■掲示板に戻る■ 全部 1- 101- 201- 最新50

コンラブ☆クエスト

1 :弦崎あるい :2007/02/04(日) 17:15
前にちょこちょこスレを立ててました、弦崎あるいです
出てくるのは亀垣+れいなでCP色全開の話になります
それ以外のメンバーは出てくる予定はありません
イメージとしては少コミ系の恋愛物を目指してるので、暇潰しに
軽く読んでくれると嬉しいです


ただ更新はかなり遅いと思うので期待しないでください

172 :2LD :2009/12/04(金) 17:25
中学三年生になり新しいクラスになったけれど私には全く不安がなかった。
明るく元気で話好きで人懐っこい、おまけに芸能界に関わっているせいか一年の頃から
いつもクラスの中では中心的存在だった。
ちなみに芸能界と言ってもティーン雑誌のモデルをたまにしたり、子ども向けの番組に
出演しているというだけだった。
それでも皆が私のことを見てくれて輪の中心には当然のように自分がいる。
それは三年になっても変わらず、新しいクラスの子達も興味と感心で私に群がってくると
確信していた。
あの子が転校してくるまでは。




確か五月ぐらいだったと思う、中三で転校生というのも珍しさも相俟ってその日はその話題で
持ちきりだった。
そしてチャイムが鳴ると同時に担任連れられたキャメル色のブレザー姿の女の子が
教室に入ってきた。
想像していたより可愛いけど抜群の美少女ってわけじゃない、正直顔立ちだけなら余裕で
自分のほうが上だという自信はある。
第一印象は男子とかとも普通に遊んでいそうな感じのする子だった。



「滋賀県から来ました光井愛佳です、みっつぃーって呼んでくれると嬉しいです!
分からない事だらけなのでみなさんよろしゅうお願いします」
関西系の人という感じの明るくノリが良い挨拶は、その活発そうな見た目と相まって全く
違和感がなかった。
それに人当たりの良さそうな笑みも加わって、話しやすそうな印象を私に限らずクラスの
みんなに与えたと思う。
その笑みを見たときから何だか嫌な予感がしていた。
この子に私のいる場所が奪われる、そんな何の確証もない思いが私の胸を掠めた。




「それじゃ・・・・・とりあえず光井は空いている久住のところに行ってくれ。」
そして何の嫌がらせか知らないけれど担任は私の横の空席を指差して言った。
内心は勘弁してよと思いながらもそんなことは微塵も見せず、私は勢いよく立ち上がると
明るく弾んだ声で手を振りながら言った。
「みっつぃー、ここ!ここ!」
すると教室が一瞬にして笑い声に包まれる、転校生は最初驚いた顔をしていたけれど
すぐに嬉しそうに笑った。



手を振りながら愛想よく転校生は机の間を歩いてくると私の横に座った。
「よろしゅうお願いします・・・・えっと・・。」
手を差し出して挨拶したものの自己紹介もしていないので、当然私の名前が分からず
転校生は眉を顰めて困っていた。
「小春だよ。久住小春!よろしくね、みっつぃー!」
と一瞬偽名でも使おうかと思ったけどすぐにバレることなので、本名を教えてあげると
私達は握手しながら笑い合った。

173 :2LD :2009/12/04(金) 17:26
光井愛佳は私が思ったよりもずっと早くクラスに馴染んでいった。
でも彼女は自分から積極的にクラスの子達と関わりを持とうとしていたので、ある程度は
予想の範疇だった。
ただ私が予想していたより時間がかからなかったことに少し驚いていた。
多分元から話し好きなのか光井愛佳はこちら側が話し掛ける前に、自分のほうから
近くにいる人を捕まえては話し相手にしていた。
それにその裏表が無く人懐っこい性格から男女問わず彼女は好かれていた。
無論私も普通に好かれている、相変わらずクラスの中心にいて話題を作るのも話すのも
大体自分だった。
ただ最近まだ少ないけど光井愛佳も話題を作ってクラスの皆と話したりしている。
私はそれが気に食わなかった。
顔なんてこっちの方が圧倒的に可愛いし愛嬌だってある、背なんて10cmくらい高いし、
スタイルだって私のほうが良い。
運動神経は互いに大して変わらない感じで、勉強に関してはちょっと勝てそうになかった。
でも私は何にしても光井愛佳に負けたくなかった。
負ける気は全くないけど気を抜いたら抜かれてしまいそうで、彼女の何が私にここまでの
危機感を煽らせるのかは分からない。
それでも勝たなきゃという思いだけが強くて、私は光井愛佳と日々張り合っていた。



174 :2LD :2009/12/04(金) 17:27
「あー、みっつぃーの飲んでるのおいしそう!」
「この梅ソーダのこと?学校行く途中の自販機でたまたま見つけたんよ」
例えばとある日の昼食中に光井愛佳の持っているジュースがおいしそうと言われれば、
私はすぐさま次の日に一?のペットボトルを持ってきた。


登校中に重くてかなり邪魔だったけど、それを光井愛佳の机に勢い良く置くとクラスの誰もが
私に注目し期待の眼差しを向ける。
「小春のすこいでしょ!これだよ、これ」
と鼻を鳴らして自慢気に言うと一?用のペットボトルを光井愛佳に突きつける。


「こ、これは!!最高級紀州産の南高梅を使用し、さらに日本名水100選にも選ばれた
神の水とも言われている天の川を使い、風味を壊さないよう微炭酸で仕上げられたという
幻の梅ソーダ!定価1800円はするあの『天下梅』じゃないですか!!」
光井愛佳はしばらく声が出なかったようだけど、しばらくしてから恐る恐るといった手つきで
ペットボトルに触れると驚嘆の声を上げた。


「そう、これ超限定品なんだからね」
「もう飲みました?聞いた話だと微炭酸の後にくるほのかな酸味が絶品らしいですよ」
「本当に?やっぱり紀州の南高梅が高ポイントだよね!」
「ですねー。これに勝る梅はないですって、ホンマに。」
というような感じで結局盛り上がったのは二人だけで、何の張り合いにもならなかった。


175 :2LD :2009/12/04(金) 17:28
「すごい!このお弁当ってみっつぃー自分で作ったの?」
「うん、作るの大変やけど料理は好きやから」
またとある日に光井愛佳が自作のお弁当を褒められたときは、ロケ弁で美味しいと評判の
お店に行って一番高いお弁当を買ってきた。


「ふっふっふっ・・・・ジャジャーン!!今日の小春のお昼はこれだから。」
と勿体振りながらゆっくりと鞄の中から取り出したお弁当を光井愛佳の前に突きつけた。
「お弁当ですね」
「只のお弁当じゃないんだよ、これ!これは芸能人が選んだ食べたいロケ弁NO1の女々園の
焼肉弁当なんだからね」
私は勝利を確信して今にもこぼれそうな笑みを隠すとわざわざ説明までしてあげる。



「すごいですねぇ、久住さんは」
「当たり前じゃん!小春はすごいんだって!」
「でもいつもロケ弁なんですか?」
「なわけないじゃん。っていうか普通学校までロケ弁持って来ないし」
「ですよね。でもそれならいつもどうしてはるんですか?」
「いつもは大体コンビニかな?うちの親は忙しいから作れないし・・・あぁ、たまに学校の購買で
パン買うけどまずいから嫌いだし。」
自分にとっては普通のことなのでありのままに答えると、それを聞いた光井愛佳は少しだけ
悲しそうに笑った。

176 :2LD :2009/12/04(金) 17:29
それからこっちが全く予想もしていなかったことを言われた。
「お弁当作ってきてあげますよ、今度」
「はぁ?別にいいよ、みっつぃーのお弁当なんていらないし」
突然のことに思わずあっけらかんとした口調で答えてしまったけれど、それは素直な
心の声だった。



そんな私の言葉に光井愛佳は含みのある笑みを浮かべるといきなり顔を寄せてきた。
「ホンマですかぁ?ウチの作るお弁当は自分で言うのも何だと思いますけど、結構おいしい
って評判なんですよ?甘い卵焼きにタコさんウインナー、唐揚げに口直しで海老とアボカドの
和風サラダ、あとはあんまりお弁当では見かけない焼きおにぎり、って感じで今度は
いこうと思っとるんですけど食べたくありませんか?」
初めは本当に興味なかったのに、光井愛佳があまりにもおいしそうに料理の説明をするから
段々食べたくなってきた。



