方するやんか。ひょっとして説教されるん?」
「茶化さないで」

少し強めに言うと、愛が小さく肩を竦ませたのがわかった。
けれどそれを悟られないようにしてか、愛の視線がまた里沙から外される。

「……カメと、別れた」

愛の視線が床に落ちるのを待ってからそれだけを告げた。
もちろん、それ以上の説明は必要ないほどわかりやすい言葉だっただろうことは、
床に目線を落としたときの数倍の早さで頭を上げて里沙を見た愛が、大きな目を更に大きく丸くしたことで窺い知れた。

「いつ…」
「3週間ぐらい前になるかな」

こく、と、愛の喉が鳴った気がした。
唇を舐めて、何か言おうとして、けれどどう尋ねていいのかを迷っているのが伝わる。

「…なんで、って、聞いても…?」
「いいよ。じゃなきゃ自分から話さないし」
576 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:34
愛が、里沙と絵里との関係について口出ししないようにしていたことは、里沙も薄々は感じていた。
実際そういうふうに言われたこともあったし、さゆみの言っていた『嘘』が、そうさせていたのかも知れない。

「嫌いになったとかじゃないけど、でも、お互いの気持ちにズレがあったっていうか」
「ズレ…?」
「カメの気持ちに追いつけなかったの。カメがあたしを想ってくれるみたいには、カメのこと、愛せなかった」

里沙の言葉を聞きながら噛み砕いているのか、複雑そうな顔で愛が頷く。

「……て、カッコイイ言い方してるけど、要はあたしが、カメより好きな人が出来た、って、ことなんだけど、さ…」

遠回しな言い方をしてしまったことに、あとになって里沙は後悔するのだけれど、
このときはこれで愛が気づいてくれたら、と、少しの期待と願望と一緒にそう言葉にした。

しかし、里沙の唐突とも言える言葉に、それまで複雑そうに聞いていた愛の顔からすうっと表情が消えた。

表情がなくなったことで、愛が今考えていることが読めなくなる。
言葉を選び間違えたのだと思ったけれど、そのまま俯かれたことで、自分が発した言葉を弁解することも叶わなくなった。
577 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:34
「…それで?」

俯きながら、かぼそい声で続きを促される。

「あ、えーと、だから…。前にも、こういうこと、あったなあと思って…。
 その…、カメに好きだって言われて迷ってたとき、愛ちゃんが、背中押してくれたなあって」
「…なん、また迷ってるんか」
「そういうんじゃなくて。…なんか、そういうときって、いつも愛ちゃんがいてくれたなあって思ってさ」
「……そんで? その、絵里より好きな人にはもう言うたんか」
「まだ、だけど…」

愛の口調に棘があることは感じていた。
けれど、どうしてそんなふうに突き放した言い方をされるかが里沙にはわからなかった。

これから自分は、どうやって愛に本当の気持ちを告げようかと、そればかりを考えているのに。

「…じゃあ、なに? なんで今そんなことあたしに言うん? それともまたあたしに背中押してくれってこと?」
「えっ?」

その一瞬、確かに空気が凍った。

「………もう、うんざりや…」

突き放すような、ではなく、拒絶としか受けとめられない愛の言葉に、ざあっ、と、自分の全身から血の気が引いた気がした。
578 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:34
深く深く溜め息をつき、両手で顔を覆った愛がそのまま前のめりに上体を倒す。

「もう嫌や…」

感情を抑え込んだようなくぐもった声が里沙の心音を早くする。
さっきまでの緊張とはまるで違う、焦りにも似た緊張が里沙の全身を覆い始めているのがわかる。

「なんであたしじゃないんよ…」

ゆるゆると顔を上げた愛が里沙に振り向く。
真っ赤に充血した瞳がまっすぐ里沙を捕らえただけなのに、動きだけでなく声を発することすら封じられた気がした。

「なんであたしが里沙ちゃんの背中押してあげなアカンの? 同期やから? 年上やから?」

愛が、さほど距離のない隣に座っていた里沙の手首を掴まえる。
掴まれたと自覚したと同時に引っ張られたことで不意を突かれ、
バランスを崩して椅子から滑り落ちた里沙が掴まれていないほうの手を床についたときには、愛も床に膝をついていた。

愛を見上げようとして、床についたもう一方の手も奪われて、そのまま押し倒される。

「あたしだってずっとずっと里沙ちゃんのそばにおったのに!」
579 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:35
急な事態に理解が追いつかずほとんど抵抗できないままでいると、叫ぶようにそう言って愛は里沙のカラダに馬乗りになった。

「ま、待ってよ、愛ちゃん、あたしの話を聞いて…!」
「聞かん! これ以上里沙ちゃんの口からあたし以外の誰かの話なんてもう聞きたくない!」 

掴んだ里沙の手を床へと押し付け、ゆっくりと上体を倒す愛。

「…里沙ちゃん、気づかんかったやろ? あたし、あたしな…、あたし、ずっと里沙ちゃんが」
「や…、こ、こんなの…こんなのじゃなくて…、ね、お願いだから、愛ちゃん、あたしの話を」

