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作者フリー 曲を題材にしたスレ

1 : :2006/10/15(日) 22:30
このスレッドは作者フリーのスレッドです。
作者さんはもちろん気が向いた読者さん、どなたが書かれてもかまいません

曲を題材に曲にあった作品を投稿して下さい
投稿の際必ず完結させた上で、一気にお願いします
レス数はいくらでもかまいません
名前欄には『タイトル(曲名)』か『ハンドルネーム』で
話が終わった時には『終わり』もしくは『END』と記載してください
後書きなどは1レスで
感想、感想への返レスはこのスレに直接どうぞ
332 :The Monster Under the Eaves :2013/05/12(日) 00:57
 * *

僕は足を滑らせ、一面氷のプールに落ちた。
ステージ脇では、眉間に皺を寄せ怒りを露にした、鞭打つ団長
ずぶぬれの姿を見て、観客は手を叩いて大笑い。
君はつられて笑ってくれるから、それでよしとしよう
たとえ隣に座る誰かの腕に、寄り添いながら見ていたとしても。
さぁさ、次はこの踊りを見ておくれと
大きな玉に乗って、クラブの本数を増やし、高く投げ、回したり
いくつもカードを、ポケットから必死に探し投げかける。
最後、高く放り投げたボールが、見事頭にこつりと命中。
観客には大うけだ。
 
333 :The :2013/05/12(日) 00:58
*

再開発が進むこの町は、君にとって懐かしいところになっているようで
通っていたコーヒーショップじゃなく
ここでいいよと、適当に選んで入ったこの店の席に着くまで
細い首を振って、ずっと見渡していたね。

煙に巻きつかれることも平気になって、気に留めることもない。
穏やかに、柔らかく笑って
濁った甘めのコーヒーが入った、君の顔を隠す大きな白いカップを持つ手。
大切な指に引っかり、僕から守るように睨み続ける、ナイト気取りのリング。
ソイツを傷つけないよう指先だけで持ったカップを、そっと置く君は
他愛ない会話で、ごく自然に、穏やかな時間を生み出す。

 どうしてた? 代わらないよね
 うれしいよ。相変わらずだね

くるくる回るような笑顔を見せる君の顔を、まっすぐ見られずに
理由をつけて、まぶたを伏せる瞬間、ちらりこの目に映しだす。
何度も繰り返せば、今日と言う君を大きく出来るから。

どの言葉も、視線だって、僕に向けられている。
この時間だけは、独占できている。
アレを渡した顔も知らないヤツを、お返しとばかり見下しながら
口に合わない飲み物が揺れるグラスを持つ手で、したり顔を隠す。
334 :The Monster Under the Eaves :2013/05/12(日) 00:59
 なかなか会えなくてね
 忙しいから仕方ないんだけど、つまんないよね

その言葉で体を震わせ、気づかれないよう俯き大きく目を見開いた。
君にばれぬように。
恐る恐る顔を上げると、窓の外を見つめ話を続けてるけれど
コーヒーから漂っていた湯気みたいに揺れる視線が
君には似合わないウソだったんだと気づき
唇をかみ締めて、溶けかけの氷を乱暴にストローでかき混ぜる。
そんなこと、みじんにも思っていないんだろう?
ヤツを思い、馳せめぐらせてるように見えるから。
いや、そうに決まってる。
こちらを気にせず、頬杖をついた横顔の君は、曖昧な返事をするだけ。

互いが抱く気持ちは、まったく正反対だけれど
この大切な時間に、僕たちは同じ人を思っているだなんて。
なにをすれば、君は僕を見てくれる?
僕ならば、僕なら君を……
「ねぇ」と呼びかけるために、息を吸い込めば
僕を動けなくするあの指輪に、また強く睨まれた。
335 :The Monster Under the Eaves :2013/05/12(日) 00:59
 * *

失敗続きの僕に業を煮やした団長は
客を呼び込めと、外に放り出した。
風船を配る温度のないクマから目をそらせば
天幕からの、空中ブランコを成功させたマドンナへの歓声が聞こえ
僕をさらに卑屈にさせる。
近づくクマは、そんな日もあるさと、肩に置こうとするけれど
お前なんかの慰めなど必要ない。僕はお前たち端役とは違うんだ。
全て思い通り。それが僕の役目と、分厚い茶色の手を払いのけ
きつくこぶしを作り、またテントの中に戻る。
今日は。今日こそは
336 :The Monster Under the Eaves :2013/05/12(日) 01:00
 *