「・・・・・てもいいけど」
「えー?聞えへんなぁ。久住さん、今なんて言いはりました?」
「そ、そんなに言うなら食べてあげるよ!おいしくないみっつぃーのお弁当!!」
「だからおいしいですって」
そんな感じで上手く言い包められた気もするけど、その日から時々お弁当を作ってもらって
それを摘むようになった。



177 :2LD :2009/12/04(金) 17:30
またあるときは授業中に無謀にも頭で張り合おうとして、答えが分からなかったけど
勢いで手を上げてみた。
「この問題は・・・・光井、できるか?」
「はいはいはいはい!」
「今光井と言っただろうが」
「いいじゃん先生、小春分かるから!小春当ててよ!!」
「お前絶対分からないだろ」
「分かる、絶対分かるから当ててください!」
「・・・・・それじゃ久住。」
先生は渋々といった感じで当ててくれたので、私は席を立つとクラス中の視線を一身に浴びて
黒板の前へと躍り出る。



けれど黒板に書かれた『x−3y+5y−4x』という式を見て体が硬直する、
そして固まったまま全く動けなかった。
「はい、案の定分からなかったので交代な。」
という先生の見事なくらいあっさりとした言葉にクラス中が一斉に笑いに包まれる。
私は正直恥ずかしかったけれど、自分でやったことなのでその場に立ったまま黙って
顔を俯けていた。




「もう光井でいいや、このバカにお手本を見せてやってやれ」
「へっ?私ですか?えっと・・・・分かりません」
先生も当然答えられると思って当てた光井愛佳の返答は、多分この場にいる全員の予想を
裏切るものだった。


178 :2LD :2009/12/04(金) 17:31
「お前なら分かるだろ?これぐらい。」
「いやぁ、今日はどうも頭の働きが悪いみたいですわ。すんませんねぇ、先生」
「はぁ・・・・全く、バカが多いなぁ。このクラスは」
「本当に久住共々ご迷惑をおかけしております」
「お前時々ババアくさいこと言うよな。まぁいい、もう時間だしこの問題は来週までの
宿題にしておくからやっとけよ?あと光井と久住は席に戻れ」
先生は訝しげな表情で光井愛佳を見つめていたけど、当の本人は冗談を言って平然と
受け流していた。
その様子に諦めたか呆れたのかは知らないけれど、先生も大して追及せずに話を終わらした。
私は今の一連の流れに納得がいかなかったもののとりあえず席に戻ることにした。



すると突然先生に引き止められて小声で言われた。
「・・・・・あとで光井にお礼言っとけ」
「へっ?」
そのときの私は意味が分からなくて、多分間の抜けた顔して先生のほうを見ていたと思う。



「いいから言っとけ、バカ」
と先生は溜め息混じりの口調でそう言うと、最後に私の頭を拳骨で軽く叩いてから教材を
持って教室から出て行った。
その姿を呆然としばらく眺めていたけど、休み時間が時間を無駄にしたことに気がついて
すぐ自分の席に戻った。



「もうー、小春って本当にバカじゃないの?」
「そうだよ。分かる問題で手を上げればいいのにさ」
「でもみっつぃーのことになるとすぐに小春は張り合っちゃうからね」
と数人の友達が近寄ってきてそれぞれ勝手なことを言ってくる、私は言い返そうと思ったけど
さっき先生に言われたことを思い出してそちらを優先した。

179 :2LD :2009/12/04(金) 17:32
「みっつぃー!ちょっとこっち来て!!」
周りにいる友達を無視して椅子の上に立ち上がると、大きく手を振りながらその名を呼んだ。
「は、はーい!今行きます!!」
まるで名前を呼ばれて嬉しそうに走ってくる子犬のように、光井愛佳は小走りで私の元に
やってきた
全く訳が分からなかったけど先生が言えと言っていたのでとりあえずお礼を言った。



「さっきはありがとう!」
私はどんな顔をして言えばいいのか分からなかったので適当に笑いながら言ってみた。


「えっ?あっ、はい!どういたしまして。」
すると光井愛佳は今まで見てきた表情の中で、一番嬉しそうにはにかみながら笑って答えた。
見た目はいつも笑っている時と変わらないけどなぜかそう思った。



180 :2LD :2009/12/04(金) 17:33
それからあっという間に夏休みに突入した。
学校が休みなのを良いことに馬鹿な事務所は仕事を無茶なくらい入れてきて、こっちの
宿題や遊びの予定なんて絶対考えてないことはすぐに分かった。
そのお陰かどうか知らないけど、今まで端役ばかりだったのにいきなり準主役に抜擢された。
とは言っても月9とか夜にやっている普通のドラマではなくて、昼の一時ぐらいから
奥様向けにやっている所謂昼ドラというやつだった。
役どころは最初の方は主人公の親友で仲が良くしていたのに中盤からいきなり裏切り、
実は今までいじめを仕組んでいた張本人。
という何だか微妙な役だけど台詞が一杯あるしやりがいがありそうだなと思った。
無能な事務所の割には結構大きい仕事だし頑張るように念を押されている、でもそんなこと
言われなくても分かっている。



ドラマは学園物ということで共演者は殆ど同年代の子ばかりだった。
主役の矢島舞美って子は私より多少知名度がある子で確かに綺麗だけど、話すと馬鹿だし
見た目によらず天然で周囲が予想もつかないNGをよく出していた。
彼女の事務所は全方位美少女なんて銘打っているけれどかなり盲点が多いと思う。
でも話すと楽しいし他の女の子達も皆可愛くて面白かった、男の子も今流行のイケメン系が
何人かいるけど私はあまり近づかないようにしている。
うちの事務所は色々あって恋愛事には厳しいので、常にマネージャーの目が光っている。
そんなわけで無駄に小言を言われたくないので、不自然ではない程度に男の子達とは
距離を置いている。
そんな感じでドラマの収録が始まってしまい、私が学校に登校したのはもう九月も半ばに
差し掛かる頃だった。


181 :2LD :2009/12/04(金) 17:34
「みんな、久しぶり〜!!」
と教室のドアを開けるなり私は元気良く大きな声でクラス中に挨拶した。
収録中は学校へ来たいとはそんなに思わなかったけれど、実際教室に入ると気分が
高揚してつい叫んでしまった。



「小春!?久しぶりじゃん!」
「ドラマで準主役なんだって?もう学校中で噂だよ」
「ねぇ、共演してる子で格好良い男の子いない?写メ取ってきてよ!」
と女子が数人すぐに私の元にやってくると少し興奮気味に色んなことを言ってくる。



「久住さん!」
私が言葉を返そうとしたと同時ぐらいに後ろのほうから名前を呼ばれた。
特徴的な声だったのでそれがすぐに誰だか分かった、だから無視しようかと思ったけど
とりあえず首だけ後ろに振り向ける。
すると嬉しそうに目を細めて笑っている光井愛佳が私の後ろに立っていた。



もっとクラスの子達に自慢話をしてあげたかったけど、無下にするわけにもいかないので
一応話し掛ける。
「久しぶりだね、みっつぃー」
「はい。久住さんのほうは何か色々忙しいみたいですねぇ」
「まぁね!なんてたって小春は今人気急上昇中のU15アイドルだから」
「あははっ、普通自分で人気急上昇って言わなくないですか?」
「いいのいいの!だって事実だもん」
そんな感じでくだらない話をしながら二人で笑っていた。



182 :2LD :2009/12/04(金) 17:35
そんなとき突然クラスメートの女子が私達の間に割り込んでくると、顔の前で両手を
合わせて申し訳なさそうに言ってきた。
「話してるところごめん!愛佳、この間の国語のノート見せてくれない?」
「ええよ、机の中に入ってるから勝手に取ってき」
「サンキュー!本当に助かるよ」
とその女子は光井愛佳の握って弾んだ声でお礼を言うと、軽やかな足並みでその場から
去っていった。


