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Project No.1444 featuring TEAM85

1 :メカ沢β :2005/05/21(土) 09:39
いしよしなのに男が出る、なのにやっぱりいしよし。
もう愛しちゃってください。
91 :メカ沢β :2005/09/25(日) 12:49
「うわ〜!」
「綺麗〜!」
「こりゃいいな!」
「青いなぁ!」
「スゲー!」
「……綺麗だ」

眼前には水平線の見える青い海。
緩やかなカーブが海岸線をなぞり、崖であることも相まって前にも下にも海が広がっている。
浅瀬で顔を出す岩に波しぶきが上がる。

「青が濃いなぁ、やたら」
「綺麗な海は何も沖縄やハワイで見るような海だけじゃないからね」

水面に輝く陽光はEEとしている海を宝石に変える。
車を端に止め七人が出てくる。

「うおぉー!」
「おっ、吉澤さん叫ぶねぇ」
「じゃあオレも、ぬおぉー!」

ガードレールに手をかけて叫ぶ吉澤とナイン。
石川は心配そうに吉澤の腰をおさえている。
92 :メカ沢β :2005/09/25(日) 12:50
潮風が七人の間を抜けていく。
おぉ、と短く叫んでキャップを押さえるシロク。
BMがジーパンのポケットからタバコを取り出した。
シキに一本渡し、クロスに一本渡し、シロクに一本渡す。
いぶし銀のジッポライターで火をつけるBM。
吉澤がガードレールによしかかりながら言った。

「タバコ吸うんだ」
「普段は吸いませんよ。こういう吸って気持ち良さそうな場所でだけ吸うんです」

シキはそう言うとジッポを手渡され無駄の無い動きでタバコに火を点け、シロクに手渡す。
石川が一人手寂しいナインに話しかける。

「あれ? ナイン君は吸わないの?」
「あぁ。タバコは匂いがつくから」
「匂いが嫌なの?」
「いやそうじゃなくて、匂いは変装にとって敵だからね」

あ〜そっか、と石川。匂い自体は好きですよ、とナイン。
クロスが最後タバコに火をつけるとジッポをBMに投げた。
胸元でキャッチしたBMは、ストラ〜イク、と呟いてポケットにしまった。
93 :メカ沢β :2005/09/25(日) 12:50
「あっ、しまっちゃった?」
「どうしたのよっすぃ?」
「タバコ、一本くんない?」

吉澤の発言に喫驚する石川、と他の面々。
不敵に微笑む吉澤の目をじっと見るBM。

「もしかして普段から吸ってるのか?」
「まさか」
「やめなよよっすぃ」

傍らで石川が止めているが吉澤は右手を差し出しタバコを催促している。

「吸えもしないもんは吸うもんじゃねぇよ」
「そりゃ普段から吸ってるわけじゃないけどさ、吸ったら気持ち良さそうな場所で吸ってみてもいいじゃん?」

語尾を上げ半疑問にすることで不敵な微笑の理由を表わす。
煙を吐き出しながら、ハハ、と短く笑うナイン。
BMはシキに視線で意見を求めるが、シキも視線で答えを送った。
どうする? お前に任せる
少し考えて、一服し、また少し考えたBMは車に向かう。

「あれっ? やっぱりダメ?」
「ダメに決まってるじゃんかぁ」

僅かに安堵する石川に残念そうな吉澤。
BMは助手席のグローブボックスを開けなにやらガサゴソ探し、何かを見つけ、車のドアを閉めた。
白い箱を持って戻ってくるBMに再び目を輝かせる吉澤。
94 :メカ沢β :2005/09/25(日) 12:50
「最初はこれな」

箱を、トン、と動かして箱から一本飛び出させ、吉澤に向ける。
石川はBMの指の隙間から、light、という文字だけを見ることができた。

「サンキュ」

吉澤が一本抜くとタバコと一緒に持っていた百円ライターを差し出す。
受け取るのを躊躇う吉澤。

「ジッポライターじゃないの?」
「はぁ? 調子に乗るな。初心者はこれで十分だ」

チェッ、と言いながらも百円ライターを受け取る。
タバコを咥えライターを摩るも潮風に吹き消される。
やめなよぉ、と言おうとした石川だか手で防風しながらライターを摩る吉澤を見て言葉を飲み込んだ。

「まさかカメラマンとかいないよねぇ」
「いねーだろ」

キョロキョロ辺りを見回すシロク。いたら潰すだけだ、とナイン。
シキはゆっくりとタバコを吸いながら吉澤の動向を見守っている。
まだ心配そうに見ている石川をよそに吉澤の加えたタバコの先に火が点った。
ゆっくり吸えよ、とBMが言うと頷きながら紫煙を体に取り込んでいった。
95 :メカ沢β :2005/09/25(日) 12:50
「……ゲホッ! ゴホッ!」

吉澤が二、三回咳き込むと僅かに積もった灰は風に飛ばされていった。
だから言ったじゃ〜ん、と吉澤の背に手を当てる石川。
そんな石川を涙目で見て、吉澤は笑った。
そしてもう一回タバコをゆっくり吸うと、今度は咳き込まずに煙を吐き出した。

「……不味い、けど美味い」
「なんだよそれ」

BMも、シキも、ナインも、クロスも、シロクも、笑った。
吉澤も、へへっ、と笑った。
一人取り残された石川に吉澤が言葉とタバコを差し出す。

「梨華ちゃんも吸ってみなよ」
「えっ、私はいいよ」
「いいからいいから」

ちょっとでいいからさ、と言って不意をつき石川の唇にタバコを差し込む。
ビクッと驚く石川を優しく押さえながら、ゆっくりね、と耳元で呟く吉澤。
口からタバコを離すと意外にも咳き込まずにほとんど透明な紫煙を吐き出した。

「……変な味」
「ダメ?」
「でも嫌いじゃない」

またBMも、シキも、ナインも、クロスも、シロクも、笑った。
吉澤も、へへっ、と笑った。
石川も、フフッ、と笑った。
96 :メカ沢β :2005/09/25(日) 12:51
「ハイハイお二人さん、もうタバコは終わり終わり」