「ほら見て、これ可愛くない?」

ガラスに張り付くようにして、見つめる君の目が
無邪気にまばゆく光る。
見れば、君の趣味とは真反対なはずのものたち。
中でもハートのバルーンにぶら下がる、クマのぬいぐるみを指差し、そう言った。
あんなにも、"そういう事はウソっぽい"と嫌がっていたのに
君は窮屈すぎるこの町から出て、いつのまにか器用になってしまったんだね。

横に立つ君の足元から、じっと見上げる。
そんなヒール持ってたっけ。
その服は、大きな街へと移り住んでから買ったもの?
“いつ”の君が本当か分からない。
もしかして、僕が嘘をついているの? と勘違いしてしまいそうなほど
君にお似合いの漆黒が美しい、真っ白な嘘。
337 :The Monster Under the Eaves :2013/05/12(日) 01:00
「どうしたの? 行こうよ」

姿を表し始めた、君の変化に似合いの言葉をかき消していると
遠くで呼ぶ声に顔を上げ、駆け寄る。
今また、きちんと僕は君の中にいるんだ。だから、大丈夫と
胸のざわめきを隠すフリして、襟を正す。

「気に入ったの?」

首を横に振れば「やっぱりおそろいだね」と言って、君は笑う。
ね? ほら、この通り。
338 :The Monster Under the Eaves :2013/05/12(日) 01:01
なのに、気づけば3歩、4歩と、遅れを取ってしまう。
少し先を行く君は、隣に居ない僕にようやく気づき立ち止まり
ごめんと謝ることが、すっかり暗くなるまで、何度あっただろうか。

あの日、町を出る君と別れを告げ、居なくなっても
こうして時折舞い戻り、幸せそうに笑んでくれれば
いつまでも居られると、信じていたけれど
それはただの独りよがり。
君は、僕のような端役じゃないし
この夜は、僕に用意されたものではないんだ。
339 :The Monster Under the Eaves :2013/05/12(日) 01:02
 *

「ねぇ、どうしたの?」
「……え?」
「今日、もしかして都合悪かった?」

人もまばらな駅構内。
終電間際まで付き合ってもらって、と君は僕を気遣う。
うつむいた顔に長い髪がかかり、言葉がどれほどの温度か伺えない。
こんな間近で見たのは、久しぶりな気がした。

あの頃はこうじゃなかった
ただ僕の空回り、一人遊びだと。
ソレでよかった。構わなかった。
五感、六感全てを君だけに集中させていた。
君の視線を集めるためなら、どんなコトだってしたし
煩わせないように、胸の底が外れて落ちてもなお
ずっと奥に押し込んで。
それでも良かったんだ
340 :The Monster Under the Eaves :2013/05/12(日) 01:02
いつからだろう
タバコと甘いコーヒー、歩幅、憂う横顔と、磨かれたリング
細い肩に顎を乗せて、今の君全部を作り出したヤツが
笑顔の君を、後ろから抱きしめ捕らえて、ようやく姿を現し
鼻で笑いながら、僕に向かってこう言った。
――お前じゃ、役不足だろう?
僕がこの町から送り出した時の君は、もういない
君は、いないんだ

引きとめたくて、その名前を呼ぼうと、うっすら唇を開いても
木々の葉がしていたコソコソ話を、ざっと強い風が抜け大きくしていくから
僕がいつづけるこの町では、きつくかみ締め血を滲ませながらも
黙って笑んでいるしかない。
ましてや手に触れたり、抱きしめたりなんて出来やしない。
これはただ、別れを惜しむお見送り。
僕にとっては、永遠のお見送り。
341 :The Monster Under the Eaves :2013/05/12(日) 01:02
「また、遊んでね」
「うん……」

