■掲示板に戻る■ 全部 1- 最新50

LIVE AGAIN〜孤独に怯えた桃子が優しさに溢れるまで

1 :セル :2017/12/28(木) 23:57
作者:セル
出演:桃子
千奈美
梨沙
舞美
俺 他
※この作品はフィクションです。
2 :セル :2017/12/28(木) 23:59
けっきょくまた書いてしまいました。
どうしてもももちから卒業できない私ですが、
おつきあいいただけると嬉しいです。
年明けから順次書く予定です。
3 :セル :2018/01/05(金) 23:00
開演前の雨が嘘のように晴れ渡った空。
月齢6日の月が、西南西の低い位置から会場を照らす中、
ファンからの愛を受信するアンテナを、そっとしまった桃子。
数日間の休養を終え、彼女は既に次の目標に向け始動していた。
いや、芸能界引退前から、忙しい仕事の合間を縫って準備をしていたので、
再始動といったほうが正確だった。

誘惑の多い自宅を離れ、図書館やファミレスで勉強にいそしむ桃子。
週一の割合で、大学生時代のゼミ仲間と勉強を共にした。
このゼミ仲間は、桃子の同級生で、卒業後に就職したが、
さらにスキルアップしたいという思いから退職し、今は入試に向けて勉強中だった。
くしくも、第一志望は桃子と同じ大学院で、仲間であると同時にライバルでもあり、
お互いに、良い刺激になっていた。
4 :セル :2018/01/05(金) 23:02
勉強は深夜に及ぶこともあり、そのときは心配した母親も合流した。
「私、もう子供じゃないよ。」
「お母さんからしたら、あなたはずっと子供なの。」
「恥ずかしいよ。」
そう言いながら、桃子は嬉しそうに笑みを浮かべた。
7年前とは異なる勉強内容に、若干の戸惑いはあったものの、
何事も計画的な彼女に抜かりはない。
はずだった。
桃子は、第一志望の院試に失敗した。
5 :セル :2018/01/05(金) 23:02
引退から試験日までの準備時間が足りなかった?
いや、それは関係ない。
桃子が通っていた大学の大学院には、
希望する幼児教育に関する専攻がなかった。
そのため、恩師の薦めた他大学の修士課程を受験した。
だが、学部学生として通った大学よりも、はるかに難しい難関校。
さらに、学内から修士課程へと進学を希望する学生も多数いた。
勉強量や実力で劣っていわたけではない。
しかし、大学が持つ個性という面で、それを知らない桃子はハンデを負っていた。
合格者との差は、わずかであった。

合格できなかったことについて、言い訳はしなかった。
これが自分の実力だと、家族に詫びた。
浪人して、次の機会を狙うという選択肢もあった。
だが、勉強に付き合ってくれた母親や、支えてくれた父と弟に対する自責の念、
さらには、年齢のこともあり、第二志望校へ進学する道を選んだ。
6 :セル :2018/01/05(金) 23:04
ビジュアルもいいし、愛嬌もあるし、運も持っている。
友人も知人も、お世話になった先生もいない大学院。
そんな環境でも、自分はきっとうまくやっていける。
桃子は、そう信じていた。
アイドルということもあって、学部学生の頃は、進んで友達を作ろうとはしなかった。
でも、今はもう違う。積極的に自分から話しかけるように努めた。

「嗣永桃子です。よろしくお願いします。」
「おぉ!」
どよめきが起こった一方、冷めた視線も桃子を凝視していた。
「ももち!」
一部の同級生や先輩は、そう呼んだ。
「もう、アイドルじゃないんだけれどな。」
桃子は、そう呼ばれることに抵抗があった。
しかし、雰囲気を悪くしたくないと思い、桃子はそれを受け入れた。
だが、一部以外の同級生や先輩は、それを苦々しく感じていた。
7 :セル :2018/01/05(金) 23:05
いちど根付いたイメージほど怖いものはなかった。
「キャラがウザい」
「頭がいいわけじゃないのに、先生にかわいがられている」
「『元アイドルに話しかけられて嬉しいでしょ。』と言わんがばかりの態度がイヤ」
「大してかわいくもないくせに、元アイドルだからって偉そうにしてる」
無論、桃子はそんな態度は取っていなかった。
しかし、特定の男性陣が桃子をチヤホヤしたこともあり、
それをやっかまれ、さらに敬遠され、状況は悪化の一途をたどっていた。
8 :セル :2018/01/05(金) 23:07
気が付くと、自分の周りは、
距離を置くか、付きまとうかの、両極端に分かれていた。
パワハラまがいに、異常にきつく当たってくる人もいた。
お金を持っているんだろうと、たかってくる人もいた。
色目を使ってくる人もいた。しかも、それは男性に限らなかった。
大学院に進学したはずなのに、勉強をするという環境ではなくなりつつあった。