そう言いながら弱いながらも抵抗を示したとき、里沙を見下ろす愛の表情に確かに陰りが見えて、
里沙は今の自分の言動が、愛の気持ちに対する拒絶になったことに気がついた。

「ちが…! 待って、今のは…っ」
「…もうええよ。もうわかった。…でももう、どうもできん」

自嘲気味に笑う愛が里沙の目に痛々しく映るのに、その誤解を解く術がいまこの瞬間に見つけられない。
580 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:35
顔を近づけてくる愛が何をしようとしているのかはすぐにわかった。
愛が好きだと自覚し、それを拒む理由なんてないはずなのに、
突然ぶつけられた愛が持つ自分への気持ちの激しさが里沙に怖さを覚えさせたのも事実で。

付き合いの長さから何度も言い合いや喧嘩はしてきた。
感情的になって、泣きながらお互いを罵ったことだってある。

だけど、余裕なく見つめられたり、見てとれるほどの感情をそのままぶつけられたことは皆無に等しく、
今更ながら、愛がどれほどの言えない想いを抱えてきたのかを、思い知らされた。

「…里沙ちゃん」

最近はもうそんな風に呼ばなくなっていたくせに。
おそらく意図的にそうしていたくせに、こんなときになって懐かしい呼び方で呼ぶなんて。
581 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:35
上から押さえつけられているせいもあって抵抗がままならない。
このままなし崩しに奪われたとしても、それを嫌とは思えそうにない自分があさましくも思えたけれど、
切なげに瞳を揺らして、きっと罪悪感に包まれながら里沙を組み敷いている愛の気持ちを考えたら、
言葉よりも早く、愛の行為を受けとめることが大事なことのような気がした。

「…お願いやから…、あたしのことも、見てや…」

息が届くまで近づかれて、里沙はそっと瞼を下ろした。

まだこちらの気持ちを知られないまま触れ合うことに躊躇がなかったわけではない。
それでも、自身に芽生えている欲求が薄っぺらい理性を上回る。

望まなかったことではない。
こうなりたいと、願っていたことだ。

どうなってもいい。
愛となら。
582 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:36

しかし、愛の吐息が里沙の上唇に触れたときだった。

「失礼しまーす!」

甲高い声とともに楽屋の扉が勢いよく開かれたと思ったら、慌てたようすの小春が鞄を抱えながら入ってきた。

「……え…?」

すぐには事態を把握できなかったであろう小春が息を飲んだのがわかった。
小春と目が合ったらしい愛が弾かれたように慌てて身を起こす。

「…っ、ご、ごめんなさい! 忘れ物したんですけど、あとにします!」
「こはる! 待て!」

何が起きているか、小春がどう解釈したのかはわからない。
けれど気まずそうに謝って扉を閉めようとした小春を呼びとめたのは愛だった。

呼びとめられたことで扉を閉めようとした小春の手が止まる。
そして、おずおずともう一度、今度はゆっくり、閉じようとしていた扉を開いて姿を現した。
583 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:36
「……誤解せんでな、未遂やから」
「…え…?」

問い返す小春に愛は苦笑いを浮かべながらゆっくり里沙から離れた。
倒れこむ里沙の手を掴んで引っ張り起こし、肩先についた埃を軽く撫で叩いて払い除ける。

「……ごめん」

里沙の顔は見ないまま、口元を歪めた愛がそっと呟く。

「ごめんな、…あたし、もう帰るわ」
「えっ、ちょ、待って」
「…なかったことに、って言うんは無理やろうけど、でも、忘れて…」
「待ってってば! あたしの話も聞いてよ!」
「ごめん、いまは余裕ない」
「愛ちゃん!」
584 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:36
里沙の上体を起こしただけで愛はさっさと立ち上がって荷物を抱え、誰の顔もロクに見ないで出口へ向かう。

「小春…」
「はいっ?」

びくん!と肩を揺らして縮こまった小春に視線は合わせないまま愛が小さく笑って見せる。

「ガキさんのこと、頼むな」
「愛ちゃん!」

ぽん、と小春の肩を撫で叩き、里沙がどんなに呼んでも振り返らずに、愛はその部屋から駆けだして行った。

唐突なことで里沙も実際には少し腰が抜けていて、愛を追いかけることは叶わなかった。
遠ざかっていく愛の足音を、口惜しく思いながら耳で追うことしかできなかった。
585 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:36
悔しさと苛立ちが入り混じって里沙は唇を噛んだ。
そしてその気持ちの勢いのままに床を強めに叩くと、扉のそばに立ったままだった小春がそっと近づいてきた。

「あの、新垣さん…、大丈夫…ですか?」
「……もうやだ…」

言いたいことだけ一方的に告げて、里沙に何も言わせないまま出て行ってしまった愛がたまらなく憎らしかった。

「なんでこうなっちゃうの…」

誰に言うともなく呟いたら涙が零れそうになって、それを隠すようにぎゅっと両腕で両膝を抱えた。

「…こっちの話、何にも聞かないで勝手に一人で納得しちゃってさ…。…あのバカたれ…」
「…あの、今の、未遂って…?」

おずおずとした感じの声が頭上でして、里沙は洟をすすりながらもそっと頭を上げた。
小春が目線を合わせるように膝をつくのを待って、大きく息を吐き出す。
586 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:37
「未遂だよ。愛ちゃん、あたしのこと押し倒しといて、何にもしないで出てった」
「えっ?」
「あたし、愛ちゃんに好きだって言うつもりだったのに、勝手に早とちりして」
「ええっ?」

