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私はれいなを抱きしめていたい

1 :名無飼育さん :2005/10/01(土) 20:01
みんなれいなのことを何だと思ってるんだ!
れいなに愛を込めて書きます。
400 :名無飼育さん :2012/04/10(火) 23:09
花を見る

 某大学の前を通り過ぎたところ桜が咲き乱れており、前を行くれいなを呼び止めて「れいなさん、ごらなさいよ、桜がおそろしくキレイじゃないですか」と言った。れいなはぽかんと桜を見上げ「ああ」と、まるで言われるまで気付きませんでした、みたいな反応をした。情けない、実に情けない。れいなには感受性が欠如している。目の前にある日本の四季の美しさ、移ろいゆく諸行無常の儚い美しさに言われるまで気付かないなんて、ああ、なんと情けないことだろう。これだから今時の若者はいかんのだ。
 と、そこに某大学の校門からまるで民族大移動の如く夥しい数の学生が次々と排出された。過ぎ行くうら若き女子大生の太ももがピチピチと真っ青にはじけており、当初私はこれらの太ももの大安売りをたまらない気持ちで眺めていた。太ももの桜吹雪だ! とても美しい! と思った。だが、これらの太ももの間に咲き開く女の花弁はうんこのようにサエない男子大学生に舐められ犯されているに違いなく、それも毎晩のように節操がない。
 始めは男の性欲に嫌気が差していた。男の性欲がこんなにも汚らしくしつこいものだなんて! だがある日を境に女は変わるのである。しつこくねちっこいセックスが気持ち良くなってきたのだ。行為の度、女は「もっともっと」と激しくよがり声を挙げ、「中に出して!」とすら叫ぶ。中に出してデキてしまった場合この女と一生を添え遂げる覚悟がおれにはあるのだろうか? 冷静な考えが一瞬男の頭を過るのだが、快楽に耐え切れず、また始めはあんなに嫌がっていた女がこうも自分から求めてくることに絶大なる喜びを覚え、あっ、気付いた時には中に出している。女は目を細めてまんこに手を伸ばす。垂れてくるザーメンを指ですくい、舐める。その光景が男の性欲をどれほど刺激することか! 二回戦、三回戦、なんのそのである。だがある日急に転機が訪れるのである。
「生理が来ないの」うるんだ瞳に、男はこう思う。あんだけ中に出してりゃそりゃそうだよな、だが納得いかない、おれはまだ結婚したくない。
 しかし口から出る言葉は違った。
「結婚しよう」
「ありがとう」
 女は涙する。愛ゆえに? 違う。永久就職内定ゲットの安心感に、涙するのだ。女は日毎ずさんになり、態度も悪く、男はこれまでの中出しとあの日のプロポーズを後悔し続ける。毎日子どもの顔を見る度に思うのだ。
「お前は何も悪くない、ただ、社会が悪いんだ」
 などというストーリーに思い至るとすぐに憂鬱になった。あの美しい太もももこの美しい太ももも、どれもこれも薄汚れていてとても汚らしい! いずれ腐り果てる運命にあるこの太ももの一時の美しさが何ぼのものであるのか! おれはだまされないぞ!
「なあ、そうだろう? れいなちゃん」
 れいなは「は?」という顔をして、桜吹雪に向けて手を伸ばし、人差し指をくるくるやった。そして「キレイな桜っちゃねえ」と言った。私はれいなを抱きしめていたい。
401 :名無飼育さん :2012/04/11(水) 22:59
花が散る

 雨風共に強く、先日の一件以来妙に桜が気になってしょうがないらしいれいなはしきりに「散るんじゃなかろか」と落ち着きがない。
「バカだねれいなちゃんは。桜は散るから美しいんだよ。諸行無常の儚い美しさだよ。その風情も分からないなんて、まったく最近の若者はこれだから困る」
 れいなは私の言葉を聞かなかった。「なんで桜散ってしまうん?」と首をかしげた。イライラした。そういうわざとらしい振る舞いは嫌いなのだ。
「本当に君はバカじゃないのかね。散るから散るんだよ。そんな子どもっぽい疑問を口にするのがかわいいとでも思っているのか? バカやろう! 浅はかなんだよ! 確かにかわいいよ! しかし私はそういうのは一切認めない主義だ」
「でも、桜散ってしまったら悲しか」
「おい! やめないか! いくらなんでもそれは卑怯だぞ!」
 桜の様子を見に行ってくるっちゃ、とれいなは言った。ぶりっこもここまで極まれば信念を感じさせる。止めなかった。
 れいなは三十分少々で帰ってきた。ずぶ濡れだった。まだ散りきってはなかったばい、と嬉しそうな顔をして言う。
「れいなが見に行ったおかげだっちゃ」
「そうだね、まだまだ桜さんも散りたくはないんだろうね。とりあえずお風呂に入りなさい。濡れたままでは風邪を引いてしまうから」
「そうするばい」
 れいなが湯船につかってういーなどとおっさんくさいため息を吐いているだろう時、私は今週末に花見ができないものだろうかと考えていた。ごっちんと圭ちゃんは誘えばまず確実に来てくれるだろう。たまにはあやややミキティなどとも親交を深めたいものである。だが大所帯になりすぎては気が滅入るし、そもそもそういう予定を立てるということが面倒でもあった。大体桜が今週末まで持つとも思えず、花見をするならば先週末が絶好の頃合いだったのだ。
 そう思い至るとなんだかやる気が無くなってしまい、ちんこをいじった。私は暇になるとすぐにちんこをいじってしまう癖がある。皮を剥きつ戻しつ、陰茎と包皮の精妙な機構とそれが為す運動は何度見ても飽きが来ない。私の未使用のちんこは実に鮮やかな桃色をしていた。幼少の折、皮を不用意に剥きすぎて亀頭が転げ落ちてしまう光景を何度想像したことだろう。それは当時の切実な悩みだった。一度転げ落ちた亀頭を再び然るべき場所へ再び置き直す自信が欠片もなかった。私は私のちんこが恐ろしかった。
 何度か剥き戻しを繰り返している内に勃起した。亀頭はパンパンに膨らみ、竿は固く引き締まった。そうなると亀頭は桃色というより梅干色といったことになり、尿道からじんわりと粘性の液体が漏れてくるようだった。それをひとすくいし、舐めるとやや塩辛く、口の中ですぐにサラサラに解けた。れいなと目が合う。いや、合わなかった。私はれいなの顔を見たが、れいなは私の顔ではなく亀頭を見ていた。
「痛そうだっちゃ」
 私は笑いながら「痛くないよ」と言い、皮を戻し、パンツを引き上げた。さすがに少し照れた。れいなも同様に照れているようで、頬に桜が散っていた。花見はいつがいいだろうか、と思った。
402 :名無飼育さん :2012/04/13(金) 21:21
お花見

 新旧メンバーが織り交ざり、私を中心にして輪になった。彼女らは腰を下ろすと開脚し、下はドドメ色から上は薄桃色まで、色とりどりのラビアを眺めながら、アサヒスーパードライエクストラコールドを飲む夢を見た。
 まんこは口ほどに物を言う。何人かはすでに意地汚く涎を垂らしており、「そんなにこれが欲しいか」とちんこを見せびらかすと、飯田さんは顔を背けながら「いらねーよバカ」と言いつつも夥しく愛液が垂れ、裕ちゃんは「ちっさいな」と鼻で笑いつつも目に見えて陰核が肥大しており、小春は「は?」と凄んで見せたが肛門がヒクヒクしていた。素直じゃない奴らである。小春は多分アナルセックスの方が得意なのだろう。飯田さんは欲求不満なのだろう。裕ちゃんはババアだ。なっちはいなかった。きっとどこかの安い男の家でプレステでもしているに決まっている。
 爽やかな香りが鼻を抜けた。くんくん、あっ! これはさゆのラブジュースの香りだ! 俯いて、頬を赤く染めながら、吐く息はか細く荒く、右手の人差し指と中指を実に器用に使ってクリトリスを擦り上げている。自分のまんこを覗きこむようにして一心不乱に手を動かすさゆはとにかく「一生懸命」という感じがした。精一杯生きているんだ。
 隣に座るえりりんは右手を後ろについて、天を見上げていた。左手の薬指がずっぽりと根本までアナルに突き刺さっている。それを軸に手首が円運動する。ゆっくりと、しかし着々と、堅実な歩みで高みに上り詰めていくのだ。えりりんはこういう時に荒い息を吐くタイプではなく、息を詰めるタイプだった。息を大きく吸っては、ピタリと息を止め、然る後、一気に鼻から息を抜く。緊張と弛緩の連続である。えりりんは酸欠から来る軽い酩酊が好きだった。額に薄く汗がにじんでいる。時折ニヤリとするのが不気味でかわいらしかった。れいなはそんな二人を見つめながら乳首いじりに余念がない。れいなのオナニーはいつも乳首いじりから始まる。まんこは貪欲に糸を引いていて、驚くほど臭い。みんな迷惑する。ラビアの色は桜色で実にキレイなのだから、惜しいものだ。
「子どもは見ちゃダメ!」
 と、ガキさんの声が鋭く響いた。ガキさんのお豆さんはちょっとしたちんこ並にでかく、豆は豆でもさやえんどうであった。それはまた逆剥けになっており、溶けたガラスのように赤かった。触ればきっと火傷をしてしまうほどに熱い。
 鬼の形相で9期10期に向かって、見るなこんなもの見るな汚れてしまうなどと叫びながら、実のところ彼女らの子どもまんこに向けるガキさんの視線もまた、彼女のクリトリスと同様に凄まじい熱を帯びているのだ。それに気付かない私ではない。ガキさんは理性の人だから、オナニーなんかしたことがないし、それは実に不潔な行為だと本気で考えるほどに高い貞操観念を持っている。もはや異常とも言える潔癖さであり気高さであった。たとえばお風呂で股間を洗う時だとか、トイレでまんこを拭く時だとか、自転車に乗っている時など、ふと感じてしまう快感に、ガキさんは常にうしろめたさを感じていた。その気高い貞操観念の抑圧のせいで、ガキさんの視線には常に欲求不満の生々しい熱が篭るのだった。私はそんなガキさんのバカバカしい一途さが好きだった。愛ちゃんはふんふんと鼻歌を歌いながら慣れた手つきでバイブを操って貫禄あるオナニーをキメていた。
403 :名無飼育さん :2012/04/13(金) 21:49
 鈴木香音は諸先輩方のマスターベーションを好奇の目で眺めていた。ガキさんの怒声など一切耳に入らないようだった。自分の股の間にある裂け目の奥がこんな構造をしているということが未知であったし、しかも人によってこうも大きく違うということに、まずは驚嘆した。私の知らないことがたくさんあるんだなあと、自分の不勉強を痛切に感じた。鈴木香音は猛省する。まずは見習うこと、真似をすること、そこから始めなくてはいけない。中指を舐め、尻の穴に入れた。うんこが出るような出ないような不愉快な感覚に、思わず笑顔がこぼれた。
 一方、譜久村聖は慣れていた。ごく普通に、さも当たり前のように、クリトリスをいじり、およそ15歳とは思えぬ艶っぽい声で軽く喘いだ。私はこの光景を以前どこかで見たことがある。それはロマンポルノだった。毎夜毎夜激しく求めてくる旦那が急な出張で数日家を空けた時、彼女は自分の性欲の存在に気付かされ、粛々とクリトリスを擦り上げる。目を閉じ、壁にもたれかかって、割れ目から汁をすくい取りながら、クリトリスにこすりつける。それを繰り返している内に薄く漏れる吐息は軽い喘ぎに変わる。それは演技以外の何物でもない。喘ぐことで、彼女は旦那に抱かれるのだ。譜久村聖は今誰に抱かれているのだろう。それは私には分からないことだ。
 工藤遥と鞘師里保は目を見合わせて、視線は違い違いに下に落ちた。それは照れ隠しでもあったし、好奇心でもあったし、幼い欲情でもあった。工藤遥のラビアは薄く短く、やや茶色がかっていた。そんな色なのか、と鞘師里保は感心した。自分のように薄桃色なのが当たり前だと思っていたからだ。
 工藤遥は鞘師里保の陰毛がまだまだ生え揃っていないことを笑い、そのラビアの透き通るような美しい色味と、まるで蝶々の羽のように薄く広い形に目を丸くした。「変なの」と言った。一方私は鞘師里保のまんこを見て「ももいろクローバー」という単語を思い出していた。工藤遥のまんこの意外なほどの毛深さとは対照的で、とてつもなく爽やかだったのだ。工藤遥のまんこは「うりぼう」だった。
 風が強く吹いている。その風は圭ちゃんが腰を前後上下左右にグラインドさせることで起こっているようだった。暴風雨である。臭い汁が四方に飛び散り、みんな甚だしく迷惑していた。
「おいおい、いくらなんでも酷すぎるよ圭ちゃん」
「ください、すぐにください」と私のちんこをむんずと掴む。そのなりふり構わない振る舞いが好きだ。よしよしと頭を撫でてあげた。圭ちゃんは私のその手を取り、人差し指から薬指まで、丹念に舐めた。上目遣いにゾッとした。まんこ同様、目もまた口ほどに物を言う器官だった。私は圭ちゃんを殴った。お花見はそれで終わった。
404 :名無飼育さん :2012/04/19(木) 05:29
アイドル戦国時代

 ごっちんがステージの上で「原色ギャル」などをかわいらしい声で歌い踊ると、男どもは著しく興奮し、奇声を張り上げ、その場でぴょんぴょんと飛び上がりながら手を叩くなどの異常な行動を見せた。それは常軌を逸していた。何かきっかけがあればすぐにでも暴徒と化してしまうように思えた。その公演は2時間ほどぶっ通しで続き、やがて終わった。
 政府公安はこの事態をDVDで目撃する。会議室には全公安部員が集っていた。異常な熱気が漂っていた。頭髪の衰えが目覚しい、今年還暦を迎える公安部長が声を震わせながら言う。「これは国家への反逆行為だ。社会秩序の崩壊だ。見過ごすことはできない」そうだそうだの声が上がり、アイドルは国家的な弾圧の対象となった。アイドルファン達は当然ながらこれに抗う姿勢を取り、一部行動力のある者たちが音頭を取った。彼らが主張するのは主に「信教の自由」であった。
 もちろんアイドル達はアイドル達で結束し、大資本の後押しもあってAKB48,SKE48,NMB48などの大規模な抗争部隊が結成された。一方で草の根の運動もあった。"週末ヒロイン"を標榜するももいろクローバーZなどがその代表例である。
 本来手を取り合って国家的な弾圧に対抗するべきアイドルファンは、ここで二分されてしまった。目的達成のために手段を選ばないノンポリ派はAKB陣営に付き、イデオロギーを重視する者たちは各々思い思いのアイドルの側に付いた。
「思想の無い集団などただの烏合の衆であり、恐るるに足らない。考えても見給え! そもそも電通という大資本が国家の癌であり、この度の弾圧の本質的な原因なのだ! この度のアイドル弾圧は国家的な歪みの氷山の一角であって、我々の勝利はアイドル弾圧のみに打ち勝つことではない。我々の勝利はそんな矮小なところにはない。我々の本当の敵は国家の癌である大資本であり、つまり電通である。AKB陣営に付くことはすなわち電通礼賛であり、国家への反逆を意味する。諸君ら! 恥を知りたまえ!」
 と、ももいろクローバーファンの山上氏はツバを飛ばしながら熱弁した。これに心を打たれ、転向した者も多かったが、AKB陣営のインテリ層はこれを鼻で笑った。
「我々の正義は資本であり、数である。こじはるかわいい。イデオロギーなどもはや古いのだ。あっちゃんかわいい。我々は我々なりの正義を貫くまでのこと。まゆゆの尻の穴が舐めたい」
 血で血を洗う、アイドル戦国時代が幕を開けたのである。我らがハロー!プロジェクトは「争いは好まない」と言って、早々に事業を畳んだ。