すると間髪入れずに今度は少し遠くのほうから男子が叫んで聞いてきた。
「なぁ、光井!今度の理科ってどこでやんの?」
「はぁ・・・・今度からちゃんと聞いときや。今週は実験するから理科室!」
「おぉ、あんがと。」
負けずに光井愛佳も大声で叫び返すと男子は少し驚きながらも笑っていた。


「そういえば愛佳さー、今週の日曜日どうする?来れそう?」
「十時に渋谷だっけ?行く行く、詳しいこと決まったらメールちょうだい」
「うん、分かった」
教室のあちらこちらから光井愛佳が話しかけられていることに私は驚いた。
それと同時に激しい嫉妬で胸が一杯になった。

183 :2LD :2009/12/04(金) 17:36
ちょっと前までただの転校生だったのに、私がいない間にクラスの中心的人物になっていた。
誰もが光井愛佳を何かと頼りにして純粋に好いている。
その後私も色んな人に話し掛けられたけど、殆どが芸能界の裏情報を知りたい好奇心だけで
私自身については殆ど聞かれなかった。
それに一瞬騒がれただけで光井愛佳が話し掛けられた回数のほうが圧倒的に多い。
ちょっと学校に通っていなかっただけで、私を取り巻く環境は驚くほど大きく変わっていた。
私は芸能人で前に比べてだいぶ知名度が上がってきたし人気も出てきた、なのに一般人である
光井愛佳に勝てない。



何が彼女より劣っているのか分からなかった。
普通に考えれば私のほうがクラスメートを惹きつけそうなのに、みんなして光井愛佳を選ぶ。
顔は笑っていたけれど内心は嫉妬と悔しさで一杯だった。
こんなことは今までなかった、芸能界に入りだした小2のときからクラスメートの視線は
常に私に向いていた。
みんなが私を見てくれるのが普通だったし、学校に通っている限りはそれが続くと当然のように思っていた。
でも光井愛佳が現れたことによりその座は奪われてしまった、今このクラスの中心は
完全に彼女だった。



『消えてなくなればいいのに』



一瞬真っ黒な感情が胸の中に過ったけれどそれは間違いなく私の本音だと思う。
結構前から自分の黒い部分は自覚しているので今更驚くことは無かった。
本当に自分は黒い人間なんだなぁと改めて思っていると、不意に光井愛佳が話し掛けてきた。
「何か考え事ですか?」
「別に大した事じゃないよ、ちょっとみっつぃーのこと考えてただけ」
「えー!そんなこと言われたら気になるやないですか?!教えてくださいよぉ」
「ヤダ。死んでも教えてあげない」
そう言うと頬を膨らませて光井愛佳はしばらく不貞腐れていた、でももしもこの本音を
本人に言ったらどんな顔をするのかなと思ったら少し笑えた。

184 :2LD :2009/12/04(金) 17:37
そして昼ドラがキッカケになり私の人気は本当に急上昇した。
新しく決まったドラマはまた脇役だけど夜の九時からやるし、ドラマ主題歌を歌うことが
決まりCDデビューも同時に決まった。
雑誌やテレビの出演も以前に比べて格段に多くなり、私はますます学校に通えなくなった。
実際あの日を最後に学校には一度も行っていない。
クラスメートは前までメールをくれたのに、最近忙しくて返信しないことが多かったせいか
殆ど送られてこない。
たまに来るのは皮肉なことに光井愛佳からだけだった。




教えてほしいと言われて当然断るわけにもいかず、私は内心嫌だったけど携帯の番号と
メールアドレスを教えた。
するとたまにどうでもいいような内容のメールが送られてくるので、軽く目を通した後で
気が向いたら適当に返信していた。
送られてきた数より明らかに返信が少ないのによく今も送ってくるなぁと思う。
律儀なのか単に鈍感なのかは知らないけれど、撮影の合間とかの暇潰しになるから
別に嫌ではない。




今回は「今度いつ学校来れますか?」という内容のメールで私は思わず顔を顰めた。
季節は気がつくともう十月下旬、最後に言ったのが九月の半ばだったから約一ヶ月は
学校へ行ってないことになる。
たまには行ってみようかなと思って私は鞄から手帳を取り出すと、自分のスケジュールを
確認してオフの日を探す。
わざわざ学校へ行く為に仕事を休むわけにもいかないし、オフの日だったら私が何しても
事務所がともかく言うことはない。



「もしかしたら10月28日に行ける☆カナ」と送ると、五分もしないうちに携帯の着メロが
楽屋に鳴り響いた。
「早っ!」
いくら学校が終わった夕方とはいってもあまりに早い返信に少し驚いた。



返ってきたメールは長々書いてあって読むのが面倒だったので軽く目を通すと、つまりは
来てくれると嬉しいですってことだった。
別に私が学校へ行ったからって光井愛佳が何を得するわけでもないし、逆にこっちが
また妬みや嫌悪感などの黒い感情を抱くだけ。
そうと知りながら学校へ行くなんて馬鹿だなと自分でも思う。
でも結構有名になった今ならかなり注目度は高いだろうし、クラスメートやその他の生徒も
教室まで見に来るかもしれない。
たまにはそういう芸能人らしい優越感に浸るのも悪くはないかなと思った。


185 :2LD :2009/12/04(金) 17:39
そしていよいよ学校へ行く日が来た。
校門に着いたときからたくさんの視線が遠巻きに私を見つめているのが分かった。
あちらこちらから囁くような声が聞こえてくる、そしてそれらが全て自分のことを
言っていると思うと何だか面白かった。


教室に入ると想定はしていたけどかなりの女子に囲まれて質問攻撃に遭う。
内心面倒臭いと思ったけれどそんなことは全く表には出さず、満面の笑顔で聞かれた質問に
当たり障りのない答えを返す。
そうしている間に担任の先生が来て朝のHRが始まった。
担任に軽くからかわれてHRが終わるとちょうど学活の時間だったので、そのまま
私の話になり今の近況や芸能界のちょっとした裏話なんかを教えてあげた。
そして残り時間が三十分くらいになったところで、担任が慌てて今度ある修学旅行について
話すようにと言った。
すると光井愛佳が立ち上がって教卓の前まで行くと旅行の説明を始める。



当然私は蚊帳の外なので話は聞き流して久しぶりに来た教室を軽く見回す。
このクラスの中心には当り前のように光井愛佳がいる。
知らない話題で盛り上がる知らない子達、四月の当初を思い出すとまるで違うクラスに
いるような気分になる。
あの頃あったはず私の居場所はいつの間にかなくなっていた。



186 :2LD :2009/12/04(金) 17:39
光井愛佳や周りの生徒の話からどうやら十一月にある修学旅行の話をしているらしい。
でもそれは私には全く関係ない話だった。
仕事を休んで行けるはずもないし参加する気もなかった。
今が大事な時期なのは馬鹿事務所でもさえ分かっていることだし、私だって自分の将来を
考えたら当然仕事を優先する。
学校なんて来なきゃ良かったと今更遅いけれど後悔した。
修学旅行なんてどうでもいい話に付き合っているだけ無駄な時間だし、仮に授業しても
全然勉強していないからついていけないと思う。
自分の居場所の有無に関わらず、多分私はもうここにいるべきじゃない人間じゃなかった。





「・・・・久住さん?」
「ごめん。ちょっとボーっとしてた」
不意に肩を叩かれて我に返ると、少し心配そうな顔で光井愛佳が私の顔を覗き込んでくる。
今一番話したくない人間に話し掛けられていつもならにこやかに話すのに、突然のことで
口調が素っ気なくなってしまった。



「疲れてるんじゃないですか?最近結構テレビで久住さん見ますから」
「まぁ今が頑張りどころだからね」
「ですよね、今頑張れば将来は一流芸能人ですもんね!」
「別に芸能界は頑張れば報われるっていう単純な世界じゃないよ」
「えっと、あの・・・・久住さんは修学旅行来れるんですか?」
「無理じゃないかな。それよりみっつぃーこそ他の子と修学旅行の話でもすれば?」
「ウチの班はもう大体話まとまってますから。」
いい加減話しているが鬱陶しくなって少し低い声で冷たく答えると、光井愛佳は少しだけ
驚いた顔をしてから寂しそうに笑った。