大きな目を更に大きくした小春が事態を飲み込めないようすで里沙の顔を覗き込んでくる。
何か言いたそうな顔に里沙は口元を歪ませながらも笑って見せた。

「…カメとは、別れたんだ」

こくり、と、小春が喉を鳴らしたことで、聞きたかった言葉を飲み込んだのがわかる。

「……小春の、言うとおりだったね」
「え?」
「ほら、前にさ、カメと付き合ってるって話したら、あたしが好きになるのは愛ちゃんだと思ってたって言ったじゃん」

申し訳なさそうに眉尻を下げた小春がゆるゆると首を振る。

「…でも、なんかダメっぽい。愛ちゃん、あたしの話なんて全然聞こうとしてくれないし…。
 てか、ごめんね、変なとこ見せちゃって。びっくりさせちゃったよね」
「や、確かにびっくりしましたけど…、けど、だったら小春、逆に大事なとこの邪魔したことになるんじゃないですか?」
587 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:37
恐縮する小春に里沙は肩を揺らして笑った。

「邪魔っていうか、あれ、あのままなし崩しにどうにかなってたら、明日からもっと悲惨だった気がする」

答えて、里沙はもう一度自身の膝を抱えた。

「……あーあ、なんでこうなっちゃうのかな。あたしと愛ちゃん、そういう相性、悪いのかな…」
「そんなこと…」
「でもさ、なんかもう、このさきに待ってることって、いいことなんて全然ない気がするよ」
「そんなのわかんないじゃないですか。弱気にならないでくださいよ」
「…弱気、かあ…。…弱気にもなっちゃうよ、こんなに相手に気持ちが伝わらないんじゃ」
「でも、だって、……好き、なんでしょ?」

確認するような小春の問いかけを、自身の中で改めて自問してみる。
無論、答えは決まり切っているのだけれど。

「……あたし、なんで愛ちゃんのこと、好きになっちゃったんだろ…。
 こっちの話とかロクに聞かないし、デリカシーないし、怒ったら口きかないとかコドモかよ、って感じだし、
 意地っ張りで、頑固で、変なとこ真面目でさ…、さゆは愛ちゃんは優しいってよく言うけど、どこがって思っちゃうよね」

思いつく限りのことを一気に吐き出して、けれど頭で思うより愛が優しいことは改めて考えなくても熟知していて。

深く深く溜め息をつくと、ためらいがちに小春が里沙の頭を撫でたのがわかった。
その手の優しさが心地よくて、知らずに安堵の息が漏れる。
588 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:37
「…小春はこんなに優しいのにね」

撫でる手の優しさに気持ちを委ねながらぽそりと弱気な言葉を漏らすと、
それまで髪を撫でていただけの小春が里沙の前髪を撫で上げて、まっすぐ正面から見つめてきた。

「……だったら、小春にしときます?」

冗談とはとても思えないまっすぐな瞳が里沙を見つめる。
その言葉の意味をすぐには理解できずにいた里沙も、その眼差しのまっすぐさに思わず息を飲んだ。

「小春、新垣さんのこと、幸せにしますよ、幸せにする自信もあります。優しくします。泣かせたりしません」
「こはる…」
「困らせることは、あるかもしれないけど…でも、大事に、します」

手を下ろし、真面目な顔付きで小春は言った。
唐突なようで、けれど、その言葉には取り繕った嘘は見えなくて咄嗟に言葉をなくす。

小春が今もまだ、自分を好きでいるのだと思ったら途端に申し訳ない気持ちがしたけれど、
同じぐらい、相変わらず相手の気持ちを思いやれない自分の身勝手さに自己嫌悪が生まれて、里沙は思わず身構えてしまった。
589 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:38
その態度をどう解釈したか、小春が困ったように口元を緩める。
それを見て、里沙は情けなく眉尻を下げながら自分で自分の髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。

「…ごめん、ちょっと、予想外だった」
「ですよね。…でも、小春は二番目でも全然いいです」

普段の聞きなれたものとは違うだけに、小春の落ち着いた声色はその言葉の重みと本気さを里沙に伝えていて、
決してそれがいま思いついた言葉ではないのだと教える。

きっと、小春は自分の言った言葉をちゃんと守るだろう。
里沙に悲しい思いをさせたりせず、優しく、大事に、幸せにしてくれるだろう。
そしてそれは里沙にとって居心地の良い場所になるに違いない。

でも。
でもそれなら絵里と同じだ。
何のために、ただ優しく包むように守ってくれた絵里を傷つけてまで別れたのか。
590 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:38
「新垣さん?」