 私はごっちんのライブDVDを見ながら、以上のような空想をした。
405 :名無飼育さん :2012/04/23(月) 04:04
4月も半ばを過ぎ

 夜半過ぎ、ふと思い立ってえりりんの家に突撃することになった。れいなは渋り、「外は寒い」「外は雨が降っている」「外は恐ろしいところ」などと文句を垂れたが、「えりりんの家の中は暖かい」「えりりんの家の中は雨が降っていない」「えりりんの家の中は恐ろしくない」と論破してみせると、タクシーで行くのなら可、ということになった。れいなの手を引いて家を出る。
 しとしとと小雨が降り続いており、れいなはわざとらしくぶるぶる震えて「寒か」と上目遣いをした。少し笑う。「寒いねどうも、4月とは思えない」4月とは思えない、と私はここ数年で何度口にしたことだろう。ふと考えた。どうやら毎年言っているような気がした。れいなは「まったくばい」と頷き、コートの襟をぎゅっと立て、そこに顔を埋めてみせた。その仕草が実に女の子らしく、かわいらしかったので、金もないことだし、歩いて向かおうと心を決めた。
 とりあえず歩いていたらいつかタクシーが通るだろうから、と私が繰り返すのに、れいなは段々と機嫌を損ねた。喋らなくなった。足元ばかり見て歩いた。時折足を止める。「早く行くよ」と声を掛けると、遠くを見るように目を細め、顔全体で不服を訴えた。私はこのぬりかべのような表情がとても嫌いであった。青臭いツッパリ具合に腹が立つのである。
「そんな顔したってしょうがないじゃないか」
 れいなは相変わらずぬりかべである。「しょうがないじゃないか」えなりのモノマネをした。笑わなかったので、まあそりゃそうだろうよ、と思った。
「どうすんの? 帰りたいの?」
 尋ねると、れいなはぬりかべのまま「そういうわけじゃなかと」と言った。
「じゃあどうすんの?」
「タクシー」
「だから、通ったら乗るよ」
「どうせウソばい」
「まあそうだけど」
「うそつきは嫌いだっちゃ」
 唐突にれいなが泣きそうになるので、私はやや焦り、分かった。乗ろう乗ろう。金がなんだ。お前を泣かせるぐらいなら、金の1000円や2000円、ちっともおしかないというものさ。ただし明日が絶食となることは覚悟していただきたい。「それはいやばい」ああわがままだ。お前は、なんとわがままな女なのであろうか。れいなは遂に泣いた。私は別に泣かなかった。泣く理由がないからである。
 れいなのつむじを見た。その周辺は黒く、中心部は白かった。頭皮というのは何故かくも青白いのであろうか、と思った。そこを押すと、れいなは裏返るのではないだろうか、という気がしたので、押した。れいながしゃくりあげる。押す。しゃくりあげる。押す。しゃくりあげる。ということを数度繰り返していると楽しくなってしまい、気付くとれいなはもう泣いてはいなかったため、安心した。手を取って歩いた。やはり4月にしては寒すぎるようだった。
406 :名無飼育さん :2012/04/24(火) 02:24
充足感


 えりりんが妙に私にべたべたした。酔っ払っていた。これは酔った弾みの人肌恋しさか、それとも普段は抑えていたけれども本当は、私のことがずっとずっと前から好きだった。酔わなくちゃ素直になれない。という奴なのか。私もまたかなり酔っ払っていた。れいなは寝ていた。正常な判断がつきかねる。
 えりりんは私の腕を取り手を取り、何か細やかなしかし恐らくは深刻なのだろう愚痴を漏らした。内容は全然私の及び知らないことである。恋愛の愚痴であるようでもあったし、人生全体に対する愚痴であるようでもあった。
「こんなことしてたって辛くなるのは目に見えているのにね」
 と、えりりんは何度も言った。こんなこと、が一体どのことを指しているのかよく分からなかった。文脈が追えない程度には酔っ払っている。私はただえりりんに触れられる度、目を合わされる度に、イケるのかそれともイケないのか、そればかり考えていた。
 何時間ほどそんなことをしていただうか。私は梅酒をがぶがぶ飲み、えりりんもまたがぶがぶそれを飲んだ。その内、えりりんの全ての行為や言葉が、本質的には私への好意を示しているような気がしてきた。
 うっとりとしたその目付き、その手つき、胸を押し付けてくる。パンツは見えている。意外にこどもっぽい水玉。劣情に駆られて勢い乳や尻を揉むと嫌がったが、それは拒絶というより、恋人同士の仲睦まじきいちゃつきであるような気がした。私は承認されているような気がした。えりりんに承認されているような気がした。えりりんは私に好意を抱いており、それが今正に表出されているのだという気がした。だが、イマイチ確信には至れなかった。焦れた。イケるのか、イケないのか、どっちなのか。
「なんやねんお前は」
 そう言うと、えりりんは目を閉じたので、それは合図のような気がした。抱きついてキスをすると、拒まれなかった。合意に至った。と、私はそこで確信した。押し倒し、唇を貪り、舌を吸い上げ、顔を離すと、えりりんは酷く幸福そうな顔で、少なくとも私にはえりりんは今幸福そうな顔をしていると認識される程度の表情で、私を見ていた。だから抱きしめて、えりりんの体温と香りと柔らかさに包まれていることに、大変な充足感を覚え、えりりんもまたそうなのであろうと思わせるように私の背中に縋り付いた。足先で寝ているれいなのことを思うと、少し胸が痛んだような気がしたが、この充足感には抗えなかった。私は酔っ払っていた。えりりんも酔っ払っていた。だから誰も悪くなく、ただ酒がいけなかったのである。 
407 :名無飼育さん :2012/04/24(火) 02:55
 目覚めても私は童貞のままだった。当然である。いくら酔っ払っていようとも、童貞は童貞なのである。手際よく服を脱がし挿入するなどという複雑なプロセスが踏めるはずもない。ただちょっと乳を揉んだり股間に指を這わしたりするのが関の山で、あまりよく覚えてはいないのだけど、私の手先がえりりんの核心部分に及ぼうとすると、次第次第にえりりんの態度は硬化し、「やだ!」と叫ぶなどするので、さきほど抱いた私の確信はもはや完全に揺らいでいた。
 ただ抱きしめることや接吻は拒まなかったし、むしろえりりんから積極的に唇を求めて来さえするので、童貞の、実体論者の私からすると、つまりそれは私に為される全ての性的な好意には「私へ対する好意」があるに違いないと考えるナイーブな立場のことだが、そういうロマンチシズムを持ち腐らした童貞の脳裏によぎるのは「だからお前は一体何なのだ」という感情であって、えりりんの行為の先に「私への好意」という実体を感じたくて仕方がなく、つまり端的に言えば私はセックスがしたかったのである。ヤレるならヤリたい。そしてセックスというのは互いの好意が絡みあって上昇していく螺旋なのだ。それが童貞の哲学であった。
 しかし二者の間で交わされる行為の裏に実体的ななにものかがあるという思想は、ナイーブで、ロマンチックで、童貞くさい妄想の産物だった。実体はなかった。関係しかないのだ。
 朝目覚めた時、えりりんの顔がそこにあり、私は昨晩の劣情を引きずって接吻した。えりりんは笑顔を返した。その表情を私は何度も反芻した。私はその時、えりりんの私に対する好意を確信していたのだが、今思えば、その表情は侮蔑だった。童貞への哀れみと蔑みが篭った笑みだった。「童貞ってめんどくさいね」とえりりんは言った。よく意味が分からなかったので問い返すと、「それがもうめんどくさい」とつれない。
「添い寝ぐらいで何か分かったような気にならないで」
 えりりんは悪い女だ、と思った。私はとてつもなく痛い、と思った。れいなを叩き起こして、家を出る時、またねと手を振るえりりんの事務的な表情が更に胸に痛かった。道すがら、私は私でいられる自信がなく、れいなは二日酔いに苦しんでいた。何をしているのだろう。ばかばかしい。もうばかばかしい。何かを期待するのはとても痛いことだ。あらかじめ諦めておくことで、障害に突き当たった時に痛くないというのが私の処世術であったはずが、酒と劣情と期待に一時かどわかされて、バカバカしい。もっと根本的に諦めることだ。もっと根本的に諦めなければダメなのだ。
 れいなが「気持ち悪いっちゃ」と言って道端で吐く。私は私を信じられないし、れいなのことも信じられなかった。もっと抜本的に、れいなのことすらも、諦めてしまわなければいけないような気がした。れいなが吐くのをただ見守り、手をかさない。私は私を抱きしめられないし、れいなを抱きしめることもできなくなった。
408 :名無飼育さん :2012/04/24(火) 18:26
今回の結びは非常に珍しい。
こちらにまで痛みが移ってくるようです。
409 :みおん :2012/04/24(火) 23:09
圭ちゃんはカバのように愛らしいに同意です
二人の関係はどうなってしまうんだ…
410 :名無飼育さん :2012/05/02(水) 02:05
 圭ちゃんがファーストタイムを聞きながら涙を流していたので、ごっちんが音楽を止めた。「なにすんの」「よくないですねえ、よくないと思います」「なにが」「あの頃は良かった、ですか? 思い出に浸るんですか? もう人生をまとめにかかるんですか?」「そういうわけじゃないよ」「じゃあ何ですか?」「いいじゃん、何でも」圭ちゃんは再生ボタンを押した。Goog Morningのイントロのピアノが爽やかで瑞々しい。イエーイ。声も若い。ごっちんの鉄拳が飛んだ。圭ちゃんは翻って裏返った。「だめなんだよ」と言ってごっちんは泣いた。



 私はかおりんに話を聞いてもらっていた。かおりんは私が言い淀む度「で?」と鋭い眼差しで睨みつけるので震え上がった。「おれは何にも決められない人間なんだよ」「で?」「別に。ただそれだけです」「決められるようになればいいの?」「そうね、とりあえず当面の目標はそれです。決断のできる大人の男にですね、私はなりたい」「じゃあ決めかねてる選択肢をいくつか上げてくださいよ」「それがすらすら言えたら苦労しねえな。まずそれが問題なんだよ」「めんどくさいなあ」かおりんは私の目の前に手を差し出し、それをグーに握りしめたので、殴られるのかと思った。身がすくんだ。「カオリが勝ったら、なにもかも諦めること。お前が勝ったら、なにもかも諦めないこと」そう言って、じゃんけんぽん、をした。



 れいなは二日酔いに苦しんだとき、コンビニおにぎりを三つ食べ、ミネラルウォーター(硬水)をがぶ飲みしてから吐けば良い、ということを知っていた。それを実行する。食べて飲んで吐く。それからまたミネラルウォーターで荒れた喉と胃とを洗浄し、ポカリスエットをちびりちびり飲んで寝ていれば、いつの間にか二日酔いは回復しているのだった。寝過ぎからくる貧血で、れいなの足は多少ふらついた。窓を開けると、夜風が爽やかに室内を抜け、毛穴がキュッとしまり、乳首が硬くなるのを感じた。人差し指でそれを撫でると、ますます硬くなるようだった。隣のカトウさん家の明かりをぼんやり見た。眩しかった。



 あややは風呂上りにマニキュアを塗っていた。薄っぺらい男が「それって今塗らなきゃだめ?」と訊いた。あややは答えず、丹念に重ね塗りしては、指を広げてそれを見つめた。「なあ」と肩を掴んだ男に、「ちょっと待ってね」と声を掛けると、何か先端が尖っているものを探し、ボールペンを見つけた。ソフトバンクで貰った奴だった。でっかいお父さん(それは白い犬だ)が付いていて、とても使いにくい。いつ貰ったんだったっけ、と不思議に思った。あまり覚えがない。あややはその位置をしっかり覚えておいた。どうすればそのボールペンを最も素早く的確に手に取れるか、考えた。「いいじゃんネイルなんか、今やらなくたって」「うん、いいよ」そう応えて、あややは体を開いた。ボールペンの先を見つめながら、軽く喘いだ。
411 :さゆ :2012/05/02(水) 02:22
 さゆはかわいいものが好きなの目に優しいものが好きなの心にグッと突き刺さるようなものが好きなのだから鏡を始終見つめてさゆはさゆがかわいいことにくらくらしてしまうのだってさゆはあまりにもかわいいから好きだから目に優しいから心にグッと突き刺さるからさゆはさゆの顔が好きなのさゆはさゆの内面が嫌い。目を瞑ってベッドに潜る時にさゆは不安になるのなぜならさゆの一番好きなものを見ることができないからさゆの嫌いなものを見てしまうハメになるからそれは目に優しくないしさゆの心にグッと突き刺さってエグっていってしまうからさゆは眠ることが好きではないのむしろ眠ることが嫌い。さゆはかわいいものが好きなの目にやさしいものが好きなの心をそっと撫でてくれるようなものが好きなのそれはさゆのさゆによるさゆのための全てなのさゆは何も好きではないのさゆは鏡が好きなのさゆはさゆの顔が好きではないのだってそこにはさゆの内面が滲んでいるからさゆの表面だけをのっぺりと照り返してくれる鏡が好きなのなぜなら鏡は何も映さないからかわいいから目にやさしいからまるで心なんて無いような気がするからさゆはさゆはさゆは何も好きではないの。
412 :名無飼育さん :2012/05/03(木) 02:12
 私はグーもチョキもパーも選べなかった。非常にあいまいなフィンガーサインを供した。「グワシ」とかおりんは言った。彼女はパーを出していた。パーは一番弱いから、パーはグーにもチョキにも負けてしまうものだから。「だけどグワシじゃダメだね、そんなんじゃあダメだよ」私は気持ちを落ち着けて、再度チョキを出した。「いや、後出しもダメだからね」