187 :2LD :2009/12/04(金) 17:40
「・・・・学校辞めちゃおうかなぁ。」
私は特に深い考えもなく何気なく思ったことをそのまま言葉にして呟いた。


それを聞いた光井愛佳は突然机を強く叩くと、顔を近づけてまっすぐこちらを見つめる。
「ダメや!それだけは絶対アカン!」
と今まで聞いたことがなかった完全な関西訛りで叫んだ。


結構大きな声だったので何事かとクラスメートが私達二人の方を見てくる。
すると光井愛佳は一瞬気まずそうな顔をしてから、すぐに笑顔になると両手を擦り合わせて
軽く頭を下げた。
「急に大きな声出してごめん!いやぁ、久住さんが梅干好きを卒業するって言うから
つい熱が入ってしもうて」
光井愛佳は笑いながら意味が分からない言い訳を言うと、クラスメート達はなぜか
納得したのか教室が笑い声に包まれた。

188 :2LD :2009/12/04(金) 17:41
それから少しして周りの子達がまた自分達の話に戻ると、光井愛佳は軽く溜め息を吐いてから
私の前の空いている椅子に腰を下ろす。
そして先程のことを反省してか少し声の大きさを控え目にして話し出した。
「・・・・話戻しますけど学校辞めるって本当ですか?」
「っていうか別に関係ないじゃん、私が学校辞めるのにみっつぃーの許可がいるの?」
「いや、そりゃいらないですけど・・・・でも辞めてほしくありませんから」
「まぁ中学校だから辞めないと思うけどね。ってかなんで辞めたらいけないの?」
「そりゃ学校を辞める自体元々良いことじゃないってのもありますけど、一番の理由は
私が久住さんと一緒に卒業したいからです」
「何それ?っていうかそれってさぁ、ただのみっつぃーのワガママじゃん。」
「ワガママ言ったらいけませんか?だって久住さんは・・・・・。」
照れくさそうに笑いながら言った光井愛佳のその言葉は、授業終了のチャイムが鳴り響いた
せいで最後のほうが遮られて聞こえなかった。



普通に話していたら聞こえたのかもしれないけど、小さな声で話していたので見事に
掻き消されてしまった。
私は声を潜める必要がないことにようやく気がついていつも通りに話すことにした。
「チャイムでよく聞こえなかったんだけど最後なんて言ったの?」
「聞こえてなかったんですか?良かったぁ・・・・自分で言いながら恥ずかしいなぁって
思っとったんですよ」
私に聞こえなかったことが分かると、光井愛佳は胸を撫で下ろし安堵の表情を浮かべていた。
でも本人が言っていた通りに耳が赤くなっているところを見ると、多分かなり臭い感じの
言葉を言ったらしい。


189 :2LD :2009/12/04(金) 17:42
「ねぇ、さっきの聞こえなかったやつ教えてよー。何か気になってきた」
私は光井愛佳の制服の袖が伸びるようにわざと強く引っ張ると、まるで駄々を捏ねる
子どものように強請った。


すると光井愛佳は腰に手を当てて、勝ち誇ったような笑みを浮かべてくるからちょっと
苛ついた。
「嫌ですよ。死んでも教えません」
「ケチ」
私が鼻を鳴らして拗ねると光井愛佳は口元に人差し指を当てながら、本当に楽しそうに
しばらく笑っていた。



「なら小春のとっておきの情報教えてあげないよ?」
「いや興味ないんで結構です」
「もうっ!みっつぃーのバカ!」
「あははっ、少なくとも久住さんよりは頭良いと思いますけどねぇ」
まともに相手にされないのが癪に障って手加減して光井愛佳の肩を何回か軽く叩くと、
苦笑しながら子どもにするみたいに頭を撫でられた。



改めて思うのも変だけど光井愛佳は不思議な子だなと思う。
どんなに嫉妬しても癪に障って嫌悪しても、本人と話すとそのペースに丸め込まれてしまい
いつの間にか黒い感情が消えるときがある。
もっと互いに違う環境で出会えたのなら、こんな思いなんかせずに普通に友達として
やっていけたのかもしれない。




190 :2LD :2009/12/04(金) 17:43
「それで良い情報って何ですか?」
唐突に光井愛佳が話を戻してきて適当に言った私は正直戸惑った。


期待した瞳で見つめられても言う程大した事ではないので言葉に詰まる。
「・・・・今度久しぶりに3日くらいオフがあるからさ、また学校に来ようかなって」
自分で言い出したことなのに私は少し不貞腐れてぶっきらぼうな口調で答えた。


「ホンマですか?また近いうちに会えるんですね!」
光井愛佳は椅子から身を乗り出すと、胸の辺りで手を叩いてから噛み締めるように言った。
そして満面を笑みで私のことを見つめる。



その真っ直ぐで純粋で無垢な笑みは彼女そのものに思えた、昔ならともかく今の自分には
そんな風には笑えない。
白くて穢れを知らないように思えるのは見た目だけで本当は全部真っ黒だから。
私達は一見似ている人のように思えるけれど、その根本にあるものは正反対で全く違う。
まるで二人の間に鏡があるみたいだなと思った。
だから惹かれている多少部分があっても私は光井愛佳を受け入れられない、鏡に映るものを
触ることができないように。


191 :2LD :2009/12/04(金) 17:44
あの日以来学校にはできるだけ出るようにしている、別に光井愛佳が喜ぶからなんていう
くだらない理由ではない。
単に出席日数が足りないと学校側から言われたからだった。
中学校だから卒業はできるけどもう少しは出席してほしいとの事で、事務所側も色々と
考量してくれて仕事を調節してくれた。
勉強には相変わらず全然ついていけないけれど学校へ行くと良い気分転換になるので、
私も積極的に行くようにしている。
そして季節は冬になりもうすぐ十二月も終わろうとしていた。




世間はクリスマスで浮かれているのに芸能人だけの性ってわけでもないだろうけど、
私はその日普通に仕事だった。
そして今は空き時間なので一人楽屋で携帯ゲームと格闘していた。
マネージャーはちょっとデートしてくると言って、楽屋を出て行ったきりもう既に三時間は経過している。
理不尽だなと思いつつ次の収録までに戻らなかったら、ドニーズのチョコバナナパンケーキを
奢らせようかなと暢気に考えていた。




そんなとき突然久しぶりに聞く着メロが楽屋に鳴り響き、私は心臓が大きく脈打って
思わず携帯を落としそうになった。
鳴ったのは自分がいつも使っている携帯ではなく仕事用の携帯だった。
仕事といっても芸能界のことではなくて、誰にも知られてはいけないもう一つの仕事の
ほうだった。

192 :2LD :2009/12/04(金) 17:44
「・・・・・いつも思うだけどさ、着メロが泳げたい焼き君って絶対おかしいよ。」
私は軽く溜め息を吐き出すと、ぼやきながら鞄の側面に入れてある赤いプリペイド携帯を
取り出した。
ちなみになんで着メロがその曲なのか本人に聞いたところ、ただ単に好きだからという
安直な答えが返ってきて少し呆れたのを覚えている。



でもあの人らしい答えだなとそのときの事を思い出しながら、私は苦笑しながら電話に出た。
「メリークリスマス!」
「嫌がらせですか?用がないなら切りますけど」
「切られたら困っちゃうなぁ、だって用があるからこうして掛けたわけだしさ」
「なら早く用件言ってくださいよ」
久しぶりに聞いたあの人の声は少し低くて重みがあった、でも相変わらず飄々としていて
物言いはいつもどこか軽い感じがする。



電話だからこっちからあの人の姿は見えないけれど、きっと薄笑いを浮かべている
気がした。
「本当はもう少し話たかったんだけど、小春っちが本気で怒り出しそうだからそろそろ
本題に入ろうかな。といっても用件はいつもと同じで・・・・・人を一人殺してほしい」
最後の言葉はもう何回も聞いているはずなのにいつだって私の手は小さく震える。