それまで困ったように小春を見つめていた里沙の顔付きがフッとほぐれる。
何かの決意が見てとれて、小春は僅かに顎を引いた。

「…ダメ」
「え…」
「ダメだよ。小春じゃ、ダメなの」
「にーがきさん…」
「あ、違う。小春だからダメなんじゃない。相手が誰でもダメなの。だって、あたしが好きなのは愛ちゃんだから」

本人以外に何度この言葉を口にしたかと思う。
けれど口にするたび、その気持ちは確かに里沙のなかで強い気持ちとなって育まれている。

「…だから、ごめん」

そっと目を伏せて言うと、いくらか下げていた頭の上で小春が細い息を吐いた。

「よかった…」
「え?」
「これでもし小春がいいって言われたりしたら、新垣さんに幻滅するとこでした」
591 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:38
一瞬、小春が何を言ったのか理解できなかったけれど、そのあとでニヤリと口元を綻ばせた小春を見て試されたのだとわかる。
途端、それまで知らずに強張っていた里沙の肩から一気にチカラが抜けた。

「…な、によもう…。びっくりしたじゃんかー…」
「ごめんなさい」

謝りはするが、里沙を見ている小春はどこか誇らしげにも見えて、どっちが年上だかわからなくなる。

「…年上の人間騙すとか、ダメだよ、よくないよ」
「だってなんか新垣さん、気弱なこと言うから」
「………バーカ」

気持ちを見透かされていたことがなんだかカッコ悪くて、それを隠すように思わず小春の頭を小突いたら、
その部分を撫でながらも小春は不敵そうに笑って。

「そうですか? 小春、自分ではそんなにバカでもないと思うんですけど」
「うっわ、アンタ生意気」

今度は額を指で弾いたら、弾かれた額を押さえて見つめてくる小春と目が合った。
そのまま数秒見つめあって、どちらからとなく吹き出す。
592 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:38
「……うそ、ごめん。…ていうか、ありがとね」

里沙が素直に謝意を述べたら、小春は笑いながらも首を振った。

小春がそんなふうに笑ってくれたことが里沙の気持ちを少なからず軽くした。
いまいちすっきりしなかった心の靄が少しずつ晴れて行くようで、気持ちが前向きになるのを自覚する。

「…あたしさ、愛ちゃんにまだなにも伝えられてないんだよね。好きって一言すら言えてない。
 それなのに今から弱気になってたらダメだよね」

この部屋を出て行くときの愛の辛そうな顔が浮かんで里沙の胸が痛む。
愛のことだ、きっと明日からは目に見えて里沙を避けるに違いない。

今まで以上に物理的な距離をとられそうな気はしたけれど、それでも、伝えなければいけない気持ちがある。
里沙が気づかないまま里沙の心に根付き、ひっそりと芽吹いては成長していた愛への気持ちはずっと静かに、
そして今現在も、天井を知らないくらいに育ち続けているのだ。

「だから、ちゃんと、伝えるね」
593 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:39
誰に言うともなく、いやむしろ自分自身に向けて言った決意の言葉に小春も大きく頷く。

と同時に、里沙の鞄の中に入っていた携帯が、緩い振動と一緒にメールの着信を知らせた。

「…あー、あっちもやっと終わったんだ」
「家族のひとですか?」
「うん。待ち合わせしてたの。そろそろ迎えに来てもらえそう。あたしも一緒に出るよ」
「じゃあ、そこまで一緒に」
「て、小春、忘れ物したんじゃなかったっけ?」
「あっ、そうだ、そうだった」

里沙に言われて思い出したらしい小春が慌てて自分の使っていた鏡台に駆け寄る。
化粧ポーチらしいそれを鞄に入れるのを待って里沙が促すと、小春が先に部屋を出た。

それを追って里沙も部屋を出たけれど、部屋の照明を落とすとき、くるりと室内を見回した。

「…新垣さん?」
「……うん、今行く」

先に出ていた小春の心配そうな呼びかけに答えながら里沙はゆっくり照明を消して扉を閉じる。

この部屋にもどこにも、愛への気持ちを残していかないように、置いていかないようにと思いながら。
594 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:39

◇◇◇

595 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:40
コンサート初日は何事もなく幕を開けた。
もちろん、表面上は。


里沙の考えた通り、ステージ上と舞台袖の愛の態度の違いはひどいものだった。

物理的に近寄らないのはもとより、話しかけようとすれば今は忙しいからと相手にしてくれない。
無論、忙しさは里沙も愛とおなじぐらいだったし、ハロー全体のコンサートとなると年長者である愛と里沙とで分担することも多く、
初日に関しては組まれている段取りを目安に進めることが必須だ。

公演合間の準備時間も思うほど余裕はないから、終わってから時間を作ってもらおうと思うのだが、
視線で追っても愛はずっと里沙に背中を向けていて、忙しいと理由をつけては楽屋にいる時間も少なく、
声をかけるタイミングすら与えてはくれず、里沙の思うようにはいかない。

そんな目に見えてのあからさまな拒絶には周囲の誰もが怪訝な顔をしたし、
ふたりの間に何かがあったと思わせる雰囲気に、疑問や心配の声をかけられることだって多くあった。

