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Love IS so cute!

1 :セツナ :2007/12/06(木) 06:42
℃-uteさんの短編をいくつか更新してみようと考えてます。
最初はやじうめ。
よろしくお願いします。
231 :_ :2009/12/05(土) 14:49

そのとき、胸にフッと不安が過った。
あたしはルール違反をした。
いいんだ。そのことは悔やんでいない。

でも、なぜ・・・?

なぜ誰も何も言ってこない?
ドクリ−
と心が跳ねた。

ルールを破った妖精はどうなるって言っていただろう。
どうしよう、どうしよう。
そんなこと、自分の身に起こるわけないと思って、誰の話もきちんと聞いたことがなかった。
あたしはどうなってしまうんだろう。

そんなことを思って心を暴れさせていると、ポツリと前髪にしずくがたれた。
雨・・・。
そう、この二人が別れるはずだったのは、雨の日。
今日を終えた明日の雨の日。
あたしは、間違ったことはしていない。

ぎゅっと目をつぶり、あたしはあたしの戻るべき場所へ戻った。

トクリ−
とまた心が揺らぐ。
誰の気配も感じない・・・。

目を開くと、千聖と舞ちゃんがあたしをおびえるようなあるいは寂しそうな目で見つめている。
それは、どこか捨てられた子犬のようで、あたしは目に涙を溜めて、ふっ、と笑ってしまった。

ああ、そんなにひどいことをしたんだな。
とどこか達観してしまっていた。

「えりか。」

人間で言う、関西なまりの妖精。
金髪で肩をいからせたこわぁーいこわぁーい中澤先輩。
彼女が角を曲がって姿を現し、あたしに真っ直ぐ向かってきた。

232 :_ :2009/12/05(土) 14:50



妖精−
それは、魂のよりどころを無くした心達が成るもの。
どこからどうきたのかは、誰も知らないはずで。だって教えてもらったことがないから。
あたしは、実際そんなことは気にも留めない能天気なタイプの妖精だったため、
この年になるまでその意味を、存在の理由を考えたことがなかった。

ただ、この世界に必要なもの。
それだけはどこかでわかっていたけれど・・・。


233 :_ :2009/12/05(土) 14:50


「よく考えたら、あたし、自分がなんでここにいるのかもわからないんですよねぇ。」

そう言えば、ここに来るまで考えたこともなかったな。

「それはみんな似たようなものだよ。」

隣で梨華さんはそう言った。
白いシンプルなワンピースにサラサラの髪の毛。
華奢な膝を抱いている彼女にあったのは、丁度あたしが要請のお仕事の『恋愛』組からはずされた日のことだった。

あの日、中澤さんはあたしのことを怒鳴りつけ、
それから・・・それからは、ただぽつりと静かに『明日、あの二人のこと見とったらええわ。』と言ってあたしに背を向けた。

次の日、あたしは『なにさ?』と開き直って二人を眺めていた。
千聖も舞ちゃんもあたしに近寄ってこなくなって、それだけのことで心はたいぶやさぐれていて・・・。

でも、あの二人はうまくいくんだから。

そんな根拠もない自信だけが、唯一のあたしの心の支えだった。

雨がザァーザァーと降り続く日、それが悪かったんだ。
と、後であたしは知ることになる。
もともと、彼女の恋を応援するところかせはじまったあたしのお仕事は、いつの間にか彼女の側に立って行われることが
多くって。
だから、あの日もあたしは彼女の側をフワフワと歩いた。
雨の日は、着地ができない。
何故なら、足を地面につけるたびに少し地面にたまった雨水−ちゃんとした原理は知るはずもないのだが、人間界のもので
妖精に一番大敵なのは水なのだ−に影響が出てしまうから。
高い高い空の上から、見守る。

幸いあたし達の体を水は素通りする。
それでもささいなゆがみはあるらしいのだが、この高さなら人間が気づくことはまずない。

彼女が差した真っ赤な傘。
雨粒がはじける音が聞こえる。

遠くから歩いてくるらしい紺色の傘。
それが誰のものかもあたしにはすぐわかる。
彼、だ。
そして、その隣にいる不穏なものを察知して、あたしは耳を済ませた。

234 :_ :2009/12/05(土) 14:51

『だって今日は約束してないんでしょ?』
『そーだけど・・・。』
『だって雨だし。傘に隠れれば気づかれないって。』
『・・・。』

それは、予測していない事態だった。
あたしは、それほど細かい人間ではなくって、どちらかというとフワフワと不真面目だった。
だいたいの出来事は頭にいれるけど、ディテールは置いておく。
そういうタイプの妖精だった。

彼と彼女がどうして偶然鉢合わせた彼のマンションの前で破局を迎えるのか・・・。
それは、ただ単に昨日の電話のことが原因なのだと思っていた。
でも、違ったのだ・・・。

彼女は、彼とそして察するに腕でも組んでいるであろう知らない女性を目撃してしまう。
なんの決意も、なんの予測もなしに。

耳を塞いでしまいたかった。
彼と彼女の距離が10mまで近づいたとき。

耳を塞いでしまいたいぐらいに、彼女は黙り込み・・・。
彼も黙り込んだ・・・。
昨日の電話では、喧嘩をするはずだった。
なのに・・・、今は・・・。

彼女の心の破れる音がした−


フワッと風が舞い降りた。
隣に中澤さんがいた。

235 :_ :2009/12/05(土) 14:51
「わかったやろ。運命はかわらん。アンタがやつたことは無意味やったんや。」
「そんな・・・。」
「違うで。アンタ、妖精の仕事は嫌なことも請け負うことやと思ってたやろ?でも、それは違うで。」