ナインが二人に近づく。
最後にもう一回と吉澤はタバコを咥えると、急いで吸ったせいかまた咳き込んでしまった。

「ポイ捨ては禁止だよ」
「わかってるって」

シキやクロス達も短くなったタバコをBMの持っている携帯灰皿に入れている。
吉澤から渡されたタバコをクロスは上向きにして持った。

「証拠隠滅」

そう言ってゆるく握ったこぶしの中にタバコを入れていくナイン。
アッ!、二人が揃って叫んだ。
全て拳の中にタバコを入れた瞬間手を開くとブツは姿を消していた。

「おぉ〜!」
「スゴ〜イ!」

二人は歓声を上げ、四人も嘆息しながら拍手を送った。
パンパンと手を払うナイン。

「それじゃ三色団子でも食いに行きますか」
97 :メカ沢β :2005/09/25(日) 12:51
傾きかけてきた日差しを浴びて海岸線を走る黒いイプサム。
タバコを吸っても咳き込まなかった石川に喫煙疑惑が浮かび上がり、
必死で否定する石川を周りがからかい半分で追求している。

「梨華ちゃんアタシにはダメダメ言ってたのにさぁ」
「だから吸ってないぃ!」

信号も無く、対向車も数台の道路は緩い下り坂を伸ばしている。
二列目三列目が石川の話題で盛り上がってる中BMが疑問を口にした。

「そういや団子屋の位置わかってんのか?」
「いや」
「じゃあどこ向かってんだよ」
「団子屋」

後ろでは石川が普段はキセルをふかしてるんじゃないかという話に花が咲いている。

「この海岸線の道はしばらく一本で続いてくんだろうし、
土地条件からしてこの道が分岐する辺りに店があるだろうから、そこがきっと団子の店だろうという――」
「推測ってか?」
「そういうこと」

お前らしいな、と両手を後頭部に当て背凭れに体を預けるBM。

「ってことは石川五右衛門の代から石川さんまでキセルが受け継がれてるわけだ」
「ち〜が〜う〜」

話が安土桃山時代にまで発展していて、騒ぎ立てる振動を背中で感じる運転席と助手席。

シキの言う通り、下りが終わる分岐点にその店は建っていた。
98 :メカ沢β :2005/09/25(日) 12:51
シキとBMが団子を買いに行き、五人は車内に待機。
数分後、白い袋を下げた二人が戻ってきた。

「ホラ、三色団子」
「ありがと」

シキとBMも車に乗り、全員の手に団子が手渡された。
いかにも団子らしい三色団子で、上から緑、白、ピンクの球が見るからに柔らかさを誇示している。

「上がヨモギで、下が桜だってよ」
「桜?」
「あぁ。春の内に集めておいて保存しておくんだってさ」
「ほぉ〜」

七人が団子と対峙する。
誰よりも早くシロクが、いただきます、と言うとみんな追うように、いただきます、と言った。

「おいし〜」
「美味いなこれ」
「やーらけ〜」
「団子の良し悪しなんてわかんねぇけど、美味いな」

車内は団子によってもたらされた幸せに満たされていた。
99 :メカ沢β :2005/09/25(日) 12:51
みんなが二本目に手をつけている中、一本目を食べ終えすぐに車を発進させるシキ。
相変わらず海岸線を走っている。

「さっきクロスに何見せてもらってんだよ」

団子を買いにいく前にクロスに何か言い、帰ってきてからパソコンを見せてもらっていたシキに
緑色のモチを口に含みながらBMが聞いた。

「まぁちょっとな。いい場所を」
「そこは楽しいのか?」
「さぁね」

走ることしばらく、着いたのは堤防だった。

「何にもねーじゃんこんな所」
「何にもないからいいんじゃねーか」

七人が車を降りる。
二メートルほどの高さの堤防以外何もない。

「ここどこ? なんかあるの?」
「それは吉澤さんの眼で確かめてください」

カモメが高い空に鳴いている。
波の砕ける音はただただ海の存在を知らせている。
100 :メカ沢β :2005/09/25(日) 12:51
「ほっ!」

ナインが助走をつけ、七十度ほどの堤防を駆け上がる。
上の足場に手をかけ体を引き上げるといとも簡単に登ることができた。
横で梯子を上るクロスはそれを見て、梯子を降りた。

「おっ、いいねぇ」

吉澤も同じように助走をつけようとしたが、その前にシロクが小さな体を駆け上らせていた。
ナインに引っ張ってもらって登ったシロクが暮れようとしている陽光を受けシルエットで見える。
別の場所でBMは既に登っていて、クロスも着流しを乱すことなく軽々と登ってみせた。

「じゃあ次、吉澤行きま〜す」
「ホントにやるの?」
「これぐらい簡単簡単」

またもや心配する石川をよそに十分に助走距離をとった吉澤。
アスファルトを蹴り上げ堤防に向かって、駆け出した。

「うりゃ!」

壁を使った二段ジャンプの要領で挑戦するも手が足場に届かない。
地面にひきづられるようにして吉澤は堤防のこちら側に降りてきた。

「石川さんはやらないんですか?」
「やらないよ。あんなことできる靴じゃないもん」
101 :メカ沢β :2005/09/25(日) 12:52
「惜しいなぁ」
「あとちょっとだぞ」
「わかってるよ」

吉澤はまた助走をつけ跳んだものの登ることはできなかった。
くそ〜、と闘争本能を見せる吉澤。

「石川さんは……スカートですから最後に梯子から登ってきてください」

そう言ってシキが駆け出した。
堤防によしかかり悔しがる吉澤の横をシキは目指した。

「蹴る時は体を前に」

吉澤が言葉に反応しシキを見た時、シキは既に登り切っていた。
シキを目を合わせると吉澤の中に自然と力が湧いてきた。
堤防を離れ三度助走距離をとる。

「次は絶対登るから」
「うん」

手を前に組んで見守る石川にそう言うと堤防に向き直し、コンクリートを睨んだ。
薄いシルエットの五人がやたらとさまになっていた。

「よしっ!」

気合を入れ、吉澤は駆け出した。
彼女は、翔んだ。
102 :メカ沢β :2005/09/25(日) 12:52
石川が梯子を登り終え堤防の上に七人が揃う。
水平線にはまだ手をかけていない夕陽が真正面に見えた。

「いい夕陽だ」
「シキはこれを見せたかったのか?」
「あぁ」

立ち尽くす六人にシキがゆっくりと語り始めた。

「黄金が人を魅了するのはその独特の輝きにある。他の宝石と同じように希少価値という面からも
高値がつけられる黄金なんだけど、黄金はお金で計ることのできる価値をつけられる前から
人々の心を魅了していたんだよ。それって何でだと思う?」

