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君曜日

1 :あみど :2007/12/16(日) 19:50
ベリーズ多め。アンリアル。
同じ世界観で短編を載せていくつもりです。
137 :Fallin' Snow :2010/02/23(火) 21:13
同じクラスになって、思いのほか気が合うとわかってから親しくなるまでに時間はかからず、
互いの推薦入試の結果が出てからはさらに身近な存在になったけれど、舞美としては
そういう区別にあまり興味はない。

立ち上がろうと腰を浮かすと、背中に寄りかかっていた桃子がよろけてしがみついた。
ブレザーをつかまれる感触が何枚かの布越しに舞美にも伝わる。

「ごめん。お昼、買いに行かないと」

今日は昼までだと思っていた、とは口に出しづらく、事実だけを舞美が言葉にすると、
「先に食べてるからね」と不満そうな声が背中から聞こえた。
腕を伸ばして頭を撫でてやれば、子ども扱いしないでと拗ねたように言うのが
かわいらしくて、桃子が嫌がるのにも構わず舞美は「いいこだねー」とふざけて遊ぶ。

「もー、早く行きなよ!」

頬を膨らませた桃子に追い出されるようなかたちで教室を後にして、ちょっと
悪かったかなあと思いつつ、舞美の関心は昼食をなににするか、ということに移った。
138 :Fallin' Snow :2010/02/23(火) 21:15
校舎の玄関をくぐってすぐの購買部に向かうことにして、廊下を歩く。
三階の教室から行くには階段を通らなければならないのは明らかで、
ついさきほどまで思い返していたせいか、あのときとは気温も時間帯もまったく違うのに
記憶の中を歩いているような、妙な気分になった。

夕日は差していない。
昼間なのに薄暗い階段を降りる。踊り場には、ふと見上げた角度に小さな窓がある。
日差しが、薄いグリーンの床に鮮明な影をつくっていた。

卒業が近づいて感傷的になっているのかもしれないと舞美は思う。
段を踏み外さないように気をつけながら、ゆっくりと歩く。

「舞美ちゃん」

呼ばれて振り返ったさきには愛理がいた。段の途中から見上げると、逆光でまぶしい。
目を細めたせいもあるだろうけれど、表情までは見えなかった。
駅で見かける以外はほとんど接触の機会もなかったから、懐かしい気さえする。

昼休みなのだからもっと人がいてもよさそうなものの周囲に人影はない。
とんとんと手すりを握ったまま愛理が段を降り、舞美の隣に立つ。

「久しぶり」

舞美がそう言うと、愛理は小さく頷いた。

記憶と似た光景だけれど、これはただの偶然。舞美は静かに深く息を吸って吐く。
重なっている要素といえば舞美と愛理と階段だけだった。
139 :Fallin' Snow :2010/02/23(火) 21:16
暑い夏の日で蝉がうるさかったのを覚えている。
愛理は初めから隣にいたことも忘れてはいない。

階下からかすかな喧噪が聞こえる。
中学の校舎は別棟だ。どうして愛理が高校の校舎にいるのかが気にかかった。
訊けば、「クラス委員だから」とだけ返され、雑用かなにかを頼まれたのかと
舞美は推測するけれど、それ以上は愛理の口から聞き出せなかった。
話しかけづらい雰囲気、というものの経験が少ないせいか、戸惑った。

声を掛けてきたのは愛理の方なのに唇を引き結んで黙りこくっている。
沈黙が続くほど苦しくなった。なにか言わなければと焦り、息を吸い込むと乾いた空気で口が渇く。

同じ時間は永遠に続かない。
春になれば舞美は大学生になるし、愛理は高校生になる。

見知らぬ生徒が怪訝な顔をして二人の横を駆け抜けていった。
短い髪が、風でゆれる。

知らない背中を見送って、愛理に視線を転じた。
セーラー服は寒そうに見える。舞美も三年前は同じものを着ていたはずなのに、
冬の気温をどう体感していたのか、今ではほとんど思い出せない。

「そだ。卒業したら、制服いる?」

どうというつもりもない舞美の言葉に、愛理はぴくりと肩を震わせる。
中学を卒業したときは、本人の意思というより母親同士の取り決めで、
いらなくなった制服を愛理に譲った。
140 :Fallin' Snow :2010/02/23(火) 21:24