赤い傘が、紺色の傘から離れていく。
どんどんどんどん離れて・・・角を曲がって行ってしまう・・・。

「彼女には昨日の電話の声を聞くほうが幸せなことやったんよ。妖精とおんなじように人間にだって
性格があってなぁ。彼女はあの声を聞くことによって、彼とちゃんと話をすることになる。あの要請書
には書かれてなかったけど、彼の浮気はほんとうなんよ。」
「え?」

かすれた、声が出た。

「写真を撮られたのはたまたまやった。あのキスは確かに事故やで。でも、あの彼氏の方はその後に
事故ではすまされん、列記とした浮気をしてるんよ。今日ここで、彼はそれを彼女に打ち明けた。それで
二人は終わるはずやった。彼女が冷静に話をできたから、きちんとけじめをつけることができた。

せやけど・・・。
もうあの二人、あえへんのよ。今日、ここで別れてから一生。」

「・・・・・・。」
「妖精は幸せをつくることしかせぇへん。例えそれがちっちゃなちっちゃな、一見幸せには見えんことでもな。」

言葉が、出なかった。
ただ、いつににく中澤さんがあたしに優しく話しかけていて、それはなんとなく『母親』のようだと思っていて、
涙だけが、ほっぺたを伝った・・・。
236 :_ :2009/12/05(土) 14:52


「まあた考えてるの?今日、えりかちゃんにお仕事くるんでしょ?」

梨華さんの声にハッとする。
梨華さんは、前にあたしがいた部署にはなかった役職に就いている。
ここの妖精達のメンタル面をサポートする仕事。

つまり、失敗をやらかした妖精には、それなりに『罰』を与えなくてはいけなくて、それは世の中をもっと知るため
だとか社会勉強だとか、いろいろな言葉に変えられてしまうんだけれど・・・。
『仕事がくる。』その事実がこれほどまでに心を押しつぶしたことはない。

あの後、あたしの寝泊りしている部屋に隣の部屋の千聖と舞ちゃんがやってきた。
『えりかちゃん移動だって?』
『大変・・・。』
『だってさぁ、飛ばされるの挫折部でしょ?』
千聖の言葉に気分が重くなった。

そう、あたしが飛ばされたのは『挫折部』人生に挫折した、もしくはこれからする人を相手にする仕事。
でも、妖精は人を幸せにするんでしょ?
そんな理屈は通用しない。
なんせ、ここはもしかしたら自分の就いた人間が最終的に『自殺』してしまうかもしれない場所なんだから。

大抵の人に日常のちゃんとした軌道はなくって、
それって、やけになっている人だとか、一人ぼっちの人だとか、そういう環境におかれる人たちにゆくあることらしいんだけど。
そんな中で、妖精は人生に『生きる力』を与える手伝いをする。
だけれど、軌道というか、向かっている先が常に不安定な人たちを取り扱う『挫折部』は先行きの見えない仕事を
担うことになる。
それは、いつのまでもその場しのぎの幸せになるのかもしれない粉を撒く。

そうしてそれって、もしかして妖精がやる気をなくさないために敷かれているルールなのかもしれない、と思ってしまった。
あたしは意外とネガティブな妖精なんだろうか・・・。
だって、『自殺します』とかいう最終結果がわかっている人物を助けてもあげられないのに・・・なぐさめるだけの仕事なんて、
それこそつらすぎる。
こっちの心が壊れてしまうことだってありうる。
237 :_ :2009/12/05(土) 14:52
最近気づいたのは、自分が意外にネガティブなことと、強くないってことだった。
それを石川さんに話すと彼女は、
『うんうん。いい兆候だよ。』とニコニコと笑った。
『自分を知りすぎた気になることはよくないことだけれど、ある程度自分のことを知っておくのはいろいろと後々役にたつからね。』
と。
『ただし、これだけは覚えておいてね。『ネガティブだから』とか『弱いから』なんて決め付けだけはしちゃ駄目だよ?それって妖精
のお仕事に似ていてね?幸せと見えない幸せを与えるように、なんにもできない自分と思ったって、相手にとってはあなたの
その少し嫌だなぁ、って思っている部分が強みになったりするもんなんだよ。弱さを知らなければ、他人の弱さはわかってあげられない。
強さを知らなければ、相手のほんとうの強さはわからないってね。』

半分以上、理解できなかった。
あたしは実際、かなりやさぐれていたし、もうどうでもいいとさえ思っていたりした。
どうしても、今回のことがうまくいくようには思えなかったし。
だって、この部署にいるのって大抵が二十歳を過ぎている大人ばっかりで・・・。
まだ子供のあたしには、荷が重過ぎる気がしたのだ。

『荷が重過ぎる。』
そう石川さんに零したとき、こんなことも言われた。

『えりかちゃんがさ、重すぎるという荷物は、あたしにとってはそれより何十倍も重い荷物になるかもしれないんだよ?』
今度はさっぱり意味がわからなかった。
『つまり、時と場合と相手によって、あたし達は何色にでもなれるの。はい。』
そう言って、石川さんがくれたのは飴玉だった。虹色の飴玉。
それはやっぱり幸せな味がして、あたしはとりあえずその飴玉のためにお仕事をがんばろう、って決めたんだ。
238 :_ :2009/12/05(土) 14:52


あたしに与えられた仕事は、なんとなく納得のいくものだった。
相手が、14歳の女の子だったから。
もしかしたら、これが石川さんの言っていた強みに繋がるように誰かが用意してくれたのだとしたら?
でも・・・。
内容を読んであたしは愕然とする。