誰も返事をしない。
シカトしているわけではない。
シキの話に口をはさみたくないのだ。
シキの雰囲気と、眼前の大海と太陽に魅了されているから。

「この海の美しさを思い出すからなんじゃないかな、っなんてね」

水面に反射した夕陽はどんな黄金よりも美しい黄金色を放っていた。
その輝きは一日を終える全てのものに対する神からの労いなのかもしれない。
103 :メカ沢β :2005/09/25(日) 12:52
「うおぉ〜! クッサイ台詞!」

ナインが騒ぎ始めると、時が止まったかのように動かないでいた面々が徐々に動き始めた。

「詩人だねぇ」
「黄金が人を魅了する――」
「やめろよ」

表情をほとんど変えずにいるものの恥ずかしそうにするシキ。
それじゃ黄金発掘に出かけますか、とふざけた調子でナインが言うと吉澤までもがそれに答え
堤防の前に積まれたテトラポッドを渡り始めた。

「ゴールドラッシュだぁ!」
「おぉ!」
「お前等みんな落ちろ〜!」

決起する連中の背中に本心を浴びせるシキ。
キャップ飛ばされるかもしれないから、とシロクからキャップを預かると彼もゴールドラッシュに向かった。
堤防にはシキと石川だけが残り、他は足場を確認しながら海へと近づいていく。
ややサイズのきついキャップを被るシキ。
取り残された二人は顔を見合わせるとどちらともなく微笑んだ。

「実は、ちょっと感動しちゃった」
「石川さんは純粋ですね。そんな石川さんに愛されてる吉澤さんは幸せ者だ」

石川は夕陽のせいにして顔を真っ赤に染めた。
104 :メカ沢β :2005/09/25(日) 12:52
「何でシキ君はまだ敬語を使ってるの?」

自然を装ったようでバレバレの照れを見せながら石川が言った。
本当に幸せなんだな、と思いながらシキが答える。

「何ででしょうね、癖なんです」
「でも他のみんなはもう使ってないよ?」
「あいつらはいいんです」

波しぶきがテトラポッドの隙間から唸りをあげる度にリアクションを取りながら
黄金の採掘に向かう五人を目を細めることなく眺めながらシキが答えた。
回答に納得のいっていない石川も同じように五人を見る。

「やっぱり距離が大事だと思うですよ、仕事で知り合って付き合っていくわけですから。
みんながみんな親しくなりすぎると冷静な判断ができなくなる可能性があります」
「じゃあ、今日ここに来たことは仕事なの?」

シキの視線の先にはシロクが波しぶきを浴びたことに笑っている吉澤がいた。
その笑顔は自然が作り出した無限の黄金よりも、美しかった。

「仕事ですよ」

冷徹ともとれる感じでシキが言ってのけたので石川にショックはなかった。
追い討ちともとれる感じでシキが言った。

「これが仕事でなくなったときこそ、冷静な判断ができなくなったって証拠ですから」
105 :メカ沢β :2005/09/25(日) 12:53
「冷たいんだね」

少しの沈黙を破ったのは石川の独り言のような二人言だった。

「こういう時は嘘でも仕事じゃないって言うべきじゃないの?」
「言うべきではないでしょう、やはり互いに――」
「女の子への配慮がないんだよ、シキ君は」

二人は視線を合わせない。
ただ高度を落としていく太陽とそれに少しでも近づこうとする五人を見ていた。
言葉を遮断されたシキは表情一つ変えず、言った。

「僕達の仕事は危険が常につきまといます。他の人が近づきすぎればいざ危険と遭遇した時に
その人にまで迷惑がかかる。それはこの仕事のプロとして絶対にやってはいけないんですよ」
「そんなこと言ったって――」
「ですから本当は、石川さん吉澤さんにも緊張感を持っていただかないといけないんです」

歪んだ夕陽を映したメガネを上げる。
お返しとばかりに言葉を遮られた石川は言い返すことができなかった。
波の音は断続的に静寂を打ち消してくれる。
106 :メカ沢β :2005/09/25(日) 12:53
「石川さんはコンサートやなんかでダンスを間違えたことはありますか?」
「えっ?」
「コンサートなどで失敗したことはありませんか?」
「……何回かはあるけど」

ナインが干からびたヒトデをブーメランのように投げると吉澤が悲鳴を上げた。

「僕達の場合、失敗は死に直結することもあるんです」

ケラケラ笑うナインに対して吉澤は干からびたヒトデをつまんで投げた。
ほとんど回転しなかったため安定していないヒトデは風に流され、シロクに当たった。

「そんな状況に他の人を道連れにすることはできません」

俺じゃないだろ、と非難するシロクを見て笑う面々。

「でも私達だって当事者だよ。深く関わって何が悪いの」

シキが石川を見ると、太陽を見ている時と同じ眼をして石川はシキを見ていた。
そんな石川を見てメガネを上げる。

「迷惑でも何でもかけていいから、私たちも仲間に入れてよ」
「……意外と覚悟を決めているようですね、石川さんは」
「当たり前でしょ。それに私だけじゃなくてよっすぃもだよ」

二人は同時に吉澤に視線を向けた。
普段カメラの前では見せないだろう笑顔が黄金色に染まっていた。
107 :メカ沢β :2005/09/25(日) 12:53
「ここが限界だな」

先頭を進んでいたナインが半分濡れたテトラポッドの上で足を止めた。
続いてクロス、BMとその手前のテトラポッドに到着した。

「あんまり来るとあぶねーぞ」
「大丈夫だって」

やや頼りない足取りで進んでくる吉澤。
周りの心配をよそにテトラポッドに飛び移ったりする。
シロクも到着し残りは吉澤だけになっていた。

「そこまでにしとけって」
「大丈夫大丈夫、行けるって」

黄金発掘を目指してきたはずなのに四人の視線は海に向いていない。
ただ、ヒーローになれる女の到着を待っていた。

「よっしゃ! あと一個!」

少し距離のあるテトラポッドに照準を合わせた吉澤。
息を飲む四人。
吉澤は振り返り石川を見ると、石川は全身を輝かせながらも両手は祈るように組まれていた。
当然のように彼女に向かって手を上げると、名残惜しむことなく向き直した。
体をこぶし一個分かがめると、一瞬止まり、そして、翔んだ。
108 :メカ沢β :2005/09/25(日) 12:53
「あっ!」