そんなとき、専攻の懇親会に誘われたので、状況を変えるチャンスだと思い参加した。
しかし、酔った上級生に暴言を吐かれた。
「そうだそうだ!」と追随する同級生までいた。
桃子はぐっとこらえながら、
「そんなこと、おっしゃらずに。」と、ビールを注ごうとするも、
「おまえの酒なんか、まずくて飲めないよ。」と、拒否された。
「お酒の席での話だから。」
桃子は、そう自分に言い聞かせて耐え続けた。
「気にするなよ。」と、慰めてくれる人も、もちろんいた。
だが帰り道、慰めてくれた男性の1人に、ホテルへ連れ込まれそうになった。
桃子は泣きそうになりながら、必死に走って逃げた。
新月の夜、都会の空は一等星ですら弱々しく、暗闇の中に埋没しかけていた。

<つづく>
9 :セル :2018/01/07(日) 22:21
<つづき>

人間関係の悩みだけであれば、なんとかなったかもしれない。
しかし、人間関係に端を欲する動揺は、
研究にも支障をきたし始め、桃子を追い詰めた。
「なんで、こんなこともできないんだろう。」
なにをやってもうまくいかず、常に自分を責めるようになっていた。
桃子の精神の歯車は、少しずつ確実に狂い始めていた。
10 :セル :2018/01/07(日) 22:23
「みんな、今ごろどうしてるんだろう。」
かつての仲間の顔が、次々と思い浮かんだ。
同期も後輩も、芸能界で順調に活躍し、
また、新たなことに挑戦して、充実した毎日を送っていた。
学部時代の指導教員は、いろいろと気にかけてくれたが、
それも、気休め程度にしかならなかった。

一緒に受験したゼミの同期とは、入学後も連絡を取り合っていた。
研究内容や大学院の雰囲気など、いろいろと情報交換をした。
「参考になるわ〜。」
当初はそう思っていた桃子だったが、いつしか同期からメッセージが、
自分を見下しているように思え始めた。
どんな話をされても、なにか自慢話のように聞こえた。
同期は、第一志望に合格していた。
「あの子が受けていなかったら、きっと私が合格してたのに。」
桃子は卑屈になり始めていた。周りのすべてが敵に見え始めていた。
11 :セル :2018/01/07(日) 22:24
「みんな、今ごろどうしてるんだろう。」
かつての仲間の顔が、次々と思い浮かんだ。
同期も後輩も、芸能界で順調に活躍し、
また、新たなことに挑戦して、充実した毎日を送っていた。
学部時代の指導教員は、いろいろと気にかけてくれたが、
それも、気休め程度にしかならなかった。

一緒に受験したゼミの同期とは、入学後も連絡を取り合っていた。
研究内容や大学院の雰囲気など、いろいろと情報交換をした。
「参考になるわ〜。」
当初はそう思っていた桃子だったが、いつしか同期からメッセージが、
自分を見下しているように思え始めた。
どんな話をされても、なにか自慢話のように聞こえた。
同期は、第一志望に合格していた。
「あの子が受けていなかったら、きっと私が合格してたのに。」
桃子は卑屈になり始めていた。周りのすべてが敵に見え始めていた。
12 :セル :2018/01/07(日) 22:25
「行ってきます。」
桃子は、いつものように家族に向かって元気にあいさつし、出発した。
いつもどおり最寄駅に到着し、通学定期を使って改札を通る。
いつもの決まった電車、決まった車両に乗り込む。
そして、いつもの乗換駅で降車・・・、をせず、今日はそのまま終点まで乗った。
終点は巨大ターミナルで、在来線のほかに、多くの特急列車も停まっている。
桃子は、行き先も確認しないまま、発車ベルの鳴る特急の自由席車両に飛び乗った。
車掌が切符の確認に来る。もちろん、そんなものは持っていやしない。
「すみません、買いそびれちゃって。終点までの乗車券と特急券をお願いします。」
車掌が機械を操作し、切符を発券するが、
その姿は、まったく桃子の目には入っていなかった。
この日、桃子は家出した。
13 :セル :2018/01/07(日) 22:26
「嗣永さんから、なにか連絡あったか?」
指導教員の声が、セミナー室に響いた。
「連絡先なんて知らないし、私も教えていません。」
桃子を毛嫌いする、1人のゼミ生がぶっきらぼうに答えた。
「なんだよ。今日のリポート発表、あいつだろ。」
「サボりか。ほんと、なんなんだろうね。」
桃子のことをよく思っていない他のゼミ生も、吐き捨てるように言う。
「ちょっと待って。きっとなにかあったんだよ。」
別のゼミ生が発したその言葉を、
「困ったやつだな。最近、返信すらよこさないし。」と、
怒気を含んだ指導教員の一言がかき消した。
桃子の学部時代の指導教員と共同研究を一緒にしたことがあり、
よろしくと頼まれていたので、なるべく目をかけるようにしていたこの指導教員も、
徐々に不快感を覚え始めていた。
14 :セル :2018/01/07(日) 22:27
「ここ、どこだろう。」
桃子は見慣れない風景を前にして、ポツリとつぶやいた。
自分がふだん見ない地名行きの列車やバスに、ひたすら乗り込んだ。
何回乗り換えたかすら、もう覚えてはいなかった。
空が暗くなり、自分は家出したんだと、ようやく自覚した。
うっすらと化粧をした両頬には、湧水が岩肌を流れたような何本もの線が走っていた。
その時、おなかの鳴る音が響いた。
家を出てから、なにも口にしていないことに気付いた。

