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怪盗ピーチッチvs名探偵アイリーン

1 : :2008/01/08(火) 00:00
今晩12時、
『VERY BEAUTY』を戴きに参ります。

怪盗ピーチッチ
477 : :2010/06/05(土) 22:57


『でね、あたし思うんだけど』
『はい』
『ピーチッチは寺田宝石商のところにあらわれる。
 でもハピネスはどこにも見つからない。その後どうすると思う、愛理ちゃん?』
『ピーチッチって狙ったものしか盗らないから、たぶん何も盗らずに帰――』
『いや違うね!
 寺田宝石にはね、もう1個おっきな赤いルビーがあんのよ』
『石川さん、赤いからルビーです……』
『あ、そうなの? まいいや。
 そのルビーはね、価格がおおよそハピネスの3倍くらいなんですって!』

ふたりの会話を盗聴していた桃子は、この言葉で「はぁ」とため息をついた。
石川さん……ピーチッチのことまだ解ってない。

『その名も「赤いフリージア」! これだね。これを守らなきゃだね』

それ『ジュエル』じゃないし、そもそも桃の好みの造形じゃないし、
って言うか寺田宝石に「赤いフリージア」があるのって超有名だし!
VERY BEAUTYの頃から置いてあるけど今日までずっと無視してきたし!
478 : :2010/06/05(土) 22:58


金曜の夜。
制服姿の警察を引き連れて寺田宝石へ向かう石川警視を横目に、
愛理だけ別行動で須藤家に向かった。
途中で二度三度とため息をつく。
石川さん……ピーチッチのことまだ解ってない。

「アイリーンちゃん、いらっしゃい」
「夜分遅く失礼します」

愛理を出迎えてくれたのは、隣のクラスで顔はもちろん知っているが
そんなに親しく話したことのない少女、須藤茉麻だった。
いや、少女というか……大人の女性かも。
背中までの長い黒髪。高く広い背。落ち着いた態度と微笑み。
少なくとも、と愛理は心の中で思う。石川さんと同じくらいかちょっと上に見えるわ。

「どうぞこちらへ。明日も学校あるのに、わざわざありがとね」
「こちらこそ。ピーチッチが来ない可能性のほうが高いのにおじゃましちゃって」

そう。ここにハピネスがあることは極秘の情報のはず。
茉麻は愛理の言葉を聞いたあと、
照れたように軽くはなの頭を掻きながら
「明日が休みなら梨沙子も呼んだんだけどね」と笑った。
479 : :2010/06/05(土) 22:58
「ハピネスはどちらに置いてあるんですか?」
「その角の先に父の書斎があって、その金庫の中だよ」

書斎には茉麻の両親と妹が居て、須道家の人間が勢揃いしていた。
愛理が丁寧にお辞儀をして、テレビに出たりする子なのにその落ち着いた態度で
印象を改めたりしている。

「今日はよろしくお願いします。ハピネスはこちらに置いてあります」

言うなり茉麻の父は愛理に背を向け、
ボタンを隠すような姿勢を取りながら数字の入力をはじめた。
ピッ、ピッ、ピッ、ピッ。……カチャ。
音を数えていた愛理が眉間に皺を寄せる。
4回入力で開くタイプのか。ピーチッチこういうの得意そうだなぁ。

「……おや?」

ハピネスを収めたケースの上に、カードが乗っていた。
見慣れたピンク色の、かすかに桃の香ただようカード。愛理の動きが固まる。
480 : :2010/06/05(土) 22:59
 
テシタ ニ メンジテ ハピネス ハ ミノガシテ シンゼヨウ

                             カイトウ ピーチッチ
 
481 : :2010/06/05(土) 23:00


この瞬間よりおよそ3時間前。

「ただいま」
「あれ、桃ちゃん? もう帰ったの? 早過ぎじゃない?」

帽子を取り、暗視ゴーグルを取り、コートを脱ぎ、スカートを取り、
黒いボディスーツも脱いで、桃子はおなじみの部屋着に着替える。

「防犯対策は一般レベル。金庫はどこにでも売ってるタイプで
 4桁のパスワードは予想の2個目で開いた。何もかも意外性なし」

さゆみの淹れた紅茶に角砂糖を3個溶かすと、
桃子はふぅふぅ冷ましてから飲み始める。

「んー。みっしげさんのお茶、美味しぃ♪」
482 : :2010/06/05(土) 23:00


翌、ベリ宮学園へと向かう通学路を3人の制服の少女が歩いている。
晴れやかな顔でハロスポを持つ舞美とは裏腹に、
愛理の顔は落ち込み、桃子は笑いを堪え平静を装っていた。