石川が無意識に前に出ようとした。
世界のどこにも接していない吉澤のシルエットが夕陽と被る。
その姿が一瞬消えると、今度は右手を天に突き上げる姿が見えた。

「イェーイ!」

無事と歓喜を知らせる叫び声が聞こえると、
何かを掴まえようとして前に出された右手は事情を悟り石川の胸元へと戻っていった。
吉澤は四人とハイタッチを交わしている。

「成功したようですね」
「だから言ったでしょ、覚悟はできてるんだって」
「そのようですね」

両手をメガホンにして、カッコよかったよー!、と叫ぶ石川。
大きく腕を振って、やったよ!、という声が届いた。

「覚悟ができてるってわかったんならシキ君も敬語を――」
「その前に石川さんが君付けをやめてくれませんか? いや、やめてくれよ。かな?」
「……うん!」

嬉しそうに微笑む石川。
こんなに素晴らしい笑顔の持ち主に愛されてる吉澤は幸せ者だ、とシキは思った。

「それじゃあゴールドラッシュだぁ!」
「おー!」
「やっぱりお前等海に落ちちまえ!」

石川はおかしそうに笑った。
109 :メカ沢β :2005/09/25(日) 12:53
しばらくして発掘に出かけた五人が戻ってきた。
吉澤が堤防に飛び移った瞬間、石川がその手を引っ張った。
さも当然かのように抱き合う二人。

「ヒューヒュー!」
「囃し立て方が古いぞ、シロク」

そんなシロクも堤防に戻るとシキからキャップを受け取る。
戦利品とナインから差し出された昆布を一度受け取り、すぐに捨てるシキ。

「そうだ、これからさん付け君付け禁止な。それに敬語も」
「いきなりどうしたんだよ」
「どうしたもこうしたも、なぁ」
「うん」

シキの、なぁ、に返事をする石川を見て出稼ぎに行っていた五人はハテナを浮かべる。
とにかくそういうことで、とシキ。まぁいいけどよ、とナイン。

「もう帰ろうぜ」
「そうだな」
「夕食はどこ行くの?」

オレンジを通り越し真っ赤に燃える太陽を浴びて吉澤が問いかける。

「それぐらい二人で行けよ」
「そうそう、あんなアツアツっぷりを見せられたらこっちの食欲が失せるっての」

吉澤は寂しさ一割、嬉しさ九割の表情をした。
110 :メカ沢β :2005/09/25(日) 12:54
帰りの車の中で吉澤と石川は肩を寄せ合い眠っている。
ナインとシロクも寝息を立てている中クロスは熱心にパソコンをいじくっている。
BMは腕を組んで前方を見据え、シキは少しの眠気と戦いながら運転を続けていた。

「写真の方はどうだ?」
「上々」

クロスの短い答えに口角を吊り上げるシキ。
まだ味のしっかりしているガムを噛みながらBMが話し出した。

「それにしてもタメ口きくとは、お前らしくねーんじゃねぇか?」
「石川さんのことか?」
「何があったんだよ?」

バックミラーで吉澤石川が寝ていることを確認して、シキは言った。

「石川さんになんで敬語使うのって言われて距離が大切だって答えたんだよ。
そしたら私達も覚悟はしてるんだからもっと仲良くなろうだって」

フッ、とBMは鼻で笑った。

「あの場で断ってたらこれから何でもない事で疑われたりしかねないからな。
仕事に支障が出ないようにあの場では了承したってだけの話だよ」
「そりゃいいけどよ、これからどうすんだよ? 二人は仲間だと思ってんだろ?」
「時期がくれば嫌でも違うってわかる時が来る。それまでのことだ」

また、フッ、と鼻で笑った。
お前らしいな、とBM。そうか?、とシキ。
ちょうど一番星の方向にイプサムは走っていく。
111 :メカ沢β :2005/09/25(日) 12:54
「起きて起きて、もうすぐ着くよ」

まだ寝惚け眼のシロクが吉澤と石川の頭を軽く叩きながら起こしている。
吉澤、石川の順に意識を覚醒させていく。

「ここ、どこ?」
「もうすぐ原宿だから、そっからは二人でどこにでも行ってくれ」

ヒューヒュー、とシロク。だから古いっての、とナイン。
外は既に月のステージに変わっていた。
なんとか眠気を飛ばした二人にそれぞれ封筒が渡された。

「何これ?」
「今日撮った写真です、じゃねぇや、写真だ」

言い直しよりも前に疑問が湧く二人。

「写真なんていつ撮ってたの?」
「いつって、中見たらわかりますよ」

二人は封筒から写真を取り出した。
石川が走ってくる場面。偽石川が走ってくる場面。吉澤が目を赤く腫らしている場面。
車の中から海を見ている場面。車から降りて海に叫んでいる場面。タバコを吸っている場面。
団子を食べている場面。堤防を駆け上がろうとしている場面。夕陽を正面から受けている場面。
シルエットになっているが吉澤がテトラポッドの間を飛び移った場面。眠っている場面。
二人は全く撮られていた認識がなかった。
112 :メカ沢β :2005/09/25(日) 12:54
「何これ! 盗撮?」
「まぁ盗撮って言えば盗撮かもしれないな」
「いつ撮ったわけ? ってかカメラなんて持ってなかったじゃん」
「持ってはなかったけど、被ってたよ」

自信満々な笑みを浮かべるシロク。
頭上のキャップの正面を指差し、言った。

「ここに超薄型で超高性能なカメラが内蔵されてるってわけ」
「で、シャッターがこのリモコンだな」

ナインがシロクの右手を持ち上げ中指のリングを見せる。
呆気にとられる二人。

「この前開発したばかりだからちょっと心配だったけど、どうやら成功したみたいだね」
「まぁこいつの発明魂に免じて許してやってくれよ」

もともと怒っていたわけではない二人はシロクを許してあげた。

「それにしてもこのよっすぃカッコいい〜」
「そんなぁ、この梨華ちゃんもかわいいよ」
「ハイハイ、おのろけは他の場所でやってくれ。ホラ、原宿に着いたぞ」

原宿駅の前に止まるイプサム。

「今日はありがとね」
「本当にありがとう」

礼を言って車を降りると二人は人ごみに消えていった。
113 :メカ沢β :2005/09/25(日) 12:54
「事務所も戻ろうと思うけど、どっか行くか?」
「オレ焼肉食いてぇんだけど」
「焼肉かぁ、いいねぇ」