最初はそれらも適当に受け流し続けていた里沙だったけれど、
ただでさえ高揚感と疲労感の高い初日公演が終わるころには、心身ともに疲れきってしまった。

初日公演後は、簡単な反省会や明日以降の変更点などの連絡事項があるが、
それが全体に行き渡ると愛は挨拶もそこそこに帰ってしまい、今日はこれが最後と思っていたタイミングも早々に消えてなくなり、
結局今日は愛とは会話らしい会話を何ひとつできなかった。
596 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:40
今日がダメなら明日、それでもダメならその次の日。

そんなふうに諦めずに辛抱強く愛と話す機会を窺っていた里沙だけれど、
初日公演を終えて数日たっても事態が改善しないことに、次第に苛立ちが濃くなっていた。

メンバーはともかく、グループ外の後輩たちからは厳しい先輩だと言われていることは知っていたが、
話しかけてくる後輩たちがいつも以上に少ないことに、自身の苛立ちが表面化しているせいだと思う。

そろそろ限界かなあ、と、里沙は自嘲気味に溜め息をついたけれど、
正月恒例のコンサートが最終日を迎えても、事態が好転する気配は微塵も感じられなかった。
597 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:40


コンサートが終わってからもあまり多くのオフはないままで、
決定事項以外の予定のものも含めたら、スケジュールは半年先まで詰まっている。

今日は新曲のダンスレッスンがあり、朝からずっとこのスタジオに詰めていた。

日が暮れてようやくカタチとして見られるようになって、やっと終了の声がかかる。
と同時に、疲労感も露わに倒れこむように腰を下ろすメンバーたち。

けれどまだ納得いかないのか、愛と絵里が先生のそばまでフリの確認をしに行くのが里沙の視界の端にも見えた。

「…張り切ってるなー」

まだ乱れた息が整わないのか、床に座り込んでいる里沙の元まで呼吸を荒くしたさゆみが四つ足でやってきた。

「あーゆーとこはホント感心しちゃう」
「そうだね」

思わず苦笑いしたら、里沙に振り向いたさゆみが小さく笑った。
598 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:41
「ところでガキさん、今日このあと何か予定ある?」
「ん? ないけど」
「よかった、じゃ、ゴハン行きません? ちょっと聞いてほしい話あるんです」
「? ここじゃ言えないような話?」
「んー、ていうか、みんなには秘密の話なんです。絵里にもまだ言ってなくて」

何かあるとまず一番に絵里に報告、というのがさゆみの通例だったので、
絵里よりも先に里沙に話したいというからには、おそらく、みんなに、というよりは絵里に秘密の話ということだろう。
それ以外にも、愛に絡んだ話があるだろうことも予測がついて、ほんの僅かだけれど身構えてしまった。

敏いさゆみのことだ、さゆみの思惑に里沙が気づいたことをさゆみも承知しているだろう。
里沙を安心させようとして微笑んでいるその口元の優しさに労りを感じて、里沙は快くその誘いに応じた。
599 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:41

帰り支度を終え、さゆみと一緒に楽屋を出ようとしたときには、まだ愛も絵里も残っていた。
着替えながらも何やら熱心に話しこんでいたようだが、挨拶をしたときにはこちらに振り向いて「お疲れー」と返してくれた。

それを見遣ってから楽屋を出てしばらくして、さゆみが何か思い出したように「あっ」と短く声を漏らす。
立ちどまり、持っていたバッグの中身を探りながら細い溜め息をついた。

「忘れ物?」
「はい…、明日提出の書き物なんですけど…たぶん楽屋に」
「いいよ、取りに戻ろ」
「ううん、大丈夫、さゆみひとりで行ってきます。ガキさんはここで…、あっ、ちょうどいいや、この部屋で待ってて」

通りかかった部屋の前には【空室】の札が掛けられていて、そのドアを開けて里沙を中へ誘導する。

「オッケー。じゃあ待ってる」
「はぁい」
「慌てなくていいからねー」
600 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:41
ドアを閉めて早足で歩いていく足音を聞いてから、くるりと室内を見回して、なるべくドアに近い椅子に腰かける。

ふー、と、知らずに深い溜め息が出た。

さゆみからどんな話を聞かれるのかだいたい予想はできていたし、
さゆみだって最近の愛と里沙のようすから、事態があまり良くないことは察しているだろう。

年が明けてからもうずいぶん時間は過ぎたというのに、いまだに愛とはロクな会話ができていない。
諦めたつもりはもちろんないけれど、勢いづいていた気持ちが下降していることは否めなかった。

でも、さゆみに話すことで、愛に伝えられないもどかしさや溜めこんだストレスを発散できるような気もして、
里沙の心境を察して声をかけてくれたさゆみには素直に感謝していた。

あの日から数週間。
相変わらず愛の態度は里沙を拒絶しているが、里沙の気持ちは薄らぐことも落ち着くこともなかった。

もちろん、愛の本当の気持ちを知ってもいるから、というのもあるし、
自分自身がそれに応えられるのに伝えきれていないから、というのもある。

けれど、愛を近くに感じなくなってからのほうが、自分がどれほど愛を求めているのかを実感することができたのも事実で。
601 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:41
こんなふうに誰かを想うことができるのは、きっともう愛しかいないんだろう、と思うと、
伝えられないもどかしさからの苛立ちは確かにあるけれど、悔しいとか悲しいという感情は不思議と薄く、
『高橋愛』に恋をしている自分を痛いくらいに実感しているようでもあった。