 圭ちゃんは裏返ったまま「ごとーごとー」と連呼した。ごっちんは「いやです」と言う。「何がいやだって?」「とにかく、いやです」「元に戻してください」「無理です」頼む頼むと圭ちゃんが懇願するのに、ごっちんは「しょうがないなあ圭ちゃんは」と言って、その両耳を掴むとぶるぶる振った。圭ちゃんは感じた。耳が性感帯なのだった。
 圭ちゃんは耳がいい。ふとした声音の震え加減のその裏に、あらゆるものを聞いてしまう。だから聞こえないふりをするのが常態だった。あまりに多くのことを聞きすぎると、圭ちゃんは分からなくなる。自分と他人の境界が分からなくなる。もしかするとこんなのは私の思い込みなのではと、何度も思った。だけれどもいつもいつも圭ちゃんが聞く音は声は感情は正しかった。圭ちゃんは自分が分からなくなる。だから聞こえないふりをする。
 圭ちゃんは感じた。耳が性感帯なのだった。ごとーの言葉は私ではなく、ごとーに向けて言われている。私iはそれが分かってしまう。「しょうがないなあ、ごとーは」「うるさいよ」ごっちんもまた、結構耳がいい子だった。



 あややの腹の中に男の劣情がほとばしる。耳元で荒い息を吐く薄っぺらい男のその耳に、ボールペンを突き立てる。そうしたら男は死ぬだろう。考えていたのだが、当然やるはずがなかった。そんなことをしたら私は人殺しになってしまうから、人殺しにはなりたくないから。だからあややはボールペンの先端に、思いを込めるだけなのだった。お父さん(それは白い犬だ)があややを見ていた。あややはお父さんを見ていた。男は親知らずの痛みをふと思い出した。



 れいなのオナニーはいつも乳首いじりから始まる。肌寒さと性欲の区別がつかなかった。寂しさと愛情の区別がつかなかった。れいなは人差し指を舐め、思い直して薬指を舐めた。これは最近のお気に入りで、人差し指でこすりあげるだなんて、あまりにもはしたなく、侮辱的で、冒涜的で、みじめな気持ちになるから、薬指がいいのだった。
413 :名無飼育さん :2012/05/14(月) 01:51
六畳一間

圭ちゃんは六畳一間の和室に住んでいた。畳がすり切れている。
「だって安いのよ」と圭ちゃんは言った。きまりが悪そうに。
コーヒーが出る。味も香りもないまずいコーヒーだった。
「安い豆使ってんな」
「そうよ。だって安いのよ」
飲み干す。圭ちゃんはラジオを付けた。
「地デジ難民でね」と言い訳がましいことを言った。
ブラウン管テレビが埃を被っている。その上にキティちゃんのぬいぐるみ。
「意外と女の子してるよね」
「でしょ? ユーフォーキャッチャーで取った。200円」
「やっぱそうでもないな」
「なんで」
414 :名無飼育さん :2012/05/14(月) 01:56
私は爪を立てて畳の目を数える。陰毛が挟まっていた。
少し力を込めて引き抜くと、プツリ、とした手ごたえがあって、
その根本に白く透き通った返しが付いていた。毛根である。陰毛の毛根。
私はそれを口に含み、前歯と舌との間でその感触を確かめた。
「ちょっと! やめてよね」
「何の味もしないもんだね」
「当たり前でしょうが」
「がっかりした。なんか、がっかりした」
「よく分かんないけど傷つくわ」
圭ちゃんは蚊取り線香に火をつける。もうそろそろ蚊が出始めて来た。
ライターはそのままタバコの先へ向き、煙が立つ。
メンソールの香りがする、D-SPECの香りがする。
窓が開いている。夏の匂いがする。陰毛は誤って飲み下した。
喉に絡まって不愉快だった。コーヒーがまずい。
415 :名無飼育さん :2012/05/14(月) 01:56
トイレから水音がする。それは小便が便器に滴り落ち、水面を打つ音だ。
「筒抜けだな」
「だって安いのよ」
続いて水がけたたましく流れる音がして、れいなが戻って来た。
「ちゃんと拭いた?」
「もちろんだっちゃ」
「トイレットペーパーがカラカラいう音がしなかったけれど」
「……」
「拭きなさいよ。女の子は小便をしたら拭かなきゃいけないんだよ」
「パンツ履いてるから大丈夫だっちゃ」
「どれ、見せてみなさい」
れいなを押し倒し、股を開かせるとクロッチの部分がずぶ濡れであった。
「全然大丈夫じゃないじゃないか。臭い。最高だ」
「ちょっと、人ん家でそういうことやんのやめてくれる?」
「うるせえな、黙ってろよブサイク」
圭ちゃんはティッシュを二枚取るとそれで鼻をかんだ。ずぶぶぶ、と不愉快な音がする。
れいなは「臭くないっちゃ」と頬を膨らませた。
「くせえよ。鼻が曲がる。最高だ」
416 :名無飼育さん :2012/05/14(月) 02:03
めんごめんご、と言いながらごっちんが戻ってくる。
「コンビニわっかんなくて」
「だから家の前の道をすぐ右に行くんだって。言ったでしょ」
「右ってどっち? すぐってどんぐらいすぐ?」
「それ冗談で言ってる? 本気?」
「マジマジ」
「お箸持つ方が右、すぐってのは玄関を出て……って、ちょっと、ちゃんと聞きなさいよ」
「聞いてる聞いてる」
「バカ」
「うっせ」
れいなは本棚を見ている。どれが面白いか、これは面白いか、
と一々訊いてくるのがわずらわしい。
「どれでもいいから好きなの読めよ」
「どうせ読むなら面白い奴が読みたいっちゃろ」
「知らんわ」
圭ちゃんとごっちんはまだ押し問答をしていた。うんざりである。
「もうお前が行って来いよ」
「なんで私が」
ごっちんが「そうだよ! お前がビール買って来いよ!」と叫んだ。
れいなは扇風機を回して「これ、首が回らんと」と言った。
417 :名無飼育さん :2012/05/14(月) 02:19
圭ちゃんがビールを買って戻ってきた頃には、
もうなんだか「酒を飲むって気分じゃないよね」という感じになっていた。
「折角買ってきたのに」と圭ちゃんは怒ったような寂しいような顔をする。
気の毒になった。ごっちんが「じゃあとりあえず一本」とそれに手を伸ばしたので、
私も「ごっちんが飲むのなら」とそれに手を伸ばした。
「チューハイはなかと? ほろよいとか」
「ビールつってたからビールしか買ってきてない」
「気がきかん人っちゃね」
「なんであんたにまでそんなこと言われなきゃいけないのよ……」
「そうだよ、失礼だよ。いくら圭ちゃんが気が利かんクソ女だとしても、れいなちゃんにそれをなじる権利は無いんだよ」
ごっちんが「そーそー」と同意した。「で、グラスは?」と圭ちゃんを見遣る。
圭ちゃんは唇を噛み締めていた。私は圭ちゃんが気の毒で気の毒でしょうがなく、
「早くグラス持ってこいよクソ女」言ってやった。れいながケラケラ笑う。
「帰れ! お前ら帰れ!」
圭ちゃんが激高するので、
「絶対帰りません」
「圭ちゃんが帰れっつーなら帰るけど、タクシー代出してね」
「チューハイ買って来て欲しいばい」
418 :名無飼育さん :2012/05/14(月) 02:26
私はプルタブを開けた。小気味良い音がする。ああ喉が渇いた。飲んだ。美味かった。
ごっちんも開けた。圭ちゃんも開けた。
れいなは「チューハイじゃなきゃいやばい」とカタクナだったのだが、
圭ちゃんが「うるせえ! ビール飲め!」と更なる激高を重ね、
鼻に缶を押し付けるなどするので、
「分かりました。飲みます。飲みます。飲みますから止めてください」
シオラシクなった。しかしビールが少しこぼれた。
「酒の一滴は血の一滴」とごっちんが激高しはじめ、床を指さして「舐めろ」と言う。
「それは誰に言ってんの?」訊くと、「けーちゃん」と答えた。
圭ちゃんは窮し、
「いやいや、舐めませんから」
「じゃあ、田中ちゃん! お前が舐めろ」
「無理ばい」
「無理と思うから無理なんだよクズ」
どこの体育会だ、と私は思った。
419 :名無飼育さん :2012/05/14(月) 02:38
 床には圭ちゃんの陰毛がたくさん落ちていたので「圭ちゃんの陰毛を5分間の内に何本集められるか」という勝負を始めることになった。私は素早く二本の陰毛を拾い上げる。机の下が狙い目、あとは布団の上が狙い目であった。「普段ここでオナニーしてるんでしょう」と訊くと、圭ちゃんは首を横に振って「しない」と言った。
「じゃあなんで陰毛が落ちるわけ? オナニーするから落ちるんでしょ」
「オナニーしなくたって落ちるでしょ」
「はあ? じゃああなたはオナニーもすることなく陰毛をバラ撒きながら生活してるとでも言うんですか? どうかしてるんじゃないですか?」
「あんたがどうかしてるだろ」
 そんな口論をしている内にごっちんもれいなも着々と陰毛を集めていたのだが、ごっちんが「これさあ、本当に圭ちゃんの陰毛なのかなあ」という素朴な疑問を提出したので、一時騒然とした。
「圭ちゃんの部屋に圭ちゃん以外の陰毛が落ちているということがありえるのだろうか?」
「ありえる。我々のうちの誰かの陰毛である可能性は否定できないのだから」
「れいなはツルツルやけん」
「黙れ」
 私は手元の陰毛の内から一本を選び取り、皆に見せつけて言った。「じゃあこれは誰の陰毛ですか?」「それは圭ちゃんのでしょう」と、ごっちんが断定的に言う。私は次の陰毛を選び「ではこれは?」「それは、誰のでしょうねえ。私か、もしかすると、あなたのかも知れません」これがごっちんの陰毛かもしれないという統計的客観的事実に胸が高鳴った。
420 :名無飼育さん :2012/05/14(月) 02:48
「そうだ、分かったよ。みんな、何本集められるかの勝負は一旦止めて、手持ちの陰毛を机の上に開示してください」
「なんで?」とごっちんが言う。勝負を捨てるのが惜しいのだ。これはブラフだと考えている。机の上に開示した途端、私がその陰毛を横取りすると考えている。違う。ブラフなどではない。私は統計的客観的事実に興味があるのであって、勝負は勝負だが、それは一旦横に置いておいて、この部屋に存在する陰毛という陰毛の、全ての元の帰属していた先のものが知りたいのだ。
「まあ、聞きなさい。まず机の上に全ての手持ちの陰毛を開示します」
「ほう」
「それから、自分の陰毛を、痛いかもしれないが、抜いて、一本ずつ提供してください」
「なるほど」
「れいなはツルツルやけん」
「黙れ」
 私は陰毛を抜いた。力任せであったため三本ほど抜けた。ごっちんがそれを見て「ご立派です」と言う。ごっちんがパンツに手を入れ、陰毛を引きぬく時のわずかに歪んだその顔、それに興奮した。れいなは「ツルツルやけん」と拒んだが、パンツを引っぺがすとケツ穴付近までびっしりと生えていた。「もうちょっと処理とかした方がいいんじゃないかな」とごっちんが神妙な顔をして言う。れいなは「へへっ」と照れた。圭ちゃんは「あほらしい」と拒んでいたのだが、三人がかりでパンツを引き裂くようにして脱がし、「レイプするってこんな感じか」などと言って笑っていたのだが、圭ちゃんは「レイプされるってこんな感じか」と虚ろな目をしていた。剛毛。意地汚く前から後ろまで生え揃った亀の子だわし。そこから力任せに陰毛を引きぬく係は私の仕事だった。握り締め、抜く時、圭ちゃんは軽く喘いだ。「やっぱり、微妙に女の子なんだよね」と言うと、「侮辱だよ」と言って泣きそうな顔をした。すまんすまん、と思った。
421 :名無飼育さん :2012/05/14(月) 02:56
厳正な審査の結果「こんなことをしてもどれが誰の陰毛なのかよく分からない」ということになった。
「まあ分かってたことだけどさ」とごっちんが知った風な顔をする。
「れいなはツルツルやけん」
「いや、ほんとツルツルに処理した方がいいんじゃないの?」
ごっちんはれいなの陰毛の意外な程のアレ具合に心配になったらしい。
「ほら、女の子なんだからさ」ごっちんはれいなの肩に手を添える。説得するような形になった。だがれいなはカタクナである。
「自然のままが一番なのだっちゃ」
「ギャルメイクする女が言う台詞じゃないな」と茶々を入れる。
「メイクはれいなにとって自然なことなのだっちゃ」
「そうですか」
422 :名無飼育さん :2012/05/15(火) 00:53
圭ちゃんが「とっておきがある」と言って出してきたのは魔王という芋焼酎だった。
これは高いんだからと言って自慢気な顔をする。ごっちんは「私焼酎飲めない」と言う。
「日本酒の方が良かった。越乃寒梅」
「無いわよ」
「安い女だからな」と茶化すと、私が安いわけじゃなくて部屋が安いのよと言う。
れいなは携帯をいじっていた。
「なんだよ、誰にメールしてんの」
「絵里に来ないかって」
「はあ? やめろやめろ。あんな女呼ぶな」
「友達だっちゃ」
「クソ女だ」
圭ちゃんが「なんかあったの?」と訊く。そこらへんはさすがと言わざるを得ない。
「何もないですよ。何もないです」
「これはなんかあった感じですねー。いいですねー。青春ですねー」とごっちん、言いながら魔王を注ぐ。
「けーちゃん、氷無いの?」
「二時間待って。作るから」
「待てないですねー。準備悪いんじゃないの? 買ってこい!」
「てめえが買ってこいよ! 私はさっきビール買って来たんだから」
やだやだ、とごっちんはだだっこのようにごねた。
圭ちゃんはふふんと鼻で笑って「しょうがないなあもう」とて家を出た。
私はごっちんにえりりんの話をしようかどうか迷った。
れいなは携帯を閉じる。満足気なその顔を見ると気持ちが挫けた。
423 :名無飼育さん :2012/05/17(木) 19:23
コンパ