駅の近くには、個人経営の商店が数軒あるだけで、
どこも既に閉店していた。
ただ1軒、ちょうどシャッター閉めようとしていた店に、
「すみません。お水と食べ物を買わせてください。」と言って飛び込んだ。
「たいしたもんは、残ってないよ。」
店じまいを邪魔された初老の女性が、ややとげとげしく声をかけた。
桃子は水とパン、そして、さきいかを購入し、店を飛び出すように離れた。

<つづく>
15 :名無し飼育さん :2018/01/09(火) 09:00
2ちゃんみてきたよ
また書いてくれるんだ
楽しみにしてるんでよろしく
16 :セル :2018/01/11(木) 22:53
<つづき>

学校帰りの高校生だろうか。
「え?あれ、ももちじゃない。」
彼らから、そんな言葉が発せられた。
桃子は、聞こえないふりをして下を向き、小走りに逃げた。
どれくらい歩き回っただろう。
最終便が終わった、誰もいないバス停のベンチに腰を下ろし、一気に水を飲み干した。
この屋根つきのバス停のベンチに敷かれた、やや埃をかぶった座布団が、
とても温かく感じられた。
パンとさきいかを頬張ると、それらが口の水分を一気に奪い、再び激しい渇きに襲われた。
桃子は近くに公園をみつけ、水飲み場で喉を潤した。
「・・・座布団」
桃子はそうつぶやくと、バス停へ戻り、座布団を抱きしめるように眠りについた。
雲の切れ間から一瞬のぞいた流れ星は、またすぐに雲の向こうへと消えていった。
17 :セル :2018/01/11(木) 22:55
みんな、私に気付いてる。
だらしない格好を見て、嘲笑している。
強迫観念にかられた桃子は、常に下を向き、人の声に怯えながらすごした。
「ももちだ!」
大好きだった子供たちに声をかけられても、泣きながら逃げた。
スーパーの見切り品で空腹を満たし、
人目につかないよう安宿に泊まり、時には無人の神社や廃屋で雨露をしのいだ。

ある日、桃子は山中の農村をさまよっていた。
陽は傾き、そう遠くない空では雷鳴が轟いている。
その刹那、いくつか先の山に、稲妻が落ちた。
「ひっ」
そう悲鳴を上げると、すぐ近くに見えた廃屋の中に逃げ込んだ。
「おなか、すいたな。」
昨晩買った菓子パンの残りの半分を今朝食べてから、なにも口にしていなかった。
すると、雨音が屋根をたたき始める。
最初は、ぽつぽつとゆったりとした旋律を奏でていたが、
ほどなく、それは轟音に変わり、もはや騒音以外の何物でもなくなっていた。
18 :セル :2018/01/11(木) 22:56
先日、とある家の玄関前に、「ご自由にどうぞ」と置かれていた不用品の中からもらった、
くたびれたバックパックから、こちらは箱入りの新品だったバスタオルを取り出し、
桃子はそれにくるまった。
バスタオルは、すでに泥や砂で汚れ、汗くさくなり始めていた。

「うーん。」
桃子はうなされていた。
これは、既に日常となっており、毎朝の目覚めはいつも最悪だった。
だが、今日はいつにも増してひどい気分だった。
激しい地震に襲われたように、ひどく目が回り始めた。
「こんなの、夢でも嫌だ。」
“はっ”と目を覚ますと、見知らぬ老婆が桃子をゆすっていた。
19 :セル :2018/01/11(木) 22:58
「おい、どうした。大丈夫か。なんでこんなところで寝てるだ。」
“???”
「雨が上がったのに、変な音が聞こえると思ったら。」
「え?あっ。」
桃子はすっとんきょうな声を上げ、飛び起きた。
廃屋かと思い寝ていたこの場所は、
既に使われなくなった古い蔵で、今は納屋になっていた。
薄暗い裸電球に照らされたその空間には、いくつかの農具が置かれていた。