『矢島舞美』
あたしの担当するその子は、陸上をやっている。
中学生の部門で、県の記録を持っているような本当に走る能力に恵まれている子だ。
その子が、不運にも靭帯を断裂してしまう。
それ自体はスポーツ選手などにもよくあることらしいのだけれど、彼女の場合は少し特殊なことが起こってしまい、
今までみたいに走ることができなくなってしまうらしい。
そこまでは、決められた、既に定められている運命。変えることはできない。
あたしに与えられた仕事は、その後の彼女のケアだ。
陸上だけが人生の全て、と言い切ってしまうような少女の人生に『生きる希望』を見出すキッカケを与える。

書類に今度こそはしっかりと目を通したあたしは、読むんじゃなかった、という気分になる。
もうすぐあたしはこの子の元に向かう。
初日は石川さんがついてきてくれるらしい。

「はい。これ。大事にしまっておいて。」

ぐっと力を入れた声が聞こえてきて、テーブルにドンッと振動。
石川さんだった。石川さんが・・・大きな壷に詰められた大量の妖精の粉を持ってきた。
あたしはうろたえる。

「いや、いくらなんでもこの量・・・使うわけじゃないですよね?」

今までのお仕事なら、一人につき片手で足りる程度の粉しか貰ったことがなかった。
239 :_ :2009/12/05(土) 14:53
「はい。これ。大事にしまっておいて。」

ぐっと力を入れた声が聞こえてきて、テーブルにドンッと振動。
石川さんだった。石川さんが・・・大きな壷に詰められた大量の妖精の粉を持ってきた。
あたしはうろたえる。

「いや、いくらなんでもこの量・・・使うわけじゃないですよね?」

今までのお仕事なら、一人につき片手で足りる程度の粉しか貰ったことがなかった。

「ほら、今回から無期限でしょう?」

そうなのだ。気分が重くなる理由はもう一つあって。
このお仕事には期限がついていない。
あいまいなターゲットの彼女が『生きる力を見出すまで』なんて期限じゃあ、いつまでかなんてわかりっこない。

とりあえず、もてない事はない粉を部屋に持っていく。
今日はまだ使うべきときではないので、持っては行かない。
今回の仕事が、今までと違うところは期限がないというだけでなく、仕事をする予定もないのに相手を見学しに
行く期間が十分に与えられるところだった。
このルールの理由として、一つに『相手を知ること』といわれている。
つまり、全てが・・・何から何まで今までの仕事とは違ってやっかいなのだ。
全てはあたしの手腕にかかっているといわれているようで・・・。

そりゃ、自分を見つめなおしてもしまいますよ・・・。
240 :_ :2009/12/05(土) 14:53


時間がきて、あたしは両頬をペチッと叩いた。
隣で石川さんはクスッと笑って、『そんなに緊張しなくっても大丈夫よ。まだ何も起こらないから。』とにっこりと
笑顔を見せた。

あたしは、半ば興奮さえしていたかもしれない。
わけもわからずテンションがあがっていた。
そんなとき、隣の石川さんが「いくよ?」と声をかける。
あたしはうなずく。

目をつぶった。
妖精の国では感じることのない太陽の光を瞼の裏に感じた途端に、胸に鉛が落ちた。
はじまってしまった。
そうゴングを打たれた気がした。

「おーおー、いるいる。」

石川さんの声がして、あたしはゆっくりと目を開けた。
瞬間、まぶしく感じた太陽の降り注ぐグラウンドに目がなれた頃、一人の少女が目に止まった。

ポニーテールにした髪の毛が頭の後ろでぴょんぴょんと跳ねる。
足は確実に地面を蹴り、それでも・・・少しも重力を感じさせない。
彼女は、速い。
素人目のあたしにもくっきりはっきりとそうわかる走りだった。
少し焼けた肌、太ももの筋肉は力強く浮き出て沈む。
額には汗がひかり、前髪は流れ・・・彼女は、そう、とても・・・

「綺麗でしょ?」

隣の石川さんがそう言って、心がドキッと跳ねて、急に我に返る。
もう一周を走り終えるほど、彼女を見つめ続けていた。
241 :_ :2009/12/05(土) 14:54
「私もハッとしたの。一週間前に彼女が走ってるとこ、見て。」
「彼女が・・・?」
「そう。矢島舞美ちゃん。」

沈む、鉛。
未来を知っていることは、太陽よりも輝いて見えるあの少女の未来を知っていることは、
あまりにも、あまりにも残酷だった。

「石川さん・・・。」
「あ、それじゃ、私はこの辺で。」

石川さんは急にあたふたして、それからシュッといなくなってしまった。
『あたし、やっぱりできません。』
急にそう言いたくなった。
聞いて貰えなかった・・・。

あたしは、暖かいアスファルトに腰を置く。
膝を抱える。

彼女は走る。
まるで、そうするためだけにこの世に生まれてきたような佇まいで・・・。
涙腺がふっ、と緩んだ。

こんなにも、綺麗なものがあるんだな。

そんな風に思っていた。


242 :_ :2009/12/05(土) 14:54


「どう?舞美ちゃんのこと、少しはわかってきた?」

あたしが戻ると、石川さんが声をかけてきた。

「はい。少しは。」

彼女は、陸上がほんとに大好きだということ。
最初のうちはそれしかわからなかった。
それでも、だんだんにわかってきたこと。
彼女はいつも一人でいること。
県の記録を持っていることはあんなにも人間通しに溝を作ってしまうものなのだろうか・・・?
何か彼女が好きなものを探そうかとがんばったけれど、
ほんとうに陸上だけのようで・・・。
あとわかったのは、彼女が真面目な生徒だということだけだった。
家にいるときと、授業を受けているとき意外は、大抵走っている。
彼女には、それが一番心地の良いことなんだろう。