『ピーチッチ現われず!石川警視の警護に恐れをなしたか!?』

「って書いてあるけど……?」
「まぁ、寺田宝石店に現われなかったのと、盗まなかったのは本当だから、
 あながち大間違いでもないから……いいのかもしれないけど……」

愛理の顔はますます曇る。

「ピーチッチは須藤さんの家に『ハピネス』があることを知ってた訳だから、
 警察の負けと言っていいわ。情報統制大失敗」
「失敗って?」

舞美の問いに、はぁ、とため息をついてから愛理は続ける。

「石川さんね、須藤さんの家に行って『ハピネス』を買ったことは秘密に。
 ピーチッチが奪いにお宅まで来るかもってお家の方に伝えたんだって」
483 : :2010/06/05(土) 23:01
「石川さんは『ハピネス』の持ち主と思われる
 須藤さん家の奥様に伝えたつもりだったんだけどぉ……」

ぽん!と桃子が手を打つ。

「隣のクラスの超大人っぽい須藤さんに伝えちゃった!」
「その通り。ピーチッチが来るかも!ってことを知った須藤さんが
 抑えられずついつい周りにちょこっと漏らしちゃったんだって。で、そこから」
「広がってしまったと」
「あー。須藤さん大人っぽいからねぇ。なんたってあだ名がママだもんね」
「そしてそんなうっかりをしてしまった石川さんはぁ……」
「石川さんは…?」
「自分のことを『梨華のばか!ばかばか!』って責めながらぁ……」

そこで愛理はくすくすふき出す。

「自分で自分を叩いてたんこぶ作ってた!」
「しょーもない……」

舞美と桃子もくすくす笑う。憎めない人だなぁ。
484 : :2010/06/05(土) 23:02
ふと、桃子は空を見上げる。
『ハピネス』を買ったのが知っている人でなかったら、どうしただろう?
やっぱり「狙い」が定められるのが嫌で諦めただろうか?
浮かんできた疑問を、ぶんぶんと頭を振る仕草で追い払う。
よそう。
たらればは考えない。
もしも、を想定するのは、盗み出す方法だけ。そう決めたじゃないか。
485 : :2010/06/05(土) 23:02
第十二話 終わり
486 : :2010/06/05(土) 23:03
 
487 : :2010/06/05(土) 23:03
 
488 :名無飼育さん :2010/06/06(日) 01:39
更新乙です
そうかリアルでは大学の年かぁ〜
489 :名無飼育さん :2010/06/07(月) 00:49
おお、新作!
ママは・・・石川さんだけを責められないけど、ねw
490 :名無飼育さん :2010/06/07(月) 12:59
まさかのももクロw
491 :名無飼育さん :2010/10/11(月) 00:46


涼しい風が心地よくて、いつもよりちょっと足を伸ばすことにした。
ついこないだまでの暑さは嘘のように引いている。
夜のジョギング。舞美はもっと汗を掻きたいと思っていた。
この時間帯は車通りのほとんどない交差点。
いつもなら左に曲がるはずを右へ。愛理の家のほうへと折れていった。
492 :名無飼育さん :2010/10/11(月) 00:47
次第に家一軒あたりの間隔が広くなっていく。
つまりそれは一軒あたりの土地が広くなっているって事だ。
そしてこの通りの遥か先に愛理の家はある。
493 :名無飼育さん :2010/10/11(月) 00:47
この時間にはもう静まった住宅街で、ダン!ダン!と音が響いてきて
舞美は思わず立ち止まった。
音のほうへ近づいてみるとそこは金網に囲まれたバスケットコートで、
一人の男の子がサッカーボールのリフティングをしていた。
舞美はなんとなく邪魔をしてはいけないような気がして、金網の外から
その姿をじっと見ていた。
494 :名無飼育さん :2010/10/11(月) 00:48
何度かのリフティングでリズムを計った後、少年はボールを高く蹴り上げる。
そのままゆっくり落ちてくるボールを右足でダイレクトに蹴ると、
吸い込まれるようにバスケットのゴールに決まった。