 いいんですよと、えりりんが言った。何が「いい」んですって? よく分からなかったから訊いた。とにかく、いいんですよと、えりりんは実に断定的な口調で言った。目が座っている。手に持ったグラスをぐりぐりとこねくり回した。それは男根を欲するあまりの欲求不満な擬似手コキであるように思えた。コイツは酔っ払ってやがるぜ! 酔っ払った女ほど恐ろしいものはない。めんどくさいから関わりたくないのだが、その全ての所作から発される女の色香がたまらなく私に劣情を催させ、その劣情にふらふらとなびいてしまいかねない私の男としての性欲があまりにもみじめで、えりりんの手の平の上で転がされているような、非常に不愉快な感情を抱いた。
 私の連れの男が身を乗り出して「えりりんは彼氏とかいるの?」と訊いた。連れの目は性欲に血走っており、ああ男というのはなんとみじめで醜いのだろう。こうはなりたくないものだ。私は身を引いた。「えっとねえ」と言いながら、えりりんは席を立ち、連れの隣に座った。そして実に簡単に体を預ける。男の手を取り、指を絡ませながら、とろんとした上目遣いで「どうだと思う?」と訊いた。
「いるんでしょ。だってえりりんかわいいし」
「そんなことないよ。かわいい子なんてたくさんいるんだから」
「その中の一人だよね、えりりんは」
 私は酒を煽った。こんなもの見ていられない。こんな安い芝居は見ていられない。さっさとホテルなりなんなりへ消えてしまえばいいのだ。
 さゆと目が合う。「帰りますか」と笑い声で彼女は言い、とろけあっている二人へ向けて侮蔑的な視線を投げた。
「いや、ここで帰ったら負けですよ」
 私は意固地になっていた。このまま二人がホテルへ消えていき、男女の仲になるのもいいだろう。私とさゆが席を外せば、そうなるのも自然の成り行きである。人間というのはそういうものだ。いくら偉そうなことを言っても、所詮はまんこにちんこを入れるために生きているのだ。だがその発端が、目の前で起こってしまったとなれば話は別で、そもそもえりりんはまず最初に私に色目を使ったのだ。もしかすると私がえりりんと男女の仲になったかもしれず、連れの男にえりりんを盗られてしまった、私にもチャンスがあったのに、もしかしたらえりりんは私の方が好きだったのかもしれないのに、そんなことを考えだすととてつもなく裏切られたような気持ちになり切なくなりやりきれなくなり、だからなんとか妨害してやろうと思った。
 さゆは口元を手で覆いながら「負けとか」と言って笑った。
「負けですよ。負けだ。ここで帰ったら負けです。男としてのプライドが」
「そんなものがあるんですか」
「あるんですよ。困ったことに」
「そういうの興味が無い人だと思ってました」
「興味はありますよ。セックスしたい。それもプラトニックな、感情でやるセックスをしたいんです」
「へえ」
「引きましたか? 童貞くさいとか思いましたか?」
「童貞なんですか?」
「そうですね」
「童貞とかはどうでもいいんですけど、ピュアだなって」
「じゃあ、じゃあ話しますけど」
 えりりんが「好き」と言い放つ声が場を割った。それに釣られて見ると、二人は接吻をしていた。家でやれ、ないしはホテルでやれ。ここは居酒屋であり、公衆の場であって、君らが不確かな愛を燃え上がらせ、情事に及ぶ場ではないのだ。だが、えりりんの「好き」に答えて言う「おれも」という連れのその声が目がもはや、えりりんの肉体に対する肉欲ではなく、えりりんの精神に対する情熱で燃えていた。
 さゆはため息を吐き「えりはいつもこれだから」、私は立ち上がって「ちくしょう! 許さねえぞ!」と叫びながら、二人の接吻を引き剥がし、えりりんの唇を奪った。えりりんは拒まなかった。舌が絡みついた。至福であった。さゆと連れと周囲の客の目が、私の身にザクリザクリと突き刺さり、猛烈な後悔と恥辱を感じたが、えりりんの腕が私の背中に回り、唇は一旦引き離され、目が合い、すがるようなその目付きと相俟って、もう一度、今度は連れではなく、確かに私に向けて発される「好き」というその声音に、どうでも良くなってしまい、えりりんの尻をワシ掴んだ。
424 :名無飼育さん :2012/05/17(木) 20:44
観察日記 5/17(木)晴れ

 先生あのね、今日かられいなちゃんの観察日記(漢字合ってますか?)をつけることにしました。れいなちゃんというのはうちの近くに住んでいる女の子で、とてもかわいいです。たまに会うと「おはようだっちゃ」ってへんなあいさつをしてくれるのでオカシイし、かわいいです。れいなちゃんはへんな男の人といっしょに住んでいます。さいしょ、男の人はお父さんなのかなあと思ったんですけど、お母さんはいないみたいだし(父子かていっていうのもあるんだから、それはべつにおかしいことでもなんでもないんだから、そういうことは言っちゃダメだって、そういうのはサベツだって、まえ先生言ってたけど、じゃあどう言ったらいいのか分からないので、こう言わざるをえないのである)、うちのお父さんともなんだかふいんきが違って、なんかちょっときたないし、かっこわるいです。うちのお父さんはかっこいいです。ずっとまえの日記で書いたけど、うちのお父さんは消防士です。人の命を救っているのです。こないだのごはんの時どうりょうが死んだって泣いてました。ぼくはべつに悲しくなかったです。でも悲しそうなふりをしないと怒られるのでいやになります。その日はカレーだったんですけど、ぼくはカレーがとても好きで、いつもなら三杯ぐらいおかわりしても「もっと食べろ」って言ってくれるのにのに、お父さんのどうりょうが死んだって話のときはおかわりすると怒られました。いやになります。ぜつぼうです。カレーを楽しく食べられないかていなんてクズです。そういえば先生がうちのお父さんのことかっこいいって前言ってたのでお父さんに言うと喜んでました。お母さんに言うと怒られました。「いやらしい先生ね」って言ってました。先生はいやらしいんですか? よくわからりません。ぼくはお父さんは好きだけどお母さんはきらいです。お母さんはいつも怒ってます。たまにころしてやりたくなります。ぜつぼうです。れいなちゃんはかわいいので、れいなちゃんがぼくのお母さんだったらいいのになあと思いました。いっしょに住んでるへんな男の人がいなくなって、そのかわりにお父さんがれいなちゃんといっしょに住めばいいのになあと思いました。もちろんぼくもいっしょにです。れいなちゃんはかわいいです。「おはようだっちゃ」とへんなあいさつをしてくれます。れいなちゃんのことを考えるとむねが苦しくなります。ぼくのお母さんになってほしいです。ぼくはいまのお母さんがきらいです。先生のことは好きです。先生もかわいいです。れいなちゃんがだめなら先生がぼくのお母さんになってくれてもいいです。きょかします。しかしげんじつはきびしいのでぜつぼうです。
425 :名無飼育さん :2012/05/18(金) 00:20
キッチン

 夜中にふと目が覚めて喉の渇きを覚えたので、うおー水をよこせーと、北斗の拳におけるモヒカンの真似事をしながら台所へ行くと、ごっちんがシンクの前で膝を抱えてうずくまっていたのでびっくりした。ごっちんはピクリともせず、寝ているかとも思われたのだが「ごっちんなんで居るの」と声を掛けると「居ちゃ悪いの?」と怒った声が返ってくる。悪いこたあないですけれど、どうやって入ったのか、いつから居たのか。問い詰めると「職質みたい、気分悪い」などとご機嫌斜めであり「今何時?」と逆に問い返された。分からんが、十二時は回っているんじゃないでしょうか、と私は返事した。新宿で飲み会が終わったのが十一時ぐらいでそっから電車に乗ったからうんぬんかんぬんと、独り言めいた口ぶりで呟くので、どう受け答えすべきかそもそも受け答えをすべきなのかどうか逡巡している内に「ねえ、ちょっと聞いてる?」と、また怒ったようである。
「聞いてるよ、なんだなんだ、酔っ払ってんのか」
「酔っ払ってちゃ悪いの? なんなのさっきから」
「そりゃこっちの台詞だけども」
「なんで居るのかとか酔っ払ってんのかとかさあ」
「だってそれは当然の疑問でしょう」
「職質みたい、気分悪い」
 ごっちんは顔を膝に埋めて、ああ気分悪い本当に気分が悪い吐きそうなどとまたぶつぶつ言った。
「電気つけていい?」
「ダメ」
「なんで?」
「気分が悪いから」
「トイレで吐いて来なさいよ」
「いやだ」
「なんで?」
「気分が悪いからだよ。何度も言わせんな」
「いやだから気分が悪いなら吐いてしまえばいいのではないですか? とね、私は提案しているわけで、あと電気つけていい?」
「うっせーんだよ。指図すんな、気分悪い」
「なんなのだお前は」
426 :名無飼育さん :2012/05/18(金) 00:20


 ごっちんは顔を上げると、あんたこそ何なのほっといて出てって良かったら死んでとハッキリした口調で、半ば叫ぶようにして言った。これは敵わんぞ。酔っ払った女ほど怖いものはこの世には無いからな。私はふと喉の渇きを思い出し、
「ちょっと、水飲みたいからそこどいて」
「飲めば?」
「そこに居られると邪魔なわけよ。水くめないじゃん」
「知らねーよ知らねーよ知らねーよ」
 腹が立った。こんな女は放っておいて、水飲んでさっさと寝よう。コップを取り、蛇口を
捻るとキュッという無機質な音が響き、ダラダラダラと流水がシンクを打つ音が響いた。水をくもうとした私の腕をごっちんの腕が引き、水がこぼれた。冷たっ、とごっちんが言う。「お前のせいだろうがよ」
「謝れ」
「いやです。絶対に謝りません。このクソ酔っぱらいが」
「私も水飲みたい」
「勝手に飲めばえーんちゃうんか」
 さっきからさあ、とごっちんが不服そうな声を上げる。本当に酔っ払った女はめんどくさい。うるせえな、なんなのだ、もう帰れよお前、言おうとしてごっちんの顔を見ると目が合った。この薄暗さに目が慣れてきたものらしい。水が飲みたい、とまた言う。それは怒っているような声では無かった。どちらかと言うと甘えるような、縋るような声で、その目つきもまた縋るようなものであったように思える。嫌な予感がしたので、飲んだらえーがなと冷たく言った。
「くんでよ」
「自分でやれ」
「酔っ払ってるからさあ」
「知らんがな」
 ごっちんが私の脚に両腕を回して縋り付いた。おっぱいの柔らかさを感じる。私は動揺し、そういうの止めてよね、勃起するだろ、と冗談めかして言ってみると、ごっちんは顔を上げ、私の股間に頬を擦りつけた。
「勃起すんの? 私で?」
「当たり前だろうが」
「ふーん」
 ごっちんの手が股間に伸びるので、その手を叩き落とした。
「女の人は怖いな」
「怖くないよ、やさしーんだよ」
「どこがだ」
「教えないけどね」
 ごっちんはすくりと立ち上がり、私の手からコップを奪い取ると手際よく水をくみ、それを一気に飲んだ。ごくりごくりと水を飲む音が生々しく響き、それに合わせて喉が波打っていくのを、私はただただ呆然と眺めていた。ごちそーさま、とコップを返すと、
「じゃ、帰るわ」
「ああ、帰るの」
「帰るよ」
「帰れんの?」
「帰れるよ」
 そうかじゃあ気をつけてと、私は手を振った。ばいばーい、と何度も言いながら、ごっちんは玄関を出た。水を飲んで一息ついてから、私は猛烈に後悔した。あの流れ、絶対にヤレただろう、と思った。なぜいつもいつもこうチャンスを逃すのか。自らフイにするのか。おれのいくじなし! 私は私を呪った。ズボンを下ろし、パンツも引き下げて、脚に縋りついていたごっちんの体温と、水を飲む時波打つその喉を思い出しながら、未だ勃起収まらないちんこを擦り上げて射精し、せめて想像の中でだけでも思いを果たそうと、ちんこを掴んだところで突然台所の電気が明々と点灯し、まぶしい! れいなが「水をよこせー!」とおどけながらちんこを掴んだ。私は射精した。
427 :名無飼育さん :2012/05/18(金) 03:57
冤罪