「わからない」

首を横に振って、愛理がため息をつく。
後ろ向きな反応に苦笑して、途方に暮れるように視線を天井に向けた。

「寒くない?」
「……半年くらい前だけど、覚えてる?」

舞美の質問に対する答えはなく、曖昧に、まったく違うことを問い返されて言葉に詰まる。
なにを、というのは自明だったから聞き返すのは躊躇われた。
返事を待たずに愛理は続ける。

「私があのとき足を滑らせなかったら、って何回も考えた」

語られる言葉はおそらく独白に近いものだ。
急速に心が冷えていくのを感じる。聞きたくないと思う。
けれど止めることはできなかった。どこかで、舞美も知りたがっている。

「舞美ちゃんはそんなことないって言うんだろうけど、あれがなかったら、ぜったいに今とは違う未来になってた」

愛理がどれほどの罪悪感にさいなまれているかを。純粋に知りたいと思った。
それは嗜虐的な趣味ではなく、単なる好奇心だった。

「捻挫って言ってたけど、本当なの? 立てなかったんだよ。
 そんな、よっぽどじゃん。かばって、そのせいで、そんな、怪我」

涙声になって愛理が息をつまらせる。
着地が悪かったのか、一緒に階段を落ちたのに舞美だけが怪我をした。
実際に起こったこととしてそれは変えようのない事実だけれど、それから後は愛理の解釈でしかない。
141 :Fallin' Snow :2010/02/23(火) 21:28
罪悪感で縛って、縛られて、これ以上は近づけないし離れることもできない。
足を滑らせた愛理をかばったと言えば聞こえはいい。それが真実かどうかわからなくても
それらしい事象が起こって、当事者がそう認識しているのだから、それでいいのだとも思う。

「昼休み、終わっちゃうよ」
「……舞美ちゃん」

愛理の方を見ることができなくて、なにもない正面に目を向けて言っても
縋るような視線を感じて痛かった。伸ばした手は余計なことをしただけだったのかも
しれないと、愛理はきっとつゆほども思っていない。

「愛理。もうやめよう」

怪我のことを思い出すのは苦痛ではないけれど、そこからの思考を反芻させられるのは
つらかった。自分勝手で独りよがりで、嫌な人間だと思い知らされるのは耐えがたい。

舞美の態度をどう受け取ったのかはわからない。
二人の間に沈黙が居座る。
時が止まったような。そんな感覚がしても時間の流れは止まらなかった。

「もう、言わない」

小さな声は決別を告げられたようで、どうしようもなく、それが嫌だと思った。
142 :Fallin' Snow :2010/02/23(火) 21:28

143 :あみど :2010/02/23(火) 21:30

レスありがとうございます。
涙止まらないわあなた(方)優しすぎるから。

>>129
お待たせしました!
ありがとうございます、そう言っていただけて嬉しいです

>>130>>97
お待たせいたしました
2年ちょいぶりですね。レスありがとうございます。

>>131
きちゃいました! 続きました!
たぶんもうちょい続きます

>>132
私もやじすず好きです
そんな嬉しい言葉をいただけて、嬉しいのは私の方です
なんとか続きましたー

>>133
きてましたー!
続いたのですが、まだ続きます。たぶん


予定よりも更新の間が空いてしまいました……が、
つづきます(たぶん)
144 :名無飼育さん :2010/02/23(火) 22:48
酔いしれます。
良いしれてしまいます。
ありがとう
145 :名無飼育さん :2010/02/24(水) 00:43
梅さんかよッ!w
146 :名無し飼育 :2010/02/25(木) 01:18
?涙が止まらない放課後じゃないの?
147 :Fallin' Snow :2010/04/04(日) 10:05

148 :Fallin' Snow :2010/04/04(日) 10:06

 ■ ■ ■
149 :Fallin' Snow :2010/04/04(日) 10:06





河童の頭を指先でつつく。
ときどき拭いているから埃はつもっていない。
つるつるしたお皿を撫でていると、小指があたって隣にいた河童が倒れた。

慎重に指でつまんで立ち上がらせていると、階下から名前を呼ばれる。
今忙しい、と心の中で返事をして、愛理は指先に神経を集中させた。
机の上にひしめき合っている河童たちは、一歩間違えると将棋倒しになってしまう。