「ありゃ。なんでこんなかわいいぼこが寝てるんだ。」
落ちたタオルからのぞいた桃子の顔を見て、老婆は驚いた声を発した。
「ご、ごめんなさい。てっきり誰もいないかと思って。」
桃子はあたふたしながら老婆に答えた。
「こんなところで寝てたら、風邪ひくぞ。」
そう言うと、老婆は桃子の肩を強めにたたき、ついてくるように促した。
廃屋と思ったその納屋の隣には、年季の入った小さな家が建っていた。
20 :セル :2018/01/11(木) 23:00
「いつから、あそこで寝てたんだ。」
「夕立が降り始めたのは、記憶にあるんですけれど。」
「そうか。じゃあ、おれが仕事終えたすぐ後に来たのか。」
「ごめんなさい。勝手に入り込んじゃって。」
「気にすんな。雨宿りしたかったんだろ。しかし、またなんでこんな所、子供1人で。」
「1人旅してるんです。」
桃子はとっさに嘘をついた。
「そうか。大したもんだな。」
「そんなことないです。あと、私、子供じゃありません。26歳ですし。」
桃子がそう言った直後、“ぐぅ”と大きな音が鳴り響いた。
「腹へってんのか?育ち盛りだもんな。」
そう問いかける老婆に、桃子は下を向いて恥ずかしそうにした。
「残りもんだが、よかったら食いな。」
そう言って老婆は、ご飯に味噌汁、焼き魚と漬物を用意してくれた。
21 :セル :2018/01/11(木) 23:02
それまでかしこまっていた桃子だったが、
食事を目の前にすると、飢えた猛獣のように料理をむさぼった。
「おうおう、そこまで腹をすかせてたのか。」
老婆はそう言うと、あいた茶碗にご飯を山盛りによそい、
それを“ドンッ”と桃子の前に置いた。
おなかが膨れ落ち着きを取り戻した桃子は、
「あ、すみませんでした。お行儀悪くって。」
そう言いながら、おかわりの茶碗に手を伸ばし、それもあっという間に平らげた。
22 :セル :2018/01/11(木) 23:03
「ごちそうさまでした。」
桃子は箸を置き、手を合わせた。
「明日の朝飯がなくなっちまった。また、炊かんとな。」
「ご、ごめんなさい。」
老婆は茶碗や皿をまとめると、台所へ運んで行った。
「あ、私が片付かますから。」
「いいよ。ゆっくりしてろ。」
「でも。」
「それじゃあ、米を研いでおいてくれるか。
1合でいいかと思ったが、さっきの食いっぷりだと3合はいるかね。」
「すみません。さっきは、はしたなくて。ふだんはそこまでは食べないので。」
「じゃ、2合頼む。」
「はい。」
23 :セル :2018/01/11(木) 23:04
米びつには、なんとも懐かしい1合升が放り込んであった。
桃子は、お釜に升2杯の米を入れて蛇口をひねると、その水がすぐに白濁した。
「これは、無洗米じゃないな。」
桃子は研ぎ汁をみて、すぐに理解した。
それくらいの炊事はできるようになっていた。
すぐにざるにあけ、米をもう一度お釜に戻すと、シャリシャリと研ぎ始める。
「いい手つきだな。」
老婆が褒めた。
「そんなこと。」
「いやいや、上手だよ。どうもありがとう。」
そう言うと、老婆はお釜を電子ジャーにセットした。

「風呂に入んな。」
「え?おばあちゃんは、もう入ったんですか。」
「おれは、後でいい。」
「ダメです、そんな。」
「汚いんだよ。早く入ってもらわねえと困る。」
本心で言っているわけではない。そのことを、桃子はすぐに理解した。
「それじゃあ、一緒に入りますか?お背中、お流しします。」
「確かに、そのほうが効率的だな。」

<つづく>
24 :セル :2018/01/14(日) 22:12
<つづき>

老婆は、背中を流してくれている桃子に尋ねた。
「急ぐ旅なのか?」
「いえ。ゆっくりとあちこちをまわっているので。」
「そうか。じゃ、しばらくここにいて、仕事を手伝え。」
「え?」
「ちょうど収穫なんだ。若いのに手伝ってもらえると助かる。」
「・・・、はい。」
桃子は戸惑いつつも返事をした。
しかし、内心、喜びを感じていた。
「自分を必要としてくれている。」
久しぶりに、1人の人間として、自分の存在意義を見出せたような気がした。
25 :セル :2018/01/14(日) 22:13
桃子が、背中をお湯で流すと、
「よし、お礼におれも洗ってやろう。」
そう言って老婆は、桃子を椅子に座らせた。
“ゴシッゴシゴシ”
「いたたたた、おばあちゃん、痛い。」
「こんなやわっこい肌して、こんなんで畑仕事ができるか。おれが鍛えなおしてやる。」
桃子の悲鳴は、しばらく鳴りやまなかった。