193 :2LD :2009/12/04(金) 17:46


請け負って人を殺す、それが私のもう一つの仕事だった





芸能界は入りたてでほぼ無名に近かったある日、街を歩いていて偶然貰ったティッシュに
「見込みがあれば即採用、月給百万円から三百万。人生に刺激を求める貴方、お金を今すぐに
稼ぎたい貴方、今の生活に不満がある貴方は必見です。お気軽にお電話下さい」
よく書いてあるような文句を並べた白黒の紙が一枚入っていた。
普通なら無視するはずなのに私はなぜかチラシに書かれていた番号に電話した。
すると一度面接に来てほしいということなり、事務所だという裏通りにある古臭い雑居ビルで
私はあの人に出会った。




私は採用試験に合格しそれと同時に人殺しになった。
仕事は向こうが勝手に決めるので、前まで月一だったのに半年振りにこうやって電話が
掛かってきたりもする。
使い捨てのプリペイド携帯から依頼を委託されて人を殺す、報酬は本当に大体百万から
三百万円で多いときはもっとくれるときもある。
あとは自分が使う道具の種類で差し引かれる金額が違うので定額ではない。



それからこの仕事にはルールが二つだけある。
依頼は絶対で対象者を殺すことに失敗したら自分が殺される、そして回された仕事は
決して拒否することはできない。
だから死にたくなければ例え恋人や親兄弟でも殺さなければいけなかった。

194 :2LD :2009/12/04(金) 17:48
「それでどこの誰ですか?この頃仕事が忙しいから近場だと嬉しいんですけど」
「近いは近いよ。光井愛佳って同じクラスにいるでしょ?その子を殺してほしいんだけど」
「・・・・ミツイ・・・アイカ」
私は殺す相手の名に聞き覚えがありすぎて一瞬息が止まった。


一気に色んな感情が入り混じって胸を掻き乱すから少しの間話せなかった。
でもずっと黙っていて変な勘繰りをされても困るので、私は携帯を強く握り締めると
深く息を吐き出してからゆっくりと口を開く。
「・・・・了解です」
「それで何使う?今あるのは青酸カリか砒素かな?あとトリカブトなら手に入ると思うけど」
「ならシアン化カリウムでお願いします」
「マイナーな言い方するねぇ。その年で小春っちぐらいだよ、青酸カリをその別名で呼ぶの」
「毒物には詳しくなりましたから、この仕事のお陰で」
「嫌味はいいよ。それでどうする?瓶ごとそっちに送ってもいいし、何かこっちで加工する?」
「じゃぁ八つのジュースの缶のうち七つに死なない程度の量を入れて、残り一つにギリギリ致死量分入れたものを作ってもらえますか?」
「無差別殺人に見せかけるってわけか、小春っちもなかなか考えるねぇ」
自分で思っていた以上に平静を装いながら会話することができた、でもこれも色々と演技して得た賜物なのかと思うと複雑な心境だった。



「今回は相手がクラスメートだし特別に教えてあげようか」
「何をですか?」
「光井愛佳の殺してくれと言った依頼人について。まぁ別に興味がないならいいけど?」
「・・・・教えてください。」
本当は「興味ありません」と言うつもりだった、でもそう言うより早く口が知りたいと
言っていた。


「じゃ今回特別に教えてあげるよ。依頼主は彼女の母親、といっても父親の再婚相手だから
義理らしいけどね。それで理由は気が合わないから、怒っても叩いても笑ってるから
何考えてるのか分からなくて怖いんだってさ」
とまるで他愛のない世間話でもするかのようにあの人は軽い口調で言った。


意外に苦労してるんだなというのが素直な感想だった。
普通に美味しいお弁当を作ってきて、普通に友達と話して、いつも普通に笑っていたのに
その内情がどんなものだったのか想像もできない。
予想もしていなかった事実に私の胸はまた掻き乱されて、気がついたらあの人の名を呼んでいた。
「後藤さん!あ、あの!・・・・いや、えっと、何でもないです」
本当は「わざとですか?」と聞きたかった、でも例え聞いても答えてくれないと思うし、
「そうだよ」と言われても返答に困るので飲み込んだ。

195 :2LD :2009/12/04(金) 17:49
「・・・・・そう。じゃ健闘を祈るよ。向こうはいつでもいいみたいだからさ、暇なときに
やってくれればいいよ。物は早めに送っておくから」
「はい、物がこっちに着き次第やりますよ」
「それじゃ今回もいい仕事期待してるよ、小春っち」
「了解です」
明るいあの人の声に私もなるべく明るく返そうと思ったけど上手くいかなかった。
多分不自然だったと思うけど同じクラスメートだから動揺している、そう思ってくれれば
いいなと期待も込めて思う。
躊躇されていると思われたくなかった、光井愛佳を殺せなければ自分が殺されてしまう。
だから下手に同情したり迷いを見せるわけにはいかなかった。
私はこんなところで死ぬわけにはいかない。




電話を切ると何だか力が抜けてソファーの背もたれに寄りかかる。
そして天井を見つめながら光井愛佳を殺す方法を練る。
私は毒薬を得意としていているので、殺すときはいつも薬をあの人から買ってターゲットに
どうにかして飲ませていた。
今回は都内の自販機に致死量未満の毒薬を入れた缶を放置しておき、無差別な毒薬テロに
見せかけて光井愛佳を殺す計画だった。


でも不意にそんな考えている自分が馬鹿らしくなって自虐気味に笑うと、自分の携帯を
取り出してマネージャーに電話をかける。
「あぁーあ・・・・・クリスマスなのに最悪だなぁ」
と低い声で独り言を呟いているとすぐにマネージャーが出た、機嫌が悪いことを知りながら
「暇なんでかけてみました!」と明るい声で言ったら怒鳴られた。



196 :2LD :2009/12/04(金) 17:50
冬休みが終わるといよいよ計画を実行する日がきた。
都内各地に日を置いて毒薬の入った缶はばら撒いてある、この間テレビのニュースで
やっていたから多少話題にもなっている。
だから今回光井愛佳が死んでもたまたま致死量を超えていたと思われるはず、何にしても
この毒薬テロと私を結びつける人はいないと思う。



私はその日何とか仕事の都合をつけて学校に行くと光井愛佳に声を掛けた。
「ねぇ、今日の夜会えないかな?みっつぃーの家の近くでさ」
「えっ?な、なんですか急に?何かあったんですか?」
「いや最近会ってなかったじゃん。だから何か色々話したいなぁって思って」
「ホンマですか?あっ、でもわざわざこっちのほうに来なくてもそっちに行きますよ」
「いいよ。小春のワガママだし、しょうがないから家まで行ってあげる」
「はいはい、分かりました」
私はどうにか光井愛佳を捕まえると普通に遊ぶ感じで呼び出した。
手紙や携帯じゃどうしても痕跡が残るので、こうして直接誘えば物に頼った方法よりも
確実で安心だった。



「それにしても・・・・さっきからどうして小声なんですか?」
「芸能人が密会するんだよ、プライベートで。そんなの秘密に決まってるじゃん」
「プッ!アホらし!」
「ちょっと!馬鹿にしすぎだから!」
小声な本当の理由は誰かに極力この会話を聞かれたくないから、さすがに事件当日に会った
となると警察に疑われてしまう可能性がある。
芸能人はイメージ勝負だからできれば悪い印象を持たれたくなかった。


197 :2LD :2009/12/04(金) 17:51
そして夜十時、教えてもらった家まで行くと光井愛佳は既に玄関前で待機していた。
予想していたこととはいってもその姿を見たとき、相変わらずの律儀さに思わず本人の前で
苦笑してしまった。
「待ってると思った」
「ウチも久住さんがそう言うと思いましたよ」
私の姿を見つけるなり小走りで駆け寄ってくる光井愛佳に対して素直な感想を告げる。
すると本人も自分の性格を分かっているのか笑いながら答える。
それから私達は夜道を適当に歩きながら話すことにした。



仕事があると言って集合時間は夜十時にしてもらった。
勿論仕事があるというのは嘘でただ人目につきたくなかったから遅い時間にした。
中学生が出歩く時間ではないと思うけど家の近くだからとを言って家を出たか、それとも
黙って出てきたのかもしれない。
父親はどうだか知らないけれど彼女を憎んでいる母親は何しても咎めないと思う。
寧ろそのまま家に帰ってこないことを望んでいるはずだ。
家族のことについて聞くのは少し気が引けたので、やっぱり話題は学校関係になってしまう。