何本目かの電車が連れてきた風が、さっさと帰れと、僕の背を押すから
遠慮がちに言った君に背を向け、もつれる足で歩き出す。

共に過ごした時が染み付いてはなれない。
何年、何十年経ったところで
君に合わせることを、決してやめようとしないのだから
だって僕は君を、君の事を
342 :The Monster Under the Eaves :2013/05/12(日) 01:03
「……す……」

一生、僕の口からは音に出来ない
君のためだけにある言葉を飲み込んで
明るいエレベーターに逃げ込んだ。
震える僕は、こんな醜い姿は見たくないと壁にもたれ
はっきりと映し出す鏡から姿を消すけれど
視線を落とした冷たく白い手が、細かに震えはじめる。
必死に握り締め、止めようとしても、大きくなるばかり
それどころか、カラカラに干からびていく。
怖くなって返し、手のかたち全てを、この目で捉えるよりも早く
管や筋が張り出し、朽ち果て、砂の城のように、グズグズと崩れ落ちた。
粉々になった僕だったものを乗せたこの箱は、どこに連れて行くんだろう

素敵な笑顔と、向けられた優しい気持ち
朗らかに笑い、頼りないこの肩に触れ、言葉を時間を共有しようとしてくれる
そんな君を思い出し、汚し何度も犯してしまうから
僕は、決して天には行けない
だから、目を開けているのか、閉じているのか
前か後ろか、立っているのかどうかさえも分からない、誰の目にも触れないよう
忘れられるほどの、ずっと深い場所へ、この際落としてほしい。
343 :The Monster Under the Eaves :2013/05/12(日) 01:03
僕の両親や、君たちのように認められたカンケイで
多くの人から祝福されることが、完成された姿だったとしたら僕は
ガラクタの、ごみクズだ。
普通が幸せなら、僕は幸せじゃない
なれもしないだろう?

おかしいかい、さあ笑え。
哀れんで、見下して、拒んで
自分たちは普通で良かったねと、手を叩いて笑えばいい。
こんな僕は君と、同じ天秤に乗ることさえも許されない
だから、嘘と言う鋲だらけの言葉を、何度も吐き出し、笑うんだ。
その度走る痛みが強く、流す血が濃いほど
君への罪滅ぼしになると思うから……
344 :The Monster Under the Eaves :2013/05/12(日) 01:04
 *

君を乗せただろう鉄の塊は、アイツの元へ返すために
高笑いしながら頭上を通り過ぎた。
ぬるいアスファルトを行く、歩みを止めれば
震える唇、まぶたから溢れ出ようとする存在の名前を知る。
だって、分かってしまったんだ。

許しがほしいわけじゃない
笑顔も、言葉も、伝える術も、要らない
気遣いも、時間も、受け入れられる環境も
そんなもの、何一つ、意味がない。
ほしいものは、たった一つなんだと

「うぅっ……っくぅっ……」

しずくが伝う唇では、上手く君の名前を刻めない。
背後に立つ、白塗りの僕に冷たく見下ろされても
堪えられないと、さっき名を知ったものが一つ二つ
次第に列になり、零れ落ち始める。
泣き崩れた僕に、誰も居ない交差点の、点滅信号が降り注ぐ。
345 :The Monster Under the Eaves :2013/05/12(日) 01:05
君を悩ませたりしない
僕だったら、君を幸せに出来る
君をいつだって笑顔に出来る
"僕"ならば、君を抱きしめられ、る?

「だい……き……よ……」

分かってた
自分で選んだ道だからと、居直ることも、誇ることも
僕には到底出来そうも無い
伝えたい言葉を乗せたこの涙を川にして、一緒に排水溝へ流し込めば
いずれ海に行き、君の体に取り込まれる。
だから僕は幸せなのだと思うほど、せこくて惨めったらしいんだから。
今だってそうだ。
何処かにいるアイツを、本当は羨んでる。
その横で楽しそうに笑う君さえも、憎んでる
憎んでるよ……
346 :The Monster Under the Eaves :2013/05/12(日) 01:06
それでも、この気持ちを、消したり出来ない
僕は
僕で居る事を選び、君と居る事を求めてしまって……