「…あいちゃん」

誰もいないのをいいことに、ぽつりと呟いてみた。

ここしばらく、呼んでも振り向いてもらえたことはほとんどないけれど、
目の前にいるわけでもないの、声にしてみただけで胸の奥がジワリとせつなくなる名前であることは違いなくて。

目頭が熱くなる。
いつのまにこんなに好きになっていたのかと考えただけで。
その姿を瞼の裏に思い返すだけで。

零れそうになった涙をグッと堪えたら、部屋のドアノブがかちゃりと動いた。
602 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:42
思うより早くさゆみが戻ってきて、泣いていたと思われるのはなんだか恥ずかしくて、里沙は慌てて目を擦る。

「おかえり、早かっ…」

キィ、と少し軋んだ音と一緒に開いたドアのほうに向きなおった里沙の声が中途で切れたのは、
そこにいたのがさゆみではなく、絶対ここに来るはずのない人間だったからだ。

「え…」

相手もまた、ここに里沙がいるとは思いもしなかったのだろう、お互いに目を合わせたまま、動きが止まった。

しかし、里沙より早く事態を理解したらしい相手がハッとしたように大きく肩を揺らす。

顔つきを険しくして肩越しにうしろへ振り返ったけれど、その口が文句の言葉を吐き出す前に、
相手のカラダがドアの外から突き飛ばされて部屋の中へと倒れこんできた。

「いてえ!」

悲鳴には思えない乱暴な文句の声が室内に響いたと同時に外側からドアが閉じられ、
直後にドアの外で数人の声とともにガタガタと大きな物音がして、ドアにぶつかる音がする。
603 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:42
倒れた相手、愛は、すぐに起き上がってドアノブを握ったが、
幸か不幸か、この楽屋のドアは外開きになっていて、外側から押さえつけられたら押し返そうとしても愛ひとりのチカラではビクともしない。

「おい! 絵里!? 話あるって言うたん嘘か!」

ガチャガチャとドアを動かす愛に、外側から絵里の声がした。

「こうでもしないと愛ちゃん絶対ガキさんと話し合うってことしないじゃん!」
「…っ、絵里には関係ないやろ!」
「大アリだから!」

返ってきたのはさゆみの声だ。

「さ、さゆにも関係ない!」

さゆみもいるとは思わなかったのか、愛の声がほんの少し上ずる。

「関係ないわけない! 愛ちゃんとガキさんはうちらのリーダーとサブリーダーやん!」

さゆみの声に続けてれいなの声がして、今度は愛だけでなく里沙も大きく目を見開いた。

「もういい加減、見てらんないんですよ!」

さらに小春の声まで聞こえてくる。
人の気配が多いことから、どうやら部屋の外には愛と里沙以外の7人が揃っているようだった。
604 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:42
「あ、それそれ、それも持ってきちゃって」

絵里が何やら指示する声がして、部屋の前でまたガタガタと音がする。
おそらく、何か大きめの机や椅子を運んできてバリケードのようにドアの前を塞いでいるのだろう。

「ちょ…、何しとんじゃ…」
「お仕置きです」
「はあっ?」
「ふたりがちゃんと話し合って仲直りするまで、愛ちゃんとガキさんはこの部屋から出られません」
「な…っ、ふざけんな!」
「ふざけてなんかないです!」

落ち着いた声で説明する絵里の声を追って聞こえてきたのは愛佳の声だった。

「ふざけてなんてないですよ、めっちゃ真剣です。
 ……いま、楽屋とかめっちゃ空気悪いの、気づいてますか?」

身に覚えがあるだけに、愛も里沙も反論できない。
後輩から諭されている、ということも、ふたりの口を噤ませるには効果的でもあった。
605 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:43
「…高橋さん、いつも言うてはるやないですか。アットホームなモーニング娘。にしたいって…」
「ダケド、いまのモーニング娘。、全然、アットホームじゃナイ」
「愛ちゃんもガキさんも、全然カッコよくないし可愛くナイだから。ジュンジュンは、いまのふたり、好きくナイ」

ドア越しに返ってくる言葉はどれも的を得ていて、そしてどれも、心の底から愛と里沙を心配しての言葉だとわかる。
わかるからこそ愛も何も言えず、ただただ、項垂れるだけで。

「…わかった?」

さっきの少し冷たく感じる声とは違う、思い遣るような穏やかな絵里の声がした。

「騙したのはごめん。でも、絵里たちももう黙って見てることってできない。
 愛ちゃんもガキさんも好きだから、大事に思うから、だから、ちゃんと仲直りしてほしいの」
「聞かれたくない話とかあるだろうから、さゆみたちはここから離れるから、ちゃんと話し合って。
 あ、あと、ガキさんも、何も知らなかったからね、そこは疑わないであげてね」
「……お願いします」