 電車、特に意識をするでもなく向かいに座った女の顔を見ているとふいに目が合い、なんだか気まずくなって目を逸らすのだけど、そうすることで「私はあなたの顔をじっと見ていました」と宣言してるような気分になって、それは当然事実とは異なり、なんといっても私はただ何も考えることなく、左右に広がるそのシートの、たまたま私の向かい側、目の前にあなたが居たから、私が前を見ていると必然的にあなたの顔が私の視界に入るから見ていただけで、ほとんどその背景にある窓の外の景色の一部のように、あなたの顔を見ていただけであって、何もあなたの顔を見ようと思ってあなたの顔を見ていたわけではないのだから、なぜ目を逸らさなくてはいけないのだろう。なぜ「私はあなたの顔を見ていました」などと宣言しなくてはならないのだろう。床を見つめながら考えた。
 ザ・コミュニケーション。視線が交差するということは現象としてはただそれだけで、そこに何かしらの意味や意図が常にあるわけではない。ただ目が合っただけだ。深い意味などないのだ。私だって何も考えていなかったのだから、向こうだって別に考えていやしないだろう。私はもう一度気を取り直して顔を上げ、しかし一抹の不安を抱きながら彼女の顔を見ることになるわけなのだったが、彼女は手元の携帯端末に没入していたから安心した。
 彼女のまつ毛は長く、マバタキの度に空気がそよぐような気がした。天然物だろうかつけまつ毛だろうかまあどっちでも長いことには変わりがない。どっちらでも良い。左手で端末をガッチリとホールドし、右手の指先がタッチパネルの上をたまに這う。メールでもしているものと思しい。もしかするとTwitterかもしれないし、Facebookかもしれない。なんだったら私が知らないだけで彼女はそれなりに知名度の高い地下アイドルであったりするかもしれず、だとすればファンからのブログのコメントに返信しているのかもしれない。いずれにせよその慣れきった所作が好きだ。
 彼女は電車が駅に着く度に顔を上げ、入り口の上にある電光パネルを見るようだった。その度に私は目を伏せて「私はあなたの顔なんか見ちゃいませんでしたよ」という風を装う。頃合いを見計らってまた彼女の顔を見る。そして考える。
428 :名無飼育さん :2012/05/18(金) 03:59
 彼女は一体どこの駅で降りるのだろう。ずいぶんかわいらしい顔をしているけれども、やっぱり男がいたりするのだろうか。もしかするとこれからその男の家に行ったりするのだろうか。やっちゃうのだろうか。やっちゃうとしたらどのようにやるのだろうか。彼女から誘うのだろうか。それとも男から誘うのだろうか。仮にやっちゃうものとして、するとなれば今彼女が身に付けている下着というのは何色なのだろうか。どのような生地で、どのようなスタイルのものなのだろうか。ややロリータ、ポップ気味な服装から察するにドギツイ原色やTバックなんてことはないだろう。だからと言って白の綿パンだなんてことも考えにくい。レースも無いだろう。ベージュだなんて、もっとあり得ないことだろう。そうだ、水色だ。水色のパンツが彼女には似合う。彼女の男もきっと水色の下着が好きなはずだ。奇遇なことに、実に奇遇なことに、彼女の男と私とは趣味が近い。
 彼女は男の家に着くなりきっと笑いながら「疲れた」などとため息まじりに言い、男はそんないつも通りの彼女の顔に安心して「おつかれさま」などという優しく慈愛に満ちた言葉を掛けて差し上げるに相違なく、彼女は帰り道に夕飯の材料を買ってきている。「今日は肉じゃがでも作ろうかと思って」そりゃあいい! いいじゃん、おれ肉じゃが大好きなんだよね。男は材料を持ってやる。その間に彼女はブーツを脱ぐ。そのブーツはたっぷり一日履かれた彼女の匂いを蓄えていて、男はその段階ですでにむらむら、さっさと肉じゃが食っちまって、はやく彼女の足の匂いを嗅ぎながらファックしたいぜ、なんて考えているのだが、いい男なものだから、少なくとも彼女の前ではいい男を演じているものだから、「いやあ、お前の肉じゃがが食べられるだなんて、おれは幸せものだよ」なんて言うのだが、彼女は照れ屋なものだから「ばーか」とか言っちゃって、素直ではない。彼女も肉じゃがなどどうでもいいのだ。ファックしたい。ファックしたいから男の家にこうして来ている。私、今日はあなたの好きな水色の下着をつけているのよ。そう言いたいのだ。早く早くファックがしたい。でもそうは言わないのだ。なんとなれば彼女は貞淑で、肉欲の少ない女だから、少なくとも男の前ではそれを演じているから、「じゃあ早速肉じゃが作っちゃうね」ファックしたい、その欲望を二人共包み隠しながら、真心篭ったファック仕立ての肉じゃがが出来上がる。酒とみりんと醤油とファックで味付けされた肉じゃがは実に美味いことだろう。舌鼓を打つ。その間に、私は彼女のブーツをそっと盗み出す。彼女の体と君たちのファックはお前にくれてやるけれども、彼女の今日という一日、何物にも代えがたい本日、「本日の彼女の体臭、レザーブーツ仕立て」、それは私のものだ。それはおれのものだ。彼女の匂いはおれのものだ。
429 :名無飼育さん :2012/05/19(土) 16:39
おっぱい

 保田さんがおっぱいを寄せて上げるブラジャーをつけようとしており「ちょっと、見てないで手伝ってよ」と振り向きざまに言うので、そうかそうかよしよしとて不恰好に回された後ろ手を取った。「手持ってどうすんの、ここ持ってここ」「保田さんの手あったかいです。かわいいです」「いや、そういうのいいから」
 私は示されるがままに両ホックを手に取った。ぐいぐいと引くのだが、どれだけ無理をやっても物理的にこれを閉じるのは不可能であり、その両ホックは永遠に咬み合わないように思われた。「これサイズ合ってないんじゃないですか」「小さめのを無理につけるのが盛るポイントなんだよ」「そういうものですか」「そういうものです」「でも無理ですよ」「無理だと思うから無理なんだってば」「無理ですよう」
 保田さんは眉をしかめて「ああん?」と言った。恐ろしい顔だった。「無理ですよう、じゃねーよ。かわいこぶってんじゃねーよ」「ぶってるんじゃないですよう。かわいいんです」「そうですか」「そうです」「もういいや」
 私の手を払いのけると、ふんっと息を飲んで、一気呵成にホックは閉じられた。私は驚嘆した。手品か何かを見ているようだった。保田さんが私の方へ向き直ると本来は平面に近いはずの圭ちゃんおっぱいがたゆんたゆんと揺れていた。「すごいですね」「これが熟練の技ってもんよ」「本当にすごい」私は保田さんのたゆんたゆんな圭ちゃんおっぱいを指でつついた。「尊敬しな」「しませんけど」「なんで」たゆんたゆん。保田さんは「人の胸をおもちゃにすんじゃないよ」と笑ったが、むしろ私が保田さんにおもちゃにされたいような気がした。
430 :名無飼育さん :2012/05/19(土) 16:39


 ほい、まず息を吐き切って、はい止めて、もうちょっとそのまま、うーん、もっと息吐けないの? と保田さんが言った。無理です、と私は答えた。無理じゃねえよ、無理だと思うから無理なんだよ、あんたも私のように魅惑の盛りおっぱいになりたくないの? なりたいです。私も保田さんみたいに魅惑の盛りおっぱいになりたいです。じゃあもう一回やるよ、はい、息吐いて、もっと、もっと息を吐いて、これ以上吐くと内蔵が潰れちゃうよおんあはあんって、ぐらいまで吐いて、ほらほら、もっともっと、まだだよ。まだ足んねえよ。私はクラクラした。「無理です。死んじゃいそう」分かんねえ奴だな、無理だと思うから無理なんだってさっきから言ってんだろ。それに喋れるってことはまだ息を吐ききってないってことだ。限界を突破するんだ。限界を突破した先に魅惑の盛りおっぱいが「無理です」「ああもう、うるせえな! 黙ってろ!」空気を抜いてやる。お前の空気を抜ききってやるよ。私の口が何かによって塞がれ、それと同時に何かが突っ込まれる感覚がし、それが保田さんの唇であって舌であることが期待されたのだったが、大変残念なことに私の視線の先には掃除機があった。スイッチがオンされる。ぶおおおんとけたたましい排気音が鳴り、空気どころか内蔵が全て持っていかれるような狂おしい苦痛を感じた。魅惑の盛りおっぱい、全ては魅惑の盛りおっぱいのためなのだ。保田さんの目は崇高なる使命感に燃えていた。私は保田さんの肩に手を掛けると、その目に訴えた。死んじゃう! いいんだよ、死んだっていいんだよ、むしろ死んでからが本領というものだ。肉体の限界を突破した先に私たちの愛があるんだ。私は保田さんの言っていることがさっぱり分からなかった。死んでしまったら終わりである。全然意味が分からない。保田さんはどうかしている! 私はもっと普通に、尋常に、保田さんの愛を感じたいのだ。おっぱいを揉みしだき、まんこを音立てながら舐めてほしいのだ。「どこがいいの?」「そこがいいです」「そこじゃ分かんないな」「まんこ!」そういうやりとりをしたいのだ。私はそういうことをしたいのだ。そういう意味合いでおもちゃにされたいのだ。保田さんのやることにはついて行けない。だって死んじゃったら終わりである。掃除機を止めて! 魅惑の盛りおっぱいなんてどうでもいい! お前は分かってないよ。何にも分かっちゃいない。おもちゃにされたいって言ったのはお前だろう。なのに何故拒むのか。魅惑の盛りおっぱい! それを作ってやろうというのだ。これが私の愛なのだ。お前は何も分かっていない。死んでも当然だ。私は絶頂に達した。
431 :名無飼育さん :2012/06/05(火) 02:43
愛してると言ってくれ

 飲み会、桃子は隣りに座った男に「ももちあれやってあれ」と無茶な振りをされ、あれってのはなんなんだよあれってのはよ、思いながら、「ももちです♪」「うっわーマジでやったよ、クソさみー」「なによう、そんなこと言っちゃダメだよ♪」「ははは、うぜー」ああ何をしているんだろう私は、死にたい、と考えていた。死にたいというのは言い過ぎとしても、こんな飲み会からはさっさとおさらばしたいと思っていた。そもそもハナから気が乗らなかったのだ。男どもが愛理目当てであるのはあまりに明白で、愛理に直に声かけるのはためらわれるものだから、桃子経由ならいけんじゃね? いーねー、まあああいうキャラも一人ぐらい居たら、面白いんじゃね? 興味ねえけど。ああいう女嫌いなんだよね。そんな会話があったのだろう。私はダシに使われたのだ。そんなことは承知の上ではあったのだが、生来のサービス精神の旺盛さからなんとなく男どもが気の毒になり、性欲の包み隠し方も知らない彼らがいじらしく哀れな生き物に思え、サービスしてやりたいと思い、その結果がこれか。こんなもんか。男どもは所詮こんなものか。クソガキが。やりたいだけのクズどもが。
 愛理は二杯目のカクテルで既にとろんと酔っ払っていた。男の手が肩に回ろうとも、さほど気にしないようだった。むしろそれを好んでいる節さえあった。桃子は男どもの分かりやすさに辟易したし、しかし愛理よ、お前もそんな感じか。そんな安っぽそうな男、そんな精神のどこかが根本的に低そうな男にベタベタと触られて、お前はそれでええのか。乙女の純情はないのか。乙女の恥じらいはないのか。乙女のプライドはないのか。私は帰るよ。もう帰ります。好きにしたらええのんや。責務は果たしました。後はよろしくやってくださいや。私は帰る。耐えられない。つまらない。あんたはホテルなりなんなり、行ったらええのや。精神のどこかが根本的に低い男にヤラれてしまったらええのや。
 財布を取り出して「じゃ、ももちはお先にしつれーしまーす♪」と言おうとしたところで、横から腕が伸びた。「何財布出してんの?」「え? 帰ろうかと思って」「なんで?」「ほら、明日も早いんで」「愛理ちゃんはへーきだって言ってたよ。おんなじグループでしょ?」「芸能界色々あるんでー」「帰るなよ」そのまま腕はぐるりと首に巻き付いて、酒臭い吐息が顔にかかった。「な、帰るなよ」桃子は顔をしかめ、男の顔を見た。その顔の奥底に、たぎるような性欲の奥底に、精神のどうしようもない低さが覗いているような気がしたのだが、「まだもうちょっとぐらい大丈夫だろ。お前が帰ると寂しいじゃん」ああそうか。これは寂しさという名前を与えられるべき感情だったのか。そう思うと目の前の男が妙にいじらしく、かわいらしく思え、桃子は横目でチラリと愛理の様子をうかがった。愛理は笑いながら、カクテルを舐めていた。何を考えているのだかよく分からない、座った目をしている。
 桃子は座り直して「分かった」と答えた。男が喜ぶ。そしてビールを注いでくる。一つも美味いと思えないビールだったが、一息に飲んだ。喉から胃へ向かってストンと落ちていく炭酸が爽やかで、嫌いだった苦味はあまり感じなかった。すぐに胃のあたりがじんわりと熱を帯び、アルコールが頭の先へ回っていく感じが、実にダイレクトに感じられた。もしかするとビールは美味しいのかもしれない。私は何か間違っていたのかもしれない。そんな気がした。男の腕がまた改めて肩に回り、それが別に嫌な感じがしなかった。しょうがない、という気がしたし、むしろ私は私でそれを喜んでいる、という気がした。向かいの男が「ももち踊ってー!」と叫んだ。いやなこった、なんでてめえの指図で踊らなきゃならないんだ、私は仕事でやっているんだ、踊ってほしけりゃギャラ払えよな、でも、しょうがない、おまえたちきみたちあなたたちは、ちょっと、あまりにも、哀れで、いじらしく、愛おしすぎる。
「じゃ、ももち踊りまーす! ほら、愛理もいっしょにやんだよ。こらてめえ! 愛理の体に馴れ馴れしく触んじゃねえよ! ぶっ殺しますよ!」
 桃子と愛理は踊った。拍手拍手ビールビール。桃子は男どもの赤ら顔を見回しながら、誰か私に愛してると言ってくれ、と思った。
432 :名無飼育さん :2012/06/10(日) 23:18
乱暴と電話

 れいなが暴漢に襲われたという電話を受けた私は居てもたってもいられず矢継ぎ早に質問をまくし立てた。いつ? どこで? 誰が? どうやって? どこまでの行為に及んだのか? 電話先の警官は「まあ落ち着いて下さい」と半ば呆れた声で言ったのだが、これが落ち着いていられるものですか!
「お気持ちはお察します。しかしれいなさんはご無事ですので、ええとまずは何でしたかね?」
「いつ?」
「そうですね、さきほどです、ほんの数十分前」
「どこで?」
「荻窪です」
「なぜ荻窪なんかに?」
「知りませんよそんなこと、本人に聞いてください」
 れいなが電話に出た。げんきげんきだからだいじょうぶばい、というようなことを言っているようなのだが、舌がもつれごうごうと鼻息のような音がするのでまるでよく分からなかった。酔っぱらっているようだった。元気で大丈夫なら良いのだけれど、なんでお前は荻窪なんかに居たのか、と訊くと、荻窪はいいところ、そう、とてもいいとこなのだっちゃね。コイツはだめだ。お話にならない。警官にかわれ。いやばい。お巡りさんはとても悪い人、悪人面をしているのだっちゃ、れいなはこのおっさんに乳を、そこまで言ったところで「あ、もしもし? ご用はお済みですか?」と警官が出た。さっきの、れいなの言葉をどう解釈すべきなのか、いささか迷った。
「れいなは酔っ払っていますね」
「そうですね、とても酔っ払っていますよ、危ないですよ、こんな時間に酔っ払った若い女の子が一人でね、しかもかわいらしい、猫のように愛らしいではないですかこの子は、ほんと、気をつけないと、さっきだってぼくがたまたまパトロールをしていなかったら、危ないところだったんですよ」
「危ないというと、つまりどういうことなのですか?」
「それはあれですね、あんまり大きな声でも言えないですが」
「いいですよ、言って下さい、構いやしないですよ、われわれ二人の仲でしょう」
「それもそうですね、それもそうだ、つまりあれです、セックスです」
「ああ、セックスですか、やっぱり、想像はしていましたが、そうか、セックスですか」
「そう、セックスですよ、危ないところだった」
「ほんと、良かったですよ、お巡りさんがたまたまパトロールをしてくれていて」
「いやいや、これが仕事ですからな」
「ご立派です、立派なお仕事です」
「ありがとうございます。では」
 電話が切れ、私はれいながこれから警官に犯されるだろう様子を想像してオナニーをした。いっぱい出た。
433 :名無飼育さん :2012/06/11(月) 10:33
飯田さん