その美しいシュートと。
グッと小さく決めたガッツポーズと。
星明かりに照らされた爽やかな笑顔に。

舞美は恋をした。
495 :名無飼育さん :2010/10/11(月) 00:48

怪盗ピーチッチvs名探偵アイリーン


第13話 「舞美にめぐる恋の季節! 誰にも見えない宝石と少年」
496 :名無飼育さん :2010/10/11(月) 00:49


「…嘘でしょう?」

頬を赤らめながら昨夜の出来事を語る舞美に、愛理はお弁当のおかずを
運ぶ箸を止めた。
目をぱちぱちさせながら、思わずそう言ってしまう。
桃子に至っては箸を咥えたまま動きを止めていた。

「どういう意味?」

舞美が口を尖らせるのを横目に、愛理と桃子は顔を見合わせ頷き合う。

「舞美が関心を持つこと言えば食べることと」
「体を動かすこと」

今度は舞美が箸を咥えたまま目をぱちぱちさせていた。
あ、あたしのパブリックイメージってそんななの?
497 :名無飼育さん :2010/10/11(月) 00:49
「で、その子を見たのが愛理ん家の近くの公園で」
「あー。あのバスケットゴールのあるところだ?」
「そうそうそう…でね」

舞美はにこにこっと笑顔を愛理に向ける。
愛理はなんか嫌な予感がした。

「名探偵アイリーンにお願いなんだけどぉ…」
「その男子について調べてほしいと」
「そうそうそう! 桃の言う通り!」
「げっ」

そう言いつつも愛理の顔はにやにやしていた。
友達のコイバナはやっぱり協力したいし、わくわくするものなのだから。
498 :名無飼育さん :2010/10/11(月) 00:50


「ねぇ舞美、昨日の夜も行ったんでしょ? 会えたの?」
「会えなかった」

お昼ごはんの合間に聞く桃子に、舞美は元気なく首を振って答えた。

「結構長い時間その辺をうろうろしてたんだけど」
「いや捕まっちゃうよ、それ」
499 :名無飼育さん :2010/10/11(月) 00:52
「えー…そんな舞美ちゃんに悲しいお知らせがあります」

ごはんを食べ終わった愛理は、お箸を丁寧に置き、おおきなあくびを
ひとつした後で切り出し始めた。

「昨日あの公園の管理人さんに聞いてみたんだけど」
「うん」
「おととい利用を申請してた男の子はいなんだって」
「えっ?」

舞美が怪訝な顔をする。
さらに追い討ちをかけるように愛理は続けた。

「よく夜にそこに行く私の友達にも聞いてみたんだけど」
「うん」
「男の子なんて全然見たことないって」
500 :名無飼育さん :2010/10/11(月) 00:52
「あの公園ってほら、色がパステル系に塗られてるからか、男の人の利用って
全然ないんだって。利用料も市の施設に比べても高めの設定みたいだし」
「だ、だってだって」
「こっそり忍び込んだんじゃない?」