愛佳の声を最後に、部屋の前から静かに人の気配が薄らいでいく。
606 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:43
部屋の前から人の気配が完全になくなったころ、愛は深く深く溜め息をついてそのまま床に手をついた。
がくりとチカラなく腰を下ろし、膝を抱えて小さくなる後ろ姿に里沙の胸がぎゅっとなる。

「…イタイとこ、つかれちゃったね」

ぽつりと言うと、小さくなった愛の肩がぴくりと揺れた。

「年下の子らにまで気を遣わせて、うちら、何やってんだろね」

自嘲気味に笑って言ったが、愛は何も答えない。

「……あいちゃん」

膝を抱え、その膝に額を押しつけたまま、愛がゆるく頭を振る。
それを見て、里沙はそっと愛のもとまで歩み寄った。

そばまで近づき、愛を真似て里沙も座り込んで膝を抱えた。

「……あたしの話、聞いてくれる…?」

言うと、愛の肩がまた震えて、里沙から顔を背けるのが見えた。
けれど逃げることは叶わないと悟っているのか、それとも愛佳の言葉が効いているのか、
顔は背けられたけれど、今までのような強い拒絶は感じられなかった。
607 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:43
「…愛ちゃん、前にさ、人を好きになるのは怖いことじゃないって言ってくれたの、覚えてる?」

絵里の気持ちを受け入れる前、そして絵里と付き合っていることを愛に知られたあと、
そんなふうに愛は言って、まだ複雑に揺れていた里沙の気持ちをわかりやすくしてくれた。

「愛ちゃんの言うとおり、誰かを好きになるのって、すごく幸せなことだって思ったよ。知ることができた。
 でも、でもね、あたし、やっぱり怖いことも、あると思うんだ」

カラダは動かないでいても、里沙の言葉に耳を傾けてくれていることは伝わる。
今までのことを思うと伝えたい言葉はいろいろあったけれど、いま、目の前に愛がいてくれることが里沙にはただ、嬉しくて。

「…あたし、いま、すごく好きな人がいるんだけどさ」

愛のカラダが一際大きく揺れた。

まだ里沙の気持ちを伝える前にそう言えば、愛がどんな気持ちになるかを考えなかったわけではない。
前回のように逃げられるかも知れないとも思ったけれど、愛は僅かにカラダを硬くしただけで、それ以外の大きな変化を見せなかった。
608 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:43
「…ずっとずっと近くにいたのに、その存在の大きさにずっと気づけなかった。
 だって、隣にいるのが当たり前だったから、大事に思う気持ちそのものが、あって当然の感情だったんだよね」

カラダを硬くしている愛が、それまでとは違う緊張を孕んだのがわかる。

「だけどさ、あるときから、その人を近くに感じられなくなったの。
 あたしのそばからいなくなるかも知れないってこと、初めて身近に感じたっていうか」

自分ではない誰かに弱音を吐いている声を聞いてしまったあの日。
聞いたこともないような弱弱しい声でさゆみに縋った愛に、自分ではダメなのだと思い知らされたあの夜。

押し寄せてきた寂寥感をすぐには理解できなくて。

「その人がいなくなるとか、考えもしなかったんだよね。だって、本当に、隣にいるのが当たり前だったから。
 だけど…さ、だけど、やっぱりどんなに考えても、あたし、その人のいない未来なんて想像つかないの。
 いなくなる可能性のほうがずっとずっとあるはずなのに、その人がいない未来を考えられないの」

いつか、という未来に、自分の隣にいる人間が他に思い当たらない。
609 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:44
「そうなって初めて気づくなんて遅いって自分でもホントにそう思うけど、でも、やっとわかったの。
 あたしが、その人にどんなに恋してるかってこと」
 
ゆっくり、俯いたままの愛の頭に手を伸ばす。
そっとそっと、その髪に触れると、愛のカラダが弾かれたに揺れて、ゆっくりと頭をあげて里沙を見つめてきた。

涙を堪えているのか、真っ赤に充血した瞳で見上げられて思わず里沙の口元がゆるむ。

「あたしが想像する未来にはさ、いつも愛ちゃんが隣にいるんだよ。愛ちゃんのいない未来なんて考えられない。
 愛ちゃんを失うなんて考えられないし、考えたくない」
「……里沙、ちゃ…」
「愛ちゃんは?」
「え……」
「愛ちゃんの想像する未来に、あたしは、いるのかな…? 
 あたしが思うようには、愛ちゃんの隣に、あたしは、いないのかな?」

里沙の問いかけを聞いた愛の目から大粒の涙が零れ落ちる。
ふるふると頭を左右に振ったことで、その涙は頬に伝わることなく床へと落ちた。
610 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:44
「……嘘やぁ…」

涙声で、それだけ言葉にするのが精いっぱいのようで。
愛の髪を撫でた手で次々と零れ落ちてくる涙を拭いながら、里沙は思わず吹き出してしまった。

「ぜったい、そう言われると思った」

笑われたことが不服そうに愛の唇があっという間にへの字に歪む。
それを認めたあとで、里沙は両腕を伸ばして愛を抱きしめた。

「でも、嘘なんかじゃないから」

抱きしめたことで近づいた愛の耳に囁くように告げると、ほんの少しだけカラダを強張らせたあと、
ゆっくりとその身を里沙へと委ねてくるのがわかって、里沙もまた、抱きしめる腕のチカラを少しだけ強めた。