「ふぅ〜ん。なかなかいい観察眼をお持ちのようで。」

石川さんは背中をポンッと叩いてうれしそうにそう言うと、ハナウタを歌いながらどこかへ行ってしまう。
その言葉は、ただのはげましとかしか思えなかった。

あんなに陸上全ての人が・・・それを失ったとき、どうなってしまうのか・・・。
考えるのが怖かった。

243 :_ :2009/12/05(土) 14:54


そして、その日はあたしが拒むほどはやく近づき、そしてとうとう県大会当日がやってきた。
この日、彼女は小雨に濡れたコンディションの悪い競技場を走る。
その途中、何かアクシデントが起こる。
それはからまりにからまって、悲惨な結果を生む・・・。


あたしは、この数日の間で心に決まってきたことがあるのに気づいている。
あたしが、彼女を見ていなくなって、彼女の運命は着実に進行していくこと。
抗いようのないその事実に、少しでも希望を与えてあげられるのは自分だけかもしれないと言う事。
だから、あたしは決して、彼女から目を逸らさないでいよう、と。
そう心に・・・たった今、心に決めた。


彼女はウォームアップをし、淀みなくコースに並ぶ。
いつもの凛とした姿がそこにはあって、彼女は手首と足首をクルクルと回した。
スタートの姿勢をとり、そして−パン−という乾いた音。
場内はより一層歓声を増す。
その一瞬はすぐにやってきた。
考えればわかるようなものだった。
彼女は、後半に強い選手で・・・。
1200mを走りぬく間に、まず、転んでしまう。
最初のカーブだった。
あたしは、息を呑んだ。
聞こえるはずのない地面と彼女のぶつかる音。
そして・・・彼女の足を紫のユニフォームを着けた選手が踏んづけて転ぶ・・・。
立ち上がりかけていた彼女の足は、変な風にねじれ・・・。


気がつくと、あたしは立ち上がっていて。
神様にお祈りでもするように両手を組んでいた。
手の甲に爪の後が残るほど、強く・・・。

舞美は、下唇をかみ締め、なんだかわけのわからないブザーが鳴り響き、
担架が運ばれてくる。
舞美はそれに載せられ、競技場の外に連れられる。
稲葉コーチが心配そうに駆け寄ると、あたしの視界から舞美たちは消えてしまった。

動くことができなかった。
放心していた。
気がついたとき、周りはもう帰ろうとする人々であふれかえっていて。
あたしは、急いで彼女の運ばれた病院に向かった。
急にテレポートした所為か、病院の中に入るなりグラリ−と強いめまいがした。

244 :_ :2009/12/05(土) 14:55

「先生・・・!あの子は・・・?」

舞美の母親の声が聞こえた。
靭帯断裂。
再起に時間がかかり・・・。
間違いなく彼女のタイムは落ちてしまう。
その上の、踝の骨折・・・。
もう、陸上に戻れるはずもなかった・・・。

245 :_ :2009/12/05(土) 14:55

********

246 :_ :2009/12/05(土) 14:56
彼女が入院してから、五日。
驚くべき展開。
彼女は今日まで一度も泣いていない。
付きっ切りで見ていたあたしが言うんだから間違いない。
まあ、プライベートな体を拭いている瞬間やトイレに行っている瞬間はさすがに見てはいないのだけれど・・・。

かわいい巾着に詰めた粉も使用できず。
あたしは、彼女に何かをしてあげたいのに。

お母さんが面会に来るたびに、笑顔を見せる彼女。
足を踏んづけた子が、謝りにきたときに笑った彼女。
一人になって、その顔が表情を無くすたびにあたしの胸は痛んで、あたしの目からはしずくが落ちた。

何も、何もできないの?



ほんとうにあたしは何もできなかった。
声をかけることさえも。
彼女の望みをかなえることも。
何もできない。



彼女は、少しずつベッドから起きられるようになった。
彼女は、少しずつ歩けるようになった。
未だ、泣く彼女はいなかった。

聞いてみたかった。
どうしたら、そうしていられるの?
なんで、泣かないの?
なんで、投げないの?

奇妙にさえ思えるほど。
本当は、悲しくないんじゃないの?

あたしは、そんなことまで考えるようになっていた。
247 :_ :2009/12/05(土) 14:57

ある日、あたしは病室の窓の外で妖精の粉を一握り撒いた。
半ば、やけだ。

いつか誰かに聞いたことがある。
目的がないと、粉は作用しないと。
その粉は作用するはずもなかった。

のだが・・・。

いつものように粉は空気中の水分を集めるように粒子が結晶になり、そしてまた溶ける。

「あ・・・。」

舞美の声だった。
心臓がドキリと跳ねた。
そう言えば、ここんところ声もあまり聞いていないような気がした。
いや、違う。
さっきみたいな素の声を、聞いていなかった。

彼女の視線を追いかけると、そこにはペットボトルのふた。
それがくるくると回転しながら部屋を出て行く。
うまいこと転がるものだ。
あたしがスッと彼女のあとを追いかけていくと、隣の病室にそのフタは吸い込まれていった。

その瞬間、見てはいけないものを見たような気がした。
気がした、という表現になったのは、あたしの体が急に生々しく重力を感じはじめたからだ。
人間の匂いが・・・鼻をつく・・・。

側で足音がした。
松葉杖の突かれる音。
舞美・・・?