どうぞ皆さん、大いに笑ってください。
これが僕の役目です
この小さなテントの中で、いつまでも舞い続ける。
頬にある水色の涙はただのメイク。
どれほどこぼしたところで、この化粧を取るわけにはいかない。
そうだ、僕は天性のうそつきじゃないか
人を笑わせるために、うそをつきつづける
なのに、君を見つけてしまって
いつのまにか抜け殻になり、ぬくもりが消えているだろう席に座っていた
いとしい人の名前を叫んでしまいそうで
このままじゃ笑われることが生業の僕は、お払い箱だと、降ろされてしまう。
347 :The Monster Under the Eaves :2013/05/12(日) 01:06
ならば最後に取っておきを披露します。
これにて舞台は幕引き。
今まで一度も成功したことはありません。
いつも失敗ばかりのおどけ役が、命綱無しの空中ショーをご覧にいれてみせましょう。
高みから下に見える、大きな輪のなかへ飛び込んだ後
僕はどこにも居ない、消えてなくなる大技です。

晴れの舞台で、初めてのスポットライト。
高みへと連れて行く大きなはしごは、僕と君の色をした横断歩道
確かな足取りで、一歩ずつ上がる笑われ者だった僕を
観客は、固唾を呑んで見守る。
348 :The Monster Under the Eaves :2013/05/12(日) 01:08
ありがとう、ありがとう。
超満員の観客席に笑顔で手を振り続ける。
さようなら、さようなら。
最後くらいは盛大に、ドラムロールを鳴らしてください

大きなクラクションがそれに答え
滲む視界の遠くで見えていた2つのLEDライトが、猛スピードでやってくる。
見上げる空に、大きな街では見えないだろう、たくさんの星が煌く。
こんなことなら
声にして君を呼べばよかったかな

ちらり見た44列目。
ぽかんと一つだけ空席になった、君がいたはずのところをじっと見つめ
最後の段に足をかけ、その時を待つ。
目を閉じていれば怖くない。
僕は消えてなくなるだけ。
薄汚れたフロア近くにある、大きな輪に向かって
笑みながら、高みから身を投げようと
震える手をそっと離し、足を踏み出した。

さよなら
ありがとう
……よ……す……

全ての音が、止まった




「梨華ちゃん!」
349 :The Monster Under the Eaves :2013/05/12(日) 01:09
がくんと体が崩れ、景色が歪む。
通り過ぎた白い車は、怒りに任せるよう
静かな町をホーンで切り裂き、さらに加速して過ぎ去っていく。
間違いなく僕の背を押してくれようとしていたけれど
振り返り見れば、あの席から立ち上がったはずの
高いところが苦手だと言っていた君の、大き手がこの腕を力強く引いた。
華々しいさいごを飾るつもりだったのに……。

「よっすぃ〜……」
「なにやってんだよ!」

一歩違えば、君もおちてしまうかもしれないというのに
こんな僕を、いつまでも離そうとしない。
枝のように白く細い指が、腕に跡をつける。
350 :The Monster Under the Eaves :2013/05/12(日) 01:09
「なん、で……」
「なんか、様子、変だと、思ったから、追っかけて、きたんだよ」
「どうし……」
「危ないだろ!?」

肩で息をしているのは、走ってきたから?
それとも振り下ろされそうになった、僕を連れ去る恐怖から救ってくれたから……?
腕を掴む大きな手にこめられた力と
心配と、怒りと、不安を抱き合わせた、まっすぐ向けられた大きな目に
諦めた顔の"あたし"と、"僕"でいなくてもいい理由が
ほんの一瞬だけで、見えて
通り過ぎていった車のクラクションにも負けないくらい
驚くほど大きな声で泣いたんだ。
351 :The Monster Under the Eaves :2013/05/12(日) 01:10
「梨華ちゃん!?」

分かってる
分かってた
あたしはあなたの名前を呼ぶこと、隣にいることもできない
芽生えた気持ちは、打ち明けることも、消すことも出来ない
ねぇお願いだから、あたしの傍に居てと、言うことも

「梨華ちゃんって、何があったの?」
「っすぃ、よっすぃー!!」
「ねぇ、ちょっと、マジどうしたの?」

僕ならば、出来る?
アイツみたいに、"僕"だったら、出来た?
頭に乗った三日月形の帽子を、諦めたように脱いで
半分メイクがはがれた冷めた目の僕が、こんなあたしを見て
蔑みながら鼻で笑い、姿を消した。