「そういえば修学旅行ってどこ行ってきたんだっけ?」
「京都ですよ」
「ふーん、京都か・・・・」
「行きたかったですか?」
「うん、少しだけ。まぁでも今度写真集でグアム行くからいいや」
「海外ですか?!やっぱり芸能人ってすごいんですねぇ」
私はこんなくだらない会話なのに何だか少し疲れてきた、きっと光井愛佳と会話をするのは
今日で最後だと分かっているからだと思う。
でももし帰って家族と話さなかったら、最期に話したのは自分ということになる。

198 :2LD :2009/12/04(金) 17:53
そう思ったら急に何かもっと内容がある会話をしたいという思いに駆られた。
「ねぇ・・・みっつぃーは将来何になりたいとかある?」
「将来ですか?えらく唐突ですねぇ」
突然の質問に小首をかしげる光井愛佳の顔を見て、私はすぐに自分のした質問の悪さに
顔を露骨に顰めた。
未来のない彼女に聞くべきではなかったし、未来を奪ってしまう私が聞くものでもない。
光井愛佳に未来なんて存在しないのだ。




「そうですねぇ・・・・・特にないですかね。」
「へっ?」
「まぁ色々あるんですけど、どれもミーハーな感じでこれってもんはまだないですねぇ」
「へぇー、何か意外だなぁ。みっつぃーならもう決めてるとかと思った」
「こう見てもまだお子ちゃまなんですよ、将来のことなんてまだ全然です」
「・・・そうなんだ」
「はい。とりあえず生きてれば十分です、それだけで人間何にでもなれるじゃないですか」
光井愛佳は私を見つめながら穏やかに笑って話す。
その笑みは街灯に照らされて輝いて見えた、でもあまりにも眩しくて直視することができず
私は顔を横に逸らした。


これ以上見ていたら心が揺らいでしまう気がして怖くなった。
光井愛佳を殺さなければいけない、回された依頼はこなさなければ自分が殺される。
死にたくなければターゲットを殺すしかない。
示めされた道がどんなに厳しく険しくても、私はもうその道を歩いていくしかなかった。



例えそれが修羅の道だったとしても


199 :2LD :2009/12/04(金) 17:54
「ちょうどあそこに自販機あるからさ、ジュース奢ってあげるよ」
「えっ?久住さん?」
私は事前に確認しておいた自動販売機をさも初めて見つけたように言うと、光井愛佳の答えも
聞かずそこに向かって走り出した。



そしてたまたま売っていたので梅ソーダを買うと、もう一つ買うふりをして毒が入っている
缶をコートのポットから取り出す。
ちなみに手には指紋をつけない為に事前にちゃんと手袋をしている。
でも毒入りの缶は直前まで冷やしてあったので手袋をしていても少しひんやりとした。



そして私が梅ソーダを取り出す頃にちょうど光井愛佳がこちらにやってきた。
「どっちがいい?」
と今買った梅ソーダと毒入りのオレンジジュースの缶を二つ差し出す。


「えっ?いや悪いですよ。お金ちゃんと後で払いますね」
「いいからいいから。小春は芸能人なんだよ?お金はみっつぃーより全然持ってるんだから」
「それって密かに嫌味ですか?」
「ん?違うよ、事実。それでどっちにすんの?ジュース」
「えっ、あぁ・・・・じゃオレンジで」
「梅ソーダじゃないんだ。まぁいいけどさ、じゃこれね」
「はい、ありがとうございます」
光井愛佳は私の予想していた通りに毒入りのオレンジジュースを選んだ。
他にも色々な種類があった中で梅ソーダを買ったのは私の最後の賭けだった、もしもこっちを
選んだら殺さなくてもいいかなと思っていた。
そして私は賭けに勝った、でも光井愛佳の性格を考えればあまりにも簡単な賭けだった。
それに勝って嬉しいはずなのに全然嬉しくない賭けだった。

200 :2LD :2009/12/04(金) 17:55
「ホンマにええんですか?」
「別にいいよ、ジュースくらい。あっ、そうだ。じゃ一つだけ約束してよ」
「えっ?は、はい」
「家に帰ったら必ずそのジュースを飲むこと。乾いた喉をそれで潤してよ」
「分かりました、必ず飲みます」
「それじゃもう遅いしこの辺で別れよっか?なんかあんまり話せなかったけどね」
「だったら今度遊びましょうよ!」
「うん、じゃオフが決まったらまたメールするね」
楽しい会話のはずなのに私の心が痛んだ、でもそれは笑っているのは見せ掛けだけで
心は真逆の感情で一杯だからだと思う。
私は心が流されないように後ろに手を組んで痛いくらい自分の手首を強く握った。




律儀な光井愛佳のことだから帰ったら絶対にジュースを飲むと思う。
致死量は超えているから確実に死が齎されるはずだ。
だから私達に今度はない、もう永遠に生きて会うことはできない。
何か言おうと思ったけれど余計なことを言ってしまいそうな自分が怖くて、私は顔を俯けると
しばらく黙り込んでいた。




でも不意に名前を呼ばれて顔を上げると、少し心配そうな表情の光井愛佳がこちらの顔を
覗き込んでくる。
「久住さん?」
「ん?あぁ、ごめんごめん」
「疲れてるんですよ、帰ってゆっくり休んでください。それじゃまた学校で会いましょう!」
「・・・・・うん、じゃぁまたね!」
私は振り絞るように明るい声を出してなるべく普段通りに振舞った、そして家の方に
向かって走っていく光井愛佳を見送る。
私は大げさに手を左右に振りながらその姿が見えなくなるまで止めなかった。
光井愛佳は時々こちらを振り返りながら手を振り返してくれた、その顔は初めて会ったときと
変わらない人懐っこい笑みを浮かべている。
私も笑っていたけど無論感情などない完全な作り笑顔だった。



201 :2LD :2009/12/04(金) 17:56
光井愛佳の姿が見えなくなると私は深い溜め息を吐き出した。
そして何気なく頭上で輝いている街灯を見つめる、思わず手を伸ばしたけれど当然のように
触れられるはずもなく手は宙を彷徨う。
そのときふとまるで光井愛佳みたいだなと思った。
目が痛い程に眩しいからまるで虫達が群がるように人は彼女のところに寄っていく、だけど
私は月のように誰かの光を浴びて輝いているだけから人がこない。
だから嫌悪しながらも自然と輝く光に惹かれてしまったんだと思う。
でも光に触れると私はその身を焦がしてしまう、音楽の授業で習ったイカロスのように
その翼を焼かれて地面に落ちて醜く内臓を撒き散らして死ぬのだ。




私は道端に落ちている小さな石をいくつか拾うと、それを街灯目掛けて思い切り投げつける。
「クソっ!当たれ!当たれよ!」
十回近く投げてようやく街灯ガラスが割れて欠片が雪のように舞い落ちる。



光を反射しながら地面に落ちていくその光景は見惚れるくらい美しくて、まるで星が空から
降ってきたみたいだった。
でも手に取って触れると怪我してしまうので見つめることしかできない。
それから街灯が点滅しだしたかと思うとすぐに消えてしまい辺りは闇に包まれた。
等間隔に置いてあるので近くにまだ街灯があるといっても、急に灯りが消えてしまったので
一気に暗くなってしまった。
でも闇に包まれているほうが自分らしいなと思った。




光に触れてはいけない、どんなに手を伸ばしても決して触れてはいけない



202 :2LD :2009/12/04(金) 17:58
次の日私は普通に仕事があったので一人で身支度をして家を出た。
そして玄関前に止まっているマネージャーが運転する迎えの車に乗り込むと、機嫌が悪そうな
顔と目が合った。
「あー、面倒くさ」
「って自分で取ってきた仕事じゃないですか」
「お前が18歳以上ならいいんだよ。そうしたら夜遅くの仕事ができるのに」
「無茶言わないでくださいよぉ、藤本さん」
マネージャーの藤本さんは私がデビューしたときから一緒にいる人で、業界ではやり手って
噂だけどあんまり実感する機会がない。
愛想なしやる気なし無駄に態度がでかい、というような人だから不安になることのほうが多い。



