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作者フリー 短編用スレ 6集目

645 :天日干し :2008/03/30(日) 02:42


天日干し

646 :天日干し :2008/03/30(日) 02:43
カラン、とグラスの中の氷が音を立てた。
ストローが押されて揺れるのを、少し不思議な気持ちで眺めたあと、私は空を見上げた。
忘れているわけじゃないけど、その日差しのまっすぐさにさえ、ここは外国なんだと思う。

ウェイトレスがなにやら言いながら近づいて来て、
その手にしているものからおかわりはどうかと訊かれているのだと推測して「ノーサンキュー」を言った。
意思のソツウが成されているのか微妙な感じで彼女は去って行き、
だけどそんなことが意外と悪くない。
ここには誰もいない。"誰も"というと語弊があるけど、そんな気にさせてくれる。
私を私以上のものにしてしまう何かを、この穏やかな日差しと、それを邪魔しない乾いた風とが、
たっぷりと時間をかけて浄化してくれているようなイメージが身体を包んでいく。
まるで天日干しされた布団みたいに。
647 :天日干し :2008/03/30(日) 02:44
布団であるところの私は、今のところ毎日こうして、このカフェのオープン席に座っている。
まだL.Aに来て一週間くらいだから、これを習慣と呼んでいいのか知らない。
ただ、やらなきゃいけないことは山積みで、その合間として都合の良い場所がここだった。
それだけの理由でふらっと立ち寄っただけなのに、私は割合、この天日干し生活を気に入っている。
こういう場所ではめずらしい木製の重いイスも、干されるのに快適だし、
同じデザインのテーブルも、出される紅茶も、
ノーサンキューで済ませてくれるウェイトレスだって悪くない。
欲をいえば雨よけはもうちょっと長いほうがいいし、色味ももうちょっと抑えてくれれば完璧。
だけどなにより、風景がここを特別にしている。
648 :天日干し :2008/03/30(日) 02:45
活気溢れるビジネス街でもなければ、緑の多い落ち着いた場所でもない。
それなりに人が歩いていて、それなりに高いビルがあり、
それなり車通りがあって、それなりに自然が目についたりする。
つまり、ここには生活の匂いがある。

「後藤真希さんに似てますよね」
そう声かけられたのは昨日のこと。それもここで。
「よく言われます」
そう返したのも昨日のこと。もちろんここで。
649 :天日干し :2008/03/30(日) 02:46
それすらもここでは生活の一部。
芸能人としてでなく、芸能人のプライベート時間としてでなく、ただの生活としての会話。
元々こういうことを言われるのは好きでも嫌いでもなかったけれど、
純粋に楽しめたのは久しぶりだった。ような気がする。
そんなこといちいち考えないけど、なんとなく、ぼんやりとそんなことを思う。

後藤真希。マキ・ゴトゥ。このカフェで練習してる英語ふうに発音してみる。
生まれた瞬間からそう呼ばれている。大切だけど、守るものとは違う。
650 :天日干し :2008/03/30(日) 02:47
時間だった。
天日干し完了。私は立ち上がり、ウェイトレスに合図を送った。
これから一日、色々なトレーニングをする。
ほんの少しずつ、自分の中の何かが変わっていくのを発見する。
それが単純に嬉しいし、楽しい。
君の人生は幸運続きだね、と言われていた頃、それを否定するチカラがなかった。
君の人生は不幸なことになってしまったね、と言われる今、私はそれを否定しようと思う。
651 :天日干し :2008/03/30(日) 02:48
飲み物の料金と、少しのチップを支払ったあとで、
彼女の「サンキュー」に対してこちらも「サンキュー」を重ねた。
「ユアウェルカム」はおかしい気がしてのことだけど、
意思のソツウが成されたのかどうか、今日はまだ微妙な感じだった。
652 :天日干し :2008/03/30(日) 02:48


『天日干し』 おしまい


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