 「田中れいなと一緒にバンドをやりたい女子メンバー募集」のオーディション会場で飯田さんがスピーチ、つまり前説を垂れる。下は15から上は22までのうら若き、夢見がちな乙女たちの、憧れと不安でキラキラ光るその瞳に対して、いいか、貴様らはクソだ。クソ以下の存在だ。芸能界に憧れて、アイドルに憧れて、しょうもない自意識を満たすために貴様らはここにいる。自意識はクソだ。貴様らはそのクソの回りをいつまでもぐるぐる回り続けるハエだ。貴様らは何者にもなれない。この会場にいる内のほとんどがこの一次選考で落ちる。なぜならば貴様らがクソ以下のハエだからだ。どうして真っ当に生きようと思わないのか。どうしてこんなオーディションに来てしまったのか。さしたる覚悟もなしに、アイドルになろうなど、なぜ思ってしまったのか。貴様らには覚悟が足りない。一切の覚悟や信念というものが欠けている。芸能界を舐めてはいけない。アイドルを舐めてはいけない。ハロプロを舐めてはいけない。モーニング娘。を舐めてはいけない。田中れいなを舐めてはいけない。私を舐めてはいけない。貴様らはクソだ。クソ以下のハエだ。私は偉い。絶対的に貴様らより優れている。なぜならば私は飯田圭織であり、私はモーニング娘。のために死ねるからだ。貴様らは死ねるか? 無論モーニング娘。のために、とは言わない。貴様らはモーニング娘。になるためにここにいるわけではないからだ。田中れいなのために、田中れいなと一緒に組むバンドのために、死ねるのか? 死ねないだろう。貴様らは自分の自意識のためにしか死ねない。哀れな存在だ。クソのために生き、クソのために死ぬ存在だ。私の話を聞いても、それでもまだこのオーディションを受けたいと思う奴は手を挙げろ! いないのか? おい! そこのツインテール! お前は田中れいなのために死ねないのか? 「無理です。私は私のために生きていますから」それだからクソなんだ。自分のために生きようなどと思うのならば、まっとうに仕事をしろ、高校を出て、大学を出ろ。そして年上の金持ちを捕まえて結婚しろ。子どもを産め。幸せな家庭を築け。それがクソにお似合いの人生だ。自分のためにしか生きれないクソにはお似合いの人生だ。今すぐ回れ右して家に帰れ、そして勉強しろ。おまえ、いくつだ? 「15です」まだ間に合う。すぐに帰れ。すぐに帰って英単語を覚えろ。いい大学に入れ。そうだな、慶応か、上智がいい。サークルに入れ。そこで理系の男を捕まえろ。文系は駄目だ。クズだ。おい! そこのピアス! お前はいくつだ? 「22です」今何をしている? 「音楽やりながらフリーターしてます」最低だ。お前はもう取り返しがつかない。諦めろ。なんとかして稼ぎのいいサブカル男を捕まえろ。「いやです」お前は何のためになら死ねるんだ? 「音楽のためになら死ねます」最低だ。音楽のために死ぬだなんて最低だ。クソ以下のハエの中でも最も救いようもないハエだ。いいか、よく聞け、我々には音楽なんて不必要だ。音楽はしょうがなくやっているんだ。アイドルが歌って踊るのは、別に歌や踊りが好きでやっているわけではない。アイドルがアイドルとしてステージ上で機能するためには歌か踊りか裸しかないんだ。それ以外に道があるものなら、それ以外の道を取るに決まっている。お前はダメだ。クソだ。音楽のために死ぬようではだめだ。アイドルのために死ね。モーニング娘。のために死ね。私はモーニング娘。のために死ぬ。だからお前もモーニング娘。のために死ね。いいか、貴様らはモーニング娘。のために死ぬんだ。それ以外のことで死ぬのは許さない。それ以外のことで死にたいのなら家に帰れ。結婚して幸せな家庭を築け。私からは以上である。
 つんく♂は飯田さんからマイクを受け取ると、まず苦笑した。それから「ま、飯田が色々派手なこと言いよったけど、楽しくやれるメンバーが見つかればいいな、とおれ個人は思います」と言った。飯田さんがつんく♂をものすごい目で睨んだ。れいなはステージのすみで恐怖に震えて縮こまっていた。
434 :名無飼育さん :2012/06/17(日) 21:00
家庭教師のトライ

 れいなが女子高生の折、私はれいなママに頼まれていくらか勉強の面倒を見たことがあった。その当時は私もまだ博士課程の大学院生であったということもあって、親戚からの信頼や尊敬は厚く、「あそこの息子さんは本当に出来が良い」末は博士か大臣か、ほんとうに、それぐらい牧歌的な時代であり、私もなんとなくそれで人生どうにかなるような気がしていたのだったが、それはまあそれとして、れいなと私との面識は薄く、正月や法事などで顔を合わせるぐらいのもの、言葉を交わすとしても軽いあいさつ程度、私は姪であるれいなの成長の目覚ましさに毎年目を見張っており、酔っ払って寝入ってしまったフリをしながら、白くおもちゃのような太ももの間から覗くパンツを飽かず眺めている。れいなが中学生の時分には、年齢なりの、パステルカラーの、綿生地の、子どもらしい柄のパンツなどであったものが、年を重ねるにつれ、キラキラするサテン地のようなシルクのパンツになり、色はドギツい原色になり、時折クロッチ部分の両脇から天使の羽が覗いていたりと、しっかりと大人の階段を登って行っているれいなのパンツと股間に対して、切なさと劣情を覚えていた。
 そんな折の依頼であったから、私はれいなのカテキョを二つ返事でOKした。れいなママは「あなたに見てもらえるのだったら安心だわ」と何度も同じ事を繰り返すので、「ぼくに任せて貰えれば安心ですよ」と何度もそれに応えた。週に三度、田中家へおじゃまし、二時間程度勉強を見る。その後でご飯を頂いて帰る。報酬は気持ち程度でいい。とはいってもいつも10万近く包んでくれていたから、貧乏学生である私にはとても助かったし、それ以上に週に三回もれいなの傍につきっきりで居ても良いということがすばらしかった。れいなの頭の悪さには辟易したが、女子高生たるれいなの髪の毛から制服から芳しく香る若き甘い体臭にクラクラし、何度押し倒してしまおうかと思ったことやら分からないが、そのあたりに関してのれいなの女の勘は鋭敏であり、ふいに伸びをして「疲れたばい」などと言いながら、いたずらっぽい上目遣いを投げたりし、その声が目が私の行動を抑圧するので、「そうかね、疲れたかね、じゃあ一休みしよう。お茶もらってくるよ」しどろもどろに言いながら、部屋を出て、おれのいくじなしおれのいくじなし、女子高生ごときにいいように手の上で転がされているとはなんと情けない、押し倒してしまえばいいんだ、後のことなど知ったことか、おれは今が大事、今が大事、人生いつも今が大事、そのはずなのに、なんなのだ一体、ふざけんなよ、バカにしやがって、小娘ごときが、思いながら、風呂場へ直行すると、洗濯カゴの中かられいなのパンツを探しだして、それの匂いと味をしっかりと確かめてやり、臭い、苦い。お前の身体それ自体はおれの思うままにならないかもしれないが、お前のパンツはいつでもおれの手中にあるのだ。ギンギンにいきり立ったちんこを素早く取り出して素早く発射し、何食わぬ顔をして、お茶を手にれいなの部屋へ戻るのだった。「長かったっちゃね」と、全てを見透かしたように言うれいなに、「ああ、うん、ちょっとトイレに行っててね」と言い訳がましく言う私を、私はいつも俯瞰した視点から見て、机に向かってれいなと私、私はれいなの犬のように馬のようにれいなの傍にへばり付いていて、私の首元から伸びる手綱はいつもれいなの手に握られている。なんだこのクソガキめ、be動詞も分からないくせに、因数分解もできないくせに、西洋と東洋の区別もつかないくせに、「日本は西洋なのだっちゃ? 東洋なのだっちゃ?」「バカじゃないのか。日本は東洋です」「なんでばい?」「知らんよ、覚えろ」「理由がないと覚えられないのだっちゃ」「東にあるからだよ」「東って右? 左?」こんな小娘に手綱を握られている私は、いったい何なのか、とてつもなく情けない気分になり、さっき嗅いだれいなのパンツの匂いと、舌先で確かめた味を思い出し、貴様はそんな風に全てを見透かしてるふうだけども、おれはお前のパンツの匂いも味も知っているんだぜ、おれはお前に負けていない。「いいから、勉強するよ」そう言って仕切りなおした私の目をぐりぐりと覗き込んで、れいなは意地悪そうに笑いながら「意気地なし」と言った。トライ。
435 :名無飼育さん :2012/06/27(水) 01:52
6月

 所用を済まして家に帰るとれいなが食パンを焼いているところだった。「お腹すいたの?」「別にそういうわけではないっちゃ」年頃の娘のやることはよく分からんなあと思った。私は服を着替えてコーヒーを淹れた。れいなはパンが焼きあがる様子をずっと見守っている。私はそのれいなの横顔をぼんやり眺めた。タバコを吸う。れいなはキッと私を睨みつけるとタバコの害を切々と説き始めた。タバコは放射能よりも悪い。そうですか、と思った。「パンは見ていなくていいの?」と尋ねる。焦げ臭い匂いがした。案の定焦げていたから、れいなは泣きそうになり、「焦げてしまったと」と言ってうつろに泣いた。「食べたかったの?」「別にそういうわけではないっちゃ」じゃあ何故泣いたのだろう。私にはよく分からない。「こうやって包丁で焦げをこそげ落とすといいんだよ」私は華麗なる手つきで食パンの表面をザリザリと落として見せた。れいなはそれが気に入ったらしく、やらしてくれやらしてくれと、私の手から包丁を奪うと、ぎこちない手つきで同様にやってみせた。「上手上手、れいなちゃんは手先が器用だねえ」そう褒めるとれいなは嬉しそうに頬を緩ませ、「これぐらいのことはお茶の子さいさいなのばい」と得意げになった。私はコーヒーを飲んだ。タバコを吸った。れいなは食パンの焦げをこそげ落としている。まだ夕方だった。私はれいなの横顔を見ている。額に汗がにじむようだった。その汗を舐めたいと思った。そういう6月の後半だった。
436 :名無飼育さん :2012/06/27(水) 02:00
説教

 ごっちんが私を叱った。きっかけは些細な事で、私がごっちんの足を踏んづけたのに、謝らなかったことだ。「常識がない」とごっちんは怒った。まさかごっちんに常識のことで云々されるとは思っていなかったので、私はたいそう驚いたと言うべきだろう。その時の私の顔といったらきっとカワウソのようにキョトンとしていた。「だいたいあんたはなってないんだよ、人生全体がなってないんだ」ごっちんはまるで安い芝居の台詞のような言葉を、安い芝居の演技のような調子で、妙にハードボイルドな感じで言った。「そんなになってないかな」「なってないよ、まるでなってないよ。普通足を踏んだら謝るべきだし、普通人生はもっとちゃんと目標を持って生きるべきだよ」そうなのか! と私は目からうろこが落ちたような気分になった。人生は目標を持って生きなければならない! 知らなかった! 「ごっちんの人生の目標ってのは何なの?」尋ねると、ごっちんはふふっと鼻で笑って「なんだろうねえ」と言い、アイスコーヒーに突き刺さったストローをぐるりと回し、「好きに生きること」と言い放った。それがまた妙に安い芝居じみていて、そんな安い芝居じみた人生を生きるぐらいなら、目標なんていらないんだ、と思った。けれども別に言わなかった。「そうかあ」と納得したふりをして、おれは今猛烈に圭ちゃんに会いたいぞ、と思った。
437 :名無飼育さん :2012/06/27(水) 02:17
 圭ちゃんはなんだか妙に疲れていた。挨拶代わりに「痩せたね」と言うと「やつれたのよ」と言ってにこりと笑った。「仕事が大変でね」と言うのだが、どのような仕事が、どのように大変なのか、ということを、圭ちゃんは私に話してくれたことがないのだった。それは少し寂しいことだった。ただそれが圭ちゃんのダンディズムというか、美学なのだ。そしてその圭ちゃんの"語らなさ"を、私はとても好んでいるのだった。だから深くは訊かない。「最近は何してんの?」訊くと、圭ちゃんは「ああ」と言うと視線を宙に泳がせて、「何してんだろうね」と笑うのだが、その笑みが先ほどとは異なって、"にっこり"ではなく"じっとり"、もっと言えば自嘲的なもののように見えた。「疲れてんね」「疲れもするよ」「なんで?」「言ってもしょうがないから言わない」「寂しいじゃん、話して下さいよ。おれと圭ちゃんの仲でしょ」「そんな仲よかったっけ」「ひどい」圭ちゃんはハハッと軽やかに笑うと「冗談」とまた軽やかに言った。それに少し安心して、私は昨日れいなが食パンを焦がした話をした。圭ちゃんはうんうんと頷いて、ビールを飲んだ。何もかも上手くいかないのだが、何かが上手くいっているような気がした。これでいいのだ、という気がした。れいなのことを喋りながら、私は実はえりりんのことを考えていた。えりりんの唇のことを考えていた。でもそれは言わないでおこうと思ったから、「それでその食パンはどうしたの?」私はふと戸惑って、「食べたよ」「誰が?」「おれが」「美味しかった?」「こおばしかった」「ジャムを塗るといいんだよ」「そんなハイソなものは家にはないよ」「買いなさい」「水虫が治らないんだ」「病院に行きなさい」「病院は怖い」「怖くないわよ」「怖い」「なにが」「色々怖いんだよ、人生とか、人生とか超コワイ」圭ちゃんは不思議そうな顔をして「死ぬの?」と訊いた。「死にません。そりゃ死ぬときになったら死ぬけれども」「じゃあ大丈夫だよ」何が大丈夫なのかよく分からなかったけれども、圭ちゃんが大丈夫だと言うのなら大丈夫なのだと思った。安心した。「最近楽しかったことは?」圭ちゃんが訊いた。私はれいなのことを思い出した。「なにもないよ」「何考えてた?」「私はれいなを抱きしめていたい」圭ちゃんはビールをぐいと煽ると、そりゃいいね、と言って笑った。安い芝居のようだった。安心した。
438 :名無飼育さん :2012/06/27(水) 02:40
バンドやろうぜ