愛を抱きしめながら、改めてその細さを実感する。
こんなにも頼りなさげな華奢な肩と腕で守られてきたのかと思うだけで胸が熱くなった。

「…ここまでくるのに、すごく、すごくすごく、時間かかっちゃったけどさ、でも、だからこそ、胸張って言えるよ」
611 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:45
そっと愛から離れて顔を覗きこむ。

里沙が映る濡れた瞳は里沙の次の言葉を待っているようにも、引き延ばしたいようにも見えたけれど、
不安そうに小刻みに震えている薄い唇が熱をもった息を吐き出したように思えて、里沙は自分の心音が跳ねたことを自覚した。

「愛ちゃんが…、愛ちゃんのことが、好きです」

たったこれだけを告げるために、どれほどの時間をかけて、どれほどの人たちを傷つけてきたのだろうと里沙は思う。

自分の弱さを認められないまま、誰かに縋ることで本当の気持ちから逃げて、
大切な人を失う怖さを、悪意なく人を傷つける痛みを、身をもって知ることになって。

それでも失えない、なくせない想いがあることを、思い知らされて。

里沙にとっての愛が、里沙が思う以上に大きく失えない存在であることだけが、揺るぎない現実だと知った。

たくさんの人に支えられて、導いてもらってやっと見つけられた答えは、もう誰にも譲ることはできないし隠すこともできない。
ただまっすぐに、その人へ伝えるだけだ。
612 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:46
一度は止まったはずの涙がまた大粒になって愛の目から次々と溢れては零れ落ちていく。
泣かれることは予想していて、咎めることも窘めることもしないで、そっと親指の腹でその雫を拭い続ける。

「…愛ちゃんは?」

しゃくりあげて泣いていた愛が少しずつ落ち着いてきたのを待って、里沙は穏やかに尋ねた。

「愛ちゃんは、あたしのこと、好き?」

答えなどとっくに知っていて、それでも聞いていると愛だってわかっているだろう。
意地悪く聞こえたかも知れないけれど、まだちゃんと、愛の口からその言葉が出ていないことも、愛は気づいているはずだった。

涙で濡れた睫毛を震わせた愛が、ゆっくりと二度瞬きをしたあと、
里沙のよく知る、いつまでも幼さの残るくしゃくしゃの笑顔で里沙に飛びついて言った。

「…だいすきじゃ、あほぅ!」

涙混じりに届けられた告白。
ようやく届いたお互いの気持ち。

出会ったころからずっと里沙の隣にあった聞き慣れたその声は、きっとこれからも、里沙の胸を甘くかき鳴らす、愛しく、恋しい声になる。
613 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:46

614 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:46


END

615 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:46


616 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:47



以上で、ANSWER、完結です。

更新間隔を大きく開けてしまって、何度もお待たせしてしまってすいませんでした。
高橋さんの卒業にギリギリ間に合って、心底ほっとしています。
書きあげてすぐの投稿なので誤字脱字も目立つやも知れませんが、広い心で見逃してやってください。

放置期間も含めて連載開始から3年弱、長らくのお付き合い、本当にありがとうございました。
617 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 02:49
完結したので、ageておきます
618 :名無飼育さん :2011/09/29(木) 04:42
ずっと見てたけど、ラストはなんかほっこりした。
ほかのメンも合わせてその後も気になるところw
完結お疲れ様でした。
619 :名無飼育さん :2011/10/01(土) 06:32
完結と聞いて思わず初めから読み直してしまいました
最終更新分の展開は予想外の方向からいろいろ来て、驚いたり笑ったり、感情移入して泣いてしまったり…
本当、この作品を書いてくださってありがとうございました
(追伸:私もその後が気になりますw)
620 :名無飼育さん :2011/10/02(日) 07:11
完結お疲れ様です。
何度も何度も読みましたが、また最初から読み返してしまいました。
ガキカメも大好きでしたが、最後に愛ちゃんとガキさんが幸せになれる選択をしてくれて良かったです。
メンバー一人一人が温かくて優しくて、特に作者さんの書かれる小春とさゆが大好きです。
素敵なお話をありがとうございました。
またどこかで作者さんのお話が読めると嬉しいなぁ。
621 :名無飼育さん :2011/10/03(月) 22:19
素敵なお話でした。
カメが「うれしくて死にそう」と言った一瞬がキラキラしすぎて。
結果としていい答えが出てよかったです。

ありがとうございました
622 :名無飼育さん :2011/10/05(水) 01:49
とても素敵なお話をありがとうございます。
完結お疲れ様でした。
最後はどうなるんだろうと思いながらも想いが通じ合った二人が微笑ましかったです。
誰もが幸せになることはできないけれど、それでも自分の気持ちに正直になった二人に感動しました。
文体も綺麗で毎回小説を書く度に参考にしたいと思ってしています。
改めて、素敵なお話をありがとうございます。
また作者さんの書くお話が読めたらいいなと思っています!

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