「こっちの部屋で休みな。狭いけれどな。」
ももひきとシャツを借りた桃子は、老婆に促されるまま床に就いた。
まだ背中がヒリヒリと痛むが、桃子はなにか幸せな気持ちになっていた。
隣の部屋から、老婆の大いびきが聞こえてきた。
「もう、おばあちゃんたらすごいいびき。これじゃ眠れないかも。」
そう言い終わるか終らないかのうちに、桃子も小さな寝息をたてはじめた。
26 :セル :2018/01/14(日) 22:13
「おはようございます。」
桃子はふすまを開けるとあいさつをしたが、そこに老婆の姿はなかった。
「あれ?いない。」
油断して、“ふぁ〜あ”と大きなあくびをすると、
「おい、これを着な。」と言う声が、すぐ横から突然響いた。
「あっ、ぐ。」
桃子は慌てて口を閉じたものだから、危なく舌を噛みそうになってしまった。
「あ、おばあちゃん。起きてたんですね。おはようございます。」
「おはよう。昨日の飯の時よりも、大口開いてたぞ。」
「すみません。」
桃子はとっくに閉じた口を、思わず両手で覆った。
27 :セル :2018/01/14(日) 22:14
「朝飯にすんぞ。着替えたら、すぐに台所に来い。」
そう言うと、老婆は持っていた服を、桃子に投げつけるように渡した。
「あ、ありがとうございます。」
「おれが昔着てたやつだからな。大きさ、合わないかもしれんぞ。」
「あの、私が着ていた服は?」
「洗ったぞ。汚れてたし、ずいぶんと臭かったからな。」
見ると、軒先に桃子の服一式とバスタオルが
洗剤の香りに包まれて、ピンチハンガーにぶら下がっているのが見えた。
「え、あ、すみません。」
感謝の気持ちと同時に、
自分のブラジャーやパンティーが無造作に干されていて、少し恥ずかしい気持ちになった。

<つづく>
28 :名無し飼育さん :2018/01/15(月) 08:46
お、きてた。
今回は更新ゆっくりめなのかな。
なんかももちがたいへんなことに。
楽しみにしてるんでよろしく。
29 :セル :2018/01/17(水) 23:34
時間が取れた時にアップしてます。
気長にご覧いただけると嬉しいです。
30 :セル :2018/01/17(水) 23:35
<つづき>

「お待たせしました。お手伝いします。」
「もうできてるから、持ってってくれ。」
「あ、はい。そうだ、服、ピッタリでした。」
「そうか。おれも以前はおまえのような体してたってこったな。」
「あはは、そうですね。あ、いえ、今もスタイル抜群ですよ。」
「お世辞なんて言われても、嬉しかあねえぞ。」
そう言いながらも、老婆がにっこりとほほ笑む姿を見て、
桃子にはたまらなく幸せな気分になった。
「「いただきます。」」
昨晩と、なんら変わらない献立の朝食。
唯一の違いは、サケの塩焼きがアジの開きになっていたことだけだった。
今日の桃子は、昨晩とは打って変わり、上品に(なったつもりで)食べた。
31 :セル :2018/01/17(水) 23:36
「畑に行くぞ。その自転車に乗ってついて来い。」
「はい。」
リヤカーが取り付けられた自転車を、農道をゴトゴトと音をさせながらこいでいく。
老婆の歩くペースに合わせて10分ほど行くと、
決して広くはないが、よく手入れされた畑に着いた。
桃子が自転車から降りると、もう老婆は収穫に取りかかり始めていた。
いんげん、そらまめ、枝豆、里いも、レタス、なすに小松菜と、
実にいろいろなものが植えられていた。
「私もやります。」
桃子が手伝いを申し出ると、
「やり方、分かんのか?」と、ぶっきらぼうに老婆が答えた。
「いえ。えっと、分かりません。」
「じゃあ、そこで見て覚えろ。」
老婆は驚くべき速さで土を掘り起こし、次々と根菜を収穫していく。
桃子は唖然とし、手伝うのをあきらめて、掘り起こされた根菜をリヤカーに積んだ。
「なんだ、やらねえのか。こっちはそんな難しくないからやってみろ。」
老婆は、桃子にレタスと小松菜の収穫を任せた。
32 :セル :2018/01/17(水) 23:37
「なんだ、そのへっぴり腰は。」
“パーン”
老婆が勢いよく桃子のお尻をたたくと、すばらしくいい音が鳴り響いた。
「いたた。」
桃子は叩かれたお尻よりも、腰の痛みで悲鳴を上げた。
「立派なケツしてんな。いい子をたくさん産めんぞ。」
老婆はカラカラ笑った。
「も〜。」
桃子は、半笑いで答えた。
33 :セル :2018/01/17(水) 23:38
「さ、帰るぞ。」
「あ、もうですか?」
「昼過ぎっと、暑くなるからな。」
野菜をたくさん積んだので、復路は往路よりもかなりきつかった。
いや、野菜の重みだけではなく、畑仕事の疲労が、既に桃子を襲っていた。
行きは、老婆が歩くのに合わせてゆっくりと自転車をこいだが、
帰りは自分のペースと老婆のペースがちょうどよくなっていた。
「おばあちゃん。普段は自分で運んでるんですか?」
「そうだ。と言いたいところだが、実は先月転んじまってな。
大したケガじゃなかったんだが、医者に止められて、
それから自転車には乗ってなかったんだ。」
「そうだったんですか。ケガが大したことなくて、本当に良かったですね。」
「恥ずかしいったらありゃしねえ。ま、それからは村の若い奴らが、
ときどき自動車で手伝ってくれてるんだが、あいつらも仕事があっからな。
いつもというわけにはいかんだろ。」
「そうですよね。」
34 :セル :2018/01/17(水) 23:39
「おまえさんが手伝ってくれて、ほんとに助かるよ。」
老婆は笑顔で桃子に礼を言った。
家に帰ると、2人で握り飯をほおばった。
塩と梅干だけのおむすびがこんなにおいしく感じられたのは、
桃子の人生で初めてのことだった。
ちょうど食べ終わる頃、1台の軽トラックが庭に入ってきた。
「ばあさん、今日はずいぶん収穫できたんだな。」
「おう。もう大丈夫だぞ。」
「じゃ、持ってくわ。」
そう言うと、軽トラックに乗っていた中年男性は、
無造作にリヤカーから野菜を荷台に積み込み、去って行った。
35 :セル :2018/01/17(水) 23:40
「近くに、近くと言っても車で15分くらいかかるんだが、直売所があってな。
そこで売ってもらってるんだ。」
「そうだったんですか。あんなにたくさん、どうするのかと思って。」
桃子は納得の表情を見せる。
「以前は農協に卸す前に、きれいに水洗いして、形の悪いのは家で食ってたんだが、
最近は、泥がついているほうが新鮮でいいっていう客が多いみたいでな。
形が悪いのも買ってってくれるみたいだし、洗う手間も省けて楽させてもらってる。」
「形がどうでも、おいしさに変わりはないですもんね。」
桃子がそう言うと、
「そうだ。ちょっと曲がってるだの、小さいだのって、
うるせえこと言うやつが多すぎるんだ。どれもうめえのに。
ま、みんなようやく気付いたってことじゃねえか。」と、老婆は嬉しそうに答えた。