ナインとシロクが二列目に座る。

「クロスはどこがいいんだ?」
「まずいなぁ」

まだ何も食べていないのに味の評価を行なうクロス。
どうした?、とシキ。

「まぁ面白くなってきたとも言うんだろうけど」
「だからどうしたんだよ」
「これ見てくれ」

三列目からパソコン画面を見せる。
だからどうしたんだよ、とナイン。だから……、と説明するクロス。
114 :メカ沢β :2005/09/25(日) 12:54
「どうすんだ、シキ」
「たしかに面白くなってきたとも言うけど、それにしちゃ面白すぎるな」
「オレは面白いじゃ済まねぇと思うけど」
「オレもそう思う」

ナインに続き、BMも多少の苛立ちを見せた。
シキはメガネを上げて、言った。

「とりあえず飯食いに行こう、焼肉でいいよな?」
「オイ、ちゃんと考えろよ」
「少し予定を繰り上げるだけで大丈夫だろ。明日ヤルぞ」

車を発進させたシキの目は異様に鋭い。
ヤベーなこりゃ、とナイン。怒ってるね、とシロク。
急いでシートベルと締めながらBMが言う。

「明日一人ぐらいは死ぬな多分」
「バカ言え、一人残らず、だ」

そ〜と〜怒ってるな、とナイン。そ〜と〜怒ってるね、とシロク。
翌日の夕刊に載る事件が既にシキの頭の中で動き始めていた。
115 :メカ沢β :2005/09/25(日) 12:57
今日はここまで。

>>61名無飼育さん、ありがとうございます。
体はピンピンでございます。これも私の生命りょ……読者の皆さんのおかげです。

>>62名無飼育さん、ありがとうございます。
いやはや、ご心配おかけしました。
これからもよろしくお願いいたします。
116 :20 :2005/09/25(日) 17:42
作者さま、お元気になられたとのこと、ホッと致しました。
ますます期待いっぱいで読ませていただきますね。
117 :名無飼育さん :2005/09/25(日) 23:54
気になるー!
海のシーン大好きです。
118 :名無飼育さん :2005/09/26(月) 00:42
本当にだんだん面白くなってきた!
お体に気をつけて頑張ってください。
119 :名無飼育さん :2005/12/12(月) 05:37
突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
120 :メカ沢β :2006/01/30(月) 23:34
「アンタ達って車何台持ってるわけ?」
「俺等が持ってるのはこの前乗せたイプサムだけ。コレは俺等のもんであって俺等のもんじゃない」

街路灯、派手なだけが取り柄のネオン、馬鹿に明るいコンビニの電灯。
これだけ光があるのにもかかわらず鉄の箱は律儀にも一台一台ライトをつけてアスファルトに列を成す。
その中の一台、薄抹茶色のマーチに乗っているのはシキと吉澤。

「前に中古車業者と仕事したことがあってな。コレはそん時の報酬」
「車もらったの?」
「いつでも好きな時に好きな車に乗れる、っていう約束だよ。無料レンタカーみたいなもん」

ふぅ〜ん、とあまり価値がわかっていない吉澤。
ステレオから流れてくるスロージャズの音色は細かい音の粒子となって車内を満たす。
仕事が終わって疲れている吉澤に眠気は睡魔はまとわりつき、不快なテンポでアクセルとブレーキを
踏まされているシキの顔には薄っすらと睡魔が張り付いている。

「この調子だと三十分位かかりそうだな」
「どこ行くの?」
「内緒。ってか言ってもわからないだろうし。着いたら起こすけど?」
「ん〜、じゃあ起こしてね」

そう言って助手席に深く身を委ね、窓に頭をつけて瞑目する。
シキはステレオの音量を少し下げると欠伸を噛み殺した。
121 :メカ沢β :2006/01/30(月) 23:34
少々鼻息が荒くなっている吉澤。眠りの第一段階。
未だ不調な舞踏で進むシキの携帯電話がジーパンの生地越しに着信を知らせる。
道路情報に切り替えていたラジオを切り、携帯電話を取り出す。

「どうだった?」

電話特有の挨拶を無視して話し出す。
相手の話を前の車をナンバープレートに視線を固定しながら聞き、右手だけでハンドルを掴みながらアクセルを踏む。

「わかった。ゴクローサン。……あぁ? ちげーよ。じゃあな」

携帯電話を畳む音は密室によく響いた。
122 :メカ沢β :2006/01/30(月) 23:35
大通りを逸れて少し走り、止まったのはとある駐車場。
マーチの他に車は二台止まっている。

「着きましたよ。起きてください」

吉澤の肩を揺らす。
長いまつげが小刻みに揺れた。

「起きて、ホラ。着いたから」
「……ん、ぁあ」

まぶたを擦って辺りを見回す吉澤。
見えるのはテナントの壁と電柱、駐車場の看板。

「……どこ?」
「それは後で。とりあえず行くぞ」
「どこに?」
「目の前のテナントだよ。いいからさっさとしろよ」
123 :メカ沢β :2006/01/30(月) 23:35
灰色のテナントに寄り添うように作られた螺旋の非常階段。
紅泥色の塗装は所々錆びていて、足音は悲壮的な鉄琴と化していた。

「中にエレベーターあんでしょ? なんで外から……」
「文句言うなよ。エレベーターにカメラついてんだから」

徐々に視界は高くなっていくものの景色は住宅方面にしかひらけておらず、甍を争う家々の半分は消灯している。
足音のように淡々と登っていくシキの後ろ、カメラくらいどうってことないじゃん、などと
小声で愚痴を言いながら後をついていく吉澤。
五階建てのテナントの最上階に着いた。

「行き止まりじゃん」
「行き止まりじゃねっての」

ポケットから鍵を取り出し鍵穴につっこむ。
滞りなくドアを開けた。

「まさかここシキの家とか?」
「んなわけねーだろ。いいから入れよ」

シキを鍵をしまうのと引き換えに財布を取り出し、何かを取り出してまたしまった。
電灯もついていない室内に吉澤は足を踏み入れた。
124 :メカ沢β :2006/01/30(月) 23:35
明かりは向かいの建物のネオンだけだが意外と明るく、影に入らなければ顔が容易に確認できるほどだった。
部屋の隅は闇が居ついて確認できないが特に何が置いてあるわけではなく殺風景そのもの。
電気は?、と吉澤。そんなもんねーよ、とシキ。
乾いた足音を立ててフロアを進んでいく。