車がスタジオに向かって走っていると、適当につけていた車内のラジオは近頃流行りの
ヒットチャートを流していた。
私は渡された台本を見ながら頭の中で想像して大まかに段取りを確認する。
でも不意に今まで陽気な女の人のラジオからニュースの時間になり、急に固いおじさんの声に
変わると集中力が途切れた。
政治とか株の話なんかは聞き流していると、ある事件の話になったので私は思わず聞き耳を立てる。
「本日一月十五日午前、東京都内で今朝八時頃高校生の長女が自宅のベッドで死亡をしているのを父親が発見し警察に連絡しました。学校に行く時間になっても起きてこないので部屋に
行ってみると、胸を押さえながら絶命している長女を発見。すぐさま警察に連絡し殺人事件と断定されました。警視庁によると近くにあった缶ジュースから青酸カリが摂取できたことと
手口が似ていることから、最近頻繁に起きている毒物事件と関連があると見て捜査を進めて
いるとのことです」
名前は公表していなかったけれど明らかに光井愛佳のことだった。
私は殺してしまった、自分の命と引き換えに彼女が全うするはずの未来を奪ってしまった。




何だか台本を読む気が失せて膝の上に置くとカバンの中から携帯を取り出す。
どうにかしてこの暗い気持ちを切り替えたかった、でなければきっと今日の収録で私は上手く
笑えそうにない。
携帯を開くとメールがきていた、誰だろうと思って開くと宛名を見て思わず目を見開いた。
メールは光井愛佳からきていた。

203 :2LD :2009/12/04(金) 18:01
多分ジュースを飲む前に送ったのだろう、送られてきたメールには
件名 今日はありがとうございました!
本文 今日は仕事終わった後にわざわざありがとうごさいました(o^∇^o)ノ
今度遊びに行くときはどこにしましょうか? (-_-)ウーム
といつも光井愛佳が送ってくるメールと変わらない調子で書かれていた。
よくありそうな軽い文章なのに、私は意味が分からないくらい胸が熱くなって思わず
携帯を強く握り締めた。
胸が熱いのは光井愛佳が未来のことを話しているからだと思う、叶うはずのない話を
しているからこんなのにも胸が熱くてひどく痛いのだと思う。




「何泣きそうな顔をしてんの?」
「へっ?」
「自分の顔見てみなよ?今すんごい泣きそうな顔してるじゃん」
「あぁ、そうですね・・・・」
マネージャーに言われてバックミラーで確認すると確かに泣きそうな顔をしている。
なんて顔をしているんだろうと思った、全部自分で決めて自分がやったことなのに
馬鹿みたいに瞳が潤んでいる。
でも達観したのか不意に何だか笑えてきて私は携帯をしっかりと持ち直すと、
「小春はTDLがいい☆カナ」と光井愛佳に返信した。



返事は多分、返ってこない




204 :弦崎あるい :2009/12/04(金) 18:01

205 :弦崎あるい :2009/12/04(金) 18:01

206 :弦崎あるい :2009/12/04(金) 18:02

207 :GAKILOVE :2009/12/04(金) 19:05
更新乙です!
ガキカメ以外のCPもいいですね。
見いっちゃいました。
次回も更新よろしくお願いします。
208 :名無飼育さん :2009/12/12(土) 18:29

切ないです。
209 :名無飼育さん :2010/04/09(金) 02:14
今でも待ってます
210 :弦崎あるい :2010/07/12(月) 16:07
随分と前回から間が空いてしまいましたが、一応生きてます
本当に更新を止めすぎて申し訳ないです
多分これからもそんなに頻繁には更新できないと思いますが、お付き合いして
頂けると嬉しいです


>>GAKILOVEさん

ガキカメも好きですが、こはみつも好きなので書いてみました
元々は短編コンペ用の話だったんですけどね
更新お待たせして本当に申し訳ないです


>>208さん 

若さ故の衝動やどうしょもできないもどかしさとか切なさとか、そういうのを
全部詰め込んでみました
個人的にこういう話の路線の方が好きだったりします


>>209さん

お待たせしてしまって申し訳ないです
放置はしたくないので時間がかかってもいいから、ちゃんと書き上げたいと
思ってます


211 :すれ違いの一夜 :2010/07/12(月) 16:08
いつもなら亀が帰り支度を始める時間なのに、今日に限ってはなぜかその様子はない。
それに今更だけど亀は週の半分くらいは私の家で夕飯を食べている。
ちゃんと連絡はしているんだろうけど、でもだからといって家で食べないことをご両親は
何も言わないんだろうか。
本当に今更だけど私は亀の家庭環境がちょっと気になった。




でも人の家庭のことに部外者が口を挟むのも何なので、とりあえずは時間に気づいていない
だけかもと思って声を掛けることにした。
「亀、もう7時半だけど帰らなくていいの?」
「あー、まぁ・・・・・・きっと大丈夫じゃないんですかね」
「ちょっと!そんな適当でいいの?とりあえず連絡だけでもしてきたら?」
「一応さっきメールしましたよ。でも本当はしてもしなくても同じなんですけどね」
「えっ?」
「あの人達は私のことなんて心配しないですから」
亀はまるで他人事のような口ぶりでいつも以上に飄々とした態度だった。
そして鼻で笑いながら言った『あの人達』、というのは多分ご両親のことだと思う。
亀と両親の仲がどういう状況かは分からないけど、良い関係ではないというのは
その言い回しを聞いただけで想像はつく。



でもそんな家庭の事情はさて置いて、私は両親をそういう言い方で呼ぶのが許せなかった。
確かに今は仲が悪いのかもしれない、だから憎くて嫌悪感からそう呼んでいるのかもしれない。
でも時が経ったらきっと後悔すると思う、それにいつまでも両親がいると思っているから甘えて
そんなことが言えるのだと思った。



212 :すれ違いの一夜 :2010/07/12(月) 16:08
「人様の家のことだから口出すのも悪いと思うけどさ、あの人達って言い方は良くないよ。」
「すいません、本当に何とも思ってないものでつい。」
「・・・・・・亀、それ本気で言ってるの?」
「本当ですよ。あの人達のことを親だと思ったことは一度もありません」
「亀!そんなこと言ったらダメでしょ!」
「ガキさん、落ち着くと。絵里も今のはちょっと言い過ぎやと思う」
「ははっ・・・・確かに今のはちょっと口が悪すぎましたね。すいませんでした」
私は怒りから我を忘れて立ち上がり亀を責めようとした瞬間、れいなが冷静な声で私の
名前を呼んだ。
そして私に座るように目で促すとれいなは亀を軽く睨みながら注意する。
すると亀はバツが悪そうな顔をしながら素直に謝った。



それから気まずい空気が部屋の中に流れ始める。
この間ケンカしたばっかりだったから、またこんな風に言い争うとは思いもしなかった。
ちょっと自分も言いすぎたかなと思っていると亀は立ち上がって帰る支度を始める。
「今日のところはこれで失礼します。このまま居ても気まずくなるだけだと思うんで」
「絵里、れなもそこまで行くけんね」
「えっ?・・・・・・うん、ありがとう。れいな。」
「今日は本当にすいませんでした。今度また来たときゆっくり話しましょう。」
「じゃちょっと行ってくる」
亀が立ち上がるとれいながなぜか突然自分も一緒に行くと言い出した。
見送ってもいつもは玄関までくらいなのに今日はどうしたんだろう、と思っていると
仕度を終えた亀はリビングのドアに向かって歩いていく。
そして亀は最後に深く頭を下げて私に謝ると、穏やかな笑みを浮かべて挨拶してリビングから
出て行った。
そしてれいなも一緒になって出て行き私一人だけが取り残される。




やっぱり言い過ぎたかな、一人になって感情が落ち着くと私は少し後悔した。
人の家庭のことを他人が口を出すべきではなかった。
でもあのときは言わずにいられなくて、それに亀に後で後悔してほしくないという気持ちも
嘘じゃない。
いつか親と離れるか別れる日がくれば、絶対あのときの自分は馬鹿だったと思うはずだ。
だから亀にご両親をそんな他人行儀な呼び方で呼んでほしくなかった。