意気地なし――

 
352 :The Monster Under the Eaves :2013/05/12(日) 01:10
暗くなったテント小屋は
街灯揺れる君のいない小さな町の、見慣れた交差点。
赤と黄色を繰り返す信号機の真下で、抱きしめられても
僅かに空いたあなたとの隙間が
明日になればまた、厚塗りの化粧をし、道化た僕に戻るしかない
明らかな証拠

しにぞこないのあたしは、あなたからの僅かなもので毎日を繋いでる。
熱を持つアイツからのリングに引導を渡され、いい加減切り離そうと思い
笑顔で見送って、飛び出しても、それを許さない
それどころか、背中を撫でる大きな手は、あいつが教えたんだろう慣れた優しさで
あたしをさらに惨めにする。
止めを刺さない純粋なあなたの胸を、拳で何度も叩きつけた。
353 :The Monster Under the Eaves :2013/05/12(日) 01:11
「ねぇ、梨華ちゃん……ねぇってば」
「よっすぃー、よっすぃー!」

檻の中で出番を待つ、恐ろしい動物のように
心の口では、大声上げて、ずっと叫んでいる
出会ってから、もうずっと。
こんな苦しいのなら、生まれなきゃ、生み出さなきゃよかった。
気づかなければ、幸せだった。

あなたの前で初めて泣きじゃくるあたしの腕を
涙が滝になって流れていく。
あなたの名を叫びながら、切れ切れの言葉がめぐる。

 あなたのことを、いつまでも
 これからもずっと、大好きなんだ――
 
354 :The Monster Under the Eaves :2013/05/12(日) 01:11
 
そんなこと、当然だけど、言えるはずがなかった。
 
355 :The Monster Under the Eaves :2013/05/12(日) 01:12
『軒下のモンスター』 END
356 :ラストオーダー :2013/06/10(月) 23:06
事務所から徒歩ですぐそばの場所に位置するレストラン。
完全予約制なので、お客はまばらだ。

そこで私はじっと待ち続けていた。
孤独に耐えながら。
ただ一人、あの子の事を。
357 :ラストオーダー :2013/06/10(月) 23:08

チリン。

「っ!?」

ドアベルが鳴り響く涼やかな音が届く度、入り口に目を向けてしまう。
まるで条件反射みたいに。
あの子が来てくれたんじゃないかって、今でも微かな期待を抱いてしまう。

いつも、みーよは息を急き切ってこの店の中に駆け込んで来た。
約束の時間まで余裕はたっぷりあるのに。
そう。
みーよは一度たりともデートに遅刻した事なんてなかった。
358 :ラストオーダー :2013/06/10(月) 23:09

携帯を取り出し、時刻を確認する。

約束の時間を一時間過ぎていた。

……もう、みーよは来ない。

当たり前だ。
私とみーよの関係はもう終わったんだから。
でも……一縷の望みにさえすがりたくなってしまう。

「約束……したじゃない……二人の記念日は、大切にしようって」

思えば……
お互いの誕生日や大切な記念日は、必ず決まった時間に待ち合わせして、
この場所でお祝いしたんだよね……。
359 :ラストオーダー :2013/06/10(月) 23:10
...

一年前……。

「「カンパーイ」」

薄いグラスの縁を重ね合わせてから、シャンパンを口に含む。
私達が付き合って一年の記念日……
みーよは一つの区切りとして、お祝いしたいと言ってくれた。
こんな催しは初めてだったから、否が応にも心が弾む。
360 :ラストオーダー :2013/06/10(月) 23:11
「それにしても……カップルって、こういうお祝い事もするんだね」
「え? 普通じゃないですか?」
みーよは心底驚いたように目を見開いた。

「普通なの?」
「……保田さんってこれまで、恋人同士の楽しいイベントごと、
ほとんどスルーしちゃってたんですね」
「わ、悪かったわね。今までそういう段階までいかなかったの!」
「ふふっ……ごめんなさい、冗談ですよ。
これからいっぱい、いっぱい、私と素敵な思い出作りましょうね」
「うん。楽しみ! みーよとならたくさん楽しい思い出作れそう」
361 :ラストオーダー :2013/06/10(月) 23:11
...