「仕事上逃げ隠れたり、活動前に潜伏したりするためにどうしても各地に基地みたいなもんが必要なわけ。
ここがその内の一つ。このフロアはきちんと正規の手段を用いて借りてる。まぁ来るのは久々だけど」
「それにしてもなんにもないねぇ」
「なんかあっても邪魔なだけだしな。あまり窓の方に行くなよ」

窓の外を眺めたそうにする吉澤に、近づくなって、とシキ。
チェッ、と言ってまた部屋を見回す。

「なんか座るもんとかないの?」
「だからねぇって。その辺に座りたくなかったら壁によしかかるなりしてくれ」
「ホント有り得ないよね。せめてイスぐらい置いときなよ」
「それよりこんな所にいて怖くないのか?」

そーいやそーだよねぇ、と吉澤。
お化けとか出ちゃうぞ、とシキ。
125 :メカ沢β :2006/01/30(月) 23:35
「アイドルとしての自覚が足りないかな? アタシ」
「アイドルってか女として、人間として足りない」
「それは言い過ぎじゃない?」
「どこがだよ。男と二人っきりでこんな所にいるのに恐怖感がない方がおかしいだろ」

視線を散らしていたシキの瞳が止まった。
右手に持っていた何かを握り直す。
吉澤はシキから離れるようにして歩き出すと壁に寄りかかった。
右半身にネオンを浴び溜め息をつく。

「まぁでもシキがいるなら何かあっても助けてくれそうだし、シキの事男として見てないし大丈夫」
「なんだよそれ」
「とりあえず危険じゃないんでしょ? ここ」
「そりゃあな。でも……」

そう言って吉澤に正面を向いていたシキが右足を引いた。
何かを持った右手を振り上げる。
でも、の後を聞き出したい吉澤だがシキの不可解な行動に口も目を動かせないでいた。
何か、がキラリと光った。
126 :メカ沢β :2006/01/30(月) 23:35
それは一瞬だった。

振り上げた右腕を瞬目止めて次のモーションに入ろうとした刹那、窓側の隅の暗がりから
ムササビにしてはあまりに速く、小さく、薄っぺらいモノがシキめがけて飛んでいく。
吉澤の腰の高さを地面と平行に飛んでいたソレはシキの目の前で急に高度を上げると
シキの顔面左を鼓膜にさえ気付かせないほどの速さですれ違っていった。
ピッチングモーションを本能が止め、左頬に瑕疵が引かれた。

何が起こったかわからない吉澤はただ息を飲むだけだった。
右腕を糸が切られたマリオネットのように下ろし、左手の中指でメガネをそっと上げるシキ。
シキが何かを投げようとしていた部屋の隅の空気が、動いた。

「安心しろ。今のは紙だから」
「紙でも十分だけどな」

シキの口調は明らかに緊張が解けたものだった。
得体の知れない状況に恐怖以前に感情が生まれようとしている吉澤は視線をゆっくりとその隅に向け、
それよりゆっくりと首を回した。
闇から現れたソレはネオンにシルエットを切り取られ、人間の形をしていた。
127 :メカ沢β :2006/01/30(月) 23:36
「驚かしちゃったかな?」

ライターの火が灯る。
やんわりとした火の向こうにナインの顔が浮かび上がった。

「うわっ!」
「あれ? 今驚かしちゃったか」
「驚くも何も……ちょっとシキ! ナインがいること知ってたの!?」

使われることの無かった何かを財布にしまっているシキ。
安堵半分、怒り十分にシキに言い寄る吉澤。

「知らなかったけど」
「じゃあなんで――」
「知らなかったけど、誰かいることはわかってた」

はぁ?、と怪訝な表情の吉澤に、詳しく説明するとな、とシキ。
ライターの火を消して月光の生える床に座るナイン。
128 :メカ沢β :2006/01/30(月) 23:36
「まず階段を上がってくる時点で誰か入るんじゃないかってことは予想してた」
「……意味わかんないですけど」
「ほとんど人の来ない非常階段で最上階まで来る間にまったく蜘蛛の巣が無かったろ?
蜘蛛の巣ってのは大抵一日でできるもんだから俺等より先に誰か、おおよそ二十四時間以内に来てる
ってことが予想できたわけ」

クエスチョンマークが頭から沸き上がる吉澤をよそに説明を続ける。

「鍵はまぁピッキングの力があれば誰でも開けられる種類のもんだから別にいいとして、
部屋に入った瞬間にまず人の気配がした」
「アタシは全っ然しなかったんだけど」
「そりゃ一般人にはわからないだろうな。俺等は商売柄たまに命狙われたりすることがあるんだけど。
部屋に入ってまず火薬の匂いがしなかったから拳銃は持ってないことはわかってた。
まぁこれも一般人にはわからないだろうけどね」

上から下まで全身黒ずくめ、黒いニット帽までかぶっているナインがフッと笑う。

「それで気配から位置を特定して部屋に入る前に持っておいた五百円玉投げて牽制しようと思ったら、
先にトランプが飛んできた、と」
「トランプ?」
「見えなかった?」
「いや、まぁ……」

何か、は見えたが、何が、見えたのかはもちろんわかるわけがない。
129 :メカ沢β :2006/01/30(月) 23:36
「さっき仕事終わったって電話くれたけど、なんでいんだよ?」
「いたっていいだろ、別に」
「別にいいけどいるなら普通にいろよ」

これが普通だ、とナイン。これが普通なら普通じゃないよ、と吉澤。
普通じゃないことが普通なのが俺達だから、とナイン。意味が不通な吉澤。
立ち話もなんだから座りなよ、とナインが月光とネオン光の当たるコンクリートの床を払う。
吉澤はナインが払ってくれた場所に座ったがシキは窓と窓の間の壁に立ったまま体を預けた。