グルッと身体が一回転したようだった。
グルグルと頭が回る。
迫る大型のトラック−避ける拍子に見た花壇−後頭部に受けた衝撃−そして−さっき病室の外で
見た名札

『梅田えりか』

それは、あたしの名前だった。

ピッピッピッ−
状況をどこかで掴みはじめたとき、正確な電子音が聞こえてきた。
舞美は・・・?

あたしは、彼女を見てなくちゃいけないのに。
目が痛い・・・。
瞼が、重い・・・。
248 :_ :2009/12/05(土) 14:57

舞美・・・?

口に出そうとするけど、口が動かない。
体中の感覚が麻痺している。
脳みそがグラグラとブレる・・・。

トン−

とお腹に衝撃を感じた。

「ねぇ、」

舞美の声だった。

「あなた、半年も眠ったままって本当?」

そう、あたしは半年以上も眠ったまんまだ。

「あたしもね、眠ってるんだ。」

お腹に乗っているのが舞美の額だとわき腹に触れた鼻のような感覚でわかる。

「もう2ヶ月・・・眠ってるの。」

なんとなく、なんとなくだけど、彼女の言う意味がわかる。
あたしは、あせっていた。

はやく、はやぐ瞼を開かないと・・・。

はやく−
249 :_ :2009/12/05(土) 14:58

そう思った瞬間、薄く瞼が持ち上がった。
半分カーテンの閉められた真っ白い部屋は、それでもあたしの目には限りなくまぶしく・・・。

「ま・・・ぃ・・・み・・・。」

随分と、弱い声だった。
ひどく掠れていた。
あたしは、彼女を呼んだ。

彼女は驚いたようにあたしを見た。

「起き・・・たよ・・・・・・。」

その瞬間だった。
舞美が表情をゆがめたのは・・・。
その瞳がジワッと滲み、涙が溢れ、次第に子供のように泣きじゃくる。
その泣き声で、看護士が駆けつけ、あたしの親に連絡がいった。

舞美とあたしは引き離され、あたしの母親は涙を浮かべながらあたしのほっぺたをいとおしそうに撫ぜてくれた。
全てを思い出していたあたしは、涙を止められずに、いた。

理由のわからない昏睡状態。
それは医師には説明のつかないことで。
でも、あたしには立派な理由があった。

大好きな、友達が自殺したのだった。
助けてあげることができずに・・・。
あたしは、ただただ無力で・・・。
生き延びるために、眠るしかないとあたしの身体は悟り・・・。

それでも、まだ生き延びていたかった。
あの事故は、妖精がくれたチャンスだったのだろうか・・・。
あたしを、こんな風に導くための・・・。
250 :_ :2009/12/05(土) 14:58

あたしの涙がかれた頃、舞美が部屋の側に立っていた。

「入りなよ。」

少し弱弱しいけれど、あたしの声は素直に出てくれるようになっていた。
舞美は泣きはらした顔でコクン−とうなずいた。

「さっき、なんでここにいたの?」

知らない振りをしなきゃいけないことに、気づいていた。

「フタが、転がって・・・。あなたの姿見てたら・・・なんか、なんかきてさ・・・。」
「ちゃんと、起きたの?」

返事がこないことはわかっていたような気がした。

「あたしは、あなたがきてくれたから、起きたよ。」

ただ、それを伝えなきゃいけないような気がした。
それが妖精がくれたチャンスなのだと思った。

「・・・あたしも起きた。」

舞美はあたしの肩の辺りをべんやりと見て、言った。

「うん。きっと。またくじけちゃうけど、起きた。」
「そっか。うれしい。」

なんだか、とてもうれしかった。
舞美がそこにいること。
目が、合うこと。
言葉が届くこと。
言葉が返ってくること。

「友達になってよ。」
「はは・・・。」

舞美は、気が抜けたような笑い声を零した。

「うれしい。友達、久しぶりだな。」
「そ?」

あたしの言葉に舞美はうなずいて。
柔らかないい匂いがした。
これはきっと、生きている匂いだと思った。

251 :_ :2009/12/05(土) 14:59

*******

252 :_ :2009/12/05(土) 14:59
「まだ走っちゃ駄目だって。」

車椅子に座って、あたしはそう声を荒げた。

「平気平気、つっ・・・・・・いったあ!」

舞美がぴょんぴょんと片足で飛び跳ねる姿にあたしはぷっと吹き出した。

舞美は、もう陸上に未練はないと言う。
だんだんと走ることが窮屈になっていたということを教えてくれた。
記録を出さなきゃいけないこと。
それが嫌だと愚痴った途端に周りに人が寄り付かなくなったこと。
そんな全てが嫌でたまらなかったこと。
自分は檻に閉じ込められていて、一生抜け出せずにいるような気がしてたこと。
それでも、走っていれば幸せになれたこと。
一筋縄にはいかないしがらみって、どこにでもあるんだ。

あたしが目覚めたとき、奇跡は起きると思ったこと。

あの日から、少しずつリハビリなんかをして身体は動くようになってきたけど、
だいぶつかってなかった筋肉が戻るのには、少し時間がかかりそうだ。

舞美が奇跡というのなら、あたしの目覚めは奇跡だったのかもしれない。
目の前で「いったいよぉ。」と甘えた声で言う少女はあたしにそう思わすには十分なパワーを持っている。
『えりかちゃんさあ、だって最初あたしの名前読んだんだよ?ほんとに覚えてないの?聞き間違いじゃないって!』
彼女にはそう言われるのだけれど、あたしは半年以上も眠っていて、あの日はじめて彼女と出会ったのだから、
名前なんて知っているはずもなくって。