213 :すれ違いの一夜 :2010/07/12(月) 16:08
多分2人で何か話をしていたのだろう、れいなが家に帰って来る頃には8時を少し過ぎていた。
「ただいま。遅くなってごめんね、ガキさん」
とリビングに入ってくるなり仕事終えて帰宅した亭主のように、股を開いたままソファーに座り背もたれに寄り掛かる。
私は麦茶を入れたコップを2つ持って、ソファーの前にあるテーブルの上に置く。
それから床に腰を下ろしてれいなに声を掛けた。




「亀と話してたの?」
「うん」
「・・・・・・亀、何か言ってた?」
「ごめんなさいやって。今度っていうか、明日来て土下座するって言っとったよ」
「ははっ、それじゃ楽しみに待ってようかな」



いつもなら笑って話せるはずなのに、まださっきのことが胸の中で解決されていなくて
私は上手く笑えていなかったと思う。
それでもれいなは何も気づいていないかのように振舞ってくれた。
私はそんな幼馴染みに感謝すると、テーブルの上のコップを手に取って少しだけ麦茶を
飲んだ。




「ガキさん」
でも不意にれいながいつになく真剣な声で私の名前を呼ぶ。
その声に顔を上げると真顔のれいなと目が合って、久しぶりに見る顔だなぁなんて
どうでもいいことを思ってしまった。
れいなは顔に出やすい子だからつまらない時は無表情だし、楽しければ笑顔だし、本気のときは真剣な顔をする。



私は軽く溜め息を吐き出してかられいなの方にちゃんと体を向ける。
するとれいなは軽く目を伏せてから頭を乱暴に掻く、それから何か悩んでいるのか顔を
俯けて考え込んでいた。
私は何か声を掛けようかと思ったが、れいなはちゃんと言ってくれる子だと思って
何も言わずに黙っていた。
それから少し経ってようやく話す決心がついたのか、れいなはゆっくりと口を開いた。


214 :すれ違いの一夜 :2010/07/12(月) 16:08
「・・・・・・絵里のことなんやけど、少し話していいと?」
「亀の話?」
「うん。絵里が両親に対して冷めとるのは・・・・・・・本当の両親やないからっちゃ」
「えっ?それってどういうこと?」
「絵里は父親と愛人との間にできた子やから」
「ほ、本当なの?それ」
「うん。父親はちょっと有名な政治家やから、絵里の本当の母親が死んだときに好感度の
為とかで引き取ったんやけど、家族の誰も絵里のことを認めんというか、何か空気みたい
な存在で全く相手にしてくれんらしい。だから絵里は今の両親に対してさっきみたいな
態度とると」





れいなの教えてくれた亀の家庭の事情はただただ衝撃的だった。
私は単に仲が悪いとか反抗期だとか、そんなことぐらいしか考えていなかった。
愛人の子で家族から除け者にされているなんて想像もしなかった。
私はふとさっき亀に言った自分の言葉を思い出し、激しく後悔すると共に今度会ったとき
どうしていいか分からず動揺してしまう。


「えっ、いや、だってそんなこと全然知らなくて・・・・・・どうしよう!亀にひどいこと
言っちゃった!」
「うーん、多分心配いらんと思うよ?」
「本当?本当に大丈夫なの?絶対ダメでしょ」
「ふふっ、何かガキさんが動揺してるとこってあんま見んからちょっと楽しいかも」
「もうっ!こっちは本気で悩んでるのに!」
「大丈夫、絵里は分かっとるから。ガキさんのこと・・・・・ちゃんと分かっとうよ」




れいなは何の根拠があるのか知らないけど軽い調子で私を慰める。
それかただ他人事だから楽しんでいるだけかもしれない。
私は深い溜め息を吐き出すと、今度会ったらちゃんと亀に謝らなきゃなぁと思った。
それかられいなが「アイスちょうだい」って言ってきたけど、内心ちょっとムカついていた
ので「そんなものはありません」と拒否した。


215 :すれ違いの一夜 :2010/07/12(月) 16:09
それから次の日、亀は本当に家にやってきた。
家のピンポンが鳴って私はいつものように少し駆け足で玄関に向かう、そしてすぐに
ドアを開けると予想はしていたけど亀だった。
もう見慣れた制服姿でいつもみたく呑気に笑っていた、その顔を見たら胸が締め付けられた
けど私はそれを罪悪感のせいにした。
他の理由があったにしても今はちょっと考えたくない。




「・・・・・・れいなから聞いてますよね?」
「うん」
「いやぁ、重い話ですいません。でもあんまり気にしないでくださいね、もう慣れましたから」



亀は笑っていた、でも本当に心から笑っているようには思えなかった。
だってその目が悲しそうに細まっているから。
亀が時々こうやって悲しそうに笑う度に私の胸が痛む、でも多分今日が一番胸の痛みが
ひどい気がする。
私はもうどんな言葉を掛けていいか分からなかった、でも何もしないのも嫌でとりあえず
今自分にできることをした。




「ごめんなさい!」
私は突然その場に座り込むと額が床につくくらい下げる、俗に言う土下座というやつをした。




「ちょ!ちょっと何してるんですか、ガキさん!?」
「本当にごめんなさい!全然亀の家の事情知らないのに勝手なこと言っちゃって」
「いや、そんなこと全然しなくていいですから!それにやられても逆に迷惑、というか
困るのでやめてください」
「でも今の私にはこれくらいしかできないから」



それから5分くらい揉めて、私はようやく頭を上げると亀はひどく疲れた顔をしていた。
こんなことで許してもらえるとは思っていないし、私の気もあまり晴れていない。
それでも亀が止めてくれと連呼するので仕方なく頭を上げた。

216 :すれ違いの一夜 :2010/07/12(月) 16:09
「そういえば・・・・・・これってこの前と逆ですね」
「えっ?」
「もう忘れちゃったんですか?この間玄関前で土下座したじゃないですか」
「あっ!そういえばそんなこともあったねぇ、っていうか本当に逆だし」
「はははっ、そうですね」



私達は顔を見合わせるとほぼ同時に笑い出した。
特に亀は余程ツボに入ったのか腹を抱えてしばらく笑っていた。
そのときの亀はもういつもの亀で、その顔にというかその笑みに悲しみは全く感じられ
なかった。
だから私はやっぱりバカみたいに亀は笑っている方がいいなと思った。




だってもう慣れたと亀は言ってたけど、でもいくら本当の家族じゃなくても毎日無視される
のは相当辛いことだと思う。
それでも普通に笑っている亀は本当に凄いと思うし、そこの部分に関しては少し尊敬する。
でも不意に亀は私のところへ逃げてきたんじゃないかと思った。
れいなと私と3人でくだらない話をしながら食べる夕食、でももしそれだけで亀の心を
少しでも軽くしているならムダじゃないなと思った。





そろそろれいなも来る頃だと思うので私はゆっくりと立ち上がると、夕飯の準備をしよう
と思いリビングへと向かう。
それからふと後ろに振り返ると、靴を脱いで揃えようとしている後姿の亀に声を掛ける。
「亀、今日も夕飯食べていくでしょ?」
「・・・・・・はい、頂きます!」
亀は満面の笑みで頷くと小走りで私のところへやってきて、甘えるように腕を絡めてくる。
とりあえず調子に乗りすぎなのでその頭を軽く叩いた。



217 :すれ違いの一夜 :2010/07/12(月) 16:11

218 :弦崎あるい :2010/07/12(月) 16:11

219 :弦崎あるい :2010/07/12(月) 16:11

220 :名無飼育さん :2010/08/06(金) 23:55
なるほど…
そんな亀にとってガキさんってどういうふうに見えてるのかなあ、と思ったり
れいなもいい味出してますね
221 :GAKILOVE :2010/10/31(日) 15:13
お久しぶりです!
いやあ 生きててよかった!!w
弦崎さんの書き物は本当に好物でして…

今回も楽しませていただきました
ガキカメももちろんだけど
れいなもなくてはならない存在ですね!

新着レスの表示


掲示板に戻る 全部 次100 最新50

現在のスレッドサイズ:170621 byte

名前:

read.cgi ver5.27 + 0.02 (04/08/03)