口をもぐもぐさせながら聞く桃子に、首を振って答える愛理。
眠たげな目から昨日の調査に頑張った様子が伺える。

「高い金網が張ってあるから、忍び込むなんて到底無理。結論。男の子なんて
誰も知らない、見ていないのよ」
「ってことはまさか」

ごくりと誰かの唾を飲む音。
501 :名無飼育さん :2010/10/11(月) 00:53
「これ?」

舞美は胸の前に腕を寄せ手をだらりと垂らす。恨めしやのポーズだ。

「やだやだやだ! 昼間っからそんな話禁止ぃ!」
「でね、もういっこ残念なお知らせがあって」

愛理の普段から申し訳なさそうな顔がさらに申し訳なさそうな顔になる。

「調査の続きはちょっとおあずけになります」

舞美がきょとんとした顔をする横で、桃子には話の先が読めていた。
愛理は舞美と桃子の顔を交互に見る。

「実はピーチッチから予告状が届いたのよ」
502 :名無飼育さん :2010/10/11(月) 00:54


今夜12時、
『ワープ』を戴きに参ります。

怪盗ピーチッチ
503 :名無飼育さん :2010/10/11(月) 00:56


キューティーサーキット科学博物館に保存されている高透明度水晶、ワープ。
あまりの透明度にすべての光線が透過するため、特殊な光をあてないとその存在が
視認できません。
発見当初は神出鬼没な宝石と思われていたためにその名前がついたとされています。
504 :名無飼育さん :2010/10/11(月) 00:56


説明書きを読んだ梨華がそっと指先を伸ばす。
何もない空中で確かに硬い何かに触れた。

「本当にあるのね。見えないのに、なんか不思議」
「ここに来るの久しぶりです。もぐもぐ」

愛理がワープを知ったのは小学校の社会科見学だった。
理屈では解ってもやはり見えないものに触れられることに感動したことを
覚えている。

「愛理ちゃん、なんか食べてる?」
「ガムです」

愛理はポケットに手を入れると眠気覚まし効果のあるガムを取り出して見せた。
505 :名無飼育さん :2010/10/11(月) 00:57
「昨日ちょっと夜更かししちゃって」
「あら。なんかあったの?」
「実は舞美ちゃんがですね、恋しちゃったらしくって」
「えーなになにそれ!? ちょっと梨華お姉さんに話してご覧なさい!」

梨華が目をキラキラさせて愛理につめよった。なんか鼻息も荒い。

「近い近い。石川さん近いです」
「なによ教えなさいよぉ。いやしかしあの食べることと体を動かすことしか
興味なさそうだった舞美ちゃんがねえ」

警察官達はすでに警備配置に就いており、ここには梨華と愛理しかいない。
思わず愛理は胸を撫で下ろす。
こんな女学生みたいな石川さんの姿、部下の人達に見せないほうがいい気がする。
506 :名無飼育さん :2010/10/11(月) 00:58
たくさんの子供達が遊びながら学ぶことを想定したここは、展示物と展示物の
間が広く設定してある。
よく言えばピーチッチが身を隠すスペースは少ないが、悪く言えばピーチッチの
動きを制限する障害物がない。梨華は考える。
宝石まで近づくのは難しいけれど、もし宝石を盗られてしまったら、たぶん
止められずそのまま逃げられてしまうだろう。
507 :名無飼育さん :2010/10/11(月) 00:59
梨華が時計を見ると丁度23:29から23:30に変わったところだった。
愛理はワープの傍で目を凝らしながらガムをまだ噛み続けている。
あくびをかみ殺す梨華。

「ねぇ愛理ちゃん、あたしにも眠気覚ましの、ガムちょうだい」
「なんで?」

間髪入れずに返ってきた愛理の言葉に梨華が怯む。
しかし愛理はぺろっと舌を出した。ポケットからガムを出しながら。

「なぁーんて。嘘です。はいどうぞ」
508 :名無飼育さん :2010/10/11(月) 01:00
愛理には勝算があった。
すでにワープを視認させるための特殊ライトは修復不可にして停止している。
そしてワープを照らすためのライトも準備万端だ。
対象物が『見えない』だけでも宝石を護れる確率はぐんと上がるはず。

「石川さん。たぶんもうすぐ電気消されます」
「えっ…どうして?」
「あたしならそうするからです。どうせ対象物が見えないならいっそ」

愛理がそこまで口にした時、建物内のすべての明かりが消えた。
消された。
509 :名無飼育さん :2010/10/11(月) 01:00
ピーチッチは暗闇の中で息を潜めていた。
焦らず騒がず耳をすまし指先足先の神経を尖らせる。