ねえ。みーよ。
あの言葉は嘘だったの?

「みーよ……覚えてる? あの日から、ちょうど一年だよ。
今日で……二年だったんだよ……」

みーよはもうここには姿を現さない。
頭では理解していても、私の足は縫い止められたように動かない。
362 :ラストオーダー :2013/06/10(月) 23:12
大きく変わってしまった未来。
一年前の今日。
一年後も、みーよといられたらいいと強く願ったのに。

どうしてこうなってしまったんだろう。
みーよが私から離れていく事なんて考えられなかったはずなのに。

……ううん、予兆はあった。
私と同じ時間を過ごすにつれて、みーよが時折
苦しそうな表情をするようになった。
みーよが一体何を抱えているのか、何に怯えているのか……
私はあえて訊ねる事をしなかった。

怖かった。
それに触れたら、今までみーよと築いてきたものが
崩れ去ってしまいそうで。
363 :ラストオーダー :2013/06/10(月) 23:13
...

「……保田さん、私の事、好きですか?」

いつしか、みーよは体だけじゃなくて、
何度も言葉で愛情を確かめるようになった。
それが少しでも私と繋がれる手段なんだとでも言うように。

「当たり前じゃん。みーよったら、どうしてそんな事聞くの?」

何気ない風を装って笑顔を返した直後、視界が覆われた。

「……」
「っみー……よ?」

「……すみません。私、ちょっと過敏になってるかもしれない」
「みーよ、一体どうし……」
「もう……何も言わないで。
お願い……しばらく、こうさせていて下さい」
364 :ラストオーダー :2013/06/10(月) 23:14
...

痣が残るほどに強く抱きしめられたあの時。
自分の心臓が止まっていたら……
今、こんなやるせない気持ちを抱えなくて済んだの?

「……無理だよ」

一瞬だけ脳裏に浮かんだ可能性を、頭を振って打ち消す。
365 :ラストオーダー :2013/06/10(月) 23:16
私は弱い。
結局は自分の身が一番かわいい。
他人の目に自分がどう映っているか気になってしょうがない。
みーよの為に全てを捨てる覚悟なんてない。
自分をおとしめる事だってできない。
誰かに支えてもらわないと生きていけないちっぽけな人間。
一人にはなりたくないの。

お互いに別々の道を歩まなくちゃいけなくなっても……
どんなに無様でも、私はみーよとの思い出を抱いて生きていく事を選ぶ。

だから、今日で終わらせるの。
みーよと過ごしたかけがえのない日々を、思い出に変える為に。
大切な場所で、この恋に終止符を打つんだ。
366 :ラストオーダー :2013/06/10(月) 23:17
...

みーよが私から離れていったあの日。
あの時も……小さなベッドの中で、私達は
身を寄せ合ってひとつになった。
柔らかいみーよの肌を感じ、私は確かに幸せを噛み締めていた。
彼女の温もりを絶対に手放したくないと切望しながら。

「ねえ、保田さん」
「なに? みーよ」
「私は保田さんの特別に……唯一の存在になりたかった。
保田さんが、私じゃなきゃダメだって思えるくらい。
私さえいれば、他に何も必要ないって言えるくらい」
「みー……よ……?」
367 :ラストオーダー :2013/06/10(月) 23:17
「……そんな事、保田さんはとてもじゃないけど思えないでしょう?」
「……っ……」

みーよの瞳に射抜かれて気付いたんだ。
自分がどれほど中途半端な気持ちでみーよと向き合っていたか。
368 :ラストオーダー :2013/06/10(月) 23:18
みーよが愛しい。
みーよが可愛い。
全部私の偽りのない気持ち。

なのに、それを言葉にする事ができない。

早く何か言わなきゃ。
ちゃんと答えなきゃ。

言いようのない焦燥感に駆られる。
焦れば焦るほど、唇がわななき、弱々しい吐息が漏れ出る。
言葉を継ごうとしても、声にならない。
いや、もしも何か口にできたとしても、
今はそれさえ嘘になりそうな気がした。
369 :ラストオーダー :2013/06/10(月) 23:18
「……ふ……」

一言も発する事ができない私の代わりに、みーよの唇から
諦めたような小さなため息が漏れた。

「……無理、しなくていいですよ保田さん。
分かってます。私は全部分かってますから」
370 :ラストオーダー :2013/06/10(月) 23:19
ベッドのスプリングが軽く軋んだ音がした。

視線を移すと、みーよがベッドから立ち上がり、
床に散らばった自分の服を拾っている。

「みー……」
「……それじゃあ」

いや……待って!
371 :ラストオーダー :2013/06/10(月) 23:20
「みー、よ……っ」

動け……動いて!!