<つづく>
36 :名無し飼育さん :2018/01/19(金) 08:49
ももち おうちに帰りなさ〜い
37 :名無し飼育さん :2018/01/19(金) 16:55
あまりにも可愛そうな展開でビビってたけど初期から見てるよ
幸せになることを願ってます
38 :セル :2018/01/20(土) 23:12
レスありがとうございます
読んでくださっている方がいるとやはりうれしいですね
今回は「不安」や「孤独」をテーマに書いてみました
完結まではまだしばらくかかりますがよろしくおつきあいください
気が向いたらまたコメントをいただけると幸いです
39 :セル :2018/01/20(土) 23:19
<つづき>

午後は昼寝をしたり、本や新聞を読んだり、テレビを見たりしてゆっくりと過ごしたが、
やや日が傾いて気温が下がり始めた頃、
「ほら、牛作るぞ、手伝え。」と、老婆が突然、なすを桃子に差し出した。
「え?牛って、これ野菜じゃ・・・。」
「ほら、おがらを切って刺すんだよ。分かんだろ。」
「えっ、えっ?」
「明日からお盆だろうっての。まさかそんなことも知らんのか?」
老婆は、あきれた表情で桃子をたしなめた。
「え?あ、そうか。お盆か。すみません、作ったことなくって。」
「なんだ、まったく。おまえにはご先祖様がいないのか?そんなわけねえだろ。
クリスマスだの仮装だのバレタンダーだの、外国の真似ばっかしてないで、
ちゃんと神様や仏様を大事にしねえとダメだぞ。」
「すみません。あと、バレタンダーじゃなくって・・・、」
「なんだって?」
「あ、いえ、なんでもありません。」
桃子は、ちょっといらついている老婆に説明するのをやめ、苦笑いしながら頭をかいた。
「教えてやっから。ほら、持ってみ。」
桃子の手を取り、一から作り方を教えてくれる老婆。
「送るときはキュウリで馬作るからな。忘れねえで、ちゃんと覚えておけよ。」
そんな会話をしながら、仏壇に供え物をして準備を終えると、一緒になって手を合わせた。
40 :セル :2018/01/20(土) 23:20
「よし、できたな。今日は畑仕事で汗かいたし、晩飯前に風呂にへえるぞ。」
「はい。」
昨日のお返しとばかりに、桃子は老婆の背中を思い切りこすりあげた。が、
「なんだ、もっと力こめて洗え。」と、逆に叱られてしまった。
「おれもやってやる。」
老婆が手拭いに石鹸をこすりつける。
「あ、いや、その。今日は、ちょっと。」
「なに言ってんだ。そら、遠慮すんな。」
「イタタタター。」
今日も、桃子の悲鳴が浴室に響いた。
41 :セル :2018/01/20(土) 23:21
夕食は、ご飯に味噌汁、漬物にメザシ。
そして、今日は小松菜のおひたしに、根野菜の煮物もあった。
「すみません。ご飯と味噌汁しかお手伝いできなくて。」
桃子は、恥ずかしそうに詫びた。
「漬物も切ってくれたろ。切れずにつながったままのもあるけんどな。」
そう言って、たくあんを箸で一切れつかみあげると、
端っこがつながったたくあんが、4〜5切れ一緒になってくっついてきた。
「あぁ〜。」
それを見た桃子は、顔を赤くして頭を抱えた。
「ま、練習すればすぐだ。」
老婆は、桃子を慰めた。
42 :セル :2018/01/20(土) 23:21
「味噌汁、うめえぞ。出汁の取り方、分かってるな。」
「はい。練習しました。
昔は出汁のこと、『だっしる』なんて言っちゃったこともあるんですけど。」
「なんだ、そりゃ。」
老婆は大笑いした。
「おひたしも煮物もおいしい!」
「今度作り方、教えてやるよ。」
「はい。」
まだ、この家に来て2日目だが、
桃子は、久しぶりに心の底から楽しい時間を過ごしていた。
43 :セル :2018/01/20(土) 23:23
4日間のお盆は、あっという間に終わった。
迎え火や送り火のやり方を初めて教わり、
「ほら、まだ玄関閉めんな。仏さま、家に入ってきてねえかもしれねえぞ。」
「お坊様に早くお茶出せ。気が利かねえな。」
「とっとと閉めろ。仏さんが戻ってきて居座ったらどうすんだ。」
などと小言を言われた。
桃子は、幸せな時間を過ごしていた。