「何から話した?」
「まだなんにも」
「じゃあ俺が話してもいいか?」
「どうぞ」

シキを腕を組むと俯いて目を閉じた。
じゃあ何から話そうかな、と楽しそうなナイン。

「面白い話と面白くない話、どっちから聞きたい?」
「面白くない話」
「……面白くない奴だな」

二人からは闇にしか見えないシキがフッと笑った。

「じゃあ面白い話からな」
「なにそれ。聞いた意味ないじゃん」
「聞いた意味がなくなる返答をしたからだろ」

まぁとりあえず聞けって、とナイン。なにさ、と吉澤。
130 :メカ沢β :2006/01/30(月) 23:36
「前に海に行った日あったろ? あの日のことなんだけどさ。
あの日海行ってる間に俺等の事務所のパソコンにハッキングした奴がいたんだよ」
「ハッキングって他人のパソコンに無断で侵入するってやつでしょ?」
「そうそう」
「大丈夫だったの?」
「いやまぁウチのパソコンはクロスが全部管理してるからまず問題はないんだけどな。
それで、そのハッキングしてきた奴が面白かったわけだ」

その部屋に入ってきて一番大きく響いたナインの声は実に快活で愉快だった。
次の展開が聞きたくなってしまうナインの喋りにひきつけられるように前のめりになる吉澤。
外で鳴ったクラクションの音にもまるで反応しない。

「どこだと思う?」
「どこどこ?」
「お前等を張ってる探偵事務所」
「た……」

おそらくは探偵事務所の、た、なのだろうけれど、あまりに意外な正体に開いた声門が塞がらない。
蒸し暑さのピークは過ぎたものの快適とはいえない室温。
汗一つかかずにニヤッと笑ったのはナインだった。

「まぁクロスの罠に引っかかったおかげだけどな。その罠ってのが――」
「オイ、あまり喋りすぎるなよ」

ナインはシキのいるはずの闇を見据え、わかってるって、と一回だけ頷いた。
131 :メカ沢β :2006/01/30(月) 23:36
「探偵事務所がそんな、ハッキングなんてしていいわけ?」
「いいわけねーだろ。バレねぇと思ってやったんだろうけど、俺等にはバレバレ」
「じゃあ犯罪なら証拠を警察に突き出せばいいじゃん」
「馬鹿か! そんなことしたら色々調べられて俺等が捕まっちまうだろ! そしたらお前等の計画も水の泡だぞ!
そういうことがわかってて向こうだってハッキングしてきたんだろうしな」
「あそっか」

アンタ達が悪いのがいけないんでしょう、と吉澤。
その悪いオレ達に仕事依頼してる奴は誰だよ?、とナイン。

「お前等を張ってる探偵事務所が俺等のパソコンにハッキングしてきた、これがどういう意味かわかるか?」
「何? どういう意味?」
「俺等と吉澤と石川との関係がバレてるってこと。つまりお前等が何かしようとしてることがバレてるってことだ」
「オランダに行くことも?」
「いや、それはバレてないだろう。でもこれでもう一つ別の所に俺等との関係がバレたわけだ」

深夜の入り口に近い時刻。
外部から五階まで届く人の声はなく静寂は闇の密度に比例している。
吉澤はナインの次の声を待った。

「吉澤と石川の事務所だよ」
「エッ!」
「そりゃそうだろ。事務所がその探偵事務所に仕事依頼してんだから、当然入手した情報は
お前等の事務所に流れるに決まってる。もちろん全てではないだろうけどな」

やっと事態の深刻さに気付いたようで吉澤は初めて動揺の色を見せた。
132 :メカ沢β :2006/01/30(月) 23:37
「俺等だって細心の注意を払って行動してきたから絶対にバレねぇって自信はあった。
探偵を目の前で騙したのだって海に行った日が初めてだったのに、その日にハッキングされてるってことは
もっと前から俺等とお前等の関係を把握してたってことになる」

言葉の所々にイラつきを見せ、ナインは言い終わると軽い舌打ちをした。
口からやや大きく息を吸い込み、一瞬止めるとゆっくりと吐き出しながら、どうするの?、と吉澤。
すると今まで黙っていたシキが壁から背を離し二人の所までやってきた。

「ここからは面白くない話だから、交代」
「なんだよそれ」

肩を叩かれたナインは不機嫌そうに立ち上がるとさっきまでシキがいた場所まで行き、ドカッと座った。
ナインの体温が残るコンクリートの床にシキはゆっくりと腰を下ろした。

「それじゃあここからが面白くない話だから」
「今までも大して面白くはなかったんだけど……」
「じゃあ吉澤にしてみれば逆にここからが面白い話になったりしてな」

変顔の満月が映る眼鏡をクイッと上げた。
133 :メカ沢β :2006/01/30(月) 23:37
「さっきナインが言ったように俺達は絶対にバレない自信がある。それなのに
表の世界では中の上程度の実力しかない探偵事務所に正体がバレた。これが意味することは一つ。
誰かが情報をリークしているってこと」
「リークって、バラしてるってこと?」
「そう。そしてそのリークしている人物は吉澤と石川が俺達のことを話している四人、
里田まい、アヤカ、柴田あゆみ、藤本美貴の中にいるかもしれない」
「チョッチョッ、ちょっと待ってよ! そんなわけないじゃんか!」

仰天と逆上が綯い交ぜになった声は音響設備のない室内にエコーの尾を引いて走り回った。
言葉としてはまだ誰も言ってはいないが、意味としてはその四人の中に裏切り者がいるということが
吉澤には信じられなかったのだ。

「そんな! あの四人の中にそんなことする人なんていない!」
「たしかに。まだ四人の中にリークした奴がいるとは限らない。俺等がミスした可能性もある」
「そうだよ!」

言ってしまってからそれが失言だと気付くのにわずかに時間がかかった。
一気に高揚していた気持ちが静まり一回り小さくなる吉澤。
そんな吉澤を察してか特に怒る様子もなく話を進めるシキ。

「とにかく、これからはより慎重に行動していかなければならなくなったわけだから、
吉澤も気を引き締めてほしい」
「……ウン」
「石川には俺等から言ってもいいし、もし吉澤から言うならバレた原因は俺等の失敗ってことでいいから」
「いやそんな……そんなつもりで言ったわけじゃ……」
「それはわかってる。わかってるけど石川が話を聞いて原因が四人の中にリークした人がいるってことで
治まるとは思えないしな。とりあえず俺等ってことで話しつけといてくれたほうがいい」
134 :メカ沢β :2006/01/30(月) 23:37
ネオンは相変わらず下品な彩光を振り撒き三人のいる部屋を照らしている。
赤、オレンジ、黄色とテンポよく変わる光を顔の左側で受け俯く吉澤。
用意周到にナインがハンカチを取り出したが、顔を上げた吉澤に涙を浮かべた様子はなかった。