 れいながバンドを始めるというので、私もバンドを始めたい気持ちになっていた。れいなには負けるまい、という思いがあった。勝ち負けをどうつけるのかはよく分からなかったが、とにかく、負けないのだ。「勝つのではない、負けないのだ」れいなは私の宣戦布告に"はてな?"という顔をした。それが誰の言葉だったか、私はよく覚えているのだけど、どうせれいなに言っても分かるまい。れいなは本なんか読まない子だ。読んだとしても星の王子さまとか、そこらへんに決まっているし、それも最初の数ページで挫折するに決っている。文字ばかり書いてある紙の束なんか、れいなには何の価値もないのだ。そう、そんなことはどうでもよく、私はバンドをやりたい気持ちになっていた。れいなには負けるまい、と思っていた。問題はメンバーだった。私はギターでもベースでもドラムでもボーカルでもイケる、無駄に多機能な人間だったので、よく器用貧乏器用貧乏と揶揄されるのだったが、器用貧乏の何がいけないのか! という気持ちで、私は率先して器用貧乏になっていた。どのみち貧乏なのだ。何一つものにならないのならできる限りのことに浅はかながらも手をつけていた方が、色々楽しいに決っているのだ。私のことを器用貧乏と揶揄する奴は専門バカだ。そういう気持ちで、だから、つまり、私はバンドをやりたい気持ちになっていた。問題はメンバーなのだった。
 私のイメージでは、ごっちんはドラムに向いている気がしていた。リズム感に秀でていそうだとか、そういう理由ではなく、ごっちんのような華やかな、動きの大きい女の子がドラムを叩くと、ひどくサマになるのだ。いや、実際サマになるのだかどうだかはよく分からないのだが、とりあえず、私はごっちんがドラムを叩くサマを見たいと思った。だからごっちんにはドラムをやってもらいたいと思った。それから圭ちゃんはギターだった。アーティスト的なギターではなく、職人的な、クラフトマンシップに溢れるそれである。ステージの奥に控え、黙々とリズムギターをタイトに刻み続けるような、圭ちゃんは、私のイメージではそういうギタリストだった。そう考えていくと私は必然的にベースをやらざるを得ず、ではボーカルは誰、ということになると、私の脳裏に浮かぶのはさゆ以外にありえなかった。さゆは天才的なボーカリストだった。さゆは天才的なへたくそだった。さゆが歌えば地軸すらノリノリでブレブレになるのだ。そういう壊滅的で破壊的で天才的なボーカリストなのだった。私はごっちん、圭ちゃん、さゆに一斉送信でメールを送る。「バンドやろうぜ!」ごっちんは「めんどくさい」と返すだろう。圭ちゃんは「楽器できないから」と返すだろう。さゆは「Perfume歌いたいなあ」と返すだろう。崩壊だ。このバンドは終わりだ。計画倒れが目に見えている。それでも私は負けないのだ。れいなになんぞ負けていられないのだ。アコースティック・ギター、エピフォンハミングバードアーティストモデルを手に取り、私は"Memory 青春の光"のコードを弾いた。つんく♂の真似をしてねっとり、じっとりと歌った。メモは破って捨てていいよぉぅ、でも最後まで読んでよねぇ。れいなが鼻歌でそれに合わせた。満足を覚えた。
439 :名無飼育さん :2012/06/28(木) 01:13
こんな夢を見た。

私は宇宙服を着ていた。ごっちんも宇宙服を着ていた。
それが真っ暗な、おそらくは宇宙空間なのだろう、しかし先を行くごっちんの姿ははっきり見えた。
尻がエロかった。妙にピッタリと身体に張り付く銀色のボディスーツ。
宇宙服と言うよりはウェットスーツと言った方が近いのかもしれない。
遠くに座礁したスペースシャトルが見える。我々はそこへ向かって泳いでいた。
私はごっちからどんどん遅れた。どんなにかき分けてもスカスカとして手応えがない。
ごっちんはどうしてああも華麗に泳ぐのだろう。不思議でならない。息が苦しい。
「遅れてるよ」と耳元でごっちんの声がした。「分かってる」と答えた。
通信が入る。視界の右半分にワイプが出る。そこには黒人のおっさんが映っていた。
ボブだ、と私は思う。ボブは非常に淡々とした調子で「もう死にます」と言った。
死ぬのもいいだろう、だが諦めるのが早すぎる。
諦めの良さはそれはそれとして一つの美しさではあるのだが、
しかし諦めの悪さも時として美しいものだ。
特に生死がかかっているとなれば、なおさらである。
「死ぬな」と私は言った。ごっちんがそれに被せるように「そうだよ」と言う。
ボブは「もういいんだ」と途端に泣きそうな顔をした。思わず涙腺が緩んだ。
ごっちんがシャトルに到着したらしい。「間に合った!」という声が耳元で響く。
私はまだスカスカと中空を漕いでいた。シャトルもごっちんの後ろ姿ももう見えない。
死のう、と思った。死んで詫びよう。お父さんとお母さんに詫びよう、と思った。
視界のワイプに映ったボブがごっちんと抱き合っていた。あまつさえキスすらした。
おれは悔しかった。悔しかったので唇を噛んだ。しょっぱかった。おれは泣いていた。死にたくない。
440 :名無飼育さん :2012/06/28(木) 16:40
ボブって昔いたな…
ここの小説を読んでいると、誰か知らない人(勿論「私」のこと)の人生を垣間見ている気分になる。
好きです。いつも読んでます。
441 :名無飼育さん :2012/07/03(火) 23:58
好きと言ってもらえて嬉しいです。射精しました。
442 :名無飼育さん :2012/07/03(火) 23:59
ロックンロール

「田中、今の娘。に足りんもんは何か分かるか?」とつんく♂が言った。
「分からないです」「ロックがたりへんねん」
つんく♂がしばしば口にする「ロック」とか「熱さ」とかいったよく分からないものに、
ものごとの原因を求めるのは問題を曖昧化させるだけだ、とれいなは考えている。
「そうは言ってもよく分からんっちゃ……」「分からんでええねん」
つんく♂は「考えるな、感じろ、や」と言ってにやりと笑った。
もうやだなあ帰りたいなあとれいなは思った。

バンドを組まされることになったのは少々迷惑だった。
れいなはただただ「私は歌が好きです」と言っていただけなのに、
「ロックやな。自分ロックやで。バンドやろか。メンバー募集したるわ」
ということになったから、ほんとうにこの人の頭の中はどうなっているのだろう。
「田中はどんなバンドが好きなんや? 例えば」
れいなは考えた。よく分からなかった。SCANDALは好きだった。
「歌が好きです」
「ただ歌が好き。その熱い思い。ロックやな。自分ロックやで。これ以上なく」
つんく♂は満足気に頷き、手元のメモ用紙に「ロック」と書いた。
もしかするとこの人は馬鹿なんじゃないだろうか。
つんく♂は「ロックロックこんにちはやで」と言ってゲラゲラと笑う。
れいなは今後の自分の人生について不安を覚えた。
443 :名無飼育さん :2012/07/04(水) 00:24
 私はつんく♂さんの「娘。にロックを注入する」という鶴の一声によってモーニング娘。に加入することになった。それはあまりにも突然の出来事だった。家の前にバンが停まり、つんく♂はそこから降りてくるなり「お前、ロックか?」と言った。私はよく分からないながらも「ロックは割と好きです」と応えた。「割と好き、その"割と"が実は意外とロックなんや」まったくわけが分からなくて笑ってしまった。バンに乗せられる。「どこへ行くんですか?」「お前はな、モーニング娘。になるんや」なんですって! モーニング娘。になるのは私の昔からの憧れだった。飯田さんに理不尽な説教をされたいと思っていたし、その理不尽な説教に思わず涙してしまう私を、圭ちゃんがそっと慰めてくれ、私は圭ちゃんのその優しさに理想の姉の姿を見て、圭ちゃんのその薄い胸で泣くのだ。ごっちんはその胡散臭い光景を見てつまらなそうに「ああやだやだ」とぼやき、いつも持ち歩いているあたりめをゴリゴリと食べるのだ。「カバンの中がイカ臭くって」と藤井隆に向けて語るごっちんの姿を、私は今でも鮮明に思い出せる。カバンの中が"イカ臭い"、その台詞を聞いて藤井隆は「イカ臭いって」と大いに笑ったのだった。ごっちんはカマトトぶっていた。"イカ臭い"という言葉が暗に想起させるザーメンの匂いを、ごっちんはよく知っている。「でもさあ、ザーメンはカルキの匂いだよね。イカ臭いのはどっちかっていうとチンカスの方だと思う」と吉澤さんが冷静な指摘をする。それは全くなのだった。私はザーメンにイカ臭さを感じたことがない。イカ臭いのはイカである。ザーメンの臭いはそういう生臭さではない。もっと青々しい、梅雨時の水草が発する臭いだ。「どっちも嫌いじゃないよ」とごっちんは言った。吉澤さんは「チンカスは無理だな」と言った。梨華ちゃんが赤い顔をして「もう二人とも何の話してるの! 辻も加護もいるんだからね! 子どもの前でそんな話しちゃあダメだよ!」加護はどろりとした目をして「うちらはもう子どもじゃあらへんもん」と言った。もう子どもじゃないのだ。そう、もうその時から、とっくの昔にザーメンとチンカスとカウパーの味ぐらいは知っているのだ。大人だからだ。あいぼんはその頃にはもう大人の女だったからだ。「チンポ吸うよりタバコ吸ってた方がマシや」というのが加護の口癖だった。辻はそういう加護に憧れ、何度かタバコを吸ってみるなどしてみたのだったが、どうも煙が肺に入る感覚が好きになれなくて「のんはチンポの方が好きだな」そう言った。圭ちゃんはこの会話に胸を痛めていた。芸能界がこの子たちを壊したのだ、と思っていた。この胸の痛みは忘れない。芸能界を憎んで生きていく。そう決めたから、圭ちゃんは意地のようになって、歌や舞台やサックスなどの芸に磨きを掛けることによって、逆説的に芸能界に恨みを晴らしていくのだ。人生をそれに捧げよう、と思っていた。
 バンがとある建物に横付けされた。つんく♂さんがキーを抜きながら言う。「とりあえずメンバーと顔合わせんことには始まらんからな」つんく♂さんが先導して、私はそれに着いて行く。辿り着いたのは、全面ガラス張りの、少し狭い感じのするリハーサルスタジオである。扉を開けると汗の匂いがほのかに香った。それは十代の娘たちの若い匂いだ。みな動きを止めて、つんく♂さんと私のことを見た。れいなが不思議そうな顔をして声を発した。「どうしてここにいるっちゃ?」私は胸を張って言う「私はモーニング娘。です」
444 :名無飼育さん :2012/07/04(水) 01:03
あやや

 あややが「最近つまんなくて」と言った。私もそれに大いに同感であり、「何か楽しいことはないもんかねえ」「無いよ、何かって何」「それが分かったら苦労しないよ」「ふーん」あややは興味無さそうに、携帯を開いたり閉じたりした。「なに? メール?」「いや、なんか来てないかなって」「なんか来たら震えたり音が鳴ったりするものでしょう。そういうものでしょう携帯って」「そうだけどさ」そうなんだけど、そうたなんだけどねえ、と小声でぶつぶつと繰り返した。その気持ちは分かるような気がした。「携帯が良くないんだと思うんだよね」「は? 何の話?」「最近つまらんって話」「ああ、なんで?」私は私なりのメディア論を概説した。昨今のメディアの発達により、人間は会わなくてもコミュニケーションが取れるようになった。文字なり、声なりでコミュニケーションが可能になった。場合によってはテレビ電話のようなことも可能である。だがそれは決して好ましいことばかりをもたらしてはいない。会わなくても、色んなことができてしまう。それが癌だ。「特に用事はないんだけどなんとなく人と会いたい、コミュニケートしたい」という欲求が人間にはあるのだ。人肌恋しさ、という言葉を私はそう解釈している。各種携帯端末によっていつでも連絡可能であるということによって、我々は会わなくなった。ちょっとした用事なら携帯端末によるコミュニケートで済むのだ。人と会うというのは、それでは済まない、もうちょっと込み入った用事の時に「わざわざ」会うのだ。特にこれといった用事も無いのに「わざわざ」会うだなんて、甚だしく非効率的なことのように思える。だから人と会わなくなる。癌だ。現代人は常に寂しさを抱えて生きている。「ああそうそれで」とあややは言った。「いや別にだからどうっていうわけじゃないんだけどね」「今こうして話してるのも非効率なの? 会わなければよかった? 私と話してるこの時間は無駄?」「いや、むしろこういう一見無駄にも思える時間が人間にとって大切だっていう話で……」「へえ」あややは手を前に突き出して、テーブルをぽんぽんぽんと叩きながら「へえへえへえ」と言った。懐かしいな、と思った。「境界線みたいな体が邪魔だね〜って曲が昔あったよね」「ああ、川本真琴だっけ」「たぶん」「それが?」「すごく分かるような気がするんだけど、体っていう境界線がなかったら、やっぱりそれもそれでつまんないんだろうね」「人類補完計画だ」「は? そういうのよく分かんない。オタクきらい」「アイドルが何を言うのか」あややはもう一度力を込めて「オタクはきらい」と言う。それから私の目をじっと見て「でも好きだよ」とぼそりと言った。惚れそうになった。
445 :名無飼育さん :2012/07/04(水) 01:26
誘い

 れいなが「服を買いに行きたいばい」と言った。「行ってくれば?」と応えた。れいなはあれやこれやの理由をつけて、一人では行きたくない、というようなことを主張した。今日は雨だし、明日もきっと雨のような気がするし、もし何かあって夜遅くなってしまったら、私はまだまだ夜道を一人で歩くには危ない二十代前半の女の子だし、荷持を持ってくれる人が必要だし、ほら私の手の片方は、多分右手だと思うけれど、今日は雨だから、傘を持つことになるし、傘を持ちながらカバンも持って、買い物の荷物を持って、そんな時に、もし後ろからレイプ魔に襲い掛かられたら、ひとたまりもなく、私はヤラれてしまうに違いないっちゃ。というようなことを、長々と喋った。「だからつまり私についてきて欲しいと、そういうことをれいなちゃんは言わんとしているわけかな?」「そういうわけではないっちゃ、一人では行けない、ということを言っているのだっちゃ」「じゃあ行かなかったらいいんじゃないの」「でも服を買いに行きたいのだっちゃ」「行ったらいいじゃない」「一人では行けないのだっちゃ」「だからそれは私について来て欲しいってことでしょう」れいなはグッと言葉に詰まり「バカ!」と叫んだ。その声があまりも切実に、私の鼓膜を貫いたので、申し訳ないことをした、と思った。「分かった、れいなちゃんが何を言わんとしているのかが分かったよ」れいなはそっぽを向いている。「れいなちゃん一人では買い物なんて大変だろうから、ほらこんな雨の日だし、傘で手が塞がってしまうものね。荷物が持てないでしょう。もし両手が荷物で塞がっているときに、背後からレイプ魔なんかに襲われたりしたら、抵抗できなくて、ひとたまりもなくヤラれてしまうものね。それは心配だ。心配で心配でたまらない。れいなちゃんがヤラれてしまうところを想像するとたまらなく興奮する。私はお前がレイプ魔に抵抗もむなしくヤラれてしまうところが見たい。驚きのあまり声も出ず、買い物袋を手放すこともしないまま、自分の上にのしかかって、黙々と腰を振っている男の、その顔をただただ呆然と見つめるしかない、その時のお前のその表情が見たい。どんな顔をするのだろう。泣くのだろうか。歯を食いしばって耐えるのだろうか。それともちょっと良くなってしまって、恍惚をその顔に称えるのだろうか。まったく想像がつかない。その時の声は? セックスをするときに、いや、レイプされるときに、れいなちゃんはどんな声を出すのかな? おじさんがついていってそれを確認してあげよう」「やっぱり行くのは止めておくばい……」「いい子だ」私はれいなを抱きしめていたい。
446 :名無飼育さん :2012/07/05(木) 00:30
夏来にけらし