それでも、二人の出会いが奇跡だと言うのなら、信じることにする。
そして、信じることはなんだか明るい未来を連れてきてくれるような気がするんだ。

「ぜぇーったいさぁ、えりも一緒に走ろうね。海とかマジ気持ちぃから。」
「運動は苦手だよ。」
「えー?」
「うそうそ。舞美となら走ってもいいよ。」
「へへ、やったぁ。」
253 :_ :2009/12/05(土) 15:00


『えりかちゃんほんとにうちらのこと忘れてるよぉ!』
『しょうがないじゃん。そういう決まりなんだし。』
『っていうかあの二人ってなんか友達以上っていう気ぃしない?ウチらみたいにぃ?』
『あー、舞も思ってたっ!なんか怪しいよねぇ。あ、手なんか繋いだし。』
『ちゅうしたりして、ちゅう。いけ!そこだっ!』
『まだはやいよ。千聖じゃないんだから・・・。』
『何それぇー。』

それはどこか遠い遠い世界の妖精達のおしゃべり。
254 :_ :2009/12/05(土) 15:01

   生きるという力。-FIN-
255 :セツナ :2009/12/05(土) 15:04
読んでて気づかれたことと思いますが、かなり前の話しですw
レスありがとうございます。

>>221 名無飼育さん
やじうめです。
まだ需要あるのかなw

>>222 名無し飼育さん
今回はどうかわかりませんが。
ありがとうございます。

256 :名無飼育さん :2009/12/05(土) 23:40
おぉ来てた
密かに待ってたよ
257 :名無飼育さん :2009/12/07(月) 02:45
泣かせるねぃ
258 :名無飼育さん :2009/12/07(月) 21:41
初めて読みました
どれも面白いです
259 :セツナ :2009/12/07(月) 23:09
あまあま系いきますだ。
レスありがとうございます。つくかヒヤヒヤしてたので、嬉しかったです。

>>256 名無飼育さん
ありがとうございます。
嬉しいです。です。


>>257 名無飼育さん
こういう話しはどうかなと思ったのですが、ありがとうございます。

>>258 名無飼育さん
初レスとは嬉しいです。
お目にかなってよかった。

260 :_ :2009/12/07(月) 23:13

 大きなバスタブでもてなして。
261 :_ :2009/12/07(月) 23:14
チャポン-

腕を動かすと心地いい音が響く。
向かいの彼女は、タオルで遊んでて目が合うとふにゃ、と笑った。
ああ・・・のぼせそう・・・。

「あのさぁ、なんでうちだけお風呂みんなで入るの禁止なのさぁ。」
「ん?」
「いや、聞こうよ。人の話ぃ。」

あたしは思わず笑う。
タオルでブクブクゥー、って子供ですかアンタは。

「みんなでお風呂っ!うちも入ったってよくない?」
「駄目ぇ。」

余裕の笑顔浮かべちゃってさぁ。
まあ、承諾したのはあたしの方なんだけど・・・。
ほんとに言いたいのはこんなことじゃなくて・・・。

「えりはあたしのものだから。」

へへ、って。
・・・甘やかし過ぎましたよねぇ・・・。
っていうかウチMなのかなぁ?
独占欲が強い彼女に従うの、好き・・・。

262 :_ :2009/12/07(月) 23:14
「じゃあ、舞美もみんなと一緒に入らないでよ。」

そう、そこなのよ。問題は。

「えー、なんで?」

ニコニコ笑いやがってぇ。
ひょっとして、待ってやがったなぁ?

「妬く・・・から。」

あたしがお湯に口がつかりそうなぐらい浸かって言うとえりぃー!って舞美がくっついてきた。
あの、なんか、あたってるし。
ほんとは、あたし恥ずかしいし。
でも、一緒に入るよね?って笑顔で言われたら断れないって言うか・・・。
ぶっちゃけ、見たい、し・・・。

なのに、お湯は乳白色とか・・・。

「あんまくっつくなぁあ。」
「あはっ!照れてるっ!かぁわいっ!とか言ってぇ。」

もう、なにこの人。
面白いんですけどぉー。

「まいみは恥ずかしくないわけぇ?」
「恥ずかしいけど。」
「え!?見えない。見えないって。」

思わず顔をのけぞって彼女を見る。

「でも、ほら、なんかさ、えりとだけ入れないってのも寂しいじゃん?」
「んー?」
「みんなとしてること、えりとしてないとかってありえないじゃん。思わない?」
「んー、まぁ・・・。」
「なんかそんなこと言われると恥ずかしくなってきたじゃんっ。」
「いや、知らないよ。」

離れる舞美に恥ずかしさがちょっと薄れる。
263 :_ :2009/12/07(月) 23:15
「体洗ってあげよっか?」
「いやいやいやいや。結構ですしっ!」

無理だしっ!

「あっそ。じゃ、あーらおっと。」

ザパンッ!
って・・・。
あら、いろいろ・・・見えちゃって・・・。
やばい、鼻血出そうっていうか・・・。

湯気にやられた・・・。
入るときは一生懸命見ないようにしてたのにぃ・・・。
見ちゃったよ、見ちゃったよ・・・。

「体、洗ってあげよっか?」

触れたく・・・なった・・・。

「ほんとにぃ?」

そんな、嬉しそうとか・・・。
あたしはお湯からあがる。
彼女の目を避けるように。

「はい。」

あわ立てたタオル渡される。
肩を掴んで背中をこする。
綺麗な、白い肌が、ピンクに染まってる・・・。
264 :_ :2009/12/07(月) 23:16
「まいみ、」
「ん?」

いや、こっちはあんまり向かないで?