階段を上がる音のあとにドアがノックされた。
河童の救出作業を中断し、愛理は腰を上げて返事をする。

倒れたままの一匹が気にかかり、ちょっと買い物行ってきて、と
母親が差し出したメモ用紙と小銭入れを無意識に受け取ってしまった。
渋い顔をすると、運動不足でしょといなされる。
外は寒いか訊こうとして、やめた。
さっき帰ってきたばかりなのだから、そう気温が変わっているわけもないだろう。
変わるとしたら寒くなる方だ、と気づいて愛理はため息をついた。

今夜は雪になるでしょう、と夕方のニュースが言う。
その声を聞きながら愛理はソファに投げ出していたコートを羽織って、マフラーをつかむ。
ハンガーにかけなさいね、と言われ、いつもやってるもんと心の中で言い返す。
150 :Fallin' Snow :2010/04/04(日) 10:07
玄関でマフラーを巻いているとインターホンが鳴った。
ローファーを履きかけだったせいでよろけつつ、愛理はドアを開ける。

宅配便かなにかだろう、と思っていたら、意表を突かれた。
すぐに開いたドアに驚いたように目を瞬いて、舞美が「おー」とどこか間の抜けたあいさつをする。
その後ろには日が落ちかけた空が見え、寒さのせいか、舞美の頬は少し赤くなっている。
愛理がそれを指摘しようと口をもごもごさせると舞美は不思議そうに首をかしげた。

「どうしたの?」

言おうとしたこととは違う言葉が口から出た。
一瞬遅れて、舞美が片手に持っていたものを差し出し、愛理がそれを受け取る。
いつから使われているものなのか回覧板の角はすりきれてしまっていた。
指で触れてもひっかからず、ほぐれてしまった紙の繊維が地面に落ちる。

「それ、持ってきた」
「うん」

頷いて、回覧板を床に置く。
中途半端に首からたれ下がったマフラーをきちんと巻き直す。
愛理が顔を上げると、「じゃ」と舞美が片手を上げ、背中を向けた。
151 :Fallin' Snow :2010/04/04(日) 10:08
声をかける前に、足を踏み出す前に閉じられそうになったドアを押し返して、愛理も外に出た。
吹き付ける風が冷たくて顔をしかめ、またよろけた。
支えるように腕をつかまれて見上げると、なびく髪を片手でおさえながら、舞美が笑っている。

「出かけるの?」
「え、と」

どういう顔をしてどう話せばいいのか、急にわからなくなって愛理はとまどう。
大きな音をたてて背後のドアが閉まった。驚いて身体を震わせると、優しく腕を握られる。

「おつかい、頼まれて」

言ってしまってから、おつかいでなくとも他に表現があったんじゃないか、と
気恥ずかしくなって愛理は顔を俯かせる。
「えらいね」となんの屈託もない舞美の声が聞こえた。

背を向けて鍵を閉めている間も、すぐそばに舞美の気配を感じて落ち着かない。
いつもより時間がかかってしまい焦る。
振り返ると舞美はぼんやりと中空をながめていて、その横顔に胸が苦しくなった。
どこかへ行ってしまうのではないかと、根拠もなく思い、不安になって袖を引く。

気づいて微笑みかける舞美はいつもと変わらない。
それを見て愛理の顔もほころんだ。
152 :Fallin' Snow :2010/04/04(日) 10:08
「なに買うの? ついて行こっか」
「や、大丈夫だよー」

へらへらと笑うと、舞美は苦笑ぎみに頬をかいた。
小銭入れしか持たされていないし大した買い物ではないだろう、と愛理はメモを見る。
と、一転してむずかしい顔になった。
ひょこりと舞美に手元をのぞき込まれ、反射的に、見やすいようメモ用紙を広げる。

「やっぱついてく」

行こう、と手を引かれた。
素直に従う気にはなれずに舞美を見上げると、「暇だから付き合わせて」と微笑まれる。
そこまで言われると断る方が難しい。
しぶしぶ愛理が頷くと、引くだけだった手を繋がれた。
153 :Fallin' Snow :2010/04/04(日) 10:09
「今夜、降るらしいからねえ」