再び、日常生活に戻る。
農作業を手伝い、午後はゆっくり過ごし、風呂に入りおいしい食事をいただく。
そんな生活の中、精神的な不安が消えたわけではないが、
農作業にも慣れ始め、安息の日々を送っていた。
44 :セル :2018/01/20(土) 23:25
そんなある日、いつもとは違う若い男が、軽トラックでやってきた。
「今日はおやっさん来れねえってからさ、代理で俺が来たよ。」
「おお、そうか。助かるよ、ありがとうな。」
「今日で、おしまいだろ。」
「そうだな。収穫も一段落したからな。」
「ん?あ、そうか、今日は。」
若い男はなにかに気付いた様子だった。
「なんだ?」
「いや、供え物が、今日は立派だから。」
「そうだな。」
「ちょっと、手を合わさせてくれ。」
45 :セル :2018/01/20(土) 23:25
当初、軽トラックが来ると、桃子はとっさに隠れていた。
だが、それも最初のうちだけで、
ある日、いつものおじさんが桃子に気づいたが、
「遠い親戚の子だよ。」と、老婆が紹介すると、
特に関心も示さず、あいさつされるだけで済んだ。
そのことで安心し、それからは、家の中で普通に過ごすようになっていた。

桃子も、仏壇のお供え物が多いなと思いながら、ふだんどおり家の中にいた。
しかし、その時、「あれぇ?」というすっとんきょうな声が、
桃子と目が合った若い男から発せられた。
「どうした。」
老婆はいぶかしがって尋ねた。
46 :セル :2018/01/20(土) 23:27
「おやっさんから、親戚の子がいるとは聞いてたけれど。」
その声を聞いて、桃子は慌てて柱の陰に隠れた。
だが、若い男は縁側から上半身を家の中に突っ込み、桃子の顔をしげしげと見た。
顔を背ける桃子に対して、
「やっぱり、ももちじゃん。なんでばあちゃんちにいんだ?」
と、若い男は興味深そうに問いかけた。
「だから、遠い親戚だって言ってんだろ。
油売ってねえで、とっととやることやって行け。」
なにかを察した老婆が、若い男性を追い払うように言った。
「んだよ、わざわざ野菜取りに来てやったのに。ま、いいや。また来っからさ。
そんときゃ、サインでも頼むよ。
あと、若い連中で集まって酒盛りもやってるから、今度誘うよ。じゃあな〜。」
そう言うと、野菜を積み込んで去って行った。