「やっぱ、出るわ。」
「なんで!?」

彼女が振り向く前にタオルを手に渡して、お風呂場を後にした。

「あら、えりかちゃん出てきたの?」

服を着て、外に出ると舞美のママがいて、焦る。
でも、顔はゆだってて当たり前なので、大丈夫ということに気付く。

「飲んで。」
「あ、ありがとうございます。」

冷蔵庫あさってると思ったら、ジュースついでくれた。
それから、テレビの方へ歩いていったので、あたしは舞美の部屋に戻る。

少しだけしめってた髪の毛をふいて、ふぅ、と息をつく。

それもあったのよ。
舞美はパパとママいるところで、二人でお風呂ってどうなの?って思うところも。
でも、舞美にあたし、弱いから・・・。

ゴクゴクゴク、とつめたいジュースを飲み干すと少し心が落ち着いた。

265 :_ :2009/12/07(月) 23:18
カチャ-
と扉が開いて、ビクッと体が揺れるのがわかった。
なんか小動物になった気分だな。

「あー、えり、ここにいたぁ。」

のほほぉーんとした舞美ちゃんが帰ってくるだけなのになぁ。
タオルで髪の毛拭きながら。

「他にどこにいるのぉ?」

平気なふり平気なふり。

「なんで急にでてくのぉ?気持ちよかったのにぃ。」
「舞美はわかってないよね。」
「何が?」

ペットボトルの水のみながら、こっちを向く。

「いや、なんでもない・・・。」

欲情してたなんて言えない・・・。

「ママがあんた達ケンカでもしたのぉ?って言ってた。」

あはっ!って。
ほんと、間、抜けるよね、舞美って。
かわいいんだよ、バカァ。

あたしは、舞美をヘッドロック気味に抱きしめてやった。
舞美は「なにぃ?」って笑う。
266 :_ :2009/12/07(月) 23:22
「ううん。髪の毛、かわかしだける。」
「わぁーい。なに?なんか優しいじゃん。」
「舞美乾かしてるとき、いつもえりぃ面倒くさいえりぃ面倒くさいってうるさいじゃんっ!」
「そぉだけどぉ。」

えへへ、って。
あたしは、彼女の髪の毛をブロウする。
嬉しそうに目瞑って膝抱えてる彼女はかわいい。

「声、出しちゃ駄目だよ?」

カチャ-
と鍵をかけて、耳元で言った。

髪の毛も乾いたし、夜はあたしが強いんだっ!
って、何ものなんだよ・・。
舞美をベッドに横たえながら、自分がなんなのか、まったくわからなくなった。

もう、彼女のものなのかも・・・ね。
267 :_ :2009/12/07(月) 23:24

 大きなバスタブでもてなして。-FIN-
268 :名無し飼育さん :2009/12/08(火) 22:52
思ってたんですけどここのやじうめってふわふわしてるっていうかゆるかわですよね
他にはない感じで良いです
269 :名無飼育さん :2009/12/09(水) 21:30
これはよいやじうめ
270 :名無飼育さん :2009/12/11(金) 19:12
初めまして
1から読ませていただきました
作品全体の雰囲気がとても好きです
生きるという力。も考えさせてくれる良い作品でした!

P.S.初めのタイトルミスに笑いましたw
271 :名無飼育さん :2009/12/12(土) 00:52
私も最初から全部読ませて頂きました
やじうめの雰囲気がどの作品も大好きです
ちさ愛理という組み合わせも初めて読みましたがよかったです

同じく最初のタイトルミスは吹き出してしまいましたw
272 :_ :2009/12/15(火) 02:14

   こすぷれ。
273 :_ :2009/12/15(火) 02:14
「ただいまぁ〜。」
「あ、帰ってきたっ!」

冷蔵庫になんにもなかったもんだから、あたしが買い物に出た。
ダッシュで徒歩五分のコンビニまで行き、帰る。

舞美の待っている自室のドアを開けて、舞美の声が聞こえて、コンビニの袋の中身を取り出そうと
していたあたしは、つい、紅茶の500mlパックを床に落とした。

「な、な、な、」
「お帰りなさいませ、ご主人様っ♪なんつって。」
「何!?そのメイド服っ!」

あたしは、あまりの事態に舞美の言葉をほとんど聞き逃した。
彼女は、何故か、メイド服を着てる。

「似合う?似合う?」

スカート広げて見せたりして。
あたしは、上から下まで彼女を見て、それから急速に早くなった心臓につられるように真っ赤に
なりそうな顔を手でできるだけ隠した。
274 :_ :2009/12/15(火) 02:15
「ねぇ、似合う?って。」

舞美はちょっと拗ねた声を出す。
あたしは、「に、似合うよ。」といった。
どもったのは、喉がぎゅるって変な音をたてたから・・・。

「栞菜に貰ったの、これ。」
「は?」

目のやり場に困りながらとりあえずテーブルに落とした紅茶とコンビニの袋を持っていく。
いやいや、ちょっと待ってよ。

「栞菜が?」
「そぉ。お家帰ってから開けてね?絶対あけちゃ駄目だからねっ!って言われてさぁ、かえって開けたら
メイド服が入ってたのぉ。で、一人で着るのもなんかはずかしかったから、えりの前で着ようと思って。」