もし私がアイリーンなら、まずワープを視認させない。
そしてきっと私が電気を消してくると思ってるだろうから、護るのと消すのを
両立させるために明かりを。

桃子がそこまで考えた時、一条の強い光がワープの台座を照らした。
510 :名無飼育さん :2010/10/11(月) 01:01
「うわぁ! 何もない! もう盗られちゃった!?」
「石川さん、元から見えませんから!」

いきなりの強い明かりが点いて誰もの目が眩むが、ピーチッチはこの台座周りだけを
照らす展開を読んでいた。
この一瞬に宝石まで距離を詰める準備をしていて、その通りに実行する。
音は多少たててしまってもいい。石川さんが絶対悲鳴とか声とか上げるはずだもの。
511 :名無飼育さん :2010/10/11(月) 01:04
ワープの周りをガラスで囲ってはいないみたいね。

ピーチッチは胸に手を差し込むと、拳銃を取り出した。
先端には吸盤がついている。
ワープのあるべき位置に向かってトリガーを引く。
ワープを視認させるためのそれは音もなく飛び出すと、ワープのあるべき位置を
通過してその後ろの壁に張り付いた。

ずらしたのね。

ピーチッチは顔をしかめる。
ワープはその性能こそ興味を惹くものの、価格として大したことがないことと
警備の数の少なさからピーチッチはワープを動かしていないと考えていた。
すぐに見失いがちのワープは、ずらしてしまえば警備がままならない。
512 :名無飼育さん :2010/10/11(月) 01:05
「石川さん、今なんか虫みたいの飛んでませんでした?」
「虫? そんなのいた?」

ピーチッチは作戦を変えた。脱出を確実にする。
館内の電気ももうすぐ修理が完了してしまうかもしれない。

ピーチッチは拳銃を胸にしまうと、そのまま今度はピンポン玉ほどの黒く丸い玉を
取り出した。
台座までの位置を頭の中に置き、行動をシミュレートする。
それからぴょっと飛び出た紐を引き抜くと、床に転がした。

「えっ?」
513 :名無飼育さん :2010/10/11(月) 01:05
爆発と見紛うほどの光に、アイリーンと梨華と入り口付近の警備員の目が眩む。
ピーチッチは台座へ向かって飛び出し念のため台座の中を一度手でさらう。
ワープはやっぱりなかった。
もうひと玉、光らせる。
ピーチッチは排気ダクトを開けると、そこには入らず男子トイレを飛び込み
屋根裏へつたった。
来る時に張った蛍光テープの目印を剥がしつつ素早く無事に外へ出てそのまま、
闇に溶けて消えた。
514 :名無飼育さん :2010/10/11(月) 01:06


「ワープ、盗られちゃった?」

静まった館内で梨華がしょんぼりとつぶやく。

「確かめてきます」

愛理はもうピーチッチは逃げたと確信しつつも、注意深く台座へと近寄る。
手を伸ばして台座の床をさらいワープがないことを確認すると、その手を壁つたいに
這わせ始めた。
515 :名無飼育さん :2010/10/11(月) 01:07
「愛理ちゃん? なんで壁を触ってるの?」
「無事です。ありました!」

愛理は親指と人さし指の間に、見えない何かをはさんで持ち上げた。
えへへーと八重歯を覗かせて笑う。

「ガムの粘着力で壁にくっつけておいたんです」
516 :名無飼育さん :2010/10/11(月) 01:07
とりあえずワープを守り抜いて笑顔の梨華が、開きっ放しの排気ダクトの調査を
部下に依頼している傍で、愛理は胸を撫で下ろす。

あの発光の中で無事逃げ出すなんて、この障害物の少ないここならではの
脱出方法ね。
正確に逃げ道を把握してたみたいだから、もしワープが台座にあったままなら
きっと盗られていた。
台座の傍にはあったのに、見えなかったから。

愛理の頭をふと何かがかすめた。

待って。もしかして。
もう答えはそこにあったのに、私達に見えなかっただけじゃないの?
517 :名無飼育さん :2010/10/11(月) 01:08


空気が澄んで感じる。
街路樹の影に入るとなんとなく肌寒ささえ覚える朝に。

『ピーチッチ敗走? アイリーン大勝利!』

舞美が高らかに新聞を読み上げる声が響いていた。
518 :名無飼育さん :2010/10/11(月) 01:09
まるで自分が活躍したかのように嬉しそうな舞美と、まさに自分が敗走したかの
ように唇を尖らせる桃子。
そしてやや思いつめたような顔の愛理。