<つづく>
47 :セル :2018/01/21(日) 22:50
<つづき>

「おい、仏壇に手を合わせんじゃなかったのか。」
老婆はそう言いかけたが、桃子の姿を見て、
家には上げないほうがいいと思い、口を閉じた。
むろん、悪気があるわけではない。彼からしたら、
いつもと変わらない、普通の態度だった。
だが、桃子にとっては、その言動がひどく苦痛で、
癒え始めた心の傷が、また開いて痛み始めた。
48 :セル :2018/01/21(日) 22:51
桃子は、今日もいつもと同じように風呂で老婆に背中を流してもらっていた。
“ゴシゴシゴシ”
「私、そろそろ出発したいと思います。」
桃子は、悲鳴をあげることもなく、淡々と老婆に切り出した。
「寂しくなるな。」
老婆は、今日のことがあったからといって、特に桃子のことを詮索することはしなかった。
桃子がなんであろうと、自分にとって孫のような存在であることは変わらなかった。
ずっと一緒にいてくれたらと、本気で考えていた。
「すみません。突然で。」
「畑の片付けに、もうちょっとかかる。
おまえさんも準備もあるだろうし、もう2〜3日はいてくれねえか。」
老婆の訴えに、桃子は少し考えてから、
「わかりました、そうします。」と、答えた。
「来週、祭があんだが、それは無理そうだな。」
「ごめんなさい。」
49 :セル :2018/01/21(日) 22:51
夕げの食卓。
桃子がこの家で世話になるようになってから、初めて老婆は酒を出した。
桃子も少し口に含む程度だが、それに付き合った。
これまで、お互いの身内に関する会話をしたことは一度もなかったが、
初めて、老婆は自分の家族にについて語り始めた。
50 :セル :2018/01/21(日) 22:53
「どれくらい前になっかな。」
「はい。」
「おれには、3人の子がいるんだよ。」
「そうなんですか。今はどちらに・・・」
「いや、『いた』と言ったほうが正しいな。」
「・・・」
「みんな、山や畑の仕事をしてた。ある年、長雨が続いてな。」
「ええ。」
「心配になって、息子たちは手分けして様子を見に行ったんだ。」
「3人とも、男のお子さんだったんですか?」
「そうだ。でも、いつまで待っても誰も戻ってこねえ。」
「そうしたら、山津波があったって。」
「山津波?」
「山の斜面が崩れ落ちることだ。土砂崩れって言ったほうが分かるか?」
「分かります。」
「車で行ったから大丈夫だと信じてたんだが。でも、みんな流されて土の中に埋まってた。」
「でも、皆さん別行動されてたんじゃ。」
「そのはずだったが、どこかで落ち合って、一緒になったんだろうな。」
51 :セル :2018/01/21(日) 22:54
「そうだったんですか。すみません、なんと言っていいか。」
「気にすんな。おまえのせいじゃねえよ。」
「ごめんなさい。」
「爺さんは、足をケガしてて家にいたから平気だったが、本当に悔やんでな。
『俺が1人で行ってればみんな助かったのに。』って。
そんな爺さんも、一昨年あの世に行っちまった。」
「それで、一人暮らしされていたんですね。」
「でも、長男には嫁がいてな。孫もいんだぞ。男の子だ。
ただ、ここじゃ食い扶持がねえから、町に行っちまった。
小さい子を抱えた嫁に、山仕事は無理だからな。畑は小せえし。」
「お嫁さんとお孫さんは、今は?」
「以前は、命日の頃には来てたんだが、孫も就職して忙しくなったし、
嫁も再婚したからな。」
「そんな。」
52 :セル :2018/01/21(日) 22:57
「勘違いすんなよ。おれが再婚しろってすすめたんだ。
でも、嫁のやつ、子供の父親は死んだおれの息子だけだからって言って。」
「お子さんのことを、考えていたんですね。」
「ああ。で、孫が自立して、やっと再婚しやがった。もっと早くすりゃあいいものを。
そんでも、今でもときどき、墓参りには来てんぞ。」
「よかった。」
「昔は、おれも大酒のみだったが、
子供達を亡くしてからは、供養も兼ねて命日だけ飲むようにしてる。」
「え?じゃあ、ひょっとして。」
「そうだ。今日が命日だ。」
「それで、仏壇にたくさんのお供え物を。」
「おまえが来てくれてから、なんか子供と孫とが一緒にいてくれているような、
そんな気持ちになれてな。」
その話を聞いた桃子は、自分もおばあちゃんの役に立てていたんだと思い、
胸が詰まる思いだった。
ただ、そのことについて、なにかを伝えようとはしなかった。
いや、話すことができなかった。
53 :セル :2018/01/21(日) 22:58
「今日はちょっと飲みすぎた。悪かったな、片付けをやらしちまって。」
「いえいえ、これくらい。」
「そうか。じゃ、また明日も早いから寝っぞ。おやすみ。」
「おやすみなさい、おばあちゃん。」
「ああ。桃子もゆっくり休め。」
「え?」
いつもは、「おまえ」と呼ぶ老婆が、初めて「桃子」と呼んだ。
桃子は、驚きを隠せなかった。そして、目を閉じ、小さくうなずいた。

隣室から、老婆のいびきが鳴り響き始めた。
桃子は酒を飲んだにもかかわらず、まったく眠気がなかった。
「もうあと2〜3日。」
そんな話をしておきながら、桃子は夜明け前に、
部屋の隅に置いたリュックとわずかな荷物を手に取った。
照明はつけず、窓から入るわずかな光だけを頼りに荷物をリュックに詰めようとすると、
スルッと、なにかがこぼれ落ちた。
桃子は、こぼれ落ちたそれがなにかを確認もせず、無造作にリュックに詰め込んだ。

<つづく>

新着レスの表示


掲示板に戻る 全部 次100 最新50

現在のスレッドサイズ:32469 byte

名前:

read.cgi ver5.27 + 0.02 (04/08/03)