あたしは、最後の言葉に思わず噴出す。

「いや、普通人の前で着る方が恥ずかしくない?」
「だってさぁー、寒くない?一人で着て自分で見てるだけとかぁー。」

まあ、確かにそうなんだけど・・・。
チラッ、と彼女を見る。
頭にボンネットまでかぶっちゃって・・・。

「意外と似合うね。」
「そぉ?えりの部屋大きな鏡ないからさぁー。」

彼女は自分の服を引っ張りながら見る。

「舞美、さっきのあれ、もっかいやって?」
「さっきの?」
「お帰りなさいませ〜♪ってやつ。」

できるだけ普通にお願いする。
舞美は落ち着きがもともとないので、こちらの微妙な変化には気づかないことが多い。

「え、お帰りなさいませっ、ご主人様っ♪・・・ふふふ。」

舞美は手を組んで首を傾げてあたしの要望にこたえて、それから急に恥ずかしそうにうつむいてそれから
また顔を上げた。
あたし、絶対もうほかの誰にも見せられないぐらいニヤけてると思うし。
舞美、真っ赤だし。

「栞菜・・・、またなんでこんなものを・・・。」

ニヤニヤしながら見詰め合ったままなのもなんなので、あきれた振りをして視線をそらす。
275 :_ :2009/12/15(火) 02:16
「あっ、あっ、そうだ。えりに手紙あったよ。」
「は?」
「これ。糊付けされてるから見れなくてぇ。もう一通手紙入ってて、それはあたしへだったんだけど、」

舞美が説明しながら手紙を鞄から出して渡してくれる。
『えりかちゃんへ。』と封筒に書かれている手紙。

「それには舞美ちゃん、えりかちゃんへの手紙は本人に渡してください。のりづけはがされてたかどうか
本人に確認するから絶対あけちゃ駄目だよ!?開けてたら一生口利かないからっ!って書いててっ!
ひっどくなぁ〜い?あたしへの誕生日プレゼントだよ!?」

あたしは舞美の話を聞いてはいるけど、目の前の栞菜の文字にボッと赤面する。
『犯人はほんとに千聖なんだけど、えりかちゃんに誕生日に貰った服汚しちゃったおわびねっ!
舞美ちゃんに通販でメイド服を買ったので、舞美ちゃんに着せてあげてくださいよ。えりかちゃんの褒め殺し攻撃で。』
いやいや、自分で着てましたけど?栞菜もまだまだ舞美を見切ってないなっ!
『お楽しみがすんだら、栞菜にも舞美ちゃんのメイド姿写メってね〜♪(ハートマーク)』

「ん?なんて?」

舞美が手紙を覗こうとするので、バッと体を引く。
お楽しみってなんだよ、お楽しみって・・・。
栞菜め・・・あの年で結構変態だな?ちくしょう・・・。
若いって怖いわ・・・。

「栞菜が舞美の写メ欲しいってっ!」
「えー?この格好ででしょ?」

舞美はあからさまに嫌な顔をする。

「ご主人の言うこと聞きなさい。」

あたしがケータイを構えて少し厳しい口調でそう言うと、不服げに唇を尖らせた舞美は「撮るよ。」って声と
ほぼ同時ににこっと笑ってピースサインをした。
あたしは、彼女の単純さに少し笑う。
276 :_ :2009/12/15(火) 02:17
「えー、メイドってこんなぁ?もっとぶりっこしてよ。」
「えー、やだよっ!恥ずかしいじゃんっ!」

あたしは、ニヤニヤを抑えきれない。

「ほらほら。ぶりっこ。絶対ぶりっこ。しないと舞美のこと嫌いになるよ?」
「えー?んー、わかったよぉ。えー?こんな感じ?」

両手を組んで上目遣い・・・。
ちょっと、普段のキャラと違いすぎてうけるかも。
あたしがくすっ、と笑ってしまって結局彼女もいつもの笑顔に戻ってしまって・・・。
でも、ほらもう一回っ!って言うとすぐにさっきの顔になって、あたしはパシャリとそれを写メに収めた。

「今の、送るの?」

舞美が隣に寄ってくる。

「ううん。おくんない。」
「へ?」
「チラ見ぐらいならさせてあげてもいいけど。」

あたしは、舞美に擦り寄る。
ムードを察した彼女は、その何秒かで真っ赤になる。
ああ・・・、栞菜にだけはやっぱりあげてもいいかな、あの写真・・・。
あたし、マニアックな趣味は特にないけど、今日は少しだけメイドさんのコスプレしてる人が好きな人々の気持ちがわかるかもしんないわ。
超絶に、燃える。
いや、違うな、
考えながらキス待ち体勢の舞美が眺めていたあたしに痺れを切らして繋いだ手を引っ張るので、唇を重ねる。
ん〜・・・、なんだかすごく新鮮でドキドキしてキュンとする。

唇を離して、あたしは言う。
277 :_ :2009/12/15(火) 02:17
「萌え〜〜だよねっ!」
「なにそれっ!」

くしゃっ、て顔して笑う舞美に再度口付けた。
月に一度ぐらいはこの格好して貰うのも悪くないかな・・・。
278 :_ :2009/12/15(火) 02:20

   こすぷれ。-FIN-
279 :セツナ :2009/12/15(火) 02:32
これも少し前の話です。
ちょっと最近、スランプ気味なのです。
次の更新は、わからない状態です。
と報告がしたいがために掘り起こしましたw

>>268 名無し飼育さん
最高の褒め言葉、ありがとうございます。>>269 名無飼育さん
あざーす!
>>270 名無飼育さんはじめましてです。
生きるという力。の感想うれしいです。
タイトルミスは今自分見ても笑えます、ハイw
>>271 名無飼育さん
はじめまして。
ちさ愛理も気に入っていただけたようで、すごくうれしいです。
笑っていただけたら、間違いも本望ですw
280 :セツナ :2009/12/15(火) 02:33
改行間違えすみません。

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