おつかいにはちょっと多い、と思えるメモだったけれど、
なにか納得したように舞美は一人でうんうん頷いた。

繋がれた手を離すか迷いながら愛理は眉を下げる。
舞美も帰ったばかりだったのか、制服とコートのままだった。
マフラーが巻かれていない首元が寒そうで心配になる。

緩く繋がった手はすぐに離れてしまいそうで、離れない。
恥ずかしさよりも触れていたいという気持ちの方が勝って、
さりげなく愛理は手のひらに力を込めた。

「積もるかな」

返事を期待したわけではない愛理のつぶやきは、白い息と一緒にただよう。

「積もったら、また遊ぼう」

笑うと目が細くなる、そのやわらかい舞美の表情が愛理は好きだった。

「今度はちゃんと完成まで見るから」

河童どうなったの? と問われ、「とけちゃった」と愛理は応える。
寂しそうに笑う顔すらふわふわと穏やかで、不意に泣きたくなった。
154 :Fallin' Snow :2010/04/04(日) 10:09
舞美ちゃんは優しい、と愛理は思う。
穏やかな海、ぽかぽかの太陽、気持ちのいい風、そういう温かさをいつも感じていた。

そのぶん、突き放されると不安になる。
心臓をつかまれるような生々しい恐怖はいままでに経験がなくて、
しかも舞美が原因でそうなることが愛理には怖かった。
155 :Fallin' Snow :2010/04/04(日) 10:11
いつになく穏やかに時間が流れているような気がした。
手を繋いで歩くと幼かった頃を思い出し、自然と笑みがこぼれる。

「なに笑ってんのー」
「だって。懐かしくて」

きっとだらしない顔になっている、と自覚しながらも愛理はまっすぐに感情に従う。
転んで泣いていたときも、雨に降られて走って帰ったときも、手を引いてくれたのは舞美だった。

距離の分だけ疎遠になってしまうのだろうか、といつもは考えないようにしていることが頭に浮かぶ。
もうきっと楽しいだけではいられないのだと、うすうす気づいていたことなのに
あらためて考えるとやはり苦しくなって手に力が入る。

「寒い?」

愛理の意識とは違う方に解釈して、舞美も手に力を込めた。
首を横にふって否定すると、納得がいかなさそうに小首をかしげる。
あ、と急になにかを思いついた顔になり、舞美が繋いだままの手をコートのポケットにつっこんだ。

「一回やってみたかったんだよね」

でも歩きにくいかな、とぎこちなく笑い、すぐに外に出される。
愛理はそんな舞美を見ながら、どうにも様子がおかしいと思う。
それはやはり怪我が原因してのことなのかと思わずにはいられなくて、
しかしそれを話そうとすると空気がかたくなる。
どうしてなのか知ることはきっとない、そう思って、愛理はあきらめの気持ちで空を見上げた。

予報の雪は、まだ降らない。
156 :Fallin' Snow :2010/04/04(日) 10:11

157 :あみど :2010/04/04(日) 10:12
>>144
こちらこそありがとうございます
今年度もよろしくお願いします

>>145
梅さん卒コンDVDはとても泣けました……
梅さんが事務所決定したようで嬉しいです

>>146
あなたやさしっすぎるから〜ぁ〜
梅さん卒コンDVDは涙が止まらなかったです
158 :あみど :2010/04/04(日) 10:12
予定よりも更新の間が空いてしまいました……が、
つづきます(たぶん)
159 :名無飼育さん :2010/04/05(月) 00:27
のんびり書いてください
まったり待ってます
160 :名無飼育さん :2010/04/05(月) 10:17
とても穏やかな気持ちになりました…
161 :名無飼育さん :2011/06/30(木) 22:05
二人の空気感が好きです
今でも待ってます
162 :名無飼育さん :2011/09/17(土) 00:27
静かな雰囲気が良いですね。
163 :名無飼育さん :2011/10/05(水) 01:51
二人の雰囲気が好きです
気長に待ってます
164 :名無飼育さん :2012/02/06(月) 23:17
冬真っ盛りに合う話だ。
続きを待望します。
165 :あみど :2012/02/26(日) 00:06
>>160-164
レスありがとうございます。
お待たせしまして許してニャン。