追いかけなきゃ……
今呼び止めなきゃ、きっともう二度とみーよは私の手に届かない。
なのに……頭がいくら「動け」と指令を下しても、
金縛りに遭ったかのように、指先一本動かせなかった。
372 :ラストオーダー :2013/06/10(月) 23:20
みーよはもう服を整え、扉に手をかけていた。

みーよが行ってしまう。
私をたった一人残して。

みーよ……
みーよ!
愛してるのに!
こんなに愛してるのに!!
373 :ラストオーダー :2013/06/10(月) 23:21
見開いた瞳からはとめどなく涙が溢れ出る。
だけどもう、みーよはこの涙を優しく拭ってはくれない。

「ーーっ!」

声にならない悲痛な叫びは、みーよにはもう届かなかった。
374 :ラストオーダー :2013/06/10(月) 23:22
...

あの時、みーよに愛してると言えていたら……
私は一人でここにはいなかったのだろうか。

今だってこんなにも辛くて、胸は張り裂けそうなのに……
涙すら出ないのは何故?
私にとって、この世の全てだったあの子を失ったのに。

……幸せは長くは続かないって……
一番大好きな人とは結ばれないって、最初から分かってたから?
375 :ラストオーダー :2013/06/10(月) 23:22
「……所詮、こんなものなのかな」

不思議。
あんなにも大切で、これ以上ないと思った恋だったのに。
所詮という一言を使うだけで、
一気にそのものの価値が下がる気がする。
376 :ラストオーダー :2013/06/10(月) 23:23
どんなにどんなに 想っても
私達は背中合わせの恋
誰にも知られずひっそりとはじまって
終わる運命

祈りのようにあなたを呼ぶ声も
もう届かない
あぁ、確かな事は すべては過去の出来事

目隠しをはずすように光る 夜の街並み
ホントはずっと 一緒にいたかった
377 :ラストオーダー :2013/06/10(月) 23:24
...

グラスの氷は完全に溶けていた。
きっともうかなりの時間が経過しているんだろう。
けれども私は未だ動く気にもなれずに、ただそれをじっと見つめている。

その時。突然、テーブルにふっと影が差した。

「……圭ちゃん、大丈夫?」
「ようちゃん……」

緩慢な動きで顔を上げると、この店のオーナーが
心配そうに私を覗き込んでいる。

もう……潮時かな。
378 :ラストオーダー :2013/06/10(月) 23:25
「……。ごめんね、付き合わせちゃって。
もう、いいよ。お店閉めても大丈夫だから」
「……いいんだね。本当に」
「うん……私はもう、待つ事はやめたの」

口ではそう言っても、私の心はまだみーよを求めてる。
この恋を忘れる為には、きっと私は果てしない時間を
費やさないといけないのだろう。
どれほどの痛みが胸を突き刺そうとも……そ
れでも、前に進むしかない。
私にはもう、他に残された道はないから。
379 :ラストオーダー :2013/06/10(月) 23:25
だけど、本当は……どうしても最後に伝えたい事があった。
この言葉は、きっと二度と彼女には届かないと分かっていても。

みーよ……。
“こんな不器用な生き方しかできない私を愛してくれて……ありがとう”
380 :ラストオーダー :2013/06/10(月) 23:26
あなたが好きだと言っていた
よわい私 私はきらい やだ
ふたりでいるのにさみしいなんて
バカな恋 やっと終われる
そして私はただの女になる
いつかのように
「あぁ、これでよかった」
夢をみてしまう前に
381 :ラストオーダー :2013/06/10(月) 23:27
「ラストオーダー」
おわり

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