「アタシから言うよ。もしかしたら四人の中にいるかもしれないってことも言っとく。
言った上でシキ達が失敗したって言っとくわ」
「ん〜なんかアレだけど、是非そうしてくれ」

わかった、とある種の安堵を浮かべて頷く吉澤。

「でも四人に対して急に態度がよそよそしくなっても不自然だし、教えなくなったせいで関係がこじれるのもあれだから
情報はいつも通り四人に流してもいいよ」
「エッ? それじゃあ今回の、その、ハッキングのやつみたいに……」
「心配するなって。俺達はそんなにじゃ負けねーよ。ただ俺等が探偵に気付かれてるってことは言わないでくれ」
「わかった」
「そういやもう一個面白い話なかったか?」

暗い中手の感覚だけで器用にコインウォークをしていたナインが思い出したように会話に入ってきた。

「なにそれ、聞きたいんだけど」
「いやまぁ、そんなに面白い話ではないんだけど。一応面白くない話の中で話そうと思ってたし」
「いいから聞かせてよ」
「ん〜とじゃあ。まずこれからの注意点を一つ。いくら探偵にバレたとはいえ俺達との接触は今まで通り内密に」
「そりゃまー、そうだろうけど……なんで?」
「お前等を張ってるのはなにも探偵だけじゃない」

もっと愚劣な奴がいる、とシキ。
135 :メカ沢β :2006/01/30(月) 23:37
「週刊誌の記者も張ってるらしい」
「マジで!?」
「前に矢口の交際が撮られてからハロプロのメンバーにはわりと記者がつくようになったらしい。
吉澤と石川の交際が発覚することはまずないだろうけど、俺等と接触してる所はマズイ」
「たしかに」
「俺等もそっちに目ぇ光らせてるから。とりあえず今まで通りにしてくれればいい」

吉澤はシキから視線をはずすと室内の中に浮く月光を眺める。
何か思慮している様子に見えたシキは吉澤の次のアクションを待った。

「それって……面白い話?」
「いや、ここから」

結局面白い話なのかそうでないのかを判別していただけらしくすぐにシキに視線を戻した吉澤。
粋がるバイクの騒音も生々しく聞こえるほど静かな空間。
ナインが落としたコインの音に吉澤が驚き、わりーわりー、と軽くナインが謝るとシキが口を開いた。

「先月、ここらのビルで火事があったの知ってるか?」
「火事? ……そういやあったような」
「幸い死傷者は出なかったようだけどそこに構えていた事務所は全焼したらしい」
「ふ〜ん。で?」

その火事が自分達が海に行った次の日に起こった事を言おうと思っていたシキだが
無駄にショックを与える必要もないだろうとそのことを胸の内で消化した。
136 :メカ沢β :2006/01/30(月) 23:37
「その事務所は何の仕事してたかってーとな、ブブカっていう雑誌を出版してたんだよ」
「知ってるか? ブブカ」

吉澤の左後方からのナインの問いにシキから視線をはずし、知ってるよ、と答える。
片膝を立てて座っていたシキが膝を叩いて立ち上がった。

「なら話は早い。面白い話終わり」
「えっ?」
「あの三流低俗雑誌はもう出版されません。以上」

自分から近づくなと言っていた窓に近づき、向かいのネオン光を上半身全てに受けるシキ。

「それってどういうこと? アタシ達を張ってた週刊誌ってのがブブカだったってこと?」
「違うよ。ブブカは週刊誌じゃないし。もっとれっきとした週刊誌が張ってるから心配すんな」

心配すんなってのもおかしいか?、とシキ。
ある意味合ってるしある意味間違ってる、とナイン。

「ああいう雑誌はあることないこと書いてくるから、やっかいっちゃーやっかいなんだよ。
昔吉澤と石川も書かれたことあるだろ? 知らないかもしれないけど」
「……まぁ知ってはいるけど、石川がレズだみたいな記事でしょ?」
「そうそれ。そういう情報って意外にメンドーなんだよ。これからまた出ないとも限らないし」

シキはひんやり冷たい窓ガラスに背をつけ体を任せる。
引き伸ばされた影のせいで部屋の中は急に暗さを増した。
137 :メカ沢β :2006/01/30(月) 23:37
「まぁあまり関係ない話だったかもな。気にしないでくれよ」
「そうそう。迷惑してたんだろうからちょっとスッキリしてんだろ?」
「いやまぁそりゃ迷惑、してたけど……」
「まだ犯人は捕まってないらしいけど、どうでもいいよなそんなこと。ホラ帰るぞ」

ナインを立たせ吉澤に手を差し延べるシキ。
まだ何か引っかかっている様子の吉澤はシキの手に気付かず自力で立ち上がると尻についた埃を払った。
投げたトランプを拾い戻ってきたナインが吉澤の肩を叩く。

「なに気にしてんだよ」
「気にはしてないけど、気になることがあって」
「なんだよ?」
「まさかその犯人って……」

シキとナインに交互に視線を配る吉澤。

「まさか。それよりもう帰ろう」
「だな」

軽く受け流して出入り口に向かう二人。
二人と少し距離が離れ、すぐに後を追う吉澤。
ドアノブに手をかけて、シキが言った。

「吉澤さんはやっぱり危機感が足りないな」
「なに? こんな暗い所に男の人二人といる――」
「そうじゃない」

ドアを開けるとこれでもまだ新鮮な外の空気が滑り込んできた。

「俺等の関わっているという危機感が足りないんだよ」
138 :メカ沢β :2006/01/30(月) 23:41
今日はここまで。

>>116 20さん、ありがとうございます。
膨らませた期待をしぼませないよう努力いたします。

>>117名無飼育さん、ありがとうございます。
そう言っていただけると幸いです。

>>118名無飼育さん、ありがとうございます。
身体はもう大丈夫です。(多分)



長い間待たせてしまった申し訳ありませんでした
139 :名無飼育さん :2006/02/01(水) 18:19
今回もドキドキさせられました!笑
次回も期待してます。
140 :名無飼育さん :2007/07/22(日) 12:30
作者様いつまでも待ってます

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