この話の更新はこれでおしまいです。
166 :あみど :2012/02/26(日) 00:07
アンカーミスしました。
>>159-164
改めましてレスありがとうございます。
167 :Fallin' Snow :2012/02/26(日) 00:07

168 :Fallin' Snow :2012/02/26(日) 00:08






しゃかしゃかとビニール袋が擦れる音が、ひとけの少ない路地でうるさい。
舞美の手元に目を遣ると大きな袋が揺れていて、それは愛理が手にしているものよりいくらかふくらんでいる。
会計をすませている間に袋詰めをしてもらえたのはありがたかったけれど、
明らかに、ふたつの袋の重さは均等ではなかった。

「ねえ」
「ん?」
「袋、重いでしょ。交換しよ」
「全然」

ひょい、と肩の高さまで持ち上げて見せられればなにも言えなくなる。
唇を尖らせる愛理に笑顔を返す姿は、たしかに重さを苦にしているようには見えなかった。

「舞美ちゃんて、細いのに筋肉すごいよね」
「そうかなあ」

そうだよ、とふさがっていない手でブレザー越しに舞美の腕をつかむ。
「どう?」尋ねる舞美の声に、「かたいよ」と真面目に返答すると、笑われた。

むっとして顔を上げ、口を開こうとした愛理の視界の端に、ひらりと白いものが舞う。
はらはらと降り、アスファルトに触れると消える。

「雪、降ってきたね」

舞美も空を見上げて、言った。
169 :Fallin' Snow :2012/02/26(日) 00:09

がちゃがちゃと鍵と鍵穴を鳴らして、ドアを開く。
舞美から荷物を受け取り、玄関に置いたところで、先手を打つように愛理は口を開いた。

「お茶でも飲んでいってよ」

甘えると、少し戸惑ったように舞美の視線が揺れる。
この頃はそっけなくすることはあっても、こちらから近づいていくことはほとんどなかったから、
舞美の反応ももっともだと思った。

「お話しようよ。ダメ?」

断られることはないだろうと思った。
愛理の母親の後押しも手伝い、舞美は頷く。
少しほっとして、先に二階の自室に上がらせ、愛理はマグカップの載った盆を持ちゆっくりと階段を上がる。

こぼさないように気をつけながら、薄く開かれたままのドアを身体で押し開けた。
そろそろと歩いて、小さなテーブルの上に盆を置き、そのまま腰を下ろす。
窓際に立ち外を見ていた舞美が振り返り、学習机の上を指さした。

「河童、増えたね」

こまごまとした河童の人形や置物が並ぶ机。
並び始めたのは、最近のことではない。けれど、その数は着実に増えていた。
以前、舞美が見たときにはいくつくらいだったのだろうかと、愛理は考えるが思い出せるはずもない。

「……舞美ちゃんが来るのが久しぶりだからだよ」
「そうかな」

とぼけているのか、舞美は首をかしげる。
170 :Fallin' Snow :2012/02/26(日) 00:09
「そうだよ」

来るとわかっていたらもっときちんと片付けていたのに、と言いたくなるのを飲み込んだ。

「こっち来てよ」

そう声をかけると、舞美の視線がようやく河童から外れて、愛理に向けられる。
けれど身体がこちらへ近づく様子はない。

「冷めちゃうから、来て」

飲み物が冷めてしまうから、というのも、もちろん理由のひとつ。
けれど、それはほとんど口実に近かった。

「……逃げないでよ」

距離を取られて、悲しくならないと言ったら嘘だ。

「逃げてなんかないよ」

穏やかに舞美はそう言う。
愛理の隣に座り、顔をのぞき込む。

「もらっていい?」

頷くと、舞美がカップを手に取り、湯気が立ち上るカップに息を吹きかける。
遅れて愛理もカップを手にとって、口をつけた。
171 :Fallin' Snow :2012/02/26(日) 00:09
窓の外が陰りはじめる。
ガラス越しに見える雪はしんしんと降り続け、止む気配もない。
ぽつりぽつりと近況を話し合う。
家族のことや学校のこと。しばらく話していなかったから、話題には事欠かない。
ふと会話が途切れた時には部屋が薄暗くなっていた。
照明をつけようと立ち上がると、舞美に手を取られる。