 あややが「もう夏だねえ」と言った。涼し気なワンピースを着ている。「そのワンピースかわいいね」と私が言うと、あややは「どこが?」と言って不機嫌になったので驚いた。「何か気に触ったのなら言ってくれ、服を褒められて嫌がる女なんていないと思っていたよ」「不愉快だよね」「だから何が」あややはそっぽを向いて「ねえごっちん」と言う。ごっちんはうとうとしていた。あややはもう一度「ねえごっちん」と言う。ごっちんはあくびを一つして「ああそうだねー」と答えた。やる気がit's so easyな感じだった。れいなは足元の砂粒を数えている。「砂粒なんて数えてなんか楽しいの?」と尋ねると「つまらんばい」と答えた。それでこそお前はれいななんだ、と思った。
 四人で海を見ていた。「もう夏だから海を見に行きましょう」と言い出したのは元を辿ると圭ちゃんだった。私は「海なんか見て何が楽しいのか」と反論したのだけど「夏といえば海、海といえば水着ギャル」「行きましょう」という流れで、来たのだったが、水着ギャルなんぞまだまだおらず、カップルがいちゃいちゃと水遊びをしているぐらいのものであり、私はひどく気分を害した。「来なければ良かった」「じゃあ帰ればいいじゃん」「そういうわけにもイカンだろう、圭ちゃんを待たなくっちゃあ」あややはまだどこかしら不満気であり「来ないよ。来るはず無いじゃん」と言った。「なんで?」「知らないけど」と言うその口ぶりが何かを知っている風だった。「ごっちん何か知ってんの?」訊くと、ごっちんはまたうとうとしていた。きっとこの人は何も知らないのだろうなあという気がした。れいなは砂に指を突き立てて、砂浜にいくつもの穴ぼこを開けている。「それ楽しいの?」「つまらんばい」やっぱりお前はそれでこそれいななのだ、と思った。
 変わり映えがしないのだ。何が楽しいのか波は寄せては返し寄せては返しし、あまりの終わりの無さに苛立ちすら覚えた。それはほとんど中学生の自慰のような感じだった。途方もなく虚しくなるのだ。何度射精しても射精したりない気がした。おれの本当の射精はこんなものじゃないはずだ。もっともっと、本質的に何かを満たすような射精というのがあるはずなのだ。そういう気がいつもした。あややが「ねえ」と言った。「なに?」「ねーえってばねーえ」「だからなんですか」「つまんないやつ」あややも砂に指を突っ込んでは穴ぼこを開け始める。「心外だな、面白い話してあげようか?」「いらない」「まあそう言わずに」「じゃあしたらいいじゃん」「いやまあ特になにもないんですけどね」「やっぱつまんないやつだ」「そうかもしれません」ごっちんが大きなあくびを一つして「ねむい」と言った。ぐいぐいと伸びをした。あややが笑って「知ってるよ」と答えた。「海入りたくないですか?」とごっちんが言うのに「入ったらいいよ、入ればいいじゃん」とあややが冷たく答えた。じゃ、いってきますとごっちんは服を脱ぎ捨て、なんと準備のよろしいことだろう、下には水着を着ていた。「中学生かよ」とあややが笑った。私はごっちんの尻をじっくりと眺めた。ホットパンツを脱ぎ捨てる時に、股間のクロッチのあたりが淫靡に歪む様を脳みそに焼き付けた。「オナニーしたいなあ」「したらいいじゃん」「していいんならするけど」「止めないよ誰も」「じゃあ失礼してそうさせてもらおうかなあ」私はちんこを取り出し、もうそれはすでに志も半ばといった感じで勃起していたのだが、二三度こすりあげるとみるみるうちに努力未来ビューティフルスターな感じに勃起した。卓越していた。私の勃起力は卓越していたと言っていいだろう。れいなの視線を感じる。れいなもまたホットパンツの上から密かに股間をすりあげているようだった。「おっ、奇遇ですね」「照れるばい」それでこそお前はれいななんだ、と思った。あややが舌打ちをした。「つまんない」と言った。
 ごっちんの尻が海辺へ駆けていく。揺れる尻肉。それを何度も反芻して、眼底にごっちんの尻肉が満ちるようだった。私はごっちんのホットパンツを手にとって匂いを嗅いだ。アリエールの匂いがした。それはとても爽やかだったが、これではまるで中学生の自慰のようではないか、と私は思い、隣でれいなの息が荒くなり、あややはため息をつき、ごっちんは波打ち際で寝そべって、やはり彼女もまた海に向かって股を大きく広げ、オナニーをしているようだった。オナニーなのだった。今日はとにかくオナニーなのだ。そう思ったので、あややに「ご一緒にどうですか。Join us!」声を掛けたのだったが「絶対に嫌だ」とケーベツ的な口調で言った。私は射精した。夏が来たんだ、と思った。
447 :名無飼育さん :2012/07/05(木) 02:40
知らない人の靴を履いて

 飲み屋を出たのが25時を回ったあたりだったから、もうきっと今は26時ぐらいだろうと思う。今日あった嫌なことを思い出しながら歩いた。なぜか分からないが人から馬鹿にされる。なぜか分からない、というのはまあちょっとした嘘で、分かりきっていたのだけど、あまり認めたくない自分の欠陥、そういうものから目を逸らしていたいものだから、人から馬鹿にされるとたいそう気分が悪くなる。「そういうことじゃあダメだよ」と、年下の女からなぜ偉そうに説教をいただかなければならないのか。興奮してしまう。私は私なので、あなたではないので、あなたはあなたなので、そう言って差し上げたくなるのだが、それを言ったところで負け犬の遠吠え、それはひどく醜くあさましいこと、そういう風に思っているから、超然とし、余裕ぶって、実のところ内心はカリカリと焦っており、とにかく何かしら認められたいと、そういうことを考えているのだが、もっと罵ってくれ。「バカじゃないの」とあややが言った。「バカですもの」と答えた。それはそれは得意げに言った。しかし私の心はしくしくと泣いていたのである。とにかく私は何もしたくなく、何もできるとは思えず、ただ超然と余裕ぶって、自分の欠陥から目を逸らし続けて、そうこうしているうちに何もしないまま人生がつるつると滑っていくが如く、目の前の道はのっぺりと薄暗い。
 コンビニを見つけて入った。店員がゾンビのようにのろのろと立ち上がり、いらっしゃまいせ、と申し訳程度の小声で言う。ビールを買って帰る。歩きながら飲む。今日あった嫌なことを思い出しながら歩いた。飯田さんが髪をかきあげかきあげ言うには「男ってのはさ」そこから先の言葉を何一つ思い出せなかったのでびっくりした。酔っ払っているのかもしれないなあと思った。嫌なことなんて何もなかったのかもしれないなあと思った。目の前の道はのっぺりと薄暗いわけではなくて、むしろほんのりと明るいのだ。
 家に帰って靴を脱いだ。玄関に腰掛けて靴紐をほどこうとするとそれはクロックスだった。いやあこれはたいそう愉快なことだなあと思い、「れいなちゃんれいなちゃん!」とその口にするのもはばかられる忌まわしきその名を叫び、「なんとね」と目をこすりこすり出てくるれいなの名状しがたい醜悪なパジャマ姿が召喚され、私はとうとう嬉しくなってしまい、感極まって、「ほら見てごらんよ、私は知らない人の靴を履いて帰ってきてしまったよ」言ったそばから涙声になってしまったのだけど、れいなが「あっそ」と言って自室に帰ろうとするので、なんでお前は分からないんだ! と思ったし、私はそういうれいなを抱きしめていたい。
448 :名無飼育さん :2012/07/05(木) 03:57
でんでけでけでけ

 三人でバンドをやろうと言い出したのは絵里だった。れいなは最初乗り気ではなかったけれども、さゆが「やろうやろう!」という感じだったので、れいなも「やるっちゃねやるっちゃね!」という感じになった。絵里は嬉しそうに「そうだねやろうやろう!」と言ってぴょんぴょん跳ねた。れいなとさゆは目を細めて「かわいい……」と思った。
 まずパートの割り振りが行われたのだが、ここでいきなり深刻な問題に直面した。みんなボーカルがやりたかったのだ。三人とも「バンドといえばボーカル」という感じだった。そもそも誰一人としてバンドミュージックに詳しい人間がいなかったのである。「そういえば昔つんく♂さんってバンドやってたらしいよ」とさゆが抜け抜けと言った。絵里は「そうなんだ」と深々と頷き、れいなは「へー」と興味なさげだった。
いずれにせよ、そういうレベルの認識だったのである。バンドをやるとかどうとかいう前に、三人はもっとバンドミュージックを聞く必要があった。
 時代はITである。絵里はスマートフォンを用いて「有名なバンド」をgoogle検索した。たくさん出てきた。よく分からなかったので、少しめんどくさくなってきた。「ねえ、バンドってすごくたくさんあるんだね、やっぱ無理かもしんない……」絵里が悲しそうにそう言ったので、さゆはなんだか気の毒になってしまい、「そんなことないよ! できるよ!」「無理だよ……」「できるってば!」「むり……」「大丈夫! さゆがついてるから!」「……ほんと?」「ほんと! さゆに任せておきなさい!」「分かった! さゆだいすき!」「さゆも絵里のことだいすき!」れいなは目を細めてこの光景を見た。忸怩たる思いがした。「私は無力だ」と思った。
 いつだって物事には挫折がつきものである。諦めなければ何か方法があるものだ。「よく分かんないからつんく♂さんに聞こう!」そう言ったのはさゆだった。絵里もれいなも「そこまでしてやりたくないな……」と思ったのだったが、一度「絵里の願いを叶えてあげたい」という義憤に駆られたさゆを止めることはできなかった。義憤というのは恐ろしいものである。物事をややこしくするのはいつも義憤である。
 つんく♂はさゆの話を聞いて「そんなもん適当にやったらええやないか……」と呆れたが、「でもバンドをやりたいっちゅうその気持ち、ええやん? すてきやわ。どうしていいか分からないからおれに聞くっちゅーその姿勢も、まあよくよく考えてみたら、お前らなりの情熱のあらわれかも知れんな。でもバンドっちゅうのはな、人にどうこう言われてやるもんやないねん。バンドがやりたい! っちゅうその気持ち? 情熱っつーの? 勢いっつーの? それが一番大事で……」
 ありがたい説教は二時間に及んだ。さゆは後悔した。れいなと絵里はさゆを少しだけ憎んだ。そして三人はつんく♂をとても憎み、結果バンドというものをひどく嫌悪するようになった。結局つんく♂のバンド論は三人の胸にネガティブな印象しか残さなかったとも言えるのだが、しかし見ようによっては、つんく♂は三人にとてつもなく大事なことを教えてくれたとも言えるのである。それは「よく分からないものには首を突っ込むな」という教訓である。三人はもう二度とバンドの話なんてするまい、とそれぞれの心で固く誓った。だかられいなのバンドオーディションが決定したとき、れいなの携帯は二度震えた。「ごしゅうしょうさまです」とさゆから、「がんばってね」と絵里から。れいなはその夜一人枕を濡らした。そして「私は無力だ」と思った。私はそんなれいなの心の痛みを舐め慰め、優しく抱きしめて差し上げたいと思った。
449 :名無飼育さん :2012/07/07(土) 07:17
VS

 「なんで?」と石川が言ったのに、三好は「え、なんででしょうね。分かりません」と答えた。「は?」「え?」「なにそれ意味分かんない」「え? なんでですか?」「私が"なんで"って聞いたのにさ、なんで"なんででしょうね"って聞き返されなきゃいけないわけ? おかしくない?」「ああ、そうですかね。ごめんなさい」「あ、それね。それも良くないよね」「はい? それってなんですか?」「そうやってすぐにごめんなさいとかすいませんとか言うの! だってへんじゃん。全然ごめんなさいともすいませんとも思ってないくせに、それってうそじゃん」「いや、思ってますよ」「思ってないよ絶対」「なんで石川さんにそんなことが分かるんですか? 人が何考えてるかなんて分かんないでしょ?」「分かるよ、分かるもん」「どうしてですか?」「声の感じとか、言い方とか、そういうのでだいたい分かるんだよね。私そういうの敏感な方だから」「そんなことないと思いますよ」
 石川は露骨に不機嫌な顔をした。「あんたに私の何が分かるわけ?」「いや、私は石川さんのことなんて全然分からないです」「じゃあ勝手なこと言わないで!」「じゃあ石川さんも一々私に突っかかって来ないで下さい」「そっちが悪いんじゃん、いつもいつも、私の気に触るようなことばっかり」「私石川さんのこと分かんないんで、何が気に触るのかとかも分かんないです」「それぐらい察しなさいよ、後輩でしょ」「いま先輩とか後輩とか関係あります? なくないですか? 人としてどうかって問題じゃないですか?」「は? そんなんで芸能界やってけると思ってるわけ? 先輩後輩が全部じゃん。私だって先輩には気遣ってるし、ほとんどそれが全部っていうか」「だからって先輩が後輩に気を遣わなくていいってことにはなりませんよね別に。それに石川さんが芸能界のことを何だと思ってるのかは知りませんけど、私は別にそうは思わないので」「でも実際、実際そうだからね。私だけの思い込みとかじゃないもん」「石川さんがそう思ってるなら思ってるで構わないので、私は別にそうは思わないので、石川さんがどうだろうと別にどうでもいいし」「そんな言い方ないんじゃないの? 私は三好のためを思って言ってあげてるのに、そんな言い方ってさあ」「知りませんよ。余計なお世話ですよ。いっつもいっつもどーでもいいことでめんどくさいんですよ。なんなんですかあんた」「そっちこそなんなの! 後輩のくせに!」「先輩も後輩も関係ないっつってんだろ!」「じゃあどうしたらいいのよ!」「謝れよ!」「ごめんね!」「いいよ! こっちこそごめんね!」「いいよ!」
 二人は仲良しである。

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