「なに愛理。大活躍だったってのに浮かない顔じゃん」
「ねぇ舞美ちゃん」

桃子の言葉に答えず愛理は舞美へ向き直る。

「なに? あたし?」
「桃もさ、今日のお昼、裏庭に来てもらっていいかな」
519 :名無飼育さん :2010/10/11(月) 01:12


「ここでご飯食べようってことー?」

桃子が腕を組み、両の二の腕をさすりながら言う。
気温が下がってきた今、この場所は日もささず肌寒い。

「舞美ちゃんが好きになった男の子のこと、解ったかも」
「えっ」

舞美がぽっと頬を染める。
桃子も驚きを隠さない。
昨日はピーチッチの件もあったってのに、あの後から調べたっていうの?
520 :名無飼育さん :2010/10/11(月) 01:12
「舞美ちゃんが好きになった子は、幽霊なんかじゃない。本当に居たと思う」
「でも、誰も男の子なんて見てなくて、知らないって」

愛理はちらと右後方を見る。遠く時計塔が12:15を指しているのが見えた。
まだかな?

「昨日も行ったんでしょ? で、会えなかったんでしょ?」
「うん」

愛理は少しずつ想像を確信に変えていく。

「私の友達がよく行くって言ったじゃん。だいたい週に2回、使って3回って
言ってたの」
「どういうこと?」
「答えはそこにあったの。ただ私達に見えてなかったのよ」
521 :名無飼育さん :2010/10/11(月) 01:13
「え。ねぇ、ちょっと愛理。もうちょっと解るように説明して」
「えー…そんな舞美ちゃんに悲しいお知らせがあります」

愛理は舞美と桃子の背中の遥か向こう、やや駆け足でスカートをはためかせ近づいてくる
中等部の制服の少女を見つめていた。
愛理の傍で少女は立ち止まる。弾む胸を抑えつけながら言った。

「ごめん愛理、ちょっと遅れちゃった」
「こっちこそお昼時間に呼び出してごめんね、ちっさー」

桃子にはさっぱり解らない。
横に立つ舞美に聞いてみようとふと横を見て、桃子は動きを止める。
舞美が能面のような顔で、微動だにせず立ち尽くしていた。
522 :名無飼育さん :2010/10/11(月) 01:14
「紹介するね。えっと、あたしとりーちゃんと同い年の、ちっさーです」
「あ、ども。岡井千聖です」
「で、こっちが今あたしと同じクラスの桃と舞美ちゃん」
「どうも。嗣永桃子です」

人懐っこい笑顔で笑う日焼けしてショートカットのボーイッシュなその少女を
前にして、舞美は胸に手を当てたまま言葉を発せないでいる。
そしてさすがに舞美が固まった理由が解った桃子も、無理にしゃべらせようとは
させなかった。
523 :名無飼育さん :2010/10/11(月) 01:15
「ちっさーは昔っから男の子っぽいって言われてて、岡井少年なんてあだ名が
ついてたりしたの」
「ちょっと愛理、初めて会う人の前でそんなこと言わないでよ」

そんなきゃいきゃいしたやり取りは、舞美と桃子には届かなかった。
愛理には解らなかった。
でも桃子には解っていた。

失恋のショックってだけじゃない。
舞美の視線はこの岡井ちゃんの顔というより顔に似合わぬ大きな胸に固定されていて、
岡井ちゃんより3つ年上の舞美の右手は自身の顔に似合わぬ控えめな胸に置かれた
ままなのだから。
524 :名無飼育さん :2010/10/11(月) 01:15

第13話 おわり
525 :名無飼育さん :2010/10/12(火) 00:34
更新乙です
楽しく読ませていただきました
526 :名無飼育さん :2010/10/14(木) 00:24
>>525
ありがたいお言葉。
世界観を崩さないよう気をつけたつもりなので楽しくの言葉が嬉しいです。

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