「外、見てみようよ」

手を引かれ、窓際に立つ。路面がうっすらと白く覆われているのが見てわかった。
街灯に照らされて、降る雪も、積もった雪もまぶしい。
この調子でいけば積もるかもしれない。そう言おうとしたら、
つかまれたままの手が持ち上げられ、検分するかのように眺められる。

「細い」
「舞美ちゃんもそんな変わらないでしょ?」
「愛理って、ぎゅーってしたら折れちゃいそう」
「そんな簡単に折れないよ」

舞美が視線を上げて、言う。
薄暗い部屋にいるからか目にも陰りを感じた。

「確かめていい?」
「えー?」

真面目に言われると照れる。
へらへらとしていると、なにも言わずに抱きしめられた。
172 :Fallin' Snow :2012/02/26(日) 00:10
おや、と思った。
互いにスキンシップは多い方だけれど、こういう「抱きしめる」と形容されるべき状態はあまり経験がない。

「……舞美ちゃんが本気出したら折れちゃうかも」

空気に反して、冗談めかして言う。
自然に背中に回してしまった腕が、今になって落ち着かない。

「ごめんね」
「……なんで謝るの?」
「愛理はなにも悪くないから」

顔は見えない。
あやすように、舞美の背中を優しく叩く。
これからするのはきっと大事な話だ、と思った。
173 :Fallin' Snow :2012/02/26(日) 00:10
「私、愛理に忘れられたくなかった」

忘れるわけがないのに、なにを言っているのか、わからない。

「怪我なんて、すぐ治ってなんともなかった。けど、愛理が気にしてたから。
 ちゃんと説明しないでいれば、愛理はずっと私のこと気にしててくれるかもしれない、って思ってた。
 ……でも、こんなの間違いだって、今はわかる。愛理を悲しませたくなんかないのに、
 一番ひどいことをしてるのは、私だった。ごめん」

そんなことを考えていたのか、と思っただけで、安堵も怒りもなにも浮かばなかった。
肩に顔をうずめられて、首元で呼吸を感じる。

「……舞美ちゃん。顔、上げて」

面と向かって言えないから、こういう形を選んだのだろう。
わかっていて、顔を上げさせた。

「私も、ごめんなさい」

視線を合わせて、言う。

「舞美ちゃんが私のせいで怪我したとしても、それで一生私のこと忘れないなら
 それでいいかもって。思ったこと、あるから」

心に置いていてほしかった。
けれど、選んだ方法はきっと間違っていた。
174 :Fallin' Snow :2012/02/26(日) 00:10
「私も一緒だから。謝らないで。忘れないで。……嫌いにならないで」

ずっと言えなかったことが、すらすらと口をついて出る。


「嫌いになんてなるわけないでしょ」

力のこもった声で舞美が言う。

「私も、舞美ちゃんのこと嫌いになんかならない。忘れられるわけないじゃん」

ありがとう、と舞美は身体を離して、愛理の頭を撫でる。
すん、と鼻をすすって涙を飲み込んで、ぶつかるように抱きついた。
175 :Fallin' Snow :2012/02/26(日) 00:10
触れる手が優しい。
抱きついた身体は細いのにしっかりとしていて、愛理がどれだけ力を込めても折れそうにない。
痛いよ、と笑って、後頭部を撫でられる。
ぐいぐいと肩口に額を押しつけて、言った。

「舞美ちゃんはずるいよ」
「うん」
「もう会えなくなるのに」
「会えるよ。明日も明後日も、ずっと」
「嘘つき」

ずっとだなんて、子どもでもわかる嘘だ。
けれど、嫌いになんてならない、これも本当のようででたらめを言ってしまった、と愛理は思う。
嫌いにならないのは好きだからだと、伝えることができない。
176 :Fallin' Snow :2012/02/26(日) 00:10





目が少し腫れぼったい。
冷やして温めて、少し腫れが引いたところでタイムリミットだった。
窓から確認したとおり、うっすらと積雪している道路は光を反射してまぶしい。

向かいの家からの足跡は、駅の方へ続いている。
愛理もその跡を追いかけるように、足を踏み出した。
177 :Fallin' Snow :2012/02/26(日) 00:11


