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作者フリー 短編用スレ 俺×娘。

1 :名無飼育さん :2004/09/04(土) 23:11
このスレッドは俺×娘。作者フリー短編用スレッドです。
どなたが書かれてもかまいませんが、以下の注意事項を守ってください。
・アップするときはあらかじめ“完結”させた上で、一気に更新してください。
・最初のレスを更新してから、1時間以内に更新を終了させてください。
・できるだけ、名前欄には『タイトル』または『ハンドルネーム』を入れるようにしてください。
・話が終わった場合、最後に『終わり』『END』などの言葉をつけて、
 次の人に終了したことを明示してください。
・後書き等を書く場合は、1スレに収めてください。
・感想、感想への返レスはこのスレに直接どうぞ。
2 :名無飼育さん :2004/09/04(土) 23:15


2時間の飲み放題が終わった。僕らは追い払おうとする店員をかわしてたっぷり三十分グダグダし、重い腰をあげた。幹事が回収した金を数えている。酔い潰れた何人かが、顔を真っ赤にして呻きながら眠ろうとしていた。

騒ぎながら店を出て行く仲間を横目で見ながら、僕は飲み残された酒を友人数人とガブガブ胃に収めていく。追加料金が怖いからだ。ピッチャーにたっぷり残った味のわからないオレンジ色の液体を流し込みながら、後輩のヒロと肩を並べて店の外に消える真里の背中を見ていた。

ヒロは真里に負けず劣らず背が小さく、そのことに対して卑屈なくらいのコンプレックスを持っている。
「男のクセに150ちょっとしかないなんて、女からすればハムスター程度の扱いですよ」
それが酔ったときの口癖だ。

実際、その程度の扱いしかされていない。色が白くもち肌で、一重まぶたのその後輩は、女には見えないまでも、それ以上に男に見えない。そのせいか、なにかと女の子に可愛がられるのだ、羨ましいくらいに。
真里もその例に漏れず、何かにつけてヒロに目をかけている。背の低さのせいか、一緒にいて違和感がないのだと言う。あれで男らしさが見えて、好きになる事ができたらバランスのいいカップルになれる、とも。

僕は、ヒロが密かに真里に想いを寄せていることは知っている。真里といると背の低い劣等感を感じないと冗談めかしていたが、それだけではないだろう。
3 :名無飼育さん :2004/09/04(土) 23:15

 思えば、僕はこうやって真里の背中をずっと見続けてきたような気がする。ピッチャーを片付け、気の抜けてぬるくなった瓶ビールに手に取りながら、そう考える。

 出会いは新入生歓迎のコンパだった。 
 それが大学生になって初めて行ったコンパだったせいか、鮮明に覚えている。同じ席、僕の向かいに真里がいた。綺麗な顔立ちに大きな瞳が印象的だった。金色の染め抜いた髪のせいか、メイクのせいなのか、フランス人形のようだと思った。でも、僕はそのとき、真里のことを西洋こけしだと笑って、怒られたのだ。
 真里はそのことを覚えているだろうか。

 その日、僕は隣の子を口説くのに夢中で、気が付いたときには真里は他の席に移っていた。真里とは学校で擦れ違っては声を掛け合う程度の仲にはなったが、それだけだった。

 僕は別のサークルに入り、そこの二年先輩と付き合うようになった。
4 :名無飼育さん :2004/09/04(土) 23:16

「これだけ飲めば、店も文句言わねぇだろう」
 友達が十席ほどの座敷を見回し、口直しだと言って、残ったサラダをつまんだ。
 僕は忘れ物がないがざっと確認し、そいつと連れ立って店を後にした。幹事が二十万ほどの飲み代を千円札ばかりで払っていた。

 外に出ると、むっとした熱気が肌に張り付く。狭い飲食街の通りを吹き抜ける風は生暖かく、生ゴミのにおいがした。
「いつになったら、秋が来るんだよ」
 騒々しい店の出入り口付近では、小さな呟きなど掻き消されてしまう。きれいな空気を吸いたかった、それと、冷たいノンアルコール。さっき飲んだビールの中に、誰かがふざけたのだろう、ウィスキーが混じっていたからだ。それで想像以上に酔いが加速してしまった。

 とりあえず、道のまんなかで話し込み、通行の迷惑になっている後輩を脇に寄せる。酔い潰れたバカが店の入り口で寝転がっていて、女の子が看病している。僕はそのバカを抱えあげ、裏路地に折れた、人通りの少ない場所に寝かせた。心配そうな顔をして、看病していた女の子がついてくる。襲っちゃえば? などど笑い、女の子を赤面させて遊んだ。

 一度店の前に戻り、入り口付近で嬌声をあげている一団を、背中を押しながら路地裏まで誘導する。押した背中の中に、真里の背中があった。背中を押したつもりだったのだが、真里の背が足りないために頭を小突くような形になってしまい、睨まれた。

 これで僕の役目は終わりだ。壁に背をもたせて座る。誰かが二次会のカラオケを見つけるまで、しばらくここで待機だ。
 後輩の女の子集団が時計をちらちら見ている。終電の時間を気にしているフリをしているのだろう、帰るタイミングを窺っているのだ。終電まではあと二時間以上もある。
5 :名無飼育さん :2004/09/04(土) 23:16

 ふと気がつくと、隣には、陽気に酔っている同級のアホがいた。
「いつもご苦労さ、あ、大変だね」
「おめーが酔っ払うからだばかやろー、こっちも酔ってんのに」
そいつは、恨み言など意にも介さず、僕の視線の軌跡を追った。
「お前、なに嫌らしい目で一年生の女の子、見てたんだよ」
 僕は何も言わずにいると、そのアホが目を覗き込んでくる。
「なに? もしかして酔ってないの?」
「さっき言ったよ、酔ってるよ」
「じゃあ、なに?」
「疲れた」
「疲れたから、一年の子を視姦してるんだ、だれ狙い? 俺、梨華ちゃん」
 もつれた舌で、そう捲くし立ててきた。酔いで想いを誤魔化しながら告白する歳でもないだろうに。
「あの子は無理だよ、もう帰るんだろうし。たぶん真里あたりに、帰るとか言ったんだと思うよ」
「なんでわかんだよ」
 僕は黙って指を指す。駅へ向かう梨華ちゃんの背中が見えたからだ。
 アホはがっくりと項垂れ、大きく息を吐いて呟いた。
「真里、梨華ちゃんには甘いもんなぁ」
「うん、なんか知んないけど、梨華ちゃん、真里にだけは懐いてるよな」
「だよな……」
「真里も、梨華ちゃんじゃなきゃ、普通なら帰さないよな、盛り上がろうとか言って」
 僕は近くにいた後輩の持っていた缶ビールを奪い、アホの前に突き出した。
「飲めよ、もう面倒くせぇから。梨華ちゃんは無理だって、諦めろ」
 アホは何も言わずに、勝手に落ち込んでいる。
 僕はプルタブを引き起こし、一口啜る。そして、アホの前に置いた。
「お前はどうなんだよ、梨華ちゃん」
 僕も梨華ちゃん狙いになっているということになっているのが癪だったが、説明するのも鬱陶しく、そのままにしておいた。そして、
「ダメだよ、終電気にするような女じゃ」
6 :名無飼育さん :2004/09/04(土) 23:18

 新歓以来、たまに会ったときには短い会話をするものの、その回数も減っていった。真里はその頃、入ったサークルの先輩に夢中だった。共通の知人もそれぞれに居場所を見つけ、関係はあってないようなものになっていた。

 初めてのテストも終わりに差し掛かった、うだるような暑い日だった。僕は友人にもらったコピーの束を抱え、図書館に向かっていた。その途中、真里が一人でベンチに座っているのを見つけた。
「どした? 珍しいね、一人でいるなんて」
 真里は僕を見上げると太陽が目に入ったのか、眩しそうに手を翳した。そのせいで、表情はよく見えなかった。
「そっちこそ、珍しいじゃん。勉強? テスト、大丈夫なの?」
 僕は分厚いコピーの束をひらひらと振り、その場を後にした。

 初めて入る図書館は書籍が音を吸い込むせいか静かで、思いの外気持ちのいい場所だった。冷房の効いた部屋の窓側に座り、当然のように眠ってしまった。

 目覚めるともう夜近くで、紺碧の空にオレンジの欠片が散らばっていた。慌てて図書館を出ると、キャンパス内は人影少なく、灯りの消えた建物が不気味なもののように思えた。
 闇と同化するようにして、まだ真里がいた。
 最初は見間違いだと思った。でも、近づいてみると、確かに真里だった。泣いていたのかどうかはわからないままだけど、泣いていたと思う。絶え絶えに 噛み殺すような吐息が、狂おしいくらいに切なげだった。

 僕は黙って真里の隣に座った。 
 真里は一度、僕をちらっと見ただけで何も言わず、ただ俯いていた。
7 :名無飼育さん :2004/09/04(土) 23:19

 どれくらい経っただろうか。けっこうな時間だったような気がするけど、もしかしたら短い間だったのかもしれない。
 おもむろに真里が話し出した。いつも通りの明るい口調が、痛々しかった。
「先輩と別れてさー、知ってるでしょ? あの、付き合っ──」
「うん、知ってる、四年の、ちょっとがっちりした感じの、爽やかっぽい人でしょ?」
「感じとか、っぽいとか、もっとマシな言い方ないの?」
「ごめん」
「まあ、いいんだけ。フラれちゃったんだけど、その理由がひどいんだよ?」
「うん」
「なんかねー、田舎に帰って許嫁と結納しなきゃならないって、って言うの。由緒ある家柄の長男らしくて、まあ金持ちは金持ちだったんだけど、生まれる前から家の決めた相手との結婚が約束されてたって。婚約者いるんなら、最初っから言っとけ、って感じだよね?」

 僕は真里の嘘に付き合った。真里の元彼氏のことを悪く言わないよう気をつけながら、真里の雑言に同意し続けた。

 話の切れ目を待っていたかのようなタイミングで電話が鳴り、僕は真里を見た。真里は、出なよ、と頷いた。
 僕が電話に出ると、真里は立ち上がり、ありがとう、と口で作って手を振った。
『あ、もしもし? いま、平気?』
 電話口の友達は、僕の返答も待たずに話を続ける。僕は電話を切ることもできずに、落ち着かない気分で真里の背中を見ていた。
『あんね、テスト終了間近記念で飲んでるんだけど、お前も来るでしょ? いつもんとこ』
 真里の小さな背中が、闇に溶けるようにしてもっと小さくなっていく。
「行くけど、もう一人誘ってもいい?」
 僕はそう言い、真里を追いかけた。

 その日、真里は始発が出るまで、はしゃぎつづけていた。

8 :名無飼育さん :2004/09/04(土) 23:20

 一次会で飲んでいた三分の一くらいは帰ったのだろう。女の子の数がぐっと減り、半々だった男女比が崩れた。

 僕はポケットに入れたままで潰れた煙草に火をつけ、思いきり吸い込んだ。口がネバネバしているからか、喉がいがらっぽい。目を閉じ、酔いで鈍くぐらつく後頭部にひきずられるようにして上を向いた。
 薄汚れたビル壁にかこまれた夜空があって、輪郭のぼやけた半月が白く浮いている。その視界の中に、ふっと女の子の顔が入った。後輩の子で、かわいくもぶさいくでもないために、名前すら覚えていない。
「あ、あの……先輩は、二次会に行きますか?」
「行くよ」
 それだけ聞くと満足なのか、それだけで精一杯なのか、同学年のグループの中に戻った。

 隣でアホがニタニタと細い目を一層細くさせている。
「お前、二次会で食われちゃうよ?」
「そんなことないよ、人数確認でしょ」
「とぼけんなよ。久しぶりなんじゃないの? 女」
「まだ二年だよ」
「この際だから、真里と付き合っちゃえよ、この際だから」
「そういう勝手な推測は、誤解を生むから……」
「なに? 付き合ってんの?」
「……まだ二年だよ」
 僕はそうくり返すと、燃え尽きかけた煙草を吸った。フィルターまで焼けた煙草に、指先が熱かった。

9 :名無飼育さん :2004/09/04(土) 23:21

 二年前のことだ。真里は僕らのサークルに入り、仲間になっていた。

 真里は例の先輩のあと、僕らの仲間の一人で付き合い始めた。タクミという気のいい奴で、惚れっぽい奴だった。真里に一目惚れだったらしい。秋の初めに付き合いだして、クリスマスまで持たなかった。
 当然のように気まずくなり、タクミが去って、真里が残った。僕らにとって、真里の存在は必要不可欠になっていたのだ。

 真里が仲間に加わってから十ヶ月ほど経った、今から二年前、六月の話だ。僕は入学当初から付き合っていた恋人と別れた。
 僕の卒業を待って結婚しよう。そう半分冗談、半分本気で話していたのが嘘のように、あっけない結末だった。社会人と学生、言葉では簡単な区切りだけど、その意味は全然違う。彼女の言葉だ。
 あの頃はさっぱりわからなかったけど、いま改めて考えると、なんとなくわかるような気もする。

 とにかく、二年ちょっと付き合った恋人は、僕の元を離れた。僕のことが子供に見えて仕方なかったのだろう。
10 :名無飼育さん :2004/09/04(土) 23:21

 僕は失恋の痛手に悩むわけでもなく、落ち込むわけでもなく、至って普通に暮らしていた。それは友達の方が困惑してしまうくらいで、僕にはそれが驚きだった。

 如何にも梅雨といった、緩やかな雨の降り続いた三日目の朝だった。雨に濡れるのが嫌で学校に行こうかどうか迷っていた僕は、ぼんやりと昼頃までベッドで過ごした。ひんやりした空気の感触に、ただ、なんとなく、起き上がろうとする気にならなかったのだ。

 昼を過ぎ、ただじっとしているのも暇だからと、とりあえず学校に行くことにした。部屋を出ると、ドアの脇に真里がいた。足元が跳ね返った雨に濡れ、湿気のせいか髪が少し巻いていた。
 僕に気付いた真里は、オス、と恥ずかしそうに笑いながら頭を叩いてきた。
「起きてるんなら、もうちょっと早く家を出ろよ」

 部屋に真里を招き入れ、近くの自動販売機で買ってきたコーヒーを渡した。ずっと外にいたのだろう、手が冷たくなっていた。
 真里はコーヒーに手をつけずに、ちらちらと僕を窺っていた。
「あのさ、迷惑じゃなかった?」
「なにが?」
「こうやって、押しかけてきちゃったこと」
「迷惑でもないよ」
 よくわからない含みを持たせてしまった。
 渡した毛布に包まっていた真里は、小さく肩を竦めた。
「最近、っていうか、別れてからか、元気ないと思って」
「元気なく見える?」
「失恋のあとっていうのは、普通、落ち込んだり、無意味にはしゃいだりするもんなんだよ」
 少しだけ声を荒げた真里の言葉には、不思議な説得力があった。それは、僕が真里の失恋後の一部始終を見ていたせいなのかもしれない。

 真里がそっと、ベッドに腰掛けた僕の前に来て、弱く笑う。僕の視線は、真里に合わせて自然と上向く。背筋が震えるくらい大人びていて、綺麗な顔だった。
「こういうとき、ちょっとくらいなら感情吐き出してもいいんだよ……」
 そう言って、僕の頭を抱えてきた。
「ちょっとくらい、泣いてみたら?」
 優しい声だった。

 僕は一筋分だけ、失恋の喪失で涙を流した。その後も、涙は止まらなかった。

11 :名無飼育さん :2004/09/04(土) 23:22

 気がつくと、真里が隣にいた。膝を抱え、そこに頭を乗せ、じっと、つぎはぎだらけの道路を見つめている。
「どした?」
「そっちはなにしてんのよ」
 真里の視線は動かない。
「回想」
「なに?」
「就活中の真里。黒髪だった」
 僕が思い出し笑いをしているが、真里はぶすっと唇を尖らせて中空をねめつけている。
「なに? 怒った?」
僕が聞いても何も答えず、黙って缶のウーロン茶を差し出してくる。受け取り、飲んだ。まだ半分ほど残っている。
「全部飲んでいいよ」
 無表情になった声が、拗ねた風に聞こえた。
 ウーロン茶のおかげか、酔いが少し逃げた。

「ねぇ、ときめいた?」
 表情を一変させた真里が大きな目をくりくりさせて、僕を見ている。
「ときめいた?」
「なにが?」
「間接キス」
「なにをいまさら」
「あっそ」
 つまらなそうに下を向いた。
12 :名無飼育さん :2004/09/04(土) 23:23

 二次会の店が決まったのだろう。ゆっくり、ぞろぞろと、集団が動き出す。
 僕も立ち上がろうと思ったけど、真里は膝を抱えたまま動こうとしない。浮かせかけた腰を降ろした。
 真里は俯いたまま、口だけ小さく動かす。
「さっき、ヒロにコクられたよ」
足音と話し声で、聞き取りづらかった。
「コクられた、って言ったの」
「聞こえたよ」
「そう……」

 僕は何も言うことがないから黙っている。真里も何も言わない。嫌な沈黙ではないが、面倒で窮屈だ。意味はないが声を出す。
「あ、梨華ちゃん、帰ったの?」
「なんで梨華ちゃんの話すんのよ」
「いや、なんとなく」
「なにがなんとなくなのよっ」
 真里は言葉と同時にすっと息を吐き、肩の力を抜いた。そして、しみじみと言った。柔らかく微笑んでいる。
「もうすぐ卒業だね、半年なんてきっとすぐだよ」
「うん」
 酔いのせいだろうか、忙しなく話題が切り替わる。口調も素っ気なくなった。
「海に行きたい」
「もう海月ばっかだよ」
「海ってのは泳ぐためだけにあるわけじゃないよ」
「そうだけど」
「連れてってよ」
「今から?」
「今から」
「じゃあ、明日」
「今がいい、私なんて西洋こけしみたいなもんなんでしょ? すぐじゃん、簡単じゃん」

 僕は立ち上がり、真里に手を差し出した。
「行こうか、海」
 真里は少し困ったように、視線を泳がせた。
「でも、着いたら終電くらいの時間だよ? いま」
「泊まるとこなら、いくらでもあるよ」
「え?」
「一回くらい、ヤッとくか」
「そう、露骨に言葉にしないで」

 二次会へ向かう最後尾にいた奴が、僕たちを待っている。
「すぐに追いつくから」
 声を揃えて言い、逆方向、駅に向かって歩き出した。



                                    おわり                        

13 :名無飼育さん :2004/11/12(金) 05:26
面白かった。
これは良いスレだと思うので、このまま終わらすのも勿体無い。
誰か書いてくれんかの〜。
14 :黒い兄弟 :2004/11/12(金) 14:34
アンジェレッタの予言は的中しました。数日後、アルフレドをたずねて
チェルバ横丁にやってきたジョルジョは、黒い兄弟の仲間から
アルフレドが病気で寝たきりだときかされたのです。
 ジョルジョがアルフレドを見舞いにいこうとすると、アントニオが
いいました。
15 :名無飼育さん :2004/11/19(金) 16:40
はいはい。
これで最後まで書いたら褒めてやろうかと思ったが
所詮、お前はそれまでの男だ!
16 :名無飼育さん :2004/11/20(土) 00:11
気分転換にちょっと書きたいんだが、
一括更新出なければいかんかのう?
17 :16 :2004/11/24(水) 04:29
ま、何も書いてないんだから好きにしろ!!
って事かな。
18 :名無飼育さん :2004/11/25(木) 02:12
いいでないでせうか。
どぞ♪
19 :16 :2004/11/25(木) 03:11
んじゃ、遠慮無く。
ちなみに俺=読者様と言う感じで読んでくれたら
幸いです。
後、頭の中では話は完結してんですが、
文章化にちょっと時間がかかるかも。
ま、今月中には完結させようと思うんでご勘弁を。
20 :プロローグ :2004/11/25(木) 03:12
・・・生きている
俺は生きているらしい・・・
神はあいつではなく、俺を生かすことにしたらしい



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・



何故だ・・・
何故、俺を・・・
・・・分からない




・・・・・・分からない

幾ら考えても幾ら探しても見つけ出せない答え・・・・・・
でも・・・俺は生きなければならない・・・
答えを見つけ出す為に・・・


21 :名無飼育さん :2004/11/25(木) 03:13


〜 Cry for the moon 〜

22 :〜 Cry for the moon 〜 :2004/11/25(木) 03:14
―――――――――――――――
――――――――――
――――――
―――

誰も寄り付かないような林の中に1人の少女と5人の男がいる。

少女は男達に追われている。

走り逃げ出す少女。
少女の逃げかたは、まるで猛獣から逃げ出す動物のようであった。
そして、後方から猛獣が追ってくる――男達と言う名の猛獣が。

「きゃっ!!」

やがて少女は追いつかれる押し倒され
両手、両足を押さえつけられる

男の1人がナイフを取り出し、少女の服を切り裂く。

「や、やめて・・・」

必死に抵抗する少女だが、男4人に押さえつけられては
何も出来ない。

泣こうが喚こうが、少女の悲痛の叫びは誰にも届かない
少女は絶望感でただ、涙を流すしかなかった――。

―――
――――――
――――――――――――
――――――――――――――――――
23 :〜 Cry for the moon 〜 :2004/11/25(木) 03:15
(暑い・・・暑すぎる・・・この暑さは異常だ・・・)
(かすむ・・・目が霞んでくる)

照り付ける太陽が俺の弱った体力を消耗させる

(俺はここで死ぬのか・・・)

体に力が入らず、等々、倒れ込んでしまった。

周りに人はいるが、誰も助けようとしない。
無理のない話である。

こんな真夏の暑い日に長袖着ている奴なんて先ずいない。
俺も誰の助けも必要としない。

(死ぬのか・・・それも・・・いいかもな)
(それが・・・運命・・・ならば)

死と隣合わせで生きていた俺は、覚悟が出来ていた。

「大丈夫ですか?」

少し変わった女性の声が聞こえてきた。
しかし、男でさえ声をかけない俺に女なんか・・・。
(幻聴・・・?ああ・・・俺、もう駄目なんだ・・・)

「しっかりして下さい」

(本物か・・・?)
薄らと開いた目には、とても可愛い女の子が――。
益々、死を確信した。

(天女か・・・天からのお迎えか・・・)


――――――――――――――――
――――――――――――――――
――――――――――――――――
――――――――――――――――
24 :〜 Cry for the moon 〜 :2004/11/25(木) 03:16
――
――――
――――――――
――――――――――――――――



「・・・ん・・・三途の川に着いたか・・・、ここは?」

そこは、三途の川が側にあるとは思えない閉鎖的な世界だった。
そう、まるで部屋の中にいるような感じだった。

「具合はどう?」

後方から女の子の声が聞こえた。
声の主の方を見ると、美人と言える少女が立っていた。
意識を失う前に見た子とは、また違う。

「・・・君は?」
「・・・藤本。・・・藤本美貴」

俺は彼女に自分の名を名乗った。

「ふうん・・・」
「で・・・ここはどこ?」
「私達の家」
「え、君達の家?・・・って事は・・・」

(俺は・・・生きている・・・)
正直の所、生きている実感が感じなかった。

「・・・君が助けてくれたのか?」

俺の問いかけに彼女は首を横に振った。

「・・・じゃあ」
「私は嫌だった。素性の知らない男なんかを家に入れるなんて。
でも、梨華ちゃんが連れて来ちゃったから・・・」

(ん?)

「・・・っで、リカちゃん・・・って」

この時、扉の向こうから何処かで聞き覚えのある声が聞こえてきた。
25 :〜 Cry for the moon 〜 :2004/11/25(木) 03:17


(ん?この声は・・・)
意識を失う前に天女と間違えた女の子の声だった。
という事は――

「あ、気づかれましたか?」
「やっと目が覚めたよ」

(やっと・・・?)

「3日も寝たきりだったから、もう心配しちゃって」
「3日・・・?」

どうやら3日も俺はここにお邪魔していたらしい。

「それは申し訳なかった・・・」

俺は慌てて立ち去ろうとした。
しかし、立ち上がろうが体に上手く力が伝わらない。

「駄目ですよ。まだ、動いちゃ。お医者さんも絶対安静って言ってたし」
「いや、3日も世話になったんだから、もうこれ以上」

立ち上がろうとするが、体に上手く力が伝わらない。
すると美貴って子が口を開いた。

「うちから出られて、のたれ死なれても困るんですけど」
「美貴ちゃん!」
「迷惑、迷惑って言うけど、迷惑はもうとっくに係っているの。
今更、何日、泊まろうとも迷惑度はそんなに変わんないから」
――と言い残し、その場から立ち去った。

梨華って子は、申しわけなさそうな顔をして話し始めた。

「あの子、普段はあんな子じゃないんですが・・・」
「いえ・・・、それより助けてくれてありがとうございました」
「い、いえ。そんな・・・お礼を言われるほどのことは・・・あ、これ・・・」
――と言いお粥を差し出す。

「・・・、じゃあ、遠慮無く・・・」

俺は素直に食すことにした。
26 :〜 Cry for the moon 〜 :2004/11/25(木) 03:18
梨華って子が立ち去ってから、俺は再び眠りにつこうとする。

「ちょっと良い?」

美貴って子がやって来た。

「なんだ?」

別に断る理由はなかったので、彼女の話を聞くことにした。

「ええっと・・・、彼女、つまりは梨華ちゃんの事をどう思っている?」
「え?どうってどう言う答えを待っているんだ?」
「良いから答えて」

顔の表情、心音、呼吸から軽い気持ちで聞いている訳ではない事が分かった。

「・・・命の恩人って所かな」
「他には?」
「後は・・・可愛らしい、優しい女の子?」

この答えが出て来た時に、彼女の表情が一瞬変わったようんな気がした。
27 :〜 Cry for the moon 〜 :2004/11/25(木) 03:21
しばらく沈黙が続く。
空気はとても重苦しい。

「ここに居ても構わないけど、あの子には絶対に手を出さないで」
「は?」

彼女の言い分が突飛過ぎてわからなかった。

「彼女は本当に純粋で、汚れてない子なの。
だから・・・あの子を傷つけることがあったら許さないから!」

言いたい事を言い終えるとさっさと言ってしまった。

(・・・一体、俺が何をすると言うんだ?)

彼女のとても不自然な言動に違和感を感じていた。
28 :〜 Cry for the moon 〜 :2004/11/25(木) 03:22

続く・・・・
29 :16 :2004/11/25(木) 03:26
誤字がありましたが、見逃して下さい。
最近、少し自分の作品が煮詰まっているもんで気分転換に
ちょっと書いてみました。

まだ続きますが、そんなには長くならないと思います。

気分が乗ったなら、1週間で終わると・・・。
ちなみにこれは金八とブラックジャックを見た時に、
思いついたものです。
30 :名無飼育さん :2004/11/27(土) 07:55
期待。。。
31 :〜 Cry for the moon 〜 :2004/11/30(火) 06:27
彼女達との生活が始まって、1週間が過ぎた。

風呂の掃除を終え、居間に戻ると藤本美貴が居た。
何かを思いつめているような顔付きをしている。

(あれは・・・!?)

その時、彼女は俺の存在に気づき慌てて捲れていた袖を伸ばし、
睨み付けるような目つきで俺の事を見た。

「な、何よ。そんなところで隠れてこそこそと・・・」
「すまん、もう寝ようと思って・・・」

今の俺の寝床は居間である。
始めは石川さんが自分の部屋を譲ってくれようとしていたが
流石にそれは断った。

「・・・そっか。こっちこそ、ごめん」

彼女は居間から出て行こうとした。

「あ、テレビを見ているなら、構わないよ」
「・・・でも、もう寝るんでしょ?」
「こっちは居候で何も宛てのない状況だから、何時でも構わないよ」
「そう・・・」

しばらく、沈黙が続く。
彼女は俺を毛嫌いしている節があるので、
なるべく彼女の方には視線を合わせないようにした。
32 :〜 Cry for the moon 〜 :2004/11/30(火) 06:29
テレビには訳のわからない男達がワーワー言っている。
良くは分からないが恋愛ドラマって言う奴らしい。
ただ、何が何だかまったく分からない。

(アイスホッケーをやっている奴が、訳が分からない奴と喧嘩したり、
女が変な軍団に説教したりと何が面白いのやら)

「梨華ちゃんは?」

珍しく彼女の方から俺に対して話し掛けて来た。
多分、初めて会った日以来だろう。

「昨日、徹夜でレポートを書いてたから今日は早く寝るって」
「そう・・・」

会話が終わってしまった。
彼女なりに気を使ってくれているのだろうが話が続かない。
こっちも世間話をしようにも、共通の話題が無いからどうしようも無い。

「ね、どこから来たの?」
「・・・分からない」
「分からないって・・・」
「記憶に無いんだよ」

俺は倒れる前の記憶が、所々失われていた。
ただ、覚えているのは雪山を下って来たって事と
猛暑の中、ぶっ倒れた所を彼女に救ってもらった部分だけ。
(その部分でさえ、夢だと思っていたぐらいだから)

「そっか。ごめん・・・」
「いや・・・」

何かフォローの言葉を入れようとしたけど、
何も言葉が思いつかず、再び、沈黙状態へと戻ってしまった。
33 :16 :2004/11/30(火) 06:32
>30
ありがとう。
でも軽い気持ちで見てください。
もしかしたら、もう今後の展開とかバレているかも・・・。
34 :〜 Cry for the moon 〜 :2004/12/11(土) 23:57

「・・・これって、面白いの?」
「え?」

俺は、テレビの方を指した。

「ああ、何か、今、流行っているみたいだね」
「ふうーん・・・・、何が面白いの?」
「え?
 うーん、男女の恋愛とかアイスホッケーにかける情熱とか・・・
 後、主人公が格好良いところとか・・・」
「主人公?格好良い?誰が?」
「え?だから、見たら分かるじゃん

(うーん、格好ねぇ・・・)
(この頭が爆発している奴かなぁ・・・)

「まぁ、格好は良いかも知れないな」
「そうでしょ」
「何と言っても、頭が素敵だ」
「は?誰の事を言っている」

どうやら間違っていたらしい。

「はっきり言って、誰の事だか分かってないでしょ」
「え、う、うん・・・・」

格好良いと言われても誰が誰だかまったく分からない。
皆、同じ顔に見えてしまうのだから。

「ま、私も今日、初めて見たからね」
「え?」
「前から梨華ちゃんに面白いから見てごらんって言われていたんだけど
 この手のドラマは苦手でね」

この手のドラマと言われても、他にどんなドラマがあるのか俺には分からない。

「・・・・なんかお腹空いちゃったな・・・。ねぇ、なんか作ってくれない?」
「え、ああ。何でも良いでしょ」
「うん」

俺は台所へ行き、食事を作り戻ってきたときには彼女はもう既に寝ていた。

(ふぅ・・・やれやれ)

俺は彼女の部屋から布団を取り出し、肩から布団をかけてあげた。

(さて、俺も寝るかな・・・)

俺は仕方がないので、玄関で寝る事にした。
35 :〜 Cry for the moon 〜 :2004/12/12(日) 00:07

 「お、おい。俺だ。分かるか?俺のだよ。
  ずっとお前と仲が良かった、なぁ、覚えているか?」

 俺の叫びなど通じない。
 相手にはとっくに理性など無くなっているのだから。

 「なぁ、しっかりしてくれよ。
  俺といつか逃げ出そうって約束したじゃねぇか」

 俺の声はもう届いていない。
 相手はただの野生の動物となってしまったのだから・・・・。
 あいつからしたら、俺は敵の1人にしか移っていないだろう。 

 一歩、また一歩と近づいてくる。
 
 近づく度に俺の死は近づいてくる。
 後ろは完全な行き止まり。
 
 俺は空を見上げた。
 空は満月
 この満月に見守られ、俺は死んでゆくのだろうか・・・・
36 :〜 Cry for the moon 〜 :2004/12/12(日) 01:15
 
「・・・・ぃよ。ねぇ、ねぇってば」

目を覚ますと美貴って子が立っていた。

「あ・・・おはよう・・・・」
「おはよう――じゃないよ、まったく。
 今、何時だと思ってんの?」

時計を見ると朝の6時を指していた。

「6時・・・」
「そう言う事を言ってんじゃないの。
 ったく、せっかく今日が祝日だって言うのに・・・・」
「祝日?」
「そう、祝日」

(ああ、休みって事か)
(休みの日に起こされたから、怒ってんのか・・・・)

「そっか・・・・、それは悪かった」

人間、生きている時間は限りがある。

「・・・・ま、良いや。許してあげる。
 それより、お腹が空いちゃったからご飯を作って」

昨日のしんみりした感じとは違って、いつもの彼女に戻っていた。
(ちょっと優しくなったかな?)
取り合えず、それ程、怒ってなかった事にほっとする俺だった。
37 :〜 Cry for the moon 〜 :2004/12/12(日) 01:31
彼女はいつもと違って、何故か機嫌が良かった。
いつもはムスッと食事をするだけなのに、俺の料理を"上手い"と言ってくれたり
時折、俺に対して笑みを見せてくれたりする。
俺には絶対に見せなかった表情を今日は見せてくれている。

「・・・・何かあったのか?」
「え?」
「何か機嫌が良さそうだから」

一瞬、呆気に取られた表情を見せる。

「そんなに違う?」

コクリと俺は頷いた。

「そっか。ま、正直に言うと私、あんたの事を誤解していた」
「誤解?」
「そう、誤解。あんたって言うか、男の人?」
「・・・・そう」

俺はこれ以上、聞き返すつもりはなかった。
しかし、彼女は少しづつ話し始めた。
38 :〜 Cry for the moon 〜 :2004/12/12(日) 01:37

「男ってさ・・・・基本的に狼じゃん・・・。
 どんなに表では天使の顔を見せても、いつ豹変するか分からない。
 ・・・・ずっと心配だったの」

ここで用意した紅茶を少し喉に入れる。

「梨華ちゃんって、お嬢様だからさ・・・・外の世界の事を全然、知らない。
 大学は共学らしいし・・・・、いつ男によって傷つけられるか分からない・・・・。
 だから正直言って、初めは得たいの知らないあなたを家に入れるなんて反対だった。
 いつ梨華ちゃんを襲うか分からないから・・・・」
「・・・・で、今は?」
「ずっとここまで何もしなかったんだから信用しても大丈夫だと思っている」

何を言いたかったのかは分からなかったが、取り合えず俺の事を信じてくれたらしい。
ただ、襲うだの何だの言っていたが襲う理由が分からない。
そもそも男が狼だの人間を襲うだの言われたが、俺は狼でも無いし、他の人間を襲う生物でも無い。

・・・・正直、ちょっと侵害である。
39 :〜 Cry for the moon 〜 :2004/12/12(日) 01:55
その日の夕方だった。
俺は買い物に出かけた時だった。

八重歯がチャーミングな女の子がこっちへやって来た。

「無事だったんだぁ。良かった。キャメイ、どうしようかと思った」
「は?」

(・・・・キャメイ?誰だ?)

「ね、行こう」

彼女は俺の手をひっぱり何処かへ連れて行こうとする。

「ちょ・・・ちょっと待った。お前は誰だ?」
「お前って・・・・、キャメイの事、忘れたの?」

悲しそうな顔をして、俺に問い掛けた。
しかし、実際に思い出せなかったので正直に答えた。

「忘れたも何も知らんものは知らん」

すると目をウルウルし出す。
俺が彼女を置いて、先に急ごうとした時だった。

「ふえ〜ん!!」

尚も置いて行こうとするが泣き声が一層、大きくなり皆の注目の的となってしまった。
結局、俺は彼女の号泣を止める為に一度、彼女を他の場所へ連れて行った。
40 :〜 Cry for the moon 〜 :2004/12/12(日) 02:10
公園のベンチへ連れ出し、一通りの経緯と
今、彼女達の家に世話になっている事を話した。

「そっか、記憶喪失なんだぁ・・・・」
「あぁ、なぁ、俺って何者なんだ。知っているなら教えてくれ」
「・・・・・記憶喪失だった、思い出すまで知らない方が良いよ」
「・・・・・知らない方がって・・・・」
「・・・・・多分、絵里が言ってもいきなりは信用できないと思うよ」

彼女は立ち上がり、公園のブランコの方へ向かった。

「ね、こっちに来てよ」
「え、ああ」

ブランコの方へ行く。

「背中、押してくれる?」
「ああ」

取り合えず彼女の言う通り、背中を押し勢いをつけた。
(そう言えば、何となくよくこう言う遊びをした記憶があるな・・・・)

「はぁ、懐かしい」
「なんか、俺もそんな気がする」
「・・・・思い出したらで良いから、またやってくれる?」
「・・・・おう」

彼女はしばし、昔を懐かしさに浸っていた感じだった。
41 :〜 Cry for the moon 〜 :2004/12/12(日) 02:18
取り合えず俺は、彼女を駅まで送る。
(はぁ、こんな時間になっちゃったな。早く買い物を終わらせなくちゃ・・・・)

「ありがとう」
「ああ」
「あ、そうだ。今、人のうちに厄介になっているんだよね」
「ああ」
「だったら、これ、あげる。絵里が働いている所で貰ったの」
「え?」

俺は彼女から分厚い封筒みたいなのとけったいな模様をした鞄をもらった。

「・・・なんだか知らんが素直に貰っとく。ありがと」
「うん、じゃあ、また何時かね。そうだ。その時はここへ連絡して」

――と幾つかの番号が羅列している髪を貰った。
42 :〜 Cry for the moon 〜 :2004/12/12(日) 02:31

「・・・どうしよう」

買い物を終え、彼女から貰ったものを見た俺は
あまりにも凄い物であった為に途方に暮れていた。

「おー、お帰り」

後ろを振り向くと美貴って子がいた。

「あ、ああ・・・ただいま」
「ねぇ、今、何を隠したの?」
「え、いや・・・・何でもない・・・・」
「ふうーん、ま、いいや。何、今日のおかずは?」

その場は特に必要以上に聞かれなかった。
良かった・・・・。
それにしても、どうしよう。
この金・・・。
43 :〜 Cry for the moon 〜 :2004/12/12(日) 02:39

「998、999、1000・・・・1千万って、あいつは何もんだ・・・・」

俺でも分かる。
この金の価値を・・・・。

「・・・・ま、今度、返すか」

(待てよ・・・、でも、いずれはここを出なくちゃならない・・・)
(その時は少し使わせて貰うか・・・・)
(それにくれるって言ったんだから、ちょっと減っていても何も言わないだろう・・・・)

自分の中では、貰うのではない。
ちょっと借りるのだと言い聞かせ、自分自身を納得させていた。
44 :〜 Cry for the moon 〜 :2004/12/12(日) 02:41


  続く・・・・
45 :タイトル :2004/12/12(日) 02:46
22〜28    第1話 『天国と地獄』
31、32、34〜43  第2話 『夢・・・・』

46 :16 :2004/12/12(日) 02:48
俺って何者?
それは色々な所でヒントが出てます。
(ま、皆、分かっていると思いますが)

それより上げてしまってすみません。
寝ぼけてました。

47 :〜 Cry for the moon 〜 :2004/12/13(月) 02:45
 (ここは・・・?) 
 
 とても生活観を感じさせないビルの一角。
 辺りには檻や水槽らしきものが置かれている。
 
 見渡すととても怪しげな装置やホルマリン漬けされている
 人間の死体があった。
   
 ドーン!!
 何かとてつも無く大きい何かが落ちた音がした。
48 :〜 Cry for the moon 〜 :2004/12/13(月) 02:45
 
 その音が鳴ると同時に建物全体にひびが入る。
 崩れたコンクリートの破片が少しづつ天井から落ちてくる。
 建物の作りが良い所為かかろうじて持ちこたえているが、
 今にも崩れ落ちそうだ。

 「ふぇーん!!!」

 どこかから泣き声が聞こえて来た。

 (この声は・・・・)

 見ると公園で出会った八重歯がチャーミングな少女だった。

 「大丈夫か!」

 黙って彼女が頷く。

 「他の皆は?」

 聞き返しても怯えて、何も答えない。

 「大丈夫、絶対に助け出してやる」
 「・・・・本当?」
 「ああ、この命に代えてでも・・・」

 この時、遠くの方から声が聞こえてきた。

 「近くに誰かいるぞ、行こう」

 彼女は上目遣いで黙って頷いた。
 俺は彼女の手を引き、聞こえてくる声を頼りに
 その主の元に向かった――

49 :〜 Cry for the moon 〜 :2004/12/13(月) 02:47


 「おーい!誰だ、声を出してくれ!!」
 「誰かいるの!!」

 見ると端正な顔立ちで短髪の背は割と高めの子がそこにいた。

 「ああ、俺だ!!!」

 その子は俺の顔を見るや安堵感を除かせた。
 しかし、すぐ表情を戻す。

 「今、何人が無事なの?」
 「分からん・・・、俺が知る限りではこいつだけだ」
 「そっか・・・・、取り合えずhopeとtrueは無事だ」
 
 俺の記憶の無い名前であった。
 この時、等々、建物が崩れ落ちてきた。

 「このまま居たら、瓦礫に押しつぶされてしまう。取り合えず外へ出よう」
 「で、でも、外に出たら奴の」
 「奴の事は俺に任せろ!!」
 「おい、でもあいつは!!!」
 「大丈夫・・・・俺を信じてくれ」

 彼は俺の顔を見る。
 そして、黙って頷いた。

 「おい、行くぞ!!」
 
 するとどこかから2人の子が出てきた。
 一人はキャメイって子とは違う八重歯がチャーミングな子と
 もう一人はおかっぱ頭の子が現れた。

 「俺はお前を信じる」
 「ああ、俺の命を代えてでもお前達を救う。とにかく急ごう」

 俺らは出口の方へ急いだ。
50 :〜 Cry for the moon 〜 :2004/12/13(月) 02:49
 
 俺らが出ると同時に建物は崩れ落ちる。
 間一髪、助かったみたいだ。

 しかし、地響きが鳴るぐらいの足音が聞こえてきた。
 その足音は一歩、また一歩と近づいてくる。
 とてつも無く大きい何かが俺らに気づいて近づいて来ているみたいだ。

 (駄目だ・・・・このままだと皆、殺されるだけだ・・・・)

 俺は覚悟を決めた。

 「・・・・分かれよう」
 「え?」
 「このままだと全滅するだけだ。俺が囮になる。」
 「そ、そんな・・・・」
 「俺だったら、あいつが正気に戻る可能性がある。
  もしかしたら、俺ら5人いや6人が助かるかも知れない」
 
 俺の提案に皆、一斉に反対した。

 「何、考えてんだよ!!生きるも死ぬも皆、一緒だろう!!!」
 「そ、そうですよ!私達だって覚悟は決めてます」
 「皆、一緒だよ。いつだって。それに力には自信がある。一緒に戦おうよ」
 「キャメイの事を守ってくれるって言ってたのに、嘘だったの!!」

 (・・・・・この言葉だけで十分だ・・・・)

 「俺は1人でも欠けたら嫌だ・・・・・。あいつも欠けたくないんだ。
  それを分かって欲しい」
 「嫌だ嫌だ、絶対に1人じゃ行かせないもん・・・・」

 八重歯の子が俺に抱きつき放さない。  
するとその光景を見ていた短髪の子が頷き、俺の顔をじっと見る。
 そして・・・・。

 「・・・・俺が囮になるよ」

 短髪の子が死を覚悟した面持ちで申し出た。
51 :〜 Cry for the moon 〜 :2004/12/13(月) 02:51
 (ふう・・・こいつは強情な奴だからなぁ・・・) 

 「・・・・分かったよ、だったら、皆で力を合わせて戦おう」
 「ああ、さぁ、皆、行こぅ!!・・・・な・・・・何を・・・・」

 俺は奴の後頭部に軽い手刀を浴びせた。

 「・・・すまん。こいつを頼む・・・・」
 「・・・え?」
 「もし、生きていたら・・・・・にいる・・・・・の所で待ち合わそう」

 俺はそう言い残し、あいつの下へ走っていった――。
 
52 :〜 Cry for the moon 〜 :2004/12/13(月) 02:56

ガバっと起き上がると、そこはいつもの風景だった。

テレビにコタツにソファーベッド。
俺はこのソファーベッドで寝ている。

(夢?・・・だよなぁ・・・)

気づいたら、寝汗が半端ではなかった。

(・・・・それにしても・・・・恥ずかしい夢だったなぁ・・・・)

俺は夢の内容を振り返るととても恥ずかしくなって来た。
時計を見るとまだ1時半。
このまま起きていてもしょうがない。

(寝るかぁ・・・・)

俺は再び床についた。
53 :名無飼育さん :2004/12/13(月) 02:56


********************************

54 :〜 Cry for the moon 〜 :2004/12/13(月) 03:06
トントントントン
小刻み良く野菜を切る音が、台所に響き渡る。
俺は、その野菜を切るリズムが好きだった。

いつもと変わらぬ朝である。

俺はいつも通り、2人の朝食の用意をしていた。

「あ、おはようございます」

梨華って子が起きてきた。
この子は着替えずネグリジェ姿だったので俺はちょっと目のやり場に困った。

「おはようございます」

俺は軽く会釈をし、再び、目の前にある野菜を切り出した。
55 :〜 Cry for the moon 〜 :2004/12/13(月) 03:06
美貴って子があの子の事を心配する気持ちが分かってきた。
得体の知らない男がいるにも関わらず、彼女は俺の事を完全に信じきちゃっている。

彼女は今まで、よっぽど周りに恵まれてきたんだろう。
人に裏切られたりとかした事がないのでは無いか?
だから、こうも人間の事を信用できるのであろう。

でも、俺は彼女にはこのままで居て欲しいとも思った。

裏切られないで済むならそれに越した事はない。
世の中に1人ぐらい人間をずっと信じられる人が居ても良いと思った、
彼女にはずっと天使、いや女神みたいな存在で居て欲しい――と。
56 :〜 Cry for the moon 〜 :2004/12/13(月) 03:14

「うわぁ、美味しそう。凄いですね!」

いつものキャピキャピ声で、いつも通り誉める。
俺はこの言葉を聞くたびに、明日も頑張ろうとも思う。

そして、10分ぐらい経って美貴って子が起きてきて、
自分の指定席へ座る。

「おはよう。今日も凄いね」
「おはよう、ま、これぐらいはね」

そして美貴って子が食べ終わり、
美貴って子と梨華って子が出かけると俺の朝飯が始まる。

最近は本当に居心地が良い。
2人とも物凄く親切だし、とにかく俺の事を信じてくれる。

だから、俺は心が痛み出した。
いつまでも居候になっている事を――。
57 :〜 Cry for the moon 〜 :2004/12/13(月) 03:24


*******************************************
58 :〜 Cry for the moon 〜 :2004/12/13(月) 03:30
(果たして、俺は何者なんだ?)
(本当に彼女達にとって、害を与えない者なのか・・・・)

色々と考えては見るが、全然、結論が出ない。

それもその筈。
自分が何者なのかは、ちっとも分かっていないんだから・・・・。

(そう言えば、今まで見た夢・・・・)

ここ数日、見てきた夢を思い出していた。

泣き叫んでいる夢、追われている夢、仲間と話している夢・・・・etc、
色々とつなぎ合わせてみると一つの話として繋がりが出来ている。

(何なんだ?この夢は・・・・)

思い出そうにも過去の記憶が無いから、思い出せない。

(・・・・・そうだ、絵里って子が知っている筈だ。彼女の電話番号・・・・)

俺は彼女から貰った電話番号を取り出し、受話器に手をかけた。
59 :〜 Cry for the moon 〜 :2004/12/13(月) 03:32


   続く ・・・・・・
60 :タイトル :2004/12/13(月) 03:33

47〜59 第3話 『俺のは正体は?』
61 :16 :2004/12/13(月) 03:57
訂正:
『俺のは正体は?』 → 『俺の正体は?』

――――――――――――――――――――――――
はぁ・・・、寝てねえから辛い・・・。
亀井は茶髪じゃない方が良いよ。

それにしてもあややってすげぇーよな。
何でもソツ無くこなしてしまう。
アドリブも利くし・・・・。

あー、何を言ってんだろう俺・・・・・。

とにかく寂すぃ・・・・・。
62 :名無飼育さん :2004/12/23(木) 23:46
サンタとの生誕祭
63 :サンタとの生誕祭 :2004/12/23(木) 23:46
やたらと強く、そして純粋な優しさ。
そんな人間の思念を感じた。
しかし、俺には関係の無いこと。

だから無視して、
明日に備え早々と寝につこうか、そう思った矢先
思念に変化が生じた。

悲しみと不安。
この二つの感情が、
決して大きくでは無いけれども思いに乗り始めた。

だから俺は飛んだ。
整備が済み、整えてあったソリの列の中から一つを抱えて。
俺と同じく明日に備えて休養中だったトナカイを一匹、たたき起こして。

たずなを装着し、そりを取り付け
思念を辿りながら、俺は発生源を目指した。

12月23日。
聖誕祭を二日後に控えたときの出来事だった。
64 :サンタとの生誕祭 :2004/12/23(木) 23:47
―――
65 :サンタとの生誕祭 :2004/12/23(木) 23:47

辿っていくごとに
不安と悲しみが強さを増していき
それはある一軒家の前に到着したとき最高点を迎えた。

二階のある一室。
カーテンも閉めず、窓も閉めぬまま
その女の子は肩を震わせていた。

スンスンと、時折しゃくり上げ
悲しみにくれ
漏らす小さな嗚咽が俺の耳まで届いてくる。

聖誕祭を近くして、何故あの子は泣いているのだろう。
何故そこまで悲しんでいるのだろう。

泣き続ける少女をじっと見つめたまま
俺はトナカイを少しずつ前進させ、ベランダへと降り立った。
少女は気付かず、涙を流す。

「……どうした?」

これはサンタの世界における禁忌。
サンタは人に姿を見せてはいけない。絶対のルールだった。
そう頭で分かっていながらも、俺は少女に声を掛けた。

ビクリと身体を一際大きく振動させ、
俺を振り向く少女。
瞳は潤み、
目の周りは見るものも哀しくなるほど、赤く腫れあがっていた。
66 :サンタとの生誕祭 :2004/12/23(木) 23:48
「…だ、れ、っく…ですか?」
「サンタだ」

切なげにしゃくり上げる少女に、俺はそう返す。
おかしな会話だ。
泣きはらす一人の少女の前に、全身を赤で飾った一人の青年。

こんな堂々と名乗っても
かえってくる言葉は大方予想が出来る。
泥棒、不審者、変質者。
サンタを信じていない人間としては、妥当な返答だろう。

しかし、少女は違った。

「サンタ、さん…あ、れ?
 わたし、いつの間に眠っちゃったんだろう」

両頬に手を当てて、自室の床へと視線を落とす。
怪訝な表情で首を左右に傾げるの少女。
その傍らへと、俺は腰を下ろした。

どうやらこの子は、コレを
俺―サンタがいるという現状を、夢だと判断したようだ。
些か不本意だが、夢ならば話しは円滑に進めらるやもしれん。

「でも、どうして、サンタさんが…?」
「君の泣く声が聞こえた。だから来たんだ」

結局夢ということで自己完結した少女は、
キョトンと目を瞬き、俺に訊ねた。
俺はありのままを答え、少女の傍らに腰を下ろす。

「え…」微かな戸惑いと共に漏らした声。
潤んだままの瞳を覗き込み、今度は俺から問うた。

67 :サンタとの生誕祭 :2004/12/23(木) 23:48
「何故泣いている?
 どうして君はそこまで悲しみに暮れている?」

少女の顔が、歪んだ。そして再び漏れ出す嗚咽。
だが少女は気丈にも、しゃくり上げる中に言葉を混ぜていった。

「れ、なが…れぃなが…わ、たし…」

途切れ途切れに。
単語のみを無造作に並べて、紡いでいく。
聞き取れた単語を整理し、並べてみると、こうだ。

 れいながどこかへ行っちゃった

どうやら
数日前から一番仲の良い友人が急に冷たくなり、
それを言及してる内に、言い争い、絶交までしてしまったのだという。

冷静に考え直し、謝罪を入れようと思ったところ
しかし連絡は繋がらず。
次の日学校へと赴いてみても、その子は姿を現さなかった。

少女はその子とを自分のせいだと思いこみ、
こうして泣き崩れていたという。

「わたし…あの時、どうにかしてて…大っ嫌いって、叫んじゃって…
 れぃなに、何かあったら…わたし、わたし…」

ふむ。低く唸ってから、俺はすくっと立ち上がる。
そして再び本格的に泣き始めた少女を抱え上げると、
伴ってベランダへと歩き出す。
多少強引だが、許していただこう。

「あ、あの…」

涙で濡れた双眸を、キョトンと丸くして。
俺をじっと見つめる少女を、優しくそりの後部座席へと降ろし
俺もたずなを掴んでその前へと座る。

68 :サンタとの生誕祭 :2004/12/23(木) 23:48
多少元気になった感嘆の声が、背後から上がる。
俺はたずなを一度上下に揺らし、そして言った。

「探しに行くぞ。その友人」
「え…わっ」

音も無く、
夜闇が張る空へと向かって、そりは上昇を始める。
少女の疑念と驚きの声を合図としたかのように
トナカイは空を踏みしめ走り出した。

69 :サンタとの生誕祭 :2004/12/23(木) 23:49
**
70 :サンタとの生誕祭 :2004/12/23(木) 23:49

「サンタさん」

イルミネーションが無数に輝く街の、上空。
トナカイに引かれながらキョロキョロと下を窺っていたとき、
背中側の少女が俺に問いかけた。

「なんだ」そちらを振り返らずに聞き返すと、
どこか恐る恐る、そんな感じの声調が流れてきた。

「あの、何でこんなことしてくれるんですか?」

探索作業を一時中断し、
顔の右半面だけが少女に見えるよう、振り返る。
途端、少女が身を強張らせた。

…元来、表情が無いといわれる俺。
そこまで怯えるほどかと、内心僅かに肩を落とした。

「君にとって、今の行為は“こんな”程度のことなのか?」
「……ぁ、いえ、そういうわけじゃあ…」

決して怒っているわけじゃないが、
少女は俺の言葉を聞き、顔を見て身を竦める。
俯きがちになり、それきり黙りこくってしまった。

笑おうとするが、表情筋が上手く動いてくれない。
中途半端は余計に恐がらせることがあるので、
俺は表情を動かさないまま、なるべく柔らかく言葉を紡いだ。

「俺たちがプレゼントを配りに行くとき、
 眠っている子供は皆嬉しそうに笑っている。
 その笑顔が、俺たちを癒し、更に奮い立たせてくれる。
 子供達からの無意識なお礼だと、俺は勝手に解釈している」

71 :サンタとの生誕祭 :2004/12/23(木) 23:50
だから。
そこで切って、俺は探索作業を再開し
同時に掌を空へと向けた。

刹那、形成される一つの双眼鏡。
驚き眼の少女を尻目に見ながら、それを手渡し、下界を指差す。

「聖誕祭とは子供達にとっても、
 俺たちにとっても
 かけがえの無い一日だ。
 そんな日に、泣き顔なんか見たくないからな」

ふと、少女を完全に見据えて

「聖誕祭間近に、君の悲しみは深すぎる。
 …放っておけなかったんだ」

最後の台詞は、少女を直視することなく虚空に呟いた。

「優しいんですね、サンタさん」

返ってきた声に、再度振り返った。
控えめな微笑み。
しかし、浮かぶ色は声と同じく、愁いを帯びる。

双眼鏡を胸にギュッと押し付けて、
唇もギュッと引き結んで。
少女はポソリと呟いた。

「れいなは…絶対一番に、
 誕生日とクリスマスを祝ってくれたんです」
72 :サンタとの生誕祭 :2004/12/23(木) 23:50

 今日、誕生日なんです…

聞き取りづらい程、掠れた小さな声だった。
だが俺は確りとその言葉を耳にいれ、俺は少女の肩に手を触れた。
潤んだ瞳が懇願するような光をたたえ、俺を見つめる。

俺は見つめ返すのも程々に、
顎で下界の光り達を指し示した。

「だったら、尚更だ」

言ってから、身体の向きを戻して、たずなをふわりと揺らす。
ゆっくりと走行していたトナカイがかぶりを上下して、速度を上げる。

「きゃ」小さな悲鳴が聞こえた。

「約束しよう。
 今日が終わる前に、君の友人を見つけ出す。絶対だ」

天を駆け、隣町までの距離を一気に詰めていく。
数拍の間があいて

「はい!」

今日一番の、元気な返事が返ってきた。
自然と口角が吊りあがったことは、何となくだが自覚できた。

73 :サンタとの生誕祭 :2004/12/23(木) 23:51

74 :サンタとの生誕祭 :2004/12/23(木) 23:51

目付きが悪く、身長は小さい。
髪の毛が外側に向かって跳ねている。
少女から聞いた友人の特徴を頼りに、俺は下界を眺める。

「見えるんですか?」そう聞かれ、
「サンタだからな」簡単にそう返したのは、つい先程のこと。

今では背後の少女も、双眼鏡を覗き込んで、
そりの淵からひょっこりと顔を出している。
一応危ないぞと注意をしておいたので、出している顔は必要最低限だ。

「あれか?」
「え、どれですか?」
「あれだ、あの白いコートの…」
「…違います。れいなはもっと胸が小さいです」

特徴に胸が小さいと追加。
再び捜索に取り掛かる。

だが、聞いただけの特徴での特定は難しい。
この街だけでも何千・何万という人間がいるだろう。
そこから目標の少女を捜しだすという行為は、奇跡に――

「サンタさん!いました、れいなです!」
「何処だ?」
「あっち!ケーキ屋の近くの公園。ベンチに座ってます!」

75 :サンタとの生誕祭 :2004/12/23(木) 23:51
奇跡か?いや、彼女が友人を想う気持ちが通じたのだろう。
神様というのがいたのなら、そいつは粋なことをする。

「はやく、サンタさん!」
「分かった」

興奮気味の少女の声。肩を揺さぶる小さな両手。
それに答えて、俺はトナカイを進路を変えた。
180度転回。
目標は…あれか。

ブランコとベンチ、それと公衆トイレしかない小さな公園。
そのベンチの一角に、少女の友人らしき人物は座っていた。
傍らに小さな白い箱を伴って、
寂しげに肩を落として視線を地面のどこかに落としていた。

「れーなっ!」

背後の少女が、震えた、でも嬉しそうに声を張り上げた。
今や地との距離は殆どなくなっており、
少女の声は楽々と友人に届いただろう。

「え、絵里?!」

自分の前に降り立った俺達、否。
少女を確認して、驚愕の声を上げる友人。

ガタリ。そりが揺れる。
直後に視線を友人へと流すと、
再会の抱擁が行なわれている最中だった。

友人は未だ驚愕が拭い取れず、しきりに瞬きを繰り返す。
ややあって、二人の身体は離れた。

76 :サンタとの生誕祭 :2004/12/23(木) 23:52
「れーな!心配したんだよ!
 わたし、れいなに何かあったら、どうし、ようか、と…」
「絵里…」

小さくなっていく語尾に、涙が混じる。
俯く顔、滑らかな傾斜を作る背中。
泣き出してしまった少女に、
友人は戸惑いがちに眉尻を下げた。

「ご、めんねぇ…大っ嫌い、なんて、言ってぇ…ごめんねぇ…」
「あれは…れなも、悪かったと。
 最近、れな、絵里のことば、ものすご意識して…
 思わず避けちゃってた、と…ごめん」

顔を見合わせ、ごめんごめんと言い合う二人。
どうやらこの二人、親友という型だけでは収まりそうにない。
遅かれ早かれ、今は無理だとしても、いずれは、な。

ふと、謝罪の言葉がやんだ。
ジッと少女を覗き込む友人。
悲しげだった表情が和らぎ、微笑の花が咲いた。

そして、再び抱擁を交わす。
きらりと。
友人の目尻に、光を見た。

「れな、あれから何回も誤りに行こうと思っとった。
 でも、勇気、だせんで」

友人は少女の耳元で、自分の想いを伝える。
一言一言終わるたびに、少女の頭は微かに揺れ動いていた。

「こんなんじゃいけん、って思って、この街に来たと。
 美味しいケーキがあるって聞いて、
 絵里に謝った後、
 一番に絵里と誕生日を祝おうって思って…」

77 :サンタとの生誕祭 :2004/12/23(木) 23:52
 そしたら、帰り道わからんくなって…

苦笑いを浮かべ、友人。もう一度、ごめんと口にする。
間髪おかずに

…ばか

という、嬉しそうな声で少女は返し
「でも…」すぐに悲しげに声を潜めた。

「…これが、れいなと会えたのが、夢じゃなければいいのに…」

身体を離し、ポツリと呟く。
友人は「夢?」と不可解な言葉を反復し、眉を顰めた。
ククッと。
喉の奥で笑いが漏れて、俺は言葉を投げかけた。

「夢じゃないぞ」

クルリと身体を反転させる少女と、
今更ここにいいる俺に訝しげな視線を向ける友人。
驚きと疑わしげな二つの視線を受けながら、
俺は抓ってみろと言った。

「…痛い」

頬を抓り、そう漏らす少女の傍らで
俺を指差し「誰?」と問う友人。
生まれて初めて自然に苦笑を浮かべつつ、俺はたずなを掴んで上下へ軽く揺する。

ふわり。
トナカイとそり、その上に座る俺が宙へと浮いていく。
コレには友人も、流石に驚いて目を丸くしていた。

少女が目を大きく見開いて近づいてくる。

地上から一mほど上がったところで制止をきかせ、
俺は掌をかざし、待てと意志を表示した。

78 :サンタとの生誕祭 :2004/12/23(木) 23:53
「サンタさん…本物、なんですか…?」

俺はそれに答えず、自然に笑いかけた。
右手を天へと突き上げる。
そして息を思いっきり吸い込むと

「生誕祭だっ!笑っていこうじゃないか!」

柄にも無く、叫んだ。

それと同時に、白銀が舞い始める。
ちょっとはやく、その上反則気味だが
君へのプレゼントを送るよ。

泣き顔はダメだ。やはり笑顔が、最も美しいから。

「あ、あのっ!あり――」

舞い落ちる雪の結晶。
その中で少女は両目いっぱいに涙を溜めて、
しかし満面の笑みで、俺に向かって―――

79 :サンタとの生誕祭 :2004/12/23(木) 23:53
―――***
80 :サンタとの生誕祭 :2004/12/23(木) 23:53

「ん…ぅ、ぅん…」

ゴロンと寝返りと一つうち、苦しげに唸って上体を起こした。
薄ぼんやりと映る辺りを見渡し、絵里はそこが自分の部屋だと認識した。
右隣ではれいなが寝ている。
そこで誕生日を二人で祝っていたんだと、思い出した。

ふと、首を傾げる。
夢を見ていた。
何かとても温かい、夢を。
そんな気がするが、どうにも霞がかかる頭の中。

不明瞭な記憶を探るも、思い出せない。

「…」

グチャグチャになってしまった頭をかきつつ、
れいなを起こさないよう静かにベッドを下りる。

ふぁ。思わず身体が震え、声が漏れた。
閉ざされたカーテンをほんの少しだけ開けてみて、納得。
空から舞い落ちる、白銀の結晶。
この寒さは彼らがもたらすものか。

絵里は微笑んだ。
誕生日は最高の日となった。
この分だとクリスマスはもっと最高な一日になるだろう。

息を漏らすように、微かに笑い声を漏らして。
ベッドへと戻ろうと身を翻したとき、視界に映った見慣れない物体。

机の上にチョコンと。
薄暗闇の中に溶け込むような黒のボディ。
掴んで持ち上げると、こちらを見つめる小さなレンズが二つ。

色んな角度から眺めてみる。
と。
突然の出来事だった。

「っ!」

頭の中に過ぎった一つの場景。
それに突き動かされるように、絵里は音を立てカーテンを開け放った。
窓を開け、僅かに雪が積もったベランダに裸足で踏みしめる。

どこか知れぬ、虚空を見つめていると

―――仲良くやれよ

そんな、聞きなれていないはずだが
妙に懐かしい声をが聞こえたような気がした。

思わず、涙が込み上げてきて、
でも確りと笑顔を浮かべて。
雪が下りてくる空を目掛けて、腹の奥から声を張り上げた。

「サンタさん!ありがとー!」

ギュッと、双眼鏡を胸へと押し付けて。
絵里は空をじっと見つめて、笑いかける。

何処からか、シャンという小さな鈴の音が
響いた気がした。
81 :サンタとの生誕祭 :2004/12/23(木) 23:54
fin
82 :16 :2004/12/24(金) 00:08
放棄した訳ではなかったんだけど・・・・ま、いいや。
続けるって言わなかった俺が悪いんだし。
元々のルールは1日で完結だったから。
これ以上は混乱を招くので、放棄します。
83 :サンタとの生誕祭作者 :2004/12/24(金) 00:20
>>82
すいません。
続いているとは知らず、書き込んでしまいました。
話の腰を折り、実に申し訳ありません。
どうか放棄ばかりは考え直していただけないでしょうか。
84 :82 :2004/12/24(金) 06:34
>83
こちらの方こそ、寝不足気味で少し機嫌が悪かった事と
物凄く言葉足らずな発言をしてしまい、不快な思いをさせてしまいました。
その事を先ず、お詫び致します。

で、話の腰を折るって事を書かれてましたが、仮に見ている人が居ても
この事で折れるって事はないと思いますので気にしないで下さい。

それに今回の事で、俺の所為でここで書きたくても書けなかった人が
いるんじゃないか?って事に気づかされました。
そう言う方々にお詫び致します。

連載の件ですが、今、頭が回っていない状態で言葉がまとまらないので
後で自分の見解を書かせて頂きます。
85 :84 :2004/12/24(金) 23:31
連載の件ですが、当初、言った通り放棄をします。

今まで誰も使っている様子がなかったんで
勝手に使っていた訳なんですが、
共有スレをいつまでも独占する訳にも行かないだろうと
今回の事で思った次第です。

再開するにしても、新たにスレを建てて
書くかなっといずれにしてもここでの再開については
考えてないのでここでの連載は終了とさせて頂きます。

最後に長い間、占拠していた事をお詫びします。
86 :84(最後に…) :2004/12/25(土) 05:33
P.S. 83殿へ

今、作品を読ませてもらいました。
面白かったです。
こう言った感じの作品をいつかは書きたいと思ってます。

また、次作品を楽しみにしてます。
87 :名無飼育さん :2004/12/29(水) 21:02
また、静かになってしまった・・・。
83さん、なんか他にネタ無い(面白かったよ。)?
82さん、書いたら?
88 :名無飼育さん :2005/01/18(火) 21:58
ochi
89 :名無飼育さん :2005/01/25(火) 14:24

すまない、と彼はもう一度言った。
亜弥はその場を動かず、もう引き留めもしなかった。
彼がそのまま音もなく亜弥の隣を通り過ぎていく。
亜弥は去っていく背中を見送らなかった。
涙を流したくなかった。
90 :名無飼育さん :2005/01/25(火) 14:25




夜遅く、一つの人影が地下駐車場を出、外階段を上って喫茶店へ入る。
まだ十代の少女だ。
少女はこんな時間には不釣合いなライトグレーのプリーツスカート、
長袖の白いブラウスにカーディガンという学校指定の制服を着ている。
喫茶店に入ってきた少女を見つけて店内の一番奥窓際に座る男が立ち上がった。
三十代前半だろうか。店には他に客はいない。
だから、変わった組み合わせだなと思う者もそこにはいなかった。
91 :名無飼育さん :2005/01/25(火) 14:29

少女、亜弥は黒いナイロンのショルダーをごくゆっくりとした仕草で外した。
そして、席につく瞬間にわざと瑞々しい膝のシルエットを彼に見せる。
彼が咎めるように微かに眉を寄せた。
亜弥は彼のそんな潔癖さが嫌いではなかったから少し微笑してスカートを揺らし膝を隠した。

「……仕事終わったばかりなのに、呼びつけてすまないな」

オーダーを終え、ウェイトレスがカウンターに戻るのを見届けた後、
それまで何も言わないでいた彼が小さな溜息と共に重たい口を開いた。
別に構いませんよ、と返事をしながら亜弥は彼の挙動に目を見張っていた。
呼吸や瞬き、胸の上下運動。
ありとあらゆる動きから亜弥は彼が自分になにを話そうとしているのか読み取ろうとしていた。
彼が亜弥を呼び出すのは異例のことだから、きっと何か改まった話があるに違いなかった。

仕事帰り私用の携帯電話に彼から連絡が入った時、
ただ自分に会いたくなったのだろうかと、そうならばいいな、と願わなかったわけではなかったが
その確率が低いことは先の彼の言葉に乗せられた重みから亜弥は気づいてしまった。
92 :名無飼育さん :2005/01/25(火) 14:29

彼はすぐに言葉を交わすのを避けるためか、水を口に運ぶ。
カランと硝子の円筒の中で氷が音をたてる。亜弥もそれに倣った。
緊張で喉が渇いていたから丁度よかったが、咽奥をするすると通り抜ける水は
カルキの味がしてあまり美味しくはなかった。
この喫茶店の水はこんなに不味かっただろうかと亜弥は思いながら彼をチラリと窺う。
彼はテーブルから両手を引き、下のほうでそれを組んだまま、暗い窓の外へ視線を飛ばしていた。
緊張している自身の顔を見つめて叱咤しているのかもしれない。
彼が話そうとしている事が自身にとって、いい話なのか悪い話なのか、亜弥はまだ判断できずにいた。
ただ切り出すのにとても勇気がいる話だということだけが分かる。
だから、亜弥は彼の準備が整うまで敢えて話しかけず、窓を向いたその横顔に
夕暮れが齎す鮮やかな朱に染まった音楽室で、一人ピアノを弾いている彼の姿を連想した。
93 :名無飼育さん :2005/01/25(火) 14:30

一回りくらい違う年齢の事とかお互いの立場とか、ごちゃごちゃ煩わしかったから
押さえつけてキスをした。彼の戸惑いを大いに含んだ眼差しは少年のようだった。
94 :名無飼育さん :2005/01/25(火) 14:30

「お待たせ致しました」

ウェイトレスがやってきて二人分のドリンクをテーブルに。
彼は亜弥が頼んだ紅茶が置かれるのを見計らって自身の珈琲カップの取っ手に指をかける。
その手が少し震えていて、亜弥は彼の話が悪い話なのだと気づかされた。

「……先生」

思わず零れた声は自分のものとは思えないほど頼りなかった。
その声の余韻が胸を焼くのを覚えながら、
亜弥の脳裏にはあの日の音楽室でのやりとりが流れ始めていた。
95 :名無飼育さん :2005/01/25(火) 14:31




ぱたん、と音を立てて背後で扉が閉まった。
かちゃ、と音を鳴らして後ろ手で鍵を掛けた。
ピアノの音色が止まりシンとなる音楽室は、締め切っていた所為か蒸し暑かった。
ピアノの前にいる彼は不思議そうに目を細めていた。
逆光で顔が見えないのだろうと思って亜弥は少しずつ足を動かした。

「松浦?」

目を細めていた彼が確認するかのような声で言った。
ますます不思議そうな顔になった彼を横目に、亜弥はその脇を擦り抜けて窓を開けた。
潮の混じった蒸した風と、蝉の鳴き声が流れ込んでくる。
そうして、亜弥は窓を背にして振り返った。

彼は汗一つかいていなかった。
亜弥は白いブラウスが背中に張り付くのを感じた。
少しも格好よくなんかない。これといった特徴もなく、特に目立つ存在でもない。
そのことが彼に惹かれることと関係あるのだろうか。否。
亜弥は強張りそうになる頬を持ち上げて微笑をつくると、口を開いた。

彼の中にある戸惑いの色が濃くなるのが分かった。
それでも亜弥は構わず言葉を続けた。
96 :名無飼育さん :2005/01/25(火) 14:32




亜弥の呼びかけに顔を上げた彼は漸く第一声を発した。
こんなことはもうやめよう、と。
言うべき言葉をしっかり承知した声だった。
亜弥は耳を疑った。
好きだと言った。抱きしめられた。手に入れたと、思った。
欲しくて欲しくてたまらなかったモノをやっと引き寄せられたと思っていた。

「…どうして、ですか?」

声が震える。
指先が血液がいかなくなったかのように冷たくなっていくのを亜弥は感じていた。
彼は悲しげな表情で、けれど亜弥の瞳を真っ直ぐに見つめ返している。
その目が何よりも好きだった。真剣な目が、なにより。
その目に捕えられていたいとすら願った。だが、それが今は怖かった。
自分を突き放そうとしている目。何より怖いと感じた。
逃避なのかなんなのか、あの日の蝉の鳴き声が亜弥の鼓膜で音をたてはじめる。

好きだと言った。抱きしめられた。キスをした。
きつく、きつく抱き合った。
どうしようもなくて涙が溢れた。キスをした。
あのひの、こと。
夕暮れの灯りも差し込まなくなった音楽室は薄暗かった。
蝉の声は変わらずに五月蝿かった。
97 :名無飼育さん :2005/01/25(火) 14:32

「……俺は教師で、君は生徒だ。だから」
「もうすぐ卒業するから、そんなこと問題じゃなくなります」

太陽は沈んでいた。
丁度、今、窓から見える景色のように外は暗かった。

「問題なんて…なくなります」

亜弥はもう一度言った。じっと、彼の目を見つめ返したまま。
声の震えは消えていた。彼が何か言おうとして、だが、そのまま視線を落とす。
そんな意気地のない仕草一つでさえ亜弥には愛しかった。

「…先生」
「……すまない。これは俺自身の問題なんだ」
だから上手く話すことができない、と彼は言った。

「そんなの狡いです…きちんと理由を教えてくれないと私は先生のこと諦められません」

蝉の鳴き声が煩い。
彼は口を噤んだまま、亜弥から視線を外している。
自分の声がちゃんと彼の元に届いているのか心配になってくる。

「……少し、待ってくれ」
やがて、息苦しそうに彼は言った。
98 :名無飼育さん :2005/01/25(火) 14:33




二人きりで会う事は滅多になかった。
放課後のデートも、街中でのご飯も、買い物も出来なかった。
人前で気軽に名前を呼び合ったりもできなかった。
その上、亜弥は少しずつ仕事が増えていたから学校にも行けない日が多くなっていた。
会える日は少なかった。
それでも、学校に行ける日は必ず朝電話をして、音楽室で待っていてもらった。
音楽室はいつも蒸し暑かった。亜弥はいつも一番に窓を開けた。
それは、最後に彼とそこで会った時も変わらなかった。
99 :名無飼育さん :2005/01/25(火) 14:33

そんなに暑いか、と彼は首を傾げながらも微笑んだ。
暑いよ、そう答えて窓を背にして立っていると、
背後から蒸したちっとも涼しくない潮風が首筋を抜け亜弥の髪をさらりと靡かせた。
それに少しだけ彼が目を細めたのを亜弥は見逃さなかった。

「髪伸ばそっかなぁ…ね、どう思います、先生」
「……ああ、いいんじゃないかな」
「先生はどっちが好き?髪が長い子と、短い子」
「似合ってればどっちでも」

髪が靡く。
その日も蝉の鳴き声は煩かった。
100 :名無飼育さん :2005/01/25(火) 14:34

「私、どっちも似合うんですよ」
「そうなんだ」
「だから、先生は私のことが好きなんですね」

冗談めかして言うと、彼は薄く笑むだけで否定の言葉も、肯定の言葉もくれなかった。
ただ彼の真っ直ぐな視線は亜弥を好きだと言っていた。
抱きしめたいと、キスをしたいと言っていた。
それでも、それなのに――彼はその時、抱きしめても、キスをしてもくれなかった。

思えば、その時に気づいていればよかったのだ。
亜弥を抱きしめたがってる彼の指が、腕が、体が、それでも自分に触れようとしないことの意味に――

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