チャイムの音で我に返る。
午前中の授業がまったく頭に入らないまま、昼休みになってしまった。
ノートだけは取ったから、また後から確認しよう、と考えたところで、名前を呼ばれ顔を上げる。
痛いくらいにクラスメイトの視線を感じ、愛理は教室から飛び出す。

「なにしてるの!」
「愛理を呼びにきたんだけど」

責めるつもりはなかったのだけれど、大きな声を出してしまった。
しかし、きょとんとした舞美は首をかしげる。
一貫校とはいえ、高校生が中学生の教室に来て廊下から名前を叫ぶのはいかがなものか、という
機微を感じ取ってもらえそうにはなかった。

「ごめん、迷惑だった?」
「……いいけど」

はあ、とこれ見よがしにため息をついてみせる。
ちょっと時間いいかな、と明るい表情で舞美は言って、返事を聞かないうちに愛理の手を引いた。

「お昼休みだからいいけど、どこ行くの?」
「行ってからのお楽しみ」

女の子同士なら、学校の廊下で手を繋ぐのなんて珍しくもない。
なのに周囲の視線が気になるのは、相手が舞美だからだろうかと愛理は思う。
けれど、振りほどく気になれなかったのは、やはり相手が舞美だからだろうか。
178 :Fallin' Snow :2012/02/26(日) 00:11
行ってからのお楽しみ、と言われても、途中でわかってしまう目的地だった。
ブレザーのポケットから取り出された鍵でドアが開かれ、愛理は初めてそこに降り立った。

寒くて、高さが高さだけに風もある。
まさか屋上に出られるとは思っていなかったから、感心の目を舞美に向けると、
「日頃の行いがいいから」といたずらっぽく笑って鍵を揺らした。
空を仰ぐと、真っ青な中を白い雲が泳いでいる。息も白く、まだ冬は終わりそうにない。

「あー、とけちゃった」

残念そうな視線を向けられて、その指のさす方を見る。

「河童だるま作ったのに」

その言葉に、思わず笑みがこぼれた。
申し訳なさそうに舞美も口許だけで笑う。
179 :Fallin' Snow :2012/02/26(日) 00:11
舞美を置いて、歩いた。
屋上はフェンスに取り囲まれているから、それ以上の先には進めない。

「愛理」

名前を呼ばれて、振り返る。

「たくさん会おう。いっぱい遊んで、話そう」

離れてしまう前に、というのは言われなくてもわかった。
ずっと、どこか寂しそうにしか笑わなかった舞美が、昔みたいに優しく目を細めていることが愛理は嬉しい。
返事をする前に、舞美が続ける。

「真っ先に愛理に会いに来る」

微笑んでいても、その言葉には重みがあった。
きっと、本当に真っ先に来てくれるのだ。実直な舞美に嘘は似合わない。
もっと上手に虚言をかたれるほど器用なら、嫌いになっていたかもしれない。
愛理はつとめて明るく言う。
180 :Fallin' Snow :2012/02/26(日) 00:12
「舞美ちゃんは嘘つきだからなあ。信じられないよ」

嘘をついたことがあるのは事実だからか、否定はされなかった。
舞美に近づき、その前に立つ。
少し上にある目を見つめて、言った。

「いまは信じないよ。でも、嘘じゃないって証明してみせて」









181 :Fallin' Snow :2012/02/26(日) 00:12

182 :Fallin' Snow :2012/02/26(日) 00:12

183 :Fallin' Snow :2012/02/26(日) 00:12

184 :名無飼育さん :2012/02/26(日) 19:59
おお、更新されている。
ラストシーンがすごく綺麗ですね。余韻があって。
雪の描写によって、季節の移ろいや人物の心情がとても
分かりやすかったです。
この落ち着いた雰囲気が好きです。
185 :名無飼育さん :2012/03/21(水) 02:04
更新ありがとうございます!
嬉しすぎる…
186 :名無飼育さん :2012/04/11(水) 10:37
このスレの雰囲気がとても好きだ
今回の話はこれで完結…?
